(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145178
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20241004BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20241004BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20241004BHJP
C08B 11/145 20060101ALI20241004BHJP
C08B 5/00 20060101ALI20241004BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08B11/12
D21H11/18
D21H15/02
C08B11/145
C08B5/00
C08B15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057434
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 ▲祥▼行
(72)【発明者】
【氏名】松原 悠介
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA05
4C090BA27
4C090BA29
4C090BA34
4C090BB62
4C090BB63
4C090BB64
4C090BB95
4C090BB96
4C090BC01
4C090BD19
4C090BD34
4C090CA04
4C090CA34
4C090CA36
4C090CA38
4C090CA50
4L055AF09
4L055AF46
4L055FA22
(57)【要約】
【課題】省エネルギーで微細繊維状セルロースを製造可能な微細繊維状セルロースの製造方法を提供すること。
【解決手段】原料パルプと、反応化剤を含有する水溶液とを接触させる工程、120℃以上の温度にて加熱し、原料パルプにイオン性基を導入する工程、およびイオン性基が導入された原料パルプを微細化する工程をこの順で含み、前記反応化剤が、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤、エーテル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエーテル化剤、またはカチオン化剤であり、前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、いずれかの製造工程にて使用する、微細繊維状セルロースの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料パルプと、反応化剤を含有する水溶液とを接触させる工程、
120℃以上の温度にて加熱し、原料パルプにイオン性基を導入する工程、および
イオン性基が導入された原料パルプを微細化する工程をこの順で含み、
前記反応化剤が、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤、エーテル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエーテル化剤、またはカチオン化剤であり、
前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、いずれかの製造工程にて使用する、
微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、水を用いて除熱する除熱工程、または気体を用いて除熱する除熱工程を有する、請求項1に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項3】
除熱工程で加熱された水または気体を用いて、上記原料パルプにイオン性基を導入する工程後の水洗工程で使用する水を加熱する、請求項2に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項4】
除熱工程で加熱された水または気体を用いて、原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用する気体を加熱する、請求項2に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項5】
反応化剤が、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤である、請求項1に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項6】
反応化剤が、エステル基を介して原料パルプにリンオキソ酸基を導入するエステル化剤である、請求項1に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項7】
前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、水を用いて除熱する工程、または熱交換器により気体を用いて除熱する除熱工程を有し、除熱工程で加熱された水または気体を用いて、エステル化剤を含む水溶液を加熱する、請求項5に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項8】
エステル化剤を含む水溶液が、さらに、尿素またはその誘導体を含有する、請求項5に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を繊維幅が1000nm以下まで解繊することで得られる微細繊維状セルロースは、強度、弾性、熱安定性等に優れており、樹脂やゴムの配合用充填剤としての工業的な用途に使用されている。また、微細繊維状セルロースの水分散液は、粘度調整剤、安定化剤等に使用されている。
微細繊維状セルロースは、パルプ繊維を機械的な処理によって解繊することにより得ることができる。その際、パルプ繊維にイオン性基を導入後に解繊することで、機械的な処理に必要なエネルギーを効率的に低下させることができるとされている(特許文献1および2参照)。しかし、微細繊維状セルロースの製造には、多くのエネルギーを必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-1728号公報
【特許文献2】特開2010-235679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、省エネルギーで微細繊維状セルロースを製造可能な微細繊維状セルロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、微細繊維状セルロースにイオン性基を導入する工程において使用した熱をいずれかの工程で使用することにより、上記の課題が解決されることを見出した。
本発明は、以下の<1>~<8>に関する。
<1> 原料パルプと、反応化剤を含有する水溶液とを接触させる工程、
120℃以上の温度にて加熱し、原料パルプにイオン性基を導入する工程、および
イオン性基が導入された原料パルプを微細化する工程をこの順で含み、
前記反応化剤が、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤、エーテル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエーテル化剤、またはカチオン化剤であり、
前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、いずれかの製造工程にて使用する、
微細繊維状セルロースの製造方法。
<2> 前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、水を用いて除熱する除熱工程、または熱交換器により気体を用いて除熱する除熱工程を有する、<1>に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
<3> 除熱工程で加熱された水または気体を用いて、上記原料パルプにイオン性基を導入する工程後の水洗工程で使用する水を加熱する、<2>に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
<4> 除熱工程で加熱された水または気体を用いて、原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用する気体を加熱する、<2>に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
<5> 反応化剤が、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
<6> 反応化剤が、エステル基を介して原料パルプにリンオキソ酸基を導入するエステル化剤である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
<7> 前記原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用した熱を、水を用いて除熱する工程、または熱交換器により気体を用いて除熱する除熱工程を有し、除熱工程で加熱された水または気体を用いて、エステル化剤を含む水溶液を加熱する、<5>または<6>に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
<8> エステル化剤を含む水溶液が、さらに、尿素またはその誘導体を含有する、<5>~<7>のいずれか1つに記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、省エネルギーで微細繊維状セルロースを製造可能な微細繊維状セルロースの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[微細繊維状セルロースの製造方法]
本実施形態の微細繊維状セルロースの製造方法は、原料パルプと、反応化剤を含有する水溶液とを接触させる工程(以下、「工程1」ともいう)、120℃以上の温度にて加熱し、原料パルプにイオン性基を導入する工程(以下、「工程2」ともいう)、およびイオン性基が導入された原料パルプを微細化する工程(以下、「工程3」ともいう)をこの順で含み、前記反応化剤が、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤、エーテル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエーテル化剤、またはカチオン化剤であり、前記原料パルプにイオン性基を導入する工程(工程2)で使用した熱を、いずれかの製造工程にて使用する。
本発明において、工程2で使用した熱を、微細繊維状セルロースの製造工程のうち、いずれかの工程で使用することで、工程内で発生する熱を有効に利用することができ、より省エネルギーにて微細繊維状セルロースを製造することができる。
以下の本発明について、詳述する。
【0008】
〔工程1〕
工程1は、原料パルプと、反応化剤を含有する水溶液とを接触させる工程である。工程1にて使用する原料パルプおよび反応化剤について詳述する。
<原料パルプ>
原料パルプは、セルロースを含む繊維原料であり、原料パルプとしては特に限定されないが、例えば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、竹、およびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、例えば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプ原料は上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、例えば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、例えば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0009】
<反応化剤>
本実施形態において、反応化剤は、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエステル化剤、エーテル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入するエーテル化剤、またはカチオン化剤である。
エステル結合を介して原料パルプに導入されるアニオン性基としては、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)、が例示される。
エーテル結合を介して原料パルプに導入されるアニオン性基としては、ホスホン基またはホスホン基に由来する置換基、ホスフィン基またはホスフィン基に由来する置換基、スルホン基またはスルホン基に由来する置換基、カルボキシアルキル基(例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基)が例示される。
原料パルプに導入されるカチオン性基としては、例えばアンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。これら中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
反応化剤により原料パルプに導入されるイオン性基としては、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、カルボキシアルキル基、スルホン基よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、カルボキシメチル基およびカルボキシエチル基よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基、硫黄オキソ酸基であることがさらに好ましく、リンオキソ酸基であることがよりさらに好ましい。アニオン性基としてリンオキソ酸基を導入することにより、より省エネルギーで透明性に優れる微細繊維状セルロースが製造される点で好ましい。
【0010】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0011】
【0012】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはO-であり、残りはRまたはORである。なお、各αおよびα’の全てがO-であっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0013】
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0014】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、またはt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、または3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0015】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO-)、ヒドロキシ基、アミノ基およびアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、繊維状セルロースの収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0017】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO3H2)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO2H2)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
【0018】
また、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基)は、例えば下記式(2)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
【0020】
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0021】
(エステル化剤)
エステル化剤は、エステル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入する反応化剤であり、上述したように、エステル化剤により導入するアニオン性基としては、リンオキソ酸基、硫黄オキソ酸基、ザンテート基が例示される。
-リンオキソ酸基-
リンオキソ酸基を導入するエステル化剤(以下、化合物Aともいう)としては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0022】
原料パルプに対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、例えば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、原料パルプ(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。原料パルプに対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、原料パルプに対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0023】
原料パルプと化合物Aを含有する水溶液を接触させる工程は、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよく、化合物Bが存在しない状態において、原料パルプと化合物Aの反応を行ってもよい。これらの中でも、化合物Bの存在下で、原料パルプと化合物Aを含有する水溶液とを接触させることが好ましい。
化合物Bとしては、例えば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
すなわち、反応化剤としてエステル化剤を使用する場合には、エステル化剤を含む水溶液が、さらに、尿素またはその誘導体を含有することが好ましい。
【0024】
原料パルプ(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
セルロースを含む原料パルプと化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、例えばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、例えばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0026】
-硫黄オキソ酸基-
硫黄オキソ酸基を導入するエステル化剤(以下、化合物Cともいう)としては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩または亜硫酸塩としては、硫酸塩または亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0027】
(エーテル化剤)
エーテル化剤は、エーテル結合を介して原料パルプにアニオン性基を導入する反応化剤であり、上述したように、エーテル化剤により導入するアニオン性基としては、ホスホン基またはホスホン基に由来する置換基、ホスフィン基またはホスフィン基に由来する置換基、スルホン基またはスルホン基に由来する置換基、カルボキシアルキル基(例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基)が例示される。
【0028】
-ホスホン基またはホスフィン基-
ホスホン基またはホスフィン基を導入するエーテル化剤として反応性基とホスホン基またはホスフィン基とを有する化合物(化合物EA)を使用し、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを使用して、これらを原料パルプに加えて反応を行う。これにより、ホスホアルキル基が導入される。
【0029】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
エーテル化剤である化合物EAとしては、例えばビニルホスホン酸、フェニルビニルホスホン酸、フェニルビニルホスフィン酸等が挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物EAはビニルホスホン酸であることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
原料パルプは事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
化合物EAの原料パルプ100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0030】
-スルホン基-
エーテル化剤を使用して、スルホアルキル基を導入してもよい。スルホアルキル基を導入するエーテル化剤として反応性基とスルホン基とを有する化合物(化合物EB)を使用し、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを使用して、これらを原料パルプに加えて反応を行う。これにより、原料パルプにスルホアルキル基が導入される。
【0031】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
エーテル化剤である化合物EBとしては、例えば2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。中でも、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物EBはビニルスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0032】
原料パルプは事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
化合物EBの原料パルプ(乾燥質量)100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0033】
-カルボキシアルキル基-
エーテル化剤を使用して、カルボキシアルキル基を導入してもよい。
カルボキシアルキル基を導入するエーテル化剤として反応性基とカルボキシ基とを有する化合物(化合物EC)を使用し、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bをして、これらを原料パルプに加えて反応を行う。これによりパルプ原料にカルボキシアルキル基が導入される。
【0034】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
エーテル化剤である化合物ECとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0035】
原料パルプは事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
化合物ECの原料パルプ(乾燥質量)100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0036】
(カチオン化剤)
カチオン化剤を使用して、原料パルプにカチオン性基を導入してもよい。カチオン性基を導入するカチオン化剤として反応性基とカチオン性基とを有する化合物(化合物ED)を使用し、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを使用して、これらを原料パルプに加えて反応を行う。これにより、原料パルプにカチオン性基が導入される。
【0037】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
カチオン性基としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
化合物EDとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が好ましい。
さらに任意成分として、上述した化合物Bを同様に用いることも好ましい。添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0038】
原料パルプは事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
化合物EDの原料パルプ(乾燥質量)100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0039】
<工程1>
工程1においては、原料パルプと反応化剤を含有する水溶液とを接触させる。
原料パルプは、シート状またはシート状の原料パルプを裁断した形状であることが好ましい。原料パルプは、乾燥状態であってもよく、湿潤状態、またはスラリー状であってもよいが、反応の均一性に優れることから、乾燥状態または湿潤状態の原料パルプを使用することが好ましく、乾燥状態の原料パルプを使用することがより好ましい。
原料パルプを、反応化剤を含有する水溶液に浸漬させることで接触させてもよく、原料パルプに反応化剤を含有する水溶液を噴霧、または滴下することで、接触させてもよく、特に限定されない。工程2の前に、余剰の水溶液を除去することが好ましく、圧搾や濾過によって除去することが好ましい。
化合物Bを使用する場合には、反応化剤と化合物Bを水溶液の状態で原料パルプと接触させてもよく、反応化剤を含有する水溶液と、化合物Bを含有する水溶液とを同時にまたは別々に原料パルプと接触させてもよいが、反応化剤と化合物Bとを含有する水溶液を原料パルプと接触させることが、製造容易性の観点から好ましい。
なお、化合物Bは水溶液に溶解させる際に吸熱することから、化合物Bの溶解の際には、加熱することが好ましい。
【0040】
〔工程2〕
工程2は、反応化剤を含有する水溶液と接触させた原料パルプを、120℃以上の温度にて加熱し、原料パルプにイオン性基を導入する工程である。
加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、イオン性基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、120℃以上であり、好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、ドラム型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置、加熱蒸気を利用した乾燥機を用いることができる。
原料パルプにおける反応化剤の濃度ムラを抑制して、原料パルプに含まれるセルロース繊維表面へより均一にイオン性基を導入する観点から、撹拌等を行いながら加熱することが好ましい。これは、乾燥に伴い水分子が原料パルプ表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に原料パルプ表面に移動してしまう(すなわち、反応化剤の濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0041】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、例えばスラリーが保持する水分、および反応化剤と原料パルプ中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合反応等に伴って生じる水分を、常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン、具体的には、熱風乾燥装置等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸化反応を進めるとともに、リン酸エステル化の逆反応であるイオン性基、特にエステル結合により導入されたイオン性基の加水分解反応を抑制できることに加えて、原料パルプ中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0042】
加熱処理の時間は、例えば原料パルプから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、より好ましくは150分以下、さらに好ましくは60分以下、よりさらに好ましくは1000秒以下、特に好ましくは800秒以下であり、そして、より好ましくは2秒以上、さらに好ましくは3秒以上、よりさらに好ましくは5秒以上、特に好ましくは10秒以上である。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、イオン性基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0043】
なお、原料パルプにおけるイオン性基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、セルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときのセルロース繊維の質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、セルロース繊維の安定性を高めることが可能となる。
【0044】
セルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維に微細化処理を施した後に、例えば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られたセルロース繊維を含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理した後に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0045】
工程2の終了後、工程3の前に、余剰の反応試薬、副生物等を水洗、濾過により除去してもよい。工程2の終了後、工程3の前に洗浄工程、アルカリ処理工程、および酸処理工程よりなる群から選択される少なくとも1つの工程を有していることが好ましく、少なくとも洗浄工程を有することがより好ましい。
<洗浄工程>
イオン性基が導入された原料パルプ(以下、「イオン性基導入パルプ」ともいう)に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、例えば水や有機溶媒によりイオン性基導入パルプを洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
なお、洗浄工程において使用される水や有機溶媒は、洗浄効率を向上させる観点から、加熱することが好ましい。
【0046】
<アルカリ処理工程>
工程2と、工程3との間に、アルカリ処理工程を設けてもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、イオン性基導入パルプを浸漬する方法が挙げられる。
【0047】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0048】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性基導入パルプのアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、例えばイオン性基導入パルプの絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、工程2の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性基導入パルプを水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって工程3の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性基導入パルプを水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0050】
<酸処理工程>
工程2と、工程3との間に、酸処理工程を設けてもよい。例えば、工程2、酸処理工程、アルカリ処理工程および工程3をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、例えば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、例えば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、例えば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0051】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
〔工程3〕
工程3は、イオン性基が導入された原料パルプ(イオン性基導入パルプ)を微細化する工程である。
工程3においては、例えば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、例えば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
【0053】
工程3は、上述の解繊処理装置を用いて、1段で行ってもよく、粗解繊工程と、微解繊工程とを行う2段階であってもよい。
2段階にて工程3を行う場合には、粗解繊工程では、リファイナーを用いて解繊を行うことが好ましく、リファイナーは、イオン性基導入パルプに対して予備的な解繊を行う。リファイナーは、イオン性基導入パルプを叩解する装置であり、負荷をかけながら叩解することでイオン性基導入パルプに対して剪断力を付与し、原料パルプに毛羽立ちを生させ、繊維を柔軟にすることで予備的な解繊を行う。
【0054】
リファイナーとしては、イオン性基導入パルプを叩解することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、パルプ繊維に対して効率的に剪断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)、シングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。
【0055】
微解繊工程では、高圧ホモジナイザーを使用することが好ましい。高圧ホモジナイザーは、スラリー中のパルプ繊維を微細化するものであり、細孔から高圧でスラリー等を吐出する分散機として用いられる。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーをいう。イオン性基導入パルプに対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数を低減(短縮化)でき、微細繊維状セルロースの製造効率をより高めることができる。
【0056】
解繊処理工程においては、例えばイオン性基導入パルプを、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0057】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。
また、イオン性基導入パルプに分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性基導入パルプ以外の固形分が含まれていてもよい。
【0058】
<微細繊維状セルロース>
本実施形態の製造方法により得られる微細繊維状セルロースは、繊維幅が1,000nm以下である繊維状セルロースである。なお、繊維状セルロースの繊維幅は、例えば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
細繊維状セルロースの繊維幅は、1,000nm以下である。微細繊維状セルロースの繊維幅は、例えば2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。
【0059】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば1,000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、例えば単繊維状のセルロースである。
【0060】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1,000倍、5,000倍、10,000倍あるいは50,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0061】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0062】
微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、例えば0.1μm以上1,000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、例えばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0063】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、例えば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0064】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、例えば20以上10,000以下であることが好ましく、50以上1,000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、例えば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0065】
本実施形態の微細繊維状セルロースの製造方法において、原料パルプにイオン性基を導入する工程(工程2)で使用した熱を、いずれかの製造工程にて使用する。
工程2で使用した熱を、そのままいずれかの製造工程で使用してもよく、水または気体により除熱し、除熱により温められた水または気体を使用してもよい。
本実施形態の製造方法は、工程2で使用した熱を、水を用いて除熱する工程、または気体を用いて除熱する工程を有することが好ましい。
より具体的には、本実施形態においては熱交換器(除熱手段)に、上記工程2で使用した加熱気体と、水または気体とが供給される。熱交換器に供給された加熱気体は、水または気体との熱交換によって冷却される一方、熱交換器に供給された水または気体は、工程2で使用した加熱気体との熱交換によって加熱される。
なお、工程2で使用した加熱気体そのものを使用してもよいが、工程2において、化合物Bに由来するアンモニア等が加熱気体に含まれるため、工程2で使用した加熱気体をそのまま使用するのではなく、熱交換器により水または気体を加熱し、該加熱された水または気体を使用することが好ましい。
なお、熱交換器としては、従来公知のものを適宜採用することができ、二重管熱交換器、多管熱交換器、スパイラル式熱交換器等の種々のものを採用することができる。
【0066】
本実施形態において、除熱により加熱された水または気体は、微細繊維状セルロースのいずれの工程に使用してもよいが、以下のいずれかの工程で使用することが好ましい。
1.原料パルプにイオン性基を導入する工程後の水洗工程で使用する水を加熱する
水洗工程で使用する水を加熱することにより、より効率的に不純物等を除去することができる。なお、熱交換器により加熱された水そのものを、水洗工程で使用する水として使用してもよい。
2.原料パルプにイオン性基を導入する工程で使用する気体を加熱する
工程2で使用した熱を、熱交換器を介して、再度工程2で使用することにより、より少ないエネルギーで微細繊維状セルロースを製造可能である。
3.反応化剤を含有する水溶液の調製において、反応化剤を含有する水溶液を加熱する
反応化剤がエステル化剤であり、エステル化剤とともに、上述した化合物Bを使用する場合に、化合物Bを含有する水溶液を加熱することが有効である。上述したように、化合物Bを水に溶解させる反応は、吸熱反応であるため、化合物Bを溶解させる場合には、水溶液を加熱することが好ましく、当該化合物Bを含有する水溶液の調製に、工程2で使用した熱を利用することで、より省エネルギーで微細繊維状セルロースを製造することができる。
4.得られた微細繊維状セルロースを加熱する
得られた微細繊維状セルロースを加熱する場合として、例えば、以下の(1)~(5)が例示される。
(1)反応化剤がエステル化剤である場合、微細繊維状セルロースの加熱により、エステル基の脱離が可能であり、微細繊維状セルロースに導入されたイオン性基を低減させることが可能となり、イオン性基量が低減された微細繊維状セルロースを製造することができる。
(2)国際公開第2020/080393号に記載されているように、得られた微細繊維状セルロースの低チクソトロピー化、低重合度化を目的として、酵素処理する際の加熱や、その後の酵素の失活を目的とした加熱に使用することができる。
(3)微細繊維状セルロースは、スラリー状で得られるが、該スラリーの高濃度化を目的として、水分を除去するための加熱に使用することができる。
(4)微細繊維状セルロースからなるシートや、該微細繊維状セルロースと樹脂成分とを含むシートを形成するに際して、該微細繊維状セルロースおよび任意に樹脂成分を含むスラリーを乾燥する工程における加熱に使用することができる。
(5)微細繊維状セルロースのスラリーに、必要に応じて種々の添加剤を配合する際に、微細繊維状セルロースのスラリーの粘度低下や、添加剤の溶解性の向上等を目的として加熱に使用することができる。なお、添加剤としては、防腐剤、紫外線防止剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、樹脂(例えば、親水性樹脂であるポリビニルアルコールや、樹脂エマルションなど)が例示される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本実施形態の微細繊維状セルロースの製造方法によれば、より省エネルギーで微細繊維状セルロースを製造することができる。