(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145247
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】増体判定システム、増体判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20241004BHJP
G06T 7/62 20170101ALI20241004BHJP
【FI】
G06Q50/02
G06T7/62
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057520
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102717
【氏名又は名称】NTTテクノクロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 小春
(72)【発明者】
【氏名】門木 斗夢
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕一郎
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
5L096
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L050CC01
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA03
5L096BA18
5L096CA02
5L096DA02
5L096EA33
5L096FA54
5L096FA64
5L096FA66
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】豚の増体を判定できる技術を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様による推定システムは、家畜を撮影する撮影装置と、前記家畜の増体を判定する増体判定装置とが含まれる増体判定システムであって、前記増体判定装置は、前記撮影装置から取得した撮影データに基づいて、前記家畜の胸幅を推定する胸幅推定部と、前記胸幅推定部によって推定された胸幅と、前記家畜の初回交配日からの経過日数と標準的な胸幅を表す標準胸幅との関係を表す標準増体曲線とに基づいて、前記家畜の増体を判定する増体判定部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜を撮影する撮影装置と、前記家畜の増体を判定する増体判定装置とが含まれる増体判定システムであって、
前記増体判定装置は、
前記撮影装置から取得した撮影データに基づいて、前記家畜の胸幅を推定する胸幅推定部と、
前記胸幅推定部によって推定された胸幅と、前記家畜の初回交配日からの経過日数と標準的な胸幅を表す標準胸幅との関係を表す標準増体曲線とに基づいて、前記家畜の増体を判定する増体判定部と、を有する、
増体判定システム。
【請求項2】
前記撮影データには、前記家畜の初回交配日からの経過日数が含まれ、
前記増体判定部は、
前記標準増体曲線において前記撮影データに含まれる経過日数に対応する標準胸幅と、前記胸幅推定部によって推定された胸幅との差の大きさから前記家畜の増体を判定する、請求項1に記載の増体判定システム。
【請求項3】
前記撮影データには、前記家畜を赤外線カメラで撮影した赤外線画像と、撮影範囲内の各点における前記家畜の深度を深度センサで測定した結果を表す点群データとが含まれ、
前記胸幅推定部は、
前記家畜の幅方向に、前記点群データに含まれる各点を所定の単位幅で整列し、
前記整列後の点群データを画像化した画像と、前記赤外線画像とを重畳させた画像を表す重畳画像から前記単位幅あたりのピクセル数を算出し、
前記家畜の胸の位置の幅に含まれるピクセル数と、前記単位幅あたりのピクセル数とに基づいて、前記胸幅を推定する、請求項1又は2に記載の増体判定システム。
【請求項4】
家畜を撮影する撮影装置から取得した撮影データに基づいて、前記家畜の胸幅を推定する胸幅推定手順と、
前記胸幅推定手順によって推定された胸幅と、前記家畜の初回交配日からの経過日数と標準的な胸幅を表す標準胸幅との関係を表す標準増体曲線とに基づいて、前記家畜の増体を判定する増体判定手順と、
をコンピュータが実行する増体判定方法。
【請求項5】
家畜を撮影する撮影装置から取得した撮影データに基づいて、前記家畜の胸幅を推定する胸幅推定手順と、
前記胸幅推定手順によって推定された胸幅と、前記家畜の初回交配日からの経過日数と標準的な胸幅を表す標準胸幅との関係を表す標準増体曲線とに基づいて、前記家畜の増体を判定する増体判定手順と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、増体判定システム、増体判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
養豚経営の分野では5段階で示されるボディコンディションスコア(BCS:Body Condition Score)と呼ばれる指標が従来から知られている。ボディコンディションスコアとは豚の肥満度を表す指標であり、繁殖雌豚の増体を把握し、その栄養管理を行うためによく利用されている。繁殖雌豚の栄養状態は繁殖成績に影響するため、ボディコンディションスコアを正確に把握することは重要である。このため、ボディコンディションスコアを判定する方法が従来から知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】井口 元夫,「繁殖母豚の飼料給与量の目安としてのボディコンディションスコアの利用 -繁殖成績の向上はボディコンディションのコントロールにある!-」,生産技術セミナー
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来から知られている5段階のボディコンディションスコアは、繁殖雌豚の見た目や触診により主観的に決められる。このため、ボディコンディションスコアを判定する人の経験等によっては判定精度が低く、その結果、繁殖雌豚の増体も精度良く把握できない場合がある。
【0005】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたもので、豚の増体を判定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による推定システムは、家畜を撮影する撮影装置と、前記家畜の増体を判定する増体判定装置とが含まれる増体判定システムであって、前記増体判定装置は、前記撮影装置から取得した撮影データに基づいて、前記家畜の胸幅を推定する胸幅推定部と、前記胸幅推定部によって推定された胸幅と、前記家畜の初回交配日からの経過日数と標準的な胸幅を表す標準胸幅との関係を表す標準増体曲線とに基づいて、前記家畜の増体を判定する増体判定部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
豚の増体を判定できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る増体判定システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る撮影装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る増体判定装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る撮影処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係る増体判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る標準増体曲線生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】基準増体曲線及び調整増体曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の実施形態では、繁殖雌豚を対象として、繁殖雌豚の胸幅を推定した上でその胸幅から増体を判定できる増体判定システム1について説明する。
【0010】
ここで、増体を判定する際に胸幅を推定するのは、繁殖雌豚の胸幅を正確に推定することができれば、その増体も正確に判定することが可能になるためである。これは、増体とは肥満度や栄養状態等を表す指標であるところ、一般に肥満度や栄養状態等と体重との間には強い相関関係があることが知られており、また当然に胸幅は胸囲と強い相関関係がある(又は、同一視できる)ものであるところ、豚の体重と胸囲との間には強い相関関係があることが知られているためである(例えば、参考文献1等を参照されたい。)。
【0011】
<増体判定システム1の全体構成例>
本実施形態に係る増体判定システム1の全体構成例を
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態に係る増体判定システム1には、増体の判定対象である繁殖雌豚Pを撮影する撮影装置10と、繁殖雌豚Pの胸幅を推定した上でその胸幅から増体を判定する増体判定装置20とが含まれる。また、撮影装置10と増体判定装置20は、例えば、無線若しくは有線又はその両方により通信可能に接続されている。
【0012】
撮影装置10は、例えば、養豚場の管理者や従業者等のユーザMが利用するスマートフォンやタブレット端末、デジタルカメラ等である。ユーザMは、撮影装置10を用いて、妊娠ストールC(以下、単に「ストールC」ともいう。)内の繁殖雌豚Pを上方から撮影する。なお、撮影装置10はストールCの上方に固定的に設置されたカメラであってもよい。
【0013】
ここで、撮影装置10には赤外線カメラ(又は赤外線センサ)と深度センサ(又は深度カメラ)とが少なくとも備えられており、ユーザMの撮影開始操作後、所定の撮影条件を満たした場合に撮影範囲内の赤外線画像と点群データとが生成されるものとする。点群データとは、撮影範囲内の水平方向をx軸、垂直方向をy軸、深度方向をz軸として、(x,y,z)の点群で表されるデータのことである。点群データは「3次元点群データ」等と呼ばれてもよい。なお、ユーザMは、繁殖雌豚Pの背面のうち、少なくとも肩から胸の位置付近の領域が撮影範囲内に含まれ、かつ、繁殖雌豚Pの背骨と撮影範囲の垂直方向(y軸方向)とができるだけ平行になるように、当該繁殖雌豚Pを撮影するものとする。
【0014】
増体判定装置20は、撮影装置10によって生成された赤外線画像及び点群データから繁殖雌豚Pの胸幅を推定した上で、初回交配日からの経過日数と標準的な胸幅との関係を表す標準増体曲線と呼ぶグラフを用いて、推定した胸幅から増体を判定するコンピュータ又はコンピュータシステムである。
【0015】
なお、
図1に示す増体判定システム1の全体構成は一例であって、これに限られるものではない。例えば、
図1に示す増体判定システム1には、撮影装置10及び増体判定装置20以外の機器、装置、端末等が含まれていてもよい。また、例えば、撮影装置10と増体判定装置20と一体で構成されていてもよい。
【0016】
<撮影装置10の機能構成例>
本実施形態に係る撮影装置10の機能構成例を
図2に示す。
図2に示すように、本実施形態に係る撮影装置10は、送受信部101と、UI制御部102と、撮影条件判定部103と、撮影部104と、撮影データ作成部105とを有する。これら各部は、例えば、撮影装置10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置に実行させる処理により実現される。
【0017】
送受信部101は、撮影データ作成部105によって作成された撮影データを増体判定装置20に送信したり、増体の判定結果を表す増体判定結果データを増体判定装置20から受信したりする。
【0018】
UI制御部102は、撮影装置10のディスプレイ上に各種画面(例えば、後述する撮影画面等)を表示したり、これら各種画面上におけるユーザ操作(例えば、撮影対象となる繁殖雌豚Pの初回交配日からの経過日数を設定するための設定操作、撮影画面を表示させるための撮影開始操作等)を受け付けたりする。
【0019】
撮影条件判定部103は、ユーザMによる撮影開始操作がUI制御部102によって受け付けられた場合、所定の撮影条件を満たすか否かを所定の時間毎(例えば、深度の測定周期毎)に判定する。撮影条件とは、撮影装置10と撮影範囲内の繁殖雌豚Pとの相対的な位置関係や撮影環境等が適切であるか否かを判定するための条件のことである。なお、撮影条件の詳細については後述する。
【0020】
撮影部104は、撮影条件判定部103によって撮影条件を満たすと判定された場合、赤外線カメラ(又は赤外線センサ)と深度センサ(又は深度カメラ)によって撮影範囲内を撮影し、当該撮影範囲内の赤外線画像と点群データを生成する。
【0021】
撮影データ作成部105は、撮影部104によって生成された赤外線画像及び点群データと、UI制御部102によって受け付けられた設定操作で設定された経過日数(つまり、撮影対象となった繁殖雌豚Pの初回交配日からの経過日数)とが含まれる撮影データを作成する。
【0022】
<増体判定装置20の機能構成例>
本実施形態に係る増体判定装置20の機能構成例を
図3に示す。
図3に示すように、本実施形態に係る増体判定装置20は、送受信部201と、胸幅推定部202と、増体判定部203と、増体判定結果データ作成部204と、標準増体曲線生成部205とを有する。これら各部は、例えば、増体判定装置20にインストールされた1以上のプログラムが、CPU等の演算装置に実行させる処理により実現される。なお、これら各部のうちの一部が、例えば、クラウドサービス等が提供する機能によって実現されていてもよい。
【0023】
また、本実施形態に係る増体判定装置20は、記憶部206を有する。記憶部206は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置により実現される。なお、記憶部206は、例えば、増体判定装置20と通信ネットワークを介して接続される記憶装置(例えば、データベースサーバ等)により実現されていてもよい。
【0024】
送受信部201は、撮影データを撮影装置10から受信したり、増体判定結果データ作成部204によって作成された増体判定結果データを撮影装置10に送信したりする。
【0025】
胸幅推定部202は、送受信部201によって受信された撮影データに含まれる赤外線画像及び点群データを用いて、撮影対象となった繁殖雌豚Pの胸幅を推定する。このとき、胸幅推定部202は、点群データを利用して或る所定の単位幅あたりの赤外線画像のピクセル数を求め、このピクセル数から胸幅を推定する。これにより、仮に点群データの一部に欠損が存在する場合であっても、撮影対象となった繁殖雌豚Pの胸幅を精度良く推定することが可能となる。なお、一般に、深度センサ(又は深度カメラ)は明るさに弱く、明暗差がある環境では点群データの一部に欠損が発生し得る。
【0026】
増体判定部203は、記憶部206に記憶されている標準増体曲線と、胸幅推定部202によって推定された胸幅と、送受信部201によって受信された撮影データに含まれる経過日数とを用いて、撮影対象となった繁殖雌豚Pの増体を判定する。
【0027】
増体判定結果データ作成部204は、増体判定部203によって判定された増体判定結果が含まれる増体判定結果データを作成する。
【0028】
標準増体曲線生成部205は、記憶部206に記憶されている実績データ集合と、基準増体曲線とを用いて、標準増体曲線を生成する。ここで、実績データ集合とは、繁殖雌豚の経過日数とその繁殖雌豚の胸幅とが含まれる実績データの集合のことである。これらの実績データは、例えば、ユーザM等が繁殖雌豚の胸幅を実際に測定し、その繁殖雌豚の初回交配日からの経過日数と対応付けることにより作成される。また、基準増体曲線とは、初回交配日からの経過日数と、その経過日数で基準となる一般的な胸幅との関係を表すグラフのことである。言い換えれば、基準増体曲線とは、初回交配日からの経過日数と、その経過日数における一般的な豚の胸幅との関係を表すグラフである。
【0029】
記憶部206は、各種データを記憶する。例えば、標準増体曲線を生成する際には、記憶部206には実績データ集合と基準増体曲線とが記憶される。また、例えば、繁殖雌豚Pの増体を判定する際には、記憶部206には標準増体曲線生成部205によって生成された標準増体曲線が記憶される。
【0030】
<撮影処理>
以下、本実施形態に係る撮影処理について、
図4を参照しながら説明する。なお、以下では、増体判定装置20の記憶部206には標準増体曲線が記憶されているものとする。
【0031】
UI制御部102は、ユーザMによって経過日数(つまり、撮影対象となる繁殖雌豚Pの初回交配日からの経過日数)の設定操作が行われた場合、この設定操作を受け付ける(ステップS101)。
【0032】
次に、UI制御部102は、ユーザMによって撮影開始操作が行われた場合、この撮影開始操作を受け付ける(ステップS102)。
【0033】
次に、UI制御部102は、撮影開始操作を受け付けた場合、ディスプレイ上に撮影画面を表示する(ステップS103)。ここで、UI制御部102によって表示される撮影画面の一例を
図5に示す。
図5に示す撮影画面1000には、繁殖雌豚Pの撮影位置を合わせるための撮影ガイド1100が含まれている。撮影ガイド1100は豚を上方から見た場合の輪郭を表す形状であり、撮影画面1000の下方向が頭方向、上方向が尻尾方向となっている。
【0034】
また、撮影画面1000には、撮影範囲1200の中心を示す中心ガイド1110が含まれている。本実施形態では、点群データの原点(つまり、(x,y,z)=(0,0,0)となる位置)は撮影装置10のカメラ位置であるものとする。したがって、中心ガイド1110が示す位置は、点群データの任意のxy平面における原点(つまり、(x,y)=(0,0))である。また、撮影方向をz軸の正の方向、撮影画面1000の下方向をx軸の正の方向、撮影画面1000の右方向をy軸の正の方向とする。なお、x軸は撮影ガイド1100が表す形状を左右に二分(等分)する中心線でもある。
【0035】
ユーザMは繁殖雌豚Pの上方に撮影装置10を移動させて、撮影ガイド1100に当該繁殖雌豚Pの輪郭が合致するように調整する。これにより、後述する撮影条件を満たした場合に当該繁殖雌豚Pを撮影することができる。
【0036】
なお、撮影画面1000には、撮影ガイド1100の上下を反転させるための反転ボタン1300が含まれていてもよい。この反転ボタン1300により、繁殖雌豚Pの実際の向きに合わせて、撮影ガイド1100が表す形状(豚を上方から見た場合の輪郭を表す形状)の上下を変更することができる。
【0037】
また、撮影画面1000には、撮影範囲1200内を撮影するための撮影ボタン1400が含まれていてもよい。この撮影ボタン1400により、後述する撮影条件を満たした場合だけなく、手動により当該繁殖雌豚Pを撮影することができる。以下、撮影装置10のディスプレイ上には
図5に示す撮影画面1000が表示されているものとして、
図4の説明を続ける。
【0038】
ステップS103に続いて、撮影条件判定部103は、所定の撮影条件を満たすか否かを判定する(ステップS104)。撮影条件とは撮影装置10と撮影範囲1200内の繁殖雌豚Pとの相対的な位置関係や撮影環境等が適切であるか否かを判定するための条件のことであり、例えば、以下の条件1~条件5のうちの少なくとも1つの条件を用いることができる。
【0039】
条件1:撮影範囲1200の中心における深度値(つまり、(x,y)=(0,0)におけるz座標値)が予め決められた閾値未満であること。これは、撮影範囲内に繁殖雌豚Pが入っていることを簡易にチェックするための条件である。
【0040】
条件2:撮影範囲1200のx軸及びそれと平行な軸上における点群データの深度値(つまり、x軸と平行な任意の軸上の深度値)の増減パターンによって推定される繁殖雌豚Pの姿勢が、予め決められた姿勢でないこと。これは、x軸と平行な軸上における深度値の増減パターンによって繁殖雌豚Pの頭を上げた姿勢や頭を下げた姿勢、膝を折った姿勢等の推定が可能であり、これらの姿勢では胸幅の推定精度が低下する恐れがあるためである。
【0041】
なお、撮影範囲1200内で繁殖雌豚Pの頭が下方に存在する場合、頭を上げた姿勢ではx軸と平行な軸上で原点から正の方向に向かうにしたがって深度値が小さくなるため、この深度値のパターンにより頭を上げた姿勢を推定することができる。同様に、頭を下げた姿勢ではx軸と平行な軸上で原点から正の方向に向かうにしたがって深度値が大きくなるため、この深度値のパターンにより頭を下げた姿勢を推定することができる。同様に、膝を折った姿勢ではx軸と平行な軸上で原点から負の方向に向かうにしたがって深度値が大きくなるため、この深度値のパターンにより膝を折った姿勢を推定することができる。
【0042】
条件3:撮影範囲1200のx軸及びそれと平行な軸上における深度値の増減パターンによって推定されるストールC(より正確には、ストールCを構成する鉄棒等)の位置が、繁殖雌豚Pの胸の位置でないこと。これは、繁殖雌豚Pの胸の位置とストールCの位置とが重なっている場合、胸幅の推定ができないためである。
【0043】
なお、ストールC上ではx軸と平行な軸上の深度値がほぼ変化しないため、この深度値のパターンによりストールCの位置を推定することができる。また、例えば、ストールCの位置のx座標値と、豚の胸の位置のx座標値として予め決められた値との差の絶対値が、予め決められた閾値未満である場合、繁殖雌豚Pの胸の位置とストールCの位置とが重なっていると見なすことができる。
【0044】
条件4:撮影範囲1200のx軸及びそれと平行な軸上における深度値の増減パターンによって推定される繁殖雌豚Pの体長が、予め決められた閾値以上であること。これは、撮影装置10が、繁殖雌豚Pと離れすぎていることを防止するための条件である。
【0045】
なお、x軸と平行な軸上で原点から正の方向に向かった場合、繁殖雌豚Pの境界では深度値が急激に高くなり、同様にx軸と平行な軸上で原点から負の方向に向かった場合も繁殖雌豚Pの境界では深度値が急激に高くなる。これにより、繁殖雌豚Pの体長を推定することができる。
【0046】
条件5:撮影範囲1200内における赤外線カメラ(又は赤外線センサ)の値のヒストグラムにおいて、或る所定の階級未満の度数の総数が、予め決められた閾値未満であること。これは、撮影環境の明るさをチェックするための条件であり、この条件を満たす場合は撮影環境の明るさが十分であることを表している。
【0047】
なお、撮影装置10の深度センサ(又は深度カメラ)としてIntel(登録商標) RealSenseを用いた場合、上記の条件2では、RealSenseが備えるThreshold Filterという機能により繁殖雌豚Pの領域の各(x,y,z)座標値を抽出した上で、Colorizerで画像化し、この画像が表す領域の形状等から姿勢を推定してもよい。同様に、上記の条件3でもストールC(より正確には、ストールCを構成する鉄棒等)の領域の(x,y,z)座標値を抽出した上で、Colorizerで画像化し、この画像が表す領域の位置からストールCの位置を推定してもよい。
【0048】
以上の条件1~条件5のうちの少なくとも1つの条件を撮影条件として用いることにより、例えば、繁殖雌豚Pとの相対的な位置関係が適切な場合や撮影環境が適切な場合等に自動的に撮影することが可能となる。
【0049】
上記のステップS104で撮影条件を満たすと判定されなかった場合、撮影装置10は、ステップS104に戻る(ステップS105でNO)。一方で、上記のステップS104で撮影条件を満たすと判定された場合、撮影装置10は、ステップS106に進む(ステップS105でYES)。
【0050】
撮影部104は、赤外線カメラ(又は赤外線センサ)と深度センサ(又は深度カメラ)によって撮影範囲1200内を撮影する(ステップS106)。これにより、当該撮影範囲1200内の赤外線画像と、当該撮影範囲内の点群データとが撮影部104によって生成される。
【0051】
次に、撮影データ作成部105は、上記のステップS106で生成された赤外線画像及び点群データと、上記のステップS101で受け付けられた設定操作で設定された経過日数とが含まれる撮影データを作成する(ステップS107)。
【0052】
次に、送受信部101は、上記のステップS107で作成された撮影データを増体判定装置20に送信する(ステップS108)。これにより、後述する増体判定処理が当該増体判定装置20で実行され、その結果、増体判定結果データが当該増体判定装置20から撮影装置10に送信される。
【0053】
次に、送受信部101は、増体判定装置20から送信された増体判定結果データを受信する(ステップS109)。
【0054】
そして、UI制御部102は、上記のステップS109で受信した増体判定結果データに含まれる増体判定結果をディスプレイ上に表示する(ステップS110)。例えば、増体判定結果が「やせすぎ」、「やせぎみ」、「ふつう」、「ふとりぎみ」、「ふとりすぎ」の5つのいずれかを表す情報である場合、UI制御部102は、「やせすぎ」、「やせぎみ」、「ふつう」、「ふとりぎみ」、「ふとりすぎ」のいずれかを表す文字や図形、記号等をディスプレイ上に表示する。これにより、ユーザMは、撮影対象となった繁殖雌豚Pの増体が、標準的な増体と比較して、「やせすぎ」、「やせぎみ」、「ふつう」、「ふとりぎみ」、「ふとりすぎ」のいずれであるかを知ることができる。
【0055】
<増体判定処理>
以下、本実施形態に係る増体判定処理について、
図6を参照しながら説明する。なお、以下では、増体判定装置20の記憶部206には標準増体曲線が記憶されているものとする。
【0056】
送受信部201は、撮影装置10から送信された撮影データを受信する(ステップS201)。なお、撮影データには、赤外線画像と、点群データと、経過日数とが含まれる。
【0057】
次に、胸幅推定部202は、上記のステップS201で受信された撮影データに含まれる赤外線画像と点群データを用いて、撮影対象となった繁殖雌豚Pの胸幅を推定する(ステップS202)。このとき、胸幅推定部202は、例えば、以下の手順1~手順5により胸幅を推定する。なお、点群データでは、深度値(z座標値)が撮影装置10からの距離を表しているため、深度値が既知である任意の2点間の距離は容易に算出可能であることに留意されたい。
【0058】
手順1:胸幅推定部202は、点群データが表す各点群(x,y,z)をy軸方向に所定の単位幅(例えば、1cm)間隔に整列する。言い換えれば、胸幅推定部202は、点群データが表す各点群(x,y,z)の一部を削除したり、点群を補間したりすることにより、y軸方向に所定の単位幅間隔で整列した点群データを作成する。以下、一例として、単位幅は1cmであるものとして説明を続ける。
【0059】
手順2:胸幅推定部202は、上記の手順1で作成した点群データ(y軸方向に1cm間隔で整列させた点群データ)を赤外線画像と同じサイズの画像に画像化する。以下、画像化された点群データを「点群画像」と呼ぶことにする。
【0060】
手順3:胸幅推定部202は、赤外線画像と点群画像とを重ね合わせた画像を作成する。以下、赤外線画像と点群画像とを重ね合わせた画像を「重畳画像」と呼ぶことにする。
【0061】
手順4:胸幅推定部202は、重畳画像から1cmあたりのピクセル数を算出する。すなわち、胸幅推定部202は、y軸方向の点と点の間(1cm幅)に存在するピクセル数を算出する。以下、y軸方向の1cm幅に存在するピクセル数を「1cmあたりのピクセル数」と呼ぶ。
【0062】
手順5:胸幅推定部202は、撮影対象となった繁殖雌豚Pを表す領域における胸の位置の幅に含まれるピクセル数から胸幅を算出する。すなわち、胸幅推定部202は、胸の位置を表すx座標値を持つ直線(この直線はy軸と平行な直線である。)上のピクセルであって、かつ、重畳画像内の繁殖雌豚Pを表す領域に含まれるピクセルの数と、1cmあたりのピクセル数とを用いて、胸幅を算出する。胸幅は、胸の位置を表すx座標値を持つ直線上のピクセルであって、かつ、重畳画像内の繁殖雌豚Pを表す領域に含まれるピクセルの数をa、1cmあたりのピクセル数をbとすれば、a/bで算出される。
【0063】
なお、胸の位置を表すx座標値は予め設定される。例えば、参考文献1と同様に、繁殖雌豚Pの肩の位置を特定した上で、肩の位置から上方(つまり、尻尾方向)にL〔cm〕の位置とすることが考えられる。
【0064】
また、重畳画像内の繁殖雌豚Pを表す領域は、任意の方法により特定すればよい。例えば、撮影ガイド1100内の領域に対応する領域を、繁殖雌豚Pを表す領域として特定してもよいし、撮影装置10の深度センサ(又は深度カメラ)としてIntel RealSenseを用いた場合、RealSenseが備えるThreshold Filterという機能により繁殖雌豚Pの領域の各(x,y,z)座標値を抽出して特定してもよい。この他にも、例えば、赤外線画像や重畳画像に対してエッジ抽出や物体領域抽出等といった画像処理を行うことにより、繁殖雌豚Pを表す領域を特定してもよい。
【0065】
以上の手順1~手順5により、仮に点群データの一部に欠損が存在する場合であっても、撮影対象となった繁殖雌豚Pの胸幅を精度良く推定することができる。
【0066】
次に、増体判定部203は、上記のステップS201で受信された撮影データに含まれる経過日数と、記憶部206に記憶されている標準増体曲線と、上記のステップS202で推定された胸幅とを用いて、撮影対象となった繁殖雌豚Pの増体を判定する(ステップS203)。ここで、標準増体曲線の一例を
図7に示す。
図7に示すように、標準増体曲線は、横軸を初回交配日からの経過日数、縦軸を標準的な胸幅とした平面上のグラフで表現される。以下、標準増体曲線を表す関数をfで表し、経過日数がxであるときの標準的な胸幅をf(x)と表す。
【0067】
上記のステップS201で受信された撮影データに含まれる経過日数をx'、上記のステップS202で推定された胸幅をy'としたとき、増体判定部203は、y'とf(x')の差(乖離度)から増体を判定する。例えば、増体判定部203は、以下により増体を判定する。
【0068】
・|y'-f(x')|>th1かつy'-f(x')>0である場合は「ふとりすぎ」
・th1≧|y'-f(x')|>th2かつy'-f(x')>0である場合は「ふとりぎみ」
・th2≧|y'-f(x')|≧0である場合は「ふつう」
・th1≧|y'-f(x')|>th2かつy'-f(x')<0である場合は「やせぎみ」
・|y'-f(x')|>th1かつy'-f(x')<0である場合は「やせすぎ」
ここで、th1,th2は予め設定された閾値であり、th1>th2を満たす。
【0069】
次に、増体判定結果データ作成部204は、上記のステップS203で判定された増体判定結果が含まれる増体判定結果データを作成する(ステップS204)。
【0070】
そして、送受信部201は、上記のステップS204で作成された増体判定結果データを、上記のステップS201で受信された撮影データの送信元の撮影装置10に送信する(ステップS205)。これにより、当該撮影装置10では、上記のステップS203で判定された増体判定結果がディスプレイ上に表示される。
【0071】
<標準増体曲線生成処理>
以下、本実施形態に係る標準増体曲線生成処理について、
図8を参照しながら説明する。なお、以下では、増体判定装置20の記憶部206には実績データ集合と基準増体曲線とが記憶されているものとする。
【0072】
まず、標準増体曲線生成部205は、記憶部206に記憶されている基準増体曲線を取得する(ステップS301)。以下、基準増体曲線を表す関数をgで表し、経過日数がxであるときの胸幅をg(x)とする。
【0073】
次に、標準増体曲線生成部205は、上記のステップS301で取得された基準増体曲線の経過日数を一定区間毎(例えば、30日毎)に区切る(ステップS302)。以下、基準増体曲線のk番目の区間をIk(k=1,・・・,K)として、区間Ikにおける基準増体曲線をgkと表す。ここで、Kは区間数である。
【0074】
次に、標準増体曲線生成部205は、記憶部206に記憶されている実績データ集合に含まれる実績データとの誤差が最小となるように、区間毎に基準増体曲線に対して定数を加算して調整増体曲線と呼ぶグラフを作成する(ステップS303)。
【0075】
例えば、実績データ集合を{(xn,yn)|n=1,・・・,N'}とする。ここで、xnはn番目の実績データに含まれる経過日数、ynはn番目の実績データに含まれる胸幅、N'は実績データ集合に含まれる実績データ数である。
【0076】
このとき、標準増体曲線生成部205は、区間Ik毎に、各xn∈Ikに対する誤差|yn-(gk(xn)+Ck)|の和を最小化するように定数Ckを決定し、hk(x)=gk(x)+Ck(x∈Ik)とする。これにより、k=1,・・・,Kに対して関数hk(x)(x∈Ik)が得られるため、これらの関数hk(x)(x∈Ik)によりx∈Ikのときh(x)=hk(x)と関数h(x)(x∈I1∪・・・∪IK)を定義し、この関数hで表されるグラフを調整増体曲線とする。
【0077】
ここで、基準増体曲線及び調整増体曲線の一例を
図9に示す。なお、
図9では、各実績データが表す点(実績データ点)も図示している。
図9に示すように、調整増体曲線は、区間(
図9に示す例では30日)毎に基準増体曲線に対して或る定数を加算した曲線で表される。
【0078】
次に、標準増体曲線生成部205は、1日毎に、調整増体曲線から胸幅を抽出する(ステップS304)。すなわち、標準増体曲線生成部205は、x=0,1,2,・・・,Nに対して(x,h(x))を抽出する。ここで、Nは経過日数の最大値である。Nの値は予め設定される。
【0079】
次に、標準増体曲線生成部205は、上記のステップS304で抽出した{(x,h(x))|x=0,1,2,・・・,N}を用いて、最小二乗法により、標準増体曲線を生成する(ステップS305)。すなわち、標準増体曲線生成部205は、x=0,1,2,・・・,Nに対する(h(x)-f(x))2の和を最小化する関数fを求め、この関数fを、標準増体曲線を表す関数とする。これにより、例えば、外れ値を取る胸幅が含まれる実績データが実績データ集合の中に存在したとしても、その外れ値の影響を低減したロバスト(頑強)な標準増体曲線を生成することが可能となる。なお、一般に、最小二乗法では外れ値の影響を受けやすいという欠点があることに留意されたい。
【0080】
そして、標準増体曲線生成部205は、上記のステップS305で生成された標準増体曲線を表す関数fを記憶部206に保存する(ステップS306)。これにより、増体判定装置20は、上記の増体判定処理で標準増体曲線を利用して繁殖雌豚Pの増体を判定することが可能となる。
【0081】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る増体判定システム1は、以下の(1)~(3)により、豚の増体を精度良く判定することができる。
【0082】
(1)上記の条件1~条件5のうちの少なくとも1つの条件を撮影条件として用いることにより、例えば、繁殖雌豚Pとの相対的な位置関係が適切な場合や撮影環境が適切な場合等に自動的に撮影することが可能となる。これにより、例えば、撮影者の撮影技術等に影響されることなく、精度の良い胸幅推定が可能となり、その結果、精度の良い増体判定が可能となる。
【0083】
(2)上記の手順1~手順5により、仮に点群データの一部に欠損が存在する場合であっても、撮影対象となった繁殖雌豚Pの胸幅を精度良く推定することができる。その結果、精度の良い増体判定が可能となる。
【0084】
(3)上記の標準増体曲線生成処理により、仮に実績データ集合の中に外れ値が存在する場合であっても、その外れ値の影響を低減したロバストな標準増体曲線を生成することができる。その結果、精度の良い増体判定が可能となる。
【0085】
<変形例>
・変形例1
上記の実施形態では、所定の撮影条件を満たした場合に自動で撮影するものとしたが、必ずしも自動で撮影しなくてもよい。例えば、所定の撮影条件を満たした場合にその旨をユーザMに通知して撮影を促してもよい。
【0086】
・変形例2
上記の実施形態では、「やせすぎ」、「やせぎみ」、「ふつう」、「ふとりぎみ」、「ふとりすぎ」の5つの分類を増体判定結果としたが、これに限られるものではなく、例えば、5つ未満や6つ以上の分類を増体判定結果としてもよい。また、例えば、増体を判定するのではなく、例えば、胸幅から体重を推定してもよい。なお、胸幅から体重は既知の手法(例えば、回帰式等で表現される体重推定モデル等)により推定することが可能である。
【0087】
・変形例3
上記の実施形態では、「撮影条件を満たした場合の自動撮影」、「上記の手順1~手順5による胸幅推定」及び「標準増体曲線生成処理」の3つを説明したが、本実施形態に係る増体判定システム1は、これらの3つのすべてを実現する場合に限られず、例えば、3つのうちの少なくとも1つを実現するものであってもよい。
【0088】
・変形例4
上記の実施形態では、実績データは、例えば、ユーザM等が繁殖雌豚の胸幅を実際に測定し、その繁殖雌豚の初回交配日からの経過日数と対応付けることにより作成したが、これに限られるものではない。例えば、上記の撮影処理と、上記の増体判定処理のステップS201~ステップS202による胸幅の推定とを実行し、経過日数と胸幅とが含まれる実績データを作成してもよい。
【0089】
・変形例5
上記の実施形態では、増体の判定対象を繁殖雌豚としたが、これに限られるものではなく、一般の豚であってもよいし、豚以外の家畜(例えば、牛、馬、羊等)であってもよい。
【0090】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【0091】
[参考文献]
参考文献1:特開2022-109683号公報
【符号の説明】
【0092】
1 増体判定システム
10 撮影装置
20 増体判定装置
101 送受信部
102 UI制御部
103 撮影条件判定部
104 撮影部
105 撮影データ作成部
201 送受信部
202 胸幅推定部
203 増体判定部
204 増体判定結果データ作成部
205 標準増体曲線生成部
206 記憶部