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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145329
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】粉末冶金用粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20241004BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20241004BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20241004BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241004BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20241004BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20241004BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22C9/06
C22C9/10
C22C9/00
B22F1/12
B22F1/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057627
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 翔
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AB10
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA15
4K018BB04
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Si含有銅基粉末を含有する粉末冶金用粉末であって、酸素分圧や露点を低くせずに通常の焼結雰囲気で焼結しても焼結阻害が生じ難く、成形性や機械的特性に優れる焼結体を作製でき、しかも、粉末形態や合金種が限定されない粉末冶金用粉末を提供する。
【解決手段】Siを0.1重量~5.0重量%と、750℃~1000℃の温度域における酸化物の標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い金属元素を30重量%以下含有し、残部がCuと0.5重量%以下の不可避不純物元素の合金粉末又は混合粉末であるSi含有銅基粉末と、無機フッ素化合物(AF但し、Aは任意の元素)であり、前記温度域における下記(反応式1)で表される反応の標準反応ギブズエネルギーΔGが負となる粉末である焼結助剤粉末を0.01重量~1.0重量%含有する粉末冶金用粉末。
(反応式1)SiO+(4/n)AF→SiF+(2/n)A
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si含有銅基粉末と焼結助剤粉末を含有する粉末冶金用粉末であって、前記Si含有銅基粉末は、Siを0.1重量%以上、かつ、5.0重量%以下と、750℃以上、かつ、1000℃以下の温度域における酸化物の標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い金属元素を30重量%以下含有し、残部がCuと0.5重量%以下の不可避不純物元素である合金粉末又は混合粉末であり、前記焼結助剤粉末は、2元系からなる無機フッ素化合物(AF但し、Aは任意の元素)であり、前記温度域における下記(反応式1)で表される反応の標準反応ギブズエネルギーΔGが負となる粉末であり、前記粉末冶金用粉末は、前記焼結助剤粉末を0.01重量%以上、かつ、1.0重量%以下含有する粉末冶金用粉末。
(反応式1)SiO+(4/n)AF→SiF+(2/n)A
【請求項2】
リン含有合金粉末を含有し、リンの総含有量が0.1重量%以上、かつ、0.5重量%以下である請求項1記載の粉末冶金用粉末。
【請求項3】
前記Si含有銅基粉末の見掛密度が4.0g/cm以下であり、かつ、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径である請求項1又は2記載の粉末冶金用粉末。
【請求項4】
潤滑剤を3重量%以下含有する請求項1又は2記載の粉末冶金用粉末。
【請求項5】
請求項1又は2記載の粉末冶金用粉末の圧粉成形体を焼結してなる焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末冶金用粉末に関する。詳しくは、該粉末冶金用粉末は、酸素分圧や露点を低くせずに通常の焼結雰囲気で焼結しても焼結阻害が生じ難く、成形性や機械的特性に優れる焼結体を作製でき、しかも、粉末形態や合金種が限定されない粉末冶金用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法とは金属粉末を金型で加圧成形し、金属の融点以下の温度で焼結を行うことで金属部品を製造する方法である。
【0003】
粉末冶金法では金型さえあれば金属部品をニアネットシェイプに成形することができるので、高精度部品の大量生産に適しており、切削工程も少ないので経済性および環境性にも優れる。
【0004】
また、粉末を原料とする特性上、フィルターのような多孔質材料の製造や、超硬合金や摺動材のような本来親和しない複合材の製造にも好適である。
【0005】
粉末冶金法では、粉末表面の酸化被膜形成による焼結阻害を解消するため、一般的には還元性のある水素を含む雰囲気で、酸化被膜を還元・除去し、焼結する。
【0006】
しかし、酸化被膜と水素の還元反応の標準反応ギブズエネルギーが正となる場合は、酸化被膜は水素によって還元・除去されないため、水素雰囲気の焼結であっても焼結阻害が発生するという問題がある。
【0007】
SiはCr、Mn、Fe、Co、Niと硬い金属間化合物をつくり、強度や耐摩耗性に寄与するため、よく用いられる元素である。
【0008】
しかし、Siは焼結阻害を引き起こす元素であって、750℃~1000℃におけるSiO+2H→Si+2HOの反応のギブズエネルギーが正であり、Si+O→SiOの反応のギブズエネルギーが負であるため、SiO酸化被膜は水素によって還元・除去されず、焼結雰囲気中の酸素や水分と反応して容易にSiO酸化被膜を形成するという問題がある。
【0009】
したがってSi含有金属粉末を焼結する場合は、例えば真空焼結のように酸素分圧や水蒸気圧を十分に下げて焼結する必要がある。
【0010】
Si含有金属粉末の焼結においては、組成や粉末形態(合金粉・混合粉)によっても左右されるが、露点温度が-50℃~-40℃あれば十分に焼結することが可能である。
【0011】
しかしながら汎用的な焼結体の製造において、製造コストの観点から焼結時の露点温度は-20℃~0℃であることが多く、Si含有金属粉末の焼結においては焼結阻害が発生するという問題がある。
【0012】
そこで、粉末形態や合金種に関わらず、Siの酸化被膜を化学的に除去し、酸素分圧や露点を低くしない通常の焼結雰囲気においても焼結阻害を抑制できるような粉末冶金用粉末の開発が望まれている。
【特許文献1】特許7143899号公報
【特許文献2】特許6315241号公報
【特許文献3】特開2022-74433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1には、CuにNi、Siを固溶、時効処理を施し微細なNiSiを析出させることで、高い導電性と強度を示す銅基焼結体が記載されている。
【0014】
特許文献2には、組織中に2μm程度の粗大なNiSi粒子を析出させることによって耐摩耗性を高めた銅基焼結体が記載されている。
【0015】
しかしながら、特許文献1、特許文献2記載の発明はともにバルブガイドを想定しており、銅系にしては高い成形圧力(500MPa)で粉末同士の密着性を向上させて焼結密度を高めているが、Siの酸化被膜による焼結阻害を本質的に改善するものではなく、100MPa~400MPaの成形圧では焼結密度は極端に低くなるという問題がある。
【0016】
特許文献3には、Cu-Si粉とNi粉の混合粉を用いる方法で低い成形圧でも優れた焼結性を得られることが記載されている。
【0017】
しかしながら、特許文献3記載の発明は、粉末形態や合金種が限定されており、他の混合粉や合金粉を用いることができないという問題がある。
【0018】
本発明者は、前記諸問題を解決することを技術的課題とし、数多くの試作と評価を重ねた結果、Si含有銅基粉末と焼結助剤粉末を含有する粉末冶金用粉末であって、前記Si含有銅基粉末はSiを0.1重量%以上、かつ、5.0重量%以下と、750℃以上、かつ、1000℃以下の温度域における酸化物の標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い金属元素を30重量%以下含有し、残部がCuと0.5重量%以下の不可避不純物元素である合金粉末又は混合粉末であり、前記焼結助剤粉末は、2元系からなる無機フッ素化合物(AF 但し、Aは任意の元素)であり、前記温度域における(反応式1)SiO+(4/n)AF→SiF+(2/n)Aの標準反応ギブズエネルギーΔGが負となる粉末であり、前記粉末冶金用粉末は、前記焼結助剤粉末を0.01重量%以上、かつ、1.0重量%以下含有する粉末冶金用粉末であれば、酸素分圧や露点を低くせずに通常の焼結雰囲気で焼結しても焼結阻害が生じ難く、成形性や機械的特性に優れる焼結体を作製でき、しかも、粉末形態や合金種が限定されない粉末冶金用粉末になるという知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記技術的課題は次のとおりの本発明によって解決できる。
【0020】
本発明は、Si含有銅基粉末と焼結助剤粉末を含有する粉末冶金用粉末であって、前記Si含有銅基粉末は、Siを0.1重量%以上、かつ、5.0重量%以下と、750℃以上、かつ、1000℃以下の温度域における酸化物の標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い金属元素を30重量%以下含有し、残部がCuと0.5重量%以下の不可避不純物元素である合金粉末又は混合粉末であり、前記焼結助剤粉末は、2元系からなる無機フッ素化合物(AF但し、Aは任意の元素)であり、前記温度域における下記(反応式1)で表される反応の標準反応ギブズエネルギーΔGが負となる粉末であり、前記粉末冶金用粉末は、前記焼結助剤粉末を0.01重量%以上、かつ、1.0重量%以下含有する粉末冶金用粉末である。
(反応式1)SiO+(4/n)AF→SiF+(2/n)A
【0021】
また本発明は、リン含有合金粉末を含有し、リンの総含有量が0.1重量%以上、かつ、0.5重量%以下である前記の粉末冶金用粉末である。
【0022】
また本発明は、前記Si含有銅基粉末の見掛密度が4.0g/cm以下であり、かつ、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径である前記の粉末冶金用粉末である。
【0023】
また本発明は、潤滑剤を3重量%以下含有する前記の粉末冶金用粉末である。
【0024】
また本発明は、前記の粉末冶金用粉末の圧粉成形体を焼結してなる焼結体である。
【発明の効果】
【0025】
本発明における粉末冶金用粉末は、焼結により生じるSiO酸化被膜が焼結助剤の無機フッ素化合物によって除去されるので、酸素分圧や露点を低くせずに一般的な銅系粉末と同様にして通常の焼結雰囲気で焼結しても焼結阻害が生じ難い粉末冶金用粉末である。
【0026】
また、リン含有合金粉末を含有すれば更に機械的特性に優れる焼結体を作製することができる。
【0027】
また、Si含有銅基粉末の見掛密度が4.0g/cm以下であり、かつ、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径であれば、さらに圧粉成形性及び焼結性に優れる粉末冶金用粉末になる。
【0028】
また、潤滑剤を含有すれば、成形時の金型からの抜き出し性に優れる粉末冶金用粉末になる。
【0029】
また、本発明による粉末冶金用粉末であれば、通常の焼結雰囲気で焼結したとしても焼結阻害が生じ難いので、製造コストを抑えながら、機械的特性に優れる焼結体を作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明における粉末冶金用粉末は、Si含有銅基粉末と焼結助剤粉末を含有する。
【0031】
(Si含有銅基粉末)
Si含有銅基粉末は、Siと、750℃~1000℃の温度域(以下「温度域」という)における酸化物の標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い金属元素と残部がCuと不可避不純物元素である合金粉末又は混合粉末である。
【0032】
Si含有銅基粉末におけるSiの含有量は0.1重量%~5.0重量%である。
【0033】
Siが0.1重量%未満であれば、Si量が少ないためSiO酸化被膜の量が少なく、焼結阻害が抑制されるので十分に焼結を行うことができ、また、Siが5.0重量%を超えると通常の焼結雰囲気では焼結阻害が生じる虞があるからである。
【0034】
また、Si含有銅基粉末は、前記温度域における酸化物の標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い金属元素を30重量%以下含有する。
【0035】
前記金属元素の含有量は0重量%であってもよい。
【0036】
前記温度域においてSiOよりも酸化物の標準生成ギブズエネルギーが低い金属元素を含有すると、SiO酸化被膜より安定な酸化被膜を形成することになるため、本発明における焼結助剤粉末の効果が得られない虞があるからである。
【0037】
また、SiOよりも酸化物の標準生成ギブズエネルギーが高い元素であっても、30重量%を超える場合は焼結阻害が生じる虞があるからである。
【0038】
標準生成ギブズエネルギーの比較は熱力学データベースの値から計算するか、或いは、エリンガム図によって図示された標準生成ギブズエネルギーを視覚的に比較することで行うこともできる。
【0039】
前記温度域においてSiOよりも酸化物の標準生成ギブズエネルギーが高い金属元素としてMn、Co、Ni、Zn、Snを例示する。
【0040】
Si含有銅基粉末の形態は合金粉末であっても、混合粉末であってもよく、どのような製造方法で作製された粉末であってもよい。
【0041】
Si含有銅基粉末は見掛密度が4.0g/cm以下であり、かつ、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径であることが好ましい。
【0042】
圧粉成形性や焼結性の向上が望めるからである。
【0043】
見掛密度が4.0g/cmを超える、及び/又は、粒度分布の70%未満が106μm以下の粒子径であると複雑な形状の圧粉成形が困難になり、十分な焼結密度が得られない虞がある。
【0044】
本発明におけるSi含有銅基粉末はSiと前記金属元素を除く残部はCuと不可避不純物である。
【0045】
Si含有銅基粉末における不可避不純物の含有量は0.5重量%以下が好ましい。
【0046】
不可避不純物が0.5重量%以下であると、不可避不純物に起因する焼結阻害が生じ難いからである。
【0047】
(焼結助剤粉末)
本発明における焼結助剤粉末は、2元系からなる無機フッ素化合物(AF但し、Aは任意の元素)で、前記温度域における下記(反応式1)で表される反応の標準反応ギブズエネルギーΔGが負となる粉末である。
(反応式1)SiO+(4/n)AF→SiF+(2/n)A
【0048】
(反応式1)で表される反応の標準反応ギブズエネルギーΔGが負となる無機フッ素化合物AFであれば、(反応式1)の反応が自発的に進むことになるため、Si含有銅基粉末表面のSiO酸化被膜は無機フッ素化合物AFと反応して、SiO酸化被膜が除去されるので、一般的な銅系粉末と同様に通常の焼結雰囲気で焼結しても焼結阻害の発生を抑制して焼結できるからである。
【0049】
2元系からなる無機フッ素化合物AFは標準反応ギブズエネルギーΔGが負であればよく、Aの元素は限定されない。
【0050】
本発明における焼結助剤粉末は、前記ΔGが負となる無機フッ素化合物を少なくとも1つ含有していればよく、ΔGが正となる無機フッ素化合物を含んでいてもよい。
【0051】
前記のΔGが負の無機フッ素化合物としてCaF、AlFを例示する。
【0052】
無機フッ素化合物粒子の平均粒子径は50μm以下が好ましい。
【0053】
平均粒子径が50μmを超えると反応性が低くなるため添加量を増量する必要があるが、反応しなかった無機フッ素化合物粒子が焼結体の組織中に多く残留することになり、焼結性が低下したり、焼結体の硬さや圧環強度等の機械的特性が低下したりする虞があるからである。
【0054】
本発明の粉末冶金用粉末における焼結助剤粉末の含有量は0.01重量%~1.0重量%が好ましい。
【0055】
0.01重量%未満であると、反応に十分な無機フッ素化合物が足りずに、焼結阻害が生じる虞があり、また、1.0重量%を超えると反応に寄与しない無機フッ素化合物が増え、焼結体の機械的特性が低下する虞があるからである。
【0056】
本発明における粉末冶金用粉末は焼結性を更に向上させるためにリン含有合金粉末を含有してもよい。
【0057】
リン含有合金粉末は、焼結温度で液相となり、液相焼結によって焼結が促進され、さらにリンが組織に固溶するので焼結体の機械的特性が向上するからである。
【0058】
本発明における粉末冶金用粉末のリンの総含有量は0.1重量%~0.5重量%が好ましい。
【0059】
0.1重量%未満であると十分な液相焼結の効果が得られず、0.5重量%を超えると液相の量が増え過ぎることで、寸法歪みや、焼結体組織が粗大化して圧環強度が低下する虞があるからである。
【0060】
リン含有合金粉末として、リン銅、リン鉄、リンニッケルを例示する。
【0061】
本発明における粉末冶金用粉末は、成形時の金型からの抜き出し性を向上させるために、金属石鹸やワックス等の成形潤滑剤を含有してもよい。
【0062】
潤滑剤の含有量は0.1重量%~3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2重量%~1重量%である。
【0063】
0.1重量%未満では十分な効果が得られず、3重量%を超えると、焼結体の機械的特性の著しい低下や、揮発した潤滑剤によって焼結炉内が汚染される虞があるからである。
【0064】
本発明における粉末冶金用粉末は、成形潤滑剤に加えてマトリクスと反応しない固体潤滑剤や硬質粒子を含んでもよい。
【0065】
固体潤滑剤として黒鉛を例示する。
【実施例0066】
本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
実施例及び比較例のギブズエネルギーの算出はIhsan Barin著の“Thermochemical data of pure substances”の熱力学データベースを用いた。
【0068】
実施例のギブズエネルギーはいずれも1200K(927℃)での値を記載してあるが、750℃~1000℃の温度域において、いずれの値も大小関係の反転や正負の反転はなかった。
【0069】
(原料粉末の作製)
Si含有銅基粉末のうち、合金粉はすべて水アトマイズ法で作製したものを用いた。
【0070】
混合粉は電解法で作製したCu粉末と粉砕法で作製したSi粉末とNi粉末(ヴァーレ製)を混合したものを用い、特定の比較例以外は、いずれの粉末形態でも見掛密度が4.0g/cm以下、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径になるように作製した。
【0071】
焼結助剤粉末としてCaF、AlF(関東化学株式会社製)を用いた。
【0072】
なお、CaFについて、SiO+2CaF→SiF+2CaOの標準反応ギブズエネルギーΔGは-141kJ/molであり、AlFについて、3SiO+4AlF→3SiF+2Aの標準反応ギブズエネルギーΔGは-38.7kJ/molであり、いずれもΔG<0を示す。
【0073】
Si含有銅基粉末と焼結助剤粉末の他に、圧粉成形時の金型抜き出し性の向上のために潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.5重量%添加し、これらをロッキングミキサーで混合して原料粉末を作製した。
【0074】
原料粉末の配合内容を表1及び表2に記載する。
【0075】
比較例1、2、3、5、6、7、9、10では、Si含有合金粉末に焼結助剤粉末を添加しなかった。
【0076】
比較例4、8、11では、ΔG>0の無機フッ素化合物の添加例としてMgF(関東化学株式会社製)を用いた。
【0077】
なお、MgFについて、SiO+2MgF→SiF+2MgOの標準反応ギブズエネルギーΔGは144kJ/molである。
【0078】
比較例12では、Si過剰例としてSi含有銅基粉末にSiを6.0重量%含有させた。
【0079】
比較例13では、750℃~1000℃の温度域においてSiOよりも酸化物の標準生成ギブズエネルギーが低い金属元素の添加例としてAlを2.0重量%含有させたSi含有銅基粉末を用いた。
【0080】
なお、1200KにおけるSi+O→SiOの標準生成ギブズエネルギーは-696kJ/molであり、4/3Al+O→2/3Alの標準生成ギブズエネルギーは-863kJ/molである。
【0081】
比較例14では、750℃~1000℃の温度域において標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い酸化物の元素の含有量の過剰例としてSi含有銅基粉末にNiを34.5重量%含有させた。
【0082】
実施例18と比較例15では、リン含有合金粉末の添加例と過剰例としてCu-8.0Pをそれぞれ3.0重量%、7.0重量%ずつ、即ち、リンの総含有量として0.24重量%、0.56重量%ずつ添加した。
【0083】
比較例16、17では、見掛密度が4.0g/cmを超え、106μm以下の粒子径の粒子が粒度分布の70%未満となるSi含有合金粉末を作製した。
【0084】
Si含有合金粉末の見掛密度(AD)はJIS Z 2504規格の測定法に従い求めた。
【0085】
Si含有合金粉末の粒度分布はJIS Z 2510規格に従い求めた粒度分布の値を元に、全体における106μm以下の粒子径の粒子の割合を算出した。
【0086】
(原料粉末の圧粉成形)
原料粉末約6gを内径7mm、外径14mmの円筒状の金型に充填し、150MPa~180MPaの成形圧力で、成形密度が6.50g/cmとなるように、外径14mm、内径7mm、高さ約6mmの圧粉成形体を作製した。
【0087】
成形性について、圧粉成形体を抜き出し後に目視で確認を行い、角欠けがない圧粉成形体であれば良好として〇、それ以外を×として評価した。
【0088】
(圧粉成形体の焼結)
成形性が良好であった圧粉成形体を、窒素雰囲気中で焼結温度1000℃で30分保持して焼結体を作製した。
【0089】
焼結性について、成形密度6.50g/cmの時に、露点-10℃の焼結で焼結密度7.15g/cm以上(元の密度からの増加率が10%以上)であれば良好であるとして〇とし、それ以外を×として評価した。
【0090】
但し、露点による焼結性変化を確認するために比較例1、5、9では露点を-50℃に変更した。
【0091】
結果を表1及び表2に示す。
Si含有銅基粉末の項の数値はSi含有銅基粉末の各組成値を重量%で示したものである。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
実施例1~19について、いずれの粉末も成形性と焼結性が良好であることが示された。
【0095】
比較例1~10について、比較例1、5、9より、焼結助剤粉末を添加しなくても、露点-50℃において良好な焼結性を示すSi含有銅基粉末もあったが、比較例2、3、6、7、10に示す通り、いずれのSi含有銅基粉末も露点-10℃では焼結性が著しく低下し、良好な焼結性が得られなかった。
【0096】
比較例4、8、11より、ΔG>0の無機フッ素化合物であるMgFの添加によって焼結性は向上しなかった。
【0097】
比較例12より、Siの含有量が5.0重量%を超える原料粉末では焼結性が著しく低下した。
【0098】
比較例13より、750℃~1000℃の温度域においてSiOよりも酸化物の標準生成ギブズエネルギーが低い金属元素を含む原料粉末では焼結性が著しく低下した。
【0099】
比較例14より、750℃~1000℃の温度域において標準生成ギブズエネルギーがSiOよりも高い酸化物の元素の含有量が30.0重量%を超える原料粉末では焼結性が著しく低下した。
【0100】
比較例15より、全含有量の0.5重量%を超えるリンの添加によって得られた焼結体はテーパー状の寸法歪みが生じて正しく寸法が測ることができない程度に歪んでおり、良好な焼結性が得られなかった。
【0101】
比較例16、17より、見掛密度が4.0g/cmを超え、106μm以下の粒子径の粒子が粒度分布の70%未満であるSi含有銅基粉末では角欠けが発生し、適切な圧粉成形体が得られなかった。
【0102】
実施例及び比較例の比較により、本発明における粉末冶金用粉末であれば、通常の焼結雰囲気でも焼結阻害が生じ難く、成形性及び機械的特性に優れる焼結体を作製できることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、酸素分圧や露点を低くせずに通常の焼結雰囲気で焼結しても焼結阻害が生じ難く、成形性や機械的特性に優れる焼結体を作製でき、しかも、粉末形態や合金種が限定されない粉末冶金用粉末である。
したがって、本発明の産業上の利用可能性は高い。