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特開2024-145582加工管理装置、切削工具システム、加工管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145582
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】加工管理装置、切削工具システム、加工管理方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 25/06 20060101AFI20241004BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20241004BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20241004BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20241004BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23B25/06
B23Q17/00 A
B23Q17/22 A
B23B27/00 D
G01B7/00 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058001
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亘
【テーマコード(参考)】
2F063
3C029
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
2F063AA02
2F063BA21
2F063CA09
2F063CA40
2F063CB19
2F063DA01
2F063GA08
2F063JA09
3C029AA01
3C029EE01
3C029EE03
3C045HA07
3C046BB01
(57)【要約】
【課題】被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことができる加工管理装置、切削工具システム、加工管理方法を提供する。
【解決手段】加工管理装置は、工具本体、切削インサート、及び渦電流センサを用いた第1の距離センサ、第2の距離センサと、を備える切削工具によって被削物を加工する際に用いられる加工管理装置であって、第1の距離センサ、第2の距離センサから出力される出力値を取得する取得部と、取得部で取得された出力値から被削物の加工面までの距離を算出するための較正式を生成する較正処理を行う較正処理部と、較正処理部で生成された較正式に基づいて、取得部で取得された出力値から被削物の加工面までの距離を算出し、算出された距離から、被削物の寸法測定結果を取得する測定処理部と、外部から取得した外部情報に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する較正判定部と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具軸に沿って延び先端部に台座を有する工具本体、前記台座に着脱可能に取り付けられる切削インサート、及び前記工具本体に取り付けられる、渦電流センサを用いた距離センサ、を備える切削工具によって被削物を加工する際に用いられる加工管理装置であって、
前記距離センサから出力される出力値を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出するための較正式を生成する較正処理を行う較正処理部と、
前記較正処理部で生成された前記較正式に基づいて、前記取得部で取得された前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出し、算出された前記距離から、前記被削物の寸法測定結果を取得する測定処理部と、
外部から取得した外部情報に基づいて、前記較正処理を行うか否かを判定する較正判定部と、を有する、
加工管理装置。
【請求項2】
前記較正判定部は、前記外部情報として、前記切削工具で前記被削物を加工する際に用いるクーラントの温度を取得する、
請求項1に記載の加工管理装置。
【請求項3】
前記較正判定部は、前記外部情報として、前記切削工具で前記被削物の加工を行う空間の気温を取得する、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項4】
前記較正判定部は、前記外部情報として、前記較正処理部で直前に行った前記較正処理からの経過時間を取得する、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項5】
前記較正判定部は、前記外部情報として、前記切削工具を加工に用いた加工時間を取得する、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項6】
前記較正判定部は、外部から取得した前記外部情報が、予め設定した範囲から外れた場合、前記較正処理を行う必要がある、と判定し、
前記較正処理部は、前記較正判定部で前記較正処理を行う必要がある、と判定された場合、前記較正処理を行う、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項7】
前記較正処理部は、
前記距離センサを、前記被削物に対して予め設定されたクリアランスを隔てた複数の測定点の各々に配置したときに、前記距離センサから出力される前記出力値を取得し、
前記距離センサから出力される前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を得るための前記較正式を、取得された複数の前記測定点における前記出力値に基づいて取得する、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項8】
前記距離センサに電力を供給する電源モジュールの残量を取得し、取得された前記電源モジュールの残量に基づいて、前記電源モジュールの状態を判定する電源状態判定部をさらに備える、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項9】
前記測定処理部で取得された前記被削物の寸法測定結果に基づき、前記被削物の加工状態を判定する加工判定部、をさらに備える、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項10】
前記測定処理部で取得された前記寸法測定結果に関する情報を表示する表示部、をさらに備える、
請求項1または2に記載の加工管理装置。
【請求項11】
前記工具軸に沿って延び先端部に前記台座を有する前記工具本体、前記台座に着脱可能に取り付けられる前記切削インサート、及び前記工具本体に取り付けられる、渦電流センサを用いた前記距離センサ、を備える前記切削工具と、
請求項1または2に記載の加工管理装置と、を含む、
切削工具システム。
【請求項12】
前記距離センサは、
前記工具軸の径方向における前記加工面までの距離を測定するための第1の距離センサと、
前記工具軸の軸方向における前記加工面までの距離を測定するための第2の距離センサと、を備え、
前記取得部は、前記第1の距離センサ、及び前記第2の距離センサの各々から出力される前記出力値を取得し、
前記較正処理部は、
前記第1の距離センサ、及び前記第2の距離センサの各々から出力される前記出力値に基づいて、前記第1の距離センサ、及び前記第2の距離センサの各々の較正処理を行う、
請求項11に記載の切削工具システム。
【請求項13】
前記切削工具は、前記距離センサから出力される前記出力値を、前記加工管理装置に送信する通信部を備え、
前記取得部は、前記通信部から送信された前記出力値を取得する、
請求項11に記載の切削工具システム。
【請求項14】
前記切削工具が複数備えられ、
前記加工管理装置は、複数の前記切削工具の各々に備えられた前記通信部から、前記出力値を取得する、
請求項13に記載の切削工具システム。
【請求項15】
工具軸に沿って延び先端部に台座を有する工具本体、前記台座に着脱可能に取り付けられる切削インサート、及び前記工具本体に取り付けられる、渦電流センサを用いた距離センサ、を備える切削工具によって被削物を加工する際に用いられる加工管理方法であって、
前記距離センサから出力される出力値を取得する工程と、
前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出するための較正式を生成する較正処理を行う工程と、
前記較正式に基づいて、前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出し、算出された前記距離から、前記被削物の寸法測定結果を取得する工程と、
外部から取得した外部情報に基づいて、前記較正処理を行うか否かを判定する工程と、を含む、
加工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工管理装置、切削工具システム、加工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能を付与された切削加工用の工具の開発が進められている。特許文献1には、距離センサを備える切削工具が開示されている。切削工具が距離センサを有することで、被削物の寸法測定を行うことができ、測定に要する時間を短縮し効率的な加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-151686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような切削工具においては、距離センサとして、渦電流センサを用いている。渦電流センサは、温度変化により、検出結果が影響を受けることを本発明者らは見出した。また、切削工具による加工時には、温度変化に限らず、様々な要因で加工精度が変動する可能性がある。そこで、距離センサを用いた被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことが望まれる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことができる加工管理装置、切削工具システム、加工管理方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の加工管理装置の一つの態様は、工具軸に沿って延び先端部に台座を有する工具本体、前記台座に着脱可能に取り付けられる切削インサート、及び前記工具本体に取り付けられる、渦電流センサを用いた距離センサ、を備える切削工具によって被削物を加工する際に用いられる加工管理装置であって、前記距離センサから出力される出力値を取得する取得部と、前記取得部で取得された前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出するための較正式を生成する較正処理を行う較正処理部と、前記較正処理部で生成された前記較正式に基づいて、前記取得部で取得された前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出し、算出された前記距離から、前記被削物の寸法測定結果を取得する測定処理部と、外部から取得した外部情報に基づいて、前記較正処理を行うか否かを判定する較正判定部と、を有する。
【0007】
本発明の加工管理装置の一つの態様によれば、工具本体に取り付けられた距離センサにより、被削物の加工面までの距離を検出できる。測定処理部は、較正処理部で生成される較正式に基づいて距離センサから出力される出力値から被削物音加工面までの距離を算出することで、被削物の寸法を測定する。何らかの原因で距離センサが影響を受けた場合、較正処理部における較正処理を行う必要が生じる。較正判定部では、外部から取得した外部情報に基づいて、較正処理を行うか否かを判定できるので、距離センサが影響を受ける要因となる外部情報を取得することで、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。これにより、被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことが可能となる。
【0008】
上記加工管理装置において、前記較正判定部は、前記外部情報として、前記切削工具で前記被削物を加工する際に用いるクーラントの温度を取得としてもよい。
【0009】
この場合、較正判定部が、外部情報として取得したクーラントの温度に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。渦電流センサを用いた距離センサにおいては、温度変化による影響を受けやすい。クーラントの温度に基づいて較正処理を行うか否かを判定することで、クーラントの温度変化によって、被削物の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。
【0010】
上記加工管理装置において、前記較正判定部は、前記外部情報として、前記切削工具で前記被削物の加工を行う空間の気温を取得してもよい。
【0011】
この場合、較正判定部が、外部情報として取得した、被削物の加工を行う空間の気温に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。渦電流センサを用いた距離センサにおいては、温度変化による影響を受けやすい。被削物の加工を行う空間の気温に基づいて較正処理を行うか否かを判定することで、気温の変化によって、被削物の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。
【0012】
上記加工管理装置において、前記較正判定部は、前記外部情報として、前記較正処理部で直前に行った前記較正処理からの経過時間を取得してもよい。
【0013】
この場合、較正判定部が、外部情報として取得した、直前に行った較正処理からの経過時間に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。切削インサートの摩耗が生じた場合、経過時間に基づいて較正処理を行うか否かを判定し、適切なタイミングで較正処理を行うことで、切削インサートの摩耗によって、被削物の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。さらに、電子回路の発熱に伴う渦電流センサを用いた距離センサの出力の変化を確認、又は補正するために、取得した経過時間を使用してもよい。
【0014】
上記加工管理装置において、前記較正判定部は、前記外部情報として、前記切削工具を加工に用いた加工時間を取得してもよい。
【0015】
この場合、較正判定部が、外部情報として取得した、切削工具を加工に用いた加工時間に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。切削インサートの摩耗が生じた場合、加工時間に基づいて較正処理を行うか否かを判定し、適切なタイミングで較正処理を行うことで、切削インサートの摩耗によって、被削物の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。
【0016】
上記加工管理装置において、前記較正判定部は、外部から取得した前記外部情報が、予め設定した範囲から外れた場合、前記較正処理を行う必要がある、と判定し、前記較正処理部は、前記較正判定部で前記較正処理を行う必要がある、と判定された場合、前記較正処理を行ってもよい。
【0017】
この場合、外部から取得した前記外部情報が、予め設定した範囲から外れた場合、較正処理を行うことによって、適切なタイミングで較正処理を行い、被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことができる。
【0018】
上記加工管理装置において、前記較正処理部は、前記距離センサを、前記被削物に対して予め設定されたクリアランスを隔てた複数の測定点の各々に配置したときに、前記距離センサから出力される前記出力値を取得し、前記距離センサから出力される前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を得るための前記較正式を、取得された複数の前記測定点における前記出力値に基づいて取得してもよい。
【0019】
この場合、較正処理部は、被削物に対して予め設定されたクリアランスを隔てた複数の測定点の各々に配置したときに、距離センサから出力される出力値に基づいて、距離センサから被削物の加工面までの距離を得るための較正式を取得する。これにより、較正処理後は、取得した較正式に基づいて、距離センサから出力される出力値から、距離センサから被削物の加工面までの距離を高い精度で取得することができる。
【0020】
上記加工管理装置において、前記距離センサに電力を供給する電源モジュールの残量を取得し、取得された前記電源モジュールの残量に基づいて、前記電源モジュールの状態を判定する電源状態判定部をさらに備えてもよい。
【0021】
この場合、電源モジュールの残量に基づいて、電源モジュールの状態を判定する。渦電流センサを用いた距離センサにおいては、電源モジュールの残量が減ると、距離の検出精度が影響を受けたり、距離の検出自体が行えなくなることがある。これにより、電源モジュールの残量が少なくなった場合に、電源モジュールの交換を作業者に促すことができる。
【0022】
上記加工管理装置において、前記測定処理部で取得された前記被削物の寸法測定結果に基づき、前記被削物の加工状態を判定する加工判定部、をさらに備えてもよい。
【0023】
この場合、測定処理部で取得された被削物の寸法測定結果に基づき、被削物の加工状態を判定する。これにより、切削工具によって加工される被削物の寸法測定の結果、追加工の必要の有無、不良品判定等をおこない、被削物の品質管理を良好に行える。
【0024】
上記加工管理装置において、前記測定処理部で取得された前記寸法測定結果に関する情報を表示する表示部、をさらに備えてもよい。
【0025】
この場合、表示部が、寸法測定結果に関する情報を表示することで、作業者が、被削物の寸法測定の結果を把握することができる。
【0026】
本発明の切削工具システムの一つの態様は、前記工具軸に沿って延び先端部に前記台座を有する前記工具本体、前記台座に着脱可能に取り付けられる前記切削インサート、及び前記工具本体に取り付けられる、渦電流センサを用いた前記距離センサ、を備える前記切削工具と、上記の加工管理装置と、を含む。
【0027】
本発明の切削工具システムの一つの態様によれば、距離センサが影響を受ける要因となる外部情報を取得することで、適切なタイミングで較正処理を行うことができる加工管理装置を備える。これにより、被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことが可能となる。
【0028】
上記切削工具システムにおいて、前記距離センサは、前記工具軸の径方向における前記加工面までの距離を測定するための第1の距離センサと、前記工具軸の軸方向における前記加工面までの距離を測定するための第2の距離センサと、を備え、前記取得部は、前記第1の距離センサ、及び前記第2の距離センサの各々から出力される前記出力値を取得し、前記較正処理部は、前記第1の距離センサ、及び前記第2の距離センサの各々から出力される前記出力値に基づいて、前記第1の距離センサ、及び前記第2の距離センサの各々の較正処理を行うようにしてもよい。
【0029】
この場合、工具軸の径方向における加工面までの距離を測定するための第1の距離センサと、工具軸の軸方向における加工面までの距離を測定するための第2の距離センサと、の各々において、影響を受ける要因となる外部情報を取得することで、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。
【0030】
上記切削工具システムにおいて、前記切削工具は、前記距離センサから出力される前記出力値を、前記加工管理装置に送信する通信部を備え、前記取得部は、前記通信部から送信された前記出力値を取得してもよい。
【0031】
この場合、切削工具に備えた通信部が、距離センサから出力される出力値を加工管理装置に送信することで、加工管理装置の取得部で出力値を取得し、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。
【0032】
上記切削工具システムにおいて、前記切削工具が複数備えられ、前記加工管理装置は、複数の前記切削工具の各々に備えられた前記通信部から、前記出力値を取得してもよい。
【0033】
この場合、加工管理装置が、複数の切削工具の各々に備えられた通信部から、距離センサから出力される出力値を取得する。これにより、複数の切削工具の加工管理をまとめて行うことができる。さらに複数の切削工具間で、較正処理の結果、被削物の寸法測定結果等を相互利用することもできる。
【0034】
本発明の加工管理方法の一つの態様は、工具軸に沿って延び先端部に台座を有する工具本体、前記台座に着脱可能に取り付けられる切削インサート、及び前記工具本体に取り付けられる、渦電流センサを用いた距離センサ、を備える切削工具によって被削物を加工する際に用いられる加工管理方法であって、記距離センサから出力される出力値を取得する工程と、前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出するための較正式を生成する較正処理を行う工程と、前記較正式に基づいて、前記出力値から前記被削物の加工面までの距離を算出し、算出された前記距離から、前記被削物の寸法測定結果を取得する工程と、外部から取得した外部情報に基づいて、前記較正処理を行うか否かを判定する工程と、を含む。
【0035】
本発明の加工管理方法の一つの態様によれば、外部から取得した外部情報に基づいて、較正処理を行うか否かを判定できるので、距離センサが影響を受ける要因となる外部情報を取得することで、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。これにより、被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一つの態様の加工管理装置、切削工具システム、加工管理方法によれば、被削物の寸法測定を、高い精度で安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態の旋削工具システム(切削工具システム)を示す図である。
図2】本発明の一実施形態の旋削工具(切削工具)のヘッド部の斜視図である。
図3】本発明の一実施形態のヘッド部の断面図である。
図4】本発明の一実施形態の加工管理装置の機能ブロック図である。
図5A】本発明の一実施形態の予備加工工程を示す図である。
図5B】本発明の一実施形態の予備加工工程を示す図である。
図5C】本発明の一実施形態の出力値測定工程を示す図である。
図5D】本発明の一実施形態の出力値測定工程を示す図である。
図6】本発明の一実施形態における、様々な材料の被削材に対する較正式を表すグラフである。
図7】本発明の一実施形態における、実測値計測工程を示す図である。
図8】本発明の一実施形態の加工管理方法の流れを示すフローチャートである。
図9A】本発明の一実施形態の本加工工程を示す図である。
図9B】本発明の一実施形態の本加工工程を示す図である。
図9C】本発明の一実施形態の測定処理工程を示す図である。
図9D】本発明の一実施形態の測定処理を示す図である。
図10】本発明の一実施形態における、表示部に表示される、被削材の寸法測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る旋削工具(切削工具)1について説明する。以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0039】
<旋削工具システム>
図1は、本発明の一実施形態の旋削工具システム(切削工具システム)10を示す図である。図2は、旋削工具1のヘッド部22の斜視図である。図3は、ヘッド部22の断面図である。
図1に示すように、旋削工具システム10は、旋削工具1と、加工管理装置100と、を備える。
【0040】
本実施形態の旋削工具1は、工作機械(図示なし)の主軸回りに回転させられる金属材料等の被削材に対して、中ぐり加工等の旋削加工を施す。実施形態の旋削工具1は、金属製で、工具本体2と、切削インサート4と、ヘッドユニット7と、を備える。
【0041】
工具本体2は、工具軸Jに沿った軸方向Djに延びる。工具本体2は、工具軸Jを中心とする円柱状のシャンク部21と、シャンク部21に対して工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1に設けられたヘッド部22と、を有する。
【0042】
ヘッド部22は、シャンク部21の外周面から軸方向Djに交差する工具本体2の径方向Drの外側に突出する突出部23を有する。突出部23には、台座23dが設けられる。台座23dには、インサートアタッチメント41が取り付けられる。インサートアタッチメント41は、切削インサート4を保持する。台座23d、および台座23dに取り付けられる切削インサート4は、工具本体2において、工具軸Jに対して径方向Drの第一側Dr1に配置される。
【0043】
切削インサート4は、厚さ方向から見てひし形形状である。切削インサート4は、厚さ方向を向く平面視ひし形形状の一対の主面と、一対の主面同士を繋ぐ側面とを有する。切削インサート4の主面と側面との間の稜線には、切刃42が設けられる。切刃42は、工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1の先端部に設けられる。切刃42の一部は、工具本体2から軸方向Djの一方側Dj1に突出する。また、切刃42は、工具本体2の径方向Drの外側に突出する。したがって、切刃42の一部は、工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1の最先端、および径方向Drの最外端に位置する。
【0044】
本実施形態によれば、切削インサート4は、インサートアタッチメント41を介して工具本体2に固定される。このため、インサートアタッチメント41を付け替えることで、様々な形状の切削インサート4を工具本体2に固定することができ、工具本体2の汎用性が高まる。
【0045】
ヘッドユニット7は、ヘッド部22に設けられる。図3に示すように、ヘッドユニット7は、ホルダ部材70と、基台部材77と、センサ装置3と、撮像装置5と、照明装置6と、を備える。ヘッドユニット7は、工具本体2において、工具軸Jに対して径方向Drの第二側Dr2に配置される。つまり、ヘッドユニット7は、工具本体2の径方向Drにおいて、台座23d、および台座23dに取り付けられる切削インサート4とは工具軸Jを挟んで反対側に配置される。ヘッドユニット7は、工具本体2の取付部25に着脱可能に取り付けられる。
【0046】
図2に示すように、取付部25は、ヘッド部22の軸方向Djの一方側Dj1に設けられる。取付部25は、工具本体2の径方向Drの外側(第二側Dr2)を向く第一面22aに形成される。取付部25は、第一面22aから径方向Drの内側に窪んで形成される。取付部25は、底面25bと、一対の側壁面25sと、本体端面25tと、を有する。
【0047】
底面25bは、工具本体2の径方向Drの外側(第二側Dr2)を向く平坦面である。底面25bは、第一面22aよりも径方向Drの内側に位置する。
一対の側壁面25sは、工具本体2の一部を形成する、一対の壁部2wに形成される。一対の壁部2wは、底面25bにおいて、軸方向Djおよび径方向Drに交差する取付部25の幅方向Dwの両側から径方向Drの外側に立ち上がる。一対の側壁面25sは、一対の壁部2wの各々において、幅方向Dwの内側を向く平坦面である。
【0048】
図2図3に示すように、本体端面25tは、ヘッド部22の軸方向Djの一方側Dj1の先端22sから、軸方向Djの他方側Dj2に所定寸法離れた位置に形成される。本体端面25tは、底面25bに対し、軸方向Djの他方側Dj2に形成される。本体端面25tは、一対の側壁面25sにおいて、軸方向Djの他方側Dj2の端部同士を接続する。本体端面25tは、軸方向Djの一方側Dj1を向く平坦面である。
【0049】
図3に示すように、工具本体2の内部には、収容孔27が形成される。収容孔27は、工具本体2内で軸方向Djに延びる。収容孔27は、本体端面25tよりも軸方向Djの一方側Dj1に延びる。収容孔27は、一対の側壁面25sの間において、底面25bの軸方向Djの他方側Dj2の一部で、径方向Drの外側に向かって開口している。また、収容孔27は、本体端面25tの径方向Drの第一側Dr1の一部で、軸方向Djの一方側Dj1に向かって開口している。
【0050】
ホルダ部材70は、工具本体2の一部に形成された取付部25を覆うように設けられる。ホルダ部材70は、工具本体2に着脱可能に取り付けられる。ホルダ部材70は、外周壁部71と、筒状壁部72と、を一体に有する。
【0051】
外周壁部71は、工具本体2の径方向Drの外側(第二側Dr2)を向く。外周壁部71は、一対の壁部2wの間を塞ぎ、工具本体2の外周面の一部を形成する。外周壁部71は、径方向Drの第二側Dr2から見た際に、長方形状をなす。
【0052】
筒状壁部72は、外周壁部71の外周縁部から、径方向Drの第一側Dr1に延びる。筒状壁部72の径方向Drの第一側Dr1の先端面は、取付部25の底面25bに対向する。筒状壁部72は、径方向Drの第一側Dr1から見た際に、長方形状をなす。
【0053】
ホルダ部材70は、筒状壁部72の内側に、凹部70sを有する。凹部70sは、外周壁部71と筒状壁部72とに囲まれて形成される。凹部70sは、径方向Drの第一側Dr1に開口する。凹部70sは、筒状壁部72の先端面から径方向Drの第二側Dr2に窪む。
【0054】
基台部材77は、取付部25の底面25bに沿って、底面25bと平行に設けられる。基台部材77は、径方向Drに交差する板状である。基台部材77は、後述するカメラ51、および照明装置6が固定される。基台部材77は、ホルダ部材70の筒状壁部72の内側で、外周壁部71に接触する。基台部材77は、ビス(図示なし)を外周壁部71に締結することで、ホルダ部材70に取り付けられる。
【0055】
センサ装置3は、第1の距離センサ(距離センサ)31と、第2の距離センサ(距離センサ)32と、を備える。第1の距離センサ31、第2の距離センサ32は、本実施形態では、切削インサート4を用いて加工した加工面までの距離を測定する。本実施形態において、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、渦電流センサである。
【0056】
図2図3に示すように、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、それぞれの先端面31a、32aを測定対象に対向させる。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、その内部に高周波電流を流すことで高周波磁界を発生させる。これにより、導電体である測定対象物の表面(加工面)に渦電流が流れ、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の内部のコイルにインピーダンスが変化する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、このインピーダンスの変化から測定対象との距離を判定する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、それぞれの出力値として、インピーダンスの変化を示す電圧(単位はV)を出力する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の出力値は、後述する加工管理装置100で、予め算出した較正式を用いて測定対象との距離に変換される。なお、渦電流センサは、周囲環境などの外乱に対して測定精度が安定し易い。このため、渦電流センサは、ウェット加工とドライ加工との何れを選択するかに関わらず、光学式の距離センサなどと比較して、切削加工後の外乱の多い環境での距離測定に適している。
【0057】
第1の距離センサ31の先端面31aは、工具本体2の外周面から径方向Drの外側を向いて配置される。第1の距離センサ31は、工具本体2の径方向Drの外側に配置される測定対象物までの距離を測定する。すなわち、第1の距離センサ31は、径方向Drの外側を測定方向とする。第1の距離センサ31は、切削インサート4により加工した、径方向Drの内側を向く加工面までの距離を測定する。
【0058】
第2の距離センサ32の先端面32aは、工具本体2のヘッド部22の先端22sから軸方向Djの一方側Dj1を向いて配置される。第2の距離センサ32は、工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1に配置される測定対象物までの距離を測定する。すなわち、第2の距離センサ32は、軸方向Djの一方側Dj1を測定方向とする。第2の距離センサ32は、切削インサート4により加工した、軸方向Djの他方側Dj2を向く加工面までの距離を測定する。
【0059】
第1の距離センサ31、第2の距離センサ32は、旋削工具1が加工面を形成した後、加工面を測定する際に用いられる。第1の距離センサ31、第2の距離センサ32は、工具本体2に設けられるので、旋削工具1を被削材から一旦離間させることなく、切削加工後の加工面を測定することができる。旋削加工において加工面の測定に要する時間を短くすることができる。また、第1の距離センサ31を用いて、切削インサート4により加工した径方向Drの内側を向く加工面までの距離を測定でき、第2の距離センサ32を用いて、切削インサート4により加工した軸方向Djの他方側Dj2を向く加工面までの距離を測定することができる。すなわち、寸法測定時に、被削材の向きを変えることなく、異なる方向を向く面の寸法測定を行うことができ、測定工程に要する時間をさらに短くすることができる。なお、第1の距離センサ31によって、切削インサート4で加工された外径、内径、および真円度などを測定できる。また、第2の距離センサ32によって、切削インサート4で段部、および孔底部の軸方向位置などを測定できる。
【0060】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、ホルダ部材70によって保持される。第1の距離センサ31は、外周壁部71を径方向Drに貫通し、先端面31aを、外周壁部71において径方向Drの第二側Dr2を向けて露出させる。第2の距離センサ32は、筒状壁部72を軸方向Djに貫通し、先端面32aを、軸方向Djの一方側Dj1に向けて露出させる。
【0061】
図3に示すように、第1の距離センサ31のケーブル31c、第2の距離センサ32のケーブル32cは、基台部材77と取付部25の底面25bとの間を通って軸方向Djの他方側Dj2に延びる。ケーブル31c、32cは、底面25bに対して軸方向Djの他方側Dj2で径方向Drの外側に向かって開口する収容孔27内に導かれる。
【0062】
撮像装置5は、工具本体2のヘッドユニット7に設けられる。撮像装置5は、センサ装置3に対し、工具軸Jを挟んで軸方向Djの他方側Dj2に配置される。撮像装置5は、カメラ51と、レンズカバー53と、を備える。
【0063】
カメラ51は、例えば、防水型のCMOSイメージセンサーやCCDイメージセンサーである。カメラ51は、基台部材77に固定される。カメラ51は、撮影対象を向くレンズ部を有する。レンズ部は、カメラ51に内蔵されたレンズ(図示省略)を有する。カメラ51は、レンズ部を径方向Drの外側に向けて配置される。
【0064】
ホルダ部材70の外周壁部71には、カメラ開口76が形成される。カメラ開口76は、外周壁部71を径方向Drに貫通する。カメラ開口76は、カメラ51のレンズ部に対して径方向Drで対向する位置に形成される。これにより、カメラ51は、カメラ開口76を通して、工具本体2の径方向Drの外側を撮影可能となるよう配置される。カメラ51は、切削インサート4により切削加工された被削材の、径方向Drの内側を向く加工面、いわゆる内径面を撮影する。
【0065】
カメラ51は、台座23dに取り付けられる切削インサート4に対し、軸方向Djの他方側Dj2に配置される。ただし、カメラ51は、軸方向Djにおいて、切削インサート4による加工面の加工位置になるべく近い位置に配置するのが好ましい。これにより、加工後の加工面の状態を、より近い位置で撮影することができる。また、例えば、センサ装置3が、上記とは異なる位置に配置される場合、カメラ51は、切削インサート4に対して軸方向Djで同位置に配置してもよい。これにより、切削インサート4によって切削加工中、または切削加工後の加工面を、より近い位置から撮影する。
【0066】
レンズカバー53は、カメラ51のレンズ部を覆う。レンズカバー53は、径方向Drに交差する面に沿った板状である。レンズカバー53は、光を透過する樹脂材料、ガラス材料等から形成される。
【0067】
カメラ51は、ケーブル52を有する。ケーブル52の一端は、カメラ51に接続される。ケーブル52は、基台部材77に形成されたケーブル挿通孔77hを通して、基台部材77に対して径方向Drの第一側Dr1に案内される。ケーブル52は、基台部材77と取付部25の底面25bとの間を通り、収容孔27内に導かれる。ケーブル52は、収容孔27を通して、シャンク部21内で軸方向Djの他方側Dj2に延びる。
【0068】
照明装置6は、工具本体2のヘッドユニット7に設けられる。照明装置6は、撮像装置5のカメラ51に対し、軸方向Djの他方側Dj2に配置される。照明装置6は、カメラ51により撮影される加工面を照らす。これにより、撮像装置5のカメラ51は、軸方向Djにおいて、センサ装置3の第1の距離センサ31、第2の距離センサ32と、照明装置6との間に配置される。照明装置6は、光源61を備える。
【0069】
光源61は、例えばLED等の発光素子である。光源61は、基台部材77に固定される。図2に示すように、ホルダ部材70の外周壁部71には、傾斜部71kが形成される。傾斜部71kは、カメラ開口76に対して軸方向Djの他方側Dj2に形成される。傾斜部71kは、カメラ開口76の外周部から軸方向Djの他方側Dj2に向かって径方向Drの第一側Dr1に傾斜して延びる。これにより、外周壁部71の外周面と傾斜部71kの先端との間に、軸方向Djの一方側Dj1を向く段差面71dが形成される。段差面71dには、光源61の一部が露出する光源開口79が形成される。
【0070】
光源61からの照明光は、光源開口79を通して、軸方向Djの一方側Dj1に照射される。光源61からの照明光は、傾斜部71kの表面で反射し、径方向Drの外側の加工面に照射される。
【0071】
図1に示すように、旋削工具1は、工具制御部81と、通信部82と、電源モジュール83と、を備える。
本実施形態において、工具制御部81は、ハードウェア的には、例えば収容孔27内に収容された、制御基板である。工具制御部81は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を備えたコンピュータである。工具制御部81のメモリ(図示なし)には、予め第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の動作を制御するための制御プログラムが記憶される。工具制御部81は、後述する加工管理装置100からの指令に基づき、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の動作を制御する制御信号を、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61に出力する。工具制御部81は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32における検出結果(距離)に応じて出力される電圧値(出力値)を示す検出信号を、通信部82を介して外部に出力する。工具制御部81は、カメラ51で撮影された画像データを、通信部82を介して外部に出力する。
【0072】
通信部82は、外部との無線通信が可能である。通信部82は、ハードウェア的には、工具制御部81を構成する制御基板に実装された通信モジュールである。通信部82は、無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、BLUETOOTH(登録商標)等の無線通信網を介し、加工管理装置100と無線通信可能である。通信部82は、加工管理装置100から出力される、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の作動を制御するための制御信号の受信を行う。通信部82は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32における検出信号(出力値)、カメラ51で撮影した画像データ等の加工管理装置100への送信、を行う。通信部82は、電源モジュール83の残量(残留電圧)の加工管理装置100への送信、を行う。
【0073】
電源モジュール83は、工具制御部81、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61に電力を供給する。電源モジュール83は、例えば、マンガン乾電池やアルカリ乾電池のような一次電池(バッテリー)である。また、電源モジュール83は、切削加工時に工具本体2に生じる振動によって発電を行うピエゾ振動センサのような発電素子からの電気をリチウムイオン電池のような二次電池に充電するものであってもよく、外部の電源から接触または非接触で供給された電気をこのような二次電池に充電するものであってもよい。電源モジュール83は、例えば収容孔27内に収容される。
なお、工具制御部81、通信部82、及び電源モジュール83は、ケースに収められ、このケースが、例えば、工具本体2自体、または工具本体2を保持するホルダー等に取り付けられていてもよい。
【0074】
<加工管理装置>
図4は、加工管理装置100の機能ブロック図である。
加工管理装置100は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等のコンピュータ装置である。加工管理装置100は、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、記憶装置等を備える。加工管理装置100は、旋削工具1によって被削材を加工する際に用いられる。加工管理装置100は、工作機械が記憶している加工プログラムに基づいて、旋削工具1によって被削材を加工するに際し、工作機械からの指令に基づいて、旋削工具1の第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の作動を制御する。加工管理装置100は、工作機械からの指令に基づいて、第1の距離センサ31、及び第2の距離センサ32を用いた被削材の寸法測定、カメラ51を用いた加工面の撮影を行う。加工管理装置100は、第1の距離センサ31、及び第2の距離センサ32の較正処理を行う。
【0075】
加工管理装置100は、CPUが予め自装置で記憶するプログラムを実行することにより、取得部101、測定処理部103、設定値記憶部105、記憶部107、バッテリー状態判定部109、較正処理部111、較正判定部113、加工判定部115、及び表示部117を備える。
【0076】
取得部101は、無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、BLUETOOTH(登録商標)等により、通信部82と無線通信可能である。取得部101は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値(電圧)を取得する。
【0077】
また、取得部101は、外部情報を取得可能である。取得部101は、通信ケーブルを用いたイーサネットによる有線通信、あるいは無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、BLUETOOTH(登録商標)等による無線通信により、工作機械(図示なし)と通信可能である。取得部101は、工作機械側から、第1の距離センサ31、及び第2の距離センサ32の較正処理を行うか否かの判断基準となる外部情報を取得する。取得部101は、外部情報として、例えば、被削材を加工する際に用いるクーラントの温度、旋削工具1で被削材の加工を行う空間の気温、を取得する。また、取得部101は、外部情報として、後述の較正処理部111で直前に行った較正処理からの経過時間を取得する。また、取得部101は、旋削工具1を加工に用いた加工時間を取得するようにしてもよい。
【0078】
測定処理部103は、取得部101で取得された、第1の距離センサ31、及び第2の距離センサ32の出力値から被削材の加工面までの距離を算出する。測定処理部103は、後述する較正処理部111で生成される較正式に基づいて、第1の距離センサ31、及び第2の距離センサ32の出力値から被削材の加工面までの距離を算出する。測定処理部103は、算出された被削材の加工面までの距離から、被削材の寸法を測定する。
【0079】
設定値記憶部105は、バッテリー状態判定部109、較正判定部113、加工判定部115で実施する各種の判定の基準となる閾値等を記憶している。設定値記憶部105で記憶する閾値等は、作業者が、キーボード、マウス、タッチパッド等の入力手段を用いて外部から入力可能である。
【0080】
記憶部107は、取得部101で取得した各種の情報、測定処理部103における被削材の寸法の寸法測定結果、較正処理部111における較正処理によって得られた較正式等を記憶する。また、記憶部107は、バッテリー状態判定部109、較正判定部113、及び加工判定部115における判定結果を記憶する。また、記憶部107は、撮像装置5のカメラ51で撮影された画像のデータを記憶する。
【0081】
バッテリー状態判定部109は、通信部82から出力される電源モジュール83の残量(残留電力)を取得する。バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量に基づいて、電源モジュール83の状態を判定する。具体的には、バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量が、予め設定された閾値以下であるか否かを判定する。バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量が閾値以下である場合、電源モジュール83の交換が必要であることを示すメッセージ等を、表示部117に表示させる。これにより、電源モジュール83の交換が必要であることを示すメッセージ等を確認した作業者が、電源モジュール83の交換等を適切なタイミングで行える。
【0082】
較正処理部111は、取得部101で取得された出力値から被削材の加工面までの距離を算出するための較正式を生成する較正処理を行う。較正処理部111は、後に詳述するように、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32を、被削材に対して予め設定されたクリアランスを隔てた複数の測定点の各々に配置したときに、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値を取得する。較正処理部111は、取得された、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値に基づいて、較正式を取得する。
【0083】
較正式は、xを第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の出力値、yを加工面までの距離、a、b、c、d、e、f、gを定数として、以下の式で表される。すなわち、較正式は、次式のような六次以下の関数で表わされる。
y=ax+bx+cx+dx+ex+fx+g
【0084】
較正判定部113は、前記外部情報に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。較正判定部113は、外部から取得した外部情報が、予め設定した範囲から外れた場合、較正処理を行う必要がある、と判定する。具体的には、例えば、較正判定部113は、クーラントの温度が、予め設定した以上の温度変化を生じていた場合に、較正処理を行うように判定する。較正判定部113は、加工物の加工を行う空間の気温(室温)が、予め設定した以上の温度変化を生じていた場合に、較正処理を行うように判定する。較正判定部113は、直前に行った較正処理からの経過時間が、予め設定した閾値を超えた場合に、較正処理を行うように判定する。較正判定部113は、旋削工具1を加工に用いた加工時間が、予め設定した閾値を超えた場合に、較正処理を行うように判定するようにしてもよい。較正処理部111は、較正判定部113で較正処理を行う必要がある、と判定された場合に、較正処理を行う。
【0085】
加工判定部115は、測定処理部103で取得された被削材の寸法の測定結果に基づき、被削材の加工状態を判定する。加工判定部115は、測定された被削材の寸法が、予め設定された基準寸法範囲内であるか否かを判定する。加工判定部115は、測定された被削材の寸法が基準寸法範囲外であった場合、その被削材を不良品である、と判定する。また、加工判定部115は、測定された被削材の寸法に基づき、被削材の追加工が必要である、と判定する。加工判定部115は、被削材の追加工である場合、工作機械に対し、被削材の寸法の寸法測定結果とともに、追加工をリクエストする信号を出力する。
【0086】
表示部117は、測定処理部103で取得された寸法測定結果に関する情報を表示する。表示部117は、これ以外に、加工判定部115における判定結果等を表示するようにしてもよい。
【0087】
<旋削方法>
次に、上記したような旋削工具システム10における旋削方法について説明する。
旋削工具システム10における旋削方法は、初期設定工程と、旋削工程と、測定処理工程と、を有する。
【0088】
<初期設定工程>
初期設定工程は、電源残量確認工程と、外部情報取得工程と、予備加工工程と、初期較正工程と、を有する。
【0089】
電源残量確認工程では、まず、バッテリー状態判定部109が、通信部82から出力される電源モジュール83の残量を取得する。バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量に基づいて、電源モジュール83の状態を判定する。バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量が、予め設定された閾値以下であるか否かを判定する。電源モジュール83の残量が閾値より大きい場合、外部情報取得工程に移行する。
また、バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量が閾値以下である場合、電源モジュール83の交換が必要であることを示すメッセージ等を、表示部117に表示させる。作業者は、電源モジュール83の交換が必要であることを示すメッセージを確認した場合、電源モジュール83を交換する等、必要な対応を講じた後、外部情報取得工程に移行する。
【0090】
外部情報取得工程では、取得部101が、外部情報として、工作機械側から、クーラントの温度、および旋削工具1で被削材の加工を行う空間の気温(室温)を取得する。また、取得部101は、工作機械側、または加工管理装置100自体で、現在日時等の時刻情報を取得する。加工管理装置100は、取得されたクーラントの温度、気温、及び時刻情報を、記憶部107に記録する。
【0091】
続いて、予備加工工程に移行する。
図5Aおよび図5Bは、予備加工工程を示す図である。予備加工工程では、旋削工程で加工する被削材Wをそのまま用いる。予備加工工程では、旋削工程における目標寸法となるように加工を行う。
【0092】
本実施形態の被削材Wは、段差付きの貫通孔200を有する。貫通孔200は、段差面203と、段差面203に対して軸方向一方側の大径部201と、段差面203に対して軸方向他方側の小径部202とを有する。本実施形態では、旋削工具1により、貫通孔200の大径部201および段差面203の仕上げ加工(いわゆる内径加工)を行う。
【0093】
予備加工工程では、図5Aに示すように、大径部201の内周面を加工する。この工程では、被削材Wを主軸O周りに回転させながら、切刃42を被削材Wの大径部201の内周面に接触させ、軸方向に移動させる。さらに、予備加工工程では、図5Bに示すように、段差面203を加工する。この工程では、被削材Wを引き続き主軸O周りに回転させながら、切刃42を段差面に沿って径方向に移動させる。これによって、予備加工工程では、基準加工面を形成する。
【0094】
予備加工工程の後、初期較正工程を実施する。初期較正工程は、出力値取得工程と、較正処理工程と、実測値計測工程と、を有する。
図5C図5Dは、出力値取得工程を示す図である。出力値取得工程では、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32を用いて被削材Wからの各距離に対応する出力値を取得する。
【0095】
図5Cは、第1の距離センサ31の出力値取得工程を示す。
出力値取得工程では、まず、第1の距離センサ31の先端面31aを、大径部201の内周面からの距離が予め設定した第1の仮オフセット寸法(例えば0.1mm)となる第1の測定点に移動させ、第1の距離センサ31による出力値を取得部101で取得する。
次いで、先端面31aを、大径部201の内周面からの距離が第2の仮オフセット寸法(例えば0.2mm)となる第2の測定点に移動させ、第1の距離センサ31による出力値を取得部101で取得する。取得された出力値は、記憶部107に記憶する。さらに、先端面31aを第3、第4・・・の測定点に移動させ、それぞれの測定点に対応する第1の距離センサ31の出力値を取得部101で取得する。取得された各出力値は、記憶部107に記憶させる。
【0096】
図5Dは、第2の距離センサ32の出力値取得工程を示す。
第2の距離センサ32の出力値取得工程は、上述した第1の距離センサ31の場合と同様に、まず、第2の距離センサ32の先端面32aを、段差面203からの距離が第1の仮オフセット寸法(例えば0.2mm)となる第1の測定点に移動させ、第2の距離センサ32による出力値を取得部101で取得する。次いで、先端面32aを、段差面203からの距離が第2の仮オフセット寸法(例えば0.3mm)となる第2の測定点に移動させ、第2の距離センサ32による出力値を取得部101で取得する。さらに、第3、第4・・・の測定点と、当該測定点に対応する第2の距離センサ32の出力値を取得部101で順次取得する。取得された各出力値は、記憶部107に記憶させる。
【0097】
このように、出力値取得工程は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32を用いて加工面からの距離を変えた複数の測定点を測定し、それぞれの測定点に対応する第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の出力値を、通信部82から加工管理装置100に送信し、取得部101で取得する。
【0098】
較正処理工程では、較正処理部111が、出力値取得工程で測定したそれぞれの測定点における第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の出力値から、この関係を表す較正式を算出する。較正処理工程は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32毎に行われる。すなわち、較正処理工程では、第1の距離センサ31に対応する較正式と、第2の距離センサ32に対応する較正式とが、導かれる。較正処理工程によって導かれた較正式は、記憶部107に記憶される。
【0099】
ここで導かれる較正式は、出力値取得工程で取得された、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の出力値である電圧(単位はV)と、各出力値を得る際の第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の各仮オフセット寸法(単位はmm)とに基づいて算出される。
【0100】
図6は、様々な材料の被削材Wに対する較正式を表すグラフである。図6には、被削材Wとしてアルミニウム合金(A6061)、および鉄系合金(SUS304、FC250、SCM440)を選んだ場合の較正式のグラフが示されている。
【0101】
また、図6のグラフでは、加工面からの仮オフセット寸法(距離)が、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mmとなる7点を測定点として測定した。これらの測定点に対応する距離センサの出力値を基に上記の方程式に代入することで、定数a、b、c、d、eを算出し、これらの定数を代入した較正式を関数としてグラフ上に図示した。
【0102】
図7は、実測値計測工程を示す図である。実測値計測工程は、予備加工工程において切刃42で加工した加工面を寸法測定する工程である。より具体的には、実測値計測工程では、大径部201の内径および段差面203の段差寸法を別途用意した測定機器A、Bで測定し、実測値とする。測定機器A、Bは、例えば、シリンダゲージ、デプスゲージなどの測定器である。
【0103】
実測値計測工程で実測した、大径部201の内径および段差面203の段差寸法に基づき、設定値記憶部105に記憶された、仮オフセット寸法を必要に応じて補正する。補正したオフセット寸法は、記憶部107に記憶させておく。また、大径部201の内径および段差面203の段差寸法に基づき、上記較正式を補正するようにしてもよい。
【0104】
以上で、一連の初期設定工程を終える。
初期設定工程の後は、被削材Wを所定寸法に加工する旋削工程を開始する。
複数個の被削材Wを加工する場合、以下に示す旋削工程は、複数個の被削材Wの各々に対して実施する。つまり、加工する被削材Wの数に応じて、以下に示す旋削工程を繰り返す。
【0105】
<旋削工程>
旋削工程は、電源残量確認工程と、外部情報取得工程と、較正判定工程と、較正処理工程と、実測値計測工程と、本加工工程と、測定処理工程と、を有する。
旋削工程を開始するにあたっては、まず、上記初期設定工程と同様、電源残量確認工程を実施する。電源残量確認工程では、バッテリー状態判定部109が、通信部82から出力される電源モジュール83の残量を取得する。バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量に基づいて、電源モジュール83の状態を判定する。バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量が、予め設定された閾値以下であるか否かを判定する。電源モジュール83の残量が閾値より大きい場合、外部情報取得工程に移行する。
また、バッテリー状態判定部109は、取得された電源モジュール83の残量が閾値以下である場合、電源モジュール83の交換が必要であることを示すメッセージ等を、表示部117に表示させる。作業者は、電源モジュール83の交換が必要であることを示すメッセージを確認した場合、電源モジュール83を交換する等、必要な対応を講じた後、外部情報取得工程に移行する。
【0106】
図8は、本実施形態における加工管理装置100における加工管理方法の流れを示す図である。
旋削工程では、そのときの状態に応じて、較正式を改めて設定する必要があるか否かを判定し、必定に応じて、較正式を再設定する。これには、図8に示すように、外部情報取得工程S11、較正判定工程S12、較正処理工程S13を、実測値計測工程S14を、順次実行する。
外部情報取得工程S11では、取得部101が、外部情報として、工作機械側から、その時点におけるクーラントの温度、および旋削工具1で被削材の加工を行う空間の気温(室温)を取得する。また、取得部101は、工作機械側、または加工管理装置100自体で、現在日時等の時刻情報を取得する。加工管理装置100は、取得されたクーラントの温度、気温、及び時刻情報を、記憶部107に記録する。
【0107】
較正判定工程S12では、外部情報取得工程S11で取得された、外部から取得した外部情報に基づいて、較正判定部113が、較正処理を改めて行うか否かを判定する。ここで、較正処理を改めて行う、とは、較正式を更新することを指す。
具体的には、較正判定部113は、取得されたクーラントの温度が、記憶部107に記録されている前回のクーラントの温度に対して、予め設定された範囲(例えば、±2℃)以上の温度変化(増加、減少の双方を含む)をしているか否かを判定する。その結果、クーラントの温度変化が、予め設定された範囲内であれば(工程S12でNo)、較正処理を改めて行わず、記憶部107に記録されている、前回算出した較正式を継続して用いる。較正判定部113は、クーラントの温度変化が、予め設定された範囲以上の温度変化である、と判定された場合(工程S12でYes)、較正処理工程S13に進む。
【0108】
また、較正判定部113は、取得された気温が、記憶部107に記録されている前回の気温に対して、予め設定された範囲(例えば、±2℃)以上の温度変化(増加、減少の双方を含む)をしているか否かを判定する。その結果、気温の温度変化が、予め設定された範囲内であれば(工程S12でNo)、較正処理を改めて行わず、記憶部107に記録されている、前回算出した較正式を継続して用いる。較正判定部113は、気温の変化が、予め設定された範囲以上の温度変化である、と判定された場合(工程S12でYes)、較正処理工程S13に進む。
【0109】
また、較正判定部113は、取得された時刻情報に基づいて、記憶部107に記録されている、前回、クーラントの温度、気温を取得した時刻からの経過時間が、予め設定された閾値以上であるか否かを判定する。その結果、経過時間が、閾値未満であれば(工程S12でNo)、較正処理を改めて行わず、記憶部107に記録されている、前回算出した較正式を継続して用いる。較正判定部113は、経過時間が、予め設定された閾値以上である、と判定された場合(工程S12でYes)、較正処理工程S13に進む。
【0110】
ここで、初期設定工程を実施した直後においては、通常であれば、較正判定工程S12で、較正処理を改めて行う必要がある(工程S12でNo)、と判定される可能性は低い。しかし、旋削工程を開始するまでの間に、特に、クーラントの温度や気温の温度変化が生じていた場合、初期設定工程を実施した直後においても、較正判定工程S12で、較正処理を改めて行う必要がある(工程S12でNo)、と判定されることがある。
【0111】
上記のように、較正判定部113で、較正処理工程S13を実行する必要があると判定された場合、上記初期設定工程で実施したのと同様にして、較正処理工程S13を実行する。
すなわち、図5Cに示すように、まず、第1の距離センサ31の先端面31aを、大径部201の内周面からの距離が予め設定した第1のオフセット寸法(例えば0.1mm)となる第1の測定点に移動させ、第1の距離センサ31による出力値を取得部101で取得する。
次いで、先端面31aを、大径部201の内周面からの距離が第2のオフセット寸法(例えば0.2mm)となる第2の測定点に移動させ、第1の距離センサ31による出力値を取得部101で取得する。取得された出力値は、さらに、先端面31aを第3、第4・・・の測定点に移動させ、それぞれの測定点に対応する第1の距離センサ31の出力値を取得部101で取得する。取得された各出力値は、記憶部107に記憶させる。
【0112】
また、図5Dに示すように、第2の距離センサ32の先端面32aを、段差面203からの距離が第1のオフセット寸法(例えば0.2mm)となる第1の測定点に移動させ、第2の距離センサ32による出力値を取得部101で取得する。次いで、先端面32aを、段差面203からの距離が第2のオフセット寸法(例えば0.3mm)となる第2の測定点に移動させ、第2の距離センサ32による出力値を取得部101で取得する。さらに、第3、第4・・・の測定点と、当該測定点に対応する第2の距離センサ32の出力値を取得部101で順次取得する。取得された各出力値は、記憶部107に記憶する。
【0113】
このように、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32を用いて加工面からの距離を変えた複数の測定点を測定し、それぞれの測定点に対応する第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の出力値を、通信部82から加工管理装置100に送信し、取得部101で取得する。
【0114】
続いて、較正処理工程S13では、較正処理部111が、それぞれの測定点における第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の出力値から、この関係を表す較正式を算出する。較正処理工程は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32毎に行われる。較正処理工程によって導かれた較正式は、記憶部107に記憶される。
【0115】
続いて、実測値計測工程S14で、切刃42で加工した加工面を寸法測定する。実測値計測工程S14では、大径部201の内径および段差面203の段差寸法を別途用意した測定機器A、Bで測定し、実測値とする。測定機器A、Bは、例えば、シリンダゲージ、デプスゲージなどの測定器である。
較正処理部111では、実測値計測工程S14で実測した、大径部201の内径および段差面203の段差寸法に基づき、設定値記憶部105に記憶された、オフセット寸法の設定値を必要に応じて補正(更新)する。
【0116】
図9A図9Bは、本実施形態の本加工工程を示す模式図である。
本実施形態の本加工工程は、旋削工具1を用いて加工面を形成する工程である。本実施形態の本加工工程は、第1の本加工工程と第2の本加工工程とを有する。
【0117】
図9Aに示すように、第1の本加工工程は、大径部201の内周面を加工する工程である。
第1の本加工工程では、被削材Wを主軸O周りに回転させながら行う。第1の本加工工程では、まず、旋削工具1の工具軸Jを主軸Oと平行とした状態で、切刃42の径方向外端を、大径部201の内周面の径方向の目標寸法(目標位置)に位置合わせする。さらに、旋削工具1を軸方向先端に沿って移動させ、大径部201の内周面に切削インサート4の切刃42に接触させる。次いで、切刃42を大径部201の内周面に接触させた状態で、旋削工具1を軸方向先端に移動させる。これにより、大径部201の内周面を切刃42により旋削加工することができる。
【0118】
図9Bに示すように、第2の本加工工程は、段差面203を加工する工程である。
第2の本加工工程では、第1の本加工工程に引き続き、被削材Wを主軸O周りに回転させながら行う。第2の本加工工程では、まず、切刃42の軸方向最先端を、段差面203の軸方向の目標寸法(目標位置)に位置合わせする。次いで、切削インサート4の切刃42を大径部201と段差面203との角部に接触した状態から、段差面203に接触した状態を維持しつつ径方向内側に移動させる。これにより、段差面203を切刃42により旋削加工することができる。
【0119】
<測定処理工程>
図9Cおよび図9Dは、本実施形態の測定処理工程を示す模式図である。
測定処理工程は、加工面の寸法の測定を行う工程である。測定処理工程は、第1の測定処理工程と第2の測定処理工程とを有する。
【0120】
図9Cに示すように、第1の測定処理工程では、まず、旋削工具1を径方向に移動して、第1の距離センサ31の先端面31aを、大径部201の内周面に対向させる。この状態における第1の距離センサ31の出力値は、通信部82を介して加工管理装置100に送信され、取得部101で取得される。加工管理装置100の測定処理部103では、取得部101で取得される出力値を、較正式に代入することで大径部201の内周面の径寸法を算出する。
【0121】
図9Dに示すように、第2の測定処理工程では、旋削工具1を径方向に移動して、第2の距離センサ32の先端面32aを、段差面203に対向させる。この状態における第2の距離センサ32の出力値は、通信部82を介して加工管理装置100に送信され、取得部101で取得される。加工管理装置100の測定処理部103では、取得部101で取得される出力値を、較正式に代入することで段差面203の深さ寸法を算出する。
【0122】
測定処理工程においては、続いて、算出された被削材Wの寸法測定結果に基づき、被削材Wの加工状態を判定する。これには、加工判定部115で、算出(測定)された被削材Wの寸法(大径部201の内周面の径寸法、段差面203の深さ寸法)が、予め設定された、上方管理限界値と下方管理限界値との間の寸法範囲内にあるか否かを確認する。ここで、上方管理限界値と下方管理限界値は、大径部201の内周面の径寸法、段差面203の深さ寸法の各々に対して設定される。上方管理限界値は、例えば上限の規格値よりも小さい値であり、下方管理限界値は、例えば下限の規格値よりも大きい値である。上方管理限界値および下方管理限界値として、規格値の範囲よりも狭い範囲を管理限界値として設定することで、システム全体の信頼性を高めることができる。
【0123】
その結果、被削材Wの寸法(大径部201の内周面の径寸法、段差面203の深さ寸法の少なくとも一方)が、寸法範囲外であった場合、加工判定部115は、その被削材Wを、不良品として判定する。
また、被削材Wの寸法が、寸法範囲内であった場合、加工判定部115は、本加工工程における加工面の目標寸法と、測定処理工程において測定した加工面の寸法と、を比較する。加工判定部115は、本加工工程における加工面の目標寸法よりも、測定処理工程において測定した加工面の寸法が大きい場合、被削材Wを、加工面の目標寸法以上に旋削している、と判定する。この場合、いわゆる削りすぎの状態であり、その被削材Wについては、不良品として判定する。
【0124】
また、加工判定部115は、本加工工程における加工面の目標寸法に対し、測定処理工程において測定した加工面の寸法が小さい場合、加工面の目標寸法と、測定処理工程において測定した加工面の寸法との差分の絶対値を算出する。
算出された差分が定められた閾値より大きい場合、追加工工程に移行する。算出された差分が、定められた閾値以下である場合、その被削材Wへの本加工を終了する。
【0125】
追加工工程では、目標寸法と測定寸法との差分に応じて、被削材Wを旋削工具1によって追加工する。なお、追加工工程は、図9A図9Bに示す本加工工程と同様の手順を経て行われるため、図示を省略する。
【0126】
その後、加工管理装置100では、光源61からの照明を行いつつ、カメラ51で加工面の撮影を行う。
【0127】
図10は、表示部117に表示される、被削材Wの寸法測定結果の一例を示す図である。
しかる後、加工管理装置100では、表示部117で、例えば、図10に示すような被削材Wの寸法の寸法測定結果等に関する情報を表示する。表示部117では、被削材Wの不良品・良品の判定結果、カメラ51で撮影した画像等を表示させるようにしてもよい。
【0128】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の旋削工具1、旋削工具システム10によれば、工具本体2に取り付けられた第1の距離センサ31、第2の距離センサ32により、被削材の加工面までの距離を検出できる。測定処理部103は、較正処理部111で生成される較正式に基づいて第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値から被削材の加工面までの距離を算出することで、被削材を測定する。何らかの原因で第1の距離センサ31、第2の距離センサ32が影響を受けた場合、較正処理部111における較正処理を行う必要が生じる。較正判定部113では、外部から取得した外部情報に基づいて、較正処理を行うか否かを判定できるので、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32が影響を受ける要因となる外部情報を取得することで、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。これにより、被削材の寸法測定を、高い精度で安定して行うことが可能となる。
【0129】
また本実施形態では、較正判定部113が、外部情報として取得したクーラントの温度に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。渦電流センサを用いた第1の距離センサ31、第2の距離センサ32においては、温度変化による影響を受けやすい。クーラントの温度に基づいて較正処理を行うか否かを判定することで、クーラントの温度変化によって、被削材の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。
【0130】
また本実施形態では、較正判定部113が、外部情報として取得した、被削材の加工を行う空間の気温に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。渦電流センサを用いた第1の距離センサ31、第2の距離センサ32においては、温度変化による影響を受けやすい。被削材の加工を行う空間の気温に基づいて較正処理を行うか否かを判定することで、気温の変化によって、被削材の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。
【0131】
また本実施形態では、較正判定部113が、外部情報として取得した、直前に行った較正処理からの経過時間に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。切削インサート4の摩耗が生じた場合、経過時間に基づいて較正処理を行うか否かを判定し、適切なタイミングで較正処理を行うことで、切削インサート4の摩耗によって、被削材の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。さらに、電子回路の発熱に伴う渦電流センサを用いた第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の出力の変化を確認、又は補正するために、取得した経過時間を使用してもよい。
【0132】
また本実施形態では、較正判定部113が、外部情報として取得した、旋削工具1を加工に用いた加工時間に基づいて、較正処理を行うか否かを判定する。切削インサート4の摩耗が生じた場合、加工時間に基づいて較正処理を行うか否かを判定し、適切なタイミングで較正処理を行うことで、切削インサート4の摩耗によって、被削材の寸法測定精度が低下するのを抑えることができる。
【0133】
また本実施形態では、外部から取得した外部情報が、予め設定した範囲から外れた場合、較正処理を行うことによって、適切なタイミングで較正処理を行い、被削材の寸法測定を、高い精度で安定して行うことができる。
【0134】
また本実施形態では、較正処理部111は、被削材に対して予め設定されたクリアランスを隔てた複数の測定点の各々に配置したときに、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値に基づいて、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から被削材の加工面までの距離を得るための較正式を取得する。これにより、較正処理後は、取得した較正式に基づいて、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値から、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から被削材の加工面までの距離を高い精度で取得することができる。
【0135】
また本実施形態では、被削材の加工面に関する寸法の実測値を取得し、較正処理を行う際の第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の被削材に対するクリアランスを、実測値に基づいて補正する。これにより、得られる較正式の精度を高めることができる。
【0136】
また本実施形態では、電源モジュール83の残量に基づいて、電源モジュール83の状態を判定する。渦電流センサを用いた距離センサにおいては、電源モジュール83の残量が減ると、距離の検出精度が影響を受けたり、距離の検出自体が行えなくなることがある。これにより、電源モジュール83の残量が少なくなった場合に、電源モジュール83の交換を作業者に促すことができる。
【0137】
また本実施形態では、測定処理部103で取得された被削材の寸法測定結果に基づき、加工判定部115が、被削材の加工状態を判定する。これにより、旋削工具1によって加工される被削材の寸法測定の結果、追加工の必要の有無、不良品判定等をおこない、被削材の品質管理を良好に行える。
【0138】
また本実施形態では、表示部117が、寸法測定結果に関する情報を表示することで、作業者が、被削材の寸法測定の結果を把握することができる。
【0139】
また本実施形態では、工具軸Jの径方向における加工面までの距離を測定するための第1の距離センサ31と、工具軸Jの軸方向における加工面までの距離を測定するための第2の距離センサ32と、の各々において、影響を受ける要因となる外部情報を取得することで、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。
【0140】
また本実施形態では、旋削工具1に備えた通信部82が、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値を加工管理装置100に送信することで、加工管理装置100の取得部101で出力値を取得し、適切なタイミングで較正処理を行うことができる。
【0141】
(実施形態の変形例)
なお、上記したような加工管理装置100は、複数の旋削工具1の各々に備えられた通信部82から、出力値を取得できるようにしてもよい。
これにより、加工管理装置100が、複数の旋削工具1の各々に備えられた通信部82から、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力される出力値を取得する。その結果、複数の旋削工具1の加工管理をまとめて行うことができる。さらに、複数の旋削工具1間で、較正処理の結果、被削材の寸法測定結果等を相互利用することもできる。
【0142】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0143】
例えば、上述の実施径形態では、切削工具システムに含まれる切削工具の例として、被削材を回転させて切削を行う旋削工具を採用する場合について説明した。しかしながら、旋削工具は切削インサートを被削材に押し当てて切削加工を施すものであれば、本実施形態の旋削工具に限定されない。切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、フライス盤のような自身が回転する回転工具であってもよい。
【符号の説明】
【0144】
1…旋削工具(切削工具)
2…工具本体
4…切削インサート
10…旋削工具システム(切削工具システム)
23d…台座
31…第1の距離センサ(距離センサ)
32…第2の距離センサ(距離センサ)
82…通信部
83…電源モジュール
100…加工管理装置
101…取得部
103…測定処理部
111…較正処理部
113…較正判定部
115…加工判定部
117…表示部
Dj…軸方向
Dr…径方向
J…工具軸
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10