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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145342
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】圧延ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 27/03 20060101AFI20241004BHJP
   B21B 27/00 20060101ALI20241004BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20241004BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B21B27/03
B21B27/00 B
B21B27/00 C
B22F7/00 F
B22F7/08 E
F16C13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057648
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】511213410
【氏名又は名称】MMCリョウテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】梅田 司
(72)【発明者】
【氏名】宮川 忠正
(72)【発明者】
【氏名】磯川 裕司
(72)【発明者】
【氏名】石田 昂平
(72)【発明者】
【氏名】牟田 雅典
【テーマコード(参考)】
3J103
4E016
4K018
【Fターム(参考)】
3J103FA15
3J103GA12
3J103HA32
4E016AA04
4E016AA05
4E016CA08
4E016DA04
4E016DA06
4E016EA06
4E016EA16
4E016EA22
4E016FA04
4K018AD06
4K018BA04
4K018HA04
4K018JA12
4K018KA17
(57)【要約】
【課題】内層リングと外層リングの接合性をより高めることができ、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることを低減でき、かつ、圧延ロールの製造設備が大掛かりで複雑なものになることを抑制できる圧延ロールの製造方法を提供する。
【解決手段】原料粉末を圧粉成形した外層リング成形体に仮焼結を行い外層リング仮焼結体とする仮焼結工程と、外層リング仮焼結体の内周面と、本焼結済みの内層リング11の外周面とを嵌合させた圧延リング中間焼結体を、仮焼結工程での仮焼結温度よりも高い本焼結温度で焼結することにより、外層リング仮焼結体を本焼結し外層リング12とするとともに、外層リング12と内層リング11とを接合し圧延リング2とする本焼結工程と、を含み、仮焼結工程での仮焼結温度が、本焼結工程での本焼結温度に対して、-100℃以上-10℃以下とされる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金製の内層リングの外周面と、超硬合金製の外層リングの内周面とが接合された圧延リングを備える圧延ロールの製造方法であって、
原料粉末を圧粉成形した外層リング成形体に仮焼結を行い外層リング仮焼結体とする仮焼結工程と、
前記外層リング仮焼結体の内周面と、本焼結済みの内層リングの外周面とを嵌合させた圧延リング中間焼結体を、前記仮焼結工程での仮焼結温度よりも高い本焼結温度で焼結することにより、前記外層リング仮焼結体を本焼結し前記外層リングとするとともに、前記外層リングと前記内層リングとを接合し前記圧延リングとする本焼結工程と、を含み、
前記仮焼結工程での前記仮焼結温度が、前記本焼結工程での前記本焼結温度に対して、-100℃以上-10℃以下とされる、
圧延ロールの製造方法。
【請求項2】
前記本焼結工程での前記本焼結温度が、1300℃以上1400℃以下である、
請求項1に記載の圧延ロールの製造方法。
【請求項3】
前記本焼結工程では、前記外層リング仮焼結体及び前記内層リングの各リング中心軸を鉛直方向に延ばすように配置し、前記外層リング仮焼結体の内周面に設けた外層テーパ面と、前記内層リングの外周面に設けた内層テーパ面とを嵌合させた前記圧延リング中間焼結体を焼結する、
請求項1または2に記載の圧延ロールの製造方法。
【請求項4】
前記外層テーパ面の内径寸法の最小値は、前記内層テーパ面の外径寸法の最小値よりも小さく、かつ、前記外層テーパ面の内径寸法の最大値は、前記内層テーパ面の外径寸法の最大値よりも小さくされており、
前記本焼結工程では、前記外層リング仮焼結体及び前記内層リングのうち、一方よりも上側に位置する他方に重りを載せ、前記他方の自重及び前記重りの重量により、前記外層テーパ面と前記内層テーパ面とをスライドさせる、
請求項3に記載の圧延ロールの製造方法。
【請求項5】
前記リング中心軸に沿う断面において、前記内層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第1傾斜角と、前記外層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第2傾斜角とが、互いに同じである、
請求項3に記載の圧延ロールの製造方法。
【請求項6】
前記リング中心軸に沿う断面において、前記内層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第1傾斜角、及び、前記外層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第2傾斜角が、それぞれ、0°を超え5°以下である、
請求項3に記載の圧延ロールの製造方法。
【請求項7】
前記圧延リングの内周面に嵌合されるシャフトをさらに備え、
前記圧延リングの外径寸法が、300mm以上450mm以下である、
請求項1または2に記載の圧延ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延ロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延ロールは、例えば線材や棒鋼などの各種金属素材を熱間圧延等により圧延加工するのに用いられる。従来の圧延ロールとして、内層リング及び外層リングをそれぞれ超硬合金により形成したものが知られている(例えば特許文献1~5)。
【0003】
特許文献1では、それぞれ超硬合金で形成した外リング及び内リングを、焼嵌めまたは冷嵌めにより嵌合し、外リング及び内リングの組成をなす超硬合金が液相を発生しない温度で加熱することにより、これらリング間に設けた銅、ニッケル、銀ろう材などからなる金属接合材を液相または軟化した固相とし、温度降下させて外リングと内リングとを接合している。
【0004】
また特許文献2では、互いに同質の超硬合金製とされた内側ロール部と外側ロール部とを、変形円状の外周及び内周の係合組合せによって一体とし、外側ロール部を交換可能としている。
【0005】
また特許文献3では、共に超硬合金製の外周リングと内周リングとを、ロー付け、焼嵌めまたはその他機械的な方法によって互いに結合し、外周リングのみの交換を可能としている。
【0006】
また特許文献4では、外側リング部材用成形体及び内側リング部材用成形体をそれぞれプレス成形し、これらを嵌合した状態で、1360~1400℃の範囲内の所定の温度にて焼結する。
【0007】
また特許文献5では、第1の超硬合金の粉末からコア(内層リング)の素地を形成して焼結し、第2の超硬合金の粉末からスリーブ(外層リング)の素地を形成して焼結し、焼結コアを液体窒素中に置くことにより収縮させ、収縮した焼結コアを焼結スリーブの開口部に押し込み、焼結コアを熱膨張させて焼結スリーブと機械接合させた後、組み立てられた焼結コア及び焼結スリーブを、WC-Coの共晶温度より高くかつ焼結温度より低い融合温度まで加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭49-105749号公報
【特許文献2】実開昭53-74447号公報
【特許文献3】実開昭59-135806号公報
【特許文献4】特開2004-255401号公報
【特許文献5】特許第6794416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この種の圧延ロールでは、内層リングと外層リングの接合性をより向上させること、及び、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じるのを低減することが求められている。また、圧延ロールを製造する設備が大掛かりで複雑なものになることを抑える点にも改善の余地がある。
【0010】
本発明は、内層リングと外層リングの接合性をより高めることができ、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることを低減でき、かつ、圧延ロールの製造設備が大掛かりで複雑なものになることを抑制できる圧延ロールの製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
〔本発明の態様1〕
超硬合金製の内層リングの外周面と、超硬合金製の外層リングの内周面とが接合された圧延リングを備える圧延ロールの製造方法であって、原料粉末を圧粉成形した外層リング成形体に仮焼結を行い外層リング仮焼結体とする仮焼結工程と、前記外層リング仮焼結体の内周面と、本焼結済みの内層リングの外周面とを嵌合させた圧延リング中間焼結体を、前記仮焼結工程での仮焼結温度よりも高い本焼結温度で焼結することにより、前記外層リング仮焼結体を本焼結し前記外層リングとするとともに、前記外層リングと前記内層リングとを接合し前記圧延リングとする本焼結工程と、を含み、前記仮焼結工程での前記仮焼結温度が、前記本焼結工程での前記本焼結温度に対して、-100℃以上-10℃以下とされる、圧延ロールの製造方法。
【0013】
本発明の圧延ロールの製造方法では、圧延リングの本焼結温度よりも低い温度で仮焼結した外層リング仮焼結体の内周面に、本焼結済みの内層リングの外周面を嵌合した状態で、この圧延リング中間焼結体を本焼結する。この本焼結の際、外層リング仮焼結体は、その体積が減少するとともに収縮する。これにより、焼結後の外層リングと内層リングとが互いに強固に接合される。また、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることも抑制される。
【0014】
また、リング同士を嵌合させるときに、内層リングは本焼結済みであるため変形することはない。一方、外層リング仮焼結体は内層リングに比べて内部に気孔を多く含んでおり、変形可能である。このため、これらリング同士を容易に嵌合させることができ、ロール製造時の作業性が向上する。また、変形不能な内層リングの形状(基準形状)にならって、外層リング仮焼結体が変形させられることにより、製造される圧延リングの同軸度(同心度)や真円度の精度も向上する。
【0015】
例えば、上記特許文献1のように、ろう材等の金属接合材によって外層リングと内層リングとを接合する場合、十分な接合強度が得られないおそれがある。また、上記特許文献2、3のように、外層リングと内層リングとを機械的な係合により結合する場合も、十分な結合強度が得られない。
一方、本発明では、本焼結によって外層リングと内層リングとが接合されるため、これらリング同士の接合強度を安定して高めることができる。
【0016】
また、例えば上記特許文献5のように、それぞれ本焼結済みの外層リング及び内層リングを用意し、内層リングを冷却により収縮させて外層リング内に嵌合した後、熱膨張させて機械接合する場合、外層リングに引張応力が生じて、外層リングにクラック等が発生するおそれがある。
一方、本発明では、本焼結によって外層リングと内層リングとを接合するため、外層リングに引張応力が生じることはなく、クラック等の発生を防止できる。さらに本発明では、本焼結によって外層リングに圧縮応力が生じる傾向があるため、外層リングの強度がより高められる。また本発明では、内層リングを冷却により収縮するための冷却設備等は不要であり、製造設備を簡素化できる。またこれにともない、製造工程も短縮され、生産効率が高められる。
【0017】
さらに本発明では、例えば、圧延加工に用いられ摩耗や再研磨等によって外径寸法が所定の廃棄径に達した使用済みの圧延ロール(圧延リング)を、内層リングとして再利用することができる。すなわち、例えば上記特許文献4のように、それぞれ圧粉成形した外層リングと内層リングとを嵌合して焼結する圧延ロールの製造方法とは異なり、本発明によれば、従来は廃棄されていた使用済み圧延ロールを用いて、外形形状を整えるなどにより内層リングとし、外層リングのみ新たに圧粉成形及び焼結(仮焼結後に、本焼結)することで、圧延ロールを製造することができる。このため、高価な超硬合金材料の使用量を少なく抑えて、製造費用を削減できる。また、圧延リングの焼結時間を短縮することも可能となり、生産効率が向上する。
【0018】
なお、仮焼結工程での仮焼結温度が、本焼結工程での本焼結温度に対して、-100℃以上-10℃以下とされる理由は、下記の通りである。
仮焼結温度が本焼結温度に対して-100℃以上であれば、仮焼結によって外層リング仮焼結体が一定以上に収縮するため、本焼結時に、外層リングと内層リングとの嵌合面に不均一な熱変形が生じたり、間隙や局所的な歪みが生じたりすることを抑制できる。このため、製造される圧延ロールの強度が安定して高められ、ロール破損等を防止できる。
【0019】
また、仮焼結温度が本焼結温度に対して-10℃以下であれば、外層リング成形体が誤って(意図せず)本焼結されることが防止され、仮焼結工程を経た外層リング仮焼結体の内部に気孔が安定して存在し、外層リング仮焼結体を変形しやすい状態に維持できる。すなわち、外層リング仮焼結体の変形量が所定以上に確保されるため、外層リング仮焼結体と内層リングとを容易に組み合わせて嵌合させることができる。
【0020】
以上より本発明によれば、内層リングと外層リングの接合性をより高めることができ、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることを低減でき、かつ、圧延ロールの製造設備が大掛かりで複雑なものになることを抑制できる。さらに、圧延ロールの製造費用を削減可能である。
【0021】
〔本発明の態様2〕
前記本焼結工程での前記本焼結温度が、1300℃以上1400℃以下である、態様1に記載の圧延ロールの製造方法。
【0022】
この場合、外層リングを構成する超硬合金の種類等に関わらず、外層リング仮焼結体と内層リングとを嵌合させた圧延リング中間焼結体を、安定して本焼結することができる。
【0023】
〔本発明の態様3〕
前記本焼結工程では、前記外層リング仮焼結体及び前記内層リングの各リング中心軸を鉛直方向に延ばすように配置し、前記外層リング仮焼結体の内周面に設けた外層テーパ面と、前記内層リングの外周面に設けた内層テーパ面とを嵌合させた前記圧延リング中間焼結体を焼結する、態様1または2に記載の圧延ロールの製造方法。
【0024】
この場合、外層リング仮焼結体と内層リングとをテーパ嵌合し、各リング中心軸を鉛直方向に延ばすように配置することにより、本焼結時において、リングの自重などによりこれらの嵌合面(外層テーパ面及び内層テーパ面)に、嵌合面と垂直な方向の押圧力(荷重)が作用する。すなわち、外層リング仮焼結体の外層テーパ面と、内層リングの内層テーパ面とを、相互に加圧しつつ本焼結することができる。このため、外層リングと内層リングとが、互いにより強固に接合される。
【0025】
〔本発明の態様4〕
前記外層テーパ面の内径寸法の最小値は、前記内層テーパ面の外径寸法の最小値よりも小さく、かつ、前記外層テーパ面の内径寸法の最大値は、前記内層テーパ面の外径寸法の最大値よりも小さくされており、前記本焼結工程では、前記外層リング仮焼結体及び前記内層リングのうち、一方よりも上側に位置する他方に重りを載せ、前記他方の自重及び前記重りの重量により、前記外層テーパ面と前記内層テーパ面とをスライドさせる、態様3に記載の圧延ロールの製造方法。
【0026】
この場合、本焼結時に、外層テーパ面及び内層テーパ面により大きな押圧力(荷重)を作用させることができる。このため、外層リングと内層リングとが、相互により強固に接合される。また、外層テーパ面と内層テーパ面とがスライドしつつ嵌合されることで、外層リングと内層リングとをより精度よく同軸(同心)に位置合わせできる。
【0027】
〔本発明の態様5〕
前記リング中心軸に沿う断面において、前記内層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第1傾斜角と、前記外層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第2傾斜角とが、互いに同じである、態様3または4に記載の圧延ロールの製造方法。
【0028】
この場合、第1傾斜角と第2傾斜角とが同じであるので、内層テーパ面と外層テーパ面とを広範囲に密着させることができる。外層リング仮焼結体と内層リングとを安定してテーパ嵌合させることができ、本焼結後の外層リングと内層リングとの接合強度を安定して高めることができる。
【0029】
〔本発明の態様6〕
前記リング中心軸に沿う断面において、前記内層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第1傾斜角、及び、前記外層テーパ面が前記リング中心軸に対して傾斜する第2傾斜角が、それぞれ、0°を超え5°以下である、態様3から5のいずれか1つに記載の圧延ロールの製造方法。
【0030】
第1傾斜角及び第2傾斜角が、それぞれ0°を超えていると、内層テーパ面及び外層テーパ面が、それぞれリング中心軸に対して確実に傾斜するため、外層テーパ面及び内層テーパ面に安定して押圧力(荷重)を作用させることができる。このため、外層リングと内層リングとの接合強度が、より安定して高められる。なお、第1傾斜角及び第2傾斜角は、それぞれ、0°30′以上とされることがより好ましい。
【0031】
また、第1傾斜角及び第2傾斜角が、それぞれ5°以下であると、例えば、使用済みの内層リングを再利用する場合などにおいて、内層テーパ面を形成するために切削される超硬合金の加工量(すなわち廃棄量)を少なく抑えることができる。また、製造された圧延リングの径方向の肉厚が大きくなり過ぎて寸法が嵩張るようなことも抑制される。なお、第1傾斜角及び第2傾斜角は、それぞれ、4°以下とされることがより好ましい。
【0032】
〔本発明の態様7〕
前記圧延リングの内周面に嵌合されるシャフトをさらに備え、前記圧延リングの外径寸法が、300mm以上450mm以下である、態様1から6のいずれか1つに記載の圧延ロールの製造方法。
【0033】
上記構成の圧延ロールは、圧延リングとシャフトとを備えた、いわゆるクランプロール等と呼ばれる複合ロールである。例えば、モルガンロール等と呼ばれる小径(外径寸法210mm以下)の圧延ロールに比べて、上記複合ロールでは、圧延リングの外径寸法が大径とされるため、上述した内層リングを再利用することによる製造費用削減の効果がより顕著となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の前記態様の圧延ロールの製造方法によれば、内層リングと外層リングの接合性をより高めることができ、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることを低減でき、かつ、圧延ロールの製造設備が大掛かりで複雑なものになることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本実施形態の圧延ロールの製造方法によって製造される圧延ロールを示す半断面図である。
図2図2は、圧延ロールの圧延リングを示す斜視図である。
図3図3は、圧延ロールの製造方法を説明する図であり、具体的には、圧延リングの断面図を表す。
図4図4は、圧延ロールの製造方法を説明する図であり、具体的には、圧延リングの断面図を表す。
図5図5は、圧延ロールの製造方法を示すフロー図である。
図6図6は、圧延ロールの製造方法の変形例を説明する図であり、具体的には、圧延リングの断面図を表す。
図7図7は、圧延ロールの製造方法の変形例を説明する図であり、具体的には、圧延リングの断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一実施形態の圧延ロール10及びその製造方法について、図1図5を参照して説明する。本実施形態の圧延ロール10は、例えば線材や棒鋼などの各種金属素材を熱間圧延等により圧延加工するのに用いられる。
【0037】
図1に示すように、圧延ロール10は、中心軸Cを中心とするシャフト1と、圧延リング2と、支持部3と、側圧付与部4と、を備える。本実施形態の圧延ロール10は、圧延リング2とシャフト1とを備えた、いわゆるクランプロール等と呼ばれる複合ロールである。シャフト1、圧延リング2、支持部3及び側圧付与部4は、中心軸Cを共通軸として互いに同軸に配置されている。また、支持部3と側圧付与部4とは、中心軸Cが延びる方向において、互いに異なる位置に配置されている。なお中心軸Cは、シャフト中心軸C、リング中心軸C、またはロール中心軸C等と言い換えてもよい。
【0038】
〔方向の定義〕
本実施形態では、中心軸Cが延びる方向を、軸方向と呼ぶ。各図において、軸方向はX軸方向に相当する。軸方向のうち、側圧付与部4から支持部3へ向かう方向(+X側)を軸方向一方側と呼び、支持部3から側圧付与部4へ向かう方向(-X側)を軸方向他方側と呼ぶ。
【0039】
中心軸Cと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
また、中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
【0040】
〔シャフト〕
シャフト1は、鋼製または鉄製等である。シャフト1は、軸方向に沿って延びる。シャフト1の軸方向の両端部1f,1gは、図示しない圧延機に回転可能に支持される。圧延加工時に、シャフト1は、圧延機により周方向のうち所定の回転方向、つまり圧延回転方向に回転駆動される。
【0041】
シャフト1のうち軸方向において両端部1f,1g間に位置する中間部分1aは、シャフト1の両端部1f,1gよりも外径寸法が大きい。中間部分1aは、第1雄ネジ部1bと、段部1cと、第2雄ネジ部1dと、リング嵌合部1eと、を有する。つまりシャフト1は、第1雄ネジ部1bと、段部1cと、第2雄ネジ部1dと、リング嵌合部1eと、を有する。
【0042】
第1雄ネジ部1bは、シャフト1の中間部分1aのうち軸方向一方側の端部に配置される。第1雄ネジ部1bは、中間部分1aの外周面のうち軸方向一方側の端部に、中心軸Cを中心とする螺旋状の雄ネジ加工が施されることにより設けられる。
【0043】
段部1c及び第2雄ネジ部1dは、シャフト1の中間部分1aのうち軸方向他方側の端部に配置される。中間部分1aの軸方向他方側の端部において、段部1cは第2雄ネジ部1dよりも軸方向一方側に位置する。中間部分1aのうち軸方向他方側の端部は、中間部分1aのうち軸方向他方側の端部以外の部分よりも、外径寸法が小さい。すなわち、段部1c及び第2雄ネジ部1dの各外径寸法は、第1雄ネジ部1b及びリング嵌合部1eの各外径寸法よりも小さい。第2雄ネジ部1dは、中間部分1aの外周面のうち軸方向他方側の端部に、中心軸Cを中心とする螺旋状の雄ネジ加工が施されることにより設けられる。
【0044】
リング嵌合部1eは、中間部分1aのうち軸方向の両端部間に位置する。リング嵌合部1eは、軸方向において、第1雄ネジ部1bと段部1cとの間に配置される。リング嵌合部1eは、中心軸Cを中心とする円柱状をなす。
【0045】
〔圧延リング〕
圧延リング2は、超硬合金製である。圧延リング2は、例えば、WCを主成分とし、Ni,Co等のバインダー(結合相)成分を含む。圧延リング2は、中心軸Cを中心とする円筒状または円環板状である。本実施形態では圧延リング2が、軸方向に延びる円筒状である。圧延リング2の内周面には、リング嵌合部1eの外周面が嵌合する。すなわち、圧延リング2の内周面には、シャフト1が嵌合される。本実施形態では、圧延リング2の軸方向寸法が、リング嵌合部1eの軸方向寸法と略同じである。圧延リング2の外径寸法は、例えば、300mm以上450mm以下である。
【0046】
圧延リング2は、カリバー2aを有する。カリバー2aは、圧延リング2の外周面から径方向内側に窪み、周方向に延びる溝状である。カリバー2aは、中心軸Cを中心とする環状溝である。カリバー2aは、圧延材料(ワーク)である金属素材に、圧延加工を施すための成形溝である。本実施形態ではカリバー2aが、圧延リング2の外周面に、軸方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。なお、図1以外の図面に示す圧延リング2においては、カリバー2aの図示を省略している。
【0047】
図1図2及び図4に示すように、本実施形態の圧延リング2は、2層構造を有する。圧延リング2は、超硬合金製の内層リング11と、内層リング11の径方向外側に隣接して配置される超硬合金製の外層リング12と、を備える。内層リング11及び外層リング12を構成する各超硬合金材料(構成成分、組成等)は、互いに異なっていてもよいし、互いに同じであってもよい。
【0048】
内層リング11は、中心軸Cを中心とする円筒状または円環板状をなす。本実施形態では内層リング11が、軸方向に延びる円筒状である。内層リング11は、圧延リング2のうち径方向の内側部分に位置する。内層リング11は、圧延リング2の内層部分を構成する。内層リング11の内周面は、シャフト1のリング嵌合部1eの外周面と嵌合する。
【0049】
内層リング11は、内層リング11の外周面に配置される内層テーパ面11aを有する。内層テーパ面11aは、中心軸Cを中心とするテーパ面状であり、軸方向へ向かうに従い徐々に外径寸法が変化する。具体的に本実施形態では、内層テーパ面11aが、軸方向一方側(+X側)へ向かうに従い拡径するテーパ面状である。また本実施形態では、内層テーパ面11aが、内層リング11の外周面に、軸方向の全長にわたって配置される。
【0050】
図3に示すように、圧延リング2の中心軸Cに沿う断面(中心軸Cを含む断面。縦断面)において、内層テーパ面11aが中心軸Cに対して傾斜する第1傾斜角θ1は、例えば、0°を超え5°以下である。
【0051】
図1図2及び図4に示すように、外層リング12は、中心軸Cを中心とする円筒状または円環板状をなす。本実施形態では外層リング12が、軸方向に延びる円筒状である。外層リング12は、圧延リング2のうち径方向の外側部分に位置する。外層リング12は、圧延リング2の外層部分を構成する。外層リング12の外周面には、カリバー2aが形成されている。
【0052】
外層リング12は、外層リング12の内周面に配置される外層テーパ面12aを有する。外層テーパ面12aは、中心軸Cを中心とするテーパ面状であり、軸方向へ向かうに従い徐々に内径寸法が変化する。具体的に本実施形態では、外層テーパ面12aが、軸方向一方側(+X側)へ向かうに従い拡径するテーパ面状である。また本実施形態では、外層テーパ面12aが、外層リング12の内周面に、軸方向の全長にわたって配置される。
【0053】
図3に示すように、圧延リング2の中心軸Cに沿う断面において、外層テーパ面12aが中心軸Cに対して傾斜する第2傾斜角θ2は、例えば、0°を超え5°以下である。
本実施形態では、第1傾斜角θ1と第2傾斜角θ2とが、互いに同じである。
【0054】
内層リング11の外周面と外層リング12の内周面とは、焼結により互いに接合されている。具体的には、内層テーパ面11aと外層テーパ面12aとが、焼結によって相互に接合されている。
【0055】
〔支持部〕
図1に示すように、支持部3は、シャフト1の中間部分1aの軸方向一方側(+X側)の端部に取り付けられる。支持部3は、中間部分1aの軸方向一方側の端部の径方向外側に配置される。本実施形態では支持部3が、中心軸Cを中心とする筒状である。
【0056】
支持部3は、その内周面に第1雌ネジ部3aを有する。支持部3は、ナット形状である。このため支持部3は、支持リングナット3等と言い換えてもよい。支持部3の第1雌ネジ部3aは、第1雄ネジ部1bと螺着される。すなわち、支持部3は、シャフト1の外周面に着脱可能に螺着される。支持部3の軸方向他方側(-X側)を向く端面は、圧延リング2の軸方向一方側を向く端面と接触する。これにより支持部3は、圧延リング2を軸方向一方側から支持する。
【0057】
〔側圧付与部〕
側圧付与部4は、圧延リング2に対して、軸方向からの押圧力つまり側圧を付与する機能を有する。側圧付与部4は、圧延リング2の軸方向他方側に配置され、圧延リング2を軸方向一方側へ向けて押圧する。
側圧付与部4は、側圧リングナット6と、介装リング7と、雄ネジ部材8と、を有する。
【0058】
側圧リングナット6は、圧延リング2の軸方向他方側に配置される。側圧リングナット6は、シャフト1の中間部分1aの軸方向他方側の端部に取り付けられる。側圧リングナット6は、中間部分1aの軸方向他方側の端部の径方向外側に配置される。側圧リングナット6は、中心軸Cを中心とする筒状である。
【0059】
側圧リングナット6は、その内周面に第2雌ネジ部6aを有する。側圧リングナット6の第2雌ネジ部6aは、第2雄ネジ部1dと螺着される。すなわち、側圧リングナット6は、シャフト1の外周面に着脱可能に螺着される。
【0060】
側圧リングナット6は、ナット本体6bと、突出筒部6cと、雌ネジ孔6dと、を有する。
ナット本体6bは、中心軸Cを中心とする筒状である。ナット本体6bの内周面には、第2雌ネジ部6aが配置される。
【0061】
突出筒部6cは、ナット本体6bの軸方向一方側を向く端面の外周部から、軸方向一方側に突出する。突出筒部6cは、中心軸Cを中心とする筒状である。突出筒部6cの内径寸法は、ナット本体6bの内径寸法よりも大きい。突出筒部6cの外径寸法は、ナット本体6bの外径寸法と同じである。
【0062】
雌ネジ孔6dは、ナット本体6bを軸方向に貫通する。雌ネジ孔6dは、突出筒部6cよりも径方向内側に位置する。雌ネジ孔6dは、ナット本体6bの軸方向一方側を向く端面及び軸方向他方側を向く端面に開口する。つまり雌ネジ孔6dは、側圧リングナット6を軸方向に貫通する。雌ネジ孔6dは、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では雌ネジ孔6dが、周方向に等ピッチで例えば3つ以上設けられる。雌ネジ孔6dは、軸方向から見て、圧延リング2の内周部と重なる。
【0063】
介装リング7は、シャフト1の中間部分1aの軸方向他方側の端部に取り付けられる。介装リング7は、中間部分1aの軸方向他方側の端部の径方向外側に配置される。介装リング7は、軸方向において、側圧リングナット6と圧延リング2との間に配置される。介装リング7は、中心軸Cを中心とする筒状である。
介装リング7は、嵌合筒部7aと、押圧筒部7bと、を有する。
【0064】
嵌合筒部7aは、介装リング7のうち、軸方向他方側の部分を構成する。嵌合筒部7aは、突出筒部6cの径方向内側に配置される。嵌合筒部7aの外周面は、突出筒部6cの内周面と接触する。嵌合筒部7aは、突出筒部6cの内周面に嵌合する。嵌合筒部7aの内周面は、段部1cの外周面と接触する。嵌合筒部7aは、段部1cの外周面に嵌合する。すなわち、介装リング7は、シャフト1の外周面に嵌合する。嵌合筒部7aの軸方向他方側を向く端面は、ナット本体6bの軸方向一方側を向く端面と隙間をあけて対向し、または接触する。
【0065】
押圧筒部7bは、介装リング7のうち、軸方向一方側の部分を構成する。押圧筒部7bは、突出筒部6cよりも軸方向一方側に配置される。押圧筒部7bの軸方向一方側を向く端面は、圧延リング2の軸方向他方側を向く端面と接触する。押圧筒部7bの軸方向一方側を向く端面の内径寸法は、圧延リング2の内径寸法以上である。押圧筒部7bの軸方向一方側を向く端面の外径寸法は、圧延リング2の外径寸法と同じである。
【0066】
雄ネジ部材8は、柱状であり、軸方向に延びる。雄ネジ部材8は、例えば、六角穴付きボルト等である。雄ネジ部材8は、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。各雄ネジ部材8は、各雌ネジ孔6dに螺着される。雄ネジ部材8の軸方向一方側の端部は、ナット本体6bの軸方向一方側を向く端面から、軸方向一方側に向けて突出可能である。雄ネジ部材8の軸方向一方側の端部は、嵌合筒部7aの軸方向他方側を向く端面に接触する。すなわち、雄ネジ部材8は、介装リング7に軸方向他方側から接触する。雌ネジ孔6dへの雄ネジ部材8のねじ込み量を調整することにより、介装リング7を介して、圧延リング2を軸方向一方側へ押圧する押圧力つまり側圧が調整される。
【0067】
〔圧延リングの着脱手順〕
本実施形態の圧延ロール10では、例えば、下記の手順により圧延リング2をシャフト1に着脱する。
【0068】
シャフト1の中間部分1aに、支持部3が取り付けられた状態で、圧延リング2を中間部分1aに嵌合させる。圧延リング2を中間部分1aに取り付けた後、介装リング7及び側圧リングナット6を中間部分1aに取り付ける。
【0069】
側圧リングナット6に設けた雄ネジ部材8を、六角レンチ等の作業用工具で操作し、雄ネジ部材8を雌ネジ孔6dに対して軸方向一方側へねじ込んでいき、雄ネジ部材8で介装リング7を軸方向一方側へ押し込む。この操作を各雄ネジ部材8に対して行うことにより、介装リング7を介して、圧延リング2に軸方向一方側への押圧力(側圧)を付与する。これにより、シャフト1に対して圧延リング2が固定される。
【0070】
圧延リング2をシャフト1から取り外す際は、上述とは逆の手順で作業を行う。すなわち、雄ネジ部材8のねじ込みを緩めて圧延リング2への側圧を減少させ、圧延リング2の固定状態を解除する。そして、側圧リングナット6、介装リング7及び圧延リング2をこの順にシャフト1から取り外す。
【0071】
〔圧延ロールの製造方法〕
次に、本実施形態の圧延ロール10の製造方法について説明する。具体的に、下記では主に圧延リング2の製造方法について述べる。
【0072】
図5に示すように、圧延ロール10の製造方法(圧延リング2の製造方法)は、内層リング加工工程S1と、外層リング成形工程S2と、仮焼結工程S3と、外層リング加工工程S4と、本焼結工程S5と、端面加工工程S6と、静水圧焼結工程S7と、を含む。
【0073】
〔内層リング加工工程〕
内層リング加工工程S1では、1300℃以上1400℃以下の温度で焼結(本焼結)された内層リング11を用意し、この内層リング11の外周面に、切削や研削等により内層テーパ面11aを加工する。
【0074】
本実施形態では、本焼結された内層リング11として、例えば、圧延加工に用いられ摩耗や再研磨等によって外径寸法が所定の廃棄径に達した(所定の廃棄径以下となった)、使用済みの圧延リングを再利用する。すなわち、使用済みの圧延リングの外周面に、切削または研削等の加工を施して、内層テーパ面11aが形成された内層リング11とする。
【0075】
なおこれに限らず、例えば、WCを主成分とし、Ni,Co等のバインダー(結合相)成分を含む超硬合金の原料粉末を圧粉成形した内層リング成形体(図示省略)に、1300°以上1400℃以下の温度で本焼結を行い、得られた未使用の内層リング11の外周面に、切削または研削等の加工を施して、内層テーパ面11aを形成してもよい。
【0076】
〔外層リング成形工程〕
外層リング成形工程S2では、例えば、WCを主成分とし、Ni,Co等のバインダー成分を含む超硬合金の原料粉末を圧粉成形し、外層リング成形体(図示省略)を成形する。外層リング成形体は、中心軸Cを中心とする環状であり、具体的には、円筒状または円環板状である。
【0077】
〔仮焼結工程〕
仮焼結工程S3では、前記外層リング成形体に、本焼結温度よりも低い温度で仮焼結を行い、外層リング仮焼結体とする。具体的に、仮焼結工程S3での仮焼結温度は、後述する本焼結工程S5での本焼結温度に対して、-100℃以上-10℃以下とされる。なお、仮焼結温度のより好ましい範囲は、例えば、本焼結温度に対して-60℃以上-10℃以下である。また、仮焼結の焼結時間は、例えば、約1時間等である。
【0078】
この仮焼結により、外層リング仮焼結体は、外層リング成形体よりも体積が減少し、収縮する。詳しくは、外層リング成形体を仮焼結することにより、Ni,Co等の結合相がWC等の硬質相間に溶融拡散され結合される。外層リング成形体の内部には多数の気孔が存在しているが、仮焼結により溶融した結合相は、これらの気孔を充填する。このため、外層リング仮焼結体は外層リング成形体よりも体積が減少させられ、つまり収縮する。
仮焼結工程S3では、この収縮が十分に生じるまで(すなわち、外層リング仮焼結体が外層リング成形体から所定以上に収縮するまで)加熱し、またこの加熱状態を保持する。
【0079】
〔外層リング加工工程〕
外層リング加工工程S4では、前記外層リング仮焼結体の内周面に、切削または研削等により外層テーパ面12aを加工する。また、外層リング仮焼結体の外周面に、切削または研削等によりカリバー2aを加工する。なお、カリバー2aの加工については、この外層リング加工工程S4以外の別工程において行ってもよい。
【0080】
本実施形態においては、上述のように内層リング11の外周面に内層テーパ面11aを設け、外層リング仮焼結体の内周面に外層テーパ面12aを設けた時点で、内層テーパ面11aの外径寸法が外層テーパ面12aの内径寸法よりも大きくされている。詳しくは、図3に示すように、外層テーパ面12aの内径寸法の最小値は、内層テーパ面11aの外径寸法の最小値よりも小さくされており、かつ、外層テーパ面12aの内径寸法の最大値は、内層テーパ面11aの外径寸法の最大値よりも小さくされている。
【0081】
言い換えると、外層テーパ面12aの軸方向他方側(-X側)の端部における内径寸法は、内層テーパ面11aの軸方向他方側の端部における外径寸法よりも小さい。また、外層テーパ面12aの軸方向一方側(+X側)の端部における内径寸法は、内層テーパ面11aの軸方向一方側の端部における外径寸法よりも小さい。
また、内層テーパ面11aの第1傾斜角θ1と、外層テーパ面12aの第2傾斜角θ2とは、互いに等しくされている。以下の説明では、第1傾斜角θ1または第2傾斜角θ2を、単に傾斜角θと呼ぶ場合がある。
【0082】
〔本焼結工程〕
本焼結工程S5では、前記外層リング仮焼結体の内周面と、本焼結済みの内層リング11の外周面とを嵌合させた圧延リング中間焼結体を、仮焼結工程S3での仮焼結温度よりも高い本焼結温度で焼結することにより、外層リング仮焼結体を本焼結し外層リング12とするとともに、外層リング12と内層リング11とを接合し圧延リング2とする。
【0083】
具体的に、本焼結工程S5では、前記圧延リング中間焼結体に、1300℃以上1400℃以下の温度で本焼結を行い、圧延リング2とする。なお、本焼結温度のより好ましい範囲は、例えば、1340℃以上1400℃以下である。本実施形態における本焼結の各種設定等は、例えば、下記の通りである。
<本焼結の各種設定等>
・焼結温度:1360℃
・焼結時間:1時間
【0084】
この本焼結により、圧延リング2は、圧延リング中間焼結体よりも体積が減少し、収縮する。詳しくは、圧延リング中間焼結体のうち内層リング11は、本焼結済みであるため変形することはないが、外層リング仮焼結体は、内層リング11に比べて内部に気孔を多く含んでおり、これらの気孔に結合相が充填されることにより体積が減少して、収縮する。
【0085】
図3に示すように、本焼結工程S5では、外層リング仮焼結体及び内層リング11の各リング中心軸Cを鉛直方向(上下方向)に延ばすように配置し、外層リング仮焼結体の内周面に設けた外層テーパ面12aと、内層リング11の外周面に設けた内層テーパ面11aとを嵌合させた圧延リング中間焼結体を焼結する。すなわち、各テーパ面11a,12aの傾斜の向きを同一にし、これらを相互に嵌め合わせた状態として、本焼結を行う。
【0086】
より詳しくは、図3及び図4に示すように、本焼結工程S5では、外層リング仮焼結体及び内層リング11のうち、一方(本実施形態では外層リング仮焼結体)よりも上側に位置する他方(本実施形態では内層リング11)に重り(図示省略)を載せ、前記他方の自重及び前記重りの重量により、外層テーパ面12aと内層テーパ面11aとをスライドさせる。すなわち、2つのリングが嵌合された前記圧延リング中間焼結体を本焼結しながら、前記重量によって前記一方に対して前記他方を下側にスライド移動させる。これにより、2つのリングは嵌合状態のまま同軸に位置合わせされる。
【0087】
また本焼結工程S5では、図3に示すように、各テーパ面11a,12aに、テーパ面と垂直な方向の押圧力(荷重)Fが作用する。荷重Fは、例えば下記式により求められる。
F=m×g×sinθ
上記式において、Fは荷重(接触面に働く垂直荷重)、mは前記他方(内層リング11)の自重と重りの重量の和、gは重力加速度、θは傾斜角(θ1、θ2)である。
【0088】
なお、荷重Fを嵌合面(テーパ面11a,12a)の接触面積で割った値が、嵌合面に作用する面圧となる。上記荷重F(面圧)を付与した状態で本焼結(外層リング12に対しては2度目の焼結)を行うことで、嵌合面の接合性が向上し、嵌合面のヒビ、割れ等の欠陥が低減される。
【0089】
〔端面加工工程〕
端面加工工程S6では、本焼結後の圧延リング2の軸方向を向く端面に切削または研削等の加工を施して、内層リング11と外層リング12との間に生じた段差を滑らかにする。なお、本焼結によって一体化した圧延リング2の端面に、段差が生じていない場合には、端面加工工程S6を行わなくてもよい。
【0090】
〔静水圧焼結工程〕
静水圧焼結工程S7では、圧延リング2に仕上げの静水圧焼結(Sinter-HIP)を行う。これにより圧延リング2は、リング全体としての抗折力(強度)が向上する。
【0091】
このようにして圧延リング2が製造され、この圧延リング2、支持部3及び側圧付与部4を上述の「圧延リングの着脱手順」に従いシャフト1に組み付けることにより、本実施形態の圧延ロール10が製造される。
【0092】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の圧延ロール10の製造方法では、圧延リング2の本焼結温度よりも低い温度で仮焼結した外層リング仮焼結体の内周面に、本焼結済みの内層リング11の外周面を嵌合した状態で、この圧延リング中間焼結体を本焼結する。この本焼結の際、外層リング仮焼結体は、その体積が減少するとともに収縮する。これにより、焼結後の外層リング12と内層リング11とが互いに強固に接合される。また、これらリング11,12同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることも抑制される。
【0093】
また、リング11,12同士を嵌合させるときに、内層リング11は本焼結済みであるため変形することはない。一方、外層リング仮焼結体は内層リング11に比べて内部に気孔を多く含んでおり、変形可能である。このため、これらリング11,12同士を容易に嵌合させることができ、ロール製造時の作業性が向上する。また、変形不能な内層リング11の形状(基準形状)にならって、外層リング仮焼結体が変形させられることにより、製造される圧延リング2の同軸度(同心度)や真円度の精度も向上する。
【0094】
例えば、上記特許文献1(特開昭49-105749号公報)のように、ろう材等の金属接合材によって外層リングと内層リングとを接合する場合、十分な接合強度が得られないおそれがある。また、上記特許文献2(実開昭53-74447号公報)や上記特許文献3(実開昭59-135806号公報)のように、外層リングと内層リングとを機械的な係合により結合する場合も、十分な結合強度が得られない。
一方、本実施形態では、本焼結によって外層リング12と内層リング11とが接合されるため、これらリング11,12同士の接合強度を安定して高めることができる。
【0095】
また、例えば上記特許文献5(特許第6794416号公報)のように、それぞれ本焼結済みの外層リング及び内層リングを用意し、内層リングを冷却により収縮させて外層リング内に嵌合した後、熱膨張させて機械接合する場合、外層リングに引張応力が生じて、外層リングにクラック等が発生するおそれがある。
一方、本実施形態では、本焼結によって外層リング12と内層リング11とを接合するため、外層リング12に引張応力が生じることはなく、クラック等の発生を防止できる。さらに本実施形態では、本焼結によって外層リング12に圧縮応力が生じる傾向があるため、外層リング12の強度がより高められる。また本実施形態では、内層リング11を冷却により収縮するための冷却設備等は不要であり、製造設備を簡素化できる。またこれにともない、製造工程も短縮され、生産効率が高められる。
【0096】
さらに本実施形態では、例えば、圧延加工に用いられ摩耗や再研磨等によって外径寸法が所定の廃棄径に達した使用済みの圧延ロール(圧延リング)を、内層リング11として再利用することができる。すなわち、例えば上記特許文献4(特開2004-255401号公報)のように、それぞれ圧粉成形した外層リングと内層リングとを嵌合して焼結する圧延ロールの製造方法とは異なり、本実施形態によれば、従来は廃棄されていた使用済み圧延ロールを用いて、外形形状を整えるなどにより内層リング11とし、外層リング12のみ新たに圧粉成形及び焼結(仮焼結後に、本焼結)することで、圧延ロール10を製造することができる。このため、高価な超硬合金材料の使用量を少なく抑えて、製造費用を削減できる。また、圧延リング2の焼結時間を短縮することも可能となり、生産効率が向上する。
【0097】
なお、仮焼結工程S3での仮焼結温度が、本焼結工程S5での本焼結温度に対して、-100℃以上-10℃以下とされる理由は、下記の通りである。
仮焼結温度が本焼結温度に対して-100℃以上であれば、仮焼結によって外層リング仮焼結体が一定以上に収縮するため、本焼結時に、外層リング12と内層リング11との嵌合面に不均一な熱変形が生じたり、間隙や局所的な歪みが生じたりすることを抑制できる。このため、製造される圧延ロール10の強度が安定して高められ、ロール破損等を防止できる。
【0098】
また、仮焼結温度が本焼結温度に対して-10℃以下であれば、外層リング成形体が誤って(意図せず)本焼結されることが防止され、仮焼結工程S3を経た外層リング仮焼結体の内部に気孔が安定して存在し、外層リング仮焼結体を変形しやすい状態に維持できる。すなわち、外層リング仮焼結体の変形量が所定以上に確保されるため、外層リング仮焼結体と内層リング11とを容易に組み合わせて嵌合させることができる。
【0099】
以上より本実施形態によれば、内層リング11と外層リング12の接合性をより高めることができ、これらリング11,12同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることを低減でき、かつ、圧延ロール10の製造設備が大掛かりで複雑なものになることを抑制できる。さらに、圧延ロール10の製造費用を削減可能である。
【0100】
また本実施形態のように、本焼結工程S5での本焼結温度が、1300℃以上1400℃以下であると、外層リング12を構成する超硬合金の種類等に関わらず、外層リング仮焼結体と内層リング11とを嵌合させた圧延リング中間焼結体を、安定して本焼結することができる。
【0101】
また本実施形態において、本焼結工程S5では、外層リング仮焼結体及び内層リング11の各リング中心軸Cを鉛直方向に延ばすように配置し、外層リング仮焼結体の内周面に設けた外層テーパ面12aと、内層リング11の外周面に設けた内層テーパ面11aとを嵌合させた圧延リング中間焼結体を焼結する。
この場合、外層リング仮焼結体と内層リング11とをテーパ嵌合し、各リング中心軸Cを鉛直方向に延ばすように配置することにより、本焼結時において、リングの自重などによりこれらの嵌合面(外層テーパ面12a及び内層テーパ面11a)に、嵌合面と垂直な方向の押圧力(荷重F)が作用する。すなわち、外層リング仮焼結体の外層テーパ面12aと、内層リング11の内層テーパ面11aとを、相互に加圧しつつ本焼結することができる。このため、外層リング12と内層リング11とが、互いにより強固に接合される。
【0102】
また本実施形態において、本焼結工程S5では、外層リング仮焼結体及び内層リング11のうち、一方(外層リング仮焼結体)よりも上側に位置する他方(内層リング11)に重りを載せ、前記他方の自重及び前記重りの重量により、外層テーパ面12aと内層テーパ面11aとをスライドさせる。
この場合、本焼結時に、外層テーパ面12a及び内層テーパ面11aにより大きな押圧力(荷重F)を作用させることができる。このため、外層リング12と内層リング11とが、相互により強固に接合される。また、外層テーパ面12aと内層テーパ面11aとがスライドしつつ嵌合されることで、外層リング12と内層リング11とをより精度よく同軸(同心)に位置合わせできる。
【0103】
また本実施形態では、リング中心軸Cに沿う断面において、内層テーパ面11aがリング中心軸Cに対して傾斜する第1傾斜角θ1と、外層テーパ面12aがリング中心軸Cに対して傾斜する第2傾斜角θ2とが、互いに同じである。
この場合、第1傾斜角θ1と第2傾斜角θ2とが同じであるので、内層テーパ面11aと外層テーパ面12aとを広範囲に密着させることができる。外層リング仮焼結体と内層リング11とを安定してテーパ嵌合させることができ、本焼結後の外層リング12と内層リング11との接合強度を安定して高めることができる。
【0104】
また本実施形態では、リング中心軸Cに沿う断面において、内層テーパ面11aがリング中心軸Cに対して傾斜する第1傾斜角θ1、及び、外層テーパ面12aがリング中心軸Cに対して傾斜する第2傾斜角θ2が、それぞれ、0°を超え5°以下である。
【0105】
第1傾斜角θ1及び第2傾斜角θ2が、それぞれ0°を超えていると、内層テーパ面11a及び外層テーパ面12aが、それぞれリング中心軸Cに対して確実に傾斜するため、外層テーパ面12a及び内層テーパ面11aに安定して押圧力(荷重F)を作用させることができる。このため、外層リング12と内層リング11との接合強度が、より安定して高められる。なお、第1傾斜角θ1及び第2傾斜角θ2は、それぞれ、0°30′以上とされることがより好ましい。
【0106】
また、第1傾斜角θ1及び第2傾斜角θ2が、それぞれ5°以下であると、例えば、使用済みの内層リング11を再利用する場合などにおいて、内層テーパ面11aを形成するために切削される超硬合金の加工量(すなわち廃棄量)を少なく抑えることができる。また、製造された圧延リング2の径方向の肉厚が大きくなり過ぎて寸法が嵩張るようなことも抑制される。なお、第1傾斜角θ1及び第2傾斜角θ2は、それぞれ、4°以下とされることがより好ましい。
【0107】
また本実施形態の圧延ロール10は、圧延リング2とシャフト1とを備えた、いわゆるクランプロール等と呼ばれる複合ロールである。このため、圧延リング2の外径寸法は、300mm以上450mm以下である。例えば、モルガンロール等と呼ばれる小径(外径寸法210mm以下)の圧延ロールに比べて、上記複合ロールでは、圧延リング2の外径寸法が大径とされるため、上述した内層リング11を再利用することによる製造費用削減の効果がより顕著となる。
【0108】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付し、下記では主に異なる点について説明する。
【0109】
図6及び図7は、前述の実施形態で説明した圧延ロール10の製造方法の変形例を示している。この変形例では、本焼結工程S5における外層リング仮焼結体と内層リング11との鉛直方向(上下方向)の配置関係が、前述の実施形態とは異なる。具体的にこの変形例では、本焼結工程S5において、外層リング仮焼結体及び内層リング11のうち、一方(内層リング11)よりも上側に位置する他方(外層リング仮焼結体)に重り(図示省略)を載せ、前記他方の自重及び前記重りの重量により、外層テーパ面12aと内層テーパ面11aとをスライドさせる。
この変形例によっても、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0110】
また前述の実施形態では、図5に示すように、圧延ロール10の製造方法が、内層リング加工工程S1、外層リング成形工程S2、仮焼結工程S3、外層リング加工工程S4、本焼結工程S5、端面加工工程S6、及び静水圧焼結工程S7をこの順に備えるが、これに限らない。例えば、内層リング加工工程S1については、本焼結工程S5よりも前工程に設けられていればよく、よって工程S2~S5のいずれの工程間に設けられてもよい。
【0111】
また前述の実施形態では、内層リング11の内層テーパ面11a及び外層リング12の外層テーパ面12aが、それぞれ、軸方向一方側(+X側)へ向かうに従い拡径するテーパ面状である例を挙げたが、これに限らない。内層リング11の内層テーパ面11a及び外層リング12の外層テーパ面12aは、それぞれ、軸方向一方側(+X側)へ向かうに従い縮径するテーパ面状であってもよい。
【0112】
また特に図示しないが、圧延ロール10は、軸方向に並んで配置される複数の圧延リング2を有していてもよい。この場合、軸方向に隣り合う圧延リング2同士の間には、円筒状または円環板状のスペーサーが設けられていてもよい。
【0113】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の圧延ロールの製造方法によれば、内層リングと外層リングの接合性をより高めることができ、これらリング同士の嵌合面などにヒビや割れ等が生じることを低減でき、かつ、圧延ロールの製造設備が大掛かりで複雑なものになることを抑制できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0115】
1…シャフト
2…圧延リング
10…圧延ロール
11…内層リング
11a…内層テーパ面
12…外層リング(外層リング仮焼結体)
12a…外層テーパ面
C…中心軸(リング中心軸)
S3…仮焼結工程
S5…本焼結工程
θ1…第1傾斜角
θ2…第2傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7