(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145698
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】センサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241004BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20241004BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/41 325H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058161
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 薫
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BD05
2G004BD17
2G004BF06
2G004BF08
2G004BF09
2G004BH02
2G004BH06
2G004BJ03
2G004ZA04
(57)【要約】
【課題】センサ素子のクラックを抑制する。
【解決手段】センサ素子20は、長手方向に沿った両端である前端および後端と、長手方向に沿った第1面60aとを有する素子本体60と、第1面60aの前端側に配設された外側電極64と、第1面60aの後端側に配設された上側コネクタ電極71と、第1面60aに配設され且つ外側電極64と上側コネクタ電極71(71b)とを電気的に導通する外側リード線75と、第1面60aにおける上側コネクタ電極71よりも素子本体60の前端側に配設された第1緻密層92と、を備える。外側リード線75は、第1緻密層92に被覆された第1領域77を有する。第1領域77は、ジルコニアを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が2未満である。第1緻密層92は、厚さが11μm未満である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
長手方向に沿った両端である前端および後端と、前記長手方向に沿った表面である側面と、を有し、前記前端側が前記被測定ガスに晒される素子本体と、
前記側面の前記前端側に配設された外側電極と、
前記側面の前記後端側に配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記側面に配設され、前記外側電極と前記コネクタ電極とを導通する外側リード部と、
前記側面の一部を被覆し、前記コネクタ電極よりも前記前端側に配設された緻密層と、
を備え、
前記外側リード部は、少なくとも一部が前記緻密層に被覆された第1領域を有し、
前記第1領域は、ジルコニアを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が2未満であり、
前記緻密層は、厚さが11μm未満である、
センサ素子。
【請求項2】
前記第1領域は、前記TM比が1以下である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記第1領域は、前記TM比が0.1以下である、
請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記第1領域は、前記TM比が0.01以上である、
請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記緻密層は、厚さが10μm以下である、
請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記外側リード部は、前記第1領域と、第2領域と、を有し、
前記緻密層は、前記緻密層の前記前端側から前記後端側までに亘って、前記第1領域と前記第2領域とのうち前記第1領域のみを被覆している、
請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項7】
請求項1または2に記載のセンサ素子を備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のセンサ素子は、素子本体と外側電極とコネクタ電極と外側リード部と多孔質層と緻密層とを備えている。素子本体の前端側は、被測定ガスに晒される。外側電極は、素子本体の側面の前端側に配設されている。コネクタ電極は、素子本体の側面の後端側に配設されており、コネクタの接触部と電気的に導通する。外側リード部は、素子本体の側面に配設されており、外側電極とコネクタ電極とを電気的に導通する。多孔質層は、素子本体の側面に配設されており、外側リード部の少なくとも一部を被覆してこれを保護する。緻密層は、多孔質層を素子本体の長手方向に沿って分割するかまたは多孔質層よりも後端側に位置するように素子本体の側面に配設され、コネクタ電極よりも前端側に位置している。被測定ガス中の水分が毛細管現象によって多孔質層内を素子本体の後端側に向かって移動する場合に、緻密層では毛細管現象が生じにくいため、緻密層が存在することで水がコネクタ電極まで到達することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように外側リード部の少なくとも一部が緻密層に覆われたセンサ素子において、センサ素子にクラックが発生する場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、センサ素子のクラックを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
[1]本発明のセンサ素子は、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
長手方向に沿った両端である前端および後端と、前記長手方向に沿った表面である側面と、を有し、前記前端側が前記被測定ガスに晒される素子本体と、
前記側面の前記前端側に配設された外側電極と、
前記側面の前記後端側に配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記側面に配設され、前記外側電極と前記コネクタ電極とを導通する外側リード部と、
前記側面の一部を被覆し、前記コネクタ電極よりも前記前端側に配設された緻密層と、
を備え、
前記外側リード部は、少なくとも一部が前記緻密層に被覆された第1領域を有し、
前記第1領域は、ジルコニアを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が2未満であり、
前記緻密層は、厚さが11μm未満である、
ものである。
【0008】
このセンサ素子では、外側リード部が、少なくとも一部が緻密層に被覆された第1領域を有している。第1領域は、ジルコニアを含み、ジルコニアのTM比が2未満である。また、緻密層は、厚さが11μm未満である。これらにより、センサ素子のクラックの発生を抑制できる。発明者らは、このことを実験や解析により確認した。なお、第1領域のジルコニアのTM比の値は、センサ素子の未使用状態における値である。
【0009】
[2]上述したセンサ素子(前記[1]に記載のセンサ素子)において、前記第1領域は、前記TM比が1以下であってもよい。こうすれば、センサ素子のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。
【0010】
[3]上述したセンサ素子(前記[1]または[2]に記載のセンサ素子)において、前記第1領域は、前記TM比が0.1以下であってもよい。こうすれば、センサ素子のクラックの発生をより抑制できる。
【0011】
[4]上述したセンサ素子(前記[1]~[3]のいずれかに記載のセンサ素子)において、前記第1領域は、前記TM比が0.01以上であってもよい。
【0012】
[5]上述したセンサ素子(前記[1]~[4]のいずれかに記載のセンサ素子)において、前記緻密層は、厚さが10μm以下であってもよい。こうすれば、センサ素子のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。
【0013】
[6]上述したセンサ素子(前記[1]~[5]のいずれかに記載のセンサ素子)において、前記外側リード部は、前記第1領域と、第2領域と、を有し、前記緻密層は、前記緻密層の前記前端側から前記後端側までに亘って、前記第1領域と前記第2領域とのうち前記第1領域のみを被覆していてもよい。こうすれば、第2領域が存在する場合に、第1領域によりセンサ素子のクラックの発生を抑制する効果がより確実に得られる。また、第2領域のTM比が2未満でなくともセンサ素子のクラックの発生を抑制する効果が得られるから、第2領域については設計の自由度が高くなる。
【0014】
[7]本発明のガスセンサは、前記[1]~[6]のいずれかに記載のセンサ素子を備えたものである。そのため、このガスセンサは、上述したセンサ素子と同様の効果、例えばセンサ素子のクラックの発生を抑制する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図。
【
図5】第1緻密層92に被覆された第1領域77の周辺を示す縦断面図。
【
図6】ラマンスペクトルSPからピーク高さHtおよびピーク高さHmを算出する様子を概略的に示す説明図。
【
図7】変形例の第1緻密層92および第1領域77の周辺を示す断面図。
【
図8】変形例の第1緻密層92および第1領域77の周辺を示す断面図。
【
図9】変形例の第1緻密層92および第1領域77の周辺を示す断面図。
【
図10】変形例の第1緻密層92および第1領域77の周辺を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図である。
図2は、センサ素子20を右上前方から見た斜視図である。
図3は、センサ素子20の縦断面を模式的に示す縦断面図である。
図4は、センサ素子20の上面図である。
図5は、第1緻密層92に被覆された外側リード線75の第1領域77の周辺を示す縦断面図である。本実施形態において、
図1~
図5に示すように、センサ素子20の素子本体60の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体60の固体電解質層の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向および上下方向に垂直な方向を左右方向(幅方向)とする。
【0017】
図1に示すように、ガスセンサ10は、組立体15と、ナット47と、外筒48と、コネクタ50と、リード線55と、ゴム栓57とを備えている。組立体15は、センサ素子20と、保護カバー30と、素子封止体40とを備えている。ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管58に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO
2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は、特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子20の長手方向に沿った両端(前端および後端)のうち、前端側が被測定ガスに晒される側である。
【0018】
保護カバー30は、
図1に示すように、センサ素子20の前端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側保護カバー31および外側保護カバー32の各々には、被測定ガスを流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー31で囲まれた空間として素子室33が形成されており、センサ素子20の第5面60e(前端面)は、この素子室33内に配置されている。
【0019】
素子封止体40は、センサ素子20を封止固定する部材である。素子封止体40は、主体金具42および内筒43を有する筒状体41と、碍子44a~44c(緻密体の一例)と、圧粉体45a,45bと、メタルリング46とを備えている。センサ素子20は、素子封止体40の中心軸(ここでは前後方向に延在する軸)に沿って延在するように配置されており、素子封止体40を軸方向に貫通している。
【0020】
主体金具42は、筒状の金属製部材である。主体金具42は、前側が後側よりも内径の小さい肉厚部42aとなっている。主体金具42のうちセンサ素子20の前端と同じ側(前側)には、保護カバー30が取り付けられている。主体金具42の後端は、内筒43のフランジ部43aと溶接されている。肉厚部42aの内周面の一部は、段差面である底面42bとなっている。この底面42bは、碍子44aが前方に飛び出さないようにこれを押さえている。主体金具42は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って主体金具42を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。
【0021】
内筒43は、筒状の金属製部材であり、前端にフランジ部43aを有している。内筒43と主体金具42とは、同軸に溶接されている。また、内筒43には、圧粉体45bを内筒43の中心軸方向に押圧するための縮径部43cと、メタルリング46を介して碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bを前側に押圧するための縮径部43dとが形成されている。内筒43は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って内筒43を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。主体金具42の貫通孔と内筒43の貫通孔とは軸方向に連通しており、これらが筒状体41の貫通孔を構成している。
【0022】
碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bは、筒状体41の貫通孔の内周面とセンサ素子20との間に配置されている。碍子44a~44cは、圧粉体45a,45bのサポーターとしての役割を果たす。碍子44a~44cの材質としては、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライトなどのセラミックス、またはガラスを挙げることができる。碍子44a~44cは、緻密な部材であり、その気孔率は例えば1%未満である。碍子44a~44cの各々は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って自身を貫通する貫通孔を有する中空柱状の部材であり、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。碍子44a~44cの各々の貫通孔は、本実施形態では、センサ素子20の形状に合わせて、軸方向に垂直な断面が四角形状になっている。圧粉体45a,45bは、例えば粉末を成型したものであり、封止材としての役割を果たす。圧粉体45a,45bの材質としては、例えばタルクのほか、アルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末が挙げられ、圧粉体45a,45bは、それぞれこれらの少なくとも何れかを含んでいてもよい。圧粉体45a,45bを構成する粒子の平均粒径は、150~300μmであってもよい。圧粉体45aは、碍子44a,44b間に充填され、碍子44a,44bにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。圧粉体45bは、碍子44b,44c間に充填され、碍子44b,44cにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bは、主体金具42の肉厚部42aの底面42bと、縮径部43dおよびメタルリング46と、により軸方向に両側(前後)から挟まれて押圧されている。縮径部43c,43dからの押圧力によって、圧粉体45a,45bが筒状体41とセンサ素子20との間で圧縮されることにより、圧粉体45a,45bは、保護カバー30内の素子室33と外筒48内の空間49との間を封止すると共にセンサ素子20を固定している。
【0023】
ナット47は、主体金具42と同軸に主体金具42の外側に固定されている。ナット47の外周面には、雄ネジ部が形成されている。この雄ネジ部は、配管58に溶接された固定用部材59の内周面に設けられた雌ネジ部と螺合される。これにより、ガスセンサ10は、センサ素子20の前端側や保護カバー30の部分が配管58内に突出するように配管58に固定される。
【0024】
外筒48は、筒状の金属製部材であり、内筒43と、センサ素子20の後端側と、コネクタ50とを覆っている。外筒48の内側には、主体金具42の後端部が挿入されている。外筒48の前端部は、主体金具42と溶接されている。外筒48の後端からは、コネクタ50に接続された複数のリード線55が外部に引き出されている。コネクタ50は、ハウジング51a,51bと、複数の接触金具52と、クランプ53とを有する。ハウジング51a,51bは、アルミナなどセラミックス製の部材であり、センサ素子20の後端部の上下に配置されている。複数の接触金具52は、何れも、金属製部材であり、ハウジング51aの下側とハウジング51bの上側とに配置されている。クランプ53は、板状の金属をC字状に曲げ加工した部材であり、弾性力でハウジング51a,51bを上下から挟持して互いに近接する方向に押圧している。このクランプ53からの弾性力により、ハウジング51a,51bは複数の接触金具52を介してセンサ素子20の後端部を挟持して固定している。複数の接触金具52は、それぞれ、センサ素子20の後端側の表面に配設された複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72のうち対応するコネクタ電極に接触して電気的に導通していると共に、複数のリード線55のうち対応するリード線と電気的に導通している。複数のリード線55は、それぞれ、コネクタ50と、複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72のうちの何れかと介して、センサ素子20の内部の複数の電極64~68およびヒータ69のうちの何れかと電気的に導通している。外筒48とリード線55との隙間は、ゴム栓57によって封止されている。外筒48内の空間49は、基準ガスで満たされている。空間49には、センサ素子20の第6面60f(後端面)が配置されている。
【0025】
センサ素子20は、
図2~
図4に示すように、素子本体60と、検出部63と、ヒータ69と、複数の上側コネクタ電極71と、複数の下側コネクタ電極72と、多孔質層80と、緻密層90とを備えている。素子本体60は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数(
図3では6個)積層した積層体を有している。素子本体60は、長手方向が前後方向に沿っている直方体形状をしており、上下左右前後の各々の外表面として第1~第6面60a~60fを有している。第1面~第4面60a~60dは、素子本体60の長手方向に沿った表面であり、素子本体60の側面に相当する。第5面60eは、素子本体60の前端面であり、第6面60fは、素子本体60の後端面である。素子本体60の寸法は、例えば、前後方向の長さが25mm以上100mm以下、左右方向の幅が2mm以上10mm以下、上下方向の厚さが0.5mm以上5mm以下であってもよい。素子本体60には、第5面60eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口61と、第6面60fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口62とが形成されている。
【0026】
検出部63は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのものである。検出部63は、素子本体60の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部63は、第1面60aに配設された外側電極64と、素子本体60の内部に配設された内側主ポンプ電極65、内側補助ポンプ電極66、測定電極67、基準電極68とを備えている。内側主ポンプ電極65および内側補助ポンプ電極66は、素子本体60の内部の空間の内周面に配設されており、トンネル状の構造を有している。
【0027】
検出部63が被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため、詳細な説明は省略する。検出部63は、例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部63は、外側電極64と内側主ポンプ電極65との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極65周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出しまたは汲み入れを行う。また、検出部63は、外側電極64と内側補助ポンプ電極66との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極66周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出しまたは汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定濃度に調整された被測定ガスが、測定電極67周辺に到達する。測定電極67は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部63は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極67と基準電極68との間に発生する起電力、または、その起電力に基づいて測定電極67と外側電極64との間に流れる電流を、電気信号として発生させる。このようにして検出部63が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部63が検出した検出値に相当する。
【0028】
ヒータ69は、素子本体60の内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ69は、外部から給電されることにより発熱して素子本体60を加熱する。ヒータ69は、素子本体60を形成する固体電解質層の加熱および保温を行って、固体電解質層が活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。
【0029】
複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72は、それぞれ素子本体60の側面の何れかの後端側に配設されており、外部と電気的に導通するための電極である。複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72は、いずれも多孔質層80に被覆されずに露出している。本実施形態では、4個の上側コネクタ電極71(
図4では、71a~71d)は、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)の後端側に配設されている。4個の下側コネクタ電極72は、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)に対向する第2面60b(下面)の後端側に配設されている。4個の上側コネクタ電極71(71a~71d)および4個の下側コネクタ電極72は、それぞれ検出部63の複数の電極64~68およびヒータ69の何れかと電気的に導通している。本実施形態では、上側コネクタ電極71aが測定電極67と導通し、上側コネクタ電極71bが外側電極64と導通し、上側コネクタ電極71cが内側補助ポンプ電極66と導通し、上側コネクタ電極71dが内側主ポンプ電極65と導通し、3個の下側コネクタ電極72がそれぞれヒータ69と導通し、1個の下側コネクタ電極72が基準電極68と導通している。上側コネクタ電極71bと外側電極64とは、第1面60aに配設された外側リード線75を介して導通している(
図3および
図4参照)。それ以外のコネクタ電極は、素子本体60内部に配設されたリード線やスルーホールなどを介して、対応する電極またはヒータ69と導通している。
【0030】
外側リード線75は、例えば白金(Pt)等の貴金属またはタングステン(W)、モリブデン(Mo)等の高融点金属と、ジルコニアとを含む導電体である。ジルコニアは、素子本体60に含まれる酸素イオン伝導性固体電解質と同じ材料である。外側リード線75は、貴金属または高融点金属と、ジルコニアと、を含むサーメットの導電体であることが好ましい。本実施形態では、外側リード線75は、白金とジルコニアとを含むサーメットの導電体とした。外側リード線75は、
図3,
図4,および
図5に示すように、第1領域77と第2領域78とを有している。本実施形態では、外側リード線75は、第1領域77以外の部分が全て第2領域78として構成されている。第2領域78は、多孔質層80に被覆されており、より具体的には
図3に示すように第1内側多孔質層83に被覆されている。第2領域78は、第1領域77の前方に配設されて第1領域77と前後に接している前端側部分78aと、第1領域77の後方に配設されて第1領域77と前後に接している後端側部分78bと、を有している。第2領域78の前端側部分78aは多孔質層80の第1内側多孔質層83の前端側部分83aに被覆され、後端側部分78bは第1内側多孔質層83の後端側部分83bに被覆されている。第1領域77は、少なくとも一部が緻密層90に被覆されており、より具体的には
図3に示すように第1緻密層92に被覆されている。本実施形態では、
図3および
図5に示すように、第1緻密層92と第1領域77とは前後の長さが同じであり、互いの前端位置および互いの後端位置が同じである。そのため、第1領域77は、第1緻密層92よりも前端側および/または後端側にはみ出しているはみ出し部を有さない。
【0031】
第1領域77は、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相(正方晶)のピーク高さHtとM相(単斜晶)のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が2未満である。第1領域77のジルコニアのTM比は、1以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。第1領域77のジルコニアのTM比は、0.01以上であってもよい。第2領域78は、ジルコニアのTM比が第1領域77と同一でもよいし異なっていてもよい。第2領域78のTM比は第1領域77のTM比より大きくてもよいし、小さくてもよい。第1領域77と第2領域78とは互いに材質が異なっていてもよく、例えば第1領域77がジルコニアを含んでいれば第2領域78はジルコニアを含まなくてもよい。本実施形態では第1領域77と第2領域78とは材質が同じでジルコニアのTM比が異なるように構成されている。
【0032】
外側リード線75の第1領域77のジルコニアのTM比は、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルを用いて以下のように導出した値とする。まず、外側リード線75の第1領域77の断面を観察面とするように外側リード線75の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、イオンミリング法にて切断面を加工し断面試料を作製する。続いて、例えばラマン分光測定装置を用いて観察面にレーザー光を照射し、ラマンスペクトルを得る。ラマンスペクトルは70~800cm
-1の間で取得し、この範囲内で強度の最大値、最小値を算出する。さらに全体の強度から最小値を差し引き、最大値-最小値の値でスペクトルを正規化する。
図6は、こうして得られたラマンスペクトルの一例であるラマンスペクトルSPからピーク高さHtおよびピーク高さHmを算出する様子を概略的に示す説明図である。
図6の横軸は、ラマンシフト[cm
-1]であり、縦軸は正規化したラマンスペクトルの強度である。例えば
図6に示すようなラマンスペクトルSPを得ると、まず、ラマンスペクトルSPに基づいてラマンシフトが145cm
-1に最も近い位置にあるピークP1をT相由来のピークとして特定する。そして、ラマンスペクトルSPに基づいてこのピークP1の強度Htaを算出する。続いて、ピークP1のベースラインの強度Htbを算出する。強度Htbは、ラマンスペクトルSPにおけるラマンシフトが130cm
-1付近の領域R1(129cm
-1以上131cm
-1以下の領域)の強度の平均値として算出する。そして、強度Htaと強度Htbとの差を、T相のピーク高さHtとして算出する。また、ラマンスペクトルSPに基づいてラマンシフトが175cm
-1に最も近い位置にあるピークP2をM相由来のピークとして特定する。そして、ラマンスペクトルSPに基づいてこのピークP2の強度Hmaを算出する。続いて、ピークP2のベースラインの強度Hmbを算出する。強度Hmbは、ラマンスペクトルSPにおけるラマンシフトが160cm
-1付近の領域R2(159cm
-1以上161cm
-1以下の領域)の強度の平均値として算出する。そして、強度Hmaと強度Hmbとの差を、M相のピーク高さHmとして算出する。こうして算出されたT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとに基づいて、TM比=Ht/Hmを算出する。第2領域78のジルコニアのTM比も、同様にして導出した値とする。なお、領域R1,R2は、T相由来のピークとM相由来のピークとが互いに干渉しない領域(いずれのピークとも重複しない領域)の中から予め定めた領域である。
【0033】
第1領域77および第2領域78の気孔率は、それぞれ、5%以上であってもよい。第1領域77および第2領域78の気孔率は、それぞれ、40%以下であってもよいし、15%未満であってもよい。第1領域77と第2領域78とは気孔率が異なっていてもよい。第2領域78のうち前端側部分78aと後端側部分78bとで気孔率が異なっていてもよい。外側リード線75の線幅(太さ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下であってもよい。外側リード線75の線厚(厚さ)は、例えば1μm以上30μm以下であってもよい。外側リード線75と素子本体60の第1面60aとの間には、外側リード線75と素子本体60の固体電解質層とを絶縁するための図示しない絶縁層が配設されていてもよい。
【0034】
外側リード線75の第1領域77および第2領域78の気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、外側リード線75の断面を観察面とするように外側リード線75の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面の樹脂埋めおよび研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍から10000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで外側リード線75のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。後述する多孔質層80および緻密層90の気孔率も、同様にして導出した値とする。
【0035】
多孔質層80は、上側、下側コネクタ電極71,72が配設された素子本体60の側面すなわち第1、第2面60a,60bの一部を被覆する多孔質体である。本実施形態では、多孔質層80は、第1、第2面60a,60bのうち、少なくとも前端側を被覆している。多孔質層80は、第1、第2面60a,60bをそれぞれ被覆する内側多孔質層81と、内側多孔質層81の外側に配設された外側多孔質層85とを備えている。
【0036】
内側多孔質層81は、第1面60aを被覆する第1内側多孔質層83と、第2面60bを被覆する第2内側多孔質層84とを備えている。第1内側多孔質層83は、前端側部分83aと後端側部分83bとを有している(
図2~
図4,
図5参照)。前端側部分83aは、第1面60aにおける、第1面60aの前端から第1緻密層92の前端部までの領域を被覆している。後端側部分83bは、第1面60aにおける、第1緻密層92の後端部から第1面60aの後端までの領域を、上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて被覆している。第1内側多孔質層83の前端側部分83aおよび後端側部分83bの左右の幅は、第1面60aの左右の幅と同じであり、前端側部分83aおよび後端側部分83bは、第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1内側多孔質層83は、外側電極64および外側リード線75のそれぞれ少なくとも一部を被覆している。本実施形態では、
図3および
図4に示すように、第1内側多孔質層83は、外側電極64の全てを被覆し、且つ、外側リード線75のうち第1領域77を除く部分(すなわち第2領域78の全て)を被覆している。第1内側多孔質層83は、例えば被測定ガス中の硫酸などの成分から外側電極64および外側リード線75を保護して、これらの腐食などを抑制する保護層としての役割を果たす。
【0037】
第2内側多孔質層84は、前端側部分84aと後端側部分84bとを有している(
図2、
図3参照)。前端側部分84aは、第2面60bにおける、第2面60aの前端から第2緻密層96の前端部までの領域を被覆している。後端側部分84bは、第2面60bにおける、第2緻密層96の後端部から第2面60bの後端までの領域を、下側コネクタ電極72が存在する領域を除いて被覆している。第2内側多孔質層84の前端側部分84aおよび後端側部分84bの左右の幅は、第2面60bの左右の幅と同じであり、前端側部分84aおよび後端側部分84bは、第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。
【0038】
外側多孔質層85は、第1~第5面60a~60eのそれぞれの少なくとも一部を被覆している。外側多孔質層85は、第1面60aおよび第2面60bについては、内側多孔質層81を被覆することにより、これらの面を被覆している。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と比べて前後方向の長さが短くなっており、内側多孔質層81とは異なり素子本体60の前端および前端付近の領域だけを被覆している。これにより、外側多孔質層85は、素子本体60のうち検出部63の複数の電極64~68の周辺部分、言い換えると、素子本体60のうち素子室33内に配置されて被測定ガスに晒される部分、を被覆している。これにより、外側多孔質層85は、例えば被測定ガス中の水等が付着して素子本体60にクラックが生じるのを抑制する保護層としての役割を果たす。
【0039】
多孔質層80は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体,チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などのセラミックス多孔質体からなるものである。本実施形態では、多孔質層80は、アルミナ多孔質体からなるものとした。第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84の各々の厚さは、例えば5μm以上40μm以下であってもよい。外側多孔質層85の厚さは、例えば40μm以上800μm以下であってもよい。多孔質層80の気孔率は、10%以上である。多孔質層80は外側電極64や被測定ガス導入口61を覆っているが、多孔質層80の気孔率が10%以上であれば、被測定ガスは多孔質層80を通過できる。内側多孔質層81の気孔率は、10%以上50%以下であってもよい。外側多孔質層85の気孔率は、10%以上85%以下であってもよい。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と気孔率が同一でもよいし、内側多孔質層81よりも気孔率が高くてもよい。
【0040】
緻密層90は、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するものである。本実施形態では、緻密層90は、第1緻密層92と第2緻密層96とを有している。第1緻密層92は、上側コネクタ電極71および第1内側多孔質層83が配設された第1面60aに設けられている。第1緻密層92は、多孔質層80の少なくとも一部(ここでは外側多孔質層85および前端側部分83a)よりも素子本体60の後端側すなわち後方に設けられている。第1緻密層92は、複数の上側コネクタ電極71よりも素子本体60の前端側すなわち複数の上側コネクタ電極71の前方に設けられている。第1緻密層92は、外側電極64よりも後方に設けられている。第1緻密層92は、外側電極64も含む検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に設けられている(
図3参照)。第1緻密層92は、水が第1内側多孔質層83内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水が第1緻密層92を通過するのを抑制して、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する役割を果たす。第1緻密層92は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第1緻密層92の左右の幅は、第1面60aの左右の幅と同じであり、第1緻密層92は、第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1緻密層92の前端部は、第1内側多孔質層83の前端側部分83aの後端部に接している。第1緻密層92の後端部は、第1内側多孔質層83の後端側部分83bの前端部に接している。第1緻密層92は、
図3,
図4および
図5に示すように、外側リード線75の第1領域77を被覆している。
【0041】
第2緻密層96は、複数の下側コネクタ電極72および第2内側多孔質層84が配設された第2面60bに設けられている。第2緻密層96は、多孔質層80の少なくとも一部(ここでは外側多孔質層85および前端側部分84a)よりも素子本体60の後端側すなわち後方に設けられている。第2緻密層96は、複数の下側コネクタ電極72よりも素子本体60の前端側すなわち複数の下側コネクタ電極72の前方に設けられている。第2緻密層96は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(
図3参照)。第2緻密層96は、水が第2内側多孔質層84内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水が第2緻密層96を通過するのを抑制して、水が下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する役割を果たす。第2緻密層96は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第2緻密層96の左右の幅は、第2面60bの左右の幅と同じであり、第2緻密層96は、第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。第2緻密層96の前端部は、第2内側多孔質層84の前端側部分84aの後端部に接している。第2緻密層96の後端部は、第2内側多孔質層84の後端側部分84bの前端部に接している。
【0042】
第1緻密層92および第2緻密層96は、気孔率が10%未満である点で多孔質層80と異なるものの、上述した多孔質層80について例示した材料からなるセラミックスを用いることができる。本実施形態では、第1緻密層92および第2緻密層96は、いずれもアルミナのセラミックスとした。第1緻密層92の厚さは、11μm未満である。第1緻密層92の厚さは、10μm以下であってもよい。第1緻密層92の厚さは、5μm以上であってもよい。第1緻密層92の厚さは、第1内側多孔質層83の厚さより薄くてもよい。第1緻密層92の厚さは、外側リード線75の厚さより薄くてもよい。第1緻密層92の厚さは、第1緻密層92のうち外側リード線75の直上に位置する部分で測定した厚さとする。第1緻密層92および第2緻密層96の各々の気孔率は、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。気孔率が小さいほど、第1緻密層92および第2緻密層96は、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象をより抑制することができる。
【0043】
素子本体60の長手方向(ここでは前後方向)において、第1緻密層92の長さLe1(
図4参照)は、0.5mm以上であってもよい。長さLe1は、5mm以上であってもよい。長さLe1は、25mm以下であってもよく、20mm以下であってもよい。本実施形態では、外側リード線75の第1領域77の長さは第1緻密層92の長さLe1と等しい。
【0044】
第1緻密層92および第2緻密層96は、それぞれ、複数の碍子44a~44cのいずれかの内周面と素子本体60の長手方向における位置が重複するように配置されている。本実施形態では、
図1に示すように、第1緻密層92および第2緻密層96は、それぞれ、碍子44a~44cのうち碍子44bの内周面とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置されている。碍子44bの内周面は、碍子44bのうち第1緻密層92および第2緻密層96に対向している面、即ち、第1緻密層92および第2緻密層96に向けて露出している面であり、碍子44bの断面四角形状の内周面のうち上側と下側に位置する面である。
【0045】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の製造方法について説明する。以下、センサ素子20の製造方法について説明した後に、センサ素子20を組み込んだガスセンサ10の製造方法について説明する。
【0046】
センサ素子20の製造方法について説明する。まず、素子本体60に対応する複数(ここでは6枚)の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、電極や外側リード線75などの配線パターンをスクリーン印刷したりする。また、焼成後に第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84となる未焼成多孔質層や、焼成後に第1緻密層92および第2緻密層96となる未焼成緻密層についても、スクリーン印刷によりグリーンシートのうち第1、第2面60a,60bに対応する面に形成する。その後に、複数のグリーンシートを積層する。積層された複数のグリーンシートは、焼成後に素子本体となる未焼成素子本体であり、未焼成多孔質層および未焼成緻密層を備えている。そして、この未焼成素子本体を焼成して、第1内側多孔質層83、第2内側多孔質層84、第1緻密層92、第2緻密層96を備える素子本体60を得る。続いて、プラズマ溶射により外側多孔質層85を形成して、センサ素子20を得る。なお、多孔質層80、第1緻密層92、第2緻密層96の製造方法としては、スクリーン印刷やプラズマ溶射の他に、ゲルキャスト法、ディッピングなどを用いることもできる。
【0047】
焼成後に外側リード線75となる配線パターンは、例えば外側リード線75の原料粒子(ここでは白金粒子とジルコニア粒子)と添加剤と溶媒とを混練したスラリーを用いてスクリーン印刷することにより、形成できる。添加剤としては、例えば酸化イットリウム(Y2O3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、などが挙げられる。本実施形態では、添加剤は酸化イットリウムとした。外側リード線75の配線パターンとなるスラリーには、造孔材を含有させてもよい。外側リード線75の第1領域77のジルコニアのTM比は、例えば上記の添加剤の含有割合や外側リード線75となる配線パターンの焼成温度(すなわち未焼成素子本体の焼成温度)を調整することにより、調整できる。例えば、添加剤の含有割合が多いほど、焼成後の常温においてジルコニアのM相よりもT相の結晶系の割合が多くなり、ひいてはTM比が大きくなる傾向にある。そのため、添加剤の含有割合を小さくすることでTM比を小さくすることができる。例えば、第1領域77となる配線パターンの形成用のスラリーにおけるジルコニアの含有割合A(mol%)に対する酸化イットリウムの含有割合B(mol%)の比B/Aを小さくすることで、TM比を小さくすることができる。また、焼成温度が低温であるほどT相よりもM相の結晶系の割合が多くなってTM比が小さくなる傾向にある。そのため、焼成温度を比較的低温にすることでTM比を小さくすることができる。また、外側リード線75のうち第1領域77および第2領域78のそれぞれの配線パターンは、例えば互いに上述した比B/Aの値が異なる以外は同じ材料からなる2種類のスラリーを用意し、2種類のスラリーを別々にスクリーン印刷することにより、形成できる。なお、上記のように添加剤を用いる場合、製造後の第1領域77や第2領域78も添加剤(例えば酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムの少なくともいずれか)を含む。第1緻密層92の厚さは、例えば第1緻密層92となる未焼成緻密層を形成する際の印刷回数を変更したり、未焼成緻密層の粘度を調整することで、調整できる。
【0048】
センサ素子20を組み込んだガスセンサ10の製造方法について説明する。まず、筒状体41の貫通孔の内部にセンサ素子20を軸方向に貫通させ、且つ、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に碍子44a、圧粉体45a、碍子44b、圧粉体45b、碍子44c、メタルリング46をこの順に配置する。次に、メタルリング46を押圧して圧粉体45a,45bを圧縮し、その状態で縮径部43c,43dを形成することによって素子封止体40を製造し、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間を封止する。その後に、素子封止体40に保護カバー30を溶接し、ナット47を取り付けて組立体15を得る。そして、ゴム栓57内を通したリード線55と、これに接続されたコネクタ50とを用意する。用意したコネクタ50をセンサ素子20の後端側に接続し、コネクタ50の複数の接触金具52を、それぞれ、複数の上側コネクタ電極71および下側コネクタ電極72のうち対応するコネクタ電極に電気的に接続する。その後に、外筒48を主体金具42に溶接固定して、ガスセンサ10を得る。
【0049】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例について説明する。ガスセンサ10が
図1のように配管58に取り付けられた状態で、配管58内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通して素子室33内に流入し、センサ素子20の前端側が被測定ガスに晒される。そして、被測定ガスが多孔質層80を通過して外側電極64に到達および被測定ガス導入口61からセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中のNOx濃度に応じた電気信号を検出部63が発生させる。この電気信号を上側、下側コネクタ電極71,72を介して取り出すことにより、電気信号に基づいてNOx濃度が検出される。
【0050】
こうして構成されたガスセンサ10のセンサ素子20では、上述したとおり、外側リード線75が、第1緻密層92に被覆された第1領域77を有している。第1領域77は、ジルコニアを含み、ジルコニアのTM比が2未満である。また、第1緻密層92は、厚さが11μm未満である。これらにより、センサ素子20のクラックの発生を抑制できる。発明者らは、このことを実験や解析により確認した。このような効果が得られる理由は、以下のように考えられる。外側リード線75がジルコニアを含む場合、センサ素子20の使用時の熱によってジルコニアのTM変態(T相(正方晶)からM相(単斜晶)への結晶構造の変化)が生じてジルコニアの体積が膨張する場合がある。これにより外側リード線75のうち第1緻密層92に被覆された部分が膨張しすぎると、第1緻密層92の内部の応力が大きくなり、例えば第1緻密層92にクラックが生じるなど、センサ素子20にクラックが生じる懸念がある。これに対して、本実施形態のセンサ素子20では、外側リード線75のうち第1緻密層92に被覆された第1領域77のジルコニアのTM比が2未満であるため、TM比が2以上の場合に比してジルコニアのうちT相の割合が低くM相の割合が高い。そのため、本実施形態の第1領域77のジルコニアはM相に変化する元となるT相の割合が低いから、TM変態によるTM比の減少率が小さくなり、TM変態による第1領域77の体積の膨張率が小さくなる。また、第1緻密層92の厚さが11μm未満と薄いことで第1緻密層92のヤング率が低いから、第1領域77が膨張しても第1緻密層92の内部の応力が大きくなりにくい。これらにより、センサ素子20のクラックの発生を抑制できると考えられる。
【0051】
第1領域77のTM比が小さいほど、TM変態によるTM比の減少率が小さくなり、TM変態による第1領域77の体積の膨張率が小さくなるから、センサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が高まる。この観点から、第1領域77のTM比は1以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。また、第1緻密層92の厚さが薄いほど第1緻密層92のヤング率が低くなるから、センサ素子20のクラック(特に第1緻密層92のクラック)の発生を抑制する効果が高まる。この観点から、第1緻密層92の厚さは10μm以下が好ましい。
【0052】
なお、第1領域77においてT相からM相への変化が生じるとTM比の値が減少するから、センサ素子20の使用によるジルコニアのTM変態が生じることで第1領域77のTM比が2以上から2未満に変化する場合もある。あるいは、センサ素子20の使用によって第1領域77においてM相からT相への変化が生じてTM比の値が増大して、第1領域77のTM比が2未満から2以上に変化する場合もある。ただし、本実施形態のセンサ素子20は、センサ素子20の未使用状態、すなわちセンサ素子20の使用によるジルコニアのTM変態が生じていない状態において、第1領域77のジルコニアのTM比が2未満である。また、センサ素子20の未使用状態において、第1領域77のジルコニアのTM比が1以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。なお、センサ素子20の使用によって第1領域77においてM相からT相への変化が生じてTM比の値が増大すると、第1領域77は収縮することになるが、第1領域77が収縮する場合は第1領域77が膨張する場合と比較してセンサ素子20のクラックは生じにくい。
【0053】
また、第1内側多孔質層83も外側リード線75を被覆しているが、第1内側多孔質層83は第1緻密層92と比べて気孔率が高いことからヤング率が低いため、第1領域77が膨張しても第1内側多孔質層83の内部の応力は大きくなりにくい。このため、第2領域78のジルコニアがTM変態で膨張しても第1内側多孔質層83のクラックは生じにくい。
【0054】
また、被測定ガス中には水(水や水に溶けた硫酸など)が含まれている場合があり、この水が毛細管現象によって多孔質層80内を移動していく場合がある。この水が上側、下側コネクタ電極71,72に到達すると、上側、下側コネクタ電極71,72、や上側、下側コネクタ電極71,72と接触するコネクタ50の接触金具52に錆や腐食が発生する懸念がある。しかし、本実施形態のガスセンサ10では、被測定ガス中の水が毛細管現象によって多孔質層80内(特に第1内側多孔質層83内および第2内側多孔質層84内)をセンサ素子20(素子本体60)の後端側に向かって移動したとしても、水は、上側、下側コネクタ電極71,72に到達する前に、第1、第2緻密層92,96に到達する。第1、第2緻密層92,96は第1,第2内側多孔質層83,84と比べて緻密であるから、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくい。この結果、水が第1、第2緻密層92,96よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側、下側コネクタ電極71,72に到達するのを抑制することができる。
【0055】
このとき、第1緻密層92に被覆された第1領域77の気孔率が40%以下であることにより、水が第1領域77の内部を移動することで第1緻密層92を回り込んで第1緻密層92よりもセンサ素子20の後端側に移動するのを抑制できる。これにより、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制できる。さらに、第1領域77の気孔率が15%未満である場合、水が第1領域77の内部を移動することがより抑制されるから、水が上側コネクタ電極71に到達するのをより抑制できる。
【0056】
また、第1、第2緻密層92,96は、それぞれ碍子44bの内周面とセンサ素子20(素子本体60)の長手方向における位置が重複するように配置されていることにより、水が第1、第2緻密層92,96をセンサ素子20の外側から回り込んでセンサ素子20の後端側に移動するのを抑制することができる。例えば、比較形態として、第1、第2緻密層92,96がそれぞれ
図1の圧粉体45aの内周面とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置される場合を考える。圧粉体45aは、上述したように粉末を成型したものであり、吸水性を有する。そのため、比較形態では、水が圧粉体45a内を移動することにより、第1、第2緻密層92,96をセンサ素子20の外側から回り込んで第1、第2緻密層92,96よりも後端側に移動してしまう場合がある。これに対して、本実施形態のセンサ素子20では、
図1に示すように、第1、第2緻密層92,96がそれぞれ碍子44bの内周面とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置されており、碍子44bは緻密である。このため、水が複数の第1、第2緻密層92,96をセンサ素子20の外側から回り込んでセンサ素子20の後端側に移動するのを抑制できる。これにより、水が上側、下側コネクタ電極71,72に到達するのを抑制できる。
【0057】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のセンサ素子20が本発明のセンサ素子に相当し、素子本体60が素子本体に相当し、第1面60aが側面に相当し、外側電極64が外側電極に相当し、上側コネクタ電極71(71b)がコネクタ電極に相当し、外側リード線75が外側リード部に相当し、第1緻密層92が緻密層に相当し、第1領域77が第1領域に相当する。また、第2領域78が第2領域に相当する。
【0058】
以上詳述した本実施形態のセンサ素子20によれば、外側リード線75は、少なくとも一部が第1緻密層92に被覆された第1領域77を有している。第1領域77は、ジルコニアを含み、ジルコニアのTM比が2未満である。また、第1緻密層92は、厚さが11μm未満である。これらにより、センサ素子20のクラックの発生を抑制できる。
【0059】
また、第1領域77のTM比が1以下であることで、センサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。第1領域77のTM比が0.1以下であることで、センサ素子20のクラックの発生をより抑制できる。
【0060】
さらに、第1緻密層92の厚さが10μm以下であることで、センサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。
【0061】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0062】
例えば、上述した実施形態で
図5に示した第1緻密層92と第1内側多孔質層83との接する部分には、第1緻密層92の厚み方向すなわち上下方向で第1緻密層92と第1内側多孔質層83とが重なっている部分は存在しない。しかし、これに限らず、第1緻密層92は、第1内側多孔質層83と接する部分において第1緻密層92の厚み方向で第1内側多孔質層83と重なっているオーバーラップ部を有していてもよい。
図7は、変形例の第1緻密層92および第1領域77の周辺を示す断面図である。
図7では、第1緻密層92および第1内側多孔質層83が、第1緻密層92の厚み方向すなわち上下方向で互いに一部が重なっている。そのため、第1緻密層92は、第1緻密層92のうち前端側の一部であるオーバーラップ部92aと、後端側の一部であるオーバーラップ部92bと、を有している。オーバーラップ部92aは、第1緻密層92のうち上下方向で第1内側多孔質層83の前端側部分83aの後端部と重なっている部分であり、オーバーラップ部92aの上面が前端側部分83aと接している。オーバーラップ部92aの上面は前後方向に対して傾斜しており、オーバーラップ部92aは自身の前端に近いほど厚みが薄くなる形状をしている。オーバーラップ部92bは、第1緻密層92のうち上下方向で第1内側多孔質層83の後端側部分83bの前端部と重なっている部分であり、オーバーラップ部92bの上面が後端側部分83bと接している。オーバーラップ部92bの上面は前後方向に対して傾斜しており、オーバーラップ部92bは自身の後端に近いほど厚みが薄くなる形状をしている。
図7では、第1領域77および第2領域78も、第1領域77の厚み方向すなわち上下方向で互いに一部が重なっている。そのため、第1領域77は、第1領域77のうち前端側の一部であるオーバーラップ部77aと、後端側の一部であるオーバーラップ部77bと、を有している。オーバーラップ部77aは、第1領域77のうち上下方向で第2領域78の前端側部分78aの後端部と重なっている部分であり、オーバーラップ部77aの上面が前端側部分78aと接している。オーバーラップ部77aの上面は前後方向に対して傾斜しており、オーバーラップ部77aは自身の前端に近いほど厚みが薄くなる形状をしている。オーバーラップ部77bは、第1領域77のうち上下方向で第2領域78の後端側部分78bの前端部と重なっている部分であり、オーバーラップ部77bの上面が後端側部分78bと接している。オーバーラップ部77bの上面は前後方向に対して傾斜しており、オーバーラップ部77bは自身の後端に近いほど厚みが薄くなる形状をしている。このようなオーバーラップ部77a,77b,92a,92bは、例えばセンサ素子20の製造上の理由で形成される場合がある。例えば、上述したセンサ素子20の製造方法において、スクリーン印刷によって外側リード線75の第1領域77のパターンを形成してから第2領域78のパターンを形成する場合、
図7のように第1領域77の前後の一部が第2領域78によってセンサ素子20の外側(上側)から被覆されて、オーバーラップ部77a,77bが形成される。同様に、スクリーン印刷によって第1緻密層92のパターンを形成してから第1内側多孔質層83のパターンを形成する場合、
図7のようにオーバーラップ部92a,92bが形成される。
【0063】
図7のようにオーバーラップ部77a,77b,92a,92bが存在していても、外側リード線75は第1緻密層92に被覆され且つジルコニアのTM比が2未満である第1領域77を有しており、第1緻密層92の厚さが11μm未満であるから、上述した実施形態と同様に、センサ素子20のクラックの発生を抑制できる。このとき、第1緻密層92は、オーバーラップ部92a,92bも含めた第1緻密層92の前端側から後端側までに亘って、第1領域77と第2領域78とのうち第1領域77のみを被覆していることが好ましい。言い換えると、
図7の第1緻密層92の前端から後端までにわたって、第1緻密層92の真下には第2領域78が存在しないことが好ましい。
図7では、オーバーラップ部92aの前端位置とオーバーラップ部77aの後端位置(=第2領域78の前端側部分78aの後端位置)とが、前後方向で同じ位置にあるため、オーバーラップ部92aの真下には第2領域78の前端側部分78aは存在しない。また、オーバーラップ部92bの後端位置よりも後方にオーバーラップ部77bの前端位置(=第2領域78の後端側部分78bの前端位置)が存在するため、オーバーラップ部92bの真下には第2領域78の後端側部分78bは存在しない。これらにより、第1緻密層92の前端から後端までにわたって、第1緻密層92の真下には第2領域78が存在しない。これにより、第1領域77によってセンサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。例えば、
図8に示すように第2領域78の前端側部分78aの一部が第1緻密層92のオーバーラップ部92aの真下に存在する場合、すなわちオーバーラップ部92aとオーバーラップ部77aとが上下方向で一部重複する形態もあり得る。この
図8の形態よりも、
図7のように第1緻密層92の前端から後端までにわたって、第1緻密層92の真下には第2領域78が存在しないことが好ましい。第1緻密層92の前端から後端までにわたって、第1緻密層92の真下には第2領域78が存在しないようにすれば、第2領域78のTM比が2未満でなくともセンサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が得られるから、第2領域78については設計の自由度が高くなる。例えば第2領域78のTM比の設計の自由度や、第2領域78の材質の設計の自由度が高くなる。なお、オーバーラップ部77a,77b,92a,92bが存在しない場合でも、第1緻密層92は、第1緻密層92の前端側から後端側までに亘って、第1領域77と第2領域78とのうち第1領域77のみを被覆していることが好ましい。例えば
図5に示した第1緻密層92は、第1領域77と第2領域78とのうち第1領域77のみを被覆している。
【0064】
図7では第1緻密層92と第1内側多孔質層83とが、第1内側多孔質層83が上側に位置するように互いの一部が重複していたが、これに限らず第1緻密層92が第1内側多孔質層83の上側に位置するように互いの一部が重複していてもよい。第2領域78と第1領域77との重複の上下関係についても同様である。例えば、
図9は、
図7の第1緻密層92と第1内側多孔質層83との重複の上下関係を逆転し、第2領域78と第1領域77との重複の上下関係を逆転した場合の断面図である。同様に、
図10は、
図8における重複の上下関係を逆転した場合の断面図である。
図9および
図10では、
図7および
図8と同じ構成要素については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
図10では、第1緻密層92の下面は第1領域77のオーバーラップ部77aと上下方向で重複していないが、第1緻密層92のオーバーラップ部92aは第1領域77のオーバーラップ部77aと上下方向で一部重複している。すなわち、
図10では、
図8と同様に、第2領域78の前端側部分78aの一部が第1緻密層92のオーバーラップ部92aの真下に存在する。これに対して、
図9では、第1緻密層92のオーバーラップ部92aは第1領域77のオーバーラップ部77aと上下方向で重複していない。すなわち、
図9では、
図7と同様に、オーバーラップ部92aの真下には第2領域78の前端側部分78aは存在しない。そのため、
図9では、第1緻密層92の前端から後端までにわたって、第1緻密層92の真下には第2領域78が存在しない。したがって、
図10の形態よりも、
図9の形態の方が好ましい。
【0065】
上述した実施形態で
図5に示した第1領域77は、第1緻密層92よりも前端側および/または後端側にはみ出しているはみ出し部が存在しなかったが、第1領域77がはみ出し部を有していてもよい。すなわち、第1領域77は少なくとも一部が第1緻密層92に被覆されていればよい。例えば、
図7および
図9の第1領域77は、オーバーラップ部77aが第1緻密層92よりも前端側にはみ出しており、オーバーラップ部77aがはみ出し部に相当する。また、
図7および
図9の第1領域77は、第1緻密層92よりも後端側にはみ出している領域77cを有する。領域77cは、オーバーラップ部77bと、前後方向におけるオーバーラップ部92bとオーバーラップ部77bとの間の領域と、を含む。この領域77cもはみ出し部に相当する。このように第1領域77がはみ出し部(オーバーラップ部77a,領域77c)を有していても、外側リード線75は第1緻密層92に被覆され且つジルコニアのTM比が2未満である第1領域77を有しており、第1緻密層92の厚さが11μm未満であるから、上述した実施形態と同様に、センサ素子20のクラックの発生を抑制できる。
【0066】
上述した実施形態では、外側リード線75はTM比が2未満である第1領域77と、第1領域77とはTM比が異なる第2領域78と、を有していたが、第2領域78のTM比が第1領域77のTM比と同じであってもよい。例えば、外側リード線75が第2領域78を有さず、外側リード線75全体が第1領域77として構成されていてもよい。
【0067】
上述した実施形態では、センサ素子20の第1内側多孔質層83は、第1面60aのうち上側コネクタ電極71および第1緻密層92が存在する領域を除いて被覆していたが、これに限定されない。例えば、第1内側多孔質層83は、第1面60aのうち、第1面60aの前端から上側コネクタ電極71の前端部またはそれよりも前側の所定位置までの領域を被覆していてもよい。また、第1内側多孔質層83のうち前端側部分83aと第1緻密層92との間、および/または後端側部分83bと第1緻密層92との間に、隙間領域(多孔質層も緻密層も存在しない領域)が設けられていてもよい。あるいは、第1内側多孔質層83が後端側部分83bを備えず、第1緻密層92と上側コネクタ電極71との間の領域が隙間領域となっていてもよい。隙間領域が設けられているところでは外側リード線75が露出していてもよい。また、第1内側多孔質層83が前端側部分83aを備えなくてもよいし、多孔質層80が外側多孔質層85を備えなくてもよいし、センサ素子20が多孔質層80を備えなくてもよい。
【0068】
上述した実施形態では、第1緻密層92は碍子44bと前後方向における位置が重複していたが、これに限られない。第1緻密層92は、例えば碍子44aまたは碍子44cと前後方向における位置が重複していてもよい。
【0069】
上述した実施形態では、素子本体60は、直方体形状としたが、これに限定されない。例えば、素子本体60は、円筒形状または円柱形状であってもよい。この場合、素子本体60は、側面を1つだけ有することになる。
【0070】
上述した実施形態では、ガスセンサ10は、2個の圧粉体45a,45bと3個の碍子44a~44cとを備えていたが、1または複数の圧粉体と複数の碍子(緻密体)とを備えていればよい。例えば、ガスセンサ10から碍子44bが取り除かれた構成としてもよい。この場合、圧粉体45a,45bが互いに前後方向において隣接する構成であるため、圧粉体45a,45bが一体化されていてもよい。
【実施例0071】
以下に、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例2~6,9,11,12が本発明の実施例に相当し、実験例1,7,8,10が比較例に相当する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実験例1~12]
図1~
図5および
図7のガスセンサ10と同様の製造方法によりセンサ素子をそれぞれ作製して、実験例1~12とした。これらのセンサ素子20の素子本体60の寸法は、長さを52.5mm、幅を4.25mm、厚さを1.45mmとした。第1緻密層92は、長さLe1を5mm、気孔率を0%とした。外側リード線75は、線幅を0.4mmとし、線厚を15μmとした。実験例1~13では、外側リード線75の第1領域77および第2領域78のTM比と、第1緻密層92の厚さとを表1に示すように種々変更した。第1領域77および第2領域78の各々のTM比は、上述した第1領域77および第2領域78の各々の配線パターンの形成用のスラリーにおけるジルコニアの含有割合A(mol%)に対する酸化イットリウムの含有割合B(mol%)の比B/Aを調整したり、未焼成素子本体の焼成温度を調整したりすることで、調整した。
【0073】
[TM比の測定]
実験例1~12のセンサ素子20について、上述した方法で第1領域77および第2領域78のTM比を測定した。ラマンスペクトルは、堀場製作所製レーザーラマン分光測定装置LabRAM ARAMISを用い、操作ソフトウェアLabSpecを用いて測定した。光学系はツェルニターナ型分光系、後方散乱方式であり、光源として半導体励起固体レーザー(DPSS、532nm)を用いた。サンプルの測定前にはSiウェハを用い、校正を行った。ラマンスペクトルの測定はHole(コンフォーカルホール径)を400μm、分光器の中心波数を520cm-1、Slitを100μm、グレーティングを1800gr/mm、対物レンズを100倍とした。測定はDuoscanモードを使用し測定範囲は15×15μmとした。ただし、測定範囲内にリード線以外の層が入る場合には、リード線の厚みに合わせて測定範囲を調整した。第1領域77のTM比の測定箇所は、第1緻密層92の前後の中心の直下の位置と前後の両端付近の直下の位置とし、各位置について左右に50μm間隔で3点を測定箇所として、合計9点の測定箇所とした。この9点の測定箇所の各々についてTM比を算出し、その平均値を第1領域77のTM比とした。第2領域のTM比の測定箇所は、前端側部分78aのうち第1領域77付近の位置と後端側部分78bのうち第1領域77付近の位置との各々について左右に50μm間隔で3点を測定箇所として、合計6点の測定箇所とした。この6点の測定箇所の各々についてTM比を算出し、その平均値を第2領域78のTM比とした。測定した実験例1~12の各々における第1領域77および第2領域78のTM比を表1に示す。
【0074】
【0075】
[クラック試験]
実験例1~12のセンサ素子20について、クラック耐性を評価する試験を行った。具体的には、実験例1のセンサ素子20を20本用意し、これらをオートクレーブに入れて温度180℃の飽和水蒸気下で合計7時間経過させることで、外側リード線75のジルコニアのTM変態を促進した。最初にオートクレーブに入れてから5時間経過後と7時間経過後との2回のタイミングで、20本のセンサ素子20についてクラックが生じているか否かを光学顕微鏡を用いて目視にて確認し、クラックが生じているセンサ素子20の本数を数えた。5時間経過後の時点でクラックが生じているセンサ素子20の本数を第1クラック本数とし、20本のセンサ素子20に対する第1クラック本数の割合を第1クラック率として算出した。7時間経過後の時点でクラックが生じているセンサ素子20の本数(第1クラック本数も含む)を第2クラック本数とし、20本のセンサ素子20に対する第2クラック本数の割合を第2クラック率として算出した。実験例2~12のセンサ素子20についても、同様に第1クラック率および第2クラック率を算出した。実験例1の第1クラック率を基準値として、実験例1~12において第2クラック率が基準値未満であった場合に優(A)と判定し、第2クラック率が基準値以上であるが第1クラック率が基準値未満であった場合に良(B)と判定し、第1クラック率が基準値以上であった場合に不良(F)と判定した。
【0076】
表1から分かるように、外側リード線75の第1領域77のTM比が2未満、且つ、第1緻密層92の厚さが11μm未満である実験例2~6,9,11,12は、いずれもクラック試験の評価が優(A)または良(B)であった。これに対して第1領域77のTM比が2以上、または、第1緻密層92の厚さが11μm以上である実験例1,7,8,10は、クラック試験の評価が不良(F)であった。このことから、外側リード線75のうち第1緻密層92に被覆されている第1領域77のTM比が2未満、且つ、第1緻密層92の厚さが11μm未満であることで、センサ素子20のクラックの発生を抑制できることが確認された。また、第1領域77のTM比は1以下が好ましく、第1緻密層92の厚さは10μm以下が好ましいと考えられる。さらに、クラック試験の評価が優(A)または良(B)であった実験例2~6,9,11,12のうち、第1領域77のTM比が0.1以下である実験例4~6,11,12は、いずれもクラック試験の評価が優(A)であった。このことから、第1領域77のTM比が0.1以下であることで、センサ素子20のクラックの発生をより抑制できることが確認された。
【0077】
また、表1から分かるように、クラック試験の評価が優(A)または良(B)であった実験例2~6,9,11,12の互いの比較から、外側リード線75の第2領域78のTM比が第1領域77のTM比と同じである場合(実験例2~6)、第1領域のTM比より小さい場合(実験例9)、および第1領域のTM比より大きい場合(実験例11,12)のいずれの場合も、第1領域77のTM比が2未満且つ第1緻密層92の厚さが11μm未満であれば、センサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が得られることが確認された。
10 ガスセンサ、15 組立体、20 センサ素子、30 保護カバー、31 内側保護カバー、32 外側保護カバー、33 素子室、40 素子封止体、41 筒状体、42 主体金具、42a 肉厚部、42b 底面、43 内筒、43a フランジ部、43c,43d 縮径部、44a~44c 碍子、45a,45b 圧粉体、46 メタルリング、47 ナット、48 外筒、49 空間、50 コネクタ、51a,51b ハウジング、52 接触金具、53 クランプ、55 リード線、57 ゴム栓、58 配管、59 固定用部材、60 素子本体、60a~60f 第1面~第6面、61 被測定ガス導入口、62 基準ガス導入口、63 検出部、64 外側電極、65 内側主ポンプ電極、66 内側補助ポンプ電極、67 測定電極、68 基準電極、69 ヒータ、71,71a~71d 上側コネクタ電極、72 下側コネクタ電極、75 外側リード線、77 第1領域、77a,77b オーバーラップ部、77c 領域、78 第2領域、78a 前端側部分、78b 後端側部分、80 多孔質層、81 内側多孔質層、83 第1内側多孔質層、83a 前端側部分、83b 後端側部分、84 第2内側多孔質層、84a 前端側部分、84b 後端側部分、85 外側多孔質層、90 緻密層、92 第1緻密層、92a,92b オーバーラップ部、96 第2緻密層。