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特開2024-145059血液分析装置、血液分析方法、及び、血液分析装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145059
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】血液分析装置、血液分析方法、及び、血液分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/49 20060101AFI20241004BHJP
   A61B 5/1459 20060101ALI20241004BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01N21/49 A
A61B5/1459
A61M1/36 107
A61M1/36 141
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057295
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】509352897
【氏名又は名称】ジーニアルライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】下北 良
(72)【発明者】
【氏名】藤田 達之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴
【テーマコード(参考)】
2G059
4C038
4C077
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB13
2G059CC18
2G059DD12
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE02
2G059GG02
2G059HH01
2G059KK03
2G059MM01
2G059MM14
4C038KK00
4C038KL03
4C038KL07
4C038KX04
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077HH17
4C077HH21
4C077KK27
(57)【要約】
【課題】血液検体の懸濁条件や赤血球の凝集状態に違いがあったとしても、測定誤差が発生するのを抑えて、より正確にヘマトクリット値やヘモグロビン濃度を算出することができる血液分析装置を提供する。
【解決手段】透光性を有するチューブT内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブTを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置100であって、前記チューブTを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子2と、前記チューブT及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子31と、前記チューブT又は前記分析対象液で前記発光素子2側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子32と、前記第1受光素子31の出力、及び、前記第2受光素子32の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する分析器4と、を備えた。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置であって、
前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、
前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、
前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、
前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する分析器と、を備えた血液分析装置。
【請求項2】
前記分析器が、
前記第1受光素子の出力に基づいて第1吸光度を算出する第1吸光度算出部と、
前記第2受光素子の出力に基づいて第2吸光度を算出する第2吸光度算出部と、
前記第1吸光度と前記第2吸光度の線形和を前記血液分析値に換算する換算部と、を具備する請求項1記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記換算部が、前記第1吸光度と前記第2吸光度の和を前記血液分析値に換算するように構成された請求項2記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記分析器が、
前記第1受光素子の出力と前記第2受光素子の出力の線形和に基づいて補正吸光度を算出する補正吸光度算出部と、
前記補正吸光度を前記血液分析値に換算する換算部と、を具備する請求項1記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記補正吸光度算出部が、前記第1受光素子の出力と前記第2受光素子の出力の和に基づいて補正吸光度を算出するように構成された請求項4記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記発光素子、前記第1受光素子、及び、前記第2受光素子が設けられるボディをさらに備え、
前記ボディが、
前記チューブが嵌め込まれる収容溝と、
前記発光素子から射出された光を前記収容溝内へ入射させる入射光窓と、
前記入射光窓と対向するように設けられ、前記チューブ及び前記分析対象液を通過した光を前記収容溝から前記第1受光素子へ入射させる透過光窓と、
前記チューブの延伸方向に対して前記入射光窓と並べて設けれ、前記チューブ又は前記分析対象液で反射又は散乱された光を前記収容溝から前記第2受光素子へ入射させる反射散乱光窓と、を具備する請求項1乃至4いずれか一項に記載の血液分析装置。
【請求項7】
前記入射光窓、前記透過光窓、及び、前記反射散乱光窓が前記収容溝のいずれかの側面に形成されており、
前記ボディが、前記収容溝が底面部に形成されているとともに、前記収容溝の延伸方向に沿って延びる凹部をさらに備えた請求項6記載の血液分析装置。
【請求項8】
透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置を用いた血液分析方法であって、前記血液分析装置が、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、を備え、
前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する血液分析方法。
【請求項9】
透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置に用いられるプログラムであって、前記血液分析装置が、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、を備え、
前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する分析器としての機能をコンピュータに発揮させる血液分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ内の血液を通過した透過光の強度に基づいてヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を算出する血液分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば人工透析システムでは、患者の体内から取り出される血液の流量や浄化されて患者の体内に戻される血液の流量を適切な量に管理し、患者に負担をかけないようにする必要がある。このため、人工透析システムを構成する血液回路中を流れる血液の流量を正確に測定する必要がある。
【0003】
特許文献1では、血液の流量を算出するために必要となるヘマトクリット値やヘモグロビン濃度を測定するために血液の流れるチューブに対して血液分析装置が取り付けられている。この血液分析装置は、チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光部と、チューブ及び血液を通過した透過光を受光する受光部と、受光部の出力する例えば電流値から透過光強度を算出するとともに、この透過光強度からヘマトクリット値やヘモグロビン濃度へ換算する分析部と、を備えている。
【0004】
しかしながら、上述したような透過光強度だけに基づいて測定されるヘマトクリット値やヘモグロビン濃度は、血液自体の特性やその懸濁状態等の影響を受けるため、個人間や同一人であっても血液検体間で測定誤差が発生してしまう。
【0005】
このような問題について本願発明者らが鋭意検討を行ったところ、以下のような現象に起因して測定誤差が発生していることが見いだされた。すなわち、例えば赤血球に凝集が生じている場合とそうではない場合には血液中において血球の存在しない領域の大きさが異なる。また、赤血球の凝集度合いは生理食塩水か血漿で血液を懸濁しているかによっても影響を受ける。この結果、同じ血液濃度(ヘモグロビン濃度)の血液検体があったとしても、赤血球の存在している領域と存在していない領域の大きさが異なってしまい、ひいては検出される透過光の強度も異なってしまう。したがって、透過光の強度だけに基づいてヘマトクリット値やヘモグロビン濃度を算出すると、赤血球の凝集状態の影響を受けてばらつきが大きく発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-51014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、血液検体の懸濁条件や赤血球の凝集状態に違いがあったとしても、測定誤差が発生するのを抑えて、より正確にヘマトクリット値やヘモグロビン濃度を算出することができる血液分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る血液分析装置は、透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置であって、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する分析器と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る血液分析方法は、透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置を用いた血液分析方法であって、前記血液分析装置が、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、を備え、前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、前記発光素子から射出された光のうち、赤血球によって吸収されず透過した光だけでなく、赤血球において反射又は散乱された光も用いてヘマトクリット値やヘモグロビン濃度といった前記血液分析値を算出しているので、以下のような理由で測定誤差をできると考えられる。
【0011】
例えば、赤血球が凝集している場合には、前記発光素子により光が照射されている領域において赤血球の存在しない領域が大きくなるため、透過光の量が多くなるため、前記第1受光素子の出力は大きくなる。これに対して、赤血球が凝集しているほど前記発光素子側に反射又は散乱される光の少なくなるので、前記第2受光素子の出力は小さくなる。
【0012】
逆に赤血球があまり凝集しておらず、均一に分散している場合には赤血球が凝集している状態を基準とすると透過光の強度は少なくなって前記第1受光素子の出力が小さくなる。これに対して前記発光素子側へ反射又は散乱される光の量は多くなるため前記第2受光素子の出力は大きくなる。
【0013】
したがって、前記第1受光素子の出力と前記第2受光素子の出力は赤血球の凝集度合いに対して逆の変化特性を有しているので、例えばこれらの出力の線形和は赤血球における光の吸収だけを反映させやすくなると考えられる。すなわち、透過光の強度が反映された前記第1受光素子の出力だけでなく、前記発光素子側への反射光や散乱光の強度が反映された前記第2受光素子の出力も用いることによって、赤血球の凝集度によらず、ヘマトクリット値やヘモグロビン濃度といった血液分析値と対応する吸光度を正確に測定できるようになる。このため、前記分析部は前記第1受光素子及び前記第2受光素子の出力に基づいて、正確に前記血液分析値を算出することができると考えられる。
【0014】
例えば赤血球の凝集度合いや懸濁条件の違いによらず、赤血球において生じている吸光現象を正確に反映した吸光度を得られるようにして、前記血液分析値を正確に算出したり、測定誤差のばらつきを従来よりも低減したりするには、前記分析器が、前記第1受光素子の出力に基づいて第1吸光度を算出する第1吸光度算出部と、前記第2受光素子の出力に基づいて第2吸光度を算出する第2吸光度算出部と、前記第1吸光度と前記第2吸光度の線形和を前記血液分析値に換算する換算部と、を具備するものであればよい。このようなものであれば線形和を用いているので、前記第1受光素子の出力と前記第2受光素子の出力の重み付けを変更して、前記血液分析値を正確に算出できるように調整するといったことも可能となる。
【0015】
調整作業等の手間を省く事が可能となる簡単な構成でありながらも従来よりも正確にヘマトクリット値やヘモグロビン濃度といった前記血液分析値を算出できるようにするための具体例としては、値前記換算部が、前記第1吸光度と前記第2吸光度の和を前記血液分析値に換算するように構成されたものが挙げられる。
【0016】
前記分析器が、前記第1受光素子の出力と前記第2受光素子の出力の線形和に基づいて補正吸光度を算出する補正吸光度算出部と、前記補正吸光度を前記血液分析値に換算する換算部と、を具備するものが挙げられる。
【0017】
前記第1受光素子及び前記第2受光素子からの信号処理を簡素化しつつ、正確な前記血液分析値を算出できるようにするには、補正吸光度算出部が、前記第1受光素子の出力と前記第2受光素子の出力の和に基づいて補正吸光度を算出するように構成されたものであればよい。
【0018】
例えば人工透析装置を構成するチューブの一部に後付できるようにしつつ、前記第1受光素子及び前記第2受光素子には前記発光素子以外の光源から射出された光が迷光として入射しにくくして、測定精度を担保できるようにするには、前記発光素子、前記第1受光素子、及び、前記第2受光素子が設けられるボディをさらに備え、前記ボディが、前記チューブが嵌め込まれる収容溝と、前記発光素子から射出された光を前記収容溝内へ入射させる入射光窓と、前記入射光窓と対向するように設けられ、前記チューブ及び前記分析対象液を通過した光を前記収容溝から前記第1受光素子へ入射させる透過光窓と、前記チューブの延伸方向に対して前記入射光窓と並べて設けれ、前記チューブ又は前記分析対象液で反射又は散乱された光を前記収容溝から前記第2受光素子へ入射させる反射散乱光窓と、を具備するものであればよい。
【0019】
前記ボディの外部から前記チューブ内へ迷光が入射するのをさらに防ぐことができるようにするには、前記入射光窓、前記透過光窓、及び、前記反射散乱光窓が前記収容溝のいずれかの側面に形成されており、前記ボディが、前記収容溝が底面部に形成されているとともに、前記収容溝の延伸方向に沿って延びる凹部をさらに備えたものであればよい。
【0020】
例えば既存の血液分析装置に前記第2受光素子を追加するとともに、プログラムを更新することによって本発明に係る血液分析装置と同等の効果を発揮できるようにするには、透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置に用いられるプログラムであって、前記血液分析装置が、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、を備え、前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する分析器としての機能をコンピュータに発揮させる血液分析装置用プログラムを用いれば良い。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明に係る血液分析装置によれば、チューブ及び分析対象液を通過した透過光を第1受光素子で検出するとともに、前記チューブ又は分析対象液で反射又は散乱された光を前記第2受光素子で検出して、各受光素子の出力に基づいてヘマトクリット値やヘモグロビン濃度といった血液分析値を算出しているので、赤血球の凝集の程度や懸濁条件の違いがあったとしても血液分析値を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態における人工透析システムに用いられた血液分析装置を示す模式図。
図2】第1実施形態の血液分析装置の詳細を示す模式図。
図3】第1実施形態の血液分析装置の機能ブロック図。
図4】第1実施形態の血液分析装置による透過光と反射又は散乱光を用いた血液分析値の測定結果と、透過光、反射光又は散乱光のみによる血液分析値の測定結果の比較。
図5】第2実施形態の血液分析装置の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1実施形態に係る血液分析装置100について図1乃至図4を参照しながら説明する。
【0024】
第1実施形態の血液分析装置100は、例えば人工透析システム200において用いられるものであって、血液循環回路の一部を構成するチューブTに対して後付可能に構成されている。人工透析システム200は、図1に示すように血液と透析液とが透析膜を介して接触する透析部Dと、透析部Dの入り口側と患者のアクセス血管Aにおいて上流側とを接続する動脈側回路C1と、透析部Dの出口側と患者のアクセス血管Aにおいて下流側とを接続する静脈側回路C2と、を備えている。動脈側回路C1上には血液を循環させるポンプC11と、血液中の気泡を除去するための動脈側チャンバC12等が設けられている。また、静脈側回路C2上にも、気泡を除去するための静脈側チャンバC22が設けられている。第1実施形態では静脈側回路C2において静脈側チャンバC22の出口側とアクセス血管Aとの間を接続し、浄化された血液の流れるチューブTに対して血液分析装置100が別途外付けされている。
【0025】
血液分析装置100は、チューブTを流れる血液もしくは血液と生理食塩水等が混合した状態の分析対象液とは非接触で少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を測定するように構成されている。具体的には図2及び図3に示すように血液分析装置100はチューブTの外側から光を照射し、チューブT及び分析対象液を通過した光と、チューブT又は分析対象液で反射又は散乱された光とを検出するように構成されている。また、各検出結果に基づいてヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度は算出される。
【0026】
より具体的には血液分析装置100は、発光素子2、第1受光素子31、及び、第2受光素子32が設けられたボディ1、第1受光素子31と第2受光素子32の出力に基づいて血液分析値を算出する分析器4と、を備えている。
【0027】
発光素子2は、例えば近赤外領域の波長の光を射出するLEDであって、光軸に沿って所定の分布で光を射出するものである。すなわち、発光素子2から射出される光は光軸上だけでなく、光軸に対して所定角度をなす方向に対して光線が射出されている。第1実施形態では発光素子2の光軸はチューブTの半径方向に沿うように構成されている。
【0028】
第1受光素子31は、チューブT及び分析対象液を透過した光を受光し、その強度に応じた電流又は電圧を出力するフォトダイオードである。第1実施形態では第1受光素子31は発光素子2に対してチューブTを挟んで対向するように設けられている。
【0029】
第2受光素子32は、チューブT又は分析対象液によって発光素子2側へと反射又は散乱された光を受講し、その強度に応じた電流又は電圧を出力するフォトダイオードである。第1実施形態では第1受光素子31と第2受光素子32はほぼ同じ出力特性を有するものが用いられている。また、第2受光素子32はチューブTを基準として発光素子2と同じ側に設けられているとともに、チューブTの軸方向に沿って発光素子2から所定距離離隔した位置に配置されている。すなわち、第2受光素子32については発光素子2から射出された光が直接入射しないように構成されている。
【0030】
ボディ1は、図2に示すように概略直方体状をなすものであって、内部に発光素子2、第1受光素子31、第2受光素子32が設けられる。このボディ1には軸方向でもある長手方向に沿って概略直方体状をなす凹部12が一方の端面から他方の端面まで形成されている。さらに、この凹部12の底面部には凹部12と同様に長手方向に沿ってまっすぐに延びる収容溝11が形成されており、この収容溝11内に血液回路の一部を構成している可撓性を有するチューブTが嵌め込まれる。この収容溝11の横幅及び深さは例えばチューブTの外径とほぼ同じに設定されており、収容溝11の横幅は凹部12の横幅よりも小さい。また、発光素子2、第1受光素子31、及び、第2受光素子32は、それぞれの光軸が収容溝11の側面と交差するようにボディ1内に設けられている。また、収容溝11の側面には、3つの窓が形成されており、発光素子2、第1受光素子31、及び、第2受光素子32において対象となる光が出射又は入射するようにしてある。より具体的には、収容溝11の側面には、発光素子2から射出された光を収容溝11内へ入射させる入射光窓W2と、入射光窓W2と対向するように設けられ、チューブT及び分析対象液を通過した光を収容溝11から前記第1受光素子31へ入射させる透過光窓W31と、チューブTの延伸方向(ボディ1の長手方向)に対して入射光窓W2と並べて設けれ、チューブT又は分析対象液で反射又は散乱された光を収容溝11から第2受光素子32へ入射させる反射散乱光窓W32が形成されている。このように各窓が形成されているので、第1受光素子31はほぼ透過光のみを検出し、第2受光素子32は発光素子2側へ反射又は散乱された光を検出するようにできる。
【0031】
分析器4は、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力機器を備えたいわゆるコンピュータによってその機能を実現されるものである。メモリに格納されている血液分析装置100用のプログラムが実行され、各機器が協業することによって図3に示すように第1吸光度算出部41、第2吸光度算出部42、換算部43としての機能を発揮する。以下では各部について詳述する。
【0032】
第1吸光度算出部41は、第1受光素子31の出力に基づいて第1吸光度を算出する。例えば第1吸光度算出部41は、第1受光素子31から出力される電流値から検出されている透過光の強度を算出し、発光素子2から出射されている入射光の強度とから第1吸光度を算出する。ここで、発光素子2から出射される入射光の強度については、チューブT内に血液が流れていない状態で発光素子2から射出された光を第1受光素子31で検出した場合の強度を用いてもよいし、発光素子2から出射される入射光の理論的な強度を用いてもよい。
【0033】
第2吸光度算出部42は、第2受光素子32の出力に基づいて第2吸光度を算出する。例えば第2吸光度算出部42は、第2受光素子32から出力される電流値から検出されている発光素子2側へ反射又は散乱されている光の強度を算出し、発光素子2から出射されている入射光の強度とから第2吸光度を算出する。ここで、第2吸光度算出部42で使用されている入射光の強度は第1吸光度算出部41で使用されているのと同じ値が一例として挙げられる。
【0034】
換算部43は、算出された第1吸光度と第2吸光度の線形和を血液分析値に換算する。第1実施形態では例えば測定対象であるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度が既知の分析対象液が流れている場合の第1吸光度と第2吸光度との測定値の組み合わせが予め実験によって測定されている。複数の血液分析値に対する第1吸光度及び第2吸光度の組み合わせを実測し、それらの組に基づいて関係式が予め求められている。例えば、第1吸光度に対する重み付け係数と第2吸光度に対する重み付け係数が実験によって求められた血液分析値、第1吸光度、第2吸光度の複数の組から最小二乗法等によって決定される。換算部43は、実験によって定められた第1吸光度及び第2吸光度を入力変数とし、血液分析値を出力変数とする関係式に測定されている第1吸光度及び第2吸光度を代入して血液分析値を出力する。なお、血液分析値として出力されたヘマトクリット値やヘモグロビン濃度はその時点の数値が外部表示されたり、時刻ととともに変化するグラフとして表示されたりしてもよい。また、人工透析システム200内において血液回路を流れる血液の流量や流速を制御するために、ヘマトクリット値やヘモグロビン濃度を使用しても構わない。
【0035】
次に従来のように透過光だけでヘモグロビン濃度を測定した場合と、反射又は散乱光のみでヘモグロビン濃度を測定した場合と、第1実施形態の血液分析装置100によって透過光と反射又は散乱光に基づいてヘモグロビン濃度を測定した場合の比較結果について図4のグラフを参照しながら説明する。なお、濃度をヘモグロビン濃度の調整するために生理食塩水で希釈した場合と、血漿で希釈した場合の2通りで実測を行った。
【0036】
従来のように透過光のみを用いてヘモグロビン濃度を測定すると、ヘモグロビン濃度が上昇するにしたがって、透過光の吸光度の増加量が小さくなる。特にヘモグロビン濃度が大きい領域では透過光のみの吸光度では所望の線形性を得ることは難しく、また分析対象液の個体差によって高濃度側では測定誤差が大きくなる。
【0037】
また、反射又は散乱光のみの吸光度とヘモグロビン濃度との間の関係は特に生理食塩水で希釈した場合には単調増加ではなく、大きな測定誤差が発生することにある。
【0038】
一方、第1実施形態の血液分析装置100であれば、透過光に基づいて算出される第1吸光度と反射又は散乱光に基づいて算出される第2吸光度の線形和を用いることによって、透過光のみを用いた場合よりも測定レンジ全体において測定値の個体差間のばらつきを抑えることができる。また、線形性について改善されているとともに、生理食塩水希釈であっても血漿希釈であってもそのヘモグロビン濃度に対する応答特性はほとんど変化していない。
【0039】
このように第1実施形態の血液分析装置100であれば、血液の個体差や血液の希釈条件によらず、正確なヘモグロビン濃度やヘマトクリット値といった血液分析値を算出することができる。例えば、人工透析システム200であれば、プライミング時に使用されているプライミング液による希釈状態によらず、正確な血液分析値を得ること可能となるので、血液の循環量等の制御をより患者にとって負担が少なくなるように制御することが可能となる。
【0040】
また、第1実施形態の血液分析装置100はチューブTに対して後付可能に構成されているので、例えば既存の血液回路を構成するチューブTに対して取り付けて、正確なヘマトクリット値やヘモグロビン濃度をシステムに対して提供し、その機能を改良するといったことも可能である。
【0041】
さらに、ボディ1に形成された凹部12の底面部にチューブTが嵌め込まれる収容溝11が形成されているので、例えばボディ1の外部から室内照明等から射出される光が迷光として第1受光素子31や第2受光素子32に入射するのも防ぐことができ、血液分析値における測定誤差をさらに低減できる。
【0042】
次に第2実施形態の血液分析装置100について図5を参照しながら説明する。
【0043】
第2実施形態の血液分析装置100は、第1実施形態と比較して分析器4の構成が異なっている。具体的には、分析器4は、第1受光素子31の出力、及び、第2受光素子32の出力から個別に吸光度を算出するのではなく、第1受光素子31の出力と第2受光素子32の出力の線形和に基づいて補正吸光度を算出する補正吸光度算出部44と、その吸光度から血液分析値に換算する換算部43とを備えている。
【0044】
補正吸光度算出部44は、第1受光素子31から出力される透過光に由来する電流値と、第2受光素子32から出力される反射又は散乱光に由来する電流値の線形和に基づいて、透過光の強度と反射又は散乱光の強度の線形和に相当する補正強度を算出する。さらに補正吸光度算出部44は、発光素子2から出射される入射光の強度と補正強度から補正吸光度を算出する。
【0045】
換算部43は、補正吸光度からヘマトクリット値やヘモグロビン濃度等を含む血液分析値に換算する。ここで、補正吸光度と血液分析値との間の関係式については例えば既知の値の血液分析値を有する分析対象液を複数種類用いて実測を行った場合の値に基づいて作成すればよい。
【0046】
このような第2実施形態の血液分析装置100であっても、第1実施形態と同様に従来よりも測定誤差の小さい血液分析値を算出することが可能となる。
【0047】
その他の実施形態について説明する。
【0048】
各実施形態では第1受光素子及び第2受光素子の出力、又は、吸光度の線形和からヘマトクリット値やヘモグロビン濃度といった血液分析値が算出されていたが、例えば単純な和を用いて血液分析値が算出されるようにしてもよい。また、透過光の強度を反映した第1受光素子の出力と、反射又は散乱光の強度を反映した第2受光素子の出力とを入力変数として、出力変数である血液分析値を算出するように分析器は構成されたものであってもよい。すなわち、各実施形態において説明した算出方法に限られず、透過光の強度又はそれを反映した第1受光素子の出力、反射又は散乱光の強度又はそれを反映した第2受光素子の出力を入力変数とする様々な関係式を例えば実験的に決定して、血液分析値が算出されるように構成してもよい。また、出力として電流値を用いて吸光度を算出していたが、電圧を用いて吸光度を算出してもよい。
【0049】
ボディの形状に関しても一例を示したものであり、様々な変形を行っても構わない。例えば収容溝の側面に対して発光素子、及び、各受光素子の光軸が交差するように構成されていたが、例えば各光軸が収容溝の底面に対して交差するようにしてもよい。この場合にはボディはチューブが嵌め込まれた状態の収容溝を覆うカバー体を備え、このカバー体の内部に発光素子又は第1受光素子のいずれか一方が設けられていれば良い。
【0050】
各実施形態では人工透析システムの一部を構成するために血液分析装置を用いていたが、その他の用途やシステムに本発明に係る血液分析装置を用いても構わない。例えば献血中に体外へ導出されている血液の状態をモニタリングするために献血システムを構成するチューブの一部に血液分析装置を設けても構わない。また、血液製剤の製造ラインを構成するチューブの一部に血液分析装置を設けても構わない。
【0051】
血液分析値としてはヘマトクリット値やヘモグロビン濃度に限られず、その他の値であってもよい。例えばヘマトクリット値やヘモグロビン濃度を用いて換算可能な各種血液指標や、吸光度に関連して算出可能な血液指標を分析器が算出するように構成してもよい。
【0052】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0053】
200・・・人工透析システム
100・・・血液分析装置
1 ・・・ボディ
11 ・・・収容溝
12 ・・・凹部
2 ・・・発光素子
31 ・・・第1受光素子
32 ・・・第2受光素子
4 ・・・分析器
41 ・・・第1吸光度算出部
42 ・・・第2吸光度算出部
43 ・・・換算部
44 ・・・補正吸光度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置であって、
前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、
前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、
前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、
前記第1受光素子の出力、及び、前記第2受光素子の出力に基づいて、少なくともヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む血液分析値を算出する分析器と、を備え
前記分析器が、
前記第1受光素子の出力に基づいて第1吸光度を算出する第1吸光度算出部と、
前記第2受光素子の出力に基づいて第2吸光度を算出する第2吸光度算出部と、
前記第1吸光度と前記第2吸光度との線形和を前記血液分析値に換算する換算部と、を具備し、
前記換算部は、前記血液分析値が既知である複数の分析対象液それぞれを予め測定して得られた、各血液分析値と第1吸光度と第2吸光度との組み合わせに基づいて定められ、前記第1吸光度に対する重み付け係数及び前記第2吸光度に対する重み付け係数を含む関係式に、前記第1吸光度算出部により得られた第1吸光度及び前記第2吸光度算出部により得られた第2吸光度を代入することにより、前記血液分析値を出力するものである、血液分析装置。
【請求項2】
前記発光素子、前記第1受光素子、及び、前記第2受光素子が設けられるボディをさらに備え、
前記ボディが、
前記チューブが嵌め込まれる収容溝と、
前記発光素子から射出された光を前記収容溝内へ入射させる入射光窓と、
前記入射光窓と対向するように設けられ、前記チューブ及び前記分析対象液を通過した光を前記収容溝から前記第1受光素子へ入射させる透過光窓と、
前記チューブの延伸方向に対して前記入射光窓と並べて設けれ、前記チューブ又は前記分析対象液で反射又は散乱された光を前記収容溝から前記第2受光素子へ入射させる反射散乱光窓と、を具備する請求項に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記入射光窓、前記透過光窓、及び、前記反射散乱光窓が前記収容溝のいずれかの側面に形成されており、
前記ボディが、前記収容溝が底面部に形成されているとともに、前記収容溝の延伸方向に沿って延びる凹部をさらに備えた請求項記載の血液分析装置。
【請求項4】
透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置を用いた血液分析方法であって、前記血液分析装置が、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、を備え、
前記第1受光素子の出力に基づいて第1吸光度を算出し
前記第2受光素子の出力に基づいて第2吸光度を算出し、
前記第1吸光度と前記第2吸光度との線形和を前記血液分析値に換算するものであり、
前記血液分析値が既知である複数の分析対象液それぞれを予め測定して得られた、各血液分析値と第1吸光度と第2吸光度との組み合わせに基づいて定められ、前記第1吸光度に対する重み付け係数及び前記第2吸光度に対する重み付け係数を含む関係式に、算出された前記第1吸光度及び前記第2吸光度を代入することにより、前記血液分析値を求める、血液分析方法。
【請求項5】
透光性を有するチューブ内にある少なくとも血液を含む分析対象液に対して光を照射して、前記チューブを透過した光に基づいて血液を分析する血液分析装置に用いられるプログラムであって、前記血液分析装置が、前記チューブを半径方向に対して横切るように光を射出する発光素子と、前記チューブ及び前記分析対象液を透過した光を受光する第1受光素子と、前記チューブ又は前記分析対象液で前記発光素子側へ反射又は散乱された光を受光する第2受光素子と、を備え、
前記第1受光素子の出力に基づいて第1吸光度を算出し前記第2受光素子の出力に基づいて第2吸光度を算出し、及び、前記第1吸光度と前記第2吸光度との線形和を前記血液分析値に換算するものであり、前記血液分析値が既知である複数の分析対象液それぞれを予め測定して得られた、各血液分析値と第1吸光度と第2吸光度との組み合わせに基づいて定められ、前記第1吸光度に対する重み付け係数及び前記第2吸光度に対する重み付け係数を含む関係式に、算出された前記第1吸光度及び前記第2吸光度を代入することにより、前記血液分析値を求める分析器としての機能をコンピュータに発揮させる血液分析装置用プログラム。