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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145397
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057722
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石井 康裕
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246CA03
3D246DA01
3D246EA17
3D246FA04
3D246GA04
3D246GA08
3D246GB04
3D246GB12
3D246GC14
3D246HA02A
3D246HA64A
3D246HA94A
3D246HC03
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB11
3D246JB30
3D246JB35
(57)【要約】
【課題】車両制動の途中で車両の姿勢の変化態様が大きく変わることを抑制しつつ、前輪制動力と後輪制動力との配分を変更できる制動制御装置を提供すること。
【解決手段】制動制御装置50は、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値の変化の勾配の減少を小さくする第1配分変更処理と、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値の変化の勾配の増大を小さくする第2配分変更処理と、のうち少なくとも一方の処理を実行する指示値設定部M13と、前輪制動力指示値に基づいて前輪制動力を制御し、後輪制動力指示値に基づいて後輪制動力を制御する制御部M15として機能する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に発生させる制動力の目標である目標車両制動力を、前記車両の前輪で発生させる制動力の指示値である前輪制動力指示値と前記車両の後輪で発生させる制動力の指示値である後輪制動力指示値との和で満足させるように、前記前輪制動力指示値及び前記後輪制動力指示値を設定し、前記前輪制動力指示値に基づいて前記前輪で発生する制動力を制御し、前記後輪制動力指示値に基づいて前記後輪で発生する制動力を制御する制動制御装置において、
前記車両の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、前記後輪制動力指示値の変化の勾配の減少を小さくする第1配分変更処理と、前記車両の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測されるほど、前記後輪制動力指示値の変化の勾配の増大を小さくする第2配分変更処理と、のうち少なくとも一方の処理を実行する指示値設定部を備える
ことを特徴とする制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪で発生する制動力を制御する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の前輪で発生する制動力である前輪制動力と車両の後輪で発生する制動力である後輪制動力とを個別に制御できる制動制御装置を開示している。車輪で発生する制動力が所定の制動力範囲に含まれる場合、当該車輪でブレーキ鳴きが発生するおそれがある。そこで、当該制動制御装置は、制動初期では、前輪制動力及び後輪制動力のうちの一方の制動力である第1制動力のみを増大させる第1制御を実行する。制動制御装置は、第1制動力を上記所定の制動力範囲の上限よりも大きくした以降では、第1制動力を保持した上で、前輪制動力及び後輪制動力のうちの第1制動力とは別の第2制動力を増大させる第2制御を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-157431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前輪制動力が発生すると、アンチダイブ力が車両前部に作用する。一方、後輪制動力が発生すると、アンチリフト力が車両後部に作用する。アンチダイブ力及びアンチリフト力は、車両がノーズダイブ状態になることを抑制する力として車両にそれぞれ作用する。しかし、一般的な乗用車は、アンチリフト力のほうがアンチダイブ力よりも大きくなるように構成されている。そのため、車両制動の途中で車両の制動制御が第1制御から第2制御に切り替わると、当該車両制動の途中で車両の姿勢の変化態様が大きく変わるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両に発生させる制動力の目標である目標車両制動力を、前記車両の前輪で発生させる制動力の指示値である前輪制動力指示値と前記車両の後輪で発生させる制動力の指示値である後輪制動力指示値との和で満足させるように、前記前輪制動力指示値及び前記後輪制動力指示値を設定し、前記前輪制動力指示値に基づいて前記前輪で発生する制動力を制御し、前記後輪制動力指示値に基づいて前記後輪で発生する制動力を制御する装置である。当該制動制御装置は、前記車両の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、前記後輪制動力指示値の変化の勾配の減少を小さくする第1配分変更処理と、前記車両の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測されるほど、前記後輪制動力指示値の変化の勾配の増大を小さくする第2配分変更処理と、のうち少なくとも一方の処理を実行する指示値設定部を備える。
【発明の効果】
【0006】
上記制動制御装置は、車両制動の途中で車両の姿勢の変化態様が大きく変わることを抑制しつつ、前輪制動力と後輪制動力との配分を変更できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態の制動制御装置を備える車両の概略を示す構成図である。
図2図2は、車両制動時における車両の姿勢の変化を示す模式図である。
図3図3は、第1実施形態の制動制御装置が備える処理回路が実行する一連の処理を示すフローチャートである。
図4図4は、第1実施形態の制動制御装置が備える処理回路が実行する一連の処理を示すフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態の制動制御装置において、車両制動時における前輪制動力及び後輪制動力の推移を示すタイミングチャートである。
図6図6は、第2実施形態の制動制御装置において、車両制動時における前輪制動力及び後輪制動力の推移を示すタイミングチャートである。
図7図7は、第3実施形態の制動制御装置が備える処理回路が実行する一連の処理を示すフローチャートである。
図8図8は、第3実施形態の制動制御装置において、車両制動時における前輪制動力及び後輪制動力の推移を示すタイミングチャートである。
図9図9は、変更例の制動制御装置において、車両制動時における前輪制動力及び後輪制動力の推移を示すタイミングチャートである。
図10図10は、変更例の制動制御装置において、車両制動時における前輪制動力指示値及び後輪制動力指示値の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、制動制御装置の第1実施形態を図1から図5に従って説明する。
図1は、制動制御装置50を備える車両10を図示している。車両10は、制動操作部材11と、複数の車輪と、複数の摩擦ブレーキ20と、制動装置30とを備えている。制動操作部材11としては、例えば、ブレーキペダル及びブレーキレバーを挙げることができる。複数の車輪は2つの前輪12と2つの後輪13とを含んでいる。
【0009】
<摩擦ブレーキ>
複数の摩擦ブレーキ20は、対応する車輪で摩擦制動力を発生させる。摩擦ブレーキ20は、ホイールシリンダ21と回転体22と摩擦部23とを有している。回転体22は車輪と一体に回転するため、摩擦部23を回転体22に押し付けることにより、車輪で摩擦制動力が発生する。回転体22に摩擦部23を押し付ける力は、ホイールシリンダ21内の液圧であるホイール液圧が高いほど大きくなる。そのため、摩擦ブレーキ20は、ホイール液圧が高いほど大きい摩擦制動力を車輪で発生させることができる。
【0010】
なお、前輪12で発生する制動力を「前輪制動力」という。後輪13で発生する制動力を「後輪制動力」という。車両10は、前輪12として左前輪及び右前輪を備えるとともに、後輪13として左後輪及び右後輪を備えている。そこで、左前輪で発生する前輪制動力と右前輪で発生する前輪制動力との和を、「前輪制動力BPF」という。左後輪で発生する後輪制動力と右後輪で発生する後輪制動力との和を、「後輪制動力BPR」という。また、全ての車輪で発生する制動力の和、すなわち前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの和を、「車両制動力」という。
【0011】
<制動装置>
制動装置30は、複数のホイールシリンダ21のホイール液圧を制御することによって、車輪12,13で摩擦制動力を発生させる。例えば、制動装置30は、複数のホイールシリンダ21にブレーキ液を供給する加圧源を有している。加圧源は、例えば、電動ポンプ及び電動シリンダである。制動装置30は、前輪12用のホイールシリンダ21のホイール液圧と後輪13用のホイールシリンダ21のホイール液圧とを個別に調整できる。以降の記載において、前輪12用のホイールシリンダ21のホイール液圧を「前輪ホイール液圧」という。後輪13用のホイールシリンダ21のホイール液圧を「後輪ホイール液圧」という。
【0012】
<車両制動時における車両の姿勢変化>
図2を参照し、車両制動時における車両10の姿勢変化について説明する。図2では、前輪側のばね上荷重SWf及び後輪側のばね上荷重SWrが白抜きの矢印で表されている。ばね上荷重とは、車両重量及びピッチングモーメントPMによって車体14からサスペンションに入力される垂直方向の荷重のことである。
【0013】
制動力の発生によって車両10が減速すると、図2に実線の矢印で示すようなピッチングモーメントPMが車両10に発生するため、ノーズダイブ側に車両10がピッチング運動する。ノーズダイブとは、車両10の前部を下方に変位させるとともに車両10の後部を上方に変位させる車両10の挙動である。一方、車両10の前部を上方に変位させるとともに車両10の後部を下方に変位させる車両10の挙動を「ノーズリフト」という。図2の矢印Y1に示すようにノーズダイブ側に車両10の姿勢が変化すると、車両10のピッチ角APが大きくなる。例えば車両10の減速度が大きいほど、車両制動時のピッチングモーメントPMが大きくなる。また例えば、車両重量が大きいほど、車両制動時のピッチングモーメントPMが大きくなる。また、車両10の減速度及び車両重量は同じであっても、車両10のホイールベース長が異なると、ピッチングモーメントPMの大きさが変わる。そして、ピッチングモーメントPMが大きいほど、ピッチ角APが大きくなったり、ピッチ角APの増大速度が大きくなったりする。その一方で、図2の矢印Y2に示すようにノーズリフト側に車両10の姿勢が変化すると、ピッチ角APが小さくなる。
【0014】
車両制動時には、図2に黒塗りの矢印で示すように、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとが車両10で発生する。アンチダイブ力FADは、前輪制動力BPFが発生しているときに車両前部を上方に変位させる力である。前輪制動力BPFが大きいほどアンチダイブ力FADは大きくなる。アンチリフト力FALは、後輪制動力BPRが発生しているときに車両後部を下方に変位させる力である。後輪制動力BPRが大きいほどアンチリフト力FALは大きくなる。
【0015】
アンチダイブ力FAD及びアンチリフト力FALは、ピッチ角APが大きくなることを抑制する力である。そのため、アンチリフト力FALとアンチリフト力FALとの和である抑制力が大きいほど、車両制動時にピッチ角APが大きくなることを抑制できたり、車両制動時におけるピッチ角APの増大速度が小さくなったりする。また車種によっては、大きな抑制力を発生させることにより、車両10の姿勢がノーズリフト側に変化することもある。
【0016】
ところで、車両10は、アンチリフト力FALがアンチダイブ力FADよりも大きくなるように設計されている。すなわち、車両制動力が同じであっても、車両制動力のうち後輪制動力BPRの占める割合が大きいほど、車両制動時にピッチ角APが大きくなりにくい。
【0017】
<検出系>
図1に示すように、制動制御装置50には検出系から検出信号が入力される。検出系は複数のセンサを有している。複数のセンサは、ブレーキセンサ101と、前後加速度センサ102と、複数の車輪速センサ103とを含んでいる。ブレーキセンサ101は、運転者による制動操作部材11の操作に関連する情報を検出する。ブレーキセンサ101としては、例えば、運転者の制動操作部材11の操作量を検出するセンサ、及び、運転者の制動操作部材11の操作力を検出するセンサを挙げることができる。前後加速度センサ102は、車両10の前後加速度を検出する。車輪速センサ103は、複数の車輪の各々に対して設けられている。車輪速センサ103は、対応する車輪の回転速度を検出する。なお、前後加速度センサ102の検出信号に基づいた前後加速度を「前後加速度Gx」という。車輪速センサ103の検出信号に基づいた車輪の回転速度を「車輪速度VW」という。
【0018】
<制動制御装置>
図1に示すように、制動制御装置50は制動装置30を制御する。制動制御装置50は処理回路51を備えている。例えば、処理回路51は電子制御装置である。この場合、処理回路51はCPU52及びメモリ53を有している。メモリ53は、CPU52によって実行される制御プログラムを記憶している。CPU52が当該制御プログラムを実行することにより、処理回路51は、制動装置30を制御して複数の摩擦ブレーキ20を作動させる。つまり、処理回路51は、前輪制動力BPF及び後輪制動力BPRを制御する。
【0019】
<機能部>
処理回路51は、メモリ53の制御プログラムをCPU52が実行することにより、目標設定部M11、指示値設定部M13及び制御部M15として機能する。
【0020】
目標設定部M11は、車両制動力の目標である目標車両制動力BPTrを設定する。制動操作部材11が操作されている場合、目標設定部M11は、ブレーキセンサ101の検出信号に応じた値を目標車両制動力BPTrとして設定する。他の制御装置から車両10の減速が要求された場合、目標設定部M11は、車両10の減速度の要求値に応じた値を目標車両制動力BPTrとして設定する。
【0021】
指示値設定部M13は、前輪制動力指示値BPF*と後輪制動力指示値BPR*との和が目標車両制動力BPTrと等しくなるように、前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*を設定する。つまり、指示値設定部M13は、目標車両制動力BPTrを、前輪制動力指示値BPF*と後輪制動力指示値BPR*との和で満足させるように、前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*を設定する。前輪制動力指示値BPF*は前輪制動力BPFの指示値である。後輪制動力指示値BPR*は後輪制動力BPRの指示値である。前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*の設定処理の詳細については後述する。
【0022】
制御部M15は、前輪制動力指示値BPF*に基づいて前輪制動力BPFを制御する。具体的には、制御部M15は、左前輪で発生する前輪制動力と右前輪で発生する前輪制動力との和が前輪制動力指示値BPF*となるように制動装置30を制御することによって、前輪12用の摩擦ブレーキ20を作動させる。これにより、制御部M15は、2つの前輪12用のホイールシリンダ21の前輪ホイール液圧を前輪制動力指示値BPF*に応じて調整できる。
【0023】
制御部M15は、後輪制動力指示値BPR*に基づいて後輪制動力BPRを制御する。具体的には、制御部M15は、左後輪で発生する後輪制動力と右後輪で発生する後輪制動力との和が後輪制動力指示値BPR*となるように制動装置30を制御することによって、後輪13用の摩擦ブレーキ20を作動させる。これにより、制御部M15は、2つの後輪13用のホイールシリンダの後輪ホイール液圧を後輪制動力指示値BPR*に応じて調整できる。
【0024】
<制御選択処理>
図3を参照し、処理回路51が実行する制御選択処理を説明する。制御選択処理は、車両制動の開始時に、制動制御として第1制動制御又は第2制動制御を選択するために処理回路51が実行する一連の処理である。CPU52がメモリ53の制御プログラムを実行することにより、処理回路51は制御選択処理を実行する。
【0025】
ステップS11において、処理回路51は、車両10の車体速度VSが低速判定速度VS1以下であるか否かを判定する。車体速度VSは、複数の車輪12,13の車輪速度VWを基に算出された車両10の移動速度である。低速判定速度VS1として、車両制動の開始時点では車両10が低速で走行しているか否かの判断基準が設定されている。処理回路51は、車体速度VSが低速判定速度VS1以下である場合(S11:YES)、処理をステップS13に移行する。一方、処理回路51は、車体速度VSが低速判定速度VS1よりも大きい場合(S11:NO)、処理をステップS15に移行する。
【0026】
ステップS13において、処理回路51は、今回の車両制動が緊急制動であるか否かを判定する。例えば、処理回路51は、以下の条件(A1)及び(A2)のうち少なくとも1つが成立している場合、今回の車両制動が緊急制動であると判定する。この場合、処理回路51は、以下の条件(A1)及び(A2)の何れもが成立していない場合、今回の車両制動が緊急制動ではないと判定する。
【0027】
(A1)運転者の制動操作部材11の操作速度が操作速度判定値以上であること。
(A2)他の制御装置から受信した車両10の減速度の要求値が減速度判定値以上であること。
【0028】
運転者が緊急制動を要求している場合、運転者の制動操作部材11の操作速度が大きくなる。そこで、運転者の制動操作部材11の操作が緊急制動を要求する操作であるか否かの判断基準が、操作速度判定値として設定されている。また、他の制御装置が緊急制動を要求しているか否かの判断基準が、減速度判定値として設定されている。
【0029】
処理回路51は、今回の車両制動が緊急制動であると判定した場合(S13:YES)、処理をステップS15に移行する。一方、処理回路51は、今回の車両制動が緊急制動ではないと判定した場合(S13:NO)、処理をステップS17に移行する。
【0030】
ステップS15において、処理回路51は、今回の制動制御として第1制動制御を選択する。そして、処理回路51は制御選択処理を終了する。
ステップS17において、処理回路51は、今回の制動制御として第2制動制御を選択する。そして、処理回路51は制御選択処理を終了する。
【0031】
ここで、第1制動制御の一例について説明する。処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、以下に示す複数の条件(B1)及び(B2)の何れをも満たすように前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*を設定する。
【0032】
(B1)前輪ホイール液圧と後輪ホイール液圧とが等しくなること。
(B2)前輪制動力指示値BPF*と後輪制動力指示値BPR*との和が目標車両制動力BPTrと等しいこと。すなわち、目標車両制動力BPTrが、前輪制動力指示値BPF*と後輪制動力指示値BPR*で満足すること。
【0033】
そして、処理回路51は、制御部M15として機能することにより、前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*に基づいて制動装置30を作動させる。
<第2制動制御>
図4を参照し、第2制動制御について説明する。処理回路51は、制御選択処理で第2制動制御を選択した場合、今回の車両制動中では図4に示す一連の処理を繰り返し実行する。
【0034】
ステップS31において、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大しているか否かを判定する。処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大している場合(S31:YES)、処理をステップS33に移行する。一方、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大していない場合(S31:NO)、処理をステップS51に移行する。
【0035】
ステップS33において、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*が判定制動力BPRth以上であるか否かを判定する。判定制動力BPRthとして、後輪ホイール液圧を所定の液圧領域の上限よりも高くできるような後輪制動力BPRが設定されている。所定の液圧領域とは、車両制動時に車輪でブレーキ鳴きが発生する可能性があるブレーキ液圧の領域である。そのため、ホイール液圧が当該液圧領域の上限よりも高い場合では、車輪でブレーキ鳴きが発生しにくい。
【0036】
処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*が判定制動力BPRth以上であると判定した場合(S33:YES)、処理をステップS35に移行する。一方、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*が判定制動力BPRth未満であると判定した場合(S33:NO)、処理をステップS37に移行する。
【0037】
ステップS35において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測できるか否かを判定する。例えば、処理回路51は、車両10のピッチ角APがピッチ角判定値APthよりも小さいか否かを判定する。車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いか否かの判断基準が、ピッチ角判定値APthとして設定されている。例えば、ピッチ角判定値APthは、0(零)°であってもよいし、負の値であってもよいし、正の値であってもよい。
【0038】
ここで、ピッチ角APの算出手法について説明する。例えば、処理回路51は、車両10の減速度に基づいて、車両10の減速に起因する慣性力を導出する。慣性力とは、上記ピッチングモーメントPMの大きさである。処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*が大きいほど値が大きくなるように、アンチダイブ力FADを導出する。処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*が大きいほど値が大きくなるように、アンチリフト力FALを導出する。アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとの和を抑制力としたとき、処理回路51は、慣性力から抑制力を引いた値を基に、ピッチ角APを推定演算する。この場合、処理回路51は、慣性力から抑制力を引いた値が小さいほど値が小さくなるように、ピッチ角APを推定演算する。なお、車両10にピッチ角を検出するセンサが搭載されている場合、処理回路51は、当該センサの検出信号に応じた角度をピッチ角APとして取得してもよい。
【0039】
ピッチ角APがピッチ角判定値APthよりも小さい場合は、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測できる。一方、ピッチ角APがピッチ角判定値APth以上である場合は、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強くないと推測できる。そして、処理回路51は、ノーズリフト傾向が強いと推測できる場合(S35:YES)、処理をステップS43に移行する。一方、処理回路51は、ノーズリフト傾向が強くないと推測できる場合(S35:NO)、処理をステップS37に移行する。
【0040】
ステップS37において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、切り替えフラグFLG1にオンがセットされているか否かを判定する。切り替えフラグFLG1は、後述する第1配分調整処理が既に実行されている場合にオンがセットされるフラグである。処理回路51は、切り替えフラグFLG1にオンがセットされている場合(S37:YES)、処理をステップS43に移行する。一方、処理回路51は、切り替えフラグFLG1にオフがセットされている場合(S37:NO)、処理をステップS39に移行する。
【0041】
ステップS39において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、前輪制動力指示値BPF*を保持した上で後輪制動力指示値BPR*を増大させる。前輪制動力指示値BPF*の前回値が0(零)である場合、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*を0(零)に維持する。この場合、処理回路51は、目標車両制動力BPTrと等しい制動力を、後輪制動力指示値BPR*として設定する。前輪制動力指示値BPF*の前回値とは、前回の制御サイクルで設定された前輪制動力指示値BPF*である。その後、処理回路51は処理をステップS41に移行する。
【0042】
ステップS41において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、切り替えフラグFLG1にオフをセットする。そして、処理回路51は処理をステップS57に移行する。
【0043】
ステップS43において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、第1配分調整処理を実行する。処理回路51は、第1配分調整処理において、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値BPR*の変化の勾配の減少が小さくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を導出する。例えば、処理回路51は、ノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値BPR*の増大の勾配の減少を小さくする。ここでいう「勾配」は、単位時間あたりの指示値の変化量である。本実施形態において、第1配分調整処理において、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*を増大させるものの、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配を第1配分調整処理の開始前よりも減少させる。後輪制動力指示値BPR*の増大勾配は、単位時間あたりの後輪制動力指示値BPR*の増大量である。例えば、処理回路51は、以下の関係式(F1)を用いて後輪制動力指示値BPR*を導出できる。関係式(F1)において、「BPRB」は、第1配分調整処理の開始時における後輪制動力指示値BPR*である。「α」は、上記後輪制動力BPRの増大勾配を小さくするための補正ゲインである。第1実施形態では、補正ゲインαは、所定値で固定されている。この場合、所定値は、0(零)よりも大きく、且つ1未満の値である。補正値の一例は0.5である。
【0044】
BPR*=BPRB+(BPTr-BPRB)×α ・・・(F1)
処理回路51は、第1配分調整処理において、目標車両制動力BPTrと後輪制動力指示値BPR*との差を、前輪制動力指示値BPF*として設定する。そのため、処理回路51は、第1配分調整処理を実行することにより、前輪制動力指示値BPF*を増大させることができる。処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を設定すると、処理をステップS45に移行する。
【0045】
ステップS45において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、切り替えフラグFLG1にオンをセットする。そして、処理回路51は処理をステップS57に移行する。
【0046】
ステップS51において、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが保持されているか否かを判定する。処理回路51は、目標車両制動力BPTrが保持されている場合(S51:YES)、処理をステップS53に移行する。一方、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが減少している場合(S51:NO)、処理をステップS55に移行する。
【0047】
ステップS53において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*の何れをも保持する。そして、処理回路51は処理をステップS41に移行する。
【0048】
ステップS55において、処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*の何れをも減少させる。そして、処理回路51は処理をステップS41に移行する。
【0049】
ステップS57において、処理回路51は、制御部M15として機能することにより、制動装置30を作動させる。すなわち、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*に応じた液圧に後輪ホイール液圧を調整する。処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*に応じた液圧に前輪ホイール液圧を調整する。その後、処理回路51は、図4に示した一連の処理を一旦終了する。
【0050】
<第1実施形態の作用及び効果>
図5を参照し、車両制動時における作用及び効果を説明する。図5に示す例は、車体速度VSが低速判定速度VS1以下である状況下で制動要求が発生し、且つ車両制動が緊急制動ではない場合の例である。また、目標車両制動力BPTrは、タイミングt11からタイミングt14までの期間では一定速度で増大し、タイミングt14以降では保持されるものとする。
【0051】
車両10の走行中のタイミングt11で運転者が制動操作部材11を操作し始めるなどすると、処理回路51は制動要求ありと判定するようになる。図5に示す例では、処理回路51は、今回の制動制御として第2制動制御を選択する。
【0052】
すると、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大している場合には、前輪制動力指示値BPF*を保持した上で後輪制動力指示値BPR*を増大させる。タイミングt11での前輪制動力指示値BPF*が0(零)であるため、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*を0(零)で維持した上で後輪制動力指示値BPR*を増大させる。つまり、目標車両制動力BPTrと同じ制動力が、後輪制動力指示値BPR*として設定される。
【0053】
車両制動中のタイミングt12で、処理回路51は、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測するようになる。しかし、タイミングt12では、後輪制動力指示値BPR*が判定制動力BPRth未満である。そのため、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*を保持した上で後輪制動力指示値BPR*を増大させる処理を継続する。
【0054】
その後も目標車両制動力BPTrの増大に応じて後輪制動力指示値BPR*が増大している最中のタイミングt13で、後輪制動力指示値BPR*が判定制動力BPRthに達する。すると、処理回路51は第1配分調整処理を開始する。第1配分調整処理において、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*と前輪制動力指示値BPF*との差分が大きくなることを第1配分変更処理の開始前よりも抑制できるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。図5に示す例では、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*と後輪制動力指示値BPR*との差分が保持されるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。
【0055】
ここで、タイミングt13以降では後輪制動力指示値BPR*を保持した上で前輪制動力指示値BPF*を増大させる比較例について説明する。比較例では、タイミングt13からは、前輪制動力BPFが増大されるためにアンチダイブ力FADが増大するものの、後輪制動力BPRが保持されるためにアンチリフト力FALが増大されない。すると、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとの和である抑制力の増大速度が、タイミングt13以前よりも小さくなる。その結果、車両10の姿勢が、ノーズダイブ側に大幅に変化し始める。つまり、タイミングt13以前と比較して、車両10のピッチ角APが大きくなったり、ピッチ角APの増大速度が大きくなったりする。このように車両制動の途中で、車両10の姿勢の変化態様が急に変わると、車両10の乗員が不快に感じるおそれがある。
【0056】
この点、制動制御装置50では、タイミングt13以降では、前輪制動力BPFが増大されるものの、後輪制動力BPRの増大も継続される。これにより、上記比較例と比較して、上記抑制力の増大速度が大きくなる。その結果、制動制御装置50は、車両10の姿勢がノーズダイブ側に大幅に変化することを抑制できる。つまり、制動制御装置50は、ピッチ角APの増大速度が大きくなることを抑制できる。したがって、制動制御装置50は、車両制動の途中で車両10の姿勢の変化態様が大きく変わることを抑制しつつ、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの配分を変更できる。すなわち、制動制御装置50は、乗員が不快に感じることを抑制しつつ、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの配分を変更できる。
【0057】
なお、図5に示す例では、タイミングt14からは目標車両制動力BPTrが保持される。そのため、タイミングt14以降では、処理回路51は後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を保持する。
【0058】
なお、第1実施形態では、以下の効果をさらに得ることができる。
(1-1)目標車両制動力BPTrが増大している場合には、後輪制動力BPRが増大し続ける。つまり、目標車両制動力BPTrが増大している場合には、アンチリフト力FALが増大し続ける。そのため、制動制御装置50は、比較例のように後輪制動力指示値BPR*が保持される場合と比較して上記抑制力の増大速度を大きくできる分、車両10のピッチ角APが大きくなることの抑制効果を高くできる。
【0059】
<第2実施形態>
制動制御装置の第2実施形態を図6に従って説明する。なお、第2実施形態では、第1配分調整処理の内容が第1実施形態と異なる。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0060】
第2実施形態の制動制御装置50においても、CPU52がメモリ53の制御プログラムを実行することにより、処理回路51は、目標設定部M11、指示値設定部M13及び制御部M15として機能する。目標設定部M11及び制御部M15の処理内容は、上記第1実施形態と同様であるため、詳細な説明を割愛する。
【0061】
処理回路51は、指示値設定部M13として機能することにより、第1配分調整処理を実行する。第1配分調整処理において、処理回路51は、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値BPR*の変化の勾配の減少が小さくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を導出する。例えば、処理回路51は、ノーズリフト傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値BPR*の増大の勾配の減少が小さくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を導出する。本実施形態において、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*を増大させるものの、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配を、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推定される以前よりも減少させる。
【0062】
図6を参照し、第2実施形態の制動制御装置50で実行される第1配分調整処理について説明する。
処理回路51は、以下の3つの条件が成立すると、指示値設定部M13として機能することによって第1配分調整処理を実行する。
【0063】
・目標車両制動力BPTrが増大していること(S31:YES)。
・後輪制動力指示値BPR*が判定制動力BPRth以上であること(S33:YES)。
【0064】
・車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測できること(S35:YES)。
第1配分調整処理は、移行制御と、後輪制動保持制御とを含んでいる。処理回路51は、移行制御において、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配が次第に小さくなるように後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。移行制御中においても、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*と前輪制動力指示値BPF*との和が目標車両制動力BPTrと等しくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。例えば、処理回路51は、上記関係式(F1)の補正ゲインαを0(零)に向けて次第に小さくする。これにより、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配を0(零)まで減少させることができる。処理回路51は、移行制御を実施することによって当該増大勾配が0(零)になると、制御を移行制御から後輪制動保持制御に移行する。
【0065】
処理回路51は、後輪制動保持制御において、後輪制動力指示値BPR*を保持させた上で前輪制動力指示値BPF*を増大させる。具体的には、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*と前輪制動力指示値BPF*との和が目標車両制動力BPTrと等しくなるように前輪制動力指示値BPF*を増大させる。
【0066】
<第2実施形態の作用及び効果>
図6を参照し、車両制動時における作用及び効果を説明する。図6に示す例は、車体速度VSが低速判定速度VS1以下である状況下で制動要求が発生し、且つ車両制動が緊急制動ではない。
【0067】
目標車両制動力BPTrが増大している最中のタイミングt21で、処理回路51は、第1配分調整処理を開始する。すなわち、処理回路51は、第1配分調整処理の移行制御を実施する。移行制御において、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配が0(零)に向けて徐々に小さくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。
【0068】
第2実施形態の制動制御装置50では、タイミングt21以降では、前輪制動力BPFが増大されるものの、後輪制動力BPRの増大も継続される。これにより、上記の比較例と比較して、アンチリフト力FAL及びアンチダイブ力FADとの和である抑制力の増大速度が大きくできる。その結果、制動制御装置50は、前輪制動力BPFの増大を開始させた場合に車両10の姿勢がノーズダイブ側に大幅に変化することを抑制できる。つまり、制動制御装置50は、ピッチ角APの増大速度が急に大きくなることを抑制できる。すなわち、車両10の姿勢が徐々にノーズダイブ側に変化するようになる。したがって、制動制御装置50は、車両制動の途中で車両10の姿勢の変化態様が大きく変わることを抑制しつつ、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの配分を変更できる。
【0069】
図6に示す例では、タイミングt22で後輪制動力指示値BPR*の増大勾配が0(零)になる。そのため、処理回路51は、第1配分調整処理の後輪制動保持制御を開始する。その結果、処理回路51は、後輪制動力BPRを保持させた上で前輪制動力BPFを増大させる。第2実施形態の制動制御装置50では、第1配分調整処理が後輪制動保持制御を含んでいる。つまり、第1実施形態の場合と比較して、判定制動力BPRthとして大きい制動力を設定できる。そのため、第2実施形態の制動制御装置50は、第1配分調整処理の実行タイミングを遅らせることができる。
【0070】
(第3実施形態)
制動制御装置の第3実施形態を図7及び図8に従って説明する。なお、第3実施形態では、第2配分調整処理を実行する点が上記複数の実施形態と異なる。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0071】
CPU52がメモリ53の制御プログラムを実行することにより、処理回路51は、目標設定部M11、指示値設定部及び制御部M15として機能する。目標設定部M11及び制御部M15の処理内容は、上記第1実施形態と同様であるため、詳細な説明を割愛する。
【0072】
<第2制動制御>
図7を参照し、第3実施形態の制動制御装置50で実行される第2制動制御について説明する。処理回路51は、制御選択処理で第2制動制御を選択した場合、今回の車両制動中では図7に示す一連の処理を繰り返し実行する。
【0073】
ステップS131において、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大しているか否かを判定する。処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大している場合(S131:YES)、処理をステップS133に移行する。一方、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大していない場合(S131:NO)、処理をステップS151に移行する。
【0074】
ステップS133において、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*が判定制動力BPFth以上であるか否かを判定する。判定制動力BPFthとして、前輪ホイール液圧を上記所定の液圧領域の上限よりも高くできるような前輪制動力BPFが設定されている。
【0075】
処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*が判定制動力BPFth以上であると判定した場合(S133:YES)、処理をステップS135に移行する。一方、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*が判定制動力BPFth未満であると判定した場合(S133:NO)、処理をステップS137に移行する。
【0076】
ステップS135において、処理回路51は、指示値設定部として機能することにより、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測できるか否かを判定する。例えば、処理回路51は、車両10のピッチ角APがピッチ角判定値APth1よりも大きいか否かを判定する。車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いか否かの判断基準が、ピッチ角判定値APth1として設定されている。例えば、上記ピッチ角判定値APthよりも大きく、且つ0(零)°よりも大きいピッチ角が、ピッチ角判定値APth1として設定される。そのため、ピッチ角APがピッチ角判定値APth1よりも大きい場合は、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測できる。一方、ピッチ角APがピッチ角判定値APth1以下である場合は、ノーズダイブ傾向が強くないと推測できる。処理回路51は、ノーズダイブ傾向が強いと推測できる場合(S135:YES)、処理をステップS143に移行する。一方、処理回路51は、ノーズダイブ傾向が強くないと推測できる場合(S135:NO)、処理をステップS137に移行する。
【0077】
ステップS137において、処理回路51は、指示値設定部として機能することにより、切り替えフラグFLG2にオンがセットされているか否かを判定する。切り替えフラグFLG2は、後述する第2配分調整処理が既に実行されている場合にオンがセットされるフラグである。処理回路51は、切り替えフラグFLG2にオンがセットされている場合(S137:YES)、処理をステップS143に移行する。一方、処理回路51は、切り替えフラグFLG2にオフがセットされている場合(S137:NO)、処理をステップS139に移行する。
【0078】
ステップS139において、処理回路51は、指示値設定部として機能することにより、後輪制動力指示値BPR*を保持した上で前輪制動力指示値BPF*を増大させる。後輪制動力指示値BPR*の前回値が0(零)である場合、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*を0(零)に維持する。この場合、処理回路51は、目標車両制動力BPTrと等しい制動力を、前輪制動力指示値BPF*として設定する。後輪制動力指示値BPR*の前回値とは、前回の制御サイクルで設定された後輪制動力指示値BPR*である。その後、処理回路51は処理をステップS141に移行する。
【0079】
ステップS141において、処理回路51は、指示値設定部として機能することにより、切り替えフラグFLG2にオフをセットする。そして、処理回路51は処理をステップS157に移行する。
【0080】
ステップS143において、処理回路51は、指示値設定部として機能することにより、第2配分調整処理を実行する。処理回路51は、第2配分調整処理において、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値BPR*の変化の勾配の増大が小さくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を導出する。例えば、処理回路51は、ノーズダイブ傾向が強いと推測されるほど、後輪制動力指示値BPR*の増大の勾配の増大を小さくする。本実施形態において、第2配分調整処理において、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*を増大させるものの、前輪制動力指示値BPF*の増大勾配を第2配分調整処理の開始前よりも減少させる。前輪制動力指示値BPF*の増大勾配は、単位時間あたりの前輪制動力指示値BPF*の増大量である。例えば、処理回路51は、以下の関係式(F2)を用いて前輪制動力指示値BPF*を導出できる。関係式(F2)において、「BPFB」は、第2配分調整処理の開始時における前輪制動力指示値BPF*である。「α1」は、上記前輪制動力BPFの増大勾配を小さくするための補正ゲインである。第3実施形態では、補正ゲインα1は、所定値で固定されている。この場合、所定値は、0(零)よりも大きく、且つ1未満の値である。補正値の一例は0.5である。
【0081】
BPF*=BPFB+(BPTr-BPFB)×α1 ・・・(F2)
処理回路51は、第2配分調整処理において、目標車両制動力BPTrと前輪制動力指示値BPF*との差を、後輪制動力指示値BPR*として設定する。そのため、処理回路51は、第2配分調整処理を実行することにより、後輪制動力指示値BPR*を増大させることができる。すなわち、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*を増大させるものの、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配を、目標車両制動力BPTrの増大勾配よりも小さくする。処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*を設定すると、処理をステップS145に移行する。
【0082】
ステップS145において、処理回路51は、切り替えフラグFLG2にオンをセットする。そして、処理回路51は処理をステップS157に移行する。
ステップS151の処理は上記ステップS51の処理と同じである。ステップS153の処理は上記ステップS53の処理と同じである。ステップS155の処理は上記ステップS55の処理と同じである。
【0083】
ステップS157において、処理回路51は、制御部M15として機能することにより、制動装置30を作動させる。すなわち、処理回路51は、上記ステップS57の処理と同様に、後輪制動力指示値BPR*に応じた液圧に後輪ホイール液圧を調整する。また処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*に応じた液圧に前輪ホイール液圧を調整する。その後、処理回路51は図7に示した一連の処理を一旦終了する。
【0084】
<第3実施形態の作用及び効果>
図8を参照し、車両制動時における作用及び効果を説明する。図8に示す例は、車体速度VSが低速判定速度VS1以下である状況下で制動要求が発生し、且つ車両制動が緊急制動ではない。
【0085】
タイミングt31以前では、処理回路51は、目標車両制動力BPTrが増大している場合には、後輪制動力指示値BPR*を保持した上で前輪制動力指示値BPF*を増大させる。図8に示す例では、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*を0(零)で維持した上で、前輪制動力指示値BPF*を増大させる。そのため、目標車両制動力BPTrと同じ制動力が、前輪制動力指示値BPF*として設定される。
【0086】
目標車両制動力BPTrが増大している最中のタイミングt31では、処理回路51が、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推定している上に、前輪制動力指示値BPF*が判定制動力BPFthに達する。そのため、タイミングt31以降では、処理回路51は第2配分調整処理を実行する。第2配分調整処理において、処理回路51は、後輪制動力指示値BPR*と前輪制動力指示値BPF*との差分が大きくなることを第2配分変更処理の開始前よりも抑制できるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。図8に示す例では、処理回路51は、前輪制動力指示値BPF*と後輪制動力指示値BPR*との差分が保持されるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させる。
【0087】
ここで、タイミングt31以降では前輪制動力指示値BPF*を保持した上で後輪制動力指示値BPR*を増大させる比較例について説明する。比較例では、タイミングt31からは、後輪制動力BPRが増大されるためにアンチリフト力FALが増大する。すると、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとの和である抑制力の増大速度が、タイミングt31以前よりも大きくなる。その結果、車両10の姿勢が、ノーズリフト側に大幅に変化し始める。つまり、タイミングt31以前と比較して、車両10のピッチ角APが小さくなったり、ピッチ角APの増大速度が急に小さくなったりする。このように車両制動の途中で、車両10の姿勢の変化態様が急に変わると、車両10の乗員が不快に感じるおそれがある。
【0088】
この点、第3実施形態の制動制御装置50では、タイミングt31以降では、後輪制動力BPRが増大されるものの、前輪制動力BPFの増大も継続される。これにより、上記比較例と比較して、上記抑制力の増大速度が大きくなることが抑制される。その結果、制動制御装置50は、車両10の姿勢がノーズリフト側に大幅に変化することを抑制できる。つまり、制動制御装置50は、ピッチ角APの増大速度が急に小さくなることを抑制できる。したがって、制動制御装置50は、車両制動の途中で車両10の姿勢の変化態様が大きく変わることを抑制しつつ、前輪制動力BPFと後輪制動力BPRとの配分を変更できる。
【0089】
(変更例)
上記複数の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記複数の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0090】
・第1実施形態では、目標車両制動力BPTrが増大している最中に第1配分調整処理が開始されると、図5に示したように後輪制動力BPRの増大勾配が急に小さくなる。そこで、例えば図9に示すように、処理回路51は、タイミングt41で第1配分調整処理を開始させた場合、当該増大勾配が所定勾配に向けて徐々に小さくなるように後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させてもよい。この場合、所定勾配として、0(零)よりも大きい値が設定される。そして、タイミングt42で当該増大勾配が所定勾配に達すると、それ以降では、処理回路51は、当該増大勾配が所定勾配で維持されるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させるようにしてもよい。
【0091】
具体的には、処理回路51は、目標車両制動力BPTrの増大に応じて、上記関係式(F1)の補正ゲインαを1から徐々に小さくする期間を設けることにより、後輪制動力指示値BPR*の増大勾配を次第に小さくする期間を設定できる。処理回路51は、補正ゲインαが上記所定勾配に応じた値になると、それ以降では補正ゲインαを保持することによって後輪制動力指示値BPR*の増大勾配を所定勾配で維持できる。
【0092】
・第1実施形態において、処理回路51は、第1配分調整処理において、第1配分調整処理の開始前と比較して後輪制動力指示値BPR*と前輪制動力指示値BPF*との差分の増大速度が小さくなるように、後輪制動力指示値BPR*及び前輪制動力指示値BPF*を増大させてもよい。
【0093】
・第1実施形態及び第2実施形態で実行される第2制動制御を、「後輪優先の第2制動制御」という。第3実施形態で実行される第2制動制御を、「前輪優先の第2制動制御」という。処理回路51は、第2制動制御の実行条件が成立する場合には、後輪優先の第2制動制御と前輪優先の第2制動制御とを使い分けてもよい。この場合、処理回路51は、指示値設定部として機能することにより、第1配分調整処理及び第2配分調整処理の何れをも実行できる。例えば低μ路を車両10が走行している場合のように車両10の挙動が不安定になりやすい場合には、処理回路51は前輪優先の第2制動制御を実行してもよい。一方、車両10の挙動が不安定になりにくい場合には、処理回路51は後輪優先の第2制動制御を実行するとよい。
【0094】
・第1実施形態及び第2実施形態では、処理回路51は、車両制動時のピッチ角APとピッチ角判定値APthとを比較することによって、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いか否かを推測しているが、別の手法で推測してもよい。第1制動制御では、前輪制動力BPF及び後輪制動力BPRの何れもが増大されるのに対し、第2制動制御の制動初期では、前輪制動力BPF及び後輪制動力BPRのうち後輪制動力BPRのみが増大される。そのため、第2制動制御が実行される場合には、第1制動制御が実行される場合よりも車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強くなりやすいと云える。そこで、図4のステップS35において、処理回路51は、第2制動制御を実行している場合にノーズリフト傾向が強いと推測してもよい。
【0095】
また、その他の手法として、処理回路51は、目標車両制動力BPTrに対する後輪制動力指示値BPR*の割合が所定値以上である場合に、車両10の姿勢においてノーズリフト傾向が強いと推測してもよい。ただし、目標車両制動力BPTrの大きさが小さいと車両10の姿勢がノーズダイブ状態になりにくい。そのため、処理回路51は、目標車両制動力BPTrの大きさに応じて上記所定値を可変させるとよい。
【0096】
・第3実施形態では、処理回路51は、車両制動時のピッチ角APとピッチ角判定値APth1とを比較することによって、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いか否かを推測しているが、別の手法で推測してもよい。第1制動制御では、前輪制動力BPF及び後輪制動力BPRの何れもが増大されるのに対し、第2制動制御の制動初期では、前輪制動力BPF及び後輪制動力BPRのうち前輪制動力BPFのみが増大される。そのため、第2制動制御が実行される場合には、第1制動制御が実行される場合よりも車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強くなりやすいと云える。そこで、図7のステップS135において、処理回路51は、第2制動制御を実行している場合にノーズダイブ傾向が強いと推測してもよい。
【0097】
また、その他の手法として、処理回路51は、目標車両制動力BPTrに対する前輪制動力指示値BPF*の割合が所定値以上である場合に、車両10の姿勢においてノーズダイブ傾向が強いと推測してもよい。ただし、目標車両制動力BPTrの大きさが小さいと車両姿勢がノーズダイブ状態になりにくい。そのため、処理回路51は、目標車両制動力BPTrの大きさに応じて上記所定値を可変させるとよい。
【0098】
・上記複数の実施形態では、目標車両制動力BPTrが増大していることを条件に、第1配分調整処理又は第2配分調整処理を実行していたが、これらに限らない。
例えば図10に示すように目標車両制動力BPTrが保持されている状況下で、目標車両制動力BPTrのうち前輪制動力指示値BPF*が占める割合を増大させる場合に、処理回路51は第1配分調整処理を実行してもよい。また例えば、目標車両制動力BPTrが減少されている状況下で、目標車両制動力BPTrのうち前輪制動力指示値BPF*が占める割合を増大させる場合に、処理回路51は第1配分調整処理を実行してもよい。なお、図10には、第1配分調整処理が実行されている場合の前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*の推移が破線で示されている。
【0099】
例えば図10に示すように目標車両制動力BPTrが保持されている状況下で、目標車両制動力BPTrのうち後輪制動力指示値BPR*が占める割合を増大させる場合に、処理回路51は第2配分調整処理を実行してもよい。また例えば、目標車両制動力BPTrが減少されている状況下で、目標車両制動力BPTrのうち後輪制動力指示値BPR*が占める割合を増大させる場合に、処理回路51は第2配分調整処理を実行してもよい。なお、図10には、第2配分調整処理が実行されている場合の前輪制動力指示値BPF*及び後輪制動力指示値BPR*の推移が実線で示されている。
【0100】
・制動制御装置として、摩擦制動力だけではなく、回生制動力も調整できる制御装置に具体化してもよい。
・処理回路51は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0101】
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0102】
10…車両
12…前輪
13…後輪
50…制動制御装置
51…処理回路
M11…目標設定部
M13…指示値設定部
M15…制御部
図1
図2
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図8
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図10