(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145551
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】生産計画立案装置、生産計画立案プログラム、および生産計画立案方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20241004BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G06Q10/04
G05B19/418 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057951
(22)【出願日】2023-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-09
(71)【出願人】
【識別番号】504283220
【氏名又は名称】Qsol株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】恒住 武男
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲
(72)【発明者】
【氏名】三浦 朋希
【テーマコード(参考)】
3C100
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA12
3C100AA13
3C100AA16
3C100BB01
3C100BB13
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】最適な生産計画を迅速に立案し得る生産計画立案装置などを提供する。
【解決手段】生産計画立案装置1は、入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置1であって、生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段13と、記憶手段13に記憶された情報を入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段14と、メタヒューリスティクスモデルを用いて、ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段15と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
を有する生産計画立案装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、制約条件および改案ルールが記憶され、
前記第2演算手段は、前記制約条件を満たすことを前提として、前記改案ルールおよびランダム性に基づいて前記ベース案を改案する請求項1に記載の生産計画立案装置。
【請求項3】
前記第1演算手段は、複数の最適化観点に基づく複数の前記ベース案を作成する請求項1に記載の生産計画立案装置。
【請求項4】
前記第2演算手段は、前記改案ルールとして、生産計画全体における評価結果と、生産計画工程個別における評価結果とに基づいて、改善効果が期待できる改案方式を採用することにより、前記ベース案を改案する請求項2に記載の生産計画立案装置。
【請求項5】
前記第1演算手段は、製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件として作成される第1ベース案と、生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成される第2ベース案と、を作成し、
前記第2演算手段は、前記第1ベース案および前記第2ベース案を改案することで複数の前記生産計画案を作成する請求項1~4のいずれか1項に記載の生産計画立案装置。
【請求項6】
コンピュータを、
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
を有する生産計画立案装置として動作させる生産計画立案プログラム。
【請求項7】
記憶手段により、生産計画を立案するために必要な情報を記憶すること、
第1演算手段により、前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成すること、
第2演算手段により、メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成すること、
を含む、生産計画立案方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適な生産計画を自動で立案する生産計画立案装置、およびコンピュータを生産計画立案装置として動作させるプログラム、最適な生産計画を立案する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工、機械組立、化学や食品製造などの様々な業種において、最適な生産計画の立案は、どの業種においても求められている。そのため、より最適な生産計画の立案を目的とした技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、作業者と機械の作業能力の情報を用いて、工場の管理を最適化する機能を提供する工場管理装置などが記載されている。そして、この工場管理装置は、予測された工場の生産能力を用いて、所定の生産性指標を満足する工場の計画を立案するものであるが、その予測には、作業者の動作を計測した作業者計測情報や、工場の生産設備である機械の稼働状態を示す所定の値を計測した機械計測情報などが用いられている。
【0004】
一方、特許文献2には、過去に立案された各製品の生産計画に関する履歴情報に基づいて、各製品を生産する際の各制約条件を考慮しつつ、各製品の生産順を含む計画パターンを算出し、計画パターンに従って、各製品の生産順序を並べ替えて各製品の生産計画に関する複数の計画候補を作成した後、各制約条件に応じた評価指標に基づいて、複数の計画候補を評価し、複数の計画候補のうちから最良の生産計画を選出する生産計画作成装置などが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、計画の仕様を特定する複数の要素に関する仕様情報と、複数の要素の各々についての制約条件を規定した制約条件情報とを基に、計画の候補となる複数の計画候補を立案して、各計画データを評価し、各計画データに対する評価結果を示す複数の評価データを生成する計画立案システムが記載されている。また、この計画立案システムは、計画データをユーザ用端末に送信し、各計画データに対するユーザの評価結果を示すユーザデータを学習データとして学習し、学習結果から各計画候補に対する評価学習器を構築し、さらに、評価学習器による評価予測値に対する予測信頼度を評価するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-117538号公報
【特許文献2】特許第6764025号公報
【特許文献3】特許第7228470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、実業務で活用するためには、最適な生産計画であることに加え、迅速に生産計画を立案することも求められている。生産計画は、例えば製造する品目、数量、使用する機械などが多かったり、製造時間が長かったりと、様々な条件が課せられることから、最適な生産計画を立案するには時間を要するものである。そうすると、特許文献1~3の技術はより最適な生産計画を立案することを目的としているものであるため、考慮すべき条件が多い複雑な生産計画を立案する場合は、生産計画の立案に要する時間がかかったり最適な生産計画を立案できなかったりするおそれがある。
【0008】
よって、本発明は、最適な生産計画を迅速に立案し得る生産計画立案装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生産計画立案装置は、入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、記憶手段に記憶された情報を入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、メタヒューリスティクスモデルを用いて、ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、を有する。
【0010】
これにより、記憶手段に記憶された情報を入力データとして、第1演算手段により数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案が作成され、第2演算手段によりメタヒューリスティクスモデルを用いて、このベース案が改案(ブラッシュアップ)される。
【0011】
ここで、記憶手段は、制約条件および改案ルールが記憶され、第2演算手段は、制約条件を満たすことを前提として、改案ルールおよびランダム性に基づいてベース案を改案するものであることが好ましい。
また、第1演算手段は、単一のベース案ではなく、複数の最適化観点に基づく複数のベース案を作成するものであることが好ましい。
【0012】
特に、第2演算手段は、改案ルールとして、生産計画全体における評価結果と、生産計画工程個別における評価結果とに基づいて、改善効果が期待できる改案方式を採用することにより、ベース案を改案するものであることがさらに好ましい。
また、第1演算手段は、製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件として作成される第1ベース案と、生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成される第2ベース案と、を作成し、第2演算手段は、第1ベース案および第2ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成するものであることがさらに好ましい。
【0013】
なお、本発明の生産計画立案プログラムは、コンピュータを、入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、記憶手段に記憶された情報を入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、メタヒューリスティクスモデルを用いて、ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、を有する生産計画立案装置として動作させるプログラムである。
【0014】
そして、本発明の生産計画立案方法は、記憶手段により、生産計画を立案するために必要な情報を記憶すること、第1演算手段により、記憶手段に記憶された情報を入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成すること、第2演算手段により、メタヒューリスティクスモデルを用いて、ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成すること、を含む方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生産計画立案装置は、斯かる構成により、記憶手段に記憶された情報を入力データとして、第1演算手段により数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案が作成され、第2演算手段によりメタヒューリスティクスモデルを用いて、このベース案が改案されるため、第1演算手段において、遵守すべき制約条件のうち、特に重要度が高くてかつ数式に表現可能な条件を満たす初期解を探索し、それを初期解(ベース案)とすることで、第2演算手段の初期探索の段階で、一定の評価値となる生産計画案からスタートすることができる。
よって、第2演算手段において、改案回数を削減することができ、かつ解の安定性を向上させることができるため、結果として、最適な生産計画を立案するために要する時間を短縮することができる。
【0016】
なお、本発明の生産計画立案プログラムおよび生産計画立案方法によれば、本発明の生産計画立案装置と同等の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る生産計画立案装置の概略機能ブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る生産計画立案方法の概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0019】
[生産計画立案装置]
図1は、本発明の実施形態に係る生産計画立案装置の概略機能ブロック図である。
生産計画立案装置1は、
図1に示すように、入力手段11、出力手段12、記憶手段13、第1演算手段14、第2演算手段15、傾向抽出手段16を有する。
【0020】
入力手段11とは、外部装置からの情報(データ)の入力を受け付ける機能である。外部装置とは、例えばパソコン、タブレット、スマートフォンといった端末やデータベースなどである。
【0021】
出力手段12とは、前述したような外部装置へ、生産計画立案装置1が立案した生産計画を出力させる機能である。例えば、出力手段12は、利用者のパソコンの表示手段(ディスプレイ)へ立案した生産計画を表示させることができる。また、出力手段12は、データベースへ出力したり、ファイル(CSVファイルやテキストファイルなど)として出力したりすることもできる。
【0022】
記憶手段13は、外部装置から入力された各種情報を記憶する機能であり、例えばメモリやデータベースなどである。また、記憶手段13には、生産計画立案装置1を動作させるためのプログラム、後述する生産計画立案に用いられる情報、制約条件および改案ルール(制約条件および改案ルールのロジックが記述されたプログラムコードを含む)、または振る舞いなどに関する設定が管理された設定ファイル、生産計画を立案する際に生成される一時的な情報や学習済みモデルなども記憶される。
【0023】
第1演算手段14は、記憶手段13に記憶された情報を入力データとして、数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する機能である。
【0024】
第2演算手段15は、メタヒューリスティクスモデルを用いて、第1演算手段14が作成したベース案を改案(ブラッシュアップ)することで、複数の生産計画案を作成する機能である。
【0025】
第1演算手段14がベース案を作成するために入力データとして用いる情報は、
(1)手配情報(製造する品目および工程(以下「品目/工程」という)、数量、納期(製造期限))
(2)製造に使用する機械の情報(機械の種類、機械の必要電力量など)
(3)製造に使用する工具や金型などの副資材の情報
(4)生産能力(製造に使用する各機械の生産能力であり、対象品目/工程の生産可否や必要とされる製造時間や副資材)
(5)各機械の休日・不稼働情報
などである。製造する品目/工程とは、例えば、A製品の溶接工程、B製品の組み立て工程などである。
第1演算手段14および第2演算手段15は、これらの情報を元に、生産計画の立案を行う。
なお、これらの情報は入力手段11から入力され、記憶手段15に記憶される。
【0026】
生産計画立案装置1(第1演算手段14、第2演算手段15)は、入力されたデータのうち、様々な制約条件を遵守した上で、納期内に必要数量を効率的に生産可能であることを目指して生産計画を立案する。ここで、制約条件の一例を挙げると、製造する品目/工程は、生産可能な機械により製造されること、また、製造する品目/工程間で前後関係がある場合は、時系列に沿ってその順番が守られていること、などがある。
【0027】
つまり、第1演算手段14は、一例として挙げた上記制約条件から選択される一部または全部の条件を遵守しつつ、その他の情報を考慮して、最適な生産計画のベース案を作成する。
【0028】
ここで、第1演算手段14は、最適化観点を変えてベース案を複数作成することができる。最適化観点とは、上記制約条件とは別に設けられる、作成された生産計画の良さを評価するための観点であり、この観点を変えてベース案を作成することで、異なる最適化観点に基づくベース案が作成される。
具体的には、第1演算手段14は、製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件として作成される第1ベース案と、生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成される第2ベース案と、を作成する。
【0029】
第2ベース案は、機械間の負荷分散などを考慮せずに、製造する品目/工程ごとに、生産能力が最も高い機械にて製造するように作成されたベース案である。
これは必ずしも数理最適化モデルを用いる必要はなく、各制約条件を、条件分岐の処理で判断してベース案を作成することができる。第2ベース案を作成する際に考慮する制約条件は、原則第1ベース案と同様であるが、各条件分岐の処理により一つの結果のみが単純に導き出される。
【0030】
一方、第1ベース案は、数理最適化モデルを用いて作成されたベース案であり、生産能力よりも、各機械間の負荷分散などを考慮して(例えば、特定の機械にかかる負荷が低減されるように)作成されたベース案である。
以上のように、第1演算手段14は、数理最適化モデルを用いてベース案を作成することができ、条件分岐で処理するルールベースモデルを用いてベース案を作成することもでき、これら両方を用いてベース案を作成することもできる。
【0031】
なお、数理最適化は、制約条件の数やデータ数により組合せ数が膨大になることで、処理時間が急激に増大する事象(組合せ爆発)が発生し得る。そのため、第1演算手段14は、この組合せ爆発の発生を防ぐために、ベース案を作成する際に以下の制御を取り入れることができる。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間を設け、途中中断する(途中中断した場合は、その時点で見つかった解(ベース案)を最適解とする)。
【0032】
そして、第2演算手段15は、これらのベース案を改案することで、複数の生産計画案を作成する。第2演算手段15により作成される生産計画案の数は、適宜設定変更可能である。
【0033】
[生産計画立案方法]
図2は、本発明の実施形態に係る生産計画立案方法の概略フロー図である。
続いて
図1,2を参照して、生産計画立案装置1を用いた、本発明の実施形態に係る生産計画立案方法について説明する。
【0034】
まず、生産計画立案装置1に、外部装置から、入力手段11を介して、前述したような入力データとして用いられる各種情報が入力される(ステップS101)。入力された情報は、記憶手段13に記憶される。
なお、この際、生産計画立案に関する条件(例えば、最優先条件は何とするか、次に優先すべき条件は何とするか、その次に優先すべき条件は何とするか、など)やその条件に応じた振る舞い(生産計画案の立案方針)などの情報も、記憶手段13に記憶される。
【0035】
そして、第1演算手段14は、前述したように、記憶手段13に記憶された情報を入力データとして、ベース案を複数作成する(ステップS102)。ベース案は、第1ベース案,第2ベース案のように条件を変えて作成されたものを、さらに条件を変えて複数(3つ、4つ、5つ以上)作成することができる。
【0036】
その後、第2演算手段15により、第1演算手段14が作成したベース案が改案(ブラッシュアップ)され(ステップS103)、複数の生産計画案が作成される(ステップS104)。
【0037】
作成された複数の生産計画案は、出力手段12により、外部装置へ出力される(ステップS105)。
【0038】
このように、本発明の生産計画立案装置および生産計画立案方法は、第1演算手段14(数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデル)および第2演算手段15(メタヒューリスティクスモデル)と、複数の異なるモデルを用いて生産計画案を作成するものである。
【0039】
数理最適化モデルは、数式に表すことができないような複雑な事象において最適解を探し出すことには長けていないが、比較的単純な組合せ問題を論理的に解くことには長けている。また、ルールベースモデルは、条件分岐により論理的かつ単純に問題を解くものである。そのため、最も最適な解とは言えないが、第1演算手段14により、最優先の制約条件はしっかりと遵守されたベース案を早く作成することができる。
【0040】
一方、メタヒューリスティクスモデルは、一般的に大規模な組合せ問題にも対応しているが、ランダム性を有する発見的手法である。そのため、メタヒューリスティクスモデルを用いて、ゼロから(入力データから)生産計画案を作成する場合、複雑な制約条件が多数存在し、かつデータ数も膨大となり得る生産計画の立案においては、解を安定させるために多くの改案回数を要し、結果として処理時間が膨大なものとなってしまう。加えて、解が安定する保証もない。
【0041】
しかし、本発明においては、第1演算手段14により最優先の制約条件が遵守されたベース案が作成されているため、第2演算手段15は生産計画案を作成するまでの処理時間を短縮できる。
【0042】
要するに、生産計画立案装置1は、第1演算手段14において、遵守すべき制約条件のうち、特に重要度が高くてかつ数式に表現可能な条件(例えば、品目/工程ごとの各機械での生産可否など)を満たす初期解を探索し、それを初期解(ベース案)とすることで、第2演算手段15の初期探索の段階で、一定の評価値となる生産計画案(全く非効率な生産計画案ではなく、ある程度効率的な生産計画案)からスタートすることができる。
よって、第2演算手段15において、改案回数を削減することができ、かつ解の安定性を向上させることができる。
【0043】
また、第1演算手段14が、異なる条件に基づいて異なるベース案(第1ベース案,第2ベース案)を作成することにより、いわばスタート地点が異なる改案対象が複数用意されているため、第2演算手段15は、様々なパターンの生産計画案を複数作成することができる。
【0044】
また、第2演算手段15が行う改案方法に改案ルール(以下、単に「ルール」という)を設けることで、さらに最適解が安定するまでの処理時間を短縮することができる。つまり、第2演算手段は、生産計画全体における評価結果と、生産計画工程個別における評価結果とに基づいて、改善効果が期待できる改案方式を採用してベース案を改案することにより、最適な生産計画を立案するために要する時間を短縮することができる。
例えば、第2演算手段15は、第1演算手段14により作成された複数の生産計画工程を含むベース案について、複数の生産計画工程のうち、時系列を考慮した生産計画工程の入れ替えにより、ベース案を改案するようにできる。つまり、この場合、「時系列を考慮する」というルールが設けられている。
【0045】
具体的には、第2演算手段15は、以下のようなルールに基づいてベース案を改案することができる。
(1)前工程の製造完了待ちにより待機となった生産計画工程が存在した場合、時系列を考慮した上で他機械の生産計画工程を一部選択し、待機となった生産計画工程の前に移動させる。
(2)納期までに製造完了できない生産計画工程が存在した場合、その生産計画工程の製造順番を早める。
(3)最も遅く製造が完了する機械(負荷が高い機械)の一部生産計画工程を、最も早く製造が完了する機械(負荷が低い機械)に移動させる。
【0046】
ここで、例示した上記ルールに該当し得る全ての生産計画工程を一律同じルールで改案してしまうと、改案が決まった形でしか進まず、発見的な生産計画とならないおそれがある。
そのため、例えば、上記ルールに該当し得る全ての生産計画工程のうち、一部をランダムに選択して改案したり、移動先の機械をランダムに選択したりすることが好ましい。また、可能な限り様々なパターンの解を生成し評価できるように、一度作成した解と同一の解が生成された場合、その解を廃棄して再生成を行うことが好ましい。
【0047】
その他、生産計画立案装置1は、前述したような機械の電力情報(製造に使用される1以上の機械の電力情報)や製造する品目/工程と機械の組合せの優先度を入力データとして、生産計画案を立案することができる。
【0048】
(電力情報)
具体的には、記憶手段13には、製造に使用される1以上の機械の電力情報が記憶され、第1演算手段14は、前述した入力データに加えて、さらにこの電力情報を入力データとして、工場全体の消費電力を低減させることを優先条件として生産計画のベース案を作成する。そして、第2演算手段15は、このベース案を、工場全体の消費電力を低減させることを優先条件として改案する。
例えば、第1演算手段14や第2演算手段15は、同時に稼働する機械の数を調整する(平準化する)ことで、工場全体の消費電力が低減するように、ベース案を作成したりベース案を改案したりする。
【0049】
このように、機械の電力情報を生産計画立案のための入力データとして用いることで、工場全体の消費電力が抑えられた(省エネを実現し得る)生産計画を立案することができる。
【0050】
(品目/工程と機械の組合せの優先度)
さらに、生産計画立案装置1は、製造する品目/工程と機械の組合せの優先度を入力データとして、生産計画案を立案することができる。
要するに、生産計画立案装置1は、この手配情報におけるこの品目/工程は、機械の生産能力に関わらず、この機械でよく製造される、という考えに基づいて生産計画を立案する。可能な限り同じ製品を同じ機械で製造した方が、金型の交換作業などの段取り時間(準備時間)を削減でき、効率的となる場合がある。
このような情報は、第1演算手段14や第2演算手段15が、入力手段より入力された(記憶手段15に記憶された)優先度を参照したり、後述する過去の生産計画データから抽出した傾向から判断したりすることができる。
【0051】
また、生産計画立案装置1は、記憶手段13に蓄積された過去の生産計画データを活用して、生産計画案を立案することができる。
【0052】
具体的には、生産計画立案装置1は、傾向抽出手段16を有しており、この傾向抽出手段16により過去の生産計画データにおける傾向を抽出し、当該傾向を反映させることで、いわばベテランの担当者が計画したような、過去のノウハウが含まれた生産計画案を立案することができる。
【0053】
ここで、傾向抽出手段16は、過去の生産計画データにおける傾向を抽出するため、統計処理や機械学習など、抽出したい傾向に応じて様々な手法を用いることができる。
【0054】
なお、傾向抽出手段16により抽出された過去の傾向は、第1演算手段14により作成されたベース案に対して反映させてもよく、第2演算手段15により作成された生産計画案に対して反映させてもよい。
【0055】
以上のように説明した生産計画立案装置1は本発明に係る生産計画立案装置を例示するものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の構成は例示したものに限定されない。
例えば、本説明において、第1演算手段14は製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなること(負荷分散)を条件としてベース案を作成しているが、第2演算手段15も、負荷が高い機械の生産計画工程の一部を、負荷の低い他の機械に割り振らせるように(負荷分散させるように)スケジュールし得るものである。つまり、負荷分散や生産能力の優先、または電力消費量の最小化や品目/工程と機械の組合せの考慮などといったものは、最適な生産計画を立案するために設けられた観点(立案方針)である。そして、第1演算手段14と第2演算手段15の両方とも、ある観点に基づいて動作させることができ、第1演算手段14だけある観点に基づいて、または第2演算手段15だけある観点に基づいて動作させることもできる。
【0056】
その他、記憶手段13を生産計画立案装置1外(クラウドサーバなど)に設けてもよく、出力手段12により外部へ出力される形式も、端末に表示させる他、ファイル形式で出力することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る生産計画立案装置などは、金属加工、機械組立(電子機器や自動車部品)、化学や食品製造などの様々な業種において生産計画を立案する際に用いることができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 生産計画立案装置
11 入力手段
12 出力手段
13 記憶手段
14 第1演算手段
15 第2演算手段
【手続補正書】
【提出日】2023-09-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、下記(1)~(3)の制御が適用される数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
を有し、
前記第1演算手段は、製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件として作成される第1ベース案と、生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成される第2ベース案と、を作成し、
前記第2演算手段は、前記第1ベース案および前記第2ベース案を改案することで複数の前記生産計画案を作成する生産計画立案装置。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間により途中中断した場合は、その時点で見つかった解を最適解とする。
【請求項2】
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、下記(1)~(3)の制御が適用される数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
を有し、
前記第1演算手段は、下記(A)~(D)のうちいずれか1つの条件を採用して第1ベース案を作成し、かつ、下記(A)~(D)のうちいずれか1つの条件であり前記第1ベース案で採用された条件以外の条件を採用して第2ベース案を作成し、
前記第2演算手段は、前記第1ベース案および前記第2ベース案を改案することで複数の前記生産計画案を作成する生産計画立案装置。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間により途中中断した場合は、その時点で見つかった解を最適解とする。
(A)製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件とする。
(B)生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成する。
(C)製造する品目または/および工程と機械との組み合わせの優先度に基づき作成する。
(D)入力された電力情報に基づいて、工場全体の消費電力を低減させることを優先条件として作成する。
【請求項3】
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、下記(1)~(3)の制御が適用される数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
前記記憶手段に記憶された過去の生産データから、製造に使用する各機械における各製品の製造頻度に基づく優先度を抽出する傾向抽出手段と、
を有し、
前記第1演算手段または/および前記第2演算手段は、前記優先度を参照して、前記ベース案の作成または/および前記ベース案の改案を行う生産計画立案装置。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間により途中中断した場合は、その時点で見つかった解を最適解とする。
【請求項4】
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、下記(1)~(3)の制御が適用される数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
を有し、
前記記憶手段は、制約条件および改案ルールが記憶され、
前記第2演算手段は、前記制約条件を満たすことを前提として、前記改案ルールおよびランダム性に基づいて前記ベース案を改案し、
また、前記改案ルールとして、製造に使用する複数の機械ごとの生産計画工程が複数含まれる生産計画全体における評価結果と、当該生産計画工程個別における評価結果とに基づいて、ある機械の当該生産計画工程の一部を他の機械の生産計画工程に移動させることで、改善効果が期待できる改案方式を採用することにより、前記ベース案を改案する
生産計画立案装置。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間により途中中断した場合は、その時点で見つかった解を最適解とする。
【請求項5】
前記記憶手段は、制約条件および改案ルールが記憶され、
前記第2演算手段は、前記制約条件を満たすことを前提として、前記改案ルールおよびランダム性に基づいて前記ベース案を改案する請求項1~3のいずれか1項に記載の生産計画立案装置。
【請求項6】
前記第1演算手段は、複数の最適化観点に基づく複数の前記ベース案を作成する請求項1~4のいずれか1項に記載の生産計画立案装置。
【請求項7】
コンピュータを、
入力データに基づいて最適な生産計画を立案する生産計画立案装置であって、
生産計画を立案するために必要な情報が記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された情報を前記入力データとして、下記(1)~(3)の制御が適用される数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成する第1演算手段と、
メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成する第2演算手段と、
を有し、
前記第1演算手段は、製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件として作成される第1ベース案と、生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成される第2ベース案と、を作成し、
前記第2演算手段は、前記第1ベース案および前記第2ベース案を改案することで複数の前記生産計画案を作成する生産計画立案装置として動作させるための生産計画立案プログラム。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間により途中中断した場合は、その時点で見つかった解を最適解とする。
【請求項8】
記憶手段により、生産計画を立案するために必要な情報を記憶すること、
第1演算手段により、前記記憶手段に記憶された情報を入力データとして、下記(1)~(3)の制御が適用される数理最適化モデルまたは/およびルールベースモデルを用いて生産計画のベース案を作成すること、
第2演算手段により、メタヒューリスティクスモデルを用いて、前記ベース案を改案することで複数の生産計画案を作成すること、
を含み、
前記第1演算手段は、製造に使用される各機械間の負荷のバラつきが小さくなることを優先条件として作成される第1ベース案と、生産能力が高い機械で製造することを優先条件として作成される第2ベース案と、を作成し、
前記第2演算手段は、前記第1ベース案および前記第2ベース案を改案することで複数の前記生産計画案を作成する生産計画立案方法。
(1)適用する制約条件を制限する。
(2)納期を起点として、手配情報のまとまりを複数に分割し、段階的に最適化処理を実行する。
(3)処理のタイムアウト時間により途中中断した場合は、その時点で見つかった解を最適解とする。