(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145275
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057556
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】長沼 陽一
(72)【発明者】
【氏名】水田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 まどか
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF07
2C057AG14
2C057AG32
2C057AG33
2C057AG68
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】液体噴射ヘッドにおいて、各圧力室の圧力損失にばらつきを抑制し、液体噴射特性を改善できる技術を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、複数の圧電素子と、振動板と、ノズルに連通し振動板の振動により液体に圧力を付与し液体の噴射に寄与する複数の圧力室と、液体の噴射に寄与しない1以上のダミー圧力室とを構成する圧力室基板と、を有する。圧力室とダミー圧力室と、は、圧力室基板の振動板と向かい合う面とは逆の面に開口しており、積層方向における振動板に向かう方向に深さを有する凹部である。さらに、複数の圧力室と1以上のダミー圧力室は、積層方向に対して垂直な方向である配列方向に配列されており、ダミー圧力室の深さとしての第1深さは、圧力室の深さとしての第2深さよりも浅い。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドであって、
複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子のそれぞれの圧電素子の駆動により振動する振動板と、
ノズルに連通し前記振動板の振動により液体に圧力を付与し液体の噴射に寄与する複数の圧力室と、液体の噴射に寄与しない1以上のダミー圧力室とを構成する圧力室基板と、
が積層方向に積層されている積層体を有し、
前記積層体において、前記複数の圧力室のそれぞれの圧力室と、前記1以上のダミー圧力室のそれぞれのダミー圧力室と、は、前記圧力室基板の前記振動板と向かい合う面とは逆の面に開口しており、前記積層方向における前記振動板に向かう方向に深さを有する凹部であり、
前記複数の圧力室と前記1以上のダミー圧力室は、前記積層方向に対して垂直な方向である配列方向に配列されており、
前記ダミー圧力室の前記深さとしての第1深さは、前記圧力室の前記深さとしての第2深さよりも浅い、液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子は、さらに、
第1電極と圧電体層と第2電極とを備え、かつ、
前記積層方向に沿ってみたときに、前記圧力室と、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、が重なる領域である能動領域を備え、
前記能動領域は、
前記積層方向と前記配列方向と直交する方向を流路方向とし、前記配列方向に沿ってみたときに、前記流路方向の範囲が前記ダミー圧力室に包含されるように構成されており、
前記ダミー圧力室の前記流路方向の範囲の長さは、前記能動領域の前記流路方向の範囲の長さ以上である、液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記複数の圧力室と前記1以上のダミー圧力室は、前記配列方向に、等間隔に配列されている、液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記複数の圧力室は、前記圧力室基板と前記振動板とによって画定され、
前記1以上のダミー圧力室は、前記圧力室基板によって画定され、かつ、前記振動板によっては画定されていない、液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧力室基板は、シリコン結晶であり、
前記振動板は、酸化シリコン膜である、液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項4または請求項5の液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子と同じ構成を備えるが駆動されない1以上のダミー圧電素子を備え、
前記1以上のダミー圧電素子のそれぞれのダミー圧電素子は、前記積層方向に沿ってみたときに、前記ダミー圧力室に重なる関係である、液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記第1深さは、前記第2深さの半分以上である、液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子は、さらに、
第1電極と圧電体層と第2電極とを備え、
前記液体噴射ヘッドは、
前記積層方向に沿ってみたときに、前記圧力室と、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、が重なる能動領域を有し、
前記積層方向と前記配列方向とに交わる方向である流路方向において、前記能動領域の位置を第1位置とし、
前記能動領域以外の位置であって、前記流路方向において前記第1位置よりも前記圧力室の端部に近い位置を第2位置とし、
前記第2位置における前記圧力室の前記深さを第3深さとし、
前記第2位置における前記ダミー圧力室の前記深さを第4深さとしたとき、
前記第1深さと、前記第2深さと、は前記第1位置における前記深さであって、
前記第4深さと前記第3深さとの差は、前記第1深さと前記第2深さとの差よりも小さい、液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記第2位置は、前記流路方向において、前記第1位置よりも前記ノズルに近い、液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記第2位置は、前記積層方向に沿ってみたときに、前記圧力室と、前記振動板と、が重なる位置であって、
前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、のうちの少なくとも1つが重ならない、
または、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、前記圧力室基板の一部と、が重なる位置である、液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧力室基板には、
前記圧力室基板の前記振動板と向かい合う面とは逆の面に開口しており、前記積層方向における前記振動板に向かう方向に深さを有する凹部としてのディンプルを備え、
前記ダミー圧力室は、前記配列方向において、前記ディンプルと前記圧力室との間に配され、
前記ディンプルの深さは、前記第1深さよりも浅い、液体噴射ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、液体噴射ヘッドにおいて、配列した複数の圧力室に隣接してダミー圧力室が設けられる場合がある。ダミー圧力室は、異なる位置に設けられている圧力室同士の圧力損失のばらつきを低減する技術である。圧力室同士の圧力損失のばらつきは、噴射される液体の量や飛翔速度の差を生じる。複数の圧力室は、隣接する圧力室の圧力変動の影響を受ける。このため、複数の圧力室のうち、端部の圧力室と中央の圧力室とでは、隣接する圧力室の有無により圧力損失に差が生じる。よって、ダミー圧力室は、端部の圧力室に隣接して設けられることで、端部の圧力室の圧力損失と、中央の圧力室の圧力損失と、の差を低減している。
【0003】
しかし、特許文献1に記載のように、ダミー圧力室を設けただけでは、各圧力室の圧力損失のばらつきを抑制することが十分ではないことが知られている。ダミー圧力室においては、圧力変動を生じさせないため、ダミー圧力室上の振動板や隔壁に張力が加えられない。よって、ダミー圧力室と隣接する圧力室は、ダミー圧力室ではない圧力室と隣接する圧力室と比べ、振動板や隔壁の変形の度合いが大きくなる。したがって、ダミー圧力室と隣接する端部の圧力室と、ダミー圧力室と隣接しない中央とで、各圧力室の圧力損失のばらつきが発生する。
【0004】
特許文献1の技術は、ダミー圧力室にも圧電素子を設け、液体噴射ヘッドによる液体噴射が行われる期間中、ダミー圧力室の圧電素子も駆動させることで、ダミー圧力室に圧力変動を生じさせる。よって、特許文献1の技術は、ダミー圧力室上の振動板や隔壁に張力を生じさせることで、各圧力室の圧力損失のばらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ダミー圧力室にも圧電素子を設けてダミー圧力室を駆動させる場合、液体噴射ヘッドにおいて、配線や制御回路が複雑になる。このうえ、液体噴射ヘッドは、ダミー圧力室の圧電素子を駆動させるためにエネルギーを多く消費する。
【0007】
圧力損失のばらつきは、液体の噴射特性も悪化させる。これにより、噴射される液体に濃度差が生じることで、噴射対象に付着した液体にムラが生じる場合がある。したがって、ダミー圧力室の圧電素子を駆動させることなく、各圧力室の圧力損失のばらつきを抑制できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態によれば、液体噴射ヘッドが提供される。この液体噴射ヘッドは、複数の圧電素子と、前記複数の圧電素子のそれぞれの圧電素子の駆動により振動する振動板と、ノズルに連通し前記振動板の振動により液体に圧力を付与し液体の噴射に寄与する複数の圧力室と、液体の噴射に寄与しない1以上のダミー圧力室とを構成する圧力室基板と、が積層方向に積層されている積層体を有する。前記積層体において、前記複数の圧力室のそれぞれの圧力室と、前記1以上のダミー圧力室のそれぞれのダミー圧力室と、は、前記圧力室基板の前記振動板と向かい合う面とは逆の面に開口しており、前記積層方向における前記振動板に向かう方向に深さを有する凹部である。前記複数の圧力室と前記1以上のダミー圧力室は、前記積層方向に対して垂直な方向である配列方向に配列されている。前記ダミー圧力室の前記深さとしての第1深さは、前記圧力室の前記深さとしての第2深さよりも浅い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】液体噴射装置500の概略構成を示すブロック図。
【
図2】液体噴射ヘッド510の構成を示す分解斜視図。
【
図3】液体噴射ヘッド510の構成を平面視で示す説明図。
【
図5】
図4の圧電素子300近傍を拡大して示す断面図。
【
図8】圧力室12e1について、
図7のVII-VII位置の断面を示す説明図。
【
図9】ダミー圧力室13e1について、
図7のIX-IX断面を示す説明図。
【
図10】第1位置P1における、
図7のX-X断面を示す説明図。
【
図11】第2位置P2における、
図7のXI-XI断面を示す説明図。
【
図12】比較例のダミー圧力室14e1の断面を示す説明図。
【
図13】本開示の実施形態のダミー圧力室13e1の断面を示す説明図。
【
図14】連通板15と圧力室基板10の接着の状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
A1.液体噴射装置の全体構成:
図1は、本開示の第1実施形態としての液体噴射ヘッド510を備える液体噴射装置500の概略構成を示すブロック図である。本実施形態において、液体噴射装置500は、インクジェット式プリンターとして構成され、印刷用紙Pにインクを噴射して画像を形成する。
図1には、相互に直交する3つの軸であるX軸、Y軸およびZ軸が表されている。他の図面に記載のX軸、Y軸およびZ軸は、いずれも
図1のX軸、Y軸およびZ軸に対応する。向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。
【0011】
液体噴射装置500は、液体噴射ヘッド510と、インクタンク550と、搬送機構560と、移動機構570と、制御ユニット540とを備えている。
【0012】
液体噴射ヘッド510は、多数のノズル21を有し、+Z方向にインクを噴射して印刷用紙P上に画像を形成する。液体噴射ヘッド510の構成は、後に詳細に説明する。噴射するインクとしては、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの合計4色のインクが挙げられる。なお、液体噴射ヘッド510は、移動機構570が有する後述のキャリッジ572に搭載され、キャリッジ572の移動とともに主走査方向に往復移動する。本実施形態において、主走査方向は、+X方向および-X方向である。+X方向および-X方向を「X軸方向」とも呼ぶ。
【0013】
インクタンク550は、液体噴射ヘッド510から噴射するインクを収容する。インクタンク550は、キャリッジ572には搭載されていない。インクタンク550と液体噴射ヘッド510とは、樹脂製のチューブ552によって接続されており、かかるチューブ552を介してインクタンク550から液体噴射ヘッド510へとインクが供給される。
【0014】
搬送機構560は、印刷用紙Pを副走査方向に搬送する。副走査方向は、主走査方向であるX軸方向と直交する方向であり、本実施形態では、+Y方向および-Y方向である。+Y方向および-Y方向を「Y軸方向」とも呼ぶ。搬送機構560は、3つの搬送ローラー562が装着された搬送ロッド564と、搬送ロッド564を回転駆動する搬送用モーター566とを備える。搬送用モーター566が搬送ロッド564を回転駆動することにより、複数の搬送ローラー562が回転して印刷用紙Pが副走査方向である+Y方向に搬送される。
【0015】
移動機構570は、前述のキャリッジ572に加えて、搬送ベルト574と、移動用モーター576と、プーリー577とを備える。キャリッジ572は、インクを噴射可能な状態で液体噴射ヘッド510を搭載する。キャリッジ572は、搬送ベルト574に取り付けられている。搬送ベルト574は、移動用モーター576とプーリー577との間に架け渡されている。移動用モーター576が回転モーターことにより、搬送ベルト574は、主走査方向に往復移動する。これにより、搬送ベルト574に取り付けられているキャリッジ572も、主走査方向に往復移動する。
【0016】
制御ユニット540は、液体噴射装置500の全体を制御する。例えば、制御ユニット540は、キャリッジ572の主走査方向に沿った往復動作や、印刷用紙Pの副走査方向に沿った搬送動作を制御する。本実施形態において、制御ユニット540は、後述の圧電アクチュエーターの駆動制御部としても機能する。すなわち、制御ユニット540は、液体噴射ヘッド510に駆動信号を出力して圧電アクチュエーターを駆動させることにより、印刷用紙Pへのインク噴射を制御する。
【0017】
A2.液体噴射ヘッドの詳細構成:
図2は、液体噴射ヘッド510の構成を示す分解斜視図である。
図3は、液体噴射ヘッド510の構成を平面視で示す説明図である。
図3では、液体噴射ヘッド510における圧力室基板10周辺の構成が示されている。
図3では、技術の理解を容易にするために、保護基板30、ケース部材40が省略されている。
図4は、
図3のIV-IV位置を示す断面図である。
【0018】
液体噴射ヘッド510は、より具体的には、
図2に示すように、圧力室基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、コンプライアンス基板45と、保護基板30と、ケース部材40と、中継基板120と、を有し、さらに、
図3に示す圧電素子300とダミー圧電素子300aと、
図4に示す振動板50と、を有している。圧力室基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、コンプライアンス基板45と、振動板50と、圧電素子300またはダミー圧電素子300aと、保護基板30と、ケース部材40と、は、積層部材であり、積層されることで液体噴射ヘッド510を形成する。本開示において、液体噴射ヘッド510を形成する積層部材が積層される方向を、積層方向Am10とも呼ぶ。-Z方向および+Z方向を「Z軸方向」とも呼ぶ。積層方向Am10は、Z軸方向に沿った方向でもある。
【0019】
圧力室基板10は、例えば、シリコン結晶を用いて形成されている。
図3に示すように、圧力室基板10には、複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13と、が、積層方向Am10に対して垂直な方向である配列方向Am20に配列されている。複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13とが配列される方向を、配列方向Am20とも呼ぶ。+Y方向および-Y方向を「Y軸方向」とも呼ぶ。配列方向Am20は、Y軸方向に沿った方向でもある。圧力室12とダミー圧力室13は、平面視においてX軸方向の長さがY軸方向の長さよりも長い長方形状で形成されている。
【0020】
複数の圧力室12のそれぞれの圧力室12と、1以上のダミー圧力室13のそれぞれのダミー圧力室13と、は、Z軸方向としての積層方向Am10における振動板50に向かう方向に深さhを有する凹部である。圧力室12とダミー圧力室13の深さhについては、後に詳細に説明する。
【0021】
本実施形態では、複数の圧力室12は、それぞれY軸方向を配列方向Am20とする2つの列で配列されている。
図3の例では、圧力室基板10には、Y軸方向を配列方向Am20とする第1圧力室列Laと、Y軸方向を配列方向Am20とする第2圧力室列Lbとの2つの圧力室列が形成されている。第2圧力室列Lbは、第1圧力室列Laの配列方向Am20に交差する方向において、第1圧力室列Laと隣り合うように配置されている。配列方向Am20に交差する方向を流路方向Am30とも呼ぶ。
図3の例では、流路方向Am30は、X軸方向であり、第2圧力室列Lbは、第1圧力室列Laの-X方向に隣り合っている。
【0022】
第1圧力室列Laに属する複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13と、第2圧力室列Lbに属する複数の圧力室12とダミー圧力室13とは、それぞれ配列方向Am20での位置が互いに一致し、流路方向Am30では互いに隣り合うように配置されている。この配置については、後に詳細に説明する。
【0023】
各圧力室列において、圧力室12同士と、ダミー圧力室13同士と、圧力室12とダミー圧力室13は、後述するように、隔壁11によって等間隔に区画されている。隔壁11は、圧力室基板10を区画している圧力室基板10の一部である。圧力室12とダミー圧力室13については、後に詳細に説明する。
【0024】
図2に示すように、圧力室基板10の-Z方向側には、連通板15と、ノズルプレート20およびコンプライアンス基板45とが順に積層されている。連通板15は、例えば、シリコン基板を用いた平板状の部材である。
図4に示すように、連通板15には、ノズル連通路16と、第1マニホールド部17と、第2マニホールド部18と、供給連通路19とが設けられている。
【0025】
図4に示すように、ノズル連通路16は、圧力室12と、ノズル21とを連通する流路である。第1マニホールド部17および第2マニホールド部18は、複数の圧力室12が連通する共通液室となるマニホールド100の一部として機能する。第1マニホールド部17は、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、
図4に示すように、連通板15をZ軸方向に貫通することなく、連通板15の-Z方向側の面に設けられている。
【0026】
供給連通路19は、圧力室12のX軸方向の一方の端部に連通する流路である。供給連通路19は、複数であり、Y軸方向、すなわち配列方向Am20に沿って配列され、圧力室12の各々に個別に設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と各圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを各圧力室12に供給する。
【0027】
ノズルプレート20は、連通板15を挟んで圧力室基板10とは反対側、すなわち、連通板15の+Z方向側の面に設けられている。ノズルプレート20の材料としては、例えば、シリコン基板である。
【0028】
ノズルプレート20には、複数のノズル21が形成されている。各ノズル21は、ノズル連通路16を介して各圧力室12と連通している。
図2に示すように、複数のノズル21は、圧力室12の配列方向Am20、すなわちY軸方向に沿って配列されている。ノズルプレート20には、これら複数のノズル21が列設されたノズル列が2列設けられている。2つのノズル列は、第1圧力室列La、第2圧力室列Lbにそれぞれ対応する。
【0029】
図4に示すように、コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20とともに、連通板15を挟んで圧力室基板10とは反対側、すなわち、連通板15の-Z方向側の面に設けられている。コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20の周囲に設けられ、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18の開口を覆う。本実施形態では、コンプライアンス基板45は、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を備えている。
図4に示すように、固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっている。このため、マニホールド100の一方面は、封止膜46のみで封止されたコンプライアンス部49となっている。
【0030】
図4に示すように、圧力室基板10を挟んでノズルプレート20等とは反対側、すなわち圧力室基板10の-Z方向側の面には、振動板50と、圧電素子300とが積層されている。圧電素子300は、振動板50を撓み変形させて圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる。
図4では、技術の理解を容易にするために、圧電素子300の構成については簡略化して示している。圧電素子300については、後に詳細に説明する。振動板50は、圧電素子300の-Z方向側に設けられ、圧力室基板10は、振動板50の+Z方向側に設けられている。
【0031】
図4に示すように、圧力室基板10の-Z方向側の面には、さらに、圧力室基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接着剤等によって接合されている。保護基板30は、圧電素子300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、Y軸方向である配列方向Am20に沿って配列された圧電素子300の列毎に設けられたものであり、本実施形態では、X軸方向に2列で並んで形成されている。また、保護基板30において、2列の保持部31の間に、X軸方向に沿って延伸し+X軸方向に沿って貫通する貫通孔32が設けられている。
【0032】
図4に示すように、保護基板30上には、ケース部材40が固定されている。ケース部材40は、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を、連通板15とともに形成している。ケース部材40は、平面視において連通板15と略同一の外形形状を有し、保護基板30と、連通板15とに亘って接合されている。
【0033】
ケース部材40は、収容部41と、供給口44と、第3マニホールド部42と、接続口43と、を有している。収容部41は、圧力室基板10および保護基板30を収容可能な深さを有する空間である。第3マニホールド部42は、ケース部材40において、収容部41のX軸方向における両外側に形成されている空間である。第3マニホールド部42と、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18とが接続されることによって、マニホールド100が形成されている。マニホールド100は、Y軸方向に亘って連続する長尺な形状を有している。供給口44は、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給する。接続口43は、保護基板30の貫通孔32に連通する貫通孔であり、中継基板120が挿通される。
【0034】
本実施形態の液体噴射ヘッド510では、
図1に示すインクタンク550から供給されるインクが、
図4に示す供給口44から取り込まれる。マニホールド100からノズル21に至るまで内部の流路をインクで満たした後、複数の圧力室12に対応するそれぞれの圧電素子300に、駆動信号に基づく電圧が印加される。これにより、後述する圧電素子300とともに振動板50がたわみ変形して各圧力室12内の圧力が高まり、各ノズル21からインク滴が噴射される。
【0035】
複数の圧力室12に対して1以上のダミー圧力室13は、マニホールド100およびノズル21に連通していない。より具体的には、連通板15は、ダミー圧力室13に接続される流路を備えていない。よって、ダミー圧力室13には、インクは供給されない。
【0036】
図3から
図6を用いて、圧力室基板10のZ軸方向の構成について説明する。
図5は、
図4の圧電素子300近傍を拡大して示す断面図である。
図6は、
図3のVI-VI位置を示す断面図である。液体噴射ヘッド510は、
図5に示すように、圧力室12を備える圧力室基板10の-Z方向側に、振動板50と、圧電素子300と、に加え、さらに、個別リード電極91と、共通リード電極92と、を有している。
【0037】
圧力室12は、
図5に示すように、流入口12c1と、供給路12c2と、圧力部12rと、より構成される。インクは、供給連通路19に繋がる流入口12c1から圧力室12内部に流入する。圧力室12のY軸方向の幅は、供給路12c2において、Y軸方向に狭くなっている。供給路12c2のY軸方向の幅については、後に説明する
図7において示されている。供給路12c2は、流入するインクに対して流路抵抗となる部分である。インクは、供給路12c2を通過することで、圧力部12rに到達する。本実施形態において、後に説明する圧力室12の長さL3は、圧力部12rの長さである。インクは、圧力部12rを通過してノズル連通路16に到達する。圧力室12の構造については、後に詳細に説明する。
【0038】
振動板50は、複数の圧電素子300のそれぞれの圧電素子300の駆動により振動する。振動板50は、
図5の中段左部に示すように、圧力室基板10側に設けられた酸化シリコン膜からなる弾性膜55と、酸化ジルコニウム膜からなる絶縁体膜56と、に構成されている。圧力室12等の圧力室基板10に形成される流路は、圧力室基板10を+Z方向側から-Z方向に向かって、異方性エッチングすることにより形成されている。圧力室12等の流路の-Z方向側の面は、弾性膜55で構成されている。技術の理解を容易にするため、
図5以外の図面では、弾性膜55と絶縁体膜56の図示を省略する。
【0039】
圧電素子300は、圧力室12に圧力を付与する。
図5および
図6に示すように、圧電素子300は、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを有する。第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とは、-Z方向側から+Z方向側に向かって順に積層されている。圧電体層70は、第1電極60、第2電極80、および圧電体層70が積層される積層方向Am10、すなわちZ軸方向において、第1電極60と第2電極80との間に設けられている。
【0040】
ダミー圧電素子300aは、
図6に示すように、圧電素子300と同じ構成を備えるが駆動されない素子である。1以上のダミー圧電素子300aのそれぞれのダミー圧電素子300aは、積層方向Am10に沿ってみたときに、ダミー圧力室13に重なる関係である。
【0041】
第1電極60および第2電極80は、いずれも
図4に示す中継基板120と電気的に接続されている。第1電極60および第2電極80は、駆動信号に応じた電圧を、圧電体層70に印加する。第1電極60には、インクの噴射量に応じて異なる駆動電圧が供給され、第2電極80には、インクの噴射量に関わらず、一定の基準電圧信号が供給される。インクの噴射量は、圧力室12に必要な容積変化量である。圧電素子300が駆動されることにより、第1電極60と第2電極80との間に電位差が生じると、圧電体層70が変形する。圧電体層70の変形により、振動板50は、変形または振動して圧力室12の容積が変化する。圧力室12の容積が変化することにより、圧力室12に収容されているインクに圧力が付与され、ノズル連通路16を介してノズル21からインクが噴射される。
【0042】
図3に示すように、第1電極60は、複数の圧力室12に対して個別に設けられる個別電極である。第1電極60は、例えば、白金(Pt)で構成されている。
図6に示すように、第1電極60のY軸方向の幅は、圧力室12の幅よりも狭い。すなわち、第1電極60のY方向の両端は、圧力室12のY軸方向の両端よりも内側に位置している。
図5に示すように、第1電極60の+X方向の端部60aは、圧力室12の内側に配置されている。第1電極60の-X方向の端部60bは、圧力室12の外側に配置されている。例えば、第1圧力室列Laでは、第1電極60の端部60aは、圧力室12の+X方向の端部12aよりも+X方向側となる位置に配置されている。第1電極60の端部60bは、圧力室12の-X方向の端部12bよりも-X方向側となる位置に配置されている。
【0043】
圧電体層70は、
図5に示すように、圧電体層70のX軸方向の幅は、圧力室12の長手方向であるX軸方向の幅よりも長い。圧電体層70は、
図5に示すように、圧力室12の配列方向Am20、すなわち、X軸方向に沿って延在して設けられている。このため、圧力室12のX軸方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12の外側まで延在している。圧電体層70としては、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜、いわゆるペロブスカイト型結晶が挙げられる。本実施形態では、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いたが、これに限定されない。
【0044】
図5に示すように、圧電体層70の+X方向の端部70aは、第1圧力室列Laにおいて、第1電極60の端部60aよりも外側となる+X方向側に位置している。すなわち、第1電極60の端部60aは圧電体層70によって覆われている。一方、圧電体層70の-X方向の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも内側となる-X方向側に位置しており、第1電極60の端部60bは、圧電体層70では覆われていない。
【0045】
圧電体層70には、
図6に示すように、他の領域よりも厚さが薄い部分である溝部71が形成されている。溝部71は、各隔壁11に対応する位置に設けられる。溝部71は、圧電体層70をZ軸方向に完全に除去することで、形成されている。圧電体層70に溝部71を設けることにより、振動板50の圧力室12のX軸方向の端部に対向する部分、いわゆる振動板50の腕部の剛性が抑えられるため、圧電素子300をより良好に変位させることができる。
【0046】
第2電極80は、
図5および
図6に示すように、第1電極60とは圧電体層70を挟んだ反対側、すなわち圧電体層70の-Z方向側に設けられている。第2電極80は、
図3に示すように、複数の圧力室12に対して共通に設けられ、後に説明する複数の能動領域50r1に共通する共通電極である。本実施形態では、第2電極80としてイリジウム(Ir)を用いている。
【0047】
第2電極80は、
図3に示すように、X軸方向に所定の幅を有するとともに、圧力室12の配列方向Am20、すなわちY軸方向に沿って延在して設けられている。
図6に示すように、第2電極80は、圧電体層70の溝部71の側面上および溝部71の底面である絶縁体膜56上にも設けられている。
【0048】
図5に示すように、第2電極80の+X方向の端部80aは、圧電体層70で覆われている第1電極60の端部60aよりも外側、すなわち+X方向側に配置されている。第2電極80の端部80aは、圧力室12の端部12aよりも外側であり、かつ第1電極60の端部60aよりも外側に位置している。本実施形態では、第2電極80の端部80aは、X軸方向において、圧電体層70の端部70aと略一致している。
【0049】
図5に示すように、第2電極80の-X方向の端部80bは、圧力室12の-X方向の端部12bよりも内側となる+X方向側に配置され、圧電体層70の端部70bよりも内側となる+X方向側に配置されている。圧電体層70の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも+X方向側となる内側に位置している。したがって、第2電極80の端部80bは、第1電極60の端部60bよりも+X方向側となる圧電体層70上に位置している。第2電極80の端部80bの-X方向側には、圧電体層70の表面が露出された部分が存在する。このように、第2電極80の端部80bは、圧電体層70の端部70bおよび第1電極60の端部60bよりも+X方向側に配置されている。
【0050】
第2電極80の端部80bの外側には、第2電極80と同一層となるが、第2電極80とは電気的に不連続となる配線部85が設けられている。配線部85は、第2電極80の端部80bから間隔を空けた状態で、圧電体層70の端部70b近傍から第1電極60の端部60bに亘って形成されている。配線部85は、圧電素子300毎に設けられている。すなわち、配線部85は、Y軸方向に沿って所定の間隔で複数配置されている。
【0051】
圧電素子300において、
図5に示すように、積層方向Am10に沿ってみたときに、圧力室12と、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、が重なり、かつ、後述の段差部10sと重ならない領域、および、当該領域によって規定されるX軸方向における区間を、能動領域50r1とよぶ。積層方向Am10と配列方向Am20とに交わる方向である流路方向Am30における能動領域50r1の任意の位置を第1位置P1ともよぶ。
【0052】
図5に示すように、非能動領域50r2は、圧電素子300を積層方向Am10に沿ってみたときに、能動領域50r1以外の領域であって、かつ、圧力室12の少なくとも一部と、圧力室12を区画する圧力室基板10の段差部10sと、振動板50と、が重なる領域、および、当該領域によって規定されるX軸方向における区間である。なお、説明の便宜上、以下では、能動領域50r1よりも-X方向に位置する領域のみについて非能動領域50r2と称する。ここで、段差部10sとは、圧力室12を-Z方向にみたときに、圧力室基板10の一部が残されており、振動板50が露出していない部分である。X軸方向において、非能動領域50r2内の任意の位置は、第2位置P2ともよぶ。第2位置P2は、流路方向Am30において、第1位置P1よりもノズル21に近い位置である。非能動領域50r2は、能動領域50r1よりもノズル21に近い領域である。
【0053】
図3および
図5に示すように、圧電素子300においては、個別電極である第1電極60には個別リード電極91が接続され、共通電極である第2電極80には駆動用共通電極である共通リード電極92がそれぞれ電気的に接続されている。個別リード電極91および共通リード電極92は、圧電体層70を駆動する電圧を圧電体層70に印加するための駆動配線として機能する。
【0054】
ダミー圧電素子300aにおいても、第2電極80は、圧電素子300と同様に、後に説明する中継基板120と電気的に接続される。すなわち、第2電極80と共通リード電極92と、は電気的に接続されている。一方で、
図3からも理解されるように、ダミー圧電素子300aにおいては、第1電極60は、個別リード電極91とは電気的に接続されていない。このため、ダミー圧電素子300aの圧電体層70には電圧が印加されることはない。つまり、ダミー圧電素子300aは駆動されることはない。このため、ダミー圧力室13はインクの噴射に寄与しない。
【0055】
図3および
図4に示すように、個別リード電極91および共通リード電極92は、保護基板30に形成された貫通孔32内に露出するように延設されており、貫通孔32内で中継基板120と電気的に接続されている。中継基板120には、図示しない制御基板および電源回路と接続するための複数の配線が形成されている。本実施形態において、中継基板120は、例えば、フレキシブル基板(FPC:Flexible Printed Circuit)により構成されている。
【0056】
中継基板120には、スイッチング素子を有する集積回路121が実装されている。集積回路121には、中継基板120で伝搬する圧電素子300を駆動するための信号が入力される。集積回路121は、入力される信号に基づいて、圧電素子300を駆動するための信号が第1電極60に供給されるタイミングを制御する。これにより、圧電素子300が駆動するタイミング、および圧電素子300の駆動量が制御される。
【0057】
個別リード電極91および共通リード電極92の材料は、金(Au)を用いている。個別リード電極91は、圧電素子300毎、すなわち、第1電極60毎に設けられている。
図5に示すように、例えば、個別リード電極91は、第1圧力室列Laでは、配線部85を介して、第1電極60の端部60b付近に接続され、振動板50上まで-X方向に引き出されている。
【0058】
図3に示すように、例えば、第1圧力室列Laでは、共通リード電極92は、X軸方向の両端部において屈曲し、第2電極80上から振動板50上にまで-X方向に引き出されている。共通リード電極92は、延設部92a、および延設部92bを有する。
図5に示すように、例えば、第1圧力室列Laでは、延設部92aは、圧力室12の端部12aに対応する領域にX軸方向に沿って延設され、延設部92bは、圧力室12の端部12cに対応する領域にX軸方向に沿って延設される。圧力室12の端部12cは、能動領域50r1における-X方向の端部である。延設部92aおよび延設部92bは、複数の能動領域50r1に対してY軸方向に亘って連続して設けられている。延設部92a、および延設部92bは、Y軸方向において、圧力室12の内側から圧力室12の外側まで延設されている。
【0059】
したがって、液体噴射ヘッド510は、複数の圧電素子300と、振動板50と、ノズル21に連通し振動板50の振動により液体に圧力を付与し液体の噴射に寄与する複数の圧力室12および液体の噴射に寄与しない1以上のダミー圧力室13を構成する圧力室基板10と、が積層されている積層体310を有している。さらに、液体噴射ヘッド510は、
図6に示すように、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む圧電素子300と、圧電素子300の駆動により振動する振動板50と、ノズル21に連通する圧力室12を振動板50とともに画定する隔壁11を有する圧力室基板10と、を積層した構造を有している。
【0060】
A3.圧力室とダミー圧力室の詳細構成:
複数の圧力室12は、ノズル21に連通し振動板50の振動により液体に圧力を付与し液体の噴射に寄与する。1以上のダミー圧力室13は、液体の噴射に寄与しない。なお、液体の噴射に寄与しないとは、液体を噴射させるための圧力の付与を行わないことである。
【0061】
図7は、
図3の圧力室12e1の近傍を示す平面図である。複数の圧力室12は、前述のように、X軸方向に第1圧力室列Laと第2圧力室列Lbとに分かれて配列されている。
図7では、
図3に示す第1圧力室列Laに属する圧力室12のうち、-Y方向において端部に配置されている圧力室12e1の近傍が示されている。
図7では、圧力室12とダミー圧力室13の関係を示すため、圧力室基板10の平面のみが示されている。
【0062】
1以上のダミー圧力室13は、
図3に示すように、格圧力室列のY軸方向における端部の圧力室12e1に隣接して配置されている。
図7に示すように、複数の圧力室12について、端部の圧力室12e1から圧力室基板10の中央側に近い順に、圧力室12e2と圧力室12e3とよぶ。1以上のダミー圧力室13について、端部の圧力室12e1から遠ざかる順に、ダミー圧力室13e1とダミー圧力室13e2とよぶ。
【0063】
複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13は、配列方向Am20に、等間隔に配列されている。この間隔とは、X軸方向の能動領域50r1の位置における隔壁11の厚さである。Y軸方向であるダミー圧力室13同士の間隔T2は、圧力室12同士の間隔T1と等間隔に配列されている。すなわち、この等間隔とは、ダミー圧力室13同士の間隔T2および圧力室12同士の間隔T1に存在する隔壁11の厚さが等しいという意味である。さらに、Y軸方向に隣接する端部のダミー圧力室13e1と端部の圧力室12e1との間隔T3も、間隔T1および間隔T2と同じである。
【0064】
さらに、端部の圧力室12e1の能動領域50r1は、積層方向Am10と配列方向Am20と直交する方向を流路方向Am30とし、配列方向Am20に沿ってみたときに、流路方向Am30の範囲がダミー圧力室13に包含されるように構成されている。流路方向Am30は、
図7におけるX軸方向である。すなわち、
図7に示すように、X軸方向において、端部のダミー圧力室13e1の範囲の長さL1とし、能動領域50r1の範囲を長さL2としたとき、長さL1は、長さL2以上であり、かつ、長さL2の位置を含む範囲である。
【0065】
このうえ、端部の圧力室12e1の範囲である長さL3としたとき、長さL3は、長さL2と、端部の圧力室12e1の非能動領域50r2の範囲である長さL4と、の合計である。
【0066】
すなわち、端部の圧力室12e1と端部のダミー圧力室13e1の隣接とは、前述のように、間隔T1~間隔T3が等しい状態、かつ、長さL1の範囲の内側に、長さL2の範囲が位置する状態である。また、圧力室基板10において、端部の圧力室12e1と端部のダミー圧力室13e1との間に、他の空間が設けられていない状態を、端部の圧力室12e1と端部のダミー圧力室13e1が隣接するといえる。
【0067】
図7に示すように、圧力室基板10は、ディンプル10dを備えている。ディンプル10dは、積層方向Am10における振動板50に向かう方向である-Z方向に深さhdを有する凹部である。ディンプル10dは、連通板15と圧力室基板10の接着のために接着剤を塗布する場合、圧力室基板10上の凹部となることで、接着剤の塗布を容易にする。よって、ディンプル10dの形状や位置は、接着条件に基づいて決定される。ディンプル10dの深さhdについては、後に説明する。ダミー圧力室13は、配列方向Am20において、ディンプル10dと圧力室12との間に配される。ディンプル10dにおいて、X軸方向の範囲L5や、Y軸方向のダミー圧力室13との間隔T4などは、間隔T1~間隔T3や範囲L1~範囲L4とは異なる。
【0068】
流路C1は、ディンプル10dとダミー圧力室13の内部圧力を調整するための空気の流路である。ディンプル10dとダミー圧力室13の内部圧力は、圧電素子300の駆動やインクの流動などにより圧力室基板10の振動することで、変動する。流路C1は、圧力室基板10の外部に繋がっている。流路C1は、ディンプル10dとダミー圧力室13に接続されることで、空気の逃げ道をつくる。よって、流路C1は、内部圧力の変動を防止する。
【0069】
図8は、圧力室12e1について、
図7のVII-VII位置の断面を示す説明図である。
図8では、Z軸方向の圧力室12e1の深さhが示されている。
図8では、技術理解を容易にするため、圧力室12e1に繋がる供給連通路19とノズル連通路16とが示されている。
【0070】
なお、以下の説明において深さhとは、特定の範囲における最大値もしくは平均値である。特定の範囲とは、圧力室12もしくはダミー圧力室13における能動領域50rもしくは非能動領域50r2の範囲である。例えば、後に説明する第2深さh2は、圧力室12の能動領域50r1の範囲内における深さhの最大値もしくは平均値である。深さhの平均値は、特定の範囲の流路方向Am30において、両端部の深さhと両端部からの距離が等しい中央部の深さhとの平均より求められる。
【0071】
図8において、第1位置P1の深さhとしての第2深さh2は、能動領域50r1における深さhの最大値もしくは平均値である。第2位置P2の深さhを第3深さh3としたとき、第3深さh3は、第2深さh2よりも浅い。すなわち、圧力室12e1の凹部の深さhは、供給連通路19側よりもノズル連通路16側において、浅くなっている。
【0072】
図9は、ダミー圧力室13e1について、
図7のIX-IX断面を示す説明図である。ダミー圧力室13e1の第1位置P1の深さhとしての第1深さh1と、第2位置P2の深さhとしての第4深さh4と、は略等しい深さである。また、「略等しい深さ」とは、数十μmの誤差を許容する概念である。つまり、ダミー圧力室13e1の深さhは、X軸方向において、一定の深さhである。ダミー圧力室13e1の底面13cは、後に説明するように、波打った面である。このため、この一定の深さhとは、ダミー圧力室13e1の深さhの設計値が一定という意味である。ここで、
図8および9における、第1位置P1および第2位置P2のX軸方向における位置は共通である。
【0073】
A4.圧力室とダミー圧力室の深さの関係:
図10は、第1位置P1における、
図7のX-X断面を示す説明図である。圧力室12とダミー圧力室13の深さhの関係について説明する。
図10では、X軸方向の能動領域50r1における圧力室12e1とダミー圧力室13e1の深さhを示している。積層体310において、前述のように、複数の圧力室12のそれぞれの圧力室12と、1以上のダミー圧力室13のそれぞれのダミー圧力室13と、は、積層方向Am10における振動板50に向かう方向に深さhを有する凹部である。なお、
図10では、技術の理解を容易にするため、圧電素子300の図示の簡略化およびノズルプレート20の図示の省略がされている。さらに、圧力室12やダミー圧力室13は、
図7に基づいて図示されているが、ディンプル10dの図示は、技術の理解を容易にするため、簡略化されている。
【0074】
圧力室12とダミー圧力室13の凹部は、圧力室基板10に対して、連通板15から振動板50に向かう方向に行われる異方性エッチングにより、形成されている。
図5に示すように、振動板50を構成する酸化シリコンからなる弾性膜55は、この異方性エッチングに対してストップ層として機能する。すなわち、圧力室12の凹部は、圧力室基板10において、連通板15から振動板50まで貫通するように形成されている。ただし、非能動領域50r2では、
図5に示すように、圧力室12eの凹部は、貫通していない。圧力室12eの凹部は、能動領域50r1において貫通している。
【0075】
ダミー圧力室13の凹部は、
図10に示すように、圧力室12と異なり、圧力室基板10を貫通していない。ダミー圧力室13の形成において、異方性エッチングは、連通板15から振動板50に向かって、圧力室基板10を中間まで行われる。すなわち、ダミー圧力室13の凹部の底面13cは、ストップ層により深さhを規定されないため、異方性エッチングの処理の精度に依存する。よって、ダミー圧力室13の凹部の底面13cは、波打った面である。例えば、ダミー圧力室13の凹部の底面13cは、深さhの設計値に対して±10μm程度の凹凸を有する。技術の理解を容易にするため、図面中のダミー圧力室13の底面13cは、平面として図示されている。
【0076】
よって、複数の圧力室12は、圧力室基板10と振動板50とによって画定されている。1以上のダミー圧力室13は、圧力室基板10によって画定されている。さらに、1以上のダミー圧力室13は、振動板50によっては画定されていない。
【0077】
図10に示すように、ダミー圧力室13の深さhとしての第1深さh1は、圧力室12の深さhとしての第2深さh2よりも浅く形成されている。より具体的には、第1深さh1は、第2深さh2の半分である。
【0078】
ディンプル10dの深さhdは、第1深さh1~第4深さh4よりも浅い深さhである。すなわち、ディンプル10dの深さhdは、圧力室12やダミー圧力室13の深さhよりも浅い凹部である。
【0079】
図11は、第2位置P2における、
図7のXI-XI断面を示す説明図である。前述のように、圧力室12は、第2位置P2における第3深さh3が、第1位置P1における第2深さh2よりも浅い。すなわち、ダミー圧力室13の深さhとしての第1深さh1と、圧力室12の第2位置P2の第3深さh3と、が、圧力室12の第1位置P1の第2深さh2よりも浅い。より具体的には、第2位置P2における、ダミー圧力室13の第4深さh4と、圧力室12の第3深さh3と、は略等しい深さhである。前述のように、圧力室基板10の中間までの凹部の底面13cは、異方性エッチングの際に波打った面となる。よって、第1深さh1と第3深さh3の深さhは、設計上において等しく形成されるが、設計値に対して±10μmの誤差を含む。
【0080】
図10および
図11に示すように、ダミー圧力室13の深さhとしての第1深さh1は、連通板15から振動板50の間における圧力室基板10の厚さT5により規定されている。圧力室12e1の第1位置P1の深さhとしての第2深さh2は、圧力室基板10の厚さT6により規定されている。圧力室12e1の第2位置P2の深さhとしての第3深さh3は、連通板15から振動板50までの圧力室基板10の段差部10sの厚さT7により規定されている。
【0081】
以上をまとめると、能動領域50r1の第1位置P1においては、ダミー圧力室13の第1深さh1は、圧力室12の第2深さh2よりも浅い。また、非能動領域50r2の第2位置P2においては、ダミー圧力室13の第4深さh4は、圧力室12の第3深さh3と略等しい。また、ダミー圧力室13の第1深さh1と第4深さh4とは、略等しい。したがって、
図11に示す非能動領域50r2の第2位置P2における、第4深さh4と第3深さh3との差は、
図10に示す能動領域50r1の第1位置P1における、第1深さh1と第2深さh2との差と比較して小さい。
【0082】
A5.ダミー圧力室の機能:
図12は、圧電素子300の駆動時の比較例としてのダミー圧力室14e1の断面を示す説明図である。
図12では、
図10と同様に第1位置P1における圧力室12e1と圧力室12e2と、ダミー圧力室13e1をダミー圧力室14e1に置き換えた構成が示されている。ダミー圧力室14e1は、本開示のダミー圧力室13ではなく、本開示のダミー圧力室13の機能を説明するための比較例である。ダミー圧力室14e1は、圧力室12e1と同じ貫通孔である。すなわち、ダミー圧力室14e1の第5深さh5は、圧力室12e1の第2深さh2と同じである。ダミー圧力室14e1に設けられたダミー圧電素子300aは、ダミー圧力室13e1のダミー圧電素子300aと同じ構成である。すなわち、ダミー圧力室14e1は、ダミー圧力室13e1と同様にインクの噴射に寄与しない。
【0083】
圧電素子300は、圧電素子300の駆動時、+Z方向に圧力を加える。このとき、圧力室12e1に面した振動板50は、圧力室12の内部に向かってたわむことで、圧電素子300に向かう張力F1を受ける。圧電素子300は、インクの噴射を必要としない場合も、待機電圧を印加されているため、振動板50に圧力を加えている。例えば、圧電素子300は、圧力室12e2に待機電圧を印加している場合、圧力室12e1に面した振動板50に張力F2を加えている。よって、圧力室12同士の間の隔壁11は、一方の圧力室12に引っ張られることがない。
【0084】
しかし、ダミー圧力室14e1に面した振動板50は、ダミー圧電素子300aを駆動させないため、ダミー圧電素子300aに向かう張力を受けない。よって、ダミー圧力室14e1と圧力室12e1の間の隔壁11において、振動板50近傍の隔壁11の一部11cは、圧力室12e1側に一方的に引っ張られることで、変形する場合がある。隔壁11の変形は、圧力室12e1の容積を変えることで、圧力変動に影響する。すなわち、ダミー圧力室14e1に隣接した圧力室12e1と、ダミー圧力室14e1に隣接していない圧力室12e2と、で圧力損失にばらつきが生じる。圧力損失のばらつきにより、複数の圧力室12のそれぞれの液体の噴射特性も、圧力室12の配列の位置により差が生じる。より詳細には、
図12に示すように、ダミー圧力室14e1と圧力室12e1との間の隔壁11の一部11cに意図しない変形が生じることによって、ダミー圧力室14e1に隣接した圧力室12e1上の振動板50と、ダミー圧力室14e1に隣接していない圧力室12e2上の振動板50と、の間に張力の差が生じる。このため、圧力室12e1に対応する圧電素子300と、圧力室12e2する圧電素子300と、が同等に駆動したとしても、振動板50の張力の差に起因して噴射特性に差が生じてしまう。
【0085】
ダミー圧力室14e1は、ダミー圧電素子300aを設けられているため、例えば、ダミー圧電素子300aに待機電圧を印加させた場合、圧力室12e2と同様に張力F2を生ずる。しかし、ダミー圧力室14e1は、液体噴射装置500によるインクの噴射の間に、インクの噴射に寄与しない待機電圧によるエネルギーを消費する。
【0086】
図13は、圧電素子300の駆動時の本開示の実施形態のダミー圧力室13e1の断面を示す説明図である。
図13では、
図12の比較例のダミー圧力室14e1を本開示の実施形態のダミー圧力室13e1に置き換えた構成が示されている。ダミー圧力室13e1の第1深さh1は、ダミー圧力室14e1の第5深さh5よりも浅い。このため、振動板50の近傍において、ダミー圧力室13e1の隔壁11の一部11cは、ダミー圧力室14e1の隔壁11の一部11cよりも、Y軸方向に厚い。よって、張力F1を受けた場合、本開示のダミー圧力室13e1の隔壁11の変形は、比較例のダミー圧力室14e1の隔壁11の変形に比べて、抑制される。
【0087】
このような態様とすることで、ダミー圧力室13は、圧力室12よりも浅い凹部として画定される。すなわち、ダミー圧力室13は、圧力室12に比べて小さい空間を画定している。このため、圧力室基板10におけるダミー圧力室13を画定している部位は、圧力室12を画定している部位に比べて高い剛性を有する。よって、本開示のダミー圧力室13は、ダミー圧力室14e1のように、圧力室12と同じ深さhの態様と比べて、変形を抑制する。
【0088】
ダミー圧力室13は、圧力室基板10を貫通していない状態である。圧力室12は、圧力室基板10を貫通した状態である。よって、圧力室基板10におけるダミー圧力室13を画定している部位は、圧力室12を画定している部位に比べて高い剛性を有する。したがって、ダミー圧力室13e1と圧力室12e1との間の隔壁11の一部11cに意図しない変形が生じることが抑制され、ダミー圧力室14e1に隣接した圧力室12e1上の振動板50と、ダミー圧力室14e1に隣接していない圧力室12e2上の振動板50と、の間に張力の差が低減される。このため、圧力室12e1に対応する圧電素子300と、圧力室12e2する圧電素子300と、を同等に駆動した場合の噴射特性の差が生じることが抑制される。
【0089】
ダミー圧力室13の第1深さh1は、圧力室12の第2深さh2よりも浅い。このため、ダミー圧力室13の剛性は、深さhが半分未満の場合に比べて、圧力室12の剛性と差が大きく、かつ、圧力室12の剛性よりも高くなる。よって、ダミー圧力室13は、隣接する圧力室12による変形を防止する。
【0090】
このうえ、ダミー圧力室13は、ダミー圧電素子300aを備えている。すなわち、ダミー圧力室13と圧力室12は、圧力室基板10上に同様の積層構造により構成されている。よって、圧力室基板10は、ダミー圧電素子300aを設けない場合に比べて、圧力室基板10上の剛性の差や膜応力の変化などを抑制される。
【0091】
さらに、ダミー圧力室13は、能動領域50r1に隣接して配置される。よって、ダミー圧力室13は、圧力室12において圧力変動を生じる領域に対して、その変形を抑制できる。
【0092】
複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13は、等間隔に配列されている。より具体的には、圧力室12同士と、ダミー圧力室13同士と、圧力室12とダミー圧力室13と、の間隔が、等しい。よって、ダミー圧力室13と圧力室12の条件を近づけることで、圧力室基板10において、圧力室12の剛性とダミー圧力室13の剛性との差が低減する。
【0093】
したがって、本開示のダミー圧力室13は、駆動していない状態において、変形による圧力室12の容積の変化を防止することで、各圧力室の圧力損失にばらつきを抑制できる。すなわち、液体噴射ヘッド510について、液体の噴射特性が改善する。
【0094】
さらに、非能動領域50r2の第2位置P2における、ダミー圧力室13の第4深さh4と圧力室12の第3深さh3との差は、能動領域50r1の第1位置P1における、ダミー圧力室13の第1深さh1と圧力室12の第2深さh2との差と比較して小さい。このような態様とすることで、このような態様とすることで、第2位置P2における圧力室12の第3深さh3と、ダミー圧力室13の第4深さh4との差が比較的小さくなる。ここで、非能動領域50r2である第2位置P2においては、圧力室基板10の段差部10sが設けられることによって振動板50が変形しないため、能動領域50r1である第1位置P1のように振動板50の張力は問題とならない。その一方で、第2位置P2においては、圧力室12同士、または、ダミー圧力室13と圧力室13と、を区画する圧力室基板の意図しない変形が隣接する圧力室12に影響を与える問題、いわゆるクロストークが問題となる。こうした変形は、圧電素子300を駆動することによる圧力室12内の内圧によって生じる。したがって、圧力室12の第3深さh3と、ダミー圧力室13の第4深さh4との差を小さくする、より好ましくは、第3深さh3と、第4深さh4と、を略等しくすることで、端部の圧力室12e1と、端部以外の圧力室12である圧力室12e2などと、が受ける前述のクロストークの影響の差を小さくすることができる。よって、端部の圧力室12と、端部以外の圧力室12と、が噴射するインクの量に生じるばらつきを抑制できる。
【0095】
第2位置P2における圧力室12の変形は、圧力室12の両端におけるノズル21に近い一方の端部において、防止される。よって、ノズル21から遠い側の端部の変形が防止される場合に比べて、ノズル21に近い位置において圧力損失のばらつきが低減されるため、液体の噴射特性がより改善する。
【0096】
このうえ、第2位置P2は、圧電素子300の駆動しない振動板50の領域、または、圧力室基板10の一部が重なる領域であり、圧力室12において、圧力の付与を受けない領域である。よって、圧力の付与を受けない領域において、圧力室12の剛性は、隣接するダミー圧力室13の剛性に近づく。
【0097】
したがって、本開示の圧力室12は、第2位置P2における変形を防止することで、各圧力室12の圧力損失にばらつきが生じることを防止する。
【0098】
さらに、このような態様とすることで、酸化シリコン膜の振動板50は、シリコン結晶の圧力室基板10を異方性エッチングすることで圧力室12が形成される場合、エッチングストップ層として機能することができる。すなわち、酸化シリコン膜の振動板50は、異方性エッチングにより、振動板50までの凹部を形成することを容易する。
【0099】
図14は、連通板15と圧力室基板10の接着の状態を示す説明図である。
図14では、
図10からダミー圧力室13を除いた状態が示されている。さらに、
図14では、連通板15と圧力室基板10を接着する接着剤の一部GLを図示している。接着剤は、連通板15と圧力室基板10の間に塗布される。接着剤は、接着のときに、連通板15と圧力室基板10の間から溢れ出る。溢れた接着剤の一部GLは、凹部である圧力室12に流入する。端部の圧力室12e1は、接着面の広い隔壁11に接しているため、他の圧力室12に比べて多くの接着剤の一部GLが流入する。さらに、接着剤の一部GLは、-Z方向に向かって振動板50まで流れる場合もある。接着剤の一部GLは、圧力室12の容積を変化させることや、振動板50の振動の抑制する場合がある。端部の圧力室12e1は、接着剤の一部GLの流入が多いため、他の圧力室12に比べて接着剤の一部GLによる影響を受けやすい。したがって、接着剤の一部GLは、複数の圧力室12の圧力損失にばらつきを生じさせる。
【0100】
ダミー圧力室13が存在する場合、接着剤の一部GLは、ダミー圧力室13にも流入する。よって、端部の圧力室12e1に隣接してダミー圧力室13が設けられることで、接着剤の一部GLによる複数の圧力室12の圧力損失のばらつきが、低減する。
【0101】
さらに、複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13は、等間隔に配列されている。すなわち、複数の圧力室12のそれぞれの圧力室12は、隣り合う凹部を有する。このため、ダミー圧力室13は、複数の圧力室12における中央や端部の位置により、接着剤の一部GLの流れ込む量に偏りが生じることを防止する。よって、複数の圧力室12の圧力損失のばらつきが、低減される。
【0102】
このような態様とすることで、圧力室基板10に、ダミー圧力室13とは異なる凹部としてのディンプル10dが設けられる。例えば、積層構造を構成するために圧力室基板10に接着剤を塗布する場合、ディンプル10dは、圧力室基板上の凹部となることで、接着剤の塗布を容易にする。
【0103】
B.変形例:
上記実施形態において、液体噴射ヘッド510は、第1圧力室列Laと第2圧力室列Lbとそれぞれの流路ごとにノズル21を備える。第1圧力室列Laと第2圧力室列Lbとの各圧力室列に分かれて、インクの噴射が行われる。すなわち、第1圧力室列Laから供給されたインクは、第2圧力室列Lbの圧力室12に到達しない構造である。しかし、液体噴射ヘッド510は、第1圧力室列Laと第2圧力室列Lbとそれぞれの流路が連通した構造であってもよい。この構造を、DCR構造ともよぶ。すなわち、第1圧力室列Laから供給されたインクは、第2圧力室列Lbの圧力室12に到達する。ノズル21は、第1圧力室列Laの圧力室12と、第2圧力室列Lbの圧力室12とをつなぐ流路の間に設けられている。DCR構造であっても、上記実施形態と同様に、圧力の付与がされる圧力室12に対して、隣接してダミー圧力室13が設けられることで、各圧力室12の圧力損失にばらつきが生じることを防止する。
【0104】
C.変形例:
(1)上記実施形態において、端部の圧力室12e1の能動領域50r1は、配列方向Am20に沿ってみたときに、流路方向Am30の範囲がダミー圧力室13に包含されるように構成されている。すなわち、長さL1は、長さL2以上であり、かつ、長さL2の範囲を含む長さである。しかし、長さL1は、長さL2未満でもよい。例えば、長さL1は、能動領域50r1の長さL2の半分でもよい。圧電素子300の駆動時に、能動領域50r1における振動板50の変位量が大きい中央付近に隣り合うように、ダミー圧力室13を設けてもよい。
【0105】
(2)上記実施形態において、複数の圧力室12と1以上のダミー圧力室13は、配列方向Am20に、等間隔に配列されている。しかし、例えば、ダミー圧力室13e1の隔壁11の一部11cが変形する場合は、変位量に基づいて、実験的に圧力室12e1とダミー圧力室13e1の間隔T3を調整してもよい。
【0106】
(3)上記実施形態において、複数の圧力室12は、圧力室基板10と振動板50とによって画定され、1以上のダミー圧力室13は、圧力室基板10によって画定され、かつ振動板50によっては画定されていない。しかし、1以上のダミー圧力室13は、振動板50により画定されていてもよい。より具体的には、振動板50のダミー圧力室13に面する面に突出した凸部を設けることで、振動板50により、ダミー圧力室13の深さhが規定されていてもよい。
【0107】
(4)上記実施形態において、圧力室基板10は、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板等を用いて形成されていてもよい。
【0108】
(5)上記実施形態において、振動板50は、例えば、弾性膜55と絶縁体膜56とのいずれか一方で構成されていてもよい。さらには、弾性膜55および絶縁体膜56以外のその他の膜が含まれていてもよい。その他の膜の材料としては、シリコン、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0109】
(6)上記実施形態において、ダミー圧電素子300aは、中継基板120と電気的に接続されている。しかし、ダミー圧電素子300aは、中継基板120と電気的に接続されてなくてもよい。すなわち、第1電極60と個別リード電極91と、第2電極80と共通リード電極92と、は電気的に接続されていなくてもよい。ダミー圧電素子300aは、中継基板120と電気的に接続されずに駆動していなくてもよいし、中継基板120と電気的に接続された状態において、駆動されてもよいし、駆動されていなくてもよい。
【0110】
(7)上記実施形態において、第1深さh1は、第2深さh2の半分である。しかし、例えば、第1深さh1は、ディンプル10dの深さhdより大きく、第2深さh2より小さい深さhであればよい。
【0111】
(8)上記実施形態において、圧力室12には、非能動領域50r2の領域が有する。しかし、圧力室12は、非能動領域50r2の領域が有さず、能動領域50r1のみの領域により構成されていてもよい。すなわち、圧力室12の深さhは、第2深さh2のみで形成されていてもよい。
【0112】
(9)上記実施形態において、圧力室基板10は、ディンプル10dを備えている。しかし、圧力室基板10は、必ずしもディンプル10dを備えていなくてもよい。
【0113】
(10)上記実施形態において、1以上のダミー圧力室13は、マニホールド100およびノズル21に連通していない。しかし、1以上のダミー圧力室13は、マニホールド100およびノズル21に連通していてもよい。1以上のダミー圧力室13は、ノズル21に連通していなければよい。
【0114】
D.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0115】
(1)本開示の一形態によれば、液体噴射ヘッドが提供される。この液体噴射ヘッドは、複数の圧電素子と、前記複数の圧電素子のそれぞれの圧電素子の駆動により振動する振動板と、ノズルに連通し前記振動板の振動により液体に圧力を付与し液体の噴射に寄与する複数の圧力室と、液体の噴射に寄与しない1以上のダミー圧力室とを構成する圧力室基板と、が積層されている積層体を有する。前記積層体において、前記複数の圧力室のそれぞれの圧力室と、前記1以上のダミー圧力室のそれぞれのダミー圧力室と、は、前記圧力室基板の前記振動板と向かい合う面とは逆の面に開口しており、前記積層方向における前記振動板に向かう方向に深さを有する凹部である。前記複数の圧力室と前記1以上のダミー圧力室は、前記積層方向に対して垂直な方向である配列方向に配列されている。前記ダミー圧力室の前記深さとしての第1深さは、前記圧力室の前記深さとしての第2深さよりも浅い。このような態様とすることで、ダミー圧力室は、圧力室よりも浅い凹部として画定される。すなわち、ダミー圧力室は、圧力室に比べて小さい空間を画定している。このため、圧力室基板におけるダミー圧力室を画定している部位は、圧力室を画定している部位に比べて高い剛性を有する。よって、ダミー圧力室は、ダミー圧力室のように、圧力室と同じ深さの態様と比べて、変形を抑制する。したがって、例えば、ダミー圧力室は、圧力室に隣接して配された場合、駆動していない状態において、変形による圧力室の容積の変化を防止することで、各圧力室の圧力損失にばらつきを抑制できる。すなわち、液体噴射ヘッドについて、液体の噴射特性が改善する。
【0116】
(2)上記形態では、前記圧電素子は、さらに、第1電極と圧電体層と第2電極とを備え、かつ、前記積層方向に沿ってみたときに、前記圧力室と、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、が重なる領域である能動領域を備え、前記能動領域は、前記積層方向と前記配列方向と直交する方向を流路方向とし、前記配列方向に沿ってみたときに、前記流路方向の範囲が前記ダミー圧力室に包含されるように構成されており、前記ダミー圧力室の前記流路方向の範囲の長さは、前記能動領域の前記流路方向の範囲の長さ以上でもよい。このような態様とすることで、ダミー圧力室は、能動領域に隣接して配置される。よって、ダミー圧力室は、圧力室において圧力変動を生じる領域に対して、その変形を抑制できる。
【0117】
(3)上記形態では、前記複数の圧力室と前記1以上のダミー圧力室は、前記配列方向に、等間隔に配列されていてもよい。このような態様とすることで、複数の圧力室と1以上のダミー圧力室は、等間隔に配列されている。より具体的には、圧力室同士と、ダミー圧力室同士と、圧力室とダミー圧力室と、の間隔が、等しい。よって、ダミー圧力室と圧力室の条件を近づけることで、圧力室基板において、圧力室の剛性とダミー圧力室の剛性との差が低減する。
【0118】
(4)上記形態では、前記複数の圧力室は、前記圧力室基板と前記振動板とによって画定され、前記1以上のダミー圧力室は、前記圧力室基板によって画定され、かつ、前記振動板によっては画定されていなくてもよい。このような態様とすることで、ダミー圧力室は、圧力室基板を貫通していない状態である。圧力室は、圧力室基板を貫通した状態である。よって、圧力室基板におけるダミー圧力室を画定している部位は、圧力室を画定している部位に比べて高い剛性を有する。
【0119】
(5)上記形態では、前記圧力室基板は、シリコン結晶であり、前記振動板は、酸化シリコン膜でもよい。このような態様とすることで、酸化シリコン膜の振動板は、シリコン結晶の圧力室基板を異方性エッチングすることで圧力室12を形成する場合、エッチングストップ層として機能することができる。すなわち、酸化シリコン膜の振動板は、異方性エッチングにより、振動板までの凹部を形成することを容易する。
【0120】
(6)上記形態では、前記液体噴射ヘッドは、前記圧電素子と同じ構成を備えるが駆動されない1以上のダミー圧電素子を備え、前記1以上のダミー圧電素子のそれぞれのダミー圧電素子は、前記積層方向に沿ってみたときに、前記ダミー圧力室に重なる関係でもよい。このような態様とすることで、ダミー圧力室は、ダミー圧電素子を備えている。すなわち、ダミー圧力室と圧力室は、圧力室基板上に同様の積層構造により構成されている。よって、圧力室基板は、ダミー圧電素子を設けない場合に比べて、圧力室基板上の剛性の差や膜応力の変化などを抑制される。
【0121】
(7)上記形態では、前記第1深さは、前記第2深さの半分以上でもよい。このような態様とすることで、ダミー圧力室の第1深さは、圧力室の第2深さよりも浅い。このため、ダミー圧力室の剛性は、深さが半分未満の場合に比べて、圧力室の剛性と差が小さく、かつ、圧力室の剛性よりも高くなる。よって、ダミー圧力室は、隣接する圧力室による変形を防止する。
【0122】
(8)上記形態では、前記圧電素子は、さらに、第1電極と圧電体層と第2電極とを備え、前記液体噴射ヘッドは、前記積層方向に沿ってみたときに、前記圧力室と、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、が重なる能動領域を有し、前記積層方向と前記配列方向とに交わる方向である流路方向において、前記能動領域の位置を第1位置とし、前記能動領域以外の位置であって、前記流路方向において前記第1位置よりも前記圧力室の端部に近い位置を第2位置とし、前記第2位置における前記圧力室の前記深さを第3深さとし、前記第2位置における前記ダミー圧力室の前記深さを第4深さとしたとき、前記第1深さと、前記第2深さと、は前記第1位置における前記深さであって、前記第4深さと前記第3深さとの差は、前記第1深さと前記第2深さとの差よりも小さくてもよい。このような態様とすることで、第2位置における圧力室の第3深さと、ダミー圧力室の第4深さとの差が比較的小さくなる。ここで、非能動領域である第2位置においては、圧力室基板の段差部が設けられることによって振動板が変形しないため、振動板の張力は問題とならない一方で、圧力室同士、または、ダミー圧力室と圧力室と、を区画する圧力室基板の意図しない変形によるクロストークが問題となる。したがって、圧力室の第3深さと、ダミー圧力室の第4深さとの差を小さくする、より好ましくは、第3深さと、第4深さと、を略等しくすることで、端部の圧力室と、端部以外の圧力室と、が受ける前述のクロストークの影響の差を小さくすることができる。よって、端部の圧力室と、端部以外の圧力室と、が噴射するインクの量に生じるばらつきを抑制できる。
【0123】
(9)上記形態では、前記第2位置は、前記流路方向において、前記第1位置よりも前記ノズルに近くてもよい。このような態様とすることで、圧力室の変形は、圧力室の両端におけるノズルに近い一方の端部において、防止される。よって、ノズルから遠い側の端部の変形が防止される場合に比べて、ノズルに近い位置において圧力損失のばらつきを低減できるため、液体の噴射特性がより改善する。
【0124】
(10)上記形態では、前記第2位置は、前記積層方向に沿ってみたときに、前記圧力室と、前記振動板と、が重なる位置であって、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、のうちの少なくとも1つが重ならない、または、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、前記圧力室基板の一部と、が重なる位置でもよい。このような態様とすることで、第2位置は、圧電素子の駆動しない振動板の領域、または、圧力室基板の一部が重なる領域であり、圧力室において、圧力の付与を受けない領域である。よって、圧力の付与を受けない領域において、圧力室の剛性は、隣接するダミー圧力室の剛性に近づく。
【0125】
(11)上記形態では、前記圧力室基板には、前記圧力室基板の前記振動板と向かい合う面とは逆の面に開口しており、前記積層方向における前記振動板に向かう方向に深さを有する凹部としてのディンプルを備え、前記ダミー圧力室は、前記配列方向において、前記ディンプルと前記圧力室との間に配され、前記ディンプルの深さは、前記第1深さよりも浅くてもよい。このような態様とすることで、圧力室基板に、ダミー圧力室とは異なる凹部としてのディンプルが設けられる。例えば、積層構造を構成するために圧力室基板に接着剤を塗布する場合、ディンプルは、圧力室基板上の凹部となることで、接着剤の塗布を容易にする。
【符号の説明】
【0126】
10…圧力室基板、10a…一部、10d…ディンプル、11…隔壁、11c…一部、12…圧力室、12a,12b…端部、12c1…流入口、12c2…供給路、12e…圧力室、12r…圧力部、13…ダミー圧力室、12d,13c…部位、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…収容部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…供給口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、50r1…能動領域、50r2…非能動領域、55…弾性膜、56…絶縁体膜、60…第1電極、60a,60b…端部、70…圧電体層、70a,70b…端部、71…溝部、80…第2電極、80a,80b…端部、85…配線部、91…個別リード電極、92…共通リード電極、92a…延設部、92b…延設部、100…マニホールド、120…中継基板、12e1…圧力室、121…集積回路、13e1…ダミー圧力室、14e1…ダミー圧力室、300…圧電素子、300a…ダミー圧電素子、310…積層体、500…液体噴射装置、510…液体噴射ヘッド、540…制御ユニット、550…インクタンク、552…チューブ、560…搬送機構、562…搬送ローラー、564…搬送ロッド、566…搬送用モーター、570…移動機構、572…キャリッジ、574…搬送ベルト、576…移動用モーター、577…プーリー、580…制御基板、12e2…圧力室、13e2…ダミー圧力室、12e3…圧力室、Am10…方向、Am20…配列方向、Am30…流路方向、C1…流路、F1,F2…張力、GL…接着剤、L1,L2,L3,L4,L5…長さ、La…第1圧力室列、Lb…第2圧力室列、P…印刷用紙、P1…第1位置、P2…第2位置、T1,T2,T3,T4…間隔、T5,T6,T7…厚さ、h,h1,h2,h3,hd,h5…深さ