(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145451
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】冷却装置、制御装置、制御方法、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
F25B1/00 101D
F25B1/00 304G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057804
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名 : 公益社団法人日本冷凍空調学会 刊行物名 : 2022年日本冷凍空調学会 年次大会 講演論文集 発行年月日: 2022年8月25日 〔刊行物等〕 集会名 : 2022年日本冷凍空調学会 年次大会 開催場所 : 岡山大学 開催日 : 令和4年9月7日~9月9日 〔刊行物等〕 発行者名 : 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 刊行物名 : 令和4年度空気調和・衛生工学会大会(DVD) 発行年月日: 令和4年8月31日 〔刊行物等〕 集会名 : 令和4年度空気調和・衛生工学会大会 開催場所: 神戸大学 六甲台第2キャンパス 開催日 : 令和4年9月14日~9月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 淳一郎
(57)【要約】
【課題】冷凍サイクルにおける冷却能力を向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】圧縮機10、凝縮器11、膨張弁12、蒸発器13、及び蒸発圧力調整弁14を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルを有する冷却装置1は、膨張弁12と蒸発器13との間の配管に設けられ、膨張弁12から流出する冷媒を液冷媒35とガス冷媒37とに分離する気液分離器15と、一方が気液分離器15のガス出口に接続され、他方が蒸発圧力調整弁14と圧縮機10との間の配管に接続されたバイパス管16と、バイパス管16に配置され、バイパス管16を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁17と、少なくともバイパス弁17の開度を制御する制御装置18と、を備える。制御装置18は、膨張弁12から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁14を流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁17の開度の最適値を計算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルを有する冷却装置であって、
前記膨張弁と前記蒸発器との間の前記配管に設けられ、前記膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、
一方が前記気液分離器のガス出口に接続され、他方が前記蒸発圧力調整弁と前記圧縮機との間の前記配管に接続されたバイパス管と、
前記バイパス管に配置され、前記バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、
少なくとも前記バイパス弁の開度を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、前記蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、前記バイパス弁の開度の最適値を計算するように構成されている
ことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却装置であって、
前記バイパス管において前記気液分離器と前記バイパス弁との間に設けられた熱交換器をさらに備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷却装置であって、
前記制御装置は、
前記膨張弁に流入する冷媒の温度と、前記膨張弁から流出する冷媒の圧力とに基づいて演算される比エンタルピをもとに前記乾き度を計算し、
前記蒸発圧力調整弁の開度値と、前記蒸発圧力調整弁の前後差圧とに基づいて前記蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量を計算する、ように構成されている、
ことを特徴とする冷却装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の冷却装置であって、
前記制御装置は、
前記乾き度と前記蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量から前記バイパス弁を流れる冷媒の適正流量を計算し、
前記バイパス弁を流れる冷媒の適正流量と、前記バイパス弁の前後差圧とに基づいて前記バイパス弁の開度の最適値を計算する、ように構成されている、
ことを特徴とする冷却装置。
【請求項5】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルと、前記膨張弁と前記蒸発器との間の前記配管に設けられ、前記膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が前記気液分離器のガス出口に接続され、他方が前記蒸発圧力調整弁と前記圧縮機との間の前記配管に接続されたバイパス管と、前記バイパス管に配置され、前記バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、を有する冷却装置において、少なくとも前記バイパス弁の開度を制御する制御装置であって、
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、前記膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、前記蒸発圧力調整弁に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、前記バイパス弁の開度の最適値を計算するように構成されている
ことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルと、前記膨張弁と前記蒸発器との間の前記配管に設けられ、前記膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が前記気液分離器のガス出口に接続され、他方が前記蒸発圧力調整弁と前記圧縮機との間の前記配管に接続されたバイパス管と、前記バイパス管に配置され、前記バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、を有する冷却装置において、少なくとも前記バイパス弁の開度を制御する制御方法であって、
前記膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、前記蒸発圧力調整弁に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、前記バイパス弁の開度の最適値を計算すること
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルと、前記膨張弁と前記蒸発器との間の前記配管に設けられ、前記膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が前記気液分離器のガス出口に接続され、他方が前記蒸発圧力調整弁と前記圧縮機との間の前記配管に接続されたバイパス管と、前記バイパス管に配置され、前記バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、を有する冷却装置において、少なくとも前記バイパス弁の開度を制御する制御プログラムであって、
前記膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、前記蒸発圧力調整弁に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、前記バイパス弁の開度の最適値を計算することをコンピュータに実行させるように構成されている、
ことを特徴とする制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷媒を循環させる冷凍サイクルを利用した技術に関する。更には、温度調節された気体(温調気体)の設定温度の幅を大きくするように、当該気体を蒸発器の伝熱管外側に流通して温度調節することができる蒸発圧力調整弁を有する冷凍サイクルを利用した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、気液分離器に流入された冷媒を液冷媒と気体冷媒(以下、ガス冷媒と称す)とに分離する熱交換器である蒸発器の技術を開示する。この技術では、気液分離器により分離された液冷媒が蒸発器の冷媒流入側の容器に供給され、気液分離器により分離されたガス冷媒は蒸発器とは別の配管により蒸発器の冷媒流出側の容器の冷媒流出管へ直接流される。これにより、蒸発器の複数の伝熱管へ均等に分流された各伝熱管での気液相変化が均等になり熱交換を行うことができる。従って、冷凍サイクルの一環である蒸発器での熱交換が効率良く行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、蒸発器の冷媒流入側に気液分離器を設置してガス冷媒と液体冷媒の分離を行いつつ、蒸発器の設定温度を変更したとしても、気液分離器の出口(すなわち、蒸発器の冷媒流入側)には液冷媒に分離しきれないガス冷媒が混入することや、蒸発器とは別の配管にガス冷媒に分離しきれない液冷媒が混入することが発生しうる。つまり、設定温度の幅が広い蒸発圧力調整弁を有する冷凍システムでは、気液分離器だけでは、液冷媒とガス冷媒を完全に分離することは困難である。
【0005】
更に、液冷媒とガス冷媒の流量比(すわなち、乾き度)は、冷凍サイクルの運転条件、つまり、蒸発器で冷却対象にする気体の設定温度と当該気体に与える熱量の大きさによっても大きく異なる。このように、運転条件が大きく変化する冷凍サイクルでは、蒸発器の伝熱管へ冷媒を均等に分配するに際し、蒸発器上流側の減圧器(膨張弁)出口での乾き度は時々刻々と変化することから、冷媒に含まれる液冷媒とガス冷媒の比率は様々である。この状態で、気液分離器での分離、つまり、蒸発器上流側で決められた動作を行う機械的分離だけでは、蒸発器の複数の伝熱管へ冷媒流量を均等に分配することは困難である。
【0006】
また、膨張弁下流側の乾き度は、蒸発器の状態による冷媒の飽和温度や冷却負荷(熱交換量)によって大きく異なる。つまり、液相冷媒と気相冷媒の流量比は蒸発器の設定温度によって大きく異なる。この場合、単なる気液分離器の機構だけでは気液を完全に分離することは困難であり、液相側(蒸発器側)にガス相の気泡が混入して分配性能が損なわれることや、気相側(バイパス側)に液相冷媒が流入して蒸発器に所定の液相流量が得られないことがある。このため、冷凍サイクルの運転条件次第では、蒸発器に流入する液冷媒の流量が一定値未満となり、冷凍サイクルの一環である冷媒の蒸発が効率良く行われず、冷凍サイクルにおける冷却能力が低下するおそれがある。
【0007】
本開示の1つの目的は、冷凍サイクルにおける冷却能力を向上させることができる技術を提供することにある。更には、温調気体の設定温度の幅を大きくするように、当該気体を蒸発器の伝熱管外側に流通して温度調節することができる蒸発圧力調整弁を有する冷凍サイクルを利用して冷却能力を向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルを有する冷却装置に関連する。冷却装置は、膨張弁と蒸発器との間の配管に設けられ、膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が気液分離器のガス出口に接続され、他方が蒸発圧力調整弁と圧縮機との間の配管に接続されたバイパス管と、バイパス管に配置され、バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、少なくともバイパス弁の開度を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁の開度の最適値を計算するように構成されている。
【0009】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する冷却装置に関連する。冷却装置は、バイパス管において気液分離器とバイパス弁との間に設けられた熱交換器をさらに備える。
【0010】
第3の観点は、第1の観点及び第2の観点に加えて、次の特徴を更に有する冷却装置に関連する。制御装置は、膨張弁に流入する冷媒の温度と、膨張弁から流出する冷媒の圧力とに基づいて演算される比エンタルピをもとに乾き度を計算する。また、制御装置は、蒸発圧力調整弁の開度値と、蒸発圧力調整弁の前後差圧とに基づいて蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量を計算するように構成されている。
【0011】
第4の観点は、第1の観点及び第2の観点に加えて、次の特徴を更に有する冷却装置に関連する。制御装置は、乾き度と蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量からバイパス弁を流れる冷媒の適正流量を計算する。また、制御装置は、バイパス弁を流れる冷媒の適正流量と、バイパス弁の前後差圧とに基づいてバイパス弁の開度の最適値を計算するように構成されている。
【0012】
第5の観点は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルと、膨張弁と蒸発器との間の配管に設けられ、膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が気液分離器のガス出口に接続され、他方が蒸発圧力調整弁と圧縮機との間の配管に接続されたバイパス管と、バイパス管に配置され、バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、を有する冷却装置において、少なくともバイパス弁の開度を制御する制御装置に関連する。制御装置は、プロセッサを備える。プロセッサは、膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁の開度の最適値を計算するように構成されている。
【0013】
第6の観点は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルと、膨張弁と蒸発器との間の配管に設けられ、膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が気液分離器のガス出口に接続され、他方が蒸発圧力調整弁と圧縮機との間の配管に接続されたバイパス管と、バイパス管に配置され、バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、を有する冷却装置において、少なくともバイパス弁の開度を制御する制御方法に関連する。制御方法は、膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁の開度の最適値を計算することを含む。
【0014】
第7の観点は、凝縮器、膨張弁、蒸発器、及び蒸発圧力調整弁を配管を用いて環状に接続した冷凍サイクルと、膨張弁と蒸発器との間の配管に設けられ、膨張弁から流出する冷媒を液冷媒とガス冷媒とに分離する気液分離器と、一方が気液分離器のガス出口に接続され、他方が蒸発圧力調整弁と圧縮機との間の配管に接続されたバイパス管と、バイパス管に配置され、バイパス管を流れる冷媒の流量を開度に応じて変化させるバイパス弁と、を有する冷却装置において、少なくともバイパス弁の開度を制御する制御プログラムに関連する。制御プログラムは、膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁の開度の最適値を計算することをコンピュータに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、膨張弁から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁を流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁の開度の最適値が計算される。これにより、冷却対象である気体の設定条件や冷却負荷、つまり、冷凍サイクルの運転条件によって膨張弁下流側の乾き度が変化した場合であっても、バイパス弁の開度を適正流量とすることで、一定以上の液冷媒の流量を蒸発器に流入させることができる。更に、蒸発器の各伝熱管への冷媒流量を均等に分配することができる。従って、冷凍サイクルにおける冷却能力を向上させることが可能となる。また更に、蒸発器の各伝熱管への冷媒流量を均等に分配することで、大きな圧力損失や液冷媒バイパスのような無駄を生じさせずに、冷凍サイクルとして効率良く蒸発器での冷却能力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1に係る冷却装置の構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る冷却装置の冷媒における冷凍サイクルの遷移例を示した図である。
【
図3】実施の形態1に係る冷却装置における制御装置の処理例を示す図である。
【
図4】実施の形態2に係る冷却装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態に係る冷却装置、冷却装置における制御装置、制御方法、及び制御プログラムについて説明する。
【0018】
1.実施の形態1
1-1.冷却装置の構成例
図1は、実施の形態1に係る冷却装置1の構成例を示す図である。冷却装置1は、圧縮機10、凝縮器11、膨張弁12、蒸発器13、及び蒸発圧力調整弁14を含む。冷却装置1は、冷却媒体(冷媒)を循環させる配管を有する。当該配管は、圧縮機10、凝縮器11、膨張弁12、蒸発器13、及び蒸発圧力調整弁14の隣り合う機器を接続する冷媒配管31,32,33,34,36を含む。冷却装置1では、当該配管を用いて、上述した各機器が環状に接続され、圧縮機10、凝縮器11、膨張弁12、気液分離器15、蒸発器13、及び蒸発圧力調整弁14の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが形成されている。その冷凍サイクルを作動させることで、冷却装置1が設置される設備内の空気が冷却される。
【0019】
更に、冷却装置1は、膨張弁12と蒸発器13との間の冷媒配管34に設けられ、膨張弁12から流出する冷媒を液冷媒35とガス冷媒37に分離する気液分離器15を有する。また更に、冷却装置1は、一方が気液分離器15のガス出口に接続され、他方が蒸発圧力調整弁14と圧縮機10との間の配管に接続されたバイパス管16と、バイパス管16に配置されたバイパス弁17と、を備える。以下、各機器の詳細について説明する。
【0020】
圧縮機10は、冷媒配管31を流れる冷媒を吸い込み、吸い込んだ冷媒を圧縮(断熱圧縮)する。つまり、圧縮機10において冷凍サイクルの圧縮行程が実行される。
【0021】
凝縮器11は、圧縮機10で圧縮された冷媒と外気との熱交換を行う。これにより、凝縮器11に流入した冷媒は凝縮(放熱)される。つまり、凝縮器11において冷凍サイクルの凝縮行程が実行される。
【0022】
膨張弁12は、凝縮器11で凝縮された冷媒を絞り膨張させる。これにより、膨張弁12に流入した冷媒は減圧される。つまり、膨張弁12において冷凍サイクルの膨張行程が実行される。
【0023】
気液分離器15は、上述したとおり、膨張弁12で減圧された冷媒を液冷媒35とガス冷媒37とに分離する。
【0024】
蒸発器13は、気液分離器15で分離された液冷媒35と、蒸発器13に流入する空気との間接熱交換を行う。当該空気の熱を吸熱することにより液冷媒35は蒸発する。つまり、蒸発器13において冷凍サイクルの蒸発行程が実行される。尚、当該空気は、蒸発器13の伝熱管外側の流路の上流側又は下流側に設置された送風機(不図示)により、蒸発器13の伝熱管の外側と伝熱管外側に固定されたフィンとに接触しながら送り出される。
【0025】
また、蒸発器13には、複数の伝熱管が設けられている。これにより、気液分離器15で分離された液冷媒35が当該複数の伝熱管に分配して流入される。尚、伝熱管とは、蒸発器13の上流側から蒸発器13の下流側に向かって冷媒を通すことができる管のことである。
【0026】
蒸発圧力調整弁14は、気体を蒸発器13の伝熱管外側に流通して温度調節する。これにより、温調気体の設定温度の幅を大きくすることができる。また、蒸発圧力調整弁14は、蒸発器13で蒸発した気体の冷媒を減圧する。減圧後の冷媒の圧力は、蒸発圧力調整弁14の開度に応じて決まる。つまり、蒸発圧力調整弁14において冷凍サイクルの減圧行程が実行される。蒸発圧力調整弁14で減圧された冷媒は圧縮機10に供給される。
【0027】
バイパス弁17は、気液分離器15で分離されたガス冷媒37を減圧する。減圧後のガス冷媒37の圧力は、バイパス弁17の開度に応じて決まる。つまり、上記蒸発圧力調整弁14とともにバイパス弁17においても冷凍サイクルの減圧行程が実行される。しかし熱交換構造を持たないバイパス側では、バイパス弁の圧力調整により圧縮性の高いガス冷媒と非圧縮性の液冷媒と比べてガス流量が主に調整される。バイパス弁17で減圧された冷媒は、蒸発圧力調整弁14で減圧された冷媒と混合されて圧縮機10に供給される。
【0028】
尚、蒸発器13に流入する冷媒の割合は、液冷媒35が100%とは限られない。むしろ、蒸発器13に流入する冷媒には、ガス冷媒37が混入している可能性が高いことが想定される。また、バイパス弁17に流入する冷媒の割合も同様に、ガス冷媒37が100%とは限られない。バイパス弁17に流入する冷媒には、液冷媒35が混入している可能性が高いことが想定される。ここでは、説明を簡略化するため、蒸発器13に流入する冷媒の全てが液冷媒35であり、バイパス弁17に流入する冷媒の全てがガス冷媒37であるとしている。
【0029】
次に、配管に流れる冷媒の圧力と温度を計測する構成について説明する。
【0030】
冷媒配管31には、圧力センサ24が設置されている。圧力センサ24は、圧縮機10に流入する直前の冷媒(すなわち、蒸発圧力調整弁14から流出した冷媒と、バイパス弁17から流出した冷媒とが混合された冷媒)の圧力を計測する。
【0031】
冷媒配管33には、温度センサ20が設置されている。温度センサ20は、膨張弁12に流入する直前の冷媒の温度を計測する。
【0032】
冷媒配管34には、圧力センサ21が設置されている。圧力センサ21は、膨張弁12から流出した直後の冷媒の圧力を計測する。
【0033】
冷媒配管36には、圧力センサ23が設置されている。圧力センサ23は、蒸発圧力調整弁14に流入する直前の冷媒の圧力を計測する。
【0034】
気液分離器15には、圧力センサ22が設置されている。圧力センサ22は、気液分離器15で分離されたガス冷媒37の圧力を計測する。
【0035】
上述した温度センサ及び圧力センサにより計測された情報は制御装置18に入力される。制御装置18は、冷却装置1の運転を制御するコンピュータである。制御装置18は、プロセッサと、プロセッサで実行される制御プログラム(本実施の形態に係る制御プログラム)を記憶したメモリとを備える。制御プログラムがプロセッサで実行されることにより、以下に説明する機能が制御装置18において実現される。
【0036】
制御装置18は、膨張弁12、蒸発圧力調整弁14、及びバイパス弁17と接続され、各弁の開度値を制御する。制御装置18は、各弁の開度値の情報を読み取ることができる。ただし、これらの弁のうち、蒸発圧力調整弁14の開度値の情報のみを読み取ることでもよい。
【0037】
制御装置18は、膨張弁12から流出する冷媒における液冷媒35とガス冷媒37の割合を示す乾き度を算出する機能を有する。乾き度の算出には、圧力センサ21により計測された冷媒の圧力の情報と、圧力センサ22により計測されたガス冷媒37の圧力の情報とが用いられる。
【0038】
更に、制御装置18は、バイパス弁17の開度の最適値を計算する機能を有する。最適値の計算には、膨張弁12から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁14を流れる冷媒の流量の情報とが用いられる。制御装置18が有するこれらの機能による処理の詳細について後述する。
【0039】
1-2.冷凍サイクルの例
図2は、実施の形態1に係る冷却装置1の冷凍サイクルの遷移例を示す図である。具体的には、
図2は、冷媒を循環させる冷凍サイクルの状態を、圧力P[Pa]と比エンタルピh[J/kg]との関係で表したP-H線図(モリエル線図とも称す)である。P-H線図におけるポイント31,32,33,34,36は、
図1に示す冷媒配管を示している。
図2に示す飽和曲線30は、飽和液線と飽和蒸気線とから決定される。冷凍サイクルの状態をP-H線図上にプロットすることで、プロットされた位置と飽和曲線30との位置関係から、冷媒の状態が、過冷却液(液体の状態)、湿り飽和蒸気(液体と気体が混合された状態)、及び過熱蒸気(気体の状態)のうち、いずれかであるか推定することができる。
【0040】
より具体的には、
図2に示すように、圧縮機10による圧縮行程(
図2に示す記号A)において、冷媒が加圧されることにより冷媒は過熱蒸気となる。次に、凝縮器11による凝縮行程(
図2に示す記号B)において、冷媒が放熱されることにより冷媒は過冷却液となる。そして、膨張弁12による膨張行程(
図2に示す記号C)において、冷媒が減圧されることにより冷媒は湿り飽和蒸気となる。そして、冷媒が湿り飽和蒸気の状態において、気液分離器15を用いることにより、冷媒は液冷媒35とガス冷媒37とに分離(
図2に示す記号D1及びD2)される。続いて、蒸発器13による蒸発行程(
図2に示す記号E)において、液冷媒35が吸熱されることにより冷媒は過熱蒸気となる。更に、蒸発圧力調整弁14による減圧行程(
図2に示す記号F1)において、過熱蒸気となった冷媒は減圧される。また更に、バイパス弁17による減圧行程(
図2に示す記号F2)において、ガス冷媒37は減圧される。
【0041】
このように、冷媒を循環させる冷凍サイクルでは、冷媒の状態が遷移する様子をP-H線図として示すことが可能となる。P-H線図を用いることによる効果としては、冷凍サイクルの状態が数値化されていることから、最適な冷凍サイクルを得るための冷却装置1の運転条件を見つけることが容易になることが挙げられる。冷却装置1の運転条件としては、例えば、各弁の開度値の変更等が挙げられる。
【0042】
続いて、気液分離器15により分離された液冷媒35とガス冷媒37の比エンタルピの算出方法について説明する。
【0043】
気液分離器15により分離された液冷媒35とガス冷媒37の比エンタルピは、飽和曲線30に基づいて算出される。膨張弁12から流出された冷媒の圧力をP[kPa(G)]、ガス冷媒37の比エンタルピの算出に用いられる関数をf1、液冷媒35の比エンタルピの算出に用いられる関数をf2としたき、ガス冷媒37の比エンタルピを示す沸点比エンタルピh’、及び液冷媒35の比エンタルピを示す露点比エンタルピh”は、典型的には、以下の式(1)及び式(2)で表される。
【0044】
【0045】
上述の関数f1及び関数f2の構成は、使用する冷媒の種類や冷却装置1の構成によっても異なる。例えば、使用する冷媒がR410Aである場合の関数f1及びf2の構成は、以下の式(3)及び式(4)で表される。
【0046】
【0047】
上述の式(3)及び式(4)は、関数f1及び関数f2を6次の近似式で表した場合の一例である。式(3)における記号A1乃至A7、式(4)における記号B1乃至B7は、それぞれ適合により或いは理論的に決まる係数或いは定数である。
【0048】
尚、R410A以外の冷媒を使用する場合、関数f1及び関数f2は上述の式(3)及び式(4)に限られなくてもよい。例えば、冷媒ごとの特性に応じて生成された最適な近似式が関数f1及び関数f2として使用されてもよい。
【0049】
1-3.制御装置の処理例
図3は、実施の形態1に係る冷却装置1における制御装置18の処理例を示す図である。上述のように、制御プログラムがプロセッサで実行されることにより、プロセッサにより以下の処理が実行される。以下の一連の処理は、制御装置18によって実施される制御方法(本実施の形態に係る制御方法)を表している。
【0050】
ステップS100において、制御装置18は、
図2に示されるP-H線図上のポイント33における冷媒の温度計測を行う。その後、処理はステップS101に進む。
【0051】
ステップS101において、制御装置18は、ポイント33における冷媒の比エンタルピの演算を行う。その後、処理はステップS103に進む。尚、ポイント34における冷媒の比エンタルピは、ポイント33における冷媒の比エンタルピと同一の値となるため、ポイント33における冷媒の比エンタルピが演算された後、ポイント34における冷媒の比エンタルピも自動的に算出される。
【0052】
ステップS102において、制御装置18は、ポイント34における冷媒の圧力計測を行う。その後、処理はステップS103に進む。
【0053】
ステップS103において、制御装置18は、ポイント34で計測された冷媒の圧力の情報と、上述した飽和曲線30の情報とに基づいて、ポイント35及び37における各冷媒の比エンタルピの演算を行う。その後、処理はステップS104に進む。
【0054】
ステップS104において、制御装置18は、ポイント34における冷媒の乾き度の演算を行う。その後、処理はステップS110に進む。
【0055】
ステップS105において、制御装置18は、蒸発圧力調整弁14の開度値の情報を取得する。その後、処理はステップS106に進む。
【0056】
ステップS106において、制御装置18は、取得された蒸発圧力調整弁14の開度値の情報に基づいて、蒸発圧力調整弁14の流量特性を示すCv値を決定する。その後、処理はステップS109に進む。尚、蒸発圧力調整弁14の開度値と蒸発圧力調整弁14の流量特性(すなわち、Cv値)とが対応付けされた対応情報が制御装置18に予め格納されており、当該対応情報に基づいてCv値の決定が行われる。
【0057】
ステップS107において、制御装置18は、ポイント36における冷媒の圧力計測を行う。その後、処理はステップS109に進む。
【0058】
ステップS108において、制御装置18は、ポイント31における冷媒の圧力計測を行う。その後、処理はステップS109に進む。尚、本ステップで得られた情報は、ステップS112においても使用される。
【0059】
ステップS109において、制御装置18は、ステップS106で得られた蒸発圧力調整弁14のCv値の情報と、ステップS107及びステップS108で得られたポイント36及びポイント31における冷媒の圧力(すなわち、蒸発圧力調整弁14の前後差圧)の情報とに基づいて、蒸発圧力調整弁14に流れる冷媒の流量を演算する。その後、処理はステップS110に進む。
【0060】
ステップS110において、制御装置18は、ステップS104で演算されたポイント34における冷媒の乾き度の情報と、ステップS109で演算された蒸発圧力調整弁14に流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁17の開度の適正値を演算する。その後、処理はステップS112に進む。
【0061】
ステップS111において、制御装置18は、ポイント37における冷媒の圧力を計測する。その後、処理はステップS112に進む。
【0062】
ステップS112において、制御装置18は、ステップS110で演算されたバイパス弁17の開度の適正値(すなわち、バイパス弁17を流れる冷媒の適正流量)と、ステップS108及びステップS111で得られたポイント31及びポイント37における冷媒の圧力(すなわち、バイパス弁17の前後差圧)の情報とに基づいて、バイパス弁17の流量特性を示すCv値を算出する。その後、バイパス弁17の開度値が現在値から算出されたCv値に対応する開度値に更新される。
【0063】
1-4.効果
このように、実施の形態1に係る冷却装置1によれば、膨張弁12から流出する冷媒の乾き度の情報と、蒸発圧力調整弁14を流れる冷媒の流量の情報とに基づいて、バイパス弁17の開度の最適値が計算される。これにより、冷却対象である気体の設定条件や冷却負荷、つまり、冷凍サイクルの運転条件によって膨張弁12下流側の乾き度が変化した場合であっても、バイパス弁17の開度を適正流量とすることで、一定以上の液冷媒35の流量を蒸発器13に流入させることができる。更に、蒸発器13の各伝熱管への冷媒流量を均等に分配することができる。従って、実施の形態1に係る冷却装置1によれば、冷凍サイクルにおける冷却能力を向上させることが可能となる。また更に、蒸発器13の各伝熱管への冷媒流量を均等に分配することで、大きな圧力損失や液冷媒バイパスのような無駄を生じさせずに、冷凍サイクルとして効率良く蒸発器13での冷却能力が得られる。
【0064】
また、バイパス弁17の動作は、計測値から一義的に決定されることから、人為的な感覚を伴う制御調整は不要となる。ゆえに、冷凍サイクルの効率化が図られる。
【0065】
1―5.変形例
上述した制御装置18の処理例では、蒸発圧力調整弁14の開度値を変更せずにバイパス弁17の開度値が制御される構成となっているが、蒸発圧力調整弁14の開度値も連動して制御される構成であってもよい。これにより、バイパス弁17の開度値の調整をよりきめ細かに行うことが可能となり、バイパス弁17の開度の適正値の算出精度が向上される。
【0066】
2.実施の形態2
2-1.冷却装置の構成例
実施の形態1に係る冷却装置1では、バイパス管16にバイパス弁17のみが配置された構成例となっている。しかし、上述したとおり、バイパス弁17に流入する冷媒は、必ずしもガス冷媒37のみとは限られない。バイパス弁17には、ガス冷媒37以外の液冷媒35が混入されることもあり得る。従って、バイパス弁17に流入する冷媒の熱を制御することが可能な機器が配置されてもよい。
【0067】
図4は、実施の形態2に係る冷却装置1の構成例を示す図である。実施の形態2に係る冷却装置1によれば、気液分離器15のガス出口とバイパス弁17との間のバイパス管16に熱交換器19が配置される。これにより、少なくとも上述した実施の形態1に係る冷却装置1と同じ効果が得られる。更なる効果としては、バイパス管16にガス冷媒37以外の液冷媒35が混入された場合であっても、熱交換器19によりバイパス管16に混入された液冷媒35が蒸発させられるようにすることができる。従って、バイパス弁17に流入される冷媒に含まれる液冷媒35の割合を低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0068】
1 冷却装置
10 圧縮機
11 凝縮器
12 膨張弁
13 蒸発器
14 蒸発圧力調整弁
15 気液分離器
16 バイパス管
17 バイパス弁
18 制御装置
19 熱交換器
20 温度センサ
21,22,23,24 圧力センサ
30 飽和曲線
31,32,33,34,36 冷媒配管