(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145435
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】焼結ダイヤモンド砥石、焼結ダイヤモンド砥石の製造方法、焼結ダイヤモンド砥石の製造装置及び焼結ダイヤモンド砥石を用いた工作機械
(51)【国際特許分類】
B24D 5/02 20060101AFI20241004BHJP
B23H 5/00 20060101ALI20241004BHJP
B24D 3/02 20060101ALI20241004BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20241004BHJP
B24D 5/00 20060101ALI20241004BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20241004BHJP
B24B 53/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B24D5/02 B
B23H5/00 J
B24D3/02 Z
B24D3/00 320B
B24D5/00 P
B24D3/00 340
B24B53/00 D
B24B53/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057781
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 幸司
(72)【発明者】
【氏名】柳田 大祐
(72)【発明者】
【氏名】南 久
【テーマコード(参考)】
3C047
3C059
3C063
【Fターム(参考)】
3C047AA13
3C047AA26
3C047AA27
3C047AA28
3C047EE09
3C047EE18
3C059HA08
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA02
3C063BB02
3C063BB07
3C063BG07
3C063CC02
3C063EE09
(57)【要約】
【課題】多数の微小切れ刃と切り屑の逃げ場となるチップポケットを有し、硬脆材料を高精度に高能率加工することができる焼結ダイヤモンド砥石を提供する。また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石を簡便かつ効率的に製造する方法、及び当該製造方法に好適に用いることができる製造装置を提供する。更に、本発明の焼結ダイヤモンド砥石を用いたガラス成形金型加工用の工作機械を提供する。
【解決手段】ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットが形成され、隣接する切れ刃同士の間隔が1~200μmであり、チップポケットの深さの平均値が5μm以上であること、を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットが形成され、
隣接する前記切れ刃同士の間隔が1~200μmであり、
前記チップポケットの深さの平均値が5μm以上であること、
を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石。
【請求項2】
前記切れ刃の先端の位置は、最も突出した前記切れ刃の先端位置からの差が2μm以内であること、
を特徴とする請求項1に記載の焼結ダイヤモンド砥石。
【請求項3】
前記ダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子径が0.1~50μmであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の焼結ダイヤモンド砥石。
【請求項4】
円盤形状を有していること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の焼結ダイヤモンド砥石。
【請求項5】
放電加工を用いた放電ドレッシングによって、ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットを形成する焼結ダイヤモンド砥石の製造方法であって、
前記放電ドレッシングの電極に導電性非金属を用い、
前記放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上とし、
隣接する前記切れ刃同士の間隔を1~200μmとし、
前記チップポケットの深さの平均値を5μm以上とすること、
を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石の製造方法。
【請求項6】
前記導電性非金属に単結晶SiCを用いること、
を特徴とする請求項5に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法。
【請求項7】
前記放電ドレッシングの加工液に超純水を用いること、
を特徴とする請求項5又は6に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法。
【請求項8】
放電加工を用いて前記ダイヤモンド焼結体の回転振れの修正及び/又は前記ダイヤモンド焼結体の形状の創成を行う放電ツル―イング工程を有していること、
を特徴とする請求項5又は6に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法。
【請求項9】
前記放電ツル―イング工程において、前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記ダイヤモンド焼結体に放電加工を施し、
前記ダイヤモンド焼結体の外周面を円環状に成形すると共に、前記ダイヤモンド焼結体の回転振れを修正すること、
を特徴とする請求項8に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法。
【請求項10】
前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記ダイヤモンド焼結体の前記切れ刃の先端を石英ガラスに接触させ、前記切れ刃の先端部の位置を均一化すること、
を特徴とする請求項5又は6に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法。
【請求項11】
ダイヤモンド焼結体を把持する回転軸と、前記ダイヤモンド焼結体に対して放電加工を施す放電ドレッシング機構と、を有し、
前記放電ドレッシング機構は導電性非金属の電極を有し、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定することができ、
前記回転軸に把持された前記ダイヤモンド焼結体に対して前記放電ドレッシングを施すことで、前記ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットを形成し、
前記パルス幅及び/又は前記最大放電電流値によって、隣接する前記切れ刃同士の間隔及び/又は前記チップポケットの深さを制御する手段を有すること、
を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石の製造装置。
【請求項12】
前記回転軸に把持された前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記ダイヤモンド焼結体に対して放電加工を施し、前記ダイヤモンド焼結体の外周面を円環状に成形すると共に、回転振れを修正する放電ツル―イング機構を有すること、
を特徴とする請求項11に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置。
【請求項13】
前記回転軸に把持された前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記切れ刃の先端部に石英ガラスを接触させる手段を備えていること、
を特徴とする請求項11又は12に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置を備え、
前記製造装置の回転軸を加工用回転軸とすること、
を特徴とするガラスレンズ成形金型加工用工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の精密加工等に用いることができる焼結ダイヤモンド砥石、当該焼結ダイヤモンド砥石の製造方法、当該焼結ダイヤモンド砥石の製造装置及び当該焼結ダイヤモンド砥石を用いた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
車載カメラ向け光学ガラスレンズ成形用金型等の精密加工には、高硬度で耐摩耗性に優れた焼結ダイヤモンド(PCD)砥石が用いられる。しかしながら、従来のPCD砥石は、適切な微小切れ刃とチップポケットを有していないため、CVD-SiC等の硬脆材料からなる金型を高精度に高能率加工することが困難であった。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2016-112678号公報)においては、「ダイヤモンド焼結体の表面粗さを小さくして被削材の高精度な加工を行えるようにしたダイヤモンド焼結体ボールエンドミルとその製造方法を提供すること」を目的として、「ダイヤモンド焼結体ボールエンドミルであって、工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有し、該半球状の球体面の表面はダイヤモンド粒子と結合剤によるダイヤモンド焼結体の凸部を研磨加工してなることを特徴とするダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。」が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のダイヤモンド焼結体ボールエンドミルにおいては、「工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有し、該半球状の球体面の表面はダイヤモンド粒子とコバルト等の結合剤の焼結体を研磨加工してなるため、ダイヤモンド焼結体の表面に突出するダイヤモンド粒子を研磨すると共に表面に付着する高熱で劣化したダイヤモンド粒子や酸化物等の不純物を研磨によって除去したため、表面の面粗さが小さくなり被削材の加工精度が一層向上する。しかも、ダイヤモンド焼結体の表面の面粗さが向上するために切削加工によって生じる被削材の切屑が付着することを妨げるので被削材の加工精度が一層向上するという利点が得られる。」とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2011-200944号公報)においては、「高い加工レートを実現できると共に、表面の平滑化が可能な加工方法を提供する」ということを目的として、「アルカリ溶液中に配置された被加工物の表面に、同被加工物のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有する光を照射すると共に、前記光が照射された前記被加工物の表面に加工部材を接触させた状態で前記被加工物と前記加工部材を相対的に変位させる工程を備える加工方法。」が提案され、被加工物をダイヤモンドとすることが示されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の加工方法においては、「被加工物の表面に形成された軟質な層については、(1)アルカリ溶液によって化学的に除去され、若しくは、(2)加工部材によって機械的に除去され、若しくは、(3)アルカリ溶液によって化学的に除去されると共に加工部材によって機械的に除去されることとなる。」とされており、その結果、「高い加工速度を実現することが可能となる」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-112678号公報
【特許文献2】特開2011-200944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術を用いてダイヤモンド焼結体の表面に比較的大きな凹凸を形成させることは困難であることから、上記特許文献1に記載のダイヤモンド焼結体ボールエンドミルにおいては、ダイヤモンド表面の凹凸を最大1μm以下とすることを特徴としている。しかしながら、CVD-SiC等の硬脆材料からなる金型を高精度に高能率加工するためには、多数の微小切れ刃と切り屑の逃げ場となるチップポケットをダイヤモンド焼結体の表面に形成させる必要がある。これに対し、上記特許文献1に記載のダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの表面における凹凸は最大1μm以下となっており、切り屑の逃げ場として十分な深さのチップポケットを有していない。加えて、上記特許文献1に記載のダイヤモンド焼結体ボールエンドミルでは、高い切削能力を発現させることが困難である。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の加工方法は、研磨を施したダイヤモンドの表面におけるナノメートルオーダーの凹凸を更に均一化することを目的とした技術である。これに対し、微小切れ刃と適当な深さのチップポケットを形成する場合は、ダイヤモンド焼結体の表面における凹凸は必然的にマイクロメートルオーダーとなり、特許文献2に記載の加工方法を適用することは極めて困難である。また、ナノメートルオーダーの凹凸からなる切れ刃では、切削能力の観点からも十分とは言い難い。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、多数の微小切れ刃と切り屑の逃げ場となるチップポケットを有し、硬脆材料を高精度に高能率加工することができる焼結ダイヤモンド砥石を提供することにある。また、本発明は、本発明の焼結ダイヤモンド砥石を簡便かつ効率的に製造する方法、及び当該製造方法に好適に用いることができる製造装置を提供することも目的としている。更に、本発明は、本発明の焼結ダイヤモンド砥石を用いたガラス成形金型加工用の工作機械を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、焼結ダイヤモンド砥石、焼結ダイヤモンド砥石の製造方法、焼結ダイヤモンド砥石の製造装置及び焼結ダイヤモンド砥石を用いた工作機械について鋭意研究を重ねた結果、焼結ダイヤモンド砥石の表面におけるチップポケットの深さを5μm以上とし、当該チップポケット及び微小切れ刃を導電性の非金属材料を電極とした放電加工によって形成させること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットが形成され、
隣接する前記切れ刃同士の間隔が1~200μmであり、
前記チップポケットの深さの平均値が5μm以上であること、
を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石、を提供する。
【0013】
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の最大の特徴は、切り屑の逃げ場となる十分に深いチップポケットが形成されていることである。焼結ダイヤモンドの表面に多数の深い凹部を形成させることは極めて困難であるが、本発明の焼結ダイヤモンド砥石においては、チップポケットの深さの平均値が5μm以上となっている。チップポケットの深さの平均値は20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。ここで、チップポケットの深さは、切れ刃(凸部)の先端部からチップポケット(凹部)の最深部までの距離を意味している。
【0014】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石においては、隣接する切れ刃同士の間隔が1~200μmとなっている。当該間隔を1μm以上とすることによって、切れ刃同士の間に形成されるチップポケットの開口部面積を十分に大きくすることができ、切り屑の逃げ場とすることができる。一方で、当該間隔を200μm以下とすることで、切れ刃の分布密度を高くすることができ、焼結ダイヤモンド砥石に高い切削能力を付与することができる。切れ刃同士の好ましい間隔は3~100μmであり、より好ましい間隔は5~50μmである。ここで、隣接する切れ刃同士の間隔とは、独立して存在する2つの切れ刃の場合は当該切れ刃同士の間隔を意味する。
【0015】
加えて、隣接する切れ刃同士の間隔を200μm以下とすることで、1つの切れ刃による切り屑の最大切取厚さを小さくすることができ、例えば、CVD-SiC等の硬脆材料からなる金型を高精度に加工することができる。最大切取厚さは砥石径や回転数、切込深さ、送り速度などの加工条件に依存するが、隣接する切れ刃同士の間隔を200μm以下とすることで、加工条件の選択範囲を広くすることができる。
【0016】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石においては、前記切れ刃の先端の位置は、最も突出した切れ刃の先端位置からの差が2μm以内であること、が好ましい。最も突出した切れ刃の先端位置からの差を2μm以内とすることで、焼結ダイヤモンド砥石に高い加工精度及び加工効率を付与することができる。最も突出した切れ刃の先端位置からの差は1μm以内であることがより好ましく、0.5μm以内であることが最も好ましい。
【0017】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石においては、前記ダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子径が0.1~50μmであること、が好ましい。ダイヤモンド焼結体を構成するダイヤモンド粒子径を0.1μm以上とすることで、超高圧下における焼結時のダイヤモンド粒子の破砕や焼結相として添加される遷移金属の液相に対する溶解等を考慮しても、良好な状態のダイヤモンドを活用できる焼結ダイヤモンド砥石を得ることができる。一方で、ダイヤモンド粒子径を50μm以下とすることで、ダイヤモンド焼結体が緻密かつ均質となり、高い加工精度及び加工能率を有する焼結ダイヤモンド砥石を得ることができる。ダイヤモンド粒子径は1~25μmであることがより好ましく、1~10μmであることが最も好ましい。
【0018】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石は、円盤形状を有していること、が好ましい。焼結ダイヤモンド砥石を円盤形状とすることで、焼結ダイヤモンド砥石の端面を用いて精密な加工を施すことができる。
【0019】
また、本発明は、
放電加工を用いた放電ドレッシングによって、ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットを形成する焼結ダイヤモンド砥石の製造方法であって、
前記放電ドレッシングの電極に導電性非金属を用い、
前記放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上とし、
隣接する前記切れ刃同士の間隔を1~200μmとし、
前記チップポケットの深さの平均値を5μm以上とすること、
を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石の製造方法、も提供する。
【0020】
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法においては、放電ドレッシングの電極に導電性非金属を用いることを最大の特徴としている。放電加工で一般的に用いられるCuやCuW合金等の金属材料を放電ドレッシングの電極に用いる場合、ダイヤモンド焼結体の放電加工面に電極材料が付着するため、良好な切れ刃やチップポケットを形成することができない。一方で、導電性非金属を電極に用いることでダイヤモンド焼結体の放電加工面への電極材料の付着が抑制され、隣接する切れ刃同士の間隔が1~200μmとなる切れ刃や深さの平均値が5μm以上となるチップポケットを簡便かつ効率的に形成させることができる。
【0021】
また、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下とすることで、ダイヤモンド焼結体の表面に微細加工を施すことができ、最大放電電流値を2A以上とすることで、深いチップポケットを効率的に形成することができる。
【0022】
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法においては、前記導電性非金属に単結晶SiCを用いること、が好ましい。放電ドレッシングの電極に用いる導電性非金属は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の導電性非金属を用いることができるが、単結晶SiCを用いることが好ましく、4Hの結晶構造を有する単結晶SiCを用いることがより好ましい。
【0023】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法においては、前記放電ドレッシングの加工液に超純水を用いること、が好ましい。加工液に比抵抗が大きな超純水を用いて放電ドレッシングを行うことで放電加工が安定化し、焼結ダイヤモンド表面に対する加工精度を高くすることができる。ここで、加工液は超純水に限られず、純水や放電加工用の油を用いてもよい。純水は超純水よりも安価であり、放電加工用の油を用いることで加工精度を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法においては、放電加工を用いて前記ダイヤモンド焼結体の回転振れの修正及び/又は前記ダイヤモンド焼結体の形状の創成を行う放電ツル―イング工程を有していること、が好ましい。また、前記放電ツル―イング工程においては、前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記ダイヤモンド焼結体に放電加工を施し、前記ダイヤモンド焼結体の外周面を円環状に成形すると共に、前記ダイヤモンド焼結体の回転振れを修正すること、がより好ましい。ダイヤモンド焼結体を回転させながら外周部を放電加工することで、ダイヤモンド焼結体の外周面を円環状に成形することができる。また、当該放電加工によって、ダイヤモンド焼結体の回転振れを1μm以下程度に修正することが好ましい。
【0025】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法においては、前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記ダイヤモンド焼結体の前記切れ刃の先端を石英ガラスに接触させ、前記切れ刃の先端部の突き出し高さを均一化すること、が好ましい。放電ドレッシングによってダイヤモンド焼結体の表面に形成された切れ刃の先端を加工(均一化)する場合、ダイヤモンド焼結体を回転させながら、切れ刃の極先端部のみを石英ガラスに接触させることで、効率的かつ精密な加工を施すことができる。ここで、極めて硬度が高いダイヤモンド焼結体を加工することは困難であり、石英ガラスはダイヤモンド焼結体よりも硬度が低いが、石英ガラスに含まれるSiO2による化学的な作用によって切れ刃の先端を効率的に摩耗(加工)させることができ、切れ刃の突き出し高さを一定に整えることができる。
【0026】
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法においては、放電ツル―イング工程の後に放電ドレッシングを施し、その後、トラケーション工程を実施することが好ましいが、これらの各工程の順番及び実施する回数は特に限定されず、必要に応じて任意に決定すればよい。
【0027】
更に、本発明は、
ダイヤモンド焼結体を把持する回転軸と、前記ダイヤモンド焼結体に対して放電加工を施す放電ドレッシング機構と、を有し、
前記放電ドレッシング機構は導電性非金属の電極を有し、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定することができ、
前記回転軸に把持された前記ダイヤモンド焼結体に対して前記放電ドレッシングを施すことで、前記ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットを形成し、
前記パルス幅及び/又は前記最大放電電流値によって、隣接する前記切れ刃同士の間隔及び/又は前記チップポケットの深さを制御する手段を有すること、
を特徴とする焼結ダイヤモンド砥石の製造装置、も提供する。
【0028】
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置は、回転軸に取り付けられたダイヤモンド焼結体に対して、当該ダイヤモンド焼結体を回転させながら、導電性非金属を電極に用いて放電加工を施す放電ドレッシング機構を有している。電極に用いる導電性金属は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の導電性金属を用いることができるが、単結晶SiCとすることが好ましく、4Hの結晶構造を用いる単結晶SiCとすることがより好ましい。
【0029】
また、放電ドレッシング機構は、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定することができる。放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定できる限りにおいて、放電ドレッシングのパルス幅の下限値及び最大放電電流値の上限値は特に限定されず、所望する装置価格等に応じて任意の値にすればよい。
【0030】
放電ドレッシング機構によって、ダイヤモンド焼結体の表面に複数の切れ刃と複数のチップポケットを形成することができ、パルス幅及び/又は最大放電電流値によって、隣接する切れ刃同士の間隔及び/又はチップポケットの深さを制御することができる。具体的には、パルス幅を小さくすることで加工精度を向上させることができ、最大放電電流値を大きくすることで加工速度を大きくすることができる。
【0031】
また、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置においては、前記回転軸に把持された前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記ダイヤモンド焼結体に対して放電加工を施し、前記ダイヤモンド焼結体の外周面を円環状に成形すると共に、回転振れを修正する放電ツル―イング機構を有すること、が好ましい。前記円環状の直径は10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、1mm以下の微小径砥石であることが最も好ましい。
【0032】
更に、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置においては、前記回転軸に把持された前記ダイヤモンド焼結体を回転させながら、前記切れ刃の先端部に石英ガラスを接触させる手段(トランケーション機構)を備えていること、が好ましい。
【0033】
また、本発明は、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置を備え、前記製造装置の回転軸を加工用回転軸とすること、を特徴とするガラスレンズ成形金型加工用工作機械、も提供する。
【0034】
本発明のガラスレンズ成形金型加工用工作機械は、本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置を備え、当該製造装置の回転軸を加工用回転軸としていることから、回転軸に取り付けたダイヤモンド焼結体を焼結ダイヤモンド砥石に加工した後、当該焼結ダイヤモンド砥石を回転軸から取り外すことなく、そのまま工具として使用することができる。その結果、焼結ダイヤモンド砥石を用いた高精度加工を簡便かつ容易に実現することができる。
【0035】
ガラスレンズ成形金型用工作機械における工作機構は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、焼結ダイヤモンド砥石を工具とすることができる従来公知の種々の工作機が有する機構を用いることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、多数の微小切れ刃と切り屑の逃げ場となるチップポケットを有し、硬脆材料を高精度に高能率加工することができる焼結ダイヤモンド砥石を提供することができる。また、本発明によれば、本発明の焼結ダイヤモンド砥石を簡便かつ効率的に製造する方法、及び当該製造方法に好適に用いることができる製造装置を提供することもできる。更に、本発明によれば、本発明の焼結ダイヤモンド砥石を用いたガラス成形金型加工用の工作機械を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の焼結ダイヤモンド砥石の一態様を示す外観模式図である。
【
図2】
図1の焼結ダイヤモンド砥石の外周面の表面状態を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法における代表的な工程図である。
【
図4】ツル―イング工程(S01)における放電加工の模式図である。
【
図5】放電ドレッシング工程(S02)における放電加工の模式図である。
【
図6】トランケーション工程(S03)の模式図である。
【
図7】実施例1において放電ドレッシングを施したダイヤモンド焼結体の表面のSEM写真である。
【
図8】実施例1において最大放電電流値を2Aとして得られた表面の高さのマッピング結果である。
【
図9】実施例1において最大放電電流値を5Aとして得られた表面の高さのマッピング結果である。
【
図10】実施例1において最大放電電流値を10Aとして得られた表面の高さのマッピング結果である。
【
図11】実施例1において最大放電電流値を2Aとして得られた表面の高さの分布を示すグラフである。
【
図12】実施例1において最大放電電流値を5Aとして得られた表面の高さの分布を示すグラフである。
【
図13】実施例1において最大放電電流値を10Aとして得られた表面の高さの分布を示すグラフである。
【
図14】実施例1において焼結ダイヤモンド砥石を用いてCVD-SiCを加工した場合の加工抵抗と加工面粗さを示すグラフである。
【
図15】実施例1において焼結ダイヤモンド砥石を用いてCVD-SiCを加工した場合の加工距離と加工抵抗を示すグラフである。
【
図16】実施例2において放電持続時間を1μsとして得られた表面における高さのマッピング結果である。
【
図17】実施例2において放電持続時間を20μsとして得られた表面における高さのマッピング結果である。
【
図18】実施例2において放電持続時間を50μsとして得られた表面における高さのマッピング結果である。
【
図19】実施例3において放電ドレッシングを施したダイヤモンド焼結体の表面のSEM写真である。
【
図20】実施例4における摩擦試験の模式図である。
【
図21】実施例4において試験荷重:200N、摩擦速度:5.65m/minでの摩耗量を示すグラフである。
【
図22】実施例4における試験荷重とダイヤモンド焼結体の摩耗量の関係を示すグラフである。
【
図23】実施例4における摩耗速度とダイヤモンド焼結体の摩耗量の関係を示すグラフである。
【
図24】実施例4における試験温度とダイヤモンド焼結体の摩耗量の関係を示すグラフである。
【
図25】実施例4における放電ツル―イング前後の回転振れの測定結果である。
【
図26】実施例4における石英ガラスツル―イング後の回転振れの測定結果である。
【
図27】比較例1で得られた比較ダイヤモンド砥石の表面のSEM写真である。
【
図28】比較例2で得られた比較ダイヤモンド砥石の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図を参照しながら、本発明の焼結ダイヤモンド砥石、焼結ダイヤモンド砥石の製造方法、焼結ダイヤモンド砥石の製造装置及び焼結ダイヤモンド砥石を用いた工作機械の代表的な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではなく、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて比や数を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0039】
1.焼結ダイヤモンド砥石
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の一態様を示す外観模式図を
図1に示す。また、
図1に示す焼結ダイヤモンド砥石の外周面の表面状態を示す断面模式図を
図2に示す。
【0040】
焼結ダイヤモンド砥石1は円盤状をしていることが好ましく、外周面を被加工材に当接させることで精密加工を行うことができる。円盤状には、例えば、算盤玉のような形状も含まれる。また、焼結ダイヤモンド砥石1の形状は円盤状に限られず、従来公知の種々の焼結ダイヤモンド砥石の形状とすることができる。また、
図1の焼結ダイヤモンド砥石1は基材2の外周部にダイヤモンド焼結体4が接合されているが、従来公知の種々の焼結ダイヤモンド砥石の同様の構成とすることができる。
【0041】
焼結ダイヤモンド砥石1の表面には多数の微小な凸部と凹部が形成されており、凸部が切れ刃6、凹部がチップポケット8となっている。切れ刃6(凸部)及びチップポケット8(凹部)はダイヤモンド焼結体4の表面に対する放電加工(放電ドレッシング)で形成されたものであり、場所、形状及び大きさにはある程度のばらつきが存在するが、概ね、チップポケット8の周囲に切れ刃6が形成されている(切れ刃6の間にチップポケット8が形成されている)。
【0042】
隣接する切れ刃6同士の間隔は1~200μmとなっている。ここで、隣接する切れ刃同士の間隔とは、独立して存在する2つの切れ刃の場合は当該切れ刃同士の間隔を意味する。
図2に隣接する切れ刃6同士の間隔をLとして例示しているが、切れ刃の先端の間隔となっている。
【0043】
隣接する切れ刃6同士の間隔を1μm以上とすることによって、切れ刃6同士の間に形成されるチップポケット8の開口部面積を十分に大きくすることができ、切り屑の逃げ場とすることができる。一方で、当該間隔を200μm以下とすることで、切れ刃6の分布密度を高くすることができ、焼結ダイヤモンド砥石1に高い切削能力を付与することができる。切れ刃6同士の好ましい間隔は3~100μmであり、より好ましい間隔は5~50μmである。
【0044】
加えて、隣接する切れ刃6同士の間隔を200μm以下とすることで、1つの切れ刃6による切り屑の最大切取厚さを小さくすることができ、例えば、CVD-SiC等の硬脆材料からなる金型を高精度に加工することができる。最大切取厚さは焼結ダイヤモンド砥石1の送り速度にも依存するが、隣接する切れ刃6同士の間隔を200μm以下とすることで、最大切取り厚さを100nm以下とすることができる。
【0045】
また、チップポケット8(凹部)の深さの平均値は5μm以上となっている。ここで、「チップポケット8の深さ」は、最も突出した切れ刃の先端位置からチップポケット8(凹部)の最深部までの距離であり、
図2においてDとして示している。チップポケット8の深さの平均値は、例えば、焼結ダイヤモンド砥石1の表面粗さを測定することで求めることができる。チップポケットの深さの平均値は20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。
【0046】
また、切れ刃6の先端の位置は、最も突出した切れ刃の先端位置からの差が2μm以内であることが好ましい。切れ刃6の先端の位置は、最も突出した切れ刃の先端位置からの差を2μm以内とすることで、焼結ダイヤモンド砥石1に高い加工精度及び加工効率を付与することができる。最も突出した切れ刃の先端位置からの差は、焼結ダイヤモンド砥石1の表面の表面粗さをマッピング表示又はライン表示して特定される切れ刃6に対して、その高さの差を計測することで求めることができる。最も突出した切れ刃の先端位置からの差は1μm以内であることが好ましく、0.5μm以内であることがより好ましい。
【0047】
また、焼結ダイヤモンド砥石1におけるダイヤモンド焼結体4のダイヤモンド粒子径は0.1~50μmであることが好ましい。ダイヤモンド焼結体4を構成するダイヤモンド粒子径を0.1μm以上とすることで、超高圧下における焼結時のダイヤモンド粒子の破砕や焼結相として添加される遷移金属の液相に対する溶解等を考慮しても、良好なダイヤモンドの領域を活用できる焼結ダイヤモンド砥石1を得ることができる。一方で、ダイヤモンド粒子径を50μm以下とすることで、ダイヤモンド焼結体4が緻密かつ均質となり、高い加工精度及び加工能率を有する焼結ダイヤモンド砥石1を得ることができる。ダイヤモンド粒子径は1~25μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。
【0048】
2.焼結ダイヤモンド砥石の製造方法
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法における代表的な工程図を
図3に示す。放電ツル―イング工程(S01)によってダイヤモンド焼結体の回転振れを低減した後、放電ドレッシング工程(S02)によってダイヤモンド焼結体の表面に切れ刃6及びチップポケット8を形成し、トランケーション工程(S03)によって切れ刃6の刃先を加工することで、焼結ダイヤモンド砥石1を簡便かつ効率的に製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0049】
(1)ツル―イング工程(S01)
ツル―イング工程(S01)は、ダイヤモンド焼結体4の外周部を放電加工によって整え、回転振れを低減するための工程である。ツル―イング工程(S01)によって、ダイヤモンド焼結体4の回転振れを1μm以下とすることが好ましい。
【0050】
ツル―イング工程(S01)における放電加工の模式図を
図4に示す。回転軸に固定したダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を回転させながら、ダイヤモンド焼結体4の外周部に対して放電加工を施すことで、回転振れを低減することができる。
【0051】
放電加工に用いる電極10には、放電加工で一般的に用いられるCuやCuW合金等の金属材料を用いることができる。また、その他の放電加工条件については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、ダイヤモンド焼結体4の放電加工条件として従来公知の条件を用いることができる。
【0052】
(2)放電ドレッシング工程(S02)
放電ドレッシング工程(S02)は、ダイヤモンド焼結体4の表面に複数の切れ刃6と複数のチップポケット8を形成するための工程である。放電ドレッシング工程(S02)における放電加工の模式図を
図5に示す。
【0053】
ツル―イング工程(S01)によって回転振れを低減した後、ダイヤモンド焼結体4を回転軸から取り外すことなく、放電ドレッシング工程(S02)を施すことで、精密かつ効率的にダイヤモンド焼結体4の表面に切れ刃6とチップポケット8を形成することができる。
【0054】
具体的には、ダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を回転させながら、ダイヤモンド焼結体4の外周部に対して放電加工を施すことで、切れ刃6とチップポケット8を形成することができる。ここで、放電加工の電極10に導電性非金属を用いることで、ダイヤモンド焼結体6の放電加工面への電極材料の付着が抑制され、隣接する切れ刃6同士の間隔が1~200μmとなる切れ刃6や深さの平均値が5μm以上となるチップポケット8を、簡便かつ効率的に形成させることができる。
【0055】
電極10に用いる導電性非金属には、SiCやグラファイト等を用いることができるが、単結晶SiCを用いることが好ましく、4Hの結晶構造を有する単結晶SiCを用いることがより好ましい。
【0056】
また、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下とすることで、ダイヤモンド焼結体4の表面に微細加工を施すことができ、最大放電電流値を2A以上とすることで、深いチップポケット8を効率的に形成することができる。より具体的には、高い加工精度が要求される場合はパルス幅及び最大放電電流値を小さく設定することが好ましく、大きな加工速度が要求される場合はパルス幅及び最大放電電流値を大きく設定することが好ましい。例えば、仕上げ加工用の焼結ダイヤモンド砥石1を製造する場合は最大放電電流値を2Aとし、粗加工用の焼結ダイヤモンド砥石1を製造する場合は最大放電電流値を10Aとすればよい。
【0057】
放電ドレッシングの加工液には、超純水を用いることが好ましい。加工液に比抵抗が大きな超純水(比抵抗:1.8×107Ω・cm)を用いて放電ドレッシングを行うことで放電加工が安定化し、ダイヤモンド焼結体4の表面に対する加工精度を高くすることができる。加えて、比較的安価に高い加工速度を得ることができる。ここで、加工液は超純水に限られず、純水や放電加工用の油を用いてもよい。純水は超純水よりも安価であり、放電加工用の油を用いることで加工精度を向上させることができる。
【0058】
(3)トランケーション工程(S03)
トランケーション工程(S03)は、放電ドレッシング工程(S02)で形成された切れ刃6の先端を加工し、切れ刃6の突き出し高さを一定に整えるための工程である。トランケーション工程(S03)の模式図を
図6に示す。
【0059】
放電ドレッシング工程(S02)によってダイヤモンド焼結体4の表面に形成された切れ刃4の先端を加工(均一化)する場合、ダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を回転させながら、切れ刃6の極先端部のみを石英ガラス12に接触させることで、極めて効率的かつ精密な加工を施すことができる。ここで、極めて硬度が高いダイヤモンド焼結体4を加工することは困難であり、石英ガラス12はダイヤモンド焼結体4よりも硬度が低いが、石英ガラス12に含まれるSiO2による化学的な作用によって切れ刃6の先端を効率的に摩耗(加工)することができ、切れ刃6の突き出し高さを一定に整えることができる。その結果、例えば、石英ガラス12を超硬合金に接触させて加工する場合と比較して、加工速度を大きくすることができ、効率的に加工を施すことができる。
【0060】
ダイヤモンド焼結体4を石英ガラス12に押圧する圧力、ダイヤモンド焼結体4の回転速度等の加工条件については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、ダイヤモンド焼結体4の形状及び大きさ、所望の刃先形状や加工速度等に応じて適宜調整すればよい。
【0061】
また、トランケーション工程(S03)によって、切れ刃6の突き出し高さの差を±2μmとすることが好ましい。切れ刃6の突き出し高さの差を±2μmとすることで、焼結ダイヤモンド砥石1に高い加工精度及び可能効率を付与することができる。突き出し高さの差は、焼結ダイヤモンド砥石1におけるダイヤモンド焼結体4の表面の表面粗さをマッピング表示又はライン表示して特定される切れ刃6に対して、その高さの差を計測することで求めることができる。突き出し高さの差は±1μmとすることがより好ましく、±0.5μmとすることが最も好ましい。
【0062】
3.焼結ダイヤモンド砥石の製造装置
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造装置は、ダイヤモンド焼結体4を加工して、焼結ダイヤモンド砥石1を簡便かつ効率的に製造するための装置であり、焼結ダイヤモンド砥石1を用いる工作装置の機上で焼結ダイヤモンド砥石1を製造することが好ましい。
【0063】
焼結ダイヤモンド砥石の製造装置は、回転軸に取り付けられたダイヤモンド焼結体4に対して、ダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を回転させながら、導電性非金属を電極に用いて放電加工を施す放電ドレッシング機構を有している。ここで、ダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を把持する回転軸は、工作機構の回転軸としても使用されることが好ましい。
【0064】
放電ドレッシング機構は、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定することができ、放電ドレッシング機構によって、ダイヤモンド焼結体4の表面に複数の切れ刃6と複数のチップポケット8を形成することができる。また、放電加工のパルス幅及び/又は最大放電電流値によって、隣接する切れ刃6同士の間隔及び/又はチップポケット8の深さを制御することができる。
【0065】
電極に用いる導電性金属は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の導電性金属を用いることができるが、単結晶SiCとすることが好ましく、4Hの結晶構造を用いる単結晶SiCとすることがより好ましい。
【0066】
また、放電ドレッシング機構は、放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定することができる。放電ドレッシングのパルス幅を1μs以下、最大放電電流値を2A以上に設定できれば、放電ドレッシングのパルス幅の下限値及び最大放電電流値の上限値は特に限定されず、所望の装置価格等に応じて任意の値にすればよい。
【0067】
加工機構は、切れ刃6の先端を加工するトランケーション機構を有していることが好ましい。また、トランケーション機構は、回転軸に取り付けられたダイヤモンド焼結体4に対して、ダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を回転させながら、切れ刃6の先端に石英ガラス12を当接させる手段を備えていることが好ましい。
【0068】
更に、加工機構は、回転軸に取り付けられたダイヤモンド焼結体4の回転振れを低減すると共にダイヤモンド焼結体4の外周面を円環状に成形するツル―イング機構を有していることが好ましい。また、ツル―イング機構は、回転軸に取り付けられたダイヤモンド焼結体4に対して、ダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を回転させながら、ダイヤモンド焼結体4に放電加工を施し、ダイヤモンド焼結体4の外周面を円環状に成形する手段を備えていることが好ましい。
【0069】
ここで、放電ドレッシング機構、トランケーション機構及びツル―イング機構には同じ回転軸を用いることが好ましい。回転軸からダイヤモンド焼結体4(焼結ダイヤモンド砥石1)を取り外すことなく、各処理を施すことで、ダイヤモンド焼結体4に対する高い加工精度及び加工効率を実現することができる。
【0070】
4.ガラス成形金型加工用工作機械
ガラス成形金型加工用工作機械は、焼結ダイヤモンド砥石の製造装置によって得られた焼結ダイヤモンド砥石1を回転軸から取り外すことなく、そのまま工具として用いて工作することができる工作機械である。工作機構は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、焼結ダイヤモンド砥石1を工具とすることができる従来公知の種々の工作機が有する機構を適用すればよい。
【0071】
回転軸に取り付けたダイヤモンド焼結体4を焼結ダイヤモンド砥石の製造装置によって焼結ダイヤモンド砥石1に加工した後、焼結ダイヤモンド砥石1を回転軸から取り外すことなく、そのまま工具として使用することができ、焼結ダイヤモンド砥石1を用いた高精度加工を簡便かつ容易に実現することができる。
【0072】
以下、実施例において本発明の焼結ダイヤモンド砥石、焼結ダイヤモンド砥石の製造方法、焼結ダイヤモンド砥石の製造装置及び焼結ダイヤモンド砥石を用いた工作機械について更に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0073】
《実施例1》
ダイヤモンド焼結体に対して、
図5の態様にて放電加工(放電ドレッシング)を施し、本発明の実施例である焼結ダイヤモンド砥石(直径:6mm、厚さ:0.2mm)を得た。ダイヤモンド焼結体を構成するダイヤモンド粒子の平均粒径は0.1~1μmである。放電加工にはSodick社製のAP1Lを用い、放電加工(放電ドレッシング)の条件を開放電圧:120V、最大放電電流値:2~10A、放電持続時間:1μsとした。
【0074】
放電加工の電極には4Hの結晶構造を有する単結晶SiCを用い、単結晶SiC電極を正極、ダイヤモンド焼結体を負極とし、ダイヤモンド焼結体を回転させながら放電加工を施した。放電加工の加工液には超純水(18MΩ・cm)を用いた。
【0075】
最大放電電流値を2A、5A、10Aとして放電ドレッシングを施したダイヤモンド焼結体の表面のSEM写真を
図7に示す。表面には微小な切れ刃及びチップポケットが多数形成されており、最大放電電流値によってこれらのサイズが変化していることが分かる。最大放電電流値を10Aとして得られた表面において、代表的な切れ刃及びチップポケットを矢印で示している。
【0076】
具体的には、切れ刃の数は最大放電電流値の増加に伴い減少しており、焼結ダイヤモンド砥石面に形成する微小切れ刃の数を増加させたい場合は、最大放電電流値は小さい方が適している。最大放電電流値の増加に伴い、切れ刃は大きくなっており、隣接する切れ刃同士の間隔も増大している。また、最大放電電流値の増加に伴い、チップポケットの開口部の面積及び深さが増大している。これらの結果は、単結晶SiCを電極とする放電ドレッシングにおいて、最大放電電流値によって切れ刃同士の間隔及びチップポケットの深さを制御できることを示している。
【0077】
図7のSEM写真から、最大放電電流値を2Aとした場合の隣接する切れ刃の間隔は10~20μm、最大放電電流値を5Aとした場合の隣接する切れ刃の間隔は20~40μm、最大放電電流値を10Aとした場合の隣接する切れ刃の間隔は40~80μmとなっていることが分かる。
【0078】
図7に示す各表面について、白色干渉顕微鏡を用いて表面粗さを測定した。最大放電電流値を2A、5A及び10Aとして得られた各表面における高さのマッピング結果を
図8、
図9及び
図10にそれぞれ示す。また、最大放電電流値を2A、5A及び10Aとして得られた各表面における高さの分布を
図11、
図12及び
図13にそれぞれ示す。
図8~
図10においては、放電ドレッシング前を基準として、表面が後退した距離を示しており、当該値が小さい領域が切れ刃となる。ここで、何れの最大放電電流値を用いた場合であっても、各切れ刃の先端部の高さに大きな差異は認められず、切れ刃の突き出し高さの差は±2μmとなっていることが分かる。
【0079】
図8~
図10の各マッピングにおいて、放電ドレッシングによって表面が後退した距離が大きい領域(マッピングにおいて数値が大きな領域)がチップポケットに対応する。当該領域の深さは、最大放電電流値を2Aとした場合は2~12μm(平均の深さ5μm)、最大放電電流値を5Aとした場合は2~22μm(平均の深さ10μm)、最大放電電流値を10Aとした場合は2~32μm(平均の深さ15μm)となっており、何れの場合においても平均の深さは5μm以上となっている。
【0080】
得られた焼結ダイヤモンド砥石の性能を評価するために、CVD-SiCに対する研削加工実験を行った。研削条件は焼結ダイヤモンド砥石の回転数を12000min-1、切込深さを5μm、送り速度を400mm/min-1とし、加工中の加工抵抗と加工面粗さを測定することで砥石性能を評価した。
【0081】
最大放電電流値を2A及び10Aとして得られた焼結ダイヤモンド砥石を用いてCVD-SiCを加工した場合の加工抵抗と加工面粗さを
図14に示す。最大放電電流値を2Aとして放電ドレッシングした砥石の方が加工抵抗値はやや高いが、細かな加工面に仕上げることができる。一方で、最大放電電流値を10Aとして放電ドレッシングした砥石は粗加工に好適に用いることができる。
【0082】
最大放電電流値を2A及び10Aとして得られた焼結ダイヤモンド砥石を用いてCVD-SiCを加工した場合の加工距離と加工抵抗の関係を
図15に示す。加工初期(加工距離:約0.6m程度まで)において加工抵抗は上昇し、その後漸増傾向にあるものの、低い値を維持している。4m加工後の焼結ダイヤモンド砥石に対して放電ドレッシングを行い、再度同一の砥石で研削加工を試みた。その際に得られた加工抵抗値も
図15に示す。放電ドレッシングを行うことで加工抵抗は初期値に戻っており、焼結ダイヤモンド砥石の加工性能は改善されている。当該結果は、切れ刃が摩耗した焼結ダイヤモンド砥石に対して単結晶SiC電極を用いた放電ドレッシングを適用することで、焼結ダイヤモンド砥石の切れ刃再生を機上で行うことができ、長距離加工が可能になることを示している。
【0083】
《実施例2》
最大放電電流値を2Aとし、放電持続時間を1μs、20μs及び50μsとしたこと以外は実施例1と同様にして、ダイヤモンド焼結体の表面に放電ドレッシングを施し、本発明の実施例である焼結ダイヤモンド砥石を得た。また、放電ドレッシング処理を施した各表面について、実施例1と同様にして表面形状を測定した。
【0084】
放電持続時間を1μs、20μs及び50μsとして得られた各表面における高さのマッピング結果を
図16、
図17及び
図18にそれぞれ示す。表面には微小な切れ刃及びチップポケットが多数形成されており、放電持続時間によってこれらのサイズが変化していることが分かる。
【0085】
具体的には、切れ刃の数は放電持続時間の増加に伴い減少しており、焼結ダイヤモンド砥石面に形成する微小切れ刃の数を増加させたい場合は、放電持続時間は短い方が適している。放電持続時間の増加に伴い、切れ刃は大きくなっており、隣接する切れ刃同士の間隔も増大している。また、放電持続時間の増加に伴い、チップポケットの開口部の面積及び深さが増大している。これらの結果は、単結晶SiCを電極とする放電ドレッシングにおいて、放電持続時間によって切れ刃同士の間隔及びチップポケットの深さを制御できることを示している。
【0086】
図16~18のマッピング結果から、放電持続時間を1μsとした場合の隣接する切れ刃の間隔は10~20μm、放電持続時間を20μsとした場合の隣接する切れ刃の間隔は15~30μm、放電持続時間を50μsとした場合の隣接する切れ刃の間隔は30~50μmとなっていることが分かる。
【0087】
また、放電持続時間を1μsとした場合のチップポケットの深さは2~12μm(平均の深さ5μm)、放電持続時間を20μsとした場合のチップポケットの深さは2~12μm(平均の深さ5μm)、放電持続時間を50μsとした場合のチップポケットの深さは2~12μm(平均の深さ5μm)となっていることが分かる。加えて、何れの放電持続時間を用いた場合であっても切れ刃の先端部の高さは大きく変化しておらず、切れ刃の突き出し高さの差は±2μmとなっていることが分かる。
【0088】
《実施例3》
放電ドレッシングの電極をグラファイトとしたこと以外は実施例1と同様にして、ダイヤモンド焼結体の表面に切れ刃及びチップポケットを形成させた。
【0089】
放電ドレッシングを施したダイヤモンド焼結体の表面のSEM写真を
図19に示す。電極をグラファイトとした場合においても、ダイヤモンド焼結体の表面には微小な切れ刃及びチップポケットが多数形成されている。
【0090】
《実施例4》
本発明の焼結ダイヤモンド砥石の製造方法におけるトランケーション工程の作用効果を確認するため、
図20に示す態様で、実施例1で用いたダイヤモンド焼結体の研磨面に球状の石英ガラスを一定荷重で押し付けながら高速回転させることで、乾式での摩擦実験を行った。
【0091】
試験荷重を50N、100N及び200N、摩擦速度を0.94m/min及び5.65m/min、試験温度を室温、100℃及び200℃、試験時間を3hとし、潤滑剤は使用していない。摩擦実験後、ダイヤモンド焼結体の表面に形成された摩耗痕から除去体積を求め、石英ガラスによるダイヤモンド焼結体の加工特性を評価した。また、比較のために、石英ガラスよりも高硬度な超硬合金球を用いた摩擦実験も実施した。
【0092】
試験荷重:200N、摩擦速度:5.65m/minにおける摩耗量を
図21に示す。石英ガラスを用いた場合の摩耗量は超硬合金を用いた場合と比較して大幅に増加していることが分かる。当該結果は、石英ガラスを使用することで、ダイヤモンド焼結体を高効率に加工できることを示している。硬度の低い石英ガラスを用いた場合に摩耗量が大きくなる原因としては、石英ガラスに含まれるSiO
2による化学的な作用によるものであると考えられる。
【0093】
石英ガラスを用いた場合について、試験荷重とダイヤモンド焼結体の摩耗量の関係を
図22、摩耗速度とダイヤモンド焼結体の摩耗量の関係を
図23にそれぞれ示す。試験荷重及び摩耗速度の増加に伴って摩擦熱による温度上昇が大きくなり、ダイヤモンド焼結体と石英ガラスの間の化学反応が促進されたことが原因であると考えられる。これらの結果は、試験荷重及び摩耗速度をパラメータとして、摩耗速度の制御が可能であることを示している。
【0094】
次に、化学的な作用の促進により加工速度を向上させることを目的として、摩擦時にダイヤモンド焼結体のダイヤモンドがグラファイト化しない温度領域で加熱した。試験温度とダイヤモンド焼結体の摩耗量の関係を
図24に示す。試験温度が高いほど、ダイヤモンド焼結体の摩耗量が大きくなっており、ダイヤモンド焼結体を加熱しながら石英ガラスと摩擦することで、当該ダイヤモンド焼結体を効率的に加工できることが分かる。
【0095】
図4に示す態様で、放電ツル―イングによってダイヤモンド焼結体の比較的大きな回転振れを修正した後、
図6に示す態様で、突出したダイヤモンド粒子の先端部のみを石英ガラスと摩擦させて除去することで、更に高精度な回転振れ修正を試みた。放電ツル―イングの条件は、開放電圧:100V、最大放電電流値:2.5A、放電持続時間:0.5μs、放電休止時間:2μs、放電加工液:超純水(18MΩ・cm)、工具電極:Cu-W(-極)とし、石英ガラスツル―イングの条件は、ダイヤモンド焼結体(直径:φ6mm、厚さ:0.2mm)、回転数:12000min
-1、切込量:0.1μm、送り速度:6mm/minとした。
【0096】
放電ツル―イング前後における回転振れの測定結果を
図25、石英ガラスツル―イング後における回転振れの測定結果を
図26にそれぞれ示す。
図25より、約13μmの回転振れが10分間の放電ツル―イングで0.73μmにまで改善されている。また、
図26より、約60分間の石英ガラスツル―イングで更に回転振れが改善されており、0.54μmとなっている。
【0097】
《比較例1》
放電加工にCu電極を用い、最大放電電流値を2Aに固定したこと以外は実施例1と同様にして、ダイヤモンド焼結体に対して、放電ドレッシングを施し、本発明の比較例である焼結ダイヤモンド砥石を得た。
【0098】
得られた比較ダイヤモンド砥石の表面のSEM写真を
図27に示す。Cu電極を用いた場合はダイヤモンド焼結体の放電加工面に電極材料が付着するため、適当な微小切れ刃やチップポケットが形成されていないことが分かる。
【0099】
《比較例2》
放電加工にCuW電極を用い、最大放電電流値を2Aに固定したこと以外は実施例1と同様にして、ダイヤモンド焼結体に対して、放電ドレッシングを施し、本発明の比較例である焼結ダイヤモンド砥石を得た。
【0100】
得られた比較ダイヤモンド砥石の表面のSEM写真を
図28に示す。CuW電極を用いた場合はダイヤモンド焼結体の放電加工面に電極材料が付着するため、適当な微小切れ刃やチップポケットが形成されていないことが分かる。