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特開2024-145345シリコンインゴット、シリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145345
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】シリコンインゴット、シリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20241004BHJP
   C30B 13/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C30B29/06 501A
C30B13/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057654
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豪矩
(72)【発明者】
【氏名】続橋 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小西 希
(72)【発明者】
【氏名】市川 博康
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB10
4G077BA04
4G077CE02
4G077EG02
4G077HA20
4G077NC02
4G077NC03
(57)【要約】
【課題】異種介在物の混入が十分に抑制されたシリコンインゴット、シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボを提供する。
【解決手段】一方向凝固組織からなり、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度が0.01個/cm未満であることを特徴とする。鋳型21の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリー層23と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末からなるスタッコ層24と、が、厚さ方向に交互に積層されており、シリコンインゴットと接触する最内層がスラリー層23とされるとともに、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6以上であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向凝固組織からなり、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度が0.01個/cm未満であることを特徴とするシリコンインゴット。
【請求項2】
窒素濃度が1.0×1014atoms/cc未満であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴット。
【請求項3】
炭素濃度が3.5×1017atoms/cc未満であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴット。
【請求項4】
シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボであって、
鋳型の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリー層と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末からなるスタッコ層と、が、厚さ方向に交互に積層されており、積層された前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数が6以上であることを特徴とするシリコンインゴット製造用ルツボ。
【請求項5】
シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボの製造方法であって、
鋳型の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成するスラリー層形成工程と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末を散布してスタッコ層を形成するスタッコ層形成工程と、積層した前記スラリー層および前記スタッコ層を焼成する焼成工程と、を有し、
前記スラリー層形成工程と前記スタッコ層形成工程を交互に繰り返してそれぞれ3回以上実施し、前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数を6以上とし、その後、前記焼成工程を実施することを特徴とするシリコンインゴット製造用ルツボの製造方法。
【請求項6】
一方向凝固組織からなるシリコンインゴットの製造方法であって、
請求項4に記載のシリコンインゴット製造用ルツボを用いることを特徴とするシリコンインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一方向凝固組織からなるシリコンインゴット、シリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばシリコン半導体デバイスを製造する工程で用いられるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等の各種装置においては、装置内におけるコンタミの発生を抑制するために、シリコンウエハと同一素材であるシリコン部材が広く使用されている。ここで、上述のシリコン部材は、例えば一方向凝固組織からなるシリコンインゴットから製造されている。
なお、一方向凝固組織からなるシリコンインゴットは、例えば特許文献1に示すように、液晶用スパッタリング装置、プラズマエッチング装置、CVD装置などの半導体製造装置で用いられる部品の素材として広く利用されている。
【0003】
また、特許文献2に示すように、プラズマ処理装置においては、異常放電やパーティクルの発生の抑制が課題とされている。ここで、シリコン部材に含まれる介在物は、ドライエッチングプロセス中に部材が消耗されて表面に露出した場合には異常放電の原因に、さらに部材が消耗されて部材から脱離した合にはパーティクル発生の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4531435号公報
【特許文献2】特開2015-106652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シリコンインゴットの製造にあたっては、鋳造後、ルツボからシリコンインゴットを取り出す際に、割れが生じるおそれがあった。
このため、従来は、シリコンインゴットをルツボから剥離させるために、ルツボ内壁に離型剤を塗布することがある。通常、離型剤として窒化珪素(シリコンナイトライド膜)を用いるため、インゴット中の窒素濃度を十分低減することができず、窒化珪素等の異種介在物の混入を回避できなかった。また、製造装置の内部に炭素部材が配設されている場合には、炭化珪素等の異種介在物が混入するおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、異種介在物の混入が十分に抑制されたシリコンインゴット、シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、シリコンインゴットを製造する際に用いるルツボ(シリコンインゴット製造用ルツボ)を特定の構造とすることにより、窒化珪素等の離型剤を用いることなく、シリコンインゴットを良好に取り出すことができるとともに、介在物の混入を十分に抑制可能となるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1のシリコンインゴットは、一方向凝固組織からなり、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度が0.01個/cm未満であることを特徴としている。
【0009】
本発明の態様1のシリコンインゴットによれば、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度が0.01個/cm未満とされていることから、異種介在物の混入が抑制されており、コンタミ、異常放電、パーティクルの発生を抑制可能なシリコン部材の素材として特に適している。
なお、異種介在物の個数密度は、シリコンインゴットの断面観察を行うことによって測定されるものである。
【0010】
本発明の態様2のシリコンインゴットは、本発明の態様1のシリコンインゴットにおいて、窒素濃度が1.0×1014atoms/cc未満であることを特徴としている。
本発明の態様2のシリコンインゴットによれば、窒素濃度が1.0×1014atoms/cc未満に制限されているので、窒化珪素等の異種介在物の混入が抑制されており、コンタミ、異常放電、パーティクルの発生を抑制可能なシリコン部材の素材として特に適している。
【0011】
本発明の態様3のシリコンインゴットは、本発明の態様1または態様2のシリコンインゴットにおいて、炭素濃度が3.5×1017atoms/cc未満であることを特徴としている。
本発明の態様3のシリコンインゴットによれば、炭素濃度が3.5×1017atoms/ccに制限されているので、炭化珪素等の異種介在物の混入が抑制されており、コンタミ、異常放電、パーティクルの発生を抑制可能なシリコン部材の素材として特に適している。
【0012】
本発明の態様4のシリコンインゴット製造用ルツボは、シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボであって、鋳型の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリー層と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末からなるスタッコ層と、が、厚さ方向に交互に積層されており、前記シリコンインゴットと接触する最内層が前記スラリー層とされるとともに、積層された前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数が6以上であることを特徴としている。
【0013】
本発明の態様4のシリコンインゴット製造用ルツボによれば、鋳型の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリー層と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末からなるスタッコ層と、が、厚さ方向に交互に積層され、積層された前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数が6以上とされているので、複数の層間においてシリコンインゴットの取り出す際の応力が緩和され、シリコンインゴットに割れが生じることを抑制できる。また、シリコンインゴットと接触する最内層が窒化珪素等の離型剤で構成されていないので、鋳造時に窒化珪素や炭化珪素等の異種介在物が発生することを抑制でき、これら異種介在物が十分に低減されたシリコンインゴットを製造することができる。
【0014】
本発明の態様5のシリコンインゴット製造用ルツボの製造方法は、シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボの製造方法であって、鋳型の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成するスラリー層形成工程と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末を散布してスタッコ層を形成するスタッコ層形成工程と、積層した前記スラリー層および前記スタッコ層を焼成する焼成工程と、を有し、前記スラリー層形成工程と前記スタッコ層形成工程を交互に繰り返してそれぞれ3回以上実施し、前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数を6以上とし、その後、前記焼成工程を実施することを特徴としている。
【0015】
本発明の態様5のシリコンインゴット製造用ルツボの製造方法によれば、スラリー層形成工程と、スタッコ層形成工程と、積層した前記スラリー層および前記スタッコ層を焼成する焼成工程と、を有し、前記スラリー層形成工程と前記スタッコ層形成工程を交互に繰り返してそれぞれ3回以上実施し、前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数を6以上とし、その後、前記焼成工程を実施する構成とされているので、シリコンインゴットと接触する最内層に窒化珪素等が用いられていないとともに、積層された前記スラリー層および前記スタッコ層の合計層数が6以上であるシリコンインゴット製造用ルツボを製造することが可能となる。
【0016】
本発明の態様6のシリコンインゴットの製造方法は、一方向凝固組織からなるシリコンインゴットの製造方法であって、本発明の態様4に記載のシリコンインゴット製造用ルツボを用いることを特徴としている。
【0017】
本発明の態様6のシリコンインゴットの製造方法によれば、発明の態様4に記載のシリコンインゴット製造用ルツボを用いているので、シリコンインゴットの取り出す際に、シリコンインゴットに割れ生じることを抑制できるとともに、鋳造時に窒化珪素や炭化珪素等の異種介在物が発生することを抑制でき、これら異種介在物が十分に低減されたシリコンインゴットを製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、異種介在物の混入が十分に抑制されたシリコンインゴット、シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態であるシリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造装置の一例を示す概略説明図である。
図2】本発明の実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるシリコンインゴット、シリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
本発明の実施形態であるシリコンインゴットは、例えば、図1に示すシリコンインゴット製造装置10によって製造されるものである。シリコンインゴット製造装置10に備えられたシリコンインゴット製造用ルツボ20内において、底部側から上方に向けて一方向凝固されたものであって、柱状の結晶構造を持つものである。
【0022】
そして、本実施形態であるシリコンインゴットにおいては、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度が0.01個/cm未満とされている。
ここで、異種介在物の個数密度は、シリコンインゴットから観察試料を採取し、観察試料を鏡面研磨して観察することで確認されるものである。なお、本実施形態では、一方向凝固したシリコンインゴットの上部から観察試料を採取し、異種介在物の個数密度を測定した。ここで、異種介在物は、窒化珪素および炭化珪素を含むものとされている。
なお、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度は、0.001個/cm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、本実施形態であるシリコンインゴットにおいては、窒素濃度が1.0×1014atoms/cc未満であることが好ましく、5.0×1013atoms/cc未満であることがより好ましい。
なお、本実施形態においては、シリコンインゴットの窒素濃度は、SIMS(二次イオン質量分析法)によって測定されたものである。
【0024】
さらに、本実施形態であるシリコンインゴットにおいては、炭素濃度が3.5×1017atoms/cc未満であることが好ましく、2.0×1017atoms/cc未満であることがより好ましい。
なお、本実施形態においては、シリコンインゴットの炭素濃度は、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)によって測定されたものである。
【0025】
次に、本実施形態であるシリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造装置10について、図1を参照して説明する。
このシリコンインゴット製造装置10は、シリコン融液Lが貯留されるシリコンインゴット製造用ルツボ20と、このシリコンインゴット製造用ルツボ20が載置されるチルプレート12と、このチルプレート12を下方から支持する床下ヒータ13と、シリコンインゴット製造用ルツボ20の上方に配設された天井ヒータ14と、を備えている。また、ルツボ20の周囲には、断熱材15が設けられている。
チルプレート12は、中空構造とされており、供給パイプ16を介して内部にArガスが供給される構成とされている。
【0026】
ここで、本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20について、図2を参照して説明する。
本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20は、鋳型21と、この鋳型21の内面に形成されたシリカ層22と、を有している。
鋳型21は、例えば、石英、黒鉛で構成されている。なお、鋳型21の内側には、任意の寸法および形状を有する空間(例えば、円柱状空間、六角柱状空間、立方体状空間または直方体状空間など)が設けられているが、特に限定されるものではない。
【0027】
シリカ層22は、図2に示すように、鋳型21の内側に設けられており、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリー層23と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末からなるスタッコ層24と、が、厚さ方向に交互に積層された構造とされており、シリコンインゴットと接触する最内層がスラリー層23とされるとともに、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6以上とされている。
なお、本実施形態においては、図2に示すように、鋳型21の内面と接する箇所にスラリー層23が形成されており、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6とされている。
【0028】
ここで、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6層よりも少ない場合には、シリコンインゴットを取り出す際の応力を緩和しきれずに、シリコンインゴットに割れが発生してしまうおそれがある。このため、本実施形態では、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6層以上としている。
また、微細シリカ粉末の平均粒径を1μm以上200μm以下の範囲内とすることにより、コロイダルシリカと混合してスラリーとすることができ、上述のスラリー層23を良好に形成することができる。
さらに、粗大シリカ粉末の平均粒径を100μm以上1000μm以下とすることにより、表面粗さが必要以上に大きくならず、鋳型21との剥離が容易となる。
【0029】
また、本実施形態においては、シリカ層22の厚さ(積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計厚さ)は、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。一方、シリカ層22の厚さ(積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計厚さ)は、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましい。
【0030】
さらに、スラリー層23の厚さは、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましい。一方、スラリー層23の厚さは、5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましい。
また、スタッコ層24の厚さは、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましい。一方、スタッコ層24の厚さは、5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましい。
【0031】
次に、本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20の製造方法について説明する。
本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20の製造方法は、鋳型21の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーを塗布または吹き付けてスラリー層23を形成するスラリー層形成工程と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末を散布してスタッコ層24を形成するスタッコ層形成工程と、積層したスラリー層23およびスタッコ層24を焼成する焼成工程と、を有している。
【0032】
そして、スラリー層形成工程とスタッコ層形成工程を交互に繰り返してそれぞれ3回以上実施し、スラリー層23およびスタッコ層24の合計層数を6以上とし、その後、焼成工程を実施する構成とされている。
ここで、焼成工程においては、雰囲気:N、Arなどの不活性ガス、加熱温度:800℃以上1200℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間:1時間以上10時間以下の範囲内、の条件とすることが好ましい。
【0033】
次に、図1に示すシリコンインゴット製造装置10を用いた本実施形態であるシリコンインゴットの製造方法について説明する。
【0034】
まず、本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20内に、シリコン原料を装入する。ここで、シリコン原料としては、11N(純度99.999999999)の高純度シリコンを砕いて得られた「チャンク」と呼ばれる塊状のものが使用される。この塊状のシリコン原料の粒径は、例えば、30mmから100mmとされている。
【0035】
このシリコン原料を、天井ヒータ14と床下ヒータ13とに通電して加熱する。これにより、加熱されたシリコン原料は溶解し、シリコンインゴット製造用ルツボ20内には、シリコン融液Lが貯留されることになる。ここで、シリコン溶解後の条件としては、1420℃以上1600℃以下の範囲の加熱温度で、5時間以上40時間以下の範囲で保持とすることが好ましい。
【0036】
次に、床下ヒータ13への通電を停止し、チルプレート12の内部に供給パイプ16を介してArガスを供給する。これにより、シリコンインゴット製造用ルツボ20の底部を冷却する。さらに、天井ヒータ14への通電を徐々に減少させることにより、ルツボ20内のシリコン融液Lは、シリコンインゴット製造用ルツボ20の底部から冷却され、底部から上方に向けて伸びる柱状晶Cが成長して一方向凝固することになる。
ここで、鋳造条件としては、凝固速度が5mm/h以上20mm/h以下の範囲内となるように調整することが好ましい。
【0037】
凝固が完了した後に、シリコンインゴット製造用ルツボ20の内部に形成されたシリコンインゴットを取り出す。
このようにして、本実施形態であるシリコンインゴットが製造される。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態であるシリコンインゴットによれば、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度が0.01個/cm未満とされているので、異種介在物の混入が十分に抑制されており、コンタミ、異常放電、パーティクルの発生を抑制可能なシリコン部材の素材として特に適している。
【0039】
本実施形態であるシリコンインゴットにおいて、窒素濃度が1.0×1014atoms/cc未満とされている場合には、窒化珪素等の窒素を含む異種介在物の混入が抑制されており、コンタミ、異常放電、パーティクルの発生を抑制可能なシリコン部材の素材として特に適している。
【0040】
本実施形態であるシリコンインゴットにおいて、炭素濃度が3.5×1017atoms/cc未満でとされている場合には、炭化珪素等の炭素を含む異種介在物の混入が抑制されており、コンタミ、異常放電、パーティクルの発生を抑制可能なシリコン部材の素材として特に適している。
【0041】
本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20によれば、鋳型21の内面に、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリー層23と、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末からなるスタッコ層24と、が、厚さ方向に交互に積層され、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6以上とされているので、複数の層間においてシリコンインゴットの取り出す際の応力が緩和され、シリコンインゴットやシリコンインゴット製造用ルツボ20に割れ生じることを抑制できる。また、シリコンインゴットと接触する最内層が窒化珪素等の離型剤で構成されていないので、鋳造時に窒化珪素や炭化珪素等の異種介在物が発生することを抑制でき、これら異種介在物が十分に低減されたシリコンインゴットを製造することができる。
【0042】
本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20の製造方法によれば、スラリー層形成工程と、スタッコ層形成工程と、積層したスラリー層23およびスタッコ層24を焼成する焼成工程と、を有し、スラリー層形成工程とスタッコ層形成工程を交互に繰り返してそれぞれ3回以上実施し、スラリー層23およびスタッコ層24の合計層数を6以上とし、その後、焼成工程を実施する構成とされているので、シリコンインゴットと接触する最内層がスラリー層23とされるとともに、積層されたスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数が6以上であるシリコンインゴット製造用ルツボ20を製造することが可能となる。
【0043】
本実施形態であるシリコンインゴットの製造方法によれば、本実施形態であるシリコンインゴット製造用ルツボ20を用いているので、シリコンインゴットを取り出す際に、シリコンインゴットに割れ生じることを抑制できるとともに、鋳造時に窒化珪素や炭化珪素等の異種介在物が発生することを抑制でき、これら異種介在物が十分に低減されたシリコンインゴットを製造することができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、図2に示すように、積層したスラリー層23およびスタッコ層24の合計層数を6として説明したが、これに限定されることはなく、合計層数を7以上としてもよい。
【0045】
なお、鋳型21側の最外層は、スラリー層23であってもよいし、スタッコ層24であってもよいが、スラリー層23とすることが好ましい。
また、シリコン融液L側の最内層は、スラリー層23であってもよいし、スタッコ層24であってもよいが、スラリー層23とすることが好ましい。
【実施例0046】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0047】
(本発明例)
内径:400mm、外径:450mm、深さ:500mmの寸法を有する石英の鋳型を用意した。
そして、平均粒径が1μm以上200μm以下の微細シリカ粉末とコロイダルシリカからなるスラリーを塗布または吹き付けてスラリー層を形成するスラリー層形成工程を4回、平均粒径が100μm以上1000μm以下の粗大シリカ粉末を散布してスタッコ層を形成するスタッコ層形成工程を3回を、交互に繰り返し実施し、スラリー層およびスタッコ層の合計層数を7とし、その後、雰囲気:N、加熱温度:800℃、保持時間:8時間の条件で焼成工程を実施し、鋳型内面にシリカ層が形成された本発明例のシリコンインゴット製造用ルツボを製造した。なお、スラリー層およびスタッコ層の合計厚さ(シリカ層の厚さ)を3mmとした。
【0048】
この本発明例のシリコンインゴット製造用ルツボに、シリコン原料を装填し、その後、温度:1500℃に保持し、原料を溶解した。このようにして得られたシリコン溶湯を0.5℃/minの冷却速度で鋳型下方より冷却し、一方向凝固組織からなるシリコンインゴットを製造した。
【0049】
(比較例)
内径:400mm、外径:450mm、深さ:500mmの寸法を有する石英の鋳型を用意した。
そして、鋳型の内面に、離型剤として厚さ1mmのシリコンナイトライド膜を成膜し、比較例のシリコンインゴット製造用ルツボを製造した。
【0050】
この比較例のシリコンインゴット製造用ルツボに、シリコン原料を装填し、その後、温度:1500℃に保持し、原料を溶解した。このようにして得られたシリコン溶湯を0.5℃/minの冷却速度で鋳型下方より冷却し、一方向凝固組織からなるシリコンインゴットを製造した。
【0051】
得られたシリコンインゴットの上面から15mmの高さ位置で、それぞれ測定試料を採取し、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度、窒素濃度、炭素濃度を測定した。
【0052】
異種介在物の個数密度は、測定試料の観察面を鏡面研磨し、観察面を、光度1000~2000lxの環境下で目視観察することによって、円相当径が3μm以上の異種介在物の個数密度を算出した。
窒素濃度は、SIMS(二次イオン質量分析法)によって測定した。炭素濃度は、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)によって測定した。
異種介在物の個数密度の算出、窒素濃度の測定、炭素濃度の測定には同じシリコンインゴットの同じ高さ位置から採取した試料をそれぞれ用いた。
測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例においては、鋳型の内面に離型剤としてナイトライド膜を成膜したシリコンインゴット製造用ルツボを用いており、製造されたシリコンインゴットにおいて窒素濃度、炭素濃度が高く、異種介在物の個数密度が5.3個/cmであって、異種介在物を多く含んでいた。
【0055】
これに対して、本発明例においては、鋳型の内面にスラリー層とスタッコ層が交互に積層され、最内層がスラリー層とされるとともに積層されたスラリー層およびスタッコ層の合計層数が6とされたシリコンインゴット製造用ルツボを用いており、製造されたシリコンインゴットにおいて窒素濃度、炭素濃度が十分に低く、異種介在物の個数密度が0.001個/cm未満であって、異種介在物がほとんど存在していなかった。
【0056】
以上のように、本発明によれば、異種介在物の混入が十分に抑制されたシリコンインゴット、シリコンインゴットを製造する際に用いられるシリコンインゴット製造用ルツボ、シリコンインゴット製造用ルツボの製造方法、および、シリコンインゴットの製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
20 シリコンインゴット製造用ルツボ
21 鋳型
23 スラリー層
24 スタッコ層
図1
図2