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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145522
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】撹拌軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/2122 20220101AFI20241004BHJP
   H01J 37/315 20060101ALI20241004BHJP
   B01F 27/191 20220101ALI20241004BHJP
   B01F 27/60 20220101ALI20241004BHJP
   B01F 35/95 20220101ALI20241004BHJP
【FI】
B01F27/2122
H01J37/315
B01F27/191
B01F27/60
B01F35/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057910
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晃史
【テーマコード(参考)】
4G037
4G078
5C101
【Fターム(参考)】
4G037CA05
4G037EA03
4G078BA01
4G078BA09
4G078DC08
4G078EA03
5C101AA31
5C101FF01
(57)【要約】
【課題】撹拌軸の流路に挿入される真空二重管につき、熱変形を少なくして、精度の良い撹拌軸の製造を実現する。
【解決手段】発明にかかる撹拌軸の製造方法は、内部に軸方向に延びる流路11aが形成された軸本体11を準備するステップと、軸本体11の外周に撹拌羽根を取り付けるステップと、軸本体11の流路に、内管14aと外管14bとからなり内管14aと外管14bの間の筒状空間は端面が閉塞されて内部が真空となっている真空二重管を挿入するステップと、を含む。そして、真空二重管14は、外面に穴が開けられた二重管を真空の溶接室に設置し、筒状空間の空気抜きをするサブステップと、外管の穴に向けて電子ビームを衝突させ、電子ビーム溶接により穴を塞いで筒状空間の真空状態を固定するサブステップにより製造される。熱の影響は穴の周辺の電子ビームが衝突する局部に限定される。このため、真空二重管14が熱変形することはなく、精度の良い撹拌軸10を製造可能である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に軸方向に延びる流路が形成された軸本体を準備するステップと、
前記軸本体の外周に撹拌羽根を取り付けるステップと、
前記軸本体の流路に、内管と外管とからなり内管と外管の間の筒状空間は端面が閉塞されて内部が真空となっている真空二重管を挿入するステップと、を含み、
前記真空二重管は、
外面に穴が開けられた二重管を真空の溶接室に設置し、前記筒状空間の空気抜きをするサブステップと、
前記外管の穴に向けて電子ビームを衝突させ、電子ビーム溶接により前記穴を塞いで筒状空間の真空状態を固定するサブステップにより製造される、撹拌軸の製造方法。
【請求項2】
前記二重管は、前記外管の外周に前記穴が開けられており、その穴が電子ビーム溶接機の電子銃と正対するように寝かせた状態で前記溶接室に設置される請求項1に記載の撹拌軸の製造方法。
【請求項3】
前記外管の外周の穴は、前記二重管の軸方向に並列して複数設けられている請求項2に記載の撹拌軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練機等に用いられる撹拌軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混練機、反応機、乾燥機などの内部には、被処理物を撹拌するための撹拌軸が設けられている。
撹拌軸は、軸本体と、その外周に設けられた撹拌羽根を有し、軸本体はその軸回りに回転可能なように軸受部により支持されており、その回転に伴なって撹拌羽根により被処理物の撹拌がおこなわれる。
ここで、被処理物を加熱したり冷却したりするために、軸本体の内部には、軸方向に延びる流路が設けられており、ここに熱媒体が流通可能となっている。
【0003】
熱媒体が流通することで撹拌軸は加熱されるが、これを支持する軸受部や軸端などを封止するグランドパッキンが耐熱性に劣ることがあるため、撹拌軸の熱が軸受やグランドパッキンに直接伝わると劣化、故障等の原因となる。
そこで、特許文献1のように撹拌軸の軸受部による支持箇所やグランドパッキンによる封止箇所の近接する流路に真空二重管を挿入する試みがなされている。真空二重管は、内管と外管とからなり、その内管と外管との間の筒状空間は端面が閉塞されて内部は真空となっている。
したがって、内管と外管との間は断熱されており、内管の内部に熱媒体が流通しても、その熱は外管の側へと伝わらず、軸受部やグランドパッキンが熱により影響を受けることが抑制されている。
【0004】
ところで、従来のこの種の真空二重管の製法としては、まず上記した筒状空間が外気と連通するように外管に穴が開いている状態の完成前の二重管を、たとえば真空度10-2Paから10-4Paの真空炉内に設置する。
そして、真空炉内を温度1040℃程度の高温にまで昇温させ、Niロウなどのロウを用い、これを溶融させて外管の穴に蓋をし、筒状空間の内部を真空とするのが一般的であった。
こうして作製された真空二重管を軸本体の端部から流路内部へと挿入し、適宜固定することで撹拌軸が作製されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-137746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような製法によると、真空二重管の全体が真空炉内で加熱されることで、歪んだり曲がってしまうなど変形してしまうことがあった。
したがって、真空二重管を軸本体の内部の流路に挿入できなかったり、無理に挿入しようとすると真空二重管や軸本体が破損してしまう恐れがあった。
【0007】
そこで本発明の解決すべき課題は、撹拌軸の流路に挿入される真空二重管につき、熱変形を少なくして、精度の良い撹拌軸の製造を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するため、発明にかかる撹拌軸の製造方法を、内部に軸方向に延びる流路が形成された軸本体を準備するステップと、前記軸本体の外周に撹拌羽根を取り付けるステップと、前記軸本体の流路に、内管と外管とからなり内管と外管の間の筒状空間は端面が閉塞されて内部が真空となっている真空二重管を挿入するステップと、を含み、前記真空二重管は、外面に穴が開けられた二重管を真空の溶接室に設置し、前記筒状空間の空気抜きをするサブステップと、前記外管の穴に向けて電子ビームを衝突させ、電子ビーム溶接により前記穴を塞いで筒状空間の真空状態を固定するサブステップにより製造されるものとしたのである。
なおここで、軸本体の外周に撹拌羽根を取り付けるステップと、軸本体の流路に真空二重管を挿入するステップとは、先後を問わない。
【0009】
このようにすると、真空二重管全体を加熱することはなく、熱の影響は穴の周辺の電子ビームが衝突するわずかな範囲(スポット径0.2mm程度)に限定されるため、真空二重管が大きく熱変形等することはなく、精度の良い撹拌軸を製造することができる。
また、穴を塞ぐために、二重管自体の素材を溶融させており、Niロウなどの別材料を使用していないので、撹拌軸から別材料が剥離等することがなく、被処理物に異物が混入することが防止される。
真空二重管の作製時に、全体を高温に過熱することがないため、内管と外管とで熱膨張率の異なる異種の素材(たとえば、耐熱耐食性に優れたステンレス鋼のうちで、内管を比較的高価だが強度の高いSUS630製とし、外管を比較的安価なSUS304製とする)を使用することができ、内管、外管それぞれの目的、特性に応じた最適の素材を選択できるため、撹拌軸全体として、低コストで耐久性に優れたものとすることができる。
【0010】
発明にかかる撹拌軸の製造方法において、前記二重管は、前記穴が前記外管の周面に設けられており、その穴が電子ビーム溶接機の電子銃と正対するように寝かせた状態で前記溶接室に設置されることが好ましい。
【0011】
このようにすると、細長く取り扱いにくい真空二重管を横倒しにしたうえで、その外周に設けられた穴に対して正確に電子ビームを衝突させ、電子ビーム溶接をおこなうことができるため、穴を塞ぐ作業がしやすくなる。
【0012】
発明にかかる撹拌軸の製造方法において、前記外管の外周の穴は、前記二重管の軸方向に並列して複数設けられていることが好ましい。
【0013】
このようにすると、二重管を真空の溶接室に設置した際に、その複数の穴を通じて内管と外管の間の筒状空間からスムーズに空気を抜くことができるため、筒状空間の真空状態を速やかに作り出すことができる。
【発明の効果】
【0014】
発明にかかる撹拌軸の製造方法を以上のように構成したので、撹拌軸の流路に挿入される真空二重管につき、熱変形を少なくして、精度の良い撹拌軸の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】混練機の全体縦断面図
図2】混練機の要部拡大縦断面図
図3】真空二重管の縦断面図
図4】撹拌軸の製造工程を示す模式図
図5】真空二重管の製造工程を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1および図2に示す混練機1は、その撹拌軸10につき実施形態の製造方法により製造されたものであり、熱交換装置等として用いられる。なお、かかる混練機の構成はあくまでも例示であって、これに限定されることはないことは無論である。
【0017】
図1のように、混練機1は、ケーシング2内に撹拌軸10が回転可能に支持されてなる。ケーシング2の一端上部には供給口2aが、他端下部には排出口2bが、それぞれ設けられている。被処理物は供給口2aを通じてケーシング2内に供給され、撹拌軸10により処理された後に排出口2bを通じてケーシング2外へと排出される。
図1のように、ケーシング2の外側にジャケット3が設けられており、ジャケット3内には、汎用されている循環装置4により熱媒体を流通させることが可能となっている。これにより、混練機1の運転時には、ケーシング2の内部は、たとえば350℃程度まで加熱される。
【0018】
撹拌軸10は、図1の奥行方向に前後一対に並列して設けられている。それぞれの撹拌軸10は、一端がグランドパッキン5により、他端がグランドパッキン5および軸受部6により支持、封止されている。
撹拌軸10は、グランドパッキン5のみにより支持、封止されている一端が、モータ7に接続され、回転駆動させられるようになっている。
また、撹拌軸10は、グランドパッキン5により支持、封止され、軸受部6により支持されている他端が、ロータリジョイント8に接続されている。ロータリジョイント8は、循環装置4からの熱媒体を供給、回収できるようになっている。
【0019】
図示のように、撹拌軸10は、軸本体11と、軸本体の外周に設けられた撹拌羽根(パドル)12と、を備える。軸本体11と撹拌羽根12の材質としては、ステンレス鋼が例示される。
軸本体11は、細長い円柱形をなしている。撹拌羽根12は、それぞれが軸本体11の外径方向に突出し、かつ軸本体11の軸方向に所定の間隔をあけて複数が並列している。
ケーシング2の供給口2aから投入された被処理物は、モータ7による軸本体11の回転に伴ない、撹拌羽根12により撹拌されることとなる。
また、軸本体11の外周の、モータ7側には順送り用のスクリュパドル(スクリュ羽根)13が、ロータリジョイント8側には逆送り用のスクリュパドル13が、それぞれ設けられており、被処理物を連続的にスムーズに処理できるようになっている。
【0020】
軸本体11の内部には、軸方向に延びる流路11aが設けられており、この流路11aに循環装置4からの熱媒体を流通させることが可能になっている。
流路11aは、軸本体11のロータリジョイント8に接続された側の端部にまで貫通しているが、モータ7に接続された側の端部にまでは至らず、グランドパッキン5の手前で終端している。
したがって、モータ7に接続された側の端部を支持、封止するグランドパッキン5は、熱媒体が流路11aを流通することによる熱の影響を受けにくくなっている。
他方で、ロータリジョイント8に接続された側の端部を支持、封止するグランドパッキン5,軸受部6は熱媒体が流路11aを流通することによる熱の影響を受けやすくなっている。
【0021】
流路11aには、仕切り部材11bが挿入されている。仕切り部材11bは公知の手段により撹拌軸10と一体に回転するように支持されている。
仕切り部材11bは、流路11aを、撹拌羽根12に対応する位置で上流側と下流側とに仕切っている。
ここで、撹拌羽根12の内部にも、流路12aが設けられており、軸本体の流路11aの上流側は撹拌羽根12の流路12aの一端に、流路11aの下流側は撹拌羽根12の流路12aの他端に、それぞれ連通することで撹拌羽根12の内部に熱媒体を流通可能となっている。
【0022】
上述のように、ロータリジョイント8に接続された側の端部を支持するグランドパッキン5、軸受部6は熱媒体が軸本体の流路11aを流通することによる熱の影響を受けやすくなっていることから、図2のように、流路11aの当該箇所には、真空二重管14が挿入、固定されている。
【0023】
図2および図3のように、真空二重管14は、内管14aと外管14bとからなり、内管14aの内部は仕切り部材11bの内部と連通して熱媒体が流通可能となっている。
また、内管14aと外管14bとの間の筒状空間は、両端部のキャップ14cに閉塞された真空部14dとなっている。この真空部14dは、例えば真空度が2.4・10-3Paとなるように密閉されている。
両端部のキャップ14cのうち、流路11aに挿入される際に手前側となるキャップにはフランジ14eが設けられている。フランジ14eが流路11aの開口縁に当接することで、真空二重管14の流路11aへの挿入量が定まる。
また、いずれのキャップ14cの外周にも、シール溝14fが設けられている。ここにシールリングを嵌合することで、真空二重管14を流路11aに挿入した際の水密性が確保される。
【0024】
内管14aの材質は特に限定されないが、ステンレス鋼のうち、内部に熱媒体が流通するものとして、耐熱性、耐食性にすぐれ、強度にもすぐれた、SUS630製であることが好ましい。
外管14bの材質も特に限定されないが、ステンレス鋼のうち、熱媒体は流通せず、内管14aほどの性能は不要であるが、耐熱性、耐食性にすぐれ、比較的安価な、SUS304製であることが好ましい。
【0025】
ここで、ロータリジョイント8から供給された熱媒体は、真空二重管14の内管14aを通って軸本体11の仕切り部材11bにより仕切られた流路11aの上流側に供給され、撹拌羽根12の流路12aを経て流路11aの下流側に戻る。さらに流路11aの下流側から、内管14aを通って再び、ロータリジョイント8に戻り、循環装置4へと返送される。
【0026】
このようにして、内管14a内は高温の熱媒体が流通するが、その周りが真空部14dに覆われていることから、軸本体11へと熱が伝わりにくく、ここを支持するグランドパッキン5、軸受部6などの支持部、封止部が熱により劣化等することが防止されている。
したがって、グランドパッキン5、軸受部6などの支持部、封止部に熱を伝えにくくしながらも、熱媒体により高温(例えばジャケットと同程度の温度、350℃など)に加熱された撹拌軸10により被処理物を撹拌することが可能となる。
【0027】
なお、外管14bの外周面と、流路11aの内周面との間に隙間が形成されるようにして、ここに空気層を形成してもよい。
また、軸本体11を、隙間が形成されるようにスリーブ15で覆うことで、軸本体11の外周面とスリーブ15の内周面間にも空気層を形成してもよい。
これら空気層により、撹拌軸10からの熱が、グランドパッキン5や軸受部6へと一層伝わりにくくなる。
【0028】
混練機1の構成等は以上のようであり、つぎにその撹拌軸10の実施形態にかかる製造方法について説明する。
【0029】
図4(a)のように、まず軸本体11を準備する。軸本体11は、流路11a等の必要な構成が前工程を経てあらかじめ備えられているものとする。
つぎに図4(b)のように、軸本体11に対して、撹拌羽根12、スクリュパドル13を取り付ける(同図では、代表して撹拌羽根12のみを描いている)。撹拌羽根12等の取付の態様は特に限定されない。
なお図示では、模式的に撹拌羽根12等を軸本体11の径方向から取り付けているが、一般には、軸本体11の軸方向に沿ってスペーサとともにスライドさせるようにしてキーとキー溝とでスプライン結合させることが多い。ここで撹拌羽根12は、流路12a等の必要な構成が前工程を経てあらかじめ備えられているものとする。
【0030】
さらに図4(c)のように、軸本体11の流路11aに真空二重管14を挿入して、適宜手段により固定する。こうして撹拌軸10が完成する。
なお図示では、軸本体11に撹拌羽根12を取り付ける工程を先に、真空二重管14を取り付ける工程を後に行っているが、その先後は問わず、撹拌羽根12よりも先に真空二重管14を軸本体11に取り付けてもよい。
【0031】
真空二重管14については、上記撹拌軸の製造にかかる主工程(ステップ)に先立って、図5を参照して、次のような副工程(サブステップ)により製造される。
すなわち、まず内管14aと外管14bとからなり、内管14aと外管14b間の筒状空間の両端部がキャップ14cにより閉塞された完成前の二重管14´を準備する。内管14aや外管14bとキャップ14cとの固定は溶接等の適宜手段によりあらかじめおこなわれているものとする。
ここで完成前の二重管14´の外管14bの外周面には、筒状空間に連通する穴14gが複数設けられている。穴14gは径が1mm程度(0.5mmから1.5mm)の小孔であり、外管14bの軸方向に所定の間隔(たとえば150mmから250mm程度)で並列している。
【0032】
図5(a)のように、このような完成前の二重管14´を横倒しに寝かせ(二重管14´の軸方向が水平方向とほぼ一致する状態をいう)、穴14gが上向きになるように台車21などに載せた状態で、電子ビーム溶接機20の真空状態(真空度10-2Paから10-4Pa)の溶接室22へと設置する。
このとき、穴14gを通じて、筒状空間内の空気が抜けて、二重管14´の筒状空間は真空となる。穴14gが複数あることから、空気の抜きがスムーズに行なわれる。
【0033】
ここから、穴14gの周辺部への電子ビーム溶接をおこなうが、二重管14´が横倒しにされ、その外管14bの外周面に設けられた穴14gが電子ビーム溶接機20の電子銃(陰極23、陽極24、グリッド25)と上下に正対した状態で作業が行われるため、作業効率が向上している。
図5(a)を参照して、電子銃の陰極23から放出された電子は、陽極24との間に印加された電圧(60kVから150kV)により光の約三分の二の速度にまで加速され、かつグリッド25により制御され、さらに電磁コイル26により収束、偏向されて、二重管14´の穴14g周辺へと電子ビームEとして照射(衝突)される。
穴14gと電子ビームEの位置合わせは、二重管14´を載せた台車21の移動と電子ビームの電磁コイル26での偏向により行われる。
【0034】
図5(b)のように、電子ビームEの衝突により発生した熱エネルギーで、外管14bの穴14gの周辺箇所が溶融して溶接部14hとして穴14gが塞がれる。すべての穴14gが塞がれるまで、二重管14´を軸方向に移動させるなどして、順次この作業をおこなう。
こうして筒状空間の真空状態が固定され、真空部14dが形成されることで真空二重管14が完成する。
すべての作業が真空状態でおこなわれていることから、溶接部の酸化や窒化が抑えられており、また、電子ビーム溶接特有の溶接幅が狭く(スポット径は0.2mm程度)かつ溶け込み量の深い溶接部14hが得られるため、溶接強度が高いものとなっている。Niロウなどで穴を塞ぐ場合に比べて、穴14gを小孔とすることができる。
【0035】
このようにして製造された真空二重管14は、図4に示される上述した撹拌軸10の製造工程に用いられる。
かかる製造方法によれば、従来とは異なり、真空二重管14の全体を加熱することはなく、熱の影響は穴14gの周辺の電子ビームEが衝突する局部に限定されるため、真空二重管14が全体的に熱変形等することはなく、これが用いられる撹拌軸10としても精度の高いものを製造することができる。
【0036】
また、二重管14´の穴14gを塞ぐために、外管14b自体を溶融させており、従来のNiロウなどの別材料を使用していないので、溶接強度が高いうえに、この真空二重管14が用いられた撹拌軸10からも別材料が剥離等する心配はない。
したがって、混練機1による処理時に、被処理物に異物が混入することが防止される。
さらに、真空二重管14の作製時に、全体を高温に過熱することがないため、内管14aと外管14bとで熱膨張率の異なる異種の素材を使用することができ、内管14a、外管14bそれぞれの目的、特性に応じた最適の素材を選択できる。
このため、撹拌軸10全体として、コストを抑えつつも、耐熱性、耐食性などの機能が十分に担保されたものとすることができる。
【0037】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0038】
たとえば、完成前の二重管14´における穴14gの位置や数、寸法について、電子ビーム溶接時における二重管14´の設置の向き等については、それぞれ実施形態に限定されず、たとえば穴14gをキャップ14cに設けたり、穴14gの数を一つとしたり、穴14gの大きさを径が1mmを超える(数mm程度)ものとしたりしてもよい。
二重管14´の穴14gの並列の方向も実施形態に限定されず、外管14bの周方向に並列させてもよい。この場合、二重管14´を軸回りに回転させながら、すべての穴14gに対して順次に電子ビーム溶接をおこなうことが考えられる。並列する穴14gの間隔も実施形態に限定されない。
二重管14´のキャップ14cについても、電子ビーム溶接することで、内管14aや外管14bに固定してもよい。
【0039】
撹拌軸10における真空二重管14の挿入、固定位置も実施形態に限定されず、たとえば、モータ7に連結された側の端部にも挿入、固定されてもよい。撹拌軸10の両端部以外にも、支持部がある場合には、これに対応する位置に真空二重管14を挿入、固定してもよい。
真空二重管14の端部の閉塞態様は、キャップ14cによるものに限定されない。
撹拌軸10の撹拌羽根12、スクリュパドル13の形状や数、取り付け間隔(ピッチ)、材質も実施形態に限定されない。軸本体11の形状や材質も、流路11aに真空二重管14を挿入可能な限りにおいて実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1 混練機
2 ケーシング
2a 供給口
2b 排出口
3 ジャケット
4 循環装置
5 グランドパッキン
6 軸受部
7 モータ
8 ロータリジョイント
10 撹拌軸
11 軸本体
11a 流路
11b 仕切り部材
12 撹拌羽根
12a 流路
13 スクリュパドル
14 真空二重管
14´ 二重管
14a 内管
14b 外管
14c キャップ
14d 真空部
14e フランジ
14f シール溝
14g 穴
14h 溶接部
15 スリーブ
20 電子ビーム溶接機
21 台車
22 溶接室
23 陰極
24 陽極
25 グリッド
26 電磁コイル
E 電子ビーム
図1
図2
図3
図4
図5