(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145049
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】急結混和材及び吹付コンクリート
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20241004BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20241004BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241004BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B28/02
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057281
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】羽根井 誉久
【テーマコード(参考)】
2D155
4G112
【Fターム(参考)】
2D155DB00
2D155KA08
4G112MB00
4G112MB12
4G112MB13
4G112PA02
4G112PB05
4G112PB10
4G112PC06
(57)【要約】
【課題】ポンプ等で圧送する際に詰まることのない良好な圧送性を有し、且つ、付着性及び急結性に優れる急結混和材及び吹付コンクリートを提供すること。
【解決手段】化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が2.0~2.7のカルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムを含み、カルシウムアルミネートの含有量が、急結混和材全質量を基準として55~70質量%であり、カルシウムアルミネート及びアルカリ土類金属硫酸塩の質量比([カルシウムアルミネートの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で1.4~2.85であり、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムの質量比([硫酸アルミニウムの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で0.01~0.15である、急結混和材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が2.0~2.7のカルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムを含み、
前記カルシウムアルミネートの含有量が、前記急結混和材全質量を基準として55~70質量%であり、
前記カルシウムアルミネート及び前記アルカリ土類金属硫酸塩の質量比([カルシウムアルミネートの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で1.4~2.85であり、
前記アルカリ土類金属硫酸塩及び前記硫酸アルミニウムの質量比([硫酸アルミニウムの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で0.01~0.15である、急結混和材。
【請求項2】
アルカリ金属硫酸塩を更に含む、請求項1に記載の急結混和材。
【請求項3】
セメント、骨材、水、及び、請求項1又は2に記載の急結混和材を含み、
前記急結混和材の含有量が、前記セメント100質量部に対して5~20質量部である、吹付コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急結混和材及び吹付コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、採掘抗、地下空間等において、掘削面の崩壊防止、採掘時又は掘削後の地山補強の観点から吹付コンクリートが施工されている。吹付コンクリートは急結性によって施工対象物への付着性を担保している。急結性付与のために急結成分をコンクリートに混和し、例えば、カルシウムアルミネートやアルミン酸ナトリウム等を有効成分とする粉体急結剤は、強力な急結性を付与でき、液体急結剤と比べると強度的にも高いコンクリートが得られやすい。吹付コンクリートの一般的な施工法である湿式吹付工法では、例えば、少なくともセメント、水及び骨材を秤量・混合してベースコンクリートを作製し、アジテーター車等を介した上で、施工時に吹付装置にポンプ圧送する。吹付装置内では別送の粉体又は液体の急結剤を圧送中のベースコンクリートに添加し、吹付装置の吹付ノズル内で混合を進めて吹付コンクリートを形成し、これをノズル端孔から吹付ける。また、もう一つの施工法である乾式吹付工法では、水及び液体以外の少なくともセメントと骨材と粉体急結剤を秤量・混合してドライミックスコンクリートを作製し、これをその貯留槽等から施工時に吹付装置まで空気圧送する。吹付装置内では圧送中のドライミックスコンクリートに水を添加し、吹付ノズルに圧送されるまでに混合を進めて吹付コンクリートを形成し、同様に吹き付ける。何れの工法でも、吹付装置内の急結成分が水と接する地点(接水地点)から吹付ノズル端の吐出孔までを移動する間に、混合がなされて吹付コンクリートが形成される。混合に使われる距離は通常は数十cm~数mの距離であり、その移動時間が混合時間になる。一般にこの距離が長いほど混合が進み、混合性が高まり、組織的にも性状的にもより均一なコンクリートを得やすくなる。
【0003】
このような吹付コンクリートを得るために、混和される粉体状の急結材は、前述した急結成分に諸性状を調整する助剤が加えられたものが一般的である。例えば、化学成分としてのCaO含有量を多くしたカルシウムアルミネートに、硬化促進のセッコウを配合し、これらに初期強度発現性を高めるアルミン酸ナトリウムや凝結促進の炭酸ナトリウム等加えた高アルカリ化の従来の代表的な粉体急結材(例えば、特許文献1及び2参照。)では、高い急結性と初期強度発現性の付与作用の具備を一義的な目的としている。このため、急結材が水と接した後、極短時間で凝結が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-121763号公報
【特許文献2】特許第5129955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の粉体急結剤では、ポンプで詰まりなく圧送することができ、壁等への付着も良好で急結性に優れるという特性が求められていた。近年では急結剤の諸性能を維持しつつ、CO2削減等の要求からカルシウムアルミネートの含有量の低減も求められている。
【0006】
したがって、本発明は、ポンプ等で圧送する際に詰まることのない良好な圧送性を有し、且つ、付着性及び急結性に優れる急結混和材及び吹付コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題について鋭意検討した結果、アルカリ土類金属硫酸塩に対するカルシウムアルミネート及び硫酸アルミニウムの含有量を調整することで、圧送性に優れ、付着性や急結性にも優れる急結混和材及び吹付コンクリートが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が2.0~2.7のカルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムを含み、カルシウムアルミネートの含有量が、急結混和材全質量を基準として55~70質量%であり、カルシウムアルミネート及びアルカリ土類金属硫酸塩の質量比([カルシウムアルミネートの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で1.4~2.85であり、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムの質量比([硫酸アルミニウムの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で0.01~0.15である、急結混和材。
[2]アルカリ金属硫酸塩を更に含む、[1]に記載の急結混和材。
[3]セメント、骨材、水、及び、[1]又は[2]に記載の急結混和材を含み、急結混和材の含有量が、セメント100質量部に対して5~20質量部である、吹付コンクリート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポンプ等で圧送する際に詰まることのない良好な圧送性を有し、且つ、付着性及び急結性に優れる急結混和材及び吹付コンクリートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の急結混和材は、化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が2.0~2.7のカルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムを含む。
【0012】
カルシウムアルミネートは、CaOとAl2O3を主要化学成分とする無機水和活性物質であり、CaOとAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3)が2.0~2.7である。CaOとAl2O3の含有モル比が上記範囲外であると、急結性と施工性の両立が困難となる。CaOとAl2O3の含有モル比は、より優れた急結性が得られやすいという観点から、2.1~2.65であることが好ましく、2.15~2.6であることがより好ましい。カルシウムアルミネートには、原料由来のCaOとAl2O3以外の不純物等の異成分も、その存在形態に拘わらず、本発明の効果を阻害させない範囲で含んでもよい。
【0013】
カルシウムアルミネートは結晶質、非晶質、又はその混合物のいずれも用いることができる。カルシウムアルミネートは、より優れた急結性が得られやすいという観点から、非晶質化の度合いであるガラス化率が60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。カルシウムアルミネートの粉末度は特に制限されないが、コンクリートへの急結混和材に使用したときに適度な反応活性が得られやすいことから、混和対象となる水硬性組成物中のセメントと同程度かそれ以上の粉末度であることが好ましく、例えば、ブレーン比表面積3000~6500cm2/gの粉末度が挙げられる。
【0014】
カルシウムアルミネートの含有率は、急結混和材全質量を基準として、55~70質量%である。カルシウムアルミネートの含有率が上記範囲外であると、急結性と圧送性の両立が困難になる。カルシウムアルミネートの含有率は、良好な急結性、圧送性及び強度発現性を確保しやすいという観点から、急結混和材全質量を基準として58~68質量%であることが好ましく、60~66質量%であることがより好ましい。
【0015】
カルシウムアルミネートは、例えば、CaO源となる原料及びAl2O3源となる原料を、目的とする化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比が得られるように配合した原料混合物を、溶融するまで加熱することで得られる。また、製造時の加熱後の冷却過程の違いにより、冷却後のカルシウムアルミネートの構造状態に様々な差異が生じるため、冷却速度等の冷却条件に応じて、非晶質化の度合であるガラス化率を調整できる。
【0016】
アルカリ土類金属硫酸塩は、特に限定されるものではなくいずれのものも使用することができ、反応性に優れることから無水物であることが好ましい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム等が挙げられ、中でもカルシウムが好ましい。アルカリ土類金属の硫酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。アルカリ土類金属の硫酸塩の粒径や粒度も特に制限されるものではなく、例えば、ブレーン比表面積が4000~6500cm2/g程度のものが挙げられる。
【0017】
アルカリ土類金属硫酸塩の含有量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、無水物換算で25~65質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましく、35~55質量部であることが更に好ましく、40~50質量部であることが特に好ましい。アルカリ土類金属硫酸塩の含有量が上記範囲内であれば、強度発現性に優れやすい。
【0018】
本実施形態の急結混和材において、カルシウムアルミネート及びアルカリ土類金属硫酸塩の質量比([カルシウムアルミネートの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])は、無水物換算で1.4~2.85である。カルシウムアルミネート及びアルカリ土類金属硫酸塩の質量比が上記範囲外であると、急結性が低下する。カルシウムアルミネート及びアルカリ土類金属硫酸塩の質量比は、良好な急結性と強度発現性を両立しやすいという観点から、無水物換算で1.6~2.8であることが好ましく、1.8~2.6であることがより好ましく、2.0~2.4であることが更に好ましい。
【0019】
硫酸アルミニウムはいずれの形態でもよく、例えば、16水和物、無水物等が挙げられ、中でも16水和物が好ましい。
硫酸アルミニウムの含有量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、無水物換算で0.5~10質量部であることが好ましく、1~8質量部であることがより好ましく、1.5~5質量部であることが更に好ましい。硫酸アルミニウムの含有量が上記範囲内であれば、十分な急結性が得られやすい。
【0020】
本実施形態の急結混和材において、アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムの質量比([硫酸アルミニウムの質量]/[アルカリ土類金属硫酸塩の質量])が、無水物換算で0.01~0.15である。アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムの質量比が上記範囲外であると、圧送性及び付着性が低下する。アルカリ土類金属硫酸塩及び硫酸アルミニウムの質量比は、圧送しやすく、付着性及び強度発現性が更に向上するという観点から、無水物換算で0.02~0.1であることが好ましく、0.03~0.08であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態の急結混和材はアルカリ金属硫酸塩を含んでもよい。アルカリ金属硫酸塩は、特に限定されるものではなくいずれのものも使用することができ、反応性に優れることから無水物であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、中でもナトリウムが好ましい。アルカリ金属硫酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0022】
アルカリ金属硫酸塩の含有量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、無水物換算で1~20質量部であることが好ましく、3~18質量部であることがより好ましく、5~15質量部であることが更に好ましい。アルカリ金属硫酸塩の含有量が上記範囲内であれば、急結性及び強度発現性に優れやすい。
【0023】
本実施形態の急結混和材は、上記の各成分を混合して製造される。混合方法は特に制限されるものではなく、例えば、傾動ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ、グラウトミキサ、ホバートミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ等の汎用的なミキサを用いることができる。
【0024】
本実施形態の急結混和材は、セメント、骨材及び水と混合することで吹付コンクリートとして調製することができる。急結混和材の含有量は、セメント100質量部に対して5~20質量部であることが好ましく、5.5~18質量部であることがより好ましく、6~16質量部であることが更に好ましく、6.5~14質量部であることが特に好ましく、6.0~10質量部であることが最も好ましい。急結混和材の含有量が上記範囲内であれば、急結性及び圧送性を両立しやすい。
【0025】
セメントは種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、超速硬セメント、フライアッシュセメント等が挙げられる。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。セメントはポルトランドセメントが好ましい。ポルトランドセメントを使用する場合の粒度は特に限定されず、例えば、JIS規格(JIS R 5210:2019)の2500cm2/g以上のものが挙げられる。
【0026】
骨材は、細骨材及び粗骨材が挙げられる。細骨材は、モルタルやコンクリートに使用できる細骨材なら特に限定されない。粗骨材はコンクリートに使用できる粗骨材なら特に限定されない。細骨材及び粗骨材とも、所定の骨材強度が確保し易く、他の含有成分との比重差が少ないため材料分離が生じ難いことから、表乾密度が2.3~2.9g/cm3の骨材を使用することが好ましい。このような骨材の具体例としては、細骨材は、珪砂や石灰石砂等の天然骨材、安山岩、砂岩、玄武岩等の砕砂等が挙げられ、粗骨材は、珪石、石灰石、安山岩、砂岩、玄武岩等の砕石や砂利が挙げられる。骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0027】
吹付コンクリート中の骨材の含有量は特に限定されるものではないが、施工時におけるコンクリートの圧送性に優れやすいという観点から、セメント含有量100質量部に対し、細骨材及び粗骨材の合計が300~600質量部であることが好ましく、380~560質量部であることがより好ましく、420~530質量部であることが更に好ましい。細骨材及び粗骨材を併用する場合、細骨材率(全骨材中の細骨材の体積割合)は54~69体積%であることが好ましく、55~65体積%であることがより好ましく、56~63体積%であることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の吹付コンクリートは、上記以外の成分も、本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。含有可能な成分として、減水剤、増粘剤、短繊維、ポゾラン反応性物質等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の吹付コンクリートは、使用する目的、場所等の要因に応じて水の量を適宜調整することができる。水の含有量は、セメント100質量部に対して52~68質量部であることが好ましく、53~67質量部であることがより好ましく、55~65質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、強度発現性に優れる傾向となる。
【0030】
吹付コンクリートは、例えば、急結混和材を除く各材料を水と混練してベースコンクリートとし、吹付ノズルの先端でベースコンクリート及び急結混和材を混合して吹付ける湿式吹付工法により製造してもよく、急結混和材を含む各材料を混合してベース組成物とし、吹付ノズルの先端でベース組成物及び水を混合して吹付ける乾式吹付工法により製造してもよい。吹付コンクリートは、粉塵やリバウンドがより低減されやすいという観点から、湿式吹付け工法により製造することが好ましい。
【0031】
本実施形態の急結混和材及び吹付コンクリートは、良好な圧送性と急結性能を確保し、強度発現性にも優れるものである。そのため、トンネル壁面や斜面への吹付けにおいて、混合不足による品質のムラが少なく、十分な強度を発揮することができる。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例は特記無い限り20±1℃の環境下で行った。配合量は全て無水物換算、固形分換算している。
【0033】
[カルシウムアルミネートの作製]
市販の工業用薬品のCaCO3とAl2O3を用い、CaO及びAl2O3の含有モル比(CaO/Al2O3、C/A比)の値が以下に表すカルシウムアルミネートが得られるように秤量配合し、ヘンシェル型混合機で原料調合物を作製した。この原料調合物を電気炉中で、約1600℃±50℃にて60分間加熱した。一部のものを除き、加熱時間経過後は加熱物を直ちに炉外に取り出した。取り出した加熱物の表面に冷却用の窒素ガスを最大流速約30mL/秒で吹付けて急冷し、冷却物を得た。冷却物のガラス化率については、窒素ガスの流速を最大値よりも落として吹付けることで調整した。各冷却物は、全鋼製のボールミルで粉砕し、分級装置にかけてブレーン比表面積約5400cm2/gに整粒した。カルシウムアルミネートのガラス化率は、粉末エックス線回折装置を用い、質量がM1のカルシウムアルミネートクリンカに含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。
ガラス化率(質量%)={1-(M2/M1)}×100
【0034】
[材料]
・急結混和材
カルシウムアルミネート:CaO/Al2O3が2.3~3.0、ブレーン比表面積5400cm2/g(略号:CA)
硫酸カルシウム試薬:無水石膏(略号:CS)
硫酸アルミニウム試薬:16水和物(略号:AS)
硫酸ナトリウム試薬:無水芒硝(略号:NS)
・ベースコンクリート
セメント:普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積3200cm2/g、密度3.15g/cm3
細骨材:石灰石細骨材(表乾密度:2.65g/cm3、中心粒径:0.6mm)
粗骨材:砕石(表乾密度:2.74g/cm3、粒径:5~15mm)
【0035】
[急結混和材の作製]
各材料を表1に示す割合として配合し、ヘンシェルミキサで1分間混合した。
【0036】
【0037】
[ベースコンクリートの作製]
セメント100質量部に対して細骨材292質量部、粗骨材194質量部を混合し、次いで水60質量部を加えてコンクリートミキサで2分間混合し、ベースコンクリートを作製した。
【0038】
[吹付コンクリートの作製]
ベースコンクリートを混練後直ちに供給用タンクに入れ、そこから長さ約10m、内径6cmの樹脂製ホースを介して吹付装置へポンプ圧送した。吹付装置は、ベースコンクリートが圧送される内径2インチの圧送管と、その側面に約30度の傾斜角で連通するベースコンクリートに添加物(急結混和材)を供給添加するための円筒状側管と、吹付コンクリートを吹き付ける内径(先端孔径)2インチの噴射用ノズルとを基本構成とする市販品である。ここで、添加物供給用の側管は、圧送管本管と噴射用ノズルとの間に鋼製ト字状管(三方管)を介すことで形成させた。ト字状管の直線上に位置する二方の管口に圧送管本管と噴射用ノズルがそれぞれ接続され、残りの管口に、別送される急結性混和材の供給管が接続される構造とした。ト字状管内でのベースコンクリートへの急結混和材の添加位置(ベースコンクリートと急結混和材の合流地点)から噴射用ノズル孔端までの距離の間に、ベースコンクリートと急結混和材の混合がなされ、その距離(以下、混合距離と称す。)は3mとした。急結混和材は圧搾空気により所定量を空気圧送し、これを吹付装置内で圧送中のベースコンクリートに添加し、添加されたコンクリートは所定の混合距離を進む間に混合され、吹付コンクリートを作製した。
急結混和材の添加量は表1に示すとおりである。
【0039】
[急結性の評価]
ベースコンクリートの配合において、それぞれ含有する粗骨材と細骨材の合計含有量に相当する量を全て細骨材の含有量にし、粗骨材を含まず、また他の成分とその含有量は変更せずに、モルタル配合に変更したベースモルタルをベースコンクリートと同様の手順で作製した。得られたベースモルタルに急結混和材を表1に示す割合で添加し、高速ミキサで5秒間混合し、モルタル混練物を作製した。
急結混和材添加から、30秒経過後、60秒経過後、90秒経過後及び120秒経過後のモルタル混練物のプロクター貫入抵抗値を測定し、急結性を評価した。プロクター貫入抵抗の測定方法は、土木学会コンクリート標準示方書「吹付コンクリート用急結剤品質規格」附属書「急結剤を添加したモルタルの貫入抵抗による瞬結時間測定方法」に準拠し、断面積0.125cm2のプロクター針を使用した。この貫入抵抗値の測定結果を表2に示す。また、表中「>16(N/mm2)」の記載はプロクター針の打込みはできたが、今回の使用機材の測定限界(最大16N/mm2)を超えたものである。
【0040】
[吹付コンクリートの強度発現性の評価]
混合距離を3mにして作製した吹付コンクリートを、作製後直ちに内寸30×40×20cmの成形用型枠内に吹き付け、型枠内を満たすようにした。これを20℃(±1℃)恒温庫に入れ所定時間経過後、型枠内の硬化コンクリートからコアドリルによって直径5cm、高さ10cmの円柱状供試体を採取し、材齢28日にした供試体を得た。この材齢28日供試体の一軸圧縮強度をアムスラー式圧縮強度試験機で測定した。また、土木学会規準JSCE-G561:2010に規定するプルアウト試験用型枠と埋込具を使用し、同様に作製した吹付コンクリートを、JSCE-G561:2010に準拠したプルアウト試験に供した。当該試験により材齢4時間及び24時間の吹付コンクリートの圧縮強度を測定した。各供試体の強度測定の結果を表2に示す。
【0041】
[吹付コンクリートの付着性の評価]
上述した吹付装置を使用し、得られた吹付コンクリートを直ちに吹付施工に供した。吹付装置のノズル孔端から約100cm離れた地点に垂直に設置した厚さ9mmで3m四方のコンクリート製平板面に向かって、10m3/時間の流量で、吹付コンクリートを吹き付けた。吹き付けたコンクリートの付着性の評価を、目視観察により次のように行った。平板面に吹き付けたコンクリートに垂れや剥落が起こることなく、付着し続けたものを付着性が「良好」と判断し、それ以外の状態になったものや吹き付けそのものが実質できなかったものは、全て付着性が「不良」と判断した。結果を表2に示す。
【0042】
[吹付コンクリートの圧送性の評価]
付着性の評価で行った吹付と同等の条件にて、それぞれ5分間行った後にベースコンクリートの圧送供給を30分間停止して吹付を中断した後、ベースコンクリートの圧送供給を再開し、再度吹付を行った。その際、混合距離別に、ト字管や吹付装置の圧送経路中に狭窄や閉塞等の圧送障害や、吹付コンクリートの吹出量の低下等の吹付障害があったものを詰り・閉塞「有」と判断した。また、これらの現象が見られず、スムーズに圧送でき、吹付量の変動も見られなかったものは詰り・閉塞「無」と判断した。結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
実施例の吹付コンクリートは、圧送性もよく、付着性、急結性及び強度発現性に優れていた。一方、比較例の吹付コンクリートでは、詰りが生じたり、付着性や急結性に優れないものだった。