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特開2024-145515試料パウチセル及び蛍光X線分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145515
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】試料パウチセル及び蛍光X線分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20241004BHJP
   G01N 23/2204 20180101ALI20241004BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/2204
G01N1/10 N
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057902
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高原 晃里
(72)【発明者】
【氏名】庄司 孝
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001MA02
2G001QA02
2G052AB01
2G052AD26
2G052AD46
2G052DA14
2G052DA33
2G052GA19
2G052JA09
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】液体試料の測定と、測定中に発生する気泡を避けてX線を照射が可能な蛍光X線分析方法及び試料パウチセルを提供する。
【解決手段】側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置される液体試料用の試料パウチセルであって、1次X線の照射側に配置される第1樹脂フィルムと、液体試料の注入口を除く領域が前記第1樹脂フィルムと接着された前記第2樹脂フィルムと、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置される液体試料用の試料パウチセルであって、
1次X線の照射側に配置される第1樹脂フィルムと、
液体試料の注入口を除く領域が前記第1樹脂フィルムと接着された第2樹脂フィルムと、
を有することを特徴とする試料パウチセル。
【請求項2】
1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの間に配置され、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムとの距離を保持する枠体をさらに有する、ことを特徴とする請求項1に記載の試料パウチセル。
【請求項3】
前記第1樹脂フィルムは、平面視で前記枠体の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の試料パウチセル。
【請求項4】
前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムの中央よりも下側に設けられ、
前記注入口は、前記試料パウチセルの中央よりも上側に設けられる、
ことを特徴とする請求項3に記載の試料パウチセル。
【請求項5】
前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムに設けられた孔に配置されたポリイミドのフィルムを有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。
【請求項6】
前記注入口が設けられた領域に、線状の開閉可能な留め具をさらに有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の試料パウチセル。
【請求項7】
第1樹脂フィルムと、第2樹脂フィルムと、を有する試料パウチセルを用いた蛍光X線分析方法であって、
注入口を除く領域が接着された前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの内側に、前記注入口から液体試料を入れる工程と、
前記注入口が設けられた領域の前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムを封止し、前記試料パウチセルを完成させる工程と、
前記試料パウチセルを側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置する工程と、
前記試料パウチセルの側方から1次X線を照射し、出射される蛍光X線に基づいて蛍光X線分析を行う工程と、
を含むことを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項8】
前記試料パウチセルを完成させる前に、1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムとの距離を保持する枠体を、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの間に配置する工程をさらに有する、ことを特徴とする請求項7に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項9】
前記第1樹脂フィルムは、平面視で前記枠体の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有する、ことを特徴とする請求項8に記載の蛍光X線分析法。
【請求項10】
前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムに設けられた孔に配置されたポリイミドのフィルムを有する、ことを特徴とする請求項9に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項11】
液体試料の液面の位置と前記第1樹脂フィルムの上端と間に所定の距離が空けられる、ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。
【請求項12】
前記蛍光X線分析を行う工程は、
前記試料パウチセルの上下方向の位置が異なる複数の箇所にそれぞれ1次X線を照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを前記複数の箇所ごとに取得する工程と、
前記複数の箇所ごとに取得された複数の前記スペクトルに基づいて、前記液体試料に含まれる元素を分析する工程と、
含むことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料パウチセル及び蛍光X線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素や当該元素の濃度を測定する装置として、蛍光X線分析装置が知られている。蛍光X線分析装置は、分析対象である試料が液体であっても分析を行うことが可能である。液体試料の測定方法には、液体試料に直接X線照射を行う直接法や、フィルタ上で乾燥された試料にX線照射を行う点滴法がある(下記非特許文献1参照)。
【0003】
直接法を用いる場合には、液体試料を入れる容器が用いられる。例えば、下記特許文献1には、下面照射型の蛍光X線分析装置に用いられる液体試料容器が開示されている。また、下記特許文献2乃至4には、上面照射型の蛍光X線分析装置に用いられる液体試料容器が開示されている。下記特許文献5には、点滴法に用いられる点滴乾燥ろ紙が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第2524760号公報
【特許文献2】特開2005-345442号公報
【特許文献3】実開平7-5047号公報
【特許文献4】特開2018-205290号公報
【特許文献5】実公昭62-019967号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中井泉著、“蛍光X線分析の実際”(第2版)、朝倉書店出版、2016年7月10日発行、85-86ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
点滴法は、試料に含まれる元素が揮散してしまうおそれがあり、マトリックス効果の大きい試料や、非揮発性の試料の測定に適していない。また、上面照射型の蛍光X線分析装置を用いる場合、測定中に試料のX線が照射される位置に気泡が発生し、気泡が液体試料への1次X線の照射を妨害するおそれがある。さらに、下面照射型の蛍光X線分析装置を用いる場合、試料を保持するフィルム等が破損し、蛍光X線分析装置内部の破損や汚れが生じるおそれがある。また、試料成分の沈降の影響を受ける場合がある。
【0007】
本開示は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、揮発性、非揮発性にかかわらず液体試料を測定することができ、かつ、測定中に発生する気泡や沈降成分の影響を避けてX線を照射することのできる蛍光X線分析方法及び試料パウチセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の一側面に係る試料パウチセルは、側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置される液体試料用の試料パウチセルであって、1次X線の照射側に配置される第1樹脂フィルムと、液体試料の注入口を除く領域が前記第1樹脂フィルムと接着された第2樹脂フィルムと、を有することを特徴とする。
【0009】
(2)本開示の上記態様において、1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの間に配置され、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムとの距離を保持する枠体をさらに有する、ことを特徴とする。
【0010】
(3)本開示の上記態様において、前記第1樹脂フィルムは、平面視で前記枠体の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有する、ことを特徴とする。
【0011】
(4)本開示の上記態様において、前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムの中央よりも下側に設けられ、前記注入口は、前記試料パウチセルの中央よりも上側に設けられる、ことを特徴とする。
【0012】
(5)本開示の上記態様において、前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムに設けられた孔に配置されたポリイミドのフィルムを有する、ことを特徴とする。
【0013】
(6)本開示の上記態様において、前記注入口が設けられた領域に、線状の開閉可能な留め具をさらに有する、ことを特徴とする。
【0014】
(7)本開示の一側面に係る蛍光X線分析方法は、第1樹脂フィルムと、第2樹脂フィルムと、を有する試料パウチセルを用いた蛍光X線分析方法であって、注入口を除く領域が接着された前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの内側に、前記注入口から液体試料を入れる工程と、前記注入口が設けられた領域の前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムを封止し、前記試料パウチセルを完成させる工程と、前記試料パウチセルを側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置する工程と、前記試料パウチセルの側方から1次X線を照射し、出射される蛍光X線に基づいて蛍光X線分析を行う工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
(8)本開示の上記態様において、前記試料パウチセルを完成させる前に、1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムとの距離を保持する枠体を、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの間に配置する工程をさらに有する、ことを特徴とする。
【0016】
(9)本開示の上記態様において、前記第1樹脂フィルムは、平面視で前記枠体の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有する、ことを特徴とする。
【0017】
(10)本開示の上記態様において、前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムに設けられた孔に配置されたポリイミドのフィルムを有する、ことを特徴とする。
【0018】
(11)本開示の上記態様において、液体試料の液面の位置と前記第1樹脂フィルムの上端と間に所定の距離が空けられる、ことを特徴とする。
【0019】
(12)本開示の上記態様において、前記蛍光X線分析を行う工程は、前記試料パウチセルの上下方向の位置が異なる複数の箇所にそれぞれ1次X線を照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを前記複数の箇所ごとに取得する工程と、前記複数の箇所ごとに取得された複数の前記スペクトルに基づいて、前記液体試料に含まれる元素を分析する工程と、含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、揮発性、非揮発性にかかわらず液体試料を測定することができ、かつ、測定中に発生する気泡を避けてX線を照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試料パウチセルの平面図及び底面図である。
図2】試料パウチセルの断面図である。
図3】変形例に係る試料パウチセルの平面図である。
図4】変形例に係る試料パウチセルの断面図である。
図5】試料パウチセルを用いた蛍光X線分析方法を示すフローチャートである。
図6】試料パウチセルが配置された側面照射型蛍光X線分析装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。図1(a)は試料パウチセル100の平面図であって、図1(b)は試料パウチセル100の底面図である。図2(a)及び図2(b)は、図1(a)及び図1(b)のII-II断面を示す図である。図2(a)は、気密に封止した直後の試料パウチセル100を示し、図2(b)は、液体試料202の中に気泡が発生した状態の試料パウチセル100を示している。本実施形態に係る試料パウチセル100は、側面照射型の蛍光X線分析装置600(後述)に用いられる試料パウチセル100であって、第1樹脂フィルム102と、第2樹脂フィルム104と、を有する。
【0023】
試料パウチセル100は、側面照射型の蛍光X線分析装置600に立てて配置される液体試料202用の試料パウチセル100である。なお、「立てて配置される」とは、第1樹脂フィルム102及び第2樹脂フィルム104の表面内に、重力の働く向きである鉛直方向がおよそ位置するように配置されることを意味するものとする。換言すると、第1樹脂フィルム102及び第2樹脂フィルム104の間に配置された液体試料202の液面が、第1樹脂フィルム102及び第2樹脂フィルム104におよそ直交するように配置されることを意味するものとする。また、以下において、上下方向は、試料パウチセル100が蛍光X線分析装置600に配置された状態で、液体試料202の液面に対して垂直な方向(すなわち、鉛直方向)を意味するものとする。また、下方向(下側)は、例えば液面を基準とした場合に、液面から見て液体側を指す方向であり、上方向(上側)はその反対方向を意味するものとする。
【0024】
第1樹脂フィルム102は、1次X線の照射側に配置される。具体的には、例えば、第1樹脂フィルム102は、アルミラミネートやポリプロピレンやポリエステルなどの樹脂で形成されたフィルムである。第1樹脂フィルム102の材料は、熱可塑性樹脂であることが望ましい。
【0025】
第1樹脂フィルム102は、中央よりも下側に1次X線を透過する分析窓108を有する。具体的には、第1樹脂フィルム102の形状は、例えば矩形状であって、丸い孔を有する。丸い孔は、上端が第1樹脂フィルム102の中央よりも下側に位置するように設けられる。第1樹脂フィルム102に設けられた孔にポリイミドなどのごく薄い樹脂製のフィルム106が配置され、測定時に分析窓108として機能する。なお、分析窓108として設けられる孔の形状は、任意の形状であってよい。また、分析窓108の下端と、第1樹脂フィルム102の下端と、の間に所定の距離が空けられることが望ましい。さらに、第1樹脂フィルム102が1次X線を透過する材料で形成される場合、第1樹脂フィルム102は分析窓108を有しなくてもよい。
【0026】
第2樹脂フィルム104は、液体試料202を挟んで第1樹脂フィルム102と対向して配置される樹脂フィルムである。具体的には、例えば、第2樹脂フィルム104は、第1樹脂フィルム102と同じ材料で形成されたフィルムである。第2樹脂フィルム104は第1樹脂フィルム102と異なり孔を有しないが、外形形状は第1樹脂フィルム102と対応する形状であることが望ましい。
【0027】
第2樹脂フィルム104は、第1樹脂フィルム102と接着される。具体的には、図1(a)及び図1(b)の破線は、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104が接着される領域(接着領域110)を示している。なお、接着領域110は、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に液体試料202を保持することができれば他の位置に設けられてもよい。接着の手段は、例えば熱融着である。第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104が熱融着しにくい材料である場合は、糸状もしくはテープ状の熱可塑性樹脂を挟んで熱融着してもよい。また、熱融着に替えて超音波融着によって第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104を接着してもよい。
【0028】
さらに、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104は、一体的に(1枚のフィルムによって)形成されていてもよい。この場合、折り曲げられた1枚のフィルムのうち、1次X線の照射側が第1樹脂フィルム102に相当し、反対側が第2樹脂フィルム104に相当する。
【0029】
なお、図1(a)及び図1(b)は、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に液体試料202が配置され、気密に封止された状態の試料パウチセル100を示している。液体試料202が配置される前の第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104は、液体試料202の注入口を除く領域が第1樹脂フィルム102と接着されている。注入口は、試料パウチセル100の中央よりも上側に設けられる。注入口は、例えば、試料パウチセル100の上端に設けられる。
【0030】
具体的には、図1(a)及び図1(b)に示す破線のうち、下部(図1(a)の破線の下辺)及び側部(図1(a)の破線の左辺と右辺)は接着され、上部(図1(a)の破線の上辺)は接着されず注入口となる。液体試料202は、液面の位置が分析窓108の上端よりも上になるように、かつ、液面の位置と第1樹脂フィルム102の上端と間に所定の距離が空くように、注入口から入れられる。所定の距離は、液体試料202から生じる気泡の体積に応じて適宜設定される。
【0031】
試料パウチセル100に1次X線を照射すると液体試料202の温度が上昇し、液体試料202の中に気泡が生じる。本実施形態に係る試料パウチセル100は側面照射型の蛍光X線分析装置600に配置されるため、液体試料202の中に気体が発生したとしても気泡が分析窓108の上端よりも上側に移動する(図2(a)及び図2(b)参照)。従って、測定中に発生する気泡を避けてX線を照射することができる。
【0032】
試料パウチセル100の分析窓108が第1樹脂フィルム102の中央よりも下側に配置され、かつ、液面の位置と第1樹脂フィルム102の上端と間に所定の距離が空けられている。これにより、試料パウチセル100の中に発生した気泡が逃げる空間を保持することができる。また、分析窓108の下端と、第1樹脂フィルム102の下端と、の間に所定の距離が空けられることにより、沈降した試料が保持される空間を確保できる。従って、試料の液体状の領域に1次X線を照射することができる。
【0033】
図3図4(a)及び図4(b)は、上記実施形態の変形例に係る試料パウチセル100を説明するための図である。図3は、試料パウチセル100の平面図である。図4(a)及び図4(b)は、図3のVI-VI断面を示す図である。本変形例は、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104との距離を保持する枠体302を有する点と、第1樹脂フィルム102がX線を透過する材料で形成され、分析窓108が設けられない点で上記実施形態と異なる。
【0034】
枠体302は、1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し、所定の厚さを有する。枠体302は、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に配置され、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104との距離を保持する。具体的には、例えば、図3に示すように、枠体302は、枠の内側に1次X線の照射位置304,306,308が位置するように、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に配置される。また、枠体302は所定を厚さを有するため、図4(a)及び図4(b)に示すように、枠体302の内側において、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に枠状の厚さ分の距離が生じる。
【0035】
枠体302が配置されず、かつ、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の接着を行う場合、液体試料202は、接着によって囲われる領域全体にわたって略等しい厚みとなる。この場合、試料パウチセル100の1次X線が照射される領域の厚さが薄くなってしまうため、1次X線が第2樹脂フィルム104を透過し、分析精度が低下するおそれがある。本変形例によれば、枠体302によって厚さを保持することで、1次X線が照射される領域における液体試料202の厚さを少なくとも枠体302の厚さとすることができる。従って、分析精度の低下を回避することができる。
【0036】
本変形例では、第1樹脂フィルム102がX線を透過する材料で形成されれている。そのため、第1樹脂フィルム102の背面に液体試料202が存在している領域であれば、第1樹脂フィルム102の任意の位置に1次X線を照射し、測定を行うことができる。
【0037】
続いて、試料パウチセル100を用いた蛍光X線分析方法について説明する。図5は、試料パウチセル100を用いた蛍光X線分析方法を示すフローチャートである。まず、第1樹脂フィルム102と、第2樹脂フィルム104と、を準備する。そして、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の外縁の位置が一致するように位置合わせした状態で、接着領域110のうち注入口を除く領域(図3に示す接着領域110のうちの下辺と左辺と右辺)を接着する(S502)。
【0038】
次に、枠体302を第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に配置し、注入口から液体試料202を入れる(S504)。具体的には、注入口を除く領域が熱融着された第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に、枠体302を配置する。さらに、注入口から第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間に液面の位置が枠体302の上端よりも上になるように、液体試料202を入れる。この際、液面の位置と第1樹脂フィルム102の上端と間に所定の距離が空くように、液体試料202が入れられる。
【0039】
次に、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の間の空気を排出しながら、注入口が設けられた領域の第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104を封止し、試料パウチセル100を完成させる(S506)。具体的には、第1樹脂フィルム102と第2樹脂フィルム104の注入口の領域を熱融着する。図4(a)は、気密に封止した直後の試料パウチセル100を示す断面図である。図4(a)に示すように試料パウチセル100の内部に空気が存在してもよいが、試料パウチセル100の内部に含まれる空気はできる限り少なくなるように、空気を排出しながら気密に封止されることが望ましい。
【0040】
次に、試料パウチセル100を側面照射型の蛍光X線分析装置600に立てて配置する(S508)。図4は、試料パウチセル100が配置された側面照射型の蛍光X線分析装置600の概略を示す図である。図4に示すように、側面照射型の蛍光X線分析装置600は、X線源602と、分光素子604と、検出器606と、裏側ホルダ608と、表側ホルダ610と、を含む。試料パウチセル100は、金属製の裏側ホルダ608と金属製の表側ホルダ610に挟んで配置され、表側ホルダ610及び裏側ホルダ608が測定室(図示なし)内部に固定される。表側ホルダ610は孔が設けられており、第1照射位置304、第2照射位置306及び第3照射位置308が当該孔から露出する。
【0041】
そして、X線源602は、試料パウチセル100に対して側方から1次X線を照射し、出射される蛍光X線に基づいて蛍光X線分析を行う(S510)。具体的には、試料パウチセル100の上下方向の位置が異なる複数の箇所にそれぞれ1次X線を照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを複数の箇所ごとに取得する。まず、X線源602は、1次X線を、試料パウチセル100の第1照射位置304に照射する。1次X線の照射によって加熱された液体試料202から気泡が生じる。
【0042】
図4(b)に示すように気泡は分析窓108よりも上側に移動し、図4(b)の試料パウチセル100は、図4(a)の試料パウチセル100よりも上部が膨らんでいる。また、測定が長時間に及ぶ場合、図4(b)に示すように液体試料202の一部が沈降する場合もあるが、沈降した成分204は枠体302の下端よりも下側に存在する。従って、本試料パウチセル100によれば気泡や沈降した成分204に妨害されることなく、液体状の領域に1次X線を照射することができる。1次X線が照射された液体試料202から、蛍光X線が出射される。
【0043】
分光素子604は、蛍光X線を分光する。具体的には、例えば、分光素子604は、液体試料202から発生した複数の波長の蛍光X線のうち、ブラッグの条件式を満たす特定の波長の蛍光X線のみを分光する。
【0044】
検出器606は、例えば、シンチレーションカウンタである。検出器606は、蛍光X線の強度を測定し、測定した蛍光X線のエネルギーに応じた波高値を有するパルス信号を出力する。
【0045】
分光素子604及び検出器606は、ゴニオメータ(図示なし)によって、一定の角度関係を保ちながら回動する。具体的には、例えば、液体試料202から発生した蛍光X線の進む方向と分光素子604表面との成す入射角度をθとする。分光素子604は、分光素子604表面に対する蛍光X線の入射角度θが所定の範囲内で変化するように、ゴニオメータによって回動する。2次X線は分光素子604により回折され、分光素子604からブラッグの条件式を満たす蛍光X線(すなわち出射角度θである蛍光X線)が出射する。検出器606は、ゴニオメータによって、分光素子604から出射角度θで出射された蛍光X線が入射される位置に移動する。
【0046】
検出器606から出力されるパルス信号を波高値に応じて計数することにより、側面照射型の蛍光X線分析装置600は、蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する。当該スペクトルに基づいて、液体試料202に含まれる元素の分析が行われる。特定元素のみを分析する場合、側面照射型の蛍光X線分析装置600はゴニオメータを有さず、分光素子604及び検出器606の位置は固定されていてもよい。
【0047】
以上により、第1照射位置304から出射した蛍光X線に基づいて、液体試料202の分析結果が得られる。同様に、X線源602は、第2照射位置306及び第3照射位置308に1次X線を照射し、出射される蛍光X線に基づいてそれぞれスペクトルを取得し、蛍光X線分析を行う。
【0048】
そして、第1照射位置304、第2照射位置306及び第3照射位置308における分析結果を平均することにより、液体試料202に含まれる元素の最終的な分析結果を取得する(S512)。なお、上記では3回の測定を行う場合について説明したが、測定回数は任意である。また、単純な平均処理ではなく、重み付平均処理(例えば、中央に近い測定箇所の分析結果の比重を大きくした平均処理)を行ってもよい。複数の箇所の分析結果に基づいて最終的な分析結果を取得することにより、液体試料202が不均質であっても平均的な結果を取得することができる。
【0049】
なお、図3には、上下方向の位置の異なる第1照射位置304、第2照射位置306及び第3照射位置308を示している。いずれかの測定箇所の分析結果が気泡や沈降による影響を受けている場合、他の測定箇所の分析結果と大きく相違する可能性がある。このような場合には、当該気泡や沈降による影響を受けた分析結果を除外し、他の測定箇所の分析結果に基づいて最終的な分析結果を取得してもよい。
【0050】
本開示は、上記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、注入口が設けられる領域が接着されず、当該領域に線状の開閉可能な留め具が設けられてもよい。具体的には、注入口が設けられる領域にレールファスナーが設けられてもよい。開閉可能な留め具を設けることにより、液体試料202の交換を容易に行うことができる。
【0051】
また、上記において蛍光X線分析装置600が波長分散型の蛍光X線分析装置である場合について説明したが、蛍光X線分析装置600はエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であってもよい。
【0052】
さらに、分析窓108が設けられる構成と、枠体302が配置される構成と、が組み合わされてもよい。この場合、第1樹脂フィルム102は、平面視で枠体302の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有することが望ましい。すなわち、図3に示す枠体を示す破線の内側に、図1に示す分析窓108の全てが配置されることが望ましい。また、図5に示す蛍光X線分析方法においては、S504の工程において、平面視で枠体302の内側と分析窓108が重なるように、枠体302が配置される。
【符号の説明】
【0053】
100 試料パウチセル、102 第1樹脂フィルム、104 第2樹脂フィルム、106 樹脂製のフィルム、108 分析窓、110 接着領域、202 液体試料、204 沈降した成分、302 枠体、304 第1照射位置、306 第2照射位置、308 第3照射位置、600 蛍光X線分析装置、602 X線源、604 分光素子、606 検出器、608 裏側ホルダ、610 表側ホルダ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置される液体試料用の試料パウチセルであって、
1次X線の照射側に配置される第1樹脂フィルムと、
液体試料の注入口を除く領域が前記第1樹脂フィルムと接着された第2樹脂フィルムと、
1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの間に配置され、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムとの距離を保持する枠体と、
を有することを特徴とする試料パウチセル。
【請求項2】
前記第1樹脂フィルムは、平面視で前記枠体の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有する、ことを特徴とする請求項に記載の試料パウチセル。
【請求項3】
前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムの中央よりも下側に設けられ、
前記注入口は、前記試料パウチセルの中央よりも上側に設けられる、
ことを特徴とする請求項に記載の試料パウチセル。
【請求項4】
前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムに設けられた孔に配置されたポリイミドのフィルムを有する、ことを特徴とする請求項2または3に記載の試料パウチセル。
【請求項5】
前記注入口が設けられた領域に、線状の開閉可能な留め具をさらに有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の試料パウチセル。
【請求項6】
第1樹脂フィルムと、第2樹脂フィルムと、を有する試料パウチセルを用いた蛍光X線分析方法であって、
注入口を除く領域が接着された前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの内側に、前記注入口から液体試料を入れる工程と、
1次X線が照射される位置を囲う枠状の形状を有し前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムとの距離を保持する枠体を、前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムの間に配置する工程と、
前記注入口が設けられた領域の前記第1樹脂フィルムと前記第2樹脂フィルムを封止し、前記試料パウチセルを完成させる工程と、
前記試料パウチセルを側面照射型の蛍光X線分析装置に立てて配置する工程と、
前記試料パウチセルの側方から1次X線を照射し、出射される蛍光X線に基づいて蛍光X線分析を行う工程と、
を含むことを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項7】
前記第1樹脂フィルムは、平面視で前記枠体の内側と重なる領域に1次X線を透過する分析窓を有する、ことを特徴とする請求項に記載の蛍光X線分析法。
【請求項8】
前記分析窓は、前記第1樹脂フィルムに設けられた孔に配置されたポリイミドのフィルムを有する、ことを特徴とする請求項に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項9】
液体試料の液面の位置と前記第1樹脂フィルムの上端と間に所定の距離が空けられる、ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。
【請求項10】
前記蛍光X線分析を行う工程は、
前記試料パウチセルの上下方向の位置が異なる複数の箇所にそれぞれ1次X線を照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを前記複数の箇所ごとに取得する工程と、
前記複数の箇所ごとに取得された複数の前記スペクトルに基づいて、前記液体試料に含まれる元素を分析する工程と、
含むことを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。