(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145176
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】制振材料用樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/04 20060101AFI20241004BHJP
C08K 5/372 20060101ALI20241004BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20241004BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20241004BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241004BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20241004BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L101/04
C08K5/372
C08K5/521
C08K5/13
F16F15/02 Q
F16F15/08 D
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057430
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 ゆり子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博次
(72)【発明者】
【氏名】笹山 道章
【テーマコード(参考)】
3J048
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AA01
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4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低有害性であり優れた制振性を示す制振材料を得るための制振材料用樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体を提供する。
【解決手段】塩素含有量20~65質量%の塩素含有熱可塑性樹脂と、化合物Aとを含有する制振材料用樹脂組成物であって、化合物Aは、分子量が200~900、ガラス転移点(Tg)が-50~15℃、20℃における粘度が2,000~600,000mPa・sであり、化合物Aの含有量は、塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、150~800質量部である、制振材料用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有量20~65質量%の塩素含有熱可塑性樹脂と、化合物Aとを含有する制振材料用樹脂組成物であって、
前記化合物Aは、分子量が200~900、ガラス転移点(Tg)が-50~15℃、20℃における粘度が2,000~600,000mPa・sであり、
前記化合物Aの含有量は、前記塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、150~800質量部である、制振材料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記塩素含有熱可塑性樹脂の塩素含有量が35~50質量%である、請求項1に記載の制振材料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記化合物Aは、ウレタンオリゴマー、チオエーテル化合物及びリン酸エステル化合物の少なくともいずれかである、請求項1に記載の制振材料用樹脂組成物。
【請求項4】
分子量が400~1,500、融点が50~140℃の樹脂添加剤をさらに含有し、
前記樹脂添加剤の含有量は、前記塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5~300質量部である、請求項1に記載の制振材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂添加剤は、ヒンダードフェノール系化合物及び固体状塩素化パラフィンの少なくともいずれかである、請求項4に記載の制振材料用樹脂組成物。
【請求項6】
分子量が200~2,500、ガラス転移点(Tg)が-100~15℃、20℃における粘度が10~600,000mPa・sの可塑剤をさらに含有し、
前記可塑剤の含有量は、前記塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5~200質量部である、請求項1に記載の制振材料用樹脂組成物。
【請求項7】
前記可塑剤が、トリメリット酸系可塑剤及びエポキシ系可塑剤の少なくともいずれかである、請求項6に記載の制振材料用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の制振材料用樹脂組成物からなる制振材料。
【請求項9】
前記制振材料が制振シートである請求項8に記載の制振材料。
【請求項10】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に配置され、請求項8に記載の制振材料からなる制振性樹脂層とを備える、制振性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材料用樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制振材料及び遮音部材は、住宅、自動車、飛行機、船舶等の乗り物、OA製品筐体、家電製品等の筐体、配管等の輸送設備など、様々な分野において発生する振動、騒音を遮断、吸収させるために使用されている。制振材料としては粘弾性を利用し、振動を効率よく熱に変換して吸収するような高分子材料を用いたものが用いられている。高分子材料の粘弾性を利用した制振材料としては、粘弾性層を振動源に積層し、さらに振動源と接していない面に、金属等の弾性率の高い拘束層を積層した拘束型制振材がある。
【0003】
従来、制振性の指標として、一般に損失係数(η)が使用されており、損失係数が大きいほど制振性が優れている。損失係数(η)の値が0.1を越えると優れた制振材料であり、0.3以上あることが好ましい。
【0004】
また、制振性の指標として、材料の貯蔵弾性係数(E′)で損失弾性係数(E″)を除した損失正接(tanδ=E″/E′)が使用されており、損失正接が大きいほど材料は制振性に優れている。tanδの値が1を越えると優れた制振材料といわれているが、更なる制振性の向上が望まれている。優れた制振材料として、塩素含有塩素含有熱可塑性樹脂と、平均炭素数12~16の塩素化パラフィンを含む損失正接が3を超えるような高減衰樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような高減衰樹脂組成物と金属等の拘束層を積層した制振材料の損失係数(η)は0.4を超えるような優れた制振性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、塩素化パラフィンはその有害性のために規制対象物質となっている。塩素化パラフィンはその炭素数に応じて、短鎖(炭素数10~13)、中鎖(炭素数14~17)、長鎖(炭素数18~)に分類されるが、短鎖の塩素化パラフィンは、難分解性及び高蓄積性があり人や生物への毒性を有することから、国内では製造及び輸入等が原則禁止されている。また、中鎖の塩素化パラフィンにおいても、近年REACH規則の高懸念物質(SVHC)に選定されている。特許文献1に記載の高減衰樹脂組成物は、炭素数12又は14の短鎖又は中鎖の塩素化パラフィンを含んでおり、有害性が高いといえる。
【0007】
本発明の課題は、上記の点に鑑み、低有害性であり優れた制振性を示す制振材料を得るための制振材料用樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。その結果、特定の条件を有する塩素含有熱可塑性樹脂及び特定の化合物を用い、且つ塩素含有熱可塑性樹脂と特定の化合物を特定の割合で配合することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
[1]塩素含有量20~65質量%の塩素含有熱可塑性樹脂と、化合物Aとを含有する制振材料用樹脂組成物であって、前記化合物Aは、分子量が200~900、ガラス転移点(Tg)が-50~15℃、20℃における粘度が2,000~600,000mPa・sであり、前記化合物Aの含有量は、前記塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、150~800質量部である、制振材料用樹脂組成物。
[2]前記塩素含有熱可塑性樹脂の塩素含有量が35~50質量%である、[1]に記載の制振材料用樹脂組成物。
[3]前記化合物Aは、ウレタンオリゴマー、チオエーテル化合物及びリン酸エステル化合物の少なくともいずれかである、[1]又は[2]に記載の制振材料用樹脂組成物。
[4]分子量が400~1,500、融点が50~140℃の樹脂添加剤をさらに含有し、前記樹脂添加剤の含有量は、前記塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5~300質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の制振材料用樹脂組成物。
[5]前記樹脂添加剤は、ヒンダードフェノール系化合物及び固体状塩素化パラフィンの少なくともいずれかである、[4]に記載の制振材料用樹脂組成物。
[6]分子量が200~2,500、ガラス転移点(Tg)が-100~15℃、20℃における粘度が10~600,000mPa・sの可塑剤をさらに含有し、前記可塑剤の含有量は、前記塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5~200質量部である、[1]~[5]のいずれかに記載の制振材料用樹脂組成物。
[7]前記可塑剤が、トリメリット酸系可塑剤及びエポキシ系可塑剤の少なくともいずれかである、[6]に記載の制振材料用樹脂組成物。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の制振材料用樹脂組成物からなる制振材料。
[9]前記制振材料が制振シートである[8]に記載の制振材料。
[10]基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置され、[8]に記載の制振材料からなる制振性樹脂層とを備える、制振性積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低有害性であり優れた制振性を示す制振材料を得るための制振材料用樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る制振性積層体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の制振材料用樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されない。また、本明細書において、数値範囲を表す「~」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0012】
[制振材料用樹脂組成物]
本発明の制振材料樹脂組成物は、塩素含有量20~65質量%の塩素含有熱可塑性樹脂と、化合物Aとを含有する。
【0013】
(塩素含有熱可塑性樹脂)
本発明で用いられる塩素含有熱可塑性樹脂は、塩素含有量が20~65質量%の塩素含有熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。塩素含有熱可塑性樹脂の塩素含有量が20質量%未満であると、塩素含有熱可塑性樹脂の結晶が成長し易くなるため、貯蔵弾性係数が高くなって損失正接の値が小さくなり、制振性能が低下する。塩素含有量が65質量%を越えると、分子間力が強くなりすぎるため、貯蔵弾性係数が高くなって損失正接の値が小さくなり、制振性能が低下する。塩素含有熱可塑性樹脂の塩素含有量は、25~60質量%であることが好ましく、30~55質量%であることがより好ましく、35~50質量%であることがさらに好ましい。
【0014】
塩素含有熱可塑性樹脂は、塩素以外の置換基、例えば、シアノ基、水酸基、アセチル基、メチル基、エチル基、臭素、フッ素等が含まれていてもよい。このような塩素以外の置換基の割合は5質量%以下が好ましい。塩素以外の置換基の割合が5質量%以下であると、制振性能の低下を引き起こす可能性を抑制することができる。
【0015】
塩素含有熱可塑性樹脂としては、貯蔵弾性係数が低いものを採用することができ、例えば、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。塩素含有熱可塑性樹脂は、貯蔵弾性係数が低いものであることが好ましいという観点から、損失正接の値が大きい非晶性のものであることが好ましく、塩素化ポリエチレンが好ましい。
【0016】
(化合物A)
本発明で用いられる化合物Aは、分子量が200~900、ガラス転移点(Tg)が-50~15℃、20℃における粘度が2,000~600,000mPa・sである。以下、各条件について説明する。
【0017】
本発明の化合物Aの分子量は、200~900である。分子量が200未満で低すぎると、材料の揮発またはブリードアウトが懸念させる。また、分子量が900超で高すぎると、塩素含有熱可塑性樹脂の分子鎖の内部に入り込めなくなるので、塩素含有熱可塑性樹脂との相溶性が悪くなり、塩素含有熱可塑性樹脂の自由回転運動を阻害し、損失正接の値が小さくなり、制振性能が低下する。上記観点から、本発明で用いられる化合物Aの分子量は、250~850であることが好ましく、300~800であることがより好ましく、350~750であることがさらにこのましく、375~700であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の化合物Aのガラス転移点(Tg)は、-50~15℃である。化合物Aのガラス転移点が-50℃未満で低すぎると、低温側に損失正接のピークがシフトし、15℃超で高すぎると高温側に損失正接のピークがシフトし、室温(20℃)での制振性能が低くなる。上記観点から、ガラス転移点(Tg)は、-47~5℃であることが好ましく、-45~-5℃であることがより好ましく、-43~-15℃であることがさらに好ましく、-40~-20℃であることが特に好ましい。
なお、ガラス転移点(Tg)は、実施例に記載の方法にて測定する。
【0019】
本発明の化合物Aの20℃における粘度は、2,000~600,000mPa・sである。化合物Aの粘度が2,000mPa・s未満で低すぎると、低温側に損失正接のピークがシフトし、600,000mPa・s超で高すぎると高温側に損失正接のピークがシフトし、室温(20℃)での制振性能が低くなる。上記観点及び取扱のしやすさの観点から、20℃における粘度は、3,000~550,000mPa・sであることが好ましく、4,000~500,000mPa・sであることが好ましく、5,000~450,000mPa・sであることがさらに好ましく、5,500~400,000mPa・sであることが特に好ましい。
なお、粘度は、実施例に記載の方法にて測定する。
【0020】
本発明で用いられる化合物Aとしては、例えば、ウレタンオリゴマー、チオエーテル化合物、リン酸エステル化合物、アクリル系オリゴマー等が挙げられ、中でも、ウレタンオリゴマー、チオエーテル化合物、リン酸エステル化合物が好ましい。チオエーテル化合物としては、4,4‘-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)が挙げられる。リン酸エステル化合物としては、2,6-キシレニルホスフェートが挙げられる。
【0021】
(塩素含有熱可塑性樹脂と化合物Aの配合比)
本発明の化合物Aの含有量は、塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、150~800質量部である。化合物Aの含有量が、150質量部未満で少なすぎると塩素含有熱可塑性樹脂の結晶が成長しやすくなり、貯蔵弾性係数が高くなって損失正接の値が小さくなり、制振性能が低下する。一方、化合物Aの含有量が800質量部超で多すぎると、得られる制振材料の機械的強度が小さくなる傾向があり、形状保持が難しくなることがある。上記観点から、化合物Aの含有量は、塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、160~700質量部であることが好ましく、170~600質量部であることがより好ましく、180~500質量部であることがさらに好ましく、190~400質量部であることがより特に好ましい。
【0022】
(樹脂添加剤)
本発明に係る制震材料用樹脂組成物は、さらに樹脂添加剤をさらに含有してもよい。本発明で用いられる樹脂添加剤は、制振材料用樹脂組成物の貯蔵弾性係数を調節し、損失正接のピーク温度を高温側にシフトさせる。本発明で用いられる樹脂添加剤は、分子量が400~1,500、融点が50~140℃である。以下、各条件について説明する。
【0023】
本発明の樹脂添加剤の分子量は、500~1,400であることが好ましく、600~1,300であることがより好ましく、700~1,200であることがさらに好ましい。樹脂添加剤の分子量が上記下限値以上であると、材料の揮発及びブリードアウトの発生を抑制することができる。また、樹脂添加剤の分子量が上記上限値以下であると、塩素含有熱可塑性樹脂との相溶性がよくなり、塩素含有熱可塑性樹脂の自由回転運動を阻害することなく、損失正接の値が大きくなり、制振性能が向上する。
【0024】
本発明の樹脂添加剤の融点は、53~135℃であることが好ましく、56~130℃であることがより好ましく、60~125℃であることがさらに好ましい。樹脂添加剤の融点が上記下限値以上であると、損失正接のピーク温度が低温側にシフトすることを防止することができる。また、樹脂添加剤の融点が上記上限値以下であると、混錬温度(150℃)で融解し、期待する効果を発現しやすくなる。
なお、融点は、実施例に記載の方法にて測定する。
【0025】
本発明で用いられる樹脂添加剤としては、塩素含有熱可塑性樹脂及び化合物Aとの相溶性がよいものであれば特に限定はなく、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、固体状塩素化パラフィン、ホスファイト系化合物、ロジンエステル系化合物等が挙げられる。中でも、ヒンダードフェノール系化合物、固体状塩素化パラフィンが好ましい。
【0026】
本発明で樹脂添加剤として用いられる固体状塩素化パラフィンの炭素数は、15~40であることが好ましく、18~30であることがより好ましい。固体状塩素化パラフィンの炭素数が上記範囲内であると、低有害性であり、十分な粘性を付与することができる。
【0027】
本発明の樹脂添加剤の含有量は、塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5~350質量部であることが好ましく、5~300質量部であることがより好ましく、15~250質量部であることがさらに好ましく、25~200質量部であることが特に好ましい。樹脂添加剤の含有量が上記範囲内であると、得られる制振材料の耐熱性及びクリープずれ性を向上させることができる。
【0028】
(可塑剤)
本発明の制振材料用樹脂組成物は、さらに可塑剤を含有してもよい。本発明で用いられる可塑剤は、制振材料用樹脂組成物の貯蔵弾性係数を調節し、損失正接のピーク温度を低温側にシフトさせる。本発明で用いられる可塑剤は、分子量が200~2,500、ガラス転移点(Tg)が-100~15℃、20℃における粘度が10~600,000mPa・sである。以下、各条件について説明する。
【0029】
本発明の可塑剤の分子量は、300~2,000であることが好ましく、400~1,500であることがより好ましく、500~1,000であることがさらに好ましい。可塑剤の分子量が上記下限値以上であると、材料の揮発及びブリードアウトの発生を抑制することができる。また、可塑剤の分子量が上記上限値以下であると、塩素含有熱可塑性樹脂との相溶性がよくなり、塩素含有熱可塑性樹脂の自由回転運動を阻害することなく、損失正接の値が大きくなり、制振性能が向上する。
【0030】
本発明の可塑剤のガラス転移点(Tg)は、-95~5℃であることが好ましく、-90~-5℃であることがより好ましく、-85~-15℃であることがさらに好ましく、-80~-20℃であることが特に好ましい。可塑剤のガラス転移点(Tg)が上記下限値以上であると、損失正接のピーク温度が低温側にシフトしすぎることを防止することができる。また、可塑剤のガラス転移点(Tg)が上記上限値以下であると、損失正接のピーク温度が高温側にシフトすることを抑制し、室温(20℃)での制振性能を向上させることができる。
なお、ガラス転移点(Tg)は、実施例に記載の方法にて測定する。
【0031】
本発明の可塑剤の20℃における粘度は、30~100,000mPa・sであることが好ましく、50~10,000mPa・sであることがより好ましく、70~5,000mPa・sであることがさらに好ましく、100~3,000mPa・sであることが特に好ましい。可塑剤の20℃における粘度が上記下限値以上であると、損失正接のピーク温度が低温側にシフトしすぎることを防止することができる。また、可塑剤の20℃における粘度が上記上限値以下であると、損失正接のピーク温度が高温側にシフトすることを抑制し、室温(20℃)での制振性能を向上させることができる。
なお、粘度は、実施例に記載の方法にて測定する。
【0032】
本発明で用いられる可塑剤としては、塩素含有熱可塑性樹脂及び化合物Aとの相溶性がよいものであれば特に限定はなく、例えば、トリメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。中でも、トリメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤が好ましい。
【0033】
本発明の可塑剤の含有量は、塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5~200質量部であることが好ましく、5~200質量部であることがより好ましく、15~175質量部であることがさらに好ましく、25~150質量部であることが特に好ましい。可塑剤の含有量が上記範囲内であると、得られる制振材料の耐熱性及びクリープずれ性を向上させることができる。
【0034】
(無機フィラー)
本発明の制振材料用樹脂組成物は、無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーは、制振性能向上に寄与する。
【0035】
本発明に用いられる無機フィラーの形状は、鱗片状である。無機フィラーを鱗片状とすることで、振動が加わった際に、鱗片状の無機フィラーと樹脂の界面におけるエネルギー損失が大きくなり、高い制振性能を発現することができる。
なお、鱗片状とは、薄い板状で最大寸法に対して厚みが極端に小さい形状、かつ最大寸法(長径)を厚みで除した値(長径/厚み)であるアスペクト比が10以上となる形状である。
また、鱗片状フィラーのアスペクト比は、20以上であることがより好ましく、50以上であることが望ましい。無機フィラーのアスペクト比は、複数の無機フィラーの平均アスペクト比であることが好ましく、任意に選択した50個の各無機フィラーを電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、各無機フィラーの長径/厚みの平均値を算出することにより求めることができる。
【0036】
本発明に用いられる無機フィラーとしては、例えば、マイカ、黒鉛、タルク、ワラストナイト、酸化チタン、セピオライト、炭酸カルシウム、シリカ、ガラスビーズ、アルミナ、硫酸バリウム、ガラスファイバー、セルロースファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルなどが挙げられ、中でも炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0037】
本発明の無機フィラーの含有量は、塩素含有熱可塑性樹脂100質量部に対し、100~1,000質量部であることが好ましく、200~900質量部であることがより好ましく、300~800質量部であることがさらに好ましい。無機フィラーの含有量が上記範囲内であることで、貯蔵弾性率を向上させることで制振性を向上させることができ、流動性を有することで取り扱い性が向上する。
【0038】
(その他添加成分)
本発明の制振材料用樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じてその他の添加成分を含有させることができる。
その他の添加成分としては、制振材料に透明性が必要な場合、ロジン系化合物を含有させることができる。ロジン系化合物は、ロジン金属塩、ロジンエステル等が使用できる。
【0039】
また、制振材料用樹脂組成物の成形の際の熱安定剤として、錫系安定剤を含有させることができる。錫系安定剤は、特に限定されず、ジアルキル錫マレート、ジアルキル錫ビス(モノアルキルマレート)、ジブチル錫マレートポリマー、ジアルキル錫ラウレート、ジアルキル錫メルカプト、ジアルキル錫ビス(メルカプト脂肪酸エステル)、ジアルキル錫サルファイド、ジオクチル錫マレートポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
また、その他必要に応じて、充填材、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤などを含有させることができる。
【0041】
[制振材料]
本発明の制振材料は、上記本発明の制振材料用樹脂組成物を賦形することにより得られる。制振材料の形状は特に限定されず、シート状、板状、棒状、ブロック状であってもよいが、シート状である制振シートが好ましい。なお、「シート」とは、厚みに基づく厳密な意味に拘泥されるものではなく、通常「フィルム」と呼ばれる薄手のものや、「プレート」と呼ばれる厚手のものも含むものとする。制振シートの厚みは特に限定されるものではないが、薄すぎると制振効果が小さくなる可能性があり、厚すぎると振動の発生源等に施工する際の取扱いが不便になる可能性があり、0.05~50mmが好ましい。
【0042】
[制振性積層体]
次に、本発明の実施形態に係る制振性積層体について説明する。本発明の実施形態に係る制振性積層体1は、
図1に示すように、基材10と、基材10の少なくとも一方の面に配置され、上記記載の制振材料からなる制振性樹脂層20とを備える。本発明の実施形態に係る制振性積層体1は、制振性樹脂層20上に、拘束層30をさらに備える。
【0043】
制振性積層体1の厚みは、任意であってよいが、薄すぎると十分な制振性を得ることができず、厚すぎると質量が重くなり施工性が悪くなるので、1mm~50mmであることが好ましく、2mm~40mmであることがより好ましく、3mm~30mmであることがさらに好ましい。
【0044】
(基材)
基材10は、高い弾性率を有する材料であれば、特に限定されない。基材10としては、例えば、鉛、鋼材(ステンレス鋼を含む)、銅、アルミニウム等の金属材料;コンクリート、石膏ボード、大理石、スレート、砂、ガラス等の無機材料などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし、2種類以上併用されてもよい。
【0045】
基材10の厚みは、任意であってよいが、薄すぎると十分な制振性を得ることができず、厚すぎると質量が重くなり施工性が悪くなるので、50μm~50mmであることが好ましく、100μm~40mmであることがより好ましく、200μm~30mmであることがさらに好ましい。
【0046】
(制振性樹脂層)
制振性樹脂層20は、上述した制振材料用樹脂組成物により形成される。制振性樹脂層20の形成方法は、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば押出成形法、プレス成型法、ロール成型法、射出成型法等があげられる。
【0047】
制振性樹脂層20の厚みは、任意であってよいが、薄すぎると十分な制振性を得ることができず、厚すぎると質量が重くなり施工性が悪くなるので、100μm~5.0mmであることが好ましい。
【0048】
(拘束層)
拘束層30は、縦弾性係数が1GPa以上であるものが好ましい。また、制振性樹脂層20を構成する塩素含有熱可塑性樹脂より縦弾性係数が大きい材料が好ましく、十分な制振効果を奏するためには、10GPa以上であることがより好ましい。
【0049】
拘束層30としては、例えば、鉛、鉄、鋼材(ステンレス鋼を含む)、アルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属材料;コンクリート、石膏ボード、大理石、スレート板、砂板、ガラス等の無機材料;ポリカーボネート、ポリサルフォン等のビスフエノールA変性樹脂;ポリ(メタ)アクリレートなどのアクリル樹脂;塩化ビニル系樹脂、塩素化塩化ビニル系樹脂等の塩素系樹脂; アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン系ゴム等のゴム系材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の飽和ポリエステル;スチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、アラミド(芳香族ポリアミド)等のポリアミド系樹脂;メラミン系樹脂;ポリイミド系樹脂;ウレタン系樹脂;ジシクロペンタジエン、ベークライト等の熱硬化性樹脂;木、紙等のセルロース系材料;キチン、キトサンなどからなる板材またはシートが挙げられる。
【0050】
拘束層30は、単独で用いても、2以上の組み合わせで用いてもよい。拘束層30は、ガラス繊維、カーボン繊維、液晶などで補強されていてもよく、互いに異なる材料からなる複合板であってもよく、さらに、これらの材料からなる発泡体であってもよい。
【0051】
拘束層30の厚みは、任意であってよいが、薄すぎると十分な制振性を得ることができず、厚すぎると質量が重くなり施工性が悪くなるので、50μm~5.0mmであることが好ましい。
【0052】
本発明の実施形態に係る制振性積層体1の一次損失係数は、20℃において0.4以上である。制振性積層体1の一次損失係数が20℃において0.4以上であることで、制振材料の通常の使用環境において、制振性能が優れたものとなる。
【0053】
(作用)
本発明の制振材料用樹脂組成物は、特定の条件を有する塩素含有熱可塑性樹脂及び特定条件を有する化合物Aからなり、この化合物Aを塩素含有塩素含有熱可塑性樹脂に特定の割合で配合してなるものであり、この制振材料用樹脂組成物から得られる制振材料は、一次損失係数の値が0.4を越えるような優れた制振吸収性を示す。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例においては、以下の材料及び測定方法を用いた。
【0055】
[塩素含有熱可塑性樹脂]
塩素含有熱可塑性樹脂として塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、品番「エラスレン401A」、塩素含有量40質量%)を用いた。
[化合物A]
化合物Aとしては表1に記載のものを用いた。
なお、化合物Aのウレタンオリゴマーの製造方法としては、ポリオール化合物、イソシアネート化合物、及び触媒を混合し、150℃~240℃の温度で5~15時間混合物を攪拌下で加熱することにより、表1に記載の性状を有するウレタンオリゴマーを得た。
[樹脂添加剤]
樹脂添加剤としては表1に記載のものを用いた。
[可塑剤]
可塑剤としては表1に記載のものを用いた。
[その他低分子量化合物]
参考例及び比較例において、その他低分子量化合物としては表1に記載のものを用いた。
[粘着付与剤]
粘着付与剤としてはロジンエステル(荒川化学工業社製、品番「KE-359」)を用いた。
[無機フィラー]
無機フィラーとしては炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、品番「ホワイトン305-S」)を用いた。
【0056】
[制振材料用樹脂組成物]
表2に示された配合比に従ってPE製のカップ中に各材料を秤量して150℃に加温し、ロール機で混錬して実施例、参考例及び比較例の制振材用樹脂組成物を得た。
【0057】
[制振性積層体]
実施例、参考例及び比較例の制振材料用制振樹脂組成物を、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートの間に挟み、熱プレスによって1.0mm厚のシート状樹脂組成物に成型した。このシート状樹脂組成物を幅20mm、長さ250mmに切り出し、同型の厚み1.6mmの鋼板、シート状樹脂組成物、同型の厚み0.3mmの鋼板の順で積層し、手で軽く押さえて損失係数評価用制振性積層体を作製した。
【0058】
[測定方法]
本明細書における各物性の測定方法は、次の通りである。
<損失係数測定>
本発明における一次損失係数とは、上記損失係数評価用制振性積層体に対し、JIS K7391:2008に基づいて、20℃下、中央加振法により得られる1次共振周波数において、半値幅法により算出される損失係数をいう。
<ガラス転移点(Tg)、融点測定>
本発明におけるガラス転移点(Tg)とは、得られた制振材料用樹脂組成物に対し、JIS K 7121:2012に基づき、示差熱走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の測定条件により得られた中間点ガラス転移温度をいう。融点とは、JIS K 7121:2012に基づき、示差熱走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の測定条件により得られた融解ピーク温度をいう。示差熱走査熱量計としては、DSC7020(セイコー電子工業社製)を用いた。
<粘度測定>
本発明における粘度とは、得られた制振材用樹脂組成物に対し、回転式レオメータを用いて、20℃、角周波数10rad/s、ひずみ100%の測定条件により得られた複素粘度をいう。上記回転式レオメータ装置としては、MCR102(AntonPaar社製)を用いた。
【0059】
【0060】
【0061】
実施例1~8は一次損失係数の値が0.4以上であり、優れた制振性を発現していた。一方、比較例1~3は一次損失係数が0.4未満であり、優れた制振性を発現していなかった。