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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145592
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20241004BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241004BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B27/14 C
B23B27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058022
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】飯島 周平
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046CC03
3C046HH04
3C046JJ02
3C046JJ13
(57)【要約】
【課題】切屑を安定して曲折させて分断でき、切込み量が小さい場合でも切屑が長く伸びるのを抑えて、切屑処理性を安定して高めることができる切削工具を提供する。
【解決手段】切刃3は、チャンファホーニング面31を有し、チップブレーカ4は、ブレーカ底面42と、ブレーカ底面42との接続部分から後側へ向かうに従い上側に向けて傾斜するブレーカ壁面41と、を有し、ブレーカ底面42は、チャンファホーニング面31と逃げ面2とが接続される稜線32よりも下側に配置され、ブレーカ壁面41は、前側へ突出する凸状をなす第1壁面43と、第1壁面43との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い前側に延びる第2壁面44と、第2壁面44との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い後側に延びる第3壁面45と、を有し、第3壁面45の左右方向の外側の端部は、チャンファホーニング面31に隣接して配置される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
すくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面とが接続される稜線部に配置され、前記すくい面を正面に見た平面視でV字状をなす切刃と、
前記平面視で前記すくい面の内側に配置されるチップブレーカと、を備え、
前記平面視において前記切刃がなす角の2等分線が延びる方向を前後方向とし、前記平面視において前記2等分線と直交する方向を左右方向とし、前後方向及び左右方向と直交する方向を上下方向として、
前記切刃は、前記切刃に沿って延びるチャンファホーニング面を有し、
前記すくい面は、
前記チャンファホーニング面の後端部に接続される第1すくい面と、
前記第1すくい面の後端部に接続され、前記第1すくい面よりもすくい角が正角側に大きくされた第2すくい面と、を有し、
前記チップブレーカは、
前記第2すくい面の後端部に接続されるブレーカ底面と、
前記ブレーカ底面の後端部に接続され、前記ブレーカ底面との接続部分から後側へ向かうに従い上側に向けて傾斜するブレーカ壁面と、を有し、
前記ブレーカ底面は、前記チャンファホーニング面と前記逃げ面とが接続される稜線よりも下側に配置されており、
前記ブレーカ壁面は、
前記2等分線上に位置し、上下方向と垂直な断面の形状が前側へ突出する凸状をなす第1壁面と、
前記第1壁面の左右方向の外側の端部に接続され、前記第1壁面との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い前側に延びる第2壁面と、
前記第2壁面の左右方向の外側の端部に接続され、前記第2壁面との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い後側に延びる第3壁面と、を有し、
前記第3壁面の左右方向の外側の端部は、前記チャンファホーニング面に隣接して配置される、
切削工具。
【請求項2】
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記ブレーカ底面の前後方向の寸法が、前記チャンファホーニング面の前後方向の寸法と同じかそれ以上である、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記チャンファホーニング面と前記第1すくい面との間に形成される角度が、110°以上である、
請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記チャンファホーニング面と前記逃げ面とが接続される前記稜線と、前記ブレーカ底面の前端との間の前後方向の寸法が、0.5mm以下である、
請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記第1すくい面は、後側へ向かうに従い下側に向けて延び、
前記縦断面視において、上下方向と垂直な基準面に対して前記第1すくい面が傾斜する角度が、20°以下である、
請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項6】
前記第1すくい面は、上下方向と垂直な方向に拡がる、
請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項7】
前記すくい面、前記逃げ面、前記切刃及び前記チップブレーカが配置される刃部と、
前記刃部が固定される台金部と、を備え、
前記刃部は、cBN焼結体またはダイヤモンド焼結体により構成される、
請求項1または2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属などの被削材を旋削加工する切削インサート等の切削工具が知られている(例えば、特許文献1)。
切削工具は、すくい面と、逃げ面と、すくい面と逃げ面とが接続される稜線部に配置され、すくい面を正面に見た平面視でV字状をなす切刃と、平面視ですくい面の内側に配置されるチップブレーカと、を備える。チップブレーカが設けられることで、切削時に生じる切屑がカールし折り曲げられ(曲折され)、分断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7003388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切削工具では、チップブレーカによって切屑を安定して曲折させて分断する点において、改善の余地があった。
また、この種の切削工具では、特に切込み量が小さい場合に切屑が分断しにくく、切屑が長く伸びやすい傾向がある。
【0005】
本発明は、切屑を安定して曲折させて分断でき、切込み量が小さい場合でも切屑が長く伸びるのを抑えて、切屑処理性を安定して高めることができる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔本発明の態様1〕
すくい面と、逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面とが接続される稜線部に配置され、前記すくい面を正面に見た平面視でV字状をなす切刃と、前記平面視で前記すくい面の内側に配置されるチップブレーカと、を備え、前記平面視において前記切刃がなす角の2等分線が延びる方向を前後方向とし、前記平面視において前記2等分線と直交する方向を左右方向とし、前後方向及び左右方向と直交する方向を上下方向として、前記切刃は、前記切刃に沿って延びるチャンファホーニング面を有し、前記すくい面は、前記チャンファホーニング面の後端部に接続される第1すくい面と、前記第1すくい面の後端部に接続され、前記第1すくい面よりもすくい角が正角側に大きくされた第2すくい面と、を有し、前記チップブレーカは、前記第2すくい面の後端部に接続されるブレーカ底面と、前記ブレーカ底面の後端部に接続され、前記ブレーカ底面との接続部分から後側へ向かうに従い上側に向けて傾斜するブレーカ壁面と、を有し、前記ブレーカ底面は、前記チャンファホーニング面と前記逃げ面とが接続される稜線よりも下側に配置されており、前記ブレーカ壁面は、前記2等分線上に位置し、上下方向と垂直な断面の形状が前側へ突出する凸状をなす第1壁面と、前記第1壁面の左右方向の外側の端部に接続され、前記第1壁面との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い前側に延びる第2壁面と、前記第2壁面の左右方向の外側の端部に接続され、前記第2壁面との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い後側に延びる第3壁面と、を有し、前記第3壁面の左右方向の外側の端部は、前記チャンファホーニング面に隣接して配置される、切削工具。
【0007】
本発明の切削工具は、例えばターニング(旋削)加工に用いられる刃先交換式バイトの切削インサート等である。この切削工具では、チップブレーカが、ブレーカ底面と、ブレーカ壁面と、を有する。切削時に切刃で生じた切屑は、すくい面上を流れ、ブレーカ底面及びブレーカ壁面に接触させられることで曲折され、分断される。
【0008】
本発明では、ブレーカ底面が、切刃のチャンファホーニング面と逃げ面とが接続される稜線よりも下側に配置されている。したがって、切屑はチップブレーカの深い位置にまで案内された状態で、ブレーカ底面及びブレーカ壁面に接触することとなり、安定してカール及び曲折されて、分断される。
【0009】
また、切削時の切込み量が小さい場合には、切屑が、ブレーカ壁面のうち切刃のチャンファホーニング面に隣接する第3壁面に接触する。これにより、切屑が安定して曲折され、分断される。このため、切込み量が小さい場合においても、切屑が長く伸びるような不具合が抑制される。
【0010】
また、切削時の切込み量が大きい場合には、切屑が、ブレーカ壁面の第1壁面及び第2壁面に接触する。第1壁面と第2壁面との境界部分には谷形状が付与されており、この谷形状に接触した切屑は安定して曲折され、分断される。
【0011】
以上より本発明によれば、切削加工時の切込み量に関わらず、切屑を安定して曲折させて分断することができる。特に、切込み量が小さい場合においても切屑が長く伸びるのを抑えて、切屑処理性を安定して高めることができる。
【0012】
〔本発明の態様2〕
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記ブレーカ底面の前後方向の寸法が、前記チャンファホーニング面の前後方向の寸法と同じかそれ以上である、態様1に記載の切削工具。
【0013】
この場合、ブレーカ底面の前後方向の寸法が従来品に比べて大きく確保されており、ひいてはブレーカ底面の面積が大きく確保されているため、切屑をブレーカ底面に安定して接触させることができる。これにより、切屑処理性がより確実に高められる。
【0014】
〔本発明の態様3〕
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記チャンファホーニング面と前記第1すくい面との間に形成される角度が、110°以上である、態様1または2に記載の切削工具。
【0015】
前記角度が110°以上であれば、チャンファホーニング面と第1すくい面との接続部分(稜線部分)が尖りにくくなり、切屑が擦過してもこの接続部分にクレータ摩耗が生じることを抑制できる。クレータ摩耗の発生が抑えられるため、切屑処理性が変化する(切屑長さが不安定になる)ような不具合が防止される。なお、より好ましくは、前記角度は135°以上である。
【0016】
〔本発明の態様4〕
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記チャンファホーニング面と前記逃げ面とが接続される前記稜線と、前記ブレーカ底面の前端との間の前後方向の寸法が、0.5mm以下である、態様1から3のいずれか1つに記載の切削工具。
【0017】
前記寸法が0.5mm以下であると、切刃からブレーカ底面までの距離が十分に小さくされ、かつブレーカ底面の深さは深く確保されているため、切屑をより確実にカール及び曲折させて、分断することができる。
【0018】
〔本発明の態様5〕
前記2等分線に沿う縦断面視において、前記第1すくい面は、後側へ向かうに従い下側に向けて延び、前記縦断面視において、上下方向と垂直な基準面に対して前記第1すくい面が傾斜する角度が、20°以下である、態様1から4のいずれか1つに記載の切削工具。
【0019】
第1すくい面が基準面に対して傾斜する角度が20°以下であれば、第1すくい面とチャンファホーニング面との接続部分(稜線部分)の角度が十分に大きく確保されるため、この接続部分にクレータ摩耗が生じることを安定して抑制できる。クレータ摩耗の発生が抑えられるため、切屑処理性が変化する(切屑長さが不安定になる)ような不具合が防止される。
【0020】
〔本発明の態様6〕
前記第1すくい面は、上下方向と垂直な方向に拡がる、態様1から5のいずれか1つに記載の切削工具。
【0021】
この場合、第1すくい面とチャンファホーニング面との接続部分(稜線部分)の角度が十分に大きく確保されるため、この接続部分にクレータ摩耗が生じることを安定して抑制できる。クレータ摩耗の発生が抑えられるため、切屑処理性が変化する(切屑長さが不安定になる)ような不具合が防止される。
【0022】
〔本発明の態様7〕
前記すくい面、前記逃げ面、前記切刃及び前記チップブレーカが配置される刃部と、前記刃部が固定される台金部と、を備え、前記刃部は、cBN焼結体またはダイヤモンド焼結体により構成される、態様1から6のいずれか1つに記載の切削工具。
【発明の効果】
【0023】
本発明の前記態様の切削工具によれば、切屑を安定して曲折させて分断でき、切込み量が小さい場合でも切屑が長く伸びるのを抑えて、切屑処理性を安定して高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本実施形態の切削工具を示す斜視図である。
図2図2は、本実施形態の切削工具を示す上面図(平面図)である。
図3図3は、切削工具の刃部を示す斜視図である。
図4図4は、切削工具の刃部を示す上面図(平面図)である。
図5図5は、図4のV-V断面を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態の切削工具10について、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の切削工具10は、切削インサートである。本実施形態の切削工具10は、例えば、金属製等の被削材に旋削加工(切削加工)を施す刃先交換式バイトに用いられる。本実施形態の切削工具10は、特に鉄系材料の被削材を旋削加工するのに適している。
【0026】
特に図示しないが、刃先交換式バイトは、ホルダと、切削工具(切削インサート)10と、締結部材と、を備える。ホルダは、ホルダの先端部に配置される凹状のインサート取付座を有する。切削工具10は、クランプ駒、クランプレバー、クランプネジ等の締結部材により、インサート取付座に着脱可能に取り付けられる。
【0027】
切削工具10は、板状である。本実施形態では切削工具10が、多角形板状であり、具体的には、菱形板状等の四角形板状である。より詳しくは、本実施形態の切削工具10は、例えば、一般的なISO規格に準ずる菱形インサート(切削インサート)である。ただしこれに限らず、切削工具10は、例えば三角形板状、五角形板状、六角形板状などの多角形板状等であってもよい。
【0028】
切削工具10は、インサート中心軸Cを中心とする多角形板状であり、その一対の板面(表面及び裏面)が、インサート中心軸Cが延びる方向(インサート軸方向)を向く。なお、本明細書においては、インサート中心軸Cと直交する方向をインサート径方向と呼び、インサート中心軸C回りに周回する方向をインサート周方向と呼ぶ場合がある。インサート径方向のうち、インサート中心軸Cに近づく方向はインサート径方向の内側であり、インサート中心軸Cから離れる方向はインサート径方向の外側である。
【0029】
切削工具10は、刃部12と、刃部12が固定される台金部11と、を備える。
台金部11は、例えば超硬合金製である。台金部11は、多角形板状をなしており、本実施形態では菱形板状等の四角形板状をなす。台金部11は、刃部取付部11aと、取付孔11bと、を有する。
【0030】
刃部取付部11aは、凹状をなしている。刃部取付部11aは、台金部11の一対の板面(表面及び裏面)のうち一方の板面(表面)、及び外周面から窪む。刃部取付部11aは、台金部11の複数の角部のうち、所定の角部に配置される。図示の例では、刃部取付部11aが、台金部11の4つの角部のうち、2つの鋭角の角部にそれぞれ(つまり一対)設けられる。本実施形態では刃部取付部11aが、三角形凹状をなしている。
【0031】
取付孔11bは、台金部11をインサート軸方向に貫通し、台金部11の一対の板面(表面及び裏面)に開口する。取付孔11bは、インサート中心軸Cを中心とする円孔状である。取付孔11bには、切削工具10をホルダのインサート取付座に固定するための締結部材が挿入される。
【0032】
刃部12は、刃部取付部11aに所定の接合手段などにより固定(接合)される。すなわち、刃部12は、切削工具10の複数の角部のうち、所定の角部に配置される。図示の例では、刃部12が、切削工具10の4つの角部のうち、2つの鋭角の角部にそれぞれ(つまり一対)設けられる。刃部12は、cBN(cubic boron nitride)焼結体またはダイヤモンド焼結体(Polycrystalline diamond,PCD)により構成される。cBN焼結体は、cBNと結合材とを含む焼結体である。ダイヤモンド焼結体は、ダイヤモンドと結合材とを含む焼結体である。
【0033】
刃部12がcBN焼結体製の場合、刃部12のcBN含有量は、例えば20体積%以上80体積%以下である。好ましくは、刃部12のcBN含有量は、40体積%以上である。結合材としては、周期律表の第4、第5、第6族元素の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物及びこれらの固溶体からなる群から選択される少なくとも一種と、アルミニウムの窒化物、硼化物、酸化物及びこれらの固溶体からなる群から選択される少なくとも一種とからなる組成の結合材を用いることができる。
刃部12がダイヤモンド焼結体製の場合、刃部12のダイヤモンド含有量は、例えば80体積%以上である。
【0034】
刃部12は、多角形板状であり、本実施形態では三角形板状である。図3に示すように、刃部12は、すくい面1と、逃げ面2と、すくい面1と逃げ面2とが接続される稜線部に配置される切刃3と、チップブレーカ4と、を有する。すなわち、刃部12には、すくい面1、逃げ面2、切刃3及びチップブレーカ4が配置される。このため、切削工具10は、すくい面1と、逃げ面2と、切刃3と、チップブレーカ4と、を備える。
【0035】
図4は、刃部12をインサート軸方向から見た平面図(上面図)を表している。図4に示すように、切刃3は、すくい面1を正面に見た平面視でV字状をなしている。具体的に、切刃3は、凸曲線状をなすコーナ刃3aと、コーナ刃3aの両端に接続され、それぞれ直線状に延びる一対の直線刃3bと、を有する。またチップブレーカ4は、この平面視ですくい面1の内側に配置されている。
【0036】
〔方向の定義〕
本実施形態では、各図に適宜XYZ直交座標系(3次元直交座標系)を設定し、各構成について説明する。
図4に示す刃部12(切削工具10)の平面視において、V形の切刃3がなす角の2等分線B、すなわち一対の直線刃3bの2等分線Bが延びる方向を、前後方向と呼ぶ。前後方向は、各図においてY軸方向に相当する。本実施形態において2等分線Bは、インサート中心軸Cと直交する。すなわち、2等分線Bは、所定のインサート径方向に沿って延びる。前後方向のうち、インサート中心軸Cからコーナ刃3aへ向かう方向を前側(-Y側)と呼び、コーナ刃3aからインサート中心軸Cへ向かう方向を後側(+Y側)と呼ぶ。
【0037】
また、図4に示す刃部12(切削工具10)の平面視において、2等分線Bと直交する方向を、左右方向と呼ぶ。左右方向は、各図においてX軸方向に相当する。左右方向のうち、図4に示すようにすくい面1を正面に見て、2等分線Bから左側へ向かう方向を左側(-X側)と呼び、2等分線Bから右側へ向かう方向を右側(+X側)と呼ぶ。また左右方向において、2等分線Bに近づく方向を内側(中央側)と呼び、2等分線Bから離れる方向を外側と呼ぶ。
【0038】
また、前後方向及び左右方向と直交する方向を、上下方向と呼ぶ。上下方向は、各図においてZ軸方向に相当する。上下方向のうち、すくい面1が向く方向を上側(+Z側)と呼び、これとは反対の方向を下側(-Z側)と呼ぶ。本実施形態において、上下方向は、インサート軸方向に相当する。
【0039】
なお本実施形態において、前側、後側、左側、右側、上側及び下側とは、単に各部の相対位置関係を説明するための名称であり、工具使用時などにおける実際の配置関係等は、これらの名称で示される配置関係以外の配置関係等であってもよい。
【0040】
〔切刃〕
図3図5に示すように、本実施形態では切刃3が、上下方向と垂直な基準面Prの面方向に沿って延びている。すなわち、切刃3はその刃長方向の全長にわたって、基準面Prと平行である。切刃3は、コーナ刃3aと、一対の直線刃3bと、を有する。
【0041】
図3及び図4に示すように、コーナ刃3aは、前側(-Y側)に向けて凸となる曲線状をなしており、具体的には、凸円弧状をなす。
【0042】
一対の直線刃3bは、コーナ刃3aが延びる刃長方向の両端に、それぞれ段差なく滑らかに接続される。具体的に、一対の直線刃3bは、コーナ刃3aの両端に接する各接線に沿うように、それぞれ直線状に延びている。一対の直線刃3bは、コーナ刃3aとの接続部分から後側へ向かうに従い、左右方向において互いに離れる。言い換えると、各直線刃3bは、コーナ刃3aとの接続部分から後側へ向かうに従い、左右方向の外側に向けて延びる。
【0043】
また、切刃3は、切刃3に沿って延びるチャンファホーニング面31を有する。チャンファホーニング面31は、チャンファホーニング面31と逃げ面2とが接続される稜線32からインサート径方向の内側へ向かうに従い、上側に向けて延びる。チャンファホーニング面31は、切刃3の全長にわたって、すなわちコーナ刃3a及び一対の直線刃3bにわたって形成されている。
【0044】
図5に示すように、2等分線Bに沿う縦断面視(以下、単に縦断面視と呼ぶ場合がある)において、チャンファホーニング面31が基準面Prに対して傾斜する角度θ1は、例えば、35°である。また、チャンファホーニング面31の前後方向の寸法(幅寸法)L1は、例えば、0.05mmである。
【0045】
〔すくい面〕
図3及び図4に示すように、すくい面1は、刃部12の一対の板面(表面及び裏面)のうち、上側を向く一方の板面(表面)に配置される。すくい面1は、切刃3のインサート径方向の内側に、切刃3と隣接して配置される。すくい面1は、第1すくい面16と、第2すくい面17と、を有する。
【0046】
第1すくい面16は、すくい面1のうち切刃3に直接接続される部分である。第1すくい面16は、チャンファホーニング面31の後端部に接続される。言い換えると、第1すくい面16は、チャンファホーニング面31のインサート径方向の内端部に接続される。第1すくい面16は、切刃3に沿って延びており、図4に示す平面視で、全体として略V字状または前側に凸となる湾曲状をなしている。
【0047】
第1すくい面16は、この平面視で切刃3と直交する方向において切刃3から離れるに従い、下側へ向けて傾斜する。図5に示す縦断面視において、第1すくい面16は、後側へ向かうに従い下側に向けて延びる。この縦断面視において、上下方向と垂直な基準面Prに対して第1すくい面16が傾斜する角度θ2は、例えば、0°を超え20°以下であり、本実施形態では10°である。すなわち、第1すくい面16のすくい角(角度θ2)は、ポジティブ角(正角)とされている。
【0048】
図5に示す縦断面視で、第1すくい面16の前後方向の寸法(幅寸法)L2は、チャンファホーニング面31の前後方向の寸法L1よりも大きい。本実施形態では、第1すくい面16の前後方向の寸法L2が、例えば、0.15mmである。
【0049】
また、この縦断面視において、チャンファホーニング面31と第1すくい面16との間に形成される角度θ3は、例えば、110°以上である。本実施形態では角度θ3が、135°とされている。
【0050】
第2すくい面17は、すくい面1のうち第1すくい面16の内側に配置される部分である。すなわち、第2すくい面17は、第1すくい面16よりも切刃3から離れて配置される。第2すくい面17は、第1すくい面16の後端部に接続される。言い換えると、第2すくい面17は、第1すくい面16のインサート径方向の内端部に接続される。第2すくい面17は、切刃3に沿って延びており、図4に示す平面視で、全体として略V字状または前側に凸となる湾曲状をなしている。
【0051】
第2すくい面17は、この平面視で切刃3と直交する方向において切刃3から離れるに従い、下側へ向けて傾斜する。図5に示す縦断面視において、第2すくい面17は、後側へ向かうに従い下側に向けて延びる。この縦断面視において、上下方向と垂直な基準面Prに対して第2すくい面17が傾斜する角度θ4は、例えば、20°以上であり、本実施形態では30°である。すなわち、第2すくい面17のすくい角(角度θ4)は、ポジティブ角(正角)とされている。また、第2すくい面17は、第1すくい面16よりもすくい角が正角側に大きくされている。
【0052】
この縦断面視で、第2すくい面17の前後方向の寸法(幅寸法)L3は、第1すくい面16の寸法L2と同じかそれ以下である。本実施形態では、第2すくい面17の前後方向の寸法L3が、例えば、0.13mmである。
【0053】
〔逃げ面〕
図3及び図5に示すように、逃げ面2は、刃部12の外周面のうち、前側、左側及び右側を向く部分に配置される。逃げ面2は、切刃3の下側に、切刃3と隣接して配置される。逃げ面2は、インサート周方向に延びる。本実施形態では逃げ面2が、インサート中心軸Cと平行なネガ逃げ面とされている。ただしこれに限らず、特に図示しないが、逃げ面2は、チャンファホーニング面31と接続される稜線32から下側へ向かうに従い、インサート径方向の内側に向けて傾斜していてもよい。すなわち、逃げ面2には逃げ角が付与されていてもよい。
【0054】
〔チップブレーカ〕
チップブレーカ4は、図4に示す平面視で切刃3及びすくい面1の内側に配置されている。チップブレーカ4は、全体として左右方向に延びて形成されている。本実施形態では、刃部12が、2等分線Bを対称軸として左右対称形状に形成されており、このためチップブレーカ4も、2等分線Bを対称軸として左右対称形状に形成されている。
【0055】
図3図5に示すように、チップブレーカ4は、ブレーカ底面42と、ブレーカ壁面41と、を有する。
ブレーカ底面42は、第2すくい面17の後端部に接続される。言い換えると、ブレーカ底面42は、第2すくい面17のインサート径方向の内端部に接続される。図4に示す平面視で、ブレーカ底面42は、左右方向に延びている。
【0056】
図5に示す縦断面視において、ブレーカ底面42は、基準面Prと平行に延びている。本実施形態ではブレーカ底面42が、上下方向と垂直な方向(面方向)に拡がる平面状をなしている。ブレーカ底面42は、切刃3よりも下側に配置されている。詳しくは、ブレーカ底面42は、チャンファホーニング面31と逃げ面2とが接続される稜線32よりも下側に配置されている。ブレーカ底面42と稜線32との間の上下方向の寸法Dは、例えば、0.06mmである。
【0057】
図5に示す縦断面視において、チャンファホーニング面31と逃げ面2とが接続される稜線32と、ブレーカ底面42の前端との間の前後方向の寸法L4は、例えば、0.5mm以下であり、本実施形態では0.33mmである。またこの縦断面視で、ブレーカ底面42の前後方向の寸法L5は、チャンファホーニング面31の前後方向の寸法L1と同じかそれ以上である。具体的に、本実施形態ではブレーカ底面42の前後方向の寸法L5が、例えば、0.07mmである。
【0058】
図3図5に示すように、ブレーカ壁面41は、ブレーカ底面42の後端部に接続され、ブレーカ底面42との接続部分から後側へ向かうに従い上側に向けて傾斜する。ブレーカ壁面41は、第1壁面43と、第2壁面44と、第3壁面45と、を有する。第1壁面43、第2壁面44及び第3壁面45は、それぞれ、ブレーカ底面42との接続部分から後側へ向かうに従い上側に向けて傾斜する。また、第1壁面43、第2壁面44及び第3壁面45の各上端部は、刃部12の上側を向く一方の板面、すなわち上面12aに接続されている。
【0059】
図4に示すように、第1壁面43は、2等分線B上に位置している。第1壁面43は、上下方向(Z軸方向)と垂直な断面の形状が前側へ突出する凸状をなす。具体的に、図3に示すように第1壁面43は、略三角錐状をなしている。第1壁面43は、ブレーカ底面42から上側へ向かうに従い、左右方向の寸法が小さくなる。
【0060】
第1壁面43は、第1壁面43の左右方向の中央部かつ前端部に配置される凸曲面部43aと、凸曲面部43aの左右方向の外側の端部に接続される平面部43bと、を有する。
【0061】
凸曲面部43aは、前側に向けて凸となる曲面状をなしている。具体的に、凸曲面部43aは、後側へ向かうに従い上側に向けて延びる凸曲面状をなしており、円筒面の外周の一部をなすように形成されている。つまり凸曲面部43aは、円筒面状をなしている。
【0062】
平面部43bは、凸曲面部43aの左右方向の両外側に一対設けられる。平面部43bは、左右方向の外側を向く平面状である。本実施形態では平面部43bが、三角形状をなしている。平面部43bは、後側へ向かうに従い左右方向の外側に向けて傾斜する傾斜面状である。
【0063】
第2壁面44は、第1壁面43の左右方向の両外側に一対設けられる。第2壁面44は、第1壁面43の左右方向の外側の端部(平面部43b)に接続され、第1壁面43との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い前側に延びる。本実施形態では、図4に示す平面視において、第1壁面43の平面部43bと第2壁面44との間に形成される開き角αが、90°未満とされている。
【0064】
第3壁面45は、第2壁面44の左右方向の両外側に一対設けられる。第3壁面45は、第2壁面44の左右方向の外側の端部に接続され、第2壁面44との接続部分から左右方向の外側へ向かうに従い後側に延びる。第3壁面45の左右方向の寸法は、第1壁面43及び第2壁面44の各左右方向の寸法よりも、大きくされている。また、第3壁面45のうち左右方向の外側部分は、すくい面1(第1すくい面16及び第2すくい面17)の後端部に接続されている。第3壁面45の左右方向の外側の端部は、チャンファホーニング面31に隣接して配置されている。第3壁面45の左右方向の外側の端部は、チャンファホーニング面31と繋がっている。
【0065】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の切削工具10では、チップブレーカ4が、ブレーカ底面42と、ブレーカ壁面41と、を有する。切削時に切刃3で生じた切屑は、すくい面1上を流れ、ブレーカ底面42及びブレーカ壁面41に接触させられることで曲折され、分断される。
【0066】
本実施形態では、ブレーカ底面42が、切刃3のチャンファホーニング面31と逃げ面2とが接続される稜線32よりも下側に配置されている。したがって、切屑はチップブレーカ4の深い位置にまで案内された状態で、ブレーカ底面42及びブレーカ壁面41に接触することとなり、安定してカール及び曲折されて、分断される。
【0067】
また、図4に符号Ap-Sで示すように、切削時の切込み量Apが小さい場合には、切屑が、ブレーカ壁面41のうち切刃3のチャンファホーニング面31に隣接する第3壁面45に接触する。これにより、切屑が安定して曲折され、分断される。このため、切込み量Apが小さい場合においても、切屑が長く伸びるような不具合が抑制される。
【0068】
また、図4に符号Ap-Lで示すように、切削時の切込み量Apが大きい場合には、切屑が、ブレーカ壁面41の第1壁面43及び第2壁面44に接触する。第1壁面43と第2壁面44との境界部分には谷形状が付与されており、この谷形状に接触した切屑は安定して曲折され、分断される。
なお本実施形態では、第1壁面43の平面部43bと第2壁面44との間に形成される開き角αが、90°未満とされているので、切屑の分断性をより高めることができる。
【0069】
以上より本実施形態によれば、切削加工時の切込み量に関わらず、切屑を安定して曲折させて分断することができる。特に、切込み量が小さい場合においても切屑が長く伸びるのを抑えて、切屑処理性を安定して高めることができる。
詳しくは、本実施形態の切削工具10は、切込み量が、例えば0.2mm~0.6mmの切削条件において、格別顕著な効果が得られるものである。
【0070】
また本実施形態では、図5に示す2等分線Bに沿う縦断面視において、ブレーカ底面42の前後方向の寸法L5が、チャンファホーニング面31の前後方向の寸法L1と同じかそれ以上である。
この場合、ブレーカ底面42の前後方向の寸法L5が従来品に比べて大きく確保されており、ひいてはブレーカ底面42の面積が大きく確保されているため、切屑をブレーカ底面42に安定して接触させることができる。これにより、切屑処理性がより確実に高められる。
【0071】
また本実施形態では、2等分線Bに沿う縦断面視において、チャンファホーニング面31と第1すくい面16との間に形成される角度θ3が、110°以上である。
角度θ3が110°以上であれば、チャンファホーニング面31と第1すくい面16との接続部分(稜線部分)が尖りにくくなり、切屑が擦過してもこの接続部分にクレータ摩耗が生じることを抑制できる。クレータ摩耗の発生が抑えられるため、切屑処理性が変化する(切屑長さが不安定になる)ような不具合が防止される。なお、より好ましくは、角度θ3は135°以上である。
【0072】
また本実施形態では、2等分線Bに沿う縦断面視において、チャンファホーニング面31と逃げ面2とが接続される稜線32と、ブレーカ底面42の前端との間の前後方向の寸法L4が、0.5mm以下である。
寸法L4が0.5mm以下であると、切刃3からブレーカ底面42までの距離が十分に小さくされ、かつブレーカ底面42の深さは深く確保されているため、切屑をより確実にカール及び曲折させて、分断することができる。
【0073】
また本実施形態では、2等分線Bに沿う縦断面視において、上下方向と垂直な基準面Prに対して第1すくい面16が傾斜する角度θ2が、20°以下である。
角度θ2が20°以下であれば、第1すくい面16とチャンファホーニング面31との接続部分(稜線部分)の角度θ3が十分に大きく確保されるため、この接続部分にクレータ摩耗が生じることを安定して抑制できる。クレータ摩耗の発生が抑えられるため、切屑処理性が変化する(切屑長さが不安定になる)ような不具合が防止される。
【0074】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0075】
前述の実施形態では、第1すくい面16が基準面Prに対して傾斜する例を挙げたが、これに限らない。特に図示しないが、第1すくい面16は、上下方向と垂直な方向(つまり基準面Prと平行)に拡がることとしてもよい。
この場合、第1すくい面16とチャンファホーニング面31との接続部分(稜線部分)の角度θ3が十分に大きく確保される。このとき、角度θ3は、例えば145°とされる。これにより、前記接続部分にクレータ摩耗が生じることを安定して抑制できる。クレータ摩耗の発生が抑えられるため、切屑処理性が変化する(切屑長さが不安定になる)ような不具合が防止される。
【0076】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の切削工具によれば、切屑を安定して曲折させて分断でき、切込み量が小さい場合でも切屑が長く伸びるのを抑えて、切屑処理性を安定して高めることができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0078】
1…すくい面
2…逃げ面
3…切刃
4…チップブレーカ
10…切削工具
11…台金部
12…刃部
16…第1すくい面
17…第2すくい面
31…チャンファホーニング面
32…チャンファホーニング面と逃げ面とが接続される稜線
41…ブレーカ壁面
42…ブレーカ底面
43…第1壁面
44…第2壁面
45…第3壁面
B…2等分線
D,L1,L2,L3,L4,L5…寸法
Pr…基準面
θ1,θ2,θ3,θ4…角度
図1
図2
図3
図4
図5