(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145524
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】心拍データ解析装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/352 20210101AFI20241004BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20241004BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61B5/352 100
A61B5/0245 Z
A61B5/16 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057914
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】和田 一義
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AA10
4C017AA19
4C017AC16
4C017BC14
4C017BC21
4C038PP03
4C127AA02
4C127GG05
4C127GG11
4C127GG13
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】環境変化も考慮して被験者の心拍データから自律神経活動量を推定することのできる心拍データ解析装置を提供する。
【解決手段】被験者の心拍データから算出されるRR間隔をウィンドウごとに読み込んで、心臓の拍動1拍分ごとに値が定まる中間関数を生成する第1処理(21)と、前記中間関数から、固有心拍数又は安静時心拍数の状態(11,12)からの変化分としての直流成分エネルギーと、交流成分エネルギーと、を算出する第2処理(22,23,24)と、前記直流成分エネルギーと前記交流成分エネルギーとの和として、前記ウィンドウに対応する前記被験者の自律神経活動量を推定する第3処理(25)と、を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の心拍データから算出されるRR間隔をウィンドウごとに読み込んで、心臓の拍動1拍分ごとに値が定まる中間関数を生成する第1処理と、
前記中間関数から、固有心拍数又は安静時心拍数の状態からの変化分としての直流成分エネルギーと、交流成分エネルギーと、を算出する第2処理と、
前記直流成分エネルギーと前記交流成分エネルギーとの和として、前記ウィンドウに対応する前記被験者の自律神経活動量を推定する第3処理と、を実行することを特徴とする心拍データ解析装置。
【請求項2】
前記第2処理では、前記中間関数のウィンドウ内での時間平均から算出されるエネルギーから、固有心拍数又は安静時心拍数の状態のエネルギーを減算することで、前記変化分としての直流成分エネルギーを算出することを特徴とする請求項1に記載の心拍データ解析装置。
【請求項3】
前記第2処理では、前記中間関数のウィンドウ内での時間平均を算出したうえで、前記中間関数から当該時間平均を減算して得られる時間領域の交流関数にパーセバル等式を適用することで、周波数領域への変換を行うことなく、前記交流成分エネルギーを算出することを特徴とする請求項1に記載の心拍データ解析装置。
【請求項4】
前記第2処理では、固有心拍数の状態からの変化分としての直流成分エネルギーを算出し、当該固有心拍数の状態として、安静時心拍数の状態から推定した状態を用いることを特徴とする請求項1に記載の心拍データ解析装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項1ないし4のいずれかに記載の心拍データ解析装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍データ解析装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経系を評価する従来技術の例として、特許文献1では疲労を客観的に評価するための指標として自律神経活動量(ccvTP)を、LF値+HF値の総和を時間中の心拍数で補正したものとして利用している。具体的には、トータルパワー(TP)の平方根を,時間中(Window)の平均心拍数「平均(RR)」で除算することで式(PR1)のようにccvTPを算出する。TPは低周波成分LFと高周波成分HFの和「TP=LF+HF」として求める。この低周波/高周波成分LF,HFには式(PR2)~(PR4)を用いる。式(PR4)のC(t)はRR間隔の自己相関関数である。
【0003】
【0004】
ここで、従来技術は、ほぼ一定の平均心拍数からの心拍変動を評価するという考え方に基づいている。ここで、心拍変動は、以下に非特許文献1から引用する通り、交感・副交感神経系の働きが反映されることが医学的に知られており、従来技術はこのような知見を利用して評価を行っている。
【0005】
「心臓への神経支配を遮断すると,洞房結節細胞の固有発火周波数で,心拍動自体は継続する.このときの一定周波数のことを固有心拍数(intrinsic heart rate)と呼ぶ.平均心拍数に対して,交感・副交感神経系の働きにより心拍間隔が上下する変動成分は,特に心拍変動(heart rate variability)と呼ばれる」(非特許文献1より引用)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山本義春. 心拍数の情報論: フィールドの生理学へ向けて. マイクロメカトロニクス, 1999, 43.4: 9-17.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術では「一定の平均心拍数」の前提が成立しない環境においてリアルタイムに評価を行うことができなかった。
【0009】
例えば、被験者が(1)サウナに入る前→(2)サウナに入っている最中→(3)サウナから出た後、という経緯を辿る際に、被験者が置かれる環境は、(1)サウナ外の常温25℃環境→(2)サウナ内の高温100℃環境→(3)サウナ外の常温25℃環境、のように激しく変化する。このような経緯を辿る被験者の自律神経の活動量をリアルタイムで評価することを考えると、被験者の心拍データを解析して自律神経の活動量を適切に評価するためには、心拍データに対して環境変化による平均心拍数の変化の影響を加味したうえでの解析を行う必要があるが、従来技術ではこのような措置は取られていなかった。
【0010】
例えば、周辺雰囲気の温度が25℃から100℃に上昇した場合には、平均心拍数は上昇するが、従来技術では平均心拍数自体の上昇を考慮せずに心拍間隔の変動成分だけで自律神経の活動を評価することで、過度に小さな活動量として見積もってしまうことになった。
【0011】
すなわち、特許文献1の疲労度を定量的に判定する処理システムでは、安静時や座位等と記載されているように、心拍間隔を取得する環境が一定であることを前提としている。その段落[0028]の記載によると、自律神経活動量について、データベースと比較して偏差を求めている。したがって、リアルタイムに当該量の「変化」を求めるには適さない。さらに、その[数3](前掲の式(PR-4))では、自己相関関数C(t)のフーリエ変換が行われている。観測領域(ウィンドウ)が短時間の場合は、サイドローブの影響が顕著に現れる。サイドローブの影響を小さくするために、ある程度の長時間のウィンドウが必要となることから、遅延時間が大きくなる傾向があり、リアルタイムでの評価にも困難が伴う。
【0012】
上記従来技術の課題に鑑み、本発明は、環境変化も考慮して被験者の心拍データから自律神経活動量を推定することのできる心拍データ解析装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は心拍データ解析装置またはプログラムであって、被験者の心拍データから算出されるRR間隔をウィンドウごとに読み込んで、心臓の拍動1拍分ごとに値が定まる中間関数を生成する第1処理と、前記中間関数から、固有心拍数又は安静時心拍数の状態からの変化分としての直流成分エネルギーと、交流成分エネルギーと、を算出する第2処理と、前記直流成分エネルギーと前記交流成分エネルギーとの和として、前記ウィンドウに対応する前記被験者の自律神経活動量を推定する第3処理と、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、心臓の拍動1拍分ごとに値が定まる中間関数を解析対象とし、直流成分エネルギーの算出を固有心拍数又は安静時心拍数の状態からの変化分として行ったうえで自律神経活動量を推定するので、環境変化も考慮して被験者の心拍データから自律神経活動量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る心拍データ解析装置の機能ブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る心拍データ解析装置の動作のフローチャートである。
【
図3】本実施形態の説明例として、中間関数の模式的なグラフ例を示す図である。
【
図4】リアルタイムで処理する際のタイミング及びウィンドウ幅の設定例を示す図である。
【
図5】利用できるその他の中間関数の例を列挙した図である。
【
図6】一般的なコンピュータにおけるハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、一実施形態に係る心拍データ解析装置30の機能ブロック図である。心拍データ解析装置30は、安静時平均間隔推定部11及び固有心拍数推定部12を含む自律神経遮断時推定部10と、中間関数生成部21、加重平均算出部22、DCエネルギー算出部23、ACエネルギー算出部24及び自律神経活動量推定部25を含む自律神経活動時推定部20を備える。
【0017】
図2は、一実施形態に係る心拍データ解析装置30の動作のフローチャートである。ステップS1は、次のステップS2でリアルタイムでの解析処理を行うために必要となる情報を事前に用意しておくためのステップであり、自律神経遮断時推定部10によって実行され、一定環境に置かれて安静状態にある被験者の安静時心拍データ(RR間隔)を取得して、被験者の固有心拍数を推定する。ステップS2は、自律神経活動時推定部20によって実行され、ステップS1で当該推定された固有心拍数の情報も利用することにより、例えば、当該被験者がサウナに出入りする等によってその周辺雰囲気の温度が激しく変化する等の形で、変化しうる環境に置かれている当該被験者の心拍データ(RR間隔)をリアルタイムで取得し、リアルタイムで当該被験者の自律神経活動量を推定する。
【0018】
以下、ステップS1を実行する自律神経遮断時推定部10の各部11,12と、ステップS2を実行する自律神経活動時推定部20の各部21~25の処理内容の詳細を説明する。
【0019】
<安静時平均間隔推定部11>
安静時平均間隔推定部11は、環境が安定しており、環境による外部要因や自身の心理状態による内部要因のいずれによってもストレスを受けない安静状態に置かれた被験者より一定時間に渡る心拍データを取得して、そのRR間隔の平均値(RestRRIとする)を算出して、固有心拍数推定部12へと出力する。当該分野において既知のように、心拍データの取得は、被験者に心電センサを取り付ける等により心電データ時系列を取得し、そのR波の間隔としてRR間隔を、心電データ時系列の順にRR間隔を並べた合計N個の数列データ(i=1,2,3,…番目のRR間隔の値RRIiからなる数列{RRIi|i=1,2,3,…,N})の形で取得すればよく、これらN個の(安静時)RR間隔の平均としてRestRRIを算出すればよい。
【0020】
<固有心拍数推定部12>
固有心拍数推定部12は以下の式(12)により、RestRRIに定数kを乗ずることで固有心拍間隔(UniqueRRIとする)を推定する。なお、定数について例えばk=1.4として、当該推定するためのモデルパラメータ値を予め用意しておく。
UniqueRRI=RestRRI×k …(12)
【0021】
この固有心拍間隔とは、前記引用した非特許文献1の固有心拍数にある際のRR間隔であり、前記「心臓への自律神経支配を遮断」することは現実的に不可能であるため、本実施形態では被験者の安静時のデータであるRestRRIから、仮に当該遮断した場合に取るであろう値を推定する。
【0022】
以上のようにして、各部10,11の処理により、自律神経遮断時推定部10では、UniqueRRIを推定値として算出し、リアルタイムでの解析処理を行う自律神経活動時推定部20へと出力する。自律神経活動時推定部20の各部21~25はこの順番で、以下の通りの処理を行う。
【0023】
<中間関数生成部21>
中間関数生成部21は、変化しうる環境に置かれている被験者からリアルタイムで心拍データとして取得される心電データ時系列から得られるRR間隔をリアルタイムで入力として受け取り、所定幅のウィンドウW内で中間関数を生成して、この中間関数を加重平均算出部22以降の後続の各部22~24へと出力する。ここで、被験者から心拍データからRR間隔を得るために用いるセンサや信号処理は、安静時平均間隔推定部11で説明したのと同様に、任意の既存手法を用いればよい。
【0024】
図3は、中間関数生成部21でRR間隔から生成する中間関数を説明するための、ウィンドウW内での中間関数の模式的なグラフである。RR間隔はそのままでは単なる時間軸方向の数列であるため、これを周波数解析(ただし、本実施形態では後述するように直接の周波数解析の計算は不要となる)するために時系列データである中間関数に変換することが当該技術分野では行われている。中間関数としては、心拍データの解析目的等に応じて多種類の中間関数が提案されており、例えば、中間関数の例として、RR間隔RRI1,RRI2,RRI3,…のそれぞれ(時間軸方向に順次現れる幅)に対して定数の値としてその逆数P1=1/RRI1,P2=1/RRI2,P3=1/RRI3,…を対応付ける中間関数などが存在する。
【0025】
本実施形態では、i番目のRR間隔の値をRRI
iとして、時刻tがRRI
i内にある際の中間関数の値P
i>0を以下の式(21a)ように定義することで、
図3にも模式的に示される通り、時刻tの値P(t)が以下の式(21b)となるように、ウィンドウW内において中間関数を生成する。(すなわち、時刻tがi番目のRR間隔RRI
iの時間範囲内にある場合にP(t)=P
iの値となるものとして中間関数P(t)を定義する。なお、式(21b)でi=1の場合は「0≦t≦RRI
1についてP(t)=P
1を意味する。)
【0026】
【0027】
なお、式(21a)でCoは、一拍あたりのエネルギーが変化する前提で使う係数である。この係数は、心臓の一回拍出量や血管抵抗で定まる。一回拍出量や血管抵抗の変化がないと仮定した場合は、Co=1とすればよい。ウィンドウWのサイズ(ウィンドウ幅)については、
図3の模式例にも示される通り60秒に設定されているものとして、以下でも説明を行う。
【0028】
なお、本実施形態において式(21a),(21b)で定義される、RR間隔の平方根の逆数による中間関数は、本出願人による特許第7221195号の手法と同様であり、同文献の段落[0020]に記載される通りの以下の効果を奏することができる。
「時系列データ全体にわたって1回の拍動あたりのパワースペクトル密度の総和が等しくなるように、時系列データの時間領域表現を最適化しているので、時系列データの時々の所定拍動回数区間のパワースペクトル密度の総和を等しくすることができ、その下で、それぞれのパワースペクトル密度を求めることができる。したがって、それらのパワースペクトル密度を比較するだけで、自律神経の働き具合の経時的変化を正しく評価することができるようになる。」
【0029】
上記の効果は、1回の拍動あたりのエネルギーである式(21b)の値(振幅)の2乗の積分値が以下の式(21c)の通り、一定値Coとなることによる。
【0030】
【0031】
なお、自律神経活動時推定部20の各部21~25はこの順番で、リアルタイムで入力されるRR間隔に対してウィンドウを設定して当該ウィンドウに対して中間関数生成部21で生成された中間関数に対して処理を行い、当該ウィンドウ内での自律神経活動量をリアルタイムで算出することができる。
【0032】
このようにリアルタイム入力されるRR間隔をリアルタイムで処理する際のタイミング及びウィンドウ幅は、
図4の模式例に示されるように、種々の所定の設定を用いてよい。すなわち、
図4の例EX1に示すように、リアルタイムの順次の処理タイミングである時刻t1,t2,t3,…において当該各時刻までのウィンドウW1,W2,W3,…を読み込み、各ウィンドウが接している(あるウィンドウの最後の時刻が次のウィンドウの最初の時刻と一致している)ようにしてもよい。また、例EX2に示すように、リアルタイムの順次の処理タイミングである時刻t4,t5,t6,…において当該各時刻までのウィンドウW4,W5,W6,…を読み込み、各ウィンドウが離れている(あるウィンドウの最後の時刻と次のウィンドウの最初の時刻との間に間隔が存在する)ようにしてもよい。また、例EX3に示すように、リアルタイムの順次の処理タイミングである時刻t7,t8,t9,…において当該各時刻までのウィンドウW7,W8,W9,…を読み込み、各ウィンドウが部分的に重複している(あるウィンドウの最後側の部分と次のウィンドウの最初側の部分とが重複する)ようにしてもよい。また、例EX3では隣接ウィンドウ間の重複割合がウィンドウ幅の2割程度であるが、この重複割合も任意のものを設定できる。(例えばウィンドウ幅の9割が重複して、各ウィンドウが、両隣の2つの隣接ウィンドウよりもさらに遠方のウィンドウとも重複していてもよい。)
【0033】
<加重平均算出部22>
後続の各部23,24において中間関数のAC-DC分離を実現するための前処理として、以下の式(22)の通り、ウィンドウW内での中間関数の加重平均DCmean(中間関数の値に当該値が継続する時間長を重みとして乗じたもののウィンドウW内での平均)を求め、これを後続の各部23,24へと出力する。
【0034】
【0035】
なお、式(22)は
図3に例示した中間関数(すなわち、式(21a)でCo=1)及びウィンドウW位置の場合(すなわち、時刻t[秒]の範囲が0≦t≦60であり、この範囲内に1番目~n番目のRR間隔であるRRI1~RRInの全部と、n+1番目のRR間隔であるRRIn+1の一部分が収まっている)の時間長重み平均の値となっており、右辺において分子の第1項は中間関数のRRI1からRRInまでの時刻範囲の面積(Co=1で値「P
k=1/√RRI
k」に時間長RRI
kを乗じた値「√RRI
k」のk=1,2,…,nに渡る和)であり、分子の第2項は中間関数の最後のRRIn+1の時刻範囲のうちウィンドウ範囲(0≦t≦60)内に収まっている部分の面積であり、分母の60は当該面積の平均を得るためのウィンドウ幅である。ウィンドウ幅やウィンドウ位置などが
図3の個別具体的な場合と異なる一般の場合も同様にして、中間関数のウィンドウ内時間平均として加重平均DCmeanを求めることができ、ウィンドウ幅をWとして以下の式(22b)の通りである。
図3では、当該求めた加重平均DCmeanの位置(中間関数グラフ上の縦軸位置)も模式的に示されている。
【0036】
【0037】
<DCエネルギー算出部23>
DCエネルギー算出部23は、加重平均DCmean及び固有心拍間隔UniqueRRIを用いて、以下の式から中間関数の直流成分エネルギーDCcomponentを算出し、後続の各部24,25へと出力する。
【0038】
【0039】
本実施形態では、この式(23)により、加重平均のエネルギーから、固有心拍間隔UniqueRRIにある際のエネルギー(一定のRR間隔であるため、対応する中間関数は直流成分のみであり交流成分を有しないため、当該エネルギーも直流成分のみで構成される)に相当する「Co/UniqueRRI」(この値は、「√(Co/UniqueRRI)」の2乗であり、固有心拍数が持つエネルギーとなる)を減算することで、固有心拍数の状態をゼロ(原点)とみなして、直流成分エネルギーを算出することができる。なお、式(23)の絶対値内の2項の大小関係の各場合はそれぞれ以下のような状態に対応する。
●DCmeanの2乗>Co/UniqueRRIの場合
平均心拍数が固有心拍数より大きい。すなわち、交感神経が働いている。
●DCmeanの2乗<Co/UniqueRRI
平均心拍数が固有心拍数より小さい。すなわち、副交感神経が働いている。
●DCmeanの2乗=Co/UniqueRRI
交感神経,副交感神経ともに働いていない。すなわち,自律神経を遮断した場合と同等である。
【0040】
<ACエネルギー算出部24>
ACエネルギー算出部24は、加重平均DCmeanを用いて、以下の式(24)から中間関数の交流成分エネルギーACcomponentを算出し、自律神経活動量推定部25へと出力する。
【0041】
【0042】
式(24)の1行目は、任意の交流の時間関数f(t)とそのフーリエ変換F(f)についての関係を示すパーセバル等式であり、時間関数f(t)の平方の総和がそのフーリエ変換F(f)の平方の総和と等しいことを表している。さらに、式(24)の2行目は、この任意の交流関数f(t)に当該ウィンドウ内の中間関数を代入することで、本実施形態ではフーリエ変換(周波数領域への変換)を行うことなく、パーセバル等式の関係から時間関数である中間関数に対して時間領域の演算だけで交流成分エネルギーを算出することができる。なお、式(24)の2行目も、式(22)と同様に
図3の例の場合についての個別具体的な式を例として示しているが、ウィンドウ位置などが
図3と異なる一般の場合も同様に計算することができる。すなわち、ウィンドウ幅Wが一般の場合、式(24)は以下の式(24-b)となる。(なお、式(24)では各項からDCmeanを減算しているが、同様の減算を式(24b)ではその2乗によって一括で実施している。)
【0043】
【0044】
<自律神経活動量推定部25>
自律神経活動量推定部25は、以下の式(25)の通り、直流成分エネルギーと交流成分エネルギーの和として自律神経活動量Totalpowerをリアルタイムで推定する。
Totalpower=ACcomponent+DCcomponent
【0045】
なお、この自律神経活動量Totalpowerは,自律神経が働いた時のエネルギーを数値化したものであり、主にヒトの身体的なストレスの大きさを表わしており、例えば、温度環境が変化した際には,以下のような傾向があることが確認されている。
【0046】
●高温の場合:心拍数が顕著に増加し、血圧は少し上がり、自律神経が働き、身体に負荷がかかる。(交感神経が優位な状態)
●低温の場合:心拍数はあまり変わらないが、血圧は大きく上昇し、自律神経が働き、身体に負荷がかかる。(交感神経が優位な状態)
●常温の場合:リラックスできていれば、身体への負荷が少なくなる。この場合には副交感神経が優位になる。
【0047】
以上、本発明の実施形態によれば、以下に列挙するような効果を奏することができる。
●被験者が異なる環境に置かれ、平均心拍数が大きく異なる場合でも定量的な評価ができる。その理由は、拍動基底としたエネルギーで表現しているため、すなわち、心臓の拍動1拍分をエネルギーとして捉えた式(21a),(21b)の中間関数を利用して、平均心拍数の差分に相当するエネルギーを加算するためである。
●自律神経活動時推定部20はその各部21~25がこの参照符号の通りの順番で演算を行うことができるので、線形処理となる。従って、一拍ずつ時間シフトして演算した結果を定量的に比較できる。リアルタイム処理ができるとともに、自律神経活動量の時間変化を求めることができる。
●時間領域の演算を行っているため、ウィンドウサイズを小さくすることができ、遅延時間を短くすることが可能となり、リアルタイム性を確保することができる。
●固有心拍数が有するエネルギーを0としていることから,副交感神経優位になった場合でも自律神経活動量が多くなる。人体の実際に準拠した結果となる。
【0048】
以下、種々の補足例、追加例、代替例などについて説明する。
【0049】
(1) 本発明の実施形態によれば、自律神経指標のリアルタイムでの高精度な把握が可能となることから、例えば精神的なストレスを原因とする疾病等の予防等へと利用することで、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」に貢献することが可能となる。(なお、データ欠落の一因となる不整脈が偶発的なものではない場合には、別途の医療的な対処が望まれる。)
【0050】
(2) 式(12)で係数kにより安静時RR間隔RestRRIから固有心拍間隔UniqueRRIを推定するものとしたが、k=1としてもよい。換言すれば、式(23)において固有心拍間隔UniqueRRIに代えて安静時RR間隔RestRRIを用いることで、直流成分エネルギーを算出する際のゼロ(原点)とみなす状態として、自律神経遮断時ではなく安静時を用いるようにしてもよい。
【0051】
(3) 中間関数は、式(21a),(21b)で定義されるものを用いる場合について説明したが、心拍データのRR間隔に一致する(横軸の)時間間隔及び/または(縦軸)値をもって心臓の拍動1拍分ごとに値が定まる任意のその他の中間関数を用いるようにしてよい。
図5に、その他に利用可能な中間関数の例を示す。(図中I
kはk番目のRR間隔RRI
kを表す。)例(a)は単位インパルスによる中間関数であり、間隔I
kをもって現れる心臓の拍動1拍分ごとに値(単位値として1の値)が定まるものである。例(b)はビート関数による中間関数であり、時間間隔はΔkとして等しくし、当該間隔Δkごとに値I
kのインパルスを与える。例(c)はスプライン補間による中間関数であり、間隔I
kをもって現れる心臓の拍動1拍分ごとに値I
kの点を与えたうえで、この点をスプライン補間したものである。例(d)は直線補間による中間関数であり、例(c)でスプライン補間に代えて直線補間を用いたものである。例(e)は1/fゆらぎによる中間関数であり、間隔I
kをもって現れる心臓の拍動1拍分ごとに値1/I
kが連続して現れるようにするものである。例(f)は、式(21a),(21b)で定義した通りのものであり、他の例と対比を可能とすべく
図12内にも再掲したものである。
【0052】
(4)
図6は、一般的なコンピュータ装置70におけるハードウェア構成の例を示す図である。心拍データ解析装置30は、このような構成を有する1台以上のコンピュータ装置70として実現可能である。なお、2台以上のコンピュータ装置70で心拍データ解析装置30を実現する場合、ネットワーク経由で処理に必要な情報の送受を行うようにしてよい。コンピュータ装置70は、所定命令を実行するCPU(中央演算装置)71、CPU71の実行命令の一部又は全部をCPU71に代わって又はCPU71と連携して実行する専用プロセッサとしてのGPU(グラフィックス演算装置)72、CPU71(及びGPU72)にワークエリアを提供する主記憶装置としてのRAM73、補助記憶装置としてのROM74(フラッシュROMとして読み書き可能なSSD等であり、HDD等でもよい)、通信インタフェース75、ディスプレイ76、マウス、キーボード、タッチパネル等によりユーザ入力を受け付ける入力インタフェース77、心拍センサ78と、これらの間でデータを授受するためのバスBSと、を備える。
【0053】
心拍データ解析装置30の各機能部は、各部の機能に対応する所定のプログラムをROM74から読み込んで実行するCPU71及び/又はGPU72によって実現することができる。プログラム実行に際して必要な参照データは、補助記憶装置としてのROM74でデータベースを構築して、当該データベースから読み込むようにしてよい。なお、CPU71及びGPU72は共に、演算装置(プロセッサ)の一種である。ここで、表示関連の処理が行われる場合にはさらに、ディスプレイ76が連動して動作し、データ送受信に関する通信関連の処理が行われる場合にはさらに通信インタフェース75が連動して動作する。
【0054】
心拍データ(データ処理されてRR間隔まで加工された状態となる場合も含む)を外部で計測されたものとして取得するのではなく、心拍データ解析装置30自身において取得する場合には、心拍計測機能を提供するセンサとして、任意種類のものを用いてよく、心電信号を取得するECGセンサや脈波信号を取得するPPGセンサや心弾道図信号を取得するBCGセンサ等として構成される心拍センサ78を用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
30…心拍データ解析装置、10…自律神経遮断時推定部、20…自律神経活動時推定部
11…安静時平均間隔推定部、12…固有心拍数推定部
21…中間関数生成部、22…加重平均算出部、23…DCエネルギー算出部、24…ACエネルギー算出部、25…自律神経活動量推定部