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特開2024-145587磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板、及び回路基板を備える電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145587
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板、及び回路基板を備える電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20241004BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20241004BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241004BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241004BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20241004BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20241004BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20241004BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F17/04 F
H01F1/147 191
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
C22C33/02 N
B22F1/14 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058011
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】冨田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智也
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC01
4K018BC18
4K018BD01
4K018KA43
5E041AA04
5E070AB03
5E070BB03
(57)【要約】
【課題】 絶縁性及び磁気特性に優れた磁性基体を提供する。
【解決手段】一実施形態における磁性基体は、複数の軟磁性金属粒子と、複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆う複数の絶縁膜と、を備える。磁性基体において、複数の軟磁性金属粒子は、85%以上の充填率で充填されている。軟磁性金属粒子のKAM値は、0.6以下である。軟磁性金属粒子は、95wt%以上のFeと、Siと、Alと、を含有する。絶縁膜は、Siの酸化物及びAlの酸化物を含有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
85%以上の充填率で充填されており、KAM値が0.6以下であり、95wt%以上のFeと、Siと、Alと、を含有する複数の軟磁性金属粒子と、
前記複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆い、Siの酸化物及びAlの酸化物を含有する複数の絶縁膜と、
を備える磁性基体。
【請求項2】
前記軟磁性金属粒子は、Mgを含有する、
請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記軟磁性金属粒子は、Crを含有し、
前記絶縁膜は、クロマイトを含有する、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項4】
前記軟磁性金属粒の充填率は、87%以下である、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の磁性基体と、
前記磁性基体に備えられるコイル導体と、
を備えるコイル部品。
【請求項6】
請求項5に記載のコイル部品を含む、回路基板。
【請求項7】
請求項6に記載の回路基板を含む、電子部品。
【請求項8】
Feと、Siと、AlまたはMgを含有する複数の原料粉を85%以上の充填率で含む成形体を得る形成工程と、
前記成形体を、1000ppm以下の第1酸素濃度において590~900℃で加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程において加熱された前記成形体を、前記第1酸素濃度よりも高く、10000ppm以下の第2酸素濃度において550~900℃で加熱する第2加熱工程と、
を備える、磁性基体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書における開示は、主に、磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路基板、及び回路基板を備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品用の磁性基体として、軟磁性材料から構成された多数の軟磁性金属粒子を含む軟磁性基体が用いられている。軟磁性基体に含まれる軟磁性金属粒子の各々の表面は絶縁膜で覆われており、隣接する軟磁性金属粒子同士は、当該絶縁膜を介して結合している。軟磁性基体は、フェライトから構成される磁性基体よりも磁気飽和が起こりにくいという特徴を有するため、大電流が流れる回路で使用されるコイル部品での使用に特に適している。
【0003】
国際公開第2018/180659号(特許文献1)には、Fe及びSiを主成分とするFe-Si系の軟磁性金属粒子を加圧成形して成形体を形成した後、同公報の段落[0034]に記載されている第1酸素分圧において500℃以上800℃以下の温度で一次加熱を行うことで加圧成形された成形体における歪みを緩和し、その後、第1酸素分圧よりも高い第2酸素分圧で成形体に対して二次加熱を行うことで軟磁性金属粒子の周囲にSiの酸化物から成る酸化物被膜を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/180659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁性基体の透磁率を高めるために、磁性基体における軟磁性金属粒子が占める割合(充填率)を高めることが望ましい。磁性基体の製造工程において、軟磁性金属粒子の成形体を高い成形圧力で作製することで、磁性基体における軟磁性金属粒子の充填率を高めることができる。
【0006】
しかしながら、成形体を高い圧力で加圧成形すると、軟磁性金属粒子間の隙間が小さくなるため、加熱時に軟磁性金属粒子の表面に酸化膜を形成するための十分な酸素を供給することが難しくなる。このため、磁性基体における軟磁性金属粒子の充填率を高くすると、軟磁性金属粒子の表面に酸化膜が十分に形成されず、その結果、軟磁性金属粒子間の電気的な絶縁性が確保できないという問題がある。
【0007】
また、成形体を高い圧力で加圧成形すると、加熱後の磁性基体においても歪みが大きくなるという問題がある。磁性基体の歪みが大きいと、保磁力が大きくなり、その結果磁気損失が大きくなる。
【0008】
本明細書において開示される発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明のより具体的な目的の一つは、絶縁性及び磁気特性に優れた磁性基体を提供することである。
【0009】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。本明細書に開示される発明は、「発明を解決しようとする課題」の欄の記載以外から把握される課題を解決するものであってもよい。本明細書に、実施形態の作用効果が記載されている場合には、その作用効果から当該実施形態に対応する発明の課題を把握することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態における磁性基体は、複数の軟磁性金属粒子と、複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆う複数の絶縁膜と、を備える。磁性基体において、複数の軟磁性金属粒子は、85%以上の充填率で充填されている。軟磁性金属粒子のKAM値は、0.6以下である。軟磁性金属粒子は、95wt%以上のFeと、Siと、Alと、を含有する。絶縁膜は、Siの酸化物及びAlの酸化物を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本明細書により開示される発明の実施形態によれば、絶縁性及び磁気特性に優れた磁性基体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態による磁性複合体を備えるコイル部品を模式的に示す斜視図である。
図2図1のコイル部品の分解斜視図である。
図3図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
図4】一実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図5】別の実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図6】別の一実施形態による磁性基体の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図7】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
図8】本発明の別の実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は、必ずしも特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
本明細書に開示される一つの実施形態は、コイル部品の磁性基体に関する。この磁性基体は、複数の軟磁性金属粒子を含む。以下では、まず、図1から図3を参照して、一実施形態による磁性基体を備えるコイル部品1について説明し、その後に、図4を参照して磁性基体の微細構造について説明する。
【0015】
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、図2は、コイル部品1の分解斜視図である。図3は、図1のI-I線に沿ってコイル部品1を切断したコイル部品1の模式的な断面図である。図2においては、説明の便宜のために、外部電極の図示が省略されている。
【0016】
図1から図3には、コイル部品1の例として、積層インダクタが示されている。図示されている積層インダクタは、本発明を適用可能なコイル部品1の一例であり、本発明は積層インダクタ以外の様々な種類のコイル部品に適用され得る。例えば、コイル部品1は、巻線型のコイル部品や平面コイルにも適用され得る。
【0017】
図示されているように、コイル部品1は、磁性基体10と、磁性基体10の内部に設けられたコイル導体25と、磁性基体10の表面に設けられた外部電極21と、磁性基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。磁性基体10は、磁性材料から構成された磁性基体である。磁性基体10は、特許請求の範囲に記載されている「磁性基体」の例である。
【0018】
磁性基体10は、多数の軟磁性金属粒子を含む。磁性基体10に含まれる複数の軟磁性金属粒子の平均粒径は、例えば1μm~10μmの範囲とされる。軟磁性金属粒子の平均粒径は、5μm以下であってもよい。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径は、磁性基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍から50000倍程度の倍率で撮影したSEM像において、画像解析により各軟磁性金属粒子の円相当径(ヘイウッド径)を求め、その各軟磁性金属粒子の円相当径の平均値を軟磁性金属粒子の平均粒径とすることができる。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径は、1μm~10μmであってもよく、2μm~8μmであってもよい。軟磁性金属粒子の平均粒径と、原料粉の平均粒径とは大きく異ならないため、原料粉の粒度分布をJIS Z 8825に従ってレーザ回折散乱法により測定し、このレーザ回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布のD50値を、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の平均粒径としてもよい。
【0019】
外部電極21は、コイル導体25の一端と電気的に接続されており、外部電極22は、コイル導体25の他端と電気的に接続されている。
【0020】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。図示の実施形態において、実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0021】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル、インダクタアレイ、及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0022】
コイル部品1がインダクタアレイや磁気結合型コイル部品の場合には、コイル導体25は、2つ以上の導体部から構成される。コイル導体25を構成する2つ以上の導体部は、磁性基体10内において互いから電気的に絶縁されている。
【0023】
一実施形態において、磁性基体10は、L軸方向における寸法(長さ寸法)がW軸方向における寸法(幅寸法)及びT軸方向における寸法(高さ寸法)よりも大きくなるように構成される。例えば、長さ寸法は、1.0mm~6.0mmの範囲にあり、幅寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にあり、高さ寸法は0.5mm~4.5mmの範囲にある。磁性基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。磁性基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0024】
磁性基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。磁性基体10は、これらの6つの面によってその外表面が画定されている。第1主面10aと第2主面10bとはそれぞれ磁性基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ磁性基体10の長さ方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ磁性基体10の幅方向両端の面を成している。図1に示されているように、磁性基体10の上側にある第1主面10aは、本明細書において「上面」と呼ばれることがある。同様に、第2主面10bは、「下面」又は「底面」と呼ばれることがある。コイル部品1は、第2主面10bが実装基板2aと対向するように配置されるので、第2主面10bは、「実装面」と呼ばれることもある。上面10aと下面10bとの間は磁性基体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は磁性基体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は磁性基体10の幅寸法だけ離間している。
【0025】
図2に示されているように、磁性基体10は、本体層20と、本体層20の下面に設けられた下側カバー層19と、本体層20の上面に設けられた上側カバー層18と、を有する。上側カバー層18、下側カバー層19、及び本体層20は、磁性基体10の構成要素である。
【0026】
本体層20は、磁性膜11~17を備える。本体層20においては、T軸方向のマイナス側からプラス側に向かって、磁性膜17、磁性膜16、磁性膜15、磁性膜14、磁性膜13、磁性膜12、磁性膜11の順に積層されている。
【0027】
磁性膜11~17の上面には、導体パターンC11~C17がそれぞれ形成されている。複数の導体パターンC11~C17の各々は、コイル軸Ax1(図3参照)に直交する平面(LW平面)内でコイル軸Ax1周りに延びている。導体パターンC11~C17は、例えば、導電性に優れた金属又は合金から成る導電性ペーストをスクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電性ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。バインダー樹脂は、PVB樹脂、フェノール樹脂、前記以外のバインダー樹脂として公知の樹脂、又はこれらの混合物であってもよい。導体粉としてCu粉が用いられる場合には、脱脂時におけるCu粉の過剰な酸化を抑制するために、バインダー樹脂としてアクリル樹脂等の熱分解性樹脂が用いられてもよい。熱分解性樹脂は、酸素との燃焼反応によらずに分解される。熱分解性樹脂は、非酸素雰囲気(例えば、窒素雰囲気)においても、熱分解温度以上の温度まで昇温した場合に熱分解し、残渣が残らない。よって、バインダー樹脂として熱分解性樹脂を用いることにより、脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことができる。導電性ペースト用のアクリル樹脂として、例えば、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いることができる。溶剤として、トルエン、エタノール、ターピネオール、又はこれらの混合物を用いることができる。導電性ペーストは、チクソ性を調整するための調整剤を含むことができる。導体パターンC11~C17は、これ以外の材料及び方法により形成されてもよい。導体パターンC11~C17、例えば、スパッタ法、インクジェット法、又はこれら以外の公知の方法で形成されてもよい。
【0028】
磁性膜11~磁性膜16の所定の位置には、ビアV1~V6がそれぞれ形成される。ビアV1~V6は、磁性膜11~磁性膜16の所定の位置に、磁性膜11~磁性膜16をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。導体パターンC11~C17の各々は、隣接する導体パターンとビアV1~V6を介して電気的に接続される。
【0029】
導体パターンC11のビアV1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極22に接続される。導体パターンC17のビアV6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極21に接続される。
【0030】
上側カバー層18は、磁性材料から成る磁性膜18a~18dを備え、下側カバー層19は、磁性材料から成る磁性膜19a~19dを備える。本明細書においては、磁性膜18a~18d及び磁性膜19a~19dを総称して「カバー層磁性膜」と呼ぶことがある。また、磁性基体10の構成要素は、複数の磁性膜が積層された積層構造を有するとは限らない。例えば、上側カバー層18は、複数の磁性膜18a~18dが積層された積層体ではなく、磁性材料から成型された成形体であってもよい。
【0031】
図3に示されているように、コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Ax1の周りに巻回されている周回部25aと、周回部25aの一端から磁性基体10の第1端面10cまで延伸する引出部25b1と、周回部25aの他端から磁性基体10の第2端面10dまで延伸する引出部25b2と、を有する。導体パターンC11~C17及びビアV1~V6が、スパイラル状の周回部25aを形成する。すなわち、周回部25aは、導体パターンC11~C17及びビアV1~V6を有する。
【0032】
次に、図4を参照して、磁性基体10の微細構造を説明する。図4は、図3に示されている断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図4には、磁性基体10に含まれる多数の軟磁性金属粒子のうちの2つの一部分が模式的に示されている。
【0033】
図4に示されているように、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子には、第1軟磁性金属粒子30aと、第2軟磁性金属粒子30bと、が含まれる。第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bとは隣接して配置されている。図4においては、第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bの断面は、便宜上、円形に描かれている。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、円形以外の様々な断面形状を取り得る。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、鉄(Fe)を主成分とする。第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bは、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の例である。第1軟磁性金属粒子30a及び第2軟磁性金属粒子30bに関する説明は、磁性基体10に含まれる第1軟磁性金属粒子30a又は第2軟磁性金属粒子30b以外の軟磁性金属粒子にも当てはまる。
【0034】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、磁性基体10が高い磁気飽和特性を有するように、95wt%以上の含有比率でFeを含む。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子に含まれるFeの含有比率は、コイル軸Axに沿って磁性基体10を切断することで磁性基体10の断面を露出させ、この断面においてエネルギー分散型X線分光(EDS)分析を行うことにより測定される。Feの含有比率の測定は、エネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)により行うことができる。EDS検出器を搭載したSEMによるEDS分析は、SEM-EDS分析と呼ばれる。Feの含有比率は、例えば、株式会社日立ハイテク製の走査型電子顕微鏡SU7000及びアメテック株式会社製のエネルギー分散型X線分光検出器Octane Eliteを用い、加速電圧5kVで測定される。第1軟磁性金属粒子30aに含まれるFe以外の元素の含有比率も、Feの含有比率と同様にSEM-EDS分析により測定される。
【0035】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の各々の表面は、絶縁膜により被覆されている。このため、磁性基体10に含まれている軟磁性金属粒子同士は、互いから電気的に絶縁される。例えば、第1軟磁性金属粒子30aの表面は、第1絶縁膜40aにより覆われており、第2軟磁性金属粒子30bの表面は、第2絶縁膜40bにより覆われている。第1絶縁膜40aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面全体を覆っていることが望ましく、第2絶縁膜40bは、第2軟磁性金属粒子30bの表面全体を覆っていることが望ましい。磁性基体10において、各軟磁性金属粒子は、隣接する軟磁性金属粒子と、それぞれの表面に設けられた絶縁膜を介して結合される。つまり、隣接する軟磁性金属粒子の各々の表面に設けられた絶縁膜同士が互いに結合しており、この絶縁膜同士の結合により、絶縁膜で覆われた軟磁性金属粒子同士が結合する。例えば、第1軟磁性金属粒子30aは、この第1軟磁性金属粒子30aに隣接する第2軟磁性金属粒子30bと、当該第1軟磁性金属粒子30aの表面に設けられた第1絶縁膜40a及び当該第2軟磁性金属粒子30bの表面に設けられた第2絶縁膜40bを介して結合される。軟磁性金属粒子の表面が絶縁膜により覆われているため、磁性基体10は、105Ω・cm以上の体積抵抗率を有する。
【0036】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、例えば、軟磁性材料から成る原料粉を加熱することで得られる。詳しくは後述するように、磁性基体10は、軟磁性材料からなる軟磁性金属粉を樹脂と混合して混合樹脂組成物を生成し、この混合樹脂組成物を加熱することで作製され得る。この磁性基体10の製造プロセスにおける加熱処理により、原料粉に含まれている元素が原料粉の表面に拡散し、原料粉の表面で酸化されることにより、軟磁性金属粒子の表面に、原料粉に含まれる元素の酸化物を含む絶縁膜が形成される。
【0037】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の原料粉は、Feを主成分とする。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の原料粉は、Feに加えて添加元素を含有することができる。例えば、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の原料粉は、Feに加えて、添加物としてケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)を含有する。原料粉は、マグネシウム(Mg)をさらに含有してもよい。軟磁性金属粒子の原料粉は、Al及びMgを両方とも含んでもよい。軟磁性金属粒子の原料粉は、クロム(Cr)をさらに含有してもよい。軟磁性金属粒子の原料粉は、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、及びマンガン(Mn)から成る群から選択される少なくとも一つの元素を微量に含有してもよい。
【0038】
Alは、Feよりも顕著に酸化されやすいため、酸素が存在する雰囲気中で原料粉に加熱処理を行う際に、Feよりも先に酸化される。よって、原料粉がFeに加えてAlを含有することにより、Feの酸化が抑制される。また、原料粉にAlを含有することにより、原料粉の周囲の酸素量が少なくても、Alの酸化物(Al23)を含有する酸化膜が原料粉の表面を覆うように形成されやすい。
【0039】
Mgも、Alと同様に、Feよりも顕著に酸化されやすいため、酸素が存在する雰囲気中で原料粉に加熱処理を行う際に、Feよりも先に酸化される。よって、原料粉がFeに加えてAl及びMgを含有することにより、Feの酸化が抑制される。また、原料粉にAl及びMgを含有することにより、原料粉の周囲の酸素量が少なくても、Alの酸化物及びMgの酸化物(MgO)を含有する酸化膜が原料粉の表面を覆うように形成されやすい。
【0040】
原料粉にSiを含有することにより、原料粉の硬度を高めることができる。硬度が高められた原料粉を用いることにより、圧縮成型による全体的に均一な成形体の作製が容易になる。
【0041】
原料粉にCrを含有することにより、Feが酸化する際に、導電性のマグネタイトではなく、絶縁性のクロマイトが生成されやすくなる。よって、原料粉がCrを含めることにより、磁性基体10の絶縁性を高めることができる。
【0042】
原料粉を加熱することにより、Si、Al、Mg、及びCrは、原料粉の表面に熱拡散して雰囲気中の酸素により酸化されるが、各元素の一部は、軟磁性金属粒子中に残存する。
【0043】
磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜は、原料粉に含まれる元素の酸化物を含む。「磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜」には、第1軟磁性金属粒子30aの表面に設けられる第1絶縁膜40a及び第2軟磁性金属粒子30bの表面に設けられる第2絶縁膜40bが含まれる。説明の便宜のために、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜を単に「絶縁膜」と呼ぶことがある。Al及びSiは、Feよりも酸化されやすいので、原料粉がFeに加えてAl及びSiを含む場合には、絶縁膜には、Al及びSiの酸化物が含有される。原料粉がMgを含む馬合には、絶縁膜にはMgの酸化物が含有される。絶縁膜には、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、及びマンガン(Mn)から成る群から選択される少なくとも一つの元素の酸化物を微量に含んでもよい。
【0044】
一実施形態において、絶縁膜の厚さは、隣接する軟磁性金属粒子間の距離と等しい。磁性基体10の断面のうち中央付近の領域を所定の倍率(例えば、10000倍)で観察した観察視野に含まれる複数の軟磁性金属粒子のうち隣接するもの同士の距離の平均を、軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜の厚さとすることができる。絶縁膜の厚さは、例えば、5~20nmである。絶縁膜の厚さは、軟磁性金属粒子の周方向に沿って一様でなくともよい。言い換えると、絶縁膜は、軟磁性金属粒子の周方向の異なる位置において、異なる厚さを有していても良い。絶縁膜が軟磁性金属粒子の周方向の位置に応じて異なる厚さを有する場合には、その異なる厚さの平均を絶縁膜の厚さとすることができる。絶縁膜のうち最も薄い部位の厚さは、5nmよりも薄くてもよい。絶縁膜のうち最も厚い部位の厚さは、20nmより厚くてもよい。絶縁膜が軟磁性金属粒子の周方向の位置に応じて異なる厚さを有する場合には、その最大の厚さは、最小の厚さの10倍よりも小さい。
【0045】
磁性基体10には、軟磁性金属粒子が85%以上の充填率で充填されている。磁性基体10における軟磁性金属粒子の充填率は、磁性基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により例えば10000倍から50000倍の倍率で撮影したSEM像において、その観察視野の全面積に対する軟磁性金属磁粒子が占める面積の比とすることができる。SEM像の観察領域において軟磁性金属磁性粒が占める面積は、SEM像の観察視野の全面積からから、その観察視野に含まれる空隙の面積と絶縁膜の面積を除外した部分の面積としてもよい。
【0046】
一態様において、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子のKAM値は、0.6以下である。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子のKAM値は、0.5以下であってもよい。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子のKAM値は、0.3以上である。磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子のKAM値は、以下のようにして算出することができる。磁性基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、その断面の中央付近の領域を研磨する。研磨された磁性基体の断面において、電子後方散乱回折(EBSD)検出器を取り付けた走査型電子顕微鏡(SEM)により、加速電圧15kV、倍率10000倍、ステップサイズ0.05μmの条件で、EBSD測定を行って、観察視野のImage Quality(IQ値)の分布を示すIQマップを取得し、IQ値が所定の閾値以上の領域を軟磁性金属粒子が存在する領域として特定する。この閾値は、15%~30%の値に設定することができる。このようにして特定される軟磁性金属粒子が存在する領域について、EESDパターンから、Kernel Average Misorientation(KAM値)の平均値を求める。このようにして算出される観察視野中の軟磁性金属粒子が存在する領域におけるKAM値の平均値を、磁性基体10における軟磁性金属粒子のKAM値とすることができる。上記の測定には、SEMとして、株式会社日立ハイテク製のSEM SU7000を用い、EESD検出器として、アメテック株式会社製EBSD Velocityを用いることができる。
【0047】
軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜について、図4を参照してさらに説明する。図4に示されているように、第1絶縁膜40aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第1表面領域31aを覆いAlの酸化物(Al23)またはMgの酸化物(MgO)を主成分として含む第1酸化物領域41aと、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部である第2表面領域32aを覆いSiの酸化物(SiO2)を主成分として含む第2酸化物領域42aと、を含む。
【0048】
第1酸化物領域41aは、アルミナ(Al23)を主成分として含む。EDS分析において第1酸化物領域41aに含まれる酸素以外の元素のうちAl元素の存在量(Al元素の原子割合(at%))が最も多い場合に、第1酸化物領域41aは、アルミナを主成分として有するということができる。第1酸化物領域41aは、絶縁性のアルミナを主成分とするため、高い絶縁性を有する。第1酸化物領域41aにアルミナ以外のアルミニウムの酸化物(例えば、酸化アルミニウム(II))が含有される可能性がある場合には、ラマン分光分析を行うことにより、第1酸化物領域41aに主成分として含有される酸化物が酸化アルミニウム(II)ではなくアルミナ(酸化アルミニウム(III))であることを決定してもよい。
【0049】
第2酸化物領域42aは、シリカ(SiO2)を主成分として含む。EDS分析において第2酸化物領域42aに含まれる酸素以外の元素のうちSi元素の存在量(Si元素の原子割合(at%))が最も多い場合に、第2酸化物領域42aは、シリカを主成分として有するということができる。第2酸化物領域42aは、絶縁性のシリカを主成分とするため、高い絶縁性を有する。第2酸化物領域42aにシリカ以外のケイ素の酸化物(例えば、一酸化ケイ素)が含有される可能性がある場合には、ラマン分光分析を行うことにより、第2酸化物領域42aに主成分として含有される酸化物が一酸化ケイ素ではなくシリカ(二酸化ケイ素)であることを決定してもよい。
【0050】
絶縁膜は、原料粉に含有される元素の酸化物以外に当該元素の窒化物を含んでもよい。絶縁膜において酸化物が占める割合(質量基準)は、絶縁膜に占める窒化物の割合より多い。絶縁膜に含まれる窒化物には、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が含まれ得る。絶縁膜に原料粉に含有される元素の窒化物を含めることにより、原料粉に含まれる元素の過剰な酸化が抑制される。一般に、窒化物よりも酸化物の方が高い硬度を有するため、絶縁膜に窒化物よりも酸化物が多く含まれることで、磁性基体10の機械的強度を高めることができる。
【0051】
第1軟磁性金属粒子30aの表面は、第1表面領域31aと第2表面領域32aとに区画される。第1軟磁性金属粒子30aの表面のうち第1表面領域31aが第1酸化物領域41aによって覆われ、第2表面領域32aが第2酸化物領域42aによって覆われているので、第1軟磁性金属粒子30aの表面の全体が絶縁性の第1酸化物領域41a及び第2酸化物領域42aによって覆われている。
【0052】
第1酸化物領域41aは、第1軟磁性金属粒子30aの第1表面領域31aだけでなく、第2酸化物領域42aの外側の表面の少なくとも一部を覆うように形成されてもよい。第2酸化物領域42aの外側の表面を第1酸化物領域41aによって覆うことにより、第2酸化物領域42aの一部に欠陥が生じても、その欠陥が生じた部位を第1酸化物領域41aで覆うことにより、第2酸化物領域42aに生じた欠陥を起点として絶縁破壊が生じることを防止できる。図4に示されている態様では、第2酸化物領域42aの外側の表面の全体が第1酸化物領域41aによって覆われている。第2酸化物領域42aの外側の表面の全体を第1酸化物領域41aで覆うことにより、絶縁破壊をさらに抑制することができる。
【0053】
第1酸化物領域41aは、第2酸化物領域42aの外側の表面の一部のみを覆うように設けられてもよい。この場合、第1軟磁性金属粒子30aの表面に存在する第1酸化物領域41aの量を減らすことができる。よって、第1酸化物領域41aが第2酸化物領域42aの外側の表面の一部のみを覆うことにより、第1酸化物領域41aが第2酸化物領域42aの外側の表面の全体を覆う態様と比較して、磁性基体10における軟磁性金属粒子の充填率を向上させることができる。
【0054】
図4に示されている態様では、第1絶縁膜40aは、互いから離間している複数の第2酸化物領域42aを含んでいる。このように、Siの酸化物を主成分として含有する第2酸化物領域42aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面の全体を覆うように層状に形成されるのではなく、第1軟磁性金属粒子30aの表面に離散的に形成される。原料粉が含有するSiの量を4wt%以下とすることにより、第1軟磁性金属粒子30aの表面に複数の第2酸化物領域42aを離散的に形成することができる。原料粉におけるSiの含有率は、1~4wt%とすることができる。また、絶縁膜の厚さを薄く設けるため、Alの含有率は、例えば、1wt%以下とすることができる。原料粉がMgを含有する場合又は原料粉がFe-Si-Al合金とMg粉末との混合粉である場合、Mgの含有率は、Alとの合計で1wt%以下とすることができる。
【0055】
第1軟磁性金属粒子30aと隣接して配置されている第2軟磁性金属粒子30bの表面には、第2絶縁膜40bが設けられている。第2絶縁膜40bは、第2軟磁性金属粒子30bの表面の一部である第1表面領域31bを覆いAlの酸化物を主成分として含む第1酸化物領域41bと、第2軟磁性金属粒子30bの表面の一部である第2表面領域32bを覆いSiの酸化物を主成分として含む第2酸化物領域42bと、を含む。第1酸化物領域41bは、第1酸化物領域41aと同様にAlの酸化物を主成分として含む。第1酸化物領域41aに関する上記の説明は、第1酸化物領域41bにも当てはまる。第2酸化物領域42bは、第2酸化物領域42aと同様にSiの酸化物を主成分として含む。
【0056】
磁性基体10においては、軟磁性金属粒子が、Alの酸化物及びSiの酸化物を含む絶縁膜により覆われているので、磁性基体10の絶縁性を高めることができる。単一の種類の酸化物から構成される絶縁膜により高い絶縁性を実現するためには、軟磁性金属粒子の表面全体が当該酸化物の層により覆われなければならない。磁性基体10においては、軟磁性金属粒子の表面にSiの酸化物により被覆されない領域があっても、当該領域をAlの酸化物により被覆することができる。具体的には、磁性基体10においては、第1軟磁性金属粒子30aの一部のみ(つまり、第2表面領域32aのみ)に第2酸化物領域42aが形成されているが、第1軟磁性金属粒子30aの表面の他の領域(つまり、第1表面領域31a)は、Alの酸化物を主成分とする第1酸化物領域41aにより覆われている。このため、第1軟磁性金属粒子30aの表面の一部が露出することによる絶縁性の低下を抑制することができる。磁性基体10に含まれる第1軟磁性金属粒子30a以外の軟磁性金属粒子も、2種類の元素(すなわち、Al及びSi)の酸化物を含む絶縁膜により覆われているので、磁性基体10の絶縁性を高くすることができる。
【0057】
本願の磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜(例えば、第1絶縁膜40a)と、従来の軟磁性金属粒子の表面に設けられる絶縁膜との違いについて説明する。従来、軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜が2種類以上の元素の酸化物を含む場合、その絶縁膜は、各元素の酸化物が層状に形成され、この層状に形成された酸化物層が積層された積層構造を有している。つまり、従来の磁性基体の絶縁膜は、軟磁性金属粒子の外表面の全体を第1の元素の酸化物を主成分とする第1酸化物層で覆い、その第1酸化物層の外表面の全体を第2の元素の酸化物を主成分とする第2酸化物層で覆っている。絶縁膜が積層構造を有する従来の磁性基体は、例えば、特開2021-158261号公報に記載されている。
【0058】
これに対して、本願の磁性基体10においては、第1軟磁性金属粒子30aの表面のうちの第1表面領域31aが第1酸化物領域41aで覆われ、第1軟磁性金属粒子30aの第2表面領域32aが第2酸化物領域で覆われている。このため、本発明が適用される磁性基体10においては、2以上の酸化物層が積層された絶縁膜を有する従来の磁性基体と比べて、磁性基体10において絶縁膜が占める割合を小さくすることができる。その結果、磁性基体10における軟磁性金属粒子の充填率を85%以上まで大きくすることができるので、2以上の酸化物層が積層された絶縁膜を有する従来の磁性基体に比べて磁気特性を改善することができる。
【0059】
上述したように、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれるAlの酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に含まれるAlに由来するものであってもよいが、別の実施形態においては、Alの酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に由来するものではなくともよい。例えば、軟磁性金属粒子の原料粉とアルミナ粒子とを摩擦混合機内で混合することにより、軟磁性金属粒子の表面にアルミナ粒子を固着させてもよい。これにより、軟磁性金属粒子の表面に、原料粉に含有されるAl元素に由来しないAlの酸化物を付着させることができる。第1酸化物領域41a、41bは、この軟磁性金属粒子に付着したアルミナ粉末から構成されてもよい。軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれるAlの酸化物が原料粉に含まれる元素に由来するものでない場合には、原料粉は、Alを含まなくともよい。同様に、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれるMgの酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に由来するものではなくともよい。例えば、軟磁性金属粒子の原料粉とマグネシウムの金属粉末の原料粉とを摩擦混合機内で混合することにより、軟磁性金属粒子の表面にマグネシウム粉を固着させてもよい。これにより、軟磁性金属粒子の表面に、原料粉に含有されるMg元素に由来しないMgの酸化物を付着させることができる。また、このマグネシウムの原料粉は、金属粉末でも、酸化物粉末でもよい。
【0060】
また、上述したように、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれるSiの酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に含まれるSiに由来するものであってもよいが、別の実施形態においては、Siの酸化物は、軟磁性金属粒子の原料粉に由来するものではなくともよい。例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及びアンモニア水を混合させた混合溶液に原料粉を含浸させ、この混合溶液を撹拌した後に乾燥することで、原料粉(軟磁性金属粒子)の表面にSiの酸化物(シリカ)を形成することができる。このようにして生成されるSiの酸化物は、非晶質であってもよい。これにより、軟磁性金属粒子の表面に、原料粉に含有されるSi元素に由来しないSiの酸化物を付着させることができる。第2酸化物領域42a、42bは、この軟磁性金属粒子の表面に形成されたシリカから構成されてもよい。軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれるSiの酸化物が原料粉に含まれる元素に由来するものでない場合には、原料粉は、Siを含まなくともよい。
【0061】
軟磁性金属粒子の表面を覆う絶縁膜に含まれるAlの酸化物やSiの酸化物が原料粉に含まれるAlやSiに由来するものでない場合には、原料粉におけるAlやSiの含有比率をより少なくすることができる。絶縁膜に含まれるAl酸化物が原料粉に含まれるAlに由来するものでない場合には、原料粉におけるAlの含有比率を0.1~0.8wt%とすることができる。絶縁膜に含まれるSi酸化物が原料粉に含まれるSiに由来するものでない場合には、原料粉におけるSiの含有比率を0.7~2.5wt%とすることができる。原料粉におけるAlやSiの含有比率を下げることにより、原料粉におけるFeの含有比率を高めることができ、その結果、軟磁性金属粒子におけるFeの含有比率も高めることができる。
【0062】
次に、図5を参照して、本発明が適用される基体の別の実施形態について説明する。図5は、別の実施形態による磁性基体110の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図5に示されている磁性基体110は、絶縁膜がCrの酸化物を主成分とする第3酸化物領域を含む点で磁性基体10と異なっている。図5に示されているように、磁性基体110において、第1軟磁性金属粒子30aを覆う第1絶縁膜40aは、第1酸化物領域41a及び第2酸化物領域42aに加えて第3酸化物領域43aを有しており、第2軟磁性金属粒子30bを覆う第2絶縁膜40bは、第1酸化物領域41b及び第2酸化物領域42bに加えて第3酸化物領域43bを有している。第1絶縁膜40aには、互いから離間している複数の第3酸化物領域43aが含まれていてもよい。第2絶縁膜40bは、互いから離間している複数の第3酸化物領域43bが含まれていてもよい。
【0063】
第3酸化物領域43aは、第1軟磁性金属粒子30aの表面から離間した位置に形成されている。言い換えると、第3酸化物領域43aと第1軟磁性金属粒子30aの表面との間には、第1酸化物領域41a及び第2酸化物領域42aの少なくとも一方が介在している。図示の実施形態では、第3酸化物領域43aは、第2酸化物領域42aからも離間して配置されている。言い換えると、第3酸化物領域43aと第2酸化物領域42aとの間には、第1酸化物領域41aが介在している。第3酸化物領域43aは、第2酸化物領域42aと接するように形成されてもよい。
【0064】
第3酸化物領域43aは、第1酸化物領域41aよりも第1軟磁性金属粒子30aの径方向外側に設けられている。一実施形態において、複数の第3酸化物領域43aのうちの少なくとも一つは、第1軟磁性金属粒子30aの周りの周方向において、第1表面領域31aに対応する位置に設けられていてもよい。言い換えると、複数の第3酸化物領域43aのうちの少なくとも一つは、第1表面領域31aの径方向外側に設けられていてもよい。第1軟磁性金属粒子30aの周方向において第1表面領域31aに対応する領域には、第1酸化物領域41aが設けられており第2酸化物領域42aは設けられていない。他方、第1軟磁性金属粒子30aの周方向において第2表面領域32aに対応する領域には、第2酸化物領域42aが設けられており、さらにその径方向外側に第1酸化物領域41aが設けられている。このため、第1酸化物領域41aは、第1軟磁性金属粒子30aの周方向における第1表面領域31aに対応する位置において内側に向かって凹んでいる。一実施形態において、第3酸化物領域43aは、第1軟磁性金属粒子30aの周方向において第1表面領域31aに対応する位置にある第1酸化物領域41aの凹みに配置される。第1酸化物領域41aの凹みに第3酸化物領域43aを配置することにより、第1絶縁膜40aの膜厚を周方向において均一にすることができる。第1絶縁膜40aの一部が他の部位よりも薄い場合には、その膜厚が薄い部位から絶縁破壊が起こる可能性がある。第1絶縁膜40aの膜厚を周方向において均一にすることで、第1絶縁膜40aの膜厚が薄い部位から絶縁破壊が起こることを防止できる。
【0065】
第3酸化物領域43aと同様に、第3酸化物領域43bは、第2軟磁性金属粒子30bの表面から離間した位置に形成されている。また、第3酸化物領域43bは、第2酸化物領域42bから離間して配置されてもよい。第3酸化物領域43bは、第2酸化物領域42bと接するように形成されてもよい。さらに、第3酸化物領域43bは、第2軟磁性金属粒子30bの周方向において第1表面領域31bに対応する位置にある第1酸化物領域41bの凹みに配置されてもよい。
【0066】
第3酸化物領域43a、43cは、Crの酸化物を主成分とする。第3酸化物領域43a~43cは、クロマイト(FeCr24)を主成分として有する。Fe基の軟磁性金属粒子を覆う絶縁膜にFeを含む酸化物が形成される場合、そのFeの酸化物は、ヘマタイト(Fe23)やマグネタイト(Fe34)として存在することがある。軟磁性金属粒子間に非磁性のヘマタイトと強磁性のマグネタイトとが混在すると、マグネタイトが存在する領域において局所的な磁気飽和が起こりやすくなる。Feを含む第3酸化物領域43aの主成分を非磁性のクロマイトとすることにより、軟磁性金属粒子間における磁束の均一性を向上させることができ、その結果、軟磁性金属粒子間において局所的な磁気飽和の発生を抑制することができる。これにより、磁性基体110では、マグネタイトを多く含む磁性基体と比較して、磁気飽和特性が向上する。
【0067】
絶縁膜に含有される第3酸化物領域43a~43cは、クロマイト(FeCr24)、ヘマタイト(Fe23)、及びマグネタイト(Fe34)をそれぞれ含み得る。一実施形態において、第3酸化物領域43a~43cの各々においては、前記の酸化物の合計(クロマイト、ヘマタイト、マグネタイトの合計)に占めるクロマイトの含有割合が50%以上であってもよい。非磁性のクロマイトの含有割合を50%以上とすることにより、強磁性の酸化物(例えば、マグネタイト)が多く含まれる場合と比較して、絶縁膜の比透磁率を小さくすることができ、磁性基体110の磁気飽和特性を向上させることができる。別の実施形態においては、前記の酸化物の合計に占めるクロマイトの含有割合とヘマタイトの含有割合との合計が80%以上であってもよい。非磁性のクロマイトとヘマタイトの含有割合の合計を80%以上とすることにより、強磁性の酸化物(例えば、マグネタイト)が多く含まれる場合と比較して、絶縁膜の比透磁率を小さくすることができ、磁性基体110の磁気飽和特性を向上させることができる。
【0068】
次に、図6を参照して、本発明が適用される磁性基体210について説明する。図6は、磁性基体210の断面の一部の領域を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図6に示されている磁性基体210の断面は、3つの軟磁性金属粒子の境界付近を拡大して示している。図示されているように、磁性基体210は、第1軟磁性金属粒子30a、第2軟磁性金属粒子30b、及び第3軟磁性金属粒子30cを有する。第1軟磁性金属粒子30a、第2軟磁性金属粒子30b、及び第3軟磁性金属粒子30cは、互いに隣接して配置されている。上述のように、第1軟磁性金属粒子30aは第1絶縁膜40aにより覆われ、第2軟磁性金属粒子30bは第2絶縁膜40bにより覆われている。これと同様に、第3軟磁性金属粒子30cは、第3絶縁膜40cにより覆われている。第3絶縁膜40cは、第1絶縁膜40a及び第2絶縁膜40bと同様に構成される。すなわち、第3絶縁膜40cは、第3軟磁性金属粒子30cの表面の一部である第1表面領域31cを覆いAlの酸化物を主成分として含む第1酸化物領域41cと、第3軟磁性金属粒子30cの表面の一部である第2表面領域32cを覆いSiの酸化物を主成分として含む第2酸化物領域42cと、第3軟磁性金属粒子30cの表面から離間して配置されておりCrの酸化物を主成分とする第3酸化物領域43cと、を含む。第3酸化物領域43cの主成分は、第3酸化物領域43a、43bと同様に、クロマイトであってもよい。
【0069】
磁性基体210において、軟磁性金属粒子の間に、絶縁膜で埋められていない空隙が存在する。例えば、図6に示されているように、磁性基体210において、第1軟磁性金属粒子30aと第2軟磁性金属粒子30bと第3軟磁性金属粒子30cとの間には、空隙G1が存在している。空隙G1の少なくとも一部は、Crの酸化物を主成分とする第3酸化物領域43dによって画定される。言い換えると、第3酸化物領域43dは、軟磁性金属粒子の間に存在する空隙に臨む位置に配置される。第3酸化物領域43dの主成分は、第3酸化物領域43a~43cと同様に、クロマイトであってもよい。図示の例では、空隙G1は、第3酸化物領域43d及び第1酸化物領域41a~41cによって画定されている。
【0070】
磁性基体210においては、軟磁性金属粒子の間に存在する空隙の一部が第3酸化物領域43dによって埋められているので、第3酸化物領域43dが存在しない場合と比べて、磁性基体210の機械的強度を向上させることができる。第3酸化物領域43dの主成分がクロマイトである場合には、空隙の一部が、高い硬度を有するクロマイトを主成分とする第3酸化物領域43dにより充填されるので、磁性基体210の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0071】
第1絶縁膜40aは、第1酸化物領域41a、第2酸化物領域42a、第3酸化物領域43a以外に、更に第4酸化物領域を含んでもよい。第4酸化物領域は、軟磁性金属粒子の原料粉に含まれる元素に由来する酸化物を含んでもよいし、それ以外の酸化物を含んでもよい。第4酸化物領域は、絶縁性であってもよい。
【0072】
次に図7を参照して、コイル部品1の製造方法の一例について説明する。コイル部品1を製造する過程で磁性基体10が作製されるので、磁性基体10の製造方法についても図7を参照して説明される。原料粉がCrを含む場合には、図7の工程において、磁性基体10に代えて、Crの酸化物を含む磁性基体110又は磁性基体210が作製される。図7は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法を示すフロー図である。以下の説明では、コイル部品1がシート積層法により製造されることを想定している。コイル部品1は、シート積層法以外の公知の方法で作製されてもよい。例えば、コイル部品1は、印刷積層法、薄膜プロセス法、又はスラリービルド法などの積層法により作製され得る。
【0073】
まず、ステップS1において、磁性体シートが作製される。磁性体シートは、軟磁性金属粒子の原料となる軟磁性金属粉(原料粉)をバインダー樹脂及び溶剤と混練して得られる磁性材ペーストから生成される。この原料粉は、軟磁性金属材料から成る。原料粉は、Fe、Al、及びSiを含む。原料粉は、Crを含んでもよい。原料粉は、95wt%以上のFeを含有する。Al、Si、Cr及びそれ以外の添加元素の含有比率は、合計で5wt%以下とされる。原料粉は、0.2~1wt%のAlを含有することができる。原料粉は、1~4wt%のSiを含有することができる。原料粉は、0.5~1wt%のCrを含有することができる。原料粉におけるSiの含有率は、Alの含有率よりも高くてもよい。原料粉の粒径は、10μm以下とする。原料粉の粒径は、5μm以下とする。原料粉の粒径を10μm以下、好ましくは5μm以下とすることにより、原料粉を含む成形体において原料粉を密に充填することができ、また、熱処理を安定的に行うことができる。
【0074】
磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂である。磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、PVB樹脂、フェノール樹脂、前記以外のバインダー樹脂として公知の樹脂、又はこれらの混合物であってもよい。溶剤は、例えば、トルエンである。この磁性材ペーストは、ドクターブレード法又はこれ以外の一般的な方法にてプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布される。このベースフィルムの表面に塗布された磁性材ペーストを乾燥させることでシート状の成形体が得られる。このシート状の成形体を型内で10~100MPa程度の成型圧力で加圧成型することにより磁性体シートが複数作製される。
【0075】
次に、ステップS2において、ステップS1で準備された複数の磁性体シートの一部に導電性ペーストが塗布される。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。導電性ペースト用のバインダー樹脂は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ種類の樹脂であってもよい。導電性ペースト用のバインダー樹脂及び磁性材ペースト用のバインダー樹脂はいずれもアクリル樹脂であってもよい。
【0076】
磁性体シートに導電性ペーストを塗布することにより、当該磁性体シートに、焼成後に導体パターンC11~C17となる未焼成導体パターンが形成される。磁性体シートの一部には積層方向に貫通する貫通孔が形成される。貫通孔を有する磁性体シートに導電性ペーストが塗布されるときには、貫通孔内にも導電性ペーストが埋め込まれる。このようにして、磁性体シートの貫通孔内に焼成後にビアV1~V5となる未焼成ビアが形成される。導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷法により磁性体シートに塗布される。
【0077】
次に、ステップS3において、ステップS1で作製された磁性体シートを積層することで、上側カバー層18となる上部積層体、本体層20となる中間積層体、及び下側カバー層19となる下部積層体を作製する。上部積層体及び下部積層体はそれぞれ、ステップS1で準備された磁性体シートのうち未焼成導体パターンが形成されていないものを4枚積層することによって形成される。上部積層体の4枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜18a~18dとなり、下部積層体の4枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜19a~19dとなる。中間積層体は、未焼成導体パターンが形成された磁性体シート7枚を所定の順序で積層することにより形成される。中間積層体の7枚の磁性体シートは、完成品であるコイル部品1において磁性膜11~17となる。上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザ加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体が得られる。チップ積層体は、加熱処理後に磁性基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成形体の例である。加熱処理後に磁性基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成形体は、シート積層法以外の方法で作製されてもよい。
【0078】
ステップS3において作製される成形体において、原料粉の充填率は、85%以上となる。成形体における原料粉の充填率は、バインダー樹脂の種類、原料分の粒径、及びこれら以外のパラメータに応じて磁性体シートを成型する際の成型圧力を調整することにより実現される。成形体における充填率を85%以上とするために、磁性体シートを成型する際の成型圧力を10~100MPa程度とすることが望ましい。成形体における原料粉の充填率は、成形体の断面のSEM像において、その観察視野の全面積に対する原料粉が占める面積の比を百分率で表したものとすることができる。
【0079】
次に、ステップS4において、ステップS3で作製された成形体に対して脱脂処理が行われる。磁性材ペースト及び導電性ペーストのバインダー樹脂として熱分解性樹脂が用いられる場合には、成形体に対する脱脂処理は、窒素雰囲気等の非酸素雰囲気下で行うことができる。脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことにより、脱脂処理において原料粉に含まれるFeが酸化されることを防止できる。脱脂処理は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度で行われる。磁性材ペースト用のバインダー樹脂としてアクリル樹脂が用いられる場合には、脱脂は、アクリル樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度、例えば300℃~500℃で行われる。脱脂処理により、成形体に含まれる熱分解性樹脂が分解されるので、脱脂処理の完了後の成形体には、熱分解性樹脂は残存しない。導電性ペースト用のバインダー樹脂を磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ熱分解性樹脂とすることにより、ステップS4の脱脂処理において、未焼成導体パターンに含まれる熱分解性樹脂も熱分解される。このように、ステップS4においては、成形体を構成する磁性体シート及び未焼成導体パターンの両方が脱脂される。
【0080】
次に、ステップS5において、脱脂された成形体に対して第1加熱処理が施される。第1加熱処理は、5~1000ppmの範囲の酸素を含有する低酸素濃度雰囲気において、590℃~900℃の第1加熱温度で行われる。第1加熱処理は、5~100ppm程度の低酸素濃度雰囲気で行われてもよい。原料粉を590℃~900℃で加熱することにより、各原料粉においてAl及びSiが熱拡散により表面付近に拡散し、雰囲気中の酸素と結合する。原料粉がCrを含む場合には、Crも原料粉の表面付近に拡散する。第1加熱処理においては、各原料粉の表面に移動した添加元素のうち、酸化されやすいAl及びSiの酸化物が生成される。第1加熱処理により、加熱された原料粉の表面に、図4ないし図6に示されているように、Alの酸化物を主成分とする酸化物領域(例えば、第1酸化物領域41a)及びSiの酸化物を主成分とする酸化物領域(例えば、第2酸化物領域42a)が形成される。第1加熱処理が行われる第1加熱時間は、1時間~6時間の間とすることができる。第1加熱時間は、例えば、1時間とすることができる。第1加熱処理においては、Al及びSiに比べて酸化しにくいFeも僅かに酸化する可能性がある。第1加熱処理は、低酸素濃度雰囲気において行われるため、Feが酸化される場合、Feの酸化物としては、ヘマタイト(Fe23)に比べてマグネタイト(Fe34)の方が多く生成される。第1加熱処理において、Feの酸化物は、第1酸化物領域41a及び第2酸化物領域42aよりも径方向外側に生成される。
【0081】
第1加熱処理は、590℃以上の高温で行われるため、第1加熱処理によろい磁性体シート作成時の加圧成型において成形体に生じた歪みを緩和することができる。
【0082】
次に、ステップS6において、第1加熱処理で加熱された後の成形体に対して、第1加熱処理における酸素濃度よりも高い酸素濃度で第2加熱処理が施される。第2加熱処理は、1000ppmより大きく10000ppm以下の低い酸素雰囲気で行われてもよい。第2加熱処理は、第1加熱処理よりも高い酸素濃度で行われるため、Si及びAlの酸化がさらに進む。原料粉がCrを含む場合には、第2加熱処理の間に、第1加熱処理において生成されたマグネタイトがCrと結合し、クロマイト(FeCr24)が生成される。上述したように、成形体における原料粉の充填率は、85%以上と高いため、原料粉の表面への過剰な酸素の供給が抑制される。このため、第2加熱処理において、原料粉の表面付近においてマグネタイト及びCr元素が存在する領域では、ヘマタイト(Fe23)や酸化クロム(III)よりも、クロマイト(FeCr24)が生成されやすい。
【0083】
このように、原料粉にCrが含まれる場合には、第2加熱処理により、第1酸化物領域41a又は第2酸化物領域42aの径方向外側に、クロマイトを主成分とする酸化物領域(例えば、第3酸化物領域43a)が生成される。原料粉にCrが含まれない場合には、クロマイトは生成されない。また、成形体における原料粉の充填率を高くする(例えば、85%以上とする)ことで、原料粉表面への酸素の供給量を制約することができるので、第2加熱処理が行われる雰囲気の酸素濃度の範囲を広げる(上限を高くする)ことができる。
【0084】
第2加熱処理においては、原料粉の酸化に加えて、未焼結導体パターン中の導体粉の焼結も起こる。未焼結導体パターン中の導体粉が焼結することで、コイル導体25が得られる。導体粉として銅粉が用いられる場合には、銅結晶が緻密に焼結し、コイル導体25となる。
【0085】
第2加熱処理は、第2加熱温度で、第2加熱時間だけ行われる。第2加熱温度及び第2加熱時間は、原料粉の表面に絶縁性確保のために十分な膜厚を有する絶縁膜が形成されるように定められる。第2加熱温度は、例えば、550℃~900℃の間の温度とすることができる。第2加熱温度が高いほど酸化の進行が速いため、第2加熱時間は、第2加熱温度によって変わる。第2加熱温度が550℃の場合には、第2加熱時間は、1時間から6時間の間とすることができる。第2加熱温度が700℃の場合には、第2加熱時間は、30分から1時間の間とすることができる。
【0086】
このように、第1加熱処理及び第2加熱処理により、成形体に含まれる原料粉が酸化されることで、原料粉から表面が絶縁膜により覆われた軟磁性金属粒子が生成される。原料粉にCrが含まれない場合には、例えば図4に示されているように、第1絶縁膜40aにより被覆された第1軟磁性金属粒子30a及び第2絶縁膜40bにより被覆された第2軟磁性金属粒子30bが生成される。原料粉にCrが含まれる場合には、図5又は図6に示されているように、クロマイトを主成分とする第3酸化物領域43aを含むように第1絶縁膜40aが生成され、また、クロマイトを主成分とする第3酸化物領域43bを含むように及び第2絶縁膜40bが生成される。第2加熱処理により、隣接する軟磁性金属粒子同士は、互いの表面に形成された絶縁膜を介して結合される。このようにして、軟磁性金属粒子が結合した磁性基体10、110、又は210が得られる。
【0087】
次に、ステップS7において、ステップS6で得られた磁性基体10表面に外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21は、コイル導体25の一端に接続され、外部電極22は、コイル導体25の他端と接続される。外部電極21、22の形成前に、第2加熱処理後の成形体を樹脂に含浸させてもよい。成形体は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸される。これにより、磁性基体10内の軟磁性金属粒子の隙間に樹脂が浸透する。そして、磁性基体10に含浸した樹脂を硬化させることにより、磁性基体10の機械的強度を向上させることができる。
【0088】
以上の工程により、コイル部品1が作製される。
【0089】
次に、図8を参照して、コイル部品1の製造方法の別の態様について説明する。図8に示されている製造方法は、磁性体シートの作製前に、原料粉に予備加熱を行い、この予備加熱により原料粉の表面にSiの酸化物を生成する点で、図7に示されている製造方法と異なっている。
【0090】
図8に示されているように、まず、ステップS21において、軟磁性金属粒子の原料となる原料粉を準備し、この原料粉に対して予備加熱を行う。予備加熱は、500℃より低い温度で、1時間行われる。この予備加熱により、原料粉の表面にSiの酸化物が離散的に生成される。この表面にSiの酸化物が離散的に形成された原料粉を用いて、図7と同様にステップS1~S3の工程が行われ、磁性体シートが積層された成形体が作製される。この成形体に対して、ステップS4において、脱脂が行われる。
【0091】
次に、ステップS22において、脱脂された成形体に対して加熱処理が行われる。ステップS22における加熱処理は、図7のステップS6における第2加熱処理と同じ条件で行われる。この第2加熱処理により、成形体に含まれる原料粉のAlが酸化されてAlの酸化物が生成されることで、原料粉から表面が絶縁膜により覆われた軟磁性金属粒子が生成される。ステップS22における加熱処理により、隣接する軟磁性金属粒子同士は、互いの表面に形成された絶縁膜を介して結合される。このようにして、軟磁性金属粒子が結合した磁性基体10が得られる。
【0092】
次に、ステップS7において、ステップS22で得られた磁性基体10の表面に外部電極21及び外部電極22を形成する。以上の工程により、コイル部品1が作製される。
【実施例0093】
上記のステップS1及びS3~S6に従い、原料粉の組成、第1加熱温度及び第2加熱温度を変化させて、以下の16種類の試料を作製した。
【0094】
試料1~試料10を以下のようにして作製した。まず、平均粒径が10μmの軟磁性金属粉(原料粉)を準備した。質量基準で表した軟磁性金属粉の組成比は、Fe:95wt%。Si:4wt%、Al:1%であった。この原料粉をアクリル樹脂及びトルエン(溶剤)と混練して磁性材ペーストを得た。この磁性材ペーストをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布し、この塗布された磁性材ペーストを乾燥させることでシート状の成形体を得た。次に、このシート状の成形体を50MPa程度の成型圧力で加圧成型することにより磁性体シートを作製した。次に、この磁性体シートを10層だけ積層して、シート形状の積層体を作製した。このシート形状の積層体をダイシングし、長さ1.6mm、幅0.8mm、高さ0.5mmのチップ状の素体を作製した。次に、このチップ状の素体に対して脱脂処理を行った。脱脂処理においては、チップ状の素体を、窒素雰囲気中において400℃で30分間加熱した。次に、脱脂された成形体に対して、10ppmの低酸素雰囲気において、表1に記載されている第1加熱温度で、3時間、加熱処理(第1加熱処理)を行った。次に、第1加熱処理後の積層体に対して、5000ppmの低酸素雰囲気において、表1に記載されている第1加熱温度で、1時間、加熱処理(第2加熱処理)を行った。以上のようにして、試料1~試料10が得られた。
【0095】
続いて、試料11~試料13を以下のようにして作製した。まず、平均粒径が10μmの軟磁性金属粉(原料粉)を準備した。質量基準で表した軟磁性金属粉の組成比は、Fe:95wt%。Si:3.5wt%、Al:0.5%、Cr:1%であった。この原料粉を用いて、試料1~10と同様の方法で積層体を作製し、その積層体に対して、脱脂処理、第1加熱処理、及び第2加熱処理を順に施して試料11~試料13を得た。第1加熱処理は、表1に記載されている第1加熱温度で行い、第2加熱処理は、表1に記載されている第2加熱温度で行った。
【0096】
試料14~16を以下のようにして作製した。まず、試料1~試料10の作製に用いられた原料粉と同じ組成の軟磁性金属粉と酸化マグネシウム粉末とを摩擦混合機内で混合することにより、軟磁性金属粉の表面に酸化マグネシウム粉を固着させて、原料分を得た。この原料粉(軟磁性金属粉の表面に酸化マグネシウム粉が固着した原料粉)を用いて、試料1~10と同様の方法で積層体を作製し、その積層体に対して、脱脂処理、第1加熱処理、及び第2加熱処理を順に施して試料14~試料16を得た。第1加熱処理は、表1に記載されている第1加熱温度で行い、第2加熱処理は、表1に記載されている第2加熱温度で行った。
【0097】
次に、試料1~試料16の充填率を以下のようにして測定した。まず、各試料を切断して断面を露出させ、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍の倍率で撮影したSEM像を取得し、このSEM像における明度差から軟磁性金属磁粒子が存在する領域を特定し、この軟磁性金属磁粒子が存在する領域の面積を測定した。そして、観察視野の全面積に対する軟磁性金属磁粒子が存在する領域の面積の比を算出し、この算出した比を百分率で表した値を充填率とした。このようにして算出した充填率を、表1の「充填率」の列に記入した。
【0098】
次に、試料1~試料16のKAM値を以下のようにして測定した。まず、各試料を切断して断面を露出させ、その断面を研磨した。研磨された磁性基体の断面において、EBSD検出器を取り付けたSEMにより、加速電圧15kV、倍率10000倍、ステップサイズ0.05μmの条件で、EBSD測定を行って、観察視野のImage Quality(IQ値)の分布を示すIQマップを取得した。このIQマップにおいて、IQ値が15%以上の領域を軟磁性金属粒子が存在する領域として特定した。このようにして特定した軟磁性金属粒子が存在する領域について、EESDパターンからデータ解析ソフト(OIM Analyasis ver.8.5)を用いて、KAM値の平均値を求めた。このようにして算出したKAM値の平均値を表1の「KAM値」の列に記載した。
【0099】
次に、試料1~試料16を、Lake Share社製の8600 SERIES VSMにセットし、最大磁界5kOeで、試料1~試料16の保磁力を測定した。このようにして測定した保磁力を表1の「保磁力」の列に記載した。
【0100】
【表1】
【0101】
表1において、本発明に包含されない試料(つまり、比較例)については、試料番号にアスタリスク(*)が付加されている。具体的には、試料12ないし試料19は、本発明に包含されない比較例である。
【0102】
表1に示されているように、各試料の充填率は、85%以上であった。また、表1に示されているように、570℃以下の第1加熱温度で第1加熱処理が施された試料1~試料5については、KAM値が0.7以上である一方、590℃以上の第1加熱温度で第1加熱処理が施された試料6~試料16についてはKAM値が0.6以下であり、第1加熱処理を590℃以上で実施することで、圧縮成型時の歪みが緩和され、0.6以下のKAM値が得られることが確認された。また、KAM値が0.6以下である試料6~試料16においては、保磁力が730以下であり、試料1~試料5と比べて保磁力が小さいことが確認された。このため、試料6~試料16においては、磁気損失(ヒステリシス損失)を小さくすることができる。
【0103】
試料6~試料16について、JIS-K6911に準じて体積抵抗率を測定した。具体的には、各試料の対向する2つの面にAu膜を形成し、このAu膜を電極として、該電極間に電界強度が60V/cmとなるように電圧を印加して抵抗値を測定し、該抵抗値から体積抵抗率を算出した。試料6~試料16のいずれにおいても、105Ω・cm以上の高い体積抵抗率を有していた。試料6~試料7及び試料9~試料16については、107Ω・cm以上の特に高い体積抵抗率を有することが確認された。比較のために、Alを含有しない原料粉(Fe:94wt%。Si:6wt%)を用いて試料6と同様の方法で作製した磁性基体について体積抵抗率を測定したところ、102Ω・cm程度で低かった。この結果から、原料粉に、酸化されやすいAlを含有させることにより、軟磁性金属粒子の充填率を高くすることで原料粉表面への酸素の供給量が低くなった場合であっても、軟磁性金属粒子の表面をAlの酸化物で覆うことで、高い絶縁性を有する磁性基体が得られることが分かった。
【0104】
本明細書で説明された実施形態において、磁性基体10に含まれる軟磁性金属粒子は、95wt%以上のFeを含有しているから、軟磁性金属粒子に含まれる高濃度のFeにより、高い透磁率及び直流重畳特性を呈する磁性基体10が得られる。また、磁性基体10において、軟磁性金属粒子の充填率が85%以上であるから、磁性基体10は高い透磁率を有する。このように、磁性基体10は、優れた磁気特性を有する。
【0105】
本明細書で説明された実施形態に係る磁性基体10においては、軟磁性金属粒子の充填率が85%以上であるため、原料粉の加熱時に、原料粉の表面への酸素の供給量が制限される。このため、製造工程において原料粉に含まれるFeの酸化が抑制されるので、磁性基体10に含有される軟磁性金属粒子に、95wt%以上のFeを含有させることができる。
【0106】
また、軟磁性金属粒子の原料粉には、Alが含有されているから、原料粉の表面に供給される酸素量が少なくても、軟磁性金属粒子の表面をAlの酸化物を主成分とする絶縁性の酸化膜で覆うことができ、これにより磁性基体10は優れた絶縁性を有する。
【0107】
以上のとおり、本明細書に記載された実施形態によれば、絶縁性及び磁気特性に優れた磁性基体10が得られる。以上の説明は、磁性基体110及び磁性基体210にも当てはまる。
【0108】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0109】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0110】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0111】
本明細書では、以下の各項の技術も開示される。
[付記1]
85%以上の充填率で充填されており、KAM値が0.6以下であり、95wt%以上のFeと、Siと、Alと、を含有する複数の軟磁性金属粒子と、
前記複数の軟磁性金属粒子の各々の表面を覆い、Siの酸化物及びAlの酸化物を含有する複数の絶縁膜と、
を備える磁性基体。
[付記2]
前記軟磁性金属粒子は、Mgを含有する、
[付記1]に記載の磁性基体。
[付記3]
前記軟磁性金属粒子は、Crを含有し、
前記絶縁膜は、クロマイトを含有する、
[付記1]又は[付記2]に記載の磁性基体。
[付記4]
前記軟磁性金属粒の充填率は、86%以下である、
[付記1]から[付記3]のいずれか1項に記載の磁性基体。
[付記5]
[付記1]から[付記4]のいずれか1項に記載の磁性基体と、
前記磁性基体に備えられるコイル導体と、
を備えるコイル部品。
[付記6]
[付記5]に記載のコイル部品を含む、回路基板。
[付記7]
[付記6]に記載の回路基板を含む、電子部品。
[付記8]
95wt%以上のFeと、Siと、Alと、を含有する複数の軟磁性金属粉を85%以上の充填率で含む成形体を得る形成工程と、
前記成形体を、5~10ppmの第1酸素濃度において590~900℃で加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程において加熱された前記成形体を、5~10ppmの第1酸素濃度において550~900℃で加熱する第2加熱工程と、
を備える、磁性基体の製造方法。
【符号の説明】
【0112】
1 コイル部品
10、110、210 磁性基体
21、22 外部電極
30a 第1軟磁性金属粒子
30b 第2軟磁性金属粒子
30c 第3軟磁性金属粒子
40a、40b、40c 絶縁膜
41a、41b、41c 第1酸化物領域
42a、42b、42c 第2酸化物領域
43a、43b、43c、43d 第3酸化物領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8