(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145358
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2404 20160101AFI20241004BHJP
H01M 8/248 20160101ALI20241004BHJP
H01M 8/2475 20160101ALI20241004BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241004BHJP
【FI】
H01M8/2404
H01M8/248
H01M8/2475
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057672
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 直樹
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA21
5H126AA25
5H126AA28
5H126BB06
5H126HH02
(57)【要約】
【課題】ケースの取付後にセルの積層を容易に行うことが可能な燃料電池スタックの組立方法を提供する。
【解決手段】燃料電池スタックの組立方法は、エンドプレート23の上方に配置される絶縁プレート22を、テーブル202に対し上下方向に移動可能なロッド203を介して保持する工程と、絶縁プレート22上に、発電セル1を積層してセル積層体を形成する工程と、を含む。保持する工程は、エンドプレート23の貫通孔230を通過したロッド203の上端部を絶縁プレート22の貫通孔220の周面に当接させて、絶縁プレート22を保持することを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を交互に積層してなるセル積層体と、
前記セル積層体を包囲する筐体と、
前記セル積層体の積層方向の端部に配置されたエンドユニットと、を備える燃料電池スタックであって、
前記エンドユニットは、前記筐体の端部に固定されるエンドプレートと、前記エンドプレートと前記セル積層体との間に配置される中間プレートと、を有し、
前記エンドプレートおよび前記中間プレートには、前記エンドプレートと前記中間プレートとを前記積層方向と平行に貫通し、反応ガスと冷却媒体とを前記セル積層体に供給および前記セル積層体から排出するための複数の連通孔がそれぞれ開口され、
前記中間プレートの前記連通孔は、前記エンドプレートの前記連通孔よりも小さく、
前記中間プレートは、前記燃料電池スタックの組立時または分解時に、組立台上に搭載された前記エンドプレートの前記連通孔を通過したロッド部材により昇降可能に支持されるように、前記連通孔の周面に前記ロッド部材の先端部が当接される当接部を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記当接部は、前記中間プレートの前記連通孔の周面に設けられた段部により構成されることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記中間プレートは、前記エンドプレートに向けて突設され、前記エンドプレートの前記連通孔に嵌合するとともに、前記連通孔が設けられる突出部を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項4】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記筐体の内側の表面に取り付けられ、前記積層方向に延在するガイド部材をさらに備え、
前記セパレータは、前記ガイド部材に係合する係合部を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項5】
積層方向を上下方向として組み立てられる燃料電池スタックの組立方法であって、
組立台の上面に下側エンドプレートを搭載するとともに、前記下側エンドプレートにケースの下端部を固定する搭載工程と、
前記下側エンドプレートの上方に配置される中間プレートを、前記組立台に対し上下方向に移動可能なロッド部材を介して前記下側エンドプレートの上方のセル積層位置に保持する保持工程と、
前記ロッド部材を介して保持された前記中間プレート上に、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を交互に積層し、セル積層体を形成する積層工程と、
前記ロッド部材を下方に移動することにより前記中間プレートを下降し、前記下側エンドプレートの上面に載置する下降工程と、
上側エンドプレートを介して前記セル積層体を上方から押圧し、前記上側エンドプレートを前記ケースの上端部に固定する加圧工程と、を含み、
前記下側エンドプレートおよび前記中間プレートには、前記下側エンドプレートと前記中間プレートとをそれぞれ上下方向に貫通し、反応ガスと冷却媒体とを前記セル積層体に供給および前記セル積層体から排出するための複数の連通孔がそれぞれ開口され、
前記中間プレートの前記連通孔は、前記下側エンドプレートの前記連通孔よりも小さく、
前記保持工程は、前記下側エンドプレートの前記連通孔を通過した前記ロッド部材の上端部を前記中間プレートの前記連通孔の周面に当接させて、前記中間プレートを前記セル積層位置に保持すること含むことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池スタックの組立方法において、
前記下降工程は、前記積層工程で、前記膜電極構造体または前記セパレータ、または前記膜電極構造体と前記セパレータとの組み合わせを単位積層物として積層するたびに、前記単位積層物の厚みに相当する分、前記中間プレートを下降することを含み、前記積層工程と前記下降工程とを交互に行うことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックおよび燃料電池スタックの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する技術開発が行われている。このような燃料電池を構成する燃料電池スタックは、一般に、組立台の上面にエンドプレート、インシュレータ、ターミナルプレートなどを順次搭載した後、複数の発電セルを積層して組み立てられる。この点に関し、従来、エンドプレートから立設された位置決めピンに沿って発電セルを位置決めしながら積層するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンドプレートには積層体を包囲するケースが取り付けられるが、上記特許文献1記載の装置では、ケースがない状態で発電セルを積層するように構成されており、ケースの取付後にケース内の空間に発電セルを積層することは、ケースが障害となって難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料電池スタックは、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を交互に積層してなるセル積層体と、セル積層体を包囲する筐体と、セル積層体の積層方向の端部に配置されたエンドユニットと、を備える。エンドユニットは、筐体の端部に固定されるエンドプレートと、エンドプレートとセル積層体との間に配置される中間プレートと、を有する。エンドプレートおよび中間プレートには、エンドプレートと中間プレートとを積層方向と平行に貫通し、反応ガスと冷却媒体とをセル積層体に供給およびセル積層体から排出するための複数の連通孔がそれぞれ開口される。中間プレートの連通孔は、エンドプレートの前記連通孔よりも小さい。中間プレートは、燃料電池スタックの組立時または分解時に、組立台上に搭載されたエンドプレートの連通孔を通過したロッド部材により昇降可能に支持されるように、連通孔の周面にロッド部材の先端部が当接される当接部を有する。
【0006】
本発明の他の態様である燃料電池スタックの組立方法は、積層方向を上下方向として組み立てられる燃料電池スタックの組立方法であって、組立台の上面に下側エンドプレートを搭載するとともに、下側エンドプレートにケースの下端部を固定する搭載工程と、下側エンドプレートの上方に配置される中間プレートを、組立台に対し上下方向に移動可能なロッド部材を介して下側エンドプレートの上方のセル積層位置に保持する保持工程と、ロッド部材を介して保持された中間プレート上に、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を交互に積層し、セル積層体を形成する積層工程と、ロッド部材を下方に移動することにより中間プレートを下降し、下側エンドプレートの上面に載置する下降工程と、上側エンドプレートを介してセル積層体を上方から押圧し、上側エンドプレートをケースの上端部に固定する加圧工程と、を含む。下側エンドプレートおよび中間プレートには、下側エンドプレートと中間プレートとをそれぞれ上下方向に貫通し、反応ガスと冷却媒体とをセル積層体に供給およびセル積層体から排出するための複数の連通孔がそれぞれ開口される。中間プレートの連通孔は、下側エンドプレートの連通孔よりも小さい。保持工程は、下側エンドプレートの連通孔を通過したロッド部材の上端部を中間プレートの連通孔の周面に当接させて、中間プレートをセル積層位置に保持することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ケースの取付後に、ケース内の空間に発電セルを容易に積層することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す斜視図。
【
図4】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法に用いられる組立装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図7を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池スタックは、燃料電池の主たる要素を構成する。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。燃料電池は、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することもできる。
【0010】
まず、燃料電池スタックの全体構成を概略的に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池スタック100の全体構成を概略的に示す斜視図である。以下では、便宜上、図示のように互いに直交する三軸方向を、前後方向、左右方向および上下方向と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。
図1の各方向は、後述する燃料電池スタック100の組立時の方向に一致する(
図4参照)。この方向は、燃料電池スタック100を車両に搭載したときの方向と同一であるとは限らない。例えば燃料電池スタック100を車両に搭載したときには、
図1の前後方向が上下方向(鉛直方向)となり、
図1の上下方向が前後方向または左右方向となり、
図1の左右方向が前後方向またはそのまま左右方向となる。
【0011】
図1に示すように、燃料電池スタック100は、セル積層体10と、セル積層体10の上下両端部に配置されたエンドユニット20と、セル積層体10を包囲するケース30と、を有し、全体が略直方体形状を呈する。
【0012】
ケース30は、セル積層体10の前面、右面、後面および左面にそれぞれ対向した略矩形状の4つの側壁300を有する。これら4つの側壁300により、上面および下面が開放された略ボックス状の収容空間SP0が形成される。ケース30は、アルミニウムや鉄などの金属によって構成される。セル積層体10とケース30の各側壁300との間には、上下方向に延在する棒状ないし板状のガイド部材50(
図2)が介装される。
【0013】
図1のA部には、ケース30の側壁300の一部を破断して示す。
図1のA部に示すように、セル積層体10は、複数の発電セル1(便宜上、単一のセル1のみ示す)を、ガイド部材50によって案内されながら、上下方向に積層して構成される。
【0014】
発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2の上下両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、上下方向に交互に配置される。
【0015】
セパレータ3は、断面が波板状の上下一対の金属製の薄板を有し、これら一対の薄板の外周部同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。一対の薄板は、セパレータ3の内部に冷却媒体(例えば水)が流れる冷却流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。
【0016】
電極アッセンブリ2の上側のセパレータ3は、例えばアノード側のセパレータ(アノードセパレータ)であり、アノードセパレータ3と電極アッセンブリ2との間に、水素を含む燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。電極アッセンブリ2の下側のセパレータ3は、例えばカソード側のセパレータ(カソードセパレータ)であり、カソードセパレータ3と電極アッセンブリ2との間に、酸素を含む酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。
【0017】
電極アッセンブリ2は、膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)と、膜電極接合体の周囲を支持する樹脂製のフレームと、を有する。膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の上面に設けられたアノード電極と、電解質膜の下面に設けられたカソード電極とを有する。膜電極接合体を、膜電極構造体と呼ぶこともある。電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜である。アノード電極は、電解質膜の上面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、電極触媒層の上面には、燃料ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。カソード電極は、電解質膜の下面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、電極触媒層の下面には、酸化剤ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。
【0018】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0019】
上下のエンドユニット20は、それぞれターミナルプレート21と、絶縁プレート22と、エンドプレート23とを有する。なお、上側のエンドユニット20をドライ側エンドユニット、下側のエンドユニット20をウェット側エンドユニットと呼ぶこともある。上下一対のターミナルプレート21,21は、セル積層体10を挟んでその上下両側に配置される。上下一対の絶縁プレート22,22は、ターミナルプレート21,21を挟んでその上下両側に配置される。上下一対のエンドプレート23,23は、絶縁プレート22,22を挟んでその上下両側に配置される。
【0020】
ターミナルプレート21は、金属製の略矩形状の板状部材であり、セル積層体10で電気化学反応により生成された電力を取り出すための端子部を有する。絶縁プレート22は、非導電性を有する樹脂製またはゴム製の略矩形状の板状部材であり、ターミナルプレート21とエンドプレート23とを電気的に絶縁する。エンドプレート23は、金属製または高強度に構成された樹脂製の板状部材であり、上下のエンドプレート23には、それぞれケース30の上下両端部がボルトにより締結される。
【0021】
下側のエンドユニット20には、エンドユニット20を上下方向に貫通する複数の貫通孔(連通孔)20a~20fが開口される。なお、貫通孔20a~20fは、それぞれターミナルプレート21を貫通する貫通孔、絶縁プレート22を貫通する貫通孔およびエンドプレート23を貫通する貫通孔を含むが、
図1では、便宜上、これらをまとめて貫通孔20a~20fとして示す。
【0022】
貫通孔20aは、セル積層体10の内部に燃料ガスを供給するための連通孔である。貫通孔20bは、セル積層体10から外部に冷却媒体を排出するための連通孔である。貫通孔20cは、セル積層体10から外部に酸化剤ガスを排出するための連通孔である。貫通孔20dは、セル積層体10の内部に酸化剤ガスを供給するための連通孔である。貫通孔20eは、セル積層体10の内部に冷却媒体を供給するための連通孔である。貫通孔20fは、セル積層体10から外部に燃料ガスを排出するための連通孔である。
【0023】
セル積層体10の左右方向両端部には、貫通孔20a~20dに連通するように上下方向に延在する複数の流路(マニホールド)が形成される。セル積層体10の内部のアノード流路には、貫通孔20aを介して供給された燃料ガスが導かれ、カソード流路には貫通孔20dを介して供給された酸化剤ガスが導かれる。これにより発電セル1で発電が行われる。供給後の燃料ガスおよび酸化剤ガスは、それぞれ貫通孔20f,20cを介してセル積層体10から排出される。セル積層体10には貫通孔20eを介して供給された冷却媒体が導かれ、これにより発電面が冷却される。セル積層体10を通過した冷却媒体は、貫通孔20bを介して排出される。
【0024】
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図である。
図2に示すように、収容空間SP0に面する4つの側壁300の内面30aには、それぞれガイド部材50を支持するガイド支持部35が設けられる。ガイド支持部35は、側壁300の内面30aからケース内側(収容空間SP0の中心側)に突設されるとともに、側壁300の長手方向(上下方向)に延設される。ガイド支持部35は、例えば収容空間SP0に面する部位に凹部35aを有する。凹部35aにガイド部材50が嵌合する。
【0025】
ガイド部材50は、上下方向に延在する樹脂製の細長部材であり、その断面形状は、長手方向(上下方向)にわたって均一である。ガイド部材50は、例えばケース内側に向けて凹部51を有する。凹部51に、セル積層体10の前後左右の縁部が嵌合される。
【0026】
具体的には、セル積層体10を構成するセパレータ3の前後左右の縁部に、ガイド部材50に対応して凸部11が設けられ、凸部11が凹部51に嵌合しながらセパレータ3が積層される。この場合、予め単一のセパレータ3に単一の電極アッセンブリ2を溶着または接着等により接合して一組の単位セルあるいは発電セル1を形成しておくことで、セパレータ3の積層時に電極アッセンブリ2を同時に積層できる。また、ガイド部材50を介してセパレータ3を積層することで、ケース30に対しセパレータ3を精度よく位置決めしながらセル積層体10を構成できる。
【0027】
図3は、エンドユニット20の貫通孔20aの構成を示す
図1のIII-III線に沿った断面図である。なお、エンドユニット20の他の貫通孔20b~20fの構成も
図3と同様である。
図3に示すように、貫通孔20aは、ターミナルプレート21の貫通孔210と、絶縁プレート22の貫通孔220と、エンドプレート23の貫通孔230とを含む。なお、ターミナルプレート21と絶縁プレート22とは中間プレートを構成する。絶縁プレート22のみで中間プレートを構成してもよい。絶縁プレート22は、貫通孔20aの位置に対応して、下方に突出する突出部221を有し、貫通孔220は突出部221に設けられる。
【0028】
エンドプレート23の貫通孔230の径は、突出部221の外周面の径と等しく、突出部221の外周面は貫通孔230に嵌合される。嵌合状態では、突出部221の下端面22aとエンドプレート23の下端面23aとは同一水平面上に位置する。なお、下端面23aが下端面22aより下方に位置してもよい。
【0029】
以上の燃料電池スタック100は、組立装置を用いて組み立てられる。
図4は、組立装置200の概略構成を示す図である。
図4には、組立装置200を用いて燃料電池スタック100を組み立てる際の一工程が併せて示される。
図4に示すように組立装置200は、基台に立設された複数の脚部201と、脚部201の上端部に固定され、水平方向に延在する略板状のテーブル202とを有する。
【0030】
テーブル202には、エンドユニット20の複数の貫通孔(例えば4箇所の貫通孔20a,20c,20d,20f)に対応して、テーブル202を上下方向に貫通する複数(例えば4個)の貫通孔202aが開口される。なお、
図4には、テーブル202の上面に載置されたエンドプレート23(ウェット側エンドプレート23)と、エンドプレート23に固定されたケース30とが併せて示される。ケース30の側壁300の内側には、ガイド部材50が取り付けられる。
【0031】
貫通孔202aには、テーブル202の下方から、上下方向に細長のロッド203が挿入される。ロッド203は、テーブル202の底面に取り付けられた駆動装置205により上下方向に移動可能に支持される。駆動装置205は、シリンダやモータなどのアクチュエータを有し、アクチュエータの駆動によりロッド203を昇降することができる。ロッド203の外径は、エンドプレート23の貫通孔230の径よりも小さく、ロッド203は貫通孔230を通過可能である。
【0032】
ロッド203が最大に下降した最大下降位置(位置A)においては、ロッド203の上端面はテーブル202の上面とほぼ同一位置またはテーブル202の上面よりも下方に位置する。なお、所定量(例えばエンドプレート23の板厚)を限度として、ロッド203の上端面がテーブル202の上面から突出してもよい。ロッド203が最大に上昇した最大上昇位置(位置B)においては、ロッド203の上端面がエンドプレート23の上端面よりも所定量上方に突出する。
【0033】
ロッド203の上端部は、絶縁プレート22の貫通孔220の所定位置まで嵌合する。これを所定嵌合状態と呼ぶ。所定嵌合状態では、ロッド203が貫通孔220の周面を摺動することなく、ロッド203が絶縁プレート22を支持できる。これにより
図4の位置Bに示すように、絶縁プレート22を、エンドプレート23の上面から離間してセル積層位置に保持できる。この状態で、矢印Zに示すように電極アッセンブリ2とセパレータ3(発電セル1として示す)が交互に積層される。なお、
図4では、発電セル1の貫通孔、すなわちエンドユニット20の貫通孔20aに連通する連通孔(
図3)を点線で示す。
【0034】
図5Aは、
図4のロッド203の先端部を拡大して示す図であり、
図5Bは、
図5Aの矢視VB図である。
図5Aに示すように、ロッド203の上端部の外周面には、複数(図では4個)の弾性体204が周方向等間隔に装着される。弾性体204は、樹脂やゴムにより構成される。
図5Bでは誇張して示すが、弾性体204の外側の頂点を通る外接円204aの径は、貫通孔220の径よりもやや大きい。したがって、弾性体204は、径方向に圧縮されて貫通孔220に嵌合される。すなわち、貫通孔220と干渉する弾性体204の角部が圧縮されて、弾性体204が嵌合される。
【0035】
貫通孔220の周面には、弾性体204が当接する当接部220aが設けられる。貫通孔220は、例えば下端の入口から上方に向かうに従い徐々に径が小さくなる。これにより、当接部220aが構成される。このような当接部220aを設けることにより、貫通孔220への弾性体204の最大嵌合量が制限される。その結果、弾性体204が最大に嵌合した際に弾性体所定嵌合状態となり、所定嵌合状態におけるロッド203の最大嵌合位置を規定できる。なお、弾性体204とロッド203の外周面との間に板ばね等の付勢部材からなる爪機構を設け、貫通孔202aの縮径により最大嵌合位置で弾性体204に付勢力を付与することで、爪機構を介して貫通孔220の周面における弾性体204の位置を固定するようにしてもよい。爪機構は、弾性体204が所定位置まで嵌合したときに、外径方向に突出するなどの動作をするように構成すればよい。
【0036】
図6Aは、
図5Aの変形例を示す図である。
図6Aの例では、貫通孔220の周面に、当接部220aとして段差部222が設けられる。段差部222は、水平方向に延在する端面222aを有し、端面222aの下方の貫通孔220の径が、端面222aの上方の貫通孔220の径よりも大きい。ロッド203の外周面の径は、端面222aの下方の貫通孔220の径とほぼ等しい。これにより、所定嵌合状態では、ロッド203の上端面が段差部222の端面222aに当接し、ロッド203の最大嵌合位置を規定できる。
【0037】
図6Bは、
図5Aの別の変形例を示す図である。
図6Bの例では、ロッド203の上端角部がテーパ状に形成され、ロッド203はテーパ面203aを有する。テーパ面203aの下方のロッド203の外周面の径は、絶縁プレート22の貫通孔220の径よりも大きい一方、ロッド203の上端面203bの径は、貫通孔220の径よりも小さい。これにより、ロッド203のテーパ面203aが、絶縁プレート22の突出部221の内周面の角部(当接部220a)に当接し、所定嵌合状態におけるロッド203の最大嵌合位置を規定できる。
【0038】
本実施形態に係る燃料電池スタック100の組立方法について説明する。燃料電池スタック100を組み立てる場合には、まず、
図4に示すように、テーブル202の上面の所定位置にウェット側エンドプレート23(下側エンドプレート)を搭載して固定するとともに、ボルトを用いてケース30の下端部をエンドプレート23に固定する(搭載工程)。搭載工程が完了した段階では、エンドプレート23の貫通孔230の下方に組立装置200のロッド203が位置する。
【0039】
図示は省略するが、搭載工程ではさらに、絶縁プレート22の突出部221を貫通孔230に嵌合し、エンドプレート23の上面に絶縁プレート22を搭載する、次いで、絶縁プレート22の上面にターミナルプレート21を搭載する。さらに、ケース30の上端の開口からガイド部材50を挿入し、側壁300の内側の表面のガイド支持部35(
図2)に取り付ける。
【0040】
次に、組立装置200の駆動装置205(アクチュエータ)を駆動し、ロッド203を上方に移動する。これにより、ロッド203の上端部が絶縁プレート22の貫通孔220に嵌合し、所定嵌合状態となる。所定嵌合状態でロッド203が上方に移動すると、絶縁プレート22は、エンドプレート23から離間して持ち上げられ、ロッド203が最大に上昇した所定位置(位置B)にて保持される(保持工程)。なお、ロッド203の上方移動により絶縁プレート22を持ち上げるのではなく、ロッド203が最大上昇位置(位置B)まで上昇した後、ケース30の上端の開口を介して上方から絶縁プレート22を搭載するようにしてもよい。
【0041】
次に、ケース30の上端の開口を介して、ターミナルプレート21の上面に、電極アッセンブリ2とセパレータ3とを交互に積層し、セル積層体10を形成する(積層工程)。このとき、セパレータ3の端部の凸部11(係合部)がガイド部材50に係合しながら、電極アッセンブリ2とともにセパレータ3が積層される。これにより、ケース内における発電セル1の位置が規定され、精度よくセル積層体10を形成できる。
【0042】
積層工程は、ロボットを用いて実行される。すなわち、ロボットのハンドでセパレータ3を吸着してセパレータ3を所定位置に搬送した後、吸着を停止することで、セパレータ3を所定位置に積層する。この場合、絶縁プレート22が、ロッド203により持ち上げられて、エンドプレート23から離間して上方の所定位置(位置B)に位置することで、ロボットのハンドから絶縁プレート22までの距離が短くなる。このため、電極アッセンブリ2やセパレータ3、あるいはそれらを組み合わせてユニット化したものを積層する際の、自由落下の距離を短くすることができる。これにより、積層工程で電極アッセンブリ2やセパレータ3がケース30やガイド部材50と摺接して位置ずれすることを抑制することができる。
【0043】
積層工程で、一組の発電セル1(単位セル)が積層される度に、ロッド203は、駆動装置205の駆動により、その発電セル1の厚さ分だけ下降する(下降工程)。積層工程と下降工程とは交互に実行される。これにより、ケース30とロボットとが干渉することなく、複数の発電セル1を、ケース30に沿って位置決めしながらケース内に容易に積層することができる。発電セル1が所定枚数だけ積層されると、ロッド203は、絶縁プレート22がエンドプレート23の上面に載置される所定位置(位置A)まで下降され、これにより下降工程が終了する。なお、全ての発電セル1の積層が完了した後にロッド203を下方に移動するようにしてもよい。
【0044】
次いで、セル積層体10の上面に、ドライ側のエンドユニット20、すなわちターミナルプレート21、絶縁プレート22およびエンドプレート23を順次搭載する。この状態では、ドライ側エンドプレート23がケース30の上端面よりも上方に位置する。次いで、加圧機を用いてエンドプレート23の上方から加圧力を付与して、エンドプレート23がケース30の上端面に当接するまでエンドプレート23を下方に押し込む。そして、ボルトを用いてエンドプレート23をケース30の上端面に締結する(加圧工程)。以上で、燃料電池スタック100の組立が完了する。組立完了後は、テーブル202へのエンドプレート23の固定を解除し、燃料電池スタック100を所定位置に搬送する。
【0045】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池スタック100は、電解質膜と電極とを含む電極アッセンブリ2と、セパレータ3と、を交互に積層してなるセル積層体10と、セル積層体10を包囲するケース30と、セル積層体10の積層方向の端部に配置されたエンドユニット20と、を備える(
図1)。エンドユニット20は、ケース30の端部に固定されるエンドプレート23と、エンドプレート23とセル積層体10との間に配置される絶縁プレート22と、を有する(
図1)。エンドプレート23および絶縁プレート22には、エンドプレート23と絶縁プレート22とを積層方向と平行に貫通し、反応ガスと冷却媒体とをセル積層体10に供給およびセル積層体10から排出するための複数の貫通孔(連通孔)20a~20fがそれぞれ開口される(
図1)。絶縁プレート22の貫通孔220は、エンドプレート23の貫通孔230よりも小さい(
図3)。絶縁プレート22は、燃料電池スタック100の組立時に、テーブル202上に搭載されたエンドプレート23の貫通孔230を通過したロッド203により昇降可能に支持されるように、貫通孔220の周面にロッド203の先端部が当接される当接部220aを有する(
図5A,
図6A,
図6B)。
【0046】
この構成により、エンドプレート23をテーブル上に載置したまま、ロッド203の上下動により絶縁プレート22を昇降することができる。したがって、発電セル1が積層される位置を上方にずらすことができ、ケース30がエンドプレート23に固定された状態であっても、燃料電池スタック100の組立を容易に行うことができる。したがって、燃料電池スタック100を安価に構成することができる。
【0047】
ロッド203を介して絶縁プレート22を昇降する場合、参考例である
図7に示すように、エンドプレート23に、貫通孔230とは別に、ロッド203が貫通するための貫通孔231を穿設し、貫通孔231を通過したロッド203の上端部で絶縁プレート22の底面を支持することが考えられる。しかし、この場合には、燃料電池スタック100の組立完了後に、貫通孔231をシールするといった新たな工程が必要となり、部品点数が増加し、コストの増加を伴う。この点、本実施形態では、ロッド203が、エンドプレート23に予め設けられた複数の貫通孔230、すなわち反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の供給および排出するための貫通孔20a,20c,20d,20eを通過して、絶縁プレート22の複数の貫通孔220の周面に設けられた当接部220aに当接するので、エンドプレート23に、ロッド通過用の新たな貫通孔231を加工する必要がなく、コストを抑えることができる。また、絶縁プレート22の下端面にはシール部が設けられるが、当接部220aは、シール部とは異なる貫通孔220の周面に設けられるので、シール部を損傷することなく、燃料電池スタック100を組み立てることができる。
【0048】
(2)当接部220aは、絶縁プレート22の貫通孔220の周面に設けられた段差部222(段部)により構成される(
図6A)。これにより、ロッド203の上端部により絶縁プレート22を安定して支持できる。
【0049】
(3)絶縁プレート22は、エンドプレート23に向けて突設され、エンドプレート23の貫通孔230に嵌合するとともに、貫通孔220が設けられる突出部221を有する(
図3)。これにより、エンドプレート23に対する絶縁プレート22の位置を規定することができる。また、貫通孔220が上下方向に長尺になり、当接部220aを容易に設けることができる。
【0050】
(4)燃料電池スタック100は、ケース30の内側の表面に取り付けられ、積層方向に延在するガイド部材50をさらに備える(
図2)。セパレータ3は、ガイド部材50に係合する係合部として凸部11を有する(
図2)。これにより、ガイド部材50によって位置決めしながらセパレータ3を積層することができ、個々の発電セル1の位置を精度よく規定することができる。燃料電池スタック100の組立完了後は、セル積層体10をガイド部材50によって良好に支持することができる。
【0051】
(5)積層方向を上下方向として組み立てられる燃料電池スタック100の組立方法は、テーブル202の上面にウェット側エンドプレート23を搭載するとともに、ウェット側エンドプレート23にケース30の下端部を固定する搭載工程と、ウェット側エンドプレート23の上方に配置される絶縁プレート22を、テーブル202に対し上下方向に移動可能なロッド203を介してウェット側エンドプレート23の上方のセル積層位置で保持する保持工程と、ロッド203を介して保持された絶縁プレート22上に、電解質膜と電極とを含む電極アッセンブリ2と、セパレータ3と、を交互に積層し、セル積層体10を形成する積層工程と、ロッド203を下方に移動することにより絶縁プレート22を下降し、ウェット側エンドプレート23の上面に載置する下降工程と、ドライ側エンドプレート23を介してセル積層体10を上方から押圧し、ドライ側エンドプレート23をケース30の上端部に固定する加圧工程と、を含む(
図4)。ウェット側エンドプレート23および絶縁プレート22には、ウェット側エンドプレート23と絶縁プレート22とをそれぞれ上下方向に貫通し、反応ガスと冷却媒体とをセル積層体10に供給およびセル積層体10から排出するための複数の貫通孔20a~20f(220,230)がそれぞれ開口される(
図1)。絶縁プレート22の貫通孔220は、ウェット側エンドプレート23の貫通孔230よりも小さい(
図3)。保持工程では、ウェット側エンドプレート23の貫通孔230を通過したロッド203の上端部を絶縁プレート22の貫通孔220の周面に当接させて、絶縁プレート22をセル積層位置で保持する(
図4)。これにより、ケース30をエンドプレート23に固定した後に、電極アッセンブリ2とセパレータ3とを交互に積層するので、電極アッセンブリ2とセパレータ3とを、ケース30(より具体的にはケース30に取り付けられたガイド部材50)によって位置決めしながら積層することができ、セル積層体10を精度よく構成することができる。
【0052】
上記実施形態は、種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、組立装置200のロッド203を上下動可能に構成したが、ロッド部材を伸縮可能に設け、絶縁プレート22を上昇させるときに伸張し、下降させるときに縮退するようにしてもよい。上記実施形態では、絶縁プレート22に、ロッド203の上端部が当接する当接部220aを設けたが、ターミナルプレート21に設けてもよく、当接部が設けられる中間プレートは絶縁プレート22であるとは限らない。ロッド203の上端部が当接される当接部220aの構成は上述したものに限らない。例えば中間プレートの貫通孔(連通孔)に絞り部を設け、ロッド部材の上端部が絞り部に当接するようにしてもよい。この場合、絞り部が当接部になる。
【0053】
上記実施形態では、燃料電池スタック100の組立方法について説明したが、燃料電池スタック100の分解は組立と逆の手順で行えばよく、分解時にも同様に中間プレートの当接部を用いればよい。上記実施形態では、筐体としてのケース30の内側の表面に、セル積層体10の端部に設けられた凸部11に係合するガイド部材50を取り付けるようにしたが、ガイド部材および係合部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、テーブル202にロッド203が通過する貫通孔202aを設けたが、ロッド部材を上下方向に移動可能に保持するのであれば、組立台の構成はいかなるものでもよい。上記実施形態では、単一の電極アッセンブリ2と単一のセパレータ3とを接合して一組の単位セルを構成し、積層工程で一組の単位セルを積層するたびに、下降工程で一組の単位セルの厚さ分だけロッド203を介して中間プレートを下降するようにしたが、複数組の単位セルを積層するたびに、複数組の単位セルの厚さ分だけ中間プレートを下降するようにしてもよい。単一の電極アッセンブリ2と単一のセパレータ3とを接合したものを単位積層物とするのではなく、単一の電極アッセンブリ2や単一のセパレータ3を、単位積層物としてもよい。
【0054】
以上では、燃料電池スタック100を有する燃料電池を車両に搭載する例を説明したが、燃料電池スタックは、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することができる。
【0055】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0056】
3 セパレータ、10 セル積層体、11 凸部、20a~20f 貫通孔、22 絶縁プレート、23 エンドプレート、30 ケース、50 ガイド部材、100 燃料電池スタック、220 貫通孔、220a 当接部、222 段差部、230 貫通孔