(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145498
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】産業車両の報知装置
(51)【国際特許分類】
F16D 66/00 20060101AFI20241004BHJP
G01K 7/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F16D66/00 Z
G01K7/00 321J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057874
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝政
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA03
3J058AA08
3J058AA13
3J058AA17
3J058AA24
3J058AA28
3J058AA33
3J058AA37
3J058BA34
3J058BA60
3J058CA06
3J058CA17
3J058CC03
3J058DB00
3J058DB20
3J058DB21
3J058DB25
3J058FA11
3J058GA92
(57)【要約】
【課題】ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足をより適切に乗員に報知することが可能となる産業車両の報知装置を提供する。
【解決手段】産業車両の報知装置100は、ドラムブレーキに加わる油圧を取得するブレーキ油圧センサ18gと、産業車両の減速度を取得する車速センサ5aと、油圧とドラムブレーキの仕様とに基づいて、油圧に対応する制動トルクに相当するブレーキ入力を算出する入力算出部21と、減速度と産業車両の仕様とに基づいて、減速度に対応する制動トルクに相当するブレーキ出力を算出する出力算出部22と、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値とに基づいてブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かを判定すると共に、乖離条件が成立すると判定した場合にブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足が生じている旨を乗員に報知する報知制御部24と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業車両の乗員のブレーキ操作によって前記産業車両の車輪を制動する油圧式のドラムブレーキを備える産業車両の報知装置であって、
前記ドラムブレーキに加わる油圧を取得する油圧取得部と、
前記産業車両の減速度を取得する減速度取得部と、
前記油圧と前記ドラムブレーキの仕様とに基づいて、前記油圧に対応する制動トルクに相当するブレーキ入力を算出する入力算出部と、
前記減速度と前記産業車両の仕様とに基づいて、前記減速度に対応する制動トルクに相当するブレーキ出力を算出する出力算出部と、
前記ブレーキ入力と前記ブレーキ出力と所定の閾値とに基づいて前記ブレーキ入力に対する前記ブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かを判定すると共に、前記乖離条件が成立すると判定した場合に前記ブレーキ操作に対する前記ドラムブレーキの効き不足が生じている旨を前記乗員に報知する報知制御部と、を備える、産業車両の報知装置。
【請求項2】
前記ブレーキ出力を前記ブレーキ入力で除算して得られる評価値を算出する評価値算出部を備え、
前記報知制御部は、前記評価値が第1の前記閾値以下である場合に前記乖離条件が成立したと判定する、請求項1に記載の産業車両の報知装置。
【請求項3】
前記ドラムブレーキのライニング温度を取得する温度取得部を備え、
前記報知制御部は、前記ライニング温度が所定の温度閾値以上であり、且つ、前記評価値が第1の前記閾値以下である場合に、前記乖離条件が成立したと判定すると共に、前記ドラムブレーキにフェード現象が生じている旨を前記乗員に報知する、請求項2に記載の産業車両の報知装置。
【請求項4】
前記ブレーキ出力を前記ブレーキ入力で除算して得られる評価値の変化率を算出する評価値算出部と、
前記ドラムブレーキのライニング温度を取得する温度取得部と、を備え、
前記報知制御部は、前記ライニング温度が所定の温度閾値以上であり、且つ、前記評価値の変化率が第2の前記閾値以下である場合に、前記乖離条件が成立したと判定すると共に、前記ドラムブレーキにフェード現象が生じつつある旨を前記乗員に報知する、請求項1又は2に記載の産業車両の報知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両の報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラムブレーキのブレーキライニングの裏側に取り付けられた温度検知装置の検知結果に基づいて警報装置で警告音を鳴らすブレーキの異常警報装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足の例として、ドラムブレーキのフェード現象が挙げられる。ドラムブレーキのフェード現象は、ライニングが高温になって摩擦材が分解されることで発生するガスがライニング表面とドラム内面との間で膜を作り、摩擦係数が低下することで発生する。しかしながら、フェード現象の発生温度は、ライニングの材質によっては異なることがある。また、ライニングが高温になると直ちにフェード現象が発生するとも限らない。そのため、上記従来技術のようにライニングの温度だけに基づく報知では、乗員への報知を適切に行うことが難しい。
【0005】
本発明は、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足をより適切に乗員に報知することが可能となる産業車両の報知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、産業車両の乗員のブレーキ操作によって産業車両の車輪を制動する油圧式のドラムブレーキを備える産業車両の報知装置であって、ドラムブレーキに加わる油圧を取得する油圧取得部と、産業車両の減速度を取得する減速度取得部と、油圧とドラムブレーキの仕様とに基づいて、油圧に対応する制動トルクに相当するブレーキ入力を算出する入力算出部と、減速度と産業車両の仕様とに基づいて、減速度に対応する制動トルクに相当するブレーキ出力を算出する出力算出部と、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値とに基づいてブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かを判定すると共に、乖離条件が成立すると判定した場合にブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足が生じている旨を乗員に報知する報知制御部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る産業車両の報知装置では、ブレーキ入力及びブレーキ出力が算出され、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値とに基づいて、ブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かが判定される。ここで、ブレーキ入力は、ドラムブレーキに加わる油圧に対応する制動トルクに相当する。ブレーキ出力は、産業車両の減速度に対応する制動トルクに相当する。よって、乖離条件が成立する場合には、減速度に対応する制動トルクが油圧に対応する制動トルクに対して乖離しており、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足が生じている可能性が高い。したがって、乖離条件が成立すると判定した場合にブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足が生じている旨を乗員に報知することで、例えばライニングの温度だけに基づく報知と比べて、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足をより適切に乗員に報知することが可能となる。
【0008】
一実施形態において、産業車両の報知装置は、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値を算出する評価値算出部を備え、報知制御部は、評価値が第1の閾値以下である場合に乖離条件が成立したと判定してもよい。この場合、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足を、評価値と第1の閾値とを用いた比較により判定することができる。
【0009】
一実施形態において、産業車両の報知装置は、ドラムブレーキのライニング温度を取得する温度取得部を備え、報知制御部は、ライニング温度が所定の温度閾値以上であり、且つ、評価値が第1の閾値以下である場合に、乖離条件が成立したと判定すると共に、ドラムブレーキにフェード現象が生じている旨を乗員に報知してもよい。この場合、所定の温度閾値以上のライニング温度で生じているブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足を、ドラムブレーキにフェード現象が生じているとして乗員に報知することができる。
【0010】
一実施形態において、産業車両の報知装置は、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値の変化率を算出する評価値算出部と、ドラムブレーキのライニング温度を取得する温度取得部と、を備え、報知制御部は、ライニング温度が所定の温度閾値以上であり、且つ、評価値の変化率が第2の閾値以下である場合に、乖離条件が成立したと判定すると共に、ドラムブレーキにフェード現象が生じつつある旨を乗員に報知してもよい。この場合、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足が生じつつあることを、評価値の変化率と第2の閾値とを用いた比較により判定することができる。また、所定の温度閾値以上のライニング温度でブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足が生じつつあることから、これをドラムブレーキにフェード現象が生じつつあるとして乗員に報知することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足をより適切に乗員に報知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、一実施形態に係る産業車両の報知装置を備えた産業車両の一例としてのフォークリフトの側面図である。(b)は、産業車両のブレーキシステムを説明するための概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係る産業車両の報知装置の構成を例示する概略ブロック図である。
【
図4】コントローラの処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】コントローラの処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0014】
図1(a)は、一実施形態に係る産業車両の報知装置を備えた産業車両の一例としてのフォークリフトの側面図である。
図1(a)に示されるように、本実施形態に係る産業車両の報知装置を備えた産業車両は、一例として、カウンター式の電動のフォークリフト1である。フォークリフト1は、走行装置2と、この走行装置2の前側に配置され、荷物Wの揚げ降ろしを行う荷役装置3とを具備している。
【0015】
走行装置2は、車体4と、この車体4の前部に配置された左右2つの駆動輪である前輪(車輪)5と、車体4の後部に配置された左右2つの操舵輪である後輪6と、前輪5を回転させる走行モータ7と、荷役用の油圧ポンプ(図示省略)を回転駆動させる荷役モータ8と、走行モータ7及び荷役モータ8に電力を供給するバッテリ9とを有している。
【0016】
荷役装置3は、車体4の前端部に立設されたマスト10と、このマスト10にリフトブラケット11を介して取り付けられ、荷物Wが積載される1対のフォーク12と、このフォーク12を昇降させるリフトシリンダ13と、マスト10を傾動させるティルトシリンダ14とを有している。
【0017】
荷役装置3には、荷重センサ13aが設けられていてもよい。荷重センサ13aは、フォークリフト1のフォーク12に積載された荷物Wの荷重(フォークリフト1の積荷荷重)を検出する検出器である。荷重センサ13aは、例えば、リフトシリンダ13の圧力を検出する圧力センサであってもよい。荷重センサ13aは、検出したリフトシリンダ13の圧力に関する信号を後述のコントローラ20に送信する。
【0018】
図1(b)は、産業車両のブレーキシステムを説明するための概略構成図である。フォークリフト1は、ブレーキシステム15を備えている。ブレーキシステム15は、フォークリフト1の作業者(乗員)のブレーキ操作によってフォークリフト1の前輪5を制動するためのシステムである。
図1(b)に示されるように、ブレーキシステム15は、ブレーキペダル16と、マスターシリンダ17と、ドラムブレーキ18と、を有している。
【0019】
ブレーキペダル16は、作業者のブレーキ操作によって踏み込まれる踏込み部16aを含む。作業者により踏込み部16aが踏み込まれると、ブレーキペダル16が押される。
【0020】
マスターシリンダ17は、ブレーキペダル16が押されることでドラムブレーキ18を作動させるための油圧を発生させる。マスターシリンダ17は、例えば、シリンダチューブ17aと、シリンダチューブ17a内に配置されたピストン17bと、ピストン17bに固定されたピストンロッド17cと、シリンダチューブ17a内におけるピストンロッド17cの反対側に配置されたバネ17dと、を含む。ブレーキペダル16が押されると、ブレーキペダル16によってピストンロッド17cが押され、バネ17dの付勢力に抗してピストン17bが押し込まれて油圧が発生する。マスターシリンダ17で発生した油圧は作動油を介してドラムブレーキ18に伝わり、ドラムブレーキ18が作動する。これにより、前輪5が制動される。
【0021】
ドラムブレーキ18は、バックプレート18aと、ブレーキドラム18bと、一対のブレーキシュー18cと、を含む。バックプレート18aは、中央に貫通孔が形成された円盤状の金属部材であり、車体4に固定されている。
【0022】
ブレーキドラム18bは、有底円筒状の鋳造部材であり、バックプレート18a側に開口するように配置されている。ブレーキドラム18bは、前輪5の回転に伴って回転可能となるように車体4に対して取り付けられている。ブレーキドラム18bは、バックプレート18aに対して相対的に回転可能である。
【0023】
バックプレート18aには、一対のブレーキシュー18cが設けられている。ブレーキシュー18cは、側面視で半円の円弧状を呈しており、外周面がブレーキドラム18bの内周面に対向するように配置される。ブレーキシュー18cの外周面には摩擦部材であるブレーキライニング18dが貼り付けられている。ブレーキシュー18cの内周面には、ライニング温度センサ(温度取得部)18eが貼り付けられていてもよい。ライニング温度センサ18eは、ブレーキドラム18bのブレーキライニング18dの温度(ライニング温度)を検出する検出器である。ライニング温度センサ18eは、検出したライニング温度に関する信号を後述のコントローラ20に送信する。
【0024】
一対のブレーキシュー18cの一端部の間には、ホイールシリンダ18fが設けられている。ドラムブレーキ18には、例えば1つのホイールシリンダ18fが設けられている。ドラムブレーキ18を作動させる時は、マスターシリンダ17から伝わった油圧がホイールシリンダ18fの内部に導入される。ホイールシリンダ18f内のピストン(図示省略)は、ブレーキシュー18cを初期位置に戻すためのリターンスプリング(図示省略)の弾性力に抗して、一対のブレーキシュー18cをそれぞれ外側に回動させるように押圧する。これにより、ブレーキライニング18dがブレーキドラム18bの内周面に押し付けられる。
【0025】
このようなブレーキシステム15では、フォークリフト1の作業者がブレーキペダル16を踏み込むことでマスターシリンダ17で発生する油圧によって、フォークリフト1を減速及び停止させるように油圧式のドラムブレーキ18が作動する。
【0026】
産業車両の報知装置100は、フォークリフト1に搭載され、フォークリフト1を運転する作業者のブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足(以下、単に「ドラムブレーキ18の効き不足」とも記す)が生じている旨を作業者に報知するための装置である。
図2は、一実施形態に係る産業車両の報知装置の構成を例示する概略ブロック図である。
図2に示されるように、産業車両の報知装置100は、例えば、車速センサ(減速度取得部)5aと、ブレーキ油圧センサ(油圧取得部)18gと、上述のライニング温度センサ18eと、上述の荷重センサ13aと、報知部19と、コントローラ20と、を備えている。車速センサ5a、ブレーキ油圧センサ18g、ライニング温度センサ18e、荷重センサ13a、及び、報知部19は、コントローラ20に電気的に接続されている。
【0027】
車速センサ5aは、フォークリフト1の速度を検出する検出器である。車速センサ5aは、検出した速度を用いて加速度を算出するために用いられ、フォークリフト1の減速度を取得する減速度取得部として機能する。車速センサ5aとしては、例えば、走行モータ7に設けられ、走行モータ7の回転速度を検出するスピードセンサが用いられる。車速センサ5aは、検出した速度に関する信号をコントローラ20に送信する。
【0028】
ブレーキ油圧センサ18gは、ドラムブレーキ18に加わる油圧を取得する油圧取得部の一例である。ブレーキ油圧センサ18gは、例えば、ホイールシリンダ18fに設けられ、ブレーキシュー18cを動作させるホイールシリンダ18fの油圧を検出する。ブレーキ油圧センサ18gは、検出した油圧に関する信号をコントローラ20に送信する。
【0029】
報知部19は、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨を作業者に報知するための車載装置である。報知部19としては、例えば、ブザー、警告灯、ディスプレイ等が含まれる。報知部19は、ブザーの警告音、警告灯等により、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨を操作者に報知する。
【0030】
コントローラ20は、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨の報知を制御する電子制御ユニットである。コントローラ20は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する。コントローラ20では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。コントローラ20は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。
【0031】
コントローラ20は、機能的構成として、例えば、入力算出部21と、出力算出部22と、評価値算出部23と、報知制御部24と、を有している。
【0032】
入力算出部21は、ドラムブレーキ18に加わる油圧とドラムブレーキ18の仕様とに基づいて、ドラムブレーキ18に加わる油圧に対応する制動トルクに相当するブレーキ入力を算出する。ドラムブレーキ18に加わる油圧は、作業者のブレーキ操作に対応する油圧である。ここでのドラムブレーキ18に加わる油圧は、作業者がブレーキペダル16の踏込み部16aを踏み込む操作によってマスターシリンダ17で発生した油圧であり、ドラムブレーキ18のホイールシリンダ18fに伝わってブレーキ油圧センサ18gで検出された油圧Pである。ドラムブレーキ18の仕様としては、ブレーキドラム18bのドラム半径rとホイールシリンダ18fの面積Aとが挙げられる。ホイールシリンダ18fの面積Aは、ホイールシリンダ18fの直径Dに基づいて算出されてもよい。上述のドラムブレーキ18の仕様は、コントローラ20のROM等に予め記憶されていてもよい。入力算出部21は、例えば、下記式(1)に従ってブレーキ入力を算出する。
ブレーキ入力=油圧P×面積A×ドラム半径r ・・・(1)
【0033】
出力算出部22は、フォークリフト1の減速度とフォークリフト1の仕様とに基づいて、フォークリフト1の減速度に対応する制動トルクに相当するブレーキ出力を算出する。フォークリフト1の減速度dは、例えば、車速センサ5aで検出された車速に基づいて算出された加速度の減速時の値(負の値)を用いることができる。フォークリフト1の仕様としては、フォークリフト1の質量(機台質量)Mと前輪5のタイヤ半径Rとが挙げられる。質量Mには、荷物Wの荷重が含められてもよい。荷物Wの荷重は、荷重センサ13aで検出したリフトシリンダ13の圧力に基づいて、例えば予め設定された圧力と荷重との関係を用いて変換することで算出されてもよい。上述のフォークリフト1の仕様は、コントローラ20のROM等に予め記憶されていてもよい。出力算出部22は、例えば、下記式(2)に従ってブレーキ出力を算出する。
ブレーキ出力=質量M×減速度d×タイヤ半径R ・・・(2)
【0034】
評価値算出部23は、ブレーキ入力とブレーキ出力とに基づいて、ドラムブレーキ18の効き不足の有無を評価するための評価値を算出してもよい。評価値の変化率は、評価値の時間変化率のことである。評価値算出部23は、例えば、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値を算出する。評価値算出部23は、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値の変化率を算出してもよい。評価値の変化率は、種々の変化率の算出手法を用いることができる。評価値の変化率は、評価値の時間微分値であってもよいし、所定時間だけ過去の時点の評価値と最新の評価値との差分を所定時間で除算した値であってもよい。
【0035】
図3は、評価値を例示する概略図である。
図3では、横軸がライニング温度であり、縦軸が評価値であり、評価値算出部23で算出された評価値が実線の曲線L1で示されている。本実施形態では、評価値は、いわゆるブレーキ効率と等価な値とされている。ブレーキ効率は、ドラムブレーキとしての効きを表す効力係数(ブレーキファクター)を意味する。
【0036】
図3に示されるように、ここでの評価値は、ライニング温度が高くなるに従って減少する傾向を有する。評価値は、ライニング温度が所定の温度閾値Thx以上において、所定のフェード判定閾値Th1(第1の閾値)以下となる部分が存在する。
【0037】
温度閾値Thxは、ドラムブレーキ18の効き不足が高温域でのみ生じる原因か、或いは、ドラムブレーキ18の効き不足が高温域及び低温域で生じる原因か、を区別するためのライニング温度の閾値である。温度閾値Thxは、一定程度でドラムブレーキ18の制動を行ったときのライニング温度を考慮して設定することができる。温度閾値Thxは、例えば150℃~180℃程度の範囲に属する値であってもよい。
【0038】
フェード判定閾値Th1は、後述の報知制御部24がドラムブレーキ18の効き不足が生じているか否かを判定するための評価値の閾値である。ドラムブレーキ18の効き不足としては、例えば、ドラムブレーキ18のフェード現象が対象とされる。ドラムブレーキ18のフェード現象が生じているときは、ライニング温度がある程度高温となっており、ブレーキ入力に対してブレーキ出力が一定程度小さくなっている。そこで、フェード判定閾値Th1は、例えば、ライニング温度が温度閾値Thx以上において、ドラムブレーキ18のフェード現象が生じているときの評価値よりも大きい値とすることができる。フェード判定閾値Th1は、例えば、ライニング温度が常温の場合の評価値に対して所定の割合(例えば20%~40%)だけ低減された値であってもよい。ただし、ここでの「常温」は、ブレーキ試験における使用温度の常温を意味し、100℃以下の所定の温度(例えば20℃~25℃程度)とすることができる。
【0039】
また、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨を作業者に報知するために、フェード予告閾値Th2(第2の閾値)が用いられてもよい。フェード予告閾値Th2は、後述の報知制御部24がドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつあるか否かを判定するための評価値の変化率の閾値である。フェード予告閾値Th2は、例えば、試験等によって予め取得されたライニング温度ごとの摩擦係数の変化率のデータに基づいて算出された評価値の曲線における接線及びその傾きを考慮して設定することができる。
【0040】
図3の例では、ライニング温度が温度閾値Thx以上において、ライニング温度が高くなるに従って、評価値の変化率が小さくなっており、負の傾きが大きくなっている。この傾向は、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつあるときは、ライニング温度がある程度高温となっており、ブレーキ入力に対してブレーキ出力が低下する程度が拡大していることに対応する。そこで、フェード予告閾値Th2は、ライニング温度が温度閾値Thx以上の範囲における所定の評価値の変化率(曲線の傾きの値)とすることができる。フェード予告閾値Th2は、例えば、ライニング温度が温度閾値Thx以上であり、且つ、評価値がフェード判定閾値Th1となるライニング温度未満の範囲(
図3の両矢印の範囲)における曲線L1上の所定の一点における接線での評価値の変化率(一点鎖線L2の傾き)であってもよい。
【0041】
報知制御部24は、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている場合に、その旨を作業者に報知するように報知部19を制御する。報知制御部24は、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値とに基づいてブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かを判定する。
【0042】
所定の閾値は、ドラムブレーキ18の効き不足が生じているか否かの判定に用いる閾値であり、少なくとも上述のフェード判定閾値Th1を含む。所定の閾値は、上述のフェード判定閾値Th1に加えて、上述の温度閾値Thx及びフェード予告閾値Th2の少なくとも一方を含んでもよい。
【0043】
乖離条件とは、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値とを用いた条件を含み、ブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離があるときに成立する条件である。ここでの乖離条件は、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じているか否か、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつあるか否か、或いは、ドラムブレーキ18の効き不足が生じているか否か、の条件に対応する。
【0044】
報知制御部24は、ライニング温度センサ18eの検出結果に基づいて、ライニング温度を取得してもよい。報知制御部24は、例えば、ライニング温度が温度閾値Thx以上であり、且つ、評価値がフェード判定閾値Th1以下である場合に、第1の乖離条件が成立したと判定する。第1の乖離条件は、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じているか否かの条件に対応する。報知制御部24は、第1の乖離条件が成立したと判定した場合、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じている旨を作業者に報知する。報知制御部24は、例えば第1の態様で報知部19を制御することで、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じている旨を作業者に報知する。第1の態様は、作業者に直ちにフェード現象に対処することを促すような態様である。第1の態様は、例えば、赤色の警告灯、赤色の文字又は背景でドラムブレーキ18にフェード現象が生じている旨のディスプレイ表示、等であってもよい。
【0045】
報知制御部24は、ライニング温度が温度閾値Thx以上であり、且つ、評価値の変化率がフェード予告閾値Th2以下である場合に、第2の乖離条件が成立したと判定してもよい。第2の乖離条件は、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつあるか否かの条件に対応する。報知制御部24は、第2の乖離条件が成立したと判定した場合、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨を作業者に報知してもよい。
報知制御部24は、例えば第2の態様で報知部19を制御することで、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨を作業者に報知してもよい。第2の態様は、作業者にフェード現象を未然に回避する運転を促すような態様である。第2の態様は、第1の態様と比べて作業者に対する知覚的な刺激が小さい態様である。第2の態様は、例えば、黄色点滅の警告灯、黄色の文字又は背景でドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨のディスプレイ表示、等であってもよい。
【0046】
報知制御部24は、例えば、ライニング温度が温度閾値Thx未満であり、且つ、評価値がフェード判定閾値Th1以下である場合に、第3の乖離条件が成立したと判定する。第3の乖離条件は、ドラムブレーキ18の効き不足が生じているか否かの条件に対応する。ここでのドラムブレーキ18の効き不足とは、フェード現象以外の原因で生じるドラムブレーキ18の効き不足を意味する。フェード現象以外の原因とは、例えば、ブレーキドラム18b内部への異物(例えば水若しくは油等の液体、又は部品等)の侵入が挙げられる。
【0047】
報知制御部24は、第3の乖離条件が成立したと判定した場合、作業者のブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨を作業者に報知する。報知制御部24は、例えば第3の態様で報知部19を制御することで、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨を作業者に報知する。第3の態様は、ブレーキドラム18b内部への異物等の異常が発生している可能性を作業者に知らせるような態様である。第3の態様は、第2の態様と比べて作業者に対する知覚的な刺激が小さい態様である。第3の態様は、例えば、黄色点灯の警告灯、ドラムブレーキ18の点検を促す旨のディスプレイ表示、等であってもよい。
【0048】
図4は、コントローラの処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示されるフローチャートの処理は、例えば、フォークリフト1の走行中に所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0049】
S11において、産業車両の報知装置100のコントローラ20は、入力算出部21により、ブレーキ入力の算出を行う。入力算出部21は、ドラムブレーキ18に加わる油圧とドラムブレーキ18の仕様とに基づいて、例えば上述の式(1)に従ってブレーキ入力を算出する。
【0050】
S12において、コントローラ20は、出力算出部22により、ブレーキ出力の算出を行う。出力算出部22は、フォークリフト1の減速度とフォークリフト1の仕様とに基づいて、例えば上述の式(2)に従ってブレーキ出力を算出する。
【0051】
S13において、コントローラ20は、評価値算出部23により、評価値の算出を行う。評価値算出部23は、例えば、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値を算出する。
【0052】
S14において、コントローラ20は、報知制御部24により、ライニング温度の取得を行う。報知制御部24は、例えば、ライニング温度センサ18eの検出結果に基づいて、ライニング温度を取得する。
【0053】
S15において、コントローラ20は、報知制御部24により、評価値がフェード判定閾値Th1以下であるか否かの判定を行う。コントローラ20は、評価値がフェード判定閾値Th1以下であると判定した場合、S16の処理に移行する。コントローラ20は、評価値がフェード判定閾値Th1以下ではない(評価値がフェード判定閾値Th1よりも大きい)と判定した場合、
図4の処理を終了する。
【0054】
S16において、コントローラ20は、報知制御部24により、ライニング温度が温度閾値Thx以上であるか否かの判定を行う。コントローラ20は、ライニング温度が温度閾値Thx以上であると判定した場合、S17の処理に移行する。コントローラ20は、ライニング温度が温度閾値Thx以上ではない(ライニング温度が温度閾値Thx未満である)と判定した場合、S18の処理に移行する。
【0055】
S17において、コントローラ20は、報知制御部24により、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じている旨の報知を行う。報知制御部24は、例えば第1の態様で報知部19を制御することで、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じている旨を作業者に報知する。その後、コントローラ20は、
図4の処理を終了する。
【0056】
一方、S18において、コントローラ20は、報知制御部24により、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨の報知を行う。報知制御部24は、例えば第3の態様で報知部19を制御することで、ドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨を作業者に報知する。その後、コントローラ20は、
図4の処理を終了する。
【0057】
図5は、コントローラの処理の他の例を示すフローチャートである。
図5に示されるフローチャートの処理は、例えば、フォークリフト1の走行中に
図4の処理と並行して所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0058】
S21において、コントローラ20は、
図4のS11と同様にして、入力算出部21により、ブレーキ入力の算出を行う。S22において、コントローラ20は、
図4のS12と同様にして、出力算出部22により、ブレーキ出力の算出を行う。
【0059】
S23において、コントローラ20は、評価値算出部23により、評価値の変化率の算出を行う。評価値算出部23は、例えば、評価値の時間微分値等、種々の算出手法で評価値の変化率を算出することができる。
【0060】
S24において、コントローラ20は、
図4のS14と同様にして、報知制御部24により、ライニング温度の取得を行う。
【0061】
S25において、コントローラ20は、報知制御部24により、評価値の変化率がフェード予告閾値Th2以下であるか否かの判定を行う。コントローラ20は、評価値の変化率がフェード予告閾値Th2以下であると判定した場合、S26の処理に移行する。コントローラ20は、評価値の変化率がフェード予告閾値Th2以下ではない(評価値の変化率がフェード予告閾値Th2よりも大きい)と判定した場合、
図5の処理を終了する。
【0062】
S26において、コントローラ20は、報知制御部24により、ライニング温度が温度閾値Thx以上であるか否かの判定を行う。コントローラ20は、ライニング温度が温度閾値Thx以上であると判定した場合、S27の処理に移行する。コントローラ20は、ライニング温度が温度閾値Thx以上ではない(ライニング温度が温度閾値Thx未満である)と判定した場合、
図5の処理を終了する。
【0063】
S27において、コントローラ20は、報知制御部24により、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨の報知を行う。報知制御部24は、例えば第2の態様で報知部19を制御することで、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨を作業者に報知する。その後、コントローラ20は、
図5の処理を終了する。
【0064】
以上のように構成された産業車両の報知装置100によれば、ブレーキ入力及びブレーキ出力が算出され、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値(第1の閾値であるフェード判定閾値Th1及び第2の閾値であるフェード予告閾値Th2)とに基づいて、ブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離がある乖離条件(第1~第3の乖離条件)が成立するか否かが判定される。ここで、ブレーキ入力は、ドラムブレーキ18に加わる油圧に対応する制動トルクに相当する。ブレーキ出力は、フォークリフト1の減速度に対応する制動トルクに相当する。よって、乖離条件が成立する場合には、減速度に対応する制動トルクが油圧に対応する制動トルクに対して乖離しており、ブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足が生じている可能性が高い。したがって、乖離条件が成立すると判定した場合にブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足が生じている旨を作業者に報知することで、例えばライニング温度だけに基づく報知と比べて、ブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足をより適切に作業者に報知することが可能となる。
【0065】
産業車両の報知装置100は、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値を算出する評価値算出部23を備える。報知制御部24は、評価値が第1の閾値であるフェード判定閾値Th1以下である場合に第1又は第3の乖離条件が成立したと判定する。これにより、ブレーキ操作に対するドラムブレーキの効き不足を、評価値とフェード判定閾値Th1とを用いた比較により判定することができる。
【0066】
産業車両の報知装置100は、ドラムブレーキ18のライニング温度を取得するライニング温度センサ18eを備える。報知制御部24は、ライニング温度が温度閾値Thx以上であり、且つ、評価値がフェード判定閾値Th1以下である場合に、第1の乖離条件が成立したと判定する。報知制御部24は、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じている旨を作業者に報知する。これにより、温度閾値Thx以上のライニング温度で生じているブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足を、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じているとして作業者に報知することができる。
【0067】
産業車両の報知装置100は、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値の変化率を算出する評価値算出部23と、ドラムブレーキ18のライニング温度を取得するライニング温度センサ18eと、を備える。報知制御部24は、ライニング温度が温度閾値Thx以上であり、且つ、評価値の変化率が第2の閾値であるフェード予告閾値Th2以下である場合に、第2の乖離条件が成立したと判定する。報知制御部24は、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつある旨を作業者に報知する。これにより、ブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足が生じつつあることを、評価値の変化率とフェード予告閾値Th2とを用いた比較により判定することができる。また、温度閾値Thx以上のライニング温度でブレーキ操作に対するドラムブレーキ18の効き不足が生じつつあることから、これをドラムブレーキ18にフェード現象が生じつつあるとして作業者に報知することができる。
【0068】
ちなみに、ドラムブレーキ18のフェード現象は、ブレーキライニング18dが高温になって摩擦材が分解されることで発生するガスがブレーキライニング18dの表面とブレーキドラム18bの内面との間で膜を作り、摩擦係数が低下することで発生する。しかしながら、フェード現象の発生温度は、ブレーキライニング18dの材質によっては異なることがある。また、ブレーキライニング18dが高温になると直ちにフェード現象が発生するとも限らない。この点、産業車両の報知装置100によれば、ドラムブレーキ18にフェード現象が生じていることを判定するための条件として、作業者のブレーキ踏力に対応するブレーキ入力をホイールシリンダ18fの油圧Pの検出値から算出し、このブレーキ入力を乖離条件の判定に用いることで、ライニング温度だけによる代用特性ではなくフェード現象をより精度良く捉えることができ、より正確かつ適切な判定が可能となる。その結果、例えばライニング温度だけに基づく判定と比べて、フェード現象の過検出及び報知の誤動作を抑制することができる。
【0069】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0070】
上記実施形態では、一例として、フォークリフト1が平坦路を走行する想定で勾配を考慮していないが、勾配を考慮してもよい。例えば、コントローラ20は、勾配センサの検出結果に基づいて、フォークリフト1が下り坂を走行している場合にフェード判定閾値及びフェード予告閾値を変更してもよい。報知制御部24は、フォークリフト1が下り坂を走行している場合に、フェード判定閾値Th1よりも大きいフェード判定閾値を用いて乖離条件が成立するか否かを判定してもよい。報知制御部24は、フォークリフト1が下り坂を走行している場合に、フェード予告閾値Th2よりも大きい(負の傾きの絶対値が小さい)フェード予告閾値を用いて乖離条件が成立するか否かを判定してもよい。
【0071】
上記実施形態では、フォークリフト1の減速度を取得する減速度取得部の一例として、車速センサ5aで検出した車速から減速度(負の加速度)を算出する例を示したが、この例に限定されない。例えば、減速度取得部は、フォークリフト1の前後方向の加速度を少なくとも検出する加速度センサであってもよい。
【0072】
上記実施形態では、一例として、ブレーキ出力をブレーキ入力で除算して得られる評価値と、評価値の変化率と、を評価値算出部23が算出する例を示したが、この例に限定されない。評価値算出部は、評価値及び評価値の変化率のいずれか一方を算出してもよいし、評価値及び評価値の変化率とは異なる指標を算出して当該指標が報知制御部24でドラムブレーキ18の効き不足の有無を評価するために用いられてもよい。異なる指標としては、例えば、ブレーキ入力をブレーキ出力で除算して得られる指標であってもよい。この場合、指標と所定の閾値との大小関係(不等号の向き)は、上記実施形態とは逆となる。また、異なる指標としては、例えば、ブレーキ入力からのブレーキ出力の差分であってもよい。この場合、指標と所定の閾値との大小関係は、上記実施形態と同じでもよい。
【0073】
上記実施形態では、報知制御部24は、算出された評価値を用いていたが、評価値を介さずに、ブレーキ入力とブレーキ出力と所定の閾値とを直接用いて、ブレーキ入力に対するブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かを判定してもよい。
【0074】
上記実施形態では、温度閾値Thx、フェード判定閾値Th1、及びフェード予告閾値Th2が予め設定されたパラメータであったが、複数の値を含むマップが予め設定されていてもよい。
【0075】
上記実施形態では、バッテリ9の電力により駆動される電動式のフォークリフト1に産業車両の報知装置100が搭載されているが、エンジン又は燃料電池により駆動されるフォークリフトにも適用可能である。
【0076】
上記実施形態では、フォークリフト1に産業車両の報知装置100が搭載されているが、フォークリフト以外の産業車両(例えばトーイングトラクタ等)にも適用可能である。要は、産業車両の乗員のブレーキ操作によって前記産業車両の車輪を制動する油圧式のドラムブレーキを備える産業車両であればよく、ディスクブレーキが併存する産業車両であってもよい。
【0077】
なお、以下、本発明の種々の態様の構成要件を記載する。
<発明1>
産業車両の乗員のブレーキ操作によって前記産業車両の車輪を制動する油圧式のドラムブレーキを備える産業車両の報知装置であって、
前記ドラムブレーキに加わる油圧を取得する油圧取得部と、
前記産業車両の減速度を取得する減速度取得部と、
前記油圧と前記ドラムブレーキの仕様とに基づいて、前記油圧に対応する制動トルクに相当するブレーキ入力を算出する入力算出部と、
前記減速度と前記産業車両の仕様とに基づいて、前記減速度に対応する制動トルクに相当するブレーキ出力を算出する出力算出部と、
前記ブレーキ入力と前記ブレーキ出力と所定の閾値とに基づいて前記ブレーキ入力に対する前記ブレーキ出力の乖離がある乖離条件が成立するか否かを判定すると共に、前記乖離条件が成立すると判定した場合に前記ブレーキ操作に対する前記ドラムブレーキの効き不足が生じている旨を前記乗員に報知する報知制御部と、を備える、産業車両の報知装置。
<発明2>
前記ブレーキ出力を前記ブレーキ入力で除算して得られる評価値を算出する評価値算出部を備え、
前記報知制御部は、前記評価値が第1の前記閾値以下である場合に前記乖離条件が成立したと判定する、発明1に記載の産業車両の報知装置。
<発明3>
前記ドラムブレーキのライニング温度を取得する温度取得部を備え、
前記報知制御部は、前記ライニング温度が所定の温度閾値以上であり、且つ、前記評価値が第1の前記閾値以下である場合に、前記乖離条件が成立したと判定すると共に、前記ドラムブレーキにフェード現象が生じている旨を前記乗員に報知する、発明2に記載の産業車両の報知装置。
<発明4>
前記ブレーキ出力を前記ブレーキ入力で除算して得られる評価値の変化率を算出する評価値算出部と、
前記ドラムブレーキのライニング温度を取得する温度取得部と、を備え、
前記報知制御部は、前記ライニング温度が所定の温度閾値以上であり、且つ、前記評価値の変化率が第2の前記閾値以下である場合に、前記乖離条件が成立したと判定すると共に、前記ドラムブレーキにフェード現象が生じつつある旨を前記乗員に報知する、発明1~3の何れか一つに記載の産業車両の報知装置。
【符号の説明】
【0078】
5…前輪(車輪)、5a…車速センサ(減速度取得部)、18…ドラムブレーキ、18e…ライニング温度センサ(温度取得部)、18g…ブレーキ油圧センサ(油圧取得部)、21…入力算出部、22…出力算出部、23…評価値算出部、24…報知制御部、100…報知装置、d…減速度、P…油圧、Thx…温度閾値。