(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145438
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】光受信機及び光受信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/2513 20130101AFI20241004BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20241004BHJP
【FI】
H04B10/2513
H04B10/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057784
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5G 超高速・大容量ネットワークを実現する小型低電力波長変換・フォーマット変換技術の研究開発 研究開発項目1 小型波長変換・フォーマット変換用低電力デジタル信号処理技術の研究開発 副題:大容量光ネットワークの利用効率向上に向けた小型低電力波長変換・フォーマット変換技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】中島 久雄
(72)【発明者】
【氏名】入江 博之
(72)【発明者】
【氏名】▲杉▼谷 樹一
(72)【発明者】
【氏名】金山 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】喜志多 達郎
(72)【発明者】
【氏名】小菅 豊
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA01
5K102AD01
5K102AH14
5K102KA03
5K102KA33
5K102KA39
5K102RD26
(57)【要約】
【課題】光信号の伝送特性の低下を抑制する光受信機及び光受信方法を提供することを目的とする。
【解決手段】光受信機は、光伝送路を介して受信した光信号に応じた電気信号に対し、前記光伝送路の波長分散を補償する分散補償回路と、前記分散補償回路による補償後の前記電気信号に対し、前記分散補償回路での補償の不足により残留する残留波長分散を適応的に補償する適応等化回路と、前記適応等化回路のタップ係数に基づいて、前記残留波長分散の分散スロープをモニタするモニタ回路と、を備え、前記分散補償回路は、前記分散スロープのモニタ値に基づいて、前記波長分散を補償する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝送路を介して受信した光信号に応じた電気信号に対し、前記光伝送路の波長分散を補償する分散補償回路と、
前記分散補償回路による補償後の前記電気信号に対し、前記分散補償回路での補償の不足により残留する残留波長分散を適応的に補償する適応等化回路と、
前記適応等化回路のタップ係数に基づいて、前記残留波長分散の分散スロープをモニタするモニタ回路と、を備え、
前記分散補償回路は、前記分散スロープのモニタ値に基づいて、前記波長分散を補償する、
ことを特徴とする光受信機。
【請求項2】
前記モニタ回路は、前記タップ係数に基づいて、前記残留波長分散をモニタし、
前記分散補償回路は、前記分散スロープのモニタ値と前記残留波長分散のモニタ値とに基づいて、前記波長分散を補償する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光受信機。
【請求項3】
前記モニタ回路は、前記残留波長分散のモニタ値と前記光信号の中心波長からの差との関係を1次関数に適合することにより、前記残留波長分散と前記分散スロープとを算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の光受信機。
【請求項4】
前記モニタ回路は、前記関係を前記1次関数に適合する範囲を、前記光伝送路の信号帯域に基づいて決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の光受信機。
【請求項5】
前記モニタ回路は、前記残留波長分散のモニタ値が閾値以下に補償された後に、前記分散スロープのモニタ値を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の光受信機。
【請求項6】
前記モニタ回路は、前記光信号の送信にサブキャリア変調が適用された場合、サブキャリアごとの前記残留波長分散のモニタ値に基づいて、前記分散スロープのモニタ値を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の光受信機。
【請求項7】
光伝送路を介して受信した光信号に応じた電気信号に対し、前記光伝送路の波長分散を補償し、
補償後の前記電気信号に対し、前記波長分散の補償の不足により残留する残留波長分散を適応的に補償し、
前記残留波長分散を適応的に補償する適応等化回路のタップ係数に基づいて、前記残留波長分散の分散スロープをモニタし、
前記分散スロープのモニタ値に基づいて、前記波長分散を補償する、
ことを特徴とする光受信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、光受信機及び光受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
40Gbit/s以上の波長多重光伝送システムにおいて、収容波長帯域に対して一括に分散補償を行うシステムが知られている。近年ではデジタル信号処理技術により光受信機で累積した波長分散を補償することも可能となっている。波長多重光伝送システムでは、光ファイバの波長分散の高次分散である波長分散スロープ(以下、単に分散スロープという)により、伝送距離および伝送容量が大きく制限される。このため、光伝送路の分散値や分散スロープを正確に把握し、分散スロープを含めた分散補償を行うことが重要である(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-273804号公報
【特許文献2】特開2006-333312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長多重光伝送システムに含まれる光送信機と光受信機の間には様々な種類の光伝送路が混在することがある。例えば、光送信機と光受信機の間には、ELEAF(Enhanced Large Effective Area Fiber)やSMF(Single-Mode Fiber)といった光ファイバが光伝送路として混在する。また、光送信機と光受信機の間には様々な長さの光伝送路も混在する。
【0005】
上述した光伝送路の種類や長さは必ずしも判明しているとは限らず、部分的に不明な場合がある。光伝送路の種類や長さが不明な場合、光受信機は光伝送路の分散値や分散スロープを正確に把握することが難しい。この結果、光受信機では分散スロープを含めた高精度な分散補償が困難になり、光信号の伝送特性が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、1つの側面では、光信号の伝送特性の低下を抑制する光受信機及び光受信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの実施態様では、光受信機は、光伝送路を介して受信した光信号に応じた電気信号に対し、前記光伝送路の波長分散を補償する分散補償回路と、前記分散補償回路による補償後の前記電気信号に対し、前記分散補償回路での補償の不足により残留する残留波長分散を適応的に補償する適応等化回路と、前記適応等化回路のタップ係数に基づいて、前記残留波長分散の分散スロープをモニタするモニタ回路と、を備え、前記分散補償回路は、前記分散スロープのモニタ値に基づいて、前記波長分散を補償する。
【発明の効果】
【0008】
光信号の伝送特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は波長多重光伝送システムの一例である。
【
図3】
図3はDSP(Digital Signal Processor)のブロック図の一例である。
【
図4】
図4は分散スロープに起因する伝送特性の低下例を説明するグラフである。
【
図5】
図5(a)乃至(c)は残留波長分散の伝送距離ごとのモニタ値を示すグラフである。
【
図7】
図7は信号帯域の範囲の決定を説明する図である。
【
図8】
図8(a)は残留波長分散のモニタ値の一例を示すグラフである。
図8(b)は残留波長分散のモニタ値の他の一例を示すグラフである。
【
図9】
図9はモニタ回路の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10(a)は高ボーレートの残留波長分散のモニタ値の他の一例を示すグラフである。
図10(b)は低ボーレートの残留波長分散のモニタ値の他の一例を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)はサブキャリア変調適用時における光信号の分割例を説明する図である。
図11(b)はサブキャリア変調適用時における分散スロープの算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本件を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、波長多重光伝送システムSTは光送信機100と光受信機200とを含んでいる。光受信機200は光送信機100から送信された光信号O(t)を受信する。光信号O(t)は光送信機100から出力された信号であり、時間tの関数で表すことができる。
図1では、1つの光送信機100と1つの光受信機200とを含む波長多重光伝送システムSTが示されているが、異なる複数の波長を多重化して光伝送を行う場合もある。この場合、波長多重光伝送システムSTは複数の光送信機と複数の光受信機とを含み、光信号O(t)を波長ごとの光信号に分波し、波長別の光信号を合波して光信号O(t)を生成する。光送信機100と光受信機200は様々な種類の光ファイバ51,52,53,54と複数の光増幅器55,56,57,58とによって接続されている。光ファイバ51,52,53,54は光伝送路の一例である。例えば、光ファイバ51はSMFである。光ファイバ52はELEAFである。光ファイバ53,54はいずれも種類が明らかでない不特定光ファイバとする。
【0012】
また、光送信機100と光受信機200の接続には様々な長さの光ファイバ51,52,53,54が利用されている。例えば、光ファイバ53の長さL1は80km(キロメートル)である。光ファイバ54の長さL2は30kmである。一方で、光ファイバ51の長さL3や光ファイバ52の長さL4はいずれも判明していない。このように、波長多重光伝送システムSTでは、光ファイバ53,54の種類が判明していない場合もあれば、光ファイバ51の長さL3や光ファイバ52の長さL4が判明していない場合もある。
【0013】
次に、
図2を参照して、光受信機200の詳細について説明する。
【0014】
光受信機200は、DSP210と、ADC(Analogue Digital Converter)220と、ICR(Integrated Coherent Receiver)230と、ITLA(Integrable Tunable Laser Assembly)240と、制御部250とを有する。
【0015】
ICR230には、光送信機100から送信された光信号O(t)が入力される。ICR230は偏波ビームスプリッタ及び光-電気変換器などを有する。ICR230は光信号O(t)をH偏波及びV偏波の各成分に分離して、ITLA240から入力された局発光と混合することで光信号O(t)に相当する情報を抽出したのちに、電気信号(具体的には電界信号)E(t)に変換してADC220に出力する。光信号O(t)から変換される電気信号E(t)は時間tの関数で表すことができる。
【0016】
ADC220は電気信号E(t)をアナログ形式からデジタル形式に変換してDSP210に出力する。詳細は後述するが、DSP210は電気信号E(t)に対し、例えば光ファイバ51,52,53,54の波長分散を補償するなど、様々なデジタル信号処理を実行し、出力する。制御部250は、プロセッサとメモリとを含み、DSP210、ICR230、及びITLA240の各動作を制御する。
【0017】
図3を参照して、DSP210の詳細について説明する。
【0018】
DSP210は、分散補償回路211と、適応等化回路212と、モニタ回路213と、周波数オフセット補償回路214とを有する。また、DSP210は、搬送波位相推定回路215と、FEC(Forward Error Correction)復号化回路216と、デフレーマ回路217とを有する。なお、DSP210がモニタ回路213を有する代わりに、上述した制御部250がモニタ回路213を有していてもよい。この場合、制御部250は後述するフローチャートに応じた処理を実行すればよい。
【0019】
分散補償回路211はADC220から入力された電気信号E(t)に対し、光ファイバ51,52,53,54の累積した波長分散を固定的に一括して補償する。例えば、分散補償回路211は入力された電気信号E(t)に対し、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を実施して電気信号E(t)を周波数領域信号に変換する。次に、分散補償回路211は周波数領域信号に対し、モニタ回路213から入力された逆伝達関数H(fn)を分散補償係数として乗算することにより、波長分散を固定的に補償する。そして、分散補償回路211は、補償後の周波数領域信号に対し、IFFT(Inverse FFT:逆高速フーリエ変換)を実施することにより、時間tの関数で表される受信電気信号E(t)の波長分散による波形歪みを補償し、適応等化回路212に出力する。
【0020】
なお、逆伝達関数H(fn)は以下の数式(1)によって表すことができる。2次の波長分散が分散スロープに関わる項である。
<数式(1)>
H(fn)=exp[j*{1/2*(2π*fn)2*C*1次の波長分散/(2π*Fc2)+1/6*(2π*fn)3*C*(C/Fc*2次の波長分散+2*1次の波長分散)/((2π)2*Fc3)}]
C:光速
Fc:信号周波数
1次の波長分散:光ファイバ51,52,53,54の累積波長分散の逆数(ps/nm)
2次の波長分散:光ファイバ51,52,53,54の累積2次波長分散の逆数(ps/nm2)
fn=n*サンプリングレート/N_FFT(nは整数、0~N_FFT/2、-(N_FFT/2)+1~-1)
j:虚数単位
【0021】
適応等化回路212は、光ファイバ51,52,53,54の主に偏波変動や偏波モード分散に起因するひずみに合わせて、波形ひずみを適応的に補償する。適応等化回路212は、例えばFIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)フィルタといったデジタルフィルタ回路を備えていてもよい。
【0022】
また、適応等化回路212は、分散補償回路211で波長分散補償後の電気信号E(t)である2系統の複素時系列に対し、分散補償回路211での補償の不足により残留する残留波長分散も適応的に補償する。分散補償回路211では、伝送路の波長分散量の情報やそのモニタによって分散補償を行うが、その情報が不確定な場合、分散補償が完全に実施されない場合がある。このため、適応等化回路212は、補償後の電気信号E(t)に対し、残留波長分散を適応的に補償する。
【0023】
適応等化回路212は偏波変動や偏波モード分散に起因するひずみや残留波長分散などを補償すると、補償後の電気信号E(t)を周波数オフセット補償回路214に出力する。周波数オフセット補償回路214は、補償後の電気信号E(t)に基づいて、光信号O(t)と局発光との間の周波数ずれ(オフセット)を補償し、搬送波位相推定回路215に出力する。搬送波位相推定回路215は、補償後の電気信号E(t)から正しい搬送波(キャリア)位相を推定し、搬送波位相の復元を行う。搬送波位相推定回路215は推定したキャリア位相から送信信号を復元し、復元した電気信号E(t)をFEC復号化回路216に出力する。
【0024】
FEC復号化回路216は、例えば、光送信機100でのデジタル信号処理によって光信号O(t)に付加された誤り訂正符号に基づいて、電気信号E(t)を誤り訂正復号化する。デフレーマ回路217は、電気信号E(t)に対してデフレーマ処理を実施する。デフレーマ処理は電気信号E(t)のフレームにマッピングされているクライアント信号をデマッピングする処理である。クライアント信号は、イーサネット(登録商標)のフレーム信号であってもよいし、SDH(Synchronous Digital Hierarchy)又はSONET(Synchronous Optical NETwork)のフレーム信号であってもよい。
【0025】
ここで、モニタ回路213は適応等化回路212のタップ係数Hxx,Hxy,Hyx,Hyyに基づいて、残留波長分散を推定してモニタ(監視)し、残留波長分散のモニタ値に基づいて、残留波長分散と、残留波長分散の波長微分である分散スロープとを算出する。より詳しくは、モニタ回路213の残留分散モニタ213Aが残留波長分散を推定してモニタし、残留波長分散のモニタ値に基づいて、残留波長分散を算出して決定する。そして、モニタ回路213の分散スロープモニタ213Bが残留波長分散のモニタ値に基づいて、分散スロープを算出して決定する。残留波長分散と分散スロープを決定すると、モニタ回路213は残留波長分散を1次の波長分散とし、分散スロープを2次の波長分散とし、上述した数式(1)に基づいて、逆伝達関数H(fn)を算出する。
【0026】
なお、残留分散モニタ213Aによる残留波長分散の推定は、例えば以下の文献に開示されている。一方、分散スロープモニタ213Bによる分散スロープの算出は以下の文献に開示されておらず、公知でもない。
(1)Md. Saifuddin Faruk,et al, “Multi-Impairments Monitoring from the Equalizer in a Digital Coherent Optical Receiver”, ECOC 2010, Th.10.A.1, 19-23 September, 2010, Torino, Italy
(2)Gabriella Bosco,et al, “Joint DGD, PDL and Chromatic Dispersion Estimation in Ultra-Long-Haul WDM Transmission Experiments with Coherent Receivers”, ECOC 2010, Th.10.A.2, 19-23 September, 2010, Torino, Italy
【0027】
モニタ回路213は逆伝達関数H(fn)を算出すると、逆伝達関数H(fn)を分散補償係数として、分散補償回路211に入力する。これにより、分散補償回路211は残留波長分散といった1次の波長分散だけでなく、分散スロープといった高次(具体的には2次)の波長分散を考慮した、波長分散を補償することができる。
【0028】
ここで、
図4を参照して、分散スロープに起因する光信号O(t)の伝送特性の低下について説明する。
【0029】
光ファイバ51,52,53,54の波長分散は周波数依存性を持つことが知られており、この周波数依存性は分散スロープによって表すことができる。光受信機200が32Gbaudや64Gbaudといった低ボーレートの光信号O(t)を受信する場合、光信号O(t)の信号帯域の範囲が狭いため、信号帯域の範囲内では波長分散が一定であると考えられる。このため、分散スロープに起因する光信号O(t)の伝送特性が低下する影響は小さいと想定され、無視することもできる。
【0030】
一方、光受信機200が100Gbaudを超える高ボーレートの光信号O(t)を受信する場合、光信号O(t)の信号帯域の範囲が広いため、信号帯域の範囲内では波長分散が一定ではなく、ばらつくと考えられる。このため、分散スロープに起因する光信号O(t)の伝送特性が低下する影響は大きいと想定される。例えば、
図4に示すように、16QAMの光変調方式で光変調された130Gbaudの光信号O(t)を光受信機200が受信する場合、光ファイバ51と光ファイバ52との間には、光信号O(t)の伝送特性に大きな違いが現れる。
【0031】
具体的に説明すると、SMFである光ファイバ51の伝送特性を表すグラフG1は、伝送距離の増加に対してSNR(Signal to Noise Ratio)ペナルティが緩やかに増加する。すなわち、グラフG1は緩勾配である。このように、光ファイバ51であれば、伝送距離が増加しても、波長分散の波長微分である分散スロープの影響は少ないためSNRペナルティは小さく、伝送特性の低下は小さいと想定される。
【0032】
一方、ELEAFである光ファイバ52の伝送特性を表すグラフG2は、伝送距離の増加に対して、超長距離領域ではSNRペナルティが急激に増加する。すなわち、グラフG2は急勾配である。このように、光ファイバ52であれば、伝送距離が増加すると、分散スロープの影響は多いいためSNRペナルティは大きく、伝送特性の低下は大きいと想定される。例えば、伝送距離が6000km付近の場合、光ファイバ51であれば、分散スロープにより伝送特性が1.5dB程度低下するが、光ファイバ52であれば、分散スロープにより伝送特性が3.0dB以上低下する。
【0033】
光ファイバ51,52の種類や長さが判明している場合には、分散スロープはファイバ仕様により精度良く算出することができため、結果的に、分散スロープに対する補償を事前に準備して実施することができる。しかしながら、光送信機100と光受信機200との接続に、種類や長さが判明していない光ファイバ53,54が含まれている場合、分散スロープも不定であり、精度良く算出することができない。このため、結果的に、分散スロープに対する補償を事前に準備して実施することが難しい。
【0034】
本実施形態では、光送信機100と光受信機200との接続に、例えば種類が判明していない光ファイバ53,54や、長さが判明していない光ファイバ51,52が含まれている際に、累積された残留波長分散と分散スロープの両方が不定である場合を考慮した分散補償が実現されている。
【0035】
図5を参照して、モニタ回路213がモニタした残留波長分散と分散スロープとの伝送距離ごとの関係について説明する。なお、
図5(a)乃至(c)では、光送信機100と光受信機200が光ファイバ52で接続されている場合の光信号O(t)の中心波長からの差と残留波長分散との関係が示されており、1次の波長分散については、分散補償回路211で補償されている。
【0036】
まず、
図5(a)に示すように、伝送距離が0kmである場合、中心波長からの差が-0.3nm(ナノメートル)から0.3nmまでの間では、残留波長分散のばらつきは少なく、0ps/nm付近で一定である。すなわち、伝送距離が0kmである場合、分散スロープDS1の勾配はほとんどなく、残留波長分散の周波数依存性がない又は少ないことが分かる。
【0037】
次に、
図5(b)に示すように、伝送距離が3200kmである場合、中心波長からの差が-0.3nmから0.3nmまでの間では、残留波長分散にばらつきある。具体的には、-0.3nm付近では-100ps/nm付近であり、0.3nm付近では100ps/nm付近である。このように、伝送距離が3200kmである場合、分散スロープDS2は分散スロープDS1から右肩上がりに傾斜し、分散スロープDS2に分散スロープDS1より大きな勾配が発生する。すなわち、伝送距離が延びると、残留波長分散の周波数依存性が増大することが分かる。
【0038】
さらに、
図5(c)に示すように、伝送距離が4800kmである場合、中心波長からの差が-0.3nmから0.3nmまでの間では、残留波長分散にばらつきある。具体的には、-0.3nm付近では-100ps/nm付近であるが、0.3nm付近では190ps/nm付近である。このように、伝送距離が4800kmである場合、分散スロープDS3は分散スロープDS2からさらに右肩上がりに傾斜し、分散スロープDS3に分散スロープDS2よりさらに大きな勾配が発生する。すなわち、伝送距離が延びると、残留波長分散の周波数依存性がさらに増大することが分かる。
【0039】
次に、
図6及び
図7を参照して、本実施形態に係る分散スロープの推定手法について説明する。
【0040】
上述したように、残留波長分散は残留分散モニタ213Aにより推定されてモニタされるため、
図6に示すように、残留波長分散のモニタ値を表す折れ線グラフG3を利用して、分散スロープモニタ213Bは分散スロープDS2を推定する。ここで、光信号O(t)の信号帯域SBの限界L付近よりも外側では、残留分散モニタ213Aは信号帯域外雑音抑圧動作を実施するため、モニタ値の精度が低下する。信号帯域SBの限界L付近よりも内側でも、モニタ精度や周波数分解能の影響により残留波長分散のばらつきが大きくなる。
【0041】
このような、信号帯域SBの限界L付近よりも内側においてばらつきが大きくなる残留波長分散のモニタ値の折れ線グラフG3を、分散スロープモニタ213Bは1次関数に近似して、分散スロープDS2を推定する。折れ線グラフG3の1次関数への近似は例えば最小二乗法などを利用すればよい。例えば、1次関数をy=ax+bで表現した場合、係数aを分散スロープに対応付けることができ、係数bを残留波長分散に対応付けることができる。このように、分散スロープモニタ213Bは、分散スロープに相当する係数aと残留波長分散に相当する係数bとを算出して決定する。
【0042】
なお、分散スロープモニタ213Bは、折れ線グラフG3を1次関数に近似する信号帯域SBの範囲を、例えば送受信機や伝送路の帯域である伝送路帯域のモニタ値に基づいて決定することができる。具体的には、分散スロープモニタ213Bは、以下の数式(2)に基づいて、伝送路帯域のモニタ値M(f)を算出する。
<数式(2)>
M(f)=Hxx(f)*Hyy(f)-Hyx(f)*Hxy(f)
Hxx(f),Hyy(f),Hyx(f),Hxy(f)はそれぞれタップ係数Hxx,Hyy,Hyx,Hxyの逆伝達関数を表している。
【0043】
モニタ値M(f)を算出すると、分散スロープモニタ213Bは、以下の数式(3)に基づいて、伝送路帯域の逆特性P(f)を算出する。
<数式(3)>
P(f)=10*log(abs(M(f)))
【0044】
伝送路帯域の逆特性P(f)を算出すると、分散スロープモニタ213Bは、
図7に示すように、P(f)が一定となる範囲を信号帯域SBの範囲として決定する。これは、残留波長分散のモニタ値が線形に変化する範囲となることが多いためである。一方、分散スロープモニタ213Bは、P(f)が上に凸となる変曲点の間を信号帯域SBの範囲として決定してもよい。これは、実際の信号帯域SBの範囲に近いためである。このように、分散スロープモニタ213Bは信号帯域SBの範囲を決定し、その範囲内に含まれる残留波長分散のモニタ値を1次関数に近似し、その1次関数に基づいて残留波長分散と分散スロープとを算出して決定する。
【0045】
次に、
図8及び
図9を参照して、1次の残留波長分散の影響について説明する。
【0046】
まず、
図8(a)に示すように、分散補償回路211による補償によっては、中心波長からの差が0nmにおいて、1次の残留波長分散に相当する係数bが係数b1(例えば20ps/nmなど)といった非常に小さな係数になる場合がある。すなわち、分散補償回路211によって十分な補償が実施されることにより、1次の残留波長分散がほとんどなく、0ps/nmに近くなる場合がある。このように、1次の残留波長分散が0ps/nmに近くなる状態では、分散スロープモニタ213Bは分散スロープDS2を精度良く算出することができる。
【0047】
しかしながら、
図8(b)に示すように、分散補償回路211による補償によっては、中心波長からの差が0nmにおいて、1次の残留波長分散に相当する係数bが係数b1より大きな係数b2(例えば100ps/nmなど)といった大きな係数になる場合がある。すなわち、1次の残留波長分散に対し、分散補償回路211によって十分な分散補償が実施されないことにより、1次の残留波長分散が増大し、0ps/nmから大きく離隔する場合がある。このように、残留波長分散が0ps/nmから遠ざかる状態では、分散スロープモニタ213Bは分散スロープDS2を精度良く算出することができない可能性がある。
【0048】
このため、
図9に示すように、モニタ回路213では、まず、残留分散モニタ213Aが1次の残留波長分散のモニタ値を単独で分散補償回路211にフィードバックする(ステップS1)。そして、残留分散モニタ213Aは分散補償回路211で復元された補償後の電気信号E(t)の1次の残留波長分散のモニタ値が残留波長分散の少なさを判断する閾値以下であるか否かを判断する(ステップS2)。当該閾値としては、例えば上述した20ps/nmなどを採用すればよい。1次の残留波長分散のモニタ値が閾値以下でない場合(ステップS2:NO)、残留分散モニタ213Aは再びステップS1の処理を実行する。
【0049】
このように、1次の残留波長分散のモニタ値が閾値以下になるまで、ステップS1とステップS2の処理を繰り返すことにより、1次の残留波長分散が閾値以下に収束し、分散スロープの算出精度の低下を抑制することができる。
【0050】
1次の残留波長分散のモニタ値が閾値以下になると(ステップS2:YES)、残留分散モニタ213Aと分散スロープモニタ213Bがそれぞれ1次の残留波長分散のモニタ値と分散スロープのモニタ値を分散補償回路211にフィードバックする(ステップS3)。そして、残留分散モニタ213Aは分散補償回路211で伝送路の波長分散補償後の電気信号E(t)の1次の残留波長分散のモニタ値が上述した閾値以下であるか否か、及び分散スロープのモニタ値が別の閾値以下であるか否かを判断する(ステップS4)。この別の閾値は分散スロープの少なさを判断する閾値であって、例えば5ps/nm2や10ps/nm2などを採用すればよい。
【0051】
1次の残留波長分散のモニタ値が閾値以下でない場合、又は分散スロープのモニタ値が別の閾値以下でない場合(ステップS4:NO)、残留分散モニタ213Aと分散スロープモニタ213Bはそれぞれ再びステップS3の処理を実行する。ステップS1,S2の処理によって1次の残留波長分散のモニタ値が閾値以下になったと判断された状態で、ステップS3,S4の処理が繰り返されるため、分散スロープモニタ213Bは分散スロープを精度良く算出することができる。1次の残留波長分散のモニタ値が閾値以下になり、かつ、分散スロープのモニタ値が別の閾値以下になると(ステップS4:YES)、残留分散モニタ213Aと分散スロープモニタ213Bはそれぞれ処理を終了する。
【0052】
次に、
図10及び
図11を参照して、低ボーレートの影響について説明する。
【0053】
上述した実施形態では、
図10(a)に示すように、128Gbaudといった高ボーレートの場合の残留波長分散のモニタ値について説明した。一方、
図10(b)に示すように、32Gbaudといった低ボーレートの場合には、残留波長分散の信号帯域の範囲が狭くなるため、分散スロープの傾きが小さくなり、分散スロープの傾きに対して残留波長分散のモニタ値のばらつきが大きくなる。これにより、分散スロープの算出精度が低下する可能性がある。
【0054】
このような低ボーレートの場合は、光信号O(t)の送信にサブキャリア変調が適用された場合に発生する。例えば、
図11(a)に示すように、シングルキャリアである128Gbaudの光信号O(t)の送信にサブキャリア変調が適用されると、光送信機100はこの光信号O(t)を4分割して、FDM(Frequency Division Multiplex)方式で32Gbaudの4つの光信号O(t)を送信する。このように、サブキャリア変調が適用されると、分散スロープの算出精度が低下する可能性がある。
【0055】
このような場合、分散スロープモニタ213Bはサブキャリアごとの1次の残留波長分散のモニタ値に基づいて、分散スロープを算出する。例えば、
図11(b)に示すように、分散スロープモニタ213Bは、サブキャリアSC1,SC2,SC3,SC4の1次の残留波長分散の各モニタ値と、そのモニタ値から分散スロープDS4を算出する。分散スロープの算出は最小二乗法などを利用してもよい。分散スロープモニタ213Bはこのような分散スロープDS4を分散補償回路211に入力するようにしてもよい。
【0056】
以上、本実施形態によれば、光受信機200は分散補償回路211と適応等化回路212とモニタ回路213とを備えている。分散補償回路211は、光ファイバ51,52,53,54を介して受信した光信号O(t)に応じた電気信号E(t)に対し、光ファイバ51,52,53,54の波長分散を補償する。適応等化回路212は分散補償回路211による補償後の電気信号E(t)に対し、分散補償回路211での補償の不足により残留する残留波長分散を適応的に補償する。モニタ回路213は適応等化回路212のタップ係数に基づいて、残留波長分散の分散スロープをモニタする。そして、分散補償回路211は、少なくとも分散スロープのモニタ値に基づいて、波長分散を補償する。これにより、光信号O(t)の伝送特性の低下を抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明に係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
100 光送信機
200 光受信機
210 DSP
211 分散補償回路
212 適応等化回路
213 モニタ回路
213A 残留分散モニタ
213B 分散スロープモニタ