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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145204
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】油脂含有麺の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20241004BHJP
   A23L 7/113 20160101ALI20241004BHJP
【FI】
A23L7/109 B
A23L7/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057461
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】眞田 康平
(72)【発明者】
【氏名】松元 良太
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA01
4B046LA05
4B046LB08
4B046LC01
4B046LC20
4B046LE02
4B046LG02
4B046LG04
4B046LG11
4B046LG29
4B046LP03
4B046LP14
4B046LQ06
(57)【要約】
【課題】麺中に油脂を多く添加した場合であっても、製麺性や食感が良好な油脂含有麺類の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】原料粉に加水して一定時間混捏した後に油脂を添加することによって、生地の水和やグルテン形成を油脂に阻害されることなく進めることができ、製麺性や食感が良好な油脂含有麺類が得られる。油脂の添加量としては、主原料粉1kgに対して30~140ml添加することが好ましく、添加の時期としては混捏開始後3~12分後の間に添加することが好ましい。また、本発明に係る油脂含有麺類は、2つの外層と少なくとも1つの内層を含む多層構造を有し、内層に上記方法で作製した麺生地を使用することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料粉と、水とを混捏し、混捏開始後3分後以降に液体状の油脂を加えてさらに混捏して麺生地を作製し、作製した麺生地から麺線を作製することを特徴とする油脂含有麺類の製造方法。
【請求項2】
前記油脂の添加量が前記主原料粉1kgに対して30ml~140mlである、請求項1記載の油脂含有麺類の製造方法。
【請求項3】
2つの外層と少なくとも1つの内層を含む多層構造を有する油脂含有麺類の製造方法であって、
少なくとも1つの前記内層は、前記内層の主原料粉と、水とを混捏し、混捏開始後3分後以降に液体状の油脂を加えてさらに混捏した麺生地から製造されることを特徴とする油脂含有麺類の製造方法。
【請求項4】
前記内層に含まれる前記油脂の含有量は、前記内層の主原料粉1kgに対して30ml~140mlである、請求項3記載の油脂含有麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂を多く含有する油脂含有麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康食品需要が高まる中で、麺類においても栄養価の高い製品が求められている
。厚生労働省から公表された日本人の食事摂取基準(2020年度版)には、タンパク質・脂質・炭水化物の3大栄養素それぞれから得るエネルギーの最適な割合(いわゆるPFCバランス)が公表されており、脂質は20~30%と設定されている。通常の麺の原材料中に含まれる脂質はわずかであるため、上記基準を満たすためには脂質は別途添加する必要がある。
【0003】
麺に油脂を添加する方法として、蒸煮前の生麺線に液体油脂を噴霧する方法や、液体油脂を原料粉に添加混合する方法、粉末油脂を原料粉に添加混合する方法が知られている。(特許文献1~5参照)
【0004】
油脂を麺に添加した場合の効果としては、復元性や食感などが改善することが知られている。特許文献4には、乳化させた後スプレードライ乾燥させて得られた粉末油脂を原料粉に添加することにより、ゆで時間が大幅に短縮され、かつ煮崩れが極めて少ない麺が得られることが記載されている。また、特許文献5には、原料粉に粉末油脂を添加して作製した麺線を蒸煮後に高温熱風乾燥することにより、高温熱風乾燥後の問題であった麺線の割れを防止した食感のよいノンフライ麺が得られることが記載されている。
【0005】
一方で、油脂の添加量が多くなると、製麺性や食感が悪化することが知られている。(特許文献1~5参照)例えば、特許文献1には、油脂を麺線に噴霧して添加する場合において、油脂添加量が多くなると、麺線がα化されにくく、脂っこくなってしまい、風味や食感が低下することが記載されている。また、特許文献2には、原料粉に対する液体油脂の添加量が6%を超えると、製麺が困難となり、食感が悪くなることが記載されている。さらに、特許文献4には、原料粉に対する粉末油脂の添加量が7%を超えると、麺帯が成形できなくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016―182059号公報
【特許文献2】特開2017-158440号公報
【特許文献3】特開2015-65963号公報
【特許文献4】特開昭59-154951号公報
【特許文献5】特開2006-122020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来技術では油脂の添加量が多い場合には、製麺性、食感や風味が悪化してしまうという問題があった。そこで、本発明は、油脂を添加した場合であっても、製麺性や食感が良好な麺の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、油脂含有麺の製麺性や食感の改善について鋭意検討した結果、原料粉に加水して一定時間混捏した後に油脂を添加することによって、製麺性や食感を悪化させることなく麺を製造できることを新たに見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
上記課題解決のため、本発明に係る油脂含有麺の製造方法としては、主原料粉に加水して混捏開始後3分後以降に油脂を添加することが好ましい。また、油脂の添加量は原料粉1kgあたり30ml~140mlであることが好ましい。
【0010】
当該構成によれば、主原料粉に加水して一定時間混捏した後に油脂を添加することで、油脂により阻害されることなく生地の水和やグルテン形成が進むため、製麺性や食感が向上する。
【0011】
また、本発明に係る油脂含有麺類の製造方法としては、2つの外層と少なくとも1つの内層を含む多層構造を有し、内層は、主原料粉と、水とを混捏し、混捏開始後3分後以降に油脂を添加して作製した麺生地から製造されることが好ましい。また、内層の油脂の添加量は原料粉1kgあたり30ml~140mlであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
当該発明によれば、油脂を添加した場合であっても、製麺性や食感が良好な麺の製造方法を提供することができる。なお、副次的効果として、喫食時に湯濁りの少ない油脂含有麺を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の内容について実施例を含めて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明において製造する麺の種類は、通常の当技術分野で知られるいかなるものであってもよく、うどん、そば、中華麺、パスタ、マカロニ、麺皮などが挙げられる。
【0014】
(1)原料配合
本発明に係る麺には、通常の麺の原料が使用できる。すなわち、主原料粉としては、小麦粉、そば粉、及び米粉等の穀粉、並びに馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ等の各種澱粉が挙げられ、単独で使用しても、または混合して使用してもよい。前記澱粉として、生澱粉、α化澱粉並びにアセチル化澱粉、エーテル化澱粉、及び架橋澱粉等の加工澱粉等を使用することもできる。
【0015】
また、本発明ではこれらの原料粉に対して、通常の製麺方法で一般的に使用されているグルテン、卵、かんすい、食塩、リン酸塩類、増粘剤、麺質改良剤、pH調整剤、色素、香料及び保存料等を添加することができる。これらは主原料粉と一緒に粉体で添加しても、練水に溶かすか懸濁させて添加してもよい。
【0016】
本発明に係る油脂は、食用として使用することができる油脂全般を使用することができる。例えば、ラード、ヘッド、鶏油、魚油、サラダ油、パーム油、コーン油、大豆油、米油、ごま油、ひまわり油、オリーブ油、亜麻仁油、綿実油及びなたね油等が挙げられる。これら1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、風味への影響が小さい点でなたね油が特に好ましい。また、これらの油脂を水素添加した油脂やエステル交換した油脂も使用でき、品種改良などにより油脂組成を改変した油脂も使用できる。これらのうち常温で液体でない油脂に関しては、使用前に熱で溶解させて液体状とすることで使用することができる。
【0017】
本発明に係る原材料である油脂の添加量は、主原料粉1kgに対して140ml以下となるように添加することが好ましい。より好ましくは主原料粉1kgに対して120ml以下であり、さらに好ましくは80ml以下である。140mlを超えると、油脂が生地に浸透しきらずにドウの表面がべたつき、製麺が困難となる。また、本発明は油脂を少量添加する場合でも効果を感じることができるが、より本発明の効果が感じられる範囲としては、主原料粉1kgに対して30ml以上が好ましい。油脂含有量を上げるという観点からは、40ml以上がより好ましく、60ml以上がさらに好ましい。
【0018】
(2)混捏工程
麺原料を混捏することによって、麺生地を製造する。具体的には、前記原料粉に練水を加え、ミキサーを用いて各種材料が均一に混ざるように3分間以上混捏した後、液体状にした油脂を添加して、再度混捏して麺生地を作製する。生地が水和し、グルテンが形成された後に液体状にした油脂を添加することと、油脂を均質に混合させる観点から、油脂を添加するタイミングは、原料粉に加水して混捏開始後4~12分後がより好ましく、6~11分後がさらに好ましい。混捏開始時から油脂を添加する場合や、3分未満に油脂を添加する場合だと、水和やグルテン形成が不十分な状態で油脂が大量に添加されるため、製麺性が悪くなる。逆に12分よりも長くなるとグルテン形成が進みすぎて生地のダマが大きくなり、油脂が生地内に十分均一に浸透せず、油脂含有量を上げることができない。なお、混捏に使用するミキサーは特に限定されず、バッチ型ミキサーやフロージェットミキサー、真空ミキサー等を適宜使用できる。
【0019】
また、この時、練水による加水が多いと生地が早期に団子状になりやすく、油脂の吸収が悪くなるだけでなく、その後の麺帯作製や圧延が行いづらくなる。そのため、好ましい練水による加水量としては、ドウの温度にもよるが、麺帯水分が25~45質量%、より好ましくは30~40質量%となるように加水することが好ましい。
【0020】
(3)製麺工程
次いで作製したドウから麺線を作製する。作製方法としては、常法に従って行えばよく、エクストルーダ等を用いてドウを押し出して麺線を作成する方法や、ドウをロールにより粗麺帯とした後、複合等により麺帯とし、さらにロールにより複数回圧延し、所定の麺帯厚とした後、切刃と呼ばれる切出しロール又は包丁切りにより麺帯を切出し、麺線を作製する方法が挙げられる。麺帯を作製してから麺線を作製する場合、エクストルーダを用いて麺帯を作製した後、圧延、切出しを行ってもよく、また、複数の麺帯を合わせて多層構造を持つ麺帯を作製した後、圧延、切出しを行ってもよい。エクストルーダ等を用いて押出し麺帯または押出し麺線を作製する場合は、減圧下で行うことが好ましい。次いで作製した麺線を適当な長さで切断し、生麺線とする。
【0021】
本発明に係る油脂含有麺は、栄養素として油脂を多く含み、麺から摂取することを目的としているため、2枚の外層麺帯と少なくとも1枚の内層麺帯を合わせて作製された多層麺とし、少なくとも1枚の内層麺帯に油脂を含むことが好ましい。このとき油脂を含む内層麺帯は、上述した方法に従って生地を作製し、麺帯とすることが好ましい。
【0022】
上記生麺線は、打ち粉等をした後に包装して生めんとしてもよく、該生麺線を蒸煮及び/または茹で処理を行い、蒸しめんまたは茹でめんとしてもよい。茹でめんをpH調整、密封、殺菌した場合にはチルドめんや生タイプ即席めんとすることができる。また、生麺線を乾燥して、乾めんや半乾めんとしてもよく、生麺を蒸煮及び/または茹で等の処理を行い、冷凍して冷凍めんとすることもできる。
【0023】
また、即席めんの場合は、生麺線を必要により蒸煮及び/または茹で処理を行い、乾燥することで製造することができる。乾燥方法は特に限定されず、即席めんの製造において一般的に使用されている乾燥方法を適用することができる。具体的には、フライ(油揚げ)乾燥のほか、熱風乾燥、真空凍結乾燥、マイクロ波乾燥、低温での送風乾燥といったノンフライ乾燥が挙げられ、これらを組み合わせて実施することもできる。フライ乾燥処理の場合は通常130~160℃で1~3分間、熱風乾燥処理の場合は通常60~120℃で15~180分間程度の処理を実施する。乾燥処理後の水分量としては、フライ乾燥処理の場合で1~5重量%、熱風乾燥処理の場合で2~12質量%とすればよい。
【実施例0024】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0025】
<試験1:油脂を添加するタイミングの検討>
(試験例1-1)
小麦粉(中力粉)1000gに、食塩20gとかんすい7gを溶解した練水350mlと、なたね油30mlを加えて、これをミキサーで15分間混捏して麺生地(ドウ)を作製した。
【0026】
作製したドウを複合して麺帯を作製し、ロール圧延にて1.10mmまで麺帯を圧延した後、22番丸のロール切刃にて麺帯を切断し、麺線とした。その後、その後100℃で2分間蒸煮し、30cmにカットした麺110gを乾燥用リテーナーに入れ、80℃の乾燥庫内で60分間乾燥させて、ノンフライ麺を作製した。試験結果を表2に示す。
【0027】
(試験例1-2~1-11)
試験例1-1おいて、表1に基づき、油脂の添加タイミングと添加量を変更し、油脂添加後の混捏時間についても表1記載の総ミキシング時間となるように調整した点を除いて、試験例1―1と同様の方法でノンフライ麺を作製した。各試験における結果を表2に示す。
【0028】
(試験例1―12)
試験例1-1おいて、原料混捏開始時から5ml/分となるように14分かけて少しずつ、合計70mlの油脂を添加した点を除いて、試験例1―1と同様の方法でノンフライ麺を作製した。試験結果を表2に示す。
【0029】
作製したノンフライ麺について、熟年のパネラー6名により官能評価を行った。鍋に熱湯500mlを入れ、中火で沸騰させた後、作製したノンフライ麺を入れて4分間軽くほぐしながら調理したものを喫食し、製麺性、食感、湯濁りについて評価した。評価は、以下の4または5段階で行った。食感については、試験例1-1を基準(2点)として評価した。製麺性については△以上、食感については3以上、湯濁りについては〇以上の評価を合格とした。
<製麺性の評価>
◎:ドウのべたつきがなく、麺帯強度が高く、製麺性が良好である。
〇:ドウのべたつきが少なく、麺帯強度があり、問題なく製麺できる。
△:ややドウがべたつき、麺帯強度が低いが、製麺できる。
×:ドウがべたつき、麺帯強度が低く、製麺できない。
<食感の評価>
5:粘弾性や調理感が十分にあり、非常に良好な食感である。
4:粘弾性や調理感があり、良好な食感である。
3:粘弾性や調理感はやや不足するが、概ね良好な食感である。
2:粘弾性や調理感が不足していている。(試験例1-1と同等である。)
1:粘弾性や調理感が著しく不足しており、不良な食感である。
<湯濁りの評価>
◎:湯濁りがほとんどなく、味が非常に良好である。
〇:湯濁りが少なく、味が良好である。
△:湯濁りがあり、味がややぼやける。
×:湯濁りが強く、味がぼやける。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
試験例1-1、1-2が示すように、両試験例において食感と湯濁りについての評価が合格点を下回っており、油脂添加量が増加すると製麺性・食感・湯濁りのすべての評価が悪化する傾向にあった。
【0033】
試験例1-3~1-8が示すように、製麺性についてはミキシング開始後3分後以降に添加するすべての試験区において問題なく製麺でき、このうち4~11分後添加する試験区でより評価が高かった。食感については、ミキシング開始後3分後以降に添加するすべての試験区において試験例1-1より良好であり、4~12分後に添加する試験区では粘弾性や調理感が増して評価が向上し、このうち6~11分後に添加する試験区の評価が特に高かった。
【0034】
また、試験例1-8、1-9が示すように、ミキシング開始後12分後に油脂を添加した場合でも、ミキシング時間を延長することで、全ての評価が向上した。これは、油脂添加後のミキシング時間を延長することで、油脂がドウに浸透したためと考えられる。しかしながら、どちらの試験区においても油脂は浸透するものの、不十分であり、ドウ表面やミキサー内に油脂が残ってしまい、油脂含有量が添加量をやや下回ってしまった。
【0035】
さらに、試験例1-10が示すように、ミキシング開始時に油脂が多く添加されると、全ての評価が悪かった。試験例1-11~1―12が示すように、油脂をより少量ずつに分割して添加する試験区においては、試験例1-10と比較するといずれの評価もやや向上するものの、食感と湯濁りの評価が合格点を下回った。
【0036】
以上のことから、油脂は原料粉に加水してミキシング開始3分後以降に添加することが好ましく、4~12分後がより好ましく、6~11分後が最も好ましいことが示唆された。
【0037】
<試験1:油脂添加量の検討>
(試験例2-1、2-2)
小麦粉(中力粉)1000gに、食塩20gとかんすい7gを溶解した練水350mlと、なたね油30mlを加えて、これをミキサーで15分間混捏して麺生地(ドウ)を作製した。作製したドウを用いて、試験例1-1と同様の方法でノンフライ麺を作製した。各試験における結果を表4に示す。
【0038】
(試験例2-3~2-9)
試験例2-1おいて、表3に基づき、油脂の添加タイミングと添加量を変更した点を除いて、試験例2―1と同様の方法でノンフライ麺を作製した。なお、総ミキシング時間は、試験例2-1、2-2と同様に15分とした。各試験における結果を表4に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
試験例1-1、2-1、2-2が示すように、ミキシング開始時に油脂を添加した場合、油脂の添加量が増加するにつれて全ての評価が悪化する傾向にあった。油脂添加量が最小の試験例1-1の食感と湯濁りの評価が既に合格点を下回っており、油脂添加量が最大の試験例2-2では製麺はできるものの、食感と湯濁りの評価が著しく悪かった。
【0042】
試験例2-3~2-9が示すように、ミキシング開始後9分後に油脂を添加した場合においても、油脂の添加量が増加するにつれてすべての評価が悪化する傾向にあったが、油脂添加量が最大の試験例2-9でも、全ての評価が合格であった。より詳しくは、油脂添加量が80ml以下の試験区は全ての評価が非常に高く、100ml~120mlまで増加した試験区ではいずれの評価もやや低下するものの、良好な範囲にあった。油脂添加量が140mlと最大の試験例2-9は、ドウが柔らかかったものの製麺可能であり、食感と湯濁りの評価は試験例1-1よりも高かった。
【0043】
以上のことから、油脂の添加量は、主原料粉1kgに対して140ml以下が好ましく、120ml以下がより好ましく、80ml以下がさらに好ましいことが示唆された。
【0044】
さらに、同じ油脂添加量である試験例1-1と試験例2-3、試験例2-1と試験例2-4、試験例2-2と試験例2-5を比較してみてみると、いずれの評価も後者の試験区の方が著しく高かった。
【0045】
以上のことから、より本発明の効果が感じられる範囲としては主原料粉1kgに対して30ml以上が好ましいことが示唆された。加えて、油脂含有量を上げる観点からは、主原料粉1kgに対して40ml以上がより好ましく、さらに好ましくは60ml以上であると考えられる。
【0046】
<試験3:多層麺の検討>
(試験例3-1)
(外層麺帯)
小麦粉(中力粉)1000gに、食塩20gとかんすい7gを溶解した練水350mlを加えて、これをミキサーで15分間混捏して麺生地(ドウ)を得た後、複合して麺帯を作製した。
【0047】
(内層麺帯)
小麦粉(中力粉)1000gに、食塩20gとかんすい7gを溶解した練水350mlを加えて、これをミキサーで9分間混捏した後、なたね油140mlを加えてさらに6分間混捏して、麺生地(ドウ)を得た後、複合して麺帯を作製した。
【0048】
(三層麺帯作製)
三層麺帯の麺厚比(外層:内層:外層)が1:2:1となるように外層麺帯2枚と内層麺帯1枚の厚みを調製した後、複合して1枚の三層麺帯を製造した。
【0049】
得られた三層麺帯をロール圧延にて1.10mmまで麺帯を圧延した後、22番丸のロール切刃にて麺帯を切断し、麺線とした。その後、その後100℃で2分間蒸煮し、30cmにカットした麺110gを乾燥用リテーナーに入れ、80℃の乾燥庫内で60分間乾燥させて、ノンフライ麺を作製した。各試験における結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
試験例3-1が示すように、三層麺にした場合についても全ての評価が非常に高かった。
油脂の添加タイミングと油脂含有量が同じである試験例1-6と比較すると、内層に対する油脂の添加量が多くなることで内層単体での製麺性は劣るが、外層と合わさることで麺帯が強化されて製麺性はより良かった。また、調理時には油脂の溶出がより少なく、油臭を感じにくくなり風味がより良好であった。
【0052】
以上説明したように、本発明は原料粉に加水して一定時間混捏した後に、油脂を添加することを特徴とする。油脂を添加する前に、生地を水和して、グルテン形成をある程度進めておくことで、油脂に水和やグルテン形成を阻害されることなく、製麺できる。このことにより、製麺性や食感だけでなく、湯濁りも改善され、油脂を多く添加した場合であっても、製麺性や食感が良好であり、湯濁りの少ない油脂添加麺を提供することができるという極めて優れた効果を奏する。