(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145476
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】コイルの製造方法、コイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置、及びガイド装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20241004BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20241004BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01F41/04 A
H01F27/29 P
H01F17/04 A
H01F41/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057842
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【弁理士】
【氏名又は名称】畑添 隆人
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100216367
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 梨絵
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩平
(72)【発明者】
【氏名】金井 芳治
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062EE02
5E062FG11
5E070AA01
5E070EA06
(57)【要約】
【課題】コイルを構成する線材に加工が加えられる場合に生じ得る問題を抑制することを課題とする。
【解決手段】第一の線材を巻くことでコイルの一部を形成する第一コイル形成ステップと、第一の線材の一部を、コイル及び当該コイルの内部空間からなる領域が当該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外に引き出す引出ステップと、引出ステップで引き出された第一の線材の一部を、所定領域の外において第二の線材と接続する接続ステップと、第二の線材のうち少なくとも第一の線材と接続された接続部を所定領域の外に位置させたまま、当該第二の線材のうち少なくとも接続部を除く部分を所定領域に引き入れる引入ステップと、引入ステップで所定領域に引き入れられた第二の線材を巻くことでコイルの一部を形成する第二コイル形成ステップと、を備える、コイルの製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの製造方法であって、
第一の線材を巻くことで前記コイルの一部を形成する第一コイル形成ステップと、
前記第一の線材の一部を、前記コイル及び該コイルの内部空間からなる領域が該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外に引き出す引出ステップと、
前記引出ステップで引き出された前記第一の線材の一部を、前記所定領域の外において第二の線材と接続する接続ステップと、
前記第二の線材のうち少なくとも前記第一の線材と接続された接続部を前記所定領域の外に位置させたまま、該第二の線材のうち少なくとも前記接続部を除く部分を前記所定領域に引き入れる引入ステップと、
前記引入ステップで前記所定領域に引き入れられた前記第二の線材を巻くことで前記コイルの一部を形成する第二コイル形成ステップと、
を備える、コイルの製造方法。
【請求項2】
前記引出ステップでは、線材を所定の経路に沿うようにガイド可能なガイド部に沿って、前記第一の線材の一部が引き出される、
請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項3】
前記引出ステップでは、前記コイルの層が所定の高さに達した位置で、前記第一の線材の一部を前記所定領域の外に引き出す、
請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項4】
前記引出ステップでは、前記第一の線材の巻き付けが前記コイルの巻軸方向におけるいずれかの端に達した位置で、前記第一の線材の一部を前記所定領域の外に引き出す、
請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項5】
前記所定長は、前記コイルによって発生する磁界の強さが少なくとも所定の基準未満まで減衰する長さである、
請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項6】
線材が巻かれることで形成されたコイルと、
前記複数の線材の一部を、前記コイル及び該コイルの内部空間からなる領域が該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外に引き出した状態で保持する1又は複数のガイド部と、
を備えるコイル装置。
【請求項7】
前記コイルは、1又は複数の接続部において互いに接続された複数の線材が巻かれることで形成されたコイルであり、
前記1又は複数のガイド部は、前記1又は複数の接続部に夫々対応し、
前記1又は複数のガイド部の夫々は、前記複数の線材のうち前記接続部を含む一部を、前記所定領域の外に引き出した状態で保持する、
請求項6に記載のコイル装置。
【請求項8】
前記ガイド部は、前記コイルの層が所定の高さに達する位置に、前記線材の一部を前記所定領域の外に引き出すための前記ガイド溝を備える、
請求項6に記載のコイル装置。
【請求項9】
前記ガイド部は、前記コイルの巻軸方向における少なくともいずれかの端に設置され、前記線材の巻き付けが前記コイルの巻軸方向における該ガイド部が設置された端に達した位置で、前記線材の一部を前記所定領域の外に引き出し、前記ガイド部によって前記線材が引き出された端に向けて、該線材を引き入れる、
請求項6に記載のコイル装置。
【請求項10】
前記所定長は、前記コイルによって発生する磁界の強さが少なくとも所定の基準未満まで減衰する長さである、
請求項6に記載のコイル装置。
【請求項11】
コイルの巻軸方向における少なくともいずれかの端に設置可能なガイド装置であって、
前記コイル及び該コイルの内部空間からなる領域が該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外に引き出された、該コイルを形成する線材の一部を保持する1又は複数の引出ガイドと、
前記引出ガイドによって引き出された前記線材の一部を前記所定領域の外に位置させたまま、該線材を前記所定領域に引き入れる、1又は複数の引入ガイドと、
を備えるガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイルの製造方法、コイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置、及びガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外径側の層で並列接続される超電導線の並列数を、内径側の層で並列接続される超電導線の並列数よりも少なくした超電導コイル、及び、外径側の超電導線の素線数を内径側の超電導線の素線数よりも少なくした超電導コイルが提案されている(特許文献1を参照)。また、粒子線のビーム照射を伴う治療のための装置であって、電磁石を備える装置が種々提案されている(特許文献2から4を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-198373号公報
【特許文献2】特開2015-226672号公報
【特許文献3】特許第6364141号公報
【特許文献4】特許第6734610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、コイルの製造において、コイルを構成する線材の途中に何らかの加工が行われることがある。しかし、線材の途中で加工が行われる場合、コイルに不具合が生じるおそれや、加工が煩雑であるという問題があった。
【0005】
本開示は、上記した問題に鑑み、コイルを構成する線材に加工が加えられる場合に生じ得る問題を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例は、コイルの製造方法であって、第一の線材を巻くことで前記コイルの一部を形成する第一コイル形成ステップと、前記第一の線材の一部を、前記コイル及び当該コイルの内部空間からなる領域が当該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外 に引き出す引出ステップと、前記引出ステップで引き出された前記第一の線材の一部を、前記所定領域の外において第二の線材と接続する接続ステップと、前記第二の線材のうち少なくとも前記第一の線材と接続された接続部を前記所定領域の外に位置させたまま、当該第二の線材のうち少なくとも前記接続部を除く部分を前記所定領域に引き入れる引入ステップと、前記引入ステップで前記所定領域に引き入れられた前記第二の線材を巻くことで前記コイルの一部を形成する第二コイル形成ステップと、を備える、コイルの製造方法である。
【0007】
また、本開示の一例は、線材が巻かれることで形成されたコイルと、前記複数の線材の一部を、前記コイル及び当該コイルの内部空間からなる領域が当該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外に引き出した状態で保持する1又は複数のガイド部と、を備えるコイル装置である。
【0008】
また、本開示の一例は、上記コイル装置と、前記コイル装置のコイル内部に設けられた磁極と、を備える電磁石装置である。
【0009】
また、本開示の一例は、上記電磁石装置を複数備え、荷電粒子ビームの偏向を可能とした偏向電磁石装置である。
【0010】
また、本開示の一例は、コイルの巻軸方向における少なくともいずれかの端に設置可能なガイド装置であって、前記コイル及び当該コイルの内部空間からなる領域が当該コイルの巻軸の両方向に所定長延伸された領域である所定領域の外に引き出された、当該コイルを形成する線材の一部を保持する1又は複数の引出ガイドと、前記引出ガイドによって引き出された前記線材の一部を前記所定領域の外に位置させたまま、当該線材を前記所定領域に引き入れる、1又は複数の引入ガイドと、を備えるガイド装置である。
【0011】
本開示は、情報処理装置、システム、コンピューターによって実行される方法又はコンピューターに実行させるプログラムとして把握することが可能である。また、本開示は、そのようなプログラムをコンピューターその他の装置、機械等が読み取り可能な記録媒体に記録したものとしても把握できる。ここで、コンピューター等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積し、コンピューター等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、コイルを構成する線材に加工が加えられる場合に生じ得る問題を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係るコイルの製造に用いられる設備の一例の概要を示す図である。
【
図2】実施形態に係るコイルの線材が積層されて巻き付けられる様子を示す断面図である。
【
図3】実施形態に係るコイルの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態における所定領域の概要を示す図である。
【
図5】実施形態の位置合せガイド溝において引出線材の一部と追加線材の一部とが重ねて設置された様子を示す図である。
【
図6】実施形態に係る電磁石装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、コイルの製造において、コイルを構成する線材の途中に何らかの加工(例えば、線材の接続)が行われることがある。しかし、線材の途中で加工が行われた場合、コイルの用途やコイルに求められる精度によっては、不具合が生じ得る。例えば、高磁場を発生させるコイルでは、線材の加工箇所(例えば、接続部)はコイル自身が発生させた磁場によって損傷する可能性があった。また、線材の加工についても、コイルを作成する途中で高い精度で加工(例えば、線材の繋ぎ合わせ)を行うことは煩雑であった。
【0015】
以下に説明する実施形態は、上記説明した従来の技術における課題の少なくとも1つ以上を解決するものである。但し、本開示に係る技術を採用する実施形態は、上記説明した従来の技術における課題の少なくとも一部を解決するものであればよく、課題の全てを解決するものでなくてもよい。
【0016】
以下、本開示に係るコイルの製造方法、コイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置、及びガイド装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。但し、以下に説明する実施の形態は、実施形態を例示するものであって、本開示に係るコイルの製造方法、コイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置、及びガイド装置を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。実施にあたっては、実施の態様に応じた具体的構成が適宜採用され、また、種々の改良や変形が行われてよい。
【0017】
本実施形態では、本開示に係る技術を、放射線(光子線又は粒子線)のビーム照射を行なって患者を治療するための治療システムにおいてビームを偏向させるために用いられるコイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置及びガイド装置、並びにこれらの製造方法として実施した場合の実施の形態について説明する。但し、本開示に係る技術は、コイルの製造方法、コイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置、及びガイド装置のために広く用いることが可能であり、本開示の適用対象は、実施形態において示した例に限定されない。
【0018】
<コイルの製造方法>
図1は、本実施形態に係るコイル1の製造に用いられる設備の一例の概要を示す図である。本実施形態に係るコイル1の製造設備は、線材繰出部2及び基材設置部3を備える。そして、本実施形態では、基材設置部3に設置された基材10(巻枠)が回転することで線材11が基材10に巻き付けられ、コイル1が製造される。なお、コイル1に用いられる線材11の材質は限定されない。
【0019】
線材繰出部2は、コイル1に用いられるための線材11が繰り出される装置である。本実施形態に係る線材繰出部2は、線材11のロールを軸受することでロールを回転させて線材11を引出し可能とするためのローラー軸支部21と、繰り出される線材11をコイル1の基材10にガイドするガイドローラー部22とを有する。但し、線材繰出部2は、線材11を繰り出すことが可能な構成であればよく、その具体的な構成は、本実施形態における例示に限定されない。
【0020】
基材設置部3は、線材11が巻き付けられる基材10を回転可能に軸受する基材軸支部31を有する。なお、基材10及び基材10を用いて形成されるコイルは、円筒状に限定されず、長方形、台形、平行四辺形、楕円形等、様々な形状を有してよい。
図1を参照して把握される通り、本実施形態における基材10及びコイル1は、コイル巻軸8の方向から見て長方形状を有する。これは、本実施形態において例示するコイル1が、ビームを偏向させるための磁界を形成するためのコイルであり、ビームを所望の方向に変更させるための形状を有しているためである。
【0021】
図2は、本実施形態に係るコイル1の線材11が積層されて巻き付けられる様子を示す断面図である。ガイドローラー部22は、
図1の奥行/手前方向、即ち
図2の左右方向に移動することで、線材11が基材10に巻き付けられる位置(コイル巻軸8の方向における位置)を調整する。線材11の巻き付け位置は、コイル巻軸8の方向における一端から他端に向けて線材11が順に詰め込まれるように変更され、線材11の巻き付け位置がコイル巻軸8の方向における端に達すると、コイル1は層を1段積層し、再び他端に向けて巻き付けられる。
【0022】
また、本実施形態において、基材10におけるコイル巻軸8の方向における一方の端(
図2に示す例では、左側の端)には、当該端においてコイル1を形成する線材を位置決めするためのフランジ5が設けられている。また、基材10におけるコイル巻軸8の方向における他方の端(
図2に示す例では、右側の端)には、ガイド溝41を有するガイド装置4が設けられている。なお、ガイド装置4は、当該端においてコイル1を形成する線材を位置決めするフランジの役割を兼ねている。
【0023】
図3は、本実施形態に係るコイル1の製造工程の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るコイル1の製造工程は、作業者によって線材11のロールが線材繰出部2にセットされ、線材11がコイル1の基材10まで引き込まれて開始される。
【0024】
ステップS1では、現在線材繰出部2にセットされている線材11が巻かれる(coil)ことで、コイル1の一部が形成される。作業者は、線材繰出部2にセットされて線材繰出部2から繰り出される線材11を基材10に巻き付けることで、コイル1を形成していく。ここで、コイル1がコイル巻軸8の方向において前後しながら積層されていくことは、上記説明した通りである。その後、処理はステップS2へ進む。
【0025】
ステップS2では、コイル1が完成したか否かが判定される。コイル1が完成した(例えば、コイル1の完成状態として定められた積層の数、積層の高さ、又は巻き数に達した)と判定された場合、本フローチャートに示された処理は終了する。一方、コイル1が完成していない場合、処理はステップS3へ進む。
【0026】
ステップS3では、線材11がコイル1から引き出される。ステップS1で巻かれた線材11の一部は、コイル1の層が所定の高さに達し、且つ線材11の巻き付けがコイル巻軸8の方向におけるいずれかの端(本実施形態では、ガイド装置4が設けられている端)に達した位置で、所定の経路に沿うようにガイド可能なガイド溝41(ガイド部)に沿って、所定領域9の外に引き出される(
図2を参照)。即ち、本実施形態では、線材11は、ガイド装置4に設けられたガイド溝41に達したところで、ガイド溝41に沿って引き出される。なお、本実施形態では、コイル1の層が所定の高さに達したことを条件の1つとして線材11の引き出しが行われる例を説明するが、線材11の引き出しが行われる条件は、コイル1の層が所定の高さ(層の変わり目)に達したことに限定されない。線材11の引き出しは、任意の1又は複数の条件に基づいて行われてよく、例えば、現在線材繰出部2にセットされている線材11の残りの長さが所定の長さ未満となったことが、線材11の引き出しが行われる条件の少なくとも1つであってよい。
【0027】
図4は、本実施形態における所定領域9の概要を示す図である。本実施形態において、所定領域9とは、コイル1及びコイル1の内部空間からなる領域がコイル巻軸8の両方向に所定長91延伸された領域である。そして、本実施形態において、所定長91は、コイル1によって発生する磁界の強さが少なくとも所定の基準未満まで減衰する長さである。但し、ここで採用される所定長91は本実施形態における例示に限定されない。例えば、所定長91として無限長が採用されることで、所定領域9は、コイル1及びコイル1の内部空間からなる領域がコイル巻軸8の両方向に無限長延伸された領域として定義されてもよい。線材11の一部が所定領域9の外に引き出されると、処理はステップS4へ進む。
【0028】
ステップS4では、線材繰出部2にセットされている線材11が交換される。即ち、ステップS3で引き出された線材11(引出線材11a。
図5を参照して後述する。)のロールは、線材繰出部2から外され、線材繰出部2には、新たな線材11(追加線材11b
図5を参照して後述する。)のロールがセットされる。その後、処理はステップS5へ進む。
【0029】
ステップS5では、ステップS3で引き出された引出線材11aの端部とステップS4でセットされた新たな追加線材11bの端部とが、ガイド溝41のうち2本の線材11を重ねて設置可能な広さを有する位置合せガイド溝41b(
図5を参照して後述する。)において、線材11長手方向に沿って重ねて設置される。
【0030】
図5は、本実施形態の位置合せガイド溝41bにおいて引出線材11aの一部と追加線材11bの一部とが重ねて設置された様子を示す図である。図中の一点鎖線で示された範囲は、ガイド装置4の一部を示している。ガイド溝41は、引出ガイド(引出ガイド溝41a)、位置合せガイド(位置合せガイド溝41b)、及び引入ガイド(引入ガイド溝41c)を有する。引出ガイド溝41aは、所定領域9の外に引き出された引出線材11aの一部を保持する。位置合せガイド溝41bは、引出ガイド溝41aによって引き出された引出線材11aの一部を、所定領域9の外において当該引出線材11aとは異なる追加線材11bの一部と重ねた状態で保持する。このため、作業者は、引出線材11aが位置合せガイド溝41bまで引き出されたところで、位置合せガイド溝41bの突き当たり終端41eに合わせて引出線材11aを切断する。なお、本実施形態における位置合せガイドは、2本の線材11を線材11長手方向に沿って重ねて設置可能な広さを有する位置合せガイド溝41bとなっており、複数の線材11は、位置合せガイド溝41bに重ねて設置された状態に位置合わせされる。即ち、本実施形態において、引出ガイド溝41aは引出線材11aに適合する幅を有し、引入ガイド溝41cは追加線材11bに適合する幅を有し、位置合せガイド溝41bは、引出ガイド溝41a又は引入ガイド溝41cよりも広い、引出線材11aと追加線材11bとを重ねた幅(引出線材11aと追加線材11bとが同じ太さの線材である場合、当該線材2本分に適合する幅)を有する。位置合わせが完了すると、処理はステップS6へ進む。
【0031】
ステップS6では、ステップS3で引き出されてステップS5で位置合せガイド溝41bに重ねて設置された引出線材11aの一部と追加線材11bの一部とが、所定領域9の外において互いに接続される。なお、本実施形態では、はんだ付けによる接続が採用される。但し、具体的な接続方法ははんだ付けに限定されない。例えば、溶接による接続、又は焼結体を用いた接続が採用されてもよい。その後、処理はステップS7へ進む。
【0032】
ステップS7では、追加線材11bのうち少なくとも引出線材11aと位置合せガイドの箇所で接続された接続部11c(
図5を参照。)を所定領域9の外に位置させたまま、追加線材11bのうち少なくとも接続部11cを除く部分が所定領域9に引き入れられる。この際、本実施形態では、上述の通りコイル巻軸8の方向における一端にガイド装置4が設置されているため、追加線材11bは、コイル巻軸8の方向における両端のうち、ステップS3で引出線材11aが引き出された端と同じ端に向けて引き入れられる。このため、コイル1の作成は、引出線材11aが引き出された位置から、追加線材11bを用いて再開することが出来る。その後、処理はステップS1へ戻る。
【0033】
即ち、本フローチャートに示された処理では、ステップS4で新たにセットされた追加線材11bが、ステップS1において新たな線材11として巻かれることで、コイル1の続きが形成される。そして、ステップS1からステップS7の処理は、ステップS2においてコイル1が完成したと判定されるまで、繰り返し実行される。
【0034】
<電磁石装置の構成>
図6は、本実施形態に係る電磁石装置100の構成の一例を示す図である。本実施形態に係る電磁石装置100は、コイル1及びガイド装置4を有するコイル装置と、コイル1内部に設けられた磁極(図示は省略する。)と、を備える。
【0035】
コイル1は、1又は複数の位置合せガイド溝41bにおいて接続部11cで互いに接続された複数の線材11が巻かれることで形成されたコイルである。なお、
図6を参照して把握される通り、本開示に係る技術を適用可能なコイル1の形状は、円筒状に限定されない。
【0036】
ガイド装置4は、1又は複数の接続部11cに夫々対応する1又は複数のガイド部(本実施形態では、5本のガイド溝41-1から41-5)を備える。本実施形態において、ガイド装置4は、コイル巻軸8の方向における一方の端に設置され、線材11の巻き付けがコイル巻軸8の方向における当該ガイド部が設置された端に達した位置で、線材11の一部を所定領域9の外に引き出し、ガイド部によって線材11が引き出された端に向けて、線材11を引き入れる。但し、ガイド装置4は、コイル巻軸8の方向における少なくともいずれかの端に設置されていればよく、例えば、両方の端に設置されていてもよい。
【0037】
なお、本実施形態では、ガイド部としてガイド溝41が備えられた板状のガイド装置4を例示し、
図6に示された例では、5本のガイド溝41-1から41-5が設けられたガイド装置4が例示されるが、ガイド装置4の具体的な形状は、本実施形態における例示に限定されない。例えば、ガイド部は1つのみ設けられてもよいし、その他の数設けられてもよい。また、ガイド装置4の形状は全体として板状でなくてもよいし、線材11をガイドするガイド溝41に代えて、ガイド用のパイプ等が採用されてもよい。
【0038】
本実施形態において、ガイド部は、引出線材11aと追加線材11bとの接続部11cを含む線材11の一部を、所定の経路に沿うようにガイドすることでコイル巻軸8の方向と異なる方向(例えば、コイル巻軸8と略直交する平面に沿った方向。コイル1を巻く方向の水平方向。)に引き出し、所定領域9の外に引き出した状態で保持する。上述の通り、本実施形態において、所定領域9とは、コイル1及びコイル1の内部空間からなる領域がコイル1の巻軸8の両方向に所定長91延伸された領域であり、所定長91は、コイル1によって発生する磁界の強さが少なくとも所定の基準未満まで減衰する長さである。
【0039】
上述の通り、
図6に例示したガイド装置4は、5本のガイド溝41-1から41-5を有する。より詳細に説明すると、
図6に例示したガイド装置4は、コイル1の層が第一の高さに達する位置に設けられた、線材11の一部を所定領域9の外に引き出すための第一のガイド溝41-1と、コイル1の層が第二の高さに達する位置に設けられた、線材11の一部を所定領域9の外に引き出すための第二のガイド溝41-2と、コイル1の層が第三の高さに達する位置に設けられた線材11の一部を所定領域9の外に引き出すための第三のガイド溝41-3と、コイル1の層が第四の高さに達する位置に設けられた、線材11の一部を所定領域9の外に引き出すための第四のガイド溝41-4と、コイル1の層が第五の高さに達する位置に設けられた、線材11の一部を所定領域9の外に引き出すための第五のガイド溝41-5と、を備える。ここで、これらのガイド溝41-1から41-5の夫々が、引出ガイド溝41a、位置合せガイド溝41b、及び引入ガイド溝41cを有することは、
図5を参照して上述したとおりである。
【0040】
また、ガイド装置4は、基材10にコイル1が巻かれていない状態で最初の線材11を引き入れるための引入部42と、基材10にコイル1が巻き終わった際に最後の線材11をコイル1外に引き出すための引出部43と、を更に備えてもよい。このような引入部42及び引出部43を備えることで、コイル1を作成する際の最初の線材11を正しい位置に引き入れ、コイル1完成時の最後の線材11を正しい位置から引き出すことが容易となる。入部42及び引出部43も、ガイド部と同様、溝状であってもよいし、パイプ状等のその他の形状を有していてもよい。
【0041】
<効果>
上記説明した実施形態によれば、途中で線材11が接続されたコイル1を製造することにより、線材11の資源を有効活用し、コイル製造のコストを抑制することが可能となる。また、コイル1から一定距離以上離れた比較的磁場の弱い場所に接続部11cを位置させることで、線材11が途中で接続された場合に生じ得る、線材11の接続部11cの損傷を抑制することが可能となる。更に、ガイド溝41を利用することで、線材11を繋ぎ合わせる作業を高い精度で容易に実施することが可能となる。
【0042】
<バリエーション>
本実施形態に係るコイル装置及び電磁石装置100の用途は限定されないが、上記説明した本実施形態に係る電磁石装置100は、一例として、荷電粒子ビームの偏向を行うための偏向電磁石装置として構成することが可能である。また、このような偏向電磁石装置は、電磁石装置100を複数備えるものであってよい。
【0043】
偏向電磁石装置において、1組の電磁石装置からなる超電導コイル対は、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されてよい。超電導コイル対は、荷電粒子ビームの進行方向に直交する方向(荷電粒子ビームの進行方向をX軸とした場合、Z軸であり、コイル1の巻軸に略一致する。)に磁場が向いた有効磁場領域を生成するよう構成されてよい。また、偏向電磁石装置は、1の荷電粒子ビームの経路を挟むように配置される超電動コイル対を複数備えるものであってもよい。即ち、本実施形態に係る電磁石装置100は、例えば、特許文献3又は4に開示された荷電粒子ビーム照射装置において用いられてよい。
【0044】
<その他のバリエーション>
上記説明した実施形態では、コイル1から引き出された線材が追加線材に接続される(即ち、線材が継ぎ足される)例を挙げて説明したが、コイルから引き出された線材に対して施される加工は、他の線材との接続に限定されない。例えば、コイルから引き出された線材に対して線材の補修(例えば、超伝導線の被覆がはがれた箇所にカプトンテープを巻く)等の加工が行われるものであってもよい。即ち、本開示に係るコイルの製造方法、コイル装置、電磁石装置、偏向電磁石装置、及びガイド装置は、1の線材が用いられるコイルについても適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 コイル
2 線材繰出部
3 基材設置部
4 ガイド装置