(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145464
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】複合材料焼結体、接合体、半導体製造装置用部材、および、複合材料焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/56 20060101AFI20241004BHJP
C04B 35/577 20060101ALI20241004BHJP
C04B 35/58 20060101ALI20241004BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B35/56 260
C04B35/577
C04B35/58 092
C04B37/00 B
C04B37/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057826
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】井畑 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】永井 明日美
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝弘
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA12
4G026BA14
4G026BB16
4G026BF31
4G026BF57
4G026BG02
4G026BH13
(57)【要約】
【課題】従来とは異なる構成相からなり、窒化アルミニウムとの線熱膨張係数差が従来と同等かあるいは従来よりも小さく、かつ、緻密質の複合材料焼結体を提供する。
【解決手段】複合材料焼結体が、炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、開気孔率が1%以下である、ようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、
炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、
開気孔率が1%以下である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料焼結体であって、
40℃~550℃での熱膨張係数と、窒化アルミニウムの40℃~550℃での熱膨張係数との差が、0.5ppm/K以下である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項3】
請求項2に記載の複合材料焼結体であって、
開気孔率が0.1%以下である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合材料焼結体であって、
炭化珪素の個々の結晶粒子の表面が、珪化タングステンまたは炭化タングステンの少なくとも一方にて覆われていることにより、炭化珪素の結晶粒子同士の間隙に、珪化タングステンまたは炭化タングステンの少なくとも一方の結晶粒子が存在する、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合材料焼結体であって、
珪化タングステンの含有量が、炭化珪素の含有量よりも大きい、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合材料焼結体であって、
4点曲げ強度が200MPa以上である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項7】
請求項6に記載の複合材料焼結体であって、
4点曲げ強度が350MPa以上である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合材料焼結体であって、
熱伝導率が90W/m・K以上である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項9】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合材料焼結体であって、
破壊靭性値が6.0MPa・m1/2~8.8MPa・m1/2である、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項10】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合材料焼結体であって、
ヤング率が273GPa~594GPaである、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項11】
請求項10に記載の複合材料焼結体であって、
ヤング率が460GPa~594GPaである、
ことを特徴とする複合材料焼結体。
【請求項12】
第1部材と第2部材とを接合してなる接合体であって、
前記第1部材が、
炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、
炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、
開気孔率が1%以下である、
複合材料焼結体からなり、
前記第2部材が窒化アルミニウムからなる、
ことを特徴とする接合体。
【請求項13】
請求項12に記載の接合体であって、
前記第1部材の40℃~550℃での熱膨張係数と、前記第2部材の40℃~550℃での熱膨張係数との差が、0.5ppm/K以下である、
ことを特徴とする接合体。
【請求項14】
請求項13に記載の接合体であって、
前記第1部材の開気孔率が0.1%以下である、
ことを特徴とする接合体。
【請求項15】
請求項12ないし請求項14のいずれかに記載の接合体であって、
前記第1部材と前記第2部材とが金属接合されてなる、
ことを特徴とする接合体。
【請求項16】
第1部材と第2部材とを接合してなる接合体を備えた半導体製造装置用部材であって、
前記第1部材が、前記第2部材を冷却するための冷却部材であって、
炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、
炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、
開気孔率が1%以下である、
複合材料焼結体からなり、
前記第2部材が窒化アルミニウムからなる、
ことを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項17】
請求項16に記載の半導体製造装置用部材であって、
前記第1部材の40℃~550℃での熱膨張係数と、前記第2部材の40℃~550℃での熱膨張係数との差が、0.5ppm/K以下である、
ことを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項18】
請求項17に記載の半導体製造装置用部材であって、
前記第1部材の開気孔率が0.1%以下である、
ことを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項19】
請求項16ないし請求項18のいずれかに記載の半導体製造装置用部材であって、
前記第1部材と前記第2部材とが金属接合されてなる、
ことを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項20】
複合材料焼結体の製造方法であって、
SiC粉末と、WSi2粉末と、WC粉末またはW粉末とを混合して粉体混合物を得る混合工程と、
前記粉体混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を不活性雰囲気下でホットプレス焼成する焼成工程と、
を備え、
前記混合工程においては、5.7wt%~27.7wt%のSiC粉末と、12.5wt%~55.3wt%のWSi2粉末と、49.5wt%~81.3wt%のWC粉末または17.0wt%~55.7wt%のW粉末とを、重量比の合計が100wt%となるように混合し、
前記焼成工程においては、最高温度を1700℃~1850℃とし、プレス圧力を225kgf/cm2~300kgf/cm2とする、
ことを特徴とする複合材料焼結体の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載の複合材料焼結体の製造方法であって、
前記混合工程においては、5.7wt%~13.1wt%のSiC粉末と、12.5wt%~39.1wt%のWSi2粉末と、49.5wt%~81.3wt%のWC粉末とを、重量比の合計が100wt%となるように混合する、
ことを特徴とする複合材料焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセス中で高温化する静電チャックには、放熱のために冷却板が接合されている。例えば、静電チャックの材料がアルミナである場合の冷却板の構成材として好適な、炭化珪素、珪化チタン、チタンシリコンカーバイド、および炭化チタンからなる複合材料の緻密質の焼結体が、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。係る複合材料焼結体は、アルミナとの線熱膨張係数の差が小さく、かつ、緻密かつ高強度という特徴を有する。
【0003】
また、静電チャックの材料が窒化アルミニウムである場合の冷却板の構成材として好適な、炭化珪素、チタンシリコンカーバイド、および炭化チタンからなる複合材料の緻密質の焼結体も、すでに公知である(例えば、特許文献2参照)。係る複合材料焼結体は、窒化アルミニウムとの線熱膨張係数差が小さく、かつ、緻密かつ高強度という特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-198662号公報
【特許文献2】特開2014-208567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化アルミニウムの40℃~570℃における線熱膨張係数は5.1ppm/Kであるところ、特許文献2に開示された複合材料の40℃~570℃における線熱膨張係数の好適な範囲は、5.4ppm/K~6.0ppm/Kとされている。特許文献2に開示されたようなTi-Si-C系の複合材料焼結体において、5.1ppm/Kなる線熱膨張係数を実現しようとすると、炭化珪素を増量する必要があるが、係る場合、当該複合材料焼結体の緻密性が低下し、静電チャックの冷却板には適さなくなる、という問題がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、従来とは異なる構成相からなり、窒化アルミニウムとの線熱膨張係数差が従来と同等かあるいは従来よりも小さく、かつ、緻密質の複合材料焼結体を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、複合材料焼結体であって、炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、開気孔率が1%以下である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る複合材料焼結体であって、40℃~550℃での熱膨張係数と、窒化アルミニウムの40℃~550℃での熱膨張係数との差が、0.5ppm/K以下である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係る複合材料焼結体であって、開気孔率が0.1%以下である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係る複合材料焼結体であって、炭化珪素の個々の結晶粒子の表面が、珪化タングステンまたは炭化タングステンの少なくとも一方にて覆われていることにより、炭化珪素の結晶粒子同士の間隙に、珪化タングステンまたは炭化タングステンの少なくとも一方の結晶粒子が存在する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4の態様のいずれかに係る複合材料焼結体であって、珪化タングステンの含有量が、炭化珪素の含有量よりも大きい、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第6の態様は、第1ないし第5の態様のいずれかに係る複合材料焼結体であって、4点曲げ強度が200MPa以上である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第7の態様は、第6の態様に係る複合材料焼結体であって、4点曲げ強度が350MPa以上である、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第8の態様は、第1ないし第7の態様のいずれかに係る複合材料焼結体であって、熱伝導率が90W/m・K以上である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第9の態様は、第1ないし第8の態様のいずれかに係る複合材料焼結体であって、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2~8.8MPa・m1/2である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第10の態様は、第1ないし第9の態様のいずれかに係る複合材料焼結体であって、ヤング率が273GPa~594GPaである、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第11の態様は、第10の態様に係る複合材料焼結体であって、ヤング率が460GPa~594GPaである、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第12の態様は、第1部材と第2部材とを接合してなる接合体であって、前記第1部材が、炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、開気孔率が1%以下である、複合材料焼結体からなり、前記第2部材が窒化アルミニウムからなる、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第13の態様は、第12の態様に係る接合体であって、前記第1部材の40℃~550℃での熱膨張係数と、前記第2部材の40℃~550℃での熱膨張係数との差が、0.5ppm/K以下である、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第14の態様は、第13の態様に係る接合体であって、前記第1部材の開気孔率が0.1%以下である、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の第15の態様は、第12ないし第14の態様のいずれかに係る接合体であって、前記第1部材と前記第2部材とが金属接合されてなる、ことを特徴とする。
【0022】
本発明の第16の態様は、第1部材と第2部材とを接合してなる接合体を備えた半導体製造装置用部材であって、前記第1部材が、前記第2部材を冷却するための冷却部材であって、炭化珪素と、珪化タングステンと、炭化タングステンとから構成され、炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、開気孔率が1%以下である、複合材料焼結体からなり、前記第2部材が窒化アルミニウムからなる、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の第17の態様は、第16の態様に係る半導体製造装置用部材であって、前記第1部材の40℃~550℃での熱膨張係数と、前記第2部材の40℃~550℃での熱膨張係数との差が、0.5ppm/K以下である、ことを特徴とする。
【0024】
本発明の第18の態様は、第17の態様に係る半導体製造装置用部材であって、前記第1部材の開気孔率が0.1%以下である、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の第19の態様は、第16ないし第17の態様のいずれかに係る半導体製造装置用部材であって、前記第1部材と前記第2部材とが金属接合されてなる、ことを特徴とする。
【0026】
本発明の第20の態様は、複合材料焼結体の製造方法であって、SiC粉末と、WSi2粉末と、WC粉末またはW粉末とを混合して粉体混合物を得る混合工程と、前記粉体混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を不活性雰囲気下でホットプレス焼成する焼成工程と、を備え、前記混合工程においては、5.7wt%~27.7wt%のSiC粉末と、12.5wt%~55.3wt%のWSi2粉末と、49.5wt%~81.3wt%のWC粉末または17.0wt%~55.7wt%のW粉末とを、重量比の合計が100wt%となるように混合し、前記焼成工程においては、最高温度を1700℃~1850℃とし、プレス圧力を225kgf/cm2~300kgf/cm2とする、ことを特徴とする。
【0027】
本発明の第21の態様は、第20の態様に係る複合材料焼結体の製造方法であって、前記混合工程においては、5.7wt%~13.1wt%のSiC粉末と、12.5wt%~39.1wt%のWSi2粉末と、49.5wt%~81.3wt%のWC粉末とを、重量比の合計が100wt%となるように混合する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の第1ないし第11、第20、および第21の態様によれば、窒化アルミニウムと接合されて冷熱サイクル下で使用された場合においても剥離が生じにくい、緻密質の複合材料焼結体が得られる。
【0029】
また、本発明の第12ないし第19の態様によれば、接合体が冷熱サイクル下で使用されたとしても、部材の剥離が生じにくいので、係る接合体を備えた半導体製造装置用部材の耐用寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】複合材料焼結体の断面SEM像の一例である。
【
図2】複合材料焼結体における炭化珪素の含有量と、開気孔率との関係を示すグラフである。
【
図3】ホットプレス焼成における温度および圧力のプロファイルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<複合材料焼結体>
本実施の形態に係る複合材料焼結体は、炭化珪素(SiC)と、珪化タングステンと、炭化タングステン(WC)とを結晶相として含有する、複合材料焼結体である。本実施の形態に係る複合材料焼結体は、これらの結晶相の合計重量比を100wt%としたときに、炭化珪素(SiC)を14.4wt%以上48.6wt%以下含有する。好ましくは、珪化タングステンの含有量が、炭化珪素の含有量よりも大きい。珪化タングステンは、具体的には、WSi2およびW5Si3である。
【0032】
本実施の形態に係る複合材料焼結体がSiC、珪化タングステン、および炭化タングステンを結晶相として含有していることは、当該焼結体を粉砕した粉末のX線回折測定により確認される。また、それぞれの物質の含有量は、X線回折測定プロファイルの回折ピークに基づいて求めた値(簡易定量値)とする。
【0033】
また、本実施の形態に係る複合材料焼結体は、開気孔率が1%以下の緻密なもの(緻密質複合材料焼結体)である。なお、開気孔率は、純水を媒体としたアルキメデス法により測定した値とする。
【0034】
より詳細には、本実施の形態に係る複合材料焼結体において炭化珪素の個々の結晶粒子の表面は、珪化タングステンまたは炭化タングステンの少なくとも一方にて覆われている。これにより、炭化珪素の結晶粒子同士の間隙には、珪化タングステンまたは炭化タングステンの少なくとも一方の結晶粒子が存在している。
【0035】
図1は、本実施の形態に係る複合材料焼結体の断面SEM像の一例である。
図1においては、明度が低い(暗い)順に、SiC、WSi
2、WC、W
5Si
3の4つの結晶相の像が視認される。より詳細には、ほぼ黒色である個々のSiCの結晶粒子は互いに離隔しており、それぞれの結晶粒子の周囲を、WSi
2、WC、W
5Si
3の結晶粒子が隙間なく覆っている様子が確認される。
【0036】
炭化珪素の含有量が多く、炭化珪素の粒子が高頻度に分散する焼結体では、当該粒子間に気孔が多く生じ得るが、本実施の形態に係る複合材料焼結体の場合、炭化珪素粒子表面が他の結晶相の粒子にて覆われているため、そのような気孔はほとんど形成されない。これにより、本実施の形態に係る複合材料焼結体は、緻密質でありかつ高強度なものとなっている。
【0037】
好ましくは、本実施の形態に係る複合材料焼結体の開気孔率は0.1%以下である。係る開気孔率をみたす複合材料焼結体は、極めて優れた緻密性を有し、かつ極めて高強度なものとなっている。
【0038】
図2は、異なる作製条件にて作製された種々の複合材料焼結体における炭化珪素の含有量と、開気孔率との関係を示すグラフである。具体的には、後述するホットプレス時の最高温度とプレス圧力の条件が違えられており、
図2においては、ホットプレス時の最高温度に応じて、データをプロットしている。
図2においては、複合材料焼結体における炭化珪素の含有量が多くなるほど、開気孔率が大きくなる傾向が確認される。特に、炭化珪素の含有量が概ね50wt%以下の範囲では、作製条件を好適に設定することで、開気孔率が1%以下である複合材料焼結体が作製できることがわかる。さらには、炭化珪素の含有量が概ね30wt%以下の範囲では、開気孔率が0.1%以下である複合材料焼結体も作製できることもわかる。一方で、炭化珪素の含有量が50wt%を上回る場合、開気孔率の小さい複合材料焼結体を得ることが困難となるため、好ましくない。
【0039】
本実施の形態に係る複合材料焼結体の線熱膨張係数は、窒化アルミニウム(AlN)の線熱膨張係数と同程度である。なお、以降においては、線熱膨張係数を単に熱膨張係数とも称する。
【0040】
具体的には、本実施の形態に係る複合材料焼結体の40℃~550℃における熱膨張係数は、40℃~550℃における窒化アルミニウムの平均熱膨張係数(5.1ppm/K)との差が、0.5ppm/K以下である。具体的には、本実施の形態に係る複合材料焼結体の40℃~550℃における熱膨張係数は4.6ppm/K~5.6ppm/Kであり、好ましくは、4.8~5.3ppm/Kである。
【0041】
また、本実施の形態に係る複合材料焼結体は、熱伝導性に優れている。その熱伝導率は90W/m・K以上であり、好ましくは100W/m・K以上である。
【0042】
本実施の形態に係る複合材料焼結体は、強度にも優れている。具体的には、4点曲げ強度が200MPa以上であり、好ましくは350MPa以上であり、より好ましくは420MPa以上である。
【0043】
また、本実施の形態に係る複合材料焼結体の破壊靭性値(K1c)は6.0MPa・m1/2~8.8MPa・m1/2であり、好ましくは、6.2MPa・m1/2~8.8MPa・m1/2である。
【0044】
さらに、本実施の形態に係る複合材料焼結体のヤング率は、273GPa~594GPaであればよく、好ましくは330GPa~594GPaであり、より好ましくは460GPa~594GPaである。
【0045】
<接合体>
上述のように、本実施の形態に係る複合材料焼結体は、窒化アルミニウムと同程度の熱膨張係数を有する。それゆえ、本実施の形態に係る複合材料焼結体からなる部材(第1部材)を窒化アルミニウムで作製された部材(第2部材)に接合(例えば金属接合)した接合体を、低温と高温が繰り返される冷熱サイクル下で使用したとしても、両部材の剥離は生じにくい。
【0046】
係る接合体は、例えば半導体製造装置用部材に適用可能である。例えば、本実施の形態に係る複合材料焼結体にて作製された冷却板(第1部材)と、窒化アルミニウムで作製された静電チャック(第2部材)とを、アルミニウム又はその合金を主成分とする接合材で接合した半導体製造装置用部材などが挙げられる。
【0047】
係る接合体あるいは半導体製造装置用部材においては、第1部材と第2部材との線熱膨張係数差がきわめて小さいため、冷熱サイクル下で使用しても第1部材が第2部材から剥離しにくい。
【0048】
しかも、本実施の形態に係る複合材料焼結体からなる第1部材は、熱伝導率が十分に高いため、窒化アルミニウムからなる第2部材が持つ熱を効率よく逃がすことができ、第2部材を効率よく冷却することができる。
【0049】
さらには、本実施の形態に係る複合材料焼結体からなる第1部材は緻密性が十分に高く、内部に冷却液を通過させる構造とすることができる。係る場合、第2部材の冷却効率が一層向上する。
【0050】
加えて、本実施の形態に係る複合材料焼結体からなる第1部材は、強度が十分に高いため、半導体製造装置用部材を製造するための加工や接合の際に生じる応力や、完成した当該部材として使用する際の温度差によって生じる応力にも、十分に耐えることができる。
【0051】
すなわち、本実施の形態に係る複合材料焼結体を静電チャックの冷却板として使用することにより、半導体製造装置用部材の耐用寿命を向上させることができる。
【0052】
<複合材料焼結体の製造方法>
次に、本実施の形態に係る複合材料焼結体の製造方法について説明する。本実施の形態においては、概略、所定の重量比にて秤量した原料粉末を混合し、これにより得られた混合粉末を所定の形状に成形した後、得られた成形体をホットプレス焼成する、という手順により、所望の複合材料焼結体を得る。
【0053】
原料粉末としては、5.7wt%~27.7wt%のSiCと、12.5wt%~55.3wt%のWSi2と、17.0wt%~55.7wt%のタングステン(W)または49.5wt%~81.3wt%のWCとを、重量比の合計が100wt%となるように、用意する。好ましくは、SiCの重量比は6.0wt%以上13.1wt%以下とする。
【0054】
SiCの原料粉末の粒径は特に限定されないが、平均粒径が2μm~35μmであることが好ましい。また、粗粒(例えば平均粒径15μm~35μm)のみを用いてもよいし、細粒(例えば平均粒径2μm~10μm)のみを用いてもよいし、粗粒と細粒とを混合して用いてもよい。
【0055】
なお、平均粒径が2μmよりも小さいSiC粉末を用いる場合、混合粉末におけるSiC比が大きいとSiC粒子の表面積が増加するために焼結性が低下し、緻密な焼結体が得られにくい。一方、平均粒径が35μmよりも大きいSiC粉末を用いる場合、焼結性には問題がないとしても、十分な強度が得られない可能性がある。
【0056】
原料粉末の混合としては、高速流動混合機を用いた乾式混合が例示される。例えば、原料粉末の合計重量が300g~500g程度であれば、高速流動混合機の攪拌羽の回転数を1000rpm~1500rpm程度に設定し、10分~15分間の攪拌を行うのが好適である。
【0057】
あるいは、イソプロピルアルコールを溶媒とする、ナイロン製のポットと鉄芯入りナイロンボールを用いた湿式混合を行う態様であってもよい。係る場合、混合により得られるスラリーを例えば窒素気流中などで、110℃で16hr乾燥させた後、篩に通すことにより、混合粉末が得られる。
【0058】
混合粉末を成形した成形体のホットプレス焼成は、不活性雰囲気にて行う。不活性雰囲気としては、例えば、真空雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気などが挙げられる。
【0059】
ホットプレス時の圧力(プレス圧力)は225kgf/cm2~300kgf/cm2が好ましく、250kgf/cm2~300kgf/cm2がより好ましい。圧力を200kgf/cm2未満とするのは、焼結体が緻密化せず、開気孔率が1%を上回るため、好ましくない。
【0060】
ホットプレス時の温度は、最高温度を1700℃~1850℃とするのが好ましく、1770℃~1830℃とするのがより好ましい。なお、最高温度を1900℃以上とするのは、材料が溶融し、所望の形状の焼結体が得られないため、好ましくない。一方、最高温度を1700℃未満とするのは、焼結が十分に進行しないため、好ましくない。
【0061】
具体的なホットプレス時の圧力と温度のプロファイル(以下、ホットプレス条件)は、粉体混合物の組成(各原料粉末の重量比)や原料粉の粒径、成形体のサイズ、形状などに応じて、上述の好ましい範囲内で適宜に設定すればよい。なお、混合粉末における炭化珪素の重量比が小さいほど焼結が進行しやすく、それゆえ緻密化が実現されるホットプレス条件の許容範囲が比較的広い傾向がある。また、炭化珪素に粗粒のみを用いる場合に比べて、粗粒と細粒とを混合して用いた場合の方が、緻密化が実現されるホットプレス条件の許容範囲が比較的広い傾向がある。
【0062】
また、焼成時間についても、ホットプレス条件や成形体のサイズ、形状などに応じて、適宜に設定すればよい。例えば、直径50mm、厚さ15mm程度の円盤状成形体がホットプレス焼成される場合であれば、最高温度における保持時間を4時間~8時間の範囲で設定するのが好適である。
【0063】
<接合体の製造方法>
本実施の形態に係る複合材料焼結体からなる第1部材と、窒化アルミニウムで作製された第2部材とを接合してなる接合体を得る方法(接合方法)について説明する。係る接合方法には、両部材が金属の接合層を介して接合されてなる金属接合と両部材が直接に接合されてなる直接接合の2通りがある。
【0064】
金属接合の場合は、例えば円盤状などの所定の形状に加工した本実施の形態に係る複合材料焼結体に、アルミニウム製の金属箔と、緻密質の窒化アルミニウム焼結体とをこの順に積層した積層体を、焼成用黒鉛モールドに収納し、不活性ガス雰囲気下でホットプレス焼成すればよい。不活性雰囲気としては、例えば、真空雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気などが挙げられる。
【0065】
金属箔の厚みは180μm~220μm程度であればよい。また、複合材料焼結体と、金属箔と、窒化アルミニウムのそれぞれの積層面は、同形とするのが好ましい。
【0066】
ホットプレス焼成は、最高温度を1770℃~1830℃とし、プレス圧力を250kgf/cm2~300kgf/cm2なる範囲の値に設定し、最高温度における保持時間を4時間~8時間とすればよい。これにより、界面に剥離やボイドのない接合体(金属接合体)が得られる。
【0067】
直接接合の場合はまず、本実施の形態に係る複合材料焼結体を得ることが可能な組成比の粉体混合物を所定の加圧条件にて一軸加圧成形することにより、例えば円盤状の成形体を得る。続いて、係る成形体に緻密質の窒化アルミニウム焼結体を積層した積層体を、焼成用黒鉛モールドに収納し、不活性ガス雰囲気下でホットプレス焼成すればよい。不活性雰囲気としては、例えば、真空雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気などが挙げられる。
【0068】
係る場合、成形体と窒化アルミニウムのそれぞれの積層面は、同形とするのが好ましい。
【0069】
ホットプレス焼成は、最高温度を1770℃~1830℃とし、プレス圧力を250kgf/cm2~300kgf/cm2なる範囲の値に設定し、最高温度における保持時間を4時間~8時間とすればよい。これにより、界面に剥離やボイドのない接合体(直接接合体)が得られる。
【実施例0070】
原料粉末の組成およびホットプレス条件の組み合わせを違えた26通りの実験例にて、複合材料焼結体の作製および評価を試みた。なお、以降においては、同じ実験例についての粉体混合物、成形体、焼成体について、その状態を区別せずサンプルと称することがある。
【0071】
<原料粉末>
原料粉末としては、SiC、WSi2、W、WCを用意した。
【0072】
SiCの原料粉末としては、粒度が異なる3通りの市販品を用意した。具体的には、平均粒径が36μm(以下、#500品と称する)、15μm(同#1000品)、および3μm(同#6000品)の3通りの粉末を用意した。純度はいずれも99%以上であった。
【0073】
また、WSi2の原料粉末としては、純度が99%以上で平均粒径が6μmの市販品を使用した。WCの原料粉末としては、純度が99%以上で平均粒径が2μmの市販品を使用した。Wの原料粉末としては、純度が99%以上で平均粒径が2.3μmの市販品を使用した。
【0074】
<焼結体の作製>
全ての実験例の原料組成とホットプレス条件とを、表1に一覧にして示す。なお、表1においては、ホットプレス焼成を行ったときのサンプルの溶融の有無についても併せて示している。
【0075】
【0076】
いずれの実験例においても、複合材料焼結体の作製にあたってはまず、SiC原料粉末と、WSi2原料粉末と、WC原料粉末またはW原料粉末とを、表1に示す組成比(重量比)となるように、合計で300g秤量した。秤量した3種類の粉末を、粉体投入部の容量が1.8Lである高速流動混合機に投入し、1500rpmで10分間、攪拌・混合することにより、粉体混合物を得た。
【0077】
得られたそれぞれの実験例の粉体混合物を、200kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、直径が50mmで厚さが15mm程度の円盤状の成形体を作製した。作製した成形体を、焼成用黒鉛モールドに収納した。
【0078】
そして、係る成形体をホットプレス焼成することにより、複合材料焼結体を得た。ホットプレス焼成では、最高温度を1650℃、1700℃、1770℃、1800℃、1830℃、1850℃、1900℃の7水準に違えた。最高温度での保持時間は4時間とした。また、圧力は200kgf/cm
2、225kgf/cm
2、250kgf/cm
2、および300kgf/cm
2の4水準に違えた。なお、圧力の印加は、焼成温度が900℃に到達した時点に開始した。
図3は、ホットプレス焼成における最高温度を1800℃とし、圧力を250kgf/cm
2としたときの温度および圧力のプロファイルの例である。
【0079】
<複合材料焼結体の組成および諸特性>
得られたそれぞれの実験例の複合材料焼結体につき、構成相の特定およびその組成比(含有量)の算出(簡易定量)を行った。また、特性を評価するべく、開気孔率、嵩密度、曲げ強度、熱膨張係数の測定を行った。
【0080】
それぞれの実験例の焼結体についての、構成相の組成比と、開気孔率、嵩密度、曲げ強度、熱膨張係数、破壊靭性値、ヤング率、および熱伝導率の測定結果とを、表2に一覧にして示す。
【0081】
【0082】
表2に示すように、実験例1、実験例3~実験例8、実験例10~実験例12、実験例14~実験例15、実験例17~実験例19、および実験例21~実験例25が実施例に該当し、他の実験例が比較例に該当する。
【0083】
実施例に該当する複合材料焼結体については、一部を除き、破壊靭性値(K1c値)、ヤング率、および熱伝導率の測定も行った。これらの測定結果も併せて表2に示している。
【0084】
一方で、ホットプレス焼成における最高温度を1900℃とした実験例16および実験例20については、表1に示したように、焼成途中でサンプルが溶融し、所望の形状の焼結体が得られなかったため、構成相の特定および上述の諸特性のいずれの測定も行えなかった。
【0085】
(構成相の同定および簡易定量)
実験例16および実験例20を除き、上述の手順にて得られた複合材料焼結体を乳鉢で粉砕し、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製 D8 ADVANCE)を使用したX線回折測定(θ-2θ測定)を行った。得られたX線回折プロファイルに現れたピークパターンに基づき、複合材料焼結体の構成相(結晶相)を同定した。特性X線としてはCuKα線を使用し、管球出力は40kV、40mAとし、測定範囲は2θ=5°~70°とした。
【0086】
また、X線回折プロファイルに現れたピークの強度に基づく簡易定量により、複合材料焼結体に含まれる結晶相の組成比(含有量)を求めた。簡易定量には、ブルカー・エイエックスエス社の粉末回折データ解析用ソフトウェア「EVA」の簡易プロファイルフィッティング機能(FPM Eval.)を利用した。本機能は、同定した結晶相のICDD PDFカードのI/Icor(コランダムの回折強度に対する強度比)を用いて、構成相の重量比を算出するものである。
【0087】
(開気孔率および嵩密度の測定)
純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。
【0088】
(4点曲げ強度の測定)
JIS-R1601に従って測定した。
【0089】
(熱膨張係数の測定)
ブルカー・エイエックスエス(株)製、TD5020S(横型示差膨張測定方式)を使用して、40℃~550℃での平均線熱膨張係数を算出した。
【0090】
具体的には、アルゴン雰囲気中、昇温速度20℃/分の条件で650℃まで2回昇温し、2回目の測定データから、平均線熱膨張係数を算出した。標準試料には装置付属のアルミナ標準試料(純度99.7%、嵩密度3.9g/cm3、長さ20mm)を使用した。
【0091】
(破壊靭性値の測定)
JIS-R1607にしたがって、SEPB法により破壊靱性を評価した。
【0092】
(ヤング率の測定)
ヤング率は、JIS R1602(ファインセラミックスの弾性率試験方法)に準拠して測定した。
【0093】
(熱伝導率の測定)
レーザーフラッシュ法により測定した。
【0094】
<各実験例の詳細>
(実験例1~実験例5)
実験例1~実験例5では、SiC、WSi2、およびWの粉末を原料として複合材料焼結体を作製した。SiC粉末としては、#500品と#6000品とを使用した。
【0095】
原料組成は、表1に示すように、実験例1および実験例2においては共通に、
SiC(#500品):18.0wt%;
SiC(#6000品):9.7wt%;
WSi2:55.3wt%;
W:17.0wt%;
とした。
【0096】
実験例3~実験例5においても共通に、
SiC(#500品):15.8wt%;
SiC(#6000品):8.5wt%;
WSi2:20.0wt%;
W:55.7wt%;
とした。
【0097】
すなわち、実験例3~実験例5においては実験例1および実験例2に比して、Wの比率を顕著に増大させ、WSi2の比率を顕著に低減させるとともに、SiCについてもわずかに低減させた。
【0098】
ホットプレス条件としては、実験例2および実験例4について最高温度を1700℃とし、実験例1、実験例3、および実験例5については、最高温度を1800℃とした。プレス圧力は共通に250kgf/cm2とした。
【0099】
実験例1~実験例5のいずれにおいても焼結体が得られ、かつ、構成相としてはSiC、WSi2、W5Si3、WCのみが同定された。焼結体におけるSiCの含有量は48.6wt%以下であった。
【0100】
ただし、実験例1および実験例3~実験例5の焼結体においては開気孔率が1%以下となったものの、実験例2の焼結体では、開気孔率は1%を大きく上回った。すなわち、実験例1および実験例3~実験例5においては緻密質の複合材料焼結体が得られたものの、実験例2では、緻密質の複合材料焼結体は得られなかった。
【0101】
より詳細には、ホットプレス焼成時の最高温度を1800℃とした実験例1、実験例3、および実験例5においてはいずれも、開気孔率が1%以下となったのに対し、ホットプレス焼成時の最高温度が1700℃であった実験例2および実験例4においては、後者のみ、開気孔率が1%以下となった。実験例2と実験例4の相違は原料組成のみであることから、Wを原料に用いる場合、少なくとも、原料組成に応じてホットプレス焼成時の最高温度を設定する必要があるといえる。
【0102】
なお、実験例2を除いては、熱膨張係数は4.6ppm/K~5.6ppm/Kなる範囲内の値となった。一方で、曲げ強度は、いずれの実験例においても200MPaを上回ったものの350MPaを下回った。また、実験例1、実験例4、および実験例5においては、破壊靭性値(K1c)が6.0MPa・m1/2~6.5MPa・m1/2であり、ヤング率は、448GPa~484GPaであった。また、熱伝導率については、100W/m・K以上であった。
【0103】
実験例1~実験例5の結果は、原料粉末におけるSiCの重量比を5.7wt%~27.7wt%なる範囲内の値とし、WSi2の重量比を12.5wt%~55.3wt%なる範囲内の値とし、Wの重量比を17.0wt%~55.7wt%なる範囲内の値とした場合、ホットプレス条件を原料組成に応じて適切に設定することにより、炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、開気孔率が1%以下という緻密質であって、かつ、熱膨張係数が窒化アルミニウムの熱膨張係数に近い複合材料焼結体が得られることを、示している。
【0104】
(実験例6~実験例14)
実験例6~実験例14では、SiC、WSi2、およびWCの粉末を原料として複合材料焼結体を作製した。SiC粉末としては、#1000品のみを使用した。
【0105】
原料組成は、表1に示すように、実験例6~実験例9においては共通に、
SiC(#1000品):13.1wt%;
WSi2:22.2wt%;
WC:64.7wt%;
とした。
【0106】
実験例10においては、
SiC(#1000品):11.4wt%;
WSi2:39.1wt%;
WC:49.5wt%;
とした。
【0107】
実験例11~実験例13においては共通に、
SiC(#1000品):9.1wt%;
WSi2:31.5wt%;
WC:59.4wt%;
とした。
【0108】
実験例14においては、
SiC(#1000品):8.5wt%;
WSi2:19.6wt%;
WC:71.9wt%;
とした。
【0109】
すなわち、実験例6~実験例9と、実験例10と、実験例11~実験例13と、実験例14とはこの順に、原料におけるSiCおよびWSi2の重量比が小さくなり、WCの重量比が大きくなる、という関係にある。
【0110】
一方、ホットプレス条件としては、実験例7については最高温度を1770℃とし、実験例8については、最高温度を1830℃とした他は、最高温度を1800℃とした。また、プレス圧力は実験例9と実験例13において200kgf/cm2とした他は、250kgf/cm2とした。
【0111】
すなわち、実験例6~実験例8は、ホットプレス焼成の際の最高温度のみが違えられている。また、実験例6と実験例9とは、は、ホットプレス焼成の際の圧力のみが違えられている。同様に、実験例11および実験例12と実験例13とについても、ホットプレス焼成の際の圧力のみが違えられている。
【0112】
一方、実験例6と、実験例10と、実験例11および実験例12と、実験例14とは、ホットプレス条件は同じで、原料組成のみが違えられている。
【0113】
実験例11と実験例12とは、原料組成およびホットプレス条件が共通している。
【0114】
実験例6~実験例14のいずれにおいても焼結体が得られ、かつ、構成相としてはSiC、WSi2、W5Si3、WCのみが同定された。焼結体におけるSiCの含有量は、全ての実験例において、14.4wt%以上48.6wt%以下の範囲内の値となった。
【0115】
また、ホットプレス焼成の際のプレス圧力を200kgf/cm2とした実験例9と実験例13では、開気孔率が1%を大きく上回った。すなわち、緻密質の複合材料焼結体は得られなかった。一方、プレス圧力を250kgf/cm2とした実験例6~実験例8、実験例10~実験例12、および実験例14では、開気孔率は0.1%以下となった。すなわち、極めて優れた緻密質の複合材料焼結体が得られた。
【0116】
なお、緻密質の複合材料焼結体が得られた実験例6~実験例8、実験例10~実験例12、および実験例14では、実験例7を除き、珪化タングステン(WSi2およびW5Si3)の含有量が炭化珪素(SiC)の含有量よりも多かった。
【0117】
熱膨張係数については、いずれの実験例においても4.6ppm/K~5.6ppm/Kなる範囲をみたす、4.9ppm/K~5.3ppm/Kなる範囲内の値となった。すなわち、窒化アルミニウムの熱膨張係数との差が0.2ppm/K以下となった。
【0118】
また、開気孔率が0.1%以下であり、極めて優れた緻密質と判断される実験例6~実験例8、実験例10~実験例12、および実験例14の複合材料焼結体においては、350MPaを上回る曲げ強度が得られた。さらに、これらの複合材料焼結体においては、破壊靭性値(K1c)が6.3MPa・m1/2~7.9MPa・m1/2であり、ヤング率は、非測定である実験例12を除き、448GPa~520GPaであった。また、熱伝導率については、実験例11において98W/m・Kであったほかは、100W/m・K以上であった。
【0119】
(実験例15~実験例21)
実験例15~実験例21では、SiC、WSi2、およびWCの粉末を原料として複合材料焼結体を作製した。SiC粉末としては、実験例15~実験例17では#500品と#6000品とを使用し、実験例18~実験例21では#1000品のみを使用した。
【0120】
原料組成は、表1に示すように、実験例15~実験例17において共通に、
SiC(#500品):5.0wt%;
SiC(#6000品):1.2wt%;
WSi2:12.5wt%;
WC:81.3wt%;
とした。
【0121】
また、実験例18~実験例21において共通に、
SiC(#1000品):6.2wt%;
WSi2:12.5wt%;
WC:81.3wt%;
とした。
【0122】
すなわち、実験例15~実験例21においては、実験例6~実験例14よりも、SiCおよびWSi2の重量比を小さくし、WCの重量比を大きくした。また、実験例15~実験例17と実験例18~実験例21とでは、SiC全体の重量比としては同じとしつつ、用いる粉末の粒度を違えた。
【0123】
一方、ホットプレス条件としては、実験例15および実験例18については最高温度を1800℃とし、実験例16および実験例20については、最高温度を1900℃とし、実験例17、実験例19、および実験例21については最高温度を1830℃とした。また、プレス圧力は共通に250kgf/cm2とした。
【0124】
その結果、上述のように、ホットプレス焼成時の最高温度を1900℃とした実験例16および実験例20においては、焼成途中でサンプルが溶融してしまい、焼結体が得られなかった。
【0125】
ホットプレス焼成時の最高温度が1800℃または1830℃であった実験例15、実験例17~実験例19、および実験例21においてはいずれも焼結体が得られ、かつ、構成相としてはSiC、WSi2、W5Si3、WCのみが同定された。また、焼結体におけるSiCの含有量は、それら全ての実験例において、14.4wt%以上48.6wt%以下の範囲内の値となった。
【0126】
さらに、実験例15、実験例17~実験例19、および実験例21では全て、当該焼結体の開気孔率は0.1%以下となった。すなわち、極めて優れた緻密質の複合材料焼結体が得られた。
【0127】
かつ、それらの焼結体の熱膨張係数はいずれも、4.6ppm/K~5.6ppm/Kなる範囲をみたす、4.8ppm/K~4.9ppm/Kなる値となった。すなわち、窒化アルミニウムの熱膨張係数よりもわずかに小さい値が得られた。
【0128】
なお、緻密質の複合材料焼結体が得られた実験例15、実験例17~実験例19、および実験例21では、珪化タングステン(WSi2およびW5Si3)の含有量が炭化珪素(SiC)の含有量よりも多かった。
【0129】
加えて、極めて優れた緻密質と判断される実験例15、実験例17~実験例19、および実験例21の複合材料焼結体においては、350MPaを上回る曲げ強度が得られた。さらに、これらの複合材料焼結体においては、破壊靭性値(K1c)が7.5MPa・m1/2~8.5MPa・m1/2であり、ヤング率は、523GPa~561GPaであった。いずれも、実験例6~実験例14よりも概ね高い値となった。また、熱伝導率は134W/m・K以上であり、実験例6~実験例14よりも高い値となった。
【0130】
(実験例22~実験例23)
実験例22~実験例23では、SiC、WSi2、およびWCの粉末を原料として複合材料焼結体を作製した。SiC粉末としては、#1000品のみを使用した。
【0131】
原料組成は、表1に示すように、実験例22においては、
SiC(#1000品):12.8wt%;
WSi2:13.5wt%;
WC:73.7wt%;
とした。
【0132】
また、実験例23においては、
SiC(#1000品):5.7wt%;
WSi2:26.7wt%;
WC:67.6wt%;
とした。
【0133】
一方、ホットプレス条件については共通に、最高温度を1800℃とし、プレス圧力を250kgf/cm2とした。
【0134】
すなわち、実験例22および実験例23はいずれも、ホットプレス条件が共通である実験例6、実験例10、実験例11および実験例12、実験例14、実験例18のそれぞれと、原料であるSiC粉末(#1000品)と、WSi2粉末と、WC粉末の重量比の組み合わせを、違えたものである。
【0135】
いずれの実験例においても焼結体が得られ、かつ、構成相としてはSiC、WSi2、W5Si3、WCのみが同定された。焼結体におけるSiCの含有量は、それら全ての実験例において、14.4wt%以上48.6wt%以下の範囲内の値となった。
【0136】
ただし、実験例23では珪化タングステン(WSi2およびW5Si3)の含有量が炭化珪素(SiC)の含有量よりも多かったが、実験例22ではその反対であった。
【0137】
焼結体の開気孔率は、実験例22および実験例23の双方で0.1%以下となった。すなわち、いずれの実験例においても、極めて優れた緻密質の複合材料焼結体が得られた。
【0138】
一方、焼結体の熱膨張係数は、いずれの実験例においても4.6ppm/K~5.6ppm/Kなる範囲をみたしたが、実験例22においては範囲下限の4.6ppm/Kとなった。実験例23においては範囲上限の5.6ppm/Kとなった。
【0139】
また、曲げ強度は、実験例22では423MPaとなり、実験例23では424MPaとなった。すなわち、いずれの実験例でも350MPaを上回ったが、両者の間ではほぼ差異がなかった。
【0140】
一方、破壊靭性値(K1c)、ヤング率、および熱伝導率については、実施例23ではそれぞれ、8.2MPa・m1/2、548GPa、134W/m・Kという高い値となったが、実施例22ではそれぞれ6.0MPa・m1/2、332GPa、104W/m・Kという値に留まった。
【0141】
他の実験例との対比より、実験例22については、珪化タングステン(WSi2およびW5Si3)の含有量が12.7wt%であって炭化珪素(SiC)の含有量の28.1wt%よりも少ないことが、焼結体の特性に影響している可能性が考えられる。また、実験例23については、原料粉末におけるSiCの重量比が5.7wt%と小さいことが、焼結体の特性に影響している可能性が考えられる。
【0142】
(実験例24~実験例26)
実験例24~実験例26では、SiC、WSi2、およびWの粉末を原料として複合材料焼結体を作製した。SiC粉末としては、#500品と#6000品とを使用した。
【0143】
原料組成は、表1に示すように、実験例1および実験例2と同じく、
SiC(#500品):18.0wt%;
SiC(#6000品):9.7wt%;
WSi2:55.3wt%;
W:17.0wt%;
とした。
【0144】
ホットプレス条件としては、実験例24ないし実験例26のそれぞれにおいて、最高温度とプレス圧力の組み合わせを実験例1ないし実験例5と違えた。実験例24では、最高温度を1850℃とし、プレス圧力は225kgf/cm2とした。実験例25では、最高温度を1700℃とし、プレス圧力は300kgf/cm2とした。実験例26では、最高温度を1650℃とし、プレス圧力は300kgf/cm2とした。
【0145】
すなわち、実験例24では、実験例1よりも最高温度を高くする一方、プレス圧力を低くしている。また、実験例25では、比較例である実験例2よりもプレス圧力を高くしている。さらに、実験例26では、比較例である実験例2よりも最高温度を低くする一方、プレス圧力を高くしている。
【0146】
実験例24~実験例26のいずれにおいても焼結体が得られ、かつ、構成相としてはSiC、WSi2、W5Si3、WCのみが同定された。ただし、焼結体におけるSiCの含有量は、実験例24および実験例25では48.6wt%以下であったものの、実験例26では50.1wt%となって、48.6wt%を上回った。
【0147】
焼結体の開気孔率は、実験例24および実験例25では1%を下回ったものの、実験例26では1%を上回った。
【0148】
また、熱膨張係数は、実験例24~実験例26のいずれにおいても、4.6ppm/K~5.6ppm/Kなる範囲をみたす5.4ppm/Kとなった。一方で、曲げ強度は、実験例24および実験例25では実験例1および実験例2と同程度の252MPaとなったが、実験例26では116MPaに留まった。また、実験例24および実験例25の破壊靭性値(K1c)とヤング率は実験例1と同程度であったが、熱伝導率は実験例1をやや上回った。
【0149】
(実験例1~実験例26のまとめ)
実験例1~実験例26の結果は、原料粉末におけるSiCの重量比を5.7wt%~27.7wt%なる範囲内の値とし、WSi2の重量比を12.5wt%~55.3wt%なる範囲内の値とし、かつ、WCの重量比を49.5wt%~81.3wt%なる範囲内の値とするかWの重量比を17.0wt%~55.7wt%なる範囲内の値とした場合、ホットプレス条件を適切に設定することにより、炭化珪素を14.4wt%以上48.6wt%以下含有し、開気孔率が1%以下という緻密質であって、かつ、熱膨張係数が窒化アルミニウムの熱膨張係数に近い複合材料焼結体が得られることを、示している。
【0150】
また、係る緻密質の複合材料焼結体が、200MPa以上という4点曲げ強度と、6.0MPa・m1/2~8.8MPa・m1/2なる範囲内の破壊靭性値と、273GPa~594GPaなる範囲内のヤング率と、90W/m・K以上という熱伝導率とを充足することも、示している。
【0151】
特に、実験例6~実験例23の結果は、原料粉末におけるSiCの重量比を5.7wt%~13.1wt%なる範囲内の値とし、WSi2の重量比を12.5wt%~39.1wt%なる範囲内の値とし、かつ、WCの重量比を49.5wt%~81.3wt%なる範囲内の値とした場合には、開気孔率が0.1%以下という、極めて優れた緻密質の複合材料焼結体が得られること、さらには、係る複合材料焼結体が350MPa以上という優れた4点曲げ強度を有することも、示している。