(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145364
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】測定方法、測定装置、及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20241004BHJP
G01B 15/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01B7/06 R
G01B15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057685
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩入 章弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 伸一
(72)【発明者】
【氏名】ソン イ
【テーマコード(参考)】
2F063
2F067
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BB02
2F063BC09
2F063CA01
2F063DA01
2F063DA05
2F063DB01
2F063DC08
2F063DD03
2F067AA28
2F067BB01
2F067BB19
2F067CC08
2F067EE16
2F067GG01
2F067HH02
2F067JJ02
2F067KK06
2F067KK08
2F067NN02
(57)【要約】
【課題】非接触式の測定方法を提供する。
【解決手段】測定対象物の電気的特性に基づく性状値を測定する測定方法は、測定対象物に非接触で高周波の入力信号Sig1を照射し、測定対象物を透過又は反射した応答信号Sig2を受信するステップと、測定対象物に照射した入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の変化を表す応答値を取得するステップと、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号Sig1を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づいて測定対象物の応答値から測定対象物の性状値を算出するステップと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の電気的特性に基づく性状値を測定する測定方法であって、
前記測定対象物に高周波の入力信号を非接触で照射し、前記測定対象物を透過又は反射した応答信号を受信するステップと、
前記測定対象物に照射した前記入力信号に対する前記応答信号の変化を表す応答値を取得するステップと、
所定の前記性状値を有する測定基準物に前記入力信号を照射して得られる、前記性状値と前記応答値との対応関係に基づいて前記測定対象物の前記応答値から前記測定対象物の前記性状値を算出するステップと、を含む、
測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法であって、
前記性状値とは、前記入力信号の照射方向における前記測定対象物の厚さ、抵抗率、誘電率、及び密度の少なくともいずれかを含む、
測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の測定方法であって、
前記応答値とは、高周波信号の透過波若しくは反射波の強度損失又は位相差である、
測定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の測定方法であって、
前記性状値と前記応答値との前記対応関係は、所定の周波数帯において予め取得されており、
前記入力信号の周波数は、前記対応関係において前記性状値の変化に対する前記応答値の変化の度合いに基づいて設定される、
測定方法。
【請求項5】
測定対象物に高周波の入力信号を非接触で照射する照射部と、
前記測定対象物を透過又は反射した応答信号を受信する受信部と、
前記入力信号と前記応答信号とに基づいて前記測定対象物の電気的特性に基づく性状値を取得する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記測定対象物に照射した前記入力信号と前記応答信号との変化を表す応答値を取得し、
所定の前記性状値を有する測定基準物に前記入力信号を照射して得られる、前記性状値と前記応答値との対応関係に基づき、取得した前記測定対象物の前記応答値から前記測定対象物の前記性状値を取得する、
測定装置。
【請求項6】
測定対象物の電気的特性に基づく性状値を利用して前記測定対象物の良否を判定する検査方法であって、
前記測定対象物に高周波の入力信号を非接触で照射し、前記測定対象物を透過又は反射した応答信号を受信するステップと、
前記測定対象物に照射した前記入力信号と前記応答信号との差を表す応答値を取得するステップと、
所定の前記性状値を有する測定基準物に前記入力信号を照射して得られる、前記性状値と前記応答値との対応関係に基づいて設定される判定基準により、取得した前記測定対象物の前記応答値に基づいて前記測定対象物の良否を判定するステップと、を含む、
検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定方法、測定装置、及び検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、測定装置であって、測定対象に接触するプローブを有するプローブユニットと、測定対象に電気信号を印加して電位を測定する測定部と、測定部の測定結果に基づき測定対象の抵抗率を測定する処理部と、を備えるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される測定装置は、プローブを測定対象に接触させる接触式のものである。接触式の測定装置では、プロービングによって測定対象に打痕等が生じるおそれがあることから、柔らかい測定対象の測定には不向きである。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、非接触式の測定方法、測定装置、及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、測定対象物の電気的特性に基づく性状値を測定する測定方法は、測定対象物に高周波の入力信号を非接触で照射し、測定対象物を透過又は反射した応答信号を受信するステップと、測定対象物に照射した入力信号に対する応答信号の変化を表す応答値を取得するステップと、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づいて測定対象物の応答値から測定対象物の性状値を算出するステップと、を含む。
【0007】
また、本発明のある態様によれば、測定装置は、測定対象物に高周波の入力信号を非接触で照射する照射部と、測定対象物を透過又は反射した応答信号を受信する受信部と、入力信号と応答信号とに基づいて測定対象物の電気的特性に基づく性状値を取得する処理部と、を備え、処理部は、測定対象物に照射した入力信号に対する応答信号の変化を表す応答値を取得し、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づき、取得した測定対象物の応答値から測定対象物の性状値を取得する。
【0008】
また、本発明のある態様によれば、測定対象物の電気的特性に基づく性状値を利用して測定対象物の良否を判定する検査方法は、測定対象物に非接触で高周波の入力信号を照射し、測定対象物を透過又は反射した応答信号を受信するステップと、測定対象物に照射した入力信号に対する応答信号の変化を表す応答値を取得するステップと、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づいて設定される判定基準により、取得した測定対象物の応答値に基づいて測定対象物の良否を判定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様では、測定対象物の電気的特性に応じて応答信号が変化する高周波信号を利用することで、非接触で測定対象物の性状値の測定又は測定対象物の良否判定をすることができる。これにより、柔らかい測定対象物の性状値を容易に測定又は柔らかい測定対象物の良否を容易に検査することができると共に、接触式プロービングによる打痕等の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る測定装置及び検査装置を示す構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る測定装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る測定方法を説明するための図であり、(a)は測定基準物に入力信号を照射したときの抵抗率と応答値との関係を示すグラフ図、(b)は測定基準物に入力信号を照射したときの誘電率と応答値との関係を示すグラフ図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る測定方法及び検査方法を示すフローチャート図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る測定装置の変形例を示す構成図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の測定装置及び検査装置を示す構成図であり、(a)は幅方向から見た側面図、(b)は(a)のVB-VB線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る測定装置100について説明する。なお、各図面においては、説明の便宜上、各構成の縮尺を適宜変更しており、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0012】
まず、
図1及び
図2を参照して、第1実施形態に係る測定装置100の全体構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る測定装置100及び検査装置101を示す構成図であり、
図2は、第1実施形態に係る測定装置100を示すブロック図である。
【0013】
以下では、測定及び検査の測定対象物が、リチウムイオン電池の電極として使用される電極シートTである場合を例に説明する。電極シートTは、アルミニウムや銅といった金属製の集電体T1に対して活物質、導電助剤等が混合された電解液を塗工して電解液層を積層させることで形成される。以下、集電体T1に塗工された電解液によって形成される電解液層を、「合材層T2」と称する。
【0014】
測定装置100は、電極シートTの電気的特性に基づく性状値を測定し、性状値に基づいて電極シートTの良否判定を行うものである。つまり、測定装置100は、電極シートTの良否判定を行って検査する検査装置101としても機能する。第1実施形態では、電極シートTの合材層T2の性状値を測定し、合材層T2の電気的特性に基づいて電極シートTの良否判定を行う。第1実施形態では、電気的特性(より具体的には複素インピーダンス)の違いがあらわれる性状値として、合材層T2の厚さ、抵抗率(又は導電率)、誘電率、及び密度の四種類が測定される。なお、第1実施形態は、厚さ、抵抗率、誘電率、及び密度のすべてが測定されるものに限定されず、少なくともいずれかが測定されればよい。また、性状値としては、これらに限定されず、測定対象物の電気的特性によって違いが生じる測定対象物の物性や形状等を表す値であってもよい。
【0015】
図1に示すように、測定装置100は、架台1上に設けられ電極シートTが載置されるテーブル5と、電極シートTに対して垂直方向に所定の距離だけ離間して設けられる端子ユニット10と、高周波信号を伝送する伝送部としての同軸ケーブル20と、電極シートTの性状値を取得するための処理部30と、を備える。
【0016】
電極シートTは、矩形のシート状に形成されテーブル5に載置される。第1実施形態では、
図1中上下方向が鉛直方向に相当し、電極シートTは水平方向(
図1中左右方向及び紙面垂直方向の直交2方向)に延びるようにテーブル5上に載置される。テーブル5は、図示しない移動機構によって架台1上を架台1に対して水平方向に移動することができる。これにより、テーブル5上に載置される電極シートTの全体にわたって性状値の測定を行うことができる。
【0017】
図1及び
図2に示すように、端子ユニット10は、同軸ケーブル20を通じて伝送される高周波の入力信号Sig1を電極シートTに向けて照射する照射部11と、電極シートTに照射された入力信号Sig1が反射した応答信号Sig2を受信する受信部12と、を有する。例えば、照射部11はアンテナであり、受信部12はセンサである。端子ユニット10は、照射部11と受信部12とがユニット化されて構成されたものである。照射部11は、電極シートTに対して垂直に(鉛直方向に沿って)入力信号Sig1を照射する。第1実施形態では、入力信号Sig1は、例えば、10^8[Hz]~10^11[Hz](100MHz~100GHz)といった高周波の電磁波である。
【0018】
図1に示すように、電極シートTは、合材層T2が端子ユニット10と対向するように、言い換えると、集電体T1と端子ユニット10との間に合材層T2が配置されるようにして、テーブル5に載置される。合材層T2は、高周波信号を透過させる一方、金属製である集電体T1は高周波信号を透過させない。よって、端子ユニット10から電極シートTに向けて照射された入力信号Sig1は、一部が合材層T2の表面で反射し、一部は合材層T2を透過して合材層T2と集電体T1との界面において集電体T1により反射される。このようにして反射した高周波信号が、応答信号Sig2として端子ユニット10により受信される。
【0019】
同軸ケーブル20は、端子ユニット10と処理部30とを電気的に接続する。同軸ケーブル20は、処理部30から出力される高周波の入力信号Sig1を端子ユニット10に伝送すると共に、端子ユニット10が受信した高周波の応答信号Sig2を処理部30に伝送する。同軸ケーブル20は、公知の構成を採用できるため、詳細な説明及び図示は省略する。例えば、同軸ケーブル20は、シグナル伝送路としての中心導体と、中心導体の周囲に設けられる絶縁層である絶縁体と、絶縁体の周囲に設けられるグランド伝送路としての外部導体と、が同心円上に配置される構成を有し、コネクタを介して端子ユニット10に接続される。
【0020】
処理部30は、端子ユニット10の照射部11に向けて高周波の入力信号Sig1を出力すると共に、端子ユニット10の受信部12が受信した応答信号Sig2を受信する。応答信号Sig2は、合材層T2を透過し、合材層T2と集電体T1との界面で反射される。よって、処理部30は、入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の変化(差分)を示す応答値を用いることで、合材層T2の性状値を算出することができる。また、処理部30は、合材層T2の性状値によって、電極シートTの良否判定を行う。応答値とは、高周波信号の透過(または伝送)と反射における回路特性を表すいわゆるSパラメータとして表現でき、第1実施形態では、高周波信号の強度(振幅)の反射損失(S11)のことである。
【0021】
処理部30は、高周波の電気信号を入出力し、電気信号に対して信号処理を行って高周波特性を解析する解析部31と、解析部31から取得したデータに基づいて合材層T2の性状値の測定及び良否判定を行う制御部32と、を有する。第1実施形態では、処理部30は、CPU等の演算装置、記憶装置、高周波測定回路、信号入出力ポート、表示部等を有するベクトルネットワークアナライザである。また、制御部32は、CPU等の演算処理装置、記憶装置、表示装置、入力装置及びネットワーク接続装置等を備えるコンピュータである。解析部31と制御部32とは、互いに電気的に接続される。処理部30及び制御部32は、記憶装置に予め記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、本明細書に記載の各種処理を実行する。
【0022】
制御部32には、入力信号Sig1の周波数帯における性状値と応答値との対応関係(相関関係)が周波数ごとに予め記憶される。また、制御部32には、予め設定される入力信号Sig1の周波数、それぞれの性状値に関して良否判定する基準となる判定閾値など、第1実施形態の測定方法及び検査方法を実行するために必要な情報が記憶される。判定閾値は、良品とされる合材層T2の性状値の数値範囲を表すものである。
【0023】
次に、第1実施形態に係る測定方法及び検査方法について説明する。
【0024】
第1実施形態に係る測定方法では、物体が有する性状値と当該物体に入力信号Sig1を照射した際の応答値との対応関係を予め取得(把握)しておき、当該対応関係を利用して合材層T2の性状値を測定する。性状値と応答値との対応関係は、入力信号Sig1に対応する周波数帯のそれぞれにおいて予め制御部32に記憶される。
【0025】
以下、
図3を参照して性状値と応答値との対応関係の取得方法を説明する。
図3(a)は、ある周波数における性状値としての抵抗率と応答値との関係を示すグラフ図である。
図3(b)は、ある周波数における性状値としての誘電率と応答値との関係を示すグラフ図である。
【0026】
性状値と応答値との対応関係を取得するには、まず、性状値が予め把握される複数の測定基準物に対して入力信号Sig1の周波数帯に対応させて周波数掃引し、得られた応答信号Sig2から応答値を算出する。
【0027】
次に、
図3に示すように、算出した応答値と性状値とを周波数ごとにグラフ上にプロットする。そして、グラフ上のプロットを回帰分析して、性状値と応答値との対応関係を表す関係式(回帰式)を取得する。第1実施形態では、性状値と応答値とは、一次相関の関係であるとみなして、線形回帰によって関係式が取得される。性状値のうち合材層T2の厚さ、抵抗率、及び密度は、性状値の増加に伴い応答値S11が増加する、右肩上がりの傾向を示す(
図3(a)参照)。性状値のうち誘電率は、性状値の増加に伴い応答値S11が減少する、右肩下がりの傾向を示す(
図3(b)参照)。このような関係式が、各周波数において性状値の種類毎に取得され、制御部32に記憶される。なお、性状値と応答値との関係は、一次相関に限定されず、つまり、線形回帰に限定されず、非線形回帰によって取得されてもよい。
【0028】
また、第1実施形態では、性状値と応答値との対応関係に基づいて、入力信号Sig1の周波数が設定される。性状値である合材層T2の厚さ、抵抗率、誘電率、及び密度は、それぞれ性状値の変化に対する応答値の変化の度合い(性状値の変化に対する応答値の感度)が、周波数によって異なる。合材層T2の性状値は、応答値の感度が大きいほど精度よく測定することができる。よって、それぞれの性状値ごとに応答値の感度が高くなる周波数が入力信号Sig1の周波数として設定される。より具体的には、入力信号Sig1の周波数は、関係式の感度を表す傾きと回帰式の決定係数(R2乗値)とによって設定される。このため、第1実施形態では、性状値の種類に対応してそれぞれ三種類の入力信号Sig1の周波数が設定される。
【0029】
以上のようにして、当該周波数における性状値と応答信号Sig2との対応関係(関係式)が取得されると共に、性状値の種類に応じた入力信号Sig1の周波数が設定される。
【0030】
次に、
図4を参照して、第1実施形態に係る測定方法及び検査方法の具体的構成について説明する。
図4は、第1実施形態に係る測定方法及び検査方法を示すフローチャート図である。
【0031】
第1実施形態に係る測定方法は、電極シートTに非接触で高周波の入力信号Sig1を照射し、電極シートTを反射した応答信号Sig2を受信するステップと、電極シートTに照射した入力信号Sig1と応答信号Sig2との変化を表す応答値を取得するステップと、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号Sig1を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づいて電極シートTの応答値から電極シートTの性状値を算出するステップと、を含む。
【0032】
また、第1実施形態に係る検査方法は、上述の測定方法に加えて、所定の判定基準により、電極シートTの応答値に基づいて測定対象物の良否を判定するステップをさらに含む。
【0033】
例えば、電極シートTが初期位置にあるテーブル5に載置された状態で、作業者の操作によって指令信号が処理部30に入力されると、処理部30は、
図4に示す処理を実行する。ステップS10からステップS12は、解析部31によって実行される処理であり、ステップS13からステップS16は制御部32によって実行される処理である。
【0034】
まず、ステップS10では、予め設定された周波数の入力信号Sig1が端子ユニット10の照射部11を通じて電極シートTに照射され、電極シートTで反射した応答信号Sig2が端子ユニット10の受信部12を通じて受信される。上述のように、第1実施形態では、性状値として、電極シートTの厚さ、抵抗率、及び密度の3つを測定する。このため、ステップS10では、三種類の性状値に対応して三つの入力信号Sig1が電極シートTに照射され、それぞれに対応する応答信号Sig2が受信される。
【0035】
次に、ステップS11では、照射した入力信号Sig1とこれに対応する応答信号Sig2とから応答値を算出する。応答値は、入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の強度(振幅)の損失[dB]として表される。応答値の算出方法は、公知の方法であるため、詳細な説明は省略する。
【0036】
次に、ステップS12では、入力信号Sig1の周波数において予め記憶されている性状値と応答値との対応関係(関係式)から、ステップS11で算出した応答値に対応する性状値を算出する。
【0037】
このようにして、高周波の入力信号Sig1と応答信号Sig2とから、電極シートTの合材層T2各性状値を電極シートTには非接触で取得することができる。
【0038】
そして、ステップS13では、良否判定の判定条件を満たすか、具体的には、ステップS12で測定した性状値と良否判定の基準となる判定閾値とを比較して電極シートTの良否を判定する。
【0039】
各性状値がそれぞれの判定閾値の数値範囲内であれば、ステップS14において電極シートTは良品であると判定されて処理を終了する。各性状値の少なくともいずれか一つが、それぞれの判定閾値の数値範囲外であると、ステップS15において電極シートTは不良品であると判定され、ステップS16でエラー信号を出力して処理が終了する。エラー信号が出力されると、例えば、制御部32の表示装置にエラー情報が表示される。
【0040】
このようにして、電極シートTの良否を判定することができる。
【0041】
図4に示す処理が一度完了すると、テーブル5が次の測定位置まで移動され、電極シートTにおいて端子ユニット10から入力信号Sig1が照射される部位が変更される。そして、新たな照射位置において再び
図4に示す処理が実行される。このように、テーブル5を断続的に移動させ電極シートTにおける入力信号Sig1の照射位置を変更しながら、
図4に示す処理を繰り返し実行する。これにより、電極シートTの全域にわたって性状値の測定及び検査が行われる。
【0042】
なお、第1実施形態の測定方法及び検査方法は、このようにテーブル5を断続的に移動させつつ電極シートTが静止した状態で性状値の測定及び検査を行う構成に限定されない。例えば、電極シートTを走査するように、テーブル5を連続して移動させて性状値の測定及び検査を行ってもよい。この場合、
図4に示す処理は、所定の実行間隔により実行するようにすればよい。また、第1実施形態の測定方法及び検査方法は、電極シートTに対して性状値の測定と検査を断続的又は連続的に繰り返し実行するものに限定されず、一度だけ実行するものであってもよい。
【0043】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0044】
第1実施形態によれば、高周波の入力信号Sig1を電極シートTに照射して得られる応答値を利用することで、電極シートTに対して非接触で性状値の測定及び検査を行うことができる。したがって、電極シートTが柔らかい場合であっても性状値の測定及び検査を容易に行うことができると共に、電極シートTへの打痕等の発生を防止することができる。
【0045】
次に、第1実施形態の変形例について説明する。次のような変形例も本発明の範囲内である。また、変形例に示す構成と上記の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、変形例に示す構成と他の実施形態と組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0046】
第1実施形態では、測定対象物は、入力信号Sig1を反射する金属製の集電体T1を有する電極シートTである。このため、測定装置100は、電極シートTから反射された応答信号Sig2に基づいて性状値を測定し、検査として良否判定が行われる。これに対し、測定対象物が、集電体T1等のような入力信号Sig1を反射する部材を含んでおらず入力信号Sig1を透過するものである場合には、測定装置100は、測定対象物を透過した応答信号Sig2に基づいて性状値を測定し、検査として良否判定を行ってもよい。
【0047】
この場合には、例えば、
図5に示すように、測定対象物である電極シートT′の垂直方向に所定の距離だけ離間し、互いに電極シートT′を挟むようにして照射部11及び受信部12が設けられる。そして、照射部11から照射された入力信号Sig1が電極シートT′を透過した透過波を応答信号Sig2とし、応答信号Sig2に生じる損失(透過特性S21)を応答値とする。このようにして取得した透過波の応答値によっても、第1実施形態と同様に、性状値を測定し、良否判定することができる。
【0048】
なお、測定対象物が高周波信号を透過する場合であっても、特性インピーダンスの不整合によって高周波信号の一部は測定対象物で反射される。よって、高周波信号を透過する測定対象物であっても、測定対象物で反射した反射波を受信部12で受信して応答信号Sig2とし、性状値の検出及び検査を行ってもよい。また、測定対象物が高周波信号を透過する場合には、反射波を取得する受信部と、透過波を取得する受信部と、をそれぞれ設けてもよい。この場合には、反射波及び透過波をそれぞれ応答信号Sig2とし、それぞれに基づいて性状値の測定と良否判定を行って、測定及び検査精度を向上させることも可能である。
【0049】
また、第1実施形態では、合材層T2の性状値を測定し、性状値が判定閾値の数値範囲内に含まれるか否かによって良否判定される。これに対し、検査方法としては、合材層T2の性状値を測定せず、合材層T2に入力信号Sig1を照射した応答値によって良否判定を行ってもよい。
【0050】
具体的に説明すると、第1実施形態と同様に、所定の周波数帯のそれぞれにおいて測定基準物を用いて性状値と応答値との対応関係が取得されると、当該対応関係を利用して、良品とされる合材層T2の性状値の数値範囲に対応する応答値の数値範囲を算出する。そして、このような応答値の数値範囲が、判定閾値に設定される。この場合、電極シートTに入力信号Sig1を照射して得られる応答値から性状値を算出しなくても、取得した応答値そのものと判定閾値とを比較することで、良否判定を行うことができる。つまり、応答値に対して判定閾値を設定することで、
図4におけるステップS12を省略して、電極シートTの良否判定を行うことができる。このような方法によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0051】
また、第1実施形態では、応答値は、入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の強度損失である。これに対し、応答値は、入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の変化(損失)として、位相差によって表されるものでもよい。応答値が位相差とされる場合であっても、第1実施形態と同様の方法により、性状値の測定及び検査を行うことができる。
【0052】
また、第1実施形態では、入力信号Sig1として照射される高周波信号の周波数は、性状値と応答値との対応関係に基づいて予め設定される。これに対し、入力信号Sig1の照射は、予め一つの周波数を定めて高周波信号を照射するのではなく、所定の周波数帯において周波数掃引することで行われてもよい。この場合には、例えば、照射した周波数帯の各周波数において得られた応答値から最も損失が大きい応答値における周波数を特定し、当該周波数において性状値の取得及び良否判定を行ってもよい。また、周波数掃引した各周波数においてそれぞれ性状値の取得及び良否判定を行い、これらの結果を互いに比較して適切な正常値及び良否判定結果を得るようにしてもよい。
【0053】
また、第1実施形態に係る検査方法は、測定対象物に含まれる異物を検知する異物検知に用いられてもよい。具体的には、電極シートTでは想定されない範囲の性状値又は応答値を異物判定閾値として設定し、性状値又は応答値と当該異物判定閾値とを比較することで、異物検知をすることができる。異物検知は、本明細書に記載の性状値の測定方法及び検査方法に加えて実行されてもよいし、異物検知のみで単独で実行されてもよい。
【0054】
また、第1実施形態では、照射部11と受信部12とがユニット化されて端子ユニット10が構成される。これに対し、照射部11と受信部12とは、ユニット化されず別々に設けられてもよい。
【0055】
(第2実施形態)
次に、
図6を参照して、第2実施形態に係る測定装置200及び検査装置201について説明する。
図6は、第2実施形態の測定装置200及び検査装置201を示す構成図である。以下では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、上記第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0056】
上記第1実施形態では、測定及び検査の測定対象物である電極シートTは、矩形に形成されるものであり、テーブル5上に載置されてテーブル5を断続的又は連続的に移動させることで全域において性状値の測定と検査が行われる。
【0057】
これに対し、第2実施形態では、測定対象物であるシート材T3は、上記第1実施形態の電極シートTがシート状(帯状)に形成されてロール間を移動するものであり、測定装置200は、シート材T3が移動した状態で性状値の測定と検査とを行う。
【0058】
具体的には、
図6に示すように、検査装置201は、測定装置200と、シート材T3を複数のロール141によって搬送する搬送機構140と、を備える。
【0059】
測定装置200では、
図6(b)の左右方向であるシート材T3の幅方向(搬送方向及びシート材T3の垂直方向のそれぞれに垂直な方向)に並ぶ複数の端子ユニット10を有する。これにより、シート材T3の幅方向の略全域にわたって性状値を測定でき、シート材T3の検査精度を向上させることができる。
【0060】
測定装置200では、端子ユニット10の照射部11(
図2参照)から照射された入力信号Sig1がシート材T3を反射した反射波が応答信号Sig2とされ、応答信号Sig2に生じる損失(反射特性S11)が応答値とされる。処理部30は、
図4に示す上記第1実施形態と同様の処理を所定の実行間隔により実行することで、所定の速度でロール141間を搬送されるシート材T3の性状値の測定と検査とを連続的に行う。
【0061】
測定装置200は、高周波信号を利用するため入力信号Sig1の照射から応答信号Sig2の受信までの時間が短く、非接触で性状値を測定することができるため、シート材T3が移動している状態であっても性状値の測定及び検査を行うことができる。このように、測定装置200は、シート材T3が搬送される過程で測定及び検査を行うロールツーロール方式に適用される。
【0062】
なお、シート材T3が高周波信号を透過する場合には、上記第1実施形態の変形例のように、シート材T3を透過する透過波を受信する受信部12を設け透過波を応答信号Sig2として性状値の検出及び検査を行ってもよい。この場合には、照射部11とこれに対応してシート材T3を挟んで設けられる受信部12との組をシート材T3の幅方向に間隔をあけて複数設けることが望ましい。また、第1実施形態の変形例と同様に、照射部11に対応する受信部12を複数設けて反射波及び透過波をそれぞれ応答信号Sig2とし、それぞれに基づいて性状値の測定と良否判定を行って、測定及び検査精度を向上させてもよい。
【0063】
以下、各実施形態の構成及び作用効果についてまとめて説明する。
【0064】
第1及び第2実施形態に係る測定方法は、測定対象物(電極シートT,T′、シート材T3)に非接触で高周波の入力信号Sig1を照射し、測定対象物を透過又は反射した応答信号Sig2を受信するステップと、測定対象物に照射した入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の変化を表す応答値を取得するステップと、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号Sig1を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づいて測定対象物の応答値から測定対象物の性状値を算出するステップと、を含む。
【0065】
また、第1及び第2実施形態に係る検査方法は、測定対象物(電極シートT,T′、シート材T3)に非接触で高周波の入力信号Sig1を照射し、測定対象物を透過又は反射した応答信号Sig2を受信するステップと、測定対象物に照射した入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の変化を表す応答値を取得するステップと、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号Sig1を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づいて設定される判定基準により、取得した測定対象物の応答値に基づいて測定対象物の良否を判定するステップと、を含む。
【0066】
また、第1実施形態に係る測定装置100及び第2実施形態に係る測定装置200は、測定対象物(電極シートT,T′、シート材T3)に非接触で高周波の入力信号Sig1を照射する照射部11と、測定対象物を透過又は反射した応答信号Sig2を受信する受信部12と、入力信号Sig1と応答信号Sig2とに基づいて測定対象物の電気的特性に基づく性状値を取得する処理部30と、を備え、処理部30は、測定対象物に照射した入力信号Sig1に対する応答信号Sig2の変化を表す応答値を取得し、所定の性状値を有する測定基準物に入力信号Sig1を照射して得られる、性状値と応答値との対応関係に基づき、取得した測定対象物の応答値から測定対象物の性状値を取得する。
【0067】
これらの構成では、測定対象物の電気的特性に応じて応答信号Sig2が変化する高周波信号を利用することで、非接触で測定対象物の性状値の測定又は測定対象物の良否判定をすることができる。これにより、柔らかい測定対象物の性状値を容易に測定又は柔らかい測定対象物を容易に検査することができると共に、プロービングによる打痕等の発生を防止できる。
【0068】
また、上記各実施形態では、性状値とは、入力信号Sig1の照射方向における厚さ、抵抗率、誘電率、及び密度の少なくともいずれかを含む。
【0069】
この構成では、性状値と応答値との相関性が高いため、性状値を精度よく取得することができる。
【0070】
また、上記各実施形態では、応答値とは、高周波信号の強度損失又は位相差である。
【0071】
この構成によれば、非接触で測定対象物の性状値を取得することができる。
【0072】
また、上記各実施形態では、性状値と応答値との対応関係は、所定の周波数帯において予め取得されており、入力信号Sig1の周波数は、対応関係において性状値の変化に対する応答値の変化の度合いに基づいて設定される。
【0073】
この構成によれば、性状値の変化に対する応答値の変化が大きい周波数帯を入力信号Sig1の周波数として設定できるため、性状値の精度を高めることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0075】
100,200 測定装置
101,201 検査装置
11 照射部
12 受信部
30 処理部
T,T‘,T3 測定対象物
Sig1 入力信号
Sig2 応答信号