(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145221
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】冷媒漏洩検知装置および方法
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20241004BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F25B49/02 520M
F25B1/00 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057480
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉見 学
(72)【発明者】
【氏名】岩名 壱征
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥平
(57)【要約】
【課題】過冷却度を利用できない場合でも、低コストで冷媒の漏洩を精度良く判定する。
【解決手段】本開示の一実施形態である冷媒漏洩検知装置は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で接続し、配管内部を冷媒が循環する冷凍空調装置において、前記冷凍空調装置の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、の運転データを取得し、取得した前記運転データを用いて前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定する制御部を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で接続し、配管内部を冷媒が循環する冷凍空調装置において、
前記冷凍空調装置の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、の運転データを取得し、
取得した前記運転データを用いて前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定する制御部を備える、
冷媒漏洩検知装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記膨張弁開度が全開ではないときには、前記膨張弁開度と、前記冷媒循環量に関する値と、を用いて、前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定し、
前記膨張弁開度が全開であるときには、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、を用いて、前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定する、
請求項1に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項3】
前記圧縮機入口の冷媒状態量は、吸入過熱度または吸入温度である、請求項1または2に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項4】
前記圧縮機出口の冷媒状態量は、吐出過熱度または吐出温度である、請求項1または2に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項5】
前記冷媒循環量に関する値は、前記冷凍空調装置の能力または前記能力の最大能力に対する比率、前記圧縮機回転数または前記圧縮機回転数の最大回転数に対する比率、前記圧縮機運転台数または前記圧縮機運転台数の最大運転台数に対する比率、前記圧縮機モーターのインバーター周波数、として定義される負荷率のいずれかである、請求項1または2に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項6】
前記冷凍空調装置は、前記膨張弁開度を変化させることで前記圧縮機の吸入過熱度または吐出過熱度を一定値に制御する、請求項1または2に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項7】
前記冷凍空調装置は、エコノマイザー熱交換器とエコノマイザー制御用膨張弁を備え、
前記膨張弁開度は、前記エコノマイザー制御用膨張弁の開度を含む、請求項1または2に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項8】
前記冷凍空調装置は、過冷却熱交換器と過冷却制御用膨張弁を備え、
前記膨張弁開度は、前記過冷却制御用膨張弁の開度を含む、請求項1または2に記載の冷媒漏洩検知装置。
【請求項9】
複数の異なる運転条件における冷凍空調装置の運転データを取得して記憶装置に蓄積するステップと、
前記記憶装置に蓄積した複数の異なる運転条件における運転データから、膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、冷媒漏洩に関する情報と、を含む教師データを作成するステップと、
前記教師データを用いて、前記冷凍空調装置の運用中の運転データが入力されると、前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定するための情報を出力する学習モデルを作成するステップと、
前記冷凍空調装置の運用中の運転データを前記学習モデルに入力し、出力された情報に基づいて前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定するステップと、
を含む冷媒漏洩判定方法。
【請求項10】
前記記憶装置の運転データは、保有冷媒の漏洩量が異なる複数の条件で運転されたデータを含み、
前記教師データは、前記冷媒漏洩量に関する量を目的変数とし、前記膨張弁開度と、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、のデータを説明変数に含み、
前記学習モデルは、前記冷凍空調装置の運用中の運転データから前記膨張弁開度と、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、が入力されると、前記冷凍空調装置の冷媒漏洩量に関する量を出力する、
請求項9に記載の冷媒漏洩判定方法。
【請求項11】
前記記憶装置の運転データは、保有冷媒量が漏洩のない規定量のみであり、前記規定量以外の状態量は異なる複数の条件で運転されたデータを含み、
前記学習モデルは、前記冷凍空調装置の運用中の運転データから前記膨張弁開度と、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、が入力されると、前記冷凍空調装置の冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を出力する、
請求項9に記載の冷媒漏洩判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷媒漏洩検知装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍空調装置が有する圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を接続する配管の内部を循環する冷媒の漏洩を、冷媒の圧力や温度等の状態量から検知する技術が知られている。例えば、凝縮器出口の冷媒温度と凝縮圧力相当飽和温度の差である過冷却度(サブクールとも呼ばれる)は、冷凍空調装置が保有する冷媒充填量との相関が高い。そのため、従来から冷媒が漏洩しているか否かを精度良く判定するために、過冷却度が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、必ずしもすべての冷凍空調装置が凝縮器出口の冷媒温度を計測するセンサを装備しているとは限らない。例えば、冷水チラー等は、そのようなセンサを装備していない場合が多い。凝縮器出口にセンサが無い場合には、過冷却度を算出することができず、他のセンサの計測値を利用して冷媒の漏洩を判定している。その場合、過冷却度を利用する場合より検知精度が低下してしまう。冷凍空調装置の設置後に、凝縮器出口にセンサを後付けする方法も可能ではあるが、センサ本体以外にデータ収集装置や冷媒漏洩判定ソフトも後付けで追加する必要があり費用がかかる。
【0005】
本開示では、過冷却度を利用できない場合でも、低コストで冷媒の漏洩を精度良く判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様による冷媒漏洩検知装置は、
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で接続し、配管内部を冷媒が循環する冷凍空調装置において、
前記冷凍空調装置の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、の運転データを取得し、
取得した前記運転データを用いて前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定する制御部を備える。
【0007】
本開示の第1の態様によれば、過冷却度を用いずとも、冷媒の漏洩を精度良く判定することができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記制御部は、
前記膨張弁開度が全開ではないときには、前記膨張弁開度と、前記冷媒循環量に関する値と、を用いて、前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定し、
前記膨張弁開度が全開であるときには、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、を用いて、前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定する。
【0009】
本開示の第2の態様によれば、冷凍空調装置の設計仕様により冷媒が漏洩していない時に膨張弁が全開になる場合でも、冷媒の漏洩を精度良く判定することができる。
【0010】
本開示の第3の態様は、第1の態様または第2の態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記圧縮機入口の冷媒状態量は、吸入過熱度または吸入温度である。
【0011】
本開示の第3の態様によれば、冷媒の漏洩が発生すると上昇する吸入過熱度または吸入温度を用いる。通常の冷凍空調装置は、吸入過熱度を一定にするように制御されるため、吸入過熱度を計算するための圧縮機入口の冷媒温度を計測するセンサと吸入圧力相当飽和温度取得手段を装備しているため、確実に冷媒の漏洩を判定することができる。
【0012】
本開示の第4の態様は、第1の態様から第3の態様のいずれかの態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記圧縮機出口の冷媒状態量は、吐出過熱度または吐出温度である。
【0013】
本開示の第4の態様によれば、冷媒の漏洩と誤検知される可能性がある湿り運転(圧縮機が液冷媒を吸入する状態で運転されること)時に湿りの程度に応じて値が変化する吐出過熱度または吐出温度を用いるので、湿り状態を検知しやすい(なお、吸入過熱度または吸入温度は、湿りの程度にかかわらず値が一定である)。
【0014】
本開示の第5の態様は、第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記冷媒循環量に関する値は、前記冷凍空調装置の能力または前記能力の最大能力に対する比率、前記圧縮機回転数または前記圧縮機回転数の最大回転数に対する比率、前記圧縮機運転台数または前記圧縮機運転台数の最大運転台数に対する比率、前記圧縮機モーターのインバーター周波数、として定義される負荷率のいずれかである。
【0015】
本開示の第5の態様によれば、冷媒の循環量と相関が大きく、低コストで算出できる負荷率を用いるので、計測に高価なセンサを必要とする冷媒の循環量を測定せずに済む。
【0016】
本開示の第6の態様は、第1の態様から第5の態様のいずれかの態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記冷凍空調装置は、前記膨張弁開度を変化させることで前記圧縮機の吸入過熱度または吐出過熱度を一定値に制御する。
【0017】
本開示の第6の態様によれば、膨張弁開度が全開になるまでは、冷媒の漏洩が発生しても吸入過熱度または吐出過熱度が一定に制御されるため、吸入過熱度または吐出過熱度では冷媒の漏洩を検知できないが、逆に膨張弁開度により精度良く冷媒の漏洩を判定することができる。
【0018】
本開示の第7の態様は、第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記冷凍空調装置は、エコノマイザー熱交換器とエコノマイザー制御用膨張弁を備え、
前記膨張弁開度は、前記エコノマイザー制御用膨張弁の開度を含む。
【0019】
本開示の第7の態様によれば、エコノマイザーを有する冷凍空調装置の冷媒の漏洩を精度良く判定できる。
【0020】
本開示の第8の態様は、第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に記載の冷媒漏洩検知装置であって、
前記冷凍空調装置は、過冷却熱交換器と過冷却制御用膨張弁を備え、
前記膨張弁開度は、前記過冷却制御用膨張弁の開度を含む。
【0021】
本開示の第8の態様によれば、過冷却熱交換器を有する冷凍空調装置の冷媒の漏洩を精度良く判定できる。
【0022】
本開示の第9の態様による方法は、
複数の異なる運転条件における冷凍空調装置の運転データを取得して記憶装置に蓄積するステップと、
前記記憶装置に蓄積した複数の異なる運転条件における運転データから、膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、冷媒漏洩に関する情報と、を含む教師データを作成するステップと、
前記教師データを用いて、前記冷凍空調装置の運用中の運転データが入力されると、前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定するための情報を出力する学習モデルを作成するステップと、
前記冷凍空調装置の運用中の運転データを前記学習モデルに入力し、出力された情報に基づいて前記冷凍空調装置の冷媒の漏洩を判定するステップと、
を含む。
【0023】
本開示の第9の態様によれば、過冷却度を教師データに用いることなく学習モデルを用いて、冷媒の漏洩を精度よく判定することができる。
【0024】
本開示の第10の態様は、第9の態様に記載の方法であって、
前記記憶装置の運転データは、保有冷媒の漏洩量が異なる複数の条件で運転されたデータを含み、
前記教師データは、前記冷媒漏洩量に関する量を目的変数とし、前記膨張弁開度と、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、のデータを説明変数に含み、
前記学習モデルは、前記冷凍空調装置の運用中の運転データから前記膨張弁開度と、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、が入力されると、前記冷凍空調装置の冷媒漏洩量に関する量を出力する。
【0025】
本開示の第10の態様によれば、学習モデルが、冷凍空調装置の冷媒量が、規定量、不足、過剰等の複数の条件での運転データを教師データとして学習するため、更に精度よく冷媒の漏洩を判定することができる。
【0026】
本開示の第11の態様は、第9の態様に記載の方法であって、
前記記憶装置の運転データは、保有冷媒量が漏洩のない規定量のみであり、前記規定量以外の状態量は異なる複数の条件で運転されたデータを含み、
前記学習モデルは、前記冷凍空調装置の運用中の運転データから前記膨張弁開度と、前記圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、前記冷媒循環量に関する値と、が入力されると、前記冷凍空調装置の冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を出力する。
【0027】
本開示の第11の態様によれば、冷媒が漏洩していない正常時からの乖離を予測して、冷媒の漏洩を判定するため、入手することが困難な冷媒量不足や過剰のデータは不要で、正常運転時のデータだけで教師データを作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】冷凍空調装置の運転データに含まれる特徴量と冷凍空調装置の保有する冷媒量との相関係数を示す。
【
図2】冷凍空調装置の圧縮機の各負荷率における、膨張弁開度と冷媒量の相関および圧縮機の吐出過熱度と冷媒量の相関について説明するための図である。
【
図3】冷凍空調装置の負荷率が100%であるときの膨張弁開度と冷媒量の関係および圧縮機の吐出過熱度と冷媒量の関係、冷凍空調装置の負荷率が100%未満であるときの膨張弁開度と冷媒量の関係および圧縮機の吐出過熱度と冷媒量の関係を模式的に表した図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る全体の構成を示す図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る冷凍空調装置について説明するための図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る冷媒漏洩検知装置および学習装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る制御部の機能ブロックを示す図(冷媒の漏洩の判定)である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る制御部の機能ブロックを示す図(学習モデルの作成)である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩量または保有量に基づく判定、および、冷媒が漏洩していない正常時からの乖離に基づく判定について説明するための図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩の判定処理のフローチャートである。
【
図11】本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩量または保有量に基づく判定処理のフローチャートである。
【
図12】本開示の一実施形態に係る冷媒が漏洩してない正常時からの乖離に基づく判定処理のフローチャートである。
【
図13】本開示の一実施形態に係る学習処理のフローチャートである。
【
図14】本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩の判定の精度を示す図である。
【
図15】本開示の一実施形態に係るエコノマイザーを有する冷凍空調装置の一例である。
【
図16】本開示の一実施形態に係る過冷却熱交換器を有する冷凍空調装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本開示の実施の形態を説明する。
【0030】
まず、
図1~
図3を参照しながら、冷媒量と強い相関があり、冷媒の漏洩検知に適する指標の探索結果について説明する。
【0031】
図1は、様々な条件で運転された冷凍空調装置の運転データに含まれる特徴量と冷凍空調装置の保有する冷媒量との相関係数を示す。特徴量には、冷凍サイクルに関連する温度、圧力、電流値等の物理量と冷凍空調装置を構成する圧縮機、膨張弁、ファン等の部品に対する制御指令値が含まれている。このような特徴量の単体と、複数の特徴量同士で四則演算させた組み合わせから、冷媒量と相関が高く冷媒量を推定する指標に適した特徴量を探索した。
【0032】
図1に示されるように、冷媒量と最も強い相関があったのは、「過冷却度(相関係数:0.51)」であった。その次に強い相関があったのは、「圧縮機の吐出過熱度と膨張弁開度の組み合わせ(相関係数:-0.49)」であった。その次に強い相関があったのは、「膨張弁開度(相関係数:-0.43)」であった。なお、「圧縮機の吐出過熱度」と冷媒量の相関係数は弱く、0.08であった。
【0033】
従来冷媒の漏洩の指標として用いられていた「過冷却度」以外では、「圧縮機の吐出過熱度と膨張弁開度の組み合わせ」が最良の指標であることが分かった。また、「膨張弁開度」は、単体でも冷媒量と強い相関があるが、単体での相関が弱い「圧縮機の吐出過熱度」と組合わせることで「膨張弁開度」単体よりも冷媒量との相関が強くなることも分かった。
【0034】
「圧縮機の吐出過熱度と膨張弁開度の組み合わせ」が「膨張弁開度」よりも相関が強くなるのは、「圧縮機の吐出過熱度」と冷媒量の相関が強くなる運転条件があるためだと考えられる(上記のとおり、「圧縮機の吐出過熱度」単体では冷媒量の相関が弱い)。そこで、圧縮機の負荷率毎に「膨張弁開度」と「圧縮機の吐出過熱度」のデータを抽出し、冷媒量に対する相関係数を計算した。ここで、圧縮機の負荷率は、回転数がインバーターで制御される圧縮機の回転数の最大回転数に対する比率である。なお、このように定義された「負荷率」は、冷凍空調装置の冷媒循環量や冷熱もしくは温熱の供給能力と強い相関を持つ。計算結果を
図2および
図3を参照しながら説明する。
【0035】
図2は、冷凍空調装置の圧縮機の各負荷率における、膨張弁開度と冷媒量の相関および圧縮機の吐出過熱度と冷媒量の相関について説明するための図である。グラフの横軸は、冷凍空調装置の各負荷率(33%、58%、75%、100%)であり、縦軸は各負荷率において冷媒量を変化させた場合(80%、85%、90%、100%)の膨張弁開度と圧縮機の吐出過熱度の冷媒量に対する相関係数を示す。
【0036】
膨張弁開度は、冷媒量が減少すると増加する負の相関を示し、負荷率が100%にならない時は、冷媒量と強い相関がある。負荷率が100%の時は、相関係数は0となっている。吐出過熱度は、低負荷率(33%、58%)の時に冷媒量との相関が弱く、負荷率が100%の時にきわめて強い負の相関(相関係数-0.91)を示している。
【0037】
冷媒の漏洩が発生すると圧縮機の吸入過熱度が上昇するため、その影響で圧縮機の吐出過熱度も上昇する。一般的に、冷凍空調装置は、吸入過熱度が一定になるよう制御するため、少量の冷媒の漏洩であれば膨張弁開度を大きくすることで吸入過熱度を一定に維持し、吐出過熱度も一定になる。
【0038】
そのため、負荷率が低い時は、膨張弁開度が小さく、膨張弁開度を増大させる余裕が大きいため、冷媒量が減少しても、吸入過熱度と吐出過熱度が一定に制御されるため、冷媒量と吐出過熱度の相関係数が小さくなったと考えられる。逆にこの時、膨張弁開度は、冷媒の減少量にあわせて膨張弁開度を増大ざせるため、冷媒量との相関係数が大きくなる。
【0039】
負荷率が高くなると、冷媒が漏洩していない時でも膨張弁開度が全開に近くなり、更に増大させる余裕が少なくなる。その結果、冷媒量が減少した時の吸入過熱度を一定に保つ能力が低下する。この冷凍空調装置が負荷率が100%の時に、吐出過熱度と冷媒量の相関係数が0になっている理由は、冷媒量にかかわらず膨張弁開度が全開となるからである。この状態では、吸入過熱度の一定制御が機能しなくなっており、吸入過熱度と吐出過熱度が上昇し、吐出過熱度と冷媒量の相関係数が大きくなる。
【0040】
図3は、上記の内容を整理して、冷凍空調装置の負荷率が100%であるときの膨張弁開度と冷媒量の関係および圧縮機の吐出過熱度と冷媒量の関係、冷凍空調装置の負荷率が100%未満であるときの膨張弁開度と冷媒量の関係および圧縮機の吐出過熱度と冷媒量の関係を模式的に表した図である
【0041】
負荷率100%では、冷媒量にかかわらず膨張弁が全開(膨張弁開度が100%である)となり、膨張弁開度の冷媒量に対する相関が0になるため、膨張弁開度は冷媒量の指標として機能しない。この場合、吐出過熱度は、冷媒量と強い負の相関を示すので冷媒量の指標として利用可能である。
【0042】
負荷率100%未満では、膨張弁による吸入過熱度の一定制御が機能するため、吐出過熱度もほぼ一定に制御され、冷媒量とは無相関となる。従ってこの場合、吐出過熱度は、冷媒量の指標として利用できない。逆にこの状態では、膨張弁開度が全開となるまで、冷媒量に応じて膨張弁開度が変化するため、膨張弁開度を指標として冷媒の漏洩の検知が可能である。
【0043】
以上より、膨張弁開度が100%(この事例では負荷率100%)では、圧縮機の吐出過熱度が冷媒の漏洩の指標に適しており、膨張弁開度が100%未満(負荷率100%未満)では、膨張弁開度が冷媒の漏洩の指標に適していることが分かった。
【0044】
なお、この事例では、負荷率100%で膨張弁開度が全開(100%)であり、負荷率75%では全開でないが、その間の負荷率のデータがないため、その間の負荷率で膨張弁開度が全開になっている可能性もある。また機種によっては、冷媒が漏洩していない状態の負荷率100%では膨張弁開度が全開にならない場合もある。従って必ずしも負荷率100%で膨張弁開度が全開になるとは限らない。ただし、その様な場合でも、膨張弁開度が全開になる時点で、冷媒の漏洩の指標を膨張弁開度から吐出温度に切り替えればよい。
【0045】
また、上記で説明したように、吸入過熱度と吐出過熱度の冷媒量に対する相関は同じ傾向になるので、吐出過熱度の代替指標として吸入過熱度を使用してもよい。同様に冷凍サイクルの高圧と低圧の変動が小さい場合は、吸入温度や吐出温度を指標にしてもよい。
【0046】
上記で抽出した冷媒の漏洩の指標である膨張弁開度と吐出過熱度は、冷媒の循環量に応じても変化する。そのため、冷媒の循環量による変化を補正して、冷媒の漏洩による変化量だけを抽出することが必要である。そこで、冷媒の指標を補正する特徴量として、さらに、冷媒の循環量を用いることとした。例えば、膨張弁開度が100%であるときには、吐出過熱度を冷媒の循環量で補正し、膨張弁開度が100%未満であるときには、膨張弁開度を冷媒の循環量で補正すればよい。ただし、一般的に冷媒の循環量の計測には高価なセンサが必要なため、循環量との相関が大きく、簡単に取得できる特徴量である、圧縮機の負荷率等を補正に使用してもよい。
【0047】
<全体の構成>
図4は、本開示の一実施形態に係る全体の構成を示す図である。冷媒漏洩検知システム1は、冷媒漏洩検知装置10と、学習装置20と、冷凍空調装置30と、を含むことができる。以下、それぞれについて説明する。
【0048】
<<冷媒漏洩検知装置>>
冷媒漏洩検知装置10は、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を検知する装置である。冷媒漏洩検知装置10は、冷凍空調装置30の運転データを取得して、当該冷凍空調装置30の冷媒が漏洩しているか否かを判定する。例えば、冷媒漏洩検知装置10は、学習装置20が作成した学習モデルを用いて、冷媒の漏洩を判定することができる。冷媒漏洩検知装置10は、1つまたは複数のコンピュータから構成される。
【0049】
<<学習装置>>
学習装置20は、冷凍空調装置30の運用中の運転データが入力されると、当該冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定するための情報が出力される学習モデルを作成する装置である。学習装置20は、1つまたは複数のコンピュータから構成される。
【0050】
<<冷凍空調装置>>
冷凍空調装置30は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で接続し、当該配管の内部を冷媒が循環する冷媒回路を有する。冷凍空調装置30は、膨張弁の開度を変化させることで圧縮機の吸入過熱度または吐出過熱度を一定値に制御する。
図5を参照しながら、冷凍空調装置30について詳細に説明する。
【0051】
図5は、本開示の一実施形態に係る冷凍空調装置30について説明するための図である。
【0052】
冷凍空調装置30は、圧縮機301と、凝縮器302と、膨張弁303と、蒸発器304と、を有する。圧縮機301と、凝縮器302と、膨張弁303と、蒸発器304と、は配管で接続され、冷媒が配管の内部を循環する。蒸発器304が冷水を作り、凝縮器302が空気または水に排熱する。
【0053】
例えば、セントラル方式の空調システム300は、冷凍空調装置30(つまり、熱源装置)と室内に設置する二次側機器(室内ユニット)31を含む。二次側機器(室内ユニット)31として、ファンコイル305は、冷凍空調装置30から送水される冷水から冷風を作って室内に吹き出し、室内を冷房する。
【0054】
<ハードウェア構成>
図6は、本開示の一実施形態に係る冷媒漏洩検知装置10および学習装置20のハードウェア構成を示す図である。冷媒漏洩検知装置10および学習装置20は、制御部1001と、主記憶部1002と、補助記憶部1003と、入力部1004と、出力部1005と、インタフェース部1006と、を備えることができる。以下、それぞれについて説明する。
【0055】
制御部1001は、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを実行するプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)など)である。
【0056】
主記憶部1002は、不揮発性メモリ(ROM(Read Only Memory))および揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))を含む。ROMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを制御部1001が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する。RAMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムが制御部1001によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0057】
補助記憶部1003は、各種プログラムや、各種プログラムが実行される際に用いられる情報を格納する補助記憶デバイスである。
【0058】
入力部1004は、冷媒漏洩検知装置10および学習装置20の操作者が冷媒漏洩検知装置10および学習装置20に対して各種指示を入力する入力デバイスである。
【0059】
出力部1005は、冷媒漏洩検知装置10および学習装置20の内部状態等を出力する出力デバイスである。
【0060】
インタフェース部1006は、ネットワークに接続し、他の装置と通信を行うための通信デバイスである。
【0061】
<機能ブロック>
図7は、本開示の一実施形態に係る制御部1001の機能ブロックを示す図(冷媒の漏洩の判定)である。制御部1001は、運転データ取得部101と、判定部102と、を備えることができる。制御部1001は、プログラムを実行することによって、運転データ取得部101、判定部102として機能することができる。
【0062】
運転データ取得部101は、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、の運転データ(つまり、運用中の冷凍空調装置30の膨張弁開度、および、圧縮機入口または出口の冷媒状態量、および、冷媒循環量に関する値)を取得する。
【0063】
判定部102は、運転データ取得部101が取得した運転データを用いて冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定する。
【0064】
判定部102は、膨張弁開度が全開ではないときには、膨張弁開度と、冷媒循環量に関する値と、を用いて、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定し、膨張弁開度が全開であるときには、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、を用いて、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定することができる。
【0065】
[冷媒の漏洩量・保有量の予測]
例えば、判定部102は、冷媒漏洩量に関する値(例えば、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩量(漏洩している量)または冷媒の保有量(保有している量))を予測して、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0066】
[正常時からの乖離の予測]
例えば、判定部102は、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測して、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0067】
判定部102は、[冷媒の漏洩量・保有量の予測]の場合も[正常時からの乖離の予測]の場合も、学習モデルを用いて予測してもよいし、回帰式を用いて予測してもよいし、マップを用いて予測してもよい。
【0068】
以下、詳細に説明する。
【0069】
<<学習モデルの場合>>
判定部102は、学習モデルに、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、を入力して、冷媒漏洩量に関する値(例えば、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩量(漏洩している量)または冷媒の保有量(保有している量))を出力する。
【0070】
なお、判定部102は、膨張弁開度<100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)の2つの学習モデルを用いてもよい。
【0071】
判定部102は、学習モデルに、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、を入力して、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を出力する。
【0072】
なお、判定部102は、膨張弁開度<100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)の2つの学習モデルを用いてもよい。
【0073】
<<回帰式の場合>>
【0074】
判定部102は、回帰式を用いて、冷媒漏洩量に関する値(例えば、冷凍空調装置30の冷媒の保有量(保有している量))を算出することができる。なお、回帰式は多項式に限られない。なお、以下、吐出過熱度の場合(y=吐出過熱度)の回帰式を説明するが、吐出温度、吸入過熱度、吸入温度の場合も同様である(y=吐出温度、吸入過熱度、吸入温度となる)。
【0075】
[例1]
例えば、判定部102は、3つの説明変数を統合した形式(式(1))を用いる。式(1)の場合、膨張弁開度が全開でない場合と全開である場合の指標の切替を外部から指示する必要はなく、入力条件に応じて主膨張弁開度と吐出過熱度を使用する重みが自動的に考慮される。
【0076】
【0077】
冷媒量予測値:冷凍空調装置30の冷媒の保有量(保有している量)
x:主膨張弁開度
y:圧縮機の吐出過熱度
z:循環量に関する値
ωk:重みパラメータ,l,m,n:0~3の整数,l+m+n=<3
【0078】
例えば、判定部102は、膨張弁開度で場合分けして2つの式を使い分ける。膨張弁開度<100%の場合、冷媒循環量に関する値で主膨張弁開度を補正する。膨張弁開度=100%(全開)の場合、冷媒循環量に関する値で圧縮機の吐出過熱度を補正する。
【0079】
膨張弁開度<100%の場合、下記の式(2)が用いられる。
【0080】
【0081】
冷媒量予測値:冷凍空調装置30の冷媒の保有量(保有している量)
x:主膨張弁開度
z:循環量に関する値
ωk:重みパラメータ,l,n:0~2の整数,l+n=<2
【0082】
膨張弁開度=100%(全開)の場合、下記の式(3)が用いられる。
【0083】
【0084】
冷媒量予測値:冷凍空調装置30の冷媒の保有量(保有している量)
y:圧縮機の吐出過熱度
z:循環量に関する値
ωk:重みパラメータ,m,n:0~2の整数,m+n=<2
【0085】
[マップの場合]
判定部102は、「膨張弁開度、および、圧縮機入口または出口の冷媒状態量、および、冷媒循環量に関する値」と「冷媒の漏洩を判定するための情報(例えば、冷媒が漏洩している、あるいは、冷媒が漏洩していない)」との対応関係を定めたルール(マップ)を用いて、冷媒の漏洩を判定してもよい。
【0086】
[圧縮機入口または出口の冷媒状態量]
ここで、圧縮機入口または出口の冷媒状態量について説明する。
【0087】
圧縮機入口の冷媒状態量は、冷媒の漏洩と相関が強い、吸入過熱度または吸入温度である。
【0088】
圧縮機出口の冷媒状態量は、冷媒の漏洩と相関が強い、吐出過熱度または吐出温度である。
【0089】
[冷媒循環量に関する値]
ここで、冷媒循環量に関する値について説明する。冷媒循環量に関する値は、冷媒循環量と相関が強い運転データ(例えば、負荷率)の値であってもよいし、冷媒循環量の値(つまり、実際に計測された値)であってもよい。例えば、冷媒循環量に関する値は、冷凍空調装置30の能力または当該能力の最大能力に対する比率、圧縮機回転数または当該圧縮機回転数の最大回転数に対する比率、圧縮機運転台数または当該圧縮機運転台数の最大運転台数に対する比率、圧縮機モーターのインバーター周波数、として定義される負荷率のいずれかである。
【0090】
以下、冷凍空調装置30が複数の圧縮機を有する(例えば、圧縮機Aと圧縮機B)場合の負荷率について説明する。
【0091】
例えば、全て定速圧縮機の場合(つまり、圧縮機Aと圧縮機Bともに定速である場合)、負荷率は、
負荷率(%)=(運転中の圧縮機の台数/総圧縮機台数)×100
で定義される。
【0092】
例えば、定速圧縮機とインバーター圧縮機の組み合わせの場合(圧縮機Aが定速、圧縮機Bがインバーターであるとする)、負荷率は、
合成回転数=Ra+Rb
Ra:定速圧縮機Aのインバーター圧縮機の等価回転数
Rb:インバーター圧縮機Bの回転数
で定義される。
【0093】
例えば、全てインバーター圧縮機の場合(つまり、圧縮機Aと圧縮機Bともにインバーターである場合)、負荷率は、
合成回転数=Ka・Ra+Kb・Rb
Ra:インバーター圧縮機Aの回転数
Rb:インバーター圧縮機Bの回転数
Ka,Kb:定数
で定義される。
【0094】
[膨張弁開度]
ここで、膨張弁開度について説明する。膨張弁開度は、主膨張弁の開度のみが用いられてもよいし、主膨張弁の開度とエコノマイザー制御用膨張弁の開度が用いられてもよいし、主膨張弁の開度と過冷却熱交換器制御用膨張弁の開度が用いられてもよい。
【0095】
図15は、本開示の一実施形態に係るエコノマイザー3003を有する冷凍空調装置の一例である。主膨張弁3005の開度とエコノマイザー制御用膨張弁3004の開度が用いられる場合、下記の式(4)で冷媒量が予測される。なお、エコノマイザー3003を有する冷凍空調装置がエコノマイザー3003を利用しない場合には、主膨張弁3005の開度のみを用いる。
【0096】
【0097】
冷媒量予測値:冷凍空調装置30の冷媒の保有量(保有している量)
x1:主膨張弁開度
x2:エコノマイザー制御用膨張弁の開度
y:圧縮機の吐出過熱度
z:循環量に関する値
ωk:重みパラメータ,l1,l2,m,n:0~4の整数,l1+l2+m+n=<4
【0098】
図16は、本開示の一実施形態に係る過冷却熱交換器3013を有する冷凍空調装置の一例である。主膨張弁3015の開度と過冷却熱交換器制御用膨張弁3014の開度が用いられる場合、下記の式(5)で冷媒量が予測される。なお、ビル用(業務用)マルチエアコンの冷房時には、主膨張弁3015が全開で固定され、各室内機3017の膨張弁3016で高低差圧を制御するため、過冷却熱交換器制御用膨張弁3014の開度のみを用いてもよいし、主膨張弁3015の開度の代わりとしての室内膨張弁3016の平均開度と、過冷却熱交換器制御用膨張弁3014の開度と、の2つを用いてもよい。
【0099】
【0100】
冷媒量予測値:冷凍空調装置30の冷媒の保有量(保有している量)
x1:主膨張弁開度
x2:過冷却熱交換器制御用膨張弁の開度
y:圧縮機の吐出過熱度
z:循環量に関する値
ωk:重みパラメータ,l1,l2,m,n:0~4の整数,l1+l2+m+n=<4
【0101】
図8は、本開示の一実施形態に係る制御部1001の機能ブロックを示す図(学習モデルの作成)である。制御部1001は、運転データ取得部201と、学習モデル作成部202と、を備えることができる。制御部1001は、プログラムを実行することによって、運転データ取得部201、学習モデル作成部202として機能することができる。
【0102】
運転データ取得部101は、複数の異なる運転条件における冷凍空調装置30の運転データを取得して、任意の記憶装置203に蓄積(記憶)する。
【0103】
学習モデル作成部202は、冷凍空調装置30の運用中の運転データ(つまり、運用中の冷凍空調装置30の膨張弁開度、および、圧縮機入口または出口の冷媒状態量、および、冷媒循環量に関する値)が入力されると、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定するための情報が出力される学習モデルを作成する。
【0104】
図9は、本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩量または保有量に基づく判定、および、冷媒が漏洩していない正常時からの乖離に基づく判定について説明するための図である。
【0105】
[例1]
例1は、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、から、冷媒漏洩量に関する値(例えば、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩量(漏洩している量)または冷媒の保有量(保有している量))を予測する例を示す。なお、学習モデルを用いて予測してもよいし、回帰式を用いて予測してもよいし、マップを用いて予測してもよい。
【0106】
膨張弁開度<100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)の2つを作成して、膨張弁開度に応じた学習モデルを用いるようにしてもよい。
【0107】
膨張弁開度<100%の場合に用いる回帰式(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いる回帰式(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)の2つを作成して、膨張弁開度に応じた回帰式を用いるようにしてもよい。
【0108】
膨張弁開度<100%の場合に用いるマップ(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いるマップ(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒漏洩量に関する値を予測する)の2つを作成して、膨張弁開度に応じたマップを用いるようにしてもよい。
【0109】
例1の場合、学習モデルを作成するために用いられる運転データは、保有冷媒の漏洩量が異なる複数の条件で運転されたデータ(詳細には、冷媒が漏洩していないときの運転データ、冷媒が漏洩しているときの運転データ、冷媒が過充填であるときの運転データ)を含む。例1の場合、教師データは、冷媒漏洩量に関する量を目的変数とし、膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、のデータを説明変数とする。
【0110】
[例2]
例2は、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する例を示す。なお、学習モデルを用いて予測してもよいし、回帰式を用いて予測してもよいし、マップを用いて予測してもよい。
【0111】
膨張弁開度<100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いる学習モデル(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)の2つを作成して、膨張弁開度に応じた学習モデルを用いるようにしてもよい。
【0112】
膨張弁開度<100%の場合に用いる回帰式(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いる回帰式(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)の2つを作成して、膨張弁開度に応じた回帰式を用いるようにしてもよい。
【0113】
膨張弁開度<100%の場合に用いるマップ(詳細には、膨張弁開度と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)と膨張弁開度=100%の場合に用いるマップ(詳細には、吐出過熱度等と冷媒循環量に関する値から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する)の2つを作成して、膨張弁開度に応じたマップを用いるようにしてもよい。
【0114】
例2の場合、学習モデルを作成するために用いられる運転データは、保有冷媒量が漏洩のない規定量のみであり、当該規定量以外の状態量(例えば、圧縮機回転数、膨張弁開度、外気温、室温等)は異なる複数の条件で運転されたデータ(詳細には、冷媒が漏洩していないまたは冷媒が過充填ではない、かつ、冷媒の条件以外の条件は異なる運転データ)を含む。
【0115】
<方法>
図10は、本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩の判定処理のフローチャートである。
【0116】
ステップ1(S1)において、冷媒漏洩検知装置10は、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、の運転データを取得する。
【0117】
ステップ2(S2)において、冷媒漏洩検知装置10は、S1で取得した運転データ(つまり、冷凍空調装置30の膨張弁開度、および、圧縮機入口または出口の冷媒状態量、および、冷媒循環量に関する値)を用いて、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定する。
【0118】
図11は、本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩量または保有量に基づく判定処理(
図10のS2の判定処理の一例)のフローチャートである。
【0119】
ステップ101(S101)において、冷媒漏洩検知装置10は、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、から冷媒漏洩量に関する量(例えば、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩量(漏洩している量)または冷媒の保有量(保有している量))を予測する。
【0120】
ステップ102(S102)において、冷媒漏洩検知装置10は、S101で予測された冷媒漏洩量に関する量に基づいて、冷媒の漏洩を判定する。
【0121】
図12は、本開示の一実施形態に係る冷媒が漏洩してない正常時からの乖離に基づく判定処理(
図10のS2の判定処理の一例)のフローチャートである。
【0122】
ステップ111(S111)において、冷媒漏洩検知装置10は、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、から、冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を予測する。
【0123】
ステップ112(S112)において、冷媒漏洩検知装置10は、S111で予測された冷媒が漏洩していない状態からの乖離度に基づいて、冷媒の漏洩を判定する。
【0124】
図13は、本開示の一実施形態に係る学習処理のフローチャートである。
【0125】
ステップ201(S201)において、学習装置20は、複数の異なる運転条件における冷凍空調装置30の運転データを取得して記憶装置203に蓄積(記憶)する。
【0126】
ステップ202(S202)において、学習装置20は、S201で記憶装置203に蓄積した複数の異なる運転条件における運転データから、膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、冷媒漏洩に関する情報と、を含む教師データを作成する。例えば、学習装置20は、学習装置20の操作者の指示にしたがって、教師データを作成する。
【0127】
ステップ203(S203)において、学習装置20は、冷凍空調装置30の運用中の運転データが入力されると、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定するための情報(例えば、"冷媒漏洩量に関する量"、あるいは、"冷媒が漏洩していない状態からの乖離度")が出力される学習モデルを作成する。
【0128】
<冷媒の漏洩の指標と冷媒量との相関係数の改善効果>
図14は、本開示の一実施形態に係る冷媒の漏洩の判定の指標の冷媒量との相関係数の改善効果を示す図である。詳細には、冷媒の保有量が異なる冷凍空調装置30の運転データから抽出した特徴量と、式(1)に膨張弁開度、圧縮機の吐出過熱度、冷媒循環量に関する値として圧縮機の負荷率を入力して得られた冷媒量予測値と実際の冷媒量との相関係数を示す。
【0129】
式(1)で、膨張弁開度と吐出過熱度を冷媒量循環量に相当する圧縮機の負荷率で補正して予測した冷媒量予測値と実際の冷媒量との相関係数は0.92となった。負荷率で補正をしたことにより、吐出過熱度×膨張弁開度の相関係数-0.49はもちろん、過冷却度の相関係数0.51をも大きく上回る値になっている。
【0130】
以上、本開示の実施形態によれば、圧縮機301、凝縮器302、膨張弁303、蒸発器304を配管で接続し、配管内部を冷媒が循環する冷凍空調装置30において、冷凍空調装置30の膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、の運転データを取得し、取得した運転データを用いて冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定する制御部1001を備える、冷媒漏洩検知装置10を提供することができる。
【0131】
これにより、過冷却度を用いずに、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0132】
好ましくは、制御部1001は、膨張弁開度が全開ではないときには、膨張弁開度と、冷媒循環量に関する値と、を用いて、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定し、膨張弁開度が全開であるときには、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、を用いて、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定する。これにより、膨張弁の開度に応じて、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0133】
好ましくは、圧縮機入口の冷媒状態量は、吸入過熱度または吸入温度である。これにより、冷媒の漏洩が発生すると上昇する吸入過熱度または吸入温度を用いるので、冷媒の漏洩の判定の精度を上げることができる。
【0134】
好ましくは、圧縮機出口の冷媒状態量は、吐出過熱度または吐出温度である。これにより、冷媒の漏洩と誤検知される可能性がある湿り運転(圧縮機に冷媒液が入った状態で運転されること)時に湿りの程度に応じて値が変化する吐出過熱度または吐出温度を用いるので、湿り状態を検知しやすい(なお、吸入過熱度または吸入温度は、湿りの程度にかかわらず値が一定である)。
【0135】
好ましくは、冷媒循環量に関する値は、冷凍空調装置の能力または当該能力の最大能力に対する比率、圧縮機回転数または当該圧縮機回転数の最大回転数に対する比率、圧縮機運転台数または当該圧縮機運転台数の最大運転台数に対する比率、圧縮機モーターのインバーター周波数、として定義される負荷率のいずれかである。これにより、冷媒の循環量と相関が大きい負荷率を用いるので、冷媒の循環量を測定せずに済む。
【0136】
好ましくは、冷凍空調装置30は、膨張弁開度を変化させることで圧縮機の吸入過熱度または吐出過熱度を一定値に制御する。これにより、膨張弁開度の変化から、冷媒の漏洩が発生すると上昇する吸入過熱度または吐出過熱度の変化を把握することができる。
【0137】
好ましくは、冷凍空調装置30は、エコノマイザー熱交換器とエコノマイザー制御用膨張弁を備え、膨張弁開度は、当該エコノマイザー制御用膨張弁の開度を含む。これにより、エコノマイザーを有する冷凍空調装置の冷媒の漏洩の判定の精度を上げることができる。
【0138】
好ましくは、冷凍空調装置30は、過冷却熱交換器と過冷却制御用膨張弁を備え、膨張弁開度は、当該過冷却制御用膨張弁の開度を含む。これにより、過冷却熱交換器を有する冷凍空調装置の冷媒の漏洩の判定の精度を上げることができる。
【0139】
本開示の実施形態によれば、複数の異なる運転条件における冷凍空調装置30の運転データを取得して記憶装置203に蓄積するステップと、当該記憶装置203に蓄積した複数の異なる運転条件における運転データから、膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、冷媒漏洩に関する情報と、を含む教師データを作成するステップと、当該教師データを用いて、冷凍空調装置30の運用中の運転データが入力されると、冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定するための情報を出力する学習モデルを作成するステップと、冷凍空調装置30の運用中の運転データを学習モデルに入力し、出力された情報に基づいて冷凍空調装置30の冷媒の漏洩を判定するステップと、を含む、冷媒漏洩判定方法を提供することができる。
【0140】
これにより、過冷却度を用いずに、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0141】
好ましくは、記憶装置203の運転データは、保有冷媒の漏洩量が異なる複数の条件で運転されたデータを含み、教師データは、冷媒漏洩量に関する量を目的変数とし、膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、のデータを説明変数に含み、学習モデルは、冷凍空調装置30の運用中の運転データから膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、が入力されると、冷凍空調装置30の冷媒漏洩量に関する量を出力する。これにより、冷凍空調装置30が冷媒の漏洩量または保有量を予測して、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0142】
好ましくは、記憶装置203の運転データは、保有冷媒量が漏洩のない規定量のみであり、当該規定量以外の状態量は異なる複数の条件で運転されたデータを含み、学習モデルは、冷凍空調装置30の運用中の運転データから膨張弁開度と、圧縮機入口または出口の冷媒状態量と、冷媒循環量に関する値と、が入力されると、冷凍空調装置30の冷媒が漏洩していない状態からの乖離度を出力する。これにより、冷媒が漏洩していない正常時からの乖離を予測して、冷媒の漏洩を判定することができる。
【0143】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0144】
1 冷媒漏洩検知システム
10 冷媒漏洩検知装置
20 学習装置
30 冷凍空調装置
31 二次側機器
101 運転データ取得部
102 判定部
201 運転データ取得部
202 学習モデル作成部
203 記憶装置
300 セントラル方式空調システム
301 圧縮機
302 凝縮器
303 膨張弁
304 蒸発器
305 ファンコイル
1001 制御部
1002 主記憶部
1003 補助記憶部
1004 入力部
1005 出力部
1006 インタフェース部