(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145179
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 1/00 20060101AFI20241004BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20241004BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20241004BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20241004BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20241004BHJP
C08B 5/00 20060101ALI20241004BHJP
C08B 11/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08B1/00
D21H11/18
D21H11/20
D21H15/02
C08B15/04
C08B5/00
C08B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057435
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 ▲祥▼行
(72)【発明者】
【氏名】松原 悠介
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA05
4C090AA06
4C090BA27
4C090BA29
4C090BA34
4C090BB63
4C090BB64
4C090BB95
4C090BB96
4C090BC01
4C090BD19
4C090BD34
4C090CA01
4C090CA34
4C090CA36
4C090CA38
4C090CA47
4L055AA02
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF44
4L055AF46
4L055AG06
4L055BA03
4L055BA12
4L055BB02
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA25
4L055FA23
(57)【要約】
【課題】品質の変化が抑制された微細繊維状セルロースの製造方法を提供すること。
【解決手段】セルロース繊維に化学変性を行い、化学変性セルロースを得る反応工程と、前記化学変性セルロースの分散液の脱水・洗浄を行う脱水・洗浄工程と、前記化学変性セルロースの分散液濃度を調整する調整工程と、前記化学変性セルロースの分散液に機械的せん断力を加えて解繊する解繊工程とを含む微細繊維状セルロースの製造方法において、前記化学変性セルロースの分散液の少なくともいずれかの工程での移送にサインポンプを使用する、微細繊維状セルロースの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維に化学変性を行い、化学変性セルロースを得る反応工程と、
前記化学変性セルロースの分散液の脱水・洗浄を行う脱水・洗浄工程と、
前記化学変性セルロースの分散液濃度を調整する調整工程と、
前記化学変性セルロースの分散液に機械的せん断力を加えて解繊する解繊工程と
を含む微細繊維状セルロースの製造方法において、
前記化学変性セルロースの分散液の少なくともいずれかの工程での移送にサインポンプを使用する、
微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程が、セルロース繊維にイオン性基を導入する工程である、請求項1に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記イオン性基が、アニオン性基である、請求項2に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項4】
前記アニオン性基が、リンオキソ酸基、硫黄オキソ酸基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項5】
前記アニオン性基が、リンオキソ酸基である、請求項3に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を繊維幅が1000nm以下まで解繊することで得られる微細繊維状セルロースは、強度、弾性、熱安定性等に優れており、樹脂やゴムの配合用充填剤としての工業的な用途に使用されている。また、微細繊維状セルロースの水分散液は、粘度調整剤、安定化剤等に使用されている。
微細繊維状セルロースは、パルプ繊維を機械的な処理によって解繊することにより得ることができる。その際、パルプ繊維にイオン性基を導入後に解繊することで、機械的な処理に必要なエネルギーを効率的に低下させることができるとされている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-1728号公報
【特許文献2】特開2010-235679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に記載されている製造方法を含め、様々な微細繊維状セルロースの製造方法をスケールアップした場合、化学変性したセルロースや、微細繊維状セルロースの粘度が変化するなど、予期しない品質の変化が生じる場合があった。
そこで、本発明は、品質の変化が抑制された微細繊維状セルロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1] セルロース繊維に化学変性を行い、化学変性セルロースを得る反応工程と、前記化学変性セルロースの分散液の脱水・洗浄を行う脱水・洗浄工程と、前記化学変性セルロースの分散液濃度を調整する調整工程と、前記化学変性セルロースの分散液に機械的せん断力を加えて解繊する解繊工程とを含む微細繊維状セルロースの製造方法において、前記化学変性セルロースの分散液の少なくともいずれかの工程での移送にサインポンプを使用する、微細繊維状セルロースの製造方法。
[2] 前記反応工程が、セルロース繊維にイオン性基を導入する工程である、[1]に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
[3] 前記イオン性基が、アニオン性基である、[2]に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
[4] 前記アニオン性基が、リンオキソ酸基、硫黄オキソ酸基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1つである、[3]に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
[5] 前記アニオン性基が、リンオキソ酸基である、[3]に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、品質の変化が抑制された微細繊維状セルロースの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[微細繊維状セルロースの製造方法]
本実施形態の微細繊維状セルロースの製造方法は、セルロース繊維に化学変性を行い、化学変性セルロースを得る反応工程と、前記化学変性セルロースの分散液の脱水・洗浄を行う脱水・洗浄工程と、前記化学変性セルロースの分散液濃度を調整する調整工程と、前記化学変性セルロースの分散液に機械的せん断力を加えて解繊する解繊工程とを含み、前記化学変性セルロースの分散液の少なくともいずれかの工程での移送にサインポンプを使用する。
【0009】
〔サインポンプ〕
サインポンプは、ロータ(回転羽根)に正弦波形状のロータを用いた容積式ポンプである。単一の正弦波形状のロータが回転すると同時に、等体積の4つのチャンバが作られ、送液される流体は、吸込口を通って各チャンバに順番に引き込まれ、チャンバは回転しながら流体を吐出口へと排出する。また、吐出に伴い、チャンバに次の流体を吸い込むため、脈動が抑制される。
サインポンプは、微細繊維状セルロースの製造工程の中において、原材料となるパルプ繊維にイオン性基等を導入する等の化学変性を行う工程における循環や変性後の反応液スラリーの送液、洗浄した反応液スラリーの送液、また、化学変性パルプに高せん断をかけてナノ分散することにより得られる高粘度の微細繊維状セルローススラリーに使用することができる。
【0010】
ポンプは、おもにターボ型(非容積式)ポンプと容積式ポンプに大別される。ターボ型ポンプには渦巻きポンプやディフューザポンプのような遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどがある。容積式ポンプにはピストンポンプやプランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復ポンプ、また、ギヤポンプやベーンポンプ、ネジポンプが該当する。
サインポンプは、容積式に大別されるが、上述したように、正弦波形状を有するロータとステータの間に生じる空間を連続的に移動させて流体を移送するポンプである。
この種のポンプは、羽根車をケーシング内で高速回転させることにより流体に運動エネルギーを与えるターボ型(非容積式)ポンプと比較して、流体に与えるせん断力が小さいことと、ロータとステータの間の漏れがきわめて少ないことから揚程が高く、比較的粘度の高い流体の送液が可能なことが特徴である。
【0011】
サインポンプによる移送時の流量は、サインポンプのサイズにより大きく左右されるものであり、特に限定されない。所望の流量に応じて、適宜使用するサインポンプのサイズを選択することにより、流体に与えるせん断力を低く抑えつつ、製造工程に応じた流量を得ることが可能である。
以下、各工程について詳述する。
【0012】
〔反応工程〕
反応工程は、セルロース繊維に化学変性を行い、化学変性セルロースを得る工程である。
本発明において、原料であるセルロース繊維とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、原料であるセルロース繊維としては特に限定されないが、例えば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、竹、およびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、例えば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプ原料は上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記原料となるセルロース繊維の中でも、入手のしやすさという観点からは、例えば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、例えば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0013】
本発明において、シート状のセルロース原料を用いる場合、0.5~5cm角程度の大きさに粗砕することが好ましい。前記大きさに粗砕することにより、効率的、かつ均一に次の反応工程おいて、セルロース原料を変性することができる。なお、粗砕する方法は特に限定されるものではないが、一軸回転せん断式粉砕機、二軸回転せん断式粉砕機、多軸スクリュー式粉砕機、シュレッダー、ギロチンカッターなどを使用することができる。これらの中でも一軸回転せん断式粉砕機、シュレッダーを使用することが粗砕の観点から好ましい。
【0014】
セルロース繊維に化学変性を行い、化学変性セルロースを得る。化学変性は、イオン性基(イオン性置換基)を導入することにより行われることが好ましい。すなわち、反応工程は、セルロース繊維にイオン性基を導入する工程であることが好ましい。イオン性基としては、例えばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。本実施形態においては、イオン性基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。また、イオン性基は、エステル結合またはエーテル結合を介してセルロース繊維に導入される基であることが好ましく、エステル結合を介してセルロース繊維に導入される基であることがより好ましい。この場合、エステル結合は、セルロース繊維とイオン性基となる化合物の脱水縮合で形成されることが好ましい。
【0015】
イオン性基としてのアニオン性基としては、例えばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)、ザンテート基またはザンテート基に由来する置換基(単にザンテート基ということもある)、ホスホン基またはホスホン基に由来する置換基、ホスフィン基またはホスフィン基に由来する置換基、スルホン基またはスルホン基に由来する置換基、カルボキシアルキル基等を挙げることができる。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、スルホン基よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、硫黄オキソ酸基、および硫黄オキソ酸基に由来する置換基よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。アニオン性基としてリンオキソ酸基を導入することにより、より少ないエネルギーで解繊が可能である。
イオン性基としてのカチオン性基としては、例えばアンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
【0016】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
【0018】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはO-であり、残りはRまたはORである。なお、各αおよびα’の全てがO-であっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0019】
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0020】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、またはt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、または3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0021】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO-)、ヒドロキシ基、アミノ基およびアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、繊維状セルロースの収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0023】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO3H2)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO2H2)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
【0024】
また、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基)は、例えば下記式(2)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
【0026】
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0027】
セルロース繊維に対するイオン性基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、セルロース繊維に対するイオン性基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.50mmol/g以下であることが一層好ましく、2.00mmol/g以下であることがより一層好ましく、1.50mmol/g以下であることがさらに一層好ましく、1.00mmol/g以下であることが特に好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性基の対イオンが水素イオン(H+)であるときのセルロース繊維の質量を示す。イオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、セルロース繊維の安定性を高めることが可能となる。
【0028】
セルロース繊維に対するイオン性基の導入量は、セルロース繊維に微細化処理を施した後に、例えば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られたセルロース繊維を含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0029】
図1は、リンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロース分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロース繊維に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、対象となるセルロース繊維にイオン交換水を添加し、固形分濃度が0.2質量%のスラリーを調製する。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(スラリー)を得る。そして、微細繊維状セルロース分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。
図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、
図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、
図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0030】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
【0031】
図2は、イオン性基としてカルボキシ基を有する微細繊維状セルロース分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、対象となるセルロース繊維にイオン交換水を添加し、固形分濃度が0.2質量%のスラリーを調製する。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(スラリー)を得る。そして、微細繊維状セルロース分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。
図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、
図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、
図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の繊維状セルロースを含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
【0032】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
【0033】
滴定法によるイオン性基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5秒間以上30秒間以下に10μL以上50μL以下ずつ滴定するなどが望ましい。また、微細繊維状セルロース分散液に溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0034】
また、繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基・スルホン基の導入量は、得られた繊維状セルロースを過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定する。
この硫黄量を、供試した繊維状セルロースの絶乾質量で除した値を硫黄オキソ酸基・スルホン基量(単位:mmol/g)とする。
【0035】
上述のようなイオン性基を導入した化学変性セルロースを得るためには、上述したセルロースを含む繊維原料(セルロース繊維)にイオン性基を導入するイオン性基導入工程を有することが好ましく、イオン性基導入工程としては、リンオキソ酸基導入工程、カルボキシ基導入工程、硫黄オキソ酸基導入工程、ザンテート基導入工程、ホスホン基またはホスフィン基導入工程、およびスルホン基導入工程、カチオン性基導入工程が例示される。以下、それぞれについて説明する。
【0036】
<リンオキソ酸基導入工程>
イオン性基を有する化学変性セルロースを得る際には、解繊工程の前にイオン性基を導入する反応工程を設けることが好ましい。反応工程としては、例えば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロース繊維が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、原料であるセルロース繊維に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基を有するセルロース繊維(化学変性セルロース)が得られることとなる。
【0037】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロース繊維と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを繊維と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0038】
化合物Aを化合物Bとの共存下でセルロース繊維に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状のセルロース繊維に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維を用いることが好ましく、特に乾燥状態のセルロース繊維を用いることが好ましい。セルロース繊維の形態は、特に限定されないが、例えば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bはセルロース繊維に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、セルロース繊維を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、セルロース繊維に溶液を滴下してもよく、噴霧してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bをセルロース繊維に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれセルロース繊維に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0039】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0040】
セルロース繊維に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、例えば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、セルロース繊維(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0041】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、例えば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0042】
セルロース繊維(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、例えばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、例えばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0044】
リンオキソ酸基導入工程においては、セルロース繊維に化合物A等を添加または混合した後、当該セルロース繊維に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0045】
本実施形態に係る加熱処理においては、例えば薄いシート状のセルロース繊維に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等でセルロース繊維と化合物Aを混練または撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、セルロース繊維における化合物Aの濃度ムラを抑制して、セルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子がセルロース繊維表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様にセルロース繊維表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0046】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、例えばスラリーが保持する水分、および化合物Aとセルロース繊維中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、セルロース繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0047】
加熱処理の時間は、例えばセルロース繊維から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0048】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
【0049】
セルロース繊維に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、セルロース繊維に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化処理工程におけるセルロース繊維の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0050】
<カルボキシ基導入工程>
イオン性基導入工程としては、カルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロース繊維に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0051】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、例えばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0052】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0053】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、例えばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、セルロース繊維と、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、例えばセルロース繊維に対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0054】
セルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、例えばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、セルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましく、2.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.00mmol/g以下であることが一層より好ましく、1.50mmol/g以下であることがより一層さらに好ましく、1.00mmol/g以下であることが特に好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシ基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化処理工程におけるセルロース繊維の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0055】
<スルホン基導入工程>
イオン性基導入工程としては、スルホン基導入工程を含んでもよい。スルホン基導入工程は、セルロース繊維が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、スルホン基を有するセルロース繊維(スルホン基導入繊維)を得ることができる。
【0056】
スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロース繊維が有する水酸基と反応することで、スルホン基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩または亜硫酸塩としては、硫酸塩または亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。スルホン基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0057】
スルホン基導入工程においては、セルロース繊維に硫黄オキソ酸、並びに、尿素および/または尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース繊維に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、スルホン基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0058】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース繊維に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、並びに、尿素および/または尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0059】
セルロース繊維に対するスルホン基の導入量は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.50mmol/g以上であることが特に好ましい。また、セルロース繊維に対するスルホン基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。スルホン基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化処理工程におけるセルロース繊維の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0060】
<塩素系酸化剤による酸化工程(第二のカルボキシ基導入工程)>
イオン性基導入工程としては、塩素系酸化剤による酸化工程を含んでもよい。塩素系酸化剤による酸化工程では、塩素系酸化剤を湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有するセルロース繊維に加えて反応を行うことで、セルロース繊維にカルボキシ基が導入される。
【0061】
塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩素酸、亜塩素酸塩、塩素酸、塩素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、二酸化塩素などが挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から、塩素系酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素であることが好ましい。塩素系酸化剤を添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。
【0062】
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤の溶液中濃度は、例えば有効塩素濃度に換算して、1質量%以上1,000質量%以下であることが好ましく、5質量%以上500質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。塩素系酸化剤のセルロース繊維100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上5,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0063】
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤との反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。反応時のpHは、5以上15以下であることが好ましく、7以上14以下であることがより好ましく、9以上13以下であることがさらに好ましい。また、反応開始時、反応中のpHは塩酸や水酸化ナトリウムを適宜添加しながら一定(例えば、pH11)を保つことが好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0064】
<ザンテート基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、反応工程として、ザンテート基導入工程を含んでもよい。ザンテート基導入工程は、セルロース繊維が有する水酸基を下記式(3)で表されるザンテート基で置換することで、ザンテート基を有するセルロース繊維(ザンテート基導入繊維)を得ることができる。
-OCSS-M+……(3)
ここで、M+は水素イオン、1価金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族または芳香族アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種である。
【0065】
ザンテート基導入工程では、まず、上記セルロース繊維をアルカリ溶液で処理するアルカリ処理を行って、アルカリセルロースを得る。アルカリ溶液としては、水酸化アルカリ金属水溶液、水酸化アルカリ土類金属水溶液などが挙げられる。中でも、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることが特に好ましい。アルカリ溶液が水酸化アルカリ金属水溶液の場合、水酸化アルカリ金属水溶液中の水酸化アルカリ金属濃度は4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、水酸化アルカリ金属水溶液中の水酸化アルカリ金属濃度は9質量%以下であることが好ましい。水酸化アルカリ金属濃度を上記下限値以上とすることにより、セルロースのマーセル化を十分に進行させることができ、その後のザンテート化の際に生じる副生成物の量を減らすことができ、結果として、ザンテート基導入繊維の収率を高めることができる。これにより、後述する解繊処理をより効果的に行うことができる。また、水酸化アルカリ金属濃度を上記上限値以下とすることにより、マーセル化を進行させつつも、セルロースの結晶領域にまで水酸化アルカリ金属水溶液が浸透することを抑制することができるため、セルロースI型の結晶構造が維持されやすくなり、微細繊維状セルロースの収率をより高めることができる。
【0066】
上記アルカリ処理の時間は、30分間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。また、アルカリ処理の時間は、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。アルカリ処理の時間を上記範囲内とすることにより、最終的な収率を高めることができ、生産性を高めることができる。
【0067】
上記アルカリ処理で得られたアルカリセルロースは、その後に固液分離して水溶液分をできるだけ除去しておくことが好ましい。これにより、次いで行われるザンテート化処理時の水分含有量を減らすことができ、反応を促進できる。固液分離の方法としては、例えば遠心分離や濾別などの一般的な脱水方法を用いることができる。なお、固液分離後のアルカリセルロースに含まれる水酸化アルカリ金属の濃度は固液分離後のアルカリセルロースの全質量に対して3質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0068】
ザンテート基導入工程では、アルカリ処理の後にザンテート化処理工程を行う。ザンテート化処理工程ではアルカリセルロースに二硫化炭素(CS2)を反応させて、(-O-Na+)基を(-OCSS-Na+)基にしてザンテート基導入繊維を得る。なお、上記において、アルカリセルロースに導入された金属イオンは、代表してNa+で記述しているが、他のアルカリ金属イオンでも同様の反応が進行する。
【0069】
ザンテート化処理では、アルカリセルロース中のセルロースの絶乾質量に対して、10質量%以上の二硫化炭素を供給することが好ましい。また、ザンテート化処理において、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間は、30分以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。アルカリセルロースに二硫化炭素が接触することでザンテート化は速やかに進行するが、アルカリセルロースの内部にまで二硫化炭素が浸透するには時間がかかるため、反応時間を上記範囲とすることが好ましい。一方で、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間は6時間以下であればよく、これにより脱水後のアルカリセルロースの塊に対しても十分に浸透が進んで、反応可能なザンテート化をほぼ完了させることができる。
【0070】
ザンテート化処理における反応温度は、46℃以下であることが好ましい。反応温度を上記範囲内とすることにより、アルカリセルロースの分解を抑制し易くなる。また、反応温度を上記範囲内とすることにより、均一に反応し易くなるため、副生成物の生成を抑制でき、さらには、生成したザンテート基の除去を抑制することもできる。
【0071】
ザンテート基導入工程におけるザンテート基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.60mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましく、0.80mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが一層好ましく、1.20mmol/g以上であることが特に好ましい。また、ザンテート基の導入量は、例えばセルロース繊維1g(質量)あたり5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。ザンテート基の導入量を上記範囲内とすることにより、解繊性に優れると共に、透明性に優れた微細繊維状セルロースが得られる。
【0072】
<ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)>
イオン性基導入工程としては、ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)を含んでもよい。ホスホアルキル化工程では、必須成分として、反応性基とホスホン基またはホスフィン基とを有する化合物(化合物EA)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、セルロース繊維にホスホン基またはホスフィン基が導入される。
【0073】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物EAとしては、例えばビニルホスホン酸、フェニルビニルホスホン酸、フェニルビニルホスフィン酸等が挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物EAはビニルホスホン酸であることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0074】
化合物EAを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのままセルロース繊維に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。セルロース繊維は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0075】
反応時の温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0076】
化合物EAのセルロース繊維100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0077】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0078】
<スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)(第二のスルホン基導入工程)>
イオン性基導入工程としては、スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)を含んでもよい。スルホアルキル化では、必須成分として、反応性基とスルホン基とを有する化合物(化合物EB)と、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有するセルロース繊維に加えて反応を行うことで、セルロース繊維にスルホン基が導入される。
【0079】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物EBとしては、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。中でも、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物EBはビニルスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0080】
化合物EBを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのままセルロース繊維に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。セルロース繊維は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0081】
反応時の温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0082】
化合物EBのセルロース繊維100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0083】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、15分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0084】
<カルボキシアルキル化工程(第三のカルボキシ基導入工程)>
反応工程としては、カルボキシアルキル化工程を含んでもよい。必須成分として、反応性基とカルボキシ基とを有する化合物(化合物EC)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有するセルロース繊維に加えて反応を行うことで、セルロース繊維にカルボキシ基が導入される。
【0085】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物ECとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0086】
化合物ECを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのままセルロース繊維に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。セルロース繊維は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0087】
反応時の温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0088】
化合物ECのセルロース繊維100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0089】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、3分間以上500分間以下であることがより好ましく、5分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0090】
<カチオン性基導入工程(カチオン化工程)>
必須成分として、反応性基とカチオン性基とを有する化合物(化合物ED)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有するセルロース繊維に加えて反応を行うことで、セルロース繊維にカチオン性基が導入される。
【0091】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
カチオン性基としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
化合物EDとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましい。添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0092】
化合物EDを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのままセルロース繊維に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。セルロース繊維は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0093】
反応時の温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0094】
化合物EDのセルロース繊維100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0095】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、例えば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、5分間以上500分間以下であることがより好ましく、10分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0096】
上述のような反応工程の後、脱水・洗浄工程、アルカリ処理工程(中和工程)、解繊処理工程をこの順で有することが好ましく、洗浄工程に加えて、酸処理工程を有していてもよい。
〔脱水・洗浄工程〕
脱水・洗浄工程は、得られた化学変性セルロースの分散液を、脱水処理後に水や有機溶媒で洗浄する工程であり、この工程は、不純物が少ない微細繊維状セルロースを得るために必須の工程である。洗浄は、水で行われることが好ましい。
また、脱水・洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
この工程では、遠心分離式、真空脱水式、加圧脱水式のタイプの脱水装置を使用することができる。具体的には、遠心分離式:(タナベウィルテック製遠心分離機、コクサン製遠心分離機など)、真空脱水式:ドラム型真空脱水機、月島機械製水平ベルトフィルター、加圧脱水式:フィルタープレス、チューブプレス、スクリュープレス、ベルトプレス水平ベルトフィルター、ポリディスクフィルター、振動スクリーンなどを挙げることができる。これらの中でも脱水原料に強いせん断力を加えることなく脱水を行うことができるため、加圧脱水式(フィルタープレス、チューブプレス)、遠心分離式(タナベウィルテック製遠心分離機、コクサン製遠心分離機など)、真空脱水式(ドラム型真空脱水機、月島機械製水平ベルトフィルター)が好ましい。また、これらの複数を組み合わせて使用することもできる。
【0097】
なお、上記脱水・洗浄工程と、後述する調製工程の間に、アルカリ処理工程、酸処理工程を有していてもよく、また、アルカリ処理工程、酸処理工程の前後に、上記脱水・洗浄工程を有していてもよい。
<アルカリ処理工程>
反応工程と、調整工程との間に、アルカリ処理工程を設けてもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、化学変性セルロース、好ましくはイオン性基が導入された化学変性セルロース(イオン性基導入セルロース)を浸漬する方法が挙げられる。
【0098】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0099】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程における化学変性セルロースのアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば化学変性セルロースの絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0100】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、反応工程の後であってアルカリ処理工程の前に、化学変性セルロースを水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行った化学変性セルロースを水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0101】
<酸処理工程>
反応工程では、イオン性基を導入する工程と、調整工程との間に、酸処理工程を設けてもよい。例えば、反応工程、酸処理、アルカリ処理および解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0102】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば酸を含有する酸性液中に化学変性セルロースを浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、例えば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、例えば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、例えば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0103】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば化学変性セルロースの絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0104】
〔調整工程〕
本実施形態において、次の解繊工程を効率よく行うために、化学変性セルロースの分散液の濃度を調整する。
調整工程においては、例えば化学変性セルロースを、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
これらの中でも、水を使用することが好ましい。
【0105】
調整工程におけるの化学変性セルロースの分散液の固形分濃度は適宜設定できる。
化学変性セルロースの分散液の固形分濃度としては、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。化学変性セルロースの分散液としての固形分濃度はより好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。固形分濃度が低過ぎると、処理する化学変性セルロースの量に対して液量が多くなり過ぎ効率が悪く、固形分濃度が高過ぎると流動性が悪くなる。
また、化学変性セルロースの分散液中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性基導入パルプ以外の固形分が含まれていてもよい。
【0106】
〔解繊工程〕
本実施形態において、解繊工程は、化学変性セルロースの分散液に機械的せん断力を加えて、化学変性セルロースを解繊する工程である。
解繊工程においては、例えば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、例えば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
【0107】
解繊工程は、上述の解繊処理装置を用いて、1段で行ってもよく、粗解繊工程と、微解繊工程とを行う2段階であってもよい。
2段階にて解繊工程を行う場合には、粗解繊工程では、リファイナーを用いて解繊を行うことが好ましく、リファイナーは、化学変性セルロースに対して予備的な解繊を行う。リファイナーは、化学変性セルロースを叩解する装置であり、負荷をかけながら叩解することで化学変性セルロースに対してせん断力を付与し、化学変性セルロースに毛羽立ちを生させ、繊維を柔軟にすることで予備的な解繊を行う。
【0108】
リファイナーとしては、化学変性セルロースを叩解することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、化学変性セルロースに対して効率的にせん断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)、シングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。
【0109】
微解繊工程では、高圧ホモジナイザーを使用することが好ましい。高圧ホモジナイザーは、スラリー中の化学変性セルロースを微細化するものであり、細孔から高圧でスラリー等を吐出する分散機として用いられる。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーをいう。イオン性基導入パルプに対して高圧ホモジナイザーで処理することで、化学変性セルロースの繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数を低減(短縮化)でき、微細繊維状セルロースの製造効率をより高めることができる。
【0110】
<微細繊維状セルロース>
本実施形態の製造方法により得られる微細繊維状セルロースは、繊維幅が1,000nm以下である繊維状セルロースである。なお、繊維状セルロースの繊維幅は、例えば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
微細繊維状セルロースの繊維幅は、1,000nm以下である。微細繊維状セルロースの繊維幅は、例えば2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。
【0111】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば1,000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、例えば単繊維状のセルロースである。
【0112】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1,000倍、5,000倍、10,000倍あるいは50,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0113】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0114】
微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、例えば0.1μm以上1,000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、例えばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0115】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、例えば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0116】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、例えば20以上10,000以下であることが好ましく、50以上1,000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、例えば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0117】
本実施形態では、化学変性セルロースの分散液の移送に、前述したサインポンプを使用する。サインポンプの使用は、化学変性セルロースの分散液を脱水・洗浄工程で移送する際に使用してもよく、上述したアルカリ処理工程や酸処理工程での移送に使用してもよい。
また、洗浄後の化学変性セルロースの分散液の濃度を調整する調整工程において、解繊工程に使用する化学変性セルロースの分散液を貯蔵するタンクへの移送に使用してもよく、また、当該タンクから解繊機への移送に使用してもよく、解繊機で解繊された化学変性セルロースの分散液の移送に使用してもよく、特に限定されない。
これらの中でも特に、脱水・洗浄工程での移送、および解繊工程での移送に使用することが好ましい。解繊工程での移送の中でも、特に化学変性セルロースの分散液または微細繊維状セルロースの分散液を解繊機に移送する際に使用することが好ましい。なお、解繊機での処理は複数回行う場合があり、1回目の処理の際には、化学変性セルロースの分散液の解繊機への移送となるが、2回目以降の処理の際には、当該分散液は、解繊された微細繊維状セルロースと、未解繊または部分的に解繊された化学変性セルロースとを含む。
【実施例0118】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0119】
原料であるセルロース繊維として、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。
【0120】
このセルロース繊維に対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記セルロース繊維100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、セルロース繊維にリン酸基を導入し、化学変性セルロースであるリン酸化パルプを得た。
【0121】
次いで、得られた化学変性セルロース(リン酸化パルプ)に対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ400g(絶乾質量)に対して20Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、Watoson-Marlow株式会社製サインポンプSPS型にて、流量10L/minの速度で真空脱水装置に送液し、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。
【0122】
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプに濃度1.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液を15L注いだ後、脱水し、再度イオン交換水30Lを投入および脱水し、余剰の水酸化ナトリウムを洗い流し中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
【0123】
得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.6mmol/gだった。
【0124】
<実施例1>
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した(調整工程)。10L容量のホッパーにスラリーを入れ、Watoson-Marlow株式会社製サインポンプSPS型で吐出圧が0.4MPa以上となるよう流速を調整して、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)に送液した。湿式微粒化装置の圧力は200MPaに設定して2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液1を得た。湿式微粒化装置の処理速度は30L/hであった。後述する〔0.4質量%微細繊維状セルロース分散液の粘度の測定〕に記載の測定方法で測定される粘度は、33,000mPa・sであった。
【0125】
<比較例1>
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した(調整工程)。10L容量のホッパーにスラリーを入れ、伏虎金属工業株式会社製二軸スクリューポンプSQ型で吐出圧が0.4MPa以上となるよう流速を調整して、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)に送液した。湿式微粒化装置の圧力は200MPaに設定して2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液2を得た。湿式微粒化装置の処理速度は30L/hであった。後述する〔0.4質量%微細繊維状セルロース分散液の粘度の測定〕に記載の測定方法で測定される粘度は、27,000mPa・sであった。
【0126】
<測定>
〔リンオキソ酸基量の測定〕
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(
図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(mmol/g)とした。
【0127】
〔0.4質量%微細繊維状セルロース分散液の粘度の測定〕
実施例1および比較例1で得た微細繊維状セルロース分散液の粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて4000rpmで5分間撹拌した。得られた分散液を、自転公転型スーパーミキサー(株式会社シンキー製、ARE-250)にて脱泡処理を行った。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。
【0128】
実施例および比較例の結果から、移送にサインポンプを使用した実施例1では、粘度が33,000mPa・sであったのに対し、移送に二軸スクリューポンプを使用した比較例1では、粘度が27,000mPa・sであった。
上記比較例1における粘度の低下は、予期せぬ微細化のために、粘度の低下が生じたと考えられ、比較例1では、品質が変化しているといえる。すなわち、サインポンプを使用することにより、予期せぬ品質の変化が抑制されたことが分かる。
移送にサインポンプを使用した実施例1では、移送に二軸スクリューポンプを使用した比較例1に比べて、品質の変化が抑制されており、より高品質の微細繊維状セルロースが製造できた。