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特開2024-145574脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法及びポリイミドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145574
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法及びポリイミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/60 20060101AFI20241004BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241004BHJP
   C07D 493/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C07D307/60
C08G73/10
C07D493/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057986
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 蓮
(72)【発明者】
【氏名】京武 亜紗子
【テーマコード(参考)】
4C071
4J043
【Fターム(参考)】
4C071AA04
4C071BB01
4C071CC12
4C071EE05
4C071FF15
4C071GG01
4C071HH08
4C071KK01
4C071LL03
4C071LL07
4J043PA02
4J043PC065
4J043PC066
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB01
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA052
4J043UA092
4J043UA131
4J043UB221
4J043VA021
4J043XA16
4J043ZB03
4J043ZB11
(57)【要約】
【課題】原料の濃度を高濃度とした混合液を利用した場合においても反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させることが可能であり、エステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供すること。
【解決手段】炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなり、かつ、前記γ-ブチロラクトンの含有量が前記γ-ブチロラクトン及び前記カルボン酸の合計量に対して20~92質量%である溶媒と;脂環式テトラエステル化合物と;を含有する混合液を加熱することにより、脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることを特徴とする脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなり、かつ、前記γ-ブチロラクトンの含有量が前記γ-ブチロラクトン及び前記カルボン酸の合計量に対して20~92質量%である溶媒と、
脂環式テトラエステル化合物と、
を含有する混合液を加熱することにより、脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることを特徴とする脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項2】
前記混合液に酸触媒を更に含有させることを特徴とする請求項1に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項3】
前記混合液に無水酢酸を更に含有させることを特徴とする請求項1に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項4】
前記脂環式テトラエステル化合物が、下記式(1):
【化1】
(式中、Xは6員環の脂環構造を有する4価の有機基を示し、かつ、複数のRはそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項5】
前記混合液中の前記脂環式テトラエステル化合物の含有量が10~30質量%であることを特徴とする請求項1に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のうちのいずれか1項に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用して脂環式テトラカルボン酸二無水物を得る工程と、
前記脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させてポリイミドを得る工程と、
を含むことを特徴とするポリイミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法並びにポリイミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高度な耐熱性を有しかつ軽くて柔軟な素材としてポリイミドが着目されている。そして、そのようなポリイミドの製造に利用する原料として、近年では、透明性の観点等から、脂環式テトラカルボン酸二無水物が着目されている。そして、このような脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造するための方法としては、一般に、低級カルボン酸中において脂環式テトラエステル化合物(脂環式構造を有するテトラエステル化合物)を加熱する方法が採用されている(例えば、国際公開第2011/099518号(特許文献1)においても、低級カルボン酸中において特定の脂環式テトラエステル化合物を加熱する方法が採用されている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/099518号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低級カルボン酸中において脂環式テトラエステル化合物(原料化合物)を加熱する従来の方法を採用して脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造した場合、反応生成物中に残存してしまうエステル基含有化合物(未反応の原料化合物及び反応中間体を含む、エステル基を有する化合物)や重質物の割合(残存率:残存量)を低減させるためには、溶媒(低級カルボン酸)と原料とを含む混合液中の原料の濃度を低濃度にする必要等があり、反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率(残存量)を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することができなかった。
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、原料の濃度を高濃度とした混合液を利用した場合においても反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させることが可能であり、エステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法及びその方法を利用したポリイミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなり、かつ、前記γ-ブチロラクトンの含有量が前記γ-ブチロラクトン及び前記カルボン酸の合計量に対して20~92質量%である溶媒と;脂環式テトラエステル化合物と;を含有する混合液を加熱することにより、その混合液中の原料(脂環式テトラエステル化合物)の濃度を高濃度とした場合においても反応生成物中のエステル基含有化合物(未反応の原料化合物及び反応中間体を含む、エステル基を有する化合物)や重質物の残存率を低減させることが可能となり、反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0008】
[1] 炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなり、かつ、前記γ-ブチロラクトンの含有量が前記γ-ブチロラクトン及び前記カルボン酸の合計量に対して20~92質量%である溶媒と、
脂環式テトラエステル化合物と、
を含有する混合液を加熱することにより、脂環式テトラカルボン酸二無水物を得る、脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【0009】
[2] 前記混合液に酸触媒を更に含有させる、[1]に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【0010】
[3] 前記混合液に無水酢酸を更に含有させる、[1]又は[2]に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【0011】
[4] 前記脂環式テトラエステル化合物が、下記式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Xは6員環の脂環構造を有する4価の有機基を示し、かつ、複数のRはそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。)
で表される化合物である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【0014】
[5] 前記混合液中の前記脂環式テトラエステル化合物の含有量が10~30質量%である、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【0015】
[6] [1]~[5]のうちのいずれか1項に記載の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用して脂環式テトラカルボン酸二無水物を得る工程と、
前記脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させてポリイミドを得る工程と、
を含むことを特徴とするポリイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原料の濃度を高濃度とした混合液を利用した場合においても反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させることが可能であり、エステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法及びその方法を利用したポリイミドの製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値X及びYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0018】
[脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法]
本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法は、
炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなり、かつ、前記γ-ブチロラクトンの含有量が前記γ-ブチロラクトン及び前記カルボン酸の合計量に対して20~92質量%である溶媒と、
脂環式テトラエステル化合物と、
を含有する混合液を加熱することにより、脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることを特徴とする方法である。
【0019】
本発明にかかる溶媒は、炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなる溶媒である。このように、本発明においては、前記混合液の溶媒として、炭素数1~5のカルボン酸とγ-ブチロラクトンとの混合溶媒を利用する。このような混合溶媒を利用することで、反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率(残存量)を低減させることが可能となる。このように、前記溶媒を用いることにより反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存量を低減させることが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは、炭素数1~5のカルボン酸と組み合わせて、γ-ブチロラクトンを用いることで、γ-ブチロラクトンがエステル基含有化合物や重質物に対する溶解度が高い溶媒となることから、これに起因して、これらの残存量が低減された反応生成物を得ることが可能となるためではないかと推察している。
【0020】
このような溶媒に利用するカルボン酸の炭素数は1~5(より好ましくは1~3、更に好ましくは1~2)である。このようなカルボン酸の炭素数が前記上限を超えると、脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが困難となる。また、このような炭素数1~5のカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられるが、中でも、製造および精製の容易さの観点から、ギ酸、酢酸、プロピオン酸が好ましく、ギ酸、酢酸がより好ましい。このような炭素数1~5のカルボン酸は1種を単独で或は2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0021】
また、本発明にかかる溶媒においては、炭素数1~5のカルボン酸とともにγ-ブチロラクトンを必須成分として含有する。このような溶媒において、γ-ブチロラクトンの含有量は、前記炭素数1~5のカルボン酸及び前記γ-ブチロラクトンの合計量に対して20~92質量%(より好ましくは20~90質量%、更に好ましくは30~90質量%)である必要がある。このようなγ-ブチロラクトンの含有量が前記下限未満ではγ-ブチロラクトンを利用することにより得られる効果が十分に得られなくなり、他方、前記上限を超えると収量が低下して、効率よく脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることができなくなる。
【0022】
また、本発明にかかる溶媒に利用する炭素数1~5のカルボン酸の使用量は、特に制限されるものではないが、前記混合液中に含有させる脂環式テトラエステル化合物(原料化合物)のモル量の4~90倍モル(より好ましくは6~82倍モル)とすることが好ましい。このようなカルボン酸の使用量が前記下限未満では反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると収量が低下して、効率よく脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることができなくなる。
【0023】
なお、本発明にかかる混合液の溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲において、炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトン以外の他の溶媒成分を含んでいてもよい。なお、このような他の溶媒成分としては、例えば、酸無水物化反応に利用可能な公知のもの(例えば、国際公開第2015/163314号の段落[0146]に例示されている溶剤(例えば、酢酸エチル等のエステル系溶媒や、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒等))を適宜利用することができる。
【0024】
また、本発明においては、前記脂環式テトラエステル化合物を、脂環式テトラカルボン酸二無水物の原料化合物として利用する。このような脂環式テトラエステル化合物(脂環式テトラカルボン酸テトラエステル)としては、脂環構造を有するテトラエステル化合物であればよく、公知のもの(例えば、国際公開第2011/099518号や国際公開第2017/030019号等に記載されている脂環式テトラカルボン酸テトラエステル等)を適宜利用でき、特に制限されないが、中でも、ポリイミドを製造した際により高度な耐熱性が得られるという観点からは、下記式(1):
【0025】
【化2】
【0026】
(式中、Xは6員環の脂環構造を有する4価の有機基を示し、複数のRはそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
このような式(1)中のXは、6員環の脂環構造を有する4価の有機基である。このような「6員環の脂環構造を有する4価の有機基」に関して、「6員環」としては、環状の構造を形成する原子の数が6個となっている環であればよく特に制限されない(なお、架橋構造を含む二環式の構造等、多環構造を形成している場合(例えばノルボルナン環構造やビシクロオクタン環構造の場合等)には、そのうちのいずれかの環が、原子の数が6個となっている環であればよい)。
【0028】
また、式(1)中のXとしての4価の有機基が有する「6員環の脂環構造」としては、特に制限されるものではないが、例えば、下記一般式(i)~(iii):
【0029】
【化3】
【0030】
で表されるような脂肪族6員環からなる構造が挙げられる。このような6員環の脂環構造としては、より高度な耐熱性が得られるといった観点、及び、引張り応力に対する耐性がより高度なものとなり、より高度な機械的強度が得られるといった観点から、上記式(ii)で表される脂肪族6員環(ノルボルナン環)からなる構造であることがより好ましい。
【0031】
また、Xとして選択され得る「6員環の脂環構造を有する4価の有機基」としては、前記6員環の脂環構造を有していればよく、前記6員環の脂環構造を形成する炭素原子には、水素原子、水素原子以外の原子等の各種原子や、他の置換基(他の有機基を含む)等が結合していてもよい。さらに、Xとして選択される「6員環の脂環構造を有する4価の有機基」としては、2つのノルボルナン環を有する4価の有機基であることが好ましい。
【0032】
また、Xとして選択され得る「6員環の脂環構造を有する4価の有機基」としては、透明性や耐熱性、高寸法安定性の観点から、前記6員環の脂環構造(より好ましくはノルボルネン環からなる構造)を2つ以上有するものが好ましく、中でも、最終的に得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いてポリイミドを製造した場合に透明性、耐熱性、高寸法安定性がより高度なものとなることから、下記一般式(iv)~(vi):
【0033】
【化4】
【0034】
[式(iv)中、mは0~2の整数を示し、式(v)中、nは1~2の整数を示し、式(vi)中、Aは単結合;及び置換基を有していてもよくかつ芳香環を形成する炭素原子の数が6~30である2価の芳香族基;よりなる群から選択される1種を示し、式(iv)~(vi)中の記号*1~*4は該記号の付された結合手がそれぞれXに結合している4本の結合手のうちのいずれかであることを示す。]
で表される4価の有機基がより好ましい。
【0035】
このような一般式(iv)~(vi)で表される4価の有機基に関して、式(iv)中のmは0~2(より好ましくは1~2、更に好ましくは1)の整数である。このようなmの値が前記上限を超えると製造および精製が困難となる傾向にある。
【0036】
また、式(v)中のnは1~2(より好ましくは1)の整数である。このようなnの値が前記上限を超えると製造および精製が困難となる傾向にある。
【0037】
また、上記一般式(vi)中のAは、単結合;及び置換基を有していてもよくかつ芳香環を形成する炭素原子の数が6~30である2価の芳香族基;よりなる群から選択される1種である。
【0038】
このようなAとして選択され得る2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、該芳香族基中に含まれる芳香環を形成する炭素の数(なお、ここにいう「芳香環を形成する炭素の数」とは、その芳香族基が炭素を含む置換基(炭化水素基など)を有している場合、その置換基中の炭素の数は含まず、芳香族基中の芳香環が有する炭素の数のみをいう。例えば、2-エチル-1,4-フェニレン基の場合、芳香環を形成する炭素の数は6となる。)が6~30のものである。このように、上記式中のAとして選択され得る2価の芳香族基は、置換基を有していてもよく、かつ、炭素数が6~30の芳香環を有する2価の基(2価の芳香族基)である。このような芳香環を形成する炭素の数が前記上限を超えると、かかる繰り返し単位を有する樹脂を利用して樹脂を調製した場合に、その樹脂の着色を十分に抑制することが困難となる傾向にある。また、透明性及び精製の容易さの観点からは、前記2価の芳香族基の芳香環を形成する炭素の数は、6~18であることがより好ましく、6~12であることが更に好ましい。
【0039】
また、このようなAとして選択され得る2価の芳香族基としては、上記炭素の数の条件を満たすものであればよく、特に制限されないが、例えば、ベンゼン、ナフタレン、ターフェニル、アントラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ビフェニル、ターフェニル、クオターフェニル、キンクフェニル等の芳香族系の化合物から2つの水素原子が脱離した残基(なお、このような残基としては、脱離する水素原子の位置は特に制限されないが、例えば、1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基、9,10-アントラセニレン基等が挙げられる。);及び該残基中の少なくとも1つの水素原子が置換基と置換した基(例えば、2,5-ジメチル-1,4-フェニレン基、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレン基)等を適宜利用することができる。なお、このような残基において、前述のように、脱離する水素原子の位置は特に制限されず、例えば、前記残基がフェニレン基である場合においてはオルト位、メタ位、パラ位のいずれの位置であってもよい。
【0040】
このようなAとして選択され得る2価の芳香族基としては、ポリイミドを調製した場合に、そのポリイミドの透明性がより優れたものとなるといった観点から、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいビフェニレン基、置換基を有していてもよいナフチレン基、置換基を有していてもよいアントラセニレン基、置換基を有していてもよいターフェニレン基が好ましい。また、このような2価の芳香族基の中でも、上記観点でより高い効果が得られることから、それぞれ置換基を有していてもよい、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基がより好ましく、それぞれ置換基を有していてもよい、フェニレン基、ビフェニレン基が更に好ましく、置換基を有していてもよいフェニレン基が最も好ましい。
【0041】
また、このようなAとして選択され得る2価の芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に制限されず、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。このような2価の芳香族基が有してよい置換基の中でも、樹脂を製造した際に樹脂の透明性がより優れたものとなるといった観点から、炭素数が1~10のアルキル基、炭素数が1~10のアルコキシ基がより好ましい。このような置換基として好適なアルキル基及びアルコキシ基の炭素数が10を超えると、得られる樹脂の耐熱性が低下する傾向にある。また、このような置換基として好適なアルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、樹脂を製造した際に、より高度な耐熱性が得られるという観点から、1~6であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましく、1~3であることが特に好ましい。また、このような置換基として選択され得るアルキル基及びアルコキシ基はそれぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0042】
また、このような式(vi)中のAとしては、より高度な耐熱性が得られるといった観点からは、単結合、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいビフェニレン基、置換基を有していてもよいナフチレン基又は置換基を有していてもよいターフェニレン基がより好ましく、単結合、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいビフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基が更に好ましく、単結合、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいビフェニレン基が特に好ましく、単結合又は置換基を有していてもよいフェニレン基が最も好ましい。
【0043】
また、前記式(1)中の複数のRはそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。ここで、Rとして選択され得る炭化水素基は、炭素数1~10(より好ましくは1~5、特に好ましくは1~3)のものであればよい。このような炭素数を前記上限以下とした場合には、前記上限を超えた場合と比較して合成と精製を容易にすることが可能となる。また、このような炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、あるいは、不飽和炭化水素基であってもよい。さらに、前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのものであってもよい。このようなRとして選択され得る炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のような直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロへキシル基等の環状のアルキル基;ベンジル基等の芳香族炭化水素基;等を例示できる。また、このようなRとして選択され得る炭化水素基は、精製の容易さの観点から、アルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0044】
また、前記式(1)中のRとしては、それぞれ独立に、合成と精製の容易さの観点で、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。なお、このようなエステル基の構造は、NMR測定により特定することができる。
【0045】
また、本発明にかかる脂環式テトラエステル化合物を調製するための方法としては、特に制限されず、公知の方法(例えば、国際公開第2011/099518号、国際公開第2015/163314号、国際公開第2017/030019号等に記載されている方法)を適宜採用できる。
【0046】
また、本発明にかかる混合液中の前記脂環式テトラエステル化合物の含有量は特に制限されないが、前記脂環式テトラエステル化合物の含有量が前記混合液の総量に対して10~30質量%(より好ましくは20~30質量%)であることが好ましい。このような含有量で前記脂環式テトラエステル化合物を利用した場合においても、本発明においては、エステル基含有化合物や重質物の含有量を低減させることが可能であり、反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率(残存量)を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが可能である。なお、炭素数1~5のカルボン酸及びγ-ブチロラクトンからなる溶媒を利用せずに、溶媒として炭素数1~5のカルボン酸のみを利用して、前記脂環式テトラエステル化合物の含有量を10質量%以上とした場合には、エステル基含有化合物の含有量の低減と重質物の含有量の低減を同時に達成することができず(場合によっては双方とも低減させることができず)、反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を必ずしも効率よく製造することができない。このように、前記脂環式テトラエステル化合物の含有量を10質量%以上とすることで、エステル基含有化合物の残存率や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物をより効率よく製造することが可能となる傾向にあり、他方、前記脂環式テトラエステル化合物の含有量を30質量%以下とすることで、30質量%を超えた場合と比較して、エステル基含有化合物の残存率や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物をより効率よく製造することが可能となる傾向にある。
【0047】
また、本発明においては、前記混合液に酸触媒を更に含有させることが好ましい。このような酸触媒としては特に制限されず、テトラエステルを酸二無水物とする反応(以下、場合により、単に「酸無水物化反応」と称する)において利用することが可能な公知のもの(例えば、国際公開第2015/163314号の段落[0140]に例示されている酸触媒(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)等)や、その他公知の酸触媒(例えば塩酸、硫酸等))を適宜利用できる。また、このような酸触媒としては、反応収率向上の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロエタンスルホン酸がより好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸が特に好ましい。なお、このような酸触媒としては、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0048】
また、前記酸触媒の使用量としては、特に制限されないが、前記脂環式テトラエステル化合物の使用量1モルに対して酸触媒により供与される水素イオン(H)のモル量が0.005~0.2モル(より好ましくは0.01~0.1モル)となるような量とすることが好ましい。このような酸触媒の使用量が前記下限未満では、反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えた場合には、触媒を利用することにより得られる効果をそれ以上向上させることが困難となり、却って経済性が低下する傾向にある。また、酸触媒の濃度は前記脂環式テトラエステル化合物の総モル量の0.50~5.0モル%の範囲とすることが好ましい。
【0049】
また、本発明においては、前記混合液に無水酢酸を更に含有させることが好ましい。これにより、反応時に生成された水の除去を効率よく行うことができる。このような無水酢酸の含有量は特に制限されるものではないが、前記脂環式テトラエステル化合物の使用量1モルに対する無水酢酸のモル量が2~10モル(より好ましくは2~5モル)であることが好ましい。無水酢酸の含有量(使用量)が前記下限未満では、無水酢酸を利用することにより得られる効果が十分に得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、収量が低下して、効率よく脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることができなくなるとなる傾向にある。
【0050】
本発明にかかる混合液の調製方法は特に制限されず、加熱する際に利用する装置などに応じて適宜調製すればよく、例えば、同一の容器内に、利用する成分を添加(導入)することで調製してもよい。なお、前記酸触媒や無水酢酸を添加する場合、酸触媒や無水酢酸を添加する前(前記混合物を調製する前)に、予め炭素数1~5のカルボン酸を含む溶媒中において前記脂環式テトラエステル化合物を加熱して溶解し(好ましくは、溶解後も加熱を続けて前記脂環式テトラエステル化合物のRを水素原子に置換し)、その後、酸触媒や無水酢酸を添加(これらを同時に添加してもよいし、別々に順次添加してもよい)することで結果的に混合液中に酸触媒や無水酢酸を添加してもよい。
【0051】
また、本発明においては、前記混合液を加熱する(加熱工程)。このように、前記混合液を加熱することで、前記脂環式テトラエステル化合物と前記炭素数1~5のカルボン酸との間でエステル交換反応が生じて、前記脂環式テトラエステル化合物(原料化合物)中のエステル基(式(1)で表される化合物の場合には式:-COORで表される基)がカルボキシ基(式:-COOH)となり、その後、同一分子内のカルボキシ基同士の反応により脱水閉環が生じて、脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることが可能となる。なお、このような加熱の際に採用する条件等(加熱条件等)は特に制限されず、前記混合液を利用する以外は、炭素数1~5のカルボン酸中においてテトラエステル化合物を加熱してテトラカルボン酸二無水物を得る公知の方法において採用されている加熱条件を適宜採用することができる。
【0052】
また、本発明にかかる加熱工程において、加熱温度の条件はγ-ブチロラクトンの沸点(204℃)よりも低い温度とすることが好ましく、中でも、80~180℃とすることがより好ましく、80~150℃とすることが更に好ましく、100~140℃とすることが特に好ましく、110~130℃とすることが最も好ましい。また、このような加熱温度は、前記酸触媒を利用する場合、上記温度条件の範囲内において、前記酸触媒の沸点よりも低い温度に設定することが好ましい。また、前記加熱時の加熱時間も特に制限されないが、0.5~100時間とすることが好ましく、1~50時間とすることがより好ましい。このような条件を満たすように加熱温度や加熱時間を設定することにより、より効率よく脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることができる。
【0053】
また、このような加熱工程において採用する圧力条件(反応時の圧力条件)は特に制限されず、常圧下、加圧条件下、減圧条件下のいずれの条件を採用してもよい。圧力条件がいずれの条件であっても、酸無水物化させる反応を十分に進行させることが可能である。なお、容器中で反応を行う場合(例えば還流させる場合等)には、混合液中の溶媒の蒸気(例えば、炭素数1~5のカルボン酸の蒸気等)による加圧条件下で反応を行ってもよい。また、前記加熱工程に際して雰囲気ガスも特に制限されず、例えば、空気であっても不活性ガス(窒素、アルゴン等)であってもよい。
【0054】
また、前記加熱工程は、加熱により還流することで反応を進行せしめる工程であることが好ましい。なお、加熱により還流することで反応を進行せしめる場合、かかる還流工程を、加熱により還流して、ある程度反応を進行せしめた後、反応時に生成された水(酸無水物化を行う際の閉環脱水時に生じる水)及び炭素数1~5のカルボン酸のエステル化合物(前記エステル交換反応により系中に生成される化合物)を蒸留して系外に排出(留去)しながら反応を進行せしめる工程としてもよい。なお、このように水や炭素数1~5のカルボン酸のエステル化合物(例えば酢酸メチル等)等の成分を系外に排出(留去)しながら反応を進行せしめる工程を採用する場合には、混合液の液量がほぼ一定になるように、混合液に炭素数1~5のカルボン酸を適宜添加しながら還流を行うことが好ましい。このように混合液に炭素数1~5のカルボン酸を適宜添加しながら反応を行うことで、蒸留により減少した分の炭素数1~5のカルボン酸を補充しながら反応を進行させることが可能となり、より効率よく反応を進行させることが可能となる。
【0055】
また、前記加熱工程を加熱により還流することで反応を進行せしめる工程とする場合、その還流工程は、前記混合液に無水酢酸を含有せしめて、無水酢酸の存在下において加熱還流することで反応を進行せしめる工程とすることがより好ましい。このように無水酢酸の存在下において加熱還流することで、水を留去する工程を省略することができ、工程をより簡便なものとすることが可能である。
【0056】
このようにして混合液を加熱することで脂環式テトラカルボン酸二無水物を得ることができる。このようにして得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物は、特に制限されるものではないが、例えば、原料化合物として、前記式(1)で表される化合物を利用した場合には、下記式(2):
【0057】
【化5】
【0058】
(式中のX及び複数のRはそれぞれ式(1)中のX及び複数のRと同義である(好適なものも同様である)。)
で表される化合物とすることが可能である。このようにして得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、中でも、ポリイミドの原料として利用した場合に、得られるポリイミドの透明性、耐熱性、高寸法安定性がより向上するといった観点からは、下記式で表される化合物:
【0059】
【化6】
【0060】
がより好ましい(なお、これらの化合物は、各式で表される化合物が得られるように、式(1)で表される原料化合物の種類(特にXの部分の有機基の種類)を適宜選択することで容易に調製できる)。なお、以下において、式(11)で表される化合物を便宜上、場合により「CpODA」と称し、式(14)で表される化合物を場合により「BNBDA」と称する。
【0061】
なお、このような本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用した場合には、得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物は、エステル基含有化合物の残存率(含有量)や重質物の残存率(含有量)が十分に低いものとなる。なお、ここにいう「エステル基含有化合物」に含まれ得る反応中間体は、原料化合物中のエステル基が完全に反応せず、その構造中にエステル基が残っている化合物をいい、例えば、原料化合物(脂環式テトラエステル化合物)が上記式(1)で表される化合物である場合、下記式(a)~(b):
【0062】
【化7】
【0063】
(式中、Xは6員環の脂環構造を有する4価の有機基を示し、かつ、複数のRはそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。)
で表される構造の化合物等を例示できる。なお、エステル基を酸無水物化させる際の各素反応は、カルボン酸と原料化合物との分子間反応(エステル交換反応)と、原料化合物中に形成された水酸基同士の分子内反応(閉環脱水反応)から構成されるが、一般的に分子間反応の方が分子内反応に比べて反応速度が非常に遅いことを考慮すると、反応中間体は、基本的には、式(a)で表される化合物になるものと考えられる。ここで、このような反応中間体や未反応の原料化合物(テトラエステル)はいずれもエステル基を有するものとなり、例えば、NMR測定を行い、エステル基中の炭化水素基に由来するシグナルに基いて、それらの含有比を検討しようとしても、反応中間体と、未反応の原料化合物を分けて含有量を検討することができない。そこで、本明細書においては、エステル基含有化合物(前記未反応の原料化合物及び前記反応中間体を含む、エステル基を有する化合物)の含有量を測定する際には、以下に示すように、エステル基含有化合物がいずれも、原料の脂環式テトラエステル化合物であるものとみなして、エステル基含有化合物(エステル体)の含有量を求める。
【0064】
以下、このようなエステル基含有化合物(未反応の原料化合物及び反応中間体を含む、エステル基を有する化合物)の含有量の測定方法を説明する。先ず、脂環式テトラカルボン酸二無水物を重DMSO(重水素化ジメチルスルホキシド)に溶かして、600MHzのNMRでH-NMR測定を行うことにより分析する。次いで、NMRチャートからエステル基中の炭化水素基(例えばメチル基)のシグナルの積分値Aを求め、これをエステル基含有化合物に由来するシグナルの積分値として利用する。なお、ここにおいて、エステル基中の炭化水素基のシグナルが全てテトラエステル(原料化合物)に由来するものとみなす(なお、例えば、エステル基中の炭化水素基がメチル基である場合、そのシグナルは12個のプロトン分(テトラエステル中に4つのメチル基が含まれるため)のシグナルとなる)。そして、そのようなテトラエステル(原料化合物)に由来するシグナルの積分値Aと、NMRで分析される生成物中の全化合物に共通して含まれる構造部分に由来するシグナル(基準シグナル)の積分値B(測定される生成物中の全化合物に含まれる共通の構造部分のシグナルの積分値)とに基いて、各シグナルのプロトンの数を考慮して、エステル基含有化合物の含有割合を求めることで、エステル基含有化合物の残存率(含有量)を求めることができる。このように、本明細書においては、エステル基含有化合物の含有量(残存率)としては、NMRで分析される面積比の値を利用し、測定されるエステル基がいずれもテトラエステル(原料化合物)に由来するものとみなして(反応生成物中に取り込まれたエステル基を有する化合物がいずれもテトラエステルであるとみなして)算出(換算)される値(モル%)を採用する。
【0065】
ここで、本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法により最終的に得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物中のエステル基含有化合物の残存率は0.7モル%以下(より好ましくは0.6モル%以下、更に好ましくは0.3モル%以下)であることが好ましい。このようなエステル基含有化合物の残存率を前記上限以下とすることで、かかる脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いてポリイミドを製造した場合に、引張特性(引張強度や破断伸び)が向上する。なお、本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用した場合には、容易に、得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物中のエステル基含有化合物の残存率(前記面積比から求められる比率)を上記範囲内とすることが可能である。
【0066】
また、前記重質物は、主に、原料化合物である脂環式テトラエステル化合物に含有されていた成分(基本的に脂環式テトラエステル化合物の製造工程(エステル化工程)において、エステル化の対象となる化合物が2以上反応(重合)して生成されることでエステル化合物中に混入した成分)に由来して、最終的に得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物に含有されるものと推察され、例えば、原料化合物(脂環式テトラエステル化合物)が上記式(1)で表される化合物である場合、下記式(c):
【0067】
【化8】
【0068】
で表される化合物を例示できる(なお、式(c)中のXは式(1)中のXと同義である)。なお、本明細書においては、脂環式テトラカルボン酸二無水物に対してGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定を行い、脂環式テトラカルボン酸二無水物のピークよりも前の時間の位置(時間と検出強度のグラフにおいて、より早い時間)に検出されるピークがいずれも重質物に由来するものとみなして、重質物の含有量(ピークの面積比から算出される含有割合)を求める。そして、本発明においては、最終的に得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物中の前記重質物の残存率(前記面積比)は0.21%(面積%)以下(より好ましくは0.1%以下)であることが好ましい。このような残存率を前記上限以下とすることで、かかる脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いてポリイミドを製造した場合に、引張特性(引張強度や破断伸び)が向上する。なお、本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用した場合には、容易に、得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物中の重質物の残存率(前記面積比)を上記範囲内とすることが可能である。
【0069】
なお、本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法によれば、脂環式テトラカルボン酸二無水物を、前記BNBDAとする場合、その最大粒子径(針状結晶の長辺)を120μmとすることも可能であり、また、脂環式テトラカルボン酸二無水物をCpODAとする場合、その最大粒子径を1000μmとすることも可能である。ここで、最大粒子径としては、化合物の粉末のサンプル1g(無作為にサンプリングした1gの粉末)に対して、測定装置としてデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製、商品名:VHX DIGITAL MICROSCOPE)を用いて測定を行って観測される、粉末中の最大の粒子の粒子径を採用する。
【0070】
以上、本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法について説明したが、以下、本発明のポリイミドの製造方法について説明する。
【0071】
[ポリイミドの製造方法]
本発明のポリイミドの製造方法は、
上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用して脂環式テトラカルボン酸二無水物を得る工程(以下、場合により単に「第一工程」と称する)と、
前記脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させてポリイミドを得る工程(以下、場合により単に「第二工程」と称する)と、
を含むことを特徴とする方法である。このように、本発明のポリイミドの製造方法は、上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法により得られた脂環式テトラカルボン酸二無水物を利用し、かかる脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させてポリイミドを得る方法である。このように、本発明のポリイミドの製造方法においては、上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法により得られた脂環式テトラカルボン酸二無水物を利用するが、かかる脂環式テトラカルボン酸二無水物は、その化合物中に残存しているエステル基含有化合物や重質物の残存量が十分に低いため、最終的に得られるポリイミドの引張特性を高度なものとすることが可能である。
【0072】
前記第一工程は、上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用して脂環式テトラカルボン酸二無水物を得る工程、すなわち、前述の上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を実施することで脂環式テトラカルボン酸二無水物を得る工程である。このような工程の好適な条件等は、前述の上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法において説明した条件と同様である。そのため、前記第一工程で得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物は、前述の上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法において説明した脂環式テトラカルボン酸二無水物と同様のものである(好適なものも同様である)。
【0073】
また、前記第二工程は、前記脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させてポリイミドを得る工程である。このようなジアミンとしては、ポリイミドの製造に利用することが可能なものであればよく、特に制限されず、脂肪族ジアミンであってもあるいは芳香族ジアミンであってもよい。
【0074】
このようなジアミンとしては、耐熱性、及び、重合方法の簡便さの観点から、芳香族ジアミンが好ましく、中でも、下記一般式(3):
HYN-R10-NYH (3)
[式(3)中、R10は炭素数6~50のアリーレン基を示し、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子及び炭素数3~9のアルキルシリル基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表される芳香族ジアミンがより好ましい。なお、このような一般式(3)中のY及びYとして選択され得るアルキルシリル基としてはトリメチルシリル基又はt-ブチルジメチルシリル基がより好ましい。
【0075】
また、このような式(3)中のY及びYは、ポリイミドの合成の簡便さの観点から、いずれも水素原子であることがより好ましい。すなわち、上記式(3)で表される芳香族ジアミンとしては、式:HN-R10-NHで表される芳香族ジアミンがより好ましい。
【0076】
また、前記式(3)中のR10として選択され得るアリーレン基は、炭素数が6~50のものであるが、このようなアリーレン基の炭素数は6~40であることが好ましく、6~30であることがより好ましく、12~20であることが更に好ましい。このような炭素数が前記下限未満では、最終的に形成するポリイミドの耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ポリイミドを調製した場合に、そのポリイミドの溶媒に対する溶解性が低下する傾向にある。
【0077】
前記ジアミンとして好適な式(3)で表される芳香族ジアミンとしては、特に制限されず、式中のR10の位置に炭素数6~50のアリーレン基を含む公知の化合物(例えば、国際公開2019/163703号に記載されている芳香族ジアミン等)を適宜利用でき、市販のものを適宜用いてもよい(なお、この場合、R10は、公知の芳香族ジアミンから2つのアミノ基を除いた残基(2価の基:アリーレン基)となる)。
【0078】
また、このような式(3)中のR10としては、ポリイミドを製造した際に耐熱性をより高度なものとすることが可能であるといった観点から、4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABAN)、p-ジアミノベンゼン(PPD)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BODA)、2,7-ジアミノフルオレン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、ベンジジン、o-ジアニシジン、m-ジアニシジン、3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルジフェニレンスルホン、4,4’’-ジアミノ-p-テルフェニル、4-アミノ安息香酸4-アミノフェニル、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジアミンから2つのアミノ基を除いた2価の基(アリーレン基)であることがより好ましく、DABAN、TFMB、PPD、BODAからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジアミンから2つのアミノ基を除いた2価の基(アリーレン基)であることが更に好ましい。なお、このような芳香族ジアミンは1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0079】
なお、式(3)で表されかつ式中のY及びYのうちの少なくとも一方が水素原子以外のものとなる芳香族ジアミンとしては、式:HN-R10-NHで表される芳香族ジアミンとシリル化剤とを反応させて得られるシリル化されたジアミン等が挙げられ、例えば、ビス(4-トリメチルシリルアミノフェニル)エーテル、1,4-ビス(トリメチルシリルアミノ)ベンゼン等が挙げられる。なお、前記シリル化剤としては、例えば、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
【0080】
また、このようなジアミンを製造するための方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、このようなジアミンとしては市販品を適宜利用してもよい。
【0081】
さらに、前記脂環式テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンとを反応させてポリイミドを合成する方法としては、特に制限されず、脂環式テトラカルボン酸二無水物として上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用して得られたものを利用する以外は、公知のポリイミドの合成方法(例えば、国際公開第2011/099518号、国際公開第2015/163314号、国際公開第2017/030019号、国際公開第2019/005814号等に記載されている方法)と同様の方法(反応条件等)を適宜採用できる。なお、このような公知の方法を採用して、例えば、溶媒中で脂環式テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてポリアミド酸の溶液(ワニス)を得た後、そのポリアミド酸のワニスを用いてポリイミドを製造する方法を採用してもよい。また、このようにポリアミド酸の溶液(ワニス)を得た後に、ポリイミドを製造する場合、前記ポリアミド酸のワニス(樹脂溶液)に、イミダゾール化合物(より好ましくは、2-エチルイミダゾール、1-プロピルイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾール等)を含有させることが好ましい。このように、イミダゾール化合物を利用することで、最終的に得られるポリイミドの耐熱性がより高度なものとなる傾向にある。
【0082】
このようにして得られるポリイミドは、例えば、前記脂環式テトラカルボン酸二無水物が前記式(2)で表される化合物であり、かつ、前記ジアミンが前記式(3)で表される芳香族ジアミンである場合には、下記一般式(4):
【0083】
【化9】
【0084】
[式中、Xは前記式(1)中のXと同義であり(好適なものも同様である)、R10は前記式(3)中のR10と同義である(好適なものも同様である)。]
で表される繰り返し単位を有するポリイミドとなる。なお、本発明により得られるポリイミドは、上記本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法を採用して得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物を利用して製造されたものとなるため、高度な引張特性を有するものとすることができる。
【実施例0085】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
〔(I)CpODAの合成及びCpODAを利用したポリイミドの合成〕
〈I-1〉CpODAの合成
(合成例1)
国際公開第2011/099518号の実施例1で採用している方法と同様の方法を採用して、下記式(10):
【0087】
【化10】
【0088】
で表される化合物(脂環式テトラエステル化合物)を調整した。なお、以下において、便宜上、前記式(10)で表される化合物を「脂環式テトラエステル(A)」と称する。
【0089】
(実施例1)
先ず、還流管付きの300mL三口フラスコ(反応容器)内のガスを窒素に置換し、室温(約25℃程度)下で、前記脂環式テトラエステル(A)(50.0g、105mmol)と、酢酸(60.5g)及びγ-ブチロラクトン(64.1g)からなる溶媒を仕込んで混合液を得た(混合液調製工程)。その後、反応容器内に窒素を流量が50~60mL/minになるように流通させて、反応容器内を微フロー状態にしながら、かかる反応容器を温度を124℃に設定したオイルバスに漬けて、容器内の混合液を加熱攪拌した。混合液の攪拌には半月板翼を用い、その回転速度を200rpmに設定した。なお、混合液は、室温では白色の懸濁液であったが、容器内の温度(混合液の温度)が90℃を超えた段階で全量溶けて、透明な溶液となった。その後、容器内の温度(混合液の温度)が118℃に到達した後、酸触媒としてのトリフルオロメタンスルホン酸394mgを含む溶液(酢酸3.6gで希釈した溶液)を2分かけて滴下した。次いで、混合液中に無水酢酸(21.4g、210mmol)を1分かけて滴下した。なお、このような酸触媒と無水酢酸の滴下により、前記脂環式テトラエステル(A)1モルに対する無水酢酸の量が2モルとなり、かつ、前記脂環式テトラエステル(A)1モルに対する酸触媒の量が0.025モルとなり、溶媒、無水酢酸、酸触媒及び脂環式テトラエステル(A)の総量に対する脂環式テトラエステル(A)の割合(混合液中の脂環式テトラエステル(A)の濃度)は25質量%となった。
【0090】
その後(前記混合液中に前述のようにして無水酢酸を滴下した後)、容器内の混合液に対するオイルバスでの加熱と撹拌を続けた。なお、このような混合液の加熱撹拌を続けることにより進行する反応(酸無水物化反応)では、反応の経過とともに酢酸メチルが生成されることは明らかである。そして、反応の進行により酢酸メチルが生成されると、混合液の沸点が低下する。そのため、前記容器内の混合液の加熱撹拌により、容器内の温度(混合液の温度)が119℃に到達した時点で還流が始まって反応が進行したが、最終的に容器内の温度(混合液の温度)は103℃まで低下した(かかる温度の低下は反応の進行により生成される酢酸メチルに由来することは明らかである)。なお、このような加熱撹拌工程(オイルバスでの加熱)により、酸触媒を添加した後、20分経過した段階で、フラスコ内の液中(混合液中)に白色の沈殿物が生成されていることが確認された。そして、酸触媒の添加後から5時間経過した段階で、フラスコをオイルバスから取り出し(なお、酸触媒の添加後からフラスコをオイルバスから取り出すまでの加熱時間を、以下、便宜上、場合により単に「加熱反応工程の実施時間」と称する)、フラスコ内の混合液(白色の沈殿物が生成された反応溶液)を一昼夜(24時間)室温で放置した後、濾紙を用いた減圧ろ過を行って、前記反応溶液から白色の固形分を分取した。次いで、このようにして得られた白色の固形分を酢酸エチルで洗浄し、その後、減圧乾燥する工程を施すことにより、35.6g(収率88.2%)の白色粉末からなる生成物を得た。
【0091】
このようにして得られた生成物は、IR及びNMR測定の結果から、下記式(11):
【0092】
【化11】
【0093】
で表される化合物(CpODA)であることが確認された。なお、このようにして得られた生成物(白色粉末)からランダム(無作為)にサンプリングした1gの粉末をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製、商品名:VHX DIGITAL MICROSCOPE)で観察することにより、粉末中に含まれる最大の粒子の粒子径を測定したところ、粉末中の粒子の最大粒子径は1000μmとなっており、粉末が比較的大きな粒子により構成されていることが分かった。
【0094】
(実施例2)
前記溶媒の代わりに、酢酸34.9g及びγ-ブチロラクトン89.7gからなる溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、白色粉末からなる生成物(CpODA)を35.4g(収率85.1%)得た。
【0095】
(比較例1)
前記溶媒の代わりに、酢酸128.1gからなる溶媒を用い(溶媒にγ-ブチロラクトンを利用せずに溶媒として酢酸のみを利用し)、かつ、加熱反応工程の実施時間を7時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、白色粉末からなる生成物(CpODA)を37.9g(収率93.9%)得た。なお、比較例1で得られた生成物(白色粉末)について、実施例1と同様にして最大粒子径を測定したところ、粉末中の粒子の最大粒子径が200μmであることが分かった。
【0096】
<生成物のCpODA中に含まれるエステル基含有化合物及び重質物の含有量(残存率)の測定>
〈CpODA中のエステル基含有化合物の残存率の測定〉
実施例1~2及び比較例1で得られた生成物(CpODA)をそれぞれ用いて、以下のようにしてエステル基含有化合物の残存率を測定した。なお、このようなエステル基含有化合物(未反応のエステル基が残存した化合物)としては様々な形態のものが考えられるが、便宜上、エステル基含有化合がいずれも未反応の原料化合物(テトラエステル:前記式(1)で表される化合物)であるものとみなして、エステル基含有化合物の残存率を求めた。すなわち、先ず、CpODAを重DMSO(重水素化ジメチルスルホキシド)に溶かして、600MHzのNMRでH-NMR測定を行い、得られたNMRチャートから、メチルエステル中のメチル基(プロトン3個分)のシグナル(3.52ppm)の積分値(ピークの面積)Aと、生成物(エステル基含有化合物を含む全化合物)に含まれる共通の構造部分のシグナル(基準シグナル:1.14ppm)の積分値(ピークの面積)B(生成物中の全化合物の量の基準となる積分値)とを求めた。次いで、積分値A及び積分値Bに基いて、エステル基含有化合物の残存量を、下記式(X):
[エステル基含有化合物の残存量(モル%)]=([積分値Bを100とした場合の積分値Aの換算値]÷600)×100 ・・・(X)
を計算することにより求めた。なお、このような計算式(X)は、積分値(ピーク面積値)Bが生成物中の全化合物の含有量の指標として利用可能なノルボルナン橋頭位の4個のプロトンのうちの2プロトン分のシグナルの積分値(なお、かかるシグナルはCpODA及びテトラエステルのいずれの化合物からも計測されるシグナルである)であること、また、積分値(ピーク面積値)Aは、エステル基がいずれも未反応のテトラエステルに由来するものであるとみなすと12個のプロトン(4つのテトラメチル基中のプロトン)分の積算量となることから、[積分値B]/2の値が全化合物の量の指標となる面積となり、また、[積分値A]/12の値がテトラエステルの量の指標となる面積となるため、下記式:
{([積分値A]/12)÷([積分値B]/2)}×100
の計算値(式を変形すると式:([積分値A]/[積分値B])×(1/6)×100}の計算値)が、テトラエステル(エステル基含有化合物)の含有割合(モル%)に相当するものとなることに基いて導き出した式である。得られた結果を表1に示す。
【0097】
〈CpODA中の重質物の残存率の測定〉
実施例1~2及び比較例1で得られた生成物(CpODA)をそれぞれ用いて、各CpODAに対してGPC測定を行い、時間と検出強度の関係のグラフを求めて、CpODAのピークが確認される時間よりも前の時間に測定されるピークがいずれも重質物に由来するものであるとみなして、重質物の残存率(面積比:面積%)を求めた。なお、このような重質物としては、例えば、下記式(12):
【0098】
【化12】
【0099】
で表される化合物(二量化されたCpODA)等が挙げられるが、本明細書においては、生成物(CpODA)のピークより前に確認されるピークをいずれも重質物に由来するピークとみなしている。
【0100】
また、前記重質物の残存率を求めるためのGPC測定は、測定装置として、東ソー株式会社製の「TOSOH HLC-8220GPC」を用い、更に、カラムとして、東ソー株式会社製の「TOSOH TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-M」を1本及び東ソー株式会社製の「TOSOH TSKgelSuperMultiporeHZ-M」を3本連結したものを用いて行った。また、このようなGPC測定に際しては、検出器として示差屈折計(RI検出器)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を利用した。更に、測定に際しては、各生成物2mgをそれぞれサンプルとして利用した。さらに、GPC測定に際しては、2mgのサンプルを1.5mLのTHFに溶解した測定試料を調製して、流速:0.35ml/min、注入量:25μlの条件でGPC測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示す結果からも明らかなように、溶媒に酢酸とともにγ-ブチロラクトンを利用した場合(実施例1~2)においてはいずれも、エステル基含有化合物の残存率が0.7モル%以下となっており、かつ、重質物の残存率が0.21面積%以下(具体的には0.044面積%以下)となっていた。このような実施例1~2の結果と、比較例1で得られたCpODA中のエステル基含有化合物及び重質物の残存率の結果とを比較すれば、実施例1~2で採用した方法によれば、エステル基含有化合物と重質物の残存率が共に十分に低減されることが確認された。なお、実施例1~2及び比較例1において、還流に利用した混合液中の脂環式テトラエステル(A)の含有量(濃度)がいずれも25質量%となっていることを考慮すれば、実施例1~2で採用した方法によれば、エステル基含有化合物と重質物の残存率が十分に低減されたCpODAを効率よく製造できることも分かった。なお、実施例1においては、最大粒子径が1000μmとなるような大きな粒子が確認されており、本発明によれば、粒子径の大きな化合物(CpODA)を得ることがも可能となることも分かった。
【0103】
(比較例2~7)
γ-ブチロラクトンの代わりにジメチルスルホキシド(比較例2で利用)、N,N-ジメチルホルムアミド(比較例3で利用)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(比較例4で利用)、アセチルアセトン(比較例5で利用)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(比較例6で利用)又はN-メチル-2-ピロリドン(比較例7で利用)を利用した以外は、実施例2と同様にしてCpODAの製造を試みたが、CpODAは生成されず、原料のみが回収された。ここで、γ-ブチロラクトンの代わりに他の有機溶媒を用いた比較例2~7の結果と、実施例1~2の結果とを併せ考慮すれば、実施例1~2で採用した方法によって、エステル基含有化合物と重質物の残存率を共に十分に低減させながら、CpODAを効率よく製造することが可能となることが明らかとなった。
【0104】
〈I-2〉ポリイミドの合成
(実施例3)
窒素雰囲気下において、30mLのスクリュー管内に、4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABAN)を3.84g(10mmol)導入するとともに、実施例1で得られたCpODAを2.27g(10mmol)導入した。次いで、前記スクリュー管内に、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を24.5g添加して、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の総量(モノマーの総量)の比率(含有量)が20質量%となる混合液を得た。次に、得られた混合液を、窒素雰囲気下、80℃にて撹拌して結晶の溶解を確認した後、更に、室温(25℃程度)の温度条件下で4日間撹拌し、溶液中においてポリアミド酸を形成せしめて、ポリアミド酸を含む反応液を得た。次に、前記反応液に対して、前記ポリアミド酸の製造に用いたジアミンとCpODAの総量(モノマーの総量:6.12g)の10質量%に相当する量(0.61g)の2-エチルイミダゾールを加え、室温にて1時間攪拌することにより、溶媒(NMP)と、2-エチルイミダゾールと、ポリアミド酸とを含有するポリイミド製造用のワニス(樹脂溶液)を得た。
【0105】
次いで、前記ワニスを、縦76mm、横52mmの大きさのガラス基板にスピンコーターを用いて塗布し、ガラス基板上に塗膜を形成した。その後、前記塗膜の形成されたガラス基板を真空ホットチャンバーにセットし、減圧条件下(圧力:150Pa)、70℃で60分間加熱する工程を実施し、前記塗膜から溶媒を除去した。その後、溶媒除去後の前記塗膜が積層された状態の前記ガラス基板をイナートオーブンの加熱室内にセットし、加熱室内に窒素パージを実施した。次いで、イナートオーブンの温度を380℃まで昇温して1時間保持した後(かかる加熱温度及び保持時間の条件を以下において、場合により「製膜加熱条件」と称する)、室温(25℃程度)まで放冷するように、イナートオーブンを操作することにより、ガラス基板上にポリイミドを形成し、ポリイミドからなるフィルムがコートされたガラス基板を得た。次いで、当該ガラス基板から、ポリイミドからなるフィルムを剥離し、無色透明のポリイミドからなるフィルムを得た。得られたポリイミドの膜厚や、利用したモノマーの種類等を表2に示す。
【0106】
(実施例4及び比較例8)
実施例1で得られたCpODAの代わりに、実施例2で得られたCpODA(実施例4で利用)又は比較例1で得られたCpODA(比較例8で利用)をそれぞれ利用した以外は、実施例3と同様にして、無色透明のポリイミドからなるフィルムを得た。得られたポリイミドの膜厚や、各実施例で利用したモノマーの種類等を表2に示す。
【0107】
<ポリイミドの特性の評価>
実施例3~4及び比較例8で得られたポリイミドフィルムをそれぞれ利用して、ポリイミドフィルムの引張強度(単位:MPa)及び破断伸び(単位:%)を、以下のようにして測定した。すなわち、先ず、SD型レバー式試料裁断器(株式会社ダンベル製の裁断器(型式SDL-200))に、株式会社ダンベル製の商品名「スーパーダンベルカッター(型:SDMK-1000-D、JIS K7139(2009年発行)のA22規格に準拠)」を取り付けて、前記ポリイミドフィルムの大きさが、全長:75mm、タブ部間距離:57mm、平行部の長さ:30mm、肩部の半径:30mm、端部の幅:10mm、中央の平行部の幅:5mm、厚み:13μmとなるように裁断して、ダンベル形状の試験片(試験片の厚みを各実施例で得られたフィルムの厚みとした以外は、JIS K7139 タイプA22(縮尺試験片)の規格に沿ったもの)を、測定試料として調製した。次いで、テンシロン型万能試験機(例えば、株式会社エー・アンド・デイ製の型番「UCT-10T」)を用いて、前記測定試料を掴み具間の幅が57mm、掴み部分の幅が10mm(端部の全幅)となるようにして配置した後、荷重フルスケール:0.05kN、試験速度:5.00mm/分の条件で前記測定試料を引っ張る、引張試験を行って引張強度及び破断伸びの値を求めた。なお、このような試験は、JIS K7162(1994年発行)に準拠した試験とした。また、破断伸びの値(%)は、引張試験開始前の試料のタブ部間距離(=掴み具間の幅:57mm)をL、引張試験で破断するまでの試料のタブ部間距離(破断した際の掴み具間の幅:57mm+α)をLとして、下記式:
[破断伸び(%)]={(L-L)/L}×100
を計算して求めた。得られた結果を表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
表2に示す結果からも明らかなように、実施例1~2で得られたCpODAを利用してポリイミドを製造した場合(実施例3~4)には、比較例1で得られたCpODAを利用してポリイミドを製造した場合(比較例8)と対比して、引張強度及び破断伸びを基準とした引張特性により優れたものとなることが確認された。このような結果から、エステル基含有化合物及び重質物の含有量が低減されたテトラカルボン酸二無水物を利用した場合(実施例3~5)に、得られるポリイミドの引張特性をより向上させることが可能となることが分かった。
【0110】
〔(II)BNBDAの合成及びBNBDAを利用したポリイミドの合成〕
〈II-1〉BNBDAの合成
(合成例2)
国際公開第2017/030019号の実施例1で採用している方法と同様の方法を採用して、下記式(13):
【0111】
【化13】
【0112】
で表される化合物(脂環式テトラエステル化合物)を調整した。なお、以下において、便宜上、前記式(13)で表される化合物を「脂環式テトラエステル(B)」と称する。
【0113】
(実施例5)
還流管付きの300mLフラスコの代わりに還流管付きの1Lフラスコを用い、混合液調製工程を還流管付きの1Lフラスコ中に前記脂環式テトラエステル(B)30gと、酢酸102.6g及びγ-ブチロラクトン102.6gからなる溶媒を仕込んで混合液を得る工程に変更し、混合液に添加した酸触媒としてのトリフルオロメタンスルホン酸の量を0.266gに変更し、混合液に添加した無水酢酸の量を14.5gに変更し、かつ、加熱反応工程の実施時間を6.5時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、白色粉末からなる生成物(BNBDA)を21.3g(収率90.7%)得た。なお、実施例5においては、前記脂環式テトラエステル(B)1モルに対する無水酢酸の量が2モルとなり、前記脂環式テトラエステル(B)1モルに対する酸触媒の量が0.025モルとなり、溶媒、無水酢酸、酸触媒及び脂環式テトラエステル(A)の総量に対する脂環式テトラエステル(B)の割合(混合液中の脂環式テトラエステル(A)の濃度)は12質量%となった。また、このようにして得られた生成物は、IR及びNMR測定の結果から、下記式(14):
【0114】
【化14】
【0115】
で表される化合物(BNBDA)であることが確認された。
【0116】
(実施例6)
還流管付きの1Lフラスコの代わりに還流を行うことが可能な200Lの反応容器を用い、前記溶媒の代わりに酢酸10.3kg及びγ-ブチロラクトン92.4kgからなる溶媒を用い、前記脂環式テトラエステル(B)の使用量を15kgに変更し、混合液に添加した酸触媒としてのトリフルオロメタンスルホン酸の量を0.133kgに変更し、混合液に添加した無水酢酸の量を7.25kgに変更し、かつ、加熱反応工程の実施時間を6時間に変更した以外は、実施例5と同様にして、白色粉末からなる生成物(BNBDA)を10.97kg(収率93.5%)得た。
【0117】
(比較例9)
前記溶媒の代わりに、酢酸205.2gからなる溶媒を用い(溶媒にγ-ブチロラクトンを利用せずに溶媒として酢酸のみを利用し)、かつ、加熱反応工程の実施時間を7時間に変更した以外は、実施例5と同様にして、白色粉末からなる生成物(BNBDA)を23.0g(収率98.2%)得た。
【0118】
<生成物のBNBDA中に含まれるエステル基含有化合物及び重質物の含有量(残存率)の測定>
〈BNBDA中のエステル基含有化合物の残存率の測定〉
実施例5~6及び比較例9で得られた生成物(BNBDA)中のエステル基含有化合物の残存率を以下のようにして求めた。すなわち、測定対象をCpODAからBNBDAに変更し、かつ、残存率を求める際にエステル基含有化合物がいずれも前記式(13)で表される化合物(未反応の原料化合物:テトラエステル)であるものとみなした以外は、前述の「CpODA中のエステル基含有化合物の残存率の測定」において採用した方法と同様の方法を採用して、エステル基含有化合物の残存率を求めた。なお、残存率(モル%)の算出には、メチルエステル中のメチル基のシグナル(3.52ppm)の積分値(ピークの面積)Aと、全化合物(BNBDA及びエステル基含有化合物)の基準シグナル(1.2ppm:全ての化合物に共通して含まれる構造部分である2つのノルボルナン橋頭位のうちの一方の部分のプロトンのシグナル)の積分値(ピークの面積)Bとを利用した(なお、計算式は、上記式(X)と同じ式を利用した)。得られた結果を表3に示す。
【0119】
〈BNBDA中の重質物の残存率の測定〉
実施例5~6及び比較例9で得られた生成物(BNBDA)をそれぞれ用いて、各BNBDAに対してGPC測定を行い、時間と検出強度の関係のグラフを求めて、BNBDAのピークが確認される時間よりも前の時間に測定されるピークがいずれも重質物に由来するものであるとみなして、重質物の残存率(面積比:面積%)を求めた。なお、具体的な測定方法としては、CpODAの代わりにBNBDAを利用した以外は、前述の「CpODA中の重質物の残存率の測定」において採用した方法と同様の方法を採用した。得られた結果を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
表3に示す結果からも明らかなように、溶媒に酢酸とともにγ-ブチロラクトンを利用した場合(実施例5~6)においてはいずれも、エステル基含有化合物の残存率が0.7モル%以下となっており、かつ、重質物の残存率が0.21面積%以下となっていた。このような実施例5~6の結果と、比較例9で得られたBNBDA中のエステル基含有化合物及び重質物の残存率の結果とを比較すれば、実施例5~6で採用した方法によれば、エステル基含有化合物と重質物の残存率が共に十分に低減されることが確認された。なお、実施例5~6及び比較例9において、混合液中の脂環式テトラエステル(B)の含有量がいずれも12質量%となっていることを考慮すれば、実施例5~6で採用した方法によれば、エステル基含有化合物と重質物の残存率が十分に低減されたBNBDAを効率よく製造できることも分かった。
【0122】
〈II-2〉ポリイミドの合成
(実施例7~8及び比較例10)
実施例1で得られたCpODAの代わりに、実施例5で得られたBNBDA(実施例7で利用)、実施例6で得られたBNBDA(実施例8で利用)又は比較例9で得られたBNBDA(比較例10で利用)をそれぞれ利用し、かつ、BNBDAの使用量をいずれも3.3033g(10.0mmol)とした以外は、実施例3と同様にしてポリイミド(ポリイミドフィルム)を得た。得られたポリイミドの膜厚や、各実施例で利用したモノマーの種類等を表4に示す。
【0123】
また、実施例3~4及び比較例8で得られたポリイミドフィルムをそれぞれ利用する代わりに、実施例7~8及び比較例10で得られたポリイミドフィルムをそれぞれ利用した以外は、前述の「ポリイミドの特性の評価」において採用した方法と同様の方法を採用して、実施例7~8及び比較例10で得られたポリイミドフィルムの引張強度(単位:MPa)及び破断伸び(単位:%)をそれぞれ測定した。得られた結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4に示す結果からも明らかなように、実施例5~6で得られたBNBDAを利用してポリイミドを製造した場合(実施例7~8)には、比較例9で得られたBNBDAを利用してポリイミドを製造した場合(比較例10)と対比して、引張強度及び破断伸びを基準とした引張特性により優れたものとなることが確認された。このような結果から、エステル基含有化合物(未反応原料及び反応中間体を含むエステル基を有する化合物)及び重質物の含有量が低減されたテトラカルボン酸二無水物を利用した場合(実施例7~8)に、得られるポリイミドの引張特性をより向上させることが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上説明したように、本発明によれば、原料の濃度を高濃度とした混合液を利用した場合においても反応生成物中のエステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させることが可能であり、エステル基含有化合物や重質物の残存率を低減させた脂環式テトラカルボン酸二無水物を効率よく製造することが可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法及びその方法を利用したポリイミドの製造方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法は、例えば、ポリイミドのモノマーとして利用する脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造するための方法等として特に有用である。