(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145568
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】学習装置、推定装置、学習方法、推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/70 20190101AFI20241004BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20241004BHJP
C22C 1/00 20230101ALN20241004BHJP
G01N 3/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
G16C20/70
G16C60/00
C22C1/00 Z
G01N3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057976
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄基
(72)【発明者】
【氏名】有澤 周平
(72)【発明者】
【氏名】松野下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】永田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】出村 雅彦
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA20
2G061AB10
2G061BA01
2G061CA04
2G061DA12
2G061EC02
2G061EC10
(57)【要約】
【課題】推定対象の硬さの推定の精度を向上させる技術を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御部、を備え、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される、学習装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御部、
を備え、
前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される、
学習装置。
【請求項2】
前記強度表現式は、実験結果に対して第一原理計算を用いたフィッティングを行った結果得られた式である、
請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記強度表現式は、せん断弾性定数の値と、格子定数の値とを含む式であり、
前記せん断弾性定数の値と、前記格子定数の値と、は前記第一原理計算により得られる、
請求項2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記合金は、銅固溶合金である、
請求項3に記載の学習装置。
【請求項5】
前記強度表現式は、σ-σ0=A・G・(εα)p・χq、であり、
σは銅固溶合金の機械強度を表し、σ0は純銅の機械強度を表し、Gは前記銅固溶合金のせん断弾性定数を表し、εαは前記銅固溶合金のせん断弾性定数及び格子定数と前記純銅のせん断弾性定数及び格子定数との違いにより生じる歪み量であり、χは前記銅固溶合金における固溶元素のモル分率であり、
重み係数A、指数p及び指数qは、前記フィッティングにより得られる値であり、
前記銅固溶合金のせん断弾性定数及び格子定数と前記純銅のせん断弾性定数及び格子定数とは前記第一原理計算により得られる、
請求項4に記載の学習装置。
【請求項6】
推定対象の合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量を示す推定対象データ、を取得する推定対象データ取得部と、
合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御部、を備え、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される学習装置、により得られた学習済みの前記数理モデル、を用い、前記推定対象データ取得部の取得した前記推定対象データに基づき、前記推定対象データが示す量を有する合金の機械強度を推定する推定部と、
を備える推定装置。
【請求項7】
情報を出力する出力部、
をさらに備え、
前記推定部は、前記出力部の動作を制御して、電気伝導特性と強度表現式の推定した機械強度との両立の度合を示す指標を出力させる、
請求項6に記載の推定装置。
【請求項8】
合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御ステップ、
を有し、
前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される、
学習方法。
【請求項9】
推定対象の合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量を示す推定対象データ、を取得する推定対象データ取得ステップと、
合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御ステップ、を有し、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される学習方法、により得られた学習済みの前記数理モデル、を用い、前記推定対象データ取得ステップの取得した前記推定対象データに基づき、前記推定対象データが示す量を有する合金の機械強度を推定する推定ステップと、
を有する推定方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の学習装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習装置、推定装置、学習方法、推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
青銅器文明以来、数千年にわたって優れた機械強度を持つ合金の探索は、試行錯誤と蓄積された知見に基づくものであった。これまで、ユーザが所望の機械強度を発揮する新規の合金を可及的に容易に行うために、当該ユーザの合金設計を支援する合金設計支援システムが開示されている(特許文献1参照)。また、近年、データ科学の材料探索への適用、いわゆるマテリアルズインフォマティクス(MI)の進展が見られ、銅合金に対してもの取り組みが報告されている(非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Wang, H. Fu, L. Jiang, D. Xue, J. Xie, A property-oriented design strategy for high performance copper alloys via machine learning, NPJ Comput. Mater. 5 (2019).
【非特許文献2】H. Zhang, H. Fu, X. He, C. Wang, L. Jiang, L. Chen, J. Xie, Dramatically enhanced combination of ultimate tensile strength and electric conductivity of alloys via machine learning screening, Acta Mater. 200 (2020) 803-810.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの技術では、特定の元素の特定の組合せの合金を探索することしかできなかった。すなわち、これまでの技術では、特定の元素の特定の組合せの合金についてしか、機械強度を推定することができなかった。その結果、未知の組合せの合金については探索ができない場合があった。
【0006】
もちろん、これまでの技術を用いて、未知の組合せに対しても何かしら推定結果を得ることは可能である。しかしながら、その精度は著しく低かった。そのため、探索できない場合があったとは、具体的には、推定の精度が低い場合があったという意味である。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、合金の機械強度の推定の精度を向上させる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素に関する1又は複数種類の所定の物理量である基礎量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御部、を備え、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される、学習装置である。
【0009】
本発明の一態様は、推定対象の合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量を示す推定対象データ、を取得する推定対象データ取得部と、合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御部、を備え、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される学習装置、により得られた学習済みの前記数理モデル、を用い、前記推定対象データ取得部の取得した前記推定対象データに基づき、前記推定対象データが示す量を有する合金の機械強度を推定する推定部と、を備える推定装置である。
【0010】
本発明の一態様は、合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御ステップ、を有し、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される、学習方法である。
【0011】
本発明の一態様は、推定対象の合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量を示す推定対象データ、を取得する推定対象データ取得ステップと、合金の機械強度を表す所定の式である強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、前記合金を形成する元素それぞれごとの前記元素に関する1又は複数種類の量と、に基づき、前記合金の機械強度を推定する数理モデル、の学習を、前記学習に関する所定の終了条件が満たされるまで行う制御ステップ、を有し、前記学習では、前記数理モデルの推定の結果と、測定により得られた前記合金の機械強度との違いを小さくするように前記数理モデルが更新される学習方法、により得られた学習済みの前記数理モデル、を用い、前記推定対象データ取得ステップの取得した前記推定対象データに基づき、前記推定対象データが示す量を有する合金の機械強度を推定する推定ステップと、を有する推定方法である。
【0012】
本発明の一態様は、上記の学習装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0013】
本発明の一態様は、上記の推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合金の機械強度の推定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の推定システムの概要を説明する説明図。
【
図2】実施形態における学習装置のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図3】実施形態における学習装置が実行する処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図4】実施形態における推定装置のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図5】実施形態における推定装置が実行する処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図6】実施形態の実験で得られた強度表現式の各パラメータの値の一例を示す図。
【
図7】実施形態の強度表現式を用いて得られた機械強度の一例を示す図。
【
図8】実施形態の学習済み合金強度推定モデルを用いた実験結果の一例を示す図。
【
図9】実施形態の学習済み合金強度推定モデルを用いて得られた機械強度の一例を示す図。
【
図10】変形例のFOMであり銅合金のFOMであり1.0at%でのFOMを、添加元素を変えて、得た結果の一例を示す図。
【
図11】変形例のFOMであり銅合金のFOMであり1.0at%でのFOMの結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
図1は、実施形態の推定システム100の概要を説明する説明図である。推定システム100は、学習装置1と、推定装置2と、を備える。学習装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ91とメモリ92とを備える制御部11を備え、プログラムを実行する。
【0017】
制御部11は、学習処理を行う。学習処理は、強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、推定対象の合金を形成する元素それぞれごとの1又は複数種類の基礎量と、に基づき、合金強度推定モデルの学習を、学習に関する所定の終了条件(以下「学習終了条件」という。)が満たされるまで行う。なお学習は機械学習を意味する。学習は例えばガウス過程回帰である。合金は、例えば銅合金である。
【0018】
強度表現式は、合金の機械強度を表す所定の式である。基礎量は、元素に関する量である。基礎量は、例えば、周期表に含まれるgroup numberである。基礎量は、例えば、周期表に含まれるrow numberである。基礎量は、例えば、周期表に含まれるblock (s, p, d, f)を数値化(1, 2, 3, 4)して表したblock numberである。基礎量は、例えば、一般的に周期表に含まれるatomic massである。基礎量は、例えば、参考文献1に記載されているMendeleev numberである。基礎量は、例えば、参考文献2に記載のthermal conductivityである。基礎量は、例えば、参考文献3に記載のmelting pointである。
【0019】
参考文献1:P. VILLARS,et al., “A new approach to describe elemental-property parameters”,Chem. Met. Alloys 1 (2008) 1-23.
【0020】
参考文献2:Wikipedia “List of thermal conductivities”、[online]、[令和4年12月6日検索]、インターネット<URL:https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_thermal_conductivities>
【0021】
参考文献3:Wikipedia “Melting points of the elements (data page)”、[online]、[令和4年12月6日検索]、インターネット<URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Melting_points_of_the_elements_(data_page)>
【0022】
したがって、合金が例えば銅合金CuXである場合、学習では、例えば、銅のgroup number、row number、block number、atomic mass、Mendeleev number、thermal conductivity、及びmelting pointと、元素Xのgroup number、row number、block number、atomic mass、Mendeleev number、thermal conductivity、及びmelting pointと、が用いられる。
【0023】
合金強度推定モデルは、合金の機械強度を推定する数理モデルである。合金強度推定モデルの学習では、合金強度推定モデルの推定の結果と、測定により得られた合金の機械強度との違いを小さくするように合金強度推定モデルが更新される。
【0024】
強度表現式は、例えば、実験結果に対して第一原理計算を用いたフィッティングを行った結果得られた式である。強度表現式は、例えば、せん断弾性定数の値と、格子定数の値とを含む式である。このような強度表現式は、第一原理計算により得られた、せん断弾性定数の値と、格子定数の値と、を用いて得られる。第一原理計算は、密度半関数法に基づいた電子状態計算であり、その基底として平面波、ガウス関数など様々な手法が用いられるが、適宜、全エネルギーだけでなくせん断弾性定数や格子定数が十分収束する条件で、計算精度に影響するパラメータを決定する。
【0025】
推定対象の合金が銅合金である場合、強度表現式は、例えば、σ-σ0=AGεα
pχq、である。σは推定対象の銅固溶合金の機械強度を表す。σ0は純銅の機械強度を表す。Gは推定対象の銅固溶合金のせん断弾性定数を表す。εαは推定対象の銅固溶合金のせん断弾性定数及び格子定数と純銅のせん断弾性定数及び格子定数との違いにより生じる歪み量である。χは推定対象の銅固溶合金における固溶元素のモル分率である。Aは重み係数である。
【0026】
重み係数A、指数p及び指数qは、実験結果に対して第一原理計算で得られた計算量を用いたフィッティングにより得られる値である。また、後述するように歪み量εαはフィッティングにより得られる値を含む。したがって歪み量εαは、第一原理計算とフィッティングとを用いて得られる。すなわち、歪み量εαは第一原理計算を用いたフィッティングにより用いて得られる。また、推定対象の銅固溶合金のせん断弾性定数及び格子定数と、純銅のせん断弾性定数及び格子定数と、は第一原理計算により得られる。
【0027】
上記のσ-σ0=AGεα
pχqについての、数式を用いたより詳しい説明は後述する。
【0028】
上述したように、合金強度推定モデルの学習は、強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と基礎量とに基づいて行われる。この学習で用いられる推定対象の合金の機械強度であるが、その値は強度表現式の独立変数に値を入れることで算出される。したがって、学習装置1による合金強度推定モデルの学習では、事前にあるいは学習時に、推定対象の合金の機械強度が強度表現式によって導出される。
【0029】
推定対象の合金の機械強度が強度表現式を用いて学習時に算出される場合、学習に用いられる学習データは、強度表現式の独立変数の値を含む。なお強度表現式の説明変数は、機械強度である。
【0030】
強度表現式の独立変数の値の具体例を、推定対象の合金が銅合金である場合を例に説明する。このような場合、強度表現式の独立変数の値は、純銅の機械強度σ0を含む。強度表現式の独立変数の値は、モル分率χを含む。強度表現式の独立変数の値は、銅固溶合金のせん断弾性定数及び格子定数と、純銅のせん断弾性定数及び格子定数と、を第一原理計算で取得することに要する1又は複数の値(以下「要求値」という。)とを含む。要求値は、例えば電気伝導率である。要求値は、例えばヤング率である。要求値は、例えばバンドギャップである。要求値は、例えば、バンド幅である。
【0031】
なお、強度表現式がパラメータを有する場合、そのパラメータの値は、フィッティングによって学習の実行前に予め取得済みである。パラメータは、例えば、上述の指数pや、指数qや、重み係数Aや、歪み量εαに含まれるパラメータ、である。強度表現式がパラメータを有さない場合、そのパラメータの値が取得される必要は当然ない。
【0032】
推定対象の合金の機械強度が強度表現式を用いて学習以前に事前に算出される場合、学習に用いられる学習データは、強度表現式を用いて得られた機械強度を含む。推定対象の合金の機械強度が得られるタイミングによらず、学習データは、基礎量を含む。また、推定対象の合金の機械強度が得られるタイミングによらず、学習データは目的変数としての正解データを含む。正解データは、具体的には、推定対象の機械強度の実験的に得られた値であり、これを真値であるとする。
【0033】
このように学習データは、例えば、強度表現式の独立変数の値と、基礎量と、目的変数としての正解データとの組である。また学習データは、例えば、強度表現式を用いて得られた機械強度と、基礎量と、目的変数としての正解データとの組であってもよい。したがって、学習データは、強度表現式の独立変数の値と強度表現式を用いて得られた機械強度とのいずれか又は両方と、基礎量と、目的変数としての正解データとの組である。
【0034】
ところで上述したように学習は学習終了条件が満たされるまで行われる。学習終了条件が満たされた時点の合金強度推定モデルが推定装置2によって用いられる。学習終了条件が満たされた時点の数理モデルとは、いわゆる、学習済みの数理モデルである。そこで以下、学習終了条件が満たされた時点の合金強度推定モデルを学習済み合金強度推定モデル、という。
【0035】
学習終了条件は、学習の終了に関する条件であればどのような条件であってもよい。学習終了条件は、例えば、学習による学習対象の更新が所定の回数行われた、という条件である。学習終了条件は、例えば更新による学習対象の変化が所定の変化より小さい、という条件であってもよい。
【0036】
なお数理モデルの更新とは学習対象の数理モデルが有するパラメータの値を更新することを意味する。
【0037】
制御部11は、学習終了条件が満たされた場合に、学習終了条件が満たされた時点の合金強度推定モデルを学習済み合金強度推定モデルとして取得する。
【0038】
なお、合金強度推定モデルは、atomic mass等の基礎量を、そのまま用いるのではなく、合金を構成する元素のモル分率に応じた平均値、分散値などの算術量に変換して用いて、推定を行ってもよい。例えば基礎量がatomic massであれば、合金を構成する元素のモル分率に応じた基礎量の平均値とは、それはいわゆる平均原子質量である。したがって、合金がCu7X1であれば、合金を構成する元素のモル分率に応じた基礎量の平均値は、Cuのatomic mass×(7/8)と添加元素Xのatomic mass×(1/8)との和である。
【0039】
推定装置2は、学習装置1の得た学習済み合金強度推定モデルを用いて、推定対象の元素の組合せ、の合金の強度を推定する。
【0040】
図2は、実施形態における学習装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。学習装置1は、上述したように、バスで接続されたCPU等のプロセッサ91とメモリ92とを備える制御部11を備え、プログラムを実行する。学習装置1は、プログラムの実行によって制御部11、入力部12、通信部13、記憶部14及び出力部15を備える装置として機能する。
【0041】
より具体的には、プロセッサ91が記憶部14に記憶されているプログラムを読み出し、読み出したプログラムをメモリ92に記憶させる。プロセッサ91が、メモリ92に記憶させたプログラムを実行することによって、学習装置1は、制御部11、入力部12、通信部13、記憶部14及び出力部15を備える装置として機能する。
【0042】
制御部11は、学習装置1が備える各種機能部の動作を制御する。制御部11は、例えば学習処理を実行する。
【0043】
入力部12は、マウスやキーボード、タッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部12は、これらの入力装置を学習装置1に接続するインタフェースとして構成されてもよい。入力部12は、学習装置1に対する各種情報の入力を受け付ける。入力部12には、例えばユーザによる学習処理の開始の指示が入力される。入力部12には、例えば合金強度推定モデルの学習に用いられる学習データが入力される。
【0044】
通信部13は、学習装置1を外部装置に接続するための通信インタフェースを含んで構成される。通信部13は、有線又は無線を介して外部装置と通信する。外部装置は、例えば学習データの送信元の装置である。通信部13は、学習データの送信元の装置との通信によって、学習データを取得する。通信部13は、例えば制御部11の得た学習済み合金強度推定モデルを推定装置2に送信する。学習済み合金強度推定モデルを推定装置2に送信するとは、学習済み合金強度推定モデルのパラメータ及びハイパーパラメータの値を推定装置2に送信することを意味する。
【0045】
記憶部14は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などのコンピュータ読み出し可能な記憶媒体装置(non-transitory computer-readable recording medium)を用いて構成される。記憶部14は学習装置1に関する各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば入力部12又は通信部13を介して入力された情報を記憶する。記憶部14は、例えば学習処理で生じた各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば合金強度推定モデルのパラメータの値を記憶する。記憶部14は、例えば、予め、強度表現式を記憶していてもよい。
【0046】
出力部15は、各種情報を出力する。出力部15は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置を含んで構成される。出力部15は、これらの表示装置を学習装置1に接続するインタフェースとして構成されてもよい。出力部15は、例えば入力部12又は通信部13に入力された情報を出力する。
【0047】
図3は、実施形態における学習装置1が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。入力部12又は通信部13に学習データが入力され、入力された学習データを制御部11が取得する(ステップS101)。次に制御部11は、学習処理を実行する(ステップS102)。すなわち制御部11は、ステップS101で取得された学習データを用いた合金強度推定モデルの学習を学習終了条件が満たされるまで実行し、学習済み合金強度推定モデルを得る。
【0048】
学習データが強度表現式を用いて得られた機械強度を含まない場合、ステップS102の学習処理では、学習データに含まれる強度表現式の独立変数の値と、強度表現式とを用いて機械強度が取得される。学習データが強度表現式を用いて得られた機械強度を含まない場合とは、学習データが強度表現式の独立変数の値と、基礎量と、目的変数としての正解データとの組である場合、である。このような場合においては、次に、取得された機械強度と学習データに含まれる基礎量とを用いて合金強度推定モデルが機械強度の推定を行う。次に、合金強度推定モデルによる推定結果と正解データとの違いを小さくするように合金強度推定モデルが更新される。
【0049】
学習データが強度表現式を用いて得られた機械強度を含む場合、ステップS102の学習処理では、学習データに含まれる強度表現式の独立変数の値と、強度表現式とを用いた機械強度の取得が実行される必要はない。このような場合、学習データに含まれる機械強度と、基礎量と、を用いて合金強度推定モデルが機械強度の推定を行う。次に、合金強度推定モデルによる推定結果と正解データとの違いを小さくするように合金強度推定モデルが更新される。
【0050】
図4は、実施形態における推定装置2のハードウェア構成の一例を示す図である。推定装置2は、バスで接続されたCPU等のプロセッサ93とメモリ94とを備える制御部21を備え、プログラムを実行する。推定装置2は、プログラムの実行によって制御部21、入力部22、通信部23、記憶部24及び出力部25を備える装置として機能する。
【0051】
より具体的には、プロセッサ93が記憶部24に記憶されているプログラムを読み出し、読み出したプログラムをメモリ94に記憶させる。プロセッサ93が、メモリ94に記憶させたプログラムを実行することによって、推定装置2は、制御部21、入力部22、通信部23、記憶部24及び出力部25を備える装置として機能する。
【0052】
制御部21は、推定装置2が備える各種機能部の動作を制御する。制御部21は、例えば学習済み合金強度推定モデルを実行する。
【0053】
入力部22は、マウスやキーボード、タッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部22は、これらの入力装置を推定装置2に接続するインタフェースとして構成されてもよい。入力部22は、推定装置2に対する各種情報の入力を受け付ける。入力部22には、例えばユーザによる学習済み合金強度推定モデルの開始の指示が入力される。入力部22には、例えば学習済み合金強度推定モデルの実行対象のデータ(以下「推定対象データ」という。)が入力される。推定対象データは、例えば、学習済み合金強度推定モデルによって強度を推定させたい合金を形成する元素の基礎量である。
【0054】
通信部23は、推定装置2を外部装置に接続するための通信インタフェースを含んで構成される。通信部23は、有線又は無線を介して外部装置と通信する。外部装置は、例えば推定対象データの送信元の装置である。通信部23は、推定対象データの送信元との通信によって、推定対象データを取得する。外部装置は、例えば学習装置1である。通信部23は、学習装置1との通信によって、学習済み合金強度推定モデルを取得する。通信部23は、学習装置1との通信によって、強度表現式を取得してもよい。
【0055】
記憶部24は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などのコンピュータ読み出し可能な記憶媒体装置(non-transitory computer-readable recording medium)を用いて構成される。記憶部24は推定装置2に関する各種情報を記憶する。記憶部24は、例えば入力部22又は通信部23を介して入力された情報を記憶する。記憶部24は、例えば学習済み合金強度推定モデルの実行により生じた各種情報を記憶する。
【0056】
出力部25は、各種情報を出力する。出力部25は、例えばCRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置を含んで構成される。出力部25は、これらの表示装置を推定装置2に接続するインタフェースとして構成されてもよい。出力部25は、例えば入力部22又は通信部23に入力された情報を出力する。
【0057】
図5は、実施形態における推定装置2が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。入力部22又は通信部23に推定対象データが入力され、入力された推定対象データを制御部21が取得する(ステップS201)。次に制御部21は、ステップS201で取得された推定対象データに対して学習済み合金強度推定モデルを実行し、学習済み合金強度推定モデルの推定結果を得る(ステップS202)。次に制御部21は、出力部25の動作を制御して、出力部25にステップS202で得られた推定結果、を示す情報を出力させる(ステップS203)。
【0058】
<σ-σ0=AGεα
pχqの数式を用いたより具体的な例>
σ-σ0=AGεα
pχq、の数式を用いたより具体的な例を説明する。上述したように強度表現式は、例えば、以下の式(1)である。この式(1)における歪み量εαは、以下の式(2)~式(5)で表される。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
ここで、下付き文字ではないαは、フィッティングにより値が得られるパラメータである。δGの定義式である式(4)におけるdG/dχの具体的な導出について説明する。dG/dχは、モル分率χの異なる2種類の各合金に対して第一原理計算によりせん断弾性定数Gを得て、その2種類の合金間のモル分率χの違いでその2種類の合金間のせん断弾性定数Gの違いを割り算することで得られる。違い、は具体的には、差である。
【0065】
δlの定義式である式(5)におけるdl/dχの具体的な導出について説明する。dl/dχは、モル分率χの異なる2種類の各合金に対して第一原理計算により格子定数lを得て、その2種類の合金間のモル分率χの違いでその2種類の合金間の格子定数lの違いを割り算することで得られる。違い、は具体的には、差である。
【0066】
合金Cu1-xXxのせん断弾性定数Gと、格子定数lとは、例えば、第一原理計算を用いて得られた合金CuNX1及び純銅の計算量を用いた内挿および外挿により得られる。Nは1以上の整数である。Nが7の場合、例えば以下の式(6)~(8)が表す式を用いて合金Cu1-xXxのせん断弾性定数Gと、格子定数lとが得られる。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
GCuXは、合金CuNX1に対する第一原理計算により得られた合金CuNX1のせん断弾性定数Gである。GCuは、純銅のせん断弾性定数Gである。lCuXは、合金CuNX1に対する第一原理計算により得られた合金CuNX1の格子定数lである。lCuは、純銅の格子定数lである。σ(X,x)は、モル濃度xの元素Xを添加した銅合金のせん断弾性定数の近似式を表す。また式(9)では、合金のせん断弾性定数として近似的にGCuを用いる。
【0072】
<実験結果>
合金がN=7の銅合金CunX1である場合に式(1)~(9)を用いた実験により得られた強度表現式の各パラメータの値の一例を説明する。
【0073】
図6は、実施形態の実験で得られた強度表現式の各パラメータの値の一例を示す図である。実験では、粒径40μm、圧延率75%の、pure Cu、Cu
100-xMg
x(x=0.7、2、3、4、5、and 6 at%)、Cu
100-xAl
x(x=4、8、and 12 at%)、Cu
100-xZn
x(x=8、13、and 20 at%)、Cu
100-xSn
x(x=0.4、1、2、and 3 at%)、and Cu
100-xNi
x(x=3 and 6 at%)の全19試料の機械強度として0.2%耐力を評価したデータに対し、フィッティングが行われた。フィッティングは、具体的には、式(9)の強度表現式の各パラメータの値を得るフィッティングである。
【0074】
図6は、係数Aが0.03790であることを示す。
図6は、指数pが0.7301であることを示す。
図6は、指数qが0.9169であることを示す。
図6は、αが9.533×10
3であることを示す。
【0075】
図7は、実施形態の強度表現式を用いて得られた機械強度の一例を示す図である。より具体的には、
図7は、パラメータの値が
図6の示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度の一例を示す図である。
図7の”Training set”は、
図6の説明で上述した19試料のデータを示す。すなわち、
図7の”Training set”は、
図6の示すパラメータの値の導出に用いられたデータである。
【0076】
“Testing set”は、”Training set”として用いられていないデータである。したがって、
図7は、”Training set”として用いられていない試料について、パラメータの値が
図6の示す値である式(9)の強度表現式を用いて得た機械強度を示す。
図7の横軸は、実測された機械強度を示す。
図7の縦軸は、パラメータの値が
図6の示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度を示す。
【0077】
図8は、実施形態の学習済み合金強度推定モデルを用いた実験結果の一例を示す図である。より具体的には
図8は、目的変数としての実験値に対して、基礎量と、パラメータの値が
図6に示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度と、の組を学習データとして用いた学習により得られた学習済み合金強度推定モデルを用いた実験結果、の一例を示す図である。
【0078】
基礎量としては、各元素について、group number、row number、block number、atomic mass、Mendeleev number、thermal conductivity、及びmelting pointと、の7種類の量のうちの0~7種が用いられた。なお、実験において、基礎量は、合金を構成する元素のモル分率に応じた平均値が用いられた。
【0079】
図8の横軸は、量Kを示す。Kは1以上の整数である。量Kは、パラメータの値が
図6に示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度を値1とし、上述の7種類の基礎量のうちの0~7種類のうちのm種類が学習データとして用いられた場合に値mとして、(1+m)を示す。mは0以上7以下の整数である。実験では、パラメータの値が
図6に示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度は、必ず学習データに含まれた。
【0080】
図8の縦軸は、実験で得られた推定結果と“Testing set”との違いのRMSEを示す。RMSEはroot mean squared errorである。
図8の結果は、パラメータの値が
図6に示す値である式(9)の強度表現式を得る際には用いられなかった6つのデータ、すなわち“Testing set”、を用いて得られた。6つのデータは、Cu
100-xBe
x(x=12at%)、Cu
100-xTi
x(x=0.5 and3 at%)及びCu
100-xAg
x(x=2、3 and 4at%)の6つであった。
【0081】
図8は、K=2の場合に最もRMSEが小さいことを示す。なお、実験においてK=2の場合の学習データは、具体的には、パラメータの値が
図6に示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度と、平均原子質量と、であった。
【0082】
図9は、実施形態の学習済み合金強度推定モデルを用いて得られた機械強度の一例を示す図である。より具体的には、
図9は、
図8の結果を与える実験のうち、K=2の場合に得られた結果の一例である。パラメータの値が
図6の示す値である式(9)の強度表現式を用いて得られた機械強度の一例を示す図である。
【0083】
図9の”Training set”は、
図6の説明で上述した19試料のデータを示す。すなわち、
図9の”Training set”は、
図6の示すパラメータの値の導出に用いられたデータである。“Testing set”は、”Training set”として用いられていないデータである。具体的には、CuxBe(x=12at%)、CuxTi(x=0.5 and3 at%)及びCuxAg(x=2、3 and 4at%)の6つである。
【0084】
図9の横軸は、実測された機械強度を示す。
図9の縦軸は、学習済み合金強度推定モデルの推定結果を示す。実験において学習済み合金強度推定モデルは具体的には、0.2%耐力を推定した。
【0085】
このように構成された学習装置1は、強度表現式により得られる推定対象の合金の機械強度と、1又は複数種類の基礎量と、に基づき、学習済み合金強度推定モデルを得る。そのため、学習装置1は、合金の機械強度の推定の精度を向上させることができる。
【0086】
また、このように構成された推定装置2は、学習装置1の得た学習済み合金強度推定モデルによる推定を行う。そのため、推定装置2は、合金の機械強度の推定の精度を向上させることができる。
【0087】
また、このように構成された推定システム100は学習装置1と推定装置2とを備える。そのため、推定システム100は、合金の機械強度の推定の精度を向上させることができる。
【0088】
(変形例)
<性能の表現について>
一般に数学や物理学では現象をどのように表現するか、表現の仕方が重要である。推定装置2の備える制御部21は、性能指数取得処理を実行してもよい。性能指数取得処理は、強度表現式、または、学習済み合金強度推定モデルの推定の結果を、以下の式(10)で表される指標FOM(Figure of Merit)に変換する処理である。
【0089】
なお、性能指数取得処理では、合金の抵抗率が用いられる。合金の抵抗率は第一原理計算と線形応答理論を用いて所望の組成の合金に対して計算することで得られる。
【0090】
合金の抵抗率の計算は、例えばユーザが行ってもよいし、制御部21が行ってもよいし、推定装置2とは異なる他の装置が行ってもよい。装置が所望の組成の合金の抵抗率を計算する場合、第一原理計算及び線形応答理論の実行に必要な情報であって抵抗率の計算対象の合金に関する情報が、所望の組成の合金の抵抗率の計算を実行する装置に入力される。装置は入力された情報に基づいて、所望の組成の合金の抵抗率を計算する。なお、第一原理計算及び線形応答理論の実行に必要な情報であって抵抗率の計算対象の合金に関する情報は、具体的には、結晶構造、原子配置(ここでは具体的にCPA法を用いて完全固溶体を扱った)、組成、密度汎関数法に基づいて相関・交換相互作用を記述する関数形、密度汎関数法に基づく一般的な精度に関わるパラメータ(k点サンプリング)、基底の指定(ここでは具体的にはKKR法)、線形応答理論に基づく電気伝導度の表現方法(ここでは、具体的にはDebyeモデルに基づく有限温度の散乱の効果を含むVertex補正有の久保-グリーンウッドの公式)である。
【0091】
入力部22又は通信部23を介してユーザが推定装置2に入力する。入力された合金の抵抗率を制御部21は取得し、性能指数取得処理において用いる。
【0092】
【0093】
制御部21は、出力部25の動作を制御して、取得した指標FOMを出力させる。
【0094】
式(10)において、logは常用対数を表す。式(10)のlogの中の分数の分子は、純銅に対する合金の機械強度の変化量を示す。式(10)のlogの中の分数の分母は、純銅に対する合金の抵抗率の変化量のq乗を示す。
【0095】
このように指標FOMは、機械特性と電気伝導特性との両立の度合いをスカラー値で示す。したがって、指標FOMが示されることは、合金の機械特性と電気伝導特性との両立の度合いをユーザが把握することを容易にする、と言う効果を奏する。
【0096】
なお、強度表現式(9)によればσ-σ0は、χのq乗である。そして、Taylor展開の定義に基づけば、ρ-ρ0は第一近似としてδρ・χである。したがって、合金の性能を評価するために指標FOMを用いる場面においては、指標FOMのlogの中のχが分母と分子とで打ち消し合い、指標FOMがχに依存しないので、モル分率xに拠らない元素Xの比較が可能となる。
【0097】
図10は、変形例のFOMであり銅合金のFOMであり強度表現式を用いたモル分率に依存しないFOMと、学習済み合金強度推定モデルを用いて算出した1.0at%でのFOMを、添加元素を変えて、得た結果の一例を示す図である。
図10の横軸は、添加元素の原子番号を示す。
図10の縦軸は、FOMを示す。“FOM by Model-1”は、添加元素のモル濃度に依存しない値であり、電気伝導特性と強度表現式(9)の推定した機械強度との両立の度合を示す。“FOM by Model-2”は、添加元素のモル濃度1.0at%での電気伝導特性と学習済み合金強度推定モデルの推定した機械強度との両立の度合を示す。
【0098】
図11は、変形例のFOMであり銅合金のFOMであり、“FOM by Model-2”は、添加元素のモル濃度1.0at%でのFOMの結果の一例を示す図である。より具体的には、
図11は、FOMが高い添加元素を上から10個示す図である。
【0099】
“Element”は添加元素を示す。“FOMModel-1”は、添加元素のモル濃度に依存しない値であり、電気伝導特性と強度表現式(9)の推定した機械強度との両立の度合を示す。“FOMModel-2”は、添加元素のモル濃度1.0at%での電気伝導特性と学習済み合金強度推定モデルの推定した機械強度との両立の度合を示す。
【0100】
なお、学習装置1及び推定装置2のそれぞれは、ネットワークを介して通信可能に接続された複数台の情報処理装置を用いて実装されてもよい。この場合、制御部11及び制御部21が備える各機能部は、複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。
【0101】
なお、学習装置1及び推定装置2の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0102】
入力部22と通信部23とは推定対象データ取得部の一例である。なお、制御部21は推定部の一例である。
【0103】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0104】
100…推定システム、 1…学習装置、 2…推定装置、 11…制御部、 12…入力部、 13…通信部、 14…記憶部、 15…出力部、 21…制御部、 22…入力部、 23…通信部、 24…記憶部、 25…出力部、 91…プロセッサ、 92…メモリ、 93…プロセッサ、 94…メモリ