(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145060
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】導波管ロータリージョイント
(51)【国際特許分類】
H01P 1/06 20060101AFI20241004BHJP
H01P 3/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01P1/06
H01P3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057300
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219004
【氏名又は名称】島田理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087000
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】生駒 俊治
【テーマコード(参考)】
5J011
5J014
【Fターム(参考)】
5J011EA01
5J014DA00
(57)【要約】
【課題】SF
6ガスなどの絶縁ガスを使用することなく、大電力でマイクロ波を安定的に伝送することができるようにする。
【解決手段】入力側矩形導波管と円形導波管の入力側とを連接するとともに、円形導波管の出力側と出力側矩形導波管とを連接して構成される導波管ロータリージョイントにおいて、入力側矩形導波管と円形導波管との接続領域たる入力側矩形導波管から円形導波管へとモード変換する入力側モード変換部へ至る入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法と、出力側矩形導波管と円形導波管との接続領域たる円形導波管から出力側矩形導波管へとモード変換する出力側モード変換部へ至る出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法とを、入力側モード変換部と出力側モード変換部とにそれぞれ向かうにつれて開口径が大きくなるようにした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側矩形導波管と円形導波管の入力側とを連接するとともに、前記円形導波管の出力側と出力側矩形導波管とを連接して構成される導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管と前記円形導波管との接続領域たる前記入力側矩形導波管から前記円形導波管へとモード変換する入力側モード変換部へ至る前記入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法と、前記出力側矩形導波管と前記円形導波管との接続領域たる前記円形導波管から前記出力側矩形導波管へとモード変換する出力側モード変換部へ至る前記出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法とを、前記入力側モード変換部と前記出力側モード変換部とにそれぞれ向かうにつれて開口径が大きくなるようにした
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項2】
請求項1に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側モード変換部における前記入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法と前記出力側モード変換部における前記出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法とは、使用する周波数で高次モードが発生しない寸法である
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の入力端部の矩形開口径の寸法と前記出力側矩形導波管の出力端部の矩形開口径の寸法とは、予め設定されている規格で規定された矩形開口径の寸法である
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項4】
請求項3に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記予め設定されている規格は、JEITA規格またはEIA規格である
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項5】
請求項3に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状またはテーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状またはテーパー形状に拡開して大きくなるように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項6】
請求項5に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)と前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)とを、前記予め設定されている規格で規定された矩形開口径のa寸法(長辺)より大きくするように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項7】
請求項5に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法(短辺)と前記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法(短辺)とを、前記予め設定されている規格で規定された矩形開口径のb寸法(短辺)より大きくするように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項8】
請求項5に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)と前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)とを、前記予め設定されている規格で規定された矩形開口径のa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)よりそれぞれ大きくするように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項9】
請求項8に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項10】
請求項8に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項11】
請求項8に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項12】
請求項8に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記入力端部から前記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、
前記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、前記出力端部から前記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成した
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【請求項13】
請求項8に記載の導波管ロータリージョイントにおいて、
使用する周波数が2.856GHzのとき、
前記入力側モード変換部における前記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は104mmであり、かつ、b寸法は52mmであり、
前記出力側モード変換部における前記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は104mmであり、かつ、b寸法は52mmである
ことを特徴とする導波管ロータリージョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管ロータリージョイントに関する。さらに詳細には、本発明は、大電力の伝送に用いて好適な導波管ロータリージョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波伝送用の導波管ロータリージョイントが知られているが、こうした導波管ロータリージョイントのなかで、例えば、特許文献1として提示する特開2006-54604号公報などに開示されているように、大電力の伝送に用いることができるように構成した導波管ロータリージョイントがある。
【0003】
ここで、
図1には、従来の導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図があらわされている。また、
図2には、
図1に示す導波管ロータリージョイントの縦断構成説明図があらわされている。さらに、
図3には、
図2のII-II線による断面構成説明図があらわされている。
【0004】
なお、以下においては、説明の便宜上、
図1乃至
図2において左方に位置する矩形導波管を入力側の矩形導波管とし、一方、
図1乃至
図2において右方に位置する矩形導波管を出力側の矩形導波管として説明するが、こうした入出力関係は逆であってもよいことは勿論である。即ち、
図1乃至
図2において左方に位置する矩形導波管を出力側の矩形導波管とし、一方、
図1乃至
図2において右方に位置する矩形導波管を入力側の矩形導波管としてもよい。
【0005】
従来の導波管ロータリージョイント10は、入力側の矩形導波管(以下、本明細書ならびに本特許請求の範囲においては、「入力側の矩形導波管」を「入力側矩形導波管」と適宜に称する。)を構成する入力側矩形導波管部12と、出力側の矩形導波管(以下、本明細書ならびに本特許請求の範囲においては、「出力側の矩形導波管」を「出力側矩形導波管」と適宜に称する。)を構成する出力側矩形導波管部14と、入力側矩形導波管と出力側矩形導波管とを接続する円形導波管を構成する円形導波管部16とを有して構築されている。
【0006】
より詳細には、円形導波管部16は、円形導波管部16の中心軸C方向に沿う略中央部で第1円形導波管部18と第2円形導波管部20とに分割されていて、第1円形導波管部18と第2円形導波管部20とは、回転支持部22により中心軸C周りに相対的に回転自在に支持されて接続されている。
【0007】
第1円形導波管部18における第2円形導波管部20が接続された端部とは反対側の端部である入力側端部18a側には、円形導波管部16の中心軸Cと直交する方向に延長する入力側矩形導波管を構成する入力側矩形導波管部12が接続されている。
【0008】
また、第2円形導波管部20における第1円形導波管部18が接続された端部とは反対側の端部である出力側端部20a側には、円形導波管部16の中心軸Cと直交する方向に延長する出力側矩形導波管を構成する出力側矩形導波管部14が接続されている。
【0009】
回転支持部22は、第2円形導波管部20の出力側端部20aとは反対側の端部に位置するフランジ部24に固定されるとともに第1円形導波管部18の入力側端部18aとは反対側の端部近傍の外周面18bに沿って延長した軸受けハウジング26と、軸受け30とを有して構成されている。
【0010】
即ち、第1円形導波管部18と第2円形導波管部20とは、軸受けハウジング26の内周面26aと第1円形導波管部18の外周面18bとの間に配設された軸受け30を介して、中心軸C周りに回転自在に支持されて接続されている。
【0011】
なお、符号32は、導波管ロータリージョイント10内部を密閉するためのガスシールである。
【0012】
また、符号34は、1/4波長チョーク(λ/4チョーク)であり、断面コ字状の空間が円形導波管部16の周方向に延びて形成されている。この1/4波長チョーク34のチョーク構造により、円形導波管部16側から回転支持部22側への高周波漏れを低減している。
【0013】
上記したように、導波管ロータリージョイント10は、矩形導波管と円形導波管とを連接した構造を備えている。
【0014】
ここで、符号Aは、入力側矩形導波管から円形導波管へモード変換する入力側矩形導波管部12と第1円形導波管部18との接続領域(つなぎ目)である入力側のモード変換部(以下、本明細書ならびに本特許請求の範囲においては、「入力側のモード変換部」を「入力側モード変換部」と適宜に称する。)である。
【0015】
また、符号Bは、円形導波管から出力側矩形導波管へモード変換する第2円形導波管部20と出力側矩形導波管部14との接続領域(つなぎ目)である出力側のモード変換部(以下、本明細書ならびに本特許請求の範囲においては、「出力側のモード変換部」を「出力側モード変換部」と適宜に称する。)である。
【0016】
入力側矩形導波管部12における入力端部12aから入力側モード変換部Aへ至る入力側矩形導波管部12全域の開口径は、JEITA規格の規格番号TT-3001AならびにTT-3006Aならびにそれに準じる規格に規定されたa寸法とb寸法とに従った一定の値に形成されている(
図2ならびに
図3を参照する)。
【0017】
同様に、出力側矩形導波管部14における出力端部14aから出力側モード変換部Bへ至る出力側矩形導波管部14全域の開口径は、JEITA規格の規格番号TT-3001AならびにTT-3006Aならびにそれに準じる規格に規定されたa寸法とb寸法とに従った一定の値に形成されている(
図2ならびに
図3を参照する)。
【0018】
ここで、
図4には、
図1に示す導波管ロータリージョイントにおける内部の電界分布のシミュレーション結果を示す電界分布図があらわされている。
【0019】
なお、このシミュレーションにおける条件は、以下の通りである。
印加電力:1W
周波数:2.856GHz
入力側導波管部12の内径寸法:JEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法とb寸法とである。具体的には、a寸法=72.1mm,b寸法=34.0mmである。
出力側導波管部14の内径寸法:JEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法とb寸法とである。具体的には、a寸法=72.1mm,b寸法=34.0mmである。
入出力伝送モード:TE10
導波管ロータリージョイント10の内部封入ガス:air(空気)
導波管ロータリージョイント10の材質:アルミニウム
【0020】
図4に示すシミュレーション結果に示されているように、導波管ロータリージョイント10の出力側モード変換部Bにおいては2269V/mの電界を示しており、出力側モード変換部Bに電界が集中することとなっていた。
【0021】
即ち、導波管ロータリージョイントは、従来より矩形導波管と円筒導波管とを連接して構成されているが、その接続領域たる矩形導波管から円形導波管へ、あるいは、円形導波管から矩形導波管へとモード変換するモード変換部に電界が集中することになり、大電力印加時には電界が集中するモード変換部において放電が発生していた。
【0022】
このため、特許文献1として提示する特開2006-54604号公報に開示された導波管ロータリージョイントにおいては、導波管ロータリージョイント内に絶縁性の高いSF6(6フッ化硫黄)ガスを加圧して封入することにより、上記した放電の発生を抑止するようにして、大電力の伝送に用いることのできるようにしていた。
【0023】
しかしながら、SF6ガスの地球温暖化係数は、二酸化炭素の約22,800倍であることが知られており、近年においては世界的にSF6ガスの使用を制限する方向へと規制が進んでいる。
【0024】
このため、導波管ロータリージョイントの技術分野においても、SF6ガスを使用することなく大電力の伝送に用いることのできる技術の提案が強く要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、上記したような従来の技術の問題点や従来の技術に対する要望などに鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、SF6ガスなどの絶縁ガスを使用することなく、大電力でマイクロ波を安定的に伝送可能な高周波伝送用の導波管ロータリージョイントを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、本発明による導波管ロータリージョイントは、入力側の矩形導波管と円形導波管の入力側とを連接するとともに、円形導波管の出力側と出力側の矩形導波管とを連接して構成される導波管ロータリージョイントにおいて、その接続領域たる矩形導波管から円形導波管へ、あるいは、円形導波管から矩形導波管へとモード変換するモード変換部における矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)のみについて、または、b寸法(短辺)のみについて、あるいは、a寸法(長辺)とb寸法(短辺)との両方について、モード変換部に向かってそれぞれ大きくするようにしたものである。
【0028】
本発明による導波管ロータリージョイントにおいては、モード変換部における矩形導波管の矩形開口径を、モード変換部に向かって大きくすることにより、モード変換部での電界の集中が抑止され、これにより大電力印加時でもモード変換部における放電が抑止されるようになる。
【0029】
従って、本発明による導波管ロータリージョイントによれば、SF6ガスなどの絶縁ガスを使用することなく、大電力でマイクロ波を安定的に伝送することが可能になる。
【0030】
ここで、本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、モード変換部における矩形導波管の矩形開口径を、モード変換部に向かって大きくするのは、矩形開口径のa寸法(長辺)のみ、b寸法(短辺)のみ、あるいは、a寸法(長辺)およびb寸法(短辺)の両方のいずれであってもよい。
【0031】
なお、矩形開口径のa寸法(長辺)のみを大きくしても、あるいは、b寸法(短辺)のみを大きくしても、それぞれモード変換部における電界の集中を抑止して電界強度を弱くする効果はあるが、本願出願人の実験によれば、b寸法(短辺)を大きくする方が、a寸法(長辺)を大きくするよりも、電界の集中を抑止して電界強度を弱くする効果は大きかった。
【0032】
また、b寸法(短辺)を大きくする際には、TE01モードの高次モードが発生する大きさ以下にすることが好ましいため、より高電力に対応するには、a寸法(長辺)も大きくするようにすることが好ましい。
【0033】
次に、本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、モード変換部に向かって矩形開口径のa寸法(長辺)やb寸法(短辺)を大きく設定する際の基準について説明すると、当該大きくする際の基準は、モード変換部における矩形導波管内部の電界強度によって決まる。
【0034】
ここで、一般的な矩形導波管の耐電力は、
【数1】
で与えられる。
【0035】
なお、
Pb=ブレークダウン電力
a=矩形導波管のa寸法(長辺)の長さ
b=矩形導波管のb寸法(短辺)の長さ
fc=カットオフ周波数
f=周波数
Eb=絶縁破壊電圧
である。
【0036】
上記(1)式から理解されるように、a(矩形導波管のa寸法(長辺)の長さ)およびb(矩形導波管のb寸法(短辺)の長さ)を大きくすると、Pb(ブレークダウン電力)は大きくなる。
【0037】
ここで、空気のEb(絶縁破壊電圧)は、一般的に3kV/mmであることが知られており、矩形導波管内の電界強度が3kV/mmを超えるような場合に放電が起こる。
【0038】
一方で、矩形導波管内にSF6ガスを封入すると、絶縁破壊電圧は空気の場合の2乃至3倍になると言われており、さらに矩形導波管内にSF6ガスを加圧して封入すると、絶縁破壊電圧は空気の場合の4倍以上となる。
【0039】
しかしながら、本発明による導波管ロータリージョイントは、導波管ロータリージョイント内にSF6ガスなどの絶縁ガスを封入しないことを目的とするものであって、従って、導波管ロータリージョイント内には空気のみが封入されている。
【0040】
このため、本発明による導波管ロータリージョイントにおいては、要求強度を印加したときに
Eb=3kV/mm
未満となるように、矩形開口径のa寸法(長辺)やb寸法(短辺)を設定する。
【0041】
より詳細には、矩形導波管の基本モードはTE10であり、そのカットオフ波長λcは
【数2】
であらわされる。
【0042】
また、カットオフ波長λcより、カットオフ周波数fcは
fc=c/λc
であらわされる。
【0043】
ここで、上記(2)式において、aは矩形導波管の長辺の寸法(a寸法)をあらわし、bは矩形導波管の短辺の寸法(b寸法)をあらわし、mならびにnは矩形導波管の伝送モードのTEmnのmnをそれぞれあらわす。例えば、基本モードのTE10であれば、m=1,n=0となる。
【0044】
また、
fc=c/λc
におけるcは光の速度であり、具体的には、真空中の光速度は299792458m/sで定義される。
【0045】
一例として、JEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたWRJ-3の矩形導波管(a寸法=72.1mm,b寸法=34.0mm)で計算した場合には、TE10はλc=144.28mm,fc=2.079GHzとなる。また、TE20はλc=72.14mm,fc=4.156GHzとなる。
【0046】
ここで、本発明において、矩形導波管のa寸法(長辺)のみ、b寸法(短辺)のみ、あるいは、a寸法(長辺)およびb寸法(短辺)の両方を大きくする際には、その大きさに制限を設けるようにすることが好ましい。
【0047】
即ち、使用する周波数で高次モードが発生しない寸法を、矩形導波管のa寸法(長辺)のみ、b寸法(短辺)のみ、あるいは、a寸法(長辺)およびb寸法(短辺)の両方を大きくする際の限界とすることが好ましい。
【0048】
上記したように、矩形導波管の基本モードはTE10となり、発生しうる高次モードはTE20モードおよびTE01モードになる。
【0049】
高次モードのカットオフ波長λcは、上記において説明した通り、
【数3】
であらわされ、カットオフ周波数は、
fc=c/λc
であらわされる。
【0050】
ここで、上記したように、aは矩形導波管の長辺の寸法(a寸法)をあらわし、bは矩形導波管の短辺の寸法(b寸法)をあらわし、mならびにnは矩形導波管の伝送モードのTEmnのmnをそれぞれあらわす。
【0051】
上記においても一例として示したJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたWRJ-3の矩形導波管(a寸法=72.1mm,b寸法=34.0mm)で計算した場合には、基本モードTE10モードは、λc=144.28mm,fc=2.079GHzとなる。
【0052】
また、高次モードのTE20は、λc=72.14mm,fc=4.156GHzとなり、TE01は、λc=68.08mm,fcは4.4035GHzになる。
【0053】
通過周波数2.856GHzに対して発生する高次モードが、TE20は4.156GHzであり、TE01は4.4035GHzであって十分に離れているため、性能に影響することはない。
【0054】
しかしながら、本発明によりa寸法やb寸法を大きくすることにより高次モードの周波数が下がるので、本発明によりa寸法やb寸法を大きくするにあたっては、使用する周波数2.856GHzに影響を与えない大きさ以下にすることが好ましい。
【0055】
このため、本発明による導波管ロータリージョイントが2.856GHzで使用されるような装置に適用される場合には、例えば、高次モードのfcを2.88GHz以上とするために、a寸法を最大104mmとし、b寸法を最大52mmとすることが好ましい。
【0056】
より詳細には、例えば、導波管ロータリージョイントが2.856GHzで使用されるような装置に適用される場合には、使用する周波数の近くに高次モードが発生すると基本波の通過特性に影響を及ぼすため、高次モードの発生を2.88GHz以上にすることが必要である。
【0057】
ここで、高次モードTE20モードのfcが2.88GHz以上になるようなa寸法は104mm、TE01モードのfcが2.88GHz以上になるb寸法は52mmである。そのため、本発明による導波管ロータリージョイントにおいては、a寸法は104mm、b寸法は52mmまで大きくすることができる。
【0058】
つまり、従来の技術では単位体積あたりのエネルギーが高くなり、放電が起こりやすかった矩形導波管と円筒導波管とのモード変換部において、本発明によりa寸法を104mm、b寸法を52mmに拡張することにより、単位体積当たりのエネルギーを低くすることができ、放電を効果的に抑止することができるようになる。
【0059】
なお、矩形導波管には伝送モードがいくつもあり、基本モードはTE10になる。その他のモードは、それぞれのモードにおけるカットオフ周波数λc順に、TE20、TE01になる。TE30やTE11、あるいは、それ以上の高次モードもあるが、これらはTE20やTE01よりも周波数が高いため、本発明を実施する際には考慮しなくてよい。
【0060】
基本モードであるTE10以外のTE20やTE01は高次モードと称されるが、高次モードが発生するような周波数帯域では不要な共振が発生し、基本波に悪影響を及ぼすことがある。このため、高次モードは、使用する周波数より高い周波数に設計する必要がある。
【0061】
ここで、高次モードのカットオフ波長は、
【数4】
であらわされるため、TE20の場合は、m=2,n=0で計算すると、b寸法がいくつでもn=0になり、(n/b)
2が0となるため、a寸法で決まる。
【0062】
同様に、TE01の場合は、m=0,n=1となり、(m/a)2が0となるため、b寸法のみで決まる。
【0063】
次に、本発明において、モード変換部における矩形導波管の矩形開口径を、モード変換部に向かって大きく形成する方法としては、矩形導波管の入力端部(または出力端部)から入力側のモード変換部(または出力側のモード変換部)まで、例えば、階段(ステップ)形状に大きく形成する方法と、テーパー形状に大きく形成する方法がある。
【0064】
ここで、上記したa寸法(長辺)とb寸法(短辺)とを大きくする際に、こうした階段形状のみを用いてもよいし、あるいは、テーパー形状のみを用いてもよいし、あるいは、階段形状とテーパー形状とを組み合わせて用いてもよい。
【0065】
なお、階段形状で大きくした場合には、矩形導波管の開口径が変化する階段形状の段差部分において電界の集中が大きくなるため、耐電力性能がテーパー形状よりも劣化するが、管長をλg/4(λg:管内波長)とすることができる。
【0066】
一方、テーパー形状で大きくした場合には、矩形導波管の開口径が段差無く緩やかに徐々に変化するため、電界の集中が少なく耐電力性能は良好となり高電力に向いているが、管長としてはλg/2の長さが必要になる。
【0067】
ここで、矩形導波管の電界の強い場所は矩形導波管のa寸法(長辺)の中央であり、b寸法は階段形状にせず、a寸法のみを階段形状にしても、電界の集中は低く抑えられる。
【0068】
このため、後述する本発明による第1の実施の形態では、矩形導波管のa寸法を階段(ステップ)形状にして長さの短縮を図り、矩形導波管のb寸法をテーパー形状として電界の集中を抑える構成を備えている。
【0069】
即ち、後述する本発明による第1の実施の形態においては、矩形導波管の電界の強い所は矩形導波管の長辺の中央であるため、a寸法(長辺)を階段(ステップ)形状に形成しても電界の集中は少なく、b寸法(短辺)はテーパー形状とすることで、管長をλg/4の長さで設計することが可能となる。
【0070】
なお、λgは管内波長であり、導波管内での1波長の長さである。自由空間中波長はλ0であらわされ、
【0071】
λ0=c/f
となり、光の速度を周波数で割った長さになる。λg(管内波長)は
【数5】
であらわされる。
【0072】
ここで、テーパー導波管の長さはλg/2であり、ステップ導波管はλg/4であるということが、一般的に知られている。
【0073】
図5には、テーパーの長さとVSWRとの関係を示すグラフがあらわされている。
図5に示すグラフにおいて、横軸が
【数6】
を示しており、d=テーパー部の長さ、λg(z)はテーパー部分の1波長の長さを示し、dがλg/2のときにn=1となる。
【0074】
このグラフから、λg/2毎にVSWRの良い点が繰り返されていることがわかる。このため、矩形導波管の開口径をテーパー形状に大きくする場合には、管長として一番短いλg/2を選択することができる。
【0075】
また、ステップ導波管については、元の導波管のインピーダンスZ1とステップ変換された後のインピーダンスZ3とし、中間のインピーダンスZ2を
【数7】
とし、その長さをλg/4にすることが知られている。このため、矩形導波管の開口径を階段(ステップ)形状に大きくする場合には、管長としてλg/4を選択することができる。
【0076】
なお、本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、モード変換部における矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)やb寸法(短辺)を、モード変換部に向かって大きく形成する際には、入力側モード変換部を含む入力側矩形導波管部と出力側モード変換部を含む出力側矩形導波管部とにおいて、大きくする辺を異ならせるようにしてもよい。
【0077】
即ち、入力側モード変換部を含む入力側矩形導波管部においてはb寸法(短辺)を大きくし、出力側モード変換部を含む出力側矩形導波管部においてはa寸法(長辺)を大きくするようにしてもよい。
【0078】
あるいは、入力側モード変換部を含む入力側矩形導波管部においてはa寸法(長辺)を大きくし、出力側モード変換部を含む出力側矩形導波管部においてはb寸法(短辺)を大きくするようにしてもよい。
【0079】
なお、入力側モード変換部を含む入力側矩形導波管部と出力側モード変換部を含む出力側矩形導波管部とにおいて、大きくする辺を一致させることにより、入力側モード変換部を含む入力側矩形導波管部と出力側モード変換部を含む出力側矩形導波管部とを対称構造として設計や製造することができるようになるため、設計や製造の際の負担を軽減することができるようになる。
【0080】
即ち、本発明による導波管ロータリージョイントは、入力側矩形導波管と円形導波管の入力側とを連接するとともに、上記円形導波管の出力側と出力側矩形導波管とを連接して構成される導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管と上記円形導波管との接続領域たる上記入力側矩形導波管から上記円形導波管へとモード変換する入力側モード変換部へ至る上記入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法と、上記出力側矩形導波管と上記円形導波管との接続領域たる上記円形導波管から上記出力側矩形導波管へとモード変換する出力側モード変換部へ至る上記出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法とを、上記入力側モード変換部と上記出力側モード変換部とにそれぞれ向かうにつれて開口径が大きくなるようにしたものである。
【0081】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側モード変換部における上記入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法と上記出力側モード変換部における上記出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法とは、使用する周波数で高次モードが発生しない寸法であるようにしたものである。
【0082】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の入力端部の矩形開口径の寸法と上記出力側矩形導波管の出力端部の矩形開口径の寸法とは、予め設定されている規格で規定された矩形開口径の寸法であるようにしたものである。
【0083】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記予め設定されている規格は、JEITA規格またはEIA規格であるようにしたものである。
【0084】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径の寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状またはテーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径の寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状またはテーパー形状に拡開して大きくなるように形成したものである。
【0085】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)と上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)とを、上記予め設定されている規格で規定された矩形開口径のa寸法(長辺)より大きくするように形成したものである。
【0086】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法(短辺)と上記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法(短辺)とを、上記予め設定されている規格で規定された矩形開口径のb寸法(短辺)より大きくするように形成したものである。
【0087】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)と上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)とを、上記予め設定されている規格で規定された矩形開口径のa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)よりそれぞれ大きくするように形成したものである。
【0088】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成したものである。
【0089】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成したものである。
【0090】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、テーパー形状に拡開して大きくなるように形成したものである。
【0091】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、上記入力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記入力端部から上記入力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成し、上記出力側矩形導波管の矩形開口径のb寸法は、上記出力端部から上記出力側モード変換部に向けて、単数または複数の段差を有する階段形状に拡開して大きくなるように形成したものである。
【0092】
また、本発明による導波管ロータリージョイントは、上記した本発明による導波管ロータリージョイントにおいて、使用する周波数が2.856GHzのとき、上記入力側モード変換部における上記入力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は104mmであり、かつ、b寸法は52mmであり、上記出力側モード変換部における上記出力側矩形導波管の矩形開口径のa寸法は104mmであり、かつ、b寸法は52mmであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0093】
本発明は、以上説明したように構成されているので、SF6ガスなどの絶縁ガスを使用することなく、大電力でマイクロ波を安定的に伝送することができるようになるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】
図1は、従来の導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す導波管ロータリージョイントの縦断構成説明図である。
【
図3】
図3は、
図2のII-II線による断面構成説明図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す導波管ロータリージョイントにおける内部の電界分布のシミュレーション結果を示す電界分布図である。
【
図5】
図5は、テーパーの長さとVSWRとの関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態の一例としての第1の実施の形態による導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す導波管ロータリージョイントの縦断構成説明図である。
【
図8】
図8は、
図7のVIII-VIII線による断面構成説明図である。
【
図9】
図9は、
図6に示す導波管ロータリージョイントにおける内部の電界分布のシミュレーション結果を示す電界分布図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態の一例としての第2の実施の形態による導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態の一例としての第3の実施の形態による導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による導波管ロータリージョイントの実施の形態の一例について詳細に説明するものとする。
【0096】
なお、以下の説明においては、
図1乃至
図3を参照しながら説明した従来の導波管ロータリージョイントと同一または相当する構成については、適宜にそれぞれ同一の符号を用いて示すこととして、それらの詳細な説明については適宜に省略する。
【0097】
また、「背景技術」の項における説明と同様に、説明の便宜上、
図1乃至
図2に相当する
図6以降の各図において、左方に位置する矩形導波管を入力側の矩形導波管とし、一方、右方に位置する矩形導波管を出力側の矩形導波管として説明するが、こうした入出力関係は逆であってもよいことは勿論である。即ち、
図1乃至
図2に相当する
図6以降の各図において、左方に位置する矩形導波管を出力側の矩形導波管とし、一方、右方に位置する矩形導波管を入力側の矩形導波管としてもよい。
【0098】
(I) 本発明の実施の形態の一例としての第1の実施の形態による導波管ロータリージョイントについての説明
【0099】
ここで、
図6には、本発明の実施の形態の一例としての第1の実施の形態による導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図があらわされている。また、
図7には、
図6に示す導波管ロータリージョイントの縦断構成説明図があらわされている。さらに、
図8には、
図7のVIII-VIII線による断面構成説明図があらわされている。
【0100】
本発明の実施の形態の一例としての第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100は、マグネトロンやクライストロンで発生した大電力を伝送する際に用いて好適なものである。
【0101】
第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100は、内部にマグネトロンやクライストロンで発生した高周波を伝送するための中空の導波路として、入力側矩形導波管を構成する入力側矩形導波管部102と、出力側矩形導波管を構成する出力側矩形導波管部104と、入力側矩形導波管と出力側矩形導波管とを接続する円形導波管を構成する円形導波管部16とを有して構築されている点においては、従来の導波管ロータリージョイント10と同様である。
【0102】
第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100と従来の導波管ロータリージョイント10とを比較すると、両者は入力側モード変換部Aを含む入力側矩形導波管部102ならびに出力側モード変換部Bを含む出力側矩形導波管部104の構成が異なるものであり、その他の構成については異なる点はないので、両者において同一または相当する構成については同一の符号を用いて示すこととして詳細な説明は省略し、以下においては、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100における入力側モード変換部Aを含む入力側矩形導波管部102ならびに出力側モード変換部Bを含む出力側矩形導波管部104の構成について詳細について説明する。
【0103】
まず、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100の入力側矩形導波管部102は、入力端部102aから入力側モード変換部Aへ至る入力側矩形導波管部102の開口径の寸法が、入力側モード変換部Aに向かって大きくなるようにして形成されている。
【0104】
具体的に説明すると、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100の入力側矩形導波管部102は、入力端部102aから入力側モード変換部Aへ至る入力側矩形導波管部102の開口径について、入力端部102aにおいては、例えば、JEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法(長辺)とb寸法(短辺)とに従った値に形成されているが、入力端部102aから入力側モード変換部Aに向かうに従って、例えば、矩形開口径がJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定された内径寸法より大きくなるように形成されている。
【0105】
より詳細には、入力側矩形導波管部102において、a寸法(長辺)については、入力端部102aから入力側モード変換部Aに向けて、単数(1個)の段差102bを備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成している。換言すれば、b寸法(短辺)を形成している対向する管壁内面が、単数(1個)の段差102bを備えて拡開するようにして形成されている。
【0106】
一方、b寸法(短辺)については、入力端部102aから入力側モード変換部Aに向けて、テーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。換言すれば、a寸法(長辺)を形成している対向する管壁内面が、テーパー形状で徐々に拡開するようにして形成されている。
【0107】
同様に、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100の出力側矩形導波管部104は、出力端部104aから出力側モード変換部Bへ至る出力側矩形導波管部104の開口径の寸法が、入力側モード変換部Aに向かって大きくなるようにして形成されている。
【0108】
具体的に説明すると、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100の出力側矩形導波管部104は、出力端部104aから出力側モード変換部Bへ至る出力側矩形導波管部104の開口径について、出力端部104aにおいては、例えば、JEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法(長辺)とb寸法(短辺)とに従った値に形成されているが、出力端部104aから入力側モード変換部Aに向かうに従って、例えば、矩形開口径がJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定された内径寸法より大きくなるように形成されている。
【0109】
より詳細には、出力側矩形導波管部104において、a寸法(長辺)については、出力端部104aから出力側モード変換部Bに向けて、単数(1個)の段差104bを備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成している。換言すれば、b寸法(短辺)を形成している対向する管壁内面が、単数(1個)の段差104bを備えて拡開するようにして形成されている。
【0110】
一方、b寸法(短辺)については、出力端部104aから出力側モード変換部Bに向けて、テーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。換言すれば、a寸法(長辺)を形成している対向する管壁内面が、テーパー形状で徐々に拡開するようにして形成されている。
【0111】
ここで、
図9には、
図6に示す導波管ロータリージョイントにおける内部の電界分布のシミュレーション結果を示す電界分布図があらわされている。
【0112】
なお、このシミュレーションにおける条件は、以下の通りである。
印加電力:1W
周波数:2.856GHz
入力側導波管部102の内径寸法:入力端部102aにおいてはJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法およびb寸法(具体的には、a寸法=72.1mm,b寸法=34.0mmである。)であるが、入力側モード変換部AにおいてはJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法とおよびb寸法より大きいa寸法=104mmおよびb寸法=52mmとなるように構成されている。
出力側導波管部104の内径寸法:出力端部104aにおいてはJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法およびb寸法(具体的には、a寸法=72.1mm,b寸法=34.0mmである。)であるが、出力側モード変換部BにおいてはJEITA規格の規格番号TT-3001Aで規定されたa寸法とおよびb寸法より大きいa寸法=104mmおよびb寸法=52mmとなるように構成されている。
入出力伝送モード:TE10
導波管ロータリージョイント100の内部封入ガス:air(空気)
導波管ロータリージョイント100の材質:アルミニウム
【0113】
図9に示すシミュレーション結果に示されているように、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100の出力側モード変換部Bにおいては1242V/mの電界を示しており、出力側モード変換部Bに電界が集中することが抑止されている。
【0114】
即ち、従来の技術による導波管ロータリージョイント10によれば、出力側モード変換部Bにおける電界は2269V/mであったが、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100によれば、出力側モード変換部Bにおける電界は1242V/mまで低下している。
【0115】
このため、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100においては、導波管内部の高電界に起因して放電が起こることを効果的に抑止することができる。
【0116】
従って、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100によれば、大電力のマイクロ波を伝送する場合でも、SF6などの絶縁ガスを使用することなしに、導波管内での放電を有効に抑止して、これにより安定してマイクロ波の伝送を行うことが可能となる。
【0117】
そして、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100においては、a寸法を階段(ステップ)形状にして長さの短縮を図るとともに、b寸法をテーパー形状として電界の集中を抑えるようにしている。
【0118】
即ち、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100によれば、矩形導波管の電界の強い所は矩形導波管のa寸法(長辺)方向の中央であるため、a寸法(長辺)を階段(ステップ)形状に形成しても電界の集中は少なくなり、b寸法(短辺)はテーパー形状とすることで、管長をλg/4の長さで設計している。
【0119】
(II) 本発明の実施の形態の一例としての第2の実施の形態による導波管ロータリージョイントについての説明
【0120】
ここで、
図10には、本発明の実施の形態の一例としての第2の実施の形態による導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図があらわされている。また、
図11には、
図10に示す導波管ロータリージョイントの縦断構成説明図があらわされている。さらに、
図12には、
図11のXII-XII線による断面構成説明図があらわされている。
【0121】
本発明の実施の形態の一例としての第2の実施の形態による導波管ロータリージョイント200は、a寸法(長辺)については複数である2個の段差を備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成し、b寸法(短辺)についてはテーパー形状で徐々に大きくなるように形成している。
【0122】
この第2の実施の形態による導波管ロータリージョイント200は、入力側矩形導波管部102のa寸法(長辺)を複数である2個の段差200aを備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成するとともに、出力側矩形導波管部104のa寸法(長辺)を複数である2個の段差200bを備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成した点において、入力側矩形導波管部102のa寸法(長辺)を単数(1個)の段差102bを備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成するとともに、出力側矩形導波管部104のa寸法(長辺)を単数(1個)の段差104bを備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成した第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100とは異なるが、その他の構成については第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100と同一である。
【0123】
この第2の実施の形態による導波管ロータリージョイント200においても、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100と同様に、導波管内部の高電界に起因して放電が起こることを効果的に抑止することができるので、大電力のマイクロ波を伝送する場合でも、SF6などの絶縁ガスを使用することなしに、導波管内での放電を有効に抑止して、これにより安定してマイクロ波の伝送を行うことが可能となる。
【0124】
(III) 本発明の実施の形態の一例としての第3の実施の形態による導波管ロータリージョイントについての説明
【0125】
ここで、
図13には、本発明の実施の形態の一例としての第3の実施の形態による導波管ロータリージョイントの外観斜視構成説明図があらわされている。また、
図14には、
図13に示す導波管ロータリージョイントの縦断構成説明図があらわされている。さらに、
図15には、
図14のXV-XV線による断面構成説明図があらわされている。
【0126】
本発明の実施の形態の一例としての第3の実施の形態による導波管ロータリージョイント300は、a寸法(長辺)についてテーパー形状で徐々に大きくなるように形成するとともに、b寸法(短辺)についてテーパー形状で徐々に大きくなるように形成している。
【0127】
即ち、この第3の実施の形態による導波管ロータリージョイント300においては、入力側矩形導波管部102について、a寸法(長辺)をテーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成するとともに、b寸法(短辺)をテーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。
【0128】
同様に、出力側矩形導波管部104について、a寸法(長辺)をテーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成するとともに、b寸法(短辺)をテーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。
【0129】
具体的には、入力側矩形導波管部102において、a寸法(長辺)については、入力端部102aから入力側モード変換部Aに向けて、テーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。換言すれば、b寸法(短辺)を形成している対向する管壁300aF,300aBの内面が、テーパー形状で徐々に拡開するようにして形成されている。
【0130】
また、入力側矩形導波管部102において、b寸法(短辺)については、入力端部102aから入力側モード変換部Aに向けて、テーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。換言すれば、a寸法(長辺)を形成している対向する管壁300bL,300bRの内面が、テーパー形状で徐々に拡開するようにして形成されている。
【0131】
同様に、出力側矩形導波管部104において、a寸法(長辺)については、出力端部104aから出力側モード変換部Bに向けて、テーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。換言すれば、b寸法(短辺)を形成している対向する管壁300cF,300cBの内面が、テーパー形状で徐々に拡開するようにして形成されている。
【0132】
また、出力側矩形導波管部104において、b寸法(短辺)については、出力端部104aから出力側モード変換部Bに向けて、テーパー形状で徐々に拡開して大きくなるテーパー面として形成している。換言すれば、a寸法(長辺)を形成している対向する管壁300dL,300dRの内面が、テーパー形状で徐々に拡開するようにして形成されている。
【0133】
即ち、第3の実施の形態による導波管ロータリージョイント300は、入力側矩形導波管部102と出力側矩形導波管部104とのa寸法(長辺)およびb寸法(短辺)について、テーパー形状で徐々に大きくなるように形成している点において、上記した第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100ならびに第2の実施の形態による導波管ロータリージョイント200とは異なるが、その他の構成については第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100ならびに第2の実施の形態による導波管ロータリージョイント200と同一である。
【0134】
この第3の実施の形態による導波管ロータリージョイント300においても、第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100ならびに第2の実施の形態による導波管ロータリージョイント200と同様に、導波管内部の高電界に起因して放電が起こることを効果的に抑止することができるので、大電力のマイクロ波を伝送する場合でも、SF6などの絶縁ガスを使用することなしに、導波管内での放電を有効に抑止して、これにより安定してマイクロ波の伝送を行うことが可能となる。
【0135】
(IV) その他の実施の形態について
【0136】
なお、上記した実施の形態は例示に過ぎないものであり、本発明は他の種々の形態で実施することができるものである。即ち、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換えあるいは変更などを適宜に行うことができる。
【0137】
例えば、上記した実施の形態は、以下の(IV-1)乃至(IV-5)に説明するように変形してもよい。
【0138】
(IV-1) 上記した各実施の形態においては、予め設定されている規格の一例としてJEITA規格を示して説明したが、予め設定されている規格はこれに限られるものではないことは勿論であり、例えば、EIA規格などのその他の規格を用いてもよいことは勿論である。
【0139】
(IV-2) 上記した第1の実施の形態による導波管ロータリージョイント100においては、a寸法(長辺)を単数の1個の段差を備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成した場合を示し、上記した第2実施の形態による導波管ロータリージョイント200においては、a寸法(長辺)を複数の2個の段差を備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成した場合を示したが、段差の数はこれに限られるものではないことは勿論であり、3個以上の複数の段差を設けるようにしてもよい。
【0140】
(IV-3) 上記した各実施の形態における説明では、詳細な説明は省略したが、a寸法(長辺)とb寸法(短辺)との両方を、単数または複数の段差を備えた階段(ステップ)形状に大きくなるように形成してもよいことは勿論である。また、その際に、a寸法(長辺)とb寸法(短辺)とで、段差の個数が異なるように形成してもよいことは勿論である。
【0141】
(IV-4) 上記した各実施の形態などにおいて示した数値は例示に過ぎないものであり、こうした数値は設計条件などに応じて随時変更されるものであることは勿論である。
【0142】
(IV-5) 上記した実施の形態ならびに上記した(IV-1)乃至(IV-4)に示す各実施の形態や変形例などは、適宜に組み合わせるようにしてもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、大電力の伝送に用いて好適な導波管ロータリージョイントに用いて極めて有用である。
【符号の説明】
【0144】
10 導波管ロータリージョイント
12 入力側矩形導波管部
12a 入力端部
14 出力側矩形導波管部
14a 出力端部
16 円形導波管部
18 第1円形導波管部
18a 入力側端部
18b 外周面
20 第2円形導波管部
20a 出力側端部
22 回転支持部
24 フランジ部
26 軸受けハウジング
26a 内周面
30 軸受け
32 ガスシール
34 1/4波長チョーク(λ/4チョーク)
100 導波管ロータリージョイント
102 入力側矩形導波管部
102a 入力端部
102b 段差
104 出力側矩形導波管部
104a 出力端部
104b 段差
200 導波管ロータリージョイント
200a 段差
200b 段差
300 導波管ロータリージョイント
300aF 管壁
300aB 管壁
300bL 管壁
300bR 管壁
300cF 管壁
300cB 管壁
300dL 管壁
300cR 管壁
A 入力側モード変換部
B 出力側モード変換部
C 中心軸