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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145545
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電動ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B60T7/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057942
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 将大
(72)【発明者】
【氏名】山田 久雄
(72)【発明者】
【氏名】浦野 達也
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246BA08
3D246DA01
3D246DA02
3D246GA25
3D246GB15
3D246GB22
3D246HA43A
3D246HA48A
3D246HA49A
3D246HA60A
3D246HA64A
3D246HA94A
3D246HB08A
3D246HC01
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB43
3D246JB53
3D246KA09
3D246LA15Z
(57)【要約】
【課題】電動ブレーキ装置と車輪速センサを搭載した車両についてずり下がりの認識精度を向上させる。
【解決手段】本発明の電動ブレーキ制御装置は、車両の車輪に制動力 を発生させる電動ブレーキ装置を制御する制御部と、前記車輪が所定角度だけ回転する毎に車輪速パルスを出力する車輪速センサから、前記車輪速パルスを取得する取得部と、前回の前記車輪速パルスを取得してから今回の前記車輪速パルスを取得するまでの経過時間を算出する算出部と、前記電動ブレーキ装置によって前記車輪に対する制動力が保持されている状態において、前記取得部によって前記車輪速パルスを取得した場合に、今回の前記経過時間が前回の前記経過時間よりも短いときにカウント値を 増加するカウント部と、を備える。前記制御部は、前記カウント値が閾値以上となった場合に、前記電動ブレーキ装置を制御して前記制動力を増大させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に制動力を発生させる電動ブレーキ装置を制御する制御部と、
前記車輪が所定角度だけ回転する毎に車輪速パルスを出力する車輪速センサから、前記車輪速パルスを取得する取得部と、
前回の前記車輪速パルスを取得してから今回の前記車輪速パルスを取得するまでの経過時間を算出する算出部と、
前記電動ブレーキ装置によって前記車輪に対する制動力が保持されている状態において、前記取得部によって前記車輪速パルスを取得した場合に、今回の前記経過時間が前回の前記経過時間よりも短いときにカウント値を増加するカウント部と、を備え、
前記制御部は、前記カウント値が閾値以上となった場合に、前記電動ブレーキ装置を制御して前記制動力を増大させる、電動ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記車両が接地している路面の勾配を検出する勾配検出部と、
前記制動力を保持した時点における前記勾配に応じたパラメータ許容範囲を決定する決定部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記車輪速パルスから算出した前記車両の加速度および/または速度からなるパラメータが前記パラメータ許容範囲に収まっている場合、前記制動力を増大させ、前記パラメータが前記パラメータ許容範囲に収まっていない場合、前記制動力を増大させない、請求項1に記載の電動ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記車両に設けられた所定センサから、前記車両が揺れやすい状況か否かを判定するためのデータである所定データを取得し、
前記電動ブレーキ制御装置は、
前記所定データに基づいて、前記車両が揺れやすい状況か否かを判定する判定部を、さらに備え、
前記制御部は、前記取得部が前記車輪速パルスを取得した場合でも、前記判定部によって前記車両が揺れやすい状況であると判定されたときには、その前後の所定時間内は、前記制動力を増大させない、請求項1または請求項2に記載の電動ブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両(乗用車等)に電動ブレーキ装置(以下、EPB(Electric Parking Brake:電動駐車ブレーキ)ともいう。)が多く採用されている。EPBを制御する電動ブレーキ制御装置は、例えば、モータによって車輪ブレーキ機構を駆動させることで車輪に電動制動力を発生させる。
【0003】
また、坂路に駐車している車両に電動制動力を発生させてその電動制動力を保持するようにしても、車両のずり下がりが発生することがある。そのため、例えば、車輪が所定角度だけ回転する毎に車輪速パルスを出力する車輪速センサが車両に搭載されている場合は、車両のずり下がりが発生したときに車輪速センサから出力される車輪速パルスを検出することで、車両のずり下がりを検知できる。そして、車両のずり下がりを検知した場合、EPBを制御して電動制動力を増大させることで、車両のずり下がりを止めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7058327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術では、駐車中の車両において、実際にはずり下がりが発生していなくても、例えば、人の乗り降りや荷物の積み下ろしやドア(リアハッチも含む。)の開閉など(以下、「人の乗り降りなど」と略記する場合がある。)によって、車両が揺れ、車輪速パルスが検出される場合がある。この場合、上述の従来技術では車輪速パルスの発生の有無から車両のずり下がりを検知しているため、車両にずり下がりが発生したと誤認識してしまい、EPBを制御して電動制動力を増大させてしまう。これにより、EPBに対して余計な負荷がかかってしまうなどの問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、電動ブレーキ装置と車輪速センサを搭載した車両についてずり下がりの認識精度を向上させることが可能な電動ブレーキ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動ブレーキ制御装置は、例えば、車両の車輪に制動力 を発生させる電動ブレーキ装置を制御する制御部と、前記車輪が所定角度だけ回転する毎に車輪速パルスを出力する車輪速センサから、前記車輪速パルスを取得する取得部と、前回の前記車輪速パルスを取得してから今回の前記車輪速パルスを取得するまでの経過時間を算出する算出部と、前記電動ブレーキ装置によって前記車輪に対する制動力が保持されている状態において、前記取得部によって前記車輪速パルスを取得した場合に、今回の前記経過時間が前回の前記経過時間よりも短いときにカウント値を 増加するカウント部と、を備える。前記制御部は、前記カウント値が閾値以上となった場合に、前記電動ブレーキ装置を制御して前記制動力を増大させる。
【0008】
また、上記の電動ブレーキ制御装置では、例えば、前記車両が接地している路面の勾配を検出する勾配検出部と、前記制動力を保持した時点における前記勾配に応じたパラメータ許容範囲を決定する決定部と、をさらに備える。前記制御部は、前記車輪速パルスから算出した前記車両の加速度および/または速度からなるパラメータが前記パラメータ許容範囲に収まっている場合、前記制動力を増大させ、前記パラメータが前記パラメータ許容範囲に収まっていない場合、前記制動力を増大させない。
【0009】
また、上記の電動ブレーキ制御装置では、例えば、前記取得部は、前記車両に設けられた所定センサから、前記車両が揺れやすい状況か否かを判定するためのデータである所定データを取得する。前記電動ブレーキ制御装置は、前記所定データに基づいて、前記車両が揺れやすい状況か否かを判定する判定部を、さらに備える。前記制御部は、前記取得部が前記車輪速パルスを取得した場合でも、前記判定部によって前記車両が揺れやすい状況であると判定されたときには、その前後の所定時間内は、前記制動力を増大させない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
図2図2は、車輪速パルスの発生間隔とずり下がり推定の関係を説明するためのグラフである。
図3図3は、Gセンサ値とずり下がり推定の関係を説明するためのグラフである。
図4図4は、車両のドアの開閉状態とずり下がり推定の関係を説明するためのグラフである。
図5図5は、実施形態のEPB-ECUによる処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電動ブレーキ制御装置などの実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
【0012】
図1に示すように、実施形態の車両用ブレーキ装置は、ドライバの踏力に基づいてサービスブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と、駐車時などに車両の移動を規制するためのEPB2(電動ブレーキ装置)と、を備えている。
【0013】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる液圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をM/C5(マスタシリンダ)内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたW/C6(ホイールシリンダ)に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。
【0014】
また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータであるESC-ACT7が備えられている。ESC-ACT7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
【0015】
ESC-ACT7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)-ECU8にて実行される。例えば、ESC-ACT7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC-ECU8が出力することにより、ESC-ACT7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。
【0016】
例えば、ESC-ACT7は、車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成となっている。
【0017】
また、ESC-ACT7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できるようになっている。このESC-ACT7の構成に関しては、従来から周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0018】
一方、EPB2は、モータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで駐車ブレーキ力(以下、単に「ブレーキ力」という場合もある。)を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB-ECU9(電動ブレーキ制御装置)を有して構成されている。なお、EPB-ECU9とESC-ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
【0019】
車輪ブレーキ機構は、本実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、まず、前輪系の車輪ブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造となっている。一方、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造となっている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいて駐車ブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
【0020】
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0021】
ドア開閉検知センサ22は、車両のドア(リアハッチでもよい。)が開放されると開放信号をEPB-ECU9に送信し、車両のドアが閉鎖されると閉鎖信号をEPB-ECU9に送信する。
【0022】
前後Gセンサ25は、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検出し、検出信号(以下、「Gセンサ値」とも称する。)をEPB-ECU9に送信する。
【0023】
M/C圧センサ26は、M/C5におけるM/C圧を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0024】
温度センサ28は、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0025】
車輪速センサ29は、車輪が所定角度だけ回転する毎に車輪速パルスをEPB-ECU9に送信(出力)する。なお、車輪速センサ29は、実際には各車輪に対応して1つずつ設けられるが、ここでは、詳細な図示や説明を省略する。
【0026】
EPB-ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。
【0027】
EPB-ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作SW23(操作スイッチ)の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB-ECU9は、モータ電流値に基づいてロック制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基づいてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB-ECU9は、インストルメントパネルに備えられた表示ランプ24に対し、モータ10の駆動状態に応じて、車輪がロック状態となっているか否かを示す信号を出力する。表示ランプ24は、受信した信号に応じた表示を行う。
【0028】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって停車させられた際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて駐車ブレーキ力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に駐車ブレーキ力を解除したりするという動作を行う。
【0029】
続いて、上記のように構成された車両用ブレーキ装置においてEPB-ECU9が図示しない内蔵のROMなどに記憶されたプログラムに従って実行する具体的な制御内容について説明する。
【0030】
EPB-ECU9は、機能構成として、取得部91と、算出部92と、勾配検出部93と、決定部94と、カウント部95と、制御部96と、判定部97と、を備える。
【0031】
取得部91は、各種センサなどから各種データを取得する。取得部91は、例えば、車輪速センサ29から、車輪速パルスを取得する。
【0032】
算出部92は、前回の車輪速パルスを取得してから今回の車輪速パルスを取得するまでの経過時間を算出する。
【0033】
カウント部95は、EPB2によって車輪に対する電動制動力が保持されている状態において、取得部91によって車輪速パルスを取得した場合に、今回の経過時間が前回の経過時間よりも短いときにカウント値を1増加する。なお、カウント値は、所定のトリガー(例えば設定時間経過時、駐車開始時等)により、適宜リセットされる。
【0034】
制御部96は、各種制御を実行する。制御部96は、EPB2を制御する。EPB2によって車輪に対する電動制動力が保持されている状態において、制御部96は、カウント値が閾値以上となった場合に、EPB2を制御して電動制動力を増大させる。
【0035】
カウント部95や制御部96などについて、図2も併せて参照して説明する。図2は、車輪速パルスの発生間隔とずり下がり推定の関係を説明するためのグラフである。図2の例では、車両のずり下がりが発生していることを想定している。
【0036】
(a)は、車輪速パルスを示すグラフである。(b)は、カウント値を示すグラフである。(c)は、ずり下がりフラグを示すグラフである。(a)~(c)において、横軸は時間である。
【0037】
(a)に示すように、時刻t1~t5において、車輪速パルスが発生している。また、隣接する車輪速パルス間の経過時間は、順に、経過時間W0~W4であり、次第に短くなっている。よって、(b)に示すように、カウント部95は、時刻t2~t5において、カウント値を1増加する。そして、カウント値が時刻t5で閾値に達すると、(c)に示すように、ずり下がりフラグがOFFからONに切り替わる(つまり、ずり下がり発生と認識する)。そして、制御部96は、EPB2を制御して電動制動力を増大させる。
【0038】
そして、閾値を適切な値に設定しておくことで、次のようにすることできる。実際に車両のずり下がりが発生しているときには、図2に示すように、検出される車輪速パルスの時間間隔が次第に短くなりながら、カウント値が閾値に達する。一方、車両のずり下がりは発生しておらず、人の乗り降りなどによって車両が揺れる場合には、検出される車輪速パルスの時間間隔が次第に短くなりながらカウント値が閾値に達する可能性は低い。
【0039】
これにより、実際に車両のずり下がりが発生している場合には電動制動力を増大させてずり下がりを止めるとともに、実際には車両のずり下がりが発生していないのにずり下がりを誤認識して電動制動力を増大させる可能性を低減することができる。したがって、EPB2に対して余計な負荷がかかってしまう可能性を低減できる。
【0040】
次に、図1図3を参照して、勾配検出部93や決定部94などについて説明する。図3は、Gセンサ値とずり下がり推定の関係を説明するためのグラフである。図3の例では、車両が傾斜角約3°の坂路に駐車していて、車両のずり下がりは発生しておらず、車両の揺れが発生していることを想定している。
【0041】
勾配検出部93は、例えば、前後Gセンサ25による検出信号に基づいて、車両が接地している路面の勾配(車両の前後方向の傾き)を検出する。
【0042】
また、決定部94は、電動制動力を保持した時点における勾配に応じたパラメータ許容範囲を決定する。パラメータ許容範囲とは、車両のずり下がり発生時にパラメータの値として考えられる範囲を指す。
【0043】
用いるパラメータとしては、例えば、以下の(1)~(3)が考えられる。
(1)車輪速パルスから算出した車両の加速度
(2)車輪速パルスから算出した車両の速度
(3)車輪速パルスから算出した車両の加速度および速度
【0044】
(1)の場合のパラメータ許容範囲は、例えば、2[m/s2](約0.2G)以下である。つまり、車両の加速度が2[m/s2]を超えている場合、車両のずり下がりは未発生で、ずり下がり以外(例えば、人の乗り降りなど)に起因する車両の揺れが発生していると考えられる。
【0045】
(2)の場合のパラメータ許容範囲は、例えば、5[km/h]以下である。つまり、車両の速度が5[km/h]を超えている場合、車両のずり下がりは未発生で、ずり下がり以外に起因する車両の揺れが発生していると考えられる。
【0046】
(3)の場合のパラメータ許容範囲は、例えば、「車両の加速度が2[m/s2]以下」、かつ、「車両の速度が5[km/h]以下」である。つまり、車両の加速度および速度がこのパラメータ許容範囲に収まっていない場合、車両のずり下がりは未発生で、ずり下がり以外に起因する車両の揺れが発生していると考えられる。
【0047】
そして、カウント部95は、車輪速パルスから算出した車両の加速度および/または速度からなるパラメータがパラメータ許容範囲に収まっている場合、カウント値を1増加し、パラメータがパラメータ許容範囲に収まっていない場合、カウント値を増加しない。以下では、上記(1)~(3)のうち、(3)を例にとる。
【0048】
図3において、(a)は、車輪速パルスを示すグラフである。(b)は、Gセンサ値を示すグラフである。(c)は、カウント値を示すグラフである。(d)は、ずり下がりフラグを示すグラフである。(a)~(d)において、横軸は時間である。
【0049】
車両は傾斜角約3°の坂路上に駐車しているので、(b)に示すように、Gセンサ値として、0.5[m/s2]の出力が継続する。また、(a)に示すように、時刻t11~t15において、車輪速パルスが発生している。このとき、時刻t12~t15のそれぞれで、車輪速パルスから算出した車両の(推定)加速度と(推定)速度が、上述のパラメータ許容範囲、つまり、「車両の加速度が2[m/s2]以下」、かつ、「車両の速度が5[km/h]以下」という許容範囲に収まっていないものとする。
【0050】
よって、(c)に示すように、カウント部95は、時刻t12~t15において、カウント値を増加しない。したがって、(d)に示すように、ずり下がりフラグはOFFのままとなる(つまり、ずり下がり発生と認識しない)。したがって、EPB2を制御して電動制動力を増大させることはないので、EPB2に対して余計な負荷がかかってしまうこともない。
【0051】
次に、図1図4を参照して、判定部97などについて説明する。図4は、車両のドアの開閉状態とずり下がり推定の関係を説明するためのグラフである。図4において、(a)は、車輪速パルスを示すグラフである。(b)は、ドア状態を示すグラフである。(c)は、カウント値を示すグラフである。(d)は、ずり下がりフラグを示すグラフである。(a)~(d)において、横軸は時間である。
【0052】
取得部91は、車両に設けられた所定センサから、車両が揺れやすい状況か否かを判定するためのデータである所定データを取得する。ここでは、例として、取得部91は、車両に設けられたドア開閉検知センサ22から、ドアの開放信号、閉鎖信号を取得するものとする。
【0053】
また、判定部97は、所定データ(ドアの開放信号、閉鎖信号など)に基づいて、車両が揺れやすい状況か否かを判定する。
【0054】
また、カウント部95は、取得部91が車輪速パルスを取得した場合でも、判定部97によって車両が揺れやすい状況であると判定されたときには、その前後の所定時間内は、カウント値を増加しない。以下の例では、カウント値を増加しない時間帯である所定時間を「マスク時間」として設定する場合を例にとる。マスク時間とは、車輪速パルスが発生してもカウント値を増加させない時間であるとともに、すでにカウント値を増加させている場合はその増加をキャンセルする時間である。
【0055】
図4の例では、車両のドアの開閉動作により、車両の揺れが発生し、車輪速パルスが発生することを想定している。(a)に示すように、時刻t22、t24、t25、t28、t30、t31において、車輪速パルスが発生している。
【0056】
また、(b)に示すように、時刻t23で、取得部91がドアの開放信号を取得し、判定部97がドアの開放信号に基づいて車両が揺れやすい状況であると判定したものとする。
【0057】
これに応じて、カウント部95は、時刻t23の前後の所定時間である時刻t21~t26(符号M1)をマスク時間に設定する。これにより、(c)に示すように、時刻t22、t24およびt25で車輪速パルスの発生によりカウント値が1増加しているが、その増加をキャンセルする。なお、カウント値が増加した後その増加をキャンセルする代わりに、マスク時間中は車輪速パルスが発生してもカウント値を増加しないようにしてもよい。
【0058】
また、(b)に示すように、時刻t29で、取得部91がドアの閉鎖信号を取得し、判定部97がドアの閉鎖信号に基づいて車両が揺れやすい状況であると判定したものとする。
【0059】
これに応じて、カウント部95は、時刻t29の前後の所定時間である時刻t27~t32(符号M2)をマスク時間に設定する。これにより、(c)に示すように、時刻t28、t30およびt31で車輪速パルスの発生によりカウント値が1増加しているが、その増加をキャンセルする。なお、カウント値が増加した後その増加をキャンセルする代わりに、マスク時間中は車輪速パルスが発生してもカウント値を増加しないようにしてもよい。
【0060】
よって、(d)に示すように、ずり下がりフラグはOFFのままとなる(つまり、ずり下がり発生と認識しない)。したがって、EPB2を制御して電動制動力を増大させることはないので、EPB2に対して余計な負荷がかかってしまうこともない。
【0061】
次に、図5を参照して、EPB-ECU9による処理について説明する。図5は、実施形態のEPB-ECU9による処理を示すフローチャートである。図5の処理は、車両が駐車していて、かつ、EPB2によって車輪に対する電動制動力が保持されている状態であることを前提とする。
【0062】
まず、ステップS1において、判定部97は、所定データ(ドアの開放信号、閉鎖信号など)に基づいて、車両が揺れやすい状況か否かを判定し、Yesの場合はステップS2に進み、Noの場合はステップS3に進む。
【0063】
ステップS2において、カウント部95は、その前後の所定時間をマスク時間として設定する(図4)。
【0064】
ステップS3において、取得部91は、車輪速パルスを取得したか否かを判定し、Yesの場合はステップS4に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0065】
ステップS4において、算出部92は、前回の車輪速パルスを取得してから今回の車輪速パルスを取得するまでの経過時間を算出する。
【0066】
次に、ステップS5において、カウント部95は、今回の経過時間が前回の経過時間よりも短いか否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0067】
ステップS6において、カウント部95は、現在がマスク時間か否かを判定し、Yesの場合はステップS1に戻り、Noの場合はステップS7に進む。なお、現在がマスク時間であって、かつ、マスク時間内ですでにカウント値を増加させている場合(図4(c)の時刻t23、t29)、カウント部95は、その増加をキャンセルする。
【0068】
ステップS7において、カウント部95は、車輪速パルスから算出した車両の加速度がパラメータ許容範囲(例えば2[m/s2]以下)内であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS8に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0069】
ステップS8において、カウント部95は、車輪速パルスから算出した車両の速度がパラメータ許容範囲(例えば5[km/h]以下)内であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS9に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0070】
ステップS9において、カウント部95は、カウント値を1増加する。
【0071】
次に、ステップS10において、制御部96は、カウント値が閾値以上であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS11に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0072】
ステップS11において、制御部96は、EPB2を制御して電動制動力を増大させる。
【0073】
このようにして、本実施形態のEPB-ECU9(電動ブレーキ制御装置)によれば、車輪速パルスの発生間隔が短縮傾向にあるときにカウント値を増加させ、そのカウント値が閾値に達したときに車両のずり下がりが発生したと認識する。これにより、車両のずり下がりの認識精度を向上させることができる。したがって、車両の揺れに起因してずり下がりと誤認識して不要なリクランプ(電動制動力の増加)をしてしまう事態を回避でき、EPB2への負荷を低減できる。
【0074】
また、車両が接地している路面の勾配に応じたパラメータ許容範囲を用いることで、車両のずり下がりでは考えられない車両の加速度や速度が発生しているときに、車両のずり下がりは発生していないと認識することができる。つまり、例えば、坂路勾配が小さい場合は車両のずり下がりが起きる可能性は低いが、路面の勾配に応じたパラメータ許容範囲を車両のずり下がり認識の条件に加えることで、不要なリクランプをより確実に回避でき、EPB2への負荷を低減できる。
【0075】
また、ドアの開放信号、閉鎖信号などを用いて車両が揺れやすい状況か否かを判定し、車両が揺れやすい状況では車輪速パルスのカウント値を増加させないことで、車両のずり下がりの誤認識をより確実に回避できる。例えば、人の乗り降りや荷物の積み下ろしやドア(リアハッチなども含む。)の開閉などがあった場合、そのタイミングの前後は、車両のずり下がりがなくても、車両の揺れに起因して車輪速パルスが発生する傾向にある。したがって、そのタイミングの前後はカウント値を増加しないことで、車両のずり下がりと誤認識することによる不要なリクランプを回避し、EPB2への負荷を低減できる。また、例えば、荷物の積み込み中に車両のずり下がりが発生した場合、所定時間外であればカウント値を増加してリクランプを行うため、安全性も確保できる。
【0076】
(変形例)
以下、変形例について説明する。上述の例では、対象とする車輪の数や位置について特に言及しなかったが、例えば、1つの車輪を対象とするよりも、2つ以上の車輪を対象とするほうが好ましい。例えば、2つ以上の車輪について、車輪速パルスの発生間隔に同じような短縮傾向がある場合に、車両のずり下がりが発生していると認識するようにすればよい。
【0077】
また、上述の実施形態では、今回の経過時間が前回の経過時間よりも短いときにカウント値を1増加しているが、今回の経過時間が前回の経過時間よりも極端に短くなった場合には、カウント値を2以上増加するようにしてもよい。例えば、前回の経過時間から今回の経過時間を引いた差が所定の値よりも大きい場合は、カウント値を2増加してもよい。また、他の条件を組み合わせ、条件を満たした場合には車輪速パルスの発生回数よりも多くカウント値を増加させるよう重みづけしてもよい。
【0078】
また、例えば、2つ以上の車輪について、車輪速パルスの発生間隔に短縮傾向があっても、短縮の度合いに不一致がある場合は、車両のずり下がりが発生していないと認識するようにしてもよい。
【0079】
また、例えば、2つの車輪について、車輪速パルスの発生間隔に短縮傾向があっても、一方の車輪の車輪速パルスから算出される車速と、他方の車輪の車輪速パルスから算出される車速に不一致がある場合(例えば、1[km/h]と5[km/h])は、車両のずり下がりが発生していないと認識するようにしてもよい。
【0080】
また、2つの車輪を対象とする場合、例えば、1つの前輪と1つの後輪を対象とすることで、車両のずり下がりの誤認識の可能性をさらに低減できる。
【0081】
また、車両が揺れやすい状況としては、ドアの開閉動作時に限定されない。ほかに、例えば、車両がキャリアカーや牽引車や船などで運ばれている場合が考えられる。その場合、例えば、車両にキャリアカーモードがあれば、キャリアカーモードがオンになっていることで、キャリアカーで運ばれていることを認識できる。
【0082】
また、例えば、車両に搭載されたカメラで周囲を撮影することで、車両がキャリアカーなどで運ばれていることを認識できる。
【0083】
また、例えば、GPS(Global Positioning System)信号から算出した車両速度と、車輪速パルスから算出した車両速度が不一致であることで、車両がキャリアカーなどで運ばれていることを認識できる。
【0084】
また、例えば、車両が牽引車で運ばれる場合は、車両と牽引車を連結するときのトーイングの信号を取得できれば、その信号の取得によって、車両が牽引車で運ばれることを認識できる。
【0085】
また、車両の重量の情報を取得できるのであれば、重量の変化から、人の乗り降りや荷物の積み下ろしなどを推定することができる。
【0086】
また、シートベルトの装着状態の情報を取得できるのであれば、その情報から、人の乗り降りを推定することができる。
【0087】
それらの場合、人の乗り降りなどを推定した時刻の前後の所定時間をマスク時間とすればよい。
【0088】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造、種類、数等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0089】
例えば、本発明の実施形態では、車両のずり下がりを認識した場合に電動制動力を増大させることで車両のずり下がりを止めているが、代わりにブレーキ液圧による液圧制動力を増大させることで車両のずり下がりを止めてもよい。また、本発明は、電動駐車ブレーキに限らず、制動力を保持可能な電動ブレーキ装置に適用してもよい。
【0090】
また、車両が揺れやすい状況としては、上述した例に限定されず、ほかに、子どもが車両内で大きく動いている場合などが挙げられる。
【0091】
また、図5のフローチャートにおいて、ステップS1、S2、S6、S7、S8の処理は必須の処理ではなく、適宜、省略してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…ESC-ACT、8…ESC-ECU、9…EPB-ECU、23…操作SW、24…表示ランプ、25…前後Gセンサ、26…M/C圧センサ、28…温度センサ、29…車輪速センサ、91…取得部、92…算出部、93…勾配検出部、94…決定部、95…カウント部、96…制御部、97…判定部。
図1
図2
図3
図4
図5