(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145683
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース及び充填材の強度設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058138
(22)【出願日】2023-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 厚
(72)【発明者】
【氏名】脇田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰教
(72)【発明者】
【氏名】岸原 洋也
(72)【発明者】
【氏名】川村 典久
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 正雄
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB13
(57)【要約】
【課題】充填材の圧壊を抑制することができる座屈拘束ブレース、及び座屈拘束ブレースの充填材の強度設計方法を提供することを目的とする。
【解決手段】長尺状かつ板状の芯材10と、芯材10の両端を突出させた状態で外周を覆う拘束部材20と、芯材10と拘束部材20との間に充填される充填材30と、を備え、充填材30の圧壊強度は、芯材10の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に、充填材30に生じる最大圧縮応力以上であることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状かつ板状の芯材と、
前記芯材の両端を突出させた状態で外周を覆う拘束部材と、
前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、
を備え、
前記充填材の圧壊強度は、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上である、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、
前記塑性化部は、開口部を有さない、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記芯材と前記充填材との間に介在し、前記芯材の変形に伴って弾性変形することで前記芯材と前記充填材との相対移動を許容するアンボンド材を更に備え、
前記許容最大変形量は、前記芯材が、前記アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記拘束部材は、円筒状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記芯材の板厚は、12mm以上16mm以下であり、
前記充填材の圧壊強度は、21N/mm2以上である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、
前記塑性化部の両側に隣接し、板幅が端部側ほど大きくなる形状である一対の幅変化部を備え、
前記幅変化部における板幅方向の端面を形成する傾斜平面と長手方向とのなす角度が30度以上である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
長尺状かつ板状の芯材と、
前記芯材の両端を突出させた状態で外周を覆う拘束部材と、
前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、
を備える座屈拘束ブレースにおける、前記充填材の強度設計方法であって、
前記充填材の圧壊強度を、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上とする、
ことを特徴とする充填材の強度設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレース及び充填材の強度設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物における制振の用途に、座屈拘束ブレースが用いられることがある。座屈拘束ブレースとして、長尺状かつ板状の芯材と、芯材の両端を突出させた状態で外周を覆う拘束部材と、芯材と拘束部材との間に充填される充填材とを備えたものがある。地震時の振動荷重により芯材に圧縮軸力が生じて芯材が板厚方向に変位すると、その荷重は充填材により拘束部材に伝達され、拘束部材がその荷重を受け止めることで、芯材の座屈の進展が抑制される。芯材の座屈が進展しないことで、地震に対する制振効果が向上する。地震時には、拘束部材と芯材との間に充填される充填材に圧縮荷重が入力されることになる。このような座屈拘束ブレースの従来例として、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1の座屈拘束ブレースでは、必要なエネルギー吸収性を与えつつ、剛性を高めることができ、かつ低コスト化を可能とすることを目的として、芯材と拘束材とを有し、芯材の長手方向の一部分に他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部を設け、このエネルギー吸収部に長手方向に沿う構造スリットを1つ以上設け、構造スリットにより隔てられた複数の芯材分割部分の幅寸法を互いに異ならせている。この座屈拘束ブレースでは、複数の芯材分割部分の幅寸法を異ならせることで、地震時の圧縮軸力による芯材の座屈モードを制御して充填材に作用する圧縮荷重を長手方向で分散させ、充填材に局所的な圧縮荷重が入力されないようにしている。つまり、特許文献1の座屈拘束ブレースでは、芯材の形状を工夫することで充填材が受ける圧縮荷重を低減させている。なお、特許文献1の座屈拘束ブレースでは、芯材における塑性化部に開口を形成する必要があるため、開口を形成しない場合に比べて軸耐力の低下や生産性の悪化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の座屈拘束ブレースでは、充填材に作用する圧縮荷重の分散は図られているものの充填材の圧壊に対する強度が考慮されていない。そのため、芯材の一部が板厚方向に変位した場合に、分散後の圧縮荷重の大きさによっては充填材が圧壊してしまう。充填材が圧壊すると芯材が拘束されず、地震時の振動に伴う芯材の座屈が進展し、座屈拘束ブレースによる制振効果を得られなくなる問題がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、充填材の圧壊を抑制することができる座屈拘束ブレース、及び座屈拘束ブレースの充填材の強度設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係る座屈拘束ブレースは、長尺状かつ板状の芯材と、前記芯材の両端を突出させた状態で外周を覆う拘束部材と、前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、を備え、前記充填材の圧壊強度は、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上であることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、充填材の圧壊強度は、最大圧縮応力以上である。最大圧縮応力は、芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合の最大圧縮応力である。これにより、芯材が圧縮軸力により変形した際に、その変形量が許容最大変形量以下である限り、充填材が圧壊することを抑えることができる。
【0008】
<2>本発明の態様2に係る座屈拘束ブレースは、態様1に係る座屈拘束ブレースにおいて、前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、前記塑性化部は、開口部を有さないことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、芯材は、長手方向の中央に位置しかつ拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、塑性化部は開口部を有さない。これにより、例えば、塑性化部に開口を形成する場合とは違い、長手方向に直交する方向における断面積を塑性化部の外形状に対応した最大の面積に維持することができるため、長手方向に沿う引張荷重に対する塑性化部の軸耐力を低下させることがない。また、塑性化部の断面2次モーメントを大きくすることができるため、塑性化部に開口を形成する場合に比べて、塑性化部の曲げ剛性を大きくすることができる。また、更に、塑性化部は開口がない閉じた面を有していることから、塑性化部の周囲に位置する充填材に対してコンファインド効果を適切に発生させることができる。したがって、塑性化部に開口を形成する場合に比べて、充填材の耐力を向上させることができる。
【0010】
<3>本発明の態様3に係る座屈拘束ブレースは、態様1又は態様2に係る座屈拘束ブレースにおいて、前記芯材と前記充填材との間に介在し、前記芯材の変形に伴って弾性変形することで前記芯材と前記充填材との相対移動を許容するアンボンド材を更に備え、前記許容最大変形量は、前記芯材が、前記アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量であることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、芯材と充填材との間に介在し、芯材の変形に伴って弾性変形することで芯材と充填材との相対移動を許容するアンボンド材を更に備える。これにより、芯材の面外変形が生じてもアンボンド材が弾性変形することで、充填材が芯材の面外変形に追従して変形することを抑えることができる。芯材の許容最大変形量は、芯材が、アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である。これにより、芯材が変形しても、その変形量が許容最大変形量以下である限り、充填材に生じる最大圧縮応力は圧壊強度以下に収まるため、充填材が圧壊することを抑制することができる。
【0012】
<4>本発明の態様4に係る座屈拘束ブレースは、態様1から態様3のいずれか1つに係る座屈拘束ブレースにおいて、前記拘束部材は、円筒状であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、拘束部材は、円筒状である。これにより、例えば、芯材の変形によって充填材に付加された荷重を、充填材の広い領域に分散させることができる。よって、例えば、芯材の変形によって、充填材の一部に集中して大きな荷重が入力されても充填材に局所的な応力が生じることを抑えることができる。したがって、充填材が圧壊することをより抑えることができる。
【0014】
<5>本発明の態様5に係る座屈拘束ブレースは、態様1から態様4のいずれか1つに係る座屈拘束ブレースにおいて、前記芯材の板厚は、12mm以上16mm以下であり、前記充填材の圧壊強度は、21N/mm2以上であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、芯材の板厚は12mm以上16mm以下である。このように、芯材の板厚を比較的小さくすることで、小規模な建築物に適用される軸耐力の小さな座屈拘束ブレースを得ることができる。充填材の圧壊強度は21N/mm2以上である。これにより、芯材の板厚が比較的小さい小規模建築物用の座屈拘束ブレースにおいて充填材の圧壊を抑制して芯材を適切に拘束することができる。
【0016】
<6>本発明の態様6に係る座屈拘束ブレースは、態様1から態様5のいずれか1つに係る座屈拘束ブレースにおいて、前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、前記塑性化部の両側に隣接し、板幅が端部側ほど大きくなる形状である一対の幅変化部を備え、前記幅変化部における板幅方向の端面を形成する傾斜平面と長手方向とのなす角度が30度以上であることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、芯材は、長手方向の中央に位置しかつ拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備える。また、芯材は、塑性化部の両側に隣接し、板幅が端部側ほど大きくなる形状である一対の幅変化部を備える。幅変化部における板幅方向の端面を形成する傾斜平面と長手方向とのなす角度が30度以上である。これにより、例えば、芯材に付加された圧縮荷重を、幅変化部を介して塑性化部に効率よく伝達することができる。
【0018】
<7>本発明の態様7に係る充填材の強度設計方法は、板状の芯材と、前記芯材の外周を覆う拘束部材と、前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、を備える座屈拘束ブレースにおける、前記充填材の強度設計方法であって、前記充填材の圧壊強度を、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に、前記充填材に生じる最大圧縮応力以上とすることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、充填材の圧壊強度を、芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に充填材に生じる最大圧縮応力以上とする。これにより、芯材が圧縮軸力により許容最大変形量以下の変形量で変形した際に、充填材が圧壊することを抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、充填材の圧壊を抑制することができる座屈拘束ブレース、及び座屈拘束ブレースの充填材の強度設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】
図1に示すIII-III部の断面図である。
【
図5】座屈拘束ブレースの塑性化部が面外変形した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る座屈拘束ブレース100を説明する。座屈拘束ブレース100は、例えば、建物における柱と梁とからなる構造を補強するために用いられる。
座屈拘束ブレース100は、
図1~
図4に示すように、芯材10と、拘束部材20と、充填材30と、アンボンド材40と、を備える。
【0023】
芯材10は、例えば、鋼板により構成された長尺状かつ板状の部材である。芯材10は、両端部が建物の構造に取り付けられることで、建物を補強する。芯材10は、鋼板(平鋼)から形成されている。なお芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されていることが好ましい。この場合、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0024】
図1に示すように、芯材10は、狭幅部11と、広幅部12と、幅変化部13と、芯材補剛部材14と、を備えている。以下、芯材10について、狭幅部11と、広幅部12と、幅変化部13と、芯材補剛部材14と、を区別しない場合は、芯材10と図示あるいは呼称する。
狭幅部11は、芯材10における長手方向の中央に位置している。広幅部12は、芯材10における長手方向の両端に位置している。広幅部12は、狭幅部11よりも板幅が広い。広幅部12は、狭幅部11よりも長手方向に短い。本実施形態では広幅部12は幅長さが一定であるが、端部に向かうにつれて幅長さが段階的に長くなる形状であってもよい。
【0025】
本実施形態において、芯材10は、芯材10の長手方向の中央に位置しかつ後述する拘束部材20から突出する部分よりも幅狭の塑性化部10Pを備える。すなわち、芯材10における長手方向の中央が狭幅部11であり、長手方向の端部が広幅部12であることで、芯材10における長手方向の中央(狭幅部11)が塑性化し易い領域となる。以下、芯材10において塑性化しやすい領域(狭幅部11)を、塑性化部10Pと呼称する。芯材10が塑性化部10Pを備えることで、例えば、座屈拘束ブレース100の長手方向に地震等によって圧縮軸力が付加された時、
図5に示すように、芯材10の塑性化部10Pが、圧縮軸力によって面外変形する。
【0026】
図1及び
図2に示すように、広幅部12には、芯材補剛部材14が接合されている。芯材補剛部材14は、広幅部12における表裏面(芯材補剛部材14を除く芯材10の板厚方向を向く面)に設けられている。長手方向で芯材補剛部材14が配置された部分において、芯材10は、
図3に示すように、長手方向に直交する断面が十字状を呈している。
広幅部12と芯材補剛部材14にはそれぞれ、図示しないボルト孔が開設されている。座屈拘束ブレース100は、ボルト孔に差し込まれる図示しないボルトによって、建物に取り付けられる。
【0027】
図1に示すように、幅変化部13は、広幅部12と狭幅部11との境界領域である。幅変化部13の幅は、長手方向に沿って変化する。幅変化部13の幅は、広幅部12側から狭幅部11側に向けて連続的に小さくなっており、幅変化部13の板幅方向の両端にはテーパ面13T(傾斜平面に相当)が形成されている。幅変化部13は、例えば、芯材10に作用する付加曲げモーメントを吸収する。幅変化部13におけるテーパ面13Tと長手方向とのなす角度Aは30度以上であることが好ましい。これにより、広幅部12から入力された圧縮荷重が効率よく狭幅部11に伝達される。
【0028】
本実施形態において、芯材10の板厚は、例えば、12mm以上16mm以下である。本実施形態において、芯材10の板厚とは、芯材補剛部材14を除く芯材10の板厚である。また、芯材10の許容最大変形量は、芯材10が、
図5に示すアンボンド材40(後述する)の厚み40tの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である。
【0029】
芯材補剛部材14は、鋼板により構成された板状の部材である。
図1及び
図2に示すように、芯材補剛部材14は、芯材10の長手方向の端部において、広幅部12の板厚方向の両側面に鉛直に配置される。これにより、芯材10の両端部を補強し、芯材10における長手方向で芯材補剛部材14が配置された部分が板厚方向に折れ曲がることを防ぐ。本実施形態において、芯材補剛部材14の板厚は、例えば、芯材補剛部材14を除く芯材10と同じく12mm以上16mm以下とすることが好ましい。
【0030】
拘束部材20は、芯材10の両端を突出させた状態で、芯材10の外周を覆う部材である。本実施形態において、拘束部材20は、例えば、円筒状である。換言すれば、芯材10の両端以外の部分は、円筒状の拘束部材20の内部に収容される。このことで、例えば、芯材10の変形によって充填材30に付加された荷重を、充填材30の分散させることができる。拘束部材20は、例えば、鋼材により構成される。拘束部材20の長手方向の長さは、芯材10の長手方向の長さよりも短い。したがって、芯材10の長手方向における両端部は、拘束部材20から突出する。
【0031】
充填材30は、拘束部材20の内側に充填される。充填材30は、芯材10と拘束部材20との間に充填される。充填材30は、コンクリートやモルタル等である。拘束部材20および充填材30により、芯材10の長手方向を除く方向への変形(面内座屈や面外座屈)が規制される。
拘束部材20の端部から充填材30が漏れ出ることを防止するために、拘束部材20の両端開口は不図示の蓋により塞がれている。
【0032】
本実施形態において、充填材30の圧壊強度は、芯材10の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に、充填材30に生じる最大圧縮応力以上である。ここで、最大圧縮応力は、充填材30に分布をもって生じる応力のうちの最大値を示す応力である。本実施形態において、充填材30の圧壊強度は、例えば、21N/mm2以上である。充填材30の圧壊強度は、JASS・5(建築工事標準仕様書・同解説5章(鉄筋コンクリート))に規定のモルタル強度試験により計測できる。
【0033】
本実施形態において、塑性化部10Pは、開口部を有さない、換言すれば、芯材10の塑性化部10Pと、拘束部材20と、の間には、充填材30が隙間なく充填されている。このことで、塑性化部10Pの周囲に位置する充填材30にコンファインド効果を発生させ、塑性化部10Pの周囲に位置する充填材30の耐力をより向上させることができる。
【0034】
アンボンド材40は、
図3及び
図4に示すように、芯材10と充填材30との間に介在し、芯材10の変形に伴って弾性変形することで芯材10と充填材30との相対移動を許容する。このことで、アンボンド材40は、芯材10と充填材30とが長手方向に一体となって挙動することを規制する。これにより、充填材30は、芯材10の軸力が拘束部材20に伝達しないように、すなわち芯材10が拘束部材20に対して長手方向に相対移動ができるように、芯材10を保持する。
【0035】
(充填材30の強度設計方法)
次に、本実施形態に係る座屈拘束ブレース100における、充填材30の強度設計方法を説明する。
すなわち、本実施形態に係る充填材30の強度設計方法は、充填材30の圧壊強度を、芯材10の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に、充填材30に生じる最大圧縮応力以上とする。
【0036】
具体的には、例えば、座屈拘束ブレース100に付加される圧縮軸力をPd,w、芯材10と充填材30との接触幅をlc、芯材の幅をBcとすると、充填材30に付加される圧縮応力は、次の式で表される。
Pd,w/(lc・Bc)
【0037】
上記の式に基づき、例えば、圧縮軸力Pd,wを100,000N、接触幅lcを22mm、芯材の幅Bcを200mmとすると、充填材30に付加される圧縮軸力は、次の式で表される。
100,000/22/200=22.7N/mm2
上記のような場合は、充填材の圧壊強度を、22.7N/mm2となるように決定する。
充填材の強度設計の際は、座屈拘束ブレース100を建物に配置した際に想定される圧縮軸力に基づき充填材30に生じる最大圧縮応力を算出し、充填材30の圧壊強度を決定する。
上記の方法により、充填材30の強度が設計される。
【0038】
充填材30に生じる最大圧縮応力は有限要素法(FEM)で得ることもできる。この場合、芯材10が所定の座屈モードで座屈する場合に充填材30に生じる圧縮応力分布を演算させ、その圧縮応力分布のうち、最も大きい圧縮応力を最大圧縮応力とすれば良い。さらに、複数の座屈モードごとに充填材30に生じる圧縮応力分布を演算し、それらのうち最も大きい圧縮応力を最大圧縮応力としても良い。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る座屈拘束ブレース100によれば、充填材30の圧壊強度は、最大圧縮応力以上である。最大圧縮応力は、芯材10の面外変形量が許容最大変形量に達した場合の最大圧縮応力である。これにより、芯材10が圧縮軸力により変形した際に、その変形量が許容最大変形量以下である限り、充填材30が圧壊することを抑えることができる。
【0040】
また、芯材10は、長手方向の中央に位置しかつ拘束部材20から突出する部分よりも幅狭の塑性化部10Pを備え、塑性化部10Pは開口部を有さない。これにより、例えば、塑性化部10Pに開口を形成する場合とは違い、長手方向に直交する方向における断面積を塑性化部10Pの外形状に対応した最大の面積に維持することができるため、長手方向に沿う引張荷重に対する塑性化部10Pの軸耐力を低下させることがない。また、塑性化部10Pの断面2次モーメントを大きくすることができるため、塑性化部10Pに開口を形成する場合に比べて、塑性化部10Pの曲げ剛性を大きくすることができる。また、更に、塑性化部10Pは開口がない閉じた面を有していることから、塑性化部10Pの周囲に位置する充填材30に対してコンファインド効果を適切に発生させることができる。したがって、塑性化部10Pに開口を形成する場合に比べて、充填材30の耐力を向上させることができる。
【0041】
また、芯材10と充填材30との間に介在し、芯材10の変形に伴って弾性変形することで芯材10と充填材30との相対移動を許容するアンボンド材40を更に備える。これにより、芯材10の面外変形が生じてもアンボンド材40が弾性変形することで、充填材30が芯材10の面外変形に追従して変形することを抑えることができる。芯材10の許容最大変形量は、芯材10が、アンボンド材40の厚み40tの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である。これにより、芯材10が変形しても、その変形量が許容最大変形量以下である限り、充填材30に生じる最大圧縮応力は圧壊強度以下に収まるため、充填材30が圧壊することを抑制することができる。
【0042】
また、拘束部材20は、円筒状である。これにより、例えば、芯材10の変形によって充填材30に付加された荷重を、充填材30の広い領域に分散させることができる。よって、例えば、芯材10の変形によって、充填材30の一部に集中して大きな荷重が入力されても充填材30に局所的な応力が生じることを抑えることができる。したがって、充填材30が圧壊することをより抑えることができる。
【0043】
また、芯材10の板厚は12mm以上16mm以下である。このように、芯材10の板厚を比較的小さくすることで、小規模な建築物に適用される軸耐力の小さな座屈拘束ブレース100を得ることができる。充填材30の圧壊強度は21N/mm2以上である。これにより、芯材10の板厚が比較的小さい小規模建築物用の座屈拘束ブレース100において充填材30の圧壊を抑制して芯材10を適切に拘束することができる。
【0044】
また、芯材10は、長手方向の中央に位置しかつ拘束部材20から突出する部分よりも幅狭の塑性化部10Pを備える。また、芯材10は、塑性化部10Pの両側に隣接し、板幅が端部側ほど大きくなる形状である一対の幅変化部13を備える。幅変化部13における板幅方向の端面を形成する傾斜平面と長手方向とのなす角度が30度以上である。これにより、例えば、芯材10に付加された圧縮軸力を、幅変化部13を介して塑性化部10Pに効率的に伝達することができる。
【0045】
また、充填材30の圧壊強度を、芯材10の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に充填材30に生じる最大圧縮応力以上とする。これにより、芯材10が圧縮軸力により許容最大変形量以下の変形量で変形した際に、充填材30が圧壊することを抑えることができる。
【0046】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、拘束部材20は円筒状であることが好ましいと説明したが、必要に応じて角筒状としてもよい。また、拘束部材20は複数の部材を連結したものであってもよい。また、塑性化部10Pは、長手方向に直交する方向の断面形状が長手方向で一定であるものを例示したが、塑性化部10Pは、長手方向の一部において他の部分と断面形状が異なっていても良い。さらに、塑性化部10Pに開口を形成しないことが好ましいが、塑性化部10Pに開口を形成してもよい。
【0047】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 芯材
10P 塑性化部
11 狭幅部
12 広幅部
13 幅変化部
14 芯材補剛部材
20 拘束部材
30 充填材
40 アンボンド材
100 座屈拘束ブレース
【手続補正書】
【提出日】2023-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状かつ板状の芯材と、
前記芯材の両端を突出させた状態で前記芯材の外周を覆う拘束部材と、
前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、
前記芯材と前記充填材との間に介在し、前記芯材の変形に伴って弾性変形することで前記芯材と前記充填材との相対移動を許容するアンボンド材と、
を備え、
前記充填材の圧縮強度である圧壊強度は、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上であり、
前記充填材に生じる圧縮応力とは、前記芯材の面外変形に伴う前記芯材と前記充填材との接触によって、前記芯材が前記充填材に及ぼす圧縮応力であり、
前記許容最大変形量は、前記芯材が、前記アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記充填材は、前記芯材の長手方向に直交する断面において、前記アンボンド材の全周に隙間なく密接している、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、
前記塑性化部は、開口部を有さない、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記拘束部材は、円筒状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記芯材の板厚は、12mm以上16mm以下であり、
前記充填材の圧壊強度は、21N/mm2以上である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、
前記塑性化部の両側に隣接し、板幅が端部側ほど大きくなる形状である一対の幅変化部を備え、
前記幅変化部における板幅方向の端面を形成する傾斜平面と長手方向とのなす角度が30度以上である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
長尺状かつ板状の芯材と、
前記芯材の両端を突出させた状態で前記芯材の外周を覆う拘束部材と、
前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、
前記芯材と前記充填材との間に介在し、前記芯材の変形に伴って弾性変形することで前記芯材と前記充填材との相対移動を許容するアンボンド材と、
を備える座屈拘束ブレースにおける、前記充填材の強度設計方法であって、
前記充填材の圧縮強度である圧壊強度を、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上とし、
前記充填材に生じる圧縮応力とは、前記芯材の面外変形に伴う前記芯材と前記充填材との接触によって、前記芯材が前記充填材に及ぼす圧縮応力であり、
前記許容最大変形量は、前記芯材が、前記アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である、
ことを特徴とする充填材の強度設計方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状かつ板状の芯材と、
前記芯材の両端を突出させた状態で前記芯材の外周を覆う拘束部材と、
前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、
前記芯材と前記充填材との間に介在し、前記芯材の変形に伴って弾性変形することで前記芯材と前記充填材との相対移動を許容するアンボンド材と、
を備え、
前記充填材の圧縮強度である圧壊強度は、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上であり、
前記充填材に生じる圧縮応力とは、前記芯材が面外変形に伴って前記充填材に対して接近することで前記アンボンド材を介して前記充填材に作用する押圧力によって、前記芯材が前記充填材に及ぼす圧縮応力であり、
前記許容最大変形量は、前記芯材が、前記アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量であり、
前記充填材は、前記芯材の長手方向に直交する断面において、前記アンボンド材の全周に隙間なく密接しており、
前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、
前記塑性化部は、開口部を有さない、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記拘束部材は、円筒状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記芯材の板厚は、12mm以上16mm以下であり、
前記充填材の圧壊強度は、21N/mm2以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記塑性化部の両側に隣接し、板幅が端部側ほど大きくなる形状である一対の幅変化部を備え、
前記幅変化部における板幅方向の端面を形成する傾斜平面と長手方向とのなす角度が30度以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
長尺状かつ板状の芯材と、
前記芯材の両端を突出させた状態で前記芯材の外周を覆う拘束部材と、
前記芯材と前記拘束部材との間に充填される充填材と、
前記芯材と前記充填材との間に介在し、前記芯材の変形に伴って弾性変形することで前記芯材と前記充填材との相対移動を許容するアンボンド材と、
を備え、
前記充填材は、前記芯材の長手方向に直交する断面において、前記アンボンド材の全周に隙間なく密接しており、
前記芯材は、長手方向の中央に位置しかつ前記拘束部材から突出する部分よりも幅狭の塑性化部を備え、
前記塑性化部は、開口部を有さない、座屈拘束ブレースにおける、前記充填材の強度設計方法であって、
前記充填材の圧縮強度である圧壊強度を、前記芯材の面外変形量が許容最大変形量に達した場合に前記充填材に生じる最大圧縮応力以上とし、
前記充填材に生じる圧縮応力とは、前記芯材が面外変形に伴って前記充填材に対して接近することで前記アンボンド材を介して前記充填材に作用する押圧力によって、前記芯材が前記充填材に及ぼす圧縮応力であり、
前記許容最大変形量は、前記芯材が、前記アンボンド材の厚みの範囲内で板厚方向に最も大きく面外変形する場合の変形量である、
ことを特徴とする充填材の強度設計方法。