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特開2024-14566センサ電極構造及び、それを用いたガスセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014566
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】センサ電極構造及び、それを用いたガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20240125BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240125BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01N27/327 353B
G01N27/327 353A
G01N27/327 353F
G01N27/416 336A
C12Q1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117483
(22)【出願日】2022-07-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年度第32回繊維学会西部支部セミナー (2)第6回国際セミナー (3)TEKNOMEKANIK Vol.5,No.1 June 2022,pp.57-62 (4)第59回化学関連支部合同九州大会 (5)第59回化学関連支部合同九州大会講演予稿集 第80頁
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、「With/Postコロナにおけるレジリエントで持続可能な高度医療社会を支援する生体ガスセンサの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】冨永 昌人
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ20
4B063QR10
4B063QX05
(57)【要約】
【課題】感応性が高く、信頼性の高いガス検出を低コストで可能とするセンサ電極構造及び、それを用いたガスセンサを提供する。
【解決手段】センサ電極構造は、対象ガスを検出するセンサ電極構造であって、親水性不織布から成る基板層と、前記基板層上に担持されるカーボンナノチューブから成る複数の電極から構成される電極層と、酵素からなり、前記複数の電極のうちの1つの電極上に担持される反応層と、を3層の積層状態を維持した状態で備え、前記基板層の親水性に基づいて前記対象ガスが伝達され、当該対象ガスと前記酵素との反応により生じた電子が前記反応層から前記電極層に伝達され、当該電子に基づいて前記対象ガスを検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象ガスを検出するセンサ電極構造であって、
親水性不織布から成る基板層と、
前記基板層上に担持されるカーボンナノチューブから成る複数の電極から構成される電極層と、
酵素からなり、前記複数の電極のうちの1つの電極上に担持される反応層と、
を3層の積層状態を維持した状態で備え、
前記基板層の親水性に基づいて前記対象ガスが伝達され、当該対象ガスと前記酵素との反応により生じた電子が前記反応層から前記電極層に伝達され、当該電子に基づいて前記対象ガスを検出することを特徴とする
センサ電極構造。
【請求項2】
請求項1記載のセンサ電極構造において、
前記親水性不織布が、セルロースナノファイバーであることを特徴とする
センサ電極構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセンサ電極構造において、
前記電極層の電極間隔が、0.01~10 mmであることを特徴とする
センサ電極構造。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセンサ電極構造において、
前記カーボンナノチューブの濃度が、前記基板層の単位面積あたり0.01~20μg/cm2であることを特徴とする
センサ電極構造。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセンサ電極構造から構成されることを特徴とする
ガスセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサにおいて、
薄膜状の合成樹脂から成り、前記電極の上面側に配設される上面層と、
薄膜状の合成樹脂から成り、前記基板の下面側に配設され、開口部を有する下面層と、を備えることを特徴とする
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種のガスを検出するセンサ電極構造に関し、特に、高精度なガス検出を可能とするセンサ電極構造及び、それを用いたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを検出するガスセンサは、その用途が多岐にわたっている。特に、生体ガス(経皮ガス)の成分と濃度は人々の疾病や健康状態と密接に関係していることが明らかになりつつある。
【0003】
例えば、人体の皮膚から発生する経皮ガスを検出可能なガスセンサでは、経皮ガスとしてアルコールを検出することで、体内の血中アルコール濃度を測定することが可能となる。これにより、飲酒運転の予防も行える等、汎用性が広く利便性も高い。
【0004】
このようなガスセンサは、センサの検出結果のいかんによっては検査対象者の生活や行動の判断に与える影響が大きい。そのため、感応性が高く、信頼性の高いガスセンサが要求されている。特に、ガスセンサの中心的役割を担うセンサ電極構造の改良や開発が盛んになされている。
【0005】
現在、開発されている生体ガス測定原理は、概ね、半導体型、蛍光測定型、水晶振動子マイクロバランス型、表面プラズモン型に大別できる。その中でも最も実用に近いものが半導体型と蛍光測定型である。しかしながら、半導体型はガスの検出特異性に難がある。蛍光測定型は溶液ベースの測定であるためウエラブル性や携帯性に難があり、モバイル型センサの実現が困難である。
【0006】
この点、酵素反応を用いた生体ガス測定は、酵素反応ベースの電気化学的検出を利用するため、酵素の基質特性に基づいて特定ガスのみを検出でき、酵素反応を直接電気信号に変換できるために高感度である。
【0007】
このような酵素反応を用いて生体ガス測定を可能とするような、従来のセンサ電極構造としては、例えば、電極と、特定の基質を酸化する酵素と、を備え、前記基質から前記酵素を介して前記電極に電子が伝達される酵素機能電極において、前記酵素は、PQQを補酵素とする膜結合型アルコール脱水素酵素typeIIIであり、且つ、チトクロームCを含むサブユニットIIを含まず、サブユニットIおよびサブユニットIIIから構成される酵素機能電極が知られている(特許文献1参照)。
【0008】
また、従来のセンサ電極構造としては、例えば、センサ分野とは異なる技術分野ではあるが、カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーを混錬させて一体化させたシート上に酵素を添加して構成される、酵素触媒型燃料電池用の電極が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-237099号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】第30回日本MRS年次大会 (Web)(招待講演)2020/12/9-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来のセンサ電極構造では、特許文献1のように、基質から酵素を介して電極に電子が伝達される酵素機能電極もあるが、まず電解液に対象ガスを一旦十分に溶解させる必要があるため、例えば、経皮ガスのような順次発生する気体をリアルタイムに捕捉して即座に検出することはできない。
【0012】
また、非特許文献1のように、カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーを混錬させて一体化させたシート上に酵素を添加して構成された電極を、仮にガスセンサの用途に転用したとしても、まず電解液に対象ガスを溶解させる必要があるため、例えば、経皮ガスのような順次発生する気体をリアルタイムに捕捉して即座に検出することはできない。
【0013】
特に、生体ガス成分や濃度は、血圧や体温等のように個人差が大きい。日常的に被験者に手軽に使用できることこそ、その効果が最大限発揮されるものである。その一方で、センサ電極構造に酵素を用いる場合には、酵素は長期間の使用には耐えられないため、日々の交換が必要となる。このため、従来のセンサ電極構造では、実用化において極めて重要な低コスト化が実現できていない。
【0014】
本発明は、前記課題を解消するためになされたものであり、感応性が高く、信頼性の高いガス検出を低コストで可能とするセンサ電極構造及び、それを用いたガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願に開示するセンサ電極構造は、対象ガスを検出するセンサ電極構造であって、親水性不織布から成る基板層と、前記基板層上に担持されるカーボンナノチューブから成る複数の電極から構成される電極層と、酵素からなり、前記複数の電極のうちの1つの電極上に担持される反応層と、を3層の積層状態を維持した状態で備え、前記基板層の親水性に基づいて前記対象ガスが伝達され、当該対象ガスと前記酵素との反応により生じた電子が前記反応層から前記電極層に伝達され、当該電子に基づいて前記対象ガスを検出するものである。
【0016】
このように、親水性不織布から成る基板層と、前記基板層上に担持されるカーボンナノチューブから成る複数の電極から構成される電極層と、酵素からなり、前記複数の電極のうちの1つの電極上に担持される反応層と、を3層の積層状態を維持した状態で備え、前記基板層の親水性に基づいて前記対象ガスが伝達され、当該対象ガスと前記酵素との反応により生じた電子が前記反応層から前記電極層に伝達され、当該電子に基づいて前記対象ガスを検出することから、前記基板層の親水性に基づいて前記対象ガスが伝達され、当該対象ガスと前記酵素との反応により生じた電子が前記反応層から前記電極層に伝達され、当該電子に基づいて前記対象ガスを検出する前記3層構造によって、下部に生じたガス(例えば人体の皮膚から発生する経皮ガス)が、前記基板層の親水性により上昇方向に伝達されて前記電極層を通過して前記反応層に吸い上げられ、前記電極層と前記反応層から水分が常に蒸発していくこととなり、ガス拡散が円滑になり、ガス拡散の進行方向が一方向に制御でき、機敏な応答性が実現される。また、基板層と、複数の電極からなる電極層とが一体化されるため、製造工程が極めて単純となり、低コスト化が実現される。また、対象ガスに対応した酵素を適宜選定するだけで、いずれの対象ガスに対しても基板層と電極層の構造や素材は全く同一なものが使用できることとなり、より汎用性の高いセンサが低コストで構築される。
【0017】
本願に開示するセンサ電極構造は、必要に応じて、前記親水性不織布が、セルロースナノファイバーである。このように、前記親水性不織布が、セルロースナノファイバーであることから、前記基板層のセルロースナノファイバーと前記電極層のカーボンナノチューブがともにナノサイズの微細な空隙を有することで、この空隙が空間的に連続的に円滑に連なり、前記3層構造によって、下部に生じたガス(例えば人体の皮膚から発生する経皮ガス)が、前記反応層に吸い上げられて、ともに多孔質の前記電極層と前記反応層から水分が最適に蒸発していくこととなり、円滑なガス拡散によりガス拡散の進行方向が一方向に制御でき、機敏な応答性が実現される。また、生分解性のセルロースナノファイバーとナノカーボンの材料からなることから、ディスポーザブルとして利用することができ、利便性の高さと環境負荷の低減を両立させることができる。
【0018】
本願に開示するセンサ電極構造は、必要に応じて、前記酵素が、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするアルコール脱水素酵素(ADH)、又はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするアルコール脱水素酵素(GDH)である。このように、前記酵素が、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするアルコール脱水素酵素(ADH)、又はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするアルコール脱水素酵素(GDH)であることから、アルコール脱水素酵素が基質特異性を示すことで対象ガスから気化したアルコールが容易に検出されることとなり、特に対象ガスを経皮ガスとした場合のアルコール検出において機敏な応答性が実現される。
【0019】
本願に開示するセンサ電極構造は、必要に応じて、前記電極層の電極間隔が、0.01~10 mmである。このように、前記電極層の電極間隔が、0.01~10 mmであることから、電極間距離が近すぎることに起因する電極相互間リークを抑制すると共に、電極間距離が遠すぎることに起因する電極間抵抗値の増大を抑制することで、最適な電極間距離でセンサ検知できることとなり、機敏な応答性とセンサ精度の向上が実現される。
【0020】
本願に開示するセンサ電極構造は、必要に応じて、前記カーボンナノチューブの濃度が、前記基板層の単位面積あたり0.01~20μg/cm2である。このように、前記カーボンナノチューブの濃度が、前記基板層の単位面積あたり0.01~20μg/cm2であることから、前記カーボンナノチューブの濃度が高すぎることに起因する電極間の電気的リークの発生を抑制すると共に、前記カーボンナノチューブの濃度が小さすぎることに起因するセンサ感度の低下を抑制することで、最適な電極状態でセンサ検知できることとなり、機敏な応答性とセンサ精度の向上が実現される。また、前記基板層からガス拡散により上昇方向に伝達された対象ガスの流量と、前記電極層へ伝達された対象ガスの流量とが、最適な前記カーボンナノチューブの濃度によって、前記電極層で最適に調整されることにもなり、センサ精度をより最適化することができる。
【0021】
本願に開示するセンサ電極構造は、必要に応じて、前記酵素の濃度が、0.01~100 pg/cm2である。このように、前記酵素の濃度が、0.01~100 pg/cm2であることから、前記酵素の濃度が高すぎることに起因する反応の遅延を抑制すると共に、前記酵素の濃度が小さすぎることに起因するセンサ感度の低下を抑制し、さらに、前記電極層の複数の電極のうちの1つの電極表面を前記酵素の分子1層で覆う状態が最適に形成されて、前記酵素が前記電極層の複数の電極のうちの1つの電極上全体に行き渡ることとなり、前記電極層からガス拡散により上昇方向に伝達された対象ガスに対して、前記酵素が最適に反応でき、センサ精度を最適化するとともに製造・維持コストを抑制することができる。
【0022】
本願に開示するガスセンサは、上記のセンサ電極構造から構成されるものである。このように、上記のセンサ電極構造から構成されることから、前記電極層からガス拡散により上昇方向に円滑に伝達された対象ガスに対して、前記酵素が最適に反応してセンサ精度が最適化されることとなり、前記酵素の最適化により製造・維持コストが抑制されるとともに機敏な応答性が実現される。
【0023】
本願に開示するガスセンサは、必要に応じて、薄膜状の合成樹脂から成り、前記電極の上面側に配設される上面層と、薄膜状の合成樹脂から成り、前記基板の下面側に配設され、開口部を有する下面層と、を備えるものである。このように、薄膜状の合成樹脂から成り、前記電極の上面側に配設される上面層と、薄膜状の合成樹脂から成り、前記基板の下面側に配設され、開口部を有する下面層と、を備えることから、例えば前記下面層に人の皮膚を当接する際に、前記開口部によりガスセンサと皮膚とが接する位置に微小スペースが形成されることで、皮膚から発生する経皮ガスの拡散を多方向に分散させて検出濃度を不安定にさせることなく、ガス拡散が一方向の上方に誘導されることとなり、さらに機敏な応答性と高精度なガス検出が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係るセンサ電極の構成図を示す。
図2】本発明の第1の実施形態に係るセンサ電極の酵素反応の説明図を示す。
図3】本発明の第1の実施形態に係るセンサ電極のメカニズムについての模式図を示す。
図4】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの構成図を示す。
図5】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの斜視図及び断面図を示す。
図6】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの製造方法を表す説明図を示す。
図7】本発明の実施例1に係るセンサ電極を構成するCNFシートの表面(a)と断面(b)のSEM画像を示す。
図8】本発明の実施例1に係るセンサ電極の各電位掃引速度におけるCV測定結果を示す。
図9】本発明の実施例1に係るセンサ電極の各掃引速度の平方根に対する酸化ピーク電流のプロットを示す。
図10】本発明の実施例2に係るセンサ電極のエタノール検出のCV結果を示す。
図11】本発明の実施例2に係るセンサ電極の様々な濃度のエタノールについてのエタノール検出のCV結果を示す。
図12】本発明の実施例2に係るセンサ電極の様々な濃度のエタノールについての各濃度のエタノールについてのエタノール検出に対応する電流値を示す。
図13】本発明の実施例3に係るガスセンサの飲酒した被検者のセンサ測定結果を示す。
図14】本発明の実施例3に係るガスセンサの飲酒した被検者のセンサ測定結果を示す。
図15】本発明の実施例4に係るガスセンサの振動に対する測定結果を示す。
図16】本発明の実施例4に係るガスセンサの振動に対する測定結果を示す。
図17】本発明の実施例4に係るガスセンサの振動に対する測定結果(拡大図)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
本願の第1の実施形態に係るセンサ電極構造は、図1に示すように、対象ガスを検出するセンサ電極構造であって、親水性不織布から成る基板層1と、この基板層1上に担持されるカーボンナノチューブから成る複数の電極から構成される電極層2と、酵素からなり、この複数の電極のうちの1つの電極上に担持される反応層3と、を3層の積層状態を維持した状態で備え、この基板層1の親水性に基づいてこの対象ガスが伝達され、この対象ガスとこの酵素との反応により生じた電子がこの反応層3からこの電極層2に伝達され、この電子に基づいてこの対象ガスを検出する構成である。
【0026】
対象ガスとしては、経皮ガスが挙げられる。酵素の選定によって、経皮ガスの一例としてアルコールガスを検出することができる。これにより、例えば、飲酒運転のチェックや予防が可能となる。この他にも酵素を適宜選定することによって、電極チップの構造や素材として全く同一なものを用いつつ、様々な種類のガスが検出可能であるという極めて簡便なガスセンサが構築可能となる。
【0027】
この基板層1を構成する親水性不織布としては、親水性を有する不織布であれば特に限定されないが、セルロース系繊維を用いることが好適である。このようなセルロース系繊維としては、例えば、パルプ、麻、綿などの天然由来のセルロース系繊維が挙げられ、より好適には、セルロースナノファイバー(CNF)が挙げられる。
【0028】
セルロースナノファイバー (CNF)とは、植物の繊維をナノサイズまで分解したバイオマス材料であり、低環境負荷、軽量、柔軟といった特徴をもつ。CNF は導電性をもたないが、吸湿性と柔軟性を持ち、比表面積も大きい。
【0029】
この他にも、合成繊維を用いることも可能であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ビニロンなどの合成繊維を用いることも可能である。この他にも、親水化処理した合成繊維を用いることも可能である。
【0030】
この電極層2の電極を構成するカーボンナノチューブとは、炭素元素のみで構成され直径がナノメートルサイズのチューブ・円筒状の物質である。その種類は、特に限定されず、公知のカーボンナノチューブが挙げられ、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)や多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が挙げられるが、導電性の高さと表面積の広さの点から、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)がより好適である。
【0031】
また、このカーボンナノチューブの濃度は、とくに限定されないが、この基板層1の単位面積あたり0.01~20μg/cm2であることが好適であり、例えば、2μg/cm2とすることができる。これにより、このカーボンナノチューブの濃度が高すぎることに起因する電極間の電気的リークの発生を抑制すると共に、このカーボンナノチューブの濃度が小さすぎることに起因するセンサ感度の低下を抑制することで、最適な電極状態でセンサ検知できることとなり、機敏な応答性とセンサ精度の向上が実現される。また、この基板層1からガス拡散により上昇方向に伝達された対象ガスの流量と、この電極層2へ伝達された対象ガスの流量とが、最適なこのカーボンナノチューブの濃度によって、この電極層2で最適に調整されることにもなり、センサ精度をより最適化することができる。
【0032】
この電極層2の複数の電極は、最小限の場合として、図1(a)に示すように、陽極と陰極となる、酵素を含む第一電極21と、酵素を含まない第二電極22の2つの電極から構成できる。この他にも、図1(b)に示すように、酵素を含む第一電極21と、酵素を含まない第二電極22および第三電極23の3つの電極から構成できる。酵素を含まない第二電極22および第三電極23に添加する材料は、特に限定されないが、ポリベンズイミダゾール(PBI)を添加して製造することが好適である。このように、この基板層1上に複数の電極を一体化して作製可能であるため、製造工程が極めて単純なものとなり製造コストを抑制できる。
【0033】
また、各種センサとして使用する場合に、これら作用電極(W.E.)、対極(C.E.)、参照極(R.E.)のうち2つの機能を1つの電極としてまとめて、全体で2つの電極からセンサを構成することも可能である。
【0034】
各種センサとして使用する場合には、基板層1として生分解性のCNFと、電極層2のナノカーボンの材料から構成されることで、電極チップがディスポーザブルな構成となり、利便性を高めることができる。
【0035】
CNFは生分解性、柔軟性、環境にやさしい、使い捨て、そして小さなサイズの特性を備えているため、CNFは将来のウェアラブルセンサに適している。人体から排出される皮膚ガスは、エタノール、アセトン、メタン、アセトアルデヒドなどのさまざまな有機物質が含まれる種類の混合ガスであり、非常に低濃度(ppbレベル)であるが、本実施形態に係るガスセンサでは、適切なエタノールの検出範囲として、飲酒に問題のある個人に必要な75~112ppbの範囲を満たすことが可能である(後述の実施例参照)。日常生活でのセンサ性能を確認するためには、エタノール皮膚ガス測定のリアルタイムが必要であるが、本実施形態に係るガスセンサは、その簡便な構成から、リアルタイムでの遠隔医療モニタリング、個々の健康状態の評価、および離れた施設からのフィードバックの取得を可能にできる。
【0036】
この電極層2の電極間隔は、とくに限定されないが、0.01~10 mmであることが好適であり、例えば、2~3 mmとすることができる。これにより、電極間距離が近すぎることに起因する電極相互間リークを抑制すると共に、電極間距離が遠すぎることに起因する電極間抵抗値の増大を抑制することで、最適な電極間距離でセンサ検知できることとなり、機敏な応答性とセンサ精度の向上が実現される。
【0037】
この反応層3の電極を構成する酵素としては、特に限定されないが、例えば一例として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするアルコール脱水素酵素(ADH)、又はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするアルコール脱水素酵素(GDH)を用いることが好適である。これにより、図2に示すように、アルコール脱水素酵素が基質特異性を示すことで対象ガスから気化したアルコールが、酵素反応によって直接電子移動に基づいて容易に検出されることとなり、特に対象ガスを経皮ガスとした場合のアルコール検出において機敏な応答性が実現される。
【0038】
酵素を用いるために長期間の使用には耐えられないため、日々の交換が必要となる。このため低コスト化は実用化において極めて重要である。この点においては、消耗品としての1. ディスポーザル電極チップ部位(本実施形態)と2.繰り返し使用が可能な電極チップ接続部位と信号検出部位に分離したデバイスを作製できることで実用化可能であることが確認されている(後述の実施例参照)。
【0039】
この酵素の濃度は、特に限定されないが、0.01~100 pg/cm2であることが好適であり、例えば、0.1 pg/cm2とすることができる。これにより、この酵素の濃度が高すぎることに起因する反応の遅延を抑制すると共に、この酵素の濃度が小さすぎることに起因するセンサ感度の低下を抑制し、さらに、この電極層2の複数の電極のうちの1つの電極表面をこの酵素の分子1層で覆う状態が最適に形成されて、この酵素がこの電極層2の複数の電極のうちの1つの電極上全体に行き渡ることとなり、この電極層2からガス拡散により上昇方向に伝達された対象ガスに対して、この酵素が最適に反応でき、センサ精度を最適化するとともに製造・維持コストを抑制することができる。
【0040】
また、3層の積層状態を維持した状態とは、酵素が担持されている1つの電極上において、上記の基板層1と、電極層2と、反応層3の3つの層が、混然一体として形成されておらず、個々に分離されて積層された状態が維持されていることを示す。
【0041】
この基板層1の親水性に基づいてこの対象ガスが伝達され、この対象ガスとこの酵素との反応により生じた電子がこの反応層3からこの電極層2に伝達され、この電子に基づいてこの対象ガスを検出する。
【0042】
各材料の空隙について、カーボンナノチューブよりセルロースナノファイバー(CNF)の空隙のほうが大きいことがより好適である。これにより、経皮ガスが上方向に通り易くなると共に、カーボンナノチューブにおいて経皮ガスが安定的にセンサ電極での反応を行えることとなり、センサの高精度化が実現できる。
【0043】
この優れた効果を奏するメカニズムとしては、以下が推察される。まず、一般に、カーボンナノチューブのサイズは、1~10nmであり、セルロースナノファイバー(CNF)は、一本約2nmで束を形成することで10~15 nmの大きさを有する。
【0044】
各材料の空隙については、セルロースナノファイバー(CNF)は、その密集度にもよるが、後述の図7のSEM画像にも示されているように、一般に50~100 nmの空隙を有する。カーボンナノチューブは、お互いの凝集性が高いために、図3(a)に示すように、セルロースナノファイバー(CNF)よりも空隙は小さく、数百ミクロンのダマになったカーボンナノチューブ塊2aが多数存在する状態を形成していることが推察され、このダマ内の空隙Lは数nm~20 nm、ダマとダマ間の空隙Lはこれより大きく数百ミクロンと推察される。図3(b)に示すように、このダマ間の大きな空隙Lを通してカーボンナノチューブ層全体に対象ガスB(例えばエタノール)が拡散して、その後にカーボンナノチューブのダマの中の小さな空隙Lに入ることで、この空隙Lを介して反応層3の酵素との反応を促進していることが推察される。
【0045】
本実施形態に係るセンサ電極構造においては、ディスポーザル電極チップの素材は、一例として、セルロースナノファイバー、ナノカーボン、酵素から構成することができ、生分解性で環境に優しい。さらに、この電極チップは、ロールtoロール作製が可能であり、大量生産によるコストダウンが容易で、被験者が日常的に使うコスト(モバイル型血糖値センサのように100円/枚を想定)を実現可能である。このように、本実施形態に係るセンサ電極構造により、コストと検出感度のバランスが最も優れた生体ガス検出デバイスを開発できる。
【0046】
本願の第1の実施形態に係るセンサ電極構造は、様々な用途に利用可能であり、その適用範囲は広い。例えば、様々なガスを検出できるガスセンサとして利用することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
本願の第2の実施形態に係るガスセンサは、上記第1の実施形態に係るセンサ電極構造から構成される。このガスセンサは、このセンサ電極構造から構成されることにより、この電極層2からガス拡散により上昇方向に円滑に伝達された対象ガスに対して、この酵素が最適に反応してセンサ精度が最適化されることとなり、この酵素の最適化により製造・維持コストが抑制されるとともに機敏な応答性が実現される。
【0048】
本実施形態に係るガスセンサは、このセンサ電極構造に他の部材を加えて構成することも可能である。例えば、図4に示すように、薄膜状の合成樹脂から成り、この電極の上面側に配設される上面層41と、薄膜状の合成樹脂から成り、この基板の下面側に配設され、開口部を有する下面層42と、を備える構成が可能である。
【0049】
この電極層2の複数の電極は、最小限の場合として、図4(a)に示すように、陽極と陰極の2つの電極から構成できる。さらに、この電極層2の複数の電極は、3つの電極でもよい。例えば、図4(b)に示すように、3つの電極とした場合には、基板層1(例えばCNF)、電極層2(カーボンナノチューブ)、酵素の3層構造からなる第一電極21としての作用電極(W.E.)と、酵素を含まない第二電極22としての対極(C.E.)ならびに第三電極23としての参照極(R.E.)を同一CNF基板に配置した一体型3層構造電極が構成され、各種センサとして利用可能である。酵素を含まない対極(C.E.)および参照極(R.E.)に添加する材料は、特に限定されないが、ポリベンズイミダゾール(PBI)を添加して製造することが好適である。このように、この基板層1上に複数の電極を一体化して作製可能であるため、製造工程が極めて単純なものとなり製造コストを抑制できる。
【0050】
薄膜状の合成樹脂としては、特に限定されないが、例えば、透明なプラスチックを用いることが可能である。開口部のサイズは特に限定されないが、経皮ガスのセンサ用途では、人の腕に当接可能な程度として例えば縦横の幅約1 mmの四角形の形状とすることができる。これにより、被検者100の皮膚と接する部位に微小スペースが設けられることとなる。
【0051】
本実施形態に係るガスセンサは、図5(a)に示すように、炭素素材の電極支持部300で各電極を接続して固定できる。電極支持部300により簡易に電流検知が可能となると共に、特に人の腕に装着しやすい形状として構成できる。
【0052】
このように、本実施形態に係るガスセンサは、薄膜状の合成樹脂から成り、この電極の上面側に配設される上面層41と、薄膜状の合成樹脂から成り、この基板の下面側に配設され、開口部を有する下面層42と、を備えることから、例えばこの下面層42に人の皮膚を当接する際に、図5(b)に示すように、この開口部Aによりガスセンサと被検者100の皮膚とが接する位置に微小スペースが形成されることで、皮膚から発生する経皮ガスBの拡散を多方向に分散させて検出濃度を不安定にさせることなく、ガス拡散が一方向の上方に誘導されることとなり、さらに機敏な応答性と高精度なガス検出が実現される。
【0053】
本実施形態に係るガスセンサの製造方法の一例を図6を用いて以下説明する。
【0054】
まず、図6(a)に示すように、超音波等で攪拌してセルロースナノファイバー(CNF)を水に分散させる。このCNF分散液をテフロン(登録商標)プレート200上で広げて、乾燥するまで加熱してCNFシートを得る。次に、図6(b)に示すように、この基板層1となるCNFシートの表面に、電極層2を構成する多層カーボンナノチューブ(MWCNT)溶液を滴下して分散させる。次に、第一電極21表面に反応層3となる酵素を滴下コーティングし、第一電極21を酵素で修飾する。次に、図6(c)に示すように、上記の酵素で修飾されたMWCNTから構成されるCNFシート電極を、上記の上面層41と下面層42とで上下面を挟み込む。炭素素材の電極支持部300で各電極を接続して簡易に電流検知が可能となる。
【0055】
このようにして得られる本実施形態に係るガスセンサは、経皮ガス(皮膚ガス)の低レベルでの測定が可能であること、被験者が日常的に使うコスト(モバイル型血糖値センサのように100円/枚を想定)を確かに達成できることが確認されている(後述の実施例参照)。すなわち、血糖値センサと同等以上の世界市場 1兆円/年規模レベルに将来的に事業化が発展するものと考えられ、このインパクトは極めて大きいものである。
【0056】
個々人が健康管理を行い、医療機関との遠隔情報管理を可能とする自立分散型健康管理の促進は今まさに社会に求められる技術である。本実施形態に係るガスセンサは、医療応用はもとより農業分野や多種多様なガスの遠隔測定と通信によりポストコロナ社会のレジリエントで持続可能な社会の実現に大きく貢献できる。今後の世界的な超高齢化社会への到来による医療と介護の社会的負担が加速するなかで、本実施形態に係るガスセンサは、個々人の健康状態を医療機関が遠隔情報管理できる自立分散型健康管理を実現させるものであり、世界規模でのニーズが高いものである。
【0057】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
―ガスセンサの作製
以下の材料を使用した。
<材料>
MWCNT:多層カーボンナノチューブ(Aldrich社製)
CNF(中越パルプ株式会社製)
FQQ-ADH(京都大学農学部白井研究室ご提供)
【0059】
(1)MWCNTで修飾されたCNFシート電極の製造
CNFシートは、超音波ホモジナイザーを使用して、1mgの2.35wt%CNFを超純水装置(Milli-Q社製)から得た水20mLに20分間分散させることによって調製した。 次に、このCNF分散液10 mLをテフロン(登録商標)プレート(4cm×10cm)に広げ、ホットプレート上で140°Cで乾燥するまで加熱した。CNFシートの電気伝導率はその表面に分散したMWCNT溶液を滴下して得られた。次に、電極表面にPQQ-ADH酵素を滴下コーティングすることにより、作用電極を修飾した。
【0060】
(2)MWCNT修飾CNFシート電極の物理的特性
MWCNTで修飾する前のCNFシートの表面と断面のSEM画像を図7(a)に示す。 表面積の形態は比較的平坦であり、電極の修飾に適していた。 図7(a)に示す断面積の形態は、ナノメートルスケールの厚さの層状の構造を示した。 この層状構造は、CNFシートをMWCNTでさらに修飾することで水平方向の導電率を高くすることが可能である。
【0061】
(3)実験条件
超音波プローブ型BRANSON5520(神奈川県)を用いて分散液を均質化した。すべての電位は、25℃でのAg | AgCl |飽和KClに対して確認した(通常の水素電極に対して+199 mV)。電気化学的測定は、電気化学的分析器(モデル660A、ALS Co.、Ltd、東京、日本)を使用して実施した。 pHは、pHメーター(AUT-501、DKK-TOA Corp.、東京、日本)を使用して記録した。 サイクリックボルタンメトリー(CV)測定は、CNF電極に含まれる3電極システムを使用して実行した。すべての電気化学的測定は大気条件で行った。
【0062】
(4)MWCNT修飾CNFシート電極の電気化学的性能
MWCNT修飾CNFシート電極の電気化学的性能を評価するために、CNFシート電極について、pH7のKCl溶液(1 mol/dm3)中の Fe(CN)6 3-(1mmol/dm3)使用して各電位掃引速度におけるCV測定結果を図8に示す。
【0063】
得られた結果から、フェロシアン化物の酸化および還元ピーク電位は、100mVs-1の電位掃引速度でそれぞれ+0.46Vおよび+0.08V付近で観察された。陽極と陰極のピーク電位間の分離は約380mVであり、酸化還元反応が遅くなった。 2つのピーク電位の分離は、電子あたり約60 mVに等しい場合、高速の電子移動速度となる。反応が遅いにもかかわらず、CNF導電性シートは電子を伝達し、電極として十分に機能することが確認された。
【0064】
各掃引速度の平方根に対する酸化ピーク電流のプロットを図9に示す。この結果から、観察された酸化還元反応は、陰極ピーク電流(ipc)対電位掃引速度の平方根のプロットが線形であるため拡散律速プロセスであったことが確認された。
【0065】
このように、本実施例で製造したCNFシートは、平均厚さが約60μmの非常に薄くて軽量な特性が確認された。CNFは人間の皮膚との親和性を有している点からも、作製されたCNFシートは電気化学センサーの有望なフレームワークとなる。 フェロシアン化物を使用したMWCNT修飾CNFシート電極での酸化還元反応の観察は、修飾CNFシートが電極として十分な電気化学的性能を有することが示された。さらに、PQQ-ADH修飾CNFシート電極は、大気条件下で0.1Mエタノール溶液から蒸発したエタノールを検出できた。 酸化触媒電流は、酵素と電極表面の間の直接電子移動に基づいて、-0.1 V vs Ag | AgCl|飽和KClから検出された。 したがって、CNFシート電極は、将来のウェアラブルセンサーの有望な候補となる。
【0066】
(実施例2)
―エタノールガス検出
エタノールを検出するために、上記で作製した、PQQ-ADH酵素によって修飾された修飾CNFシート電極を作用電極として使用し、上記第2の実施形態で示した図5のガスセンサを構築した。 ターゲットガスは、経皮ガスを模擬して、100μLの0.1Mエタノール溶液を蒸発させることによって生成した。
【0067】
図10は、大気条件のもと、0.1 Mエタノールの存在下(実線)と非存在下(破線)で、2 mMCaCl2を含む0.1M酢酸緩衝液(pH 5.5)中のPQQ-ADH酵素/MWCNT修飾CNFシート電極でのエタノール検出のCV結果を示す(スキャン速度:10mVs-1)。 0.1Mエタノール溶液から生成された推定エタノールガス濃度は344ppmであった。
【0068】
得られた結果から、アルコール無しの場合、MWCNT修飾CNFシート電極で触媒酸化電流は検出されなかった。次に、エタノールの存在下で-0.1 V(vs Ag | AgCl |飽和KCl)から酸化酸化電流を検出した。 この結果から、作用電極に物理的に吸着された酵素が活性であり、エタノールが酸化されるときに確かに電子を伝達できることが確認された。
【0069】
さらに、様々な濃度のエタノールについてのエタノール検出のCV結果を図11に示す(スキャン速度:10mVs-1)。また、図12に各濃度のエタノールについてのエタノール検出に対応する電流値を示す。 この結果から、エタノールの濃度に応じた機敏なセンシングが可能であることが示された。
【0070】
CNFシートの裏側はターゲット成分に直接面しており、CNFの親水性成分とエタノールが直接相互作用するため、ターゲット成分が吸着されて電極表面と反応した。上記の図7(b)で示されたCNFシートの積層形態は、その表面に吸着される対象ガスのターゲット成分の量も増加させた。次に、エタノールは、酵素とMWCNT電極表面との間の直接電子移動を介して酵素によって酸化された。 全体として、本実施例に係るCNF電極はエタノールを検出できることが確認された。
【0071】
(実施例3)
―経皮ガス検出
上記の実施例1で作製したガスセンサについて、実際に成年の被検者にビール(5%)を飲酒してもらい、経皮ガスの検出を行った。結果を図13に示す。この結果から、被検者がビール(5%)を飲み始めて数分後にセンサが反応したという驚異的なセンサ感度が確認された。
【0072】
さらに、実際に成年の被検者にビール(5%)の他にも、焼酎(12%)、焼酎(43%)を飲酒してもらい、経皮ガスの検出を行った。結果を図14に示す。この結果から、被検者が飲酒したアルコール濃度に応じて順にセンサが反応したという驚異的な正確さのセンサ感度が確認された。
【0073】
(実施例4)
―他の測定
上記の実施例1で作製したガスセンサについて、振動についての影響を確認した。図15に示すように、人体の腕と足部位での振動に対して、区別してセンシングが行われることが確認された。また、血圧変動の振動についての影響も確認した。図16とその拡大図である図17に示すように、血圧変動に対応してセンシングが行われることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
1 基板層
2 電極層
2a カーボンナノチューブ塊(ダマ)
21 第一電極
22 第二電極
23 第三電極
3 反応層
41 上面層
42 下面層
100 被検者
200 テフロン(登録商標)プレート
300 電極支持部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17