(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145484
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ロールイン用油脂組成物、およびロールイン用油脂組成物を含有するペストリー
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20241004BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20241004BHJP
A21D 13/16 20170101ALI20241004BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D10/00
A21D13/16
A21D2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057856
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三平 浩人
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DG05
4B026DK01
4B026DK05
4B026DL01
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B032DB13
4B032DE05
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK10
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK54
4B032DK70
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得ることのできるロールイン用油脂組成物を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、レシチンを3.0~10.0質量%含有するロールイン用油脂組成物を提供する。本発明のロールイン用油脂組成物によれば、ボリューム感のある良好な浮きと焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、サクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチンを3.0~10.0質量%含有するロールイン用油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のロールイン用油脂組成物と、ペストリー用穀粉生地が層状に配置された多層構造を有するペストリー生地。
【請求項3】
請求項2に記載のペストリー生地を焼成してなるペストリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層構造を有するペストリー製造時のペストリー用穀粉生地に対して使用されるロールイン用油脂組成物、およびこれを用いたペストリー生地およびペストリーに関する。
【背景技術】
【0002】
パイ、デニッシュ、クロワッサンに代表されるペストリーとは、一般のパンとは異なり薄いペストリー用穀粉生地の膜から形成される多層構造を有するベーカリー製品である。ペストリーの製造工程では、まず、小麦粉、砂糖、食塩、イースト、水などを練り込み用油脂組成物とともに捏和してペストリー用穀粉生地を製造する。製造したペストリー用穀粉生地にロールイン用油脂組成物を乗せ、その上にペストリー用穀粉生地を折り返してロールイン用油脂組成物を挟み込んだ後、圧延と折りたたみの操作を繰り返すことで、ロールイン用油脂とペストリー用穀粉生地の積層構造を形成させる。この多層構造を有するものをペストリー生地といい、これを焼成、または発酵、焼成することによりペストリーが得られる。ペストリーの焼成工程では、ペストリー用穀粉生地の間に挟み込まれた薄い油脂層が急激に溶解し、ペストリー生地中の水分が膨張して生じた水蒸気をペストリー用穀粉生地部分が保持することで、ペストリー用穀粉生地1枚1枚が大きく浮き上がり空隙構造が形成される。製造されたペストリーは、浮きに優れボリューム感があり、ペストリー特有のサクサクとした歯切れが良い食感であることを特徴としている。
【0003】
ペストリーは「浮きのばらつき」と呼ばれる現象により、焼成品の歩留まりが低下してしまうことがある。浮きのばらつきとは、焼成中にペストリー生地が大きく浮き上がることで得られた良好なボリュームのペストリーに比べて、焼成中のペストリー生地の浮き上がりが小さくボリュームが劣ったペストリーが一定頻度で生じる現象を指す。ボリュームが劣ったペストリーは外観不良品として商品価値が損なわれるため、焼成品の歩留まりが低下する。また、ペストリーは「焼き縮み」と呼ばれる現象により、反りや縮みが生じた不均一な形状のペストリーが生じることがある。焼き縮みとは、分割後のペストリー生地の重量に差異がない場合であっても、ペストリー生地が焼成中に大きく収縮し、分割時のサイズよりも焼成品のサイズが大きく縮んでしまう現象を指す。反りや縮みが生じた不均一な形状のペストリーは外観不良品として商品価値が損なわれる。
【0004】
浮きのばらつきを抑制するための方法として、特許文献1には、各種乳化剤とアスコルビン酸及び/又はその塩を含んだ練り込み用油脂組成物を使用する方法が記載されている。
焼き縮みを抑制するための方法として、特許文献2には、生地中にプロテアーゼを含有させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-174992号公報
【特許文献2】特開2017-70226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1の方法では、焼き縮みが発生しやすく、ペストリーが外観不良となりやすい。また、特許文献2の方法では、ペストリーの浮きのばらつきを抑制することができない。以上のように、ペストリーに関わる既存の改善方法は、焼成品の浮きのばらつき抑制、焼成品の焼き縮み抑制、ボリューム感のある良好な浮き、サクサクとした歯切れの良い食感に関する全てを満たすものではない。そのため、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを製造する方法が求められている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得ることのできるロールイン用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ロールイン油脂組成物中のレシチンの含有量を特定の割合とすることにより、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得ることのできるロールイン用油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔3〕である。
〔1〕レシチンを3.0~10.0質量%含有するロールイン用油脂組成物。
〔2〕〔1〕に記載のロールイン用油脂組成物と、ペストリー用穀粉生地が層状に配置された多層構造を有するペストリー生地。
〔3〕〔2〕に記載のペストリー生地を焼成してなるペストリー。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得ることのできるロールイン用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のロールイン用油脂組成物はロールイン油脂組成物中にレシチンを3.0~10.0質量%含有することを特徴とするものである。以下、本発明に係るロールイン用油脂組成物の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
〔油脂〕
本発明のロールイン用油脂組成物には、食用に適する油脂が使用できる。具体的には、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、コメ油、バター、バターオイル等の動植物油脂、およびこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油等が挙げられ、これらの群から選ばれる1種類以上を使用できる。
【0013】
ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感という観点から、本発明のロールイン用油脂組成物における上記油脂の含有量は50.0~97.0質量%であり、下限値として好ましくは70.0質量%以上であり、上限値として好ましくは95.0質量%以下であり、より好ましくは90.0質量%以下である。
【0014】
〔レシチン〕
本発明のロールイン用油脂組成物は、レシチンを3~10質量%含有する。レシチンは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等を含むリン脂質含有混合物であり、大豆、菜種、ヒマワリ、紅花、卵黄から得られるレシチンが挙げられる。上記レシチンは、天然由来の未精製レシチン(クルードレシチン)、クルードレシチンを高純度に精製したレシチン(精製レシチン)の何れでもよく、これらのレシチンの中から選ばれる1種類以上を使用できるが、好ましくはクルードレシチンである。
レシチンの市販品としては、例えば、日清オイリオグループ株式会社製の商品名「日清レシチンDX」、株式会社J-オイルミルズ製の商品名「レシチンFA」、キユーピー株式会社製の商品名「卵黄レシチンPL-30S」などが挙げられる。
【0015】
焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みの抑制という観点から、レシチン中の酵素分解レシチン(リゾリン脂質)の含有量が少ない方が好ましい。例えば、レシチン中の酵素分解レシチンの含有量は20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。レシチン中の酵素分解レシチンの含有量が少ない場合、本発明の効果を一層発揮することができる。
【0016】
ペストリー用穀粉生地を用いて製造されたペストリーには、サクサクとした歯切れの良い食感が求められている。サクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得るために、ペストリー用穀粉生地を製造する際のミキシング時間は通常のパン用穀粉生地を製造する際のミキシング時間よりも短い。ミキシング過程ではグリアジンとグルテニンの2種類のタンパク質が相互作用することでグルテンの網状構造が形成されることから、通常のパン用穀粉生地に比べてペストリー用穀粉生地のグルテンの網状構造は均質でないことが推察される。このペストリー用穀粉生地のグルテンの網状構造の不均質さが浮きのばらつきと焼き縮みを発生させる要因の1つだと考えられる。
レシチンとグルテンはトリメチルアンモニウム基、アミノ基、リン酸基などを結合基とする静電的あるいは共有的結合により複合体を形成し、グルテンの網状構造の形成を促進する。その結果、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制することができる。
しかし、レシチンを食用油脂に分散させずにペストリー用穀粉生地に直接添加した場合や、練り込み用油脂組成物中にレシチンを含有させた場合のように、ミキシング段階からペストリー用穀粉生地全体でレシチンによるグルテンの網状構造の形成が促進されると、ペストリー用穀粉生地の弾力性が変化しやすく、焼成品の焼き縮みとペストリーの歯切れの悪化が生じやすいという問題がある。
一方、本発明のように、ロールイン用油脂組成物中にレシチンを含有させる場合、圧延と折り畳み操作の段階からロールイン用油脂組成物とペストリー用穀粉生地の界面近傍でのみレシチンによるグルテンの網状構造の形成効果が働くため、ペストリー用穀粉生地の弾力性が変化しにくい。また、ロールイン用油脂組成物とペストリー用穀粉生地の界面近傍でレシチンによるグルテンの網状構造の形成効果が働くことで、ペストリー生地中の水分が膨張して生じた水蒸気を保持する力が向上し、ペストリーの浮きとサクサクとした歯切れを向上することができる。その結果、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制し、ボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感という本発明の効果を発揮したペストリーを製造することができる。
【0017】
本発明のロールイン用油脂組成物中のレシチン含量は3.0~10.0質量%であり、好ましくは4.0質量%以上、10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以上、8.0質量%以下である。レシチン含量が3.0質量%未満である場合はレシチンによるグルテンの網状構造の形成効果が十分でなく、本発明の効果を得ることができない。一方、レシチン含量が10.0質量%を超える場合は添加量に見合った本発明の効果を得ることができない。
【0018】
〔その他の成分〕
本発明のロールイン用油脂組成物には、その他の成分として上記以外に、油溶性成分、水、水溶性成分を配合してもよい。その他の成分はロールイン用油脂組成物中1~17質量%が好ましい。その他の成分としては、マーガリン等の油脂組成物に一般的に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、油溶性成分として、乳化剤、油溶性、酸化防止剤、動植物蛋白質、油溶性フレーバー等、水溶性成分として、乳、乳製品、澱粉、糖類、塩類、増粘多糖類、酸味料、酵素、pH調整剤等の安定剤、香辛料、呈味素材、水溶性酸化防止剤、水溶性フレーバー等が使用できる。
【0019】
〔ロールイン用油脂組成物〕
本発明のロールイン用油脂組成物は、上記レシチンをロールイン油脂組成物中に3.0~10.0質量%含有することを特徴とするものであり、層状膨化構造を有するペストリーに利用するものである。本発明のロールイン用油脂組成物によれば、上述したとおり、焼成品の浮きのばらつきと焼き縮みを抑制しボリューム感のある良好な浮きとサクサクとした歯切れの良い食感を有したペストリーを得ることができるロールイン用油脂組成物を提供できる。
【0020】
ロールイン用油脂組成物は、水および水溶性成分からなる水相を実質的に含有しない形態(水相の含有量が0.5質量%以下)、あるいは水相を含有する形態いずれでもかまない。水相を含有する形態としては、油中水型、水中油型等の形態が挙げられる。ロールイン用油脂組成物の伸展性の観点から油中水型とすることが好ましい。
ロールイン油脂組成物の伸展性、ボリューム感のある良好な浮き、サクサクとした歯切れの良い食感という観点から、本発明のロールイン用油脂組成物における水の含有量は4.0質量~20質量%が好ましく、下限値として好ましくは7.0質量%以上であり、上限値として好ましくは17.0質量%以下である。
【0021】
ロールイン用油脂組成物の製造方法は、特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、水相を含有する形態のものであれば、上記の油脂組成物を含有する油相と水相とを、適宜に加熱混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和することにより得ることができる。また、水相を含有しない形態のものであれば、上記の油脂組成物を含有する油相を加熱後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し、必要に応じてテンパリングすることにより得ることができる。
【0022】
ロールイン用油脂組成物の形状は、特に制限されないが、例えば、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状等が挙げられる。ペストリーの製造に使用する際に、伸展と折りたたみの操作に利用しやすいという観点から、シート状が好ましい。シート状とした場合のサイズとしては、特に制限されず、ペストリーの製造設備に応じて長さや幅、厚みなど適宜調整することができる。
【0023】
〔ロールイン用油脂組成物を含有するペストリー生地〕
本発明のペストリー生地は、本発明のロールイン用油脂組成物とペストリー用穀粉生地が層状に配置された多層構造を有する。
ペストリー用穀粉生地におけるロールイン用油脂組成物の含有量は、焼成品の種類に応じて適宜設定されるが、例えば、ペストリー用穀粉生地に配合される穀粉100質量部に対して、好ましくは20~120質量部であり、より好ましくは20~100質量部である。
【0024】
ペストリー用穀粉生地に使用する穀粉としては、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が使用できる。ペストリー用穀粉生地には、穀粉以外の他、通常、ベーカリー製品に使用される原料を配合してもよい。穀粉以外の原料としては、例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、澱粉、食塩、乳化剤、乳化起泡剤、チーズ、生クリーム、合成クリーム、ヨーグルト、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエー、カゼイン、牛乳、濃縮乳、合成乳、可塑性油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0025】
ロールイン用油脂組成物を含有するペストリー生地の製造方法は、特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、小麦粉、砂糖、食塩、イースト、水などを練り込み用油脂組成物とともに捏和して製造したペストリー用穀粉生地の間に、シート状に成形された本発明のロールイン用油脂組成物を挟み込む。その後、伸展と折りたたみを繰り返すことによって、ペストリー用穀粉生地とロールイン用油脂組成物の薄い層を何層にも作り上げることで得ることができる。
【0026】
〔ペストリー生地を焼成してなるペストリー〕
本発明のペストリーは、層状膨化構造を形成したベーカリー製品であり、上記ロールイン用油脂組成物を含有することを特徴とする。例えば、パイ、デニッシュ、クロワッサン等が挙げられる。ペストリーの製造方法は、特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、ペストリー生地を焼成、または発酵、焼成することによりペストリー生地が膨化してペストリーを得ることができる。
【実施例0027】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の配合量と配合割合は質量基準である。
【0028】
(ロールイン用油脂組成物の製造)
表1に示す配合組成のロールイン用油脂組成物をベースに以下の方法により製造した。すなわち、実施例1では、パーム油207g、パーム硬化油(融点42℃)41g、大豆硬化油(融点42℃)289g、ナタネ硬化油(融点31℃)83g、ナタネ油207gをプロペラ撹拌機にて撹拌しながら70~80℃にて加熱溶解し、モノグリセリン脂肪酸エステル(「エマルジーMP」(モノグリセリンモノ脂肪酸エステル)理研ビタミン(株))2g、大豆レシチン(「レシチンFA」(大豆レシチン)J―オイルミルズ(株))30gを溶解撹拌して油相部とした。この油相部に対し、食塩2gを水140gに溶解させた水相部を添加し、70℃に加熱しながらプロペラ撹拌機にて撹拌し、乳化した。これをコンビネーターにて急冷捏和し、レスティングチューブを通した後、シート状に成形し、シート状のロールイン用油脂組成物を得た。なお、実施例2~4、および比較例2~3は表1に示す配合割合に従って、実施例1と同様にロールイン用油脂組成物を製造した。比較例1はレシチンを添加しないこと以外は上記と同様にしてロールイン用油脂組成物を製造した。
【0029】
(ペストリー(デニッシュ)の製造)
実施例1~3、比較例1~3のロールイン用油脂組成物を用いて、ペストリーの1種であるデニッシュを製造した。ミキサーボールに、以下の<デニッシュ生地の配合>に示した全ての原料を入れ、低速3分、中高速4分ミキシングした。ペストリー用穀粉生地の捏ね上げ温度は25℃とし、-3℃の恒温庫にペストリー用穀粉生地を入れ2時間リタードを取った。強力粉100質量部に対して25質量部の割合になるように実施例および比較例で得たロールイン用油脂組成物を使用して折り込み、3つ折りを3回行い、-3℃の恒温庫で数時間寝かせてリタードを取った。リタード後、3mmまで圧延した後、9.0cm四方に分割し、33℃のホイロに50分間入れた後、210℃のオーブンで12分間焼成してデニッシュを得た。
<デニッシュ生地の配合>
強力粉 100質量部
砂糖 7質量部
食塩 1質量部
脱脂粉乳 2質量部
イーストフード 0.1質量部
イースト 5質量部
ショートニング 5質量部(「カナリヤエイト」日油(株))
全卵 5質量部
水 51質量部
ロールイン用油脂組成物 45.5質量部
【0030】
(ロールイン用油脂組成物の評価)
実施例、および比較例のロールイン用油脂組成物について、焼成品の「浮き」、焼成品の「浮きのばらつき」、焼成品の「焼き縮み」、焼成品の「食感」について以下の基準で評価した。
【0031】
<浮きの評価>
浮きの評価は、焼成後20℃で1時間冷却した焼成品の比容積をレーザー体積計(Selnac-Win VM2100A、株式会社アステックス製)で測定することにより行った。測定結果は、30個の焼成品にて測定し、その平均値とした。浮きは、以下のとおり評価した。
◎:比容積6.0以上
○:比容積5.5以上6.0未満
△:比容積5.0以上5.5未満
×:比容積5.0未満
なお、浮きの評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0032】
<浮きのばらつきの評価>
浮きのばらつきの評価は、焼成後20℃で1時間冷却した焼成品30個の比容積をレーザー体積計(Selnac-Win VM2100A、株式会社アステックス製)で測定し、比容積の平均値に対する比容積の最小値、又は最大値の差を評価して行った。浮きのばらつきは、以下のとおり評価した。
◎:比容積の平均値に対する比容積の最小値、または最大値の差が3%未満
○:比容積の平均値に対する比容積の最小値、または最大値の差が3%以上6%未満
△:比容積の平均値に対する比容積の最小値、又は最大値の差が6%以上10%未満
×:比容積の平均値に対する比容積の最小値、又は最大値の差が10%以上
なお、浮きのばらつきの評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0033】
<焼き縮みの評価>
焼き縮みの評価は、焼成後20℃で1時間冷却した焼成品について、最終圧延方向と平行の辺の長さを測定することにより行った。測定結果は30個の焼成品にて測定し、その平均値とした。カットしたペストリー生地は9.0cm四方であるため、9.0cmに近いほど焼き縮みが少ないことを示す。焼き縮みは以下の通り評価した。
◎:長さ8.5cm以上
○:長さ8.0cm以上8.5cm未満
△:長さ7.5cm以上8.0cm未満
×:長さ7.5未満
なお、焼き縮みの評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0034】
<食感>
食感の評価は、焼成後20℃で1時間冷却した焼成品の最大応力値(N)を食品物性試験機(RHEONERII、株式会社山電製)で測定することにより行った。最大応力値(N)の測定は、長さ10cmのカッター歯の付いた治具で、焼成品の短面中央部を5mm/secで切断した時の最大応力値(N)を測定した。測定結果は、30個の焼成品について測定し、その平均値とした。焼成品の食感の評価は、比較例1の最大応力値(N)を100としたものに対する相対値を以下のとおり評価した。
◎:相対値が80未満
○:相対値が80以上90未満
△:相対値が90以上100未満
×:相対値が100以上
なお、歯切れの評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0035】
【表1】
大豆レシチン:株式会社J-オイルミルズ製の商品名「レシチンFA」
卵黄レシチン:キユーピー株式会社製の商品名「卵黄レシチンPL-30S」
モノグリセリンモノ脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社製の商品名「エマルジーMP」
【0036】
表1を見ると、ロールイン用油脂組成物中のレシチン含量が3.0~10.0質量%の範囲内である実施例1~4では、浮き、浮きのばらつき、焼き縮み、食感の全てにおいて良好であるであることがわかる。一方、比較例1~3では、浮き、浮きのばらつき、焼き縮み、食感のいずれかの評価が劣ることがわかる。