(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001456
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】跳上抑制機構付き吊車装置および引戸装置
(51)【国際特許分類】
E05F 7/04 20060101AFI20231227BHJP
E05D 15/06 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
E05F7/04
E05D15/06 119
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100126
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000137959
【氏名又は名称】株式会社ムラコシ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】横山 辰朗
【テーマコード(参考)】
2E034
2E050
【Fターム(参考)】
2E034CA01
2E034EA01
2E050NA01
2E050PA03
2E050PB04
2E050PC02
2E050PD01
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でありながら制動力および走行速度に拘わらず引戸の跳ね上がりを抑制し得る使い勝手の優れた跳上抑制機構付き吊車装置および引戸装置を提供する
【解決手段】枠体(3a)の上枠(3u)に設けられた上ガイドレール(2)に沿って走行する引戸(4)および上ガイドレール(2)に取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)であって、上ガイドレール(2)に沿って転動するローラ(53)が設けられた吊車本体部(51)と、吊車本体部(51)の下端面から下方に突出して引戸(4)の上端面を押下する脚部(60)と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体の上枠に設けられた上ガイドレールに沿って走行する引戸および前記上ガイドレールに取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置であって、
前記上ガイドレールに沿って転動するローラが設けられた吊車本体部と、
前記吊車本体部の下端面から下方に突出して前記引戸の上端面を押下する脚部と、
を備えることを特徴とする跳上抑制機構付き吊車装置。
【請求項2】
前記脚部は、前記引戸が跳ね上げられていない状態において前記上ガイドレールとは非接触である
請求項1に記載の跳上抑制機構付き吊車装置。
【請求項3】
前記脚部は、断面く字形状を有する第1の脚、および、断面く字形状を有する第2の脚からなり、前記第1の脚および前記第2の脚におけるそれぞれの先端が互いに近づくように配置されている
請求項2に記載の跳上抑制機構付き吊車装置。
【請求項4】
前記脚部は、
前記吊車本体部の下端面から下方に突出した基部と、
前記基部から下方に延びる断面く字形状に屈曲した弾性体部と、
を有する請求項2に記載の跳上抑制機構付き吊車装置。
【請求項5】
前記弾性体部は、
前記基部から外側に向かいながら下方へ延びる第1弾性体部分と、
前記第1弾性体部分の先端から内側に向かって延びる第2弾性体部分と、
を有する請求項4に記載の跳上抑制機構付き吊車装置。
【請求項6】
枠体の上枠に設けられた上ガイドレールと、
前記上ガイドレールに沿って走行する引戸と、
前記上ガイドレールに取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置と、
前記引戸に固定され、前記跳上抑制機構付き吊車と連結されるホルダと、
を備える引戸装置であって、
前記跳上抑制機構付き吊車は、
前記上ガイドレールに沿って転動するローラが設けられた吊車本体部と、
前記吊車本体部の下端面から下方に突出し、前記引戸の上端面を押下する脚部と、
を備えることを特徴とする引戸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、跳上抑制機構付き吊車装置および引戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、戸枠に設けられた引き戸レールを走行させる引戸においては、戸枠に対し上下方向(重力方向)に僅かな遊びをもって組み付けられている。このような引戸においては、例えばユーザが引戸を閉める際、急激に閉じることのないようにその動作を緩慢にする開閉体緩衝装置(クローザやブレーキ機構)が取り付けられている。
【0003】
しかしながら、引戸では、戸枠に対して上下方向(重力方向)に遊びを有しているため、開閉体緩衝装置により当該引戸の上部の一端部に対してのみブレーキ力が作用するものの、引戸の下部にブレーキ力が作用しない状況になると、引戸が傾いて跳ね上がり開閉体緩衝装置と引戸とが片当たりしてしまう。
【0004】
また、引戸の走行中に上端部が開閉体緩衝装置によって走行方向と反対方向に緩衝力やブレーキ力を受けるために発生するモーメントによって引戸が跳ね上がることがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このような引戸の跳ね上がりは、引戸が上枠に衝突することによる騒音や下ローラの脱輪の原因となり、また開閉体緩衝装置の耐久性にも悪影響を及ぼしかねない。更には、開閉体緩衝装置による引戸の円滑な引き込みの妨げにもなる。
【0006】
これらのことから、引戸の跳ね上がりの防止や跳ね上がりを抑制することが求められている。引戸の跳ね上がりを抑制するものとして引戸の上部ガイド装置(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0007】
この特許文献2における引戸の上部ガイド装置では、スプリングが内蔵された内蔵ダンパ部材の上端部がランナ体の下面に当接している。このため、ランナ体と引戸の上下方向の遊び等に起因して引戸が跳ね上がろうとする場合であっても、上部ガイド装置における内蔵ダンパ部材のダンパ作用により引戸固定体とランナ体との急激な相対距離の変化を抑制できるので、引戸の跳ね上げを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-008382号公報
【特許文献2】特開2017-193944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献2に記載の引戸の上部ガイド装置においては、内蔵ダンパ部材を上部ガイド装置に組み込まなければならず構造が複雑化すると共に、内蔵ダンパ部材は比較的高価な部品でありコストアップにつながることが懸念される。
【0010】
また、特許文献2に記載の引戸の上部ガイド装置においては、上レールに引戸を吊り込む際、内蔵ダンパ部材の抗力に反して引戸固定体を引戸の取付部の高さに合わせなければならず、吊り込み時の操作性が良いとはいえなかった。さらに、内蔵ダンパ部材は、そのダンパ作用によりランナ体に対して常に荷重がかかった状態となっているため、引戸の走行時の走行抵抗となり、引戸の動きが重くなったり、異音が生じていた。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成でありながら制動力および走行速度に拘わらず引戸の跳ね上がりを抑制し得る使い勝手の優れた跳上抑制機構付き吊車装置および引戸装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、枠体の上枠に設けられた上ガイドレールに沿って走行する引戸および前記上ガイドレールに取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置であって、前記上ガイドレールに沿って転動するローラが設けられた吊車本体部と、前記吊車本体部の下端面から下方に突出して前記引戸の上端面を押下する脚部と、を備える。
【0013】
本発明において、前記脚部は、前記引戸が跳ね上げられていない状態において前記上ガイドレールとは非接触であることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記脚部は、断面く字形状を有する第1の脚、および、断面く字形状を有する第2の脚からなり、前記第1の脚および前記第2の脚におけるそれぞれの先端が互いに近づくように配置されていることが好ましい。
【0015】
本発明において、前記脚部は、前記吊車本体部の下端面から下方に突出した基部と、前記基部から下方に延びる断面く字形状に屈曲した弾性体部と、を有することが好ましい。
【0016】
本発明において、前記弾性体部は、前記基部から外側に向かいながら下方へ延びる第1弾性体部分と、前記第1弾性体部分の先端から内側に向かって延びる第2弾性体部分と、を有することが好ましい。
【0017】
また本発明においては、枠体の上枠に設けられた上ガイドレールと、前記上ガイドレールに沿って走行する引戸と、前記上ガイドレールに取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置と、前記引戸に固定され、前記跳上抑制機構付き吊車と連結されるホルダと、を備える引戸装置であって、前記跳上抑制機構付き吊車は、前記上ガイドレールに沿って転動するローラが設けられた吊車本体部と、前記吊車本体部の下端面から下方に突出し、前記引戸の上端面を押下する脚部と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
以上の構成によれば、簡易な構成でありながら制動力および走行速度に拘わらず引戸の跳ね上がりを抑制し得る使い勝手の優れた跳上抑制機構付き吊車装置および引戸装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置を備えた引戸装置の全体構成を示す平面図である。
【
図2】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置が上ガイドレールに取り付けられた状態を示す断面図である。
【
図3】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置、引戸緩衝装置、および、ホルダが組み立てられた状態を示す斜視図である。
【
図4】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置と引戸緩衝装置との組み立て状態および分解状態を示す斜視図である。
【
図5】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図6】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図7】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置の構成を示す正面図、側面図、上面図、下面図、背面図である。
【
図8】本実施の形態における跳上抑制機構付き吊車装置が引戸の上端面を押し付けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.実施の形態の概要
まず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号が括弧を付して記載されている。
【0021】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態においては、枠体(3a)の上枠(3u)に設けられた上ガイドレール(2)に沿って走行する引戸(4)および上ガイドレール(2)に取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)であって、上ガイドレール(2)に沿って転動するローラ(53)が設けられた吊車本体部(51)と、吊車本体部(51)の下端面から下方に突出して引戸(4)の上端面を押下する脚部(60)と、を備える。
【0022】
〔2〕上記跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)において、脚部(60)は、引戸(4)が跳ね上げられていない状態において上ガイドレール(2)とは非接触である。
【0023】
〔3〕上記跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)において、脚部(60)は、断面く字形状を有する第1の脚(61)、および、断面く字形状を有する第2の脚(62)からなり、第1の脚(61)および第2の脚(62)におけるそれぞれの先端が互いに近づくように配置されている。
【0024】
〔4〕上記跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)において、脚部(60)は、吊車本体部(51)の下端面から下方に突出した基部(61a)と、基部(61a)から下方に延びる断面く字形状に屈曲した弾性体部(61b,61c)と、を有する
【0025】
〔5〕上記跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)において、前記弾性体部(61b,61c)は、基部(61a)から外側に向かいながら下方へ延びる第1弾性体部分(61b)と、第1弾性体部分(61b)の先端から内側に向かって延びる第2弾性体部分(61c)と、を有する
【0026】
〔6〕本発明の代表的な実施の形態においては、枠体(3a)の上枠(3u)に設けられた上ガイドレール(2)と、上ガイドレール(2)に沿って走行する引戸(4)と、上ガイドレール(2)に取り付けられる跳上抑制機構付き吊車装置(5,6)と、引戸(4)に固定され、跳上抑制機構付き吊車(5,6)と連結されるホルダ(8)と、を備える引戸装置(1)であって、前記跳上抑制機構付き吊車(5,6)は、上ガイドレール(2)に沿って転動するローラ(53)が設けられた吊車本体部(51)と、吊車本体部(51)の下端面から下方に突出し、引戸(4)の上端面を押下する脚部(60)と、を備える。
【0027】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態にかかる跳上抑制機構付き吊車装置を備えた引戸装置の構成について
図1乃至
図8を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
なお、以下の説明で使用する方向において、引戸4が閉まる側である戸閉側とは、
図1の紙面左側すなわち矢印a方向をいうものとし、引戸4が開く側である戸開側とは
図1の紙面右側すなわち矢印b方向をいうものとする。したがって、開閉方向または水平方向を矢印ab方向とする。
【0029】
また、上側または上方向とは、
図1の紙面上方向すなわち矢印c方向をいうものとし、下側または下方向とは
図1の紙面下方向すなわち矢印d方向をいうものとする。したがって、上下方向または重力方向を矢印cd方向とする。
【0030】
さらに、引戸4の板厚方向とは、
図1の紙面奥行き方向すなわち前後方向をいうものとする。具体的には、
図2に示すように、すなわち引戸4が
図1の紙面の手前側から奥側へ押される際の矢印f方向を奥側、引戸4が
図1の紙面の奥側から手前側へ引っ張られる際の矢印e方向を手前側とする。但し、この左側、右側、上側、下側、奥側、手前側とは、説明の便宜上用いられるのであって、引戸の使用状況によっては異なる方向として定義することができる。
【0031】
<引戸装置>
本実施の形態において引戸装置1は、上吊り式の引戸4を対象とし、建物等の構造物における開口の縁部に固定された枠体3aの上枠3uに設けられた上ガイドレール2、その上ガイドレール2に沿って吊車5,6と共にスライド移動する引戸4、その引戸4に取り付けられた2つの吊車5,6、一方の吊車5と一体に取り付けられた引戸緩衝装置10、2つの吊車5,6と引戸4とを結合するホルダ8(8a、8b)を有している。
【0032】
なお、引戸装置1は、必ずしも上ガイドレール2、引戸4、吊車5,6、ホルダ8、および、引戸緩衝装置10を全て揃えている必要はなく、少なくとも引戸4、吊車5,6、ホルダ8(8a、8b)および引戸緩衝装置10を有していればよい。
【0033】
<引戸>
図1に示すように、引戸4は、種々の材料からなる平面視長方形状の板状部材であり、その上端部の開閉方向(矢印ab方向)における両側には、ホルダ8a、8bを固定するための収容凹部がそれぞれ形成されている。この引戸4の収容凹部に対してホルダ8a、8bがそれぞれ収容された状態で一体に固定される。
【0034】
引戸4は、開閉方向(矢印ab方向)にスライド移動することにより枠体3aを開閉することが可能である。なお、説明を容易にするために1枚の引戸4のみを示しているが、引戸4の紙面奥側或いは紙面手前側にも同様に引戸4(図示せず)が取り付けられており、この2枚の引戸4を開閉することで枠体3aが開閉される。ただし、以下では、1枚の引戸4だけを用いて説明する。
【0035】
<上ガイドレール>
図2に示すように、上ガイドレール2は、後述する吊車5,6の走行をガイドするレールであり、枠体3aの上枠3uに対して固定されている。ただし
図2においては、上ガイドレール2が吊車5を保持する状態の断面構成を示しており、吊車6については省略している。上ガイドレール2は、全体的に下方に開口する略U字状に形成されている。この上ガイドレール2は、アルミニウム等の金属によって形成されている。
【0036】
上ガイドレール2は、開閉方向(矢印ab方向)に延在する天壁部2a、その天壁部2aの両側端部から下方向(矢印d方向)へそれぞれ延びる1対の側壁部2bと、その1対の側壁部2bの下方向先端部から前後方向(矢印ef方向)に沿って互いに近づくように延びて対向した状態に隔離配置された1対の突出壁部2cとを備えている。
【0037】
なお、一対の側壁部2bおよび突出壁部2cともに、天壁部2aと同様に開閉方向(矢印ab方向)に延在している。天壁部2aと側壁部2bとの間の角部には、L字状に折り曲げられた段部2dがそれぞれ形成されている。段部2dは、その内側において下方(矢印d方向)に面する下端面2dbを有し、その下端面2dbが吊車5のローラ53と接触して転動する走行面となる。
【0038】
突出壁部2cは、その先端部分に対して上方向(矢印c方向)に向かって弧状に膨らんだ断面半円形状の突部分2cbを有し、その突部分2cbが吊車5のローラ53と接触して転動する走行面となる。すなわち、上ガイドレール2の段部2dの下端面2dbと突出壁部2cの突部分2cbとの間に吊車5のローラ53が配置される。
【0039】
ここで、吊車5における段部2dの下端面2dbと突出壁部2cの突部分2cbとの距離は、ローラ53の直径よりも僅かに大きい程度であり、ローラ53にとって摺動抵抗を大きくすることのない程度の最低限のクリアランスが存在している。
【0040】
上ガイドレール2は、そのU字状の内側の収容空間Sに吊車5の吊車本体部51(
図2)およびローラ53のほぼ全部を収容し、段部2dの下端面2dbおよび突出壁部2cの突部分2cbに当該ローラ53を接触させた状態で、当該上ガイドレール2に沿って開閉方向(矢印ab方向)に走行可能に保持する。以下、段部2dの下端面2dbおよび突出壁部2cの突部分2cbをローラ53の走行面2tと呼ぶ。
【0041】
<ホルダ>
図1および
図3に示すように、ホルダ8は、引戸4の上端部の2箇所に固定されて吊車5,6と結合される部品である。吊車5と結合されるのがホルダ8aであり、吊車6と結合されるのがホルダ8bである。ただし、ホルダ8a、8bともに同一構造であり、ここでは便宜上、特に区別する必要がある場合を除きホルダ8と呼ぶ。
【0042】
ホルダ8は、吊車5,6と結合される直方体形状を有するホルダ本体81と、そのホルダ本体81に取り付けられた板状部材からなるプレート体82とを備えている。ホルダ8は、プレート体82の両側に2個の貫通孔82hを介して引戸4に固定される。
【0043】
ホルダ8のホルダ本体81は、プレート体82に対して上下調整可能に取り付けられており、後述する吊車5,6の連結軸55、65(
図1)と係止される凹部81sを有する。ホルダ8は、引戸4の収容部にホルダ本体81が収容された状態でプレート体82の貫通孔82hを介してビス等の締結具によって引戸4に固定される。
【0044】
プレート体82の上端面は、引戸4の上端面4aと面一である。すなわち、プレート体82の上端面は、引戸4の上端面4aから上方向(矢印c方向)に飛び出ていなければよい。
【0045】
<吊車>
図1および
図4に示すように、跳上抑制機構付き吊車装置としての吊車5は、ホルダ8aと結合されると共に引戸緩衝装置10の戸閉側(矢印a方向)の一端と一体に取り付けられているのに対し、吊車6はホルダ8bとだけ結合されており、引戸緩衝装置10とは接続されていない。吊車5,6は、基本的に同一構造を有しているため、ここでは吊車5の構成を説明し、吊車6の構成については省略する。
【0046】
吊車5と結合された引戸緩衝装置10は、その吊車5とは反対側の戸開側(矢印b方向)の他端においてバックガイドローラ9と結合されている。因みに、引戸緩衝装置10は、引戸4が閉められる際、急激に閉じられることのないようにその動作を緩慢にするものであり、ここでは詳細な説明は省略する。
【0047】
引戸緩衝装置10に取り付けられたバックガイドローラ9は、上ガイドレール2を走行する際に、当該上ガイドレール2の内側の収容空間内で引戸緩衝装置10の戸開側(矢印b方向)の他端が暴れることを防止するためにのみ設けられている。したがってバックガイドローラ9には、ホルダ8bと連結するための連結軸が設けられていない。なお、バックガイドローラ9の詳細については省略する。
【0048】
図5乃至
図7に示すように吊車5は、樹脂等からなる吊車本体部51、樹脂等からなる吊車結合部57、樹脂等または金属からなる2本のローラ支軸52(
図6)、樹脂等または金属からなる4個のローラ53、および、樹脂等または金属からなる連結軸55を有している。
【0049】
吊車5の吊車本体部51は、略直方体形状からなり、そのほぼ中央には上下方向(矢印cd方向)に貫通した貫通孔51haを有し、その貫通孔51haに連結軸55が挿入された状態でワッシャー56から突出した部分をカシメることにより、吊車本体部51と連結軸55とを一体に固定している。また吊車本体部51は、貫通孔51haを間に挟んだ開閉方向(矢印ab方向)の両側に前後方向(矢印ef方向)に沿って貫通した2個の貫通孔57hb、57hcを有している。
【0050】
吊車5の吊車結合部57は、吊車本体部51の戸開側(矢印b方向)の端部と一体に設けられている。吊車結合部57は、前後方向(矢印ef方向)に沿って貫通する貫通孔57hを有している。
【0051】
吊車結合部57は、直方体形状を有し、吊車本体部51と一体に形成されている。
図7に示すように、吊車結合部57の前後方向(矢印ef方向)における幅は、吊車本体部51の前後方向(矢印ef方向)における幅よりも大きく、前後方向(矢印ef方向)に設けられた2つのローラ53の幅よりも小さい。
【0052】
吊車5は、吊車連結部57の貫通孔57hと引戸緩衝装置10の戸閉側(矢印a方向)の一端に設けられた貫通孔10ha(
図4)とを対向するように配置した状態で、貫通孔10haおよび貫通孔57hに圧入されるピン57pにより当該引戸緩衝装置10に対して一体に固定される。
【0053】
ローラ支軸52は、吊車本体部51の2個の貫通孔51hb、51hcに軸支され、当該ローラ支軸52の両側端部にはローラ53がそれぞれ一体に取り付けられている。実際上、ローラ支軸52をローラ53の貫通孔に挿通させた後、当該ローラ支軸52の両端をカシメることにより、ローラ53がローラ支軸から抜け落ちることを防止している。
【0054】
4個のローラ53は、ローラ支軸52における両側端部にそれぞれ一体に固定された円盤状の回転体であり、上ガイドレール2における走行面2t(段部2dの下端面2dbおよび突出壁部2cの突部分2cb)と接触して転動する。
【0055】
すなわち吊車5は、4個のローラ53が上ガイドレール2の走行面2tを転動することにより当該上ガイドレール2に沿って開閉方向(矢印ab方向)へ自在に移動可能となる。このとき引戸緩衝装置10に固定されたバックガイドローラ9についても同様に、上ガイドレール2の走行面2tを転動する。
【0056】
因みに、バックガイドローラ9(
図4)については、バックガイドローラ本体部91の一端に設けられた貫通孔91hと、引戸緩衝装置10の戸開側(矢印b方向)の一端に設けられた貫通孔10hbとを対向するように配置した状態で、貫通孔10hbおよび貫通孔91hに圧入されるピン91pにより当該引戸緩衝装置10に対して一体に固定される。
【0057】
吊車5の連結軸55は、開閉方向(矢印ab方向)における両側端部にそれぞれ軸支された2本のローラ支軸52の間に設けられている。具体的には吊車本体部51の貫通孔51ha(
図6)に対して連結軸55が挿入された状態でワッシャー56から突出した部分をカシメることにより、吊車本体部51と連結軸55とを一体に固定している。
【0058】
吊車本体部51の下端面には、連結軸55を中心として戸閉側(矢印a方向)および戸開側(矢印b方向)にそれぞれ脚部60が一体に設けられている。脚部60は、手前側(矢印e方向)に設けられた第1の脚61、および、奥側(矢印f方向)に設けられた第2の脚62を有している。なお、バックガイドローラ9の下端面に対しても脚部60が設けられている。
【0059】
図2に示すように、脚部60における第1の脚61および第2の脚62は、互いに線対称となるように配置されている。なお、第1の脚61および第2の脚62は、線対称であって同一形状を有しているので、ここでは第1の脚61についてのみ説明する。
【0060】
脚部60における第1の脚61は、基部61a、幹部61b、枝部61c、凸部61dを有している。基部61aは、吊車本体部51の下端面から下方(矢印d方向)に向かって僅かに延びる、第1の脚61の根元に相当する部分である。
【0061】
幹部61bは、基部61aの先端から当該基部61aと離れるように外側つまり手前側(矢印e方向)へ向かいながら下方(矢印d方向)へ所定の長さだけ斜めに延びる、第1の脚61の主要脚部に相当する部分である。
【0062】
枝部61cは、幹部61bの先端から内側つまり奥側(矢印f方向)へ向かって水平または僅かに下方(矢印d方向)に所定の長さだけ延びる部分である。
【0063】
第1の脚61の枝部61cは、第2の脚62の枝部62cと互いに所定の間隔を空けて向かい合うように配置される。このように脚部60は、第1の脚61および第2の脚62が線対称に配置されている。
【0064】
この場合、第1の脚61は、第1弾性体部分としての幹部61b、および、第2弾性体部分としての枝部61cによって基部61aから下方に延びる断面く字形状に屈曲した弾性体部を形成している。すなわち幹部61bおよび枝部61cが互いに近づくように撓むことにより第1の脚61は弾性変形可能である。
【0065】
凸部61dは、枝部61cの先端に設けられ、下方(矢印d方向)に向かって弧状に膨らんだ略半円形状の部分である。この凸部61dは、ホルダ8のホルダ本体81の上端面81aに接触する部分であり、ホルダ8と一体化された引戸4の跳ね上がりを抑制する押圧部として機能する。つまり凸部61dは、ホルダ本体81を介して引戸4の上端面を間接的に押し付けることになる。このように第1の脚61における凸部61dをホルダ8の上端面81aと接触させているので、ホルダ本体81の上下調整機能により当該ホルダ本体81が上下方向に移動したときの動きに対して第1の脚61は追従することができる。
【0066】
このように脚部60は、第1の脚61および第2の脚62が互いに向かい合うように配置され、枝部61c、62cの凸部61d、62dがホルダ8のホルダ本体81の上端面81aと接触して押し付けた状態を形成することができる。
【0067】
また、脚部60における第1の脚61の幹部61bは、基部61aから離れるように下方(矢印d方向)および外側つまり手前側(矢印e方向)へ向かって斜めに延びている。また、幹部61bは、上ガイドレール2の突出壁部2cの先端とは接触しておらず、当該突出壁部2cの先端との間に僅かな隙間を有している。このように脚部60は、引戸4が跳ね上げられていない状態において上ガイドレール2とは非接触であり、吊車5が走行する際の摺動抵抗が生じることを防止している。
【0068】
<動作および効果>
以上の構成において、吊車5は、
図8(A)に示すように、吊車本体部51の下端面に一体に設けられた脚部60によって引戸4の上端面と面一に配置されたホルダ8のホルダ本体81の上端面81aと接触して押し付けていることにより、引戸4の走行時のガタつきを予め抑制することができる。
【0069】
また、吊車5は、
図8(B)に示すように、引戸4が引戸緩衝装置10の作用により跳ね上げられる場合であっても、脚部60によってホルダ8のホルダ本体81の上端面81aを予め押し付けている。したがって吊車5では、幹部61bおよび枝部61cからなる屈曲した弾性体部がたわむことによって、引戸4が上方向(矢印c方向)に跳ね上がられる力を吸収し、引戸4の上方向(矢印c方向)への跳ね上げを最小限に抑制することができる。
【0070】
引戸4の走行速度が上昇すると引戸緩衝装置10の制動力が大きく作用するために引戸4の跳ね上がられる力が大きくなるが、その場合であっても、脚部60における第1の脚61の幹部61bおよび第2の脚62の幹部62bが上ガイドレール2の突出壁部2cと接触するので、引戸4が上方向(矢印c方向)へそれ以上跳ね上げられることを抑制することができる。なお、脚部60における第1の脚61の幹部61bおよび第2の脚62の幹部62bが上ガイドレール2の突出壁部2cと接触することにより、引戸4の前後方向(矢印ef方向)のガタつきについても抑制することができる。
【0071】
このように吊車5は、簡易な構成でありながら制動力および走行速度に拘わらず引戸4の跳ね上がりを抑制することができる。これは吊車6においても同様である。引戸装置1では、戸閉側(矢印a方向)および戸開側(矢印b方向)のいずれにも吊車5,6を有しているので、引戸4を閉じる場合および開く場合のいずれにおいても、引戸4の跳ね上げを抑制することができる。
【0072】
また、吊車5は、ホルダ8と連結されている連結軸55を間に挟むように開閉方向(矢印ab方向)に沿って2つの脚部60を設けていることにより、引戸4に対する押圧力のバランスがよく、引戸4が撥ね上げられる力を2つの脚部60により複数点で受けることができる。
【0073】
さらに、吊車5は、
図8(B)に示すように、引戸4が跳ね上げられた際、幹部61bおよび枝部61cが弾性変形するが、それ以上の力で跳ね上がられた場合には、枝部61cの凸部61dだけではなく枝部61c全体がホルダ本体81の上端面81aと接触し、引戸4が上方向(矢印c方向)に跳ね上がられる力を吸収することができる。
【0074】
3.他の実施の形態
なお、本実施の形態においては、吊車5,6に対してそれぞれ脚部60を2個づつ設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、吊車5,6に対してそれぞれ少なくとも1個の脚部60を設けるようにしてもよい。
【0075】
また、本実施の形態においては、バックガイドローラ9の下端面に1つの脚部60が設けられるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、バックガイドローラ9の下端面に対しても吊車5,6のように開閉方向(矢印ab方向)に沿って2つの脚部60が設けられるようにしてもよい。
【0076】
さらに、本実施の形態においては、跳上抑制機構付き吊車装置としての吊車5,6を備えた引戸装置1が建物等の構造物における開口の周縁部に取り付けられるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、引戸装置1が食器棚などの比較的に小型でインテリア性が求められる家具の開口の周縁部に取り付けられるようにしてもよい。
【0077】
さらに、本実施の形態においては、脚部6の第1の脚61、および、第2の脚62における枝部61c、62cの凸部61d、62dがホルダ本体81の上端面81aに接触して押下するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、第1の脚61および第2の脚62が、基部61a、62a、および、幹部61b、62bだけを有し、その末広がり状になって幹部61b、62bの先端がホルダ本体81の上端面81aに接触して押下するようにしてもよい。
【0078】
さらに、本実施の形態においては、上吊り式の引戸4を対象とするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、下支持式の引戸4を対象とするようにしてもよい。この場合。引戸4の下端面に戸車(図示せず)を設け、その戸車が枠体3aの下枠の上を走行する際に当該引戸4の跳ね上がりが生じても、脚部60によって引戸4の跳ね上がりを抑制することができる。
【0079】
なお、その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の跳上抑制機構付き吊車装置としての吊車5,6、および、吊車5,6を備えた引戸装置1を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0080】
1…引戸装置、2…上ガイドレール、2a……壁部、2b…側壁部、2c…突出壁部、2d…段部、2t…走行面、3a…枠体、3u…上枠、4…引戸、5,6…吊車、8(8a、8b)…ホルダ、9…バックガイドローラ、10…引戸緩衝装置、51…吊車本体部、52…ローラ支軸、53…ローラ、55…連結軸、56…ナット、57…吊車結合部、60…脚部、61…第1の脚、61a…基部、61b…幹部、61c…枝部、61d…凸部、62…第2の脚、81…ホルダ本体、82…プレート体。