(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145658
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】冷却プレート、及び冷却回路の変更方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/06 20060101AFI20241004BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B22C9/06 B
B22D17/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058107
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】米島 康弘
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093NB05
(57)【要約】
【課題】容易にかつ低コストに冷却プレートの冷却回路を変更可能とする。
【解決手段】この冷却プレート10は、金型2の冷却穴13に挿入される冷却ピン15を挿通可能なピン挿通路14と、ピン挿通路14に冷媒を供給可能な冷媒供給路16と、ピン挿通路14から冷媒を排出可能な冷媒排出路17とで構成される冷却回路18を備え、冷却回路18が収容された状態でプレート状に形成される。冷却回路の一部18aは、冷却プレート10の一部を分割してなる第一分割体25として、冷却回路18の残部23とつながる新たな冷却回路の一部18bが収容された第二分割体26と交換可能に構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の冷却穴に挿入される冷却ピンを挿通可能なピン挿通路と、前記ピン挿通路に冷媒を供給可能な冷媒供給路と、前記ピン挿通路から前記冷媒を排出可能な冷媒排出路とで構成される冷却回路を備え、前記冷却回路が収容された状態でプレート状に形成される冷却プレートにおいて、
前記冷却回路の一部が、前記冷却プレートの一部を分割してなる第一分割体として、前記冷却回路の残部とつながる新たな冷却回路の一部が収容された第二分割体と交換可能に構成されていることを特徴とする冷却プレート。
【請求項2】
前記冷却プレートには、前記分割体を嵌合可能な嵌合凹部が設けられており、前記第一及び第二分割体の外形と前記嵌合凹部の内形はともに直方体形状をなす請求項1に記載の冷却プレート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷却プレートと、型成形面の裏側に前記冷却プレートが取付けられる前記金型とを少なくとも備えた成形装置であって、
前記第一及び第二分割体に設けられた前記ピン挿通路の開口部周辺、又は前記開口部と当接する前記金型の前記冷却穴の開口部周辺に、前記冷媒の漏出を防止するための環状のシール部材が設けられている成形装置。
【請求項4】
金型の冷却穴に挿入される冷却ピンを挿通可能なピン挿通路と、前記ピン挿通路に冷媒を供給可能な冷媒供給路と、前記ピン挿通路から前記冷媒を排出可能な冷媒排出路とで構成される冷却回路を変更するための方法であって、
前記冷却回路が収容された状態でプレート状に形成される冷却プレートに所定の除去加工を施して前記冷却回路の一部を取り除いた後、前記冷却回路の残部とつながる新たな冷却回路の一部が収容された冷却回路ユニットを前記冷却プレートに取付ける、冷却回路の変更方法。
【請求項5】
前記除去加工として前記冷却プレートに貫通穴を開けることで前記冷却回路の一部を取り除くと共に、前記貫通穴の内形と前記冷却回路ユニットの外形をともに円筒形状とする請求項4に記載の冷却回路の変更方法。
【請求項6】
前記冷却回路ユニットの取付け方向後端部に、前記冷却回路ユニットの円周方向の一部が径方向外側に突出した凸状部を形成すると共に、前記貫通穴の貫通方向一端部に前記凸状部が嵌合する凹状部を形成する請求項5に記載の冷却回路の変更方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却プレート、及び冷却回路の変更方法に関し、特に金型を冷却するための冷却プレートの冷却回路を変更するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、数多くの自動車用部品が、アルミダイカスト法により成形されている。この場合、金型の型締めにより一対の金型間に形成されたキャビティにアルミなどの溶湯を射出した後、上記金型を冷却して、溶湯を固化することにより成形が行われる。金型の冷却は、金型に設けた多数の冷却穴に水などの冷媒を流通させることにより行われる。
【0003】
従来、冷媒の流通は、金型の冷却穴に挿入した冷却ピン(冷却管)に可撓性のホースを取付け、このホース及び冷却ピンを介して冷却穴の内部に冷却流体を流通させるのが一般的であった。しかしながら、この冷却構造で、シリンダブロックなどの複雑な形状の製品を成形しようとした場合、冷却穴の数の大幅な増加に伴い、ホースの数も大幅に増加するため、ホースの取付け作業に手間取り、また、ホースが絡まり易くなる結果、ホースが損傷し易い問題が生じる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、冷却ピンが挿入される冷却ピン挿入路と、冷却ピン挿入路に冷却流体を供給又は排出するための流路(冷却流体供給路、冷却流体排出路)とで構成される冷却回路を設けた冷却プレートが提案されている。このように、複雑な構造をなす冷却回路を独立してプレート状に作製することで、冷却回路が一枚のプレート内に全て収容されているので、金型への取付けが容易であり、かつ金型を含む成形装置全体の小型化にも寄与し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、特許文献1に記載の冷却プレートは、各流路を一体に設けた冷却回路を有する一つの部品であるため、一旦製作すると、その後に冷却回路を一部だけ変更することは難しい。実際には、金型の試作段階で、あるいは運用開始後において、金型の不具合対策や、冷却品質の改善が必要となる場合がある。しかしながら、冷却プレートは上述した理由から冷却ピン挿入路の配置を微調整するなどの軽微な変更であっても変更作業は容易ではなく、冷却品質の点で妥協し、あるいは多額の費用を投じて、変更後の冷却回路を備えた冷却プレートを製作し直すといった手段を選ばざるを得ないのが実情であった。
【0007】
以上の事情に鑑み、本明細書では、容易にかつ低コストに冷却プレートの冷却回路を変更可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係る冷却プレートによって達成される。すなわち、この冷却プレートは、金型の冷却穴に挿入される冷却ピンを挿通可能なピン挿通路と、ピン挿通路に冷媒を供給可能な冷媒供給路と、ピン挿通路から冷媒を排出可能な冷媒排出路とで構成される冷却回路を備え、冷却回路が収容された状態でプレート状に形成される冷却プレートにおいて、冷却回路の一部が、冷却プレートの一部を分割してなる第一分割体とされ、かつこの第一分割体が、冷却回路の残部とつながる新たな冷却回路の一部が収容された第二分割体と交換可能に構成されている点をもって特徴付けられる。
【0009】
このように、本発明に係る冷却プレートによれば、冷却プレートの一部を分割してなる第一分割体を、第二分割体と交換することで、冷却回路のうち第一分割体に収容される冷却回路の一部を、冷却回路の残部とつながる新たな冷却回路の一部に変更することができる。よって、例えば既存の冷却回路のうち所定のピン挿通路の位置を変更したい場合には、所定のピン挿通路を冷却回路の一部として含む第一分割体を、変更を希望する位置にピン挿通路が配置された第二分割体と交換するだけで、所定のピン挿通路の位置を容易に変更して、金型の冷却品質を高めることが可能となる。また、この構成によれば、冷却プレートの一部を分割構造(第一分割体)とし、かつ新たな冷却回路の一部が収容された冷却プレートの一部(第二分割体)を製作すれば足りるので、冷却プレート全体を新たに製作し直す場合と比べて製作コストを大幅に減らすことが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る冷却プレートにおいては、冷却プレートに、第一及び第二分割体を嵌合可能な嵌合凹部が設けられており、第一及び第二分割体の外形と嵌合凹部の内形はともに直方体形状をなしてもよい。
【0011】
このように構成するのであれば、冷却プレートの切断により第一分割体を取得する場合、汎用の切断手段を採用できる。また、直方体形状であれば、切断も容易であり、第二分割体の製作も容易である。さらには、直方体形状であれば、大まかな向きを合わせて取り付けるだけで、自動的に位置決めした状態で第二分割体を冷却プレートに取付けることができるので、作業性の面でも好ましい。
【0012】
以上の説明に係る冷却プレートは、当該冷却プレートと、型成形面の裏側に冷却プレートが取付けられる金型とを少なくとも備えた成形装置として提供可能である。また、この場合、第一及び第二分割体に設けられたピン挿通路の開口部周辺、又は開口部と当接する金型の冷却穴の開口部周辺に、冷媒の漏出を防止するための環状のシール部材が設けられてもよい。
【0013】
本発明に係る冷却プレートは、従来構造の冷却プレートと異なり、交換対象となる冷却回路の一部が、冷却回路の残部と構造的に切り離された状態にある。そのため、冷却回路の一部と残部とで端面同士を突き合わせて冷却回路を構成した場合においては、突き合わせ部における冷媒の漏出が懸念される。ここで、上述のように、各分割体に設けられたピン挿通路の開口部周辺、又はこの開口部と当接する金型の冷却穴の開口部周辺に環状のシール部材を設けることにより、突き合わせ部からの冷媒の漏出を効果的に防止できる。よって、分割構造とした場合であっても従来と同等に優れた冷却効果を長期にわたって享受することが可能となる。
【0014】
また、前記課題の解決は、本発明に係る冷却回路の変更方法によっても達成される。すなわち、この変更方法は、金型の冷却穴に挿入される冷却ピンを挿通可能なピン挿通路と、ピン挿通路に冷媒を供給可能な冷媒供給路と、ピン挿通路から冷媒を排出可能な冷媒排出路とで構成される冷却回路を変更するための方法であって、冷却回路が収容された状態でプレート状に形成される冷却プレートに所定の除去加工を施して冷却回路の一部を取り除いた後、冷却回路の残部とつながる新たな冷却回路の一部が収容された冷却回路ユニットを冷却プレートに取付ける点をもって特徴付けられる。
【0015】
例えば、実際に冷却プレートの運用を開始した後、運用状況に鑑みてピン挿通路が存在しない箇所に新たにピン挿通路を設けたい要求が生じる事態が想定される。このような場合、冷却プレートのピン挿通路を設けたい箇所に除去加工を施して、冷却回路の一部、特に冷媒供給路と冷媒排出路の一部を除去する。そして、上記所望の位置にピン挿通路が配置され冷却回路の残部とつながる新たな冷却回路の一部が収容された冷却回路ユニットを作製し、冷却プレートに取付ける。これにより、除去加工及び冷却回路ユニットの作製が必要最小限の範囲で済むので、これら冷却回路の変更を容易にかつ低コストに実施することが可能となる。ひいては、金型の冷却品質を低コストに高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る冷却回路の変更方法において、除去加工として冷却プレートに貫通穴を開けることで冷却回路の一部を取り除いてもよい。また、この場合、貫通穴の内形と冷却回路ユニットの外形をともに円筒形状としてもよい。
【0017】
本発明に係る変更方法によれば、必要最小限の範囲で冷却プレートに除去加工を施すことができるので、貫通穴を開けることにより、穴開け加工のような汎用な加工でより簡易にかつ安価に冷却回路の一部を取り除くことができる。また、貫通穴を開けるのであれば、ドリル等の穴開け加工を用いることにより貫通穴の内形が円筒形状となるので、冷却回路ユニットについても対応する外形(円筒形状)にすることで、冷却回路の変更に要する手間及びコストをさらに減らすことが可能となる。
【0018】
また、上述のように貫通穴及び冷却回路ユニットを円筒形状に形成する場合、本発明に係る冷却回路の変更方法においては、冷却回路ユニットの取付け方向後端部に、冷却回路ユニットの円周方向の一部が径方向外側に突出した凸状部を形成すると共に、貫通穴の貫通方向一端部に凸状部が嵌合する凹状部を形成してもよい。
【0019】
既述のように、本発明に係る変更方法によれば、必要最小限の範囲で冷却回路の一部を取り除くことができる。その一方で、必要最小限の範囲で冷却プレートに円筒形状の貫通穴を開ける場合、開けた貫通穴の中心とピン挿通路の中心とが一致しない場合も起こり得る。よって、冷却回路ユニットの取付け方向後端部に、冷却回路ユニットの円周方向の一部が径方向外側に突出した凸状部を形成すると共に、貫通穴の貫通方向一端部に凸状部が嵌合する凹状部を形成することにより、貫通穴に冷却回路ユニットを嵌め合わせるのと同時に貫通穴に対する冷却回路ユニットの円周方向の位置決めを図ることができる。よって、容易にかつ確実にピン挿通路を正確な位置に配置することができ、冷却品質の更なる向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、容易にかつ低コストに冷却プレートの冷却回路を変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る成形装置の断面図である。
【
図3】
図2に示す冷却プレートの全体構成を示す平面図である。
【
図4】
図3に示す第一分割体に含まれるピン挿通路のB-B断面図である。
【
図5】
図3に示す(a)ボルト挿通路の断面図、及び(b)押出しピン挿通路の断面図である。
【
図6】
図3に示す第一分割体と交換可能な第二分割体の平面図である。
【
図7】本発明の第二実施形態に係る冷却回路の変更方法の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図7に示す除去加工工程を説明するための図で、(a)冷却回路の一部を除去する前の状態を示すC部平面図、(b)冷却回路の一部を除去した後の状態を示すC部平面図、(c)さらに追加工を施した後の状態を示すC部平面図である。
【
図9】
図8に示す貫通穴に嵌合可能な冷却回路ユニットの平面図である。
【
図10】
図9に示す冷却回路ユニットのD-D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る冷却プレート、及びこのプレートの冷却回路の変更方法の一実施形態を図面に基づき説明する。なお、本実施形態では、アルミダイカストを成形する成形装置に本発明に係る冷却プレートを用いる場合を例にとって、以下に説明する。
【0023】
図1は、本発明の第一実施形態に係る成形装置1の断面図、
図2は、
図1に示す成形装置1のA-A断面図をそれぞれ示している。
図1に示すように、この成形装置1は、一対の金型2,3と、これら一対の金型2,3をそれぞれ支持する一対の支持部材4,5とを主に備える。各金型2,3はそれぞれ主型6,7と入子8,9とを有し、各主型6,7と各入子8,9との間には冷却プレート10,11が配設されている。本実施形態では、各入子8,9の主型6,7側の表面8a,9aに冷却プレート10,11が取り付けられると共に、各主型6,7の入子8,9側の表面6a,7aに冷却プレート10,11を収容可能な凹部6b,7bが形成され、これら凹部6b,7bに冷却プレート10,11が収容されている。
【0024】
そして、一対の金型2,3間に形成されたキャビティ12にアルミ溶湯などの溶融材料が充填(射出)されると、冷却プレート10,11を通じて各入子8,9に冷却水などの冷媒が供給され、各入子8,9、ひいては各入子8,9間のキャビティ12に充填された溶融材料が冷却固化し、キャビティ12に準じた形状の成形品が成形される。
【0025】
この際、例えば固定型となる一方の金型2の側における入子8の主型6側の表面8aには、
図2に示すように、型締め方向に伸びる冷却穴13が開口形成されており、冷却プレート10のピン挿通路14を介して冷却ピン15が冷却穴13に挿入されている。そして、ピン挿通路14とつながる冷却プレート10の冷媒供給路16を通じて、ピン挿通路14さらには冷却ピン15の軸方向穴15aに冷媒が供給され、冷却ピン15の軸方向穴15aを通じて、入子8の冷却穴13の底部13aに冷媒が供給される。冷却穴13の底部13aに供給された冷媒は、冷却ピン15の外周面と冷却穴13の内周面との間、さらにはピン挿通路14とつながる冷媒排出路17を通って、冷却穴13から排出される。このようにして、冷媒が冷却穴13に循環供給されることにより冷却穴13の周縁が冷却され、冷却穴13の底部13a近くに位置するキャビティ12内の材料が効果的に冷却される。
【0026】
以下では、まず一方の金型2側の冷却プレート10の基本構成について説明し、次いで本発明の特徴的構成である冷却プレート10の分割構造について説明する。
【0027】
冷却プレート10は、
図3に示すように、冷媒を所定の態様で流通させるための冷却回路18を備える。冷却回路18は、上述したように、複数のピン挿通路14と、ピン挿通路14に冷媒を供給可能な冷媒供給路16と、ピン挿通路14から冷媒を排出可能な冷媒排出路17とを有する。本実施形態では、冷却回路18は、冷却プレート10をボルト締めにより入子8に固定するためのボルト挿通路19と、押出しピンを入子8の押出しピン挿入穴(ともに図示は省略)に挿入するための押出しピン挿通路20とをさらに有する。
【0028】
ピン挿通路14は例えば円筒形状をなし、冷却プレート10の双方の主表面10a,10bに開口している。言い換えると、ピン挿通路14は冷却プレート10をその厚み方向に貫通している(
図3及び
図4を参照)。本実施形態では、ピン挿通路14は、内径寸法を軸方向で異ならせた形状をなしており、冷却ピン15の挿通開始側となる一端側において相対的に大径となる大径部14bと、他端側において相対的に小径となる小径部14cとを一体に有する。
【0029】
また、ピン挿通路14の円周方向所定位置には、ピン挿通路14と連通する冷媒供給路16及び冷媒排出路17が接続される。本実施形態では、冷媒供給路16と冷媒排出路17がともにピン挿通路14を径方向に貫通するように、一本のピン挿通路14につき各一本の冷媒供給路16と冷媒排出路17とがピン挿通路14に接続されている。ピン挿通路14を径方向に貫通している軸方向の位置は、冷媒供給路16と冷媒排出路17とで互いに異なっている。本実施形態では、冷媒供給路16がピン挿通路14の一端側に位置する大径部14bを径方向に貫通し、冷媒排出路17がピン挿通路14の他端側に位置する小径部14cを径方向に貫通している。なお、
図4では、冷媒供給路16と冷媒排出路17とが同じ円周方向位置でピン挿通路14と接続されている場合を例示しているが、もちろん異なる円周方向位置で冷媒供給路16と冷媒排出路17とがピン挿通路14に接続されてもよい。
【0030】
冷媒供給路16はその長手方向両端部で冷却プレート10の側面10cに開口しており、ホース等(図示は省略)の接続により外部との間で冷媒の流通を図っている。同様に、冷媒排出路17はその長手方向両端部で冷却プレート10の側面10cに開口しており、ホース等(図示は省略)の接続により外部との間で冷媒の流通を図っている。
【0031】
ここで、冷却ピン15は、例えばピン挿通路14に準じた形状をなし、基端側で相対的に大径となる大径部15bと、先端側で相対的に小径となる小径部15cとを有する。また、冷却ピン15をピン挿通路14に挿通してその先端開口部を冷却穴13の底部13a付近まで挿入した状態で、ピン挿通路14とその径方向で連通する冷媒供給路16と対向する位置に径方向の貫通穴15dが設けられる。この貫通穴15dは、先端開口部まで延びる軸方向穴15aとつながっている(
図4を参照)。
【0032】
また、本実施形態では、ピン挿通路14と冷却ピン15との間に一又は複数のシール部材21aが取り付けられている。
図4に示す例でいえば、冷却ピン15の大径部15b外周と、大径部15bよりも一端側(挿通開始側)に位置するヘッド部15eの外周とに環状のシール部材21aがそれぞれ取り付けられている。これにより、ピン挿通路14と冷却ピン15との間の空間のうち、冷媒供給路16が接続される空間(供給側空間22a)と、冷媒排出路17が接続される空間(排出側空間22b)とが各シール部材21aにより区画された状態となる。
【0033】
上述のようにピン挿通路14と冷媒供給路16及び冷媒排出路17とが接続されると共に冷却ピン15が挿通された構造を採る場合、上流側の冷媒供給路16(16b)を通ってピン挿通路14へ供給された使用前(冷却前)の冷媒の一部はピン挿通路14と冷却ピン15との間の供給側空間22aに流入した後、貫通穴15d次いで軸方向穴15aを通って冷却ピン15の先端側(冷却穴13の底部13a側)に向けて流れると共に、上記供給された冷媒の残部は貫通穴15dを通過して下流側の冷媒供給路16(16c)へと流れるようになっている(
図4を参照)。
【0034】
また、冷却ピン15の軸方向穴15aを通じて冷却穴13の底部13aに供給された冷媒は、共に排出側空間22bとなる冷却穴13と冷却ピン15との間、及び、ピン挿通路14の小径部14cと冷却ピン15の小径部15cとの間の空間を通過して、上流側の冷媒排出路17(17b)から冷却ピン15の貫通穴15dを通過した冷媒とともに、下流側の冷媒排出路17(17c)へと流れるようになっている(
図4を参照)。
【0035】
ボルト挿通路19は、冷却プレート10(特に後述する冷却プレート10のプレート本体23)をボルト締めにより入子8に固定するための穴であって、例えば
図5(a)に示すように円筒形状をなす。
【0036】
押出しピン挿通路20は、押出しピンを入子8の押出しピン挿入穴に挿入するための穴であって、例えば
図5(b)に示すように円筒形状をなす。
【0037】
上記構成の冷却回路18は、任意の手段で形成することが可能である。本実施形態では、冷却回路18は、全てのピン挿通路14と、冷媒供給路16と、冷媒排出路17と、ボルト挿通路19と、押出しピン挿通路20とを金属製プレートに穴開け加工により形成することにより一体に構成される。
【0038】
冷却プレート10は上述した回路構造をなす一方で、所定の分割構造をなす。すなわち、この冷却プレート10は、
図3及び
図6に示すように、冷却プレート10の大部分をなすプレート本体23と、冷却プレート10の一部をなし、プレート本体23に対して分割された状態の第一分割体25と、第一分割体25と交換可能に構成されている第二分割体26とを備える。この場合、第一分割体25の内部に形成される冷却回路18の一部(以下、第一部分回路18a)と、第二分割体26の内部に形成される新たな冷却回路の一部(以下、第二部分回路18b)とは、少なくとも一部のピン挿通路14の配置態様において互いに相違している。
【0039】
本図示例では、第一分割体25に設けられた複数のピン挿通路14のうち、
図3に示すように第一分割体25を平面視した状態で、第一分割体25の右側領域に設けられた第一ピン挿通路14Aの位置と、
図6に示す第二分割体26の右側領域に設けられた第二ピン挿通路14Bの位置とが相違している。この場合、第一分割体25の第一ピン挿通路14Aと接続される第一冷媒供給路16Aと第二分割体26の第二ピン挿通路14Bと接続される第二冷媒供給路16Bとはその形状が異なっている。同様に、第一分割体25の第一ピン挿通路14Aと接続される第一冷媒排出路17Aと第二分割体26の第二ピン挿通路14Bと接続される第二冷媒排出路17Bとはその形状が異なっている。一方で、第一分割体25の第一冷媒供給路16Aの端部開口位置は、第二分割体26の第二冷媒供給路16Bの端部開口位置と一致している。同様に、第一分割体の第一冷媒排出路17Aの端部開口位置は、第二分割体26の第二冷媒排出路17Bと一致している。
【0040】
ここで、第一分割体25と第二分割体26の何れか一方を含む冷却プレート10として、何れか一方の分割体25(26)とプレート本体23とを一体に作製した後、何れか一方の分割体25(26)のみを所定の機械加工でプレート本体23から切り出してもよい。あるいは、プレート本体23と第一分割体25,及び第二分割体26を何れも独立した状態で作製してもよい。
【0041】
冷却プレート10のプレート本体23には、各分割体25,26を嵌合可能な嵌合凹部23aが設けられている(
図3を参照)。この場合、第一及び第二分割体25,26の外形と嵌合凹部23aの内形はともに直方体形状をなしている。本実施形態では、各分割体25,26とプレート本体23とに跨ってボルト穴(図示は省略)が形成されており、このボルト穴にボルトを締結することにより、何れか一方の分割体25(26)とプレート本体23とが連結固定される。
【0042】
第一及び第二分割体25,26に設けられたピン挿通路14の開口部14d周辺、又は開口部14dと当接する入子8の冷却穴13の開口部13b周辺に、冷媒の漏出を防止するための環状のシール部材21bが設けられている(
図4を参照)。また、本実施形態では、各分割体25,26に設けられた冷媒供給路16のプレート本体23側の開口部16d又はその周辺に環状のシール部材21cが設けられると共に、各分割体25,26に設けられた冷媒排出路17のプレート本体23側の開口部17d又はその周辺に環状のシール部材21cが設けられている(何れも
図4を参照)。
【0043】
なお、各分割体25,26のピン挿通路14に対応する位置に新たな冷却穴13を設ける場合、図示は省略するが、直前の冷却穴13を適当な材料(アルミなど)で埋めて、新たな冷却穴13を穴開け加工により形成すればよい。
【0044】
以上述べたように、本実施形態に係る冷却プレート10では、ともに冷却プレート10の一部をなす第一分割体25と、第二分割体26とを交換可能な構成としたので、冷却回路18のうち第一分割体25に収容される冷却回路18の一部(第一部分回路18a)を、冷却回路18の残部とつながる新たな冷却回路18の一部(第二部分回路18b)に変更することができる。よって、例えば既存の冷却回路18のうち所定のピン挿通路14(第一ピン挿通路14A)の位置を変更したい場合には、所定のピン挿通路14Aを冷却回路18の一部18aとして含む第一分割体25を、変更を希望する位置にピン挿通路14Bが配置された第二分割体26と交換するだけで、所定のピン挿通路14Aの位置を容易に変更して、一方の金型2の冷却品質を高めることが可能となる。また、この構成によれば、冷却プレート10の一部を分割構造(第一分割体25)とし、かつ新たな冷却回路の一部18bが収容された冷却プレート10の一部(第二分割体26)を製作すれば足りるので、冷却プレート10全体を新たに製作し直す場合と比べて製作コストを大幅に減らすことが可能となる。
【0045】
また、本実施形態のように、第一及び第二分割体25,26の外形と、これら分割体25,26が嵌合する嵌合凹部23aの内形をともに直方体形状とした場合、冷却プレート10を直線的に切断するだけで、第一分割体25を取得できる。また、第二分割体26の製作も容易である。さらには、嵌合凹部23aと第二分割体26が直方体形状であれば、大まかな向きを合わせて取り付けるだけで、自動的に位置決めした状態で第二分割体26を冷却プレート10に取付けることができるので、作業性の面でも好ましい。
【0046】
なお、
図3に示す例では、第二分割体25が冷却プレート10の側面10cの一部を構成する場合を例示したが、もちろんこれ以外の形態をとることも可能である。例えば図示は省略するが、第一分割体25となる冷却プレート10の所定部分を任意の機械加工で切り出して冷却プレート10のプレート本体23に嵌合凹部23aとしての嵌合穴を貫通形成すると共に、この嵌合穴に嵌り合う形状の第二分割体26を作製してもよい。
【0047】
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明に係る冷却プレート、及びこの冷却回路の変更方法は、上記例示の構成に限られることなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能なことはもちろんである。
【0048】
図7は、本発明の第二実施形態に係る冷却回路の変更方法の流れを示すフローチャートを示している。この図に示すように、本実施形態に係る冷却回路の変更方法は、冷却プレート10に除去加工を施して冷却回路18の一部を取り除く回路除去工程S1と、新たな冷却回路の一部18cが収容された冷却回路ユニット29を作製する回路ユニット作製工程S2と、除去加工により冷却プレート10に設けた貫通穴27に冷却回路ユニット29を取り付けるユニット取付け工程S3とを備える。
【0049】
(S1)回路除去工程
本工程S1では、冷却プレート10の新たにピン挿通路14を設けたい箇所に除去加工を施す。具体的には、新たに設けたいピン挿通路14Cに接続される冷媒供給路16C及び冷媒排出路17C(何れも後述する
図9を参照)が、既存の冷媒供給路16及び冷媒排出路17(
図8を参照)とつながるように、冷却プレート10の冷却回路18の一部に除去加工を施す。本実施形態では、既存のボルト挿通路19と、その両側に位置する冷媒供給路16及び冷媒排出路17の一部(内側部分)を穴明け加工により取り除く(
図8(a)及び
図8(b)を参照)。これにより、除去加工を施した箇所には冷却プレート10を厚み方向に貫通する貫通穴27が形成される。
【0050】
また、本実施形態では、貫通穴27の貫通方向一端部(本図示例では紙面手前側の端部)に後述する冷却回路ユニット29の凸状部30(
図10を参照)が嵌合する凹状部28を追加工により形成する(
図8(c)を参照)。
【0051】
(S2)回路ユニット作製工程
本工程S2では、新たに設けたいピン挿通路14Cを含む冷却回路の一部(第三部分回路18c)が収容された冷却回路ユニット29を作製する。この冷却回路ユニット29についても、
図3に示す冷却プレート10と同様、第三部分回路18cをインサート部品とするインサート成形により第三部分回路18cの周辺空間を型成形部24で埋めた形態(
図10を参照)に成形するのがよい。本実施形態では、新たなピン挿通路14Cを径方向に貫通し、除去加工工程S1で一部を除去した冷媒供給路16及び冷媒排出路17とつながるように、新たな冷媒供給路16Cと冷媒排出路17Cとが新たなピン挿通路14Cと一体に形成される(
図9及び
図10を参照)。また、本実施形態では、貫通穴27の貫通方向一端部に設けた凹状部28(
図8(c)を参照)と嵌り合う凸状部30を、冷却回路ユニット29の軸方向一端部に一体に設ける(
図10を参照)。
【0052】
(S3)回路ユニット取付け工程
然る後、作製した冷却回路ユニット29を、冷却プレート10の貫通穴27に嵌合して取り付ける。本実施形態では、冷却回路ユニット29から径方向に突出する凸状部30が一体に設けられているので、この凸状部30を貫通穴27の凹状部28と嵌り合うように円周方向の位置決めを行うことで、冷却プレート10における新たなピン挿通路14の位置決めが正確になされるとともに、既存の冷媒供給路16及び冷媒排出路17に新たな冷媒供給路16Cと冷媒排出路17Cが接続された状態となる。
【0053】
以上述べたように、本実施形態に係る冷却回路の変更方法によれば、新たにピン挿通路14Cを設けたい箇所に除去加工を施すと共に、上記所望の位置にピン挿通路14Cが配置され冷却回路18の残部とつながる新たな冷却回路の一部18c(ピン挿通路14C、冷媒供給路16C、冷媒排出路17)が収容された冷却回路ユニット29を作製するだけで、冷却回路18の変更が可能になる。この方法であれば、除去加工及び冷却回路ユニット29の作製が必要最小限の範囲で済むので、これら冷却回路18の変更を容易にかつ低コストに実施することが可能となる。ひいては、金型2の冷却品質を低コストに高めることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、除去加工として冷却プレート10に貫通穴27を開けることで冷却回路18の一部を取り除くようにしたので、穴開け加工のような汎用な加工でより簡易にかつ安価に冷却回路18の一部を取り除くことができる。また、貫通穴27を開けるのに、ドリル等の穴開け加工を用いることにより貫通穴27の内形が円筒形状となるので、冷却回路ユニット29についても対応する外形(円筒形状)にすることで、冷却回路18の変更に要する手間及びコストをさらに減らすことが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、円筒形状の貫通穴27を形成して、この貫通穴27に嵌り合う外形(円筒形状)の冷却回路ユニット29の取付け方向後端部に、冷却回路ユニット29の円周方向の一部が径方向外側に突出した凸状部30を形成すると共に、貫通穴27の貫通方向一端部に凸状部30が嵌り合う凹状部28を形成したので、貫通穴27に冷却回路ユニット29を嵌め合わせるのと同時に貫通穴27に対する冷却回路ユニット29の円周方向の位置決めを図ることができる。よって、容易にかつ確実に新たなピン挿通路14Cと冷媒供給路16C、及び冷媒排出路17Cを正確な位置に配置することができ、冷却品質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0056】
なお、以上の説明では、固定型となる一方の金型2に係る冷却プレート10に本発明を適用した場合を説明したが、もちろん本発明の適用対象はこれには限られない。例えば固定型となる一方の金型2に加えて、可動型となる他方の金型3に係る冷却プレート11に本発明を適用してもよい。あるいは、可動型となる他方の金型3に係る冷却プレート11のみに本発明を適用してもよい。
【0057】
なお、以上の説明では、アルミダイカストを成形する成形装置に本発明に係る冷却プレート、又は冷却回路の変更方法を適用した場合を説明したが、もちろん、本発明の適用対象はこれには限られない、アルミダイカスト以外の成形装置に係る金型に本発明を適用してもかまわない。
【符号の説明】
【0058】
1 成形装置
2,3 金型
4,5 支持部材
6,7 主型
8,9 入子
10,11 冷却プレート
12 キャビティ
13 冷却穴
13a 底部
13b 開口部
14,14A,14B,14C ピン挿通路
14b 大径部
14c 小径部
14d 開口部
15 冷却ピン
15a 軸方向穴
15b 大径部
15c 小径部
15d 貫通穴
15e ヘッド部
16,16A,16B,16C 冷媒供給路
16b 冷媒供給路(ピン挿通路の上流側)
16c 冷媒供給路(ピン挿通路の下流側)
16d 開口部
17,17A,17B,17C 冷媒排出路
17b 冷媒排出路(ピン挿通路の上流側)
17c 冷媒排出路(ピン挿通路の下流側)
17d 開口部
18 冷却回路
18a,18b,18c 冷却回路の一部(部分回路)
19 ボルト挿通路
20 ピン挿通路
21a,21b,21c シール部材
22a 供給側空間
22b 排出側空間
23 プレート本体
23a 嵌合凹部
24 型成形部
25,26 分割体
27 貫通穴
28 凹状部
29 冷却回路ユニット
30 凸状部