(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145044
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】鋳鉄管
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20241004BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241004BHJP
F16L 9/02 20060101ALI20241004BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241004BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
F16L9/02
C23C28/00 B
C09D5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057274
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591151554
【氏名又は名称】名神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】岡島 友紀
【テーマコード(参考)】
3H111
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA02
3H111CB03
3H111CB04
3H111CB08
3H111DA26
3H111DB05
4J038CG001
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA11
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC02
4K044AA02
4K044AB03
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC06
4K044CA11
4K044CA27
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】より広い温度範囲において、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れた鋳鉄管を提供する。
【解決手段】異なるガラス転移温度(Tg)を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種類含む合成樹脂塗料による塗布層を管外面に有する鋳鉄管。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるガラス転移温度(Tg)を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種類含む合成樹脂塗料による塗布層を管外面に有する鋳鉄管。
【請求項2】
合成樹脂塗料が、さらにアクリル樹脂ディスパージョンを含む請求項1記載の鋳鉄管。
【請求項3】
さらに、合成樹脂塗料による塗布層の下層に、亜鉛系溶射被膜層を有する請求項1または2記載の鋳鉄管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外面に合成樹脂塗料による塗布層を有する鋳鉄管に関し、とりわけ、広い温度範囲において耐傷付性に優れた鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から上下水道管などに用いる鋳鉄管の外面には、地中に埋設する水道管の腐食を防止するために、日本ダクタイル鉄管協会規格JDPA Z 2010「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」には亜鉛系プライマー(亜鉛系溶射やジンクリッチペイント)による下塗りを形成することが規定されており、さらに、亜鉛系プライマー層の上塗り塗料として、たとえば日本水道協会規格JWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」の基準を満たす塗料を塗装して塗布層を形成することも規定されている。
【0003】
この亜鉛系プライマー層の上塗りとして、鋳鉄管の外面が充分な防食性を有するためには、従来の方法では水系塗料による一次塗装を行い、その上にさらに、溶剤系塗料による二次塗装を行わなければならず、鋳鉄管の外面の防食処理に少なくとも2工程が必要であった。この工程の簡略化やコスト削減の点から二次塗装を省略して一次塗装のみとするため、所定のガラス転移温度(Tg)を有するアクリル樹脂エマルジョンを用い、乾燥性や耐白化性を改善した水系塗料も開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された水系塗料による塗布層では、塗膜が柔らかく、例えば高温での置き場などでの並列によって管同士が接触し、塗膜が剥がれるブロッキングが発生するという問題があり、耐傷付性に改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、より広い温度範囲において、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れた外面塗布層を有する鋳鉄管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種類含む合成樹脂塗料による塗布層を備えることにより、上記課題を解決でき、より広い温度範囲において、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れた塗布層を有する鋳鉄管が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]異なるガラス転移温度(Tg)を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種類含む合成樹脂塗料による塗布層を管外面に有する鋳鉄管、
[2]合成樹脂塗料が、さらにアクリル樹脂ディスパージョンを含む上記[1]記載の鋳鉄管、ならびに
[3]さらに、合成樹脂塗料による塗布層の下層に、亜鉛系溶射被膜層を有する上記[1]または[2]記載の鋳鉄管
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種類含む合成樹脂塗料による塗布層を管外面に有することにより、より広い温度範囲において、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れた鋳鉄管を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の鋳鉄管は、管の外面に、異なるガラス転移温度(Tg)を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種類含む合成樹脂塗料による塗布層を有することを特徴とし、より広い温度範囲において、管の搬送や接合時に塗膜に傷が入りにくい耐傷付性に優れる。これにより、夏季において鋳鉄管置き場で鋳鉄管同士が接触するような保管状態にあっても、塗膜が剥がれるブロッキングの発生を抑えることができる。ガラス転移温度のより高いアクリル樹脂エマルジョンと、ガラス転移温度のより低いアクリル樹脂エマルジョンとを併用することにより、広い温度範囲において耐傷付性に優れるのみならず、乾燥が早く、最低造膜温度を十分に低減することが可能となり、造膜不良の原因となる高い塗装温度を必要とせず、品質の安定した鋳鉄管を得ることができる。
【0011】
本明細書において、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリル酸」などの用語は、それぞれ「メタクリル」と「アクリル」、「メタクリル酸」と「アクリル酸」の総称である。
【0012】
<合成樹脂塗料>
本発明に用いる合成樹脂塗料は、異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンを2種以上組み合わせて使用する。異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンは、3種類含めてもよく、4種以上含めることもできる。合成樹脂塗料中の複数種類の異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンにおいては、最も高いガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンと最も低いガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンとの間のガラス転移温度の温度差は、30℃~85℃の範囲内であることが好ましく、40℃~80℃の範囲内であることがより好ましい。異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンの組み合わせは、上述の温度差や、樹脂全体での理論上のガラス転移温度を考慮して決めることができる。そのような樹脂全体の理論上のガラス転移温度は、35~45℃が好ましく、40~45℃がより好ましい。樹脂全体の理論上のガラス転移温度を35℃以上とすることにより、所望の塗膜硬度が得やすく、耐傷付性を担保し易くなる傾向があり、また、45℃以下とすることにより、例えば塗装時の温度を70℃以下として、水系塗料が突沸しない程度の温度に予熱した管においても成膜でき、耐水性および耐食性が担保し易くなる傾向がある。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定されたものである。
【0013】
本発明に用いる合成樹脂塗料は、水系塗料である。「水系」との用語は、溶剤系と区別するために用いられるものであり、媒体として水性媒体、好ましくは水を用いるものを意味し、構成成分として、成分中有機溶剤がある程度含まれているものが用いられることを排除するものではない。したがって、本発明に用いる合成樹脂塗料の溶媒としては、水性溶媒、好ましくは水が用いられる。また、界面張力を調整し、亜鉛系溶射被膜への濡れ性を良くするなどのためにわずかな量の有機溶剤を配合しても良い。
【0014】
(アクリル樹脂エマルジョン)
本発明におけるアクリル樹脂エマルジョンは、乳化剤を用いて水中に分散安定化されたアクリル樹脂の乳濁液であり、必要に応じて界面活性剤などの添加剤が含まれる。アクリル樹脂エマルジョンを構成するアクリル樹脂は、通常、アクリル酸、メタクリル酸およびそのエステルよりなる群から選択される1種以上のアクリル系モノマーを重合させて得られる重合体であるが、1種以上のアクリル系モノマーとアクリル系モノマー以外の1種以上のモノマーとを共重合させて得られる共重合体も含まれる。上記アクリル系モノマーのうち、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの具体例としては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられ、また、アクリル系モノマー以外のモノマーの具体例としては、スチレンなどが挙げられる。
【0015】
本発明に用いるアクリル樹脂エマルジョンのアクリル樹脂のTgは特に限定されるものではないが、より高いものでは90℃程度のものまで使用することができ、より低いものでは1℃程度のものまで使用することができる。
【0016】
アクリル樹脂の合成方法は特に限定されるものではなく、乳化重合などの公知の重合方法を用いることができる。アクリル樹脂エマルジョンの調製方法としては、たとえば単量体、乳化剤、重合開始剤などの混合物(単量体プレミックス)を、予め所定量の水の入った反応容器の中に一括して仕込み、単量体混合物を乳化重合させて、反応が終了した後、反応物を冷却し、中和して目的とする水性アクリル樹脂エマルジョンを得る。
【0017】
上記反応で用いる乳化剤は、得られるアクリル樹脂を水に強制的に乳化させてアクリル樹脂エマルジョンを得るための必須の成分である。その具体例としては、たとえば脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン系重合乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン系重合乳化剤などがあげられる。これらの乳化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノニオン系およびアニオン系の併用、および陽イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤などの使用も可能である。乳化剤の使用量は、乳化重合に供する重合性モノマーの全量100重量部に対して、0.3~3重量部が好ましい。
【0018】
乳化重合反応で使用する重合開始剤としては、たとえば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水性触媒;tert-ブチルハイドパ-オキサイド、クメンハイドロパ-オキサイドなどの油性触媒があげられる。重合開始剤の使用量は、乳化重合に供する重合性単量体の100重量部に対して、0.1~0.7重量部が好ましい。
【0019】
また、乳化重合反応では、分子量を調整するために重合時に連鎖移動剤や重合停止剤などの分子量調整剤、重合率調整剤を適宜使用することができる。さらに冷却による反応中断により分子量のコントロールを行っても良い。連鎖移動剤としては、たとえばt-ドデシルメルカプタン、n-トデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタンなどのメルカプタン、ターピノーレン、t-テルピネン、α-メチルスチレンダイマー、エチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンスルフィド、アミノフェニルスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、乳化重合に供する重合性単量体の全量100重量部に対して1.0重量部以下が好ましい。
【0020】
また、重合停止剤としては、たとえばハイドロキノン(フェノール)、アミン系硫黄、硫酸ヒドロキシルアミン、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリなどがあげられ、またその他重合停止効果のあるものが使用できる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。その使用量は重合禁止剤の種類および単量体との反応性比により異なる。乳化重合反応においては、前記乳化剤、連鎖移動剤および重合開始剤のほか、必要に応じて各種電解質、pH調製剤などの添加剤を併用しても良い。
【0021】
上述したようなアクリル系樹脂エマルジョンの具体例としては、ボンコートCM-8430や、ボンコートCP-6450(DIC(株)製)、NeoCrylA655(DSM社製)、ボンコートEC-5400EF(DIC(株)製)、JE-1056(星光PMC(株)製)、AE872D((株)イーテック製)、ES-90(ジャパンコーティングレジン(株)製)、727(ジャパンコーティングレジン(株)製)、Joncryl 583-A(BASF社製)などがあげられる。
【0022】
本発明における合成樹脂塗料中のアクリル樹脂エマルジョンの合計含有量は、固形分として、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。アクリル樹脂エマルジョンの合計含有量を、固形分として、20質量%以上とすることにより、より良好な耐食性の向上の傾向がある。合成樹脂塗料中のアクリル樹脂エマルジョンの合計含有量は、固形分として、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。アクリル樹脂エマルジョンの含有量を、固形分として、40質量%以下とすることにより、より作業性の低下を抑制する傾向がある。
【0023】
(アクリル樹脂ディスパージョン)
本発明の合成樹脂塗料には、さらにアクリル樹脂ディスパージョンを含有させることもできる。アクリル樹脂ディスパージョンを含有させることにより、より耐食性に優れた塗膜を形成することができる。アクリル樹脂ディスパージョンとは、アクリル樹脂骨格に何らかの親水性基を化学的に導入し、樹脂自体が乳化能を有する自己乳化型の分散体であって、必要に応じて中和剤、消泡剤などの添加剤が含まれる。アクリル樹脂ディスパージョンを構成するアクリル樹脂骨格は、通常、上述のアクリル樹脂エマルジョンを構成するアクリル樹脂と同様のものを使用することができる。アクリル樹脂骨格に導入される親水性基を有する成分としては、たとえば、(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等の酸類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル等のアルキル基の炭素数が1~24の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が代表的なものとしてあげられるが、特に限定されるものではない。また、アクリル樹脂ディスパージョンは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
上述したようなアクリル樹脂ディスパージョンの具体例としては、ウォーターゾールS-720(DIC(株)製)、アクロナールYJ-1100D(BASFディスパージョン社製)、バイヒドロールXP2470(バイエル社製)などがあげられる。
【0025】
アクリル樹脂ディスパージョンを使用する場合の、合成樹脂塗料におけるアクリル樹脂ディスパージョンの含有量は、固形分として、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンの含有量を、固形分として、0.5質量%以上とすることにより、より良好な防食性が得られる傾向がある。合成樹脂塗料におけるアクリル樹脂ディスパージョンの含有量は、固形分として、作業性を考慮すると5質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましい。アクリル樹脂ディスパージョンの含有量を、固形分として、5質量%以下、さらには2.5質量%以下とすることにより、粒子同士の凝集を抑制し、塗布作業時の配管内での固着を抑え、より作業性を向上させる傾向がある。
【0026】
(成膜助剤)
本発明の合成樹脂塗料には、成膜助剤を含有させることが好ましい。成膜助剤は、一般に、合成樹脂塗料の最低成膜温度を下げる目的で使用される。本発明に使用される成膜助剤は、たとえば、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートなどが挙げられ、高沸点溶剤など、本技術分野において最低成膜温度を下げる目的で使用されているものを特に制限なく使用することができる。また、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
成膜助剤を使用する場合、合成樹脂塗料における成膜助剤の含有量は、最低造膜温度を所望の範囲、すなわち15~35℃、好ましくは18~30℃、より好ましくは18~25℃に下げることができる量であれば、特に制限されるものではなく、使用するアクリル樹脂の種類に合わせて適宜設定することができる。合成樹脂塗料における成膜助剤の含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。成膜助剤を使用することにより、ガラス転移温度の高いアクリル樹脂エマルジョンがなじみやすくなり、最低成膜温度を下げやすくなる傾向がある。さらに、成膜助剤の含有量を2質量%以上とすることにより、Tgと最低造膜温度を所望の範囲に調整することが容易になる傾向がある。また、合成樹脂塗料における成膜助剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。成膜助剤の含有量を5質量%以下とすることにより、良好な塗膜乾燥速度を達成できる傾向がある。
【0028】
本発明の合成樹脂塗料の最低造膜温度は、15℃以上が好ましく、18℃以上がより好ましい。また、本発明の合成樹脂塗料の最低成膜温度は、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、25℃以下がさらに好ましい。なお、最低造膜温度は、JIS K 6828-2 合成樹脂エマルジョン 第2部:白化温度及び最低造膜温度の求め方に準じて測定される値である。
【0029】
(顔料)
上記合成樹脂塗料に十分な着色性や防錆性などを付与するために、顔料を配合することができる。具体的には、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック(たとえば、商品名 MA100、三菱化学(株)製など)、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料;燐酸亜鉛、燐酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料などが挙げられる。これらは単独で使用しても良く、必要により2種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
顔料のうちでも、合成樹脂塗料における防錆顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。防錆顔料の含有量を0.1質量%以上とすることにより、塗膜の防食性が高くなる傾向がある。合成樹脂塗料における防錆顔料の含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。防錆顔料の含有量を5質量%以下とすることにより、塗膜の耐水性を良好なものとできる傾向がある。
【0031】
(その他の成分)
上記合成樹脂塗料には、上記成分のほかに必要に応じて公知の添加剤などを添加することができる。その他の添加剤としては、シリコーンや有機高分子からなる消泡剤;シリコーンや有機高分子からなる表面調整剤;アマイドワックス、有機ベントナイトなどからなる粘性調整剤(タレ止め剤);シリカ、アルミナなどからなる艶消し剤;ポリカルボン酸塩などからなる分散剤;ベンゾフェノンなどからなる紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;フェノール系酸化防止剤;ワックスなど、公知の添加剤を挙げることができる。これらは必要により単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
上記合成樹脂塗料の製造には塗料製造に慣用されている設備を使用する。製造方法は特に限定されないが、たとえば市販の樹脂成分に顔料、添加剤(顔料分散剤、粘性調整剤等)、溶剤などを添加した後、ロールミル、SGミル、ディスパーなどで分散処理することによって所望の塗料が得られる。
【0033】
上記合成樹脂塗料による塗布層の形成は、特に限定されるものではないが、通常、鋳鉄管を加温してから行われる。合成樹脂塗料の塗装前の鋳鉄管の表面温度は、好ましくは50~80℃である。50℃未満では塗膜が乾燥しにくく耐傷付性も悪化する傾向があり、80℃を超えると塗料中の水分が沸く傾向がある。塗装方法としては、特に限定されないが、刷毛塗装、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装などの方法で塗布される。
【0034】
上記合成樹脂塗料による塗布層の厚さは、塗装処理される鋳鉄管の用途により適宜設定されるものであり、特に限定されるものではないが、たとえば上下水道に用いられる鋳鉄管の場合、おおよそ30~120μmの範囲で適宜設定することができる。
【0035】
本発明の鋳鉄管には、さらに、鋳鉄管の外面かつ合成樹脂塗料による塗布層の下層に、亜鉛系溶射被膜層を有することが好ましく、さらに、この亜鉛系溶射被膜に封孔処理がなされていることがより好ましい。
【0036】
<亜鉛系溶射被膜層>
亜鉛系溶射被膜としては、特に限定されるものではないが、亜鉛溶射被膜、亜鉛-アルミ合金溶射被膜、亜鉛-アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛-ケイ素含有アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛-スズ合金溶射被膜などが挙げられる。この工程の前に、必要に応じて管外面にブラスト処理、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。なお、亜鉛-アルミニウム擬合金とは、溶射された亜鉛とアルミニウムとが不規則に重なり合い、外見的に亜鉛-アルミニウム合金を形成しているものをいう。
【0037】
亜鉛系溶射被膜の膜厚は、溶射材料の種類、得られる鋳鉄管の用途によって適宜設定することができるが、水道管用の場合、おおよそ20μm~250μmが好ましく、50~150μmがより好ましい。
【0038】
溶射方法は特に限定されるものではないが、たとえばガス溶射法やアーク溶射法、プラズマ溶射法があげられる。より具体的には、回転しながら管軸方向に移送される鋳鉄管に、固定した溶射ガンにより亜鉛、亜鉛-アルミニウム擬合金または亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金を溶射する方法、回転させた鋳鉄管に、溶射ガンを移動させながら亜鉛を溶射する方法があげられる。
【0039】
溶射被膜層の厚さは、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010-2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、亜鉛溶射の場合、防食性の観点から130g/m2以上にするよう定められており、これは厚さ20μmに相当する。また、厚さは密着性を考慮して300g/m2以下が好ましく、260g/m2以下がより好ましい。亜鉛-アルミニウム擬合金、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-ケイ素含有アルミニウム擬合金または亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金を溶射する場合、防食性の観点から130~600g/m2の範囲であればよく、180~500g/m2の範囲が好ましく、200~400g/m2の範囲がより好ましい。
【0040】
<封孔処理>
本発明の鋳鉄管においては、上述した亜鉛系溶射被膜層の表面に通常の封孔処理をおこない封孔処理層を設けることが好ましく、これにより亜鉛系溶射被膜層の気孔を封鎖し、防食効果をさらに高めることができる。
【0041】
封孔処理としては、特に限定されるものではなく、一般に本技術分野において使用されているものを用いることができる。たとえば、金属塗装に用いられるアクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルシリコーン樹脂などの樹脂成分に、コロイダルシリカなどの無機化合物、表面調整剤などの添加剤を含む水系処理液による処理が挙げられる。
【0042】
封孔処理剤を鋳鉄管外面に形成された亜鉛系溶射被膜に塗布する方法としては、特に限定されないが、刷毛塗装、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装などの方法が挙げられる。
【0043】
塗布した封孔処理剤の膜厚は、溶射材料の種類、得られる鋳鉄管の用途によって適宜設定することができるが、たとえば、おおよそ5~30μmが好ましい。特に水道管用の鋳鉄の場合、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μmである。5μmより薄いと、長期間にわたる封孔効果が十分でない可能性があり、30μmより厚いと乾燥不良となる可能性がある。
【0044】
<鋳鉄管>
本発明の鋳鉄管は、異なるガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンを2種以上組み合わせて使用することにより、より広い温度範囲において、管の搬送や接合時に塗膜の傷が入りにくい耐傷付性に優れる。これにより、夏季において鋳鉄管置き場で鋳鉄管同士が接触するような保管状態にあっても、塗膜が剥がれるブロッキングの発生を抑えることができる。また、本発明の鋳鉄管は、溶剤系の塗料を用いていないため、溶剤臭がほとんどなく、環境負荷が小さい。また、より高いガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンとより低いガラス転移温度を有するアクリル樹脂エマルジョンとを併用することにより、より広い温度範囲において耐傷付性に優れるのみならず、乾燥が早く、最低造膜温度を十分に低減することが可能となり、造膜不良の原因となる高い塗装温度を必要とせず、品質の安定した鋳鉄管を得ることができる。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
まず、実施例および比較例で使用した成分を下記に示す。
<亜鉛溶射>
亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射被膜
<合成樹脂塗料>
アクリル樹脂エマルジョンA:ボンコートCM-8430(DIC(株)製、Tg33℃、固形分濃度40%)
アクリル樹脂エマルジョンB:ボンコートCP-6450(DIC(株)製、Tg42℃、固形分濃度40%)
アクリル樹脂エマルジョンC:ボンコートEC-5400EF(DIC(株)製、Tg6℃、固形分濃度40%)
アクリル樹脂エマルジョンD:JE-1056(星光PMC(株)製、Tg82℃、固形分濃度42.5%)
アクリル樹脂エマルジョンE:AE872D((株)イーテック製、Tg15℃、固形分濃度51.5%)
アクリル樹脂エマルジョンF:ES-90(ジャパンコーティングレジン(株)製、Tg80℃、固形分濃度51%)
アクリル樹脂エマルジョンG:727(ジャパンコーティングレジン(株)製、Tg25℃、固形分濃度50%)
アクリル樹脂エマルジョンH:Joncryl 583-A(BASF社製、Tg64℃、固形分濃度50%)
アクリル樹脂ディスパージョン:ウォーターゾールS-720(DIC(株)製、Tg45℃、固形分濃度47.5%)
体質顔料:堺化学工業(株)製の沈降性硫酸バリウム100
防錆顔料:テイカ(株)製のCa650
着色顔料:三菱化学(株)製のMA100
分散剤:ビック・ケミージャパン(株)製のBYK-180
成膜助剤:大商化成(株)製のブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
【0047】
実施例1~4ならびに比較例1および2
呼び径100のダクタイル鋳鉄管の外面に亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミニウムを130g/m2で溶射して、鋳鉄管上に亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミニウム擬合金溶射被膜を形成した。その後、鋳鉄管をガス炉で加温し、鋳鉄管の表面温度を50℃(接触温度計にて測定)とし、その上に表1に示す配合により調製した合成樹脂塗料を膜厚が80μmになるようにスプレーにより塗装し、乾燥させた。得られた鋳鉄管について下記の評価を行った。結果を表1に示す。なお、合成樹脂塗料の最低造膜温度は、JIS K 6828-2 合成樹脂エマルジョン 第2部:白化温度及び最低造膜温度の求め方に準じ、熱勾配試験装置(造膜温度測定装置)を用いて、設定温度域4~55℃、膜厚100μmの条件により測定した。
【0048】
<乾燥性>
実施例1~4ならびに比較例1および2について、合成樹脂塗料の塗装後30秒ごとに塗装面を指で触って指に塗料が付着しなくなるまでの時間を測定した。以下の判定基準により結果を表1に示す。性能目標は1分以内とする。
(判定基準)
◎:30秒
○:1分
△:2分
×:3分
【0049】
<耐白化性>
実施例1~4ならびに比較例1および2で得られた各鋳鉄管に、塗装15分後から4時間散水し、その20時間後に塗膜状態を目視によって確認した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。
(判定基準)
○:異常なし
△:塗膜白化なし・白錆あり
×:塗膜白化
【0050】
<耐水白化試験後の耐食性>
上記耐白化試験後の鋳鉄管を150×90mmの瓦状試験片に切り出し、試験片中央部表面にカッターを用いて0.3×50mmのX状の鉄素地に達する傷を付けた。JIS K 5600-7-9(2006)サイクル腐食試験方法サイクルAに準拠して、30日間複合サイクル試験を行った。塗膜外観を以下の基準で目視判定した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。
(判定基準)
○:カット部白錆あり、一般部以上なし
△:カット部、一般部共に白錆あり
×:カット部赤錆あり、一般部白錆あり
【0051】
<耐傷付性(23℃)>
実施例1~4および比較例1および2で得られた各鋳鉄管について、塗装後23℃で1時間保管した後の各鋳鉄管の塗膜硬度をJIS K 5600-5-4(1999)硬度(鉛筆法)に準拠して測定した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。
(判定基準)
◎:H
○:HB
△:B
×:2B
【0052】
<耐傷付性(60℃)>
この試験は、夏季における運搬時の鉄管と鉄管が接触し、圧着した場合を想定したものである。具体的には、実施例1~4および比較例1および2で得られた各鋳鉄管について、それぞれにおいて鋳鉄管同士をシャコ万で固定し(管搬送時の荷締めの圧力値を元にトルクで管理)、夏季の鋳鉄管温度を想定し、60℃で7時間保持し、その後鋳鉄管を離したときの外観を確認して、以下の判定基準により評価した。結果を表1に示す。
(判定基準)
○:塗膜の剥がれなし
△:わずかな塗膜剥がれあり
×:塗膜剥がれあり
【0053】
【0054】
表1の試験結果から明らかなように、異なるガラス転移温度(Tg)を有するアクリル樹脂エマルジョンを複数種組み合わせて含有する合成樹脂塗料を用いた実施例1~4の塗膜は、乾燥時間がいずれも30秒以内と迅速であり、塗装30分後での耐水白化性や耐傷付性にも優れており、塗装後の塗膜硬度の発現が早く、指触乾燥と硬化乾燥のバランスが良好であることが分かる。また、従来の溶剤系塗料を上塗りする比較例1および2と比べても耐傷付性(60℃)については、優れた耐傷付性を有することが分かる。総合評価は、試験結果中に1つでも×または△の評価がある場合を×とし、すべての試験結果が○以上の評価である場合を○とした。
【0055】
なお、表1中のアクリル樹脂エマルジョンおよびアクリル樹脂ディスパージョンの質量%は固形分のみを表し、水はアクリル樹脂エマルジョンおよびアクリル樹脂ディスパージョン中の媒体を含めたものとする。表1中の成膜助剤の質量%は、ブチルセロソルブ単体として添加した量だけでなく、合成樹脂塗料に含まれる総量を表すものである。