(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145223
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】グラウト用超速硬モルタル材料、モルタル硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20241004BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20241004BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20241004BHJP
C04B 22/04 20060101ALI20241004BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20241004BHJP
C04B 24/30 20060101ALI20241004BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B22/04
C04B24/18 Z
C04B24/30 A
C04B24/22 E
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057482
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高木 聡史
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MB23
4G112PB02
4G112PB23
4G112PB25
4G112PB35
4G112PC03
(57)【要約】
【課題】長期の膨張率を適度にすることができるグラウト用超速硬モルタル材料を提供することを目的とする。
【解決手段】セメントと、カルシウムアルミネートと、石膏とを含み、材齢3日、7日、及び28日の膨張率をそれぞれ、0.005~0.5%、0.01~0.75%、及び0.015~1.0%とする、グラウト用超速硬モルタル材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、カルシウムアルミネートと、石膏とを含み、
材齢3日、7日、及び28日の膨張率をそれぞれ、0.005~0.5%、0.01~0.75%、及び0.015~1.0%とする、グラウト用超速硬モルタル材料。
【請求項2】
練り混ぜ後の空気量が、0~5%となる、請求項1に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
【請求項3】
練り混ぜ後のフロー値が、170~320mmとなる、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
【請求項4】
練り混ぜ後のJ14ロート流下時間が、6~10秒となる、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
【請求項5】
発泡剤をさらに含む、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
【請求項6】
消泡剤をさらに含む、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
【請求項7】
リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、及びナフタレンスルホン系減水剤からなる群から選択される1種または2種以上の減水剤をさらに含む、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬用モルタル材料。
【請求項8】
請求項1または2に記載のグラウト用超速硬用モルタル材料を用いてなる、モルタル硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト用超速硬モルタル材料及びモルタル硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウトは、地下構造物の施工、橋梁支承部の据付け、各種機械類の据付け、耐震補強における壁、柱の間隙充填等に用いられており、近年、合理化施工の要求が高まってきているため、超速硬性を有し、自己充填性やセルフレベリング性を有するモルタル材料が求められている。
【0003】
モルタル材料は、セメントの水和または乾燥に伴って体積が減少することこら、グラウトとして使用した場合、ひび割れが発生したり、既存構造体との付着性能が低下したりする危険性がある、ひび割れの発生は美観を損ねるばかりか、構造物の安定性、防水性及び水密性に悪影響を与える危険性がある。
【0004】
そのため、セメントの収縮を補償し、ひび割れ発生抑制や、構造体との付着性能を保持する目的で、例えば、3CaO・3Al2O3・CaSO4(アウイン)、CaSO4及びCaOを主成分とするカルシウムサルホアルミネート系(アウイン系膨張材)、遊離石灰を主成分とする石灰系(石灰系膨張材)のほか、遊離石灰-水硬性物質-セッコウ類を含有してなる膨張材等が使用される。
【0005】
超速硬性に優れた材料としては、例えば、カルシウムアルミネート類や石膏類に、流動性を確保するために金属硫酸塩やフライアッシュ等を添加した超速硬性セメント組成物が知られている(特許文献1~3)。
また、カルシウムアルミネート、セッコウ類に炭酸リチウムを配合した超速硬セメント(特許文献4)、ポルトランドセメントにカルシウムアルミネート、無水セッコウ、炭酸リチウムおよび消石灰を配合したモルタルも提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03-12350号公報
【特許文献2】特開平01-230455号公報
【特許文献3】特開平11-139859号公報
【特許文献4】特開平01-290543号公報
【特許文献5】特開2005-75712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の材料では、長期の膨張まで考慮されておらず、グラウトとして構造物に施工後、長期間経過後の膨張が過度となり、構造物等に損傷を与える場合がある課題があった。したがって、初期から長期における膨張性能が考慮されたグラウト用のモルタル材料が求められている。
【0008】
以上より、本発明は、長期の膨張率を適度にすることができるグラウト用超速硬モルタル材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を行った結果、セメントと、カルシウムアルミネートと、石膏とを含み、初期の膨張率が所定の範囲内となるように調整したグラウト用超速硬モルタル材料により、当該課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] セメントと、カルシウムアルミネートと、石膏とを含み、材齢3日、7日、及び28日の膨張率をそれぞれ、0.005~0.5%、0.01~0.75%、及び0.015~1.0%とする、グラウト用超速硬モルタル材料。
[2] 練り混ぜ後の空気量が、0~5%となる、上記[1]に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
[3] 練り混ぜ後のフロー値が、170~320mmとなる、上記[1]または[2]に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
[4] 練り混ぜ後のJ14ロート流下時間が、6~10秒となる、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
[5] 発泡剤をさらに含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
[6] 消泡剤をさらに含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
[7] リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、及びナフタレンスルホン系減水剤からなる群から選択される1種または2種以上の減水剤をさらに含む、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のグラウト用超速硬用モルタル材料。
[8] 上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のグラウト用超速硬用モルタル材料を用いてなる、モルタル硬化体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期の膨張率を適度にすることができるグラウト用超速硬モルタル材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書における「%」及び「部」は特に規定しない限り質量基準とする。
【0013】
[グラウト用超速硬モルタル材料]
本発明のグラウト用超速硬モルタル材料は、セメントと、カルシウムアルミネートと、石膏とを含み、材齢3日、7日、及び28日の膨張率をそれぞれ、0.005~0.5%、0.01~0.75%、及び0.015~1.0%とする、グラウト用超速硬モルタル材料である。膨張率は、材齢3日≦材齢7日≦材齢28日であることが好ましい。
グラウト用超速硬モルタル材料は、水と練り混ぜることによりグラウトとして使用でき、初期の膨張率が所定の範囲内となるように調整することによって、長期の膨張率を適度にすることができる。これにより、グラウトとして構造物等に用いた場合に構造物等の損傷を防ぐことができる。なお、長期とは少なくとも材齢60日以上を指す。また、本発明における膨張率は、JIS A 6202:2017「コンクリート用膨張材」附属書A「膨張材のモルタルによる膨張性試験方法」に規定の方法に準拠した測定方法によるものである。
【0014】
グラウト用超速硬モルタル材料は、材齢3日の膨張率を0.005~0.5%とし、好ましくは0.01~0.4%、より好ましくは0.05~0.3%、さらに好ましくは0.1~0.2%とするものである。材齢3日の膨張率が、0.005%未満であると長期の膨張率が不足するおそれがあり、0.5%を超えると長期の膨張率が過度となるおそれがある。
【0015】
グラウト用超速硬モルタル材料は、材齢7日の膨張率を0.01~0.75%とし、好ましくは0.02~0.5%、より好ましくは0.08~0.4%、さらに好ましくは0.12~0.3%とするものである。材齢7日の膨張率が、0.01%未満であると長期の膨張率が不足するおそれがあり、0.75%を超えると長期の膨張率が過度となるおそれがある。
【0016】
グラウト用超速硬モルタル材料は、材齢28日の膨張率を0.015~1.0%とし、好ましくは0.03~0.6%、より好ましくは0.1~0.5%、さらに好ましくは0.16~0.4%とするものである。材齢28日の膨張率が、0.015%未満であると長期の膨張率が不足するおそれがあり、3.5%を超えると長期の膨張率が過度となるおそれがある。
【0017】
グラウト用超速硬モルタル材料は、練り混ぜ後の空気量が、0~5%となることが好ましく、0~4%となることがより好ましく、0~3%となることがさらに好ましい。練り混ぜ後の空気量が上記範囲内であると、強度発現性が向上する。なお、本発明における空気量は、JIS A 1116:2019「フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量方法)」に規定の方法に準拠して測定したものである。
【0018】
グラウト用超速硬モルタル材料は、練り混ぜ後のフロー値が、170~320mmとなることが好ましく、190~250mmとなることがより好ましく、200~220mmとなることがさらに好ましい。練り混ぜ後のフロー値が上記範囲内であると、充填性が向上する。なお、本発明におけるフロー値は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に規定の方法において、15回の落下運動を実施せずに測定したものである。
【0019】
グラウト用超速硬モルタル材料は、練り混ぜ後のJ14ロート流下時間が、6~10秒となることが好ましく、7~9秒となることがより好ましく、7.5~8.5秒となることがさらに好ましい。練り混ぜ後のJ14ロート流下時間が上記範囲内であると、充填性が向上する。なお、本発明におけるJ14ロート流下時間は、土木学会規準JSCE-F 541-2013「充填モルタルの流動性試験方法」に規定の方法に準拠して測定したものである。
【0020】
本実施形態に係るグラウト用超速硬モルタル材料が含有するセメントは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグやフライアッシュやシリカフューム等を混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)、市販されている微粒子セメント、白色セメント等が挙げられ、各種セメントを微粉末化して使用することも可能である。また、通常セメントに使用されている成分の含有量を増減して調整されたものも使用可能である。さらに、これらを2種以上組み合わせたものも使用可能である。
【0021】
セメントは、流動性及び初期強度を適度にする観点から、ブレーン比表面積値(以下、単に「ブレーン値」ともいう)が、2,500~7,000cm2/gであることが好ましく、2,750~6,000cm2/gであることがより好ましく、3,000~4,500cm2/gであることがさらに好ましい。なお、本発明においてブレーン比表面積値は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定したものである。
【0022】
本実施形態に係るグラウト用超速硬モルタル材料が含有するカルシウムアルミネートとは、CaOとAl2O3を主成分とし、水和活性を有する化合物の総称であり、CaO及び/またはAl2O3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAl2O3を主成分とするものにこれらが少量固溶した物質であり、カルシウムアルミネートは結晶質、非晶質のいずれであってもよい。
【0023】
結晶質の具体例としては、CaOをC、Al2O3をA、R2O(Na2O、K2O、Li2O)をRとすると、C3Aやこれにアルカリ金属が固溶したC14RA5、CA、C12A7やC11A7・CaF2、C4A・Fe2O3、及びC3A3・CaSO4等が挙げられるが、急結性が良好であることから、非晶質のカルシウムアルミネートが好ましい。また、非晶質のカルシウムアルミネートの場合、ガラス化率は80%以上であることが好ましい。
【0024】
カルシウムアルミネートのCaO/Al2O3モル比は特に限定はされないが、流動性保持性及び初期強度を適度にする観点から、当該モル比は1.3~3.0が好ましく、1.5~2.0がより好ましい。
【0025】
カルシウムアルミネートを得る方法としては、炭酸カルシウムや水酸化カルシウム等のCaO原料と、ボーキサイト等のAl2O3原料等とをロータリーキルンや電気炉等によって熱処理することが挙げられる。具体的には、各原料を所定の比率で混合し、電気炉等を用いて、加熱溶融し、圧縮空気や水に接触させるなどで急冷する方法が挙げられる。各原料の比率を調整することで、上記CaO/Al2O3モル比を調整することができ、また、加熱溶融時の温度や冷却方法によって、ガラス化率を調整することができる。
【0026】
カルシウムアルミネートを工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、SiO2、Fe2O3、MgO、TiO2、MnO、Na2O、K2O、Li2O、S、P2O5、及びFなどが挙げられるが、これらの不純物の存在は、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。具体的には、これらの不純物の合計が10%以下の範囲では特に問題とはならない。
【0027】
カルシウムアルミネートは、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に規定される強熱減量が、1%以上のものを使用することが好ましく、強熱減量が2%以上のものを使用することがより好ましい。カルシウムアルミネートの強熱減量が1%以上であることで、“はんてん”の発生を抑制しやすい。強熱減量を1%以上とする方法は、特に限定されるものではないが、水分や湿分を供給する方法や炭酸ガスを供給する方法等が挙げられる。
【0028】
カルシウムアルミネートのブレーン値は、特に限定されないが、通常、3,000~9,000cm2/gが好ましく、4,000~8,000cm2/gがより好ましい。
【0029】
グラウト用超速硬モルタル材料のカルシウムアルミネートの含有割合は、材齢3日、7日、及び28日の膨張率を調整する観点から、モルタル材料中のセメント100質量部に対して、2~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態に係るグラウト用超速硬モルタル材料が含有する石膏は、無水石膏、半水石膏、または二水石膏の各石膏を総称するものであり、特に限定されないが、強度発現性の観点から、無水石膏または半水石膏の使用が好ましく、無水石膏の使用がより好ましい。
【0031】
石膏のブレーン値は、特に限定されないが、通常、3,000~9,000cm2/gが好ましく、4,000~8,000cm2/gがより好ましい。
【0032】
グラウト用超速硬モルタル材料の石膏の含有割合は、材齢3日、7日、及び28日の膨張率を調整する観点から、モルタル材料中のセメント100質量部に対して、3~40質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
グラウト用超速硬モルタル材料は、発泡剤をさらに含むことが好ましい。発泡剤の種類としては、有機系発泡剤、無機系発泡剤、またはこれらを複合した発泡剤を使用することができる。有機系発泡剤としては、植物油及び鉱物油等の油状物質、ならびに、アゾ化合物、ニトロソ化合物及びヒドラジン誘導体等のアルカリ雰囲気下で窒素ガスを発泡する窒素ガス発泡物資が挙げられる。無機系発泡剤としては、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム及び過炭酸アンモニウム等の過炭酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、ならびに、過酸化水素等の過酸化物質、ならびに、アトマイズ法で製造したアルミニウム粉末等の粉末物質が挙げられる。その他の発泡剤としては、ステアリン酸で表面処理した燐片状のアルミニウム粉末等が挙げられる。
【0034】
発泡剤の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料中のセメント100質量部に対して、0.002~0.5質量部であることが好ましく、0.005~0.45質量部であることがより好ましく、0.008~0.4質量部であることがさらに好ましい。
【0035】
グラウト用超速硬モルタル材料は、消泡剤をさらに含むことが好ましい。消泡剤の種類としては、グラウトの性状に著しく悪影響を与えるものでない限り特に限定されるものではなく、液体状及び粉末状のいずれも使用でき、例えば、ポリエーテル系消泡剤、多価アルコールのエステル化物やアルキルエーテル等の多価アルコール系消泡剤、アルキルホスフェート系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0036】
消泡剤の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料中のセメント100質量部に対して、0.002~0.5質量部であることが好ましく、0.005~0.45質量部であることがより好ましく、0.01~0.4質量部であることがさらに好ましい。消泡剤の含有割合が上記範囲内であることで、強度発現性が向上する。
【0037】
グラウト用超速硬モルタル材料は、リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、及びナフタレンスルホン系減水剤からなる群から選択される1種または2種以上の減水剤をさらに含むことが好ましく、リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、及びナフタレンスルホン系減水剤の3種を含むことがより好ましい。リグニン系減水剤としては、花王社製商品名「マイティ150」及び日本シーカ社製商品名「プラストクリートNC」等が挙げられる。メラミン系減水剤としては、日本シーカ社製商品名「シーカメントFF24」及びBASFポゾリス社製商品名「マスタ―レオビルド4000」等が挙げられる。ナフタレンスルホン系減水剤としては、花王社製商品名「マイティ100」、三洋化成工業社製商品名「三洋レベロンPHL」、及び第一工業製薬社製商品名「セルフロー」等が挙げられる。
【0038】
減水剤の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料中のセメント100質量部に対して、固形分換算で0.05~2.0質量部であることが好ましく、0.1~1.8質量部であることがより好ましく、0.15~1.0質量部であることがさらに好ましい。減水剤の含有割合が上記範囲内であることで、充填性が向上する。
【0039】
グラウト用超速硬モルタル材料中の骨材を除いたセメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、発泡剤、消泡剤、及び減水剤の含有量の合計は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。これにより、長期の膨張率を適度にしやすい。
【0040】
本発明で使用する骨材としては、通常のセメントモルタルやコンクリートに使用するものと同様の細骨材や粗骨材が使用可能である。即ち、川砂、川砂利、山砂、山砂利、砕石、砕砂、石灰石骨材、石灰砂、けい砂、色砂、人口骨材、高炉スラグ骨材、海砂、海砂利、人工軽量骨材、及び重量骨材等が使用可能であり、これらを組み合わせることも可能である。
【0041】
骨材の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料中のセメント100質量部に対して、40~250質量部であることが好ましく、50~230質量部であることがより好ましく、60~200質量部であることがさらに好ましい。骨材の含有割合が上記範囲内であることで、強度発現性を向上させ、長期の膨張率を適度にしやすい。
【0042】
本発明では、アルカリ金属炭酸塩を使用することで、流動性保持効果を高め、強度発現性をさらに向上させることができる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、及び炭酸水素リチウムが挙げられ、これらを組み合わせることも可能である。特に、強度発現性の観点から、炭酸リチウムの使用が好ましい。
【0043】
アルカリ金属炭酸塩の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料のセメント100質量部に対して、固形分量で1質量部以上6質量部以下であることが好ましく、2質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。アルカリ金属炭酸塩の含有割合が上記範囲内であることで、一定のハンドリングタイムが確保しやすく、また、強度発現性を向上させることができる。
【0044】
本発明のグラウト用超速硬モルタル材料は、強度発現性を高める観点から、シリカ質微粉末を含有させることが可能である。シリカ質微粉末としては、高炉水砕スラグ微粉末等の潜在水硬性物質、フライアッシュや、シリカフュームなどのポゾラン物質を挙げることができ、中でも、シリカフュームが好ましい。シリカフュームの種類は限定されるものではないが、流動性の観点から、不純物としてZrO2を10%以下含有するシリカフュームや、酸性シリカフュームの使用がより好ましい。酸性シリカフュームとは、シリカフューム1gを純水100ccに入れて攪拌した時の上澄み液のpHが5.0以下の酸性を示すものをいう。
【0045】
シリカ質微粉末の粉末度は特に限定されるものではないが、通常、高炉水砕スラグ微粉末とフライアッシュは、ブレーン値で3,000~9,000cm2/gの範囲にあり、シリカフュームは、BET比表面積で20,000~300,000cm2/gの範囲にある。
【0046】
シリカ質微粉末の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料中のセメント100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~15質量部がより好ましく、3~12質量部がさらに好ましい。シリカ質微粉末の含有割合が上記範囲内であることで、強度発現性を高めることができる。
【0047】
本発明では、凝結遅延剤を使用することもできる。凝結遅延剤としては、オキシカルボン酸またはその塩が好ましく、オキシカルボン酸としてはグルコン酸がより好ましく、塩としてはナトリウム塩がより好ましい。
【0048】
凝結遅延剤の含有割合は、グラウト用超速硬モルタル材料中のセメント100質量部に対して、0.3~6質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
【0049】
本発明では、性能に悪影響を与えない範囲で、ガス発泡物質、減水剤、凝結調整剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、及びパルプスラッジ焼却灰等の混和材料、増粘剤、及び収縮低減剤、ポリマー、ベントナイト、セピオライトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0050】
本発明のグラウト用超速硬モルタル材料において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。混合装置としては、既存のいかなる装置、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、プロシェアミキサ及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【0051】
[モルタル硬化体]
本発明のモルタル硬化体は、既述の本発明のグラウト用超速硬モルタル材料と水とを含有するものであり、グラウト用超速硬モルタル材料と水とを混錬してなる。
本発明の練り混ぜ水量は、使用する目的・用途や各材料の含有割合によって変化するため特に限定されるものではないが、セメント材料100質量部に対して、10~70質量部であることが好ましく、14~65質量部であることがより好ましく、16~60質量部であることがさらに好ましい。練り混ぜ水量が上記範囲内であることで、充填性や強度発現性が向上する。
【0052】
本発明のグラウト用超速硬モルタル材料を用いた施工方法は、所定の水を加え練り混ぜて施工部位に流し込む方法や、ポンプを用いて練り混ぜたグラウトを充填する方法や、練り混ぜてから圧縮空気を吹き込み吹き付ける方法や、左官コテで塗り付ける方法などが挙げられる。練り混ぜ方法は、ペール缶等の容器に材料を投入しハンドミキサで練り混ぜる方法や、ミキサ等を用いて練り混ぜる方法や、手混合する方法等が挙げられ、特に限定されるものではない。本発明のセメント組成物は、練り混ぜられ、施工部位に充填することで硬化体となる。すなわち、本発明のグラウト用超速硬モルタル材料を用いてなる硬化体が得られる。
【実施例0053】
以下、本発明を実験例に基づいてさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<実験例1>
下記に示す材料を、セメント100質量部に対して表1に示す割合で混合してグラウト用超速硬モルタル材料を調製した。骨材及び凝結調整剤は、セメント、カルシウムアルミネート、及び石膏の合計量100質量部に対して、それぞれ100質量部及び1.5質量部配合した。調製したグラウト用超速硬モルタル材料100質量部に対して18質量部の水を加えて練り混ぜてグラウトを調製し、各測定を行った。さらに調製したグラウトを用いてモルタル硬化体を製造し、強度測定を行った。
【0055】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメントを想定した試製セメント(セメント工場の調合原料及び化学成分の調整に各種市販の純薬を用いた。)、ブレーン値3,450cm2/g。
カルシウムアルミネート:ガラス化率97%、CaO/Al2O3モル比1.7、強熱減量1.0%、主成分CaO・Al2O3と12CaO・7Al2O3、ブレーン値5,000cm2/g。
石膏:無水石膏、試薬。
骨材:細骨材、石灰砂0.6mm下を50%、0.6~1.2mmを50%混合したものを使用した。密度2.52g/cm3。
消泡剤:特殊非イオン界面活性剤とシリカの混合物、市販品。
発泡剤:アルミニウム粉末(表面処理品)、市販品。
減水剤1:ナフタレンスルホン酸系減水剤、市販品。
凝結調整剤:グルコン酸ナトリウム、試薬。
水:水道水。
【0056】
(測定項目)
膨張率:練り混ぜ後のグラウトについて、JIS A 6202:2017「コンクリート用膨張材」附属書A「膨張材のモルタルによる膨張性試験方法」に規定の方法に準拠した測定方法により、材齢3日、7日、28日、及び60日の膨張率を測定した。結果を表1に示す。
空気量:練り混ぜ後のグラウトについて、JIS A 1116:2019「フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量方法)」に規定の方法に準拠して測定した。結果を表1に示す。
フロー値:練り混ぜ後のグラウトについて、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に規定の方法において、15回の落下運動を実施せずに測定した。結果を表1に示す。
J14ロート流下時間:練り混ぜ後のグラウトについて、土木学会規準JSCE-F 541-2013「充填モルタルの流動性試験方法」に規定の方法に準拠して測定した。結果を表1に示す。
膨張収縮率:練り混ぜ後のグラウトについて、JSCE-F 542-2013「充填モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法」に規定の方法に準拠して、膨張収縮率を測定した。結果を表1に示す。
圧縮強度:モルタル硬化体の圧縮強度について、JSCE-G 505-2018「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に規定の方法に準拠して、材齢3時間及び28日の圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
<実験例2>
下記に示す減水剤も用いたこと以外は実験例1と同様にして、グラウトを調製し、モルタル硬化体を製造した。
【0059】
(使用材料)
減水剤2:リグニン系減水剤、市販品。
減水剤3:メラミン系減水剤、市販品。
【表2】
本発明のグラウト用超速硬モルタル材料は、セメントと、カルシウムアルミネートと、石膏とを含み、初期の膨張率が所定の範囲内となることで、長期の膨張率を適度にすることができる。そのため、上下水、農水、鉄道、電力、道路、建築などで使用されるコンクリート構造物への補強鉄筋との定着等、土木、建築分野に幅広く適用できる。
リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、及びナフタレンスルホン系減水剤からなる群から選択される1種または2種以上の減水剤をさらに含む、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。
リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、及びナフタレンスルホン系減水剤からなる群から選択される1種または2種以上の減水剤をさらに含む、請求項1または2に記載のグラウト用超速硬モルタル材料。