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  • 特開-標的成分の阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145418
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】標的成分の阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20241004BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20241004BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20241004BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20241004BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241004BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241004BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20241004BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241004BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20241004BHJP
   A23L 29/206 20160101ALI20241004BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241004BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A23D7/005
A61K9/107
A61K47/04
A61K47/40
A61K47/36
A61K47/44
A61K47/30
A61K47/38
A23D7/00 504
A23L27/00 Z
A23L29/206
A23L2/00 B
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057751
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
【テーマコード(参考)】
4B026
4B041
4B047
4B117
4C076
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DL03
4B026DP01
4B026DX04
4B041LD01
4B041LH02
4B041LH04
4B041LH05
4B041LH07
4B041LH08
4B041LH09
4B041LH10
4B041LH11
4B041LH16
4B041LK18
4B047LB09
4B047LE03
4B047LF07
4B047LF10
4B047LG10
4B047LG27
4B047LG28
4B047LG29
4B047LG30
4B047LP02
4B117LC03
4B117LK10
4B117LK13
4C076AA17
4C076EE01
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE32
4C076EE38
4C076EE39
4C076EE52
4C076EE55
4C076FF11
(57)【要約】
【課題】本発明は、標的成分の効果を抑制、又は阻害することを可能とする新たな手段を提供することを目的とする。
【解決手段】水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含む水中油型エマルジョンを含む、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含む水中油型エマルジョンを含む、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤。
【請求項2】
疎水性物質が、油脂、疎水性ワックス、及び疎水性樹脂からなる群より選択される一種以上である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
増粘多糖類が、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム、アラビアガム、ペクチン、リン酸架橋でんぷん、ヒドロキシプロピルでんぷん、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん、トラガントガム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び、ヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種以上である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項4】
水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を混合して水中油型エマルジョンを形成する工程を含む、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤の製造方法。
【請求項5】
標的成分を阻害するために用いられる阻害剤の製造方法における、水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含む水中油型エマルジョンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含む水中油型エマルジョンを含む、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、油脂、水、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含んでなる乳化組成物が、医薬、化粧品、飲食品等の様々な分野で広く利用されている。
【0003】
特許文献1には、水、油性成分、αサイクロデキストリン、及びゲル形成成分として寒天、低強度寒天、ガラクトマンナン又はグルコマンナンとキサンタンガムの併用、カラギーナン、ファーセレラン、ジェランガム、ネイティブ型ジェランガムのいずれか1以上を含有する乳化組成物が開示され、これを使用した医薬品、化粧品、化成品が開示されている。
【0004】
特許文献2には、油脂、蛋白加水分解物、水、サイクロデキストリン等を含有することを特徴とする乳化組成物が開示され、また、安定剤としてキサンタンガム、グアーガム、アラビアガムCMC、カラギーナン、ローカストビーンガム等のガム類を用いてもよいことが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ペクチン、トラガントガム、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマーといった水溶性高分子化合物を溶解した水性原料と化粧料用油性原料を混和し、サイクロデキストリンを加えて乳化させてなる乳化化粧料が開示されている。
【0006】
特許文献4には、水、油脂及びサイクロデキストリン、ならびに、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガムからなる群から選択される少なくとも一つの水溶性ゲル化剤を含む、皮膚用乳化組成物が開示されている。
【0007】
非特許文献1には、大豆油とサイクロデキストリン水溶液の1:1容積比試料を乳化させてなる水中油滴型のエマルションに、乳化安定剤としてキサンタンガムとトラガントガムをそれぞれ添加したところ乳化安定性が増したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-204311号公報
【特許文献2】特開平10-262560号公報
【特許文献3】特公昭61-038166号公報
【特許文献4】WO2022/064997号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi,Vol.38,No.1,16-20(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
医薬、食品等の成分のなかには、苦みや渋み、辛味等を有するものがあり、その味のため、人によってはその投与や摂取が容易ではない場合があり、そのような成分の投与や摂取を可能とする新たな手法が求められていた。
また、食品、塗料等の成分のなかには、色素や特有の匂いを有するものがあり、それが付着すると、水等で洗浄しても簡単には落とすことができない場合があり、そのような成分を簡単に洗浄することを可能とする新たな手法が求められていた。
そこで、本発明は、標的とする成分(以下、「標的成分」と記載する)が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害することができ、ならびに/あるいは、当該対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害することが可能な新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、疎水性物質、水、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を配合してなる水中油型エマルジョンが、対象に付着して、そこで標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害することができ、またそれによって、当該対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害できることを見出した。
【0012】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含む水中油型エマルジョンを含む、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤。
[2] 疎水性物質が、油脂、疎水性ワックス、及び疎水性樹脂からなる群より選択される一種以上である、[1]の阻害剤。
[3] 増粘多糖類が、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム、アラビアガム、ペクチン、リン酸架橋でんぷん、ヒドロキシプロピルでんぷん、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん、トラガントガム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び、ヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種以上である、[1]又は[2]の阻害剤。
[4] 水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を混合して水中油型エマルジョンを形成する工程を含む、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤の製造方法。
[5] 標的成分を阻害するために用いられる阻害剤の製造方法における、水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含む水中油型エマルジョンの使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害することができ、ならびに/あるいは、当該対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害することが可能な新たな手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、標的成分である色素の沈着に対する、本発明に係る水中油型エマルジョンの抑制効果を示し、水中油型エマルジョンを塗布した手のひら(A-D、E(右))、及び塗布していない手のひら(a,b,E(左))に、クルクミン色素(黄色)を塗布した後の写真図(A,C,a)及び塗布した色素を中性洗剤で洗い流し、乾燥した後の写真図(B,D,b,E)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.水中油型エマルジョン
本発明における水中油型エマルジョンは、水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類を含むものである。
【0016】
本発明において「疎水性物質」とは、水に不溶性であり、水と下記に詳述する、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類と共に、水中油型エマルジョンを形成することが可能な物質であればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは、油脂、疎水性ワックス、疎水性樹脂等が挙げられる。疎水性物質はいずれかの物質を単独で用いてもよいし、あるいは異なる種類の疎水性物質を組み合わせて用いてもよい。例えば、疎水性物質は、油脂、疎水性ワックス、及び疎水性樹脂からなる群より選択される一種以上の物質を用いることができ、本発明の阻害剤の利用態様に応じて、適当なものを選択して用いることができる。
【0017】
本発明において「水中油型エマルジョン」とは、水の中に疎水性物質が分散してなる乳化組成物を意味し、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類はこの乳化状態の形成や安定性に寄与する。
【0018】
本発明において「油脂」とは、水中油型エマルジョンの形成において一般的に使用される油脂を利用することができ、極性及び非極性のいずれも使用することができる。このような油脂としては、例えば、植物由来の油脂(例えば、キャノーラ油、菜種白絞油、大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、米油、米糠油、ツバキ油、ベニバナ油、オリーブ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、パーム油、茶油、ヤシ油、アボガド油、ククイナッツ油、グレープシード油、ココアバター、ココナッツ油、小麦胚芽油、アーモンド油、月見草油、ひまし油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ブドウ油、カカオ油、ホホバ油、パーム核油、スクワレン、スクワラン等)、イソステアリルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、2-オクタデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、フィトステロール、コレステロール、ステアリン酸、イソステアリン酸、カプリン酸、ラノリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、リノール酸、リノレン酸、モノステアリン酸グリセリル、モノパルミチン酸グリセリル、モノベヘニン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノラノリン酸グリセリル、モノリノ-ル酸グリセリル、モノリノレン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリン、イソプロピルミリステート、グリセロールトリ-2-ヘプチルウンデカノエート、グリセロールトリ-2-エチルヘキサノエート、2-ヘプチルウンデシルパルミテート、ジ-2-ヘプチルウンデシルアジペート、セチルイソオクタノエート、トリメチロールプロパン-2-トリメチロールヘプチルウンデカノエート、プロパン-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトール-2-ヘプチルウンデカノエート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、コレステロールイソステアレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等の合成エステル油、牛脂、豚油、ラノリン、スクワレン、スクワラン等の動物由来の油脂等が挙げられるが、これらに限定はされない。その中でも、本発明において利用される油脂としては、少なくとも常温において液体の状態のものが好ましい。本明細書において「常温」とは、5~35℃、好ましくは15~30℃を意味する。油脂はいずれか単独で用いてもよいし、異なる油脂を組み合わせて用いてもよく、本発明の利用態様に応じて、適当なものを選択して用いることができる。例えば、本発明を、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品等の分野に用いる場合には、安全性の高い動物由来又は植物由来の油脂が好ましく、食経験があり安全性の高い食用植物油が特に好ましい。
【0019】
本発明において「疎水性ワックス」とは、動植物や石油若しくは鉱物由来の天然疎水性ワックス、合成の疎水性ワックスが挙げられ、80℃以下の融点を有するものを使用することができ、その中でも、少なくとも常温において液体の状態のものが好ましい。このような疎水性ワックスとしては、例えば、ミツロウ、鯨ロウ、羊毛ロウ、モクロウ、ロジン(松脂)、キャンデリラロウ、カルナバロウ、カカオ脂、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、セレシンワックス、ワセリンワックス、オゾケナイトワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、アルコール変性ワックス、マレイン酸変性酸化ポリエチレンワックス、アミドワックス、等が挙げられるが、これらに限定はされない。疎水性ワックスはいずれか単独で用いてもよいし、異なる疎水性ワックスを組み合わせて用いてもよく、本発明の利用態様に応じて、適当なものを選択して用いることができる。例えば、本発明を、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品等の分野に用いる場合には、安全性の高い動物由来又は植物由来の疎水性ワックスが特に好ましい。
【0020】
本発明において「疎水性樹脂」とは、親水性基を有さないか又はその含有量が小さな樹脂であり、水等の極性溶媒に溶解しない樹脂を指し、本発明においては少なくとも常温において液体の状態のものを好適に用いることができる。このような疎水性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂(親水化されていないもの、例えば、シリコーン油、変性シリコーン)、ポリウレタン樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ならびにこれらのポリマーの共重合体等が挙げられるが、これらに限定はされない。疎水性樹脂はいずれか単独で用いてもよいし、異なる疎水性樹脂を組み合わせて用いてもよく、本発明の利用態様に応じて、適当なものを選択して用いることができる。例えば、本発明を、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品等の分野に用いる場合には、生体適合性や生体親和性有することが確認された安全性の高いものが特に好ましい。
【0021】
本発明において「疎水性物質」とは、より好ましくは油脂及び疎水性ワックスであり、特に好ましくは油脂である。
【0022】
本発明の水中油型エマルジョンには、疎水性物質を任意の量で含むことができ、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は7質量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下とすることができる。本発明の水中油型エマルジョンにおける疎水性物質の量の範囲は前記下限及び上限の数値よりそれぞれ選択される2つの数値を用いて表すことができ、例えば、本発明の水中油型エマルジョンには疎水性物質を、1質量%~50質量%、1質量%~30質量%、又は1質量%~20質量%、又は1質量%~10質量%、好ましくは、5質量%~10質量%、又は7質量%~10質量%の範囲より適宜選択される量にて含めることができる。疎水性物質の量が1質量%よりも少ないと乳化が不十分となる場合があり、一方、疎水性物質の量が50質量%よりも多いとべとつきやぬるつき等が強く感じられる場合があり、いずれにおいても本発明の目的の用途における利用形態において、所望の使用感を得ることができない場合がある。
【0023】
なお、本明細書中、本発明の水中油型エマルジョンに含まれる各成分の量の記載は、当該水中油型エマルジョンの全質量を100質量%とする、質量%の量にて示す。
【0024】
本発明の水中油型エマルジョンにおいて、水は疎水性物質を乳化してサイクロデキストリン及び増粘多糖類と共に水中油型エマルジョン形成することが可能な任意の量で含むことができる。例えば、本発明の水中油型エマルジョンは水を、15質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、又は70質量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、90質量%以下、又は85質量%以下とすることができる。本発明の水中油型エマルジョンにおける水の量の範囲は前記下限及び上限の数値よりそれぞれ選択される2つの数値を用いて表すことができ、例えば、本発明の水中油型エマルジョンには水を、15質量%~90質量%、45質量%~90質量%、又は70質量%~85質量%の範囲より適宜選択される量にて含めることができる。本発明の水中油型エマルジョンに含まれる水の量は、体積比にして疎水性物質よりも多く含まれることが好ましく、例えば疎水性物質と水の含有量は体積比にして(疎水性物質:水)1:1を超える量、例えば、1:2以上、1:3以上、1:4以上、1:5以上、1:6以上、1:10以上、1:15以上、又は1:20以上、とすることができ、水の量の上限は特に限定されないが、1:90以下、1:80以下、1:70以下、1:60以下、又は1:50以下とすることができる。本発明の水中油型エマルジョンに含まれる水と疎水性物質の量を上記範囲に調節することによって、べとつきやぬるつき等を抑えることができ好ましい。
【0025】
「サイクロデキストリン」は、ブドウ糖を構成単位とする環状無還元マルトオリゴ糖を意味し、ブドウ糖の数が6つのα-サイクロデキストリン、7つのβ-サイクロデキストリン、8つのγ-サイクロデキストリンが挙げられる。本発明においては、α-、β-、γ-サイクロデキストリン、及びそれらの誘導体、ならびにそれらの任意の組み合わせを用いることができる。サイクロデキストリンの誘導体としては、例えば、エチルサイクイロデキストリン、メチルサイクロデキストリン、ヒドロキシエチルサイクロデキストリン、ヒドロキシプロピルサイクロデキストリン、メチルアミノサイクロデキストリン、アミノサイクロデキストリン、カルボキシエチルサイクロデキストリン、カルボキシメチルサイクロデキストリン、スルフォキシエチルサイクロデキストリン、スルフォキシルサイクロデキストリン、アセチルサイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン、サイクロデキストリン脂肪酸エステル、グルコシルサイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン等が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくはα-サイクロデキストリンを使用する。α-サイクロデキストリンは水への溶解性が高く、ざらつきの少ない水中油型エマルジョンを得ることができ好ましい。
【0026】
本発明の水中油型エマルジョンにおいてサイクロデキストリンは、増粘多糖類と共に水中油型エマルジョンの乳化や安定性に寄与し、かつ目的の用途における利用形態において所望の使用感を得ることが可能な量で含めることができる。例えば、本発明の水中油型エマルジョンにはサイクロデキストリンを、0.5質量%以上、1質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、4.5質量%以上、又は5質量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、15質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、もしくは6質量%以下とすることができる。本発明の水中油型エマルジョンにおけるサイクロデキストリンの量の範囲は前記下限及び上限の数値よりそれぞれ選択される2つの数値を用いて表すことができ、例えば、本発明の水中油型エマルジョンにはサイクロデキストリンを、0.5質量%~15質量%、例えば1質量%~15質量%、2.5質量%~10質量%、2.5質量%~9質量%、3質量%~9質量%、4質量%~8質量%、4.5質量%~9質量%又は5質量%~7質量%、好ましくは2.5質量%~9質量%、又は4.5質量%~9質量%の範囲より適宜選択される量で含めることができる。サイクロデキストリンの量が0.5質量%よりも少ないと当該水中油型エマルジョンの乳化や安定性が不十分となる場合があり、一方、15質量%よりも多い場合には当該水中油型エマルジョンの粘性が高くなりすぎる場合や、溶解できずにざらつきを生じる要因となる場合があり、いずれにおいても本発明の目的の用途における利用形態において、所望の使用感を得ることができない場合がある。
【0027】
本発明において「増粘多糖類」とは、一般的に、水に溶解し、粘性を付与する(増粘安定剤、水溶性糊料等とも呼ばれる場合がある)多糖類を意味し、このような増粘多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、スクシノグリカン、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム(脱アシル型、及びネイティブ型)、アラビアガム、ペクチン、α化でんぷん、リン酸架橋でんぷん、ヒドロキシプロピルでんぷん、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん、トラガントガム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸でんぷん、オクテニルコハク酸でんぷん、大豆多糖類、難消化デキストリン、ポリデキストロース、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、ゼラチン、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、カードラン、ガティガム、アラビアガラクタン、カラヤガム、ファーセラン、キチン、ウェランガム等が挙げられるが、これらに限定はされない。増粘多糖類はいずれか単独で用いてもよいし、異なる増粘多糖類を組み合わせて用いてもよく、本発明の利用態様に応じて、適当なものを選択して用いることができる。例えば、本発明を、飲食品、医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品等の分野に用いる場合には、飲食品や医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品等の製造において通常用いられている成分を利用することが好ましい。本発明において「増粘多糖類」は、より好ましくは、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、スクシノグリカン、ローカストビーンガム、グアーガム、グルコマンナン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、タマリンドガム、及び、ジェランガムであり、さらに好ましくは、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガム、及びスクシノグリカンである。これらの増粘多糖類は、本発明の水中油型エマルジョンにとりわけ高い乳化安定性を付与することができ好ましい。
【0028】
本発明の水中油型エマルジョンにおいて増粘多糖類は、サイクロデキストリンと共に水中油型エマルジョンの乳化や安定性に寄与し、かつ目的の用途における利用形態において所望の使用感を得ることが可能な量で含めることができる。例えば、本発明の水中油型エマルジョンには増粘多糖類を、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上の量で含み、その上限は特に限定されるものではないが、例えば、1質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下、又は0.5質量%以下とすることができる。本発明の水中油型エマルジョンにおける増粘多糖類の量の範囲は前記下限及び上限の数値よりそれぞれ選択される2つの数値を用いて表すことができ、例えば、本発明の水中油型エマルジョンには、増粘多糖類を、0.05質量%~1質量%、0.1質量%~1質量%、0.2質量%~0.8質量%、又は0.2質量%~0.5質量%の範囲より適宜選択される量で含めることができる。増粘多糖類の量が0.05質量%よりも少ないと当該水中油型エマルジョンの乳化や安定性が不十分となる場合があり、一方、1質量%よりも多い場合には当該水中油型エマルジョンの粘性が高くなりすぎる場合があり、いずれにおいても本発明の目的の用途における利用形態において、所望の使用感を得ることができない場合がある。
【0029】
本発明の水中油型エマルジョンにおいては、水の存在下における上記サイクロデキストリンと上記増粘多糖類の併用により水中油型エマルジョンの乳化や安定性を付与する。上記サイクロデキストリンと上記増粘多糖類の併用によりもたらされる水中油型エマルジョンの乳化や安定性は、一般的なゲル化剤が水に溶解され冷却することにより形成される3次元マトリックスゲルに依拠するものではなく(好ましくは、3次元マトリックスゲルを含むものではなく)、下記実施例により詳述するように、上記サイクロデキストリンと上記増粘多糖類との間で生じる水素結合による相互作用の存在によるものであると考えられる。また、本発明の水中油型エマルジョンは、上記サイクロデキストリンと上記増粘多糖類の併用により、乳化や安定性を有するものであることから、従来乳化組成物の製造において一般的に利用されている乳化剤を実質的に含まないものとしてもよく、好ましくは当該乳化剤を実質的に含まない。本発明において「乳化剤を実質的に含まない」とは、本発明の水中油型エマルジョンにおいて、乳化剤が乳化作用を発揮する態様で含まれないことを意味し、乳化剤が一切含まれないことを意図するものではない。本発明は、乳化剤を実質的に含まないことにより、例えば、本発明の水中油型エマルジョンを適用する場合に、刺激が少ない、アレルゲン性が低い等の安全性の高い有利な水中油型エマルジョンを得ることができる。「従来乳化組成物の製造において一般的に利用されている乳化剤」としては、例えば、タンパク質、ペプチドもしくはそれらの加水分解物、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0030】
本発明の水中油型エマルジョンの形態は特に限定されず、上記水分含量を有する形態の他、水分含量を減少させて調製された、半固体/半液体(ゲル、ゾル等)や乾燥体(例えば、粉体、フレーク等)の形態で提供とすることができる。このような半固体/半液体(ゲル、ゾル等)や乾燥体(例えば、粉体、フレーク等)の形態は、上記水分含量を有する形態の水中油型エマルジョンを得たのち、それを従来公知の乾燥手段に付して、当該水中油型エマルジョンの水分含量を減少させることにより得ることができる。このような乾燥手段としては、例えば、凍結乾燥、加熱乾燥、風乾、噴霧乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、これらに限定はされない。乾燥手段に付された後の当該水中油型エマルジョンの水分含量は、目的とする形態に応じて適宜選択することが可能である。乾燥体の形態であれば例えば、15質量%未満、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。乾燥手段に付された後の当該水中油型エマルジョンの水分含量の下限は特に限定されないが、0質量%以上、0質量%超、0.1質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、又は0.8質量%以上とすることができる。当該乾燥体の形態の水分含量の範囲は前記上限及び下限の数値よりそれぞれ選択される2つの数値を用いて表すことができ、例えば、当該水中油型エマルジョンの水分含量は、0質量%~15質量%未満、0質量%超15質量%未満、0.1質量%~15質量%未満、0.1質量%~10質量%、0.5質量%~5質量%、0.5質量%~1質量%、0.6質量%~1質量%、0.7質量%~1質量%、又は0.8質量%~1質量%とすることができる。乾燥手段に付された後の本発明の水中油型エマルジョンは相転移を生じて油中水型エマルジョンを生じるものではなく、そして、とりわけ、乾燥体の形態は、高温(例えば、100℃~200℃程度)条件、及び/又は多湿(例えば、~95%湿度程度)条件に付された後においても、変色や溶解を生じることのない、高い耐熱性及び耐湿性を有するものである。
【0031】
本発明の水中油型エマルジョンには、上記成分に加えて、必要に応じてさらに、目的の用途における利用形態の製造において通常用いられている成分(以下、「その他の成分」と記載する)を、本発明の効果を損なわない範囲で、所望の利用形態に応じた量にて適宜配合することができる。このようなその他の成分としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、懸濁化剤、増粘剤、保存剤、抗菌剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、染料、色素、潤滑剤、可塑剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、矯味矯臭剤、ビタミン類、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。その他の成分は、その親水性、親油性、又は疎水性の特性に応じて、水相又は油相に含めることができる。
【0032】
本発明の水中油型エマルジョンは、水、疎水性物質、サイクロデキストリン、及び、増粘多糖類、ならびに必要に応じてその他の成分を上記の量にて混合、攪拌することにより製造することができる。各成分は全て一緒に混合、攪拌してもよいし、各成分を別々にもしくは任意の組み合わせで順次添加して(順序は問わない)混合、攪拌してもよい。例えば、水に予めサイクロデキストリン、及び、増粘多糖類、ならびに必要に応じてその他の成分を添加した上で、必要に応じてその他の成分を予め添加した疎水性物質と混合、攪拌させてもよい。混合、攪拌して得られた水中油型エマルジョンは、必要に応じて、加熱殺菌処理に付してもよい。
【0033】
また、混合、攪拌して得られた水中油型エマルジョンは、必要に応じてさらに乾燥手段に付してもよい。乾燥手段は、上記従来公知の乾燥手段により行うことができ、当該水中油型エマルジョンの水分含量を、半固体/半液体(ゲル、ゾル等)や乾燥体の目的とする形状に応じて適宜調整することができる。得られた乾燥体は、必要に応じてさらに破砕、粉砕、又は摩砕処理に付して粉体やフレーク等の形態とすることができる。乾燥手段に付されて得られた水中油型エマルジョンには、必要に応じてその他の成分を上記の量にて混合、攪拌してもよく、ならびに/あるいは、加熱殺菌処理に付してもよい。
【0034】
2.用途
本発明の水中油型エマルジョンは、標的成分を阻害するために用いられる阻害剤として利用することができる。
【0035】
本発明において「阻害剤」とは、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害すること、ならびに/あるいは、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害し、それによって当該阻害剤を使用しない場合と比べて、当該対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害すること、を可能とする剤を意味する。
【0036】
本発明において「対象」とは、標的成分が接触、及び/又は付着すること、ならびに/あるいは、標的成分が接触、及び/又は付着することによってその効果を奏すること、が望ましくないものを指し、本発明の水中油型エマルジョンの塗布又は付着させることを可能とするものであるかぎり任意のものを対象とすることができる。例えば、本発明において「対象」とは、動物の組織や、物(例えば、キッチン用品、床、壁、玩具、自動車等の乗り物、スマートフォン等の電化製品等)が挙げられ(これらに限定はされない)、標的成分に応じて適宜選択、又は決定することができる。
【0037】
本発明において「動物」とは、特に限定されるものではなく任意の動物であってよいが、好ましくは哺乳動物であり、例えば、ヒト、家畜動物(ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ、ウサギ、ハムスター、モルモット等)が挙げられるが(これらに限定はされない)、より好ましくはヒトである。
【0038】
本発明において「組織」とは、皮膚、口腔、食道、肛門、膣、鼻腔、気管、気管支、胃、小腸、大腸、卵管、子宮、胸膜、腹膜、血管内皮、肺胞、甲状腺(濾胞)、尿細管、尿管、膀胱等でみられる各種上皮組織や毛髪、爪、歯等が挙げられ、目的とする適用部位に応じて適宜選択することができる。本発明において「上皮組織」とは、好ましくは皮膚、口腔等でみられる各種上皮組織である。
【0039】
本発明の阻害剤は、対象に標的成分と共に適用されると、水中油型エマルジョンが対象の適用部位に付着し、そこで、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害すること、ならびに/あるいは、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害し、それによって当該阻害剤を使用しない場合と比べて、当該対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害することができる。
【0040】
本発明において「標的成分と共に適用される」とは、本発明の水中油型エマルジョンと標的成分とが、対象の適用部位にて併存できる時間内に両者が適用されればよく、例えば、本発明の水中油型エマルジョンと標的成分とを一つの組成物中に含めて同時に適用してもよいし、あるいは両者を別々の形態及び/又は別々の適用手段/経路で、同時に又は前後して(好ましくは、本発明の水中油型エマルジョン、次いで標的成分の順序で)適用してもよい。本発明の水中油型エマルジョンを「適用」する方法は、標的成分や対象の種類や形態に応じて適宜選択することができる。例えば、対象が動物の組織である場合には、当該動物に投与する又は摂取させることにより行うことができる。「投与」は、適用部位である組織に本発明の水中油型エマルジョンと標的成分とを送達できればよく、本発明の水中油型エマルジョンと標的成分の形態や量等に応じて適宜選択することができる。例えば、「投与」には、経口投与、噴霧投与、吸引、経鼻投与、口腔内投与、直腸内投与、経皮投与、塗布等が挙げられるが、これらに限定はされない。また、対象が物である場合には、当該物に対して散布、噴霧、塗布等することにより行うことができる。
【0041】
本発明の阻害剤は、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害すること、ならびに/あるいは、対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害することが可能な任意の量で、対象に適用することができ、その量は、対象や標的成分の種類に応じて、当業者が適宜設定することができる。
また、本発明の阻害剤は、対象に適用後、水及び/又は中性洗剤で洗浄してもよく、洗浄後も、当該対象において標的成分が接触、及び/又は付着すること、ならびに/あるいは、当該対象において標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害することができる。
【0042】
本発明において「標的成分」とは、疎水性物質に対する親和性が低いこと、及び/又は増粘多糖類に対する親和性が低いことを特徴とするものであればよい。標的成分について、「疎水性物質に対する親和性が低い」か否かは、下記実施例に詳述されるように、疎水性物質中に標的成分を滴下して、両者の分離状況を目視で確認することにより容易に判定することができる。すなわち、「疎水性物質対する親和性が低い」場合には、疎水性物質中に滴下した標的成分は溶解せず、分離/沈殿するため、明確に判定することができる。あるいは、「疎水性物質に対する親和性が低い」ことは、標的成分の溶解パラメーター(Solubility Parameter、SP値)によって判定することができ、「疎水性物質に対する親和性が低い」標的成分の溶解パラメーターはおよそ10cal/cm3以上、好ましくは15cal/cm3以上で表され、上限値は特に限定されないが、例えば30cal/cm3以下が好ましい。なお、標的成分のSP値は従来公知の手法に基づいて算出することが可能であり、すなわち、Fedors法に基づき分子構造から算出された値を用いて表すことができる。SP値(δ)は、下記式により求めることができる。
δ=(ΔE/ΔV)1/2(cal/cm31/2
式中、ΔEは、標的成分の分子が有する原子及び原子団の、蒸発エネルギー(cal/mol)の総和を表し、ΔVは、標的成分の分子が有する原子及び原子団の、25℃におけるモル体積(cm3/mol)の総和を表す。
蒸発エネルギー及びモル体積は、Robert F.Fedors,A method for estimating both the solubility parameters and molar volumes of liquids.Polymer Engineering and Science,14,147-154(1974).に記載の数値を用いることができる。
【0043】
また、「増粘多糖類に対する親和性が低い」標的成分の溶解パラメーターはおよそ15cal/cm3以下、好ましくは10cal/cm3以下で表され、下限値は特に限定されないが、例えば2cal/cm3以上が好ましい。
【0044】
本発明において「標的成分」としては、上記の特性を有する、味質の成分、色素、汚れ成分、臭い成分、アレルゲン、毒物等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の阻害剤は、味のマスキング剤、防汚剤、防臭剤、防汚用塗料もしくはワックス等(これらに限定はされない)として利用することができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0045】
実験1:水中油型エマルジョンの乳化安定性の評価
(1)水中油型エマルジョンの作製
以下の表1の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、水中油型エマルジョンを作製した。疎水性物質としては油脂(キャノーラ油)を使用し、増粘多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グルコマンナン、グアーガム、κ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム、キサンタンガム、ι-カラギーナン、ローカストビーンガム、λ-カラギーナン、対照として非多糖類の増粘剤であるカルボキシルビニルポリマーとポリアクリル酸ナトリウムのいずれか一つを配合した。
【0046】
各成分の混合は一度に行い、ハンドブレンダーを用いて20,000rpmにて10分間攪拌して行った。得られた各水中油型エマルジョン(50mL)をコニカルチューブ(Falcon(登録商標)コニカルチューブ50mL)に移し、3000rpmにて1分間で遠心した。次いで、水相、ミセル、油相の厚み(深さ)を目視で観察し、各相の割合(%)を計測して、各組成物の乳化安定性を評価した。評価はミセルの割合が100%であるものを「◎」、ミセルの割合が70%以上かつ100%未満であるものを「〇」、ミセルの割合が70%未満であるものを「×」として行った。
【0047】
なお、以下に記載される表中の各成分の量は、得られた水中油型エマルジョンの量を100質量%とする、質量%の量にて示される。油脂、α-サイクロデキストリン、及び増粘多糖類はいずれも食品添加物(食品グレード)を使用した。
【0048】
【表1】
【0049】
(2)結果
水中油型エマルジョンに添加した増粘多糖類と、計測された各相の割合、及び評価結果を表2に示す。水、疎水性物質、α-サイクロデキストリンと共に増粘多糖類を添加、混合することにより水中油型エマルジョンを形成することが可能であるが、上記結果より明らかなとおり、増粘多糖類として、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グルコマンナン、グアーガム、κ-カラギーナン、タマリンドガム、ジェランガム、キサンタンガム、ι-カラギーナン、ローカストビーンガム、λ-カラギーナンを用いた場合には、上記条件下においても水中油型エマルジョンのミセル相が維持され、特に高い乳化安定性を示すことが確認された。とりわけ、CMC、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガムをそれぞれ添加した場合には、水相及び油相の分離は認められず、顕著に高い乳化安定性が確認された。一方、非多糖類の増粘剤の添加によっては、上記条件下において水相と油相の分離が大きく、乳化安定性が比較的低いことが確認された。
【0050】
【表2】
【0051】
以下の表3の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、水中油型エマルジョンを作製した。疎水性物質としては、オイルレッドを1%の量で含む、カルナバロウ、ワセリンワックス(白色ワセリン)、ロジン、シリコーン油のいずれか一つを使用し、増粘多糖類としては、キサンタンガムを配合した。表中の各成分の量は、得られた水中油型エマルジョンの量を100質量%とする、質量%の量にて示される。
【0052】
上記と同様の手法にて各成分の混合、攪拌を行い、得られた各水中油型エマルジョン(50mL)をコニカルチューブ(Falcon(登録商標)コニカルチューブ50mL)に移し、3000rpmにて1分間で遠心した。次いで、水相、ミセル、油相の厚み(深さ)を目視で観察し、各相の割合(%)を計測して、各組成物の乳化安定性を上記と同様に評価した。
【0053】
【表3】
【0054】
水中油型エマルジョンに添加した疎水性物質と、計測された各相の割合、及び評価結果を表4に示す。この結果より、油脂だけでなく、その他の疎水性物質を用いた場合においても、水中油型エマルジョンを形成することができ、また上記条件下においても水中油型エマルジョンのミセル相が維持され、高い乳化安定性が得られることが確認された。
【0055】
【表4】
【0056】
実験2:水中油型エマルジョンにおけるα-サイクロデキストリンと増粘多糖類間の相互作用の評価
水溶液中のα-サイクロデキストリンと増粘多糖類との相互作用を評価するため、従来公知の手法に準じた等温滴定型熱量測定(Isothermal Titration Calorimetry;ITC)によりエンタルピー変化(ΔH)を求めた。すなわち、等温滴定カロリメータ(NANO ITC SV;TA Instruments)を用いてα-サイクロデキストリンの水溶液(25g/100mL)に、増粘多糖類の水溶液(0.05g/100mL)を180秒ごとに10μLを25回(75分)にわたって滴下し、25回目(最終)の滴定ピークの面積よりエンタルピー値(μJ)を求めた。対照として非多糖類の増粘剤であるカルボキシルビニルポリマーとポリアクリル酸ナトリウムを用いて、同様にエンタルピー値(μJ)を求めた。
【0057】
結果を表5に示す。上記実験1においてとりわけ高い乳化安定性が示された増粘多糖類(CMC、及びキサンタンガム)を用いた場合においてプラスのエンタルピー値、すなわち吸熱反応が認められた。この結果は、増粘多糖類とα-サイクロデキストリンとの間で、水和水を介した相互作用の存在を示唆するものであり、例えば、増粘多糖類に水和していた水分子の一部が、α-サイクロデキストリンと水素結合することが考えられる。通常、水分子間で形成される水素結合は、荷電部位による分子間反発を生じる増粘多糖類とα-サイクロデキストリンとの間で形成される水素結合よりも距離が短くエネルギー値が高い。このため、増粘多糖類に水和していた水分子の一部が、α-サイクロデキストリンと水素結合する場合、エネルギー値の差し引きの結果として吸熱反応を生じるものと考えられる。熱量の移動(プラスのエンタルピー値)は増粘多糖類とα-サイクロデキストリンとの間で生じる相互作用の存在を示唆するものであり、この相互作用が上記実験1において、水中油型エマルジョンに高い乳化安定性を生じる要因であると考えられる。
【0058】
【表5】
【0059】
実験3:水中油型エマルジョンの性能評価(風味抑制)
(1)標的成分と疎水性物質の親和性の確認
標的成分として、辛味、刺激性、温感が感じられるアリルイソチオシアネート、及びオルガノオイルを使用し(いずれもオイル製剤である)、疎水性物質として、キャノーラ油を使用した。疎水性物質100mLに対して、各標的成分1mLを滴下して、両者の分離状況を目視により確認した。
【0060】
その結果、いずれの標的成分についても、疎水性物質を入れた容器の底部に球体状に複数沈殿していることが確認された。この結果は、当該標的成分が、疎水性物質に対し、低い親和性を有するか、又は全く親和性を有していないことを示す。
【0061】
(2)水中油型エマルジョンの併用による風味抑制の効果I
以下の表6の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、水中油型エマルジョンを作製した。各成分の混合は一度に行い、ポリトロンホモジナイザーを用いて2,000rpmにて5分間攪拌して行った。
【0062】
なお、表中の各成分の量は、得られた水中油型エマルジョンの量を100質量%とする、質量%の量にて示される。
【0063】
【表6】
【0064】
得られた水中油型エマルジョンに標的成分であるアリルイソチオシアネート、オルガノオイル、及び、カプサイシン(増粘多糖類と親和性の低い成分に該当する)をそれぞれ、0.05質量%、1質量%、及び、0.03質量%の量で加えて、上記と同様に攪拌し、実施例1、実施例2、実施例3の組成物とした。
【0065】
対照には、疎水性物質であるキャノーラ油に、アリルイソチオシアネート、オルガノオイルをそれぞれ、0.05質量%、1質量%の量で加えて、上記と同様に攪拌して得られた組成物(比較例1、比較例2)、ならびに、キャノーラ油のみ(比較例3)及び水中油型エマルジョンのみ(比較例4)を用いた。
【0066】
よく訓練された専門のパネラーら(5名)が、実施例1、実施例2、比較例1~4の組成物について、10mLずつ摂取し、標的成分に由来する辛味、刺激性、温感について官能評価した。評価に際しては、同一の標的成分を含む、実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2の間の比較で行い、それぞれ比較例の官能評価の結果を「5」とする10段階評価で行った。比較例3及び比較例4はネガティブコントロールとして絶対値評価した。
結果を以下の表7に示す。なお、各結果は、5名のパネラーの評価結果の平均値を示す。
【0067】
【表7】
【0068】
標的成分を含まない、キャノーラ油のみ(比較例3)及び水中油型エマルジョンのみ(比較例4)においては、辛味、刺激性、温感のいずれも感じられなかった。
【0069】
実施例1、及び実施例2のいずれにおいても、辛味、刺激性、温感の全ての項目について、比較例1、及び比較例2と比べて弱く感じられることが確認された。
【0070】
(3)水中油型エマルジョンの併用による風味抑制の効果II
次に、水中油型エマルジョンのみ(比較例4)10mLを1分間口に含んで、口腔内に付着させた後に吐き出し、口内を洗浄し(20mLの水にてすすぎ×2回)、次いで、比較例1、及び比較例2(10mL)をそれぞれ摂取し、標的成分に由来する辛味、刺激性、温感について官能評価し、その結果を実施例4、及び実施例5とした。評価は、よく訓練された専門のパネラーら(5名)が行い、比較例1、及び比較例2の評価を5とする、10段階で評価した。
結果を以下の表8に示す。なお、各結果は、5名のパネラーの評価結果の平均値を示す。
【0071】
【表8】
【0072】
これらの結果より、標的成分を予め水中油型エマルジョン中に含めず、口腔内に水中油型エマルジョンを付着させたところに、標的成分を摂取するだけでも、当該成分に由来する風味の強度が抑えられることが確認された。これは、標的成分が口腔内に付着された水中油型エマルジョンによって、その風味を感じる感覚受容体に近づくことが阻害されるためであると考えられる。
【0073】
また、水中油型エマルジョンのみ(比較例4)10mLを1分間口に含んで、口腔内に付着させた後に吐き出し、口内を洗浄し(20mLの水にてすすぎ×2回)、次いで、実施例3(10mL)を摂取し、標的成分に由来する辛味、刺激性、温感について官能評価し、その結果を実施例6とした。評価は、よく訓練された専門のパネラーら(5名)が行い、比較例4を予め口に含むことなく実施例3を摂取した際の評価を5とする、10段階で評価した。
結果を以下の表9に示す。なお、各結果は、5名のパネラーの評価結果の平均値を示す。
【表9】
【0074】
結果、口腔内に水中油型エマルジョンを付着させたところに、実施例3を摂取すると、辛味の強度が抑えられることが確認された。これは、標的成分が口腔内に付着された水中油型エマルジョンによって、その風味を感じる感覚受容体に近づくことが阻害されたためであると考えられる。
【0075】
以上の結果より、本発明の水中油型エマルジョンにおける疎水性物質又は、増粘多糖類との親和性が低い標的成分は、本発明の水中油型エマルジョンとの併用によって、その効果(辛味等の強度)が抑制されることが確認された。
【0076】
実験4:水中油型エマルジョンの性能評価(色素沈着抑制)
(1)水中油型エマルジョンによる色素沈着抑制の効果
上記の表6の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、水中油型エマルジョンを作製した。各成分の混合は一度に行い、ポリトロンホモジナイザーを用いて2,000rpmにて5分間攪拌して行った。
【0077】
得られた水中油型エマルジョン10mLを、右手手のひら全面に入念に塗布し、その後中性洗剤を用いて洗浄し、よく乾かした。次いで、右手にクルクミン色素(ターメリックカラーHH-1187(高砂香料工業株式会社製))(増粘多糖類と親和性の低い成分に該当する)10mgをのせ、スパテラで均等になるように伸ばしながら塗布した。デジタルマイクロスコープ(30倍)で観察した後、中性洗剤を用いて洗浄し、残存したクルクミン色素をデジタルマイクロスコープ(30倍)で観察した。
【0078】
対照として、左手手のひらを用いて、水中油型エマルジョンを塗布しないこと以外は同様に操作した後、同様に観察した。
結果を、図1に示す。
【0079】
水中油型エマルジョンを塗布、洗浄したところに、クルクミン色素を塗布すると、色素は撥かれて所々でまとまり、広く塗布することはできなかった(図1A)。そして、色素を洗浄したところ、色素の沈着はほとんど認められず、きれいに洗い流されていた(図1B、E(右))。
【0080】
一方、水中油型エマルジョンを塗布しない場合には、クルクミン色素は広範囲に広がり(図1a)、また洗浄しただけでは色素を洗い流すことができず、色素の沈着が広く認められた(図1b、E(左))。
【0081】
その後、右手手のひらにさらに同様にしてクルクミン色素を塗布、洗浄したところ、同様に色素は撥かれて、きれいに洗浄することができ(図1D、E)、水中油型エマルジョン塗布による効果が、中性洗剤を用いた洗浄後も長く維持されることが確認された。
【0082】
実験5:水中油型エマルジョンの性能評価(におい付着抑制)
(1)水中油型エマルジョンによるにおい付着抑制の効果
上記の表6の組成にしたがって、各成分を添加、混合し、水中油型エマルジョンを作製した。各成分の混合は一度に行い、ポリトロンホモジナイザーを用いて2,000rpmにて5分間攪拌して行った。
【0083】
得られた水中油型エマルジョン10mLを、右手手のひら全面に入念に塗布し、その後中性洗剤を用いて洗浄し、よく乾かした。次いで、右手におろしにんにく(特選本香り生にんにく((ハウス食品株式会社製))1gをのせ、スパテラで均等になるように伸ばしながら塗布した。その手のひらのにんにくのにおいを官能評価(洗浄前)した後、中性洗剤を用いて洗浄し、残存したにんにくのにおいを最初の官能評価の結果を10とする、10段階で官能評価した(洗浄後)。なお、にんにくのにおい成分は、増粘多糖類と親和性の低い成分に該当する。
【0084】
対照として、左手手のひらを用いて、水中油型エマルジョンを塗布しないこと以外は同様に操作した後、同様に官能評価した。
結果を以下の表10に示す。なお、評価は、よく訓練された専門のパネラーら(3名)が行った。
【0085】
【表10】
【0086】
水中油型エマルジョンを塗布、洗浄したところに、おろしにんにくを塗布しても、洗浄するだけで、においがほとんど残らないことが確認された。
【0087】
一方、水中油型エマルジョンを塗布しない場合には、洗浄しただけでは手のひらに付着したにおいを洗い流すことはできていなかった。
【0088】
以上のとおり、本発明に係る水中油型エマルジョンによれば、対象に付着して、そこで、標的成分が対象に接触、及び/又は付着することを抑制、又は阻害すること、またそれによって当該阻害剤を使用しない場合と比べて、標的成分が奏する効果を抑制、又は阻害することが可能であり、標的成分の阻害剤として、飲食品、医薬品、化粧品など、様々な分野において利用されることが期待されるものである。
図1