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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145316
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】シアン含有廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20241004BHJP
【FI】
C02F1/58 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057607
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】片山 秀行
(72)【発明者】
【氏名】細川 篤史
(72)【発明者】
【氏名】西原 清太
(72)【発明者】
【氏名】河村 誠
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB32
4D038BA02
4D038BB13
4D038BB20
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、実験施設、分析施設等で少量のシアン化カリウム、シアン化ナトリウムを使用した場合に発生する、毒性があるシアン成分を含むシアン含有廃液の処理方法のうち、毒劇物を使用せず、吸着や濾過ではなく、シアンを分解することにより、より安全な処理液に変換できる処理方法を提供することにある。
【解決手段】
シアン含有廃液に還元糖を添加し、この廃液をpH7~11の条件で還元糖と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、その後、廃液に酸を添加して該シアノヒドリンを酸性条件下で加水分解し、その後、廃液を中和する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン含有廃液に還元糖を添加し、この廃液をpH7~11の条件で還元糖と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、
その後、廃液中の該シアノヒドリンを酸性条件下で加水分解し、
その後、廃液を中和することを特徴とする、
シアン含有廃液の処理方法。
【請求項2】
前記還元糖とシアンとの反応条件をpH8~10とする、請求項1に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項3】
前記加水分解の際の酸性条件がpH3~4である、請求項1または2に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシアン含有廃液の処理方法であり、有害な処理薬剤や吸着材、濾過工程を必要とせず、簡便かつ安全に処理する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シアン含有廃液の処理方法としてはアルカリ塩素法やホルムアルデヒドを含む処理剤で処理する方法が知られているが、いずれも毒性や経済性に難のある方法であった。また、廃液が比較的少量の場合は施設内で無害化するか廃液をアルカリ性にして保管後に除害施設に運搬するのが一般的であるが、廃液をアルカリ性にしてもシアンガスの発生をゼロには出来ず、保管中はシアンガスの漏洩の危険がある。施設内での除害は次亜塩素酸化合物を使用する方法が一般的であるが、除害中に塩素ガス、塩化シアンガスの発生の危険がある。
そこで、シアン成分を残留しないようにする方法として、特許文献1では、シアン含有廃液に、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を添加し、かつ、廃液をpH5~12に保持して、上記化合物と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、該シアノヒドリンを懸濁性物質に吸着させ、その後に該吸着物を固液分離している。
先行文献における吸着除去の欠点として、懸濁性物質の存在が必要となる点が挙げられる。石炭・コークスなどを含まない廃液を処理する場合には、活性単やゼオライトなどを添加する必要がある。さらに、吸着除去後に該吸着物を安全に排出・処分する必要も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-239955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、実験施設、分析施設等で少量のシアン化カリウム、シアン化ナトリウムを使用した場合に発生する、毒性があるシアン成分を含むシアン含有廃液の処理方法のうち、毒劇物を使用せず、特許文献1のように吸着や濾過ではなく、シアンを分解することにより、より安全な処理液に変換できる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の発明に関する。
(1)シアン含有廃液に還元糖を添加し、この廃液をpH7~11の条件で還元糖と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、その後、廃液中の該シアノヒドリンを酸性条件下で加水分解し、その後、廃液を中和することを特徴とする、シアン含有廃液の処理方法。
(2)前記還元糖とシアンとの反応条件をpH8~10とする、(1)に記載のシアン含有廃液の処理方法。
(3)前記加水分解の際の酸性条件がpH3~4である、(1)または(2)に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、処理作業にあたって安全性に問題がなく、シアン含有廃液中のシアン化合物を最終的に全て無害化処理することができる方法が提供される。
また、本発明方法は、特別の装置を使用することなく、極めて簡易な手段によって、安全にかつ確実に、廃液中のシアン成分を効率よく分解除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のシアン含有廃液の処理方法は、以下の工程からなる。
第1工程
シアン含有廃液に還元糖を添加し、この廃液をpH7~11の条件で還元糖と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとする。
第2工程
該シアノヒドリンを酸性条件下で加水分解する。
第3工程
廃液を中和する。
【0008】
以下に、詳細に説明する。
(第1工程)
本発明の対象となるシアン廃液は、実験施設、分析施設等で少量のシアン化カリウム、シアン化ナトリウム等のシアン化合物を使用した場合に発生する、毒性があるシアン成分を含むシアン含有廃液である。
なお、本発明において、シアンとはシアンイオン(CN-)を、シアンガスとはHCNガスを意味する。
本発明において用いる還元糖としては、具体的には、グルコース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、フルクトース、グリセリルアルデヒド等の単糖類、マルトース、ラクトース、セロビオース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類、マルトオリゴ糖等のオリゴ糖が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
還元糖であれば特に制限はないが、単糖類又は二糖類が好ましく、二糖類がやや反応が速いため、より好ましく、さらにマルトースが、最も効率よく反応させることが出来るため、最も好ましい。
添加量は単糖類の場合、シアンに対するモル比で8倍以上、好ましくは、30~90倍である。二糖類の場合はシアンに対するモル比で4倍以上、好ましくは15~45倍である。処理の際の原理から推定すると、還元糖の官能基による反応と推定される為、反応に必要な還元糖のmol量は理論的に算出できる。上記モル比で行うと、48時間後にはシアンの80%以上が分解できる。
還元糖の添加量が多い程、濃度は濃い程、反応時間が短縮される。
反応中の廃液は、pH7~11、好ましくはpH8~10に保持することで、最も効率よく反応させることが出来る。反応時のpHは12を超えると還元糖とシアンの反応率が下がり、酸性側では還元糖の変質やシアンガス発生の恐れがある。pHの調整には、硫酸、塩酸などの酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリが用いられる。
反応温度は、高いほど反応が速く、4~80℃でシアンを分解できるが安全性を考慮して15~30℃が望ましく通常、室温で行うことができる。反応時間は室温の場合、還元糖の添加量で変動するのでモル比で45倍の還元糖を添加した条件では、5時間以上、好ましくは5~30時間である。
この処理方法においては、溶液中のシアンイオン(CN-)が除害対象であり、反応においてはガスの発生を伴わないので、密栓した容器内で実施することが可能である。
【0009】
廃液中のシアンは一部がシアンガスとして気化するが、一定時間経過後には、気化したシアンガスも再び廃液中に吸収され除害されるため、最終的にはすべてのシアンを無害化することができる。たとえば、還元糖の添加量を廃液中のシアンに対してモル比で45倍とした場合、常温反応で約2時間半後には気相へのシアンガス発生は無くなり、4時間後には液中のシアンは99%がシアノヒドリンに変化する。
これは気液平衡の効果により、廃液中のシアンが分解されると発生したシアンガスが再び廃液中に吸収され最終的には殆どのシアンが分解される為と推測される。
実際の処理にあたって、還元糖の添加量を決定する場合には、廃液中のシアン濃度を予め測定し、廃液量を考慮して該シアンがすべて付加できる量を添加すれば足りる。
シアノヒドリンは、還元糖のアルデヒド基又はケトン基に、シアンが付加されて生成される、分子内にシアノ基とヒドロキシ基を持つ化合物である。
【0010】
(第2工程)
その後、廃液に酸を添加して、廃液中のシアノヒドリンを酸性条件下で加水分解する。第一工程で発生したシアノヒドリンは、強アルカリ下でシアンに戻る事が確認されており、これを防ぐ為に酸性下で加水分解させ、カルボン酸化合物に変化させる。この処置により強アルカリになってもシアンに戻る事はなくなる。
塩酸や硫酸等の無機酸や酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸の1種又は2種以上を用いて酸性条件にすることができる。通常、pH1~5、好ましくはpH2~4で加水分解する。
加水分解は、通常、15~30℃、好ましくは20~25℃で行う。加水分解の時間は、処理装置や処理の規模にもよるが、通常、15分~1時間で行うことができる。
シアノヒドリンは、加水分解によってα‐ヒドロキシ酸となる。
【0011】
(第3工程)
加水分解後、中和剤を添加して廃液をpH5~7に中和する。
加水分解後の廃液は酸性であるため、中和剤としては、アルカリであればとくに限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸コバルト等のアルカリを用いることができる。
中和は、通常、15~30℃、好ましくは20~25℃で行う。中和の時間は、処理装置や処理の規模にもよるが、通常、15分~1時間で行うことができる。上記の通り、必要な条件を満たせば室温下で静置しているだけで確実にシアン成分の除去処理が可能となる。
【0012】
(上記処理後の廃液)
廃液を中和した後の処理液には、シアンは残存せず、シアン由来の中性塩と添加した残存還元糖が含有されるのみである。そのため、最終的に排出される処理液は安全に取り扱うことが可能となり、そのまま廃水として処分することも可能である。
【実施例0013】
以下、参考事例及び実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
(参考例)
シアン廃液とは、工場などから製造工程で排出される、シアン以外にも副生物や夾雑物などを含む水溶液である。このことから、今回の実施例ではシアン含有水溶液を廃液に見立てて処理を行った。
シアン含有水溶液1 NaCN 0.005g+0.4%NaOH 50ml pH12.9
強アルカリ条件のシアン含有水溶液1を試料水として容積50mlの共栓付き比色管内で調製し、表1に示す種々の糖を用い、溶液からシアン成分が除去されるか否か
を調べた。
1)試料水に、還元糖(麦芽糖、乳糖、ブドウ糖)及びショ糖をそれぞれ5g添加し攪拌後、24時間反応させた。
2)反応終了後の処理水中の残シアン量を、シアン蒸留法による分析により確認した。
【0014】
【表1】
上記の実験により、還元糖を添加することによって試料水中のシアン量を低減できることが確認された。また、シアン成分を除去できるのは還元糖で、単糖類よりも二糖類の効果が高いことが分かった。二糖類の中では麦芽糖の効果が最も高い為、麦芽糖を用いて試験を継続した。
pHの高いシアン含有水溶液1では除去率が最大64%に留まったことから、処理の際の至適pH範囲を確認する試験を行った。
モデルとしてpHの異なる水溶液を想定した。すなわち、強アルカリ条件のシアン水溶液(水溶液1)に加えて、純粋なシアン水溶液(水溶液2)、実験室などで排出される弱アルカリ条件のシアン水溶液(水溶液3)を想定した。下記の3種類のシアン溶液を調製して、処理を行った。
シアン含有水溶液1 NaCN 0.005g+0.4%NaOH 50ml pH12.9
シアン含有水溶液2 NaCN 0.005g+純水50ml pH11.0
シアン含有水溶液3 NaCN 0.005g+NaHCO3 1g+純水50ml pH8.4
シアン含有水溶液1~3について麦芽糖5gを添加し撹拌後、24時間反応後に定電位電解式シアンガス検知器で処理水のシアンガスの有無を確認した。なお、使用したシアンガス検知器は1ppmから検知が可能であり、pH調整用の薬液添加で試料体積が増え試料が希釈された状態であっても250~5000ppm相当の濃度のシアンが液中に存在すれば検知は可能である。
【0015】
【表2】
以上の結果より、処理の際の最適pHは7~11、より好ましくは8~10ということが分かった。
【0016】
(実施例1)
シアンに対する麦芽糖の添加量の多寡に関して検討を行った。
(1)500ppmシアン水溶液を調製した。
5000ppm NaCN 1 g+純水100ml pH11.4
500ppm 5000ppm NaCN水溶液 10ml+純水 90ml pH10.9
(2)試料液中のシアンに対して麦芽糖を規定量(表3)添加し、室温で反応させた。
(3)2時間30分後に、気相へのシアンガス発生量をシアンガス検知器により確認した。
(4)4時間、及び29時間後の残シアン分の確認を行った。
シアンの除去率は還元糖を添加しない同条件の試料を同様に分析し、比較して算出した。
【0017】
【表3】
以上より、麦芽糖の添加量の多寡に関わらず、29時間後にはほぼシアンが除去されていること、気相へのシアンガス発生がほぼないことを確認した。
(実施例2)
シアン溶液と麦芽糖の量比、及び中和後のシアン分解について確認した。
(1)(実施例1)に加えて、250ppmシアン水溶液を調製した。
250ppm 500ppm NaCN水溶液 50ml+純水 50ml pH10.7
(2)試料液中のシアンに対して麦芽糖を規定量(表4)添加し、室温で反応させた。
【0018】
【表4】
(3)上記の3試料に0.05mol/l硫酸溶液を攪拌しながら添加しpHを約3とした。
酸性下でのシアノヒドリンが加水分解されたことから、以下の手順でシアンが存在しないことを確認した。
(4)15分静置後に0.1mol/l水酸化ナトリウム溶液を攪拌しながら添加しpHを約7とした。
(5)各試料に20%水酸化ナトリウム溶液を添加しpHを約13.8の強アルカリとしてシアンガスの発生を定電位電解式シアンガス検知器で確認した。
その結果、シアン溶液と麦芽糖との量比に関わらず、強アルカリ条件に戻した場合であっても、3試料共にシアンガスは確認されなかった事から、シアン廃液中のシアン分解は成功したと判断した。