(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145219
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】スクリーン塗工治具および板状部材のシール構造
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20241004BHJP
H01M 8/0286 20160101ALI20241004BHJP
H01M 8/0284 20160101ALI20241004BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20241004BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241004BHJP
【FI】
B41N1/24
H01M8/0286
H01M8/0284
H01M8/0247
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057478
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】菅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史弥
【テーマコード(参考)】
2H114
5H126
【Fターム(参考)】
2H114AB11
2H114AB15
2H114AB17
5H126AA12
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE06
5H126EE11
5H126GG18
5H126HH04
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】均一な高さのシール部材を形成する。
【解決手段】凸部30を有する板状部材3の表面に、凸部30を横断するようにシール部材をスクリーン塗工するためのスクリーン塗工治具10Bは、シール部材よりも剛性の高い部材により構成され、板状部材3の表面に載置される治具本体11を備える。治具本体11は、板状部材3の表面に対向する第1面11aと、第1面11aの反対側の第2面11bと、第1面11aから第2面11bにかけて延在し、治具本体11の少なくとも一部を第1部分111と第2部分112とに分割する一対の分割面113とを有する。第1面11aは、分割面113との交差部位114を起点として板状部材3の凸部30に嵌合する凹部115を有する。分割面113は、第1面11aから第2面11bにかけての高さが均一であり、一対の分割面113の間の幅は、凹部115に対応する位置で狭くなる。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部を有する板状部材の表面に、前記凸部を横断するようにシール部材をスクリーン塗工するためのスクリーン塗工治具であって、
前記シール部材よりも剛性の高い部材により構成され、前記板状部材の表面に載置される治具本体を備え、
前記治具本体は、
前記板状部材の表面に対向する第1面と、
前記第1面の反対側の第2面と、
前記第1面から前記第2面にかけて延在し、前記治具本体の少なくとも一部を第1部分と第2部分とに分割する一対の分割面と、を有し、
前記第1面は、前記一対の分割面との交差部位を起点として前記板状部材の前記凸部に嵌合する凹部を有し、
前記一対の分割面は、前記第1面から前記第2面にかけての高さが均一であり、
前記一対の分割面の間の幅は、前記一対の凹部に対応する位置で狭くなることを特徴とするスクリーン塗工治具。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリーン塗工治具において、
前記凸部は、断面形状が湾曲していることを特徴とするスクリーン塗工治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスクリーン塗工治具において、
前記一対の分割面は、前記第1部分および前記第2部分の一方を包囲し、
前記第1部分と前記第2部分とを接続する接続部をさらに備えることを特徴とするスクリーン塗工治具。
【請求項4】
請求項1または2に記載のスクリーン塗工治具において、
前記シール部材は、樹脂部材であることを特徴とするスクリーン塗工治具。
【請求項5】
凸部を有する板状部材と、
前記凸部を横断するように前記板状部材の表面に設けられたシール部材と、を備え、
前記シール部材は、前記板状部材の表面からの高さが均一であり、
前記シール部材の幅は、前記凸部を横断する位置で狭くなることを特徴とする板状部材のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状部材にシール部材をスクリーン塗工するためのスクリーン塗工治具および板状部材のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池セルのセパレータのような凹凸状に設けられた板材にペースト状の部材をスクリーン塗工するための治具が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の治具では、スクリーンに一体に設けられたマスクにおける塗布相手部材との対向面に、塗布相手部材に形成された凹凸へ嵌め込み可能な嵌合凹凸が形成され、嵌合凹凸における嵌合凸部及び嵌合凹部のうち少なくとも一方に、ペースト塗布用開口が開設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、凹凸状に設けられた板材に面して密閉空間を形成するとき、板材の表面を横断するシール部材を形成することがあり、このような場合には、シール性を確保するため、シール部材の高さを均一にすることが好ましい。しかしながら、上記特許文献1には、この点について何ら記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、凸部を有する板状部材の表面に、凸部を横断するようにシール部材をスクリーン塗工するためのスクリーン塗工治具である。スクリーン塗工治具は、シール部材よりも剛性の高い部材により構成され、板状部材の表面に載置される治具本体を備える。治具本体は、板状部材の表面に対向する第1面と、第1面の反対側の第2面と、第1面から第2面にかけて延在し、治具本体の少なくとも一部を第1部分と第2部分とに分割する一対の分割面と、を有する。第1面は、一対の分割面との交差部位を起点として板状部材の凸部に嵌合する凹部を有する。一対の分割面は、第1面から第2面にかけての高さが均一であり、一対の分割面の間の幅は、凹部に対応する位置で狭くなる。
【0006】
本発明の別の態様である板状部材のシール構造は、凸部を有する板状部材と、凸部を横断するように板状部材の表面に設けられたシール部材と、を備える。シール部材は、板状部材の表面からの高さが均一であり、シール部材の幅は、凸部を横断する位置で狭くなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、均一な高さのシール部材を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る板状部材のシール構造を有する燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す斜視図。
【
図2】
図1の燃料電池スタックに含まれる電極アッセンブリの概略構成を示す斜視図。
【
図4】
図3のセパレータの貫通孔付近のシール構造の一例を示す正面図。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るスクリーン塗工治具の一例を示す正面図。
【
図7】
図5のスクリーン塗工治具を部分的に示す斜視図。
【
図9】
図4のシール部材を構成する樹脂材料の特性について説明するための図。
【
図10】
図5のスクリーン塗工治具により塗工されたシール部材の断面図。
【
図11】
図5のスクリーン塗工治具により塗工されたシール部材の斜視図。
【
図12】本発明の第2実施形態に係るスクリーン塗工治具を部分的に示す斜視図。
【
図13】
図12のスクリーン塗工治具により塗工されたシール部材の断面図。
【
図14】
図12のスクリーン塗工治具により塗工されたシール部材の斜視図。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る板状部材のシール構造の一例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図15を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るスクリーン塗工治具は、凸部を有する板状部材の表面に、凸部を横断するようにシール部材をスクリーン塗工するための治具であり、例えば、凹凸状に設けられた燃料電池のセパレータにシール部材をスクリーン塗工するための治具である。また、本発明の実施形態に係る板状部材のシール構造は、凸部を有する板状部材の表面に、凸部を横断するように設けられたシール構造であり、例えば、凹凸状に設けられた燃料電池のセパレータの表面に設けられたシール構造である。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。まず、燃料電池の構成要素である燃料電池スタックの全体構成を概略的に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る板状部材のシール構造を有する燃料電池スタック100の全体構成を概略的に示す斜視図である。以下では、便宜上、図示のように互いに直交する三軸方向を、前後方向、左右方向および上下方向と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。これらの方向は、車両の前後方向、左右方向および上下方向と同一であるとは限らない。例えば
図1の前後方向は、車両の前後方向であってもよく、左右方向であってもよく、上下方向であってもよい。
【0011】
図1に示すように、燃料電池スタック100は、複数の発電セル1を前後方向に積層して構成されたセル積層体101と、セル積層体101の前後両端部に配置されたエンドユニット102とを有し、全体が略直方体形状を呈する。セル積層体101の左右方向の長さは、上下方向の長さよりも長い。
図1には、便宜上、単一の発電セル1が示される。発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2の前後両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3,3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、前後方向に交互に配置される。
【0012】
セパレータ3は、断面が波板状の前後一対の金属製の薄板を有し、これら薄板の外周同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。セパレータ3の内部には、冷却媒体が流れる冷却流路が形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。冷却媒体としては例えば水を用いることができる。電極アッセンブリ2に対向するセパレータ3の表面(前面および後面)は、電極アッセンブリ2との間にガス流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に構成される。
【0013】
電極アッセンブリ2の前側のセパレータ3は、例えばアノード側のセパレータ(アノードセパレータ)であり、アノードセパレータ3と電極アッセンブリ2の接合体との間に、燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。電極アッセンブリ2の後側のセパレータ3は、例えばカソード側のセパレータ(カソードセパレータ)であり、カソードセパレータ3と電極アッセンブリ2の接合体との間に、酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。燃料ガスとしては例えば水素ガスを、酸化剤ガスとしては例えば空気を用いることができる。燃料ガスと酸化剤ガスとを区別せずに、これらを反応ガスと呼ぶこともある。
【0014】
図2は、電極アッセンブリ2の概略構成を示す斜視図である。
図2に示すように、電極アッセンブリ2は、略矩形状の接合体20と、接合体20を支持するフレーム21と、を有する。接合体20は膜電極接合体(いわゆるMEA;Membrane Electrode Assembly)であり、電解質膜と、電解質膜の前面に設けられたアノード電極と、電解質膜の後面に設けられたカソード電極とを有する。
【0015】
電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜であり、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜を用いることができる。フッ素系電解質に限らず、炭化水素系電解質を用いることもできる。
【0016】
アノード電極は、電解質膜の前面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、該電極触媒層の前面には反応ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。カソード電極は、電解質膜の後面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、該電極触媒層の後面には反応ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。電極触媒層には、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素の電気化学反応を促進する触媒金属、プロトン伝導性を有する電解質、および電子伝導性を有するカーボン粒子等が含まれる。ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材、例えばカーボン多孔質体により構成される。
【0017】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0018】
フレーム21は、略矩形状を呈する薄板であり、絶縁性を有する樹脂やゴム等により構成される。フレーム21の中央部には、略矩形状の開口部21aが設けられ、開口部21aの全体を覆うように接合体20が設けられる。フレーム21の開口部21aの左側には、フレーム21を前後方向に貫通する3つの貫通孔211~213が上下方向に並んで開口され、開口部21aの右側には、フレーム21を前後方向に貫通する3つの貫通孔214~216が上下方向に並んで開口される。
【0019】
図1に示すように、電極アッセンブリ2の前後のセパレータ3には、フレーム21の貫通孔211~216に対応する位置に、セパレータ3を前後方向に貫通する貫通孔311~316がそれぞれ開口される。貫通孔311~316は、フレーム21の貫通孔211~216にそれぞれ連通する。これら互いに連通する貫通孔211~216,311~316の集合により、セル積層体101を貫通して前後方向に延在する流路PA1~PA6(便宜上、矢印で示す)が形成される。流路PA1~PA6は、マニホールドと呼ばれることもある。流路PA1~PA6は、燃料電池スタック100の外部のマニホールドに接続される。
【0020】
貫通孔211,311を介して前方に延びる流路PA1(実線矢印)は、燃料ガス供給流路である。貫通孔216,316を介して後方に延びる流路PA6(実線矢印)は、燃料ガス排出流路である。燃料ガス供給流路PA1および燃料ガス排出流路PA6は、接合体20の前面に対向するアノード流路と連通し、実線矢印に示すように、燃料ガス供給流路PA1と燃料ガス排出流路PA6とを介して、アノード流路を左右方向に燃料ガスが流れる。アノード流路と他の流路PA2~PA5との連通は、シール部材7(
図3)を介して遮断される。燃料ガス排出流路PA6を流れる燃料ガスは、アノード電極で一部が使用された後の燃料ガスであり、これを燃料排ガスと呼ぶことがある。
【0021】
貫通孔214,314を介して前方に延びる流路PA4(点線矢印)は、酸化剤ガス供給流路である。貫通孔213,313を介して後方に延びる流路PA3(点線矢印)は、酸化剤ガス排出流路である。酸化剤ガス供給流路PA4および酸化剤ガス排出流路PA3は、接合体20の後面に対向するカソード流路と連通し、点線矢印に示すように、酸化剤ガス供給流路PA4と酸化剤ガス排出流路PA3とを介して、カソード流路を左右方向に酸化剤ガスが流れる。カソード流路と他の流路PA1,PA2,PA5,PA6との連通は、シール部材7(
図3)を介して遮断される。酸化剤ガス排出流路PA3を流れる酸化剤ガスは、カソード電極で一部が使用された後の酸化剤ガスであり、これを酸化剤排ガスと呼ぶことがある。燃料排ガスと酸化剤排ガスとを区別せずに、これらを反応排ガスと呼ぶこともある。
【0022】
貫通孔215,315を介して前方に延びる流路PA5(一点鎖線矢印)は、冷却媒体供給流路である。貫通孔212,312を介して後方に延びる流路PA2(一点鎖線矢印)は、冷却媒体排出流路である。冷却媒体供給流路PA5および冷却媒体排出流路PA2は、セパレータ3の内部の冷却流路と連通しており、冷却媒体供給流路PA5と冷却媒体排出流路PA2とを介して、冷却流路を冷却媒体が流れる。冷却流路と他の流路PA1,PA3,PA4,PA6との連通は、シール部材7(
図3)を介して遮断される。
【0023】
セル積層体101の前後両側に配置されたエンドユニット102は、それぞれターミナルプレート4と、絶縁プレート5と、エンドプレート6とを有する。なお、前側のエンドユニット102をドライ側エンドユニット、後側のエンドユニット102をウェット側エンドユニットと呼ぶこともある。前後一対のターミナルプレート4,4は、セル積層体101を挟んでその前後両側に配置される。前後一対の絶縁プレート5,5は、ターミナルプレート4,4を挟んでその前後両側に配置される。前後一対のエンドプレート6,6は、絶縁プレート5,5を挟んでその前後両側に配置される。
【0024】
ターミナルプレート4は、金属製の略矩形状の板状部材であり、セル積層体101で電気化学反応により生成された電力を取り出すための端子部を有する。絶縁プレート5は、非導電性を有する樹脂製またはゴム製の略矩形状の板状部材であり、ターミナルプレート4とエンドプレート6とを電気的に絶縁する。エンドプレート6は、金属製または高強度に構成された樹脂製の板状部材であり、エンドプレート6には、例えば前後のエンドプレート6,6同士を連結する前後方向細長の連結部材がボルトにより固定される。燃料電池スタック100は、連結部材を介してエンドプレート6,6により前後方向に押圧された状態で、保持される。セル積層体101を包囲するケースを連結部材として用いてよく、ケースの前端面および後端面にそれぞれエンドプレート6,6が固定されてもよい。
【0025】
後側のエンドユニット102には、エンドユニット102を前後方向に貫通する複数の貫通孔102a~102fが開口される。なお、貫通孔102a~102fは、それぞれターミナルプレート4を貫通する貫通孔、絶縁プレート5を貫通する貫通孔およびエンドプレート6を貫通する貫通孔を含むが、
図1では、便宜上、これらをまとめて貫通孔102a~102fとして示す。貫通孔102aは、燃料ガス供給流路PA1の延長線上に開口され、燃料ガス供給流路PA1に連通する。貫通孔102bは、冷却媒体排出流路PA2の延長線上に開口され、冷却媒体排出流路PA2に連通する。貫通孔102cは、酸化剤ガス排出流路PA3の延長線上に開口され、酸化剤ガス排出流路PA3に連通する。貫通孔102dは、酸化剤ガス供給流路PA4の延長線上に開口され、酸化剤ガス供給流路PA4に連通する。貫通孔102eは、冷却媒体供給流路PA5の延長線上に開口され、冷却媒体供給流路PA5に連通する。貫通孔102fは、燃料ガス排出流路PA6の延長線上に開口され、燃料ガス排出流路PA6に連通する。
【0026】
より詳しくは、貫通孔102aには、エジェクタ、インジェクタなどを介して、高圧の燃料ガスが貯留された燃料ガスタンクが接続され、燃料ガスタンク内の燃料ガスが貫通孔102aを介して燃料電池スタック100に供給される。貫通孔102fには、気液分離機が接続され、貫通孔102fを介して排出された燃料ガス(燃料排ガス)は、気液分離機で燃料ガスと水とに分離される。分離された燃料ガスは、エジェクタを介して吸い込まれ、燃料電池スタック100に再び供給される。分離された水は、ドレン流路を介して外部に排出される。
【0027】
貫通孔102dには、酸化剤ガス供給用のコンプレッサが接続され、コンプレッサで圧縮された酸化剤ガスが貫通孔102dを介して燃料電池スタック100に供給される。貫通孔102cからは、酸化剤ガス(酸化剤排ガス)が外部に流出する。貫通孔102eには、冷却媒体供給用のポンプが接続され、貫通孔102eを介して燃料電池スタック100に冷却媒体が供給される。貫通孔102bからは冷却媒体が排出される。排出された冷却媒体は、ラジエータでの熱交換により冷却され、貫通孔102eを介して再び燃料電池スタック100に供給される。
【0028】
以上が燃料電池スタック100の概略構成である。燃料電池スタック100は略ボックス状のケースに収納され、車両に搭載される。
【0029】
図3は、
図1の発電セル1のIII-III断面図である。
図3に示すように、前側のアノードセパレータ3と電極アッセンブリ2(接合体20)との間にはアノード流路Anが形成され、後側のカソードセパレータ3と電極アッセンブリ2(接合体20)との間にはカソード流路Caが形成される。
図4は、セパレータ(アノードセパレータ)3の貫通孔311(燃料ガス供給流路PA1)付近のシール構造の一例を示す正面図であり、電極アッセンブリ2(フレーム21)に対向するセパレータ3の貫通孔311付近の表面(後面)を示す。
【0030】
図3および
図4に示すように、電極アッセンブリ2に対向するセパレータ3の表面には、貫通孔311,314(反応ガス供給流路PA1,PA4)とガス流路An,Caとを連通する連通路を形成する半円筒形状の凸部30が複数本(図では1本)設けられる。これらの連通路のうち、燃料ガス供給流路PA1とカソード流路Caとを連通する連通路と、酸化剤ガス供給流路PA4とアノード流路Anとを連通する連通路とは、閉鎖される。
【0031】
セパレータ3の表面には、凸部30を横断し、貫通孔311,314を包囲するように、シール部材7が設けられる。シール部材7としては、シリコン、ウレタン、フッ素等の熱硬化性エラストマ、熱可塑性エラストマ、合成ゴム、天然ゴム等の樹脂材料を用いることができる。セパレータ3の表面に設けられたシール部材7の先端は、電極アッセンブリ2(フレーム21)に密着し、これにより、反応ガス供給流路PA1,PA4が、連通しないガス流路Ca,Anや外部空間EXから遮断(密閉)される。
【0032】
より具体的には、
図1の燃料電池スタック100が連結部材を介してエンドプレート6,6により前後方向に押圧されることで、シール部材7に前後方向の圧縮荷重が付加され、シール部材7が押圧されて弾性変形し、シール部材7の先端がフレーム21に密着する。このとき、圧縮荷重によりシール部材7の先端に面圧が付加されることで、反応ガス供給流路PA1,PA4の密閉状態が確保される。
【0033】
このように、凸部30を有するセパレータ3等の板状部材に面して密閉空間を形成する場合には、シール性を確保するため、シール部材7の高さを均一にすることが好ましい。そこで、本実施形態では、凸部30を有するセパレータ3の表面に、凸部30を横断する高さの均一なシール部材7をスクリーン塗工することができるよう、以下のようにスクリーン塗工治具を構成する。
【0034】
<第1実施形態>
図5は、本発明の第1実施形態に係るスクリーン塗工治具(以下、治具)10Aの一例を示す正面図であり、
図6は、
図5のVI-VI断面図である。
図5および
図6に示すように、治具10Aは、塗工面となるセパレータ3の表面に載置される治具本体11と、治具本体11の第1部分111と第2部分112とを接続する接続部12とを有する。
【0035】
治具本体11および接続部12は、シール部材7よりも剛性の高い部材により構成される。治具本体11および接続部12には、例えばステンレス等の金属を用いることができる。治具本体11および接続部12には、テフロン(登録商標)、シリコン等の樹脂に撥水処理を施した材料を用いてもよい。接続部12の幅は、塗工後のシール部材7の表面に段差が生じないよう、シール部材7の材質を考慮して十分小さい値(例えば、100μm程度)に設定される。
【0036】
治具本体11は、セパレータ3の表面に対向する第1面11aと、第1面11aの反対側の第2面11bと、第1面11aから第2面11bにかけて延在し、治具本体11を第1部分111と第2部分112とに分割する一対の分割面113,113とを有する。
図5の例では、一対の分割面113,113は、環状に設けられ、治具本体11を、一対の分割面113,113により包囲される内側の第1部分111と、外側の第2部分112とに、完全に分割する。一対の分割面113,113は、線分状または曲線分状に設けられ、治具本体11を第1部分111と第2部分112とに部分的に分割するものであってもよい。この場合、第1部分111と第2部分112とを接続する接続部12を設けず、治具本体11のみで治具10Aを構成してもよい。以下では、第1部分111と第2部分112との間の空間、換言すると、第1面11aと第2面11bとの間、かつ、一対の分割面113,113の間の空間を、溝部13と称する。
【0037】
治具本体11は、例えば、第1面11aを含む下層14と第2面11bを含む上層15とを別体としてそれぞれ成形し、下層14と上層15とを接合することで形成される。この場合、下層14には第1部分111と第2部分112とが含まれ、上層15には第1部分111と第2部分112と接続部12とが含まれる。治具本体11と接続部12とを一体的に成型し、エッチング処理やミリング処理等の加工処理により、治具本体11を第1部分111と第2部分112とに分割するとともに接続部12を形成してもよい。
【0038】
図7は、治具10Aを部分的に示す斜視図であり、治具10Aを用いて、凸部30を有するセパレータ3の表面に、凸部30を横断するようにシール部材7をスクリーン塗工する様子を概略的に示す。
図7に示すように、スクリーン塗工では、先ず、治具本体11の第1面11aが、凸部30を有するセパレータ3の表面に対向するように、治具10Aを塗工面となるセパレータ3の表面に載置する。次いで、チクソ性を有するシリコン、ウレタン、フッ素等の熱硬化性エラストマ、熱可塑性エラストマ、合成ゴム、天然ゴム等の樹脂材料のペーストPを治具本体11の第2面11bに載せる。そして、スキージ16によりペーストPを溝部13周辺の第2面11bに押し当て、スキージ16を摺動させることで、溝部13を介してセパレータ3の表面にペーストPを塗布し、硬化させることで、セパレータ3の表面にシール部材7を塗工、形成する。このようなスクリーン塗工は、手動で行ってもよく、セパレータ3を固定する載置台と、治具10Aと、スキージ16とを有するスクリーン印刷装置を用いて自動的に行ってもよい。
【0039】
治具本体11の第1面11aは、一対の分割面113,113との交差部位114,114を起点として、セパレータ3の凸部30に嵌合する一対の凹部115,115を有する。一対の凹部115,115の一方は治具本体11の第1部分111に設けられ、他方は治具本体11の第2部分112に設けられる。治具本体11を金属製とする場合、凹部115のみにテフロン(登録商標)、シリコン等の樹脂に撥水処理を施した材料を用いてもよい。
【0040】
塗工面に対向する治具本体11の第1面11aに、セパレータ3表面の凸部30に嵌合する凹部115を設けることで、塗工時、治具10Aに対しスキージ16の摺動方向に押圧力が付与された場合でも、塗工面に対する治具本体11の変位を規制することができる。これにより、セパレータ3表面に精度よくスクリーン塗工を行うことができる。
【0041】
このように、シール部材7よりも相対的に剛性の高い治具本体11と、スキージ16とを用いてスクリーン塗工を行うことで、シール部材7が溝部13の外に塗工されることを防ぎ、溝部13の形状に沿った形状のシール部材7を塗工、形成することができる。
【0042】
治具本体11は、溝部13の深さ、すなわち一対の分割面113,113の第1面11aから第2面11bにかけての高さh1が均一となるように形成される。したがって、治具本体11の一対の分割面113,113、第1面11a(セパレータ3の表面)、および第2面11b(スキージ16)により画定される溝部13の形状に沿って塗工、形成されるシール部材7の高さを概ね均一にすることができる。
【0043】
図8は、セパレータ3の表面に塗工されたシール部材7の断面図であり、
図9は、シール部材7を構成する樹脂材料の特性(チクソ特性)について説明するための図である。
図8および
図9に示すように、チクソ性を有する樹脂材料により構成されるシール部材7は、ペーストPの組成等の塗工条件が同一であれば、セパレータ3表面に接する部分の幅wに応じて硬化後の厚さdが定まる。すなわち、シール部材7の幅wが大きい(広い)ほどシール部材7の厚さdが大きく(高く)なり、シール部材7の幅wが小さい(狭い)ほどシール部材7の厚さdが小さく(低く)なる。シール部材7の幅wは、治具10Aの溝部13の幅w、すなわち、治具本体11の一対の分割面113,113の間の幅wに相当する。
【0044】
図10は、治具10Aにより塗工されたシール部材7の断面図であり、
図11は、治具10Aにより塗工されたシール部材7の斜視図である。
図10および
図11に示すように、治具10Aにより塗工されたシール部材7の幅wおよび厚さdは、シール部材7の延在方向にわたって均一となる。シール部材7は、凸部30を含むセパレータ3表面に沿って延在するため、シール部材7のセパレータ3表面からの高さh2は、シール部材7が凸部30を横断する位置において、それ以外の位置より、凸部30の分だけ高くなる。
【0045】
このように、シール部材7のセパレータ3表面からの高さh2にばらつきが生じると、
図4のシール部材7の延在方向において、
図3のフレーム21に密着するシール部材7先端に付加される線圧(シール荷重)がばらつき、線圧の低い箇所で漏れが生じ得る。なお、線圧は、圧縮荷重により、フレーム21に密着するシール部材7の先端に付加される面圧の、シール部材7の延在方向における単位長さ当たりの平均値である。
【0046】
<第2実施形態>
図12は、本発明の第2実施形態に係る治具10Bを部分的に示す斜視図であり、
図13は、治具10Bにより塗工されたシール部材7の断面図であり、
図14は、治具10Bにより塗工されたシール部材7の斜視図である。第1実施形態と異なる点について説明すると、治具10Bは、治具本体11の一対の分割面113,113の間の幅w(溝部13の幅w)が、凹部115に対応する位置で狭くなるように構成される。より具体的には、
図12に示すように、凹部115に対応する位置における溝部13の幅w1は、それ以外の位置における溝部13の幅w2より小さい値に設定される(w1<w2)。
【0047】
この場合、
図13および
図14に示すように、治具10Bにより塗工されたシール部材7のセパレータ3表面からの高さh2は、シール部材7の延在方向にわたって均一となる。すなわち、シール部材7が凸部30を横断する位置におけるシール部材7の幅w1は、それ以外の位置におけるシール部材7の幅w2より小さくなり、シール部材7の厚さdは、シール部材7が凸部30を横断する位置において、それ以外の位置より小さくなる。これにより、シール部材7の延在方向にわたって、シール部材7のセパレータ3表面からの高さh2が均一となり、
図3のフレーム21に密着するシール部材7先端に付加される線圧(シール荷重)のばらつきが解消され、シール性が向上する。
【0048】
シール部材7および治具10Bの溝部13の幅w1,w2は、ガス流路を流通するガスの最大圧力、シール部材7の材質やシール部材7に付加される圧縮荷重等に応じて設定される。幅w1と幅w2との比率は、セパレータ3表面におけるシール部材7の塗工位置、凸部30の形状、
図9に示す樹脂材料の特性等に基づいて決定してもよく、治具10B(治具本体11)およびシール部材7の試作により決定してもよい。
【0049】
図15は、第2実施形態に係る板状部材のシール構造の一例を示す正面図であり、電極アッセンブリ2(フレーム21)に対向するセパレータ(アノードセパレータ)3の貫通孔311(燃料ガス供給流路PA1)付近のシール構造を示す。
図15に示すように、板状部材のシール構造は、凸部30を有するセパレータ3と、凸部30を横断するようにセパレータ3の表面に設けられたシール部材7とを有する。シール部材7は、セパレータ3の表面からの高さh2が均一であり、シール部材7の幅w(w1,w2)は、凸部30を横断する位置で狭くなる。
【0050】
このように、第2実施形態では、第1実施形態と異なり、治具本体11の一対の分割面113,113の間の幅w(溝部13の幅w)が凹部115に対応する位置で狭くなるように治具10Bを構成することで、均一な高さのシール部材7を形成することができる。また、治具10Bの溝部13の高さh1は均一であるため、第1実施形態と同様に、スキージ16を用いた一度のスクリーン塗工により、溝部13の形状に沿ったシール部材7を形成することができる。
【0051】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)凸部30を有するセパレータ3の表面に、凸部30を横断するようにシール部材7をスクリーン塗工するための治具10Bは、シール部材7よりも剛性の高い部材により構成され、セパレータ3の表面に載置される治具本体11を有する(
図12)。治具本体11は、セパレータ3の表面に対向する第1面11aと、第1面11aの反対側の第2面11bと、第1面11aから第2面11bにかけて延在し、治具本体11の少なくとも一部を第1部分111と第2部分112とに分割する一対の分割面113,113と、を有する。第1面11aは、一対の分割面113,113との交差部位114,114を起点としてセパレータ3の凸部30に嵌合する凹部115,115を有する。一対の分割面113,113は、第1面11aから第2面11bにかけての高さh1が均一であり、一対の分割面113,113の間の幅wは、一対の凹部115,115に対応する位置で狭くなる。
【0052】
このように、セパレータ3表面の凸部30に嵌合する凹部115を設けることで、塗工時、塗工面に対する治具本体11の変位を規制し、セパレータ3表面に精度よくスクリーン塗工を行うことができる。また、シール部材7よりも相対的に剛性の高い治具本体11を用いてスクリーン塗工を行うことで、シール部材7が溝部13の外に塗工されることを防ぎ、溝部13の形状に沿った形状のシール部材7を塗工、形成することができる。また、溝部13の深さ(高さ)h1を均一にすることで、スキージ16を用いた一度のスクリーン塗工によりシール部材7を形成することができる。さらに、セパレータ3表面の凸部30に嵌合する凹部115に対応する位置で溝部13の幅wを狭くすることで、シール部材7が凸部30を横断する位置で盛り上がることを防ぎ、均一な高さh2のシール部材7を形成することができる。
【0053】
(2)凸部30は、断面形状が湾曲し、例えば半円筒形状に構成される(
図12)。凸部30が湾曲し、凸部30上に塗工されたシール部材7が広がりやすい場合でも、凸部30を横断する位置で溝部13およびシール部材7の幅wを狭くすることで、凸部30を横断する位置での盛り上がり防ぎ、高さh2が均一なシール部材7を形成することができる。
【0054】
(3)一対の分割面113,113は、第1部分111および第2部分112の一方を包囲する(
図12)。治具10Bは、第1部分111と第2部分112とを接続する接続部12をさらに有する。一対の分割面113,113(溝部13)が環状に設けられ、治具本体11が完全に分割される場合であっても、接続部12を設けることで、精度よくスクリーン塗工を行うことができる。
【0055】
(4)シール部材7は、樹脂部材である。シール部材7は、治具10の溝部13を介して塗工されたとしても、樹脂材料のチクソ性によって幅wと硬化後の厚さdとのアスペクト比が定まる。このような特性を考慮し、厚さdを小さくすべき凸部30を横断する位置で幅wを狭くすることで、硬化後のシール部材7のセパレータ3表面からの高さh2を均一にすることができる。
【0056】
(5)板状部材のシール構造は、凸部30を有するセパレータ3と、凸部30を横断するようにセパレータ3の表面に設けられたシール部材7とを有する(
図13~
図15)。シール部材7は、セパレータ3の表面からの高さh2が均一であり、シール部材7の幅wは、凸部30を横断する位置で狭くなる。シール部材7を用い、凸部30を有するセパレータ3等の板状部材に面して密閉空間を形成する場合、シール部材7の高さh2を均一にすることで、密閉空間のシール性を確保することができる。
【0057】
上記実施形態では、燃料電池のセパレータ3の表面に、ガスの連通路を形成する凸部30を横断するようにシール部材7をスクリーン塗工するためのスクリーン塗工治具およびセパレータ3のシール構造を例に説明したが、スクリーン塗工治具および板状部材のシール構造は、このようなものに限らない。凸部は、シール部材が塗工される板状部材の表面から突出したものであればよく、ガス等の連通路を形成する中空のものに限らない。シール部材は、凸部を横断するものであればよく、凸部の延在方向とシール部材の延在方向とが直交することを要しない。板状部材の表面は、凸部と凸部以外の部分とを有するものであればよく、凸部の占める面積が凸部以外の部分が占める面積より小さいことを要しない。例えば、一部に溝等の凹部を有する板状部材に対し、凹部以外の部分を凸部とみなして本発明を適用することもできる。この場合、シール部材の幅を、そのような板状部材の凹部を横断する位置で広くなるように構成し、治具本体の一対の分割面の間の幅を、そのような板状部材の凹部に嵌合する凸部に対応する位置で広くなるように構成することで、均一な高さのシール部材を形成することができる。
【0058】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 発電セル、2 電極アッセンブリ、3 セパレータ、7 シール部材、10A,10B スクリーン塗工治具(治具)、11 治具本体、11a 第1面、11b 第2面、12 接続部、13 溝部、14 下層、15 上層、16 スキージ、20 接合体、21 フレーム、30 凸部、100 燃料電池スタック、111 第1部分、112 第2部分、113 分割面、114 交差部位、115 凹部