(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145530
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/35 20060101AFI20241004BHJP
E04B 1/20 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
E04B1/35 K
E04B1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057923
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(57)【要約】
【課題】複雑な形状の構造物を容易に構築することができる構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】構造物の構築方法は、内部に空間Sが形成されるように、複数の線材によって形成された面状の定着部材11を構築する定着部材構築工程と、外殻用付加製造装置から造形材料を吐出して、定着部材11の少なくとも一方側の面11aに造形材料を噴射して外殻22を構築する外殻構築工程と、定着部材11で形成された空間Sに充填材料41を充填して充填材料硬化体42を構築する内部充填工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間が形成されるように、複数の線材によって形成された面状の定着部材を構築する定着部材構築工程と、
外殻用付加製造装置から造形材料を吐出して、前記定着部材の少なくとも一方側の面に前記造形材料を噴射して外殻を構築する外殻構築工程と、
前記定着部材で形成された前記空間に充填材料を充填して充填材料硬化体を構築する内部充填工程と、を備える構造物の構築方法。
【請求項2】
前記定着部材は、定着部材用付加製造装置によって構築されている請求項1に記載の構造物の構築方法。
【請求項3】
前記定着部材構築工程において、複数の線材で格子状に形成された前記定着部材を設置する請求項1に記載の構造物の構築方法。
【請求項4】
前記定着部材で形成された前記空間内に前記充填材料硬化体を補強する補強材を構築する補強材構築工程を備える請求項2に記載の構造物の構築方法。
【請求項5】
前記補強材は、前記定着部材用付加製造装置によって格子状に構築されている請求項4に記載の構造物の構築方法。
【請求項6】
前記定着部材構築工程及び前記外殻構築工程を繰り返して、前記外殻の少なくとも一方側の面に新たな前記定着部材を構築して、前記定着部材の少なくとも一方側の面に前記造形材料に噴射して新たな前記外殻を構築する請求項1または2に記載の構造物の構築方法。
【請求項7】
シェル状に定着部材を構築する定着部材構築工程と、
付加製造装置から造形材料を吐出して、前記定着部材の少なくとも一方側の面に前記造形材料を噴射して充填材料硬化体を構築する充填材料硬化体構築工程と、を備える構造物の構築方法。
【請求項8】
前記定着部材構築工程及び前記充填材料硬化体構築工程を繰り返して、前記充填材料硬化体の少なくとも一方側の面に新たな前記定着部材を構築して、前記定着部材の両面に前記造形材料を噴射して新たな前記充填材料硬化体を構築する請求項7に記載の構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタ等の付加製造装置で、コンクリートを積層することで型枠を作製して、型枠で囲まれた空間内にコンクリートを打ち込んで、コンクリート構造物を施工する方法が提案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されている方法で、構造物の外面が上方に向かうにしたがって次第に外側に向かって斜めに傾斜するような外形の構造物の型枠を付加製造装置で作製すると、型枠の剛性が低く崩壊する可能性がある。また、シェル状等の複雑な形状の構造物も、剛性の面で制限があるという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複雑な形状の構造物を容易に構築することができる構造物の施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る構造物の構築方法は、内部に空間が形成されるように、複数の線材によって形成された面状の定着部材を構築する定着部材構築工程と、外殻用付加製造装置から造形材料を吐出して、前記定着部材の少なくとも一方側の面に前記造形材料を噴射して外殻を構築する外殻構築工程と、前記定着部材で形成された前記空間に充填材料を充填して充填材料硬化体を構築する内部充填工程と、を備える。
【0007】
このように構成された構造物の構築方法では、充填材料が充填される際の型枠となる外殻は、複数の線材によって形成された面状の定着部材の少なくとも一方側の面に造形材料が噴射された構成である。外殻は、造形材料のみで構成されている場合よりも、耐力と剛性が高められる。このため、支保工やセパレータを省略しても型枠となる外殻のみで充填される充填材料からの圧力に抗することができるようになり、複雑な形状の構造物を容易に構築することができる。
【0008】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、前記定着部材は、定着部材用付加製造装置によって構築されていてもよい。
【0009】
このように構成された構造物の構築方法では、定着部材用付加製造装置によって定着部材が構築されるため、定着部材の構築を自動化することができる。
【0010】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、前記定着部材構築工程では、複数の線材で格子状に形成された前記定着部材を設置してもよい。
【0011】
このように構成された構造物の構築方法では、定着部材構築工程では、複数の線材で格子状に形成された定着部材を設置する。この定着部材にはメタルラスや溶接金網等の市販製品のほか、格子状に組み立てた鉄筋等を用いることができるため、定着部材の調達及び構築が容易である。
【0012】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、前記定着部材で形成された前記空間内に前記充填材料硬化体を補強する補強材を構築する補強材構築工程を備えていてもよい。
【0013】
補強材としては、構造物の主筋(軸方向鉄筋)やせん断補強筋等が用いられ、充填材料硬化体を補強する機能を有している。よって、充填材料硬化体は充填材料が補強材と一体化した構成になり、充填材料硬化体の耐力と剛性を高めることができる。
【0014】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、前記補強材は、前記定着部材用付加製造装置によって格子状に構築されていてもよい。
【0015】
このように構成された構造物の構築方法では、定着部材用付加製造装置によって補強材が格子状に構築されるため、補強材の設置を自動化することができる。また、補強材を定着部材と同時に構築すれば、効率よく構築を進めることができる。
【0016】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、前記定着部材構築工程及び前記外殻構築工程を繰り返して、前記外殻の少なくとも一方側の面に新たな前記定着部材を構築して、前記定着部材の少なくとも一方側の面に前記造形材料を噴射して新たな前記外殻を構築してもよい。
【0017】
このように構成された構造物の構築方法では、定着部材構築工程及び外殻構築工程を繰り返すことによって、充填材料が充填される際の型枠の役割をなす外殻を厚くして耐力と剛性を高めることができる。
【0018】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、シェル状に定着部材を構築する定着部材構築工程と、付加製造装置から造形材料を吐出して、前記定着部材の少なくとも一方側の面に前記造形材料を噴射して充填材料硬化体を構築する充填材料硬化体構築工程と、を備えていてもよい。
【0019】
このように構成された構造物の構築方法では、シェル状に構築された軽量な定着部材の少なくとも一方側の面に造形材料が噴射されて充填材料硬化体が構築される構成である。よって、充填材料硬化体が造形材料のみで構成されている場合よりも耐力と剛性を高めつつ、シェル状の構造物を容易に構築することができる。
【0020】
また、本発明に係る構造物の構築方法では、前記定着部材構築工程及び前記充填材料硬化体構築工程を繰り返して、前記充填材料硬化体の少なくとも一方側の面に新たな前記定着部材を構築して、前記定着部材の両面に前記造形材料を噴射して新たな前記充填材料硬化体を構築してもよい。
【0021】
このように構成された構造物の構築方法では、定着部材構築工程及び充填材料硬化体構築工程を繰り返すことによって、充填材料硬化体を厚くして耐力と剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る構造物の構築方法によれば、複雑な形状の構造物でも容易に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る構造物の構築方法の定着部材構築工程を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る構造物の構築方法の外殻構築工程を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【
図5】本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法の定着部材構築工程を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法の外殻構築工程を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法の内部充填工程を示す斜視図である。
【
図8】本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【
図9】本発明の第四実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る構造物の構築方法について、図面を用いて説明する。
図1は、構造物の構築方法の定着部材構築工程を示す斜視図である。
図2は、構造物の構築方法の外殻構築工程を示す斜視図である。
図3は、構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【0025】
構造物の構築方法は、定着部材構築工程と、外殻構築工程と、内部充填工程と、を備えている。本実施形態に係る構造物の構築方法によって構築される構造物は、柱や梁、壁等にも対応可能である。
【0026】
以下の説明において、完成品となる構造物1を設置した状態で、面1a(
図3参照、以下同じ)に沿う水平方向を第1方向X及び第2方向Yとし、上下方向を上下方向Zとする。
【0027】
まず、定着部材構築工程を行う。
図1に示すように、構造物1の外縁となる4つの面1aの内側に沿って面状の定着部材11を構築する。本実施形態では、3Dプリンタ等の第1付加製造装置(定着部材用付加製造装置)91を用いて、外殻となる定着部材11を構築する。定着部材11は、例えば板状の網状体で形成されている。定着部材11は、構造物1の4つの面1aの内側に沿って、4枚配置されている。定着部材11には、複数の孔Hが形成されている。4枚の定着部材11によって、内部には上下方向に連3通する空間Sが形成されている。なお、XY平面に沿う底面にも定着部材11を配置してもよい。
【0028】
定着部材11は、複数の線材によって面状に形成されている。定着部材11は、金属、合成樹脂、熱可塑性プラスティック、熱硬化性プラスティック、FRP(繊維補強プラスティック)、ガラス、セラミック、木材、セメント系材料、セメント系材料等からなる線材が格子状(ラティス状)に配置されたものであり、必要に応じてこれら複数種類を組み合わせて用いても良い。定着部材11は、格子状、斜め格子状、網目状、連子等に形成されていている。定着部材11は、平面状や曲面状に形成されている。
【0029】
次に、外殻構築工程を行う。
図2に示すように、第2付加製造装置(外殻用付加製造装置)92から造形材料21を吐出して、定着部材11の外側の面11aに造形材料21を噴射する。所定の厚みになれば、造形材料21の噴射を停止して、外殻22が構築される。なお、定着部材11の内側の面11b(
図3参照)にも造形材料21を噴射して、外殻22の厚みを厚くするようにしてもよい。
【0030】
造形材料21には、例えばセメントペースト、モルタル、コンクリート等の水硬性混合物、ジオポリマー組成物、樹脂材料、及び合成繊維や鋼繊維等を水硬性混合物に添加した繊維補強セメント系複合材料等が含まれている。また、プリントヘッドから吐出される材料であって、所定の条件下(例えば、吐出後に所定時間が経過した場合、熱を加えた場合、紫外線が照射された場合等)において硬質化させることが可能な材料であれば、他の材料を使用しても良い。必要に応じてこれら複数種類を組み合わせて用いても良い。
【0031】
造形材料21を噴射した後、外面22aを硬化する前にコテ均ししたり、模様付けしたり等表面加工を行ったりしてもよい。
【0032】
次に、補強材構築工程を行う。
図3に示すように、定着部材11で形成された空間S内に主筋(補強材)31及び帯筋(補強材)32を構築する。複数の主筋31を第1方向X及び第2方向Yに間隔を空けて設置する。複数の主筋31を接続するように帯筋32を上下方向Zに間隔を空けて複数設置する。主筋31及び帯筋32の自立が難しい場合には、不図示の支持部材等で主筋31及び帯筋32が自立できるように支持する。なお、定着部材11の孔Hの大きさ(長さ)は、隣り合う主筋31どうしの隙間Tの長さよりも小さい。
【0033】
次に、内部充填工程を行う。
定着部材11で形成された空間Sに充填材料41を充填する。充填材料41が硬化して、充填材料硬化体42が構築される。充填材料硬化体42は、定着部材11や造形材料21を介して、外殻22と一体化されている。充填材料41には、例えばモルタル、コンクリート等の水硬性混合物、ジオポリマー組成物、合成繊維や鋼繊維などを水硬性混合物に添加した繊維補強セメント系複合材料等が含まれる。なお、空間Sの内部に充填する材料は、外殻部を補強する事が可能な限りにおいて任意の素材を用いることができ、前記材料に限定されない。この材料は、充填を行うために充分な流動性を有し、かつ構造部材として十分な圧縮強度、せん断強度、及び曲げ強度を備える素材を選択することが好ましい。
【0034】
現場で上記の工程を行って構造物1を構築して、直接現場に設置してもよい。あるいは、工場で上記の工程を行って構造物1をプレキャスト部材として構築してもよい。また、工場で外殻22をプレキャスト部材として製造し、現場でこの内部に補強材を挿入して充填材料41を充填してもよい。
【0035】
外殻構築工程を行って1層目の定着部材11及び外殻22を構築した後に、外殻22の外側に2層目の新たな定着部材11を構築する定着部材構築工程を行ってもよい。その後、2層目の定着部材11の外側から造形材料21を噴射して2層目の新たな外殻22を構築する外殻構築工程を行う。定着部材構築工程及び外殻構築工程を、所定の厚さや強度が得られるまで繰り返してもよい。
【0036】
このように構成された構造物の構築方法では、充填材料41が充填される際の型枠となる外殻22は、格子状に形成された面状の定着部材11の面11aに造形材料21が噴射された構成である。外殻22は、造形材料21のみで構成されている場合よりも、耐力と剛性が高められる。このため、支保工やセパレータを省略しても型枠となる外殻のみで充填される充填材料41からの圧力に抗することができるようになり、複雑な形状の構造物1を容易に構築することができる。
【0037】
また、第1付加製造装置91によって定着部材11が格子状に構築されるため、定着部材11の構築を自動化することができる。なお、定着部材11として、メタルラスや溶接金網等の市販製品を所定の形状に加工して設置してもよい。
【0038】
また、定着部材11で形成された空間S内に主筋31及び帯筋32が構築されている。よって、充填材料硬化体42は充填材料41が主筋31及び帯筋32と一体化した構成になり、充填材料硬化体42の耐力と剛性を高めることができる。
【0039】
また、定着部材構築工程及び外殻構築工程を繰り返すことによって、充填材料41が充填される際の型枠の役割をなす外殻22を厚くして耐力と剛性を高めることができる。
【0040】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る構造物の構築方法について、主に
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の第二実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。以下の実施形態の説明において、上述の実施形態と同一又は同様な部材及び部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
【0041】
本実施形態では、第1付加製造装置91を用いて、定着部材11で形成された空間S内に、補強材35を構築する。補強材35は、金属、FRP(繊維補強プラスティック)等からなる線材が格子状(ラティス状)に配置されたものである。補強材35は、複数の線材が一体となって構成されている。補強材構築工程を定着部材構築工程と同時に行ってよいし、補強材構築工程を定着部材構築工程の後に行ってもよい。
【0042】
このように構成された構造物の構築方法では、充填材料41が充填される際の型枠となる外殻22は、格子状に形成された面状の定着部材11の面11aに造形材料21が噴射された構成である。外殻22は、造形材料21のみで構成されている場合よりも、耐力と剛性が高められる。このため、支保工やセパレータを省略しても型枠となる外殻のみで充填される充填材料41からの圧力に抗することができるようになり、複雑な形状の構造物1Aを容易に構築することができる。
【0043】
また、第1付加製造装置91によって補強材35が格子状に構築されるため、補強材35の構築を自動化することができる。また、補強材35を定着部材11と同時に構築すれば、効率よく構築を進めることができる。
【0044】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法について、主に
図5~
図8を用いて説明する。
図5は、本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法の定着部材構築工程を示す斜視図である。
図6は、本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法の外殻構築工程を示す斜視図である。
図7は、本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法の内部充填工程を示す斜視図である。
図8は、本発明の第三実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【0045】
以下の説明において、
図8に示すように、完成品となる構造物1Bの一の面を設置した状態で、対向する2面に沿う方向を第1方向Xとし、第1方向Xと直交する水平方向を第2方向Yとし、第1方向X及び第2方向Yに直交する上下方向を上下方向Zとする。
【0046】
図5に示すように、定着部材構築工程では、上方に開口する箱状に定着部材12を設置する。底面となるXY面、第1方向Xに対向する2面及び長手方向の両端部となるXZ面の2面(
図5では1面のみ示している)に定着部材12を設置する。本実施形態では、第1付加製造装置91を使用せずに、予め作製しておいた定着部材12を所定の位置に設置する。
【0047】
定着部材12は、金属、合成樹脂、FRP(繊維補強プラスティック)等からなる線材が格子状(ラティス状)に配置されたものである。定着部材12は、複数の線材が一体となって構成されている。
【0048】
定着部材12のうち第1方向Xに対向する2面(定着部材12Aとする)は、第1方向Xの両側に膨らむ曲面形状をしている。定着部材12Aは、曲面状に変形させやすいように、金属、FRP(繊維補強プラスティック)等の材料で形成することが好ましい。5枚の定着部材12によって、内部に空間Sが形成されている。なお、全ての定着部材12が、平面状に形成されていてもよい。
【0049】
図6に示すように、外殻構築工程では、第2付加製造装置92から造形材料21を吐出して、定着部材12の外側の面12a(
図8参照)に造形材料21を噴射する。所定の厚みになれば、造形材料21の噴射を停止する。外殻24が構築される。外殻24の厚さは、自立できる厚さが好ましいが、自立が難しい場合には支持部材で支持する。
【0050】
図7に示すように、内部充填工程を行う。定着部材12で形成された空間Sに充填材料41を充填する。充填材料41が硬化して、充填材料硬化体42が構築される。充填材料硬化体42は、定着部材12や造形材料21を介して、外殻24と一体化されている。
【0051】
このように構成された構造物の構築方法では、充填材料41が充填される際の型枠となる外殻24は、格子状に形成された面状の定着部材12の面12aに造形材料21が噴射された構成である。外殻24は、造形材料21のみで構成されている場合よりも、耐力と剛性が高められる。このため、支保工やセパレータを省略しても型枠となる外殻のみで充填される充填材料41からの圧力に抗することができるようになり、複雑な形状の構造物1Bを容易に構築することができる。
【0052】
また、定着部材12Aを曲面状に設置することによって、構造物1Bの外殻24のうち第1方向Xに対向する外面24cを曲面状に形成して、曲面を有する構造物1Bを構築することができる。
【0053】
(第四実施形態)
次に、本発明の第四実施形態に係る構造物の構築方法について、主に
図9を用いて説明する。
図9は、本発明の第四実施形態に係る構造物の構築方法で構築された構造物の断面図である。
【0054】
図9に示すように、本実施形態で構築される構造物1Cは、シェル状の構造物である。定着部材構築工程では、定着部材13をシェル状(ドーム状)に設置する。定着部材13は、金属、合成樹脂、FRP(繊維補強プラスティック)等からなる線材が格子状(ラティス状またはトラス状)に配置されたものである。定着部材13は、複数の線材が一体となって構成されている。
【0055】
充填材料硬化体構築工程では、付加製造装置(不図示)から造形材料21を吐出して、定着部材12の内面及び外面の両面に造形材料21を噴射して充填材料硬化体23を構築する。
【0056】
構造物1Cの厚さが厚い場合には、定着部材構築工程及び充填材料硬化体構築工程を繰り返す。1層目の定着部材13及び充填材料硬化体23の外側に、2層目の新たな定着部材13を構築する定着部材構築工程を行う。その後、2層目の定着部材13の内面及び外面の両面に造形材料21を噴射して2層目の充填材料硬化体23を構築する。定着部材構築工程及び外殻構築工程を、所定の厚さが得られるまで繰り返してもよい。軽量な定着部材13は支柱がなくても大スパンの施工が可能であり、コンクリートが付加されると重量が増すとともに耐力や剛性も増すため、多層化することで支柱なしに高耐力の大スパン構造物を容易に施工することができるようになる。
【0057】
このように構成された構造物の構築方法では、格子状に形成されシェル状に構築された軽量な定着部材13の両面に造形材料21が噴射されて充填材料硬化体23が構築される構成である。よって、充填材料硬化体23が造形材料21のみで構成されている場合よりも耐力と剛性を高めつつ、シェル状の構造物1Cを容易に構築することができる。
【0058】
また、定着部材構築工程及び充填材料硬化体構築工程を繰り返すことによって、充填材料硬化体23を厚くして耐力と剛性を高めることができる。
【0059】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0060】
例えば、定着部材としてメタルラスや溶接金網等の市販製品のほか、格子状に組み立てた鉄筋等を用いてもよい。この場合、定着部材の調達及び構築が容易である。
【0061】
また、第四実施形態では、定着部材の下面(一方側の面)のみに造形材料21を噴射し、上面(他方側の面)は充填材料を打設してもよい。
【0062】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)滑動」がある。本実施形態に係る構造物の構築方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B,1C 構造物
11,12,12A,13 定着部材
21 造形材料
22 外殻
23 充填材料硬化体
31 主筋(補強材)
32 帯筋(補強材)
35 補強材
41 充填材料
42 充填材料硬化体
91 第1付加製造装置(定着部材用付加製造装置)
92 第2付加製造装置(外殻用付加製造装置)
S 空間