(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145591
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】切削工具ユニット
(51)【国際特許分類】
B23B 27/00 20060101AFI20241004BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23B27/00 D
B23Q17/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058016
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】上條 博喜
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 太郎
【テーマコード(参考)】
3C029
3C046
【Fターム(参考)】
3C029AA01
3C046BB01
(57)【要約】
【課題】制御基板からの熱影響を抑え、センサの検出感度、および工作精度を確保することができる切削工具ユニットを提供する。
【解決手段】切削工具ユニットは、切削工具と、切削工具に取り付けられるホルダと、を備え、切削工具は、工具軸に沿った軸方向の一方側の先端部に台座を有する工具本体と、台座に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、工具本体に備えられ、物理量を検出するセンサと、センサで検出されたアナログ電気信号をデジタル電気信号に変換するADコンバータと、を備え、ホルダは、ホルダ本体と、ホルダ本体に設けられ、ADコンバータに接続配線を介して接続された制御基板と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具と、前記切削工具に取り付けられる工具付属物と、を備え、
前記切削工具は、
工具軸に沿って延び、前記工具軸に沿った軸方向の一方側の先端部に台座を有する工具本体と、
前記台座に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、
前記工具本体に備えられ、物理量を検出するセンサと、
前記センサで検出されたアナログ電気信号をデジタル電気信号に変換するADコンバータと、
を備え、
前記工具付属物は、
付属物本体と、
前記付属物本体に設けられ、前記ADコンバータに接続配線を介して接続された制御基板と、を備える、
切削工具ユニット。
【請求項2】
前記制御基板は、
前記センサの動作を制御する制御信号を、前記接続配線を介して前記センサに出力する制御モジュール、をさらに備える、
請求項1に記載の切削工具ユニット。
【請求項3】
前記制御基板は、
前記ADコンバータから前記接続配線を介して入力される前記デジタル電気信号に基づいて、前記センサにおける検出信号を外部に送信する無線通信モジュール、をさらに備える、
請求項1または2に記載の切削工具ユニット。
【請求項4】
前記工具付属物は、前記制御基板および前記センサに電力を供給するバッテリーをさらに含む、
請求項1または2に記載の切削工具ユニット。
【請求項5】
前記制御基板は、発熱性素子を備える、
請求項1または2に記載の切削工具ユニット。
【請求項6】
前記ADコンバータは、金属製の前記切削工具の内部に形成された収容孔に収容される、
請求項1または2に記載の切削工具ユニット。
【請求項7】
前記工具付属物は、前記切削工具を保持し、工作機械に装着されるホルダである、
請求項1または2に記載の切削工具ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤やマシニングセンター等の工作機械においては、切削工具の切刃の状態等を確認するため、センサ等の電子部品を切削工具に備えることがある。特許文献1では、切削チップが設置される本体部と、本体部に配置されたセンサと、本体部に配置され、センサと電気的に接続された基板と、本体部内に配置された電池と、を含む構成が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成において、本体部に配置された基板に、発熱性の素子が実装される場合、素子が発する熱が、基板を介して本体部に伝達される。その結果、センサにおける検出感度に影響を受ける可能性がある。また、本体部や切刃が熱膨張し、工作精度に影響を及ぼす可能性もある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、制御基板からの熱影響を抑え、センサの検出感度、および工作精度を確保することができる切削工具ユニットを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削工具ユニットの一つの態様は、切削工具と、前記切削工具に取り付けられる工具付属物と、を備え、前記切削工具は、工具軸に沿って延び、前記工具軸に沿った軸方向の一方側の先端部に台座を有する工具本体と、前記台座に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、前記工具本体に備えられ、物理量を検出するセンサと、前記センサで検出されたアナログ電気信号をデジタル電気信号に変換するADコンバータと、を備え、前記工具付属物は、付属物本体と、前記付属物本体に設けられ、前記ADコンバータに接続配線を介して接続された制御基板と、を備える。
【0007】
本発明の切削工具ユニットの一つの態様によれば、制御基板が、切削工具に取り付けられる工具付属物の付属物本体に設けられる。これにより、制御基板が備える素子が発熱した場合であっても、その熱が切削工具に伝達されるのを抑えることができる。したがって、センサにおける検出感度が影響を受けたり、工具本体や切削インサートが熱膨張するのを抑えることができる。その結果、制御基板からの熱影響を抑え、センサの検出感度、および工作精度を確保することができる。
また、ADコンバータが、切削工具に備えられ、ADコンバータと制御基板とは接続配線を介して接続される。これにより、ADコンバータで変換されたデジタル電気信号が、接続配線を介して制御信号に送信される。外部からのノイズの影響を受けやすいアナログ信号は、センサから、切削工具に備えられたADコンバータまでの短い区間でのみ伝達される。したがって、ノイズの影響を抑え、センサで高い感度での物理量の検出を行える。
【0008】
上記切削工具ユニットにおいて、前記制御基板は、前記センサの動作を制御する制御信号を、前記接続配線を介して前記センサに出力する制御モジュール、をさらに備えてもよい。
【0009】
この場合、制御基板が、センサの動作を制御する制御モジュールを備える。これにより、切削工具ユニット自体で、センサの動作を制御することができる。したがって、工作機械側で、センサの動作を制御するためのプログラム等を備える必要がなくなる。その結果、切削工具を用いた加工を行うに先立ち、工作機械側で、用いる切削工具に応じたプログラムの設定等を事前に行う必要がなく、手間が軽減される。
【0010】
上記切削工具ユニットにおいて、前記制御基板は、前記ADコンバータから前記接続配線を介して入力される前記デジタル電気信号に基づいて、前記センサにおける検出信号を外部に送信する無線通信モジュール、をさらに備えてもよい。
【0011】
この場合、無線通信モジュールが、切削工具に取り付けられる工具付属物の付属物本体に設けられる。これにより、切削工具を形成する金属によって、無線通信が悪影響を受けるのを抑えることができる。
【0012】
上記切削工具ユニットにおいて、前記工具付属物は、前記制御基板および前記センサに電力を供給するバッテリーをさらに含むようにしてもよい。
【0013】
この場合、工具付属物にバッテリーを備えることで、外部からの電力供給を受けることなく、制御基板やセンサに電力を供給することができる。したがって、外部からの電力供給を受けるための電源配線も不要となる。
【0014】
上記切削工具ユニットにおいて、前記制御基板は、発熱性素子を備えてもよい。
【0015】
この場合、発熱性素子を備える制御基板で発する熱が、切削工具に伝達されるのを抑えることができる。
【0016】
上記切削工具ユニットにおいて、前記ADコンバータは、金属製の前記切削工具の内部に形成された収容孔に収容されていてもよい。
【0017】
この場合、ADコンバータを、金属製の切削工具の内部の収容孔に収容することで、センサから出力されるアナログ信号へのノイズの影響を、より有効に抑えることができる。
【0018】
上記切削工具ユニットにおいて、前記工具付属物は、前記切削工具を保持し、工作機械に装着されるホルダであってもよい。
【0019】
この場合、切削工具を保持するホルダに、制御基板を設けることで、制御基板からの熱影響を抑え、センサの検出感度、および工作精度を確保することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一つの態様の切削工具ユニットによれば、制御基板からの熱影響を抑え、センサの検出感度、および工作精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態の旋削工具ユニット(切削工具ユニット)の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の旋削工具(切削工具)のヘッド部の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の旋削工具(切削工具)の側断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態の旋削工具(切削工具)に備えた制御基板を示す図であり、
図3のI-I矢視断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態の変形例における旋削工具ユニット(切削工具ユニット)の側面図である。
【
図6】本発明の一実施形態の他の変形例における旋削工具ユニット(切削工具ユニット)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る旋削工具1について説明する。以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0023】
<旋削工具ユニット>
図1は、本発明の一実施形態の旋削工具ユニット(切削工具ユニット)200Aの斜視図である。
図2は、旋削工具(切削工具)1のヘッド部22の斜視図である。
図3は、旋削工具1の側断面図である。
図1~
図3に示すように、本実施形態の旋削工具ユニット200Aは、旋削工具1と、旋削工具1に取り付けられるホルダ(工具付属物)210と、を備える。
【0024】
<旋削工具>
本実施形態の旋削工具1は、主軸回りに回転させられる金属材料等の被削材100に対して、中ぐり加工等の旋削加工を施す。旋削工具1の基端部は、ホルダ210に着脱可能に保持される。実施形態の旋削工具1は、金属製で、工具本体2と、切削インサート4と、ヘッドユニット7と、を備える。
【0025】
工具本体2は、工具軸Jに沿った軸方向Djに延びる。工具本体2は、工具軸Jを中心とする円柱状のシャンク部21と、シャンク部21に対して工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1に設けられたヘッド部22と、を有する。
【0026】
ヘッド部22は、シャンク部21の外周面から軸方向Djに交差する工具本体2の径方向Drの外側に突出する突出部23を有する。突出部23には、台座23dが設けられる。台座23dには、カートリッジ41が取り付けられる。カートリッジ41は、切削インサート4を保持する。台座23d、およびカートリッジ41に取り付けられる切削インサート4は、工具本体2において、工具軸Jに対して径方向Drの第一側Dr1に配置される。なお、切削インサート4は、台座23dに直接的に取り付けられていてもよい。
【0027】
切削インサート4は、厚さ方向から見てひし形形状である。切削インサート4は、厚さ方向を向く平面視ひし形形状の一対の主面と、一対の主面同士を繋ぐ側面とを有する。切削インサート4の主面と側面との間の稜線には、切刃42が設けられる。切刃42は、工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1の先端部に設けられる。切刃42の一部は、工具本体2から軸方向Djの一方側Dj1に突出する。また、切刃42は、工具本体2の径方向Drの外側に突出する。したがって、切刃42の一部は、工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1の最先端、および径方向Drの最外端に位置する。
【0028】
本実施形態によれば、切削インサート4は、カートリッジ41を介して工具本体2に固定される。このため、カートリッジ41を付け替えることで、様々な形状の切削インサート4を工具本体2に固定することができ、工具本体2の汎用性が高まる。
【0029】
ヘッドユニット7は、ヘッド部22に設けられる。
図3に示すように、ヘッドユニット7は、ホルダ部材70と、基台部材77と、センサ装置3と、撮像装置5と、照明装置6と、を備える。ヘッドユニット7は、工具本体2において、工具軸Jに対して径方向Drの第二側Dr2に配置される。つまり、ヘッドユニット7は、工具本体2の径方向Drにおいて、台座23d、および台座23dに取り付けられる切削インサート4とは工具軸Jを挟んで反対側に配置される。ヘッドユニット7は、工具本体2の取付部25に着脱可能に取り付けられる。
【0030】
図2に示すように、取付部25は、ヘッド部22の軸方向Djの一方側Dj1に設けられる。取付部25は、工具本体2の径方向Drの外側(第二側Dr2)を向く第一面22aに形成される。取付部25は、第一面22aから径方向Drの内側に窪んで形成される。取付部25は、底面25bと、一対の側壁面25sと、本体端面25tと、を有する。
【0031】
底面25bは、工具本体2の径方向Drの外側(第二側Dr2)を向く平坦面である。底面25bは、第一面22aよりも径方向Drの内側に位置する。
一対の側壁面25sは、工具本体2の一部を形成する、一対の壁部2wに形成される。一対の壁部2wは、底面25bにおいて、軸方向Djおよび径方向Drに交差する取付部25の幅方向Dwの両側から径方向Drの外側に立ち上がる。一対の側壁面25sは、一対の壁部2wの各々において、幅方向Dwの内側を向く平坦面である。
【0032】
図2、
図3に示すように、本体端面25tは、ヘッド部22の軸方向Djの一方側Dj1の先端22sから、軸方向Djの他方側Dj2に所定寸法離れた位置に形成される。本体端面25tは、底面25bに対し、軸方向Djの他方側Dj2に形成される。本体端面25tは、一対の側壁面25sにおいて、軸方向Djの他方側Dj2の端部同士を接続する。本体端面25tは、軸方向Djの一方側Dj1を向く平坦面である。
【0033】
図3に示すように、工具本体2の内部には、収容孔27が形成される。収容孔27は、工具本体2内で軸方向Djに延びる。収容孔27は、本体端面25tよりも軸方向Djの一方側Dj1に延びる。収容孔27は、一対の側壁面25sの間において、底面25bの軸方向Djの他方側Dj2の一部で、径方向Drの外側に向かって開口している。また、収容孔27は、本体端面25tの径方向Drの第一側Dr1の一部で、軸方向Djの一方側Dj1に向かって開口している。
【0034】
ホルダ部材70は、工具本体2の一部に形成された取付部25を覆うように設けられる。ホルダ部材70は、工具本体2に着脱可能に取り付けられる。ホルダ部材70は、外周壁部71と、筒状壁部72と、を一体に有する。
【0035】
外周壁部71は、工具本体2の径方向Drの外側(第二側Dr2)を向く。外周壁部71は、一対の壁部2wの間を塞ぎ、工具本体2の外周面の一部を形成する。外周壁部71は、径方向Drの第二側Dr2から見た際に、長方形状をなす。
【0036】
筒状壁部72は、外周壁部71の外周縁部から、径方向Drの第一側Dr1に延びる。筒状壁部72の径方向Drの第一側Dr1の先端面は、取付部25の底面25bに対向する。筒状壁部72は、径方向Drの第一側Dr1から見た際に、長方形状をなす。
【0037】
ホルダ部材70は、筒状壁部72の内側に、凹部70sを有する。凹部70sは、外周壁部71と筒状壁部72とに囲まれて形成される。凹部70sは、径方向Drの第一側Dr1に開口する。凹部70sは、筒状壁部72の先端面から径方向Drの第二側Dr2に窪む。
【0038】
基台部材77は、取付部25の底面25bに沿って、底面25bと平行に設けられる。基台部材77は、径方向Drに交差する板状である。基台部材77は、後述するカメラ51、および照明装置6が固定される。基台部材77は、ホルダ部材70の筒状壁部72の内側で、外周壁部71に接触する。基台部材77は、ビス(図示なし)を外周壁部71に締結することで、ホルダ部材70に取り付けられる。
【0039】
センサ装置3は、第1の距離センサ(センサ)31と、第2の距離センサ(センサ)32と、を備える。第1の距離センサ31、第2の距離センサ32は、本実施形態では、物理量として、切削インサート4を用いて加工した加工面100fまでの距離を測定する。本実施形態において、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、渦電流センサである。
【0040】
図2、
図3に示すように、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、それぞれの先端31a、32aを測定対象に対向させる。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、その内部に高周波電流を流すことで高周波磁界を発生させる。これにより、導電体である測定対象物の表面(加工面100f)に渦電流が流れ、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の内部のコイルにインピーダンスが変化する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、このインピーダンスの変化から測定対象との距離を判定する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、インピーダンスの変化を電圧(単位はV)として出力する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の出力値は、予め算出した較正式を用いて測定対象との距離に変換される。なお、渦電流センサは、周囲環境などの外乱に対して測定精度が安定し易い。このため、渦電流センサは、ウェット加工とドライ加工との何れを選択するかに関わらず、光学式の距離センサなどと比較して、切削加工後の外乱の多い環境での距離測定に適している。
【0041】
第1の距離センサ31の先端31aは、工具本体2の外周面から径方向Drの外側を向いて配置される。第1の距離センサ31は、工具本体2の径方向Drの外側に配置される測定対象物までの距離を測定する。すなわち、第1の距離センサ31は、径方向Drの外側を測定方向とする。第1の距離センサ31は、切削インサート4により加工した、径方向Drの内側を向く加工面100fまでの距離を測定する。
【0042】
第2の距離センサ32の先端32aは、工具本体2のヘッド部22の先端22sから軸方向Djの一方側Dj1を向いて配置される。第2の距離センサ32は、工具本体2の軸方向Djの一方側Dj1に配置される測定対象物までの距離を測定する。すなわち、第2の距離センサ32は、軸方向Djの一方側Dj1を測定方向とする。第2の距離センサ32は、切削インサート4により加工した、軸方向Djの他方側Dj2を向く加工面100fまでの距離を測定する。
【0043】
第1の距離センサ31、第2の距離センサ32は、旋削工具1が加工面100fを形成した後、加工面100fを測定する際に用いられる。第1の距離センサ31、第2の距離センサ32は、工具本体2に設けられるので、旋削工具1を被削材100から一旦離間させることなく、切削加工後の加工面100fを測定することができる。旋削加工において加工面100fの測定に要する時間を短くすることができる。また、第1の距離センサ31を用いて、切削インサート4により加工した径方向Drの内側を向く加工面100fまでの距離を測定でき、第2の距離センサ32を用いて、切削インサート4により加工した軸方向Djの他方側Dj2を向く加工面100fまでの距離を測定することができる。すなわち、寸法測定時に、被削材100の向きを変えることなく、異なる方向を向く面の寸法測定を行うことができ、測定工程に要する時間をさらに短くすることができる。なお、第1の距離センサ31によって、切削インサート4で加工された外径、内径、および真円度などを測定できる。また、第2の距離センサ32によって、切削インサート4で段部、および孔底部の軸方向位置などを測定できる。
【0044】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、ホルダ部材70によって保持される。第1の距離センサ31は、外周壁部71を径方向Drに貫通し、先端31aを、外周壁部71において径方向Drの第二側Dr2を向けて露出させる。第2の距離センサ32は、筒状壁部72を軸方向Djに貫通し、先端32aを、軸方向Djの一方側Dj1に向けて露出させる。
【0045】
図3に示すように、第1の距離センサ31のケーブル31c、第2の距離センサ32のケーブル32cは、基台部材77と取付部25の底面25bとの間を通って軸方向Djの他方側Dj2に延びる。ケーブル31c、32cは、底面25bに対して軸方向Djの他方側Dj2で径方向Drの外側に向かって開口する収容孔27内に導かれる。
【0046】
収容孔27には、内部基板120が収容される。内部基板120は、収容孔27内に収容されたフレキシブル基板121と、フレキシブル基板121に実装されたADコンバータ125と、を備える。
ケーブル31c、32cは、収容孔27内に収容されたフレキシブル基板121に接続される。ケーブル31c、32cは、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32で検出されたアナログ電気信号を、フレキシブル基板121を介してADコンバータ125に伝送する。ADコンバータ125は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32で検出されたアナログ電気信号をデジタル電気信号に変換する。フレキシブル基板121の軸方向Djの他方側Dj2の端部には、接続配線250が接続される。ADコンバータ125は、変換したデジタル電気信号を、フレキシブル基板121、および接続配線250を通して、後述する制御ユニット220へと出力する。
また、フレキシブル基板121には、カメラ51との間で信号のやりとりを行うカメラインターフェイス(図示なし)等が設けられる。
【0047】
撮像装置5は、工具本体2のヘッドユニット7に設けられる。撮像装置5は、センサ装置3に対し、軸方向Djの他方側Dj2に配置される。撮像装置5は、カメラ51と、レンズカバー53と、を備える。
【0048】
カメラ51は、例えば、防水型のCMOSイメージセンサーやCCDイメージセンサーである。カメラ51は、基台部材77に固定される。カメラ51は、撮影対象を向くレンズ部を有する。レンズ部は、カメラ51に内蔵されたレンズ(図示省略)を有する。カメラ51は、レンズ部を径方向Drの外側に向けて配置される。
【0049】
ホルダ部材70の外周壁部71には、カメラ開口76が形成される。カメラ開口76は、外周壁部71を径方向Drに貫通する。カメラ開口76は、カメラ51のレンズ部に対して径方向Drで対向する位置に形成される。これにより、カメラ51は、カメラ開口76を通して、工具本体2の径方向Drの外側を撮影可能となるよう配置される。カメラ51は、切削インサート4により切削加工された被削材100の、径方向Drの内側を向く加工面100f、いわゆる内径面を撮影する。
【0050】
カメラ51は、台座23dに取り付けられる切削インサート4に対し、軸方向Djの他方側Dj2に配置される。ただし、カメラ51は、軸方向Djにおいて、切削インサート4による加工面100fの加工位置になるべく近い位置に配置するのが好ましい。これにより、加工後の加工面100fの状態を、より近い位置で撮影することができる。また、例えば、センサ装置3が、上記とは異なる位置に配置される場合、カメラ51は、切削インサート4に対して軸方向Djで同位置に配置してもよい。これにより、切削インサート4によって切削加工中、または切削加工後の加工面100fを、より近い位置から撮影する。
【0051】
レンズカバー53は、カメラ51のレンズ部を覆う。レンズカバー53は、径方向Drに交差する面に沿った板状である。レンズカバー53は、光を透過する樹脂材料、ガラス材料等から形成される。
【0052】
カメラ51は、ケーブル52を有する。ケーブル52の一端は、カメラ51に接続される。ケーブル52は、基台部材77に形成されたケーブル挿通孔77hを通して、基台部材77に対して径方向Drの第一側Dr1に案内される。ケーブル52は、基台部材77と取付部25の底面25bとの間を通り、収容孔27内に導かれる。ケーブル52は、収容孔27を通して、シャンク部21内で軸方向Djの他方側Dj2に延び、フレキシブル基板121に接続される。
【0053】
照明装置6は、工具本体2のヘッドユニット7に設けられる。照明装置6は、撮像装置5のカメラ51に対し、軸方向Djの他方側Dj2に配置される。照明装置6は、カメラ51により撮影される加工面100fを照らす。これにより、撮像装置5のカメラ51は、軸方向Djにおいて、センサ装置3の第1の距離センサ31、第2の距離センサ32と、照明装置6との間に配置される。照明装置6は、光源61を備える。
【0054】
光源61は、例えばLED等の発光素子である。光源61は、基台部材77に固定される。
図2に示すように、ホルダ部材70の外周壁部71には、傾斜部71kが形成される。傾斜部71kは、カメラ開口76に対して軸方向Djの他方側Dj2に形成される。傾斜部71kは、カメラ開口76の外周部から軸方向Djの他方側Dj2に向かって径方向Drの第一側Dr1に傾斜して延びる。これにより、外周壁部71の外周面と傾斜部71kの先端との間に、軸方向Djの一方側Dj1を向く段差面71dが形成される。段差面71dには、光源61の一部が露出する光源開口79が形成される。
【0055】
光源61からの照明光は、光源開口79を通して、軸方向Djの一方側Dj1に照射される。光源61からの照明光は、傾斜部71kの表面で反射し、径方向Drの外側の加工面100fに照射される。
【0056】
<ホルダ>
図1に示すように、上記旋削工具1のシャンク部21は、ホルダ210のホルダ本体211に保持される。ホルダ210は、ホルダ本体(付属物本体)211と、制御ユニット220と、を備える。
ホルダ本体211は、軸方向Djに延びる筒状をなし、その内側に収容穴211hが形成される。シャンク部21は、収容穴211hに挿入される。シャンク部21は、ホルダ本体211に、複数本の止めネジ212によって固定される。
【0057】
制御ユニット220は、箱状のケーシング221と、制御基板222と、制御基板222、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、および光源61に電力を供給するバッテリー224と、を備える。
ケーシング221は、ホルダ本体211に一体に固定される。本実施形態において、ケーシング221は、ホルダ本体211に対して径方向Drの第二側Dr2に設けられる。ケーシング221は、ホルダ本体211に固定されたケーシング本体221aと、蓋体221bと、を有する。ケーシング本体221aは、径方向Drの第二側Dr2に向けて開口している。蓋体221bは、ケーシング本体221aの開口を閉塞する。
【0058】
図3に示すように、制御基板222、およびバッテリー224は、ケーシング221内に収容される。ケーシング221は、後述する無線通信モジュール227によって無線通信を行うため、樹脂等で形成するのが好ましい。
【0059】
図4は、制御基板222を示す平面図である。
図3、
図4に示すように、制御基板222は、いわゆるシングルボードコンピュータである。制御基板222は、基板本体225と、制御モジュール226と、無線通信モジュール227(
図4参照)と、を主に備える。制御基板222には、電源スイッチ229(
図4参照)が接続される。また、制御基板222は、バッテリー224から供給される電力を、接続配線250を介して第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61に供給する。
【0060】
基板本体225は、表面に所定の配線パターンが形成されたプリント基板である。
図3に示すように、基板本体225は、接続配線250を介して、内部基板120に接続される。接続配線250は、ケーシング本体221aの底部、およびホルダ本体211を径方向Drに貫通して設けられる。制御モジュール226、および無線通信モジュール227は、基板本体225上に実装される。また、電源スイッチ229は、基板本体225にケーブルなどを介して接続される。
【0061】
制御モジュール226は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を備える。CPUを備える制御モジュール226は、その動作時に熱を発する発熱性素子である。
制御モジュール226のメモリ(図示なし)には、予め第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の動作を制御するための制御プログラムが記憶される。制御モジュール226は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の動作を制御する制御信号を、接続配線250、および内部基板120上の回路を介して第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61に出力する。制御モジュール226は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32からADコンバータ125を介して出力されるデジタル信号に基づいて、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32における検出結果(距離)を示す検出信号を、無線通信モジュール227を介して外部に出力する。制御モジュール226は、カメラ51で撮影され、接続配線250を介して受け取った画像データを、無線通信モジュール227を介して外部に出力する。
【0062】
無線通信モジュール227は、外部との無線通信が可能である。無線通信モジュール227は、無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、BLUETOOTH(登録商標)等の無線通信網を介し、例えば工作機械側に備えられた外部の制御装置と無線通信可能である。無線通信モジュール227は、外部から第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の作動を制御するための制御信号の受信、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32における検出信号、カメラ51で撮影した画像データ等の送信、を行う。
【0063】
電源スイッチ229は、バッテリー224から制御基板222への電力供給を断続する。電源スイッチ229の一部は、ケーシング本体221aの側面からケーシング221の外部に露出して設けられ、ケーシング221の外部から操作可能とされる。
【0064】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の旋削工具1によれば、制御基板222が、旋削工具1に取り付けられるホルダ210のホルダ本体211に設けられる。これにより、制御基板222が発熱した場合であっても、その熱が旋削工具1に伝達されるのを抑えることができる。したがって、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32における検出感度が影響を受けたり、工具本体2や切削インサート4が熱膨張するのを抑えることができる。その結果、制御基板222からの熱影響を抑え、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の検出感度、および工作精度を確保することができる。
また、ADコンバータ125が、旋削工具1に備えられ、ADコンバータ125と制御基板222とは接続配線250を介して接続される。これにより、ADコンバータ125で変換されたデジタル電気信号が、接続配線250を介して制御基板222に送信される。外部からのノイズの影響を受けやすいアナログ信号は、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から、旋削工具1に備えられたADコンバータ125までの短い区間でのみ伝達される。したがって、ノイズの影響を抑え、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32で高い感度での物理量の検出を行える。
【0065】
また本実施形態では、制御基板222が、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の動作を制御する制御モジュール226を備える。これにより、旋削工具ユニット200A自体で、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の動作を制御することができる。したがって、工作機械側で、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61の動作を制御するためのプログラム等を備える必要がなくなる。その結果、旋削工具1を用いた加工を行うに先立ち、工作機械側で、用いる旋削工具1に応じたプログラムの設定等を事前に行う必要がなく、手間が軽減される。
【0066】
また本実施形態では、無線通信モジュール227が、旋削工具1に取り付けられるホルダ210のホルダ本体211に設けられる。これにより、旋削工具1を形成する金属によって、無線通信が悪影響を受けるのを抑えることができる。
【0067】
また本実施形態では、ホルダ210にバッテリー224を備えることで、外部からの電力供給を受けることなく、制御基板222や第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、カメラ51、光源61に電力を供給することができる。したがって、外部からの電力供給を受けるための配線も不要となる。
【0068】
また本実施形態では、制御基板222は、発熱性素子を備える。この場合、発熱性素子を備える制御基板222で発する熱が、旋削工具1に伝達されるのを抑えることができる。
【0069】
また本実施形態では、ADコンバータ125を、金属製の旋削工具1の内部の収容孔27に収容することで、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32から出力されるアナログ信号へのノイズの影響を、より有効に抑えることができる。
【0070】
また本実施形態では、旋削工具1を保持するホルダ210に、制御基板222を設けることで、制御基板222からの熱影響を抑え、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32の検出感度、および工作精度を確保することができる。
【0071】
(実施形態の変形例)
なお、上記実施形態において、旋削工具1に取り付けられる工具付属物として、ホルダ210を例示したが、これに限られない。
例えば、
図5に示すように、旋削工具ユニット(切削工具ユニット)200Bは、旋削工具1と、旋削工具1に取り付けられるホルダ(工具付属物)280と、を備える。ホルダ280は、工作機械400に装着される。本変形例において、工作機械400は、円筒状のタレット402を備える。タレット402は、その中心軸回りに回転可能とされる。ホルダ280は、タレット402の外周部に、周方向に間隔をあけて複数装着される。工作機械400は、タレット402を回転させることで、複数のホルダ280に保持された旋削工具1の一つを適宜選択して被削材100に対向する位置に移動させ、被削材100の切削加工を行う。
ホルダ280は、ホルダ本体(付属物本体)281と、制御ユニット220と、を備える。
ホルダ本体281は、工具保持部281aと、ベース部281bと、を一体に備える。工具保持部281aは、軸方向Djに延びる孔であり、シャンク部21が挿通される。ベース部281bは、タレット402に、不図示のボルトによって締結固定される。
【0072】
また、上記実施形態、および変形例の旋削工具ユニット200A、200Bでは、制御基板222を、旋削工具1を工作機械に取り付ける際に用いるホルダ210、280に備えるようにしたが、これに限られない。
例えば、
図6に示すように、旋削工具ユニット(切削工具ユニット)200Cは、旋削工具1と、旋削工具1に取り付けられる工具付属物300と、を備える。工具付属物300は、ケース(付属物本体)310を備える。ケース310は、工具本体2において、軸方向Djの他方側Dj2の端部に接続される。このケース310内には、上記実施形態で示したような制御基板222、バッテリー224等が収容される。ケース310内の制御基板222は、収容孔27内の内部基板120(ADコンバータ125)に、接続配線250を介して接続される。
【0073】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0074】
例えば、上述の実施径形態では、切削工具ユニットに含まれる切削工具の例として、被削材を回転させて切削を行う旋削工具を採用する場合について説明した。しかしながら、旋削工具は切削インサートを被削材に押し当てて切削加工を施すものであれば、本実施形態の旋削工具に限定されない。切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、フライス盤のような自身が回転する回転工具であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…旋削工具(切削工具)
2…工具本体
4…切削インサート
23d…台座
27…収容孔
31…第1の距離センサ(センサ)
32…第2の距離センサ(センサ)
125…ADコンバータ
100…被削材
200A~200C…旋削工具ユニット(切削工具ユニット)
210…ホルダ(工具付属物)
211…ホルダ本体(付属物本体)
222…制御基板
224…バッテリー
226…制御モジュール
227…無線通信モジュール
250…接続配線
280…ホルダ(工具付属物)
281…ホルダ本体(付属物本体)
300…工具付属物
310…ケース(付属物本体)
400…工作機械
Dj…軸方向
Dj1…一方側
Dj2…他方側
Dr…径方向
Dw…幅方向
J…工具軸