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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145612
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ミシン釜の給油装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 71/02 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
D05B71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058048
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山本 真理子
(72)【発明者】
【氏名】飯島 秀和
(72)【発明者】
【氏名】望月 祥代
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA02
3B150CE04
3B150CE26
3B150GB03
3B150GB05
3B150GB06
3B150GB10
(57)【要約】
【課題】ミシン釜への給油量が安定するミシン釜の給油装置を実現する。
【解決手段】ミシン釜の給油装置100は、釜軸10の軸心に沿って形成されている油経路11と、油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節する油量調節ネジ30と、油経路11と連通している外釜1の油溜まり1aと、油溜まり1aから内釜2に潤滑油Jを導く油導入路1bと、釜軸10の油経路11に設置されている第二の浸透材40と、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50と、を備えて構成されており、第一の浸透材50と第二の浸透材40には潤滑油Jが浸透可能な素材を用いるようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
釜軸の一端部に連結され、所定方向に回転される外釜と、前記外釜に回転可能に内装されている内釜とを有するミシン釜に潤滑油を供給するミシン釜の給油装置であって、
前記釜軸の軸心に沿って形成されており、前記一端部側に開口を有して貫通している油経路と、
前記油経路に流れる潤滑油の流量を調節する油量調節部と、
前記外釜に設けられており、前記油経路と連通している油溜まりと、
前記油溜まりから前記内釜に前記潤滑油を導く油導入路と、
を備え、
前記潤滑油を浸透可能な第一の浸透材が、前記油溜まりに配設されていることを特徴とするミシン釜の給油装置。
【請求項2】
前記油溜まりは、前記釜軸よりもその径が大きな空間であることを特徴とする請求項1に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項3】
前記潤滑油を浸透可能な第二の浸透材が、前記油経路に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項4】
前記第二の浸透材から前記第一の浸透材に前記潤滑油を移動させることが可能な毛細管構造を有する軸部材を備えたことを特徴とする請求項3に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項5】
前記軸部材は、その軸心に沿った狭小な貫通孔を有しており、
前記貫通孔の軸垂直断面形状は、複数に枝分かれした態様の分枝形状を呈していることを特徴とする請求項4に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項6】
前記第二の浸透材にはその一端から突き出した突出部が設けられており、前記突出部が前記第一の浸透材に接触していることを特徴とする請求項3に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項7】
前記第二の浸透材と前記軸部材の間に、前記第二の浸透材から前記軸部材に前記潤滑油を移動させることが可能な浸透部材が配設されていることを特徴とする請求項4に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項8】
前記第二の浸透材と前記軸部材を内装して前記油経路に配設される筒状の取付金具を備え、
前記取付金具の一端には小孔が設けられており、その小孔から突き出した前記軸部材の端部が前記第一の浸透材に接触していることを特徴とする請求項4に記載のミシン釜の給油装置。
【請求項9】
前記第二の浸透材を内装して前記油経路に配設される筒状の取付金具を備え、
前記取付金具の一端には小孔が設けられており、その小孔から突き出した前記突出部が前記第一の浸透材に接触していることを特徴とする請求項6に記載のミシン釜の給油装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン釜の給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシン釜における内釜と外釜の間の回転摺動部へ潤滑油を供給して、ミシン釜の発熱、焼付、摩耗を抑えるミシン釜の給油装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このミシン釜の給油装置は、ミシン釜を作動させる下軸(釜軸)の軸心に形成されている油路と、油路の終端部に備えられた油芯と、油路に流れる潤滑油の油量を調節する油量調節ネジ等を有しており、フィルター状の油芯に浸透した潤滑油が、下軸によって回転された外釜の遠心力によって内釜のレース面に供給されて給油されるようになっている。
また、ミシン釜の回転摺動部への給油量の調整は、油量調節ネジで油路に流れる潤滑油の油量を調節することによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平06-31683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のミシン釜の給油装置の場合、油量調節ネジによって、ミシン釜の回転摺動部への給油量を調整するのが難いことがあった。
これは、ミシン釜への給油量は、フィルター状の油芯に作用する潤滑油の油圧がボトルネックになっているため、例えば、油路に流れる潤滑油の油量(油圧)が所定値未満であるとミシン釜への給油量がほとんど変化しないのに対し、油路に流れる潤滑油の油量(油圧)が所定値以上になると、潤滑油が油芯を通過し易くなってミシン釜への給油量が急激に増えることがあるので、その微調整が難しいという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、ミシン釜への給油量が安定するミシン釜の給油装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
釜軸の一端部に連結され、所定方向に回転される外釜と、前記外釜に回転可能に内装されている内釜とを有するミシン釜に潤滑油を供給するミシン釜の給油装置であって、
前記釜軸の軸心に沿って形成されており、前記一端部側に開口を有して貫通している油経路と、
前記油経路に流れる潤滑油の流量を調節する油量調節部と、
前記外釜に設けられており、前記油経路と連通している油溜まりと、
前記油溜まりから前記内釜に前記潤滑油を導く油導入路と、
を備え、
前記潤滑油を浸透可能な第一の浸透材が、前記油溜まりに配設されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のミシン釜の給油装置において、
前記油溜まりは、前記釜軸(前記油経路)よりもその径が大きな空間であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のミシン釜の給油装置において、
前記潤滑油を浸透可能な第二の浸透材が、前記油経路に配設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のミシン釜の給油装置において、
前記第二の浸透材から前記第一の浸透材に前記潤滑油を移動させることが可能な毛細管構造を有する軸部材を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のミシン釜の給油装置において、
前記軸部材は、その軸心に沿った狭小な貫通孔を有しており、
前記貫通孔の軸垂直断面形状は、複数に枝分かれした態様の分枝形状を呈していることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載のミシン釜の給油装置において、
前記第二の浸透材にはその一端から突き出した突出部が設けられており、前記突出部が前記第一の浸透材に接触していることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載のミシン釜の給油装置において、
前記第二の浸透材と前記軸部材の間に、前記第二の浸透材から前記軸部材に前記潤滑油を移動させることが可能な浸透部材が配設されていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項4に記載のミシン釜の給油装置において、
前記第二の浸透材と前記軸部材を内装して前記油経路に配設される筒状の取付金具を備え、
前記取付金具の一端には小孔が設けられており、その小孔から突き出した前記軸部材の端部が前記第一の浸透材に接触していることを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項6に記載のミシン釜の給油装置において、
前記第二の浸透材を内装して前記油経路に配設される筒状の取付金具を備え、
前記取付金具の一端には小孔が設けられており、その小孔から突き出した前記突出部が前記第一の浸透材に接触していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ミシン釜への給油量が安定するミシン釜の給油装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態1のミシン釜の給油装置を示す概略断面図である。
図2】実施形態1のミシン釜の給油装置の第二の浸透材に関する説明図であり、その側面図(a)と斜視図(b)である。
図3】実施形態2のミシン釜の給油装置を示す概略断面図である。
図4】実施形態2のミシン釜の給油装置の第二の浸透材に関する説明図であり、その側面図(a)と斜視図(b)である。
図5】実施形態3のミシン釜の給油装置を示す概略断面図である。
図6】実施形態3のミシン釜の給油装置の第二の浸透材と軸部材に関する説明図であり、その側面図(a)と斜視図(b)である。
図7】軸部材を拡大して示す斜視図(a)と断面図(b)である。
図8】実施形態2のミシン釜の給油装置の第二の浸透材の変形例に関する説明図であり、その側面図(a)と斜視図(b)である。
図9】実施形態2のミシン釜の給油装置の第二の浸透材の変形例に関する説明図であり、その側面図(a)と斜視図(b)である。
図10】実施形態3のミシン釜の給油装置の第二の浸透材と軸部材の変形例に関する説明図であり、その側面図(a)と斜視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
ミシン釜の給油装置は、ミシンベッド部の内部であって、針板の下側に配置されているミシン釜の発熱や焼付などを抑えるために、ミシン釜を構成する内釜と外釜の間の回転摺動部へ潤滑油を供給する装置である。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態のミシン釜の給油装置100は、例えば、図1に示すように、釜軸10の一端部10aに連結されていて所定方向に回転される外釜1と、外釜1に回転可能に内装されている内釜2とを有するミシン釜3に潤滑油Jを供給して給油するようになっている。
【0019】
外釜1には、後述する油経路11と連通する油溜まり1aが設けられている。
具体的には、外釜1に釜軸10を連結するのに釜軸10が挿し込まれる部位に油溜まり1aが設けられている。
そして、釜軸10と外釜1が連結された状態で、釜軸10の油経路11と外釜1の油溜まり1aが連通するようになっている。
この油溜まり1aは、釜軸10よりもその径が大きな円形状の空間を有している。
油溜まり1aが、釜軸10の油経路11よりもその径が大きな空間であることは勿論である。
また、外釜1には、油溜まり1aから内釜2に潤滑油Jを導く油導入路1bが設けられている。
【0020】
特に、この外釜1の油溜まり1aには、潤滑油Jを浸透可能な第一の浸透材50が配設されている。
油溜まり1aに収容される第一の浸透材50は、略円板形状を呈している。
この第一の浸透材50は、例えば、ポリウレタンなどの素材からなるフィルター状の部材である。第一の浸透材50は柔軟性を有している。
なお、第一の浸透材50が潤滑油Jを吸収したり放出したりすることができ、潤滑油Jを浸透可能であれば、他の素材を用いてもよい。
【0021】
釜軸10は、ミシンモータ(図示省略)によって回転されて、その一端部10aに連結されている外釜1を回転させる駆動軸である。釜軸10は、軸受20aを介して軸メタル部20に回転可能に支持されている。
この釜軸10は、その軸心に沿って形成されている油経路11を有している。
油経路11は、釜軸10の一端部10a側に開口11aを有して貫通している。
具体的には、貫通穴である油経路11の一端の開口11aが、釜軸10の一端部10aの端面に設けられており、釜軸10の他端側の側面に油経路11の他端の流入口11bが設けられている。
【0022】
この釜軸10の油経路11には、潤滑油Jを浸透可能な第二の浸透材40が配設されている。
ここでは、釜軸10の一端部10a側における油経路11に第二の浸透材40が配設されている。
油経路11に収容される第二の浸透材40は、略円柱形状を呈している。
この第二の浸透材40は、例えば、粒径が30μm程度のプラスチックの粉体を焼結結合によって固めてなる連続多孔体を素材とした部材である。
なお、第二の浸透材40が潤滑油Jを吸収したり放出したりすることができ、潤滑油Jを浸透可能であれば、他の素材を用いてもよい。
【0023】
具体的には、図1図2(a)(b)に示すように、略円柱形状を呈している第二の浸透材40は、略円筒状の取付金具41に挿し込まれ、内装された態様で釜軸10の油経路11に配設されている。
なお、本実施形態で用いた第二の浸透材40の径は3.2mmである。
略円筒状の取付金具41はその頭部に連通口41aを有しており、第二の浸透材40の端部が連通口41aから露出するように、取付金具41に第二の浸透材40が取り付けられている。
そして、取付金具41の外周面には雄ネジが設けられており、第二の浸透材40が取り付けられている取付金具41が油経路11の開口11a側に螺着されて、第二の浸透材40が油経路11内に設置されている。
なお、取付金具41の頭部下面には、OリングなどのパッキングPが備えられており、油経路11を流れる潤滑油Jが取付金具41の外側から漏れずに、第二の浸透材40に浸透するようになっている。
また、釜軸10の油経路11に設置されて、取付金具41の連通口41aから露出している第二の浸透材40は、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に接している。
【0024】
軸メタル部20には、釜軸10の油経路11(流入口11b)に連通する油路21が設けられている。
油路21には、オイルタンク(図示省略)から給油ポンプ(図示省略)によって循環される潤滑油Jが流れるようになっており、この油路21から流入口11bを通じて油経路11に潤滑油Jが流入する。
また、軸メタル部20には、油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節する油量調節部である油量調節ネジ30が配設されている。
具体的には、油量調節ネジ30を締めるようにして油路21を狭めて、油路21における潤滑油Jの油圧を上げるようにすると、油路21から流入口11bを通じて油経路11に流れ込む潤滑油Jが増えて、油経路11に流れる潤滑油Jの油量が増える。
また、油量調節ネジ30を緩めるようにして油路21を拡げて、油路21における潤滑油Jの油圧を下げるようにすると、油路21から流入口11bを通じて油経路11に流れ込む潤滑油Jが減って、油経路11に流れる潤滑油Jの油量が減る。
この油量調節ネジ30の締め付け具合を調整して、油路21に流れる潤滑油Jの流量や油圧を調整することで、油経路11に流れる潤滑油Jの流量や油圧を調節することができる。
【0025】
このように、実施形態1のミシン釜の給油装置100は、釜軸10の軸心に沿って形成されている油経路11と、油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節する油量調節ネジ30と、油経路11と連通している外釜1の油溜まり1aと、油溜まり1aから内釜2に潤滑油Jを導く油導入路1bと、釜軸10の油経路11に設置されている第二の浸透材40と、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50と、を備えて構成されており、第一の浸透材50と第二の浸透材40には潤滑油Jが浸透可能な素材を用いている。
【0026】
このような構成のミシン釜の給油装置100であれば、釜軸10の油経路11に流れる潤滑油Jが第二の浸透材40に浸透し、その第二の浸透材40を通じて潤滑油Jが外釜1の油溜まり1aの第一の浸透材50に浸透するようになっている。
そして、釜軸10の回転駆動に伴って外釜1が回転されると、その遠心力によって第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jが油溜まり1aから油導入路1bに送り出されて内釜2のレース面に供給されるようになる。
特に、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されており、その第一の浸透材50には第二の浸透材40を通じて供給された潤滑油Jが一定量含浸されるようになっているので、外釜1が回転された際に第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jを安定供給して、内釜2のレース面に給油することができる。
【0027】
例えば、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されておらず、その油溜まり1aが単なる空間である場合、第二の浸透材40に浸透された潤滑油Jを外釜1の遠心力によって油溜まり1aや油導入路1bに送り出すのには限界があるので、従来技術のように、油量調節ネジ30によって油経路11に流れる潤滑油Jの流量や油圧を調節するしかなく、それには上述したような問題があった。
これに対し、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されていれば、毛細管現象を利用して第二の浸透材40に浸透した潤滑油Jを第一の浸透材50に浸透させて、その第一の浸透材50に潤滑油Jを一定量含浸させておくことができるので、外釜1が回転された際に第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jをミシン釜3に安定供給することができる。
【0028】
つまり、実施形態1のミシン釜の給油装置100であれば、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に一定量の潤滑油Jを含浸させておくことができ、ミシンを作動させて外釜1を回転させた際に第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jをミシン釜3に供給することが可能になっているため、ミシン釜3への給油量が安定するので、ミシン釜3の発熱、焼付、摩耗を好適に抑えることができる。
【0029】
ここで、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されている場合と、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されていない場合において、それぞれミシン釜3に供給される潤滑油Jの給油量に関し、本発明者らが実験して調べた結果について説明する。
この実験では、ミシン釜3から内釜2を外し、その内釜2を外した箇所にろ紙を配した状態でミシンを作動させて外釜1を回転させ、遠心力によって外釜1の油導入路1bから飛散した潤滑油Jがろ紙に付着した油跡の面積を累積するように計測した。
ろ紙に付着した油跡の面積が大きいほど、ミシン釜3に供給される潤滑油Jの給油量が多いと判断することができる。
なお、ミシンモータの回転数が4000回転/分で、5秒間回転させる条件での計測を行った。
【0030】
実施形態1のミシン釜の給油装置100のように、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されている状態で、油量調節ネジ30によって油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節した場合、その油量調節ネジ30による調節がろ紙の油跡の面積にリニアに反映された。
具体的には、油量調節ネジ30を締めて油経路11に流れる潤滑油Jの油量を増やすと、それに比例するようにろ紙の油跡の面積が増え、油量調節ネジ30を緩めて油経路11に流れる潤滑油Jの油量を減らすと、それに比例するようにろ紙の油跡の面積が減るという実験結果が得られた。
【0031】
一方、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されていない状態で、油量調節ネジ30によって油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節した場合、その油量調節ネジ30による調節がろ紙の油跡の面積に反映され難いことが確認された。
具体的には、油量調節ネジ30を最も緩めた状態から三分の二程度まで締める範囲では、ろ紙の油跡の面積がほとんど変化せず、油跡の面積は比較的小さいのに対し、油量調節ネジ30を三分の二以上締めると、急激にろ紙の油跡の面積が増えるという実験結果が得られた。
【0032】
このような実験結果から、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されていることによって、油量調節ネジ30による潤滑油Jの流量の調節が、ミシン釜3に供給する潤滑油Jの給油量に反映され易いことがわかる。
つまり、実施形態1のミシン釜の給油装置100のように、外釜1の油溜まり1aに第一の浸透材50が設置されていれば、ミシン釜3に供給する潤滑油Jの給油量を調節し易いので、ミシン釜3への給油量が少な過ぎたり多過ぎたりすることなく、ミシン釜3への給油量を所望するように調整することができる。
このように、実施形態1のミシン釜の給油装置100であれば、ミシン釜3への潤滑油Jの給油量を安定させることができる。
【0033】
(実施形態2)
次に、本発明に係るミシン釜の給油装置の実施形態2について説明する。なお、実施形態1と同一部分には同符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0034】
実施形態2のミシン釜の給油装置100は、例えば、図3に示すように、釜軸10の軸心に沿って形成されている油経路11と、油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節する油量調節ネジ30と、油経路11と連通している外釜1の油溜まり1aと、油溜まり1aから内釜2に潤滑油Jを導く油導入路1bと、釜軸10の油経路11に設置されている第二の浸透材40と、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50と、を備えて構成されている。
特に、第二の浸透材40にはその一端から突出した突出部40aが設けられている。
この第二の浸透材40の突出部40aは尖頭形状を有しており、その細い突出部40aは第一の浸透材50に没入した態様で接触している。
【0035】
第二の浸透材40の突出部40aが第一の浸透材50に没入した態様で接触していることで、第二の浸透材40と第一の浸透材50とが密接するようになっており、第二の浸透材40と第一の浸透材50との接触面積も増えている。
【0036】
なお、図4(a)(b)に示すように、第二の浸透材40は、取付金具41の連通口41aから突出部40aを突き出した状態で取付金具41に取り付けられている。
【0037】
このように、釜軸10の油経路11に設置されている第二の浸透材40に、尖頭形状を有する突出部40aが設けられており、その突出部40aが外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に没入されて、第二の浸透材40と第一の浸透材50が接触していることで、第二の浸透材40から第一の浸透材50へ潤滑油Jが浸透し易くなっており、第一の浸透材50に潤滑油Jを好適に含浸させることができる。
【0038】
このような第二の浸透材40を備えている実施形態2のミシン釜の給油装置100であれば、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に潤滑油Jを含浸させ易くなっているので、ミシンを作動させて外釜1を回転させた際に第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jをミシン釜3に安定して供給することができ、ミシン釜3への給油量が安定する。
【0039】
(実施形態3)
次に、本発明に係るミシン釜の給油装置の実施形態3について説明する。なお、実施形態1と同一部分には同符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0040】
実施形態3のミシン釜の給油装置100は、例えば、図5に示すように、釜軸10の軸心に沿って形成されている油経路11と、油経路11に流れる潤滑油Jの流量を調節する油量調節ネジ30と、油経路11と連通している外釜1の油溜まり1aと、油溜まり1aから内釜2に潤滑油Jを導く油導入路1bと、釜軸10の油経路11に設置されている第二の浸透材40と、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50と、第二の浸透材40から第一の浸透材50に潤滑油Jを移動させることが可能な軸部材45等を備えて構成されている。
具体的には、図5図6(a)(b)に示すように、第二の浸透材40は取付金具41の頭部とは反対側の開口部分に取り付けられており、その第二の浸透材40に接触して取付金具41の内部に設置されている浸透部材42に軸部材45の一端部が没入され、軸部材45の他端部が取付金具41の頭部の連通口41aから露出して突き出した態様で設置されている。
また、取付金具41の連通口41aから突き出している軸部材45の他端部は、第一の浸透材50に没入されている。
【0041】
なお、軸部材45は、取付金具41の内部で浸透部材42に隣接して設置されているパッキング部材43の軸心部分と、パッキング部材43に隣接して取付金具41の頭部側に設置されているハウジング44の軸心部分とにそれぞれ挿通されており、軸部材45は取付金具41の内部においてパッキング部材43とハウジング44とによって支持されている。
このように、第二の浸透材40の一部とパッキング部材43とハウジング44と軸部材45は、取付金具41に内装された態様で釜軸10の油経路11に配設されている。
【0042】
軸部材45は、例えば、樹脂製の中空部材であり、第二の浸透材40から第一の浸透材50に潤滑油Jを移動させることが可能な毛細管構造を有している。
具体的には、図7(a)(b)に示すように、軸部材45は、その軸心に沿った狭小な貫通孔45aを有しており、その貫通孔45aの軸垂直断面形状は、複数に枝分かれした態様の分枝形状を呈している。
このように分枝形状を呈している狭小な貫通孔45aであれば、毛細管現象によって潤滑油Jが貫通孔45a内に浸透しやすく、貫通孔45aに沿って潤滑油Jが移動するようになる。
軸部材45の貫通孔45aの分枝形状は、図示した形状であることに限らず、毛細管現象によって潤滑油Jを貫通孔45a内に浸透させることができる形状であれば、他の形状であってもよい。
なお、本実施形態で用いた軸部材45の径は0.8mmである。
【0043】
浸透部材42は、例えば、ポリウレタンなどの素材からなる柔軟性を有するフィルター状の部材である。
浸透部材42が柔軟性を有しているので、浸透部材42に軸部材45の一端部を没入させることが可能になっている。
この浸透部材42には、第二の浸透材40を通じて潤滑油Jが浸透するようになっている。
そして、浸透部材42は第二の浸透材40と軸部材45の間に配設されており、第二の浸透材40から軸部材45に潤滑油Jを移動させるようになっている。
【0044】
パッキング部材43は、例えば、シリコンゴム製の部材であり、軸部材45を取付金具41の内部で支持するとともに、浸透部材42に浸透した潤滑油Jがパッキング部材43の外側から漏れないようにしている。
ハウジング44は、例えば、樹脂製の部材であり、軸部材45が取付金具41の内部で動かないように支持している。
【0045】
このような構成のミシン釜の給油装置100であれば、釜軸10の油経路11に流れる潤滑油Jが第二の浸透材40と浸透部材42に順に浸透し、浸透部材42に浸透している潤滑油Jが軸部材45を通じて外釜1の油溜まり1aの第一の浸透材50に浸透するようになっている。
特に、軸部材45の一端部が浸透部材42に没入しているので、浸透部材42に浸透している潤滑油Jが毛細管現象で軸部材45の貫通孔45aに浸透し易くなっている。
また、軸部材45の他端部が第一の浸透材50に没入しているので、軸部材45の貫通孔45aに浸透した潤滑油Jが毛細管現象で第一の浸透材50に浸透し易くなっている。
例えば、軸部材45の一端部を硬くて窪まない第二の浸透材40に直接突き当てて点接触させても、第二の浸透材40から軸部材45の貫通孔45aに潤滑油Jはほとんど浸透しないので、軸部材45の端部を没入可能な柔軟性を有する浸透部材42を介して第二の浸透材40から軸部材45に潤滑油Jを浸透させるようにした。
【0046】
こうして軸部材45を通じて浸透部材42から第一の浸透材50に潤滑油Jが浸透し、潤滑油Jが第一の浸透材50に含浸される。
そして、釜軸10の回転駆動に伴って外釜1が回転されると、その遠心力によって第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jが油溜まり1aから油導入路1bに送り出されて内釜2のレース面に供給されるようになる。
【0047】
このような軸部材45を備えている実施形態3のミシン釜の給油装置100であれば、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に潤滑油Jを含浸させ易くなっているので、ミシンを作動させて外釜1を回転させた際に第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jをミシン釜3に安定して供給することができ、ミシン釜3への給油量が安定する。
【0048】
以上のように、本実施形態のミシン釜の給油装置100は、外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に潤滑油Jを含浸させておくことができるので、ミシンを作動させて外釜1を回転させた際に第一の浸透材50に含浸されている潤滑油Jをミシン釜3に供給することができ、ミシン釜3への給油量が安定している。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
【0050】
上記実施形態2では、取付金具41の連通口41aから第二の浸透材40の端部が露出するとともに突出部40aを突き出した状態で、取付金具41に第二の浸透材40が取り付けられていたが、例えば図8に示すように、取付金具41の頭部に小孔41bが設けられており、その小孔41bから第二の浸透材40の突出部40aを突き出した状態で、取付金具41に第二の浸透材40が取り付けられていてもよい。
このような構成であっても、第二の浸透材40の突出部40aが外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に没入されて、第二の浸透材40と第一の浸透材50が接触していることで、第二の浸透材40から第一の浸透材50へ潤滑油Jが浸透し易くなっており、第一の浸透材50に潤滑油Jを好適に含浸させることができる。
【0051】
また、例えば図9に示すように、第二の浸透材40に軸部材45の一部が埋入されており、取付金具41の小孔41bから軸部材45を突き出した状態で、取付金具41に第二の浸透材40が取り付けられていてもよい。
このような構成であっても、第二の浸透材40に埋入されている軸部材45が外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に没入されて、軸部材45と第一の浸透材50が接触していることで、第二の浸透材40から軸部材45を介して第一の浸透材50へ潤滑油Jが浸透し易くなっており、第一の浸透材50に潤滑油Jを好適に含浸させることができる。
【0052】
また、上記実施形態3では、取付金具41の連通口41aからハウジング44が露出するとともに軸部材45を突き出した状態で、取付金具41に第二の浸透材40が取り付けられていたが、例えば図10に示すように、取付金具41の頭部に小孔41bが設けられており、その小孔41bから軸部材45を突き出した状態で、取付金具41に第二の浸透材40や軸部材45が取り付けられていてもよい。
このような構成であっても、第二の浸透材40と接触している浸透部材42に接触している軸部材45が外釜1の油溜まり1aに設置されている第一の浸透材50に没入されて、軸部材45と第一の浸透材50が接触していることで、第二の浸透材40から浸透部材42と軸部材45を介して第一の浸透材50へ潤滑油Jが浸透し易くなっており、第一の浸透材50に潤滑油Jを好適に含浸させることができる。
【0053】
なお、以上の実施の形態においては、いわゆる垂直釜であるミシン釜3を図示し、そのミシン釜3に潤滑油を給油するミシン釜の給油装置100を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、いわゆる水平釜に潤滑油を給油するミシン釜の給油装置であってもよい。
【0054】
また、以上の実施の形態においては、釜軸10の油経路11に第二の浸透材40を設置した態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第二の浸透材40を用いずに、釜軸10の油経路11から微細孔などを通じて外釜1の油溜まり1aの第一の浸透材50に潤滑油Jを供給して含浸させるようにしてもよい。
【0055】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 外釜
1a 油溜まり
1b 油導入路
2 内釜
3 ミシン釜
10 釜軸
10a 一端部
11 油経路
11a 開口
11b 流入口
20 軸メタル部
20a 軸受
21 油路
30 油量調節ネジ(油量調節部)
40 第二の浸透材
40a 突出部
41 取付金具
41a 連通口
41b 小孔
42 浸透部材
43 パッキング部材
44 ハウジング
45 軸部材
45a 貫通孔
50 第一の浸透材
100 ミシン釜の給油装置
J 潤滑油
図1
図2
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図8
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図10