(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014568
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】聴取装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20240125BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20240125BHJP
H04R 25/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H04R1/00 317
H04R1/10 104Z
H04R25/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117491
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】514211644
【氏名又は名称】株式会社ファインウェル
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細井 裕司
【テーマコード(参考)】
5D005
5D017
【Fターム(参考)】
5D005BA14
5D017AB12
(57)【要約】
【課題】軟骨伝導の新たな用途を利用して、付加価値の高い聴取装置を提供する。
【解決手段】耳介の表皮と接触するように装着される振動子と、前記振動子を駆動して振動させる駆動部と、を備える聴取装置であって、前記振動子は、外耳道口の周囲を取り巻く軟骨組織に振動を与えることで、音を内耳に伝導するとともに耳経穴を刺激する。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳介の表皮と接触するように装着される振動子と、
前記振動子を駆動して振動させる駆動部と、を備える聴取装置であって、
前記振動子は、外耳道口の周囲を取り巻く軟骨組織に振動を与えることで、音を内耳に伝導するとともに耳経穴を刺激する、聴取装置。
【請求項2】
前記表皮と接触する前記振動子の接触面には、少なくとも一つの突起が設けられる、
請求項1に記載の聴取装置。
【請求項3】
前記少なくとも一つの突起は、前記接触面から突出する高さが0.1~3mmの範囲にある、請求項2に記載の聴取装置。
【請求項4】
前記駆動部は、
可聴域内にある第一周波数の第一駆動信号を前記振動子に供給することで、前記振動子から前記軟骨組織に可聴音を伝導させる振動を与え、
前記第一周波数よりも低い第二周波数の第二駆動信号を前記振動子に供給することで、前記振動子から前記耳経穴を刺激する振動を与える、
請求項1に記載の聴取装置。
【請求項5】
前記第二周波数は、20Hz以下の非可聴低周波数である、請求項4に記載の聴取装置。
【請求項6】
前記駆動部は、前記第一駆動信号と前記第二駆動信号とを交互に前記振動子に供給する、請求項4に記載の聴取装置。
【請求項7】
前記駆動部は、前記第一駆動信号と前記第二駆動信号とを同時に前記振動子に供給する、請求項4に記載の聴取装置。
【請求項8】
前記振動子は、
前記耳介の表皮と接触するように装着され、可聴域内の第一周波数で振動することで、前記軟骨組織に可聴音を伝導させる振動を与える第一振動子と、
前記表皮と接触するように装着され、前記第一周波数よりも低い第二周波数で振動することで、前記耳経穴を刺激する振動を与える第二振動子を含む、
請求項1に記載の聴取装置。
【請求項9】
前記第一振動子と前記第二振動子とに連結された連結具を備え、
前記連結具は、前記第一振動子及び前記第二振動子のうち、一方が耳珠又は耳介裏に装着され、且つ他方が耳甲介腔に装着された状態を保持する、
請求項8に記載の聴取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、聴取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の出願人は、軟骨伝導[cartilage conduction]を利用した聴取装置、並びに、これを用いた携帯電話及び補聴器などを数多く提案している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願の発明者は、軟骨伝導を利用した聴覚手法に加えて、軟骨伝導の新たな用途を発見した。
【0005】
本開示の一態様は、軟骨伝導の新たな用途を利用して、付加価値の高い聴取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、耳介の表皮と接触するように装着される振動子と、前記振動子を駆動して振動させる駆動部と、を備える聴取装置であって、前記振動子は、外耳道口の周囲を取り巻く軟骨組織に振動を与えることで、音を内耳に伝導するとともに耳経穴を刺激する。
【0007】
前記表皮と接触する前記振動子の接触面には、少なくとも一つの突起が設けられる。
【0008】
前記少なくとも一つの突起は、前記接触面から突出する高さが0.1~3mmの範囲にある。
【0009】
前記駆動部は、可聴域内にある第一周波数の第一駆動信号を前記振動子に供給することで、前記振動子から前記軟骨組織に可聴音を伝導させる振動を与え、前記第一周波数よりも低い第二周波数の第二駆動信号を前記振動子に供給することで、前記振動子から前記耳経穴を刺激する振動を与える。
【0010】
前記第二周波数は、20Hz以下の非可聴低周波数である。
【0011】
前記駆動部は、前記第一駆動信号と前記第二駆動信号とを交互に前記振動子に供給する。
【0012】
前記駆動部は、前記第一駆動信号と前記第二駆動信号とを同時に前記振動子に供給する。
【0013】
前記振動子は、前記耳介の表皮と接触するように装着され、可聴域内の第一周波数で振動することで、前記軟骨組織に可聴音を伝導させる振動を与える第一振動子と、前記表皮と接触するように装着され、前記第一周波数よりも低い第二周波数で振動することで、前記耳経穴を刺激する振動を与える第二振動子を含む。
【0014】
前記第一振動子と前記第二振動子とに連結された連結具を備え、前記連結具は、前記第一振動子及び前記第二振動子のうち、一方が耳珠又は耳介裏に装着され、且つ他方が耳甲介腔に装着された状態を保持する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】軟骨伝導の効果を示す実測データの一例を示すグラフである。
【
図4A】第一実施形態の聴取装置が装着された耳介を側頭部側から視た図である。
【
図5】聴取装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図6A】第一例の駆動信号パターンを示すグラフである。
【
図6B】第二例の駆動信号パターンを示すグラフである。
【
図7A】第二実施形態の聴取装置が装着された耳介を側頭部側から視た図である。
【
図8】第三実施形態の聴取装置が装着された耳介を側頭部側から視た図である。
【
図9】第三実施形態の他の聴取装置が装着された耳介を後頭部側から視た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
<軟骨伝導>
本願の聴取装置に関する具体的な説明に先立ち、まず、その聴取メカニズムについて、
図1を参照しながら説明する。
図1は、耳の解剖図である。
図1において、外耳道X1のうち、外耳道口X1aに近い手前側の約半分を、軟骨部外耳道X1bという。外耳道X1のうち、鼓膜X3に近い奥側の約半分を、骨部外耳道X1cという。
【0018】
耳鼻科医である本願発明者は、これまでも、外耳道口X1aの周囲を取り巻く耳介X2の軟骨組織、例えば、耳珠X2a又は耳介裏X2b(特に、外耳道口X1aの近傍)の近傍にある軟骨組織に振動子を当てると、その振動が軟骨部外耳道X1bに伝わり、軟骨部外耳道X1bの内側表面から生じる気導音(即ち、音響振動による空気の疎密波)が骨部外耳道X1cを経て鼓膜X3に達し、中耳伝音系を通過して内耳に達することにより、音が聞こえるメカニズムを提唱している(
図1の太い実線矢印を参照)。本願発明者はこの新たな聴取メカニズムを、気導でも骨導でもない第3の聴取メカニズムとして世界で初めて発見し、これを軟骨伝導と名付けて、携帯電話や補聴器などでの利用を提案している。
【0019】
上記の軟骨伝導であれば、重い前頭骨や側頭骨を振動させる従来の骨導と異なり、より軽い耳珠X2aや耳介裏X2bを振動させて音を聴取することができるので、振動子の駆動エネルギーが非常に小さくて済む。
【0020】
また、従来の気導は、外耳道口X1aの外部から入ってくる気導音が鼓膜X3を振動させることにより音が聞こえる現象である。これに対し、軟骨伝導では、外耳道口X1aを指などで閉鎖したときに、外耳道X1の内部における音響エネルギーが増大して音が大きく聞こえるようになる現象(所謂、外耳道閉鎖効果)が認められる。そのため、外耳道口X1aを塞ぐことにより、周囲の騒音が大きい環境下でも明瞭に音を聞くことができる。
【0021】
図2は、軟骨伝導の効果を示す実測データの一例を示すグラフである。本グラフは、振動する振動子の外壁表面を耳輪への接触なしに外耳道入口部周辺の耳軟骨の少なくとも一部に接触させたときの外耳道入口部から1cm奥の外耳道内の音圧を周波数との関係で示すものである。
【0022】
なお、本グラフの縦軸は音圧(dBSPL)であり、横軸は対数目盛の周波数(Hz)である。また、本グラフには、振動子の外壁表面と外耳道入口部周辺の耳軟骨との接触圧が外耳道内の音圧に与える影響を示すべく、非接触状態の音圧を実線で、接触圧10重量グラムにおける音圧を破線で、接触圧250重量グラムにおける音圧を一点鎖線で、接触圧のさらなる増加により外耳道が閉鎖された状態(接触圧500重量グラム)における音圧を二点鎖線で、それぞれ図示している。非接触状態では、振動子の外壁表面から発生する気導音のみが聞こえる。
【0023】
図示のように、音圧は非接触状態から接触圧10重量グラムでの接触により増加し、さらに250重量グラムへの接触圧増加により増加し、この状態からさらに500重量グラムに接触圧を増加させることで、音圧がさらに増加する。
【0024】
本グラフから明らかなように、振動子の外壁表面を耳輪への接触なしに外耳道入口部周辺の耳軟骨の少なくとも一部に接触させたとき、非接触状態に比べ、外耳道入口部から1cm奥の外耳道内における音圧が、900Hz~2000Hzの周波数帯域において5dB程度増加している(実線で示す非接触状態と、一点鎖線で示す状態とを比較参照)。
【0025】
また、本グラフから明らかなように、振動子の外壁表面を耳輪への接触なしに外耳道入口部周辺の耳軟骨の少なくとも一部に接触させたとき、接触圧の変化によって外耳道入口部から1cm奥の外耳道内における音圧が、500Hz~2300Hzの周波数帯域において10dB程度増加している(破線で示すわずかな接触状態と一点鎖線で示す状態での接触状態とを比較参照)。
【0026】
以上から、気導音の発生機構(例えば通常イヤホンの振動板)がなくても、振動子の振動を接触により耳軟骨に伝達することで必要な音圧が得られることがわかる。また、振動子を外耳道入口部周辺の耳軟骨に接触させて聞くので、外耳道を開放したまま塞ぐことなく、振動子からの音を聞くと同時に外界の音を聞くことができ、外耳道の閉塞感のない快適な装着が可能となる。
【0027】
さらに、本グラフから明らかなように、振動子の外壁表面を耳軟骨の少なくとも一部により強く接触させることにより外耳道を閉鎖したとき、非接触状態に比べ、外耳道入口部から1cm奥の外耳道内における音圧が音声の主要な周波数帯域(300Hz~1800Hz)において少なくとも20dB増加している。これは外耳道閉鎖効果が加わることによる大きい音圧増強効果を示すものである(実線で示す非接触状態と、二点鎖線で示す外耳道が閉鎖された状態とを比較参照)。
【0028】
なお、本グラフにおける測定は、すべて振動子の出力を変化させない状態におけるものである。また、耳輪への接触なしに振動子の外壁表面を外耳道入口部周辺の耳軟骨の少なくとも一部に接触させる状態として、本グラフにおける測定は、振動子の外壁表面を耳珠の外側から接触させる状態で行っている。また、本グラフにおける外耳道が閉鎖された状態での測定は、耳珠の外側から振動子の外壁表面を押し付け、耳珠が折れ曲がることにより外耳道を閉鎖する状態を作ることにより行っている。
【0029】
また、本グラフはあくまでも一例であって、細かく見れば個人差がある。また、本グラフは、現象の単純化及び標準化のために振動子の外壁表面を耳珠の外側に限って小さい面積で接触させる状態にて測定を行っている。
【0030】
しかしながら、接触による音圧の増加は、耳軟骨との接触面積にも依存し、耳輪への接触なしに振動子の外壁表面を外耳道入口部周辺の耳軟骨に接触させる場合、外耳道入口部周辺のより広い耳軟骨部分に接触させれば音圧の増加はさらに高まる。以上のことを考慮すれば、本グラフに示した数値は、軟骨伝導を利用した構成を示す一般性を持つものであって、不特定多数の被験者による再現性のあるものである。
【0031】
さらに、本グラフは、外耳道を閉鎖する際に耳珠を外側から押圧することで接触圧を増して耳珠を折り返すことによるものであるが、振動子の外壁表面を外耳道入口部に押し入れて外耳道を閉鎖した場合にも同様の結果が得られる。
【0032】
<耳経穴>
耳経穴を説明する。
図3は、耳経穴の位置を示す図である。経穴(所謂ツボ)は、指圧、鍼、灸で刺激を与えることで体調の調整や諸症状の緩和を図れる身体表面の特定部位である。特に耳介X2には、多数の耳経穴(所謂、耳ツボ)が存在することが知られている。
図3に示すように、耳介X2の軟骨組織(例えば、耳珠X2aや耳介裏X2bの近傍にある軟骨組織)は、耳経穴の近傍に位置する。
【0033】
本願の発明者は、このような耳介X2の軟骨組織と耳経穴との位置関係から、振動子が耳介X2の軟骨組織に加える振動によって、この軟骨組織の近傍にある耳経穴を刺激できることを発見した。そして、本願の発明者は以下説明するように、耳経穴の刺激という軟骨伝導の新たな用途を利用して、付加価値の高い聴取装置を実現した。
【0034】
<第一実施形態>
第一実施形態の聴取装置100を説明する。
図4Aは、第一実施形態の聴取装置100が装着された耳介X2を側頭部側から視た図である。
図4Bは、第一実施形態の聴取装置100の斜視図である。
図5は、聴取装置100の電気的構成を示すブロック図である。
【0035】
図4Aに示すように、聴取装置100は、耳介X2の少なくとも一部に装着され、軟骨伝導によって音を内耳に伝導可能である。聴取装置100は、例えば音声再生装置のイヤホン、若しくは、補聴器又は集音器として利用できる。音声再生装置は、スマートフォン、携帯音楽プレイヤー、音声レコーダーなどが例示される。本実施形態では、聴取装置100が音声再生装置500のイヤホンとして利用される場合を例示する。
【0036】
聴取装置100は、耳介X2の表皮と接触するように装着される振動子400を有する。振動子400は、音声信号に応じて振動する振動素子(例えば、圧電素子や電磁型素子等)を内蔵する。振動子400は、外耳道口X1aの周囲を取り巻く軟骨組織に振動を与えることで、音を内耳に伝導するとともに耳経穴を刺激する。
【0037】
振動子400は、耳介X2の表皮の一部に装着可能な軽量小型のチップ状である。
図4Bに示すように、振動子400の円形状の一端面が、耳介X2の表皮に装着される接触面410である。接触面410は、耳介X2の表皮のうちで、少なくとも一つの耳経穴と対応する位置に配置される。
【0038】
本実施形態の振動子400は、耳珠X2aに装着可能な形状及びサイズに成形されている。例えば振動子400は小径の円盤状であるが、耳珠X2aに装着しやすい板状であればよい。接触面410が耳珠X2aと面接触するように、振動子400が粘着剤や粘着シートを用いて貼り付けられる。振動子400は、クリップ等の固定具によって耳珠X2aに取り付けられてもよい。またユーザ自身が振動子400を耳珠X2aに押し当ててもよい。ユーザは、振動子400を指でつまんで耳珠X2aに押し当ててもよいし、外部機器に設けられた振動子400を耳珠X2aに押し当ててもよい。例えばユーザは、振動子400が設けられた携帯電話を耳に近づけるように把持することで、振動子400を耳珠X2aに押し当ててもよい。
【0039】
耳介X2の表皮と接触する接触面410には、少なくとも一つの突起420が設けられる。本実施形態では、複数(
図4Bの例では、7つ)の突起420が、接触面410に等間隔で設けられる。各突起420は、互いに同じ大きさの円錐状であり、その突出端が若干丸みを帯びている。なお、突起420の数量、形状、サイズ等は、自由に設計可能である。突起420の突出端は、尖鋭であってもよい。また、突起420の突出端の形状や大きさは、一様ではなく異なっていてもよい。
【0040】
少なくとも一つの突起420は、振動子400が装着された耳介X2の表皮を点接触で押圧して、その近傍にある耳経穴を刺激する。本実施形態では、複数の突起420が、接触面410と面接触する耳珠X2aにある耳経穴を刺激する。少なくとも一つの突起420は、接触面410から突出する高さが、耳経穴を効果的に刺激するのに適した範囲(例えば、0.1~3mm)にある。また、突起420がなくても振動子400全体の振動が耳経穴に伝えられるので、突起420がない実施形態も可能である。
【0041】
振動子400の内部には、先述の振動素子に加えて、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)が設けられる。
図5に示すように、振動子400に設けられた論理回路は、信号受信部101、駆動部102、電源部等を含む。信号受信部101は、外部音源で生成された音声信号を受信し、駆動部102に受信信号を出力する。駆動部102は、振動子400を駆動して振動させる。具体的には、駆動部102は、受信信号に所定の信号処理(例えば、増幅処理や波形整形処理等)を施して駆動信号を生成し、この駆動信号を振動子400の振動素子に供給して振動させる。
【0042】
振動子400の電源部は、内蔵電池の電力を振動子400の各部に供給する。振動子400の電源部は、ケーブルで接続された外部電源の電力を、振動子400の各部に供給してもよい。振動子400に電源部を設けずに、外部機器(例えば音声再生装置500)の電源部から振動子400に電力を供給してもよい。信号受信部101、駆動部102、電源部等は、振動子400の外部に設けられて、振動子400とケーブルで電気的に接続されてもよい。
【0043】
本実施形態では、聴取装置100はケーブル110を介して、外部音源である音声再生装置500と接続されている。聴取装置100と音声再生装置500とは、無線通信で接続されてもよい。音声再生装置500は、例えば携帯音楽プレイヤーであり、制御部501、記憶部502、表示部503、操作部504、入出力インターフェイス505等を含む。
【0044】
制御部501は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成されるが、論理回路(ハードウェア)で構成されてもよい。記憶部502は、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、またはフラッシュメモリ等の記憶装置である。記憶部502は、音声再生装置500で利用されるプログラムやデータ等を記憶し、聴取装置100で音声出力可能な音データ(例えば音楽データや音声データ等)も記憶されている。
【0045】
表示部503は、各種の画像を表示可能であり、例えば液晶ディスプレイである。操作部504は、ユーザが各種の操作を受付け可能であり、例えばキーやボタンである。入出力インターフェイス505は、外部機器との間でデータを送受信するためのインターフェイスである。例えば制御部501は、外部のコンピュータから転送された音データを入出力インターフェイス505で受信すると、その音データを記憶部502に保存する。
【0046】
ユーザは表示部503に表示される音データのうち、聴取装置100で音声再生したい音データを、操作部504を用いて選択する。制御部501は、選択された音データを記憶部502から読み出して、入出力インターフェイス505から聴取装置100に送信する。これにより、ユーザが選択した音データが、聴取装置100において軟骨伝導で音声に再生される。
【0047】
本実施形態では、聴取装置100で再生される音データは、可聴域(20Hz~20kHz)で出力される可聴データと、低周波の非可聴域(20Hz以下)で出力される非可聴データとを含む。聴取装置100では、音データに含まれる可聴データに基づいて、耳珠X2aに装着された振動子400が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を可聴域の周波数で振動させる。この場合、可聴音が内耳に軟骨伝導で伝達されるため、ユーザは可聴データの音声を認識できる。振動子400は外耳道口X1aを塞がないため、ユーザは軟骨伝導で伝達される音声を聴きながら、外耳道口X1aの外部から入ってくる気導音も聴くことができる。
【0048】
一方、聴取装置100では、音データに含まれる非可聴データに基づいて、振動子400が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を非可聴低周波数で振動させる。この場合、超低周波音が内耳に伝達されるため、ユーザは非可聴データの音声を認識できない。しかしながら、振動子400の低周波振動が軟骨組織に加えられるため、軟骨組織の近傍にある耳経穴(特に、耳珠X2aにある耳経穴)を物理的に刺激できる。さらに、振動子400の振動に伴って突起420が耳経穴を押圧するため、耳経穴を刺激する効果が高まる。なお、振動子400に突起420が設けられない場合でも、上述した振動子400の振動によって耳経穴を物理的に刺激できることは言うまでもない。
【0049】
聴取装置100の駆動態様を説明する。聴取装置100の駆動部102は、可聴域(20Hz~20kHz)内にある第一周波数の第一駆動信号を振動子400に供給することで、振動子400から軟骨組織に可聴音を伝導させる振動を与える。駆動部102は、第一周波数よりも低い第二周波数の第二駆動信号を振動子400に供給することで、振動子400から耳経穴を刺激する振動を与える。本例の第二周波数は20Hz以下の非可聴低周波数であるが、20Hzより大きい周波数でもよい。
【0050】
このような駆動態様の具体例を、以下に説明する。
図6Aは、第一例の駆動信号パターンを示すグラフである。
図6Bは、第二例の駆動信号パターンを示すグラフである。
図6A及び
図6Bのグラフでは、横軸が時間の経過を示し、縦軸が駆動信号のオン・オフと、オンされた駆動信号の周波数とを示す。以下の第一例及び第二例では、振動子400が一つの振動素子を有するものとする。
【0051】
図6Aを参照し、聴取装置100の駆動態様の第一例を説明する。第一例では、聴取装置100で再生される音データに、可聴データと非可聴データとが時系列に交互に並んで設定されている。
図6Aに示すように駆動部102は、可聴データの受信信号に基づいて生成した第一駆動信号と、非可聴データの受信信号に基づいて生成した第二駆動信号とを、振動子400に交互に供給する。
【0052】
この場合、第一駆動信号が供給されてオンされる期間は、振動子400が可聴域の周波数(20Hz~20kHz)で振動するため、ユーザは軟骨伝導で再生される可聴データの音声を聴取できる。
図6Aの例では、説明の便宜のため、第一駆動信号の周波数が一定であるが、第一駆動信号の周波数は可聴データの音声に応じて可聴域内で変化する。
【0053】
一方、第二駆動信号が供給されてオンされる期間は、振動子400が非可聴域の低周波(20Hz以下)で振動するため、ユーザは軟骨伝導で再生される非可聴データの音声を聴取できないが、振動子400の低周波振動が軟骨組織に加えられることで耳経穴が刺激される。
図6Aの例では、第二駆動信号の周波数は固定値(例えば、10Hz)である。
【0054】
上記のように第一例の駆動態様では、軟骨伝導を利用して、可聴音の再生と耳経穴の刺激とが交互に行われる。さらに本実施形態では、一回当たりの第二駆動信号のオン時間は、極めて短時間(例えば0.5秒以下)に設定されている。
図6Aの例では、オン時間が0.1秒の第一駆動信号と、オン時間が0.1秒の第二駆動信号とが、振動子400に交互に供給される。第二駆動信号のオン時間を極めて短期間とすることで、第一駆動信号に基づく可聴データの音声再生が中断される時間を短縮できる。これにより、ユーザは可聴音の再生中断を認識しにくいため、可聴音の音声や楽曲を聴きながら耳経穴の刺激を受けることができる。
【0055】
図6Bを参照し、聴取装置100の駆動態様の第二例を説明する。第二例では、聴取装置100で再生される音データに、可聴データと非可聴データとが同時に出力され、非可聴データは連続して出力されるように設定されている。
図6Bに示すように駆動部102は、可聴データの受信信号に基づいて生成した第一駆動信号と、非可聴データの受信信号に基づいて生成した第二駆動信号とを、振動子400に同時に供給する。
【0056】
この場合、第一駆動信号及び第二駆動信号は同時並行にオンされて、振動子400が可聴域の周波数(20Hz~20kHz)で振動すると共に、非可聴域の低周波(20Hz以下)で振動する。ユーザは軟骨伝導で再生される可聴データの音声を聴取できると共に、振動子400の低周波振動が軟骨組織に加えられることで耳経穴が刺激される。このように第二例の駆動態様では、軟骨伝導を利用して、可聴音の再生と耳経穴の刺激とが同時に行われる。本例では、可聴データと非可聴データとの両方が連続して出力される場合を例示したが、音データは可聴データが出力される期間と出力されない期間とを有してもよい。この音データでは、可聴データが出力される期間であるか否かに関係なく、非可聴データが連続して出力される。そのため、可聴データが出力される期間では、上記と同様に可聴音を再生しつつ耳経穴が刺激される一方、可聴データが出力されない期間では、可聴音を再生せずに耳経穴が刺激される。
【0057】
なお、第一駆動信号及び第二駆動信号のオン時間は、自由に設定可能である。第一例では、第一駆動信号のオン時間は、第二駆動信号のオン時間がよりも長くてもよい。例えば駆動部102は、オン時間が5秒の第一駆動信号と、オン時間が0.2秒の第二駆動信号とを、振動子400に交互に供給してもよい。振動子400は、一つの振動素子を有するのに代えて、複数の振動素子を有してもよい。この場合、複数の振動素子は、互いに異なる複数の周波数の振動を同時に発生可能でもよい。例えば振動子400は、第一駆動信号によって駆動する振動素子と、第二駆動信号によって駆動する振動素子とを別々に有してもよい。
【0058】
聴取装置100で再生される音データは、可聴データと非可聴データとの何れか一方のみを含んでもよい。例えば、可聴データのみを含む音データは、耳経穴の刺激を行うことなく、可聴音を再生するために利用できる。可聴データのみを含む音データでも、振動子400を振動させる作用があるため、この振動によって耳経穴を刺激可能である。また、非可聴データのみを含む音データは、可聴音を再生することなく、耳経穴を刺激するために利用できる。
【0059】
<第二実施形態>
第二実施形態の聴取装置100を説明する。
図7Aは、第二実施形態の聴取装置100が装着された耳介X2を側頭部側から視た図である。
図7Bは、第二実施形態の聴取装置100の斜視図である。以下の各実施形態では、第一実施形態と共通する構成要素については、第一実施形態と同じ符号を付して説明を省略し、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。第二実施形態の聴取装置100は、振動子の形状や装着位置が第一実施形態と異なる。
【0060】
図7A及び
図7Bに示すように、第二実施形態の聴取装置100は、第一実施形態の振動子400に代えて振動子700を有する。振動子700は、振動素子を内蔵し、耳介X2の表皮の一部に装着可能な軽量小型の球状である。振動子700の外表面が、耳介X2の表皮に装着される接触面710である。接触面710は、耳介X2の表皮のうちで、少なくとも一つの耳経穴と対応する位置に配置される。
【0061】
本実施形態の振動子700は、珠間切痕X2dに収まる形状及びサイズに成形されている。珠間切痕X2dは、耳珠X2aと対耳珠X2cとに挟まれた耳甲介腔の下部にある。例えば振動子700は小径の球状であるが、珠間切痕X2dに収容しやすい立体形状(長球状、偏球状、半球状、半長球状、半偏球状、面取りした円筒状等)であればよい。振動子700が珠間切痕X2dに収容されると、接触面710の一部が珠間切痕X2dと面接触する。
【0062】
耳介X2の表皮と接触する接触面710には、少なくとも一つの突起720が設けられる。突起720は、振動子700が装着された耳介X2の表皮を点接触で押圧して、その近傍にある耳経穴を刺激する。本実施形態では、接触面710に等間隔で設けられた複数の突起720が、接触面710と面接触する珠間切痕X2dにある耳経穴を刺激する。各突起720の接触面710から突出する高さは、耳経穴を効果的に刺激するのに適した範囲(例えば、0.1~3mm)にある。
【0063】
第二実施形態の聴取装置100は、上記の振動子の相違を除いて、第一実施形態と同様である。聴取装置100の駆動態様も、第一実施形態と同様である。聴取装置100では、音データに含まれる可聴データに基づいて、珠間切痕X2dに装着された振動子700が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を可聴域の周波数で振動させるため、ユーザは可聴データの音声を認識できる。振動子700は外耳道口X1aを塞がないため、ユーザは軟骨伝導で伝達される音声を聴きながら、外耳道口X1aの外部から入ってくる気導音も聴くことができる。
【0064】
一方、聴取装置100では、音データに含まれる非可聴データに基づいて、振動子700が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を非可聴低周波数で振動させるため、ユーザは非可聴データの音声を認識できない。振動子700の低周波振動が軟骨組織に加えられるため、軟骨組織の近傍にある耳経穴(特に、珠間切痕X2dにある耳経穴)を物理的に刺激できる。さらに、振動子700の振動に伴って突起720が耳経穴を押圧するため、耳経穴を刺激する効果が高まる。なお、突起720の数量、形状、サイズ等は自由に設計可能であり、また振動子700に突起720が設けられない場合でも、上述した振動子700の振動によって耳経穴を物理的に刺激できることは言うまでもない。
【0065】
<第三実施形態>
第三実施形態の聴取装置100を説明する。
図8は、第三実施形態の聴取装置100が装着された耳介X2を側頭部側から視た図である。
図9は、第三実施形態の他の聴取装置100が装着された耳介X2を後頭部側から視た図である。第三実施形態の聴取装置100は、複数の振動子を有する点が第一及び第二実施形態と異なる。
【0066】
第三実施形態の聴取装置100は、音伝達用の第一振動子と耳経穴刺激用の第二振動子とを含む。第一振動子は、耳介X2の表皮と接触するように装着され、可聴域内の第一周波数で振動することで、軟骨組織に可聴音を伝導させる振動を与える。第二振動子は、耳介X2の表皮と接触するように装着され、第一周波数よりも低い第二周波数で振動することで、耳経穴を刺激する振動を与える。
図8に示すように、本例の第一振動子は第一実施形態の振動子400と同様であり、本例の第二振動子は第二実施形態の振動子700と同様である。
【0067】
さらに第三実施形態の聴取装置100は、第一振動子と第二振動子とに連結された連結具800を備える。
図8に示すように、本例の連結具800は、略Uの字に湾曲した可撓性の部材であり、その長手方向の両端に振動子400と振動子700とが連結されている。連結具800は、振動子400の接触面410が振動子700側を向く状態で、振動子400及び振動子700を支持する。
【0068】
連結具800は、第一振動子及び第二振動子のうち、一方が耳珠X2a又は耳介裏X2bに装着され、且つ他方が耳甲介腔に装着された状態を保持する。
図8に示す例では、振動子400が耳珠X2aに装着され、振動子700が耳甲介腔の下部にある珠間切痕X2dに装着されている。連結具800は、振動子400と振動子700との間で、耳珠X2aの外側を通るように湾曲して延びる。連結具800は、振動子400と振動子700を互いに近接する方向に弾性力で付勢する。これにより、振動子400と振動子700とは、耳珠X2aを前後両側から挟んだ状態で固定される。
【0069】
音声再生装置500は、連結具800に接続されたケーブル110を介して、振動子400と振動子700との夫々に音データを送信する。本例では、可聴データのみを含む音データ(以下、音出力用データ)が振動子400に送信される一方、非可聴データのみを含む音データ(以下、振動出力用データ)が振動子700に送信される。
【0070】
これにより、耳珠X2aに装着された振動子400が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を可聴域の周波数で振動させるため、ユーザは可聴データの音声を認識できる。また、珠間切痕X2dに装着された振動子700が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を非可聴低周波数で振動させるため、軟骨組織の近傍にある耳経穴(特に、珠間切痕X2dにある耳経穴)を物理的に刺激できる。
【0071】
なお、第一振動子及び第二振動子の装着位置は、上記態様に限定されない。
図9に示す聴取装置100では、振動子400は耳珠X2aに装着されておらず、耳介裏X2b(特に、外耳道口X1aの近傍)に装着される。振動子700は、
図8と同様に珠間切痕X2dに装着される。振動子400と振動子700とに連結された連結具900は、耳輪の外側を通るように湾曲して延びる。連結具900は、振動子400と振動子700を互いに近接する方向に弾性力で付勢する。これにより、振動子400と振動子700とは、耳介X2を前後両側から挟んだ状態で固定される。
【0072】
上記のように音声再生装置500は、音出力用データを振動子400に送信し、振動出力用データを振動子700に送信する。これにより、耳介裏X2bに装着された振動子400が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を可聴域の周波数で振動させるため、ユーザは可聴データの音声を認識できる。また、珠間切痕X2dに装着された振動子700が外耳道口X1a近傍の軟骨組織を非可聴低周波数で振動させるため、軟骨組織の近傍にある耳経穴(特に、珠間切痕X2dにある耳経穴)を物理的に刺激できる。
【0073】
なお、音声再生装置500は上記とは逆に、音出力用データを振動子700に送信し、振動出力用データを振動子400に送信してもよい。この場合、振動子700によって可聴データの再生しつつ、耳珠X2a又は耳介裏X2bに装着された振動子400によって、耳経穴を物理的に刺激できる。また音声再生装置500は、可聴データ及び非可聴データの両方を含む共通の音データを、振動子400及び振動子700の両方に送信してもよい。この場合、振動子400及び振動子700の両方で、可聴音の再生と耳経穴の刺激とを実行できる。
【0074】
<備考>
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態に夫々開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。更に、各実施形態に夫々開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0075】
例えば、聴取装置100は、三つ以上の振動子を有してもよい。振動子400,700には、突起420,720が設けらなくてもよい。聴取装置100は、音声再生装置500の機能を備えてもよい。この場合、聴取装置100は、自身が記憶する音データに基づいて振動子を振動させることで、軟骨伝導による可聴音の再生と耳経穴の刺激とを実行できる。
【符号の説明】
【0076】
100 聴取装置、102 駆動部、400 振動子、700 振動子、800 連結具、900 連結具