(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145633
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】樹脂製マイクロニードルの形成方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61M37/00 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058072
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 暢宏
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB04
4C267BB48
4C267CC01
(57)【要約】
【課題】精密な機械加工をすることなく、円錐状以外の形状のマイクロニードルの雄型を形成する。
【解決手段】透明基板上にネガ型フォトレジストを塗布する工程と、
前記透明基板の前記ネガ型フォトレジストを塗布した面の裏面に、移動可能に正方形の透過部を有するマスクを配置する工程と、
前記マスクに対して前記透明基板とは反対側に配置され照射前方にロッドを有する光源を、前記透明基板の裏面にデフォーカスされた光源像である露光光源像ができるように前記透明基板と前記光源の距離を調節する工程と、
前記光源から光線を照射しながら前記マスク及び前記透明基板を前記光源に対し、前記露光光源像の大きさより小さい範囲でアステロイド様軌跡に相対的に移動させる工程を有する樹脂製マイクロニードルの形成方法は、側面に複雑な形状を有するほぼ円錐形状の樹脂製マイクロニードルを提供できる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上にネガ型フォトレジストを塗布する工程と、
前記透明基板の前記ネガ型フォトレジストを塗布した面の裏面に、透過部を有するマスクを移動可能に配置する工程と、
前記マスクに対して前記透明基板とは反対側に配置され照射前方にロッドを有する光源を、前記透明基板の裏面にデフォーカスされた光源像である露光光源像ができるように前記透明基板と前記光源の距離を調節する工程と、
前記光源から光線を照射しながら前記マスク及び前記透明基板を前記光源に対し、前記露光光源像の大きさより小さい範囲でアステロイド様軌跡に相対的に移動させる工程を有する樹脂製マイクロニードルの形成方法。
【請求項2】
前記露光光源像の大きさは、前記光源が前記透明基板の裏面にフォーカスされた光源像の大きさをDとして、1.5D以上5.0D以下である請求項1に記載された樹脂製マイクロニードルの形成方法。
【請求項3】
前記アステロイド様軌跡は、(1)式および(2)式で表され、Nは1以外の正の実数である請求項1または2の何れかに記載された樹脂製マイクロニードルの形成方法。
【数10】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面形状が複雑で表面積が大きい樹脂製マイクロニードルの形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として薬効を有する機能性物質を含む素材で、高さ100~1000マイクロメートル、アスペクト比(高さ/底面の直径)が3~9の円錐状の針で構成されるマイクロニードルが知られている。
【0003】
マイクロニードルは、皮膚への穿刺性を高めるために、さまざまな形状のものが提案されている。特許文献1には、先端に平板状のブレードをつけたものや、先端の断面を星形形状にしたものが示されている。また、特許文献2にも先端を星形にし、穿刺性を高めたマイクロニードルが示されている。
【0004】
これらのマイクロニードルの製造方法は、金属や樹脂を機械加工することで、マイクロニードルの雄型を製造し、この雄型で樹脂等に雌型を形成する。この雌型に薬剤などの所望の材料を流し込むことで薬剤や樹脂といった材料で形成されたマイクロニードルを形成する。
【0005】
特許文献3には、ネガ型フォトレジストを透明基板上に塗布し、透明基板の裏側からマスク越しに紫外線を照射し、透明基板とマスクを光源に対して所定の半径で円運動をすることでマイクロニードルの雄型を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/047437号
【特許文献2】特開2015-116335号公報
【特許文献3】特開2017-202302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載された方法は、1000マイクロメートル以下の微細な針形状を複数個同時に、しかも精密な機械加工することなく製造できる点で非常に有用である。しかし、光源に対して円運動をすることで、ネガ型フォトレジストを円錐状に露光するため、円錐状以外の形状のマイクロニードルの雄型を形成することは容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、透明基板上に塗布したネガ型フォトレジストを透明基板裏側からマスク越しに露光する方法でありながら、断面星形様形状のマイクロニードルの雄型(以後「マイクロニードルの雄型」を「樹脂製マイクロニードル」と呼ぶ。)を形成方法を提供する。
【0009】
より具体的に本発明に係る樹脂製マイクロニードルの形成方法は、
透明基板上にネガ型フォトレジストを塗布する工程と、
前記透明基板の前記ネガ型フォトレジストを塗布した面の裏面に、透過部を有するマスクを移動可能に配置する工程と、
前記マスクに対して前記透明基板とは反対側に配置され照射前方にロッドを有する光源を、前記透明基板の裏面にデフォーカスされた光源像である露光光源像ができるように前記透明基板と前記光源の距離を調節する工程と、
前記光源から光線を照射しながら前記マスク及び前記透明基板を前記光源に対し、前記露光光源像の大きさより小さい範囲でアステロイド様軌跡に相対的に移動させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る樹脂製マイクロニードルは、光源からの光線をデフォーカスさせ、ネガ型フォトレジストへの照射光源像に強弱の分布を与え、光源とネガ型フォトレジストの相対運動をアステロイド様軌跡としたので、側面に複雑な形状を有する略円錐形状を有する。この複雑な形状には、断面星形様の形状も含まれる。
【0011】
その結果、皮膚への穿刺性の向上や表面積の増大を図ることができる形状の樹脂製マイクロニードルを機械加工の工程を経ることなく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る樹脂製マイクロニードルを作製するための装置の構成を示す図である。
【
図3】マスク基板間距離を広げ、デフォーカスした露光光源像の様子を示す写真である。
【
図4】露光光源像がデフォーカスされる様子を模式的に説明する図である。フォーカス状態(a)、露光光源像の大きさが2Dの場合(b)、仮想光源像同士が接する場合(c)、露光光源像の大きさが3Dの場合(d)を示す。
【
図5】デフォーカスされた露光光源像をアステロイド様軌跡で移動させる様子を示す図である。
【
図6】
図5が進行した結果透明基板上に形成される露光パターンを示す図である。
【
図7】実施例に使用した露光光源像とアステロイド様軌跡を示す図である。
【
図8】
図7の露光光源像とアステロイド様軌跡によって、実際に作製された樹脂製マイクロニードルの平面図(c)、側面図(d)および、シミュレーションによって求められた平面図(a)、側面図(b)である。
【
図9】N=2の場合のアステロイド様軌跡で形成される樹脂製マイクロニードルのシミュレーション像で、平面図(a)、側面図(b)、斜視図(c)である。
【
図10】N=1.5の場合のアステロイド様軌跡で形成される樹脂製マイクロニードルのシミュレーション像で、平面図(a)、側面図(b)、斜視図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る樹脂製マイクロニードルの形成方法について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0014】
図1に本発明に係る樹脂製マイクロニードル44(
図8(c)および(d)参照)を形成する形成装置1の構成を示す。樹脂製マイクロニードル44を形成するには、フォトレジスト10を塗布した透明基板12を保持する基板保持部14と、マスク16と、マスク保持部18と紫外線照射装置20と、少なくともマスク保持部18を制御する制御部24で構成される。
【0015】
透明基板12は、使用する紫外線が透過すれば、特に材質は限定されない。ガラスや硬質樹脂などはもちろん、可撓性を有する樹脂材などであってもよい。厚さは強度の制限が許す限り薄い方がよい。本発明の樹脂製マイクロニードル44の形成方法においては、紫外線は透明基板12を通過してからフォトレジスト10を感光させる。したがって、透明基板12が厚いと紫外線の浸透深さが浅くなるからである。つまり、透明基板12が厚くなると、高さの高い樹脂製マイクロニードルを形成しにくくなる。
【0016】
フォトレジスト10は、紫外線で感光することで、溶解度が低下するネガ型のフォトレジストが望ましい。本発明に係る樹脂製マイクロニードル44の形成方法では、感光した部分が残るタイプのものでなければならないからである。また、厚膜のポジ型レジストを透明基板12の裏面から感光すると、感光部分がフォトレジスト10の表面まで到達しなくなり、樹脂製マイクロニードル44を形成できない。
【0017】
基板保持部14は、透明基板12を保持する基板ホルダー14aと、紫外線照射装置20の光軸20c方向に基板ホルダー14aを移動可能にする基板アーム14bを含む。基板保持部14は、透明基板12の裏面側に紫外線照射装置20が配置された状態で、フォトレジスト10が塗布された透明基板12を固定でき、光軸20c方向への高さ調整が可能であればよい。すなわち、基板保持部14は手動で光軸20c方向への高さ調節を行う形態であってもよい。
【0018】
紫外線照射装置20は、光源20aと、光源20aの照射方向前方に配置されたロッド22で構成されている。ロッド22は、使用する波長の紫外線を内壁で全反射させることで仮想的に複数の光源があるように見せる部材である。ロッド22は使用する紫外線が十分な透過率で透過する材料であればよく、通常ガラスが使用される。
【0019】
ロッド22の形状は、四角柱が製造しやすく好適であるが、六角柱より角数の少ない角柱であればよい。また、角柱の側面内壁部分を鏡面にした貫通孔であってもよい。そのような部材であっても、本発明におけるロッド22とすることができる。
【0020】
また、ロッド22の入射端および出射端には、入射端レンズ22aおよび出射端レンズ22bが構成されている。これらのレンズ22a、22bは、ガラス製のロッド22の両端を凸状に成型することでレンズとしてよい。また、内壁がガラスでできたロッド22であれば、両端に別途作製したレンズを取り付けてもよい。
【0021】
ロッド22は、入射端からロッド22内に入った光線が側面の内壁で全反射しながら進行し、出射端から出た光線は、所定の距離Lfでフォーカスするように設計される。また、紫外線照射装置20にはシャッター(図示は省略)が設けられていてもよい。
【0022】
マスク16は、紫外線を通過できる透過部16aと、紫外線を遮断する遮光部16bで構成される。材質は特に限定されるものではない。一定の強度があり平面を維持できるものであればよい。透過性の基板の上にフォトリソグラフィなどで形成した薄膜であってもよい。
【0023】
なお、マスク16を透過性の基板の上にフォトリソグラフィなどで形成した薄膜とした場合は、マスク16内部での光路長が増すと、垂直入射しない光はマスク16の表面で屈折するため、マスク16裏面でのパターンがより大きくなることとなり針の形状に影響が出る。具体的には根本が大きくなり、高さは低くなるので、基板は薄い方が好ましい。
【0024】
また、マスク16の透過部16aの形状は、特に限定されない。丸、三角、四角を初め、それ以外の形状であってもよい。複雑な形状になると、回折光の割合が増え、露光に時間がかかる。丸、三角、四角といった基本的な形状が好ましい。
【0025】
マスク保持部18は、マスク16を移動可能に保持することができる。ここで移動可能とは、平面内をX方向とY方向に自由にマスク16を移動させることができることを意味する。例えば、本体18c中に、X軸方向のモータとY軸方向のモータが備えられ、これらのモータに接続されたアーム18bがマスク16の保持枠18aに取り付けられた構成が例示できる。
【0026】
この構成では、アーム18bは、透明基板12と平行な平面内で自由に移動可能である。つまり、基板保持部14に対して平行な面内で、マスク16を保持した保持枠18aが相対的に移動可能に構成されている構成を得ることができる。
【0027】
制御部24は、MPU(Micro Processor Unit)とメモリで構成されるコンピュータで構成することができる。制御部24は、紫外線照射装置20と、マスク保持部18に接続される。基板保持部14が外部からの信号によって光軸20c方向への高さ調節が可能に構成されている場合は、制御部24は基板保持部14と接続されていてもよい。また、入力装置および表示装置(図示は省略)を有し、外部から制御部24へ指示を送ることができ、また制御部24の現在の状況を、表示装置を介して外部に伝えることができる。
【0028】
制御部24は、紫外線照射装置20に対して、シャッターの開閉および照射波長の切換を指示命令CLで指示する。また、制御部24は、マスク保持部18に対して、マスク16(保持枠18a)の移動パターンを指示命令CMによって指示する。また、制御部24は基板保持部14の光軸20c方向への高さ(マスク16と透明基板12との間の距離)を調節する指示命令CHを送信することもできる。
【0029】
なお、ロッド22とマスク16との間の距離は、ロッド22の焦点距離Lfに設定される。基板保持部14の光軸20c方向への高さ(マスク16と透明基板12との間の距離)の調節とは、このロッド22とマスク16との関係を保持したまま、透明基板12とマスク16との間の距離を変更できればよい。
【0030】
したがって、
図1では、透明基板12が基板保持部14によって光軸20cに沿って移動可能であるように説明したが、基板保持部14が固定され、マスク保持部18と紫外線照射装置20がまとまって、光軸20c方向に移動可能であるように構成されていてもよい。
【0031】
<形成工程の説明>
以上の構成を有する樹脂製マイクロニードル44の形成装置1において本発明に係る樹脂製マイクロニードル44の形成方法を実施する工程を説明する。
【0032】
まず、透明基板12上にフォトレジスト10を塗布する。フォトレジスト10の厚みが樹脂製マイクロニードル44の最大高さを決める。所望する樹脂製マイクロニードル44の高さより分厚い厚みでフォトレジスト10を塗布する。塗布の方法は特に限定されない。スピンコート法や、ディップ法が好適に利用できる。
【0033】
なお、塗布は透明基板12の一方の面だけでよい。1回の塗布で塗りきれない場合は、多層塗布を行ってもよい。塗布後は十分に乾燥させる。ベークが必要な場合はベークしてもよい。なお、通常は、図に示すように透明基板12よりフォトレジスト10の厚みは厚いが、フォトレジスト10は透明基板12より薄くてもよい。
【0034】
次にフォトレジスト10を塗布した透明基板12を基板保持部14に固定する。透明基板12は、フォトレジスト10を塗布した面を紫外線照射装置20と反対の方に向けて固定される。
【0035】
マスク16はマスク保持部18に固定される。マスク16は基板保持部14と紫外線照射装置20の間に配置されている。したがって、マスク16は、透明基板12のフォトレジスト10を塗布した面の裏面に移動可能に配置される。
【0036】
次に制御部24からの指示命令CHでフォトレジスト10が塗布された透明基板12をマスク16から所定の距離まで離す。マスク16と透明基板12までをマスク基板間距離Ldと呼ぶ。
【0037】
図2は
図1から説明に不要な部分を除いた図である。ロッド22から出射された光線はマスク基板間距離Ld=0の点(マスク16と透明基板12を密着させた状態)の場合は、マスク16の透過部16aの地点で出射光は焦点を結ぶ。
【0038】
出射端側から光源20aを見ると、光源20aからの光はロッド22の各側面の内壁面で反射した光が存在する。すなわち、ロッド22の各内壁面には光源20aの鏡像が見える。マスク基板間距離Ldがゼロの地点(光源20aの像がフォーカスされている地点)ではこれらの鏡像からの光が1つにまとまった状態であると言える。
【0039】
マスク基板間距離Ldを、Ld1およびLd2と長くすると、これら光源20aの鏡像からの光は透明基板12の表面の異なる位置で結像する。すなわち、ロッド22から出射された光をデフォーカスすることで、複数の光源20aの像が透明基板12の表面に現れる。各内壁からの光源20aの鏡像の個々を「仮想光源像」と呼ぶ。
【0040】
図3はロッド22からの出射光がフォーカスする位置にCCDカメラの撮像面を置き、ロッド22から離していった場合の像の変化を示す。
図3(a)はロッド22からの出射光がフォーカスする位置(マスク基板間距離Ldがゼロ)であり、
図3(b)は、Ld=Ld1(mm)、
図3(c)はLd2(mm)離した場合の像である。
【0041】
マスク基板間距離Ldをゼロにした場合は、ロッド22からの仮想光源像が1つになるように調節されている(フォーカスされている)が、マスク基板間距離Ldを離す(長くする)と、
図3(a)の状態からデフォーカスされ、Z2(mm)離す(
図3(c))と、複数の各仮想光源像を明確に確認することができる。なお、さらにマスクを離すこともできるが、全体として照度が低くなってしまい、露光には好適でない。また、透明基板12上にできる複数の仮想光源像からなる光源パターンを「露光光源像」と呼ぶ。マスク基板間距離がゼロとなり、仮想光源像が1つになった場合(フォーカス状態)にできた光源像も露光光源像と呼んでよい。
【0042】
図4は、マスク基板間距離Ldをゼロから離していった場合の、露光光源像の模式図である。
図4(a)は、マスク基板間距離Ldをゼロにした場合の露光光源像の状態を示す。この場合は、透明基板12の表面でロッド22からの仮想光源像は、1つに重なり合っている(フォーカスしている。)。この時の露光光源像の直径をDとする。また1つの仮想光源像を符号30で表す。
【0043】
図4(a)からマスク基板間距離Ldを長くする(マスク16と透明基板12間を離す)と、透明基板12の表面の露光光源像はデフォーカスされ広がる。広がった露光光源像の最も長い部分の長さを「露光光源像の大きさ」とする。ロッド22が四角柱の場合は、ロッド22の内壁面が4面あるので、仮想光源が4つ生じ、仮想光源像30は4つ発生する。各仮想光源像30がDだけ離れた場合が
図4(b)である。この場合の露光光源像の最長部分は2Dの長さになる。
【0044】
さらに各光源像が離れ、各仮想光源像30が互いに接する程度にまで離れると、露光光源像の長さは(2
0.5+1)Dの長さになる(
図4(c))。さらにデフォーカスが進むと露光光源像の大きさは3Dとなる(
図4(d))。本発明は、露光光源像の大きさが好ましくは1.5D以上5D以下、より好ましくは2D以上4D以下、より好ましくは2Dより大きく3.5D以下の大きさにデフォーカスさせて露光する。なお、回折光によって、淡い像も発生するこれを「淡い仮想光源像」とよび、符号32で表す。露光光源像の大きさを測定する場合は、淡い仮想光源像32は含めない。
【0045】
次に、制御部24からの指示命令CLで、紫外線がマスク16を介して透明基板12に照射される。それと同時に制御部24はマスク保持部18に指示命令CMを送信する。マスク保持部18は、決められた移動(運動)を開始する。
【0046】
ここでマスク保持部18は、アステロイド様軌跡を描く。アステロイド様軌跡とは、マスク保持部18のX方向とY方向が以下の(1)式および(2)式で表される動きである。
【0047】
【0048】
ここで、VはX方向およびY方向の最大振幅であり、Nは1以外の正の実数であり、πは円周率であり、fは周波数であり、tは時間である。なお、Nが1の場合は、アステロイド様軌跡は円となる。Nが奇数(整数)の場合はアステロイド曲線となり、Nが偶数(整数)の場合は、往復運動となる。また、Nが整数+0.5の場合は、直角二等辺三角形であり、Nが0.5の場合は1/4円の往復運動となる。
【0049】
また、Vは、露光光源像の大きさよりも小さい値であることが好ましい。Vが露光光源像の大きさより大きくなると、外輪山状の樹脂製マイクロニードルが形成されるからである。したがって、マスク16と光源20aは、露光光源像の大きさより小さい範囲でアステロイド様軌跡に相対的に移動されると言ってよい。なお、Vはゼロより大きな値である。
【0050】
図5(a)は露光光源像を表す。露光光源像の大きさは3Dである。光軸20c(
図1参照。)は、露光光源像の中心にある。
図5(b)は、露光光源像の移動軌跡となるアステロイド様軌跡である。横軸はX軸、縦軸はY軸である。移動軌跡は点線で表した。露光光源像の中心を光軸20cとする。移動軌跡は光軸20cの動きと考えてよい。
【0051】
より具体的には、光軸20cがX軸上のT1点から始動し、T2、T3,T4点まで1周する。
図5(c)は、T1の点にある露光光源像の中心(光軸20c)が、T2の点まで点線のアステロイド様軌跡上を移動する様子を示す。
【0052】
図6(a)は、露光光源像がT1からT4まで移動した状態を示している。また
図6(b)は、露光光源像が移動した領域を全て黒で塗りつぶした状態を示す。このように、仮想光源像30が4つ正方形の各頂点に並んだ露光光源像がアステロイド様軌跡で移動しながら露光すると、その露光領域は8つの角をもった八角形様の形状になる。
【0053】
以上のように、光源20aの照射前方にロッド22を配し、透明基板12の表にデフォーカスされた露光光源像を形成し、アステロイド様軌跡で移動させながら透明基板12の裏側に配置されたフォトレジスト10を露光すると、八角形様の露光領域を形成することができる。3次元方向でこのような露光を行うと、八角形様の側面を持った錘形状を形成することができる。
【実施例0054】
図8(c)および
図8(d)に、本発明に係る樹脂製マイクロニードルの形成方法によって実際に作製した樹脂製マイクロニードル44のSEM写真を示す。
図8(c)は上方からの平面図であり、
図8(b)は側面図である。このような樹脂製マイクロニードル44は以下のように作製された。
【0055】
ネガ型フォトレジストは、SU-8 3050(日本化薬社製)を用いた。基板として、厚さ170μmのガラス基板を用意し、アセトン、ガラス用洗浄剤、蒸留水、イソプロピルアルコールで洗浄した。
【0056】
次にガラス基板上にSU-8 3050を厚さ500μmの厚さになるまで複数回にわけて塗布した。次に95℃で1時間ベークし、その後室温まで除冷した。
【0057】
マスクは1辺50μmに正方形の透過開口を形成したものである。ロッド22は1辺1.5cmの正方形を断面とするガラス製のものである。ロッド22の両端面は垂直な断面とした。
【0058】
アステロイド様軌跡((1)式、(2)式)において、Vは50μmであり、Nは9であり、fは4Hzである。すなわち、露光光源像は4秒で1周する。
【0059】
図7を参照する。
図7(a)は露光光源像である。各仮想光源は明らかに4つに分割されている。ロッド22に断面が正方形のものを用いたので、4つの強い仮想光源像が観測されたと考えられる。なお、これらの強い仮想光源像からの光によって2次的な仮想光源が生じ、4つの強い仮想光源像の周辺に淡い像が観測された。露光光源像はおよそ3Dの大きさである。
図7(b)は移動軌跡である。これはN=9のアステロイド様軌跡である。
図7(b)では、原点付近以外ほとんど軸上を移動するパターンに見える。各軸上での最大移動距離を三角印で示した。
【0060】
図8(c)および
図8(d)には、すでに説明したように、上記のようにして作製した樹脂製マイクロニードル44のSEM写真を示す。全体が錘形状をしており、側面は八角形様の凹凸を有する樹脂製マイクロニードル44を得ることができた。
【0061】
図8(a)および
図8(b)は、
図7(a)および
図7(b)の諸元で樹脂を露光させた際に得られる樹脂製マイクロニードルの形状をシミュレーションしたものである。ただし、露光光源像には回折光はないとし、紫外線がフォトレジストに侵入する際の強度減少もないとしたものである。ほぼ実際に近い状態のシミュレーション結果を得ることができているのが判る。
【0062】
図9はアステロイド様軌跡((1)式、(2)式)において、Vを50μmであり、Nを2であり、fは4Hzとした場合である。
図9(a)は上からの平面視、
図9(b)は、側面視、
図9(c)は斜視図である。この場合露光光源像は往復運動をする。その結果、2峰を有する樹脂製マイクロニードルが形成される。
【0063】
図10は同じ条件でNを1.5にした場合である。
図10(a)は上からの平面視、
図10(b)は、側面視、
図10(c)は斜視図である。この場合は、露光光源像は直角二等辺三角形の軌跡を移動する。その結果、3つの峰を有する樹脂製マイクロニードルが形成される。
本発明に係る樹脂製マイクロニードルの形成方法は、側面に複雑な凹凸を有する錐型のマイクロニードルを提供する。結果、表面積の大きな、マイクロニードルの形成に好適に利用することができる。また、マイクロニードルだけでなく、基板上に直接3次元構造を形成することができるので、サブミリサイズの3次元パターンの形成に好適に利用できる。