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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145430
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 27/12 20060101AFI20241004BHJP
   D05B 27/20 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
D05B27/12
D05B27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057774
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】小川 達矢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 邦彰
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】中山 元
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA02
3B150CE23
3B150CE27
3B150DE08
3B150DE14
3B150DE33
3B150JA03
3B150JA07
3B150QA04
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】被縫製物の良好な送りを行う。
【解決手段】ミシン100は、下送りモータ24,25により針板101の下側から搬送ベルト21~24により被縫製物を送る下送り機構20と、ミシンモータ16により縫い針11を保持する針棒12を上下動させる針上下動機構80と、ミシンモータ16により縫い針11を保持する針棒12を被縫製物の送り方向に沿って揺動させる針送り機構50と、下送りモータ24,25を制御して、針棒12の揺動による縫い針11の被縫製物の送り方向に沿った送り量に合わせて搬送ベルト21~24を送る制御装置90とを備えている。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下送りモータにより針板の下側から搬送ベルトにより被縫製物を送る下送り機構と、
ミシンモータにより縫い針を保持する針棒を上下動させる針上下動機構と、
前記ミシンモータにより前記縫い針を保持する針棒を前記被縫製物の送り方向に沿って揺動させる針送り機構と、
前記下送りモータを制御して、前記針棒の揺動による前記縫い針の前記被縫製物の送り方向に沿った送り量に合わせて前記搬送ベルトを送る制御装置と、
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記制御装置は、前記下送りモータを制御して、前記縫い針の正弦波曲線に沿った送り量の変化に合わせて前記被縫製物を送ることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記針棒の揺動による前記縫い針の前記被縫製物の送り方向に沿った送り量とは、前記針板の上面の高さでの送り量であることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項4】
前記針棒の揺動による前記縫い針の、前記被縫製物の送り方向に沿った、前記針板の上面の高さにおける位置を検出する検出装置を備え、
前記制御装置は、前記下送りモータを制御して、前記検出装置によって検出された前記縫い針の位置に合わせて前記被縫製物を搬送させることを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト送りと針送りを行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
針板上の被縫製物を高い搬送力で送るために、揺動を行う縫い針を被縫製物に突き通しながら送りを行う針送りミシンがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-188825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベルトによる下送り機構を備えるミシンは、ベルトが被縫製物を傷付けない、送り速度を容易に変えることが出来る、機構の部品点数が少ない等の利点がある。
このため、針送りミシンでもベルト送りの下送り機構を搭載することが検討されている。
しかしながら、針送り機構は、上下動を行う針棒を揺動させる構成のため、被縫製物の送り速度が上軸角度ごとに変動するのに対して、ベルト送りの下送り機構は、送り速度が一定のため、互いの送り速度にズレが生じるという問題が想定される。
【0005】
本発明は、被縫製物を良好に送ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ミシンにおいて、
下送りモータにより針板の下側から搬送ベルトにより被縫製物を送る下送り機構と、
ミシンモータにより縫い針を保持する針棒を上下動させる針上下動機構と、
前記ミシンモータにより前記縫い針を保持する針棒を前記被縫製物の送り方向に沿って揺動させる針送り機構と、
前記下送りモータを制御して、前記針棒の揺動による前記縫い針の前記被縫製物の送り方向に沿った送り量に合わせて前記搬送ベルトを送る制御装置と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のミシンは、上記構成により、被縫製物の良好な送りを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】発明の実施形態であるミシンの後面図である。
図2】ミシンの左側面図である。
図3】ミシンの斜視図である。
図4】押さえ足の図示を省略したミシンベッド部の左端部上面を示す斜視図である。
図5】下送り機構のガイド枠の斜視図である。
図6】四本の搬送ベルトが前後差動送り状態にある送り機構の斜視図である。
図7】四本の搬送ベルトが左右差動送り状態にある送り機構の斜視図である。
図8】針上下動機構及び針送り機構の機構線図である。
図9】針上下動機構及び針送り機構の分解斜視図である。
図10】針送り調節機構の原理説明図である。
図11】針送り調節機構の原理説明図である。
図12】ミシンの制御系を示すブロック図である。
図13】針送り機構によって送られる縫い針の前後方向の送り量と上軸の軸角度との関係を示す線図である。
図14】ミシンの送りの動作制御を示すフローチャートである。
図15】針板上の縫い針の位置を検出する検出装置を設けた例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概略構成]
以下、本発明の実施形態であるミシンについて詳細に説明する。
図1はミシン100の後面図、図2はミシン100の左側面図、図3はミシン100の斜視図を示す。
以下、被縫製物の送り方向下流側を「前」、送り方向上流側を「後」、前を向いた状態で左手側を「左」、右手側を「右」、鉛直上方を「上」、鉛直下方を「下」とする。前後方向、左右方向、上下方向は、互いに直交する。
以下の説明では、ミシン100は水平面に設置されている前提であり、前後方向と左右方向は、水平となる。
【0010】
本発明の実施形態であるミシン100として、いわゆる本縫いミシンを例示する。
ミシン100は、ミシンフレーム110、針上下動機構80、針送り機構50、下送り機構20、押さえ機構としての布押さえ機構70、釜機構、制御装置90と、を備えている。
針上下動機構80は、縫い針11を保持する針棒12に上下動動作を付与する。
針送り機構50は、縫い針11を保持する針棒12に被縫製物の送り方向に沿った揺動動作を付与する。
下送り機構20は、針板101上の被縫製物に下から前後方向に沿った送り動作を付与する。
布押さえ機構70は、針板101上の被縫製物に押さえ圧を付与する。
釜機構は、縫い針11から上糸のループを捕捉して下糸を絡め、縫い目を形成する。
制御装置90は、上記各構成の動作制御を実行する。
なお、上記ミシン100は、一般的な本縫いミシンが備える糸調子等の各構成を備えているが、これらは周知のものなので説明は省略する。
【0011】
[ミシンフレーム]
上記ミシンフレーム110は、上述したミシン100の各構成を支持又は格納する。
ミシンフレーム110は、ミシンベッド部111と立胴部112とミシンアーム部113とを有する。
ミシンベッド部111は、ミシン100の下部に位置し、左右方向に沿って延在している。
立胴部112は、ミシンベッド部111の右端部から立設されている。
ミシンアーム部113は、立胴部112の上端部から左方に向かって延出されている。
【0012】
図4は押さえ足の図示を省略したミシンベッド部111の左端部上面を示す斜視図である。
針板101に対する縫い針11の針落ち位置には、複合開口部102が形成されている。針板101の複合開口部102には、針穴13を有する針穴部材30と後述する下送り機構20の後左下ベルト21,前左下ベルト22,前右下ベルト23,後右下ベルト24が上方に露出して配置されている。即ち、複合開口部102は、針穴部材30と各下ベルト21~24とが露出する複数の矩形の開口部が一体的に複合した形状となっている。
【0013】
[釜機構]
釜機構は、図2及び図3に示すように、針板101の針穴部材30の下側に設けられた外釜14及び中釜15と、中釜15を回転させる釜軸(図示略)とを有する。
釜軸は、ミシンベッド部111内において、左右方向に沿った状態で回転可能に支持されている。釜軸は、前述した上軸から歯車機構又はベルト機構を介して上軸の二倍に増速された左右方向に沿った軸回りの回転が入力される。
【0014】
中釜15は外釜14の内側に格納されている。さらに、中釜15は、その内側に下糸を供給する図示しないボビンを格納している。
外釜14は、釜軸の左端部に連結され、中釜15の周囲を回転する。中釜15は、外釜14と共に回転しないように回転が規制されている。外釜14は、外周に縫い針11から上糸のループを捕捉するための剣先を有する。外釜14は、回転することにより、剣先により上糸のループを捕捉して、中釜15の内側から繰り出される下糸をくぐらせることができる。
上記外釜14と中釜15は、後述する下送り機構20の略円筒状のガイド枠29の内側に格納状態で配置されている。
【0015】
[下送り機構]
図5は下送り機構20のガイド枠29の斜視図、図6及び図7は下送り機構20の斜視図である。図6図7は、後述する各下ベルト21~24の掛け渡し状態が異なる場合を示している。
以下、図1図7に基づいて下送り機構20について詳細に説明する。
【0016】
下送り機構20は、各図に示すように、搬送ベルトとしての各下ベルト21~24、下送りモータとしての第一モータ25及び第二モータ26、回転軸27,28、第一プーリ31、第二プーリ32を有する。
さらに、下送り機構20は、それぞれの下ベルト21~24が被縫製物の下面に接触するようにガイドするガイド枠29と、第一加圧機構33と、第二加圧機構34とを備えている。
【0017】
第一及び第二モータ25,26は、いずれも、動作量を任意に制御可能なモータ、例えは、ステッピングモータやサーボモータである。第一及び第二モータ25,26は、前後に並んだ状態でミシンベッド部111の右端部の内側に配置され、出力軸を左方に向けている。
前側の第一モータ25の出力軸には、回転軸27を介して第一プーリ31が連結されている。
後側の第二モータ26の出力軸には、回転軸28を介して第二プーリ32が連結されている。
【0018】
回転軸27,28は、いずれも左右方向に平行であって、ミシンベッド部111内で回転可能に支持されている。
第一及び第二プーリ31,32は、ミシンベッド部111の左端部内で左右方向に沿った軸回りに回転可能に支持されている。そして、第一及び第二プーリ31,32は、回転軸27,28を介して、それぞれ、第一モータ25と第二モータ26から回転動作が付与される。
第一及び第二プーリ31,32は、前後方向から見て重複する配置、即ち、同じ高さで左右方向について同じ位置である。また、第一プーリ31が第二プーリ32の前側に配置されている。
【0019】
第一及び第二プーリ31,32は、いずれも、左右方向に並列に配置された下ベルト21,22,23,24の全てを掛け渡すことが可能である。
即ち、第一プーリ31は、外周面に、後左下ベルト21,前左下ベルト22を掛け渡すための左溝311と前右下ベルト23,後右下ベルト24を掛け渡すための右溝312とを有する。
第二プーリ32は、外周面に、後左下ベルト21,前左下ベルト22を掛け渡すための左溝321と前右下ベルト23,後右下ベルト24を掛け渡すための右溝322とを有する。
各下ベルト21~24は、幅が等しく、左溝及び右溝311,312,321,322は、いずれも、少なくともベルト二本分の幅を有する。
これにより、各下ベルト21~24は、いずれも、第一プーリ31と第二プーリ32とを適宜選択して掛け渡すことができる。
【0020】
各下ベルト21,22,23,24は、無端環状であって、ガイド枠29と第一プーリ31又はガイド枠29と第二プーリ32の間に掛け渡される。
また、各下ベルト21,22,23,24は、左から右に向かって順番に並列されている。
【0021】
ガイド枠29(ガイド部材)は、図2に示すように、左右方向について各プーリ31,32と略一致し、前後方向について各プーリ31,32の間となるように配置されている。さらに、ガイド枠29は、各プーリ31,32の上方であって、針板101の真下に配置されている。
ガイド枠29は、図5に示すように、ミシンベッド部111内に固定するためのブラケット部295と、各下ベルト21~24をガイドする円筒状の本体部296とを有する。
【0022】
ガイド枠29は、本体部296の中心軸が左右方向に向けられた状態で針板101の真下に配置されている。
本体部296の外周面上部の左右方向中央には、前後方向に沿った嵌合溝297が形成されている。嵌合溝297の内側には、前後方向に長尺な板状の針穴部材30が固定状態で嵌合配置されている。針穴部材30は、針落ち位置に上下に貫通した針穴13が形成されている。なお、針送り機構50により針棒12が前後方向に揺動を行うので、縫い針11が突入する針穴13は、前後方向に長い長穴形状となっている。
針穴部材30における針穴13の形成面は、針板101の上面と同じ高さ又はわずかに高くなっている。
【0023】
また、本体部296は、その外周面の上部で周方向に各下ベルト21~24を摺動させて被縫製物の送りを行わせる。このため、本体部296の外周面の上部には、それぞれの下ベルト21~24をガイドする第一~第四ガイド部291,292,293,294が設けられている。
第一ガイド部291は針穴13の左後方、第二ガイド部292は針穴13の左前方、第三ガイド部293は針穴13の右前方、第四ガイド部294は針穴13の右後方に設けられている。
各ガイド部291~294は、いずれも、前後方向に延在する凸条であり、左右方向の幅が各下ベルト21~24と等しいか幾分広い。各ガイド部291~294の後端部は、本体部296の外周面に対して半径方向外側への突出量が前に向かって漸増するスロープとなっている。また、各ガイド部291~294の前端部は、本体部296の外周面に対して半径方向外側への突出量が前に向かって漸減するスロープとなっている。
【0024】
第一ガイド部291は、針穴13よりも左側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の前後方向の中心位置よりも後側に位置している。
そして、第一ガイド部291は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より前側に平坦且つ水平となるガイド面291a(図5模様部分)を有する。ガイド面291aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面291aは、その上を摺接して通過する後左下ベルト21の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面291aは、その前端部が針穴13の前後方向の中心位置よりもわずかに後方に位置し、後左下ベルト21が針穴13の前後方向の中心位置より後側で被縫製物に当接するように形成されている。
【0025】
第二ガイド部292は、針穴13よりも左側且つ第一ガイド部291よりも右側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の前後方向の中心位置よりも前側に位置している。
そして、第二ガイド部292は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より後側に平坦且つ水平となるガイド面292a(図5模様部分)を有する。ガイド面292aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面292aは、その上を摺接して通過する前左下ベルト22の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面292aは、その後端部が針穴13の前後方向の中心位置よりもわずかに前方に位置し、前左下ベルト22が針穴13の前後方向の中心位置より前側で被縫製物に当接するように形成されている。
【0026】
第三ガイド部293は、針穴13よりも右側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の前後方向の中心位置よりも前側に位置している。
そして、第三ガイド部293は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より後側に平坦且つ水平となるガイド面293a(図5模様部分)を有する。ガイド面293aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面293aは、その上を摺接して通過する前右下ベルト23の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面293aは、その後端部が針穴13の前後方向の中心位置よりもわずかに前方に位置し、前右下ベルト23が針穴13の前後方向の中心位置より前側で被縫製物に当接するように形成されている。
【0027】
第四ガイド部294は、針穴13及び第三ガイド部293よりも右側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の前後方向の中心位置よりも後側に位置している。
そして、第四ガイド部294は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より前側に平坦且つ水平となるガイド面294a(図5模様部分)を有する。ガイド面294aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面294aは、その上を摺接して通過する後右下ベルト24の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面294aは、その前端部が針穴13の前後方向の中心位置よりもわずかに後方に位置し、後右下ベルト24が針穴13の前後方向の中心位置より後側で被縫製物に当接するように形成されている。
【0028】
ガイド面291a,294aは針穴13の前後方向の中心位置よりも後側、ガイド面292a,293aは針穴13の前後方向の中心位置よりも前側に設けられている。このため、後側の後左下ベルト21,後右下ベルト24と前側の前左下ベルト22,前右下ベルト23とで速度差(搬送量差)を設けた場合に、各下ベルト21~24が干渉することなく、前後の送り速度差(搬送量差)による搬送力を被縫製物に付与することができる。従って、前後方向の差動送りにおける狙い通りの縫い目が形成され、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0029】
第一加圧機構33は、各下ベルト21~24の内、ガイド枠29と第一プーリ31との間に掛け渡された全てのベルトに対して張力を付与して弛みの発生を抑止する。
第一加圧機構33は、図2図3及び図6に示すように、左加圧ローラ331と、右加圧ローラ332と、支持板333と、ベースブロック334とを有する。
【0030】
支持板333は、前後上下方向に沿った長尺の平板状であって、長手方向が前斜め上方向を向いた状態でベースブロック334に支持されている。
さらに、支持板333は、その上端部の左面と右面とで左加圧ローラ331と右加圧ローラ332とを同心且つ回転可能に支持する。支持板333は、ガイド枠29-第一プーリ31間に渡るベルトの外側面に対して後部下方から左加圧ローラ331及び右加圧ローラ332が当接するように配置されている。
【0031】
ベースブロック334は、後述する第二加圧機構34と共用され、第一及び第二加圧機構33、34の構成を支持する。ベースブロック334は、ミシンベッド部111内において、ガイド枠29の下方に固定装備されている。
支持板333は、その長手方向に沿った長穴を有し、ベースブロック334に対して長穴に挿通された二つのボルトによって締結固定される。支持板333の長手方向は、第一プーリ31に掛け渡されたベルトに対して略直交する方向に向けられている。このため、ボルトを緩めて支持板333を長穴に沿って移動させることで、ベルトに対する左加圧ローラ331及び右加圧ローラ332の圧接力を調節することができる。換言すると、ガイド枠29と第一プーリ31との間を渡るベルトのテンションを調節することができる。
【0032】
左加圧ローラ331と右加圧ローラ332は、外径が等しく、支持板333によって左右方向に沿った同一軸回りに回転可能に支持されている。また、左加圧ローラ331及び右加圧ローラ332の左右の幅は、いずれも各下ベルト21~24の幅の二倍かそれ以上の幅を有する。
これにより、左加圧ローラ331は、ガイド枠29と第一プーリ31との間に掛け渡された後左下ベルト21と前左下ベルト22のいずれにも当接させることができる。
同様に、右加圧ローラ332は、ガイド枠29と第一プーリ31との間に掛け渡された前右下ベルト23と後右下ベルト24のいずれにも当接させることができる。
【0033】
第二加圧機構34は、各下ベルト21~24の内、ガイド枠29と第二プーリ32との間に掛け渡された全てのベルトに対して張力を付与して弛みの発生を抑止する。
第二加圧機構34は、図2図3及び図6に示すように、左加圧ローラ341と、右加圧ローラ342と、支持板343と、前述したベースブロック334とを有する。
【0034】
支持板343は、前述した支持板333と同一の構造であり、長手方向が後斜め上方向を向いた状態でベースブロック334に支持されている。
また、支持板343は、その上端部の左面と右面とで左加圧ローラ341と右加圧ローラ342とを同心且つ回転可能に支持する。支持板343は、ガイド枠29-第二プーリ32間に渡るベルトの外側面に対して後部上方から左加圧ローラ341及び右加圧ローラ342が当接するように配置されている。
【0035】
支持板343も長穴を有し、支持板343を当該長穴に沿って移動させることができる。これにより、第二プーリ32に掛け渡されたベルトに対する左加圧ローラ341及び右加圧ローラ342の圧接力を調節することができる。従って、ガイド枠29と第二プーリ32との間を渡るベルトのテンションを調節することができる。
【0036】
左加圧ローラ341と右加圧ローラ342は、外径が等しく、支持板343によって左右方向に沿った同一軸回りに回転可能に支持されている。また、左加圧ローラ341及び右加圧ローラ342の左右の幅は、いずれも各下ベルト21~24の二倍かそれ以上の幅を有する。
これにより、左加圧ローラ341は、ガイド枠29と第二プーリ32との間に掛け渡された後左下ベルト21と前左下ベルト22のいずれにも当接させることができる。
同様に、右加圧ローラ342は、ガイド枠29と第二プーリ32との間に掛け渡された前右下ベルト23と後右下ベルト24のいずれにも当接させることができる。
【0037】
第一加圧機構33の左加圧ローラ331と第二加圧機構34の左加圧ローラ341は、いずれも、後左下ベルト21と前左下ベルト22とに当接させることができる。同様に、第一加圧機構33の右加圧ローラ332と第二加圧機構34の右加圧ローラ342は、いずれも、前右下ベルト23と後右下ベルト24とに当接させることができる。
従って、各下ベルト21~24を第一プーリ31と第二プーリ32のいずれに掛け渡しても、第一加圧機構33又は第二加圧機構34のいずれかによってテンションが付与される。
【0038】
図6は針落ち位置の前側で送る前左下ベルト22,前右下ベルト23を第一プーリ31、後側で送る後左下ベルト及び後右下ベルト21,24を第二プーリ32に掛け渡した状態を示す。
図7は針落ち位置の左側で送る後左下ベルト21,前左下ベルト22を第一プーリ31、前右下ベルト23,後右下ベルト24を第二プーリ32に掛け渡した状態を示す。
【0039】
各下ベルト21~24は、ボルトを緩めて各加圧ローラ331,332,341,342を後退させると、各プーリ31,32から容易に外して架け替えることが可能である。
このため、図6の掛け渡し状態での縫製と図7の掛け渡し状態での縫製とを容易に選択して行うことが可能である。
【0040】
例えば、図6の掛け渡し状態(前後差動送り状態とする)では、針落ち位置より前側を後側より速く送るいわゆるいせ込み縫いを行うことが可能である。
また、前後差動送り状態では、針落ち位置より前側を後側より遅く送り、被縫製物にテンションを加える縫製を行うことも可能である。
【0041】
図7の掛け渡し状態(左右差動送り状態とする)では、左側を速く送れば右曲がりの曲線縫いを行うことができ、右側を速く送れば左曲がりの曲線縫いを行うことができる。
また、左右の速度差(搬送量差)の大小に応じて曲率を変えることができるので多様な曲線縫いを行うことが可能である。
【0042】
[布押さえ機構]
布押さえ機構70は、図1図4に示すように、押さえ足71、押さえ棒72、押さえモータ73(図12参照)、押さえ高さ検出部としての高さセンサ74(図12参照)とを有する。
【0043】
押さえ棒72は、針棒12の前隣に配置され、上下方向に沿った状態でミシンアーム部113の内部に上下動可能に支持されている。
押さえ棒72の上端部は、ミシンアーム部113の内部において、図示しない押さえバネにより下方に押圧されている。押さえバネの伸縮量は、動作量を任意に制御可能な押さえモータ73によって調節可能である。従って、押さえモータ73を制御することにより、押さえ足71の押さえ圧を任意に設定することが可能である。
【0044】
また、押さえ棒72には、その高さを検出する高さセンサ74が併設されている。従って、押さえ足71の押さえ圧を規定値に設定した後、被縫製物の厚さの変化によって押さえ足71の高さが変化したことを高さセンサ74が検出した場合に、押さえバネの伸縮量が変化しないように押さえモータ73を制御することにより、押さえ圧を一定の設定値に維持することが可能である。
【0045】
押さえ足71は、針板101の複合開口部102の上に配置されている。押さえ足71は、被縫製物を上から押さえて、各下ベルト21~24による搬送力を被縫製物に適切に伝達させる。
【0046】
押さえ足71は、図1~3に示すように、被縫製物を上から押さえる底板と押さえ棒72の下端部に取り付けられる連結部とを有する。
底板は、底面が平滑であって布送り方向上流側(後端部)が上方に反り上がったいわゆる舟形を呈する。
連結部は、底板の前端部上面に立設され、底板に対して左右方向に沿った軸回りに幾分揺動可能に連結されている。連結部の上端部は、押さえ棒72の下端部に連結されている。
【0047】
[針上下動機構]
図8は針上下動機構80及び針送り機構50の機構線図、図9は針上下動機構80及び針送り機構50の分解斜視図である。
針上下動機構80は、図8及び図9に示すように、縫い針11を保持する針棒12と、針棒12の上下動の駆動源となるミシンモータ16と、ミシンモータ16の出力軸に連結されて回転駆動を行う上軸82と、上軸82の左端部に固定装備された針棒クランク83と、針棒クランク83の回転中心から偏心した位置に装備されたクランク軸84と、クランク軸84に対して上端部が左右方向に沿った軸回りに回転可能に連結されたクランクロッド85と、針棒12を抱き締めで保持し、クランクロッド85の下端部に左右方向に沿った軸回りに回転可能に連結された針棒抱き86とを備えている。
上記ミシンモータ16は、例えば、サーボモータからなる。
また、符号87は、クランク軸84に対して回転可能に支持された天秤である。
【0048】
上軸82は、ミシンアーム部113内において、左右方向に沿った状態で回転可能に支持されている。そして、上軸82は、ミシンモータ16の出力軸に連結されて左右方向に沿った軸回りに回転動作を行う。
針棒クランク83は、上軸82に対して偏心した位置でクランク軸84を介してクランクロッド85の上端部が連結されている。これにより、クランクロッド85の上端部を周回運動させることができる。
【0049】
針棒12は、後述する針送り機構50によりその長手方向に沿って往復移動可能に支持されている。
従って、針棒抱き86を介して針棒12に連結されたクランクロッド85の上端部における周回運動が針棒12に沿った往復運動に変換されて当該針棒12に伝達される。これにより、針棒12及び縫い針11が上下動を行う。
【0050】
[針送り機構]
針送り機構50は、図8及び図9に示すように、上軸82から針送り調節機構60を介して往復回動の動作が入力される針送り軸51と、針送り軸51の左端部に固定装備された揺動腕52と、針棒12をその長手方向に沿って摺動可能に支持する揺動台53と、針棒12の針棒抱き86の軸部に装備されたコロとしての角駒54と、角駒54を滑動可能にガイドする案内台55と、揺動腕52と案内台55とを連結する連結リンク56と、揺動台53の揺動をガイドするガイド部材57とを備えている。
【0051】
針送り軸51は、ミシンアーム部113内において、左右方向に沿った状態で回動可能に支持されている。そして、針送り軸51は、左端部から垂下された揺動腕52の回動端部を前後方向に沿って往復揺動させることができる。
【0052】
揺動台53は、針棒12を上下二箇所で摺動保持する枠体であり、その下端部近傍には左右方向に沿った軸部531を備えている。この軸部531により、揺動台53は、ミシンアーム部113内において、左右方向に沿った軸回りに揺動可能となっている。なお、符号58は軸部531を摺動可能に支持するスリーブであり、符号59は軸部531を回転可能に支持する転がり軸受である。
また、揺動台53の上端部には後方に向かって延出された角柱状のガイド軸532が設けられており、ガイド部材57に設けられた前後方向に沿ったガイド溝571に挿入されている。このガイド軸532がガイド部材57のガイド溝571に挿入されることにより、揺動台53の揺動時に左右方向のガタつきを抑えることができる。
【0053】
案内台55は、揺動台53の軸部531を挿入して抱き締め固定する挿入孔551と、角駒54を滑動可能にガイドする滑動溝552とを備えている。
挿入孔551は、案内台55の下端部に設けられ、揺動台53の軸部531を挿入して抱き締め固定するので、案内台55と揺動台53とが一体となって揺動動作を行う。
滑動溝552は、揺動台53に支持された針棒12と平行となる向きで形成されており、針棒12の長手方向に沿った上下動の際には、角駒54を同方向に沿って滑動可能にガイドすることができる。
また、案内台55は、その上端部において、連結リンク56の後端部が左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。
この連結リンク56は、前端部が揺動腕52の下端部に対して左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されているので、針送り軸51の往復回動による揺動腕52の前後方向に沿った揺動動作が案内台55に伝達される。
そして、案内台55と共に揺動台53が軸部531を中心として揺動し、針棒12を前後方向に沿って揺動させて針振り動作を行うことができる。
【0054】
[針送り調節機構]
針送り機構50は、針送り量を調節する針送り調節機構60を備えている。図10及び図11は針送り調節機構60の原理説明図である。
針送り調節機構60は、図8及び図10に示すように、上軸82に固定装備された偏心カム61と、上端部で偏心カム61を回転可能に保持する針送りコネクティングロッド62と、針送り軸51の右端部に固定装備された針送り入力腕63と、針送りコネクティングロッド62と針送り入力腕63とを連結する伝達部材としての第一の針送りリンク部材64と、第二の針送りリンク部材65と、第二の針送りリンク部材65の姿勢を変動させる針送り調節体66と、針送り調節体66を左右方向に沿った軸回りに回動させる支軸661と、支軸661を中心とする半径方向(略上方)に延出された従動腕67と、針送り調節体66を任意の回動角度に回動させる針送り調節モータ68と、針送り調節モータ68の出力軸に設けられた主動腕69と、主動腕69の回動端部と従動腕67の回動端部とを連結する連結リンク691を備えている。
上記針送り調節モータ68は、例えば、ステッピングモータからなる。
【0055】
針送りコネクティングロッド62は、概ね前後方向に向けられた状態で配置され、上軸82の回転駆動により後端部が偏心カム61によって周回運動を行うと、前端部では第一の針送りリンク部材64の上端部に前後方向の揺動動作を入力することができる。
第一の針送りリンク部材64は二つ一組である。各第一の針送りリンク部材64の上端部は、針送りコネクティングロッド62の前端部の左右両側に、左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。これら第一の針送りリンク部材64は、概ね、上下方向に沿って配置されている。そして、各第一の針送りリンク部材64の下端部は、針送り入力腕63の回動端部の左右両側に左右方向に沿った回りに回動可能に連結されている。
【0056】
第二の針送りリンク部材65は二つ一組であり、左右の第一の針送りリンク部材64の外側に配置されている。それぞれの第二の針送りリンク部材65の上端部は、個別に第一の針送りリンク部材64の上端部に、左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。つまり、第一の針送りリンク部材64の上端部には、第二の針送りリンク部材65の上端部と針送りコネクティングロッド62の前端部とが同一の回動軸により連結されている。
また、それぞれの第二の針送りリンク部材65の下端部は、針送り調節体66に対して、左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。
【0057】
針送り調節体66は、その上部に設けられた支軸661を中心として、左右方向に沿った軸回りに回動可能である。支軸661は、第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65との連結部の回動中心と同心としてもよい。この針送り調節体66の回動動作は、主動腕69、連結リンク691、従動腕67を介して針送り調節モータ68から入力される。
【0058】
針送り調節体66は、図10に示すように、第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65とが重なる状態(長手方向の向きが一致する状態)を中立位置とする。
図10では、第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65の長さが略一致している場合を例示する。但し、これらは完全に一致しなくとも良い。
そして、針送り調節体66の中立位置では、第一の針送りリンク部材64の下端部側の回動中心C1と第二の針送りリンク部材65の下端部側の回動中心C2とが左右方向から見て接近又は同一位置となる。
このとき、第二の針送りリンク部材65の下端部は針送り調節体66に連結支持されているので、その回動中心C2は一定の位置に保持される。このため、針送りコネクティングロッド62により往復動作が入力されると、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65の上端部は、同一位置となる回動中心C1,C2を中心とする円弧R1に沿って回動する。
この場合、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65の上端部側から針送りコネクティングロッド62により往復動作が入力されると、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65は、共にその下端部側の回動中心C1,C2回り回動する。このため、第一の針送りリンク部材64の下端部に連結された針送り入力腕63には回動動作が入力されず、針送り軸51は不動状態となる。
【0059】
一方、針送り調節体66が、図11に示すように、中立位置から支軸661を中心として回動すると、第一の針送りリンク部材64の下端部の回動中心C1と第二の針送りリンク部材65の下端部の回動中心C2とが離隔する。
この場合も、第二の針送りリンク部材65の下端部は針送り調節体66に連結支持されているので、その回動中心C2は一定の位置に保持される。このため、針送りコネクティングロッド62により往復動作が入力されると、第一の針送りリンク部材64及び第二の針送りリンク部材65の上端部は、第二の針送りリンク部材65の前端部の回動中心C2を中心とする円弧R2に沿って回動する。この円弧R2は、第一の針送りリンク部材64の下端部の回動中心C1を中心とする円弧とは重ならないので、針送り入力腕63には、その直交方向成分の往復動作が入力されることとなる。
これにより、針送り入力腕63から針送り軸51に往復回動が入力される。
【0060】
上記針送り軸51に入力される往復回動角度の範囲は、中立位置に対する針送り調節体66の角度変化量に応じて変動させることができる。従って、針送り調節モータ68による針送り調節体66の回動角度量を制御することにより、針送り軸51に入力される往復回動角度の範囲を任意に調節することができ、縫い針11の針送り量を任意に調節することができる。
また、針送り調節体66を時計方向に回動させる場合と反時計方向とに回動させる場合とで位相を互いに逆にすることができ、針送り調節モータ68による針送り調節体66の回動方向を制御することにより、縫い針11の針送り方向を被縫製物の正送り方向と逆送り方向を自在に選択することができる。
【0061】
なお、第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65の長さの差が大きくない場合には、二つのリンク部材64,65の長手方向が重なる中立位置では、針送り入力腕63に生じる回動動作量は少ない。従って、第一の針送りリンク部材64と第二の針送りリンク部材65は、ある程度までは、長さが異なっていてもよい。
【0062】
[ミシンの制御系]
図12はミシン100の制御系を示すブロック図である。
図示のように、ミシン100は、各構成の動作制御を行う制御装置90を備えている。そして、この制御装置90には、ミシンモータ16、押さえモータ73、第一モータ25、第二モータ26、針送り調節モータ68が各々のモータ駆動回路16a,73a,25a,26a,68aを介して接続されている。
また、ミシンモータ16、押さえモータ73、第一モータ25及び第二モータ26には、その回転数を検出するエンコーダ161,732,251,261が併設されている。これらのエンコーダ161,732,251,261もモータ駆動回路16a,73a,25a,26aを介して制御装置90に接続されている。
【0063】
制御装置90は、CPU91、ROM92、RAM93、EEPROM94(登録商標)を備え、後述する各種の動作制御を実行する。
ROM92には、基本となるシステムプログラムが格納されている。
また、EEPROM94には、各種の設定データや他のプログラム等が記憶されている。なお、上記各種の設定データ、プログラムは、EEPROMに替えてフラッシュメモリー、EPROM又はHDD等の不揮発性の記憶装置を設け、これらに記憶しても良い。
CPU91は、ROM92、EEPROM94内の各種のプログラムを実行する。RAM93は、CPU91の作業領域となるメモリである。
【0064】
また、制御装置90には、インターフェイス96aを介して操作入力部96が接続されている。
操作入力部96は、入力画面961を備えており、各種設定を入力する際に必要な情報が表示される。
また、操作入力部96からは、縫いピッチ、第一モータ25と第二モータ26の速度差(搬送量差)の設定、布押さえ機構70による縫製時の押さえ圧の設定値等を設定入力することができる。
【0065】
また、制御装置90には、踏み込み操作により縫製の開始及び停止、縫製速度の増減操作等を入力するペダル95がインターフェイス95aを介して接続されている。
また、制御装置90には、押さえ足71の高さを検出する高さセンサ74がインターフェイス74aを介して接続されている。
【0066】
[針送り制御]
ここで、EEPROM94内に格納された制御プログラム941に基づいて行われる被縫製物の針送り制御について説明する。
図13は針送り機構50によって送られる縫い針11の前後方向の送り量と上軸82の軸角度(位相)との関係を示す線図である。図13において横軸が上軸82の位相であり、縦軸が縫い針11の移動量である(下側が送りの正方向)。図中、縫い針11の先端の移動量の変化を実線L1で示し、比較のために、送り速度を一定とする下ベルト21~24による送り量を二点鎖線L2で示す。
なお、上軸82の位相は、縫い針11の上死点を0°、下死点を180°とする。また、図13では、主に、被縫製物の送りに関わる90~270°の区間を表している。なお、厳密には、縫い針11が針板101上の被縫製物に到達し、送りを行うのは、およそ100~260°の区間である。
【0067】
針送り機構50は、全回転を行う上軸82からカムクランク機構を構成する針送り調節機構60を介して往復の回動動作が入力される。従って、上軸82が一定の回転速度で回転している場合、図示のように、縫い針11の先端部における前後方向の送り量が変化して、送り量も正弦波曲線に従って変化する。
これに対して、二点鎖線L2に示すように一定の送り速度で下ベルト21~24が送りを行うと、針送り量とベルト送り量とが一致しないため、各下ベルト21~24の摺動を生じたり、被縫製物の弛みや引っ張りを生じたりして縫い品質の低下を生じるおそれがある。
【0068】
従って、制御プログラム941を実行するCPU91は、第一モータ25及び第二モータ26に対して、針送りが行われる上軸角度区間(針送り区間とする。例えば、100~260°)の間でのみ駆動し、且つ、縫い針11の先端の前後方向に沿った送り量に合わせて被縫製物を搬送する制御を実行する。
【0069】
縫い針11の先端における送り量は、正弦波曲線に沿った変化を示し、設定された縫いピッチと針送り機構50の各部材の寸法等の設計データから算出することが可能である。
従って、CPU91は、第一モータ25及び第二モータ26に対して、針送り区間において、算出した縫い針11の先端における針送り量で駆動させる制御を実行する。
【0070】
また、縫い針11の送り開始の上軸角度(100°)から送り終了の上軸角度(260°)までの範囲を複数の区間(例えば、20°ごと)に区切り、区間ごとの送り量を定めた送りテーブル942を利用してもよい。この場合、CPU91は、上軸角度を検出しつつ、各区間ごとに送りテーブル942に定められた目標となる送り量となるように第一モータ25及び第二モータ26の動作量を制御する。
なお、送りテーブル942は、設定された縫いピッチごとに用意する必要がある。また、区間の幅は20°に限らず、任意に設定してもよい。
【0071】
なお、縫い針11の先端の前後方向に沿った送り量に合わせて第一モータ25及び第二モータ26を制御する例を説明したがこれに限定されない。
即ち、縫い針11の先端における前後方向の送り量と針板101上の被縫製物の前後方向の送り量とは、厳密には一致しない。針送りの際に、縫い針は上下動を行うので、縫い針11の先端と縫い針11の針板101の上面高さの部分とでは、前後方向にズレが生じ得る。
従って、予め、上軸角度の各区間(100,120,140,160,180,200°)での縫い針11の針板101の上面高さでの前後方向の位置を事前に計測し、当該計測値から送りテーブル942を作成することが望ましい。
【0072】
なお、下送り機構20において、左右の差動送りを行う場合には、上記縫い針11の送り量を左右のベルト送りの送り量の中央値とする。左右のベルト送りの送り量は平均すると中央値となるように差動量を定める。
また、前後差動送りを行う場合には、上記縫い針11の送り量を前後のベルト送りの送り量の中央値としてもよい。或いは、上記縫い針11の送り量を前側の送り量又は後側の送り量のいずれかに合わせてもよい。
【0073】
以下、上述した制御プログラム941に基づくCPU91によるミシン100の動作制御を図14のフローチャートに基づいて説明する。
なお、以下の処理は、上軸一回転の間にステップS3~S19までの処理が行われる。
【0074】
ペダル95の踏み込みによりミシンモータ16の駆動が開始されると、CPU91は、現在設定されている被縫製物を送る縫いピッチの設定値の読み込みを行う(ステップS1)。
【0075】
そして、CPU91は、ミシンモータ16のエンコーダ161から現在の上軸角度の検出を行い、回転数検出角度であるか否かを判定する(ステップS3)。回転数検出角度とは、毎針の上軸82の回転数(回転速度)を検出する、予め定められた上軸角度である。
まだ回転数検出角度に達していない場合には、判定を繰り返し実行し、回転数検出角度に達した場合には、エンコーダ161の出力から回転数(回転速度)を取得する(ステップS5)。
【0076】
そして、CPU91は、縫いピッチの設定値から、縫い針11の先端部における前後方向の送り量を算出する。
また、送りテーブル942を利用する場合には、設定された縫いピッチに対応する送りテーブル942を読み込んで最初の区間の縫い針11の送り量を特定する(ステップS7)。
【0077】
そして、CPU91は、エンコーダ161から現在の上軸角度の検出を行い、送りの開始角度(100°)であるか否かを判定する(ステップS9)。
まだ送りの開始角度に達していない場合には、判定を繰り返し実行し、送りの開始角度に達した場合には、第一モータ25及び第二モータ26の駆動によりベルト送りを開始する(ステップS11)。
【0078】
ベルト送りにおいて、ステップS7で求めた送り量となるように第一モータ25及び第二モータ26の動作量が制御される。
また、送りテーブル942を利用する場合には、上軸角度の各区間において、送りテーブル942に定められた送り量となるように、第一モータ25及び第二モータ26が制御される(ステップS13)。
【0079】
そして、CPU91は、エンコーダ161から現在の上軸角度の検出を行い、送りの終了角度(260°)であるか否かを判定する(ステップS15)。
まだ送りの終了角度に達していない場合には、ステップS13に処理を戻して、第一モータ25及び第二モータ26の動作量の制御を継続する。
また、送りの終了角度に達した場合には、第一モータ25及び第二モータ26の駆動を停止して、ベルト送りを終了する(ステップS17)。
【0080】
次いで、CPU91は、ペダル95の踏み込みが解除されて縫製の終了となったか否かを判定する(ステップS19)。
縫製の終了状態が検出されない場合には、ステップS3に処理を戻して再びステップS3~S19の処理を繰り返し実行する。
また、ペダル95の踏み込みの解除が検出された場合には、ミシンモータ16を停止させて、縫製の動作制御が終了する。
【0081】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記ミシン100は、制御装置90によって、下送り機構20の第一モータ25及び第二モータ26を制御して、針棒12の揺動による縫い針11の前後方向に沿った送り量に合わせて被縫製物をベルト搬送している。
このため、縫い針11による針送り量と下送り機構20の各下ベルト21~24による送り量との差を低減し、被縫製物を良好に送ることが可能となる。これにより、ミシン100による縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0082】
また、制御装置90は、縫い針11の正弦波曲線に沿った送り量の変化を算出し、これに合わせて被縫製物を送るように第一モータ25及び第二モータ26を制御している。
これにより、ミシン100の各部材の寸法等の設計値から第一モータ25及び第二モータ26を制御することができ、事前の計測やセンサ検出等を不要としつつも、針送り量とベルト送り量との差を低減し、被縫製物を良好に送ることが可能となる。
【0083】
また、制御装置90は、正弦波曲線に沿った送り量の変化に替えて、縫い針11における針板101の上面の高さでの送り量に合わせて被縫製物を送るように第一モータ25及び第二モータ26を制御することもできる。
これにより、針送り量とベルト送り量との差をさらに低減し、被縫製物をより良好に送ることが可能となる。また、縫い品質のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0084】
[針板上の縫い針の位置を検出する検出装置を設けた例]
図15はミシン100の針板101の針穴13に針板101上の縫い針11の位置を検出する検出装置103を設けた例を示す平面図である。
この検出装置103は、針板101の上面の高さにおいて、針穴13の右内縁部において少なくとも縫い針11の移動範囲全体から左方に向かって発光する光源を有する。さらに、検出装置103は、針穴13の左内縁部において少なくとも縫い針11の移動範囲全体に渡って前後方向に並列された複数の受光素子を有する。なお、光源と複数の受光素子の配置は、左右逆としてもよい。
【0085】
上記検出装置103により、縫製時に縫い針11が下降して針穴13の内部に挿入されると、縫い針11の遮蔽によって光源の受光量の低下を生じる位置から針板101の上面高さにおける縫い針11の前後方向の位置を検出することができる。
【0086】
そして、制御装置90のCPU91は、縫製時の毎針の針送りの際に、リアルタイムで針板101の上面高さにおける縫い針11の前後方向の位置を検出し、これに追従するように第一モータ25及び第二モータ26を制御して、針送り量とベルト送り量の差を低減させることが可能となる。
【0087】
[その他]
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られるものではない。例えば、実施形態において、単一の部材により一体的に形成された構成要素は、複数の部材に分割されて互いに連結又は固着された構成要素に置換してもよい。また、複数の部材が連結されて構成された構成要素は、単一の部材により一体的に形成された構成要素に置換してもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0088】
例えば、下送り機構20は、複数のモータにより複数の下ベルトの送り速度を異ならせる前後又は左右の差動送りが可能な構成でなくともよい。
その場合、下送り機構20の駆動源となるモータは一つのみとしてもよい。さらに、複数の下ベルトは、数を減らしてもよい。例えば、針穴の前後又は左右に一つずつベルトを配置し、これらを単一のモータで搬送してもよい。さらに、針穴の前側近傍又は後側近傍に単一のベルトを配置し、これを単一のモータで搬送してもよい。
【符号の説明】
【0089】
11 縫い針
12 針棒
13 針穴
16 ミシンモータ
20 下送り機構
21 後左下ベルト(搬送ベルト)
22 前左下ベルト(搬送ベルト)
23 前右下ベルト(搬送ベルト)
24 後右下ベルト(搬送ベルト)
25 第一モータ(下送りモータ)
26 第二モータ(下送りモータ)
50 針送り機構
60 針送り調節機構
66 針送り調節体
68 針送り調節モータ
80 針上下動機構
82 上軸
90 制御装置
91 CPU
941 制御プログラム
942 送りテーブル
100 ミシン
101 針板
102 複合開口部
103 検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15