(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145428
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】流体処理装置、点灯回路
(51)【国際特許分類】
C02F 1/32 20230101AFI20241004BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20241004BHJP
H01J 65/00 20060101ALI20241004BHJP
H01J 61/56 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C02F1/32
H05H1/24
H01J65/00 D
H01J61/56 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057772
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 孝治
(72)【発明者】
【氏名】浦上 英之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】至極 稔
【テーマコード(参考)】
2G084
4D037
【Fターム(参考)】
2G084AA11
2G084AA19
2G084AA25
2G084CC19
2G084EE15
4D037AA01
4D037AB01
4D037AB02
4D037BA18
(57)【要約】
【課題】流体の処理状態によらず、誘電体バリア放電ランプを安定的に点灯させることができる流体処理装置、及び点灯回路を提供する。
【解決手段】直流電源と、一次側巻線と二次側巻線とを有するトランスと、少なくとも一つのスイッチング素子と、スイッチング素子のON状態とOFF状態の切り替えを制御する制御部とを含む、フライバック方式の点灯回路と、発光ガスが封入された発光管に配置された第一電極と、発光管と離間して配置された第二電極とを有し、第一電極と第二電極との間に処理対象の流体が流し込まれる空間が介在している、トランスの二次側巻線に接続される誘電体バリア放電ランプとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、一次側巻線と二次側巻線とを有するトランスと、少なくとも一つのスイッチング素子と、前記スイッチング素子のON状態とOFF状態の切り替えを制御する制御部とを含む、フライバック方式の点灯回路と、
発光ガスが封入された発光管に配置された第一電極と、前記発光管と離間して配置された第二電極とを有し、前記第一電極と前記第二電極との間に処理対象の流体が流し込まれる空間が介在している、前記トランスの前記二次側巻線に接続される誘電体バリア放電ランプとを備えることを特徴とする流体処理装置。
【請求項2】
前記スイッチング素子は、寄生ダイオードを備えていることを特徴とする請求項1に記載の流体処理装置。
【請求項3】
前記一次側巻線に流れる一次側電流を検知する検知部を備え、前記制御部は、前記検知部からの検知信号に基づいて、前記スイッチング素子のON状態とOFF状態とを切り替える周波数を変更することを特徴とする請求項1に記載の流体処理装置。
【請求項4】
前記検知部は、前記スイッチング素子と直列に接続された抵抗体を備えることを特徴とする請求項3に記載の流体処理装置。
【請求項5】
前記検知部は、前記抵抗体と並列に接続されるとともに、アノード端子が前記直流電源の負極端子側に接続され、前記直流電源の正極端子側に接続されたダイオード素子を備えることを特徴とする請求項4に記載の流体処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、所定の周波数で前記スイッチング素子のON状態とOFF状態とを繰り返す第一制御モードと、前記第一制御モードにおける前記スイッチング素子のON状態とOFF状態とを繰り返す周期よりも長い期間にわたって、前記スイッチング素子をOFF状態で維持する第二制御モードとを実行するように構成されており、前記検知部からの検知信号に基づいて、前記第二制御モードの実行期間を決定することを特徴とする請求項3に記載の流体処理装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の点灯回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体処理装置、及び流体処理装置に搭載される点灯回路に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度の水の製造は、半導体や精密機器の洗浄、医薬品製造、微量分析機器等において不可欠となっている。例えば、半導体装置の製造工程における洗浄処理では、高濃度の薬液や洗剤とともに、それを濯ぐための大量の純水(超純水)が用いられる。近年、半導体デバイスにおける回路パターンの微細化、高密度化、高集積化に伴い、純水の水質に対する要求が高まっている。洗浄工程等において使用される純水は、水質管理項目の一つである全有機炭素(TOC:Total Organic Carbon)の濃度を極めて低いレベルとすることが求められる。なぜなら、仮に、純水に有機物が多く含まれていると、その後の熱処理工程において当該有機物が炭化し、絶縁不良を引き起こすおそれがあるためである。
【0003】
純水の水質に対する要求が高まっていることを背景に、近年、純水中に含まれる微量の有機物を分解し除去する様々な方法が検討されてきている。そのような方法の代表的なものとして、水に対して紫外光を照射することで、流体に含まれる有機物の分解除去方法が存在する(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の装置は、電極間に処理対象の流体が流し込まれることで通電経路が形成されて点灯するように構成された誘電体バリア放電ランプから、当該流体に対して紫外光を照射する流体処理装置である。
【0006】
ここで、本発明者は、流体処理装置の更なる改良について鋭意検討していたところ、従来の流体処理装置では、流体の処理過程において、徐々に誘電体バリア放電ランプの点灯状態が不安定になる、又は誘電体バリア放電ランプが消灯してしまう場合があることに気が付いた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、流体の処理状態によらず、誘電体バリア放電ランプを安定的に点灯させることができる流体処理装置、及び点灯回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の流体処理装置は、
直流電源と、一次側巻線と二次側巻線とを有するトランスと、少なくとも一つのスイッチング素子と、前記スイッチング素子のON状態とOFF状態の切り替えを制御する制御部とを含む、フライバック方式の点灯回路と、
発光ガスが封入された発光管に配置された第一電極と、前記発光管と離間して配置された第二電極とを有し、前記第一電極と前記第二電極との間に処理対象の流体が流し込まれる空間が介在している、前記トランスの前記二次側巻線に接続される誘電体バリア放電ランプとを備えることを特徴とする。
【0009】
誘電体バリア放電ランプの点灯には、直流電源からトランスを介して誘電体バリア放電ランプに電圧を印加する点灯方式が採用され得る。具体的な回路方式の例としては、フライバック方式やプッシュプル方式、ハーフブリッジ方式、フルブリッジ方式等がある。
【0010】
上述したように、流体処理装置は、処理実施時、すなわち、誘電体バリア放電ランプの点灯時において、誘電体バリア放電ランプと、電気回路を構成する配線等と比較すると電気伝導率が低い流体とが直列に接続された通電経路が形成された状態とになる。このような状態において、誘電体バリア放電ランプに対して点灯に必要な電圧を印加するには、流体を介さずに直接配線接続されている場合に比べて、トランスの二次側により高い起電力を発生させる必要がある。
【0011】
このような事情から、一般的には、上述した点灯回路の各方式から、相対的に大きな出力が期待されるプッシュプル方式やハーフブリッジ方式、フルブリッジ方式が採用される。
【0012】
そこで、本発明者は、流体処理用の誘電体バリア放電ランプに対し、従来の誘電体バリア放電ランプにおいて、一般的に適用されるプッシュプル方式やハーフブリッジ方式、フルブリッジ方式の点灯回路を適用した流体処理装置を構成することを検討していた。
【0013】
ところが、上記方式を採用した流体処理装置では、上述したように、流体の処理過程において、誘電体バリア放電ランプが不安定な点灯状態となる、又は不点灯となってしまうという事象が発生する場合があった。
【0014】
本発明者は、鋭意研究により、当該事象が流体の処理が進行することによって流体の電気伝導率が変化することに起因した事象であることを突き止めた。以下、その詳細について説明する。
【0015】
プッシュプル方式やハーフブリッジ方式、フルブリッジ方式の点灯回路は、スイッチング素子のON状態とOFF状態とを切り替えることによって、トランスの一次側巻線に生じる電流の方向を切り替えて、二次側巻線に起電力を生じさせる回路である。そして、これらの回路方式は、スイッチング素子を切り替える瞬間を除いて、常に閉回路が形成される回路構成である。
【0016】
トランスは、一次側巻線における電流の変化に応じて二次側巻線に起電力を生じさせる回路素子、回路装置であるが、一般的には、二次側巻線における電流の変化に応じて一次側巻線にも起電力が生じる。
【0017】
誘電体バリア放電ランプの電極間における放電が停止した後、電極間に蓄積した電荷が放出される。このような電荷の放出が生じると、トランスの二次側巻線には、誘電体バリア放電ランプの点灯時における電流とは逆方向の電流が発生する。当該電流が発生すると、上述したように、トランスの二次側巻線に電流の変化が生じることにより、一次側巻線に起電力が生じることとなる。
【0018】
一次側巻線に起電力が生じた時には、一次側巻線に接続されたスイッチング素子は、ON状態とOFF状態とが切り替わっている。このため、上述した事象により一次側巻線に発生した起電力は、一次側巻線に接続された閉回路において、各素子における分圧比を変化させる。このような変化は、スイッチング素子のON状態とOFF状態を切り替えた後にトランスの一次側巻線に流れる電流の大きさに影響を与える。
【0019】
流体は、処理が進行すると、不純物が分解除去されること等により、多くの場合、電気伝導率が変化する。一例ではあるが、水に紫外光を照射することによりTOCの分解除去を行う場合は、有機物の減少に伴って、当該水の電気伝導率は低下することになる。
【0020】
電気伝導率の変化は、誘電体バリア放電ランプの電極間における放電が停止した後の、二次側巻線に流れる電流の大きさや、過渡特性に影響する。そして、この二次側巻線に流れる電流の変化は、スイッチング素子のON状態とOFF状態とが切り替わった後において、一次側巻線に発生する起電力の大きさに影響する。
【0021】
さらに、スイッチング素子が切り替わった後に一次側巻線に発生する電流の大きさは、誘電体バリア放電ランプを点灯させる起電力を生じさせるために一次側巻線に流れる電流の大きさに影響する。そして、一次側巻線に生じる電流の大きさは、誘電体バリア放電ランプが接続されたトランスの二次側巻線に生じる起電力に影響する。
【0022】
つまり、スイッチング素子に切り替える瞬間を除いて、常に閉回路が形成される回路構成の場合、流体の電気伝導率の変化は、誘電体バリア放電ランプが接続されたトランスの二次側巻線に生じる起電力に影響することになる。
【0023】
そして、流体の電気伝導率の変化に起因して、誘電体バリア放電ランプを点灯させるために必要な起電力が発生しない状態となった場合には、上述したような、誘電体バリア放電ランプが不安定な点灯状態となる、又は不点灯となってしまうという事象が発生してしまう。
【0024】
上述したような原因を突き止めた本発明者は、電極間に処理対象とする流体を介在させることによって点灯させる誘電体バリア放電ランプの点灯回路としては、従来のように電力量に基づくのではなく、一次側巻線に生じる起電力の影響を受けにくい回路構成を採用すべきという新規な着想を得た。
【0025】
フライバック方式の点灯回路は、プッシュプル方式等とは異なり、スイッチング素子のON状態とOFF状態とが切り替わることで、トランスの一次側巻線が接続された回路が、開回路と閉回路とで切り変わる。つまり、誘電体バリア放電ランプにおける放電が停止し、一次側巻線に起電力が生じる際には、スイッチング素子がOFF状態となっている。
【0026】
そして、誘電体バリア放電ランプの放電の停止後に一次側巻線に生じる起電力は、次にスイッチング素子がOFF状態からON状態に切り替えられる際において、回路素子での発熱や接地端子への電荷放出等によって、そのほとんどが消費されていることになる。このため、フライバック方式の点灯回路では、一次側巻線に生じる起電力が、二次側巻線に生じさせる起電力にほとんど影響しない。
【0027】
したがって、上記構成とすることで、流体処理装置は、誘電体バリア放電ランプに印加される電圧が、処理の進行により変化する流体の電気伝導率の変化にほとんど影響されない。つまり、上記構成の流体処理装置は、流体の処理状態によらず、誘電体バリア放電ランプを安定的に点灯させることができる。
【0028】
上記流体処理装置において、
前記スイッチング素子は、寄生ダイオードを備えていても構わない。
【0029】
点灯回路がフライバック方式の回路である場合の最も単純な構成は、直流電源と、トランスの一次側巻線と、一つのスイッチング素子が直列に接続された構成である(
図3参照)。当該構成の回路は、スイッチング素子のON/OFF制御によって、トランスの一次側巻線に流し込まれる電流(以下、「一次側電流」という場合がある。)の供給と停止を切り替えることで二次側巻線に起電力を発生させる。
【0030】
フライバック方式の点灯回路は、スイッチング素子がOFF状態となった後、トランスの二次側巻線に流れる電流(以下、「二次側電流」という場合がある。)が停止すると、トランスの一次側巻線に直流電源とは極性が逆の電圧が誘起される。この誘起電圧が生じた時に、直流電源と、トランスの一次側巻線と、スイッチング素子とが直列に接続された回路が、スイッチング素子がOFF状態であることによって開回路となっていた場合、スイッチング素子の入出力端子間に高い電圧が印加されることになり、最悪の場合、スイッチング素子が破損してしまう。
【0031】
そこで、上記構成とすることで、トランスの一次側巻線に誘起された電圧が、直流電源が印加する電圧より大きくなった時に、直流電源の負極側から正極側へと電流が流れる経路が形成される。この時、スイッチング素子の入出力端子間に印加される電圧は、寄生ダイオードの順方向電圧と同じ電圧となるため、スイッチング素子の破損が抑制される。なお、当該寄生ダイオードを介して、トランスの一次側巻線に流れる電流は、「回生電流」と称される場合がある。
【0032】
上記流体処理装置は、
前記一次側巻線に流れる一次側電流を検知する検知部を備え、前記制御部は、前記検知部からの検知信号に基づいて、前記スイッチング素子のON状態とOFF状態とを切り替える周波数を変更するように構成されていても構わない。
【0033】
さらに、上記流体処理装置において、
前記検知部は、前記スイッチング素子と直列に接続された抵抗体を備えた構成であっていても構わない。
【0034】
抵抗体を備える検知部とは、例えば、抵抗素子や、シャント抵抗器等であって、抵抗体を流れる電流の電流値、又は抵抗体の端子間に印加される電圧の電圧値を、直接的、又は間接的に検知する構成の検知部である。つまり、抵抗体を備える検知部による検知とは、抵抗体に流れる電流の電流値、抵抗体の端子間に印加される電圧の電圧値、又はこれらと相関性を持つパラメータを検知することを意味する。
【0035】
さらに、上記流体処理装置において、
前記検知部は、前記抵抗体と並列に接続されるとともに、アノード端子が前記直流電源の負極端子側に接続され、前記直流電源の正極端子側に接続されたダイオード素子を備えていても構わない。
【0036】
上述のとおり、フライバック方式の点灯回路は、液体の電気伝導率が変化しても、二次側巻線に生じさせる起電力はほとんど影響しないため、誘電体バリア放電ランプを安定的に点灯させることができる。
【0037】
しかしながら、流体の電気伝導率が非常に高い場合において、回生電流の変動によって一次側電流I1が高くなってしまう場合がある。これは、トランスの一次側巻線側の回路における電力負荷が高くなり、設計する回路構成によっては、定格電力を超えてしまう可能性がある。特に、処理対象となる液体の電気伝導率が非常に高い状態(例えば、100μS/cm以上)において、懸念が大きくなる。
【0038】
そこで、上記構成とすることにより、粒体の電気伝導率が大きく変化した場合において、一次側巻線に流れる電流を検知部で検知し、検知部からの検出信号を制御部へ出力することで、制御部によってスイッチング素子のON状態とOFF状態とを制御する。これにより、流体の電気伝導率が激しく変化する場合において、トランスの一次側巻線側の回路に過度な電力負荷がかからないよう制御できる。つまり、当該構成の流体処理装置は、他の構成と比較して、処理対象とする流体の電気伝導率に対する許容範囲が広くなる。
【0039】
さらに、上記流体処理装置において、
前記制御部は、所定の周波数で前記スイッチング素子のON状態とOFF状態とを繰り返す第一制御モードと、前記第一制御モードにおける前記スイッチング素子のON状態とOFF状態とを繰り返す周期よりも長い期間にわたって、前記スイッチング素子をOFF状態で維持する第二制御モードとを実行するように構成されており、前記検知部からの検知信号に基づいて、前記第二制御モードの実行期間を決定するように構成されていても構わない。
【0040】
上記構成によれば、トランスの一次側巻線側の回路の電力値(電圧値、電流値、又はこれらの積)が、例えば、回路構成上の許容限界値に相当するような基準値以下に制御される。
【0041】
本発明の点灯回路は、
上記流体処理装置が備える点灯回路である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、流体の処理状態によらず、誘電体バリア放電ランプを安定的に点灯させることができる流体処理装置、及び点灯回路が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】流体処理装置の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【
図2】一実施形態における点灯回路の構成を示す模式的な図面である。
【
図3】制御信号、一次側電流、二次側電圧及び二次側電流の時間変化の一例を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図4】流体処理装置の別実施形態における点灯回路の構成を模式的に示す図面である。
【
図5】制御信号、二次側電圧の時間変化、検知部での検出電圧に応じた制御部の判定方法を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図6】制御信号、一次側電流、二次側電圧及び二次側電流の時間変化の一例を模式的に示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の流体処理装置及び点灯回路について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の個数は、実際の個数と必ずしも一致していない。
【0045】
また、以下の説明においては、処理対象の流体が水であることを前提として説明するが、本発明に適用可能な処理対象の流体は、水に限られない。具体的には、紫外光が照射されることによって、含有する物質の分解除去が進行する液体、殺菌処理が進行する液体等は、いずれも本発明の流体処理装置における処理対象となり得る。
【0046】
[流体処理装置1]
まず、流体処理装置1の構成について説明する。
図1は、流体処理装置1の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。
図1に示すように、流体処理装置1は、紫外光照射部10と、点灯回路20とを備える。そして、紫外光照射部10は、発光管11と、貯留部12と、第一電極13aとを備える。
【0047】
発光管11は、
図1に示すように、内側の放電空間11a内には、棒状の第一電極13aが配置されている。そして、第一電極13aは、発光管11の一端部側に形成されたピンチシール部14を介して、点灯回路20の第一電極端子a1に接続されている。
【0048】
発光管11は、石英ガラスからなる管体であり、内側の放電空間11a内に、キセノン(Xe)ガスが発光ガスとして封入されている。なお、発光管11の内側の放電空間11a内に封入される発光ガスは、実施する処理に応じて任意に選択される。上記以外の具体的な例としては、キセノン(Xe)ガスや、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス等の18族元素を含むガス、又はフッ素(F)ガス、塩素ガス(Cl)、臭素(Br)ガス等の17族元素と、前述した18族元素とを含むガスが選択される。
【0049】
また、発光管11の材料は、処理対象となる流体に対して照射したい紫外光の波長帯域に応じて適宜選択される。石英ガラス以外の具体的な材料としては、例えば、ホウケイ酸ガラスが挙げられる。
【0050】
貯留部12は、処理対象である水が流れ込み、処理中においては、弁(15a,15b)が閉じられることによって、内側の空間A1が水で満たされる容器である。なお、貯留部12は、側壁部が導電性を示す金属で構成された容器であり、
図1に示すように、当該側壁部が点灯回路20の第二電極端子a2に接続されるとともに、電気的に接地されている。つまり、本実施形態における貯留部12は、処理対象の水を空間A1内に貯留する容器であるとともに、第二電極13bとしての機能を兼ねている。
【0051】
紫外光照射部10は、貯留部12の空間A1内が処理対象の水で満たされた状態で、点灯回路20から電極(13a,13b)に対して点灯に必要な電圧の印加が開始されると、放電空間11a、発光管11の管壁、空間A1を介して、電極(13a,13b)間に発光管11の放電空間11aが配置されており、放電空間11a内で放電が発生する。これは、誘電体材料で構成された発光管11だけでなく、液体もインピーダンスを持った材料であり、液体を介して、発光管11内に電圧が印加されて誘電体バリア放電を生じさせるためである。そして、電極(13a,13b)間に放電が発生することで、発光管11の放電空間11a内において紫外光が発生し、空間A1内に貯留されている水に対して当該紫外光が照射される。すなわち、紫外光照射部10は全体として、発光管11と、第一電極13aと、貯留部12(第二電極13b)とを備えた誘電体バリア放電ランプに相当している。
【0052】
本実施形態においては、処理対象である水に対して紫外光を照射する際は、弁(15a,15b)を閉じて、静止状態での処理が実施される構成で説明したが、流体処理装置1は、弁(15a,15b)を備えず、常時流れ込む水に対して、紫外光を照射するように構成されていても構わない。
【0053】
例えば、水が流れ込む流入口と,処理済みの水を排出する排水口とをパイプやホース等で接続し、水を循環させながら処理を進行させる構成を採用しても構わない。当該構成によれば、貯留部12内には一度に収容しきれない量の水を、まとめて処理することができる。
【0054】
なお、本発明に適用可能な発光管11は、
図1の実施形態に限られるものではない。例えば、第一電極13aは、発光管11の内側(放電空間11a)に配置されているが、放電空間11aの外域に配置されるものであっても構わない。例えば、発光管11の放電空間11aが、第一電極13aと、第二電極13bとの間に配置される態様において、種々の形態が採用できる。なお、発光管11と離間して配置される第二電極13bは、所定のインピーダンスを有する液体が発光管11と第二電極13bとの間に介在することによって、液体を介して、放電管内に電圧を印加することができる。
【0055】
[点灯回路20]
次に、点灯回路20の詳細について説明する。
図2は、本実施形態における点灯回路20の構成を示す模式的な図面である。点灯回路20は、フライバック方式と称される回路構成の一例であって、
図2に示すように、直流電源21と、一つのスイッチング素子22と、トランス30とを備える。
【0056】
トランス30は、一次側巻線L1と二次側巻線L2を備える。トランス30の一次側巻線L1が備える端子のうち、第一端子b1は直流電源21の正極側端子に接続され、第二端子b2はスイッチング素子22を介して直流電源21の負極側端子に接続されている。
【0057】
本実施形態のスイッチング素子22は、電界効果トランジスタ(FET)で構成されており、アノードが直流電源21の負極側端子、カソードがトランス30の一次側巻線L1に接続された寄生ダイオード23が形成されている。本実施形態では、この寄生ダイオード23が回生回路として機能する。
【0058】
なお、スイッチング素子22は、電界効果トランジスタ(FET)以外の素子が採用されても構わない。また、スイッチング素子22は、寄生ダイオード23を備えないIGBTやリレー素子等を採用し、ダイオード素子単体をスイッチング素子22と並列に接続することで回生回路を構成しても構わない。
【0059】
直流電源21は、例えば、不図示の商用電源をAC/DC変換するAC/DCコンバータによって構成されるものとしても構わない。点灯回路20が備える平滑コンデンサ25は、電圧波形を平滑化するために設けられている。また、直流電源21は、電池で構成されても構わない。
【0060】
本実施形態の点灯回路20は、スイッチング素子22に対するON/OFF制御を行うための制御部24を備える。制御部24は、所望のパターンの制御信号G(t)を出力できるものであればよく、例えば、制御ユニットであるCPUやMPU等を採用し得る。
【0061】
次に、点灯回路20の動作について説明する。
図3は、制御信号G(t)、一次側電流I1、二次側電圧V2及び二次側電流I2の時間変化の一例を模式的に示すタイミングチャートである。
【0062】
図3の制御信号G(t)のグラフは、Highレベルが、スイッチング素子22をON状態に制御していることを示し、Lowレベルが、スイッチング素子22をOFF状態に制御していることを示している。
【0063】
図3に示されている二次側電圧V2は、
図2の第二電極端子a2の電位に対する、第一電極端子a1の電位に対応する。なお、本実施形態においては、第二電極端子a2が接地されている。
【0064】
以下の説明において参照される図面に図示された電圧や電流の変動を示すグラフは、
図3の二次側電圧V2のグラフと同様に、本発明の主たる動作の説明に影響しないオフセットや、スイッチング動作によるスパイクノイズ等は表されておらず、理想的な波形の一例が模式的に表されている。また、二次側電圧V2が所定の電圧(本実施形態では0V)に対して+側に振れるように構成するか、-側に振れるように構成するかは、紫外光照射部10の仕様や点灯回路20の構成等に応じて適宜任意に設定して構わない。
【0065】
制御部24は、貯留部12が処理対象の水で満たされると、誘電体バリア放電ランプに相当する紫外光照射部10の発光管11内で紫外光を発生させるための動作を開始する。
【0066】
制御部24は、制御信号G(t)をLレベルからHレベルに切り替えて、スイッチング素子22をOFF状態からON状態に切り替える。
【0067】
そして、
図3に示すように、徐々にトランス30の一次側巻線L1に流れる一次側電流I1が増加する。この時の一次側電流I1の増加する傾きは、直流電源21の出力電圧V
cc、一次側巻線L1のインダクタンス値L
tより、V
cc/L
tとなる。
【0068】
制御部24は、時刻t1から所定の時間が経過した時刻t2において、制御信号G(t)の出力をHighレベルからLowレベルに切り替える。これにより、スイッチング素子22は、ON状態からOFF状態に切り替わる。
【0069】
また二次側電圧V2の印加に伴い、トランス30の二次側巻線L2には二次側電流I2が流れる。この二次側電流I2は、トランス30に蓄積されたエネルギーを放出しながら流れるため、時間の経過と共にゼロ値に近づく。また二次側電流I2によって、トランス30に蓄積されたエネルギーの放出が完了すると、発光管11に蓄積された電荷が放電される。この放電により、トランス30の二次側巻線L2には、先ほどとは逆向きの電流(二次側電流I2)が流れ、二次側電圧V2はゼロ値に近づくように変化する。
【0070】
この時、トランス30の一次側巻線L1には、紫外光照射部10で消費されなかったエネルギーによって起電力が発生し、この起電力に伴う回生電流が発生する。本実施形態では、回生電流は、スイッチング素子22が備える寄生ダイオード23によって、直流電源21の負極端子側から正極端子側へと流れる。このように寄生ダイオード23を設けることで、エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0071】
その後、回生電流が流れなくなると想定される時間が経過した時刻t3において、制御部24は、再びスイッチング素子22に出力する制御信号G(t)をLowレベルからHighレベルに切り替えて、スイッチング素子22をOFF状態からON状態へと切り替える。以降、制御部24は、上述した動作を繰り返す。
【0072】
ここで、
図3に示すタイミングチャートからわかるように、点灯回路20によれば、紫外光照射部10における放電が停止し、一次側巻線L1に負の値を示す電流が発生したところで、電極端子(a1,a2)間の二次側電圧V2、及び二次側巻線L2に流れる二次側電流I2は全く変動しない。そして、一次側巻線L1に流れる電流が停止した後、また、前の(t1-t2)間の動作と同じ動作が実施されることになる。
【0073】
以上より、上記構成とすることで、流体処理装置1は、誘電体バリア放電ランプに相当する紫外光照射部10に印加される電圧が、処理の進行により変化する処理対象である水の電気伝導率の変化にほとんど影響されない。つまり、上記構成の流体処理装置1は、処理対象の流体の処理状態によらず、紫外光照射部10を安定的に点灯させることができる。
【0074】
なお、本実施形態における紫外光照射部10は、側壁が金属製の貯留部12を備えており、貯留部12自体が誘電体バリア放電ランプの第二電極13bとしての機能を兼ねる構成となっているが、第二電極13bは、貯留部12とは別体として設けられていても構わない。例えば、貯留部12の外壁面を誘電体で構成し、当該外壁面上に第二電極13bを設けてもよく、金属製の弁(15a,15b)を採用し、弁(15a,15b)のうちの少なくとも一方が第二電極13bとしての機能を兼ねるように構成しても構わない。
【0075】
また、本実施形態においては、第二電極13bが接地されているが、紫外光照射部10(誘電体バリア放電ランプ)電気的な安定性等において特段の問題が無い場合は、第二電極13bは接地されていなくても構わない。
【0076】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0077】
〈1〉 上述の説明では、
図2に示す実施形態において、寄生ダイオード23を有するスイッチング素子22を備えた一実施形態が説明された。これにより、トランス30の一次側巻線L1に流れる回生電流は、スイッチング素子22が備える寄生ダイオード23によって、直流電源21の負極端子側から正極端子側へと流れることになり、電力エネルギーの利用効率が高められる。
【0078】
しかし、この回生電流の電流値は、貯留部12に存在する液体のインピーダンスによって変動する。具体例として、水の電気伝導率の変化によって、紫外光照射部10で消費されなかったエネルギー量が変化し、これによって回生電流の電流値が変動する。これは、スイッチング素子22のON状態とOFF状態との切り替えが固定されたタイミングで行われていても、回生電流の変動によって一次側電流I1が変動することにつながる。
【0079】
上述のとおり、フライバック方式の点灯回路20は、液体の電気伝導率が変化しても、二次側巻線L2に生じさせる起電力にはほとんど影響しないため、誘電体バリア放電ランプを安定的に点灯させることができる。しかしながら、流体の電気伝導率が非常に高い場合においては、回生電流の変動によって一次側電流I1が大きく変動してしまう場合がある。このような変動は、トランス30の一次側巻線L1側の回路での電力負荷を高めることに繋がり、設計する回路構成によっては、定格電力よりも大きな電力を生じさせてしまう可能性がある。特に、処理対象となる液体の電気伝導率が非常に高い状態(例えば、100μS/cm以上)において、当該懸念が大きくなる。
【0080】
図4は、流体処理装置1の別実施形態における点灯回路20の構成を模式的に示す図面である。本実施形態における点灯回路20は、
図4に示すように、スイッチング素子22と直列に接続された検知部26を備える。本実施形態における検知部26は、
図4に示すように、抵抗体R1を備え、スイッチング素子22に流れる一次側電流I1が流れることによって抵抗体R1の端子間に生じる電圧値を含む検知信号S1出力するものであるが、検知部26の構成は、当該構成に限られない。例えば、シャント抵抗器を備え、分流させた電流値を計測することによって、一次側電流I1の電流値を検知するように構成されていても構わない。
【0081】
また、一次側巻線L1側の回路に流れる回生電流が、検知部26で消費されないよう、検知部26は、抵抗体R1を備えるとともに、アノード端子が直流電源21の負極端子側に接続され、カソード端子が直流電源21の正極端子側に接続されたダイオード素子を備えていても構わない。
【0082】
これにより、液体の電気伝導率が大きく変化した場合において、電気伝導率の変動を検知部26が検知し、検知信号S1が制御部24へと出力され、検知信号S1に含まれる情報に基づいて制御部24がスイッチング素子22のON/OFF状態を制御する。つまり、液体の電気伝導率が激しく変動する場合において、一次側巻線L1側の回路への負荷を最小限に抑えることができる。したがって、当該構成の流体処理装置1は、他の構成と比較して、処理対象とする液体の電気伝導率に対する許容範囲が広くなる。
【0083】
次に、本実施形態における動作について説明する。
図5は、制御信号G(t)、二次側電圧V2の時間変化、検知部26での検出電圧に応じた制御部24の判定方法を模式的に示すタイミングチャートである。一次側巻線L1側の回路に接続された検知部26は、一次側電流I1が検知部26に流れる際の電圧を検出し、検出信号を制御部24へ伝達する。なお、
図4において図示されてはいないが、制御部24は、検知部26から出力された検知電圧(Vcp=R1×I1)と、所定の基準電圧とを比較し、比較結果に対応する出力信号を出力するコンパレータが搭載されている。ただし、当該コンパレータは、制御部24に搭載されている必要はなく、必要な回路部品が組み合されて構成されていても構わない。
【0084】
検知部26によってトランス30の一次側巻線L1側の回路における電流値や電力値を検知することにより、一次側電流I1と抵抗体R1の抵抗値との積の値、すなわち、抵抗体R1の端子間の電圧値が、所定の基準電圧に達するタイミングで、制御部24が通常動作を行う第一制御モードC1から、電力超過抑制を行う第二制御モードC2に移行する。ここで、本実施形態における第二制御モードは、
図5に示すように、第一制御モードにおけるスイッチング素子22のON状態とOFF状態とを繰り返す周期よりも長い期間にわたって実行されるが、第二制御モードを実行する時間は、任意に設定して構わない。
【0085】
このように第一制御モードC1と第二制御モードC2とが切り替わることで、液体の電気伝導率が激しく変動した場合でも電力値が所定の基準値以下となるように制御される。なお、制御部24は、上記以外にも、トランス30の一次側巻線L1側の回路における電力値を制御する種々の手段が採用できる。
【0086】
第二制御モードC2は、周期的に変動する比較電圧Vtよりも検出電圧Vcpが低くなる期間において、スイッチング素子22の制御信号G(t)をOFF状態に維持する。これにより、一次側巻線L1側の回路における電力値が、基準値以下に制御される。これにより、液体の電気伝導率が変動した場合でも、一次側巻線L1側の回路への負荷を確実に低減される。なお、
図5の態様に限らず、比較電圧Vtよりも検出電圧Vcpが高くなる期間において第二制御モードを実行し、スイッチング素子の制御信号G(t)をOFF状態に維持するよう制御しても構わない。この場合に用いられる比較電圧Vtは、
図5に示す波形に対して逆位相の波形となる。
【0087】
〈2〉
図6は、制御信号G(t)、一次側電流I1、二次側電圧V2及び二次側電流I2の時間変化の一例を模式的に示すタイミングチャートであり、一次側巻線L1を流れる回生電流がゼロ値に達した時点から、所定のOFF保持時間の経過後に、スイッチング素子22をOFF状態からON状態に遷移させるよう制御部24を動作させた場合を示す。
【0088】
本実施形態では、スイッチング素子22のOFF状態を保持する時間が、検知部26からの検知信号S1に基づいて可変するように、制御部24からの制御信号G(t)が設定される。これにより、一次側巻線L1側の回路の電力値が基準値以下に制御されるため、検知部26からの検知信号S1に応じた一次側巻線L1側の回路の電力が制御される。これにより、液体の電気伝導率が変動した場合において、一次側巻線L1側の回路への負荷を確実に低減することができる。
【0089】
〈3〉 上述した流体処理装置1及び点灯回路20が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0090】
1 : 流体処理装置
10 : 紫外光照射部
11 : 発光管
11a : 放電空間
12 : 貯留部
13a : 第一電極
13b : 第二電極
14 : ピンチシール部
20 : 点灯回路
21 : 直流電源
22 : スイッチング素子
23 : 寄生ダイオード
24 : 制御部
25 : 平滑コンデンサ
26 : 検知部
30 : トランス
A1 : 空間
L1 : 一次側巻線
L2 : 二次側巻線
a1 : 第一電極端子
a2 : 第二電極端子
b1 : 第一端子
b2 : 第二端子